(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ポリイミドを調製する方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2017559457
(86)(22)【出願日】2016-05-13
(86)【国際出願番号】 AT2016050140
(87)【国際公開番号】W WO2016179625
(87)【国際公開日】2016-11-17
【審査請求日】2019-03-12
(32)【優先日】2015-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(32)【優先日】2016-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】517391613
【氏名又は名称】テクニシェ ウニベルシテート ウィーン
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ウンターラス,ミリアム マルガレーテ
(72)【発明者】
【氏名】バウムガルトナー,ベッティナ
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-304869(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104448310(CN,A)
【文献】特開2015-098573(JP,A)
【文献】特表2016-520417(JP,A)
【文献】RAPHAEL BRUNEL et al,Water-borne Polyimides via Microwave-assisted Polymerization,HIGH PERFORMANCE POLYMERS,2010年,Vol 22,p82-94
【文献】BUU N. DAO et al,Microwave-Assisted Aqueous Polyimidization Using High-Throughput Techniques,MACROMOLECULAR RAPID COMMUNICATIONS,2007年,Vol.28, No.5,p604-607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒およびモノマーを混合すること、および、圧力下常圧で混合物の沸点を上回る温度で混合物を加熱することによる、適切な溶媒中におけるモノマーの溶液重合を用いた、ポリイミドのための溶媒熱合成プロセスであって、
前記プロセスは、
a)
a1)前記溶媒の沸点より高い温度を用いた条件である溶媒熱合成条件まで溶媒を加熱し、その後モノマーを加えて反応を開始すること、または、
a2)溶媒にモノマーを混合して、5分の期間内に溶媒熱合成条件まで混合物を加熱すること、
のいずれかにより、溶媒とモノマーとを混合および加熱することであって、
反応温度T
Rは、重合の間に、
固相状態におけるモノマーの重合温度T
Pよりも低く保持される、前記溶媒およびモノマーを混合および加熱することと、
b)本質的に完全な反応率が実現されるまで溶液重合を遂行することと、
により、結晶性ポリイミドを生成することを特徴とする、ポリイミドのための溶媒熱合成プロセス。
【請求項2】
ステップa2)におけるモノマーと溶媒との前記混合物が、3分以内に
、溶媒熱合成条件まで加熱されていることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ステップa2)におけるモノマーと溶媒との前記混合物が、マイクロ波放射を用いて加熱されることを特徴とする、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ステップa)に先行するステップにおいて、ジアミンと二無水物とのモル比1:1を有する化学量論的塩が、モノマーから生成されることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
反応温度T
Rが、
固相状態におけるモノマーの重合温度T
Pよりも、少なくとも5°C低く
、保持されることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
水、1つ若しくは複数のアルコール、または、水とアルコールとの混合物が、溶媒として用いられることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
芳香族ジアミンおよび/または芳香族テトラカルボン酸二無水物が、モノマー成分として用いられることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
芳香族ジまたはトリアミンおよび芳香族テトラカルボン酸二無水物の化学量論的塩が、モノマーとして用いられることを特徴とする、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
本質的に十分に結晶性ポリイミドが製造されることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒熱合成による結晶性ポリイミドの調剤薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、様々な適用に対して価値のある物質である。これらは通常、溶液中、溶融中、または固体の状態で、ジアミンのジアンヒドリドとの縮合重合によって合成される。驚くべきことに、いわゆる「熱水条件」下、すなわち100°Cより高い温度の圧力下での反応において、まさに水は、縮合反応中に生じる脱水反応にもかかわらず、ポリイミドの合成のための溶媒として用いられてもよいことが、何年か前に見出された(非特許文献1および特許文献1参照)。水以外の溶媒を用いる場合、これらの各沸点より高い温度を用いた条件は、「溶媒熱合成条件」と呼ばれている。
【0003】
この縮合反応は、アミド酸の形成を含んだ二段階メカニズムを有しており、このアミド酸の形成はその後、脱水環化を経て、類似のイミドを生成する。1999年、ダオらは、イミド化反応に対する顕著な影響を有している要因を検討し(非特許文献2)、とりわけ、イミド化反応温度がより高く、得られた製品の純度がより高いことが見出された。
【0004】
溶媒熱合成条件下における溶媒の性質の変更により、水を溶媒として用いる場合であっても、この脱水環化の反応平衡は製品側に移動する。これらの条件下で、水は、疑似有機溶媒のように振る舞う(非特許文献1)。
【0005】
通常、重合を遂行する前に、ジアミドとジアンヒドリドとから、化学量論塩を生成するが、ほとんどの場合、単にこのモノマーを水に混合し、塩を分離して、濾過により水中で凝結させることにより行われる。その場合、無水物は、加水分解を経て、遊離テトラカルボン酸を生成し、その酸の2つのカルボキシル基は、それぞれ1つのアミノグループとともにアンモニウム塩を生成する(非特許文献3)。時として(ポリアミドとの類似、特にナイロン合成との類似により)「AH塩」と呼ばれる、このように得られたモノマー塩において、これら2つのモノマーは1:1のモル比で存在するため、以降の重合が、純度の高いポリイミドをもたらす。下記の反応スキームは、典型的な芳香族モノマー2つの反応の一例である。
【0006】
【0007】
有機化合物の合成のため数年間用いられ、近年ポリイミドにも適用されていた他の最新のテクノロジーは、マイクロ波放射の照射で構成され、これにより、反応時間の顕著な減少および反応の選択性の増加が生じることになる(非特許文献4,5)。また、マイクロ波はすでに、ポリイミドの合成に用いられていた(非特許文献6、特許文献2)。
【0008】
しかし従来では、ポリイミドのマイクロ波支援熱水合成についての2つの報告があるのみであり、一方、ダオら(非特許文献7)は、一ジアミン(4,4'-オキシジアニリン、ODA)および二無水物(4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、6-FDA;ピロメリット酸ジアンヒドリド、PMDA)である三元モノマー混合物を用いて、120°C~200°Cの温度で連続実験を行い、できるだけ高い分子量を得ることを目的とする場合、このように得られた下記の式であるランダム(ブロック)コポリマーのために最高の結果が、180~200°Cで得られたことを見出した。
【0009】
【0010】
しかし一方では数年前、ブルネルら(非特許文献8)は、ODAおよび4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(無水フタル酸)(ビスフェノールA二無水物、BPADA)の二成分ポリイミドを用いて、マイクロ波を適用すれば、反応時間が顕著に減少、すなわち4~12hからたった5~10分に減少するようになったことを、再び確かめた (非特許文献8)。
【0011】
【0012】
しかしながら、この短時間に実現される反応率は比較的低く、すなわち約20%である。
【0013】
この製品の結晶化度は、二マイクロ波支援水熱合成に対する影響を有しなかった:特許文献7は、得られたポリイミドの性質について、分子量および溶解性を除いて説明していない。しかし、周到な三成分系を用いて結晶性製品を得ることは不可能であり;膜を生成するための用途に関連して得られたポリイミドが検討されたため、これは、そもそも研究の目的でなかった。従って、本目的は、このような溶液をフィルム流延に用いることができるようになるため、有機溶媒中において冷凍液を実現することである。そして、ブルネルら(上記)は、アモルファス製品を得たことを、はっきりと明らかにする(89ページ)。この目的が、注型ポリイミドフィルム(m-クレゾール溶液を用いて)の調剤薬でもあったため、製品の結晶化度は、どれも重要であるとは考慮されなかった。
【0014】
「共有結合性有機構造体」(COF)の調剤薬は、ときに大きなポアを有してもよい結晶性ポリイミドを用いた、ごく近年の技術である(非特許文献9)。この目的のために、高結晶性ポリイミドが必要とされ、アモルファス製品または高アモルファス部を有する製品は全く不適当である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】国際公開第99/06470号
【文献】米国特許第5453161号明細書
【非特許文献】
【0016】
【文献】ホジキンら(Hodgkin et al.,)、「ポリイミドの重合溶媒-環化としての水:ルシャトリエが混乱か?(Water as a Polymerization Solvent-cyclization of Polyimides: Le Chatelier Confounded ?)」、高分子予稿集( Polym. Prep.)(米国化学会、高分子化学部門(American Chemical Society, Division of Polymer Chemistry))41、2000、p.208
【文献】ダオ、ホジキンおよびモートン(Dao, Hodgkin and Morton)、「水中でイミド合成を制御する重要な要因(Important Factors Controlling Synthesis of Imides in Water)」、高性能高分子11(High Performance Polymer 11)、1999、p. 205-218
【文献】ウンタラスら(Unterlass et al.)、「芳香族ポリイミドの熱水合成の機械学的研究(Mechanistic study of hydrothermal synthesis of aromatic polyimides)」、高分子化学(Polym. Chem.)、2011、2、1744
【文献】リンドストロームら(Lindstrom et al.)、「マイクロ波支援有機合成:概観(Microwave Assisted Organic Synthesis: a Review)」、テトラヘドロン57(Tetrahedron 57)、2001、p. 9225-9283
【文献】ペルーら(Perreux et al.)、「反応媒体および機械学の考慮に従った、有機合成におけるマイクロ波効果の試験的合理化(A Tentative Rationalization of Microwave Effects in Organic Synthesis According to the Reaction Medium, and Mechanistic Considerations)」、テトラヘドロン57(Tetrahedron 57)、2001、p. 9199-9223
【文献】ルイスら(Lewis et al.)、「マイクロ波放射を用いた促進イミド化反応(Accelerated Imidization Reactions using Microwave Radiation)」、高分子論文集、A部:高分子化学30(J. Polym. Sci. , Part A: Polym. Chem. 30)、1992、p. 1647-1653
【文献】ダオ、グロートおよびホジキン(Dao, Groth and Hodg-kin)、「ハイスループットな技術を用いたマイクロ波支援含水ポリイミド化(Micro-wave-assisted Aque-ous Polyimidization using High-throughput Tech-ni-ques)」、高分子速報28(Macro-mol. Rapid Com-mun)、2007、p.604-607
【文献】ブルネル、マレスチン、マーティンおよびメルシェ(Brunel, Marestin, Martin and Mercier),「マイクロ波支援重合を介した水系感染性ポリイミド(Water-borne Polyimides via Microwave-assisted Polymerization)」、高性能高分子22(High Per-form. Polym 22)、2010、p. 82-94
【文献】ファンら(Fang et al.)、「大空孔結晶性ポリイミド共有結合性有機肥料構造体の計画的な合成(Designed synthesis of large-pore crystalline polyimide covalent organic frameworks)」、ネイチャーコミュニケーションズ5(Nature Communications 5)、2014、p.4503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
この背景に対して、本発明の目的は、できるだけ高い純度を有する高結晶性ポリイミドを生成するための効率的な方法を生じることであった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的は、結晶性ポリイミドに対する溶媒熱合成プロセスを提供し、溶媒とモノマーとを混合することによるモノマーの溶液重合を適切な溶媒中に用いて、常圧でそれぞれの沸点を上回る温度で混合物を熱することにより、実現されるものであり;前記プロセスは、
a)
a1)溶媒熱合成条件まで溶媒を加熱し、その後モノマーを加えて反応を開始すること、または、
a2)溶媒にモノマーを混合して、5分の期間内に溶媒熱合成条件まで混合物を加熱すること、
のいずれかにより、溶媒とモノマーとを混合および加熱することであって、
該反応温度TRは、重合の間に、固相状態におけるモノマーの重合温度TPよりも低く保持される、該溶媒とモノマーとを混合および加熱することと;
b)本質的に完全な反応率が実現されるまで溶液重合を遂行することと、
により、本質的に十分に結晶性ポリイミドを生成することを特徴とする。
【0019】
このプロセスは、本発明者らのいくつかの新知見に基づいている。
【0020】
-第1に、溶媒熱合成によって、および特に水熱合成によって、生成されるポリイミドの結晶化度は、溶媒熱合成条件に到達する前に溶媒に溶解されるモノマーの割合は、より低いほど高い。これは、モノマーと溶媒とのいずれも共に、できるだけ速く溶媒熱合成条件に到達することが必要であること、すなわち、それらは5分内に、好ましくは3分内に、さらに好ましくは2分内に、特に好ましくは1分内に、溶媒の沸点より高い温度に加熱される必要があること、または、溶媒は別途加熱されることであって、溶媒熱合成条件が確立されれば直ちにモノマーのみが加えられること、を意味する。
【0021】
-第2に、モノマーと溶媒とが共に加熱されるならば、反応温度TRは、製品中のアモルファス部分が増加する場合とは別に、固相状態におけるモノマーの重合温度TPより低く保たれなければならない(熱重量分析法(TGA)によって決定してもよい)。本発明に従い、上記ステップa2)において、できるだけ十分に結晶性ポリイミドを得るため、重合が、少なくとも5°C、より好ましくは少なくとも10°Cの、TPよりも低い反応温度TRで、このように実施される。
【0022】
-第3に、溶媒とモノマーとが別々に加熱され、その後混合される場合は、モノマーが高温溶媒により非常に迅速に加熱されることにより、反応温度が到達して重合反応が開始する前に、モノマーが溶解することが、不可能になる。本発明のプロセスのステップa1)では、このように反応温度が限定されている必要はない。
【0023】
本発明のプロセスのステップa2)に従って、溶媒とモノマーとが共に加熱されるべき反応温度を制限することは、イミド化反応ができるだけ高い温度で実施されることになるとの既定の教示とは、正反対である(特許文献2、特許文献7を参照)。
【0024】
比較として:ブルネルらは、マイクロ波放射を使用して、その反応混合物を急速に加熱するが、(ダオらの教示に従い)200°Cの反応温度を選択し、そして、このように得られた製品は全体にアモルファスであった。本発明者らは、TGA(
図1を参照)を用いて、ブルネルらにより用いられるODAとBPADAとのモノマー混合物のT
Pが148°Cであったことを判断し、このことにより、ブルネルらが重合反応を、T
Pよりおよそ52°C高い温度で実施したこと;更に、本発明により提供される通りに本質的に完全な反応率を実現するまで待つ代わりに、2、3分後に反応を停止したこと、を意味している。
【0025】
本発明は、モノマーとしてジアミンおよび二無水物を用いることに限定されておらず;たとえば3-若しくはテトラアミン、または、-無水物等の、高度なアミンおよび/または無水物を使うことも可能である。本発明に従って、上記の共有結合性有機構造体(COF)で使用するために適した架橋ポリイミドを得るためには、高度なモノマーが好ましい(ファンら、上記参照)。高度なモノマーまたは二価若しくは高度なモノマーの混合物の、縮合重合の反応機構、ならびに本発明の原則は、無論本質的に、二価試薬のそれらに対応し、これは、後者が、下記の例示的な実施例に用いられる理由である。それにもかかわらず、「ジアミン」、「ジアンヒドリド」および「テトラカルボン酸」が下記に説明される場合、状況が別段に影響しない限り、高度なモノマーは暗黙のうちに開示されるとみなすべきである。不純物のない高度結晶性製品を本質的に得るため、モノマー混合物の化学量論ができるだけ正確であることが重要である。
【0026】
本発明に従い、ジアミンとジアンヒドリド間のモル比1:1を有する化学量論的塩(モノマー塩、「AH塩」)を生成する追加のステップが、ポリイミドに有する未変換モノマーの割合をできるだけ低く保つため、ステップa)に先行することが好ましい。高度なモノマーを本発明のプロセスに用いる際、この追加の予備生成工程は、無論、モノマーの結合価、すなわちジアミンを三無水物(またはトリアミンによるジアンヒドリド)に結合させる時の約3:2の比率に対応する、異なるモル比を有する塩を提供する。
【0027】
プロセスに用いられる溶媒は、モノマーの溶解性の範囲で限定されるのみであり、溶媒中のこれらの化学量論的塩は、十分に少ないことが必要であり、その沸点は、2つのモノマー要素のTPより低くあるべきである。経費および環境系統を考慮して、水または1つ若しくは複数のアルコール、または水とアルコールとの混合物は、溶媒として用いられることが好ましく、水が特に推奨されており、それは、特に本発明の好ましい実施形態が、ポリイミドを熱水合成するためのプロセスを提供することを意味している。
【0028】
本発明に従い、芳香族ジアミンおよび/または芳香族テトラカルボン酸無水物が、モノマー要素として用いられることが好ましい。更により好ましくは、両方の成分が芳香族であり、これはポリマー鎖の剛性を増加させるからであり、これは、一方では、結晶化に有利に働き、他方では、本発明により好ましい水およびアルコールの溶媒に対する溶解性を減少させる。本発明の目的で、特に、芳香族ジアミンの化学量論的塩、および芳香族テトラカルボン酸の無水物、または高度な芳香族アミンおよび無水物が用いられる。
【0029】
本発明に従って、モノマー成分の部分が小さい場合でもその時間において溶解され得るように、溶媒熱合成条件に到達するまでの暖房時間は、できるだけ短いのであり、本発明のプロセスは特に、ステップa1)である、溶媒熱合成条件で溶媒を別々に加熱することと、その後モノマーを高温溶媒に添加することと、を備えており、これが、溶媒熱合成条件が確立される前に、モノマーの溶解を完全に予防するのである。これがさらに精巧な器材を必要とするため、および、代替ステップa2)により獲得できる結果が非常に良いため、場合によって、できるだけ急速にモノマーと溶媒とを共に加熱することが、a1)に対して好ましいこともある。
【0030】
好ましい実施形態では、「できるだけ急速に共に加熱すること」は、マイクロ波放射の使用を備えており、それは、この方法(上記のように)が有機合成において既定の技術になったものであり、このように本発明に従って特に好ましいからである。しかしながら、当業者には明らかなように、反応器のタイプに応じて、赤外線レーザー等を用いた光学加熱プロセス等の、反応混合物を迅速に加熱するその他の方法は、少なくとも同様の結果を産出すると考えられ、このようにマイクロ波放射に基本的に等しいと考えられる。
【0031】
用いられるプロセスのタイプは、モノマータイプおよびポリイミドの派生結晶化傾向に強く左右されると共に、モノマーの溶媒への溶解性にも強く左右される。モノマーが、溶媒内、および重合中の加熱媒体温度と望ましい溶解温度との違いに対して、ほとんど解決できない場合は、(非常に高温な)加熱浴または循環空気乾燥器の使用は、非常に良い結果を提供する場合がある。これは特に、下記に記載の典型的な実施形態により例示されるように、たとえば高剛体分子構造を有する芳香族またはその他のモノマーが用いられるような状況である。一般に、ステップa2)で溶媒とモノマーとが共に加熱されるならば、すでに上記したように、溶媒熱合成条件が到達するまでの時間が、5分よりも短く、好ましくは3分よりも短く、更に好ましくは2分よりも短く、特に好ましくは1分以下であることを、確認すべきである。
【0032】
本発明は、以下に示す具体的な典型実施形態および添付図面を参照して、下記に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】ブルネルら(上記)に従ったモノマー混合物のTGA曲線を表す図である。
【
図2】本発明の実施例1で得られたポリイミドのXRDパターンを表す図である。
【
図3】本発明の実施例1で得られたポリイミドのSEM画像を表す図である。
【
図4】本発明の実施例3で得られたポリイミドのXRDパターンを表す図である。
【
図5】本発明の実施例3で得られたポリイミドのSEM画像を表す図である。
【
図6】本発明の実施例4で得られたポリイミドのXRDパターンを表す図である。
【
図7】本発明の実施例5で得られたポリイミドのXRDパターンを表す図である。
【
図8】本発明の実施例で得られたポリイミドのXRDパターンを表す図である。
【
図9】本発明の実施例8で得られたポリイミドのXRDパターンを表す図である。
【
図10】本発明の実施例9で得られたポリイミドのXRDパターンを表す図である。
【
図11】本発明の実施例10で得られたポリイミドのXRDパターンを表す図である。
【
図12】本発明の実施例11で得られたポリイミドのXRDパターンを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
下記に記載のポリイミドの熱水合成に用いられたすべての反応物は、商業的供給源から得られ、さらに精製なしで用いられた。ネッチTG209アナライザーを用いて、熱重量分析法が実施され、ブルカーテンソル27で、IR分光学が実施された。パナリティカルエキスパートプロ多目的回折計を用いて、X線粉末ディフラクトグラムが記録され、クオンタ200F FEIを用いて、走査型電子顕微鏡が実施された。
【0035】
略語
HT:熱水
XRD:X線回折法
IR:赤外分光測定
TGA:熱重量分析法
SEM:走査型電子顕微鏡
PDA:p-フェニレンジアミン、1,4-ジアミノベンゼン
PMA:ピロメリト酸、ベンゼン1,2,4,5-テトラカルボン酸
PMDA:ピロメリット酸二無水物、ベンゼン1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物
PPPDI:ポリ(p-フェニレンピロメリット酸ジイミド)
BTA:ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸
BTDA:ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物
PPBTDI:ポリ(p-フェニレンベンゾフェノンテトラカルボン酸ジイミド)
Bz:ベンジジン、4,4’-ジアミノビフェニル
PBBTDI:ポリ(p-ビフェニレンベンゾフェノンテトラカルボン酸ジイミド)
TAPB:1,3,5-トリ(4-アミノフェニル)ベンゼン
PBTPPDI:ポリ(ベンゾトリ(p-フェニレン)ピロメリット酸ジイミド)
Xcr:結晶化度
【0036】
実施例1-ポリ(p-フェニレンピロメリット酸ジイミド)、PPPDIの生成
【化4】
【0037】
a)モノマー塩の生成[H2PDA2+PMA2-]
不活性雰囲気下で、還流冷却器を備えた三つ口フラスコにPMDA0.327gを添加し、蒸留水15ml中に溶解した。溶液を撹拌しつつ、80°Cに加熱してPDA0.162gを添加し、モノマー塩を白色粉末として即時に析出した。撹拌が2時間継続し;その後塩を濾過し、真空で乾燥した。乾燥モノマー塩のTGA分析を、205°Cの固体重合温度TPで行った。
【0038】
b)HT重合
モノマー塩を蒸留水15mlに分散し、非撹拌オートクレーブに供給して、4.5分内にHT条件まで加熱した後、更に200°Cに加熱した。この反応温度で1時間経過後、迅速にオートクレーブを室温に冷却して、生成されたPPPDIを濾過し、蒸留水で洗浄して、真空中で40°Cで一晩乾燥した。
【0039】
PPPDIはオレンジ色であり、FT-ATR-IR(1783cm
-1(C=Oイミド);1709cm
-1(C=Oイミド);1365cm
-1(C-N))を用いて決定されるように、十分にイミド化され、モノマーまたはモノマー塩が識別可能な振動を示さなかった。粉末XRDを用い、2つの固体結晶相の形態で存在する、すなわちアモルファス部分なしの、製品の完全な結晶化度が、決定した。このように、結晶化度Xcrは、>99%に達した。
図2は、得られたポリイミドのXRDパターンを示す。得られたPPPDIが非常に均一で規則的な形態を有しており、これは極めて高度な結晶化度のさらなる証拠であることを、SEMは示した。
図3は、ポリイミドのSEM画像を示す。
【0040】
【0041】
PMDA8.72gおよびPDA4.33gからモノマー塩を蒸留水400ml中に生成したことを除き、実施例1の方法を本質的に繰り返した。そしてオートクレーブ内の撹拌反応器内で、このモノマー塩(TP205°C)を4分以内にHT条件に加熱し、その後も200°Cに加熱して、実施例1と同じ方法で、製品を分離して乾燥させた。このPPPDIの純度および結晶化度が、IRおよびXRDによって見出されたように、実施例1からの製品の純度および結晶化度に対応しており:Xcr>99%。
【0042】
理論に束縛されることを望むものではないが、モノマーの水溶性が低いことに加えて、得たポリイミドの剛性が高いことが、ポリマー分子の繰り返し単位のほぼ平面配置におけるメソメリー効果結果として得たPPPDIの結晶化度が高いことの原因となることが想定される。
【0043】
実施例3-ポリ(p-フェニレンベンゾフェノンテトラカルボン酸ジイミド)、PPBTDIの生成
【化6】
【0044】
実施例1に記載された方法に類似した方式で、蒸留水15ml中のBTDA0.48g(1.5mモル)と、PDA0.11gとを、撹拌しながら、モノマー塩[H2PDA2+BTA2-]に変換させたが、これはしかしながら、室温で行われたものである。このモノマー塩のTPは、TGAの決定によれば149°Cであり、その後モノマー塩を、水15mlと共にオートクレーブに供給し、5分以内にHT条件まで、そして撹拌なく140°Cに、加熱し、続いて12時間多環縮合して、ポリイミドPPBTIを得た。
【0045】
茶色みの結晶のIRが、完全なイミド化を示し(1781cm
-1(C=Oイミド);1717cm
-1(C=Oイミド);1378cm
-1(C-N))、これは、モノマーまたはモノマー塩により生じた識別可能な振動がなかったためである。結晶化度を、粉末XRDにより検討した。
図4は、PPBTDIのXRDパターンを示しており、ガウス曲線が、結晶性ピークの曲線の下に設けた非晶構造の比率におおよそ対応している。2本の曲線の下の領域から、およそ62%の結晶化度Xcrが計算された。それにもかかわらず、得られたPPBTDIの形態が高度に規則的であることを、
図5に示したポリイミドのSEM画像が示している。
【0046】
実施例4-ポリ(p-ビフェニレンベンゾフェノンテトラカルボン酸ジイミド)、PBBTDIの生成
【化7】
【0047】
実施例3に記載した方法に類似した方式で、蒸留水15ml中のBTDA0.48g(1.5mモル)と、Bz0.22gとを、撹拌しながら、モノマー塩[H2Bz2+BTA2-]に変換させた。このモノマー塩のTPは、TGAの決定によれば172°Cであり、その後モノマー塩を、水15mlと共に非撹拌オートクレーブに供給し、4.5分以内にHT条件まで、そして160°Cに、加熱し、続いて12時間多環縮合してポリイミドPPBBTDIを得た。
【0048】
茶色みの結晶のIRが、完全なイミド化を示し(1786cm
-1(C=Oイミド);1709cm
-1(C=Oイミド);1389cm
-1(C-N))、これは、モノマーまたはモノマー塩により生じた識別可能な振動がなかったためである。結晶化度を、粉末XRDにより検討した。
図6は、PBBTDIのXRDパターンを示しており、およそ61%の結晶化度Xcrが、結晶性ピークの曲線下の領域から再び計算されており、その下に設けられるガウス曲線がおおよそアモルファス部分を構成する。
【0049】
理論に束縛されることを望むものではないが、実施例3からのPPBTDIおよび実施例4からのPBBTDIの著しく低い結晶化度は、実施例1および実施例2からのPPPDIと比較して、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、BTA、の高い水溶性によるものであることが想定される。
【0050】
実施例5-マイクロ波放射を用いたPPBTDIの生成
【化8】
【0051】
2分足らずで熱水条件をすでに得るよう、ならびに、わずか1時間後に重合反応を本質的に完了するように、マイクロ波照射により加熱を行ったことを除き、実施例3を本質的に繰り返した。
【0052】
この場合の完全なイミド化もまた、IRは示しており、得られた乾燥PPBTDIの粉末XRDパターンを
図7に示す。結晶性ピークの曲線およびその下に設けられるガウス曲線の下の領域から、結晶化度Xcrが約93%に計算されており、それは実施例3で得られた製品の62%よりも31パーセントだけ高い。マイクロ波を用いた著しく高速な加熱プロセス(実施例3の4分の代わりに実施例5の2分)により、結晶化度がこのように顕著に50%増加し、これは見たところ、HT条件の前に溶解されるモノマー塩のさらに低い比率が確立されたからである。
【0053】
実施例6-マイクロ波放射を用いたPBBTDI生成
【化9】
【0054】
2分足らずで熱水条件をすでに得るよう、ならびに、わずか1時間後に重合反応を本質的に完了するように、マイクロ波照射により加熱を行ったことを除き、実施例4を本質的に繰り返した。
【0055】
この場合の完全なイミド化もまた、IRは示しており、得られた乾燥PPBTDIの粉末XRDパターンを
図8に示す。結晶性ピークの曲線およびその下に設けられるガウス曲線の下の領域から、結晶化度Xcrが約80%に計算されており、それは実施例4で得られた製品の62%よりも19パーセントだけ高い。マイクロ波を用いた著しく高速な加熱プロセス(実施例4の4.5分の代わりに実施例6の2分)により、このように結晶化度がおよそ30%顕著に増加し、これは見たところ、HT条件の前に溶解されるモノマー塩のさらに低い比率が確立されたからである。
【0056】
実施例7-エチルアルコール内におけるPPPDIの生成
【化10】
【0057】
水を重合に用いる代わりに、モノマー塩をエチルアルコール400ml中に懸濁することを除き、実施例2を本質的に繰り返した。反応(4.5分以内のHT条件への、ならびに200°Cへの加熱の後)および以降の精密検査についても、実施例2に類似した方式で実施した。
【0058】
この場合にもIRを適用して、完全なイミド化を確認しており、粉末XRDパターンは、実施例1からの場合にほぼ正確に対応している(
図2を参照)。
【0059】
従って、水以外のプロトン性溶媒内で、PDAおよびPMDAを高結晶性ポリイミドに縮合重合したことも可能であることを証明することがこのように可能であり、同一の優れた成功結果をもたらした。
【0060】
実施例8-マイクロ波放射を用いた、架橋ポリイミドポリ(ベンゼントリ(p-フェニレン)-ピロメリット酸ジイミド)、PBTPPDIの生成
【化11】
【0061】
PMDA0.06g(0.3mモル)とTAPB0.07g(0.2mモル)とを、モノマー塩[(H3TAPB3+)2(PMA2-)3]に変換し、そのTPを、TGAを用いて152°Cとなるように測定し、この塩をその後、非撹拌オートクレーブ中および水15ml中でマイクロ波を用いて加熱して、2分以内にHT条件に到達し、最終的に140°Cに加熱し、その後12時間多環縮合してポリイミドPBTPPDIを得ることを除いて、実施例3に記載した手順を本質的に繰り返した。
【0062】
乾燥茶色の結晶のIRが、完全なイミド化を再び示し(1785cm
-1(C=Oイミド);1723cm
-1(C=Oイミド);1390cm
-1(C-N))、これは、モノマーまたはモノマー塩により生じた識別可能な振動がなかったためである。粉末XRDにより、結晶化度を検討した。
図9は、PBTPPDIのXRDパターンを示し、そこではアモルファス部分を見出すことができず、結晶化度Xcrが>99%であることを示している。
【0063】
実施例9-別途加熱した溶媒へのモノマーの注入によるPPPDIの生成
【化12】
【0064】
モノマー塩が、実施例1a)に記載のように生成されたが、電荷は10倍高かった。このように得た塩を、蒸留水100ml中に分散し、1Lの鋼鉄反応器に関係する高圧鋼ピペットに、分散物を供給し、バルブにより蒸留水400mlを含んでいる反応チャンバから分離した。オートクレーブ中にデバイスを置き、それぞれの自己生成圧力の下で、反応チャンバ中の水を200°Cに加熱した。反応温度に到達した時に、バルブを開き、予め加熱された溶媒に対して、30秒未満で不活性ガス圧力により、モノマー分散物を注入した。続いて反応混合物を200°Cで1時間撹拌し、その後、反応率を完了したことを見出し、実施例1に記載したように、製品を分離して乾燥させた。
【0065】
このPPPDIの純度および結晶化度が、IRおよびXRDにより見出されており、実施例1から製品のそれに対応している(
図10はそれぞれのXRDパターンを示す)。モノマーまたはモノマー塩により生じた識別可能な振動がなく、アモルファス部分がなく、結晶化度Xcr100%を示した。
【0066】
実施例10-別途加熱した溶媒へのモノマーの注入によるPPBTDIの生成
【化13】
【0067】
モノマー分散物を注入して完全な反応率を確保した後に、200°Cで4時間反応混合物を撹拌したことを除いて、実施例9に記載した手順に類似した方式で、実施例3および5よりも10倍高い電荷を用いて、PDAのBTDAとの反応を実施した。
【0068】
このように得られたPPBTDIのIRおよびXRDピークは、実施例3および5からのそれらに対応したものの;しかしながら、この場合は、アモルファス部分がほとんどなく、それは>99%のXcrを示している。類似のXRDパターンを、
図11に示す。モノマーのほとんどいずれも溶解しなかったため、溶媒を別途加熱した後に得られる製品は、このように純度が、実施例5で得られたそれよりも著しく高かった。
【0069】
実施例11-別途加熱された溶媒へのモノマーの注入によるPBBTDIの生成
【化14】
【0070】
実施例9に記載された手順に類似した方式で、実施例4および6よりも10倍高い電荷を用いて、BzのBTDAとの反応を実施した。しかしながら、モノマー分散物を注入した後に、反応混合物を200°Cで4時間撹拌して、完全な反応率を確保した。
【0071】
このように得られたPPBTDIのIRおよびXRDピークは、実施例4および6からのそれらに対応するが;しかしながら、この場合は、識別できたアモルファス部分は非常に少なく、それは>90%のXcrを示した。類似のXRDパターンを
図12に示す。従って、溶媒を別途加熱した後に得られた製品は、モノマーのほとんどいずれも溶解しなかったため、実施例6で得たそれに比べて純度がこのように著しく高く、このため、実施例6からの製品と比較して、製品の結晶化度が10パーセントポイント増加していた。
【0072】
要約すれば、上記実施例の結果は、下記表1に列挙されており、これは、本発明に従って調製されたポリイミドの優れた結晶化度の証明であり、マイクロ波放射線を用いて加熱率を高くすることにより、および、溶媒を別途予熱することにより、さらに増加することがある。水溶性の非常に低い構造に対して、優れた結晶化度を得るために、加熱浴または循環空気を用いて十分熱してもよい。
【0073】
【0074】
本発明の方法における好ましい実施形態の長所は、PPPDIを生成するための実施例1、2および9、PPBTDIを生成するための実施例3、5および10、ならびに、PBBTDIを生成するための実施例4、6および11を比較する際に、特に明白になる。マイクロ波により実現される高加熱速度は、一般の加熱手順を用いて得たものと比較すれば、この高加熱速度でこのように得た製品の結晶化度を大幅に向上させる。溶媒熱合成条件への溶媒を別途加熱し、さらにその後モノマー塩を添加することにより、結晶化度をなお一層改良してもよく、このように、重合温度に到達する前に、モノマーのほとんどいずれも溶解しないようになる。
【0075】
後者の場合、反応温度は、所定の場合にはいまだ好ましいものの、固相状態におけるモノマーの重合温度TP以下に保持される必要はないことを意味するものである。
【0076】
本発明は、このように、溶媒熱合成によりポリイミドを調製するための改良法を提供するものであり、先行技術に従って達成可能な使用製品よりも、著しく高い結晶化度を示す製品をもたらすものである。
【図 】