(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】T細胞再標的化ヘテロ二量体免疫グロブリン
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20220128BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20220128BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220128BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220128BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/30
C07K16/46
C12N15/13
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2017542276
(86)(22)【出願日】2015-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2015060003
(87)【国際公開番号】W WO2016071004
(87)【国際公開日】2016-05-12
【審査請求日】2018-02-05
【審判番号】
【審判請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2014/073738
(32)【優先日】2014-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2014-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510168852
【氏名又は名称】イクノス サイエンシズ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】オリエ, ロマン
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】一宮 里枝
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/145806号
【文献】国際公開第2014/049003号
【文献】Frontires in Bioscience,2008,13,1619-1633
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K1/00-19/00
C12N1/00-15/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD3に結合し、かつ配列番号101、配列番号102、配列番号103、及び配列番号104を含む群から選択される重鎖可変ドメインと、配列番号105、配列番号106、配列番号401、及び配列番号402を含む群から選択される軽鎖可変ドメインを少なくとも含
み、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片である、エピトープ結合タンパク質又はその断片。
【請求項2】
配列番号101と配列番号105、配列番号104と配列番号106、配列番号104と配列番号401、配列番号104と配列番号402を含む群から選択される、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとの対を含む、請求項1に記載のエピトープ結合タンパク質又はその断片。
【請求項3】
配列番号359と配列番号399、配列番号359と配列番号400を含む群から選択される、重鎖と軽鎖との対を含む、請求項1に記載のエピトープ結合タンパク質又はその断片。
【請求項4】
前記ヘテロ二量体免疫グロブリン又は断片が第二のエピトープに結合する、請求項
1に記載の
エピトープ結合タンパク質又はその断片。
【請求項5】
第一のポリペプチドのエピトープ結合領域がFABであり、第二のポリペプチドのエピトープ結合領域がscFvであるか、又は第一のポリペプチドのエピトープ結合領域がscFvであり、第二のポリペプチドのエピトープ結合領域がFABである、請求項
1又は
4に記載の
エピトープ結合タンパク質又はその断片。
【請求項6】
scFvがヒトCD3に結合し、配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396の群から選択される配列を含む、請求項
5に記載の
エピトープ結合タンパク質又はその断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトCD3抗原の成分及び疾患関連抗原の両方を標的とするヘテロ二量体免疫グロブリン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞リダイレクトキリング(T cell redirected killing)は、多くの治療分野において望ましい作用機序である。様々な二重特異性抗体フォーマットがT細胞リダイレクトを媒介することが、前臨床及び臨床研究の両方において、示されている(May C et al., (2012) Biochem Pharmacol, 84(9): 1105-12; Frankel SR & Baeuerle PA, (2013) Curr Opin Chem Biol, 17(3): 385-92)。すべてのT細胞再標的化二重特異性抗体又はその断片は、少なくとも二の抗原結合部位を有するように操作されており、この場合、一方の部位が標的細胞上の表面抗原に結合し、他方の部位はT細胞表面抗原に結合する。T細胞表面抗原の中でも、TCRタンパク質複合体に由来するヒトCD3イプシロンサブユニットは、主にT細胞キリングをリダイレクトすることを目的とするものである。
【0003】
多くの二重特異性抗体フォーマットがT細胞キリングをリダイレクトするのに用いられているが、これらには、主にタンデム型のscFv断片及びダイアボディベースのフォーマットが含まれ、Fcベースの二重特異性抗体フォーマットについてはごく数例しか報告されていない(Moore PA et al., (2011) Blood, 117(17): 4542-51; 上掲May C et al., (2012); 上掲Frankel SR & Baeuerle PA, (2013))。ヒトFc領域を包含する二重特異性フォーマットは、比較的長い循環半減期を有し、その結果、有効性の向上及び/又は比較的低頻度の投与計画を実現し得る。考え得るFcベースの二重特異性フォーマットの中でも、T細胞キリングをリダイレクトする一の好ましいフォーマットとして、いわゆる重鎖ヘテロ二量体フォーマットがある。本フォーマットは、T細胞表面においてヒトCD3分子の複数のコピーが凝集するのを可能にせず、それによりT細胞の不活性化をすべて阻止するので、特に興味深い(Klein C et al., (2012) MAbs, 4(6): (653-63)。
【0004】
重鎖ヘテロ二量体を操作するための最初に記載された方法は、「ノブ・イントゥー・ホール」法として知られている(PCT公開番号:国際公開第199627011号; Merchant AM et al., (1998) Nat Biotechnol, 16(7): (677-81)。昨今、半免疫グロブリン(half-immunoglobulin)の還元及びインビトロでの再シャッフリングにより二の抗体を一の二重特異性抗体に結合する、FABアーム交換法(FAB-arm exchange method)として知られている化学的方法が報告されている(PCT公開番号:国際公開第2008119353号(Schuurman Jら)及び国際公開第2013060867号(Gramer Mら); Labrijn AF et al., (2013) Proc Natl Acad Sci USA, 110(13): (5145-50)。
【0005】
両方法及びそれらの派生法も、現在のところ、哺乳動物細胞宿主においてFcベースの二重特異性抗体フォーマットを生成するには不適当である。哺乳動物細胞宿主において「ノブ・イントゥー・ホール」重鎖ヘテロ二量体を発現する場合、ホモ二量体の存在により、二重特異性抗体の回収率が損なわれる(Jackman J et al., (2010) J Biol Chem, 285(27): 20850-9; 上掲のKlein Cら)。FABアーム交換法及びその派生法も、同じ欠点を有する他、二の「単一特異性」抗体を最初に別々に生成させなければならないというさらなる問題を有する。
【0006】
CD3サブユニットの関与を介してT細胞キリングをリダイレクトする二重特異性抗体を開発する際には、CD3サブユニットに特異的なホモ二量体が最終製剤に存在しないことが必須である。CD3イプシロンサブユニットを標的とする場合、痕跡量の抗ヒトCD3イプシロン抗体種(ヒトCD3イプシロン抗原に対して単一特異性及び二価)が、一過性のT細胞活性化と、T細胞アポトーシスに至る前のサイトカイン放出とを引き起こし、それにより制御された特異的T細胞の活性化(controlled and specific T cell activation)という最終目的を阻害する可能性がある。効率的にT細胞キリングをリダイレクトする、安定かつ安全なFcベースの二重特異性抗体の製造では、純度及び収量に関する製薬産業にとっての課題がなお残る。
したがって、分泌された二重特異性抗体生成物が組換え哺乳動物宿主細胞株由来の細胞培養上清から容易に単離されるような、抗ヒトCD3ホモ二量体を含まない抗ヒトCD3ベースの重鎖ヘテロ二量体を効率的に製造する技術に対するニーズが、依然として存在する。
【0007】
試薬に対する特異的な(differential)親和性に基づき、ホモ二量体から重鎖ヘテロ二量体を精製する技術は、すでに記載されている。既知のディファレンシャルアフィニティー精製法(differential affinity purification technique)に関する第一の例は、二の異なる動物種由来の二の異なる重鎖であって、そのうちの一が親和性試薬のプロテインAに結合しない重鎖の使用を伴った(Lindhofer H et al., (1995) J Immunol, 155(1): (219-225)。また、同じ著者らは、二の異なるヒト免疫グロブリンアイソタイプ(IGHG1及びIGHG3)に由来する二の異なる重鎖であって、そのうちの一が親和性試薬のプロテインAに結合しない重鎖の使用についても記載した(IGHG3; Lindhofer Hら,米国特許第6551592号参照)。さらに最近では、この技術のバリエーションがDavis Sらによって報告されたが(PCT公開番号:国際公開第2010151792号)、これはJendeberg (1997)により記載された二のアミノ酸置換H435R及びY436F(Jendeberg L. et al. (1997) J Immunol Methods, 201(1): 25-34)を利用して、ヘテロ二量体重鎖のうちの一において試薬プロテインAに対する親和性を排除したものである。
【0008】
本発明の好ましい既知のディファレンシャルプロテインAアフィニティー精製法は、三種すべて(すなわち目的の二のホモ二量体種とヘテロ二量体)のプロテインA結合部位の総数が少なくとも部位一つ分異なり、また二のホモ二量体種のうちの一がプロテインA結合部位を有さず、したがってプロテインAに結合しないという技術に該当する(
図1に示す通り)。
【0009】
薬物安定性は、医薬品開発を成功させる上で重要な側面であり、またVH3ベースの免疫グロブリン又はその断片は、バイオ薬産業にとって非常に重要である。VH3サブクラスに基づく治療用抗体は広範に開発されてきたが、それは、このようなフレームワークはプロテインAに結合し、免疫グロブリンへのフォーマット化前の抗体断片の試験が容易になるためである。例えば、抗体発見のために用いられる多くの合成抗体ファージディスプレイライブラリーは、VH3サブクラスに基づいている。さらに、VH3ベースの抗体は、他の既知の重鎖可変ドメインサブクラスよりも良好な発現及び安定性のためにしばしば選択される。
【0010】
VH3ドメインは、より強い親和性を持つ二の部位を有するFc領域と比較して、それよりも弱い親和性を有するプロテインA結合部位を一箇所のみ有するにすぎないが(Roben PW et al., (1995) J Immunol, 154(12): 6437-45)、既知のディファレンシャルプロテインAアフィニティー精製法に干渉するのに十分な親和性がある。Fc領域においてプロテインAに結合しないように操作され、VH3ベースの抗原結合部位を一つ含む重鎖のヘテロ二量体の精製を扱う場合、プロテインA結合は、VH3ドメインを介して復元される。
図1に好ましい技術を記載したが、前記のものはもはや有用ではない(
図2A)。この事例では、VH3ベースの抗原結合部位におけるプロテインA結合を取り除くことで簡単な解決策が提供され、所望のヘテロ二量体の初期構の造を維持することを可能になる(
図2B)。あるいは、重鎖ヘテロ二量体は、Fc領域においてプロテインAに結合する重鎖上にVH3ベースの抗原結合部位が位置するように再操作することができる(
図2C;VH3ドメインは、Fc単量体と比較して、プロテインAに対してより弱い親和性を有し、したがって目的のヘテロ二量体は、他のホモ二量体種とは異なるpH値、一般的にはpH4でなおも溶出する一方、プロテインAに結合するホモ二量体種は、この場合二のさらなるプロテインA結合部位を包含し、pH値≦3で溶出することに留意されたい)。
【0011】
より重要なことには、両方の重鎖がVH3ベースの抗原結合部位を包含するような重鎖のヘテロ二量体の精製を扱う場合、上記の再配置法は、部分的にしか有用ではない(
図2D及び
図15B)。プロテインAに基づく特異的な精製は、VH3ベースの抗原結合部位の少なくとも一(
図2E)又は両方(
図2F)におけるプロテインA結合が排除される場合にのみ可能である。
【0012】
したがって、本可変ドメインサブクラスを包含する重鎖のヘテロ二量体の製造を行う場合、VH3ドメイン内のプロテインA結合を取り除く必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、疾患関連抗原を認識してこれに結合することができる第二の結合アームを含む新規な抗ヒトCD3二重特異性抗体を提供する。
【0014】
本発明の文脈では、疾患関連抗原とは、発がんマーカー又は他の何らかの代謝若しくは免疫学的機能不全のマーカー等の病的状態に関連する任意の抗原又はエピトープを意味する。その上、疾患マーカーは、病原性ウイルス又は細菌などの感染性疾患にも関連する。
【0015】
本発明に従えば、抗ヒトCD3結合アームの標的結合部分は、SP34の一本鎖可変断片(scFv)を含む。scFvは特に、CD3結合特性を維持しながら配列番号60及び61によってコードされる重並びに軽可変領域を含むscFv-Fcと比較して、より良好な発現プロファイルを有する。
【0016】
特に、scFv-Fcとして発現される場合、それは、配列番号60及び61によってコードされる重並びに軽可変領域を含むscFv-FcとしてフォーマットされたSP34キメラと比較して、少なくとも2倍の発現の改善を有する。好ましくは、改善されたSP34 scFvは、配列番号60及び61によってコードされる重並びに軽可変領域を含むscFvとしてフォーマットされたSP34キメラと比較して、少なくとも6倍の発現の改善を有し、最も好ましくは配列番号60及び61によってコードされる重並びに軽可変領域を含むscFvとしてフォーマットされたSP34キメラと比較して、12倍の発現の改善を有する。
【0017】
本発明の別の態様に従えば、BEATフォーマットの、FABアームを含む二重特異性抗体中のscFvとして発現される場合、それは、配列番号60及び61によってコードされる重並びに軽可変領域を含むscFvとしてフォーマットされたSP34キメラと比較して、少なくとも2倍の発現の改善を有する。好ましくは、BEAT二重特異性抗体の成分としての改善されたSP34 scFvは、BEAT二重特異性抗体の成分としての配列番号60及び61によってコードされる重並びに軽可変領域を含むscFvとしてフォーマットされたSP34キメラと比較して、少なくとも5倍の発現の改善を有する。
【0018】
本発明に従えば、抗ヒトCD3二重特異性抗体の二の結合アームは各々、免疫グロブリン定常領域を含み、第一のアーム又はポリペプチドはプロテインAに結合し、第二のアーム又はポリペプチドはプロテインAに結合しない。
【0019】
本発明によれば、第一のポリペプチドのプロテインAへの結合及び第二のポリペプチドのプロテインAへの結合の欠如は、第二のポリペプチドがプロテインAへのいくらかの残存結合を有さなくてもよいことを意味するものではなく、第二のポリペプチドが第一のアームへの結合と比較してプロテインAへの結合が不十分であることを示す。
【0020】
本発明によれば、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片の第一及び第二のポリペプチドは、ホモ二量体形成よりもヘテロ二量体形成に有利なタンパク質-タンパク質界面(interface)を有する修飾CH3領域を有する操作された免疫グロブリン定常領域を含む。好ましい実施態様において、本発明は、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片を提供するが、その第一及び第二のポリペプチドはタンパク質-タンパク質界面を有する修飾CH3ドメインを持つ、操作された免疫グロブリン定常領域を含み、この場合第一のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は3、5、7、20、22、26、27、79、81、84、84.2、85.1、86、88、及び90(IMGT(登録商標)番号付け)からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を含み、第二のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は3、5、7、20、22、26、27、79、81、84、84.2、84.4、85.1、86、88、及び90(IMGT(登録商標)番号付け)からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を含む。
【0021】
好ましくはこの場合、第二のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は、84.4位にアミノ酸置換を含み、さらに3、5、7、20、22、26、27、79、81、84、84.2、85.1、86、88、及び90(IMGT(登録商標)番号付け)からなる群より選択される位置に少なくとも一のさらなる置換を含む。
【0022】
さらなる実施態様において、本発明は、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片を提供するが、その第一及び第二のポリペプチドはタンパク質-タンパク質界面を有する修飾CH3ドメインを持つ、操作された免疫グロブリン定常領域を含み、この場合第一のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は88位並びに3、5、7、20、22、26、27、79、81、84、84.2、85.1、86、及び90(IMGT(登録商標)番号付け)からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を含み、第二のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は85.1位及び/又は86位並びに3、5、7、20、22、26、27、79、81、84、84.2、84.4、88、及び90(IMGT(登録商標)番号付け)からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を含む。
【0023】
本発明のさらなる態様によれば、第一のポリペプチドのエピトープ結合領域はCD3タンパク質複合体に結合し、第二のポリペプチドのエピトープ結合領域は疾患関連抗原に結合するか、又は第一のポリペプチドのエピトープ結合領域が疾患関連抗原に結合し、第二のポリペプチドのエピトープ結合領域はCD3タンパク質複合体に結合し;かつCD3タンパク質複合体に結合するエピトープ結合領域は、配列番号200のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号201のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号202のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、並びに配列番号203のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号204のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号205のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含み;又は
CD3タンパク質複合体に結合するエピトープ結合領域は、配列番号352のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号353のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号354のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、並びに配列番号355のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号356のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号357のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む。
【0024】
これらの新規の抗ヒトCD3二重特異性抗体の使用は、様々なヒトのがん並びに自己免疫及び炎症性疾患の治療を含むがこれらに限定されない。正常な細胞及び組織の中からがん細胞を特異的に破壊することは、腫瘍学における主要な目的に相当する。腫瘍関連細胞表面抗原に対して安全にT細胞キリングをリダイレクトすることができる治療法は、臨床効果の改善をもたらし得る。腫瘍学における臨床上満たされていないニーズの既知の分野には、乳がん、転移性乳がん、卵巣がん、膵臓がん、肺がん、リンパ腫、及び多発性骨髄腫が含まれるが、これらに限定されない。
疾患を引き起こすT細胞の排除は、乾癬、多発性硬化症、及び糖尿病などの自己免疫及び炎症性疾患の治療において、T細胞分化を阻害するよりも有益であり得る。
【0025】
疾病関連抗原の好ましいセットは、遺伝子産物CCR3、CCR6、CRTH2、PDL1、BLUT1、PirB、CD33、TROP2、CD105、GD2、GD3、CEA、VEGFR1、VEGFR2、NCAM、CD133、CD123、ADAM17、MCSP、PSCA、FOLR1、CD19、CD20、CD38、EpCAM、HER2、EGFR、PSMA、IgE、インテグリンa4b1、CCR5、ルイスY、FAP、MUC-1、Wue-1、MSP、EGFRvIII、P糖タンパク質、AFP、ALK、BAGEタンパク質、CD30、CD40 CTLA4、ErbB3、ErbB4、メソセリン、OX40、CA125、CAIX、CD66e、cMet、EphA2、HGF/SF、MUC1、ホスファチジルセリン、TAG-72、TPBG、B-カテニン、brc-abl、BRCA1、BORIS、CA9、カスパーゼ-8、CDK4、サイクリン-B1、CYP1B1、ETV6-AML、Fra-1、FOLR1、GAGE-1、GAGE-2、GloboH、グリカン-3、GM3、gp100、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、LMP2、MAGE1、MAGE2、MAGE3、MAGE4、MAGE6、MAGE12、MART-1、ML-IAP、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、Muc16、MUM1、NA17、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR-85、NY-ESO1、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、RAGEタンパク質、Ras、RGS5、Rho、SART-1、SART-3、Steap-1、Steap-2、サバイビン、TAG-72、TGF-B、TMPRSS2、Tn、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、ウロプラキン-3に由来する。
【0026】
疾患関連抗原に結合するエピトープ結合領域が
i) 配列番号206-211;
ii) 配列番号212-217;
iii) 配列番号218-223;
iv) 配列番号224-229;
v) 配列番号230-235;
vi) 配列番号236-241;
vii) 配列番号242-247;
viii) 配列番号248-253;
ix) 配列番号254-259;
x) 配列番号260-265;
xi) 配列番号266-271;及び
xii) 配列番号272-277
からなる群よりそれぞれ選択される重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3アミノ酸配列、並びに軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3アミノ酸配列を含む、本発明によるヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片。
【0027】
本発明のさらなる態様に従えば、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片の第二のポリペプチドの定常領域は、IgG3 CH3領域を含む。
【0028】
本発明のさらなる態様に従えば、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片の第二のポリペプチドの定常領域は、IgGからのもの以外のCH3領域を含み、非IgG3 Ch3領域は、プロテインA結合を減少/消失させるように少なくとも一の置換を含む。
【0029】
本発明のさらなる態様によれば、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片の第二のポリペプチドのエピトープ結合領域は、プロテインA結合を減少させる少なくとも一の修飾を含むVH3領域を含む。
【0030】
本発明者らは、VH3ベースの抗原結合部位が一工程のプロテインAクロマトグラフィーで容易に生成されかつ高純度で精製され得ることを示した。これらの抗体は、製造の容易さに加えて、現在の治療法よりも高い有効性を示し得る。
【0031】
本発明はまた、組換え哺乳動物宿主細胞株由来の少なくとも一のVH3ベースの抗原結合部位を有する抗ヒトCD3二重特異性重鎖ヘテロ二量体を製造するための方法であって、二重特異性抗体生成物が一工程のプロテインAクロマトグラフィー後に高純度で容易に単離される方法を提供する。
【0032】
特に、修飾VH3領域は、57、65、81、82a、及び19/57/59(Kabat番号付け)の組み合わせからなる群より選択されるアミノ酸置換を含み、さらにより好ましくは、修飾VH3領域は57A、57E、65S、81E、82aS、及び19G/57A/59A(Kabat番号付け)の組み合わせからなる群より選択されるアミノ酸置換を含む。
【0033】
本発明のさらなる態様によれば、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片は、重鎖可変フレームワーク領域がI34M、V48I、A49G、R58N/Y、I69L、A71T、及びT73K(Kabat番号付け)からなる群より選択されるアミノ酸置換を含み、軽鎖可変フレームワーク領域がM4L、V33M、A34N、L46R、L47W、T51A、R66G、F71Y、及びP96F(Kabat番号付け)からなる群より選択されるアミノ酸置換を含むか;又は重鎖可変フレームワーク領域がアミノ酸置換I34M、A49G、及びA71T(Kabat番号付け)を含み、軽鎖可変フレームワーク領域がアミノ酸置換M4L、L46R、L47W、及びF71Y(Kabat番号付け)を含む。
【0034】
さらなる実施態様では、CD3タンパク質複合体に結合するエピトープ結合領域は、ヒトVH3サブクラスの産物であるか又はそれに由来する重鎖可変フレームワーク領域を含む。好ましくは、重鎖可変フレームワーク領域は、ヒトIGHV3-23の産物であるか又はそれに由来する。より好ましくは、重鎖可変フレームワーク領域は、ヒトIGHV3-23*04(配列番号22)の産物であるか又はそれに由来する。重鎖可変フレームワーク領域は、配列番号18又は配列番号60のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の重鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。
【0035】
好ましい実施態様では、CD3タンパク質複合体に結合する、第一のポリペプチドのエピトープ結合領域は、ヒトVK1サブクラス若しくはヒトVK3サブクラスの産物であるか又はそれに由来する軽鎖可変フレームワーク領域を含む。好ましくは、軽鎖可変フレームワーク領域は、ヒトVK1-39又はVK3-20の産物であるか又はそれに由来する。より好ましくは、軽鎖可変フレームワーク領域は、ヒトIGKV1-39*01(配列番号23)又はIGKV3-20*01(配列番号24)の産物であるか又はそれに由来する。軽鎖可変フレームワーク領域は、配列番号19又は配列番号61のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の軽鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。
【0036】
好ましい実施態様では、CD3タンパク質複合体に結合するエピトープ結合領域は、I34M、V48I、A49G、R58N/Y、I69L、A71T、及びT73K(Kabat番号付け)からなる群より選択される逆突然変異を有するヒト化重鎖可変ドメインと、M4L、V33M、A34N、L46R、L47W、R66G、F71Y、及びP96F(Kabat番号付け)からなる群より選択される逆突然変異を有するヒト化軽鎖可変ドメインとを含む。さらに好ましくは、CD3タンパク質複合体に結合するエピトープ結合領域は、逆突然変異I34M、A49G、及びA71T(Kabat番号付け)を有するヒト化重鎖可変ドメインと、逆突然変異M4L、L46R、L47W、及びF71Y(Kabat番号付け)を有するヒト化軽鎖可変ドメインとを含む。
【0037】
本発明のさらなる態様によれば、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片のCD3タンパク質複合体に結合するエピトープ結合領域は、
配列番号101のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号105のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むか;又は
配列番号103のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号106のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むか;又は
配列番号104のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号106のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むか;又は
配列番号104のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号401のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むか;又は
配列番号104のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号402のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0038】
CD3タンパク質複合体は、いくつかのサブユニット、例えばデルタ、イプシロン、及びガンマを含む。好ましい実施態様において、CD3タンパク質複合体に結合するエピトープ結合領域は、CD3イプシロンサブユニットに結合する。
【0039】
本明細書に記載のエピトープ結合領域は、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片の、一又は複数のエピトープへの特異的結合を可能にする結合部位を共に形成する一又は複数の重鎖可変ドメイン及び一又は複数の相補的軽鎖可変ドメインを含む。本発明の一実施態様において、第一のポリペプチドのエピトープ結合領域はFABを含み、第二のポリペプチドのエピトープ結合領域はscFvを含む。あるいは、第一のポリペプチドのエピトープ結合領域はscFvが含み、第二のポリペプチドのエピトープ結合領域がFABを含む。
【0040】
一実施態様において、疾患関連抗原に結合するエピトープ結合領域は、HER2に結合する。エピトープ結合領域は、ヒトVH3サブクラス、好ましくはヒトVH3-23、より好ましくはヒトIGHV3-23*04(配列番号22)の産物であるか又はそれに由来する重鎖可変フレームワーク領域と、ヒトVK1サブクラス、好ましくはヒトVK1-39、より好ましくはヒトIGKV1-39*01(配列番号23)の産物であるか又はそれに由来する軽鎖可変フレームワーク領域とを含む。
【0041】
好ましい実施態様では、疾患関連抗原HER2に結合するエピトープ結合領域は、配列番号20のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインとを含む。さらに好ましい実施態様では、HER2に結合するエピトープ結合領域は、配列番号107のアミノ酸配列を含むscFv断片を形成するG4Sリンカーによって連結された重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを含み得る。好ましくは、scFv断片の可変ドメインは、プロテインAへの結合を取り除くための修飾を含み、この場合アミノ酸置換が65S(Kabat番号付け)に存在し、かつscFv断片が配列番号109のアミノ酸配列を含むか、又はアミノ酸置換が82aS(Kabat番号付け)に存在し、かつscFv断片が配列番号111のアミノ酸配列を含む。
【0042】
特に、前記のハーセプチン結合アームは、配列番号20によってコードされる重鎖可変領域と、配列番号21によってコードされる軽鎖可変領域とを含む。
【0043】
別の実施態様において、疾患関連抗原に結合するエピトープ結合領域は、CD38に結合する。エピトープ結合領域は、ヒトVH3サブクラス、好ましくはヒトVH3-23、より好ましくはヒトIGHV3-23*04(配列番号22)の産物であるか又はそれに由来する重鎖可変フレームワーク領域を含む。重鎖可変フレームワーク領域は、配列番号112又は114又は122のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の重鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。エピトープ結合領域は、ヒトVK1サブクラス、好ましくはヒトVK1-39、より好ましくはヒトIGKV1-39*01(配列番号23)の産物であるか又はそれに由来する軽鎖可変フレームワーク領域をさらに含む。軽鎖可変フレームワーク領域は、配列番号113又は115又は123のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の軽鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。
【0044】
特に、CD38結合ポリペプチドは、配列番号116/117、129/130、133/134、及び135/136によってコードされる可変重鎖ドメインと可変軽鎖ドメインとの対を含む。
【0045】
一実施態様において、疾患関連抗原に結合するエピトープ結合領域は、OX40に結合する。エピトープ結合領域は、ヒトVH3サブクラス、好ましくはヒトVH3-23、より好ましくはヒトIGHV3-23*04(配列番号22)の産物であるか又はそれに由来する重鎖可変フレームワーク領域を含む。重鎖可変フレームワーク領域は、配列番号139のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の重鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。エピトープ結合領域は、ヒトVK1サブクラス、好ましくはヒトVK1-39、より好ましくはヒトIGKV1-39*01(配列番号23)の産物であるか又はそれに由来する軽鎖可変フレームワーク領域をさらに含む。軽鎖可変フレームワーク領域は、配列番号140のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の軽鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。
【0046】
最も好ましくは、ヒト化重鎖可変ドメインは、置換G65S又は置換N82aS(Kabat番号付け)を含むプロテインAへの結合を取り除くための修飾を含む。
【0047】
特に、OX40結合ポリペプチドは、配列番号141/142、278/280、及び279/281によってコードされる可変重鎖ドメインと可変軽鎖ドメインとの対を含む。
【0048】
一実施態様において、疾患関連抗原に結合するエピトープ結合領域は、CD19に結合する。エピトープ結合領域は、ヒトVH3サブクラス、好ましくはヒトVH3-23、より好ましくはヒトIGHV3-23*04(配列番号22)の産物であるか又はそれに由来する重鎖可変フレームワーク領域、最も好ましくは配列番号296のアミノ酸配列を含む重鎖可変フレームワーク領域を含む。エピトープ結合領域は、ヒトVK1サブクラス、好ましくはヒトVK1-39、より好ましくはヒトIGKV1-39*01(配列番号23)の産物であるか又はそれに由来する軽鎖可変フレームワーク領域、最も好ましくは配列番号297のアミノ酸配列を含む軽鎖可変フレームワーク領域をさらに含む。好ましい実施態様では、重鎖可変ドメインは、置換G65S又は置換N82aS(Kabat番号付け)を含むプロテインAへの結合を取り除くための修飾を含む。
【0049】
特に、CD19結合ポリペプチドは、配列番号296/297によってコードされる可変重鎖ドメインと可変軽鎖ドメインとの対を含む。
【0050】
一実施態様において、疾患関連抗原に結合するエピトープ結合領域は、CD20に結合する。エピトープ結合領域は、ヒトVH3サブクラス、好ましくはヒトVH3-23、より好ましくはヒトIGHV3-23*04(配列番号22)の産物であるか又はそれに由来する重鎖可変フレームワーク領域を含む。重鎖可変フレームワーク領域は、配列番号143のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の重鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。エピトープ結合領域は、ヒトVK1サブクラス、好ましくはヒトVK1-39、より好ましくはヒトIGKV1-39*01(配列番号23)の産物であるか又はそれに由来する軽鎖可変フレームワーク領域をさらに含む。軽鎖可変フレームワーク領域は、配列番号144のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の軽鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。
【0051】
最も好ましくは、ヒト化重鎖可変ドメインは、置換G65S又は置換N82aS(Kabat番号付け)を含むプロテインAへの結合を取り除くための修飾を含む。
【0052】
特に、CD20結合ポリペプチドは、配列番号143/144、282/284、283/285によってコードされる可変重鎖ドメインと可変軽鎖ドメインとの対を含む。
【0053】
一実施態様において、疾患関連抗原に結合するエピトープ結合領域は、EGFRに結合する。エピトープ結合領域は、ヒトVH3サブクラス、好ましくはヒトVH3-23、より好ましくはヒトIGHV3-23*04(配列番号22)の産物であるか又はそれに由来する重鎖可変フレームワーク領域を含む。重鎖可変フレームワーク領域は、配列番号145のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の重鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。エピトープ結合領域は、ヒトVK1サブクラス、好ましくはヒトVK1-39、より好ましくはヒトIGKV1-39*01(配列番号23)の産物であるか又はそれに由来する軽鎖可変フレームワーク領域をさらに含む。軽鎖可変フレームワーク領域は、配列番号146のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の軽鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。
【0054】
最も好ましくは、ヒト化重鎖可変ドメインは、置換G65S又は置換N82aS(Kabat番号付け)を含むプロテインAへの結合を取り除くための修飾を含む。
【0055】
特に、EGFR結合ポリペプチドは、配列番号145/146、286/288、287/289、290/291、292/294によってコードされる可変重鎖ドメインと可変軽鎖ドメインとの対を含む。
【0056】
一実施態様において、疾患関連抗原に結合するエピトープ結合領域は、IgEに結合する。エピトープ結合領域は、ヒトVH3サブクラス、好ましくはヒトVH3-23、より好ましくはヒトIGHV3-23*04(配列番号22)の産物であるか又はそれに由来する重鎖可変フレームワーク領域を含む。重鎖可変フレームワーク領域は、配列番号298のアミノ酸配列を含む、対応するヒト化抗体、又は配列番号304のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の重鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。エピトープ結合領域は、ヒトVK1サブクラス、好ましくはヒトVK1-39、より好ましくはヒトIGKV1-39*01(配列番号23)の産物であるか又はそれに由来する軽鎖可変フレームワーク領域をさらに含む。軽鎖可変フレームワーク領域は、配列番号299のアミノ酸配列を含む、対応するヒト化抗体、又は配列番号305のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体の軽鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。
【0057】
最も好ましくは、重鎖可変ドメインは、置換G65S又は置換N82aS(Kabat番号付け)を含むプロテインAへの結合を取り除くための修飾を含む。
【0058】
特に、IgE結合ポリペプチドは、配列番号298/299、300/302、301/303、304/305、306/308、307/309によってコードされる可変重鎖ドメインと可変軽鎖ドメインとの対を含む。
【0059】
抗CD3抗体は、直接的及び間接的機序の両方によって毒性を誘発することが判明している。間接的機序は、免疫細胞を発現するFc受容体と相互作用し、かつ一過性のT細胞活性化及びサイトカイン放出をもたらすCD3抗体のFc領域によって媒介される。したがって、本明細書に記載のヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片の安全性を向上させるために、第一及び/又は第二のポリペプチドの免疫グロブリン定常領域は、エフェクター免疫細胞及び/又は補体C1qbに対する結合が低下しているか又は全く結合していない。好ましくは、免疫グロブリン定常領域は、下部ヒンジ領域におけるFc受容体結合を排除するように操作される。より好ましくは、第一及び/又は第二のポリペプチドの免疫グロブリン定常領域は、L234A及び/又はL235A(EU番号付け)の置換(単数又は複数)を含む。最も好ましくは、第一及び/又は第二のポリペプチドの免疫グロブリン定常領域は、L234A及びL235A(EU番号付け)の置換を含む。
【0060】
別の態様では、本発明の開示はまた、エピトープ結合領域がCD3タンパク質複合体のCD3イプシロンサブユニットに結合し、配列番号60のアミノ酸配列の重鎖可変ドメイン及び配列番号61のアミノ酸配列の軽鎖可変ドメインを含むSP34キメラのFAB熱安定性よりも優れたFAB熱安定性を有する(表1のように示差走査熱量測定(DSC)によって測定した場合)FABを含む、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片を記載している。この熱安定性の増大は、これらの改善されたSP34結合アームが、治療剤として、またその安定性/保管/貯蔵寿命の点でより優れた性能を意味する、インビボ及びインビトロでの安定性を高めたことを意味する。
【0061】
本発明のさらなる態様に従えば、SP34の可変重及び軽ドメイン配列である配列番号60及び61を含むscFvの発現を改善するための方法であって、以下の工程:
a) 配列番号60及び61によりコードされる重又は軽可変ドメイン内の残基の少なくとも一を修飾すること;
b) 工程a)からの修飾構築物の発現を発現させること;
c) 修飾構築物の発現レベルを、配列番号60及び配列番号61又は配列番号62及び配列番号63又は配列番号64及び配列番号69によりコードされる重/軽可変ドメインを含むscFvと比較すること;
d) 前記修飾構築物が配列番号60及び配列番号61又は配列番号62及び配列番号63又は配列番号64及び配列番号69によりコードされる重/軽可変ドメインを含むscFvよりも多く発現される場合、それを選択すること
を含む方法が提供される。
【0062】
本発明に従えば、重可変ドメインは、少なくとも100eの位置にて修飾される。
【0063】
特に残基100eは、疎水性側鎖を有するアミノ酸と、特にフェニルアラニン又はチロシン残基と置換される。
【0064】
本発明に従えば、軽可変ドメインは、29、30、91、95位のうちの少なくとも一にて修飾される。
【0065】
本発明に従えば、残基は、ランダムに突然変異される。
【0066】
本発明に従えば、残基は、すべての標準的なアミノ酸及び/又は非標準的なアミノ酸若しくはそのサブセットについて部位特異的突然変異誘発によって突然変異される。
【0067】
本発明の好ましい態様に従えば、残基は、部位特異的突然変異誘発によって、可変重及び軽ドメインの他の特徴的なバージョンにおいて同じ位置に存在する他の残基に変異される。
【0068】
特に、残基29はアラニン、グルタミン酸又はセリン残基を置換し;残基30はアラニン又はアスパラギン酸残基を置換し;残基91はフェニルアラニン残基を置換し、かつ残基95はグリシン又はスレオニン残基を置換する。
【0069】
さらなる態様において、本発明は、一のエピトープ結合領域がCD3タンパク質複合体のCD3イプシロンサブユニットに結合し、疾患関連抗原に結合する他のエピトープ結合領域がHER2に結合する、本明細書に記載のヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片を提供する。そのようなヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片のリダイレクトT細胞キリングに対する力価は、実施例に記載の通り、フローサイトメトリー法(RDL-FACS)又は比色に基づく方法(RDL-MTS)を用い、JIMT-1、BT-474、及びMDA-MB-231等のHER2を発現する細胞株でのインビトロアッセイにおいて測定することができる。
【0070】
好ましい実施態様では、本発明は、以下のものに結合するヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片を提供する:
i) 第一のポリペプチドが配列番号359を含む群から選択されるアミノ酸配列を有し、配列番号399又は400のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、CD3イプシロンに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号167のアミノ酸配列を有し、HER2に結合する、CD3タンパク質複合体及びHER2;
ii) 第一のポリペプチドが配列番号359を含む群から選択されるアミノ酸配列を有し、配列番号399又は400のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、CD3イプシロンに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号167のアミノ酸配列を有し、HER2に結合する、CD3タンパク質複合体及びHER2;
iii) 第一のポリペプチドが配列番号359を含む群から選択されるアミノ酸配列を有し、配列番号399又は400のアミノ酸配列の同族軽鎖と共に組み立てられ、CD3イプシロンに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号162のアミノ酸配列を有し、CD38に結合する、CD38タンパク質複合体及びCD3イプシロン;
iv) 第一のポリペプチドが配列番号170のアミノ酸配列を有し、配列番号138のアミノ酸配列の同族軽鎖と共に組み立てられ、CD38に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396のアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びCD38;
v) 第一のポリペプチドが配列番号176のアミノ酸配列を有し、配列番号119のアミノ酸配列の同族軽鎖と共に組み立てられ、CD38に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396のアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びCD38;
vi) 第一のポリペプチドが配列番号178のアミノ酸配列を有し、配列番号128のアミノ酸配列の同族軽鎖と共に組み立てられ、CD38に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396のアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びCD38;
vii) 第一のポリペプチドが配列番号359を含む群から選択されるアミノ酸配列を有し、配列番号399又は400のアミノ酸配列の同族軽鎖と共に組み立てられ、OX40に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号162のアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びOX40;
viii) 第一のポリペプチドが配列番号174のアミノ酸配列を有し、配列番号175のアミノ酸配列の同族軽鎖と共に組み立てられ、EGFRに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396のアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びEGFR;
ix) 第一のポリペプチドが配列番号180のアミノ酸配列を有し、配列番号181のアミノ酸配列の同族軽鎖と共に組み立てられ、CD20に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396のアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びCD20。
【0071】
さらなる実施態様では、本発明は、以下のものに結合するヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片を提供する:
第一のポリペプチドが配列番号310のアミノ酸配列を有し、配列番号3のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、HER2に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びHER2;
第一のポリペプチドが配列番号312又は404のアミノ酸配列を有し、配列番号132のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、CD38に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びCD38;
第一のポリペプチドが配列番号313のアミノ酸配列を有し、配列番号138のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、CD38に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びCD38;
第一のポリペプチドが配列番号314のアミノ酸配列を有し、配列番号315のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、OX40に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びOX40;
第一のポリペプチドが配列番号316のアミノ酸配列を有し、配列番号317のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、OX40に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びOX40;
第一のポリペプチドが配列番号318のアミノ酸配列を有し、配列番号319のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、CD20に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びCD20;
第一のポリペプチドが配列番号320のアミノ酸配列を有し、配列番号321のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、CD20に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びCD20;
第一のポリペプチドが配列番号322のアミノ酸配列を有し、配列番号323のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、EGFRに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びEGFR;
第一のポリペプチドが配列番号324のアミノ酸配列を有し、配列番号325のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、EGFRに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びEGFR;
第一のポリペプチドが配列番号326のアミノ酸配列を有し、配列番号327のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、EGFRに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びEGFR;
第一のポリペプチドが配列番号328のアミノ酸配列を有し、配列番号329のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、EGFRに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びEGFR;
第一のポリペプチドが配列番号330のアミノ酸配列を有し、配列番号331のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、CD19に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びCD19;
第一のポリペプチドが配列番号332のアミノ酸配列を有し、配列番号333のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、IgEに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びIgE;
第一のポリペプチドが配列番号334のアミノ酸配列を有し、配列番号335のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、IgEに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びIgE;
第一のポリペプチドが配列番号336のアミノ酸配列を有し、配列番号337のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、IgEに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びIgE;
第一のポリペプチドが配列番号338のアミノ酸配列を有し、配列番号339のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、IgEに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びIgE;
第一のポリペプチドが配列番号340のアミノ酸配列を有し、配列番号173のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、OX40に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びOX40;
第一のポリペプチドが配列番号341のアミノ酸配列を有し、配列番号181のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、CD20に結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びCD20;
第一のポリペプチドが配列番号342のアミノ酸配列を有し、配列番号175のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、EGFRに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びEGFR;
第一のポリペプチドが配列番号343のアミノ酸配列を有し、配列番号344のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、EGFRに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びEGFR;
第一のポリペプチドが配列番号345のアミノ酸配列を有し、配列番号346のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、IgEに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びIgE;
第一のポリペプチドが配列番号347のアミノ酸配列を有し、配列番号348のアミノ酸配列の軽鎖と共に組み立てられ、IgEに結合し、かつ第二のポリペプチドが配列番号361、配列番号311、配列番号394、及び配列番号396からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、CD3イプシロンに結合する、CD3タンパク質複合体及びIgE。
【0072】
本発明のさらなる態様に従えば、前記CD3結合ポリペプチドが配列番号101/105、103/106、104/106、104/401、104/402の群から選択される重及び軽鎖の可変領域の少なくとも一若しくはその組み合わせを含むヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片。
【0073】
二重特異性抗体生成について上で議論したように、分泌された二重特異性抗体生成物が組換え哺乳動物宿主細胞株由来の細胞培養上清から容易に単離されるような、抗ヒトCD3ホモ二量体を含まない抗ヒトCD3ベースの重鎖ヘテロ二量体を効率的に製造する必要がある。この趣旨で、プロテインAに基づく特異的な精製法を用いて、VH3の可変ドメインサブクラスを包含するヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片を単離することができ、この場合少なくとも一方の、好ましくは両方のVH3ベースのエピトープ結合領域が取り除かれる。したがって、別の態様において本発明は、以下の工程:
ia) 第一のポリペプチドの重鎖をコードするDNAベクター及び第二のポリペプチドの重鎖をコードするDNAベクターを調製する工程であって、一方若しくは両方のDNAベクター又は第三のDNAベクターが共通の軽鎖又は第一若しくは第二のポリペプチドの重鎖と共に組み立てられる軽鎖を任意選択的にコードする工程;又は
ib) 第一及び第二のポリペプチドの重鎖をコードする一のDNAベクターを調製する工程であって、DNAベクターが共通の軽鎖又は第一若しくは第二のポリペプチドの重鎖と共に組み立てる軽鎖を任意選択的にコードし;かつ
前記DNAベクターが哺乳動物宿主細胞において一過性の又は安定的な発現に適している工程;
ii) 哺乳動物宿主細胞株において、(i)のDNAベクターをトランスフェクト又はコトランスフェクトする工程;
iii) トランスフェクトされた細胞株又はそれから安定的に選択されたクローンを培養し、細胞培養上清を回収する工程;
iv) プロテインAアフィニティークロマトグラフィー樹脂上で細胞培養上清を接触させる工程;
v) 目的のヘテロ二量体免疫グロブリンを溶出して回収する工程
を含む、本明細書に記載のヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片のインビトロでの製造方法を提供する。
【0074】
好ましくは、工程(v)の精製物質中に見出されるヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片は、少なくとも95%純粋である。より好ましくは、工程(v)の精製物質中に見出されるヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片は、少なくとも96%純粋である。さらにより好ましくは、工程(v)の精製物質中に見出されるヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片は、少なくとも97%である。精製物質中に見出されるヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片の純度は、キャピラリー電気泳動によって測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】プロテインAを用いた好ましいディファレンシャルアフィニティー精製法の模式図である。重鎖のいずれもVH3に基づく抗原結合部位を含まない。凡例:[(A+)]は機能的なプロテインA結合部位を意味し、[(A-)]は非機能的なのプロテインA結合部位を意味する。溶出のpHを示す。
【
図2A-F】ディファレンシャルプロテインAクロマトグラフィーを用いて一又は複数のVH3ドメインを包含する重鎖のヘテロ二量体を精製する場合に直面する問題を例示する模式図。ヘテロ二量体の少なくとも一のVH3ドメイン内のプロテインA結合部位の変異に基づいた解決策の例を示す。
図2A:重鎖のヘテロ二量体が、Fc領域においてプロテインAに結合しない重鎖内のVH3ドメインを包含する場合に直面する問題。
図2B:
図2Aに示した精製の問題に対する解決策として、Fc領域においてプロテインAに結合しないヘテロ二量体の重鎖がプロテインA結合部位を取り除くために突然変異されているVH3ドメインを包含する。
図2C:
図2Aで示した問題に対する代替的な解決策として、ヘテロ二量体が一のVH3ドメインのみを包含し、かつFc領域においてプロテインAに結合する重鎖上にVH3ドメインが位置するように操作される(解決策としてのVH3ドメイン再配置法)。
図2D:ヘテロ二量体の両方の重鎖がVH3ドメインを包含する場合に直面する問題。
図2E:
図2Dに示した精製の問題に対する解決策として、Fc領域においてプロテインAに結合しないヘテロ二量体の重鎖がプロテインA結合部位を取り除くために突然変異されているVH3ドメインを包含する。
図2F:
図2Dで示した問題に対する代替的な解決策として、各VH3ドメインがそのプロテインA結合部位を取り除かれている。四角で囲んだ種類は、特異的なプロテインAクロマトグラフィープロセス中に共溶出する種類を示す。pH値A及びBは、約1のpH単位分だけ異なり、プロテインAに結合する種の効率的な分離が可能である。一般的には、pH A及びpH BのpH値は、それぞれ4及び3である。全図の凡例:[(A+)]は機能的なプロテインA結合部位を意味し、[(A-)]は非機能的なプロテインA結合部位を意味する。
【
図3】Fc 133のプロテインA勾配モードクロマトグラフィーのトレース(HiTrap
TM MabSelect SuRe
TMプロテインAカラム)。280nmでの吸光度対移動相の総量のプロットを実線で示す。移動相のpHと移動相に存在する溶出バッファー(B)の百分率のプロットをそれぞれ破線及び一点鎖線で示す。
【
図4A-C】プロテインA勾配モードクロマトグラフィーのトレース。280nmでの吸光度対移動相の総量のプロットを実線で示す。移動相のpHと移動相に存在する溶出バッファー(B)の百分率のプロットをそれぞれ破線及び一点鎖線で示す。
図4A:抗HER2 FAB-Fc 133(HiTrap
TM MabSelect SuRe
TMプロテインAカラム)。
図4B:抗HER2 scFv-Fc 133(HiTrap
TM MabSelect SuRe
TMプロテインAカラム)。
図4C:抗HER2 FAB(HiTrap
TM MabSelect SuRe
TMプロテインAカラム及びHiTrap
TM MabSelect
TMプロテインAカラム)。
【
図5】7の既知のヒトVHフレームワークサブクラスの各々についての代表的なアミノ酸配列。配列は、Kabat番号付けに従って整列させた。プロテインAのドメインDと相互作用するヒトVH3-23フレームワークサブクラスの位置を太字で示す。
【
図6A-I】プロテインA勾配モードクロマトグラフィーのトレース(HiTrap
TM
MabSelect SuRe
TMプロテインAカラム)。280nmでの吸光度対移動相の総量のプロットを実線で示す。移動相のpHと移動相に存在する溶出バッファー(B)の百分率のプロットをそれぞれ破線及び一点鎖線で示す。
図6A:抗HER2抗体。
図6B:抗HER2 FAB T57A。
図6C:抗HER2 FAB T57E。
図6D:抗HER2 FAB G65S。
図6E:抗HER2 FAB R66Q。
図6F:抗HER2 FAB T68V。
図6G:抗HER2 FAB Q81E。
図6H:抗HER2 FAB N82aS。
図6I:抗HER2 FAB R19G/T57A/Y59A。
【
図7】HER2抗原に対する選択した抗HER2 FABバリアントの平衡解離定数(KD)。
【
図8A-D】プロテインA勾配モードクロマトグラフィーのトレース(HiTrap
TM MabSelect SuRe
TMプロテインAカラム)。280nmでの吸光度対移動相の総量のプロットを実線で示す。移動相のpHと移動相に存在する溶出バッファー(B)の百分率のプロットをそれぞれ破線及び一点鎖線で示す。
図8A:抗HER2 scFv(G65S)-Fc 133。
図8B:抗HER2 scFv(N82aS)-Fc 133。
図8C:抗HER2 FAB(G65S)-Fc 133。
図8D:抗HER2 FAB(N82aS)-Fc 133。
【
図9A-F】これらの図はすべて、安定したヒトフレームワーク上のOKT3ヒト化に関するものである。
図9A-C:ヒトIgG1抗体としてフォーマットされたヒト化候補の概要。キメラOKT3抗体と比較したHPB-ALL染色:(-)は結合なし、(+)はより弱い結合、(++)は中程度の結合、(+++)は同程度の結合を示す。
図9D:候補から選択された抗体のDSCプロファイル。
図9E:scFv-Fc融合体としてフォーマットされたヒト化候補の概要。キメラOKT3抗体と比較したHPB-ALL染色:(-)は結合なし、(+)はより弱い結合、(++)は中程度の結合、(+++)は同程度の結合を示す。
図9F:選択されたscFv-Fc候補のDSCプロファイル。
【
図10A-B】これらの図はすべて、安定したヒトフレームワーク上のSP34ヒト化に関するものである。
図10A:ヒトIgG1抗体としてフォーマットされたヒト化候補の概要。
図10B:scFv-Fc融合タンパク質(ヒトIgG1アイソタイプのFc)としてフォーマットされたヒト化候補の概要。ヒト及びカニクイザルCD3イプシロン1-26Fc融合タンパク質についてキメラSP34抗体と比較したSPRデータ:(-)は結合なし、(+)はより弱い結合、(++)は中程度の結合、(+++)は強いが同程度ではない結合、(++++)は同程度の結合を示す。
【
図11A-J】これらの図はすべて、抗ヒトCD38抗体に関するものである。
図11A:キメラHB-7抗体とヒトCD38抗原間のSPRによって測定された抗体-抗原相互作用。CM5センサーチップをプロテインGと共有結合させ、200RUのキメラHB-7抗体を捕捉した。30μl/分の流速、125、31、7.8、3.9、1.9、1、及び0.5nMでヒトCD38タンパク質(ポリヒスチジンタグを有するヒトCD38細胞外ドメイン)をHBS-Pに注入した。
図11B:ヒト化HB-7ベストフィット(best-fit)抗体とヒトCD38抗原間のSPRによって測定された抗体-抗原相互作用。CM5センサーチップをプロテインGと共有結合させ、200RUのヒト化HB-7ベストフィット抗体を捕捉した。30μl/分の流速、50、25、12.5、6.25、及び0.39nMで、ヒトCD38タンパク質(ポリヒスチジンタグを有するヒトCD38細胞外ドメイン)をHBS-Pに注入した。
図11C:ヒト化9G7ベストフィット抗体とヒトCD38抗原間のSPRによって測定された抗体-抗原相互作用。CM5センサーチップをプロテインGと共有結合させ、200RUのヒト化9G7ベストフィット抗体を捕捉した。30μl/分の流速、25、12.5、6.25、3.12、1.56、0.78、0.39、0.19、及び0.1nMで、ヒトCD38タンパク質(ポリヒスチジンタグを有するヒトCD38細胞外ドメイン)をHBS-Pに注入した。
図11D:ヒト化9G7ベストフレームワーク(best-framework)抗体とヒトCD38抗原間のSPRによって測定された抗体-抗原相互作用。CM5センサーチップをプロテインGと共有結合させ、200RUのヒト化9G7bベストフレームワーク抗体を捕捉した。30μl/分の流速、50、25、12.5、6.25、3.12、1.56、0.78、0.39、0.19、及び0.1nMで、ヒトCD38タンパク質(ポリヒスチジンタグを有するヒトCD38細胞外ドメイン)をHBS-Pに注入した。
図11E:ヒト767抗体とヒトCD38抗原間のSPRによって測定された抗体-抗原相互作用。CM5センサーチップをプロテインGと共有結合させ、200RUのヒト767抗体を捕捉した。30μl/分の流速、500、250、125、62.5、31.25、及び15.6nMで、ヒトCD38タンパク質(ポリヒスチジンタグを有するヒトCD38細胞外ドメイン)をHBS-Pに注入した。親和性は、次の式:Req=KA
*C
*Rmax/(KA
*C
*n+1)に従って平衡応答(Req)対分析物濃度(C)のプロットから得られた。50%飽和時の濃度はKDである。すべてのSPRデータは、応答単位(RUと略記;Y軸)の数対時間(X軸)として表される。
図11F:キメラHB-7及びヒト化HB-7ベストフィット抗体のDSCプロファイル。
図11G:キメラ9G7及びヒト化9G7ベストフィット抗体のDSCプロファイル。
図11H:ヒト化9G7ベストフレームワーク抗体のDSCプロファイル。
図11I:ヒト化クローン767抗体のDSCプロファイル。
図11J:9G7ヒト化抗体の要約表。
【
図12A-C】代替フォーマットのBEAT HER2/CD3抗体の模式図。
図12A:BEAT HER2/CD3-1(フォーマットA)及びBEAT HER2/CD3-2(フォーマットB)抗体。
図12B:BEAT HER2/CD3-3(フォーマットC)及びBEAT HER2/CD3(SP34)(フォーマットD))抗体。
図12C:BEAT HER2/CD3(SP34-カッパ1)(フォーマットE)抗体。凡例:[(A+)]は機能的なプロテインA結合部位を意味する。[(A-)]は非機能的なプロテインA結合部位を意味する。
【
図13】BEAT HER2/CD3-1抗体のプロテインA精製プロファイル(280nmでの吸光度結果)。カラム:1ml MabSelect SuRe。流速:1ml/分。ランニングバッファー:0.2M NaH
2PO
4(pH6)。溶出バッファーNo1:20mM 酢酸ナトリウム(pH4)(20ml)。溶出バッファーNo2:0.1M グリシン(pH3)(20ml)。中和:1M トリス(pH8)の1/10容量。
【
図14】BEAT HER2/CD3-1抗体調製物のキャピラリー電気泳動プロファイル。
【
図15A】N82aS置換BEAT HER2/CD3-1抗体のSDS-PAGE分析。
【
図15B】N82aS非置換BEAT HER2/CD3-1抗体バリアントのSDS-PAGE分析。凡例:[(A+)]は機能的なプロテインA結合部位を意味し、[(A-)]は非機能的なプロテインA結合部位を意味する。溶出のpHを示す。
【
図16A】BEAT HER2/CD3-1抗体とヒトCD3イプシロン抗原間のSPRによって測定された抗体-抗原相互作用。CM5センサーチップを、ヒトCD3ガンマ-イプシロン-Fc融合タンパク質の7400RUと共有結合させた。10μl/分の流速、5000、2500、1250、625、312.5、及び156.25nMで、BEAT HER2/CD3-1抗体をHBS-Pに注入した。データは、応答単位(RUと略記;Y軸)の数対時間(X軸)として表される。親和性は、次の式:Req=KA
*C
*Rmax/(KA
*C
*n+1)に従って平衡応答(Req)対分析物濃度(C)のプロットから得られた。50%飽和時の濃度はKDである。
【
図16B】BEAT HER2/CD3-1抗体とヒトHER2抗原間のSPRによって測定された抗体-抗原相互作用。CM5センサーチップをプロテインGと共有結合させ、150RUのBEAT HER2/CD3-1抗体を捕捉した。30μl/分の流速、1000、333、111、37、12、4.1、1.4、0.5、及び0.15nMで、HER2-hisをHBS-Pに注入した。データは、応答単位(RUと略記;Y軸)の数対時間(X軸)として表される。
【
図16C】それぞれプロフィールA及びBに示される、BEAT HER2/CD3-1及び-2抗体のDSCプロファイル。
【
図17A-G】BEAT HER2/CD3抗体によるT細胞リダイレクトキリングの例。読み取り:RDL-MTS法エフェクター細胞:ヒトPBMC。10:1のエフェクター細胞対標的細胞比。48時間インキュベーションした3ドナーの平均。抗体濃度をnMで示す。
図17A:BEAT HER2/CD3-1及びBEAT HER2/CD3-2抗体、標的細胞:BT-474。
図17B:BEAT HER2/CD3-1及びBEAT HER2/CD3-2抗体、標的細胞:JIMT-1。
図17C:BEAT HER2/CD3-1及びBEAT HER2/CD3-2抗体、標的細胞:MDA-MB-231。
図17D:BEAT HER2/CD3(SP34)抗体、標的細胞:NCI-N87。
図17E:BEAT HER2/CD3(SP34)抗体、標的細胞:HT-1080。
図17F:BEAT HER2/CD3(SP34-カッパ1)抗体、標的細胞:NCI-N87。
図17G:BEAT HER2/CD3(SP34-カッパ1)抗体、標的細胞:HT-1080。
【
図18A-C】ヒトPBMCを補充したJIMT-1異種移植片。
図18A:ヒトPBMCは、腫瘍増殖に干渉しない。
図18B-C:BEAT HER2/CD3-1治療マウス及び非治療マウスの腫瘍体積(mm
3)、4人のヒトPBMCドナー、マウス4匹のコホート。
【
図19】BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3(フォーマットA)及びBEAT CD38-767/CD3(フォーマットB)抗体の模式図。[(A+)]は機能的なプロテインA結合部位を意味する。[(A-)]は非機能的なプロテインA結合部位を意味する。
【
図20A】BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3抗体とヒトCD38抗原間のSPRによって測定された抗体-抗原相互作用。CM5センサーチップをプロテインGと共有結合させ、200RUのBEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3抗体を捕捉した。30μl/分の流速、50、25、12.5、6.25、及び0.39nMで、ヒトCD38タンパク質(ポリヒスチジンタグ付きタンパク質)をHBS-Pに注入した。データは、応答単位(RUと略記;Y軸)の数対時間(X軸)として表される。
【
図20B】BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3抗体DSCプロファイル。
【
図21】BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3抗体によるT細胞リダイレクトキリングの例。読み取り:RDL-FACS法。エフェクター細胞:精製ヒトT細胞。10:1のエフェクター細胞対標的細胞比。48時間インキュベーションした2ドナーの平均。標的細胞:RPMI 8226。抗体濃度をnMで示す。
【
図22】BEAT CD38-767/CD3(SP34)抗体によるT細胞リダイレクトキリングの例。読み取り:RDL-FACS法。エフェクター細胞:ヒトPBMC。10:1のエフェクター細胞対標的細胞比。48時間インキュベーションした3ドナーの平均。標的細胞:Daudi。抗体濃度をnMで示す。
【
図23】BEAT OX40/CD3抗体の模式図。凡例:[(A+)]は機能的なプロテインA結合部位を意味する。[(A-)]は非機能的なプロテインA結合部位を意味する。
【
図24】BEAT OX40/CD3抗体によるT細胞リダイレクトキリングの例。読み取り:RDL-MTS法エフェクター細胞:ヒトPBMC。20:1のエフェクター細胞対標的細胞比。48時間インキュベーションした3ドナーの平均。標的細胞:安定な組換えCHO[OX40]細胞。抗体濃度をnMで示す。
【
図25】BEAT EGFR/CD3抗体の模式図。凡例:[(A+)]は機能的なプロテインA結合部位を意味する。[(A-)]は非機能的なプロテインA結合部位を意味する。
【
図26】BEAT EGFR/CD3抗体によるT細胞リダイレクトキリングの例。読み取り:RDL-MTS法エフェクター細胞:ヒトPBMC。10:1のエフェクター細胞対標的細胞比。48時間インキュベーションした4ドナーの平均。標的細胞:HT-29細胞。抗体濃度をnMで示す。
【
図27】BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3(SP34)(フォーマットA)とBEAT CD38-9G7ベストフィット/CD3(SP34-カッパ2)(フォーマットB)抗体の模式図。[(A+)]は機能的なプロテインA結合部位を意味する。
【
図28】BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3(SP34)抗体によるT細胞リダイレクトキリングの例。読み取り:RDL-FACS法。エフェクター細胞:ヒトPBMC。10:1のエフェクター細胞対標的細胞比。24時間インキュベーションした3ドナーの平均。標的細胞:Daudi細胞。抗体濃度をnMで示す。
【
図29】BEAT CD38-9G7ベストフィット/CD3(SP34-カッパ2)抗体とヒトCD3イプシロン1-26_Fc融合タンパク質間のSPRによって測定された抗体-抗原相互作用。CM5センサーチップを、ヒトCD3イプシロン1-26_Fc融合タンパク質の500RUと共有結合させた。30μl/分の流速、50、25、12.5、6.2、3.1、0.8、及び0.4nMで、BEAT CD38-9G7ベストフィット/CD3(SP34-カッパ2)抗体をHBS-Pに注入した。データは、応答単位(RUと略記;Y軸)の数対時間(X軸)として表される。
【
図30】BEAT CD38/CD3(SP34-カッパ2)抗体によるT細胞リダイレクトキリングの例。読み取り:RDL-FACS法。エフェクター細胞:ヒトPBMC。10:1のエフェクター細胞対標的細胞比。24時間インキュベーションした3ドナーの平均。標的細胞:Daudi細胞。抗体濃度をnMで示す。
【
図31】BEAT CD20/CD3(SP34)抗体の模式図。[(A+)]は機能的なプロテインA結合部位を意味する。
【
図32】BEAT CD20/CD3(SP34)抗体によるT細胞リダイレクトキリングの例。読み取り:RDL-FACS法。エフェクター細胞:ヒトPBMC。10:1のエフェクター細胞対標的細胞比。24時間インキュベーションした3ドナーの平均。標的細胞:Daudi細胞。抗体濃度をnMで示す。
【
図33】SP34キメラ及びSp34 H1L21について、IgG1からscFv-Fcへの再フォーマット後の相対的発現レベルを示す。ここで劇的な発現の喪失が観察された。
【
図34】T27、G27a、V27c、T28、T29、S30、N31、Y32、N52、K53、R54、P56、L90、Y92、S93、N94、及びL95の位置でのアラニンスキャンによるSP34 H1L21 ScFv-Fcの発現レベルに対する効果を示す。
【
図35】
図35aは、SP34 H3L23 ScFv-Fcの29位でのランダム突然変異の発現レベルに対する効果を示す;bは、SP34 H3L23 ScFv-Fcの30位でのランダム突然変異の発現レベルに対する効果を示す;cは、SP34 H5L23 ScFv-Fcの95位でのランダム突然変異の発現レベルに対する効果を示す。
【
図36】複数のヒト化SP34についての正規化された発現レベルを示す。
【
図37】複数のCD38/CD3二重特異性抗体のRDLアッセイにおける性能を示す。ここでCD3結合アームは、scFv(配列番号403)として再フォーマットされた元のマウスSP34、又は重/軽鎖組み合わせH1/L21(配列番号361)、H5/L32(配列番号311)、H5/L65(配列番号394)、及びH5/L67(配列番号396)を含む修飾ヒト化SP34のscFvを含む、
【
図38】ラージ細胞集団に対するCD3-リツキシマブBEAT二重特異性の効果を示す。
【
図39】MCF-7、HCT116、及びA549細胞集団におけるアービタックスのRDLアッセイにおける効果を示す。
【
図40】MCF-7、HCT116、及びA549細胞集団におけるCD3-アービタックスBEAT二重特異性のRDLアッセイにおける効果を示す。
【
図41】EGFR PharmDx免疫組織化学キット(英国ケンブリッジのDako)を用いて決定された細胞株のEGFR状態を示す。
【
図42】MCF-7、HCT116、及びA549細胞集団におけるベクティビックスのRDLアッセイにおける効果を示す。
【
図43】MCF-7、HCT116、及びA549細胞集団におけるCD3-ベクティビックスBEAT二重特異性抗体のRDLアッセイにおける効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0076】
本発明は、一般に、CD3タンパク質複合体及び疾患関連抗原に結合する新規のヘテロ二量体免疫グロブリンに関する。さらに、これらのヘテロ二量体免疫グロブリンは、プロテインAへの結合を低減又は排除しているため、アフィニティークロマトグラフィーを用いて非常に高い純度まで精製することができる。
【0077】
本明細書の説明のために、以下の定義を適用し、適切な場合はいつでも、単数形で用いられる用語は複数形を含み、その逆も同じである。本明細書で用いる用語は、特定の実施態様を説明するためのものであり、限定することを目的としていないことを理解すべきである。
【0078】
用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸がペプチド結合を介して結合されて、脱水合成によって一緒に連結されたアミノ酸の鎖を形成するアミノ酸残基のポリマーを指す。ポリペプチド及びタンパク質は、化学合成又は組換え発現によって合成することができ、最小アミノ酸長に限定されない。
【0079】
本発明によれば、ポリペプチド群は、タンパク質が単一のポリペプチド鎖からなる限り、「タンパク質」を含む。ポリペプチドは、例えば二量体、三量体、及びより高次のオリゴマー、すなわち一より多いポリペプチド分子からなる多量体をさらに形成することができる。そのような二量体、三量体などを形成するポリペプチド分子は、同一でも異なっていてもよい。したがって、そのような多量体の対応する高次構造は、ホモ又はヘテロ二量体、ホモ又はヘテロ三量体などと呼ばれる。ヘテロ多量体の例は、天然に存在する形態の、二の同一軽ポリペプチド鎖と二の同一重ポリペプチド鎖からなる抗体分子である。用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」はまた、天然に修飾されたポリペプチド/タンパク質を指し、この場合修飾は、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化等の翻訳後修飾によりなされる。そのような修飾は、当該技術分野でよく知られている。さらに、本発明の目的のために、「ポリペプチド」は、天然配列に対して欠失、付加、及び置換等の修飾(本質的に保存的であり得る)を含むタンパク質を指す。これらの修飾は、部位特異的突然変異誘発によるなど計画的であってもよく、又はタンパク質を生成する宿主の突然変異若しくはPCR増幅に起因するエラーによるものなど、偶発的であってもよい。
【0080】
本明細書で使用する用語「CD3複合体」は、CD3(分化クラスター3)T細胞共受容体として知られているタンパク質複合体を指す(Wucherpfennig KW et al., (2010) Cold Spring Harb Perspect Biol, 2(4): a005140)。CD3タンパク質複合体は、4の異なる鎖からなる。哺乳動物では、該複合体は、CD3y鎖、CD3δ鎖、及び二のCD3e鎖を含有する。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)として知られる分子及びz鎖と会合して、Tリンパ球に活性化シグナルを生成する(van der Merwe PA & Dushek O (2011) Nat Rev Immunol, 11(1): (47-55)。TCR、z鎖、及びCD3分子は、共にTCR複合体を構成する。CD3y、CD3δ、及びCD3e鎖は、単一の細胞外免疫グロブリンドメインを含有する免疫グロブリンスーパーファミリーの、関連性の高い細胞表面タンパク質である。CD3分子の細胞内テールは、TCRのシグナル伝達能力に不可欠な免疫受容活性化チロシンモチーフ又は略してITAMとして知られている単一の保存モチーフを含有する。CD3はT細胞活性化に必要であるため、CD3を標的とする薬物(通常はモノクローナル抗体)が免疫抑制療法として研究されてきており、今なお継続されている。
【0081】
本明細書で使用される用語「疾患関連抗原」は、疾患過程に関与する分子を指す。疾患関連抗原の例は、炎症、がん、及び自己免疫疾患など、広範囲の治療領域に見出される。腫瘍学では、疾患関連抗原は、患者集団内のがん、例えば前立腺がんにおけるEpCAM抗原のスクリーニング及び/又はモニタリング及び/又は治療標的化のために広く使用され得る分子である。腫瘍抗原は、腫瘍細胞によって直接的に生成されるか、又は腫瘍の存在への反応として非腫瘍細胞によりに生成され得、好ましい腫瘍抗原は細胞表面分子である。TNF-a及びIL-1などの炎症誘発性サイトカインを含むがこれらに限定されない炎症性疾患関連抗原が知られている。自己免疫疾患関連抗原もまた知られており、その例には、全身性紅斑性狼瘡における二本鎖DNA及びアルツハイマー病におけるアミロイドベータペプチドに対する抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書でいう用語「免疫グロブリン」は、用語「抗体」と互換的に使用することができる。免疫グロブリンは、完全長抗体及び任意の抗原結合断片又はその一本鎖を含む。免疫グロブリンは、ホモ二量体又はヘテロ二量体であり得る。免疫グロブリン、特に天然抗体は、4のポリペプチド鎖から構成されるY字型ユニットの一又は複数のコピーとして存在する糖タンパク質である。各「Y」字型は、重(H)鎖の二の同一コピーと軽(L)鎖の二の同一コピーとを含有し、それらの相対分子量によって命名される。各軽鎖は重鎖と対をなし、各重鎖はもう一つの重鎖と対をなす。共有結合鎖間ジスルフィド結合及び非共有結合相互作用は、これらの鎖をつなぎ合わせる。免疫グロブリン、特に天然抗体は、抗原結合部位の二のコピーである可変領域を含有する。タンパク質分解酵素であるパパイン(Papain)は、「Y」字型を三の別個の分子、二のいわゆる「Fab」又は「FAB」断片(Fab=抗原結合断片(fragment antigen binding))及び一のいわゆる「Fc」断片又は「Fc領域」(Fc=結晶化可能な断片)に分割する。Fab断片は、軽鎖全体及び重鎖の一部からなる。重鎖は、一の可変領域(VH)及び3又は4の定常領域(抗体クラス又はアイソタイプに応じて、CH1、CH2、CH3、及びCH4)を含有する。CH1領域とCH2領域との間の領域はヒンジ領域と呼ばれ、Y字型抗体分子の二のFabアーム間の可動性を付与し、一定の距離で隔てられた二の抗原決定基にうまく結合するように、二のアームが開閉できるようにする。本明細書でいう「ヒンジ領域」は、長さが6-62アミノ酸の配列領域であり、二の重鎖を架橋するシステイン残基を包含するIgA、IgD、及びIgGにのみ存在する。IgA、IgD、及びIgGの重鎖は、4の領域、すなわち一の可変領域(VH)及び三の定常領域(CH1-3)を各々有する。IgE及びIgMは、重鎖上に一の可変領域及び4の定常領域(CH1-4)を有する。免疫グロブリンの定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)及び補体系古典経路の第一の成分(C1q)を含む宿主組織又は因子への結合を媒介し得る。各軽鎖は、通常、一の共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結される。各軽鎖は、一の可変領域(VL)及び一の軽鎖定常領域を含有する。軽鎖定常領域は、本明細書でIGKCと称されるカッパ軽鎖定常領域であるか、又は本明細書でIGLCと称されるラムダ軽鎖定常領域である。IGKCは、本明細書ではCk又はCKと等しく使用され、同じ意味を有する。IGLCは、本明細書ではCλ又はCLと等しく使用され、同じ意味を有する。本明細書で使用する用語「IGLC領域」は、すべてのラムダ軽鎖定常領域、例えばIGLC1、IGLC2、IGLC3、IGLC6、及びIGLC7からなる群より選択されるすべてのラムダ軽鎖定常領域を指す。VH及びVL領域は、比較的保存されたフレームワーク領域(FR又はFW)という領域が点在する相補性決定領域(CDR)という超可変領域にさらに細分化され得る。各VH及びVLは、3のCDR及び4のFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端にFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置されている。重及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用するエピトープ結合領域を含有する。
操作された免疫グロブリンは、scFv、FAB又はdAb断片などの異なるエピトープ結合領域フォーマットを包含し得る。これらの断片は、通常、IgG Fc領域との遺伝的融合によって抗体様構造に組み立てられる。操作された免疫グロブリンは、ヘテロ二量体化増強技術の使用の有無にかかわらず、ホモ又はヘテロ二量体として構築することができ、単一又は二重特異性結合特性を有し得る。
【0083】
本明細書で使用される用語「完全長抗体」は、可変及び定常領域を含む、抗体の天然の生物学的形態を構成する構造を含む。例えば、ヒト及びマウスを含むほとんどの哺乳動物において、IgGクラスの完全長抗体は四量体であり、二の免疫グロブリン鎖の二の同一の対からなり、各対は一の軽鎖と一の重鎖を有し、各軽鎖は免疫グロブリン領域VLと軽鎖定常領域を含み、各重鎖は免疫グロブリン領域VH、抗体クラス又はアイソタイプに応じてCH1(Cg1)、CH2(Cg2)、CH3(Cg3)、CH4(Cg4)を含む。いくつかの哺乳動物、例えばラクダ及びラマでは、IgG抗体は、二の重鎖のみからなり、各重鎖はFc領域に結合した可変領域を含む。
【0084】
抗体は、定常領域によって遺伝子学的に決定された、アイソタイプとも呼ばれるクラスに分類される。ヒト定常軽鎖は、カッパ(CK)及びラムダ(Ck)軽鎖に分類される。重鎖は、ミュー(m)、デルタ(d)、ガンマ(g)、アルファ(a)又はイプシロン(e)に分類され、それぞれ抗体のアイソタイプをIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEと定義する。したがって、本明細書において使用される「アイソタイプ」は、定常領域の化学及び抗原特性により定義される免疫グロブリンのクラス及び/又はサブクラスのいずれかを意味する。既知のヒト免疫グロブリンアイソタイプは、IGHG1(IgG1)、IGHG2(IgG2)、IGHG3(IgG3)、IGHG4(IgG4)、IGHA1(IgA1)、IGHA2(IgA2)、IGHM(IgM)、IGHD(IgD)、及びIGHE(IgE)である。いわゆるヒト免疫グロブリン偽ガンマIGHGP遺伝子は、配列決定されているが改変されたスイッチ領域のためにタンパク質をコードしないさらなるヒト免疫グロブリン重定常領域遺伝子である(Bensmana M et al., (1988) Nucleic Acids Res, 16(7): 3108)。改変されたスイッチ領域を有するにも関わらず、ヒト免疫グロブリン偽ガンマIGHGP遺伝子は、すべての重鎖定常領域(CH1-CH3)及びヒンジについてオープンリーディングフレームを有する。その重定常領域についてのすべてのオープンリーディングフレームは、予測される構造的特徴を有するすべてのヒト免疫グロブリン定常領域と良好に整列するタンパク質領域をコードする。このさらなる偽ガンマアイソタイプは、本明細書においてIgGP又はIGHGPという。ヒト免疫グロブリン重定常領域イプシロンP1及びP2偽遺伝子(IGHEP1及びIGHEP2)などの他の偽免疫グロブリン遺伝子が、報告されている。IgGクラスは、治療目的のために最も一般的に用いられる。ヒトにおいてこのクラスは、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含む。マウスにおいてこのクラスは、サブクラスIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2c、及びIgG3を含む。
【0085】
本明細書で使用される用語「免疫グロブリン断片」には、(i)例えばCH1、CH2又はCH3領域を含む領域、(ii)Fab′及びFab′-SHを含む、VL、VH、CL又はCK及びCH1領域からなるFab断片、(ii)VH及びCH1領域からなるFd断片、(iii)単一の可変領域からなるdAb断片(Ward ES et al., (1989) Nature, 341(6242): 544-6)、(iv)二の連結されたFab断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片、(v)VH領域及びVL領域がペプチドリンカーにより連結されており、二の領域が会合して抗原結合部位を形成するのを可能にしている単鎖Fv断片(scFv)(Bird RE et al., (1988) Science, 242(4877): 423-6; Huston JS et al., (1988) Proc Natl Acad Sci U S A, 85(16): 5879-83)、(vi)遺伝子融合により構築された多価又は多重特異性断片である「ダイアボディ」又は「トリアボディ」(Holliger P et al., (1993) Proc Natl Acad Sci U S A, 90(14): 6444-8; Tomlinson I & Holliger P, (2000) Methods Enzymol, 326:461-79)、(vii)Fc領域と融合したscFv、ダイアボディ又は領域抗体、及び(viii)同じか又は異なる抗体と融合したscFvが含まれる。
【0086】
用語「可変領域」は、抗原結合を媒介し、特定の抗原に対する特定の抗体の特異性を規定する領域又はドメインを指す。天然抗体では、抗原結合部位は、特異性を規定する二の可変領域、すなわち一方は重鎖に位置するものであり(本明細書では重鎖可変領域(VH)という)、他方は軽鎖に位置するもの(本明細書では軽鎖可変領域(VL)という)からなる。ヒトにおいて、重鎖可変領域(VH)は、VH1、VH2、VH3、VH4、VH5、VH6、及びVH7の7のサブグループ又はサブクラスに分けることができる。場合によっては、特異性は、ラクダ科に見られる重鎖抗体由来の単一ドメイン抗体のように、二の領域のうちの一にのみ排他的に存在し得る。V領域は、通常約110アミノ酸長であり、7-17アミノ酸長である「超可変領域」と呼ばれる極端に可変的な短領域によって隔てられた15-30アミノ酸のフレームワーク領域(FR又は「非CDR領域」)と呼ばれるアミノ酸配列の比較的不変のストレッチからなる。天然の重及び軽鎖の可変ドメインは、主にベータシート立体配置を採る4のFRを含み、三の超可変領域により連結され、この超可変領域はループを形成する。各鎖において超可変領域は、FRによって緊密に結合され、他の鎖の超可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(上掲のKabat EAら参照)。本明細書において使用される用語「超可変領域」は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は一般に、「相補性決定領域」又は「CDR」のアミノ酸残基を含み、後者は、最も高い配列可変性を有し、かつ/又は抗原認識に関与する。すべての可変領域について、番号付けは、Kabatによる(上掲のKabat EAら)。
【0087】
複数のCDRの定義が使用されているが、これらは本明細書に包含される。Kabatの定義は配列可変性に基づいており、最も一般的に使用されている(上掲のKabat EAら)。Chothiaは、代わりに、構造ループの位置を参照する(Chothia & Lesk J. (1987) Mol Biol, 196: 901-917)。AbM定義は、KabatとChothiaの定義の折衷であり、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアで使用されている(Martin ACR et al., (1989) Proc Natl Acad Sci USA 86:9268-9272; Martin ACR et al., (1991) Methods Enzymol, 203: 121-153; Pedersen JT et al., (1992) Immunomethods, 1: 126-136; Rees AR et al., (1996) In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172)。接触定義は、最近導入されたものであり(MacCallum RM et al., (1996) J Mol Biol, 262: 732-745)、Protein Databankから入手できる利用可能な複合体構造の分析に基づく。IMGT(登録商標)、国際ImMunoGeneTics情報システム(登録商標)(http://www.imgt.org)によるCDRの定義は、すべての種のすべての免疫グロブリン及びT細胞受容体V領域についてのIMGT番号付けに基づいている(IMGT(登録商標)、国際ImMunoGeneTics情報システム(登録商標); Lefranc MP et al., (1999) Nucleic Acids Res, 27(1): 209-12; Ruiz M et al., (2000) Nucleic Acids Res, 28(1): 219-21; Lefranc MP (2001) Nucleic Acids Res, 29(1): 207-9; Lefranc MP (2003) Nucleic Acids Res, 31(1): 307-10; Lefranc MP et al., (2005) Dev Comp Immunol, 29(3): 185-203; Kaas Q et al., (2007) Briefings in Functional Genomics & Proteomics, 6(4): 253-64)。本発明でいうすべての相補性決定領域(CDR)は、好ましくは次のように定義される(上掲のKabat EAらによる番号付け):LCDR1:24-34、LCDR2:50-56、LCDR3:89-98、HCDR1:26-35、HCDR2:50-65、HCDR3:95-102。
【0088】
可変ドメインの「非CDR領域」は、フレームワーク領域(FR)として知られている。本明細書で使用するVL領域の「非CDR領域」は、アミノ酸配列:1-23(FR1)、35-49(FR2)、57-88(FR3)、及び99-107(FR4)を含む。本明細書で使用するVH領域の「非CDR領域」は、アミノ酸配列:1-25(FR1)、36-49(FR2)、66-94(FR3)、及び103-113(FR4)を含む。
【0089】
本発明のCDRは、上記の定義に基づき、次の可変ドメイン残基:LCDR1:24-36、LCDR2:46-56、LCDR3:89-97、HCDR1:26-35、HCDR2:47-65、HCDR3:93-102を有する「拡張CDR」を含み得る。これらの拡張CDRは、上掲のKabatらにより同様に番号付けされる。本明細書で使用するVL領域の「非拡張CDR領域」は、アミノ酸配列:1-23(FR1)、37-45(FR2)、57-88(FR3)、及び98-およそ107(FR4)を含む。本明細書で使用するVH領域の「非拡張CDR領域」は、アミノ酸配列:1-25(FR1)、37-46(FR2)、66-92(FR3)、及び103-およそ113(FR4)を含む。
【0090】
本明細書で使用する用語「Fab」若しくは「FAB」又は「Fab領域」若しくは「FAB領域」には、VH、CH1、VL、及び軽鎖定常免疫グロブリン領域を含むポリペプチドが含まれる。Fabは、この領域単独を指すか、又は完全長抗体若しくは抗体断片におけるこの領域を指す。
【0091】
用語「Fc」又は「Fc領域」は、本明細書で用いる場合、抗体重鎖の定常領域を含むポリペプチドを含むが、第一の定常領域免疫グロブリン領域は除く。したがって、Fcは、IgA、IgD、及びIgGの最後の二の定常領域免疫グロブリン領域、又はIgE及びIgMの最後の三の定常領域免疫グロブリン領域、及びこれらの領域に対してN末端側の可撓性ヒンジを指す。IgA及びIgMの場合、Fcは、J鎖を含み得る。IgGの場合、Fcは、免疫グロブリン領域Cガンマ2及びCガンマ3(Cy2及びCy3)並びにCガンマ1(Cyl)とCガンマ2(Cy2)との間のヒンジを含む。Fc領域の境界は変化し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、そのカルボキシル末端に対する残基C226又はP230を含むように通常定義され、この場合の番号付けはEUインデックスによる。Fcは、この領域単独を指すか、又はFcポリペプチド(例えば抗体)におけるこの領域を指す。
【0092】
本明細書で用いる用語「免疫グロブリン定常領域」は、ヒト又は動物種由来の免疫グロブリン又は抗体重鎖定常領域を指し、またすべてのアイソタイプを包含する。好ましくは、免疫グロブリン定常領域は、ヒト由来であり、限定されないが、IGHG1 CH1、IGHG2 CH1、IGHG3 CH1、IGHG4 CH1、IGHA1 CH1、IGHA2 CH1、IGHE CH1、IGHEP1 CH1、IGHM CH1、IGHD CH1、IGHGP CH1、IGHG1 CH2、IGHG2 CH2、IGHG3 CH2、IGHG4 CH2、IGHA1 CH2、IGHA2 CH2、IGHE CH2、IGHEP1 CH2、IGHM CH2、IGHD CH2、IGHGP CH2、IGHG1 CH3、IGHG2 CH3、IGHG3 CH3、IGHG4 CH3、IGHA1 CH3、IGHA2 CH3、IGHE CH3、IGHEP1 CH3、IGHM CH3、IGHD CH3、IGHGP CH3、IGHE CH4、及びIGHM CH4からなる群より選択される。好ましい「免疫グロブリン定常領域」は、ヒトのIGHE CH2、IGHM CH2、IGHG1 CH3、IGHG2 CH3、IGHG3 CH3、IGHG4 CH3、IGHA1 CH3、IGHA2 CH3、IGHE CH3、IGHM CH3、IGHD CH3、及びIGHGP CH3からなる群より選択される。より好ましい「免疫グロブリン定常領域」は、ヒトのIGHG1 CH3、IGHG2 CH3、IGHG3 CH3、IGHG4 CH3、IGHA1 CH3、IGHA2 CH3、IGHE CH3、IGHM CH3、IGHD CH3、及びIGHGP CH3からなる群より選択される。
【0093】
用語「エピトープ結合領域」は、一又は複数のエピトープへの免疫グロブリン分子の特異的結合を可能にする最低限のアミノ酸配列を有するポリペプチド又はその断片を含む。天然抗体は、抗原結合部位又はパラトープとしても知られている、二のエピトープ結合領域を有する。天然抗体中のエピトープ結合領域は、VH及び/又はVLドメインのCDR領域内に限られ、そこでアミノ酸媒介性のエピトープ結合が見出される。天然抗体の他に、合成VHドメイン若しくはVLドメイン又はそれらの断片及びそれらの組み合わせを操作して、エピトープ結合領域を提供することができる(Holt LJ et al., (2003) Trends Biotechnol, 21(11): 484-490; Polonelli Let al., (2008) PLoS ONE, 3(6): e2371)。非免疫グロブリンに基づくエピトープ結合領域の例は、エピトープ結合領域を操作するための「スカフォールド」として用いられる合成タンパク質ドメイン(Binz HKet al., (2005) Nat Biotechnol, 23(10): 1257-1268)又はペプチド模倣体(Murali R & Greene MI (2012) Pharmaceuticals, 5(2): 209-235)に見出すことができる。好ましくは、用語「エピトープ結合領域」は、一又は複数のエピトープへの免疫グロブリン分子の特異的結合を可能にする結合部位を共に形成する、一又は複数の重鎖可変ドメインと一又は複数の相補的な軽鎖可変ドメインとの組み合わせを含む。本発明に示されるエピトープ結合領域の例は、scFv及びFABを含む。
【0094】
本明細書で使用する場合、用語「エピトープ」は、動物において、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトにおいて抗原性又は免疫原性活性を有するポリペプチド又はタンパク質又は非タンパク質分子の断片を含む。免疫原性活性を有するエピトープは、動物において抗体応答を誘発するポリペプチド又はタンパク質の断片である。免疫原性活性を有するエピトープは、当業者にとって周知の任意の方法、例えばイムノアッセイにより決定されるような、抗体又はポリペプチドが特異的に結合するポリペプチド又はタンパク質の断片である。抗原性エピトープは、必ずしも免疫原性である必要はない。好ましくは、本明細書で用いる用語「エピトープ」は、少なくとも約3から5個、好ましくは約5から10個又は15個であって約1000個以下(又はその間の任意の整数)のアミノ酸のポリペプチド配列を指し、それだけで又はより長い配列の一部として、かかる配列に応答して生成された抗体に結合する配列を定義する。断片の長さについて上限臨界値は存在せず、ほぼ完全長のタンパク質配列、又は一若しくは複数のエピトープを含む融合タンパク質さえも含み得る。主題発明における使用のためのエピトープは、由来元の親タンパク質の部分配列と完全に一致する配列を有するポリペプチドに限定されない。したがって、用語「エピトープ」は、天然配列と同一の配列の他、天然配列に対する修飾、例えば欠失、付加、及び置換(一般的に天然では保存的)を包含する。タンパク質抗原のエピトープは、その構造及びエピトープ結合部位との相互作用に基づき、立体構造エピトープ(conformational epitope)と直線状エピトープ(linear epitope)の二のカテゴリーに分けられる(Goldsby R et al., (2003) “Antigens (Chapter 3)” Immunology (Fifth edition ed.), New York: W. H. Freeman and Company. pp. 57-75, ISBN 0-7167-4947-5)。立体構造エピトープは、抗原のアミノ酸配列の不連続なセクションから構成される。このエピトープは、抗原の3D表面特性及び形状又は三次構造に基づき、パラトープと相互作用する。ほとんどのエピトープは、立体構造エピトープである。対照的に、直線状エピトープは、その一次構造に基づき、パラトープと相互作用する。直線状エピトープは、抗原由来の連続的なアミノ酸配列により形成される。
【0095】
本明細書で用いる用語「ヘテロ二量体免疫グロブリン」又は「ヘテロ二量体断片」又は「ヘテロ二量体」又は「重鎖のヘテロ二量体」は、第一及び第二の領域のような少なくとも第一及び第二のポリペプチドを含む免疫グロブリン分子又はその部分を含み、この場合第二のポリペプチドは第一のポリペプチドとアミノ酸配列が異なる。好ましくは、ヘテロ二量体免疫グロブリンは、二のポリペプチド鎖を含み、第一の鎖は第二の鎖と少なくとも一の非同一領域を有し、両方の鎖はそれらの非同一領域を介して会合、すなわち相互作用する。より好ましくは、ヘテロ二量体免疫グロブリンは、少なくとも二の異なるリガンド、抗原又は結合部位に対して結合特異性を有する、すなわち二重特異性である。本明細書で用いるヘテロ二量体免疫グロブリンは、限定されないが、完全長二重特異性抗体、二重特異性Fab、二重特異性F(ab’)2、Fc領域と融合した二重特異性scFv、Fc領域と融合したダイアボディ、及びFc領域と融合したドメイン抗体を含む。
【0096】
本明細書で用いる用語「ホモ二量体免疫グロブリン」又は「ホモ二量体断片」又は「ホモ二量体」又は「重鎖のホモ二量体」は、第一及び第二の領域のような少なくとも第一及び第二のポリペプチドを含む免疫グロブリン分子又はその部分を含み、この場合第二のポリペプチドは第一のポリペプチドとアミノ酸配列が同一である。好ましくは、ホモ二量体免疫グロブリンは、二のポリペプチド鎖を含み、第一の鎖は第二の鎖と少なくとも一の同一領域を有し、両方の鎖はそれらの同一領域を介して会合、すなわち相互作用する。好ましくは、ホモ二量体免疫グロブリン断片は、少なくとも二の領域を含み、第一の領域は、第二の領域と同一であり、また両方の領域は、そのタンパク質-タンパク質界面を介して会合、すなわち相互作用する。
【0097】
本発明に含まれるすべての免疫グロブリン定常領域に関して、番号付けは、IMGT(登録商標)(上掲のIMGT(登録商標))に従って行うことができる。
【0098】
IGHG1、IGHG2、IGHG3、及びIGHG4からなる群より選択されるすべてのヒトCH1、CH2、CH3免疫グロブリン重鎖定常領域に関して、番号付けは、「EU番号付けシステム」(Edelman GM et al., (1969) Proc Natl Acad Sci USA, 63(1): 78-85)に従って行うことができる。IGHG1のヒトCH1、ヒンジ、CH2、及びCH3定常領域の完全な対応は、IMGTデータベース(上掲のIMGT(登録商標))に見出すことができる。
【0099】
ヒトカッパ免疫グロブリン軽鎖定常領域(IGKC)に関して、番号付けは、「EU番号付けシステム」(上掲のEdelman GMら)に従って行うことができる。ヒトCK領域の完全な対応は、IMGTデータベース(上掲のIMGT(登録商標))に見出すことができる。
【0100】
ヒトラムダ免疫グロブリン軽鎖定常領域(IGLC1、IGLC2、IGLC3、IGLC6、及びIGLC7)に関して、番号付けは、「Kabat番号付けシステム」(上掲のKabat EAら)に従って行うことができる。ヒトIGLC領域の完全な対応は、IMGTデータベース(上掲のIMGT(登録商標))に見出すことができる。
【0101】
本明細書でいうヒトIGHG1免疫グロブリン重鎖定常領域は、次の領域境界を有する:CH1領域(EU番号付け:118-215)、ヒンジy1領域(EU番号付け:216-230)、CH2領域(EU番号付け:231-340)、及びCH3領域(EU番号付け:341-447)。本明細書でいうヒトCK領域は、残基108から214(EU番号付け)に及ぶ。本明細書でいうヒトIGLC1、IGLC2、IGLC3、IGLC6、及びIGLC7領域は、残基108-215(Kabat番号付け)に及ぶ。
【0102】
本明細書で用いる用語「アミノ酸」又は「アミノ酸残基」は、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸を含む。好ましくは、天然アミノ酸が含まれる。
【0103】
本明細書における用語「修飾」又は「アミノ酸修飾」は、ポリペプチド配列内のアミノ酸置換、挿入、及び/又は欠失を含む。本明細書で用いる用語「置換」又は「アミノ酸置換」又は「アミノ酸残基置換」は、アミノ酸配列内の第一のアミノ酸残基の第二のアミノ酸残基での置換を指し、この場合、第一のアミノ酸残基は第二のアミノ酸残基とは異なる(すなわち置換アミノ酸残基は置換されたアミノ酸とは異なる)。例えば、置換R94Kは、94位のアルギニンがリジンで置換されているバリアントポリペプチドを意味する。例えば、94Kは、94位のリジンでの置換を表す。本明細書の場合、多重置換は、スラッシュ又は読点により通常区別される。例えば、「R94K/L78V」又は「R94K、L78V」は、置換R94KとL78Vとを含む二重バリアントを指す。本明細書で用いる「アミノ酸挿入」又は「挿入」とは、親ポリペプチド配列内の特定の位置でのアミノ酸の付加を意味する。例えば、挿入-94は、94位における挿入を表す。本明細書で用いる「アミノ酸欠失」又は「欠失」とは、親ポリペプチド配列内の特定の位置でのアミノ酸の除去を意味する。例えば、R94-は、94位におけるアルギニンの欠失を表す。
【0104】
特定の実施態様において、プロテインAへの結合が「減少する」、「低下する」又はその「低下」という用語は、親、すなわち非修飾免疫グロブリン又は野生型IgG、又は野生型ヒトIgGのFc領域を有するIgGと比較して、標準的な技術の既知の方法(例えば本明細書に記載の方法)により検出される修飾免疫グロブリン又はその断片のプロテインAへの結合が全体として少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、97%又は99%、最大100%(排除)減少することを意味する。ある特定の実施態様において、これらの用語は、代わりに10倍(すなわち1log)、100倍(2log)、1000倍(すなわち3log)、10000倍(すなわち4log)又は100000倍(すなわち5log)の全体的な減少を意味し得る。
【0105】
プロテインAへの結合を「排除する」、「取り除く」、その「排除」又は「除去」という用語は、親、すなわち非修飾免疫グロブリン又は野生型IgG、又は野生型ヒトIgGのFc領域を有するIgGと比較して、標準的な技術の既知の方法(例えば本明細書に記載の方法)により検出される修飾免疫グロブリン又はその断片のプロテインAへの結合が全体として100%減少することを意味する。
【0106】
同様に、アフィニティー試薬への結合が「減少する」、「低下する」又はその「低下」という用語は、親、すなわち非修飾免疫グロブリン又は野生型IgG、又は野生型ヒトIgGのFc領域を有するIgGと比較して、標準的な技術の既知の方法(例えば本明細書に記載の方法)により検出される修飾免疫グロブリン又はその断片のアフィニティー試薬への結合が全体として少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、97%又は99%、最大100%(排除)減少することを意味する。ある特定の実施態様において、これらの用語は、代わりに10倍(すなわち1log)、100倍(2log)、1000倍(すなわち3log)、10000倍(すなわち4log)又は100000倍(すなわち5log)の全体的な減少を意味し得る。
【0107】
アフィニティー試薬への結合を「排除する」、「取り除く」、その「排除」又は「除去」という用語は、親、すなわち非修飾免疫グロブリン又は野生型IgG、又は野生型ヒトIgGのFc領域を有するIgGと比較して、標準的な技術の既知の方法(例えば本明細書に記載の方法)により検出される修飾免疫グロブリン又はその断片のアフィニティー試薬への結合が全体として100%減少することを意味する。
【0108】
「二重特異性抗体」は、少なくとも二の異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある特定の実施態様では、二重特異性抗体は、親抗体と比較して、VH領域内に一又は複数のアミノ酸修飾を有する二重特異性抗体である。特定の実施態様において、二重特異性抗体は、ヒト又はヒト化抗体であり得る。二重特異性抗体はまた、標的抗原を発現する細胞に細胞傷害性剤を局在化させるためにも用いられ得る。このような抗体は、標的抗原結合アームと、細胞傷害性剤(例えばサポリン、抗インターフェロン-a、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサート又は放射性同位体ハプテン等)に結合するアームとを有する。二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片として調製することができる。二重特異性抗体を作製するための方法は、当該技術分野で知られている。従来、二重特異性抗体の組換え製造は、二対の免疫グロブリン重鎖-軽鎖の共発現に基づき、この場合二の重鎖は異なる特異性を有する(Milstein and Cuello, (1983) Nature, 305: 537-40)。免疫グロブリン重及び軽鎖がランダムな取り合わせゆえに、そのハイブリドーマ(クアドローマ)は、異なる抗体分子の混合物を生成する可能性があり、そのうちの一のみが正しい二重特異性構造を有する。アフィニティークロマトグラフィー工程により通常行われる正しい分子の精製は面倒であり、生成物収率は低い。類似の手順が、国際公開第93/08829号及びTrauneckerらの(1991) EMBO J, 10: 3655-9に開示されている。異なるアプローチ法では、所望の結合特異性を有する抗体可変領域(抗体-抗原結合部位)が免疫グロブリン定常領域配列と融合している。融合は例えば、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常領域とである。特定の実施態様において、軽鎖結合に必要な部位を含有する第一の重鎖定常領域(CH1)が、少なくとも一の融合体中に存在する。免疫グロブリン重鎖融合体及び(所望の場合には)免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAは、異なる発現ベクターに挿入され、適する宿主生物内にコトランスフェクトされる。こうすれば、構築で用いられる三のポリペプチド鎖の比が等しくなく、そのような比が最適な収率を実現するような実施態様においては、三のポリペプチド断片の相互の割合を調整する際に柔軟性が得られる。しかし、少なくとも二のポリペプチド鎖が等しい比率で発現することで収率が高くなるとき、又はその比率が特に重要性を持たないときは、二又は三すべてのポリペプチド鎖のコード配列を一の発現ベクターに挿入することが可能である。
【0109】
二重特異性抗体は、架橋又は「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートにおける抗体の一方はアビジンに、他方はビオチンに結合され得る。そのような抗体は、例えば、望ましくない細胞に対する免疫系細胞を標的とするために(米国特許第4676980号)、またHIV感染症の治療用に(国際公開第1991/00360号、国際公開第1992/00373号、及びEP第03089号)提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の好都合な架橋方法を使用して作製され得る。好適な架橋剤は、いくつかの架橋法と共に当該技術分野において周知である(米国特許第4676980号を参照)。二価より多い抗体も企図されている。例えば、三重特異性抗体を調製することできる(Tutt A et al. (1991) J. Immunol. 147: 60-9を参照)。
【0110】
いくつかの実施態様では、本開示は、二重特異性ヘテロ二量体免疫グロブリン若しくはその断片、又はCD3と、腫瘍抗原、サイトカイン、血管増殖因子、及びリンパ脈管新生増殖因子(lympho-angiogenic growth factor)の群内より選択される疾患関連抗原とに結合する二重特異性完全長抗体を提供する。好ましくは、二重特異性ヘテロ二量体免疫グロブリン若しくはその断片又は二重特異性抗体は、CD3と、CCR3、CCR6、CRTH2、PDL1、BLUT1、PirB、CD33、TROP2、CD105、GD2、GD3、CEA、VEGFR1、VEGFR2、NCAM、CD133、CD123、ADAM17、MCSP、PSCA、FOLR1、CD19、CD20、CD38、EpCAM、HER2、HER3、EGFR、PSMA、IgE、インテグリンa4b1、CCR5、ルイスY、FAP、MUC-1、Wue-1、MSP、EGFRvIII、P-糖タンパク質、AFP、ALK、BAGEタンパク質、CD30、CD40、CTLA4、ErbB3、ErbB4、メソセリン、OX40、CA125、CAIX、CD66e、cMet、EphA2、HGF/SF、MUC1、ホスファチジルセリン、TAG-72、PBG、B-カテニン、brc-abl、BRCA1、BORIS、CA9、カスパーゼ-8、CDK4、Cyclin-B1、CYP1B1、ETV6-AML、Fra-1、FOLR1、GAGE-1、GAGE-2、GloboH、グリピカン-3、GM3、gp100、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、LMP2、MAGE1、MAGE2、MAGE3、MAGE4、MAGE6、MAGE12、MART-1、ML-IAP、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、Muc16、MUM1、NA17、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR-85、NY-ESO1、p15、p53、PAP、PAX3 PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、RAGEタンパク質、Ras、RGS5、Rho、SART-1、SART-3、Steap-1、Steap-2、サバイビン、TAG-72、TGF-B、TMPRSS2、Tn、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、ウロプラキン-3、PSMA.からなる群より選択される疾患関連抗原とに結合する。好ましくは、二重特異性ヘテロ二量体免疫グロブリン若しくはその断片又は二重特異性抗体は、CD3とHER2、又はCD3とCD38、又はCD3とOX40、又はCD3とCD19、又はCD3とCD20、又はCD3とErbitux、又はCD3とVectibixとに結合する。
【0111】
プロテインA:プロテインAは、いくつかの系統の黄色ブドウ球菌により産生される細胞壁成分であり、単一のポリペプチド鎖から構成される。プロテインA遺伝子産物は、病原体の細胞壁と縦列に並んで連結した5の相同的リピート(homologous repeat)から構成される。5のドメインは、長さ約58のアミノ酸であり、EDABCで表され、各々は免疫グロブリン結合活性を示す(Tashiro M & Montelione GT (1995) Curr. Opin. Struct. Biol., 5(4): 471-481)。5の相同的免疫グロブリン結合ドメインは、3ヘリックス束状に折り畳まれている。各ドメインは、多くの哺乳動物種由来のタンパク質、とりわけIgGに結合することができる(Hober S et al., (2007) J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci., 848(1): 40-47)。プロテインAは、Fc領域内でほとんどの免疫グロブリンの重鎖に結合するだけでなく、ヒトVH3ファミリーの場合にはFab領域内でも結合する(Jansson B et al, (1998) FEMS Immunol. Med. Microbiol., 20(1): 69-78)。プロテインAは、ヒト、マウス、ウサギ、及びモルモットを含む様々な種に由来するIgGに結合するが、ヒトIgG3には結合しない(上掲のHober Sら(2007))。ヒトIgG3がプロテインAに結合できないのは、ヒトIgG3のFc領域内のH435R及びY436F置換により説明可能である(EU番号付け、Jendeberg et al., (1997) J. Immunol. Methods, 201(1): 25-34)。プロテインAは、IgGの他に、IgM及びIgAとも相互作用する。
【0112】
ヒトVHサブクラスの中でも、VH3は、プロテインAに結合する唯一のサブクラスであり(Graille M et al., (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97(10): 5399-5404)、プロテインAの5のドメインはすべて、この可変ドメインサブクラスに結合することが知られている(Jansson B et al, (1998) FEMS Immunol. Med. Microbiol., 20(1): 69-78.)。VH3ベースの免疫グロブリン又はその断片は、バイオテクノロジー産業にとって多大な重要性を有する。VH3ベースの分子がプロテインAに結合する能力は該分子の機能的な事前スクリーニングをし易くするので、VH3ベースの分子は幅広く開発されており、したがって抗体探索のために用いられる多くの合成若しくはドナーベースのファージディスプレイライブラリー又はトランスジェニック動物技術は、VH3サブクラスに基づく。さらに、VH3ベースの分子は、他の既知の重鎖可変ドメインサブクラスよりも良好な発現及び安定性のためにしばしば選択される。
【0113】
そのように高い親和性で抗体に結合するプロテインAの能力は、バイオ医薬品においてそれを工業的規模で使用する強い動機付けとなる。バイオ医薬品における抗体の製造のために使用されるプロテインAは、大腸菌内での組換えにより通常製造され、天然のプロテインAと実質的に同様に機能する(Liu HFet al., (2010) MAbs, 2(5): 480-499)。
最も一般的には、組換えプロテインAは、抗体精製用の固定相クロマトグラフィー樹脂に結合される。最適な結合はpH8.2で生ずるが、中性又は生理学的状態(pH7.0-7.6)においても結合は良好である。溶出は、酸性pH(グリシン-HCl、pH2.5-3.0)に対してpHを変化させることにより通常達成される。この溶出法は、タンパク質構造に永久的な影響を及ぼすことなく、ほとんどのタンパク質-タンパク質及び抗体-抗原結合相互作用を効率的に解離させる。それにもかかわらず、一部の抗体及びタンパク質は、低pHにより損傷を受けることもあり、低pH条件に置かれる時間を最低限に抑えるために、回収直後に1/10容量のアルカリ性バッファー、例えば1Mトリス-HCl、pH8.0を添加することにより中和するのが最善である。
【0114】
様々なプロテインAクロマトグラフィー樹脂が市販されている。このような媒体間の主な差異は、支持マトリックスのタイプ、プロテインAのリガンド修飾、ポアサイズ、及び粒子サイズである。このような因子の差異は、吸着剤の圧縮性、化学的及び物理的ロバスト性、拡散抵抗、及び結合能力の差異の原因となる(上掲のHober Sら(2007))。プロテインAクロマトグラフィー樹脂の例は、実施例で用いられている、GE HealthcareのMabSelect SuReTMプロテインA樹脂及びMabSelectTMプロテインA樹脂を含む(但しこれらに限定されない)。
【0115】
用語「クロマトグラフィー」は、タンパク質液体クロマトグラフィーを指し、タンパク質の混合物を分析又は精製するのに多くの場合用いられる液体クロマトグラフィーの形態の高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)を含む。その他の形態のクロマトグラフィーと同様に、分離は、混合物の異なる成分が二の物質、多孔性の固体(固定相)とそれを通過する移動流体(移動相)に対して異なる親和性を有するので、可能である。FPLCでは、移動相は、水溶液又は「バッファー」である。バッファーの流速は、自然流下で操作可能であるか、又は一定速度に通常保たれる容量型ポンプにより制御可能であり、一方バッファーの組成は、二以上の外部リザーバーから異なる割合で液体を出すことにより変えることができる。固定相は、ビーズから、通常は架橋アガロースから構成される樹脂であり、円筒形のガラス又はプラスチック製のカラムに充填される。FPLC樹脂は、用途に応じて、幅広い範囲のビーズサイズ及び表面リガンドが利用可能である。
【0116】
「アフィニティークロマトグラフィー」のプロセスは、固定相に架橋していて、かつ特定の分子又は分子のクラスに対して結合親和性を有するリガンドであるアフィニティー試薬の使用を伴う。リガンドは、タンパク質リガンドのような生体分子か又は合成分子であり得る。いずれの種類のリガンドも、良好な特異性を有する傾向がある。製造において最も一般的に用いられるタンパク質リガンドは、アフィニティー試薬のプロテインAである。アフィニティークロマトグラフィーでは、溶液(例えば目的のタンパク質を含有する粗製細胞上清)をカラム上に充填すると、標的タンパク質は通常吸着される一方で、汚染物質(その他のタンパク質、脂質、炭水化物、DNA、色素等)はカラムを通過することができる。吸着剤自体はクロマトグラフィーカラムに通常充填されるが、吸着段階は、バッチ結合モードで撹拌したスラリーとして吸着剤を用いることにより実施可能である。吸着後の次の段階は洗浄段階であり、この段階では、残留汚染物質を除去するために吸着剤を洗浄する。次いで、結合したタンパク質を半純粋又は純粋な形態で溶出する。溶出は、タンパク質が固定リガンドともはや相互作用できず、遊離するように、バッファー又は塩組成を変更することにより通常達成される。いくつかの例では、目的のタンパク質はアフィニティー樹脂に結合しないこともあり得、アフィニティークロマトグラフィーは望ましくない汚染物質を結合させることに向けられる。そのため、非結合画分を回収して目的のタンパク質を単離する。アフィニティークロマトグラフィーは、固定床又は流動床内でも実施可能である。
【0117】
用語「勾配モードクロマトグラフィー」は、「溶出」バッファー(バッファーB)の割合が漸進的又は段階的に0%から100%増加するクロマトグラフィー法を指す。
【0118】
用語「捕捉溶出モード(capture-elution mode)クロマトグラフィー」又は「捕捉溶出精製モード」又は「捕捉溶出精製」は、「溶出」バッファー(バッファーB)の割合が漸進的又は段階的に0%から100%増加するのではなく、捕捉後に100%でそのまま適用され、任意選択的にランニングバッファー(バッファーA)による洗浄工程を伴うクロマトグラフィー法を指す。
【0119】
CD3を標的とするヘテロ二量体免疫グロブリンの開発
本発明は、上記のような重及び軽鎖CDRを含み、かつヒト遺伝子IGHV3-23*04(配列番号22)の産物であるか又はこれに由来する重鎖可変フレームワーク領域をさらに含むCD3タンパク質複合体に結合するエピトープ結合領域を提供する。重鎖可変フレームワーク領域は、配列番号18のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体OKT3の重鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。好ましくは、アミノ酸修飾は、アミノ酸置換である。一般的に、7以下、好ましくは6以下、好ましくは5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、なお一層好ましくは2以下、最も好ましくは1以下のアミノ酸修飾が、フレームワーク領域内で実施される。いくつかの実施態様において、本開示は、CD3タンパク質複合体と結合するエピトープ結合領域を提供するが、この場合重鎖可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸修飾は34、48、49、58、69、71、及び73からなる群より選択されるアミノ酸位置にアミノ酸置換を含み、各群メンバーのアミノ酸位置はKabat番号付けに基づいて示される。好ましくは、重鎖可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸置換は、I34M、V48I、A49G、R58N、R58Y、I69L、A71T、及びT73Kからなる群より選択される。重鎖可変領域のフレームワーク領域の好ましいアミノ酸置換は、34、49、及び71からなる群より選択されるアミノ酸位置にある。重鎖可変領域のフレームワーク領域のより好ましいアミノ酸置換は、I34M、A49G、及びA71Tからなる群より選択される。
【0120】
さらなる態様において、CD3タンパク質複合体に結合する第一のポリペプチドのエピトープ結合領域は、IGKV1-39*01(配列番号23)及びIGKV3-20*01(配列番号24)からなる群より選択されるヒト遺伝子の産物であるか又はこれに由来する軽鎖可変フレームワーク領域を含む。軽鎖可変フレームワーク領域は、配列番号19のアミノ酸配列を含む、対応するマウス抗体OKT3の軽鎖可変領域の対応するフレームワーク領域からの少なくとも一のアミノ酸修飾を含む。好ましくは、アミノ酸修飾は、アミノ酸置換である。一般的に、8以下、好ましくは7以下、好ましくは6以下、好ましくは5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、なお一層好ましくは2以下、最も好ましくは1以下のアミノ酸修飾が、フレームワーク領域内で実施される。いくつかの実施態様において、本開示は、CD3タンパク質複合体と結合するエピトープ結合領域を提供するが、この場合軽鎖可変領域配列のフレームワーク領域のアミノ酸修飾は4、33、34、46、47、66、71、及び96からなる群より選択されるアミノ酸位置にアミノ酸置換を含む。好ましくは、軽鎖可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸置換は、M4L、V33M、A34N、L46R、L47W、R66G、F71Y、及びP96Fからなる群より選択される。軽鎖可変領域のフレームワーク領域の好ましいアミノ酸置換は、4、46、及び47からなる群より選択されるアミノ酸位置にある。軽鎖可変領域のフレームワーク領域のより好ましいアミノ酸置換は、M4L、L46R、L47W、及びF71Y.からなる群より選択される。いくつかの実施態様において、CD3タンパク質複合体と結合する第一のポリペプチドのエピトープ結合領域は、上記のような重鎖可変領域配列のフレームワーク領域のアミノ酸修飾、及び上記のような軽鎖可変領域配列のフレームワーク領域のアミノ酸修飾を含み得る。
【0121】
本開示はまた、配列番号27から38、64-68、及び359からなる群より選択され、好ましくは配列番号359からなる選択される重鎖配列を含むCD3タンパク質複合体に結合する抗体又はその断片も提供する。本開示はまた、配列番号39から47、69から90、360、399、及び400からなる、好ましくは配列番号360からなる群より選択される軽鎖配列を含むCD3タンパク質複合体に結合する抗体又はその断片も提供する。
【0122】
このような重及び軽鎖可変領域配列の各々がCD3タンパク質複合体に結合可能であることを踏まえれば、重及び軽鎖可変領域配列を「混合してマッチさせ」て、本発明の抗CD3結合分子を作り出すことができる。かかる「混合してマッチさせ」た抗体のCD3結合は、例えば実施例に記載のような結合アッセイを用いて試験可能である。
【0123】
ホモ二量体形成よりもヘテロ二量体形成を促進する免疫グロブリン定常領域の操作
ヘテロ二量体免疫グロブリンを製造する方法は、当該技術分野において知られており、最も単純な方法の一つは、単一細胞内での二の異なる免疫グロブリン鎖の発現を利用することである(国際公開第95/33844号、Lindhofer H & Thierfelder S)。操作を用いないこの単純な方法は、目的のヘテロ二量体よりもホモ二量体種が形成されることにより制限される(Kufer P et al., (2004) Trends Biotechnol., 22(5): 238-244)。重鎖のヘテロ二量化を強化する補完的な技術(Merchant AM et al., (1998) Nat. Biotechnol., 16(7): 677-681)を用いると、より多くのヘテロ二量体の製造が実現し得るが、なおも相当量の望ましくないホモ二量体の製造を引き起こす(Jackman J et al., (2010) J Biol Chem., 285(27):20850-9, Klein C et al., (2012) MAbs, 4(6):653-63)。それゆえ本発明は、BEAT(登録商標)法に記載されている方法を利用するが(PCT公開番号:国際公開第2012/131555号)、同方法は先行技術の方法よりも優れたヘテロ二量体化を示すバイオミミクリーという独自の概念に基づく。BEAT法は、天然ホモ又はヘテロ二量体免疫グロブリンドメイン対間の界面交換に基づき、Fcベースの二重特異性抗体の構成要素として利用可能な新規のヘテロ二量体を作り出す。
【0124】
一態様において、本発明は、第一及び第二のポリペプチドを含むヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片を提供するが、その第一及び第二のポリペプチドはタンパク質-タンパク質界面を有する修飾CH3ドメインを持つ操作された免疫グロブリン定常領域を含み、この場合第一のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は、3、5、7、20、22、26、27、79、81、84、84.2、85.1、86、88、及び90(IMGT(登録商標)番号付け)からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を含み、この場合第二のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は84.4位に、並びに3、5、7、20、22、26、27、79、81、84、84.2、85.1、86、88、及び90(IMGT(登録商標)番号付け)からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を含む。
【0125】
さらなる実施態様において、本発明は、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片を提供するが、その第一及び第二のポリペプチドはタンパク質-タンパク質界面を有する修飾CH3ドメインを持つ、操作された免疫グロブリン定常領域を含み、この場合第一のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は88位に、並びに3、5、7、20、22、26、27、79、81、84、84.2、85.1、86、及び90(IMGT(登録商標)番号付け)からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を含み、この場合第二のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は85.1位及び/又は86位に、並びに3、5、7、20、22、26、27、79、81、84、84.2、84.4、88、及び90(IMGT(登録商標)番号付け)からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を含み、この場合第一の操作された免疫グロブリン定常領域の88位で置換されるアミノ酸残基は、第二の操作された免疫グロブリン定常領域の85.1位及び/又は86位で置換されるアミノ酸残基と相互作用しており、ここで各群メンバーのアミノ酸位置はIMGT(登録商標)番号付けに従って示される。
【0126】
好ましくは、第一の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で88位において置換されるアミノ酸残基は、88W及びその保存的なアミノ酸置換であり、ここでアミノ酸位置はIMGT(登録商標)番号付けに従って示される。より好ましくは、第一の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で88位において置換されるアミノ酸残基は、88Wであり、この場合第一の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるさらなるアミノ酸残基は3A、20V、20T、20A、20N、20Q、20E、20S、20K、20W、22A、22G、22T、22L、22I、22V、26R、26Q、26T、26K、26V、26S、26N、26E、79Y、85.1T、85.1M、85.1A、85.1S、85.1R、85.1H、85.1K、85.1F、85.1C、85.1N、85.1W、86S、86I、86T、86H、86Q、86V、86W、86Y、86F、及び90Nからなる群より選択され、ここでアミノ酸位置はIMGT(登録商標)番号付けに従って示される。
【0127】
好ましくは、第二の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で85位及び86位において置換されるアミノ酸残基は、85.1A、85.1S、85.1C、及び86S並びにそれらの保存的なアミノ酸置換からなる群より選択される(IMGT(登録商標)番号付け)。より好ましくは、第二の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるアミノ酸残基は、85.1A、85.1S、85.1C、及び86Sからなる群より選択され、この場合第二の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるさらなるアミノ酸残基は3E、5A、7F、20T、22V、26T、81D、84L、84.2E、88R、及び90R並びにそれらの保存的なアミノ酸置換からなる群より選択される(IMGT(登録商標)番号付け)。
【0128】
好ましい実施態様において、第一の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で、88位において置換されるアミノ酸残基は、88Wであり、この場合第一の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるさらなるアミノ酸残基は3A、20K、22V、26T、79Y、85.1S、86V、及び90Nであり、この場合第二の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で、85.1位及び86位において置換されるアミノ酸残基は、85.1A、85.1S又は85.1A、及び86Sであり、この場合第二の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるさらなるアミノ酸残基は3E、5A、7F、20T、22V、26T、81D、84L、84.2E、84.4Q、88R、及び90Rである(IMGT(登録商標)番号付け)。
【0129】
代替的実施態様において、本発明は、ヘテロ二量体免疫グロブリン又はその断片を提供するが、その第一及び第二のポリペプチドはタンパク質-タンパク質界面を有する修飾CH3ドメインを持つ、操作された免疫グロブリン定常領域を含み、この場合第一のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は20位に、並びに3、5、7、22、26、27、79、81、84、84.2、85.1、86、88、及び90からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を含み、この場合第二のポリペプチドのタンパク質-タンパク質界面は26位に、並びに3、22、27、79、81、84、85.1、86、及び88からなる群より選択される位置にアミノ酸置換を含み、この場合第一の操作された免疫グロブリン定常領域内の20位で置換されるアミノ酸残基は、第二の操作された免疫グロブリン定常領域内の26位で置換されるアミノ酸残基と相互作用しており、
ここで各群メンバーのアミノ酸位置は、IMGT(登録商標)番号付けに従って示される。
【0130】
好ましくは、第一の操作された免疫グロブリン鎖のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるアミノ酸残基は、20位及び22位にアミノ酸残基を含み、また任意選択的に3、5、7、26、27、79、81、84、84.2、84.4、85.1、86、88、及び90からなる群より選択される位置にさらなるアミノ酸残基を含み、この場合第二の操作された免疫グロブリン鎖のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるアミノ酸残基は、26位に、並びに3、5、7、20、22、27、79、81、84、84.2、84.4、85.1、86、88、及び90からなる群より選択されるさらなる位置にアミノ酸残基を含み、ここで各群メンバーのアミノ酸位置はIMGT(登録商標)番号付けに従って示される。好ましくは、第一の操作された免疫グロブリン鎖のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるアミノ酸残基は、20位及び22位にアミノ酸残基を含み、また任意選択的に3、5、7、26、27、79、81、84、84.2、84.4、85.1、86、88、及び90からなる群より選択される位置にさらなるアミノ酸残基を含み、この場合第二の操作された免疫グロブリン鎖のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるアミノ酸残基は、26位及び86位に、並びに任意選択的に3、5、7、20、22、27、79、81、84、84.2、84.4、85.1、86、88、及び90からなる群より選択されるさらなる位置にアミノ酸残基を含み、ここで各群メンバーのアミノ酸位置はIMGT(登録商標)番号付けに従って示される。
【0131】
より好ましくは、第一の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で20位において置換されるアミノ酸残基は、20V、20T、20A、20N、20Q、20K、20S、20W、及び20Eからなる群より選択され、この場合第一の操作されたグロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるさらなるアミノ酸残基は3A、22A、22G、22L、22I、22V、22T、26K、26R、26Q、26T、26V、26S、26N、26E、79Y、85.1W、85.1F、85.1T、85.1M、85.1A、85.1S、85.1R、85.1H、85.1K、85.1C、85.1N、86W、86Y、86S、86I、86H、86Q、86V、86T、86F、88Q、88L、88V、88R、88E、88T、88I、88Y、88K、88W、及び90Nからなる群より選択され、この場合第二の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で26位において置換されるアミノ酸残基は、26T及び26E並びにそれらの保存的アミノ酸置換からなる群より選択され、ここでアミノ酸位置はIMGT(登録商標)番号付けに従って示される。
【0132】
最も好ましい実施態様において、第一の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で、20位において置換されるアミノ酸残基は、20Kであり、この場合第一の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるさらなるアミノ酸残基は3A、22V、26T、79Y、85.1S、86V、88W、及び90Nであり、この場合第二の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で、26位において置換されるアミノ酸残基は、26Tであり、この場合第二の操作された免疫グロブリン定常領域のタンパク質-タンパク質界面内で置換されるさらなるアミノ酸残基は3E、5A、7F、20T、22V、81D、84L、84.2E、84.4Q、85.1C/S/A、86S、88R、及び90Rである(IMGT(登録商標)番号付け)。
【0133】
CD3及び疾患関連抗原を標的とするヘテロ二量体免疫グロブリンの開発
第一の工程(実施例1)として、プロテインAとの結合を低減又は除去する置換を、FAB又はscFv断片に基づくホモ二量体免疫グロブリン中でアッセイした。プロテインAとの結合を低減又は無くすための置換を有する、重鎖内のVH3サブクラスの可変重鎖ドメインの存在がプロテインAに基づくあらゆるディファレンシャルアフィニティー法を妨害することが、見出された。このような大きな妨害に対する解決策は、プロテインAに基づくディファレンシャルアフィニティー法のために、VH3サブクラスと結合するプロテインAを低減又は除去するフレームワーク置換の形で見出された。
【0134】
第二の工程(実施例2.1)では、マウス抗CD3抗体のCDRをIGVH3-23及びIGVK1又はIGVK3ヒト生殖細胞系列フレームワーク上にグラフトすることにより、ヒトCD3(イプシロンサブユニット)を標的とするヒト化抗体を生成した。最良のヒト化バリアントは、そのVHドメインに存在するプロテインA結合部位がG65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を用いて除去されていた。このようなバリアントを、FAB又はscFv断片トとしてフォーマット化した。
【0135】
第三の工程では、疾患関連抗原を標的とする抗体の抗原結合部位を生成した。マウス抗体のCDRは、ヒト生殖細胞系列フレームワークIGVH3-23及びIGVK1上にグラフト可能であった(実施例2.3、2.4、及び2.6-2.10)。あるいは、ファージディスプレイライブラリーから単離された抗体のCDRは、VH3可変ドメインサブクラスに基づき得るか、又はヒト生殖細胞系列フレームワークIGVH3-23及びIGVK1上にグラフトされ得た(実施例2.5及び2.6)。エピトープ結合領域のVHドメイン内にあるプロテインA結合部位を、G65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を用いて除去した。
【0136】
第四の工程では、BEAT(登録商標)法(国際公開第2012/131555号に記載の通り)に基づきヘテロ二量体抗体を製造し、実施例2.1 2 2の抗CD3抗体と実施例2.2-2.10に記載の疾患関連抗原のエピトープ結合領域とを、scFv-FABフォーマット又はその逆(実施例3.1)で使用した。ホモ二量体種とヘテロ二量体種との間のプロテインA結合部位の数の相違をプロテインAクロマトグラフィーによるヘテロ二量体種の単離に利用することが可能であるため、本発明の二重特異性抗体を操作して、プロテインA結合部位を有せず、ゆえにプロテインA樹脂に結合しない二のホモ二量体種のうちの一を得た。さらに、BEAT抗体の安全性プロファイルを改善するために、二の置換L234A及びL235A(EU番号付け)をFc領域の下部ヒンジ領域内へ操作することによって、Fc受容体結合を低減又は除去した。
【実施例】
【0137】
材料及び方法
哺乳動物細胞の一過性発現のための発現ベクターの構築
異なるポリペプチド鎖を一部又は全部コードするcDNAをGENEART AG(ドイツ、レーゲンスブルク)によって最初に遺伝子合成し、これを標準的な分子生物学技法を用いて修飾した。PCR産物を、適切なDNA制限酵素で消化し、精製し、同じDNA制限酵素で予め消化しておいたウシホルモンポリアデニル化物(bovine hormone poly-adenylation)(ポリ(A))とCMVプロモーターとを有する修飾pcDNA3.1プラスミド(スイス、ツークのInvitrogen AG)にライゲートした。すべてのポリペプチド鎖を、この発現ベクターに独立にライゲートした。この場合、分泌は、マウスVJ2Cリーダーペプチドによって引き起こされた。
【0138】
組換えタンパク質の発現
抗体、ScFv-Fc融合タンパク質、BEAT抗体、及び抗原は、別途明示しない限り、以下に記載のように発現した。一過性発現の場合、操作された各鎖と等量のベクターを、ポリエチレンイミン(PEI;スイス、ブーフスのSigma)を用いて、懸濁適合HEK293-EBNA細胞(英国、テディントンのATCC-LGL標準品;カタログ番号:CRL-10852)にコトランスフェクトした。一般的に、1ml当たり細胞0.8-1.2百万個の密度で懸濁状態の細胞100mlを、DNA-PEI混合物と共にトランスフェクトする。操作された各鎖の遺伝子をコードする組換え発現ベクターを宿主細胞に導入すると、該細胞を4から5日間さらに培養することにより免疫グロブリン構築物が生成されて、培地(0.1%プルロニック酸、4mM グルタミン、及び0.25μg/mlジェネテシンを補充した、EX-CELL 293、HEK293-無血清培地(Sigma))中への分泌が可能となる。分泌された免疫グロブリンを含有する無細胞培養上清を、遠心分離とその後の滅菌濾過により調製し、さらなる分析で用いた。
【0139】
ディファレンシャルプロテインA アフィニティークロマトグラフィー(実施例1)
Fc 133断片及びホモ二量体scFv-Fc免疫グロブリンの精製
捕捉溶出モード(capture-elution mode)クロマトグラフィー
精製前に、上清を0.1容量(V)の1M トリス-HCl(pH8.0)で条件付けした。Protein G SepharoseTM 4 Fast Flow(スイス、グラットブルックのGE Healthcare Europe GmbH;カタログ番号17-0618-01)を、条件付けした上清に添加した。混合物を、4℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後、結合したタンパク質を、10CVのPBS(pH7.4)で洗浄し、4カラム容量(CV)の0.1M グリシン(pH3.0)で溶出し、0.1Vの1M トリス-HC(pH8.0)で中和した。上清、通過画分、及び溶出分画をSDS-PAGE(NuPAGE Bis-Tris 4-12%アクリルアミド、スイス、バーセルのInvitrogen AG)により非還元条件下で分析した。
【0140】
勾配モードクロマトグラフィー
生成後、Fc 133断片を含有する細胞培養上清を、Protein G SepharoseTM 4 Fast Flow(上記)を用いて、捕捉溶出モードクロマトグラフィーで最初に精製した。次に、捕捉溶出モードクロマトグラフィーから得られた溶出物質を、1mlのHiTrapTM MabSelect SuReTMプロテインAカラム(プロテインA結合部位突然変異体)に充填した。カラムを0.2M リン酸クエン酸バッファー(pH8.0)中で事前に平衡化し、AKTApurifierTMクロマトグラフィーシステム(カラム及び装置はいずれもGE Healthcare Europe GmbH製;カラムカタログ番号:11-0034-93)で、流速1ml/分で稼働させた。様々な量の二のバッファー(ランニングバッファー(A):0.2M リン酸クエン酸バッファー(pH8.0)及び溶出バッファー(B):0.04M リン酸クエン酸バッファー(pH3.0))を組み合わせたpH直線勾配で溶出を実施した。直線勾配を、B0%からB100%まで5カラム容量(CV)で実施した。溶出分画を0.1Vの1M トリス-HCl(pH8.0)で中和した。上清、通過画分、及び溶出分画をSDS-PAGE(NuPAGE Bis-Tris 4-12%アクリルアミド、スイス、バーセルのInvitrogen AG)により非還元条件下で分析した。
【0141】
ホモ二量体FAB-Fc免疫グロブリン及びFAB断片の精製
生成後、細胞培養上清を、0.1Vの1M トリス-HCl(pH8.0)で条件付けした。プロテインL樹脂(米国、ピスカタウェイのGenescript)を条件付けした上清に添加し、4℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後、結合したタンパク質を10CVのPBS(pH7.4)で洗浄し、4CVの0.1M グリシン(pH3.0)で溶出し、最後に0.1Vの1M トリス-HCl(pH8.0)で中和した。プロテインA結合を評価するために、プロテインL精製後のFABを、1mlのHiTrap MabSelectTMカラム(スイス、グラットブルックのGE Healthcare Europe GmbH)に、pH8.0(クエン酸/Na2HPO4バッファー)にて注入した。様々な量の二のバッファー(ランニングバッファー(A):0.2M リン酸クエン酸バッファー(pH8.0)及び溶出バッファー(B):0.04M リン酸クエン酸バッファー(pH3.0))を組み合わせたpH直線勾配で溶出を実施した。直線勾配を、B0%からB100%まで5CVで実施した。溶出分画を0.1Vの1M トリス-HCl(pH8.0)で中和した。上清、通過画分、及び溶出分画をSDS-PAGE(NuPAGE Bis-Tris 4-12%アクリルアミド、スイス、バーセルのInvitrogen AG)により非還元条件下で分析した。
【0142】
Fc及びVH3ドメインにおけるプロテインAに対する結合を除去されたVH3ベースのホモ二量体FAB-Fc及びscFv-Fc免疫グロブリンの精製並びに試験
精製スキームには、上記手順に従い、捕捉溶出モードクロマトグラフィーと、その後の勾配モードクロマトグラフィーが含まれた。
【0143】
ディファレンシャルプロテインAアフィニティークロマトグラフィー(実施例1及び3)
生成後、0.2M リン酸クエン酸バッファー(pH6.0)中で事前に平衡化した1mlのHiTrapTM MabSelect SuReTMプロテインAカラム上に無細胞上清を充填し、AKTApurifierTMクロマトグラフィーシステム(いずれもGE Healthcare Europe GmbH製;カラムカタログ番号:11-0034-93)で、流速1ml/分で稼働させた。ランニングバッファーは、0.2M リン酸クエン酸バッファー(pH6)であった。目的のヘテロ二量体の溶出を、20mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH4)を用いて実施する一方、ホモ二量体種を0.1M グリシン(pH3.0)で溶出した。
溶出後、280nmでのOD読み取りを行い、目的のヘテロ二量体を含有する画分をプールし、0.1容量の1M トリス(pH8.0)(Sigma)で中和した。
上清、通過画分、及び溶出分画をSDS-PAGE(NuPAGE Bis-Tris 4-12%アクリルアミド、スイス、バーセルのInvitrogen AG)により非還元条件下で分析した。
【0144】
示差走査熱量測定(DSC)
熱量測定法を用い、抗体の熱安定性を比較した。熱量測定を、VP-DSC示差走査式マイクロカロリメーター(differential scanning microcalorimeter)(スイス、グラットブルックのGE Healthcare Europe GmbH)で実施した。細胞容積は0.128mlであり、加熱速度は1℃/分であった。また、過剰圧力は64p.s.iに保った。タンパク質断片はすべて、PBS(pH7.4)中1-0.5mg/mlの濃度で用いた。各タンパク質のモル熱容量を、同一のバッファーを含有するがタンパク質が省略された重複試料との比較により見積もった。部分的なモル熱容量及び融解曲線を、標準手順を用いて分析した。サーモグラムは、ベースライン補正し、濃度を正規化した後、Origin v7.0ソフトウェア内の非二状態モデル(Non-Two State model)を用いてさらに分析した。
【0145】
ヒトIgGサブクラスについて予測される融解プロファイルは、既知であり(Garber E & Demarest SJ (2007) Biochem Biophys Res Commun, 355(3): 751-7)、またすべてのプロファイルは、CH2、CH3、及びFABドメインの独立したアンフォールディングに対応する三のアンフォールディング転移(unfolding transition)を含有することが示されている。4のヒトIgGサブクラスのうち、IGHG1は、最も安定なCH3ドメインを有し(~85oC)、一方、その他のサブクラスのCH3ドメインは、いずれも70℃未満で融解するかは不明であるが、それほど安定ではない。同様に、すべてのサブクラスは、CH2ドメインについて~70oCの融解温度を有することが知られている。
【0146】
キャピラリーゲル電気泳動による精製評価(実施例3.2)
非還元試料調製
40μgの脱塩したタンパク質試料を、5mMのヨードアセトアミド(Sigma)を含有するSDS試料バッファー(スイス、ニヨンのBeckman Coulter International S.A.;IgG Purity Kit、カタログ番号:A10663)中で緩衝した。10kDaの内部標準をこの試料に添加した。試料混合物を、70℃で10分間加熱した。
【0147】
キャピラリーゲル電気泳動
試料調製後、220nmに設定したフォトダイオードアレイ検出器(DAD)が取り付けられたProteomeLab PA 800(スイス、ニヨンのBeckman Coulter International S.A.)で、試料を測定した。ID50μm×30.2cm(検出器までの有効長さ20.2cm)のベア溶融シリカキャピラリー(bare-fused silica capillary)を分離メディウムとして用いた。試料注入及び分離を、SDS-分子量ゲルバッファー中にて、逆極性で、それぞれ5及び15kVの定電圧で実施した。2Hzの速度でデータを記録し、電流は分離の間中、安定であった。キャピラリー及び試料を25℃にサーモスタット制御した。
【0148】
SPRによる親和性測定(実施例1)
プロテイAに対する結合を除去されたFAB断片のSPR試験
IGHG1 Fc断片と融合したヒトHER2細胞外領域をコードするcDNAを、上記の重及び軽発現ベクターと同様の発現ベクターにクローニングし、PEI法(PCT公開番号:国際公開第2012131555号参照)を用いてHEK293E細胞に一過的にトランスフェクトした。上清を、0.1Vの1M トリス-HCl(pH8.0)で条件付けし、実施例1に記載したように抗原をプロテインA捕捉-溶出クロマトグラフィーにより精製した。SPR実験のために、モノクローナルマウス抗ヒトIgG(Fc)抗体センサーチップを用いた。これは、Fcと融合した組換えHER2抗原を正しい向きで捕捉することを可能にした(Human Antibody Capture Kit、カタログ番号BR-1008-39、GE Healthcare Europe GmbH)。測定は、BIAcoreTM2000装置(スイス、グラットブルックのGE Healthcare Europe GmbH)で記録した。異なる希釈の抗HER2 FAB(50、25、12.5、6.25、3.13、1.57、0.78、0.39nM)をセンサーチップ上に4分間注入した。各測定について、7分間の解離の後に、3M MgCl2溶液を1分間、30μl/分にて再生のために注入した。データ(センサグラム:fc2-fc1)を、1:1ラングミュアを用いてフィットさせた。各測定の開始時に、捕捉されたHER2-Fcの実験変動を考慮して、すべてのフィッティングにおいてRmax値をローカルに設定した。測定は2連で実施し、参照のためにゼロ濃度試料を含めた。カイ2及び残差の値をともに用いて、実験データと個別の結合モデルとの間のフィッティングの質を評価した。
【0149】
SPRによる親和性測定(実施例2&3)
SPR分析を用いて、異なる抗体(マウス及びヒト化抗体)の結合反応速度に関する結合及び解離速度定数を測定した。抗体の結合反応速度は、BIAcore 2000装置(スイス、グラットブルックのGE Healthcare Europe GmbH)で室温で測定し、BiaEvaluationソフトウェア(バージョン4.1、BIAcore-GE Healthcare Europe GmbH)を用いて分析した。
測定は、市販のアミンカップリングキット(GE Healthcare Europe GmbH、カタログ番号:BR-1000-50)を使用して、目的のリガンドと個々に結合したCM5センサーチップ(GE Healthcare Europe GmbH、カタログ番号:BR-1000-14)で実施した。プロテインGリガンドは、Pierce(スイス、ローザンヌのThermo Fisher Scientific-Perbio Science S.A、カタログ番号:21193)からのものであった。
【0150】
示されている通り、データ(センサーグラム:FC2-FC1)は、物質移動の有無にかかわらず1:1ラングミュアモデルを用いてフィットさせた。捕捉実験では、各測定の開始時に、実験変動を考慮して、すべてのフィッティングにおいてRmax値をローカルに設定した。解離時間は、少なくとも350秒であった。測定は3連で実施し、参照のためにゼロ濃度試料を含めた。カイ2及び残差の値をともに用いて、実験データと個別の結合モデルとの間のフィッティングの質を評価した。
【0151】
FACSによるHPB-ALL細胞の親和性測定
HPB-ALL細胞(ドイツ、ブラウンシュワイクのDSMZ、カタログ番号:ACC483)を、FACS染色用のCD3陽性細胞株として用いた。HPB-ALLを、10%FCS、100U/mlのペニシリン、及び100μg/mlのストレプトマイシンを補充したRPMI 1640中で維持した。キメラOKT3抗体及びヒト化バリアントの100μl希釈系列を、氷上で45分間(FACSバッファとしてで参照)、1%BSA及び0.1%アジ化ナトリウム(FACSバッファーという)を補充したPBS中の4×10
5HPB-ALL細胞とともにインキュベートした。無関係のヒトIgG1をアイソタイプコントロールとして、またキメラOKT3抗体をポジティブコントロールとして使用した。洗浄後、細胞を氷上で45分間、抗ヒトFc-PE(オーストリア、ウィーンのEBioscience)の1/200希釈物とともにインキュベートした。次いで、細胞を再び洗浄し、200μlのFACSバッファーに再懸濁した。各試料の相対平均蛍光発光を、FACSCalibur
(スイス、アルシュヴィルのBD Biosciences)で測定した。結果を、キメラOKT3抗体と比較したHBP-ALLの相対的染色として、
図1に要約する。
【0152】
インビトロアッセイ用の細胞株
ヒトHER2陽性細胞株
HER2抗原を発現するヒト細胞は、PCT公開番号:国際公開第2010108127号に記載されている。本明細書で使用されるHER2陽性ヒト細胞株は以下の通りであった。
BT474(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:HTB-20)
培養条件:150cm2の組織培養フラスコ(スイス、トラザーディンゲンのTPP;カタログ番号:90150)に、10%熱不活性化FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen AG、カタログ番号:10378-016)、1%ピルビン酸ナトリウム溶液(オーストリア、パッシングのPAA Laboratories;カタログ番号:S11-003)、1%MEM 非必須アミノ酸(PAA Laboratories、カタログ番号:M11-00dsmz3)、及び1%GlutaMAX-1(Invitrogen AG、カタログ番号:35050-038)を補充したRPMI培地。細胞は、1週間に2回継代した。
JIMT-1(ドイツ、ブラウンシュワイクのDSMZ、カタログ番号:ACC589)
培養条件:10%熱不活性化FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen AG、カタログ番号:10378-016)、1%ピルビン酸ナトリウム溶液(PAA Laboratories、カタログ番号:S11-003)、1%MEM非必須アミノ酸(PAA Laboratories、カタログ番号:M11-003)、及び1%GlutaMAX-1(Invitrogen AG、カタログ番号:35050-038)を補充したダルベッコ改変必須培地(DMEM(1X))+GlutaMAX-1(Invitrogen AG、カタログ番号:31966-012)。細胞は、1週間に2-3回継代した。
MDA-MB-231(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:HTB-26)。
培養条件:JIMT-1と同じ培養条件。
HT-1080(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:CCL-121)。
培養条件:HT1080細胞を、10%熱不活化FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen AG、カタログ番号:10378-016)、及び1%グルタミン(Invitrogen AG、カタログ番号:25030-024)を補充したEMEM培地で培養する。週3回、細胞を分散培養する(6分の1希釈)。
NCI-N87(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:CRL-5822)。
培養条件:NCI-N87細胞を、10%熱不活性化FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen AG、カタログ番号:10378-016)、1%ピルビン酸ナトリウム溶液(オーストリア、パッシングのPAA Laboratories;カタログ番号:S11-003)、1%MEM 非必須アミノ酸(PAA Laboratories、カタログ番号:M11-00dsmz3)、及び1%グルタミン(Invitrogen AG、カタログ番号:25030-024)を含んだRPMI 1640培地で培養する。週2回、細胞を分散させた(3分の1希釈)。
【0153】
ヒトCD38陽性細胞株
CD38抗原を発現するヒト細胞は、PCT公開番号:国際公開第2005103083号、国際公開第2008047242号、国際公開第2011154453号、及び国際公開第2012092612号に記載されている。本明細書で使用されるCD38陽性ヒト細胞株は以下の通りであった。
安定な組換えCHO[CD38]細胞
Source Biosciences(ドイツのベルリン、カタログ番号:IRAU37D11、4309086)で注文したヒトCD38をコードする遺伝子。ヒトCD38は、コザック配列、開始コドン、それに続いてシグナルペプチド(マウスのVリーダー)を5’末端に、NheI制限部位3’末端に付加したプライマーを用いて増幅させた。アンプリコンを、NheI及びHindIIIを用いて切断し、自社で開発したpcDNA3.1(Invitrogen AG)由来のベクターであるpT1の発現カセットにクローニングした。pT1の発現カセットは、多シストロン性mRNA上の二のIRES(内部リボソーム侵入部位)を用い、目的の遺伝子の発現をGFP及びPAC(ピューロマイシン耐性のための遺伝子)の発現と結び付ける。プラスミドのミディプレップを調製した。また、クローンCD38のオープンリーディングフレームをDNA配列決定により確認した。懸濁CHO-S細胞(Invitrogen AG)を、50mLバイオリアクター式(TubeSpin50バイオリアクター、スイス、トラザーディンゲンのTPP)中でポリエチレンイミン(JetPEI(登録商標)、フランス、イルキーチュのPolyplus-transfection)を用いてトランスフェクトした。この目的のために、指数増殖細胞をOptiMEM培地(Invitrogen AG、カタログ番号:31985-047)に播種した。これらの細胞にJetPEI(登録商標):DNA複合体を添加した。エキソサイトーシスのために振とう(200 RPM)下37℃でJetPEI(登録商標):DNA複合体とともに5時間インキュベートした後、4mM Glnを補充した1容量の培地PowerCHO2(スイス、ベットラッハのLonza、販売店RUWAG Lifescience、カタログ番号:BE12-771Q)を細胞懸濁液に添加した。次いで、細胞を37℃、5%CO2及び80%湿度の振とうプラットフォーム上でインキュベートした。トランスフェクションの1日後、ピューロマイシン(Sigma、カタログ番号:P8833-25mg)を含有する選択培地中に異なる濃度で、細胞を96ウェルプレートに播種した。静状態で約14日間の選択後、TubeSpin 50バイオリアクターを用いて、46個の高GFP発現細胞プールを懸濁培養物として増やした。懸濁液にうまく適合したら、細胞のCD38についての分析をFACSにより行った。均一なCD38染色プロフィールを有する安定なCHO[CD38]クローンを選択し、ここで使用した。
その他のCD38陽性細胞株は以下を含む。
NCI-H929(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:CRL-9068)。
Namalwa(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:CRL-1432)。
U266(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:TIB-196)
RPMI 8226(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:CCL-155)。
培養条件:10%熱不活性化FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen AG)、及び1%GlutaMAX-1(Invitrogen AG)を補充したRPMI 1640培地
Raji(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:CCL-86)
Daudi(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:CCL-213)
【0154】
ヒトOX40陽性細胞株
OX40抗原を発現するヒト細胞は、PCT公開番号:国際公開第2013008171号に記載されている。
末梢血単核細胞(PBMC)及びHBP-ALLは、ヒトOX40陽性細胞株の例である。
ここでは、安定な組換えCHO[OX40]細胞を使用した。ヒトOX40をコードする合成cDNAを有する組換えCHO細胞株を、上記の安定な組換えCHO[CD38]細胞株のプロトコールと同様のプロトコールを用いて操作した。
【0155】
ヒトCD20陽性細胞株
CD20抗原を発現するヒト細胞は、PCT公開番号:国際公開第2010095031号に記載されている。CD20+がん細胞の例は、Daudiがん細胞株(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:CCL-213)であり、これらのBリンパ芽球がん細胞は、20%FBS並びに1%P/S;1%L-Glut;1%Na-Pyr、及び1%NEAAを補充したRPMI 1640培地(Sigma)で培養する。該細胞を、5%CO2を補給して37℃で培養する。
【0156】
ヒトEGFR陽性細胞株
EGFR抗原を発現するヒト細胞は、PCT公開番号:国際公開第2010108127号に記載されている。EGFR+がん細胞の例は、HT-29がん細胞株(ATCC-LGL標準品;カタログ番号:HTB-38)であり、これらの結腸直腸がん細胞は、10%FBS並びに1%P/S;1%L-Glut;1%Na-Pyr、及び1%NEAAを補充したマッツコイ5A培地(Sigma)で培養する。該細胞を、5%CO2を補給して37℃で培養する。
【0157】
ヒトCD19陽性細胞株
CD19抗原を発現するヒト細胞は、PCT公開番号:国際公開第2010/095031号に記載されている。Namalwa(ATCC-LGL標準品;カタログ番号CRL-1432)及びRaji(ATCC-LGL標準品;カタログ番号CCL-86)は、ヒトCD20陽性細胞株の例である。
【0158】
ヒト膜IgE陽性細胞株
PCT公開番号:国際公開第2010/033736号の71頁には、インターロイキン-4(IL-4)及び抗CD40抗体を添加することによって、ヒトPBMCをIgE産生B細胞にクラススイッチするための方法が記載されている。
【0159】
組換え標的抗原
ヒトCD3ガンマ-イプシロン-Fc融合タンパク質
26残基ペプチドリンカー(配列:GSADDAKKDAAKKDDAKKDDAKKDGS;配列番号186)によりヒトCD3イプシロン細胞外領域(UniProtアクセッション番号:P07766、残基22-118(配列番号185))と融合した、ヒトCD3ガンマ細胞外領域をコードするcDNA(UniProtアクセッション番号:P09693 残基23-103(配列番号184);UniProt Consortium(2013) Nucleic Acids Res., 41(データべース特集号(Database issue)):D43-7; http://www.uniprot.org/)を、GENEART AG(ドイツ、レーゲンスブルク)により最初に合成した。この合成遺伝子を、標準的なオーバーラップPCR法を用いてヒトIgG1 Fc部分と融合させ、ヒトIgG1 Fc cDNAテンプレートもGeneart AGから入手した。得られたcDNAを上記修飾pcDNA3.1プラスミドにクローニングした。
【0160】
CD3ガンマ-イプシロン-Fcタンパク質(配列番号187)の一過性発現のために、組換えベクターを上記のようにポリエチレンイミン(PEI)を用いて懸濁液適合HEK-EBNA細胞(ATCC-CRL-10852)にトランスフェクトした。次いで、組換えStreamline rProtein A培地(スイス、グラットブルックのGE Healthcare Europe GmbH)を用いて、CD3ガンマ-イプシロン-Fc構築物を無細胞上清から精製し、さらなる分析に使用した。
【0161】
ヒト及びカニクイザルCD3イプシロン 1-26_Fc融合タンパク質
ヒトCD3イプシロンペプチド1-26をコードするcDNA(UniProtアクセッション番号:P07766、アミノ酸23-48、配列番号188)及びカニクイザルCD3イプシロンペプチド1-26(UniProtアクセッション番号:Q95LI5、アミノ酸22-47、配列番号189)をコードするcDNAを、ヒト及びカニクイザルCD3イプシロン細胞外領域それぞれについて、GENEART AGから入手した合成cDNAからPCR増幅させた。続いて、増幅された産物を、標準的なオーバーラップPCR法を用いてヒトIgG1 Fc部分と融合させた。ヒトIgG1 Fc cDNAテンプレートは、Geneart AGから入手した。得られたcDNAを上記修飾pcDNA3.1プラスミドにクローニングした。
【0162】
ヒト及びカニクイザルCD3イプシロン構築物(それぞれ、配列番号190及び191)の一過性発現のために、組換えベクターを上記のようにポリエチレンイミン(PEI)を用いて懸濁液適合HEK-EBNA細胞(ATCC-CRL-10852)にトランスフェクトした。次いで、組換えStreamline rProtein A培地(スイス、グラットブルックのGE Healthcare Europe GmbH)を用いて、CD3イプシロン融合構築物を無細胞上清から精製し、さらなる分析に使用した。これらの二の融合タンパク質は、本明細書において、ヒト及びカニクイザルCD3イプシロン1-26_Fc融合タンパク質と称される。
【0163】
ヒトHER2細胞外領域
HER2可溶性細胞外領域の調製は、PCT公開番号:国際公開第2012131555号に記載されている。ポリヒスチジンタグと融合したヒトHER2可溶性細胞外領域(本明細書ではHER2-hisと称する)又はヒトIgG1 Fc領域と融合したヒトHER2可溶性細胞外領域((本明細書ではHER2-Fcと称する)を調製した。
【0164】
ヒト及びカニクイザルCD38細胞外領域
ヒトCD38のcDNAをSource Biosciences(ドイツのErwin-Negelein-Haus、カタログ番号:IRAU37D11、4309086)から得、その細胞外領域(UniProtアクセッション番号:P28907 残基43-300)をPCR増幅し、pcDNA3.1(Invitrogen Ag)由来の自社製発現ベクターにクローニングした。この発現ベクターは、コザック配列及び開始コドン、それに続いて、多重クローニング部位の5’末端に対するマウスVJ2Cリーダーペプチド及び3’末端に対する6-His-タグを包含した。6-His-タグと融合したヒトCD38の可溶性細胞外領域(配列番号192)は、次のように発現させ、精製した:HEK細胞、0.1%プルロニック酸(Invitrogen AG)、発現ベクター、及びポリエチレンイミン(JetPEI(登録商標)、フランス、イルキーチュのPolyplus-transfection)を含有する1容量のRPMI1640培地(PAA Laboratories、カタログ番号E15-039)を37℃、5%CO2及び80%湿度の振とうフラスコ中でインキュベートした。6mMのグルタミンを補充した1容量のExCell293培地を4時間後に混合物に添加し、さらに5日間インキュベーションを続けた。ポストプロダクション、無細胞上清を遠心分離により調製し、0.2μmフィルターを用いて濾過し、1M トリス(pH8.7)を用いてpHを7.4(4℃)に調整した。Ni-Sepharose Excellビーズ(GE Healthcare、カタログ番号:17-3712-03)を溶液に添加し、撹拌しながら4℃で一晩インキュベートした。自然流下による精製(gravity-flow purification)のために、その溶液をEcono-Column(スイス、ライナハのBio-Rad Laboratories AG、カタログ番号:737-4252)に充填した。ビーズをPBS(2×)、20mM イミダゾールで洗浄し、タンパク質をPBS、500mM イミダゾール中で溶出させた。溶出画分をプールし、4℃で2回の透析工程によりバッファーをPBSと交換した。精製したヒトCD38細胞外領域を、0.22μmシリンジフィルターを用いて濾過した。
上記の方法を用いて、6-His-tag(配列番号193)と融合したカニクイザルCD38抗原の可溶性細胞外領域をクローニングし、発現させ、精製した。
【0165】
ヒトOX40細胞外領域
ヒトOX40の可溶性細胞外領域を調製する方法は、PCT公開番号:国際公開第2013008171号に記載されている。
【0166】
ヒトEGFR細胞外領域
EGFR可溶性細胞外領域抗原調製の例は、PCT公開番号:国際公開第2012131555号に記載されている。
【0167】
インビトロT細胞リダイレクトキリングアッセイ(redirection killing assay)
末梢血単核細胞の調製
末梢血単核細胞(PBMC)を製造するために、ヒト白血球含有血液フィルターをスイス、La Chaux-de-Fondsの血液採集センター(Blood Collection Centre)(Centre de Transfusion Sanguine et Laboratoire de Serologie,rue Sophie-Mairet 29,CH-2300)から集めた。10U/mlのリケミン(liquemin)(スイス、ルツェルンのDrossapharm AG)を含有する60mlのPBSとともにバックフラッシングすることにより、細胞をフィルターから除去した。次いで、50mLのBlood-Sep-Filter Tube(スイス、バーゼルのBrunschwig)を用い、製造者の指示通りにPBMCを精製した。室温で800gで20分間、管を遠心分離し(ブレーキなし)、細胞を界面から回収した。FBS又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含まないロズウェルパーク記念研究所(RPMI、オーストリア、パッシングのPAA Laboratories)培地で細胞を3回洗浄した。RDL培地(10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS)及びペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI)中に10e6細胞/mLでPBMCを再懸濁させ、アッセイ前に5%CO2インキュベーター内で37℃で一晩培養した。
【0168】
T細胞調製
T細胞精製は、pan-T細胞単離キットII(ドイツ、ベルギッヒグラヂバッハのMyltenyi Biotec GmbH、カタログ番号130-091-156)を使用し、製造業者の指示通りにPBMC単離後すぐに行った。精製後、T細胞をRDL培地中に10e6細胞/mLで再懸濁させ、アッセイ前に5%CO2インキュベーター内で37℃で一晩培養した。
【0169】
アッセイ読み取り
かなり類似した結果の二の異なる読み取りを使用して、リダイレクトキリングを定量化した。
フローサイトメトリー法は、本明細書ではRDL-FACS法と称され、Schlereth Bら((2005) Cancer Res, 65: 2882-2889), Moore PA et al. ((2011) Blood, 117(17): 4542-51)及びFriedrich M et al. ((2012) Mol Cancer Ther, 11: 2664-2673)に記載されるように蛍光サイトメトリーに基づく。標的細胞を回収し、計数し、1回洗浄し、PBS+1μMのカルボキシフルオレセイン スクシンイミジルエステル(CFSE、Sigma)に5×10e6細胞/mlで再懸濁させた。細胞を、5分毎に穏やかに攪拌しながら37℃で15分間インキュベートした。CFSE負荷細胞をRDL培地で3回洗浄し、RDL培地に2×10e5細胞/mLで再懸濁させた。PBMCを回収し、計数し、2×10e6細胞/mL RDL培地に再懸濁させた。抗体の段階希釈液(3×溶液)をRDL培地中で調製した。標的細胞(50μL/ウェル)、T細胞(50μL/ウェル)、及び3×抗体溶液(50μl/ウェル)を平底96ウェルプレート(スイス、トラザーディンゲンのTPP)に分配した。エフェクター:標的比は、10:1であった。プレートを37℃、5%CO2インキュベーター内で48時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを300gで3分間遠心分離し、プレートをフリックすることにより上清を捨てた。プレートを200μlのPBSで1回洗浄し、再び遠心分離し、PBSは捨てた。予め加温したAccutase溶液(Invitrogen AG)を添加し、プレートを37℃で10分間インキュベートした。100μlのRDL培地の添加後に上下にピペッティングすることにより、剥離、接着細胞を再懸濁させた。溶液をU底96ウェルプレート(TPP)に移した。U底プレートを300gで3分間遠心分離し、上清を捨て、1/40希釈で7-AAD(スイス、アルシュヴィルのBecton Dickinson AG)を補充した冷FACSバッファー(PBS+2%FBS+10%バーゼン液)200μlに細胞を再懸濁させた。プレートは、Guava easyCyteTM Flow Cytometer(スイス、ツークのMillipore AG)ですぐに得られた。各ウェルについて、Flowjo(登録商標)ソフトウェア(ドイツ、ベルギッヒグラヂバッハのMiltenyi Biotec GmbH)を用いてCFSE陽性7ADD陰性集団をゲーティングすることにより、生存標的細胞の絶対数を決定した。標的細胞のみをベースラインとしてインキュベートした条件を用いて、各試料の特異的細胞傷害性のパーセンテージを決定した。EC50値は、Prismソフトウェア(米国、カリフォルニア州ラホヤのGraphPad Software)を用いた非線形変動傾き回帰法(nonlinear variable slope regression method)を用いて決定した。特定のリダイレクト溶解(RDL)のパーセンテージは、試験抗体が添加された状態に対する抗体のない状態の特異的細胞傷害性のパーセンテージを差し引くことによって計算した。
RDL-MTS法と本明細書で称される細胞生存率法は、Buhler Pら((2008) Cancer Immunol Immunother, 57: 43-52)、Labrijn AFら((2013) Proc Natl Acad Sci USA, 110(13): 5145-50)、及びPCT公開番号:国際公開第2012143524号に記載されているような、細胞生存率を評価するための比色法に基づく。標的細胞を回収し、計数し、1回洗浄し、RDL培地に2×10e5細胞/mlで再懸濁させた。PBMCを回収し、計数し、2×10e6細胞/mL RDL培地に再懸濁させた。抗体の段階希釈液(3×溶液)をRDL培地中で調製した。標的細胞(50μL/ウェル)、T細胞(50μL/ウェル)、及び3×抗体溶液(50μl/ウェル)を平底96ウェルプレート(TPP)に分配した。エフェクター:標的比は、10:1であった。プレートを37℃、5%CO2インキュベーター内で48時間インキュベートした。インキュベーション後、上清を捨て、プレートを200μLのPBSで3回洗浄してPBMCを除去し、次いで100μlのRDL培地を各ウェルに添加した。読み取りは、CellTiter96(登録商標)キット(ドイツ、ジューベンドルフのPromega AG)を用い、製造者の指示に従って行った。簡潔には、10-20μlのMTS試薬を各ウェルに添加し、プレートを37℃で5%CO2インキュベーター内で2-6時間インキュベートした。次いで、490nmの吸光度をBioTek Synergy プレートリーダー(スイス、ルツェルンのBioTek AG)で読み取った。式:特異的殺傷率=100×[(SD-Sp)/(SD-MD)]を用いて特異的殺傷率を算出した。SDは、標的細胞を単独でインキュベートした自然死状態で測定した吸光度である。Spは、各試験条件(標的細胞+PBMC+抗体)で測定された吸光度である。MDは、標的細胞を3回の凍結及び融解サイクルにより溶解させた最大死状態で測定した吸光度である。特定のリダイレクト溶解(RDL)のパーセンテージは、試験抗体が添加された状態に対する抗体のない状態の特異的細胞傷性パーセンテージを差し引くことによって計算した。EC50値は、Prismソフトウェア(GraphPad Software)を用いた非線形変動傾き回帰法を用いて決定した。
【0170】
異種移植モデル
JIMT-1異種移植片
細胞株及び試薬
乳がんJIMT-1細胞株をDSMZ(カタログ番号:ACC589)から入手した。10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)(英国、ロンドンのAMIMED、カタログ番号:Z10834P)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen AG、カタログ番号:10378-016)、1%ピルビン酸ナトリウム溶液(PAA Laboratories、カタログ番号:S11-003)、1%MEM非必須アミノ酸(PAA Laboratories、カタログ番号:M11-003)、及び1%GlutaMAXTM-1(Invitrogen AG、カタログ番号:35050-038)を補充したGlutaMAXTM-1(Invitrogen AG、カタログ番号:31966-021)含有DMEM(1X)に細胞を維持した。StemPro Accutase(Invitrogen AG、カタログ番号:A11105-01)を用い、週に2回に細胞を分散させた。
スイス、La Chaux-de-Fondsの血液採集センター(Blood Collection Centre)(Centre de Transfusion Sanguine et Laboratoire de Serologie,rue Sophie-Mairet 29,CH-2300)からのヒト白血球含有血液フィルターより、末梢血単核細胞(PBMC)を回収した。10U/mLのリケミン(liquemin)(スイス、ルツェルンのDrossapharm AG)を含有する60mlのPBSとともにバックフラッシングすることにより、細胞をフィルターから除去した。次いで、50mlのBlood-Sep-Filter Tube(スイス、バーゼルのBrunschwig)を用い、製造者の指示に従ってPBMCを単離し、管を800gで室温で20分間遠心分離し(ブレーキなし)、細胞を界面から回収した。細胞は、FBS(RPMI、Invitrogen AG、カタログ番号:21875-091)なしのロズウェルパーク記念研究所培地で3回洗浄した。PBMCを10%FBS(AMIMED)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen AG)を補充したRPMI培地に10e6細胞/mlで再懸濁させ、37℃、5%CO2下で一晩培養した。標的細胞を回収し、計数し、1回洗浄し、PBSに5×10e6細胞/mlで再懸濁させた。
【0171】
マウス及び実験条件
インビボ実験は、5週齢の免疫不全
NOD.CB17/AlhnRj-Prkdcscid/Rj(NOD/SCID)雌マウスであって、T細胞、B細胞、及びナチュラルキラー細胞欠損によって特徴付けられたマウス(フランス、サン=ベルトヴァンのJanvier Labs)で実施した。前記マウスは、標準的なげっ歯類マイクロアイソレーターケージ内で、無菌かつ標準化された環境条件(20±1℃の室温、50~10%の相対湿度、12時間の明暗リズム)で維持した。放射線照射食物、寝床、及び0.22μmの濾過飲料水をマウスに与えた。すべての実験は、管轄州当局(スイス、ヌーシャテル州)から許可を得て、スイスの動物保護法(Swiss Animal Protection Law)に従って行った。動物保護法に従い、腫瘍体積が2000mm3を超えると、マウスを安楽死させなければならなかった。対応する治療群対ビヒクルコントロール群の平均腫瘍体積の統計分析を、ANOVA一方向分析及びボンフェローニのパラメトリック検定によって行った。
移植前に、すべてのマウスの右脇腹を、VEETクリーム(スイス、ワリゼレンのReckitt Benckiser AG)を使って脱毛した。移植日及びその後週に1回、マウスの写真撮影及び体重測定を行った。各動物について、5×10e6ヒトPBMCを、最終容積0.2mlのPBS中5×10e6のJIMT-1乳がん細胞と混合した。4の異なるPBMCドナーを含めた。PBMC/JIMT-1混合物を各NOD/SCIDマウスの右脇腹に皮下注射した。ヒトPBMCを全く含まない最終容量0.2mlのPBS中5×10e6のJIMT-1乳癌細胞を有するコントロール群を含めた。10匹のJIMT-1/PBMC移植動物(1PBMCドナーにつき1群)の各群について、移植の3時間後、5匹の動物にHER2/CD3-1二重特異性抗体を0.05mg/kgで静脈内治療した(容量100μlを使用)。治療は、2週間の間、週に3回、2日に1回繰り返された。腫瘍を、週に2回、ノギスを用い二つの垂直寸法で測定し、腫瘍体積を次式:腫瘍体積=[(幅2×長さ)/2]に従って計算した。
【0172】
実施例1: VH3サブクラスにおけるプロテインAへの結合を低減又は除去する変異の決定
免疫グロブリン定常領域におけるプロテインA結合を除去する方法は、既知である(Lindhofer H. et al., (1995) J Immunol, 155(1): 219-225; US6,551,592; Jendeberg L. et al., (1997) J Immunol Methods, 201(1): 25-34; PCT公開番号:国際公開第2010151792号)。完全長ホモ二量体免疫グロブリンにおけるプロテインA除去法の使用を評価するために、混合IGHG1-IGHG3 Fcフォーマットに基づく抗HER2ホモ二量体免疫グロブリン及び対応するFc 133コントロール断片を調製した。抗HER2ホモ二量体免疫グロブリンは、天然抗体と同様にフォーマットされ、Fc 133断片と融合した抗HER2特異性を有するFAB断片からなる(天然のヒトIGHG3アイソタイプ由来のFc配列であって、ヒンジ配列が天然のヒトIGHG1アイソタイプ由来のヒンジ配列全体に置換されており、Fc 133は配列番号1と略記されている。ここで、名称にある数字は、ヒンジ/CH2/CH3の順で各ドメインの免疫グロブリンガンマアイソタイプサブクラスに対応し;対応する全長抗HER2免疫グロブリンは、本明細書で抗HER2 FAB-Fc133と称され;重鎖は配列番号2を有し、軽鎖は配列番号3を有する)。トランスフェクション後、材料及び方法のセクションに記載したプロトコールに従い、勾配クロマトグラフィーにより、抗HER2 FAB-Fc 133ホモ二量体及びFc 133断片のプロテインA結合についてアッセイした。
図3及び
図4Aに示すように、抗HER2 FAB-Fc 133ホモ二量体が結合することができる一方で、Fc 133断片は、市販のMabSelect SuRe
TMプロテインA樹脂(GE Healthcare Europe GmbH)に結合しなかった。
【0173】
FAB定常ドメインの関与を評価するために、上記の抗HER2ホモ二量体を抗HER2 scFv-Fc分子として再フォーマットしたが、ここでscFvユニットは15アミノ酸リンカーにより融合された親免疫グロブリン可変ドメインからなる(本明細書では、抗HER2 scFv-Fc 133と略記される;配列番号4の重鎖)。したがって、得られた抗HER2 scFv-Fc133ホモ二量体は、親抗HER2FAB-Fc 133ホモ二量体免疫グロブリンと同一であったが、CH1及びCK定常ドメインを欠いていた。
図4Bに示すように、scFv-Fc 133ホモ二量体は、親抗HER2ホモ二量体免疫グロブリンで観察されるように、プロテインA結合を示した。この発見は、抗HER2 FAB断片の可変ドメインがホモ二量体免疫グロブリンのFc部分におけるプロテインA結合を除去する方法の有効性を妨げる原因となったという結論に至った。さらに重要なことに、ホモ二量体免疫グロブリンの可変ドメイン内でのプロテインA結合が、プロテインA特異的な(differential)精製法に基づくヘテロ二量体免疫グロブリンの調製を妨げると結論付けられた。
【0174】
プロテインAの5すべてのドメインは、VH3可変ドメインサブクラス(Jansson B et al., (1998) FEMS Immunol. Med. Microbiol., 20(1): 69-78)由来の可変重鎖ドメインに結合することが知られている。この特徴は、プロテインAがVH3ベースのFAB及びFc断片の両方に結合することから、抗体分子全体のパパイン消化後のVH3ベースのFAB断片の調製を妨げることが知られている特徴である。ホモ二量体抗HER2免疫グロブリン又はそのscFv-Fcバージョンに見出される重鎖可変ドメインは、VH3-23サブクラスに属し、これらのホモ二量体分子がその操作されたFc領域内にプロテインA結合部位を有さないにもかかわらず、プロテインAに結合する理由を説明する。
【0175】
VH3ベースの免疫グロブリン又はその断片は、バイオテクノロジー産業にとって多大な重要性を有する。VH3ベースの分子がプロテインAに結合する能力は該分子の機能的な事前スクリーニングをし易くするので、VH3ベースの分子は幅広く開発されており、したがって抗体探索のために用いられる多くの合成又はドナーベースのファージディスプレイライブラリー若しくは遺伝子組換え動物技術は、VH3ドメインサブクラスに基づく。さらに、VH3ベースの分子は、他の既知の重鎖可変ドメインサブクラスよりも良好な発現及び安定性のためにしばしば選択される。VH3ベースのFAB断片に結合しないプロテインAの組換えバージョンは、MabSelect SuReTMという商品名でGE Healthcareによって開発され、商品化されている。
【0176】
MabSelect SuReTM樹脂は、本明細書において、上記の二のホモ二量体抗HER2免疫グロブリンのプロテインA結合評価のために使用されたことから、少なくとも一のVH3可変領域を有するヘテロ二量体免疫グロブリンの調製には適していない(プロテインA特異的な精製法を使用する場合)と結論付けられた。なぜなら、Fc領域にプロテインA結合を有しないホモ二量体種はVH3ドメインを介して依然としてプロテインAに結合するであろうからである。
【0177】
VH3に基づくホモ二量体免疫グロブリン又はその断片からのプロテインA結合を除去又は低減させる置換を調べるために、VH3に基づくFABバリアントをプロテインA結合についてアッセイする必要がある。MabSelect SuReTM樹脂タイプはVH3ドメインサブクラス結合を欠くことが知られているが、MabSelectTMとして知られるもう一つの市販のプロテインA樹脂は、VH3ドメインサブクラスに結合する(同じくGE healthcareから)。これを選択し、VH3ベースのFABバリアントのプロテインA結合について分析した。
【0178】
MabSelect
TM樹脂の使用の有効性は、VH3-23可変ドメインサブクラスのものであることが知られている前述の親抗HER2ホモ二量体免疫グロブリンに由来する組換え抗HER2 FAB断片(本明細書では抗HER2 FABと略記される;配列番号5を有する重鎖及び配列番号3を有する軽鎖)を調製することにより、及び前記断片をMabSelect
TM及びMabSelect SuRe
TMカラムでアッセイすることにより検証された(FAB断片については、VKサブクラスIに基づく軽鎖を有し、プロテインLクロマトグラフィーを使用して捕獲-溶出モードで最初に精製し、次にMabSelect
TM又はMabSelect SuRe
TMカラムでプロテインA勾配クロマトグラフィーを実施した。いずれのカラムのプロトコールも、材料及び方法のセクションに記載したプロトコールに従った)。
図4Cに示すように、VH3ベースの抗HER2 FABは、MabSelect
TMカラムにのみ結合し、MabSelect SuRe
TM樹脂がVH3ベースのFAB断片への結合を欠いていることを裏付けた。これは、少なくとも単量体VH3ベースのFAB断片に関する限りであり、その上、プロテインAへの結合を有しない操作されたFc領域を有するVH3ベースのホモ二量体免疫グロブリンに関して先に観察された結果と対照をなす。逆に、抗HER2 FABは、MabSelect
TMカラムへの強い結合を示し、これは、プロテインA結合を有しないか又は低減させたVH3ベースのFABバリアントをアッセイする可能性を提供した。
【0179】
VH3ベースのFAB断片におけるプロテインA結合を除去するために、VH3ドメイン内の重要なプロテインA結合残基を、プロテインAのDドメインと複合体を形成するヒトFAB断片の結晶構造から同定した(PDBコード:1DEE;www.pdb.org;Graille M et al., (2000) Proc Natl Acad Sci USA, 97(10): 5399-5404)。この分析は、実施された置換の性質がヒト起源のプロテインA結合VHサブクラスと非プロテインA結合VHサブクラス間の配列比較に基づく、合理的設計の開始点として用いられた。
図5は、各ヒト重鎖可変ドメインサブクラスについての一の代表的なフレームワークのアライメントを示す。アミノ酸の15、17、19、57、59、64、65、66、68、70、81、82a、及び82bの位置(Kabat番号付け)は、1DEE構造のVH3ベースのFAB断片とプロテインAのDドメイン間のタンパク質-タンパク質相互作用界面の一部として同定された。ヒトVHサブクラスの中で、VH3は、プロテインAに結合する唯一のサブクラスであり、他のサブクラスの同等のアミノ酸配列位置にある残基は、プロテインA結合を除去又は低減させ、免疫原性を潜在的に低下させるという観点から置換の供給源として選択された。なぜなら、これらの置換は非プロテインA結合ヒトVHサブクラスに見られるのと同じアミノ酸位置で、一の残基が別の天然残基に置き換えられたためである。
【0180】
突然変異は、標準的なPCRに基づく突然変異誘発法により、前述の抗HER2 FAB断片の配列に導入し、それに続く置換は、G65S(配列番号6の重鎖及び配列番号3の軽鎖)、R66Q(配列番号7の重鎖及び配列番号3の軽鎖)、T68V(配列番号8の重鎖及び配列番号3の軽鎖)、Q81E(配列番号9の重鎖及び配列番号3の軽鎖)、N82aS(配列番号10の重鎖及び配列番号3の軽鎖)、及びR19G/T57A/Y59Aの組み合わせ(配列番号11の重鎖及び配列番号3の軽鎖)で行った。
【0181】
さらに、T57A置換(配列番号12の重鎖及び配列番号3の軽鎖)及びT57E置換(配列番号13の重鎖及び配列番号3の軽鎖)を行った。T57Aは、国際公開第2010075548号においてプロテインA結合を除去することが以前に示されており、T57Eは、VH3-プロテインA相互作用を破壊し得る荷電残基を導入するように設計された。VKサブファミリーIに基づく軽鎖を有するFAB突然変異体を、プロテインLクロマトグラフィーを用いる捕捉-溶出モードで最初に精製し、材料及び方法のセクションに記載したように勾配モードで操作したMabSelect
TMカラムを用いてプロテインA結合についてさらにアッセイした。
図6は、T57A、T57E、G65S、Q81E、N82aS、及びR19G/T57A/Y59Aの組み合わせのみが、MAbSelect
TM樹脂への抗HER2 FABの結合を除去又は低減させたことを示す。これらの変異は非プロテインA結合VHサブクラスにおいて見出される配列同等残基を置換し、それにより免疫原性を潜在的に低下させるため、置換G65S、Q81E、及びN82aSは、VH3ベースのFAB断片においてプロテインA結合を除去する場合に好ましい。
【0182】
抗体親和性及び特異性は、CDR領域に本質的に限定されるが、いくつかのヒト化抗体の場合に示されるように、フレームワーク置換は抗体特性に影響を与え得る。上記の置換がVH3由来抗体の特異性及び/又は親和性に影響を及ぼし得るかどうかを評価するために、表面プラズモン共鳴(SPR)によって二の好ましいFAB突然変異体のHER2抗原結合をアッセイした。組換えHER2抗原を用いたSPR測定は、材料及び方法のセクションに記載したように行った。両方の好ましい変異体は、置換が特異性又は親和性に関して影響を及ぼさなかったことを実証する元のFAB分子(
図7)と比較した場合、HER2抗原と同一の結合を示した。したがって、これらの置換は、抗原結合の有意な欠失なしに、VH3由来の抗体分子におけるプロテインA結合を操作するために広く使用することができると予想される。
【0183】
これらの好ましい二の置換を、先に記載した抗HER2ホモ二量体免疫グロブリン及び抗HER2 scFv-Fc分子に導入し、バリアントのMabSelect SuReTM樹脂への結合をアッセイした。次のバリアントを調製した:抗HER2 scFv(G65S)-Fc 133(配列番号14を有する重鎖)、抗HER2 scFv(N82aS)-Fc 133(配列番号15を有する重鎖)、抗HER2 FAB(G65S)-Fc 133(配列番号16を有する重鎖及び配列番号3を有する軽鎖)、及び抗HER2 FAB(N82aS)-Fc 133(配列番号17を有する重鎖及び配列番号3を有する軽鎖)。
【0184】
図8は、4すべての突然変異体のMabSelect SuRe
TMクロマトグラフィーのプロファイルを示す。ここに示したすべてのバリアントは、MabSelect SuRe
TMカラムにほとんど結合しなくなり、先に同定された置換によるプロテインA結合の除去が成功したことを示す。さらに重要なことに、プロテインA特異的な精製法と組み合わせると、VH3ベースのFABのプロテインAに対する親和性が除去又は低減される置換により、少なくとも一のVH3可変ドメインが存在するヘテロ二量体免疫グロブリンの調製が可能になると結論付けられた。
【0185】
実施例2: ヒトCD3抗原、腫瘍関連抗原、及び炎症性細胞表面抗原を標的とする抗原結合部位
ヒトCD3抗原に対する抗原結合部位
ヒトCD3イプシロンサブユニットは、二重特異性の関与を介してT細胞リダイレクトキリングを引き起こすように選択された。
【0186】
2.1A マウスOKT3抗体のヒト化バリアント
本明細書で使用される抗ヒトCD3イプシロン抗原結合部位は、マウスOKT3抗体(Janssen-Cilagにより市販され、その後販売中止されたMuromonab-CD3、商品名Orthoclone OKT3;それぞれ配列番号18及び19を有するマウス可変重鎖及び軽鎖ドメイン)。OKT3マウス可変ドメインをヒト化し、scFv及びFAB断片トとしてフォーマットした。
【0187】
ヒト化は、FAB及びscFvフォーマットの両方に適した非常に安定なヒト化バリアントを製造するためにJung S&Pluckthun A(1997, Protein Eng, 10(8): 959-66)によって記載された方法に従った。この方法は、ハーセプチン(登録商標)抗体(rhuMAbHER2、huMAB4D5-8、トラスツズマブ又は商品名ハーセプチン(登録商標);米国特許公開第5821337号;それぞれ配列番号20及び21を有する可変重鎖及び軽鎖ドメイン)に見出され、固定フレームワーク上へのヒト化プロセスのワークフローに従う(Almagro JC & Fransson J (2008), Front Biosci, 13: 1619-33)。ハーセプチン(登録商標)抗体はもともと生殖系列フレームワークVH3及びVK1の非常に安定したヒトのファミリーに由来するので、これらの二のファミリーに由来する生殖系列フレームワークは、固定フレームワークの供給源として同等に使用することができる。あるいは、ヒトVK3生殖系列軽鎖フレームワークファミリーは、VK1の代わりに使用することができる。なぜなら、それも良好な安定性を有するからである(Ewert S et al., (2003) J Mol Biol, 325: (531-553)。マウス抗体に加えて、安定性を改善するために、この固定フレームワーク法を用いてヒト抗体を操作することができる。好ましいのは、それぞれ配列番号22、23、及び24(IMGT(登録商標)(国際ImMunoGeneTics情報システム(Lefranc MP et al. (1999) Nucleic Acids Res, 27(1): 209-12; Ruiz M et al. (2000) Nucleic Acids Res, 28(1): 219-21; Lefranc MP (2001) Nucleic Acids Res, 29(1): 207-9; Lefranc MP (2003) Nucleic Acids Res, 31(1): 307-10; Lefranc MP et al., (2005) Dev Comp Immunol, 29(3): 185-203; Kaas Q et al., (2007) Briefings in Functional Genomics & Proteomics, 6(4): 253-64; http://www.imgt.org)に基づく)を有するヒト生殖系列フレームワーク IGHV3-23*04、IGKV1-39*01、及びIGKV3-20*01の使用である。
【0188】
この目的のために、ハーセプチン(登録商標)抗体の可変ドメイン内のCDRをマウスOKT3抗体由来のCDRでそれぞれ置換し、マウスOKT3抗体のキメラに対してベンチマークした第一のヒト化抗体を構築した(可変重鎖及び軽鎖は配列番号25及び26を有し、本明細書ではキメラOKT3抗体と称する)。
【0189】
プロトタイプ抗体(配列番号27及び39を有する可変重鎖及び軽鎖、VH/VLと略記される)は、一過性発現試験で産生レベルが増加し、示差走査熱量測定によって測定されたFAB安定性が増加したが、ヒトCD3イプシロン陽性T細胞腫瘍株であるHPB-ALL細胞への結合はなかった(FACS実験での蛍光強度中央値による評価、材料及び方法のセクションを参照)(
図9A)。
【0190】
可変ドメインの第一のプロトタイプ対の3Dモデルに基づいて、次の逆突然変異(CDR移植ハーセプチン(登録商標)プロトタイプからマウスOKT3配列へ):可変重鎖ドメインのI34M、V48I、A49G、R58N、R58Y、I69L、A71T、及びT73K、並びに可変軽鎖ドメインのM4L、V33M、A34N、L46R、L47W、R66G、F71Y、及びP96F(Kabat番号付け)のサブセットを選択し、試験した。R58N置換は、CDR移植ハーセプチン(登録商標)プロトタイプからマウスOKT3への変異に対応する一方、R58Y置換は、CDR移植ハーセプチン(登録商標)プロトタイプからヒトIGHV3-23*04生殖系列置換に対応することに留意されたい。置換の組み合わせに関する操作の方法は、CDR領域への推定上の影響及び/又は可変ドメインのパッキング及び/又は免疫原性の観点から種々な置換の相補性に基づいたものであった。
【0191】
第一の手法では、すべての候補をヒトIgG1抗体としてフォーマットした。最良のバリアントは、発現レベル、FAB断片の熱安定性、及びFACSによるHPB-ALL細胞への結合能に従って選択された。最良のヒト化バリアントは、そのVHドメイン内に存在するプロテインA結合部位がG65S又はN82aS置換を用いて除去されていた。この操作工程は、抗CD3ホモ二量体を含まない安全なT細胞再標的化BEAT抗体をさらに産生するために必要であった。
【0192】
VHの逆変異:I34M、A49G、及びA71T、並びにVLの逆変異:M4L、L46R、L47W、
及びF71Y
は、親和性を取り戻した。可変ドメインの最良の組み合わせは、親細胞結合の大部分を保持している(
図9A-C)ことから、VH8/VL4、VH8/VL8、VH11/VL4、及びVH11/VL8であった。さらに、VH8/VL8(それぞれ配列番号48及び51を有する可変ドメイン)及びVH11/VL8(それぞれ配列番号49及び51を有する可変ドメイン)の組み合わせは、FAB安定性を向上させた(それぞれ+2.8℃及び+1.6℃、
図9D)。
【0193】
最後に、最良のヒト化バリアントもscFv-Fc融合体として再フォーマットし、一過性発現させた。バリアントは、このフォーマットでの一過性トランスフェクションにおける相対親和性、安定性、発現レベルの観点からランク付けされた(
図9E)。scFv-Fc融合体フォーマットでの可変ドメインの最良の組み合わせは、VH8-VL4(配列番号58を有するscFv断片)及びVH8-VL8(配列番号59を有するscFv断片)であり、抗体フォーマットで確認された組み合わせに類似していた。両方のscFv断片は、scFv-Fc融合フォーマットで良好な熱安定性を有した(
図9F)。
【0194】
2.1B マウスSP34抗体のヒト化バリアント
マウス抗体SP34は、1985年に最初に記述された(Pessano S et al., (1985) EMBO J, 4(2):337-44)。それは、HPB-ALL細胞からの変性タンパク質抽出物で免疫したマウスから得られたハイブリドーマによって産生され、該抗体はヒト特異性及びカニクイザルに対する交差反応性を有する。ヒト及びカニクイザルCD3イプシロンサブユニット上のSP34エピトープが知られている(それぞれ配列番号195及び196)。
【0195】
上記の実施例に記載された方法及びワークフローに従って、配列番号60を有するVHドメインと、配列番号61を有するVLドメインとを有するマウスSP34抗体のヒト化VH及びVLドメインを、それぞれVH3-23及びVK3生殖細胞系フレームワークへのCDR移植を介して操作した。得られたVH3ベースの可変ドメインは、BEAT抗体フォーマットにおけるその用途に応じて、G65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を用いてプロテインAに対する結合をさらに除去することができる。
【0196】
この目的のために、生殖系列VH3重鎖ドメイン及び生殖系列VK3軽鎖ドメインを有するヒト抗体の可変ドメイン内のCDRをそれぞれマウスSP34抗体由来のCDRで置換した第一のヒト化抗体を構築した。得られたヒト化抗体は、さらなる親和性の改善のための開始点として使用され、SP34抗体のキメラ(それぞれ配列番号62及び63を有する重鎖及び軽鎖、本明細書ではキメラSP34抗体と称される)に対してベンチマークされた。
【0197】
プロトタイプの抗体(配列番号64及び69を有する可変重鎖及び軽鎖、VH1/VL1と略記される)は、ヒトCD3イプシロン1-26_Fc融合タンパク質に対する低結合性を有した(SPRによる評価、材料及び方法のセクション並びに
図10A参照)。
【0198】
可変ドメインの第一のプロトタイプ対の3Dモデルに基づいて、CDR移植ヒト生殖系列VH3/VK3プロトタイプとマウスSP34配列(ヒト対マウスまたはマウス対ヒト)間の逆突然変異か、合理的に設計されたアミノ酸変化のいずれかに対応する置換のサブセットが選択された。次の変更を行い、様々な組み合わせで試験した:可変重鎖ドメインにおけるW100eF及びW100eY、並びに可変軽鎖におけるA2I、S25A、T27A、G27aA、V27cA、T28A、T29A、S30A、N31A、Y32A、E38Q、F44P、G46L、T51A、N52A、K53A、R54A、P56A、L66G、D69T、F87Y、Q89A、W91F、Y92A、S93A、N94A、及びQ100G(Kabat番号付け;
図10A参照)。置換の組み合わせに関する操作の方法は、CDR領域への推定上の影響及び/又は可変ドメインのパッキング及び/又は免疫原性及び/又は哺乳動物細胞における一過性発現への影響の観点から種々な置換の相補性に基づいたものであった。
【0199】
第一の手法では、すべての候補は、ヒトIgG1抗体としてフォーマットされ、さらにscFv-Fc融合タンパク質フォーマット(
図10B)で、VHドメイン内に存在するプロテインA結合部位がG65Sにより除去されたいくつかのバリアントを用いて試験された。最良のヒト化候補は、発現レベル並びにSPRによるヒト及びカニクイザルCD3イプシロン1-26_Fc融合タンパク質への結合能に従って選択された。
【0200】
意外なことに、scFvとして再フォーマットした場合、SP34キメラ及びH1L21は、IgG1フォーマットと比較して、発現の劇的な消失をもたらす(
図33)。しかし、scFv-Fc発現は、VHにおける置換W100eYとVLにおける置換W91Fとの組み合わせによって増強された(
図10B)。
【0201】
したがって、CD3ベースの二重特異性抗体の製造可能性をさらに改善するために、ヒト化SP34 scFvをさらに操作した。SP34 scFv-Fc発現に影響を及ぼす重要な位置を同定するために、アラニンスキャンをVL21 CDRにおいて実施した。T27A、G27aA、V27cA、T28A、T29A、S30A、N31A、Y32A、N52A、K53A、R54A、P56A、L90A、Y92A、S93A、N94A、及びL95Aの変更がなされた。興味深いことに、29、30(VH1/VL26 配列番号351)及び95(VH1/VL34 配列番号363)位における置換のみがscFv-Fc発現を有意に増加させ(
図34)、さらにこれらの変異体は、ヒト及びカニクイザルCD3イプシロンに対する完全な結合を保持する唯一のものであった。
【0202】
これらの結果に基づいて、軽鎖の29、30、及び95位においてより多くの置換を試験した。
【0203】
29位及び30位はすべての異なる可変軽鎖ファミリーにおいて超可変性を示すため、これらの二つの位置を、部位特異的PCRによってランダムに突然変異させた。製造したすべての突然変異体から、置換T29A、T29E、T29S、S30A、及びS30Dのみが、ヒトCD3イプシロンへの結合を維持しながら、
図35a及び35bの一過性発現レベルを有意に改善した。
【0204】
別の手法で、当該技術分野において標準構造残基として知られているL95を、可変ラムダファミリーのこのまさに同じ位置で最も頻繁に見出される残基で置換した。L95A、L95G、L95T、L95S、L95D、及びL95Nの変更がなされた。意外なことに、L95G及びL95Tのみが、標的への結合を維持しながら発現を有意に改善した(
図35c)。
【0205】
この研究から、いくつかのヒト化SP34ベースのBEATを設計し、発現及びCD3イプシロンへの結合について試験した。これらすべての構築物の中で、H5L65(配列番号394)及びH5L67(配列番号396)scFvを含有する二重特異性抗体が、H5L32 scFvベースのBEATコントロールと比較して2倍の発現増加を示した(
図36)。
【0206】
H5L65及びH5L67を、IgG1かscFv-FcのいずれかとしてDSCによってさらに特徴付け、H5L32、H1L21、及びSP34キメラと比較した。H5L65は、IgG1と同じくらい優れた熱安定性を示したが、興味深いことにscFv-Fcフォーマットの他のヒト化バリアントと比較して5から2℃の増加を示した。(表1)したがって、改善された抗体のインビボ安定性は、インビトロでもそうであるため、増加する。
【0207】
抗原結合及び組換え発現に関して、重鎖及び軽鎖可変ドメインの好ましい組み合わせは次の通りであった:軽鎖ドメインVL21(配列番号105)、VL32(配列番号106)、VL65(配列番号401)、及びVL67(配列番号402)と対のVH1(配列番号101)又はVH2(配列番号102)又はVH3(配列番号103)又はVH5(配列番号104)。
【0208】
2.2 HER2
T細胞をリダイレクトしてHER2陽性がん細胞を殺傷させる二重特異性抗体は、様々な種類のヒト乳がんを治療するのに有用である。抗HER2抗体は、記載されており(Blumenthal GM et al., (2013) Clin Cancer Res, 19(18): 4911-6)、現在臨床で使用されているものもあれば、現在ヒトでの臨床検査中であるものもある(Tsang RY & Finn RS (2012) Br J Cancer, 106(1): 6-13)。
【0209】
本明細書で使用する抗HER2抗原結合部位は、FAB断片(配列番号5を有する重鎖と配列番号3を有する軽鎖とを有するFAB断片)又はscFv断片(配列番号107)としてフォーマットした組換えヒト化抗HER2抗体ハーセプチン(登録商標)(セクション1.1を参照)に由来するものであった。いくつかのフォーマットでは、ヒト化抗HER2抗体4D5(VH3ドメインサブクラス)のVHドメインに存在するプロテインA結合を、G65S置換(配列番号108を有する重鎖と配列番号3を有する軽鎖とを有するFAB断片又は配列番号109を有するscFv断片)又はN82aS置換(配列番号110を有する重鎖と配列番号3を有する軽鎖とを有するFAB断片又は配列番号111を有するscFv断片)を用いて除去した。
【0210】
2.3 CD38
CD38は、造血細胞及び固形組織に通常見られるII型膜貫通糖タンパク質である。CD38は、様々な悪性血液病においても発現する。T細胞をリダイレクトしてCD38陽性がん細胞を殺傷させる二重特異性抗体は、多発性骨髄腫、B細胞慢性リンパ球性白血病、B細胞急性リンパ球性白血病、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、原発性全身性アミロイドーシス、マントル細胞リンパ腫、前リンパ球性/骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、濾胞性リンパ腫、NK細胞白血病、及び形質細胞白血病を含む様々な悪性血液病を治療するのに有用であろう。いくつかの抗CD38抗体は、研究試薬又は治療薬候補として記述されている(PCT公開番号:国際公開第2006099875号)。最もよく特徴がわかっている抗ヒトCD38抗体の中には、OKT-10及びHB-7マウスハイブリドーマがある(Hoshino S et al., (1997) J Immunol, 158(2): 741-7)。
【0211】
第一の手法では、抗ヒトCD38抗原結合部位は、マウスハイブリドーマOKT10(それぞれ配列番号112及び113の可変重鎖及び軽鎖)又はHB-7(それぞれ配列番号114及び115の可変重鎖及び軽鎖)及びFAB又はscFv断片としてさらにフォーマット化することができるそれらのヒト化バージョンに由来し得る。実施例2.1に記載の方法及びワークフローに従って、HB-7ハイブリドーマのヒト化VH及びVLドメインは、それぞれVH3-23及びVK1生殖系列フレームワークにCDR移植することによって操作される。
【0212】
第二の手法では、Almagro JC & Fransson J(Front Biosci, (2008) 13: 1619-33)によって記載されたいわゆるベストフィットヒト化法に従って、HB-7ハイブリドーマのベストフィットヒト化VH及びVLドメインを、それぞれヒトIGHV4-59*03及びIGKV1-NL1*01生殖細胞系フレームワーク(上掲のIMGT(登録商標)に基づく)上へのCDR移植を介して操作した。異なる程度の逆突然変異を有するヒト化VH及びVLバリアントをインシリコで調べ、ヒト化VH及びVLの好ましい選択の一をヒトIgG1フォーマットとして一過性発現させ、本明細書ではヒト化HB-7ベストフィットVH(配列番号116)及びVL(配列番号117)ドメインと呼ぶ。次のマウス逆突然変異を導入した:(VH)S35H、I37V、I48L、V67L、V71K、T73N、F78V、Y91F、及び(VL):M4L、L48I、Y49S、T69K(Kabat番号付け)。
【0213】
ヒト化HB-7ベストフィット抗体(配列番号118を有する重鎖及び配列番号119を有する軽鎖)は、FACSによってCHO[CD38]組換え細胞を染色した(データは示さず)。ヒト化HB-7ベストフィット抗体は、SPRによりアッセイした場合、キメラHB-7抗体(配列番号20を有する重鎖及び配列番号121を有する軽鎖)と同様のCD38細胞外領域に対する結合親和性を有した(それぞれ3.6及び2.5nMのKD;;
図11A(キメラ)及び
図11B(ヒト化))。意外なことに、ヒト化HB-7ベストフィット抗体は、熱量測定プロファイルから判断した場合、FAB断片安定性においてキメラHB-7抗体と比較して有意な増強(+14.6℃)をしめした(76.4℃(キメラ)対91.0℃(ヒト化)、
図11F)。
【0214】
第三の手法では、ヒトCD38細胞外ドメイン及びヒトCD38+細胞で免疫したマウスを用いて、ヒトCD38に対する新規ハイブリドーマ候補を生成した。ハイブリドーマを生成する方法は既知であり、本明細書で使用する方法は、PCT公開番号:国際公開第2013008171号に開示の方法と同様であった。9G7マウス抗体候補は、ヒト及びカニクイザルCD38(それぞれ配列番号122及び123を有する可変重鎖及び軽鎖)に対して高い親和性を有した。上掲の実施例に記載の方法に従って、このマウス抗体を最初にヒト化した。ベストフィット法を使用して、生殖系列VHフレームワークIGHV2-5
*09及びVKフレームワークIIGKV1-33
*01(上掲のIMGT(登録商標)に基づく)をヒト化プロセスの開始点として選択した。CDR移植後、第一の抗体プロトタイプ(ヒトIgG1アイソタイプとしてフォーマット、配列番号124を有する重鎖及び配列番号125を有する軽鎖)は、SPRにより判断した場合、マウスの親抗体よりわずかに3分の1だけ低い、ヒトCD38への強力な結合を示した(配列番号126を有する重鎖と配列番号127を有する軽鎖とを有するキメラ9G7抗体;キメラ9G7抗体(データは示していない)及び第一のヒト化プロトタイプ(データは示していない)に対してそれぞれ0.3nM及び1nMのKD)。親和性は、抗体の可変軽鎖にF36Y逆突然変異(Kabat番号付け)を導入すると、2倍改善した(得られた抗体は、本明細書では配列番号124を有する重鎖と配列番号128を有する軽鎖とを有するヒト化9G7ベストフィット抗体という;ヒトCD38に対して0.5nMのKD、
図11C)。また、ヒト化9G7ベストフィット抗体は、キメラ9G7抗体と比較して、カニクイザルCD38抗原に対する高い親和性(3.2nMのKD、データは示していない)及び高いFAB熱安定性(DSCスキャンからのFAB Tm)を示した(ヒト化9G7ベストフィット抗体及びキメラ9G7抗体について、それぞれ94
oC vs. 82.2
oC;
図11G参照)。ヒト化9G7ベストフィット抗体は、配列番号129を有する重鎖可変ドメインと、配列番号130を有する軽鎖可変ドメインとを有する。
【0215】
加えて、9G7マウス抗体は、VH3-23及びVK1生殖系列フレームワークへのCDR移植を介したベストフレームワーク手法(best-framework approach)に従ってヒト化された。異なる程度の逆突然変異を有するヒト化VH及びVLバリアントをインシリコで調べ、ヒト化VH及びVLの組み合わせの一の好ましい選択をヒトIgG1抗体として一過性発現させ(得られた抗体は、本明細書では、配列番号131を有する重鎖と配列番号132を有する軽鎖とを有するヒト化9G7ベストフレームワーク抗体と呼ぶ)。次のマウス逆突然変異を導入した:(VH)A24F、V37I、V48L、S49A、F67L、R71K、N73T、L78V、及びK94R、並びに(VL)F36Y(Kabat番号付け)。この抗体は、ヒト化9G7ベストフィット抗体と類似の親和定数を有するヒトCD38及びカニクイザルCD38に対する強い結合を示した(ヒト及びカニクイザルCD38に対して、それぞれ0.4及び1nMのKD;
図11D)。FAB熱安定性(DSCスキャンからのFAB Tm)もまた、9G7ベストフィットF36Yヒト化バリアントと非常に類似していた(89.2℃、
図11H参照)。
図11Jは、上記の様々なヒト化9G7抗体を要約している。ヒト化9G7ベストフレームワーク抗体は、配列番号133を有する重鎖可変ドメインと、配列番号134を有する軽鎖可変ドメインとを有する。
【0216】
第四の手法では、抗体ファージライブラリーをスクリーニングして、ヒトCD38に対するさらなるscFv断片を生成した。ライブラリーは、天然ヒトV遺伝子に基づく多様性を有した。このドナー由来の抗体ファージディスプレイライブラリーは、70%が自己免疫疾患(脈管炎、全身性紅斑性狼瘡、脊椎関節症、関節リウマチ、及び強皮症)を有する48名のヒトドナー由来の血液リンパ球から増幅されたcDNAを使用した。ライブラリー構築は、Schofieldら(2007, Genome Biol., 8(11): R254)によって記載されたプロトコール従い、合計2.53×10e10クローンの多様性を有した。ヒト及び/又はカニクイザルCD38を認識するScFv断片を、このドナー由来のファージディスプレイライブラリーから以下のように単離した。組換えに由来するヒト及び/又はカニクイザルCD38抗原についての一連の選択サイクルの繰り返しにより、ScFv断片を単離した(材料及び方法のセクションを参照のこと)。抗体ファージディスプレイライブラリーをスクリーニングする方法は、既知である(Viti F et al., (2000) Methods Enzymol, 326: 480-505)。簡潔には、ライブラリーとのインキュベーションの後、予めプラスチックイムノチューブにコーティング(20μg/mlの濃度でPBS中に一晩)又はストレプトアビジンビーズ上に捕捉しておいた固定化抗原(ビオチン標識形態の抗原を使用する場合、選択プロセスを通して50nMの濃度で捕捉した抗原)に結合したファージを回収し、結合しなかったファージを洗い流した。Marksら(Marks JD et al., (1991) J Mol Biol, 222(3): 581-97)によって記載されているように、結合したファージをレスキューし、選択プロセスを3回繰り返した。2回目及び3回目のパニングから1000以上のクローンを発現させ、ヒト及びカニクイザルCD38抗原に対するELISAによって分析した。陽性クローンをDNA配列決定に付し、固有のクローンのいくつかを、ヒトCD38を発現する細胞株に結合する能力についてさらに分析した。ストレプトアビジンビーズ上に固定されたヒトCD38抗原のビオチン標識バージョンに対する1回目のパニング及びストレプトアビジンビーズ上に固定されたニクイザルのCD38抗原ビオチン標識バージョンに対する2回目のパニングに続いて、配列番号135の可変重鎖配列と配列番号136を有する可変軽鎖とを有する一の好ましいscFv断片(クローン番号767)を、ヒト及びカニクイザルCD38の両方に結合する能力のために選択した。ヒトIgG1抗体としてフォーマットした場合、クローン767は、ヒトCD38に対しては約300nM(
図11E)、カニクイザルCD38に対しては約1.2μM(データは示していない)のKDを有した(クローン767 IgG1抗体は、本明細書では、配列番号137を有する重鎖と配列番号138を有する軽鎖とを有するヒト767抗体と称する)。FAB熱安定性(DSCスキャンからのFAB Tm)は、70.2℃であった(
図11I)。クローン767 VHドメインは、VH3ドメインサブクラスに属する。
【0217】
2.4 OX40
CD3及びOX40を標的とする二重特異性抗体は、活性化Tリンパ球の標的化及び枯渇を可能にする。この組み合わせにおいて、CD3及びOX40分子の両方を発現する活性化Tリンパ球は、迅速な細胞消失をもたらす相互殺傷プロセスに関与する。二重特異性抗体によるヒトCD3とOX40の同時関与は、短期間で病原性T細胞を効果的に排除することができる。OX40は、受容体のTNFRスーパーファミリーのメンバーであり、ラットからの活性化CD4+T細胞上に発現される50kDaの糖タンパク質として1987年に最初に同定された(Paterson DJ et al., (1987) Mol. Immunol. 24: 1281-90)。CD28とは異なり、OX40は、ナイーブT細胞上に恒常的には発現しないが、T細胞受容体(TCR)の関与の後に誘導される。OX40は、活性化後24時間から72時間後に発現する二次共刺激分子である。そのリガンドであるOX40Lもまた、休止中の抗原提示細胞上では発現しないが、抗原提示細胞の活性化後に発現する。
【0218】
PCT公開番号:国際公開第2013008171号に開示されているマウス抗ヒトOX40抗体(それぞれ配列番号139及び140を有する重鎖及び軽鎖ドメイン)を、抗ヒトOX40抗原結合部位の供給源として使用することができる。ベストフィットヒト化法に基づく本抗体のヒト化バージョンもまた、PCT公開番号:国際公開第2013008171号に開示されており(それぞれ配列番号141及び142を有する重鎖及び軽鎖ドメイン)、いずれの抗体もBEATフォーマットに再フォーマット用に修正可能である。
【0219】
実施例2.1に記載の方法及びワークフローに従って、抗ヒトOX40ハイブリドーマのヒト化VH及びVLドメインは、それぞれVH3-23及びVK1生殖系列フレームワークにCDR移植することによって操作される。得られたVH3ベースの可変ドメインは、BEAT抗体フォーマットにおけるその用途に応じて、G65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を用いてプロテインAに対する結合をさらに除去される。逆突然変異の程度が異なる二のヒト化VH及びVLドメインのみを調べた。親抗体可変ドメインと第一のプロトタイプ抗体と類似しているCDR移植VH3及びVK1との間の配列アラインメントから、逆突然変異を同定した。その手法は実施例2.1に記載している。これらのCDR移植可変ドメインは、逆突然変異を有しておらず、本明細書では最小移植(mingraft)と呼ばれる。次いで、これらの配列を、以前のアラインメントから同定されたすべての逆突然変異を含むようにさらに修飾し、本明細書で最大移植(maxgraft)と呼ばれる、修飾された可変ドメイン配列を得た。得られた配列を以下に要約する。
逆突然変異を有しないヒト化及び安定化された抗OX40 VH;ヒト化抗OX40/最小移植VH(配列番号278)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有するヒト化及び安定化された抗OX40 VH;ヒト化抗OX40/最大移植VH(配列番号279)と略記される。
逆突然変異を有しないヒト化及び安定化された抗OX40 VL;ヒト化抗OX40/最小移植VL(配列番号280)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有するヒト化及び安定化された抗OX40 VL;ヒト化抗OX40/最大移植VL(配列番号281)と略記される。
【0220】
2.5 CD20
T細胞をリダイレクトしてCD20発現B細胞を殺傷させる二重特異性抗体は、様々な種類のヒトリンパ腫がんを治療するのに有用であり得る。いくつかの抗ヒトCD20抗体は、研究試薬又は治療薬候補として記述されている。最もよく特徴がわかっている抗ヒトCD20抗体の中には、キメラリツキシマブ抗体及びそのヒト化バリアントがある(キメラリツキシマブ抗体、商品名リツキサン(登録商標)、PCT公開番号:国際公開第1994011026号;配列番号143のマウスVHドメイン及び配列番号144のVLドメイン)。
【0221】
実施例2.1に記載の方法及びワークフローに従って、リツキシマブキメラ抗体のヒト化VH及びVLドメインは、それぞれVH3-23及びVK1生殖系列フレームワークにCDR移植することによって操作される。得られたVH3ベースの可変ドメインは、BEAT抗体フォーマットにおけるその用途に応じて、G65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を用いてプロテインAに対する結合をさらに除去される。逆突然変異の異なる程度の点で異なる二のヒト化VH及びVLドメインを調べた。親抗体可変ドメインと第一のプロトタイプ抗体と類似しているCDR移植VH3及びVK1との間の配列アラインメントから、逆突然変異を同定した。その手法は実施例2.1に記載している。これらのCDR移植可変ドメインは、逆突然変異を有しておらず、本明細書では最小移植と呼ばれる。次いで、これらの配列を、以前のアラインメントから同定されたすべての逆突然変異を含むようにさらに修飾し、本明細書で最大移植と呼ばれる、修飾された可変ドメイン配列を得た。得られた配列を以下に要約する。
逆突然変異を有しないヒト化及び安定化されたリツキシマブ VH;ヒト化リツキシマブ/最小移植VH(配列番号282)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有するヒト化及び安定化されたリツキシマブ VH;ヒト化リツキシマブ/最大移植VH(配列番号283)と略記される。
逆突然変異を有しないヒト化及び安定化されたリツキシマブ VL;ヒト化リツキシマブ/最小移植VL(配列番号284)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有するヒト化及び安定化されたリツキシマブ VL;ヒト化リツキシマブ/最大移植VL(配列番号285)と略記される。
【0222】
2.6 EGFR
T細胞をリダイレクトしてEGFR陽性がん細胞を殺傷させる二重特異性抗体は、様々な種類のヒトのがん、好ましくはヒト膵臓がん及びヒト結腸がんを治療するのに有用であり得る。いくつかの抗ヒトEGFR抗体は、研究試薬又は治療薬候補として記述されている。最もよく特徴がわかっている抗ヒトEGFR抗体の中には、キメラセツキシマブ抗体及びそのヒト化バリアントがある(キメラセツキシマブ抗体、商品名アービタックス(登録商標)、C225、IMC-C225;PCT公開番号:国際公開第199640210号;配列番号145のマウスVHドメイン及び配列番号146のマウスVLドメイン)。
【0223】
実施例2.1に記載の方法及びワークフローに従って、アービタックス(登録商標)キメラ抗体のヒト化VH及びVLドメインは、それぞれVH3-23及びVK1生殖系列フレームワークにCDR移植することによって操作される。得られたVH3ベースの可変ドメインは、BEAT抗体フォーマットにおけるその用途に応じて、G65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を用いてプロテインAに対する結合をさらに除去される。逆突然変異の異なる程度の点で異なる二のヒト化VH及びVLドメインを調べた。親抗体可変ドメインと第一のプロトタイプ抗体と類似しているCDR移植VH3及びVK1との間の配列アラインメントから、逆突然変異を同定した。その手法は実施例2.1に記載している。これらのCDR移植可変ドメインは、逆突然変異を有しておらず、本明細書では最小移植と呼ばれる。次いで、これらの配列を、以前のアラインメントから同定されたすべての逆突然変異を含むようにさらに修飾し、本明細書で最大移植と呼ばれる、修飾された可変ドメイン配列を得た。得られた配列を以下に要約する。
逆突然変異を有しないヒト化及び安定化されたアービタックス VH;ヒト化アービタックス/最小移植VH(配列番号286)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有するヒト化及び安定化されたアービタックス VH;ヒト化アービタックス/最大移植VH(配列番号287)と略記される。
逆突然変異を有しないヒト化及び安定化されたアービタックス VL;ヒト化アービタックス/最小移植VL(配列番号288)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有するヒト化及び安定化されたアービタックス VL;ヒト化アービタックス/最大移植VL(配列番号289)と略記される。
【0224】
別のよく特徴がわかっている抗ヒトEGFR抗体は、ヒトパニツムマブ抗体及びそのヒト化バリアントである(ヒトパニツムマブ抗体、商品名ベクティビックス(登録商標);PCT公開番号:国際公開第2012138997号;配列番号290を有するマウスVHドメイン及び配列番号291を有するマウスVLドメイン)。
【0225】
実施例2.1に記載の方法及びワークフローに従って、ベクティビックス(登録商標)キメラ抗体のヒト化VH及びVLドメインは、それぞれVH3-23及びVK1生殖系列フレームワークにCDR移植することによって操作される。得られたVH3ベースの可変ドメインは、BEAT抗体フォーマットにおけるその用途に応じて、G65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を用いてプロテインAに対する結合をさらに除去される。逆突然変異の異なる程度の点で異なる二のヒト化VH及びVLドメインを調べた。親抗体可変ドメインと第一のプロトタイプ抗体と類似しているCDR移植VH3及びVK1との間の配列アラインメントから、逆突然変異を同定した。その手法は実施例2.1に記載している。これらのCDR移植可変ドメインは、逆突然変異を有しておらず、本明細書では最小移植と呼ばれる。次いで、これらの配列を、以前のアラインメントから同定されたすべての逆突然変異を含むようにさらに修飾し、本明細書で最大移植と呼ばれる、修飾された可変ドメイン配列を得た。得られた配列を以下に要約する。
逆突然変異を有しないヒト化及び安定化されたベクティビックス VH;ヒト化ベクティビックス/最小移植VH(配列番号292)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有するヒト化及び安定化されたベクティビックス VH;ヒト化ベクティビックス/最大移植VH(配列番号293)と略記される。
逆突然変異を有しないヒト化及び安定化されたベクティビックス VL;ヒト化ベクティビックス/最小移植VL(配列番号294)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有するヒト化及び安定化されたベクティビックス VL;ヒト化ベクティビックス/最大移植VL(配列番号295)と略記される。
【0226】
2.7 CD19
T細胞をリダイレクトしてCD19発現B細胞を殺傷させる二重特異性抗体は、様々な種類のヒトの血液及び骨髄のがんを治療するのに有用であろう。ヒトCD19分子は、ヒトB細胞の表面に発現する構造的に異なる細胞表面受容体であり、限定されないが、プレB細胞、発生初期のB細胞(すなわち未成熟B細胞)、形質細胞及び悪性B細胞への最終分化を経た成熟B細胞を含む。CD19は、大部分はプレB急性リンパ芽球性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫、B細胞慢性リンパ球性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病、ヘアリー細胞白血病、好発急性リンパ球性白血病及びいくつかのヌル急性リンパ芽球性白血病により発現される(Nadler LM et al. (1983) J Immunol, 131: 244-250; Anderson KC et al., (1984) Blood, 63: 1424-1433; Loken MR et al. (1987) Blood, 70: 1316-1324; Uckun FM et al. (1988) Blood, 71: 13-29; Scheuermann RH & Racila E (1995) Leuk Lymphoma, 18: 385-397)。血漿細胞上でのCD19の発現は、それが多発性骨髄腫、形質細胞腫、ワルデンシュトレーム腫瘍等の分化したB細胞腫瘍上で発現され得ることをさらに示唆する(Grossbard ML et al. (1998) Br J Haematol, 102: 509-15; Treon SP et al. (2003) Semin Oncol, 30: 248-52)。
【0227】
PCT公開番号:国際公開第2010/095031号に記載のヒト化抗ヒトCD19抗体は、VH3-23及びVK1可変ドメインフレームワークを利用し、実施例2.1に記載のように二重特異性抗体を製造するために使用することができる。配列番号296を有するVHドメインと、配列番号297を有するVLドメインとを有するヒト化抗ヒトCD19抗体を使用し、BEAT抗体フォーマットにおけるその用途に応じて、G65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を用いてプロテインAに対する結合をさらに除去する。
【0228】
2.8 IgE
T細胞をリダイレクトして膜結合IgE陽性B細胞を殺傷させる二重特異性抗体は、喘息又は線維症などの様々な炎症性疾患を治療するのに有用であり得る。いくつかの抗ヒトIgE抗体は、研究試薬又は治療薬候補として記述されている。最もよく特徴がわかっている抗ヒトIgE抗体の中には、オマリズマブ抗体(商品名ソレア(登録商標)、USPTO公開番号:US6761889、US6329509、及びUS20080003218A1;Presta LG et al., (1993) J lmmunol, 151: 2623-2632;配列番号298を有するヒト化VHドメイン及び配列番号299を有するVLドメイン)及びその変異体バリアントがある。
【0229】
実施例2.1に記載の方法及びワークフローに従って、オマリズマブ抗体のヒト化VH及びVLドメインは、それぞれVH3-23及びVK1生殖系列フレームワークにCDR移植することによって操作される。得られたVH3ベースの可変ドメインは、BEAT抗体フォーマットにおけるその用途に応じて、G65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を用いてプロテインAに対する結合をさらに除去される。逆突然変異の異なる程度の点で異なる二の安定化されたVH及びVLドメインを調べた。親抗体可変ドメインと第一のプロトタイプ抗体と類似しているCDR移植VH3及びVK1との間の配列アラインメントから、逆突然変異を同定した。その手法は実施例2.1に記載している。これらのCDR移植可変ドメインは、逆突然変異を有しておらず、本明細書では最小移植と呼ばれる。次いで、これらの配列を、以前のアラインメントから同定されたすべての逆突然変異を含むようにさらに修飾し、本明細書で最大移植と呼ばれる、修飾された可変ドメイン配列を得た。得られた配列を以下に要約する。
逆突然変異を有しない、安定化されたオマリズマブ VH;安定化されたオマリズマブ/最大移植VH(配列番号300)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有する、安定化されたオマリズマブ VH;安定化されたオマリズマブ/最小移植VH(配列番号301)と略記される。
逆突然変異を有しない、安定化されたオマリズマブ VL;安定化されたオマリズマブ/最大移植VL(配列番号302)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有する、安定化されたオマリズマブ VL;安定化されたオマリズマブ/最小移植VL(配列番号303)と略記される。
【0230】
抗ヒトIgE抗体の別の例は、マウス抗体Bsw17である(Vogel M et al., (2004) J Mol Biol, 341(2): 477-89;配列番号304を有するマウスVHドメイン及び配列番号305を有するマウスVLドメイン)。
【0231】
実施例2.1に記載の方法及びワークフローに従って、ヒト化Bsw17抗体のヒト化VH及びVLドメインは、それぞれVH3-23及びVK1生殖系列フレームワークにCDR移植することによって操作される。得られたVH3ベースの可変ドメインは、BEAT抗体フォーマットにおけるその用途に応じて、G65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を用いてプロテインAに対する結合をさらに除去される。逆突然変異の異なる程度の点で異なる二の安定化されたVH及びVLドメインを調べた。親抗体可変ドメインと第一のプロトタイプ抗体と類似しているCDR移植VH3及びVK1との間の配列アラインメントから、逆突然変異を同定した。その手法は実施例2.1に記載している。これらのCDR移植可変ドメインは、逆突然変異を有しておらず、本明細書では最小移植と呼ばれる。次いで、これらの配列を、以前のアラインメントから同定されたすべての逆突然変異を含むようにさらに修飾し、本明細書で最大移植と呼ばれる、修飾された可変ドメイン配列を得た。得られた配列を以下に要約する。
逆突然変異を有しない、安定化されたBsw17 VH;安定化されたBsw17/最大移植VH(配列番号306)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有する、安定化されたBsw17 VH;安定化されたBsw17/最小移植VH(配列番号307)と略記される。
逆突然変異を有しない、安定化されたBsw17 VL;安定化されたBsw17/最大移植VL(配列番号308)と略記される。
あらゆる可能な逆突然変異を有する、安定化されたBsw17 VL;安定化されたBsw17/最小移植VL(配列番号309)と略記される。
【0232】
実施例3: T細胞再標的化ヘテロ二量体免疫グロブリンの製造
3.1 BEAT(登録商標)法及び内蔵精製システム
BEAT抗体は、「ノブ・イントゥー・ホール」技術と比較して、優れたヘテロダイマー化を示すバイオミミクリーのユニークな概念に基づく重鎖ヘテロ二量体である(PCT公開番号:国際公開第2012131555号)。BEATプラットフォームは、天然ホモ又はヘテロ二量体免疫グロブリンドメイン対間の3D同等位置における接触アミノ酸の交換に基づき、Fcベースの二重特異性抗体の構成要素として利用可能な新規のヘテロ二量体を作り出す。この技術は、任意のタイプの抗原結合スカフォールドを用いた、Fcベースの二重特異性抗体の設計を可能にする。scFv-FABフォーマットは、本明細書において、両方の抗原結合部位のための共通の軽鎖を開発する必要なしに、Fcベースの二重特異性抗体を設計するために使用される。
【0233】
BEAT抗体は重鎖ヘテロ二量体であるため、二の異なる重鎖を区別することが必要である。これらは、本明細書ではBTA及びBTB鎖と呼ばれる。本明細書で使用されるBTA及びBTB鎖は、抗原結合部位、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG1又はIgG3アイソタイプ由来のCH2ドメイン、及びヒトIgG1又はIgG3アイソタイプ由来の修飾CH3ドメインを包含する。BTA及びBTB CH3ドメインのいくつかは、PCT公開番号:国際公開第2012131555号に記載されているドメインの同一又は修飾バリアントであった。BTA及びBTB CH3ドメインは、配列番号147、148、149、153、154、及び155(BTA)、並びに配列番号150、151、152、156、157、及び158(BTB)からなる群より選択された。好ましいBTA-BTB CH3ドメインのペアリングは、配列番号147と配列番号150、配列番号148と配列番号150、配列番号149と配列番号151、配列番号147と配列番号152、及び配列番号148と配列番号152からなる群より選択される。最も好ましいBTA-BTB CH3ドメインのペアリングは、配列番号147と配列番号156、配列番号148と配列番号156、配列番号154と配列番号150、及び配列番号154と配列番号152からなる群より選択される。
【0234】
上記のように、プロテインAへの非対称結合を有するBEAT重鎖ヘテロ二量体は、プロテインAへの結合を有しない免疫グロブリンアイソタイプ由来の親ドメインを用いて作出することができる(PCT公開番号:国際公開第2012131555号)。ホモ二量体種とヘテロ二量体種との間のプロテインA結合部位の数の違いは、プロテインAクロマトグラフィーによってこれらの分子種を分解するのに特に有用である。プロテインAクロマトグラフィーによる種の分離を妨害する残留結合を避けるために、ヒト重鎖可変ドメインのVH3サブクラス内に天然に見出される任意の二次プロテインA結合部位を除去することが必要である。抗原結合部位がVH3ファミリーに由来する場合、そのプロテインA結合部位の除去は、G65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を介して達成することができる。
【0235】
VH3起源の一の抗原結合部位及び非VH3由来の一の抗原結合部位とを使用して、本発明に包含される二重特異性抗体を調製する場合、VH3起源の抗原結合部位は、Fc領域内でプロテインAに結合する重鎖上に位置する必要がある。あるいは、VH3由来の抗原結合部位は、N82aS置換又はG65S置換又はそれらと同等の置換で置換されて、プロテインA結合を除去することができる。VH3起源の一対の抗原結合部位を使用して本発明の二重特異性抗体を調製する場合、唯一の可能性は、VH3ベースノ抗原結合部位の少なくとも一において上記のアミノ酸置換を介してプロテインA結合を除去することである。好ましくは、本発明の二重特異性抗体は、プロテインA結合部位なしで、二のホモ二量体のうちの一を作出するように操作される。より好ましくは、本発明の二重特異性抗体は、プロテインA結合部位なしで一のホモ二量体を作出するように操作され、他方のホモ二量体は、目的のヘテロ二量体に対して、そのプロテインA結合部位の数(少なくとも一のプロテインA結合部位、好ましくは二のプロテインA結合部位)に実質的な差異を有する。
【0236】
単一特異性抗ヒトCD3イプシロン抗体によって誘発される毒性の機序は、詳細に調べられている。直接的機序は、抗体の親和性、エピトープ、及び結合価に関連しているが、毒性の間接的機序も記述されている。このような毒性の間接的機序は、免疫細胞を発現するFc受容体と相互作用し、かつ一過性のT細胞活性化及びサイトカイン放出をもたらす抗ヒトCD3抗体のFc領域によって媒介される。安全性を向上させる目的で、ヒトCD3イプシロンを標的とするBEAT抗体は、その下部ヒンジ領域におけるFc受容体に対する結合を除去された。L234A及びL235A置換(EU番号付け;Strohl WR et al., (2009) Curr Opin Biotechnol, 20(6): 685-91)を使用して、Fc受容体結合を除去又は低減させた。これは、LALA置換と通常呼ばれる。
【0237】
プロテインAに対する結合を除去された少なくとも一のVH3ドメインを包含するBEAT抗体の例
HER2/CD3標的化BEAT抗体の例
抗HER2及び抗CD3イプシロンアームは、BEAT鎖と融合したscFv断片からなるscFv-Fc型の重鎖としてか、又は天然抗体のものと類似のBEAT鎖と融合したFAB断片からなる重鎖としてフォーマットすることができる。FABベースの重鎖は、機能的抗原結合部位へと組み立てられるために、その同族の軽鎖との会合が必要である。
L234A及びL235A置換をCH2領域に導入し、また適切な場合にはG65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を使用して、残留プロテインA結合を除去した。ヒトHER2抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例を以下のようにフォーマットした。
【0238】
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトHER2アームについてそれぞれ実施例及び2.2に記載の抗原結合部位の組合せを用いて、第一のBEAT HER2/CD3抗体を操作した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、N82aS置換(Kabat番号付け)を有する可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号47)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号159)から構成された。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しなかったが、本明細書で使用する重鎖はVH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有したため、VHドメインをN82aS置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトHER2アームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号160)から構成された。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT HER2/CD3-1抗体という(
図12A フォーマットA)。
【0239】
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトHER2アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.2に記載)の組合せを用いて、第二のBEAT HER2/CD3抗体を操作した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトHER2アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号3)と組み立てられた、g1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号161)から構成された。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにg3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号162)から構成された。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しなかったが、本明細書で使用する重鎖はVH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有したため、VHドメインをN82aS置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去した。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT HER2/CD3-2抗体という(
図12A フォーマットB)。
【0240】
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトHER2アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.2に記載)の組合せを用いて、第三のBEAT HER2/CD3抗体を操作した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、G65S置換(Kabat番号付け)を有する可変重鎖ドメイン、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号47)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号163)から構成された。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しなかったが、本明細書で使用する重鎖はVH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有したため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトHER2アームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号164)から構成された。PCT公開番号:国際公開第1994029350号に記載されている通りにKabat位重鎖44(G44C)と軽鎖100(Q100C)の重鎖及び軽鎖ドメインとの間の操作されたジスルフィド結合を用い、二重特異性抗体のscFv部分をさらに安定化させた。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT HER2/CD3-3抗体という(
図12B フォーマットC)。
【0241】
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトHER2アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.2に記載)の組合せを用いて、第四のBEAT HER2/CD3抗体を操作した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、可変重鎖ドメイン、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号166)と組み立てられた、g1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号165)から構成された。この重鎖及び軽会合体(heavy chain and light assembly)は、PCT公開番号:国際公開第2008119565号に記載されているような抗ヒトCD3イプシロン抗体(SP34)のヒト化バージョンを包含した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトHER2アームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにg3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号167)から構成された。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しなかったが、本明細書で使用する重鎖はVH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有したため、VHドメインをN82aS置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去した。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT HER2/CD3(SP34)抗体という(
図12B フォーマットD)。
【0242】
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトHER2アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.2に記載)の組合せを用いて、第五のBEAT HER2/CD3抗体を操作した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、可変重鎖ドメイン、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号89)と組み立てられた、g1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号168)から構成された。この二重特異性抗体のアームは、実施例2.1に記載のヒト化SP34 VH1/VL21抗体の可変ドメインを包含した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトHER2アームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにg3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号167)から構成された。このアームは、上記のBEAT HER2/CD3(SP34)抗HER2アームにあたる(
図12BのフォーマットD参照)。その重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しなかったが、本明細書で使用する重鎖はVH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有したため、VHドメインをN82aS置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去した。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT HER2/CD3(SP34-カッパ1)抗体という(
図12C フォーマットE)。
【0243】
BEAT HER2/CD3-1、BEAT HER2/CD3-2、BEAT HER2/CD3-3、BEAT HER2/CD3(SP34)、及びBEAT HER2/CD3(SP34-カッパ1)抗体を一過性発現させ、精製し、HER2及びCD3イプシロン抗原に対するそれらの親和性、それらの安定性、及びT細胞キリングをリダイレクトするそれらの能力をインビトロで試験した。一過性発現の収量は、すべてのBEAT抗体について5-15mg/lの範囲の培養上清であった。重要なことに、すべての二重特異性抗体は、一工程のプロテインAクロマトグラフィー後のその調製中に、非常に低レベルのホモ二量体汚染物質を示した。
これらすべてのBEAT抗体はVH3ドメインを包含する両アームで設計されているため、少なくとも一のVH3ドメインにおけるプロテインA結合の除去だけで、好ましい特異的な精製法の一を用いて目的のヘテロ二量体を容易に精製することができた(
図2E参照)。BEAT HER2/CD3-1抗体の特異的なプロテインA精製結果の一例を
図13に示し、
図14には、精製ヘテロ二量体のキャピラリー電気泳動プロファイルを示す。わずかな含有量のヘテロ二量体汚染物質しか、このプロファイルからは確認することができない。FAB部分を有するようにフォーマットされた重鎖のホモ二量体は、プロテインAに結合しないため、見出されない。scFv断片を有するようにフォーマットされた重鎖のホモ二量体は、わずかな割合(2.5%)で見出され、一工程のプロテインAクロマトグラフィー後にヘテロ二量体含量が97%という結果をもたらした。BEAT HER2/CD3-2、BEAT HER2/CD3-3、BEAT HER2/CD3(SP34)、及びBEAT HER2/CD3(SP34-カッパ1)抗体を、一工程のプロテインAクロマトグラフィー後に、同レベルの均一性及び純度に精製した。BEAT HER2/CD3-3抗体は、プロテインAクロマトグラフィー後に、カチオン交換クロマトグラフィーにより除去された、ある割合のジスルフィド結合ヘテロ二量体凝集体(27%)を示した。
【0244】
VH3ベースの重鎖ヘテロ二量体内でのプロテインA結合の除去がプロテインAクロマトグラフィー後の純度に大いに影響することをさらに実証するために、BEAT HER2/CD3-1抗体を前記のN82aS置換なしに操作した。
図15A及び15Bは、それぞれBEAT HER2/CD3-1及びその非N82aS置換バージョンについての、プロテインAクロマトグラフィー溶出画分のSDS-PAGE分析を示す。pH4では、非N82aS置換バージョンの溶出画分は、FABアームを有するようにフォーマットされた重鎖のホモ二量体に対応するさらなるバンドを示す(
図15B)。一方、N82aS置換BEAT HER2/CD3バージョンはそうではなく(
図15A)、FABアームを有するようにフォーマットされた重鎖はそのFc領域(ヒトIgG3アイソタイプに基づくFc領域)においてプロテインAに結合しないことから、このホモ二量体種で見出されるVH3ベースの可変ドメインがプロテインA結合に関与するとしか推論できない。この結果は、VH3ベースの重鎖ヘテロ二量体内でプロテインA結合を除去することの有用性を明らかに示している。
【0245】
BEAT HER2/CD3-1及びBEAT HER2/CD3-2抗体はいずれも、ヒトHER2抗原及びヒトCD3イプシロン抗原について同様のKD値を有した。KD値は、ヒトHER2抗原については0.50-2nMの範囲であり、ヒトCD3イプシロン抗原については1-2μMの範囲であった(ヒトCD3ガンマ-イプシロン-Fcコンストラクトを用いてSPRによって測定)(材料及び方法のセクションを参照;
図16A及び16B)。二の二重特異性抗体についてのDSCプロファイルは類似しており、いずれの場合も、ヒトHER2又はヒトCD3イプシロンに関与するscFv部分は、68℃の範囲のTmを有する良好な熱安定性プロファイルを保持していた。両抗体のFAB部分は、82-83℃の範囲のTmを有した(
図16C)。
【0246】
ヒト化ハーセプチンVH及びVL配列を用いてヒトHER2抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトHER2に対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.2に記載)の組み合わせを用いて、BEAT HER2/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトHER2アームは、可変重鎖領域、CH1 y1領域、y1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するy3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号3)と組み立てられた、y3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号310)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
【0247】
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT HER2/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0248】
インビトロT細胞キリングアッセイ
BEAT HER2/CD3抗体の作用機序は、細胞傷害性T細胞の細胞表面上のCD3抗原と標的細胞上に発現されるHER2抗原とを架橋することにより、標的細胞関して細胞傷害性T細胞キリングを目的とすることに基づく。
【0249】
フローサイトメトリーに基づく方法(本明細書ではRDL-FACS法という)又は比色法に基づく方法(本明細書ではRDL-MTS法という)を用いて、BEAT HER2/CD3-1及びBEAT HER2/CD3-2抗体のリダイレクトT細胞キリングに対する力価を測定した。
ハーセプチン(登録商標)(トラスツズマブ)耐性乳癌細胞株である高発現HER2細胞株JIMT-1、高発現HER2細胞株BT-474、ハーセプチン(登録商標)(トラスツズマブ)感受性乳癌細胞株、及び低HER2発現乳腺癌細胞株MDA-MB-231を、BEAT HER2/CD3-1又は-2抗体又はコントロール抗体の連続希釈液及びヒトPBMCの存在下で、48時間の間に個々に培養した。
これらのアッセイにおいて、献血由来のヒトPBMCを細胞傷害性Tリンパ球の供給源として使用した。すべてのアッセイにおいて、10:1のエフェクター対標的細胞比を使用した。陰性コントロールは、抗体処理のない試料(標的細胞及びヒトPBMCのみ)の形態で提供された。インキュベーション時間後にRDL-FACS又はRDL-MTS法を用い、細胞傷害性を測定した(材料及び方法のセクションを参照)。結果は、コントロール抗体が特異的なT細胞媒介細胞傷害性を誘発しなかったことを示した。対照的に、BEAT HER2/CD3-1及び-2抗体は、非常に効力のある、用量依存性の腫瘍標的細胞死を誘導した。最大殺傷は、100%に近かった。どちらの読み取り方法も近い結果をもたらした。ドナー間の変動性が、これらの方法の間でEC50が約10倍異なることの主な原因となった。測定したEC50は、標的細胞株によるHER2抗原発現のレベルと相関した。
【0250】
BT-474細胞は、最もHER2抗原を発現し、BEAT HER2/CD3-1及び-2抗体両方のEC
50は、サブピコモルからピコモルの範囲(それぞれ0.6及び2pM、
図17A)であった。JIMT-1細胞は、その細胞表面上のHER2抗原をマスクしており(Nagy P et al. (2005), Cancer Res, 65(2): 473-482)、その結果として高いHER2発現を有するにもかかわらず低いハーセプチン(登録商標)結合を示す。意外なことに、BEAT HER2/CD3-1及び-2の両抗体は、RDL-MTS法によって測定した場合、JIMT-1細胞に対してピコモル範囲のEC
50を有した(それぞれ21及び16pM;
図17B)。RDL-FACS法で測定した場合、BEAT HER2/CD3-1抗体は、1.4pMのEC
50を有した。低HER2発現乳腺癌細胞株MDA-MB-231では、両抗体がサブナノモルのEC
50を示し(両方とも0.2nMに近い値;
図17C)、前記の二の細胞株より感受性が低かった。RDL-FACS法で測定した場合、BEAT HER2/CD3-1抗体は、0.08nM.のEC
50を有した。まとめると、これらの結果は、BEAT HER2/CD3-1及び-2抗体が種々のHER2発現乳がん細胞株に対するリダイレクトT細胞キリングにおいて非常に強力であったことを示す。
【0251】
BEAT HER2/CD3(SP34)抗体は、PCT公開番号:国際公開第2008119565号に記載されているような抗ヒトCD3イプシロン抗体(SP34)のヒト化バージョンを包含した。このBEAT抗体フォーマットの、HER2+細胞に対してT細胞キリングをリダイレクトする能力をインビトロで調べた。二の異なるHER2+細胞株、すなわち高HER2発現細胞株(NCI-N87)及び低HER2発現細胞株(HT-1080)をキリングアッセイにおいて使用した(材料及び方法のセクションを参照)。
図17D-Eは、BEAT HER2/CD3(SP34)抗体によるNCI-N87及びHT-1080細胞のT細胞リダイレクトキリングをそれぞれ示す。このアッセイでは、10対1のエフェクター細胞対標的細胞比を、また48時間のインキュベーション後にRDL-MTS読み取り法を用いた(材料及び方法のセクションを参照)。結果は、BEAT HER2/CD3(SP34)抗体が、NCI-N87細胞及びHT-1080細胞をそれぞれ標的とする場合に、0.35及び29pMのEC
50を有するHER2+細胞株に対するリダイレクトT細胞キリングにおいて非常に強力であったことを示す。
【0252】
BEAT HER2/CD3(SP34-カッパ1)抗体は、実施例2.1に記載の抗ヒトCD3イプシロン抗体(SP34-カッパ1)VH1/VL21のヒト化バージョンを包含した。このBEAT抗体フォーマットの、HER2+細胞に対してT細胞キリングをリダイレクトする能力をインビトロで調べた。二の異なるHER2+細胞株、すなわち高HER2発現細胞株(NCI-N87)及び低HER2発現細胞株(HT-1080)をキリングアッセイにおいて使用した(材料及び方法のセクションを参照)。
図17F-Gは、BEAT HER2/CD3(SP34-カッパ1)抗体によるNCI-N87及びHT-1080細胞のT細胞リダイレクトキリングをそれぞれ示す。このアッセイでは、10対1のエフェクター細胞対標的細胞比を、また48時間のインキュベーション後にRDL-MTS読み取り法を用いた(材料及び方法のセクションを参照)。結果は、BEAT HER2/CD3(SP34-カッパ1)抗体が、NCI-N87細胞及びHT-1080細胞をそれぞれ標的とする場合に、0.46及び338pMのEC
50を有するHER2+細胞株に対するリダイレクトT細胞キリングにおいて非常に強力であったことを示す。
【0253】
インビボ有効性試験
JIMT-1異種移植片
BEAT HER2/CD3-1抗体のインビボ有効性を、JIMT-1/PBMC異種移植モデルを用いて調べた。献血由来のヒトPBMCを細胞傷害性Tリンパ球の供給源として使用した。ハーセプチン(登録商標)耐性乳癌JIMT-1細胞を非刺激ヒトPBMC(4の異なるドナー)と1:1の比で混合し、その後免疫不全(NOD/SCID)マウスに皮下注射した。移植後、動物をBEAT HER2/CD3-1抗体で2週間、週3回静脈内治療した。抗体治療は、移植の3時間後に開始し、その後2日目、4日目、7日目、9日目、及び11日目に続けた。
【0254】
PBMCなしの腫瘍増殖を評価するため、ヒトPBMCの非存在下で5×10e6のJIMT-1細胞を5つ中1つのコホートに皮下接種し、一方残りのコホートには健康なドナーからの5×10e6の非刺激ヒトPBMCと5×10e6のJIMT-1細胞との混合物を皮下接種した。
【0255】
ヒトPBMCは、抗体の非存在下で、腫瘍増殖に対して負の効果を示さなかった(
図18A)。ヒトエフェクター細胞の存在下でBEAT HER2/CD3-1抗体による治療は、ほとんどの動物において腫瘍増殖の完全な抑制を誘導した(18/20腫瘍、
図18B-C)。治療の最終日の18日後、腫瘍の11%(2/18)のみが再び増殖し始めた。これらのデータは、BEAT HER2/CD3-1抗体の強力な抗腫瘍効果を非常に明確に示している。
【0256】
CD38/CD3標的化BEAT抗体の例
抗CD38及び抗CD3イプシロンアームは、BEAT鎖と融合したscFv断片からなるscFv-Fc型の重鎖としてか、又は天然抗体のものと類似のBEAT鎖と融合したFAB断片からなる重鎖としてフォーマットすることができる。FABベースの重鎖は、機能的抗原結合部位へと組み立てられるために、その同族の軽鎖との会合が必要である。
L234A及びL235A置換をCH2領域に導入し、また適切な場合にはG65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を使用して、残留プロテインA結合を除去した。ヒトCD38抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例を以下のようにフォーマットした。
【0257】
ヒト化HB7ベストフィットVH及びVL配列を用いてヒトCD38抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の第一の例を次のようにフォーマットした:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD38アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.3に記載)の組合せを用いて、BEAT CD38/CD3抗体を操作した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD38アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号119)と組み立てられた、g1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号169)から構成された。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにg3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号162)から構成された。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しなかったが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有したため、VHドメインをN82aS置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去した。このアームは、上記のBEAT HER2/CD3-2 抗CD3イプシロンアームにあたる(
図12AのフォーマットB参照)。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3抗体という(
図19 フォーマットA)。
【0258】
BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3抗体を一過性発現させ、精製し、CD38及びCD3イプシロン抗原に対するその親和性、その安定性、及びT細胞キリングをリダイレクトするその能力についてインビトロで試験した。ヒトCD38抗原のKD値は、3.2nMであった(SPRにより測定;
図20A)。二重特異性抗体のDSCプロファイルは、scFv部分について約68℃のTmを有する良好な熱安定性プロフィールを示した。FAB部分のTmは、約91℃であった(
図20B)。
【0259】
CD38発現細胞株(材料及び方法のセクションを参照のこと)を使用し、実施例3.2.1に記載のものと同様のアッセイにおいてリダイレクトT細胞キリングを評価した。
図21は、BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3抗体を用いた、RPMI 8226骨髄腫細胞のT細胞リダイレクトキリングを示す。本アッセイでは、エフェクター細胞として精製T細胞を、10対1のエフェクター細胞対標的細胞比で用いたことに留意されたい。RDL-FACS法で測定した場合、BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3抗体は、2.2pMのEC
50を有した(2ドナーの平均、インキュベーション48時間)。
【0260】
ヒトクローン767 VH及びVL配列を用いてヒトCD38抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の第二の例は、次のようにフォーマットされた:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD38アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.3に記載)の組み合わせを用いて、BEAT CD38/CD3抗体を操作した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD38アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号138)と組み立てられた、g1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号170)から構成された。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにg3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号171)から構成された。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しなかったが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有したため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去した。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT CD38-767/CD3抗体という(
図19 フォーマットB)。
【0261】
BEAT CD38-767/CD3抗体を一過性発現させ、精製し、CD38及びCD3イプシロン抗原に対するその親和性、その安定性、及びT細胞キリングをリダイレクトするその能力についてインビトロで試験した。CD38発現細胞株(材料及び方法のセクションを参照のこと)を使用し、実施例3.2.1に記載のものと同様のアッセイにおいてリダイレクトT細胞キリングを評価した。
図22は、BEAT CD38-767/CD3抗体を用いた、Daudi細胞のT細胞リダイレクトキリングを示す。本アッセイでは、エフェクター細胞としてヒトPBMCを、10対1のエフェクター細胞対標的細胞比で用いたことに留意されたい。RDL-FACS法で測定した場合、BEAT CD38-767/CD3抗体は、244pMのEC
50を有した(3ドナーの平均、インキュベーション24時間)。
【0262】
ヒト化9G7ベストフレームワークVH及びVL配列を用いてヒトCD38抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD38に対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.3に記載)の組み合わせを用いて、BEAT CD38/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD38アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号132)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号312又は404)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT CD38-9G7ベストフレームワーク/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0263】
ヒトクローン767 VH及びVL配列を用いてヒトCD38抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD38抗に対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.3に記載)の組み合わせを用いて、BEAT CD38/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD38アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号138)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号313)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT CD38-767/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0264】
OX40/CD3標的化BEAT抗体の例
抗OX40及び抗CD3イプシロンアームは、BEAT鎖と融合したscFv断片からなるscFv-Fc型の重鎖としてか、又は天然抗体のものと類似のBEAT鎖と融合したFAB断片からなる重鎖としてフォーマットすることができる。FABベースの重鎖は、機能的抗原結合部位へと組み立てられるために、その同族の軽鎖との会合が必要である。
L234A及びL235A置換をCH2領域に導入し、また適切な場合にはG65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を使用して、残留プロテインA結合を除去した。ヒトOX40抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例を以下のようにフォーマットした。
【0265】
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトOX40アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.4に記載)の組合せを用いて、BEAT OX40/CD3抗体の例を操作した。PCT公開番号:国際公開第2013008171号に開示されているヒト化抗OX40抗体の可変ドメイン(それぞれ、配列番号141及び142を有する可変重鎖及び軽鎖ドメイン)を使用したヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトOX40アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号173)と組み立てられた、g1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号172)から構成された。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにg3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号162)から構成された。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しなかったが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有したため、VHドメインをN82aS置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去した。このアームは、上記のBEAT HER2/CD3-2 抗CD3イプシロンアームにあたる(
図12AのフォーマットB参照)。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT OX40/CD3抗体という(
図23)。
【0266】
このBEAT OX40/CD3抗体の、OX40+細胞に対してT細胞キリングをリダイレクトする能力をインビトロで調べた。安定な組換えCHO[OX40]細胞株をキリングアッセイに用いた。
図24は、BEAT OX40/CD3抗体による、安定な組換えCHO[OX40]細胞のT細胞リダイレクトキリングを示す。このアッセイでは、エフェクター細胞としてヒトPBMCを、20対1のエフェクター細胞対標的細胞比で使用し、また48時間のインキュベーション後にRDL-MTS読み取り法を用いた(材料及び方法のセクションを参照)。結果は、BEAT OX40/CD3抗体が、0.5nMのEC
50(3ドナーの平均)をゆする、安定な組換えCHO[OX40]細胞に対するリダイレクトT細胞キリングにおいて、非常に強力であったことを示す。
【0267】
ヒト化抗OX40/最大移植VH及びVL配列を用いてヒトOX40抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトOX40に対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.4に記載)の組み合わせを用いて、BEAT OX40/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトOX40アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号315)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号314)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書では、BEAT OX40最大移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0268】
ヒト化抗OX40/最小移植VH及びVL配列を用いてヒトOX40抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトOX40に対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.4に記載)の組み合わせを用いて、BEAT OX40/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトOX40アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号317)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号316)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT OX40最小移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0269】
CD20/CD3標的化BEAT抗体の例
マウスリツキシマブ抗体VH及びVL配列を用いてヒトCD20抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例を次のようにフォーマットした:
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD20アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.5に記載)の組合せを用いて、BEAT CD20/CD3を操作した。
【0270】
ヒト化リツキシマブ/最大移植VH及びVL配列を用いてヒトCD20抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD20に対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.5に記載)の組み合わせを用いて、BEAT CD20/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD20アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号319)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号318)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT CD20最大移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0271】
ヒト化リツキシマブ/最小移植VH及びVL配列を用いてヒトCD20抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD20に対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.5に記載)の組み合わせを用いて、BEAT CD20/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD20アームは、可変重鎖領域、CH1 y1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号321)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号320)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT CD20最小移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0272】
EGFR/CD3標的化BEAT抗体の例
抗EGFR及び抗CD3イプシロンアームは、BEAT鎖と融合したscFv断片からなるscFv-Fc型の重鎖としてか、又は天然抗体のものと類似のBEAT鎖と融合したFAB断片からなる重鎖としてフォーマットすることができる。FABベースの重鎖は、機能的抗原結合部位へと組み立てられるために、その同族の軽鎖との会合が必要である。
L234A及びL235A置換をCH2領域に導入し、また適切な場合にはG65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を使用して、残留プロテインA結合を除去した。ヒトEGFR抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例を以下のようにフォーマットした。
【0273】
ヒトEGFR及びヒトCD3イプシロン抗原の両方を標的とするBEAT抗体の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトEGFRアームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.6に記載)の組み合わせを用いて、BEAT EGFR/CD3を操作する。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトEGFRアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号175)と組み立てられた、g1ベースのBEAT CH3ドメインを包含する、マウスアービタックス抗体可変ドメイン(それぞれ配列番号145及び146を有するマウス可変重及び軽鎖ドメイン)に基づくBEAT重鎖(配列番号174)から構成された。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにg3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号171)から構成された。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しなかったが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有したため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去した。このアームは、上記のBEAT CD38-767/CD3抗CD3イプシロンアームにあたる(
図19のフォーマットB参照)。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT EGFR/CD3抗体という(
図25)。
【0274】
BEAT EGFR/CD3抗体を一過性発現させ、精製し、ヒトEGFR+細胞株に対してT細胞キリングをリダイレクトするその能力についてインビトロで試験した。HT-29細胞株をキリングアッセイに用いた。
図26は、BEAT EGFR/CD3抗体による、HT-29細胞のT細胞リダイレクトキリングを示す。このアッセイでは、エフェクター細胞としてヒトPBMCを、10対1のエフェクター細胞対標的細胞比で使用し、また48時間のインキュベーション後にRDL-MTS読み取り法を用いた(材料及び方法のセクションを参照)。結果は、BEAT EGFR/CD3抗体が、70.6pMのEC
50(4ドナーの平均)を有するHT-29細胞に対するリダイレクトT細胞キリングにおいて、非常に強力であったことを示す。
【0275】
ヒト化アービタックス/最大移植VH及びVL配列を用いてヒトEGFR抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例を次のようにフォーマットする:
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトEGFRに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.6に記載)の組合せを用いて、BEAT EGFR/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトEGFRアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号323)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号322)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT EGFRcetux-最大移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0276】
ヒト化アービタックス/最小移植VH及びVL配列を用いてヒトEGFR抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例を次のようにフォーマットする:
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトEGFRに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.6に記載)の組合せを用いて、BEAT EGFR/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトEGFRアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号325)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号324)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロン部分は、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT EGFRcetux-最小移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0277】
ヒト化ベクティビックス/最大移植VH及びVL配列を用いてヒトEGFR抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトEGFRに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.6に記載)の組み合わせを用いて、BEAT EGFR/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトEGFRアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号327)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号326)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
【0278】
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT EGFRpani-最大移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0279】
ヒト化ベクティビックス/最小移植VH及びVL配列を用いてヒトEGFR抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトEGFRに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.6に記載)の組み合わせを用いて、BEAT EGFR/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトEGFRアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号329)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号328)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT EGFRpani-最小移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0280】
CD19/CD3 BEAT抗体の例
抗CD19及び抗CD3重鎖は、第一のBEAT鎖と融合したscFv断片からなるscFv-Fc型の重鎖としてか、又は天然抗体のものと類似の第一のBEAT鎖と融合したFAB断片からなる重鎖としてフォーマットすることができる。FABベースの重鎖は、機能的抗原結合部位へと組み立てられるために、その同族の軽鎖との会合が必要である。L234A及びL235A置換をCH2領域に導入し、また適切な場合にはG65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を使用して、残留プロテインA結合を除去した。国際公開第2010095031号に記載の抗CD19VH及びVL配列を用いてヒトCD19抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例を以下のようにフォーマットする:
【0281】
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD19に対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.7に記載)の組合せを用いて、BEAT CD19/CD3の例を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD19アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するy3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号331)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号330)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するy1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT CD19/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0282】
PCT公開番号:国際公開第2010/095031号に記載のCD19発現細胞株を使用し、実施例3.2.1に記載のものと同様のアッセイにおいてリダイレクトT細胞キリングを評価した。
【0283】
IgE/CD3 BEAT抗体の例
抗IgE及び抗CD3重鎖は、第一のBEAT鎖と融合したscFv断片からなるscFv-Fc型の重鎖としてか、又は天然抗体のものと類似の第一のBEAT鎖と融合したFAB断片からなる重鎖としてフォーマットすることができる。FABベースの重鎖は、機能的抗原結合部位へと組み立てられるために、その同族の軽鎖との会合が必要である。L234A及びL235A置換をCH2領域に導入し、また適切な場合にはG65S又はN82aS置換(Kabat番号付け)を使用して、残留プロテインA結合を除去した。
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトIgEに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.8に記載)の組合せを用いて、BEAT IgE/CD3を操作する。
PCT公開番号:国際公開第2010/033736号に記載の、細胞表面でIgEを発現する細胞株を使用し、実施例3.2.1に記載のものと同様のアッセイにおいてリダイレクトT細胞キリングを評価した。
【0284】
安定化されたオマリズマブ/最大移植VH及びVL配列を用いてヒトIgE抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例を次のようにフォーマットする:
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトIgEアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号333)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号332)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT IgEomali-最大移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0285】
安定化されたオマリズマブ/最小移植VH及びVL配列を用いてヒトIgE抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例を以下のようにフォーマットする:
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトIgEアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号335)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号334)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT IgEomali-最小移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0286】
安定化されたBsw17/最大移植VH及びVL配列を用いてヒトIgE抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例を以下のようにフォーマットする:
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトIgEアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号337)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号336)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT IgEbsw17-最大移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0287】
安定化されたBsw17/最小移植VH及びVL配列を用いてヒトIgE抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例を以下のようにフォーマットする:
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトIgEアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号339)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号338)から構成される。この重鎖はヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、したがってプロテインAとの結合を有しないが、本明細書で使用する重鎖はVH3フレームワークに由来する重鎖可変ドメインを有するため、VHドメインをG65S置換を含むように突然変異させ、それにより重鎖内のいかなるさらなるプロテインA結合部位も除去する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT IgE bsw17-最小移植/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0288】
一のVH3ドメインのみを包含するBEAT抗体の例
CD38/CD3標的化BEAT抗体の例
ヒト化HB7/ベストフィット VH及びVL配列を用いてヒトCD38抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例は、次のようにフォーマットされた:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD38アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.3に記載)の組み合わせを用いて、BEAT CD38/CD3を操作した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD38アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号119)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号176)から構成された。この重鎖は、ヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、非VH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有したため、プロテインAへの結合を有しなかった。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号177)から構成された。この重鎖及び軽会合体は、PCT公開番号:国際公開第2008119565号に記載されているような抗ヒトCD3イプシロン抗体(SP34)のヒト化バージョンを包含した。このBEAT抗体フォーマットは、本明細書ではBEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3(SP34)抗体という(
図27 フォーマットA)。
【0289】
このBEAT HB7ベストフィット/CD3(SP34)抗体の、CD38+細胞に対してT細胞キリングをリダイレクトする能力をインビトロで調べた。CD38+Bリンパ芽球細胞株Daudiをキリングアッセイに用いた。
図28は、BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3(SP34)抗体による、Daudi細胞のT細胞リダイレクトキリングを示す。このアッセイでは、エフェクター細胞としてヒトPBMCを、10対1のエフェクター細胞対標的細胞比で使用し、また24時間のインキュベーション後にRDL-FACS読み取り法を用いた(材料及び方法のセクションを参照)。結果は、BEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3(SP34)抗体が、1.8pMのEC
50(3ドナーの平均)を有するDaudi CD38+細胞株に対するリダイレクトT細胞キリングにおいて非常に強力であったことを示す。
【0290】
ヒト化9G7ベストフィット VH及びVL配列(それぞれ、配列番号129及び130)を用いてヒトCD38抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の第二の例は、次のようにフォーマットされた:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD38アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.3に記載)の組み合わせを用いて、BEAT CD38/CD3を操作した。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD38アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号128)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号178)から構成された。この重鎖は、ヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、非VH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有したため、プロテインAへの結合を有しなかった。ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号179)から構成された。この二重特異性抗体のアームは、実施例2.1に記載のヒト化SP34 VH5/VL32抗体の可変ドメインを包含した。このBEAT抗体フォーマットは、本明細書ではBEAT CD38-9G7ベストフィット/CD3(SP34-カッパ2)抗体という(
図27 フォーマットB)。CD38-9G7ベストフィット/ CD3(SP34-カッパ2)抗体は、ヒトCD3 1-26_Fc融合タンパク質に対して18nMのKD値を有した(
図29)。
【0291】
このBEAT CD38-9G7ベストフィット/CD3(SP34-カッパ2)抗体の、CD38+細胞に対してT細胞キリングをリダイレクトする能力をインビトロで調べた。CD38+Bリンパ芽球細胞株Daudiをキリングアッセイに用いた。
図30は、BEAT CD38-9G7ベストフィット/CD3(SP34-カッパ2)抗体による、Daudi細胞のT細胞リダイレクトキリングを示す。このアッセイでは、エフェクター細胞としてヒトPBMCを、10対1のエフェクター細胞対標的細胞比で使用し、また24時間のインキュベーション後にRDL-FACS読み取り法を用いた(材料及び方法のセクションを参照)。結果は、BEAT CD38-9G7ベストフィット/CD3(SP34-カッパ2)抗体が、2pMのEC
50(3ドナーの平均)を有するDaudi CD38+細胞株に対するリダイレクトT細胞キリングにおいて非常に強力であったことを示す。
【0292】
OX40/CD3標的化BEAT抗体の例
抗OX40抗体VH及びVL配列(国際公開第2013008171号に記載)を用いてヒトOX40抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例を以下のようにフォーマットする:
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトOX40に対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.4に記載)の組合せを用いて、BEAT OX40/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトOX40アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号173)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号340)から構成される。この重鎖は、ヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、非VH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有するため、プロテインAへの結合を有しない。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT OX40/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0293】
上記のヒトOX40発現細胞株を使用し、実施例3.2.4に記載のものと同様のアッセイにおいてリダイレクトT細胞キリングを評価した。
【0294】
CD20/CD3標的化BEAT抗体の例
マウスリツキシマブ抗体VH及びVL配列を用いてヒトCD20抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例を次のようにフォーマットした:
抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD20アームに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.5に記載)の組合せを用いて、BEAT CD20/CD3を操作した。
【0295】
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD20アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号181)と組み立てられた、g1ベースのBEAT CH3ドメインを包含する、マウスリツキシマブ抗体可変ドメイン(それぞれ配列番号143及び144を有するマウス可変重及び軽鎖ドメイン)に基づくBEAT重鎖(配列番号180)から構成された。この重鎖は、ヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、非VH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有したため、プロテインAへの結合を有しなかった。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号177)から構成された。このアームは、上記のBEAT CD38-HB7ベストフィット/CD3抗CD3イプシロンアームにあたる(
図27のフォーマットA参照)。このscFv断片は、PCT公開番号:国際公開第2008119565号(それぞれ、配列番号182及び183を有するVH及びVLドメイン)に記載されているような抗ヒトCD3イプシロンSP34抗体のヒト化バージョンを包含した。このBEAT抗体フォーマットは、本明細書ではBEAT CD20/CD3(SP34)抗体という(
図31)。
【0296】
BEAT CD20/CD3(SP34)抗体を一過性発現させ、精製し、ヒトCD20+細胞株に対してT細胞キリングをリダイレクトするその能力についてインビトロで試験した。CD38+Bリンパ芽球細胞株Daudiをキリングアッセイに用いた。
図32は、BEAT CD20/CD3(SP34)抗体による、Daudi細胞のT細胞リダイレクトキリングを示す。このアッセイでは、エフェクター細胞としてヒトPBMCを、10対1のエフェクター細胞対標的細胞比で使用し、また24時間のインキュベーション後にRDL-FACS読み取り法を用いた(材料及び方法のセクションを参照)。結果は、BEAT CD20/CD3(SP34)抗体が、25pMのEC
50(3ドナーの平均)を有するDaudi細胞に対するリダイレクトT細胞キリングにおいて非常に強力であったことを示す。
【0297】
キメラリツキシマブ抗体VH及びVL配列を用いてヒトCD20抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトCD20に対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.5に記載)の組み合わせを用いて、BEAT EGFR/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD20アームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号181)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号341)から構成される。この重鎖は、ヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、非VH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有するため、プロテインAへの結合を有しない。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT CD20/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0298】
EGFR/CD3標的化BEAT抗体の例
マウスアービタックス抗体VH及びVL配列を用いてヒトEGFR抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトEGFRに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.6に記載)の組み合わせを用いて、BEAT EGFR/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトEGFRアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号175)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号342)から構成される。この重鎖は、ヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、非VH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有するため、プロテインAへの結合を有しない。
【0299】
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT EGFRcetux/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0300】
ヒトベクティビックス抗体VH及びVL配列を用いてヒトEGFR抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトEGFRに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.6に記載)の組み合わせを用いて、BEAT EGFR/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトEGFRアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号344)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号343)から構成される。この重鎖は、ヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、非VH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有するため、プロテインAへの結合を有しない。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT EGFRpani/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0301】
IgE/CD3標的化BEAT抗体の例
ヒト化オマリズマブ抗体VH及びVL配列を用いてヒトIgE抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトIgEに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.8に記載)の組み合わせを用いて、BEAT EGFR/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトIgEアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号346)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号345)から構成される。この重鎖は、ヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、非VH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有するため、プロテインAへの結合を有しない。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT IgEomali/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0302】
マウスBsw17抗体VH及びVL配列を用いてヒトIgE抗原及びヒトCD3イプシロンの両方を標的とするBEAT抗体の別の例は、次のようにフォーマットされる:抗ヒトCD3イプシロン及び抗ヒトIgEに対する抗原結合部位(それぞれ実施例2.1及び2.8に記載)の組み合わせを用いて、BEAT IgE/CD3を操作する。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトIgEアームは、可変重鎖領域、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg3 CH2領域、並びにその同族軽鎖(配列番号348)と組み立てられた、g3ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号347)から構成される。この重鎖は、ヒトIgG3 Fc領域の一部を包含し、非VH3ドメインサブクラスに由来する重鎖可変ドメインを有するため、プロテインAへの結合を有しない。
ヘテロ二量体免疫グロブリンの抗ヒトCD3イプシロンアームは、scFv断片、CH1 g1領域、g1ヒンジ領域、L234A及びL235A置換(EU番号付け)を有するg1 CH2領域、並びにg1ベースのBEAT CH3ドメインを包含するBEAT重鎖(配列番号311)から構成される。この二重特異性抗体は、本明細書ではBEAT IgEbsw17/CD3(SP34-カッパ2)抗体という。
【0303】
記載の膜IgE発現細胞株を使用し、上記のものと同様のアッセイにおいてリダイレクトT細胞キリングを評価した。
【0304】
scFvフォーマットでの改良型SP34の機能的同等性
- 二重特異性CD38×CD3抗体
種々のSP34 scFvを、その発現を改善するように行った修飾が機能的特性、すなわちCD3の結合にも影響を与えたかどうかを決定するために、CD38×CD3二重特異性に関して試験した。FABとして存在するCD38結合アームは、配列番号133によってコードされる重鎖可変領域と、配列番号134によってコードされる軽鎖可変領域とを含む。CD3結合アームは、scFv(配列番号403)として再フォーマットされた元のマウスSP34、又は重/軽鎖組み合わせH1/L21(配列番号361)、H5/L32(配列番号311)、H5/L65(配列番号394)、及びH5/L67(配列番号396)を含む修飾ヒト化SP34 scFvを含む。
【0305】
異なるバージョンのSP34を使用するCD3/CD38 BEATのそれぞれを一過性発現させ、精製した。T細胞キリングをリダイレクトする能力を比較するために、それらをインビトロで試験した。Raji CD38発現細胞株(材料及び方法のセクションを参照)を用いて、リダイレクトT細胞キリングを評価した。本アッセイでは、エフェクター細胞としてヒトPBMCを、10対1のエフェクター細胞対標的細胞比で用いた。
【0306】
RDL-FACS法で測定した場合、すべてのBEATは、6から10pMの間(2ドナーの平均、インキュベーション24時間、
図37)に相当するEC50を示した。
【0307】
- 二重特異性CD20×CD3抗体
H5/L65の重鎖/軽鎖組み合わせ(配列番号394)を含むSP34 scFvの特性も、CD20 FAB結合アーム、リツキシマブ、それぞれ配列番号282及び283を有するVH及びVLドメインと共に試験した。
【0308】
CD3/CD20 BEATを一過性発現させ、精製し、次いでインビトロで試験して、T細胞キリングをリダイレクトする能力を比較した。Raji CD20発現細胞株(材料及び方法のセクションを参照)を用いて、リダイレクトT細胞キリングを評価した。本アッセイでは、エフェクター細胞としてヒトPBMCを、5対1のエフェクター細胞対標的細胞比で用い、24時間インキュベートした。
【0309】
RDL-FACS法で測定した場合、すべてのBEATは、H1/L21(配列番号361)を含むCD3×CD20 BEATと同等の、37.56pM(4ドナーの平均、インキュベーション24時間、
図38)のEC50を示した。上記参照。
【0310】
- 二重特異性EGFR×CD3抗体
○ アービタックス/CD3
KRAS突然変異を有する患者は、モノクローナル抗体セツキシマブ(商品名アービタックス)(Karapetis C et al., N Engl J Med 359: 1757 (2008))による治療からの恩恵を何も示さない。
【0311】
改良型SP34 scFvの特性をさらに評価するため、また高EGFR発現細胞株を殺傷し、KRAS耐性を取り除くことが可能であることを実証するために、二重特異性アービタックス(重鎖配列番号174及び軽鎖配列番号175)-hSP34(配列番号394)BEATを構築し、KRAS突然変異がん細胞株A549(肺)及びHCT116(結腸直腸がん)でインビトロのリダイレクトT細胞溶解アッセイを実施した。加えて、アービタックス-hSP34が、低EGFR発現細胞ではなく、EGFRの高及び中発現レベルを示す細胞のみを殺傷することを実証するために、低EGFR発現細胞株MCF-7も本アッセイに含めた。EGFR PharmDx免疫組織化学キット(表2)を用いて、細胞株のEGFR状態を決定した。
【0312】
IvIgを各ウェルに2.5mg/mLで添加し、アービタックスエフェクター機能をブロックし、EGFRシグナル伝達の阻害であるアービタックスの作用機序をより上手く模倣した。
図39に示すように。アービタックスは、どの細胞株にも影響を及ぼさない(いずれのEC
50も評価することは不可能)。
【0313】
逆に、
図40に示すように、アービタックス/hSP34 BEATは、それぞれ66.97pM及び43.3pMのEC50を有するKRAS突然変異A549及びHCT116腫瘍細胞を効果的に殺傷することができる一方、より低いEGFR発現のMCF-7細胞は、効率的に死滅しない。
【0314】
○ ベクティビックス
改良型SP34 scFvの特性をさらに評価するため、また高EGFR発現細胞株を殺傷し、ScFvとしてのFAB-hSP34 BEAT(配列番号394)のような二重特異性ベクティビックス(VL 配列番号291及びVH 配列番号290)でKRAS耐性機序を取り除くことが可能であることを実証するために、高EGFR発現肺がん細胞株HCC827(肺)の他、KRAS突然変異肺がん細胞株A549並びに結腸直腸がんKRAS陽性細胞株HCT116及びSW480で、インビトロのリダイレクトT細胞溶解アッセイを実施した。
【0315】
ベクティビックス/hSP34 BEATが、低EGFR発現細胞ではなく、EGFRの高及び中発現レベルを示す細胞のみを殺傷することを実証するために、低EGFR発現細胞株MCF-7もキリングアッセイに含めた。該細胞株のEGFR状態(
図41)は、EGFR PharmDx免疫組織化学キット(英国、ケンブリッジのDako)を用いて決定した。
【0316】
図42に示すように、ベクティビックスは、評価した細胞株のいずれにも影響を及ぼさない(2ドナーの平均、エフェクター:標的細胞比20対1)、読み取り:MTSで48時間後)。
ベクティビックス/hSP34 BEATの場合、エフェクター:標的細胞比10:1を使用し、データを4ドナーの平均として提示する。
【0317】
図43に示すように、ベクティビックス/hSP34 BEATは、それぞれ0.1557、0.6127、0.3406、及び6.986pMのEC50を有する高EGFR発現細胞株HCC827並びにKRAS突然変異A549、HCT116、及びSW480腫瘍細胞を効果的に殺傷することができる一方、より低いEGFR発現のMCF-7細胞は、効率的に死滅しない(EC50=627.4pM)。
【0318】
表3において、4ドナーの平均EC50を決定し、治療ウインドウを算出した(EC50(X)/EC50(HCC827)ベクティビックス-CD3)。
【配列表】