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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置および分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
G01N23/223
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017244018
(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公開番号】P2019109201
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 元気
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-123718(JP,A)
【文献】特開2004-151045(JP,A)
【文献】特開2017-020924(JP,A)
【文献】特開2017-053639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0117234(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次X線を発生させるX線管と、
試料に前記一次X線が照射されることによって前記試料から放射された二次X線を検出する検出器と、
前記検出器から出力された検出信号に基づく前記試料のスペクトルを取得するスペクトル取得部と、
前記試料のスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、前記試料のスペクトルと前記標準試料のスペクトルの一致度である第1の一致度を求める分析処理部と、
前記標準試料のスペクトル情報が登録されたデータベースが記憶された記憶部と、
を含み、
前記標準試料のスペクトル情報は、
前記標準試料のスペクトル波形の情報と、
複数のエネルギー範囲の情報と、
前記複数のエネルギー範囲の各々に設定された重みの情報と、
を含み、
前記分析処理部は、
前記複数のエネルギー範囲の各々において、前記試料のスペクトル波形と前記標準試料のスペクトル波形の一致度である第2の一致度を求め、
前記複数のエネルギー範囲の各々で求められた前記第2の一致度、および、前記重みに基づいて、前記第1の一致度を求め、
前記複数のエネルギー範囲のうちの第1エネルギー範囲は、前記標準試料に含まれる第1元素に固有のエネルギーを持つ特性X線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲であり、
前記複数のエネルギー範囲のうちの第2エネルギー範囲は、前記標準試料に含まれる第2元素に固有のエネルギーを持つ特性X線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲であり、
前記標準試料において、前記第1元素の割合は、前記第2元素の割合よりも大きく、
前記第1エネルギー範囲の前記重みは、前記第2エネルギー範囲の前記重みよりも大きく、
前記重みは、前記標準試料に含まれる元素のうちの割合が大きい元素のピークを含むエネルギー範囲ほど大きく設定される、蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数のエネルギー範囲のうちの第3エネルギー範囲は、前記標準試料に含まれる第3元素に固有のエネルギーを持つ特性X線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲であり、
前記標準試料において、前記第3元素の割合は、前記第1元素の割合および前記第2元素の割合よりも小さく、
前記第3エネルギー範囲の前記重みは、前記第1エネルギー範囲の前記重みおよび前記第2エネルギー範囲の前記重みよりも小さい、蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記複数のエネルギー範囲のうちの第4エネルギー範囲は、前記X線管のターゲットに由来するコンプトン散乱線およびレイリー散乱線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲である、蛍光X線分析装置。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記標準試料のスペクトル情報は、前記標準試料の測定条件の情報を含む、蛍光X線分析装置。
【請求項5】
請求項において、
前記データベースから、前記第1の一致度に基づいて前記試料の測定条件の情報を取得する測定条件取得部を含む、蛍光X線分析装置。
【請求項6】
X線管で発生した一次X線が試料に照射されることによって前記試料から放射された二次X線を検出して得られた、前記試料のスペクトルを取得する工程と、
前記試料のスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、前記試料のスペクトルと前記標準試料のスペクトルの一致度である第1の一致度を求める工程と、
を含み、
前記第1の一致度を求める工程では、
複数のエネルギー範囲の各々において、前記試料のスペクトル波形と前記標準試料のスペクトル波形の一致度である第2の一致度を求め、
前記複数のエネルギー範囲の各々で求められた前記第2の一致度、および、前記複数のエネルギー範囲の各々に設定された重みに基づいて、前記第1の一致度を求め、
前記複数のエネルギー範囲のうちの第1エネルギー範囲は、前記標準試料に含まれる第1元素に固有のエネルギーを持つ特性X線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲であり、
前記複数のエネルギー範囲のうちの第2エネルギー範囲は、前記標準試料に含まれる第2元素に固有のエネルギーを持つ特性X線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲であり、
前記標準試料において、前記第1元素の割合は、前記第2元素の割合よりも大きく、
前記第1エネルギー範囲の前記重みは、前記第2エネルギー範囲の前記重みよりも大きく、
前記重みは、前記標準試料に含まれる元素のうちの割合が大きい元素のピークを含むエネルギー範囲ほど大きく設定される、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置では、試料にX線管からの一次X線を照射することによって試料から放射された二次X線を検出器で検出して、定性分析および定量分析等を行うことができる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
蛍光X線分析装置では、組成が未知の試料を測定して得られたスペクトルとデータベースに登録された標準試料のスペクトルを比較して相関係数を求めることで、未知の試料の素材(材質)を判別していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-3532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図13は、Alを濃度100%で含む試料のスペクトル、Sを濃度100%で含む試料のスペクトル、Tiを濃度100%で含む試料のスペクトル、Feを濃度100%で含む試料のスペクトル、Cuを濃度100%で含む試料のスペクトル、Geを濃度100%で含む試料のスペクトル、Seを濃度100%で含む試料のスペクトル、Rbを濃度100%で含む試料のスペクトル、Zrを濃度100%で含む試料のスペクトル、Moを濃度100%で含む試料のスペクトル、Rhを濃度100%で含む試料のスペクトル、Agを濃度100%で含む試料のスペクトルを比較した図である。
【0006】
蛍光X線分析では元素(すなわちX線のエネルギー)によって感度が異なるため、図13に示すように、各元素の濃度が100%にも関わらず、得られたスペクトルにおいて各元素の強度が異なる。
【0007】
図14は、アルミニウム(Al)が主成分であるアルミニウム合金のスペクトルの一例を示す図である。図14に示すスペクトルが得られたアルミニウム合金には、アルミニウムの他に銅(Cu)が含まれており、アルミニウムと銅の比は、Al:Cu=9:1程度である。
【0008】
蛍光X線分析において、アルミニウムの感度は銅の感度よりも低い。そのため、図14に示すように、アルミニウムの濃度が銅の濃度よりも高いにも関わらず、アルミニウムのピークは銅のピークよりも小さい。このような場合、測定で得られたアルミニウム合金のスペクトルとアルミニウム合金(標準試料)のスペクトルとの相関係数が、測定で得られたアルミニウム合金のスペクトルと銅合金(標準試料)のスペクトルとの相関係数よりも小さくなってしまう場合がある。この場合、測定した試料はアルミニウム合金にも関わらず、銅合金と判別されてしまう。
【0009】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、試料の素材を正確に判別することができる蛍光X線分析装置を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、試料の素材を正確に判別することができる分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る蛍光X線分析装置は、
一次X線を発生させるX線管と、
試料に前記一次X線が照射されることによって前記試料から放射された二次X線を検出する検出器と、
前記検出器から出力された検出信号に基づく前記試料のスペクトルを取得するスペクトル取得部と、
前記試料のスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、前記試料のスペクトルと前記標準試料のスペクトルの一致度である第1の一致度を求める分析処理部と、
前記標準試料のスペクトル情報が登録されたデータベースが記憶された記憶部と、
を含み、
前記標準試料のスペクトル情報は、
前記標準試料のスペクトル波形の情報と、
複数のエネルギー範囲の情報と、
前記複数のエネルギー範囲の各々に設定された重みの情報と、
を含み、
前記分析処理部は、
前記複数のエネルギー範囲の各々において、前記試料のスペクトル波形と前記標準試料のスペクトル波形の一致度である第2の一致度を求め、
前記複数のエネルギー範囲の各々で求められた前記第2の一致度、および、前記重みに基づいて、前記第1の一致度を求め、
前記複数のエネルギー範囲のうちの第1エネルギー範囲は、前記標準試料に含まれる第1元素に固有のエネルギーを持つ特性X線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲であり、
前記複数のエネルギー範囲のうちの第2エネルギー範囲は、前記標準試料に含まれる第2元素に固有のエネルギーを持つ特性X線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲であり、
前記標準試料において、前記第1元素の割合は、前記第2元素の割合よりも大きく、
前記第1エネルギー範囲の前記重みは、前記第2エネルギー範囲の前記重みよりも大きく、
前記重みは、前記標準試料に含まれる元素のうちの割合が大きい元素のピークを含むエネルギー範囲ほど大きく設定される
【0011】
このような蛍光X線分析装置では、分析処理部が複数のエネルギー範囲の各々で求められた第2の一致度、および、複数のエネルギー範囲の各々に設定された重みに基づいて、第1の一致度を求める。そのため、このような蛍光X線分析装置では、例えば全エネルギー範囲において試料のスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形を比較する場合と比べて、試料の素材を正確に判別することができる。
【0014】
本発明に係る分析方法は、
X線管で発生した一次X線が試料に照射されることによって前記試料から放射された二
次X線を検出して得られた、前記試料のスペクトルを取得する工程と、
前記試料のスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、前記試料のスペクトルと前記標準試料のスペクトルの一致度である第1の一致度を求める工程と、
を含み、
前記第1の一致度を求める工程では、
複数のエネルギー範囲の各々において、前記試料のスペクトル波形と前記標準試料のスペクトル波形の一致度である第2の一致度を求め、
前記複数のエネルギー範囲の各々で求められた前記第2の一致度、および、前記複数のエネルギー範囲の各々に設定された重みに基づいて、前記第1の一致度を求め、
前記複数のエネルギー範囲のうちの第1エネルギー範囲は、前記標準試料に含まれる第1元素に固有のエネルギーを持つ特性X線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲であり、
前記複数のエネルギー範囲のうちの第2エネルギー範囲は、前記標準試料に含まれる第2元素に固有のエネルギーを持つ特性X線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲であり、
前記標準試料において、前記第1元素の割合は、前記第2元素の割合よりも大きく、
前記第1エネルギー範囲の前記重みは、前記第2エネルギー範囲の前記重みよりも大きく、
前記重みは、前記標準試料に含まれる元素のうちの割合が大きい元素のピークを含むエネルギー範囲ほど大きく設定される
【0015】
このような分析方法では、例えば全エネルギー範囲において試料のスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形を比較する場合と比べて、試料の素材を正確に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る蛍光X線分析装置の構成を示す図。
図2】データベースに登録されている情報を説明するための図。
図3】第1実施形態に係る蛍光X線分析装置の処理部の処理の流れの一例を示すフローチャート。
図4】第1実施形態に係る分析方法を説明するための図。
図5】分析結果の表示の一例を示す図。
図6】データベースに登録されている情報を説明するための図。
図7】第2実施形態に係る蛍光X線分析装置の構成を示す図。
図8】データベースに登録されている情報を説明するための図。
図9】第2実施形態に係る蛍光X線分析装置の処理部の処理の流れの一例を示すフローチャート。
図10】データベースに登録されている情報を説明するための図。
図11】第3実施形態に係る蛍光X線分析装置の処理部の処理の流れの一例を示すフローチャート。
図12】第3実施形態に係る分析方法を説明するための図。
図13】各元素のスペクトルを比較した図。
図14】アルミニウム合金のスペクトルの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0020】
1. 第1実施形態
1.1. 蛍光X線分析装置
まず、第1実施形態に係る蛍光X線分析装置について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る蛍光X線分析装置100の構成を示す図である。
【0021】
蛍光X線分析装置100は、蛍光X線分析法による分析を行う装置である。蛍光X線分析法とは、試料SにX線(一次X線)を照射し、X線の照射により試料Sから放射されたX線(二次X線)を検出することで、定性分析および定量分析などを行う手法である。
【0022】
蛍光X線分析装置100は、図1に示すように、分析装置本体10と、操作部30と、表示部32と、記憶部34と、処理部40と、を含む。
【0023】
分析装置本体10は、X線管2と、フィルター3と、一次X線コリメーター4と、試料支持板5と、二次X線コリメーター6と、検出器7と、を含んで構成されている。
【0024】
X線管2は、X線(一次X線)を発生させる。試料Sの材質や測定対象の元素に応じて、管電圧(X線管2に印加される電圧)および管電流(X線管2に流す電流)の条件を設定することができる。
【0025】
フィルター3は、X線管2で発生して試料Sに照射されるX線を通す。フィルター3を通してX線を試料Sに照射することで、フィルター3にX線管2からの連続X線や特性X線の一部を吸収させることができ、それらの成分を除去することができる。これにより、例えば、P/B比(peak-to-background ratio)を向上できる。蛍光X線分析装置100は、複数のフィルター3を備えており、複数のフィルター3は互いに低減できるエネルギー帯域が異なっている。測定対象の元素に応じて複数のフィルター3から測定に用いられるフィルター3が選択される。
【0026】
一次X線コリメーター4は、試料Sに照射されるX線の照射領域を制限する。一次X線コリメーター4によって、照射領域の大きさを選択することができる。
【0027】
試料支持板5は、試料Sを支持している。試料支持板5には、開口が形成されており、当該開口を介して、一次X線が試料Sに照射される。試料S(試料支持板5)は、分析装置本体10の試料室に収容される。蛍光X線分析装置100は、図示はしないが、試料室を真空排気するための真空排気装置を備えている。
【0028】
二次X線コリメーター6は、試料Sから放射された二次X線の取得領域を制限する。二次X線コリメーター6を用いることで、目的の二次X線を効率よく検出することができる。ここで、二次X線とは、試料にX線(一次X線)を照射した際に、試料から放射されるX線をいう。二次X線は、蛍光X線と、散乱X線と、を含む。散乱X線は、試料にX線(一次X線)を照射した際に、原子や電子の散乱により放射されるX線である。
【0029】
検出器7は、試料Sから放射された二次X線を検出する。検出器7は、例えば、半導体
検出器である。
【0030】
分析装置本体10では、蛍光X線分析法を用いた測定が行われる。具体的には、X線管2から発生した一次X線は、フィルター3および一次X線コリメーター4を通過し試料Sに照射される。一次X線の照射に応じて試料Sから放射された二次X線(蛍光X線および散乱X線)は、二次X線コリメーター6を通過して検出器7で検出される。検出器7の出力(検出信号)は、信号処理回路(図示せず)で増幅やデジタル化などの処理が行われ、処理部40に取り込まれてスペクトルが生成される。
【0031】
操作部30は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部40に送る処理を行う。操作部30は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどである。
【0032】
表示部32は、処理部40によって生成された画像を表示するものである。表示部32は、LCD(Liquid Crystal Display)などのディスプレイにより実現できる。
【0033】
記憶部34は、処理部40が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部34は、処理部40の作業領域として用いられ、処理部40が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。記憶部34は、RAM(Random Access Memory)や、ROM(Read Only Memory)、ハードディスクなどにより実現できる。
【0034】
記憶部34には、標準試料のスペクトル情報が登録されたデータベース36が記憶されている。データベース36に登録されている情報については後述する。
【0035】
処理部40は、記憶部34に記憶されているプログラムに従って、各種の制御処理や計算処理を行う。処理部40の機能は、各種プロセッサ(CPU(Central Processing Unit)等)でプログラムを実行することにより実現することができる。処理部40は、スペクトル取得部42と、分析処理部44と、を含む。
【0036】
スペクトル取得部42は、検出器7から出力された検出信号に基づく試料Sのスペクトルを取得する。
【0037】
分析処理部44は、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルの一致度(第1の一致度)を求める。分析処理部44の処理の詳細については、後述する「1.2. 分析方法」で説明する。
【0038】
図2は、データベース36に登録されている情報を説明するための図である。
【0039】
図2に示すように、データベース36には、標準試料のスペクトル情報が登録されている。図示の例では、データベース36には、5つの標準試料のスペクトル情報が登録されているが、その数は特に限定されない。
【0040】
標準試料のスペクトル情報は、標準試料の素材名と、エネルギー範囲Aの情報と、エネルギー範囲Aの重み付け係数WAの情報と、エネルギー範囲Bの情報と、エネルギー範囲Bの重み付け係数WBの情報と、スペクトル波形の情報と、を含む。
【0041】
エネルギー範囲Aおよびエネルギー範囲Bは、試料Sのスペクトルとの比較の際に着目するエネルギー範囲である。エネルギー範囲Aは、最も着目するエネルギー範囲であり、エネルギー範囲Bは、エネルギー範囲Aの次に着目するエネルギー範囲である。
【0042】
アルミニウム合金、銅合金、ガラス、鉄を素材とする標準試料において、エネルギー範囲Aは、主成分の元素のピークを含むエネルギー範囲である。例えば、エネルギー範囲Aは、各標準試料において、最も割合が大きい元素のピークを含むエネルギー範囲である。
【0043】
また、アルミニウム合金、銅合金、ガラス、鉄を素材とする標準試料において、エネルギー範囲Bは、X線管2のターゲットに由来するコンプトン散乱線およびレイリー散乱線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲である。
【0044】
ここで、X線管2では、X線管2中において高電圧で電子を加速してターゲットに衝突させることで一次X線を発生させる。ターゲットとして使用させる金属は、図2に示す例では、ロジウム(Rh)である。試料Sに照射された一次X線の一部は、試料Sで散乱される。この散乱には、レイリー散乱と、コンプトン散乱と、がある。レイリー散乱およびコンプトン散乱は、X線管2のターゲットに由来するものであり、ターゲットの金属のエネルギー位置にピークが現れる。すなわち、図示の例では、ロジウムのエネルギー位置(21.121keV)にピークが現れる。
【0045】
X線管2のターゲットに由来するレイリー散乱線およびコンプトン散乱線を検出して得られるスペクトル波形(以下「散乱スペクトル波形」ともいう)は、物質の組成によって異なる。そのため、試料Sの散乱スペクトル波形と標準試料の散乱スペクトル波形を比較することによって、素材の判別が可能である。
【0046】
プラスチックを素材とする標準試料において、エネルギー範囲Aは、X線管2のターゲットに由来するコンプトン散乱線およびレイリー散乱線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲である。
【0047】
プラスチックは、炭素などの軽元素で構成されているため、素材に特徴的なピーク(主成分のピーク)は現れない。したがって、プラスチックを素材とする標準試料において、エネルギー範囲Aを、X線管2のターゲットに由来するコンプトン散乱線およびレイリー散乱線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲とする。
【0048】
重み付け係数WAは、エネルギー範囲Aにおける試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルの一致度に対する重みである。また、重み付け係数WBは、エネルギー範囲Bにおける試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルの一致度に対する重みである。ここでは、重み付け係数WAおよび重み付け係数WBの和が1となるように重み付け係数WAおよび重み付け係数WBが設定されている。重み付け係数WAおよび重み付け係数WBは、素材に特徴的なピークほど重みがおおきくなるように設定される。重み付け係数WAおよび重み付け係数WBは、ユーザーが任意に設定することもできる。これにより、ユーザーの経験等を、後述する分析に反映することができる。
【0049】
標準試料のスペクトル波形S1,S2,S3,S4,S5は、各標準試料のスペクトル波形の情報である。スペクトル波形S1,S2,S3,S4,S5は、分析装置本体10で測定可能な全エネルギー範囲のスペクトル波形である。スペクトル波形S1,S2,S3,S4,S5は、組成が既知の試料(標準試料)を蛍光X線分析装置100で測定することによって得ることができる。なお、スペクトル波形S1,S2,S3,S4,S5を、シミュレーションなどで得てもよい。
【0050】
なお、ここでは、データベース36に、標準試料の全エネルギー範囲にわたるスペクトル波形が登録されている場合について説明したが、データベース36には、エネルギー範囲Aおよびエネルギー範囲Bのスペクトル波形のみが登録されていてもよい。
【0051】
1.2. 分析方法
次に、第1実施形態に係る分析方法について説明する。
【0052】
蛍光X線分析装置100では、スペクトル取得部42において分析装置本体10の検出器7から出力された検出信号に基づく試料Sのスペクトルを取得する。そして、分析処理部44において試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルとの一致度を求める。このようにして求めた一致度から試料Sの素材を判別することができる。以下、蛍光X線分析装置100における処理部40の処理について詳細に説明する。
【0053】
図3は、蛍光X線分析装置100の処理部40の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図4は、第1実施形態に係る分析方法を説明するための図である。
【0054】
分析装置本体10では、X線管2において電子線がターゲット(ロジウム)に照射されることで、一次X線が放出し、フィルター3および一次X線コリメーター4を通って試料Sに照射される。
【0055】
試料Sに一次X線が照射されることによって、試料Sから試料Sを構成する元素に固有のエネルギーを持つX線(特性X線)と、ロジウムの散乱X線(コンプトン散乱線およびレイリー散乱線)と、を含む二次X線が放射される。この二次X線は、検出器7で検出される。検出器7から出力された検出信号は、信号処理部(図示せず)で所定の信号処理が行われ、処理部40においてスペクトルが生成される。
【0056】
スペクトル取得部42は、生成された試料Sのスペクトルを取得する(S100)。
【0057】
分析処理部44は、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルの一致度Kを求める。
【0058】
具体的には、分析処理部44は、まず、データベース36に登録されている複数の標準試料の各々について、エネルギー範囲Aおよびエネルギー範囲Bにおいて試料Sのスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形を比較して一致度(相関係数γ,γ)を求める(S102)。
【0059】
例えば、素材がアルミニウム合金の標準試料の場合、まず、エネルギー範囲A、具体的には、1~2keVのエネルギー範囲において、試料Sのスペクトル波形とアルミニウム合金(標準試料)のスペクトル波形S1とを比較して一致度を求める。次に、エネルギー範囲B、具体的には、18~21keVのエネルギー範囲において、試料Sのスペクトル波形とアルミニウム合金(標準試料)のスペクトル波形S1とを比較して一致度を求める。
【0060】
一致度は、例えば、相関係数により求めることができる。相関係数は、例えば、次式で求めることができる。
【0061】
【数1】
【0062】
例えば、素材がアルミニウム合金の標準試料の場合、上記式(1)を用いて試料Sのスペクトルとの間の相関係数を計算すると、エネルギー範囲Aの相関係数γは0.99、エネルギー範囲Bの相関係数γは0.99という結果が得られている(図4参照)。
【0063】
また、例えば、素材が銅合金の標準試料の場合、エネルギー範囲A、すなわち、7~10keVにはピークが存在しない。そのため、上記式(1)を用いて試料Sのスペクトルとの間の相関係数を計算すると、相関係数γは0.1という小さな値となる。また、相関係数γも同様に計算することができ、相関係数γは0.2という小さな値となる。
【0064】
分析処理部44は、その他の素材の標準試料についても同様に、相関係数γおよび相関係数γを求める。
【0065】
次に、分析処理部44は、求められた相関係数γ、相関係数γ、重み付け係数WA、および重み付け係数WBに基づいて、一致度Kを求める(S104)。
【0066】
すなわち、分析処理部44は、求められた相関係数γおよび相関係数γに重みを付けて、一致度Kを求める。一致度Kは、例えば、次式(2)で求めることができる。
【0067】
K=γ×WA+γ×WB ・・・(2)
【0068】
式(2)に示すように、一致度Kは、相関係数γに重み付け係数WAを乗算し、相関係数γに重み付け係数WBを乗算し、その和を計算することで求められる。式(2)で得られた一致度Kの値が大きい標準試料のスペクトルほど、試料Sのスペクトルとの一致度が高い。
【0069】
次に、分析処理部44は、求められた一致度Kを、一致度Kが高い順に、素材名とともに表示部32に表示させる処理を行う(S106)。
【0070】
図5は、分析結果の表示の一例を示す図である。分析処理部44は、素材名と、求められた一致度Kとを、関連付けて表示部32に表示させる。なお、分析処理部44は、最も一致度が高い標準試料についてその素材名が強調されるように表示部32に表示させてもよい。図示の例では、最も一致度が高いアルミニウム合金の標準試料の素材名が、四角で囲まれている。
【0071】
なお、分析結果の表示方法は、図5の例に限定されない。例えば、分析処理部44は、最も一致度Kが高い標準試料の素材名およびその一致度Kのみを表示部32に表示させてもよい。
【0072】
分析処理部44が、分析結果を表示部32に表示させる処理を行った後、処理部40は処理を終了する。
【0073】
1.3. 特徴
蛍光X線分析装置100および第1実施形態に係る分析方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0074】
蛍光X線分析装置100では、一次X線を発生させるX線管2と、試料Sに一次X線が照射されることによって試料Sから放射された二次X線を検出する検出器7と、検出器7から出力された検出信号に基づく試料Sのスペクトルを取得するスペクトル取得部42と、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルの一致度K(第1の一致度)を求める分析処理部44と、標準試料のスペクトル情報が登録されたデータベース36が記憶された記憶部34と、を含む。また、データベース36に登録された標準試料のスペクトル情報は、標準試料のスペクトル波形S1,S2,S3,S4,S5の情報と、複数のエネルギー範囲A,Bの情報と、複数のエネルギー範囲A,Bの各々に設定された重みである重み付け係数WA,WBの情報と、を含む。また、分析処理部44は、複数のエネルギー範囲A,Bの各々において、試料Sのスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形の一致度として相関係数γ,γ(第2の一致度)を求め、複数のエネルギー範囲A,Bの各々で求められた相関係数γ,γ、および、重み付け係数WA,WBに基づいて、一致度Kを求める。
【0075】
そのため、蛍光X線分析装置100では、未知の試料Sの素材を正確に判別することができる。以下、その理由について説明する。
【0076】
蛍光X線分析では、元素によって感度が異なる(図13参照)。そのため、試料Sが感度の低い元素(以下「元素E1」という)を主成分とし、元素E1よりも感度が高く、かつ、元素E1よりも濃度が低い元素(以下「元素E2」という)を含む場合、得られたスペクトルにおいて元素E2のピークが元素E1のピークよりも大きくなる場合がある。このような場合に、全エネルギー範囲において試料Sのスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形を比較して相関係数を求めると、元素E2を主成分とする標準試料のスペクトルとの相関係数が、元素E1を主成分とする標準試料のスペクトルとの相関係数よりも大きくなる場合がある。
【0077】
これに対して、蛍光X線分析装置100では、複数のエネルギー範囲A,Bの各々において相関係数γ,γを求め、相関係数γ,γに対して重み付けして(重み付け係数WA,WBを乗算して)、一致度Kを求める。そのため、例えば、試料Sのスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形の比較を、素材に特徴的なピークのみに絞ることができる。したがって、蛍光X線分析装置100では、例えば全エネルギー範囲において試料Sのスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形を比較する場合と比べて、試料Sの素材を正確に判別することができる。
【0078】
蛍光X線分析装置100では、データベース36に登録されている複数のエネルギー範囲A,Bのうちの少なくとも1つのエネルギー範囲Bは、X線管2のターゲットに由来するコンプトン散乱線およびレイリー散乱線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲である。X線管2のターゲットに由来するコンプトン散乱線およびレイリー散乱線を検出して得られるピークは、X線管2のターゲットの金属のエネルギー位置に現れ、試料Sのスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形の比較において、上述した元素によって感度が異なることによる影響がない。そのため、蛍光X線分析装置100では、試料Sの素材を正確に判別することができる。
【0079】
第1実施形態に係る分析方法は、X線管2で発生した一次X線が試料Sに照射されることによって試料Sから放射された二次X線を検出して得られた、試料Sのスペクトルを取得する工程と、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルの一致度K(第1の一致度)を求める工程と、を含む。また、一致度Kを求める工程では、複数のエネルギー範囲A,Bの各々において、試料Sのスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形の一致度として相関係数γ,γ(第2の一致度)を求め、複数のエネルギー範囲A,Bの各々で求められた相関係数γ,γ、および、複数のエネルギー範囲A,Bの各々に設定された重み付け係数WA,WBに基づいて一致度Kを求める。
【0080】
そのため、第1実施形態に係る分析方法では、試料Sの素材を正確に判別することができる。
【0081】
1.4. 変形例
上述した実施形態では、データベース36は、図2に示すように、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルの比較の際に着目するエネルギー範囲として、2つのエネルギー範囲(エネルギー範囲A、エネルギー範囲B)が登録されている場合について説明したが、着目するエネルギー範囲は3つ以上であってもよい。
【0082】
図6は、データベース36に登録されている情報を説明するための図である。
【0083】
例えば、データベース36に、標準試料を構成する元素のうちの割合が最も大きい元素のピークを含むエネルギー範囲A(以下「エネルギー範囲A1」ともいう)に加えて、標準試料を構成する元素のうちの2番目に割合が大きい元素のピークを含むエネルギー範囲A2を登録してもよい。このとき、データベース36には、エネルギー範囲A2に対応する重み付け係数WA2も登録される。
【0084】
また、例えば、データベース36に、エネルギー範囲A1およびエネルギー範囲A2に加えて、標準試料を構成する元素のうちの3番目に割合が大きい元素のピークを含むエネルギー範囲A3を登録してもよい。このとき、データベース36には、エネルギー範囲A3に対応する重み付け係数WA3も登録される。
【0085】
素材がアルミニウム合金の標準試料の場合、エネルギー範囲A1は、割合が最も大きいアルミニウムのピーク(1.486keV)を含むエネルギー範囲であり、エネルギー範囲A2は、割合が2番目に大きい銅のピーク(8.040keV)を含むエネルギー範囲であり、エネルギー範囲A3は、割合が3番目に大きいニッケル(Ni)のピーク(7.471keV)である。また、エネルギー範囲A1に対応する重み付け係数WA1は0.6であり、エネルギー範囲A2に対応する重み付け係数WA2は0.3であり、エネルギー範囲A3に対応する重み付け係数WA3は0.1である。
【0086】
このように蛍光X線分析装置100では、試料Sのスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形の比較において、着目するエネルギー範囲を増やすことができる。このとき、着目するエネルギー範囲に対応する重み付け係数を標準試料に含まれる元素のうちの割合が大きい元素のピークを含むエネルギー範囲ほど大きく設定する。この結果、蛍光X線分析装置100では、素材の判別をより正確に行うことができる。
【0087】
2. 第2実施形態
2.1. 蛍光X線分析装置
次に、第2実施形態に係る蛍光X線分析装置について説明する。図7は、第2実施形態に係る蛍光X線分析装置200の構成を示す図である。図8は、データベース36に登録
されている情報を説明するための図である。
【0088】
以下、第2実施形態に係る蛍光X線分析装置200において、第1実施形態に係る蛍光X線分析装置100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0089】
蛍光X線分析装置200では、図7に示すように、処理部40は、測定条件取得部46と、制御部48と、を含む。また、データベース36に登録されている標準試料のスペクトル情報には、図8に示すように、各標準試料の測定条件M1,M2,M3,M4,M5の情報が含まれている。
【0090】
測定条件M1,M2,M3,M4,M5は、各標準試料に最適な測定条件の情報である。例えば、測定条件M1,M2,M3,M4,M5は、各標準試料の定量分析を行うために、最適な測定条件の情報である。測定条件M1,M2,M3,M4,M5は、管電圧、管電流、フィルター3の種類、試料室の真空排気の有無などの情報などを含む。
【0091】
測定条件取得部46は、データベース36から、分析処理部44で求められた一致度Kに基づいて試料Sの測定条件M1,M2,M3,M4,M5の情報を取得する。具体的には、測定条件取得部46は、一致度Kが最も高い標準試料の測定条件をデータベース36から選択して、試料Sの測定条件とする。
【0092】
なお、測定条件取得部46は、取得した測定条件を表示部32に表示させる処理を行ってもよい。これにより、ユーザーは、試料Sの最適な測定条件を知ることができる。
【0093】
制御部48は、測定条件取得部46が取得した測定条件の情報に基づいて、分析装置本体10を制御する。制御部48は、測定条件取得部46が取得した測定条件に基づき、管電圧、管電流、フィルター3、真空排気装置等を制御する。制御部48が、測定条件取得部46が取得した測定条件に基づき分析装置本体10を制御することで、スペクトル取得部42において試料Sのスペクトルを取得することができる。
【0094】
蛍光X線分析装置200では、分析処理部44が、データベース36から取得した測定条件で得られたスペクトルから試料Sの定性分析および定量分析を行う。このように、蛍光X線分析装置200では、最適な測定条件で得られたスペクトルから定性分析および定量分析を行うことができるため、精度の高い、定性分析結果および定量分析結果を得ることができる。
【0095】
2.2. 分析方法
次に、第2実施形態に係る分析方法について説明する。図9は、蛍光X線分析装置200の処理部40の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0096】
図9に示すステップS100,S102,S104の処理は、「1.2. 分析方法」で説明したとおりであり、その説明を省略する。
【0097】
分析処理部44が、相関係数γ、相関係数γ、重み付け係数WA、および重み付け係数WBに基づいて、一致度Kを求めた後(S104の後)、測定条件取得部46は、データベース36から一致度Kに基づいて試料Sの測定条件の情報を取得する(S200)。
【0098】
具体的には、測定条件取得部46は、データベース36から一致度Kが最も高い標準試料の測定条件を選択して、試料Sの測定条件とする。例えば、図4に示す例では、素材が
アルミニウム合金の標準試料との一致度Kが最も高いため、測定条件取得部46は、測定条件M1(図8参照)を試料Sの測定条件とする。
【0099】
次に、制御部48は、測定条件取得部46が取得した測定条件M1の情報に基づいて、分析装置本体10を制御する(S202)。
【0100】
具体的には、制御部48は、測定条件取得部46が取得した測定条件M1に基づき、管電圧、管電流、フィルター3、真空排気装置等を制御する。制御部48が、測定条件取得部46が取得した測定条件に基づき分析装置本体10を制御して試料Sの測定を行うことで、スペクトル取得部42において、試料Sのスペクトルを取得することができる。
【0101】
次に、分析処理部44が、スペクトル取得部42で取得された試料Sのスペクトルから定性分析および定量分析を行う(S204)。そして、分析処理部44は、求められた定性分析結果および定量分析結果を表示部32に表示させる処理を行う(S206)。
【0102】
分析処理部44が、分析結果を表示部32に表示させる処理を行った後、処理部40は処理を終了する。
【0103】
2.3. 特徴
蛍光X線分析装置200では、データベース36に登録されている標準試料のスペクトル情報は、各標準試料の測定条件の情報を含む。また、蛍光X線分析装置200では、測定条件取得部46が、データベース36から、一致度Kに基づいて試料Sの測定条件を取得する。そのため、蛍光X線分析装置200では、試料Sについて、最適な測定条件で測定を行うことができる。
【0104】
さらに、蛍光X線分析装置200では、制御部48が測定条件取得部46が取得した測定条件に基づき分析装置本体10を制御して測定を行うため、最適な測定条件で測定された試料Sのスペクトルを得ることができる。この結果、精度の高い定性分析結果および定量分析結果を得ることができる。
【0105】
3. 第3実施形態
3.1. 蛍光X線分析装置
次に、第3実施形態に係る蛍光X線分析装置について説明する。第3実施形態に係る蛍光X線分析装置の構成は、図1に示す蛍光X線分析装置の構成と同じであり、図示を省略する。
【0106】
図10は、データベース36に登録されている情報を説明するための図である。図10に示すように、データベース36に登録されている標準試料のスペクトル情報は、標準試料の素材名と、エネルギー範囲Cの情報と、散乱スペクトル波形Ss1,Ss2,Ss3,Ss4,Ss5の情報と、を含む。
【0107】
エネルギー範囲Cは、X線管2のターゲット(ロジウム)に由来するコンプトン散乱線およびレイリー散乱線を検出して得られるピークを含むエネルギー範囲である。
【0108】
散乱スペクトル波形Ss1,Ss2,Ss3,Ss4,Ss5は、X線管2のターゲットに由来するコンプトン散乱線およびレイリー散乱線を検出して得られるスペクトル波形である。散乱スペクトル波形Ss1,Ss2,Ss3,Ss4,Ss5は、各標準試料のエネルギー範囲Cのスペクトル波形である。
【0109】
本実施形態では、分析処理部44は、試料Sの散乱スペクトル波形と、標準試料の散乱
スペクトル波形の一致度を求めて、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルの一致度Kを求める。
【0110】
3.2. 分析方法
次に、第3実施形態に係る分析方法について説明する。
【0111】
図11は、第3実施形態に係る蛍光X線分析装置の処理部40の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図12は、第3実施形態に係る分析方法を説明するための図である。
【0112】
スペクトル取得部42は、生成された試料Sのスペクトルを取得する(S300)。
【0113】
次に、分析処理部44は、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルの一致度Kを求める。
【0114】
具体的には、分析処理部44は、まず、データベース36に登録されている標準試料ごとに、エネルギー範囲Cにおいて、試料Sの散乱スペクトル波形と標準試料の散乱スペクトル波形を比較して一致度K(相関係数γ)を求める(S302)。
【0115】
具体的には、分析処理部44は、エネルギー範囲Cにおける試料Sの散乱スペクトル波形と標準試料の散乱スペクトル波形の相関係数γを求め、一致度Kとする。相関係数γは、上記(1)式を用いて計算することができる。
【0116】
次に、分析処理部44は、求められた一致度Kを、一致度Kが高い順に、素材名とともに表示部32に表示させる処理を行う(S304)。
【0117】
分析処理部44が、分析結果を表示部32に表示させる処理を行った後、処理部40は処理を終了する。
【0118】
3.3. 特徴
第3実施形態に係る蛍光X線分析装置では、一次X線を発生させるX線管2と、試料Sに一次X線が照射されることによって試料Sから放射された二次X線を検出する検出器7と、検出器7から出力された検出信号に基づく試料Sのスペクトルを取得するスペクトル取得部42と、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルの一致度Kを求める分析処理部44と、標準試料のスペクトル情報が登録されたデータベース36が記憶された記憶部34と、を含む。また、標準試料のスペクトル情報は、X線管2のターゲットに由来するコンプトン散乱線およびレイリー散乱線を検出して得られるスペクトル波形である散乱スペクトル波形Ss1,Ss2,Ss3,Ss4,Ss5の情報を含む。また、分析処理部44は、試料Sの散乱スペクトル波形と標準試料の散乱スペクトル波形の相関係数γを求めて一致度とする。
【0119】
X線管2のターゲットに由来するコンプトン散乱線およびレイリー散乱線を検出して得られるピークは、X線管2のターゲットの金属のエネルギー位置に現れ、試料Sのスペクトル波形と標準試料のスペクトル波形の比較において、上述した元素によって感度が異なることによる影響がない。そのため、第3実施形態に係る蛍光X線分析装置では、試料Sの素材を正確に判別することができる。
【0120】
第3実施形態に係る分析方法は、X線管2で発生した一次X線が試料Sに照射されることによって試料Sから放射された二次X線を検出して得られた、試料Sのスペクトルを取得する工程と、試料Sのスペクトルと標準試料のスペクトルを比較して、試料Sのスペク
トルと標準試料のスペクトルの一致度Kを求める工程と、を含む。また、一致度Kを求める工程では、試料Sの散乱スペクトル波形と、標準試料の散乱スペクトル波形の相関係数γを求めて一致度Kとする。
【0121】
そのため、第3実施形態に係る分析方法では、試料Sの素材を正確に判別することができる。
【0122】
3.4. 変形例
上述した第2実施形態に係る蛍光X線分析装置200の構成は、第3実施形態に係る蛍光X線分析装置にも適用可能である。すなわち、第3実施形態に係る蛍光X線分析装置において、処理部40は、測定条件取得部46と、制御部48と、を含んでおり、データベース36には各標準試料の測定条件の情報が登録されていてもよい。
【0123】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0124】
例えば、上述した第1~第3実施形態に係る蛍光X線分析装置では、X線管2のターゲットの材質がロジウムである場合について説明したが、X線管2のターゲットの材質はロジウムに限定されない。例えば、X線管2のターゲットとして、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)、銅(Cu)、クロム(Cr)、カドミウム(Gd)などを用いてもよい。
【0125】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0126】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0127】
2…X線管、3…フィルター、4…一次X線コリメーター、5…試料支持板、6…二次X線コリメーター、7…検出器、10…分析装置本体、30…操作部、32…表示部、34…記憶部、36…データベース、40…処理部、42…スペクトル取得部、44…分析処理部、46…測定条件取得部、48…制御部、100…蛍光X線分析装置、200…蛍光X線分析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14