(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】マススペクトル処理装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20220106BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 Y
G01N27/62 V
(21)【出願番号】P 2018008571
(22)【出願日】2018-01-23
【審査請求日】2020-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弥
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-117813(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002226(WO,A1)
【文献】特開2013-044638(JP,A)
【文献】特表2005-539199(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0261243(US,A1)
【文献】Scott D.Hanton et al.,Investigations of Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization Sample Preparation by Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry,JOURNAL OF THE AMERICAN SOCIETY FOR MASS SPECTROMETRY,ELSEVIER SCIENCE INC,US,1999年02月01日,Vol.10, No.2,104-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62 - G01N 27/70
H01J 49/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析対象ポリマーを含む試料に対して設定された観測領域を構成する複数のピクセルに対応する複数のマススペクトルに基づいて、マススペクトル単位でマススペクトル全体についての特徴を示す指標を演算する指標演算手段と、
前記複数のピクセルに対応する複数の指標に基づいて、前記観測領域に対応した指標分布像を生成する生成手段と、
を含
み、
前記各マススペクトルには、前記質量分析対象ポリマーが有する複数の重合度に対応した複数の部分が含まれ、
前記指標演算手段は、
前記各マススペクトルにおける前記複数の部分から複数のイオン強度をイオン強度列として演算し、これにより前記複数のマススペクトルから複数のイオン強度列を演算する手段と、
前記複数のイオン強度列に基づいて前記複数の指標を演算する手段と、
を含み、
前記各指標は、数平均分子量、重量平均分子量、多分散度、数平均重合度、重量平均重合度又は総イオン量である、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記指標演算手段は、前記質量分析対象ポリマーにおけるモノマーの質量を含むポリマーシリーズ特定情報に基づいて前記複数の部分を特定する、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項3】
請求項
2記載の装置において、
前記ポリマーシリーズ特定情報には、更に、末端基の質量、カチオン化剤の質量及び重合度範囲の内の少なくとも一方が含まれる、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記指標演算手段は、前記マススペクトル単位でマススペクトル全体について
の特徴を示す複数の指標からなる指標セットを演算し、
前記生成手段は、前記複数のピクセルに対応する複数の指標セットに基づいて、単一の指標分布像又は複数の指標分布像を生成する、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項5】
請求項
1記載の装置において、
前記各イオン強度列は前記各マススペクトル
それ全体にわたって離散的に存在する
前記複数の部分に基づいて演算される、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項6】
請求項1記載の装置において、
前記複数のマススペクトルに基づいて複数のマスイメージを生成する手段を含み、
前記指標演算手段は前記複数のマスイメージに基づいて前記複数のピクセルに対応する前記複数の指標を演算する、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項7】
質量分析対象ポリマーを含む試料に対して設定された複数のピクセルに対応する複数のマススペクトルに基づいて、マススペクトル
ごとに前記質量分析対象ポリマーの性質を示す複数の指標からなる指標セットを演算する工程と、
前記複数のピクセルに対応する複数の指標セットに基づいて、複数の指標分布像を生成する工程と、
を含み、
前記各マススペクトルには、当該マススペクトルそれ全体にわたって離散的に存在する複数の部分であって前記質量分析対象ポリマーが有する複数の重合度に対応した複数の部分が含まれ、
前記指標セットを演算する工程は、
前記各マススペクトルにおける前記複数の部分から複数のイオン強度をイオン強度列として演算し、これにより前記複数のマススペクトルから複数のイオン強度列を演算する手段と、
前記複数のイオン強度列に基づいて前記複数の指標セットを演算する手段と、
を含む、
ことを特徴とするマススペクトル処理方法。
【請求項8】
情報処理装置においてマススペクトル処理方法を実行するためのプログラムにおいて、
質量分析対象ポリマーを含む試料に対して設定された観測領域を構成する複数のピクセルに対応する複数のマススペクトルに基づいて、マススペクトル
ごとに前記質量分析対象ポリマーの性質を示す指標を演算する機能と、
前記複数のピクセルに対応する複数の指標に基づいて、前記観測領域に対応した指標分布像を生成する機能と、
を含
み、
前記各マススペクトルには、当該マススペクトルそれ全体にわたって離散的に存在する複数の部分であって前記質量分析対象ポリマーが有する複数の重合度に対応した複数の部分が含まれ、
前記指標を演算する機能は、
前記各マススペクトルにおける前記複数の部分から複数のイオン強度をイオン強度列として演算し、これにより前記複数のマススペクトルから複数のイオン強度列を演算する機能と、
前記複数のイオン強度列に基づいて前記複数の指標を演算する機能と、
を含む、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマススペクトル処理装置及び方法に関し、特に、複数のマススペクトルに基づく画像の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析システムは、一般に、質量分析装置及び情報処理装置により構成される。質量分析装置はマススペクトル(mass spectrum)を測定する装置であり、情報処理装置はマススペクトル処理装置として機能する。
【0003】
二次元の質量分析を行う場合、試料に対して設定された観測領域を構成する複数のピクセル(微小領域、観測点)に対して、ピクセル単位での質量分析が実行される。これにより、複数のピクセルに対応する複数のマススペクトル(マススペクトルアレイ)が取得される。マススペクトルアレイに基づいて、特定の質量(正確には、特定の質量電荷比(m/z))を有する物質の二次元分布を表す画像が生成される(特許文献1,2を参照)。その画像はマスイメージと称されており、マスイメージの生成はマスイメージングと称されている。マスイメージによれば、通常の光学画像では得られない、特定の物質の分布情報を得られる。一般には、イメージング対象となる質量を変化させながらマスイメージが生成される。すなわち、複数のマスイメージ(マスイメージアレイ)が生成される。
【0004】
質量分析対象がポリマー(polymer)である場合、通常、概形的に見て山状のマススペクトルが得られる。質量分析により、複数の重合度に対応する複数のピークが観測されるためである。例えば、ポリマーの分子量が小さい場合、離散的に存在する複数のピーク波形からなるマススペクトルが得られる。一方、ポリマーの分子量が大きい場合、連続的スペクトルに相当する又はそれに近いマススペクトルが得られる。複数のピクセルに対応する複数のマススペクトルから、特定の重合度(特定の質量)をもったポリマーの二次元分布を示すマスイメージが生成される。複数の重合度に対応する複数のマスイメージを生成することも可能である。なお、特許文献3には、特定物質の分布を表示する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-133339号公報
【文献】特開2017-173103号公報
【文献】特表2005-539199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
単一のマスイメージを観察するだけでは、個々のピクセルから取得されたマススペクトルの全体を把握することはできない。複数のマスイメージを俯瞰的に観察したとしても、個々のマススペクトルの全体を把握することは困難である。
【0007】
本発明の目的は、複数のピクセルに対応する複数のマススペクトルの全体が反映された画像を提供することにある。あるいは、本発明の目的は、ポリマーの解析において有用な画像を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係るマススペクトル処理装置は、試料に対して設定された観測領域を構成する複数のピクセルに対応する複数のマススペクトルに基づいて、マススペクトル単位でマススペクトル全体についての特徴を示す指標を演算する指標演算手段と、前記複数のピクセルに対応する複数の指標に基づいて、前記観測領域に対応した指標分布像を生成する生成手段と、を含むことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、マススペクトル単位でつまりピクセル単位で、マススペクトル全体についての特徴を示す指標が演算される。複数のピクセルに対応した複数の指標をマッピングすることにより、指標分布像が生成される。指標分布像の観察により、複数のマススペクトルを全体的に把握することが可能となる。指標は、マススペクトルの全部を反映したものであってもよいし、マススペクトルの全体にわたって離散的に存在する複数の部分を反映したものであってもよい。指標演算の対象となる範囲は、例えば、重合度範囲又は演算範囲として、マニュアルで指定される。指標演算の対象となる範囲が、質量測定範囲、表示範囲等として、自動的に設定されてもよい。
【0010】
実施形態において、試料はポリマーである。ポリマーのマススペクトルは、典型的には、複数の重合度に対応した複数のピーク波形からなるものである。複数のピーク波形又はそれらに相当する複数の部分に基づいて、指標が演算され得る。指標は、例えば、数平均分子量(number average molecular weight)、重量平均分子量(weight average molecular weight)、多分散度(polydispersity)、数平均重合度(number average degree of polymerization)、重量平均重合度(weight average degree of polymerization)、又は、総イオン量(total ion intensity, total ion amount)である。他の指標が演算されてもよい。混合試料(例えば複数のポリマーの混合体)から得られた混合マススペクトルが処理対象とされてもよいし、混合マススペクトルに含まれる特定のマススペクトルが処理対象とされてもよい。
【0011】
実施形態において、前記指標演算手段は、前記マススペクトル単位でマススペクトル全体についての複数の特徴を示す複数の指標からなる指標セットを演算し、前記生成手段は、前記複数のピクセルに対応する複数の指標セットに基づいて、単一の指標分布像又は複数の指標分布像を生成する。複数の指標が画像化されれば、マススペクトルの評価や解析をより的確に行える。
【0012】
実施形態において、前記指標演算手段は、前記複数のマススペクトルから複数のイオン強度列を演算する手段と、前記複数のイオン強度列に基づいて前記複数の指標を演算する手段と、を含む。イオン強度列は質量軸(m/z軸)方向に並ぶ複数のイオン強度(ion intensity)からなるものである。イオン強度は、ピーク波形又はそれに相当する部分の面積、高さ等として定義され得る。各マススペクトルから各イオン強度列が演算されてもよいし、マスイメージアレイから各イオン強度列が演算されてもよい。
【0013】
実施形態において、前記各イオン強度列は前記各マススペクトルにおいて離散的に存在する複数の部分に基づいて演算される。複数の部分は、質量軸上において互いに離れた複数の区間により定義され得る。個々の区間は、例えば、ピーク探索区間又はイオン強度合計区間である。実施形態において、前記試料はポリマーであり、前記複数の部分は前記ポリマーが有する複数の重合度に対応する。複数の重合度に対応して複数の部分を定めれば、不要信号を除外しつつ、測定対象ポリマーのマススペクトルを正しく抽出できる。
【0014】
実施形態において、前記各イオン強度列は前記各マススペクトルにおいて相互に連なって存在する複数の部分に基づいて演算される。例えば、マススペクトルが一定幅単位で分割され、これにより複数の部分が設定される。
【0015】
実施形態において、前記複数のマススペクトルに基づいて複数のマスイメージを生成する手段を含み、前記指標演算手段は前記複数のマスイメージに基づいて前記複数のピクセルに対応する前記複数の指標を演算する。このように複数のマスイメージから複数の指標を演算することも可能である。
【0016】
本発明に係るマスイメージ処理方法は、試料に対して設定された複数のピクセルに対応する複数のマススペクトルに基づいて、マススペクトル単位でマススペクトル全体についての複数の特徴を表す複数の指標からなる指標セットを演算する工程と、前記複数のピクセルに対応する複数の指標セットに基づいて、複数の指標分布像を生成する工程と、を含むことを特徴とする。ここで、各指標分布像は一次元分布像又は二次元分布像である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数のピクセルに対応する複数のマススペクトルの全体が反映された画像を提供できる。あるいは、本発明によれば、ポリマーの解析において有用な画像を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る質量分析システムを示す図である。
【
図2】マススペクトルアレイに基づくマスイメージの生成を示す図である。
【
図3】マススペクトルアレイに基づく複数の指標分布像の生成を示す図である。
【
図5】質量理論値列の演算を説明するための図である。
【
図6】マススペクトル解析の他の例を示す図である。
【
図10】数平均分子量の変化及び多分散度の変化を示す図である。
【
図11】総イオン強度の変化及び多分散度の変化を示す図である。
【
図12】マススペクトル処理方法の第1例を示す図である。
【
図13】マススペクトル処理方法の第2例を示す図である。
【
図14】マススペクトル処理方法の第3例を示す図である。
【
図15】第2実施形態に係る情報処理装置を示す図である。
【
図16】マスイメージアレイに基づく指標演算を説明するための図である。
【
図17】マススペクトル処理方法の第4例を示す図である。
【
図18】マススペクトル処理方法の第5例を示す図である。
【
図19】マススペクトル処理方法の第6例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1には、第1実施形態に係る質量分析システムが示されている。この質量分析システムは、マスイメージング機能を有している。質量分析システムは、大別して、質量分析装置10及び情報処理装置12により構成される。情報処理装置12はマススペクトル処理装置として機能するものである。後述するように、情報処理装置12において、マスイメージが生成され、また、指標分布像が生成される。実施形態において、分析対象となる試料は、合成ポリマー又は天然ポリマーである。他の試料が分析対象とされてもよい。
【0021】
図1において、質量分析装置10は、試料に対して設定された観測領域を構成する複数のピクセルに対して質量分析を実行する装置である。観測領域は、試料上に設定され、あるいは、試料を包含するように設定される。個々のピクセルは微小領域であり、それは観測点に相当する。観測領域は例えば矩形の領域であり、x方向のピクセル数及びy方向のピクセル数は、例えば、それぞれ数十個又は数百個である。1ピクセルは、例えば、100μm×100μmのサイズを有する。ユーザー(測定者)により、観測領域、その分割数(ピクセルサイズ)、ピクセル単位でのレーザー照射回数(例えば数十回~数百回)、等が指定される。指定された情報に従って、質量分析装置10が動作する。
【0022】
質量分析装置10は、図示の構成例において、イオン源14、質量分析部16及び検出部18を有する。それらはいずれも電気的部品及び機械的部品を含む機器である。
【0023】
イオン源14は、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI:Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法に従うイオン源である。MALDIによれば、もっぱら1価イオンが生成される。よって、それはポリマーの分析において多用される。具体的に説明すると、試料プレート上に試料が配置され、試料に対してレーザーが照射される。レーザー照射点がピクセルに相当する。レーザー照射点から放出されたイオンが電界の作用により質量分析部16の内部へ導かれる。試料プレートの二次元走査により、試料上のレーザー照射点が二次元走査される。レーザー照射点の方を移動させるようにしてもよい。一次イオンを試料に照射し、それにより生じた二次イオンを測定する二次イオン質量分析(SIMS)法に従うイオン源が利用されてもよい。他のイオン源が利用されてもよい。
【0024】
質量分析部16は、イオンが有する質量(正確には質量電荷比m/z)に応じて、質量分離を行うユニットである。例えば、飛行時間型質量分析計が利用される。他のタイプの質量分析計が利用されてもよい。検出部18はイオンを検出する検出器を有する。検出部18の出力信号はマススペクトルに相当する。ピクセル単位でのレーザー照射ごと、複数のm/zに対応する複数のイオン強度(イオン強度列)が得られる。ピクセル単位での複数のレーザー照射により得られる複数のマススペクトルが積算され、積算されたマススペクトルが生成される。積算されたマススペクトルが以下に説明する情報処理装置12での処理単位となる。積算処理が当該情報処理装置12において実施されてもよい。
【0025】
情報処理装置12は、上記のようにマススペクトル処理装置として機能するものであり、それは、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)により構成される。情報処理装置12は、CPU及び記憶部を有している。記憶部に格納された動作プログラムがCPUにおいて実行され、これにより、以下に説明する複数の機能が発揮される。
図1においては、それらの機能が複数のブロックとして表現されている。情報処理装置12が複数のプロセッサからなる装置として構成されてもよいし、複数の情報処理デバイスにより構成されてもよい。マススペクトル処理のためのプログラムは可搬型記憶媒体又はネットワークを介して情報処理装置12にインストールされ得る。情報処理装置12で処理される個々のデータは、x座標、y座標及びm/zで特定されるイオン強度データである。
【0026】
マススペクトルアレイ記憶部22は、ハードディスクドライブ又は半導体メモリにより構成される。マススペクトルアレイ記憶部22には、複数のピクセルに対応する複数のマススペクトル、つまりマススペクトルアレイが記憶される。個々のマススペクトルの実体は、m/z軸上のイオン強度分布である。
【0027】
マスイメージ生成部26は、二次元質量分布としてのマスイメージを生成するモジュールである。m/z軸上のチャンネル単位で複数のマスイメージが生成されてもよいし、選択された複数のm/z(又はm/z区間)に対応する複数のマスイメージが生成されてもよい。
【0028】
生成されたマスイメージを表すデータが表示処理部24を介して表示器36へ送られる。表示器36の画面上には1又は複数のマスイメージが表示される。通常、マスイメージはカラー画像として表示される。個々のピクセルに対応するイオン強度が輝度又は色相によって表現される。必要に応じて、表示器36の画面上に1又は複数のマススペクトルが表示される。表示器36は、LCD、有機EL表示デバイス等によって構成される。画像データがネットワークを介して外部装置へ伝送されてもよい。質量分析と並行してマスイメージ生成及び表示が行われてもよい。
【0029】
第1実施形態に係る情報処理装置12は指標分布像生成部28を有する。指標分布像生成部28は、イオン強度列演算手段として機能するイオン強度列演算部30、指標演算主手段として機能する指標演算部32、及び、生成手段として機能するマッピング部34を有する。指標演算部32が、イオン強度列演算手段及び指標演算手段の両手段として機能してもよい。
【0030】
イオン強度列演算部30は、ピクセル単位つまりマススペクトル単位で、マススぺクトル解析を行ってイオン強度列を求めるものである。イオン強度列は、マススペクトルに含まれる複数の部分から求められる複数のイオン強度により構成される。後に詳述するように、複数の部分は、複数の重合度(分析対象ポリマーが有する複数の重合度)に対応する複数のピーク波形、複数の重合度に対応する複数の区間に対応する複数の帯状部分、又は、複数の分割区間に対応する複数の分割部分、である。複数のピーク波形及び複数の帯状部分は、質量軸上において離散的に存在するものである。複数の分割区間は、質量軸上において相互に連なって存在するものである。イオン強度は、典型的には、ピーク波形の面積(例えば半値幅内の面積)、帯状部分の面積、又は、分割部分の面積に相当する。部分におけるピークレベル等からイオン強度が特定されてもよい。マススペクトル全体から抽出された複数のイオン強度は、当該マススペクトル全体の特徴(例えば形態的特徴、位置的特徴)を示すものである。
【0031】
指標演算部32は、ピクセルごとにつまりマススペクトルごとに、イオン強度列に基づいて指標を演算する。指標は、例えば、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、多分散度PD、数平均重合度Dpn、重量平均重合度Dpw、等である。それらは、いずれも、ポリマーの性質を示すものである。それらは以下のように定義される。ここで、Mnは重合度iで特定されるポリマーイオンの質量であり、niは重合度iで特定されるポリマーイオンのイオン量である。Rは繰り返し単位(モノマー)の質量である。
【数1】
【0032】
重合度iの範囲の最大値及び最小値はユーザーにより指定され、あるいは、事前に設定される。上記で挙げた指標以外の指標として、総イオン量Itotalが挙げられる。それはポリマーの性質を示すものではないが、マススペクトル全体の面積に相当する。
【0033】
実施形態においては、マススペクトルごとに、イオン強度列に基づいて複数の指標(指標セット)が演算される。例えば、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、多分散度PD、及び、総イオン量Itotalの4つの指標が演算される。
【0034】
個々の指標は、マススペクトル全体についての特徴を示すものであり、つまりマススペクトル全体を反映している情報である。その意味において、個々の指標は、スペクトルにおける単なる最大値や、スペクトル中の特定部分の単なる積算値、等とは異なる。
【0035】
マッピング部34は、複数のピクセルについて演算された複数の指標セットをマッピングして複数の指標分布像を生成するモジュールである。個々の指標の大小は、色相の変化又は輝度の変化として表現される。各指標分布像は二次元分布像である。後述するように、一次元分布像が生成されてもよい。複数の指標がそれぞれ異なる色相変化又は輝度変化によって表現されてもよい。各指標分布像を示すデータが表示処理部24を介して表示器36へ送られ、表示器36の画面上には本実施形態において複数の指標分布像が同時又は順次、表示される。各指標分布像に対するカラー処理又は輝度処理が表示処理部24において実行されてもよい。複数の指標を同時に表現した指標分布像が生成及び表示されてもよい。複数の指標分布像の合成により生成された単一の指標分布像が表示されてもよい。
【0036】
入力器38はキーボードやポインティングデバイス等によって構成される。入力器38を用いて、ユーザーにより、観測領域、ピクセル条件、照射回数等の測定条件が定められる。また、マッピング対象となる1又は複数の指標が指定される。更に、後に詳述するように、マススペクトル解析に際して必要となる情報、例えば、ポリマーシリーズ(重合度の異なる複数の同一ポリマーからなる列)を特定するための情報(繰り返し単位の組成又は質量、末端基の組成又は質量、カチオン化剤の組成又は質量、重合度の範囲、等)が指定される。それらに加えて他の情報が指定されてもよく、あるいは、それらに代わる他の情報が指定されてもよい。
【0037】
ポリマーのマススペクトルは、典型的には、重合度順で離散的に並ぶ複数のピーク波形からなる。隣接するピーク波形の間隔(ピーク間隔)はモノマーの質量に相当する。個々のピーク波形が生じる質量は(モノマーの質量)×(重合度)+(末端基の質量)+(カチオン化剤の質量)により演算され得る。すなわち、それらのパラメータが既知であれば、観測される個々の質量を理論的に特定することが可能である。そのような一連の質量理論値からピーク判定又はピーク探索を行うことが可能である。ポリマーのマススペクトルが連続スペクトルである場合、あるいは、未知のポリマーが測定対象となっている場合、上記のような理論的推定に代わる別の手法を利用し得る。これに関しては後に詳述する。
【0038】
上記の実施形態によれば、ピクセルごとに、当該ピクセルから得られたマススペクトル全体についての特徴を示す指標を演算でき、複数のピクセルについて演算された複数の指標から指標分布像を生成することが可能である。その指標分布像の観察を通じて、個々のマススペクトルの傾向やマススペクトルの空間的な変化を把握することが可能である。しかも、上記実施形態では、複数種類の指標分布像が表示されるので、それらの観察を通じて、各マススペクトルを多面的に評価できる。
【0039】
図2には、上記マスイメージ生成部において実行されるマスイメージ生成方法が示されている。観測領域40はx方向及びy方向に並んだ複数のピクセルにより構成される。換言すれば、1番目のピクセルからk番目のピクセルにより構成される。上述のように、各ピクセルはレーザー照射点つまり観測点に相当するものである。
図2においては、先頭のピクセルp1、j番目のピクセルpj及び最後のピクセルpkが明示されている。複数のピクセルから得られた複数のマススペクトルによりマススペクトルアレイ42が構成される。それには、先頭のマススペクトルs1、j番目のマススペクトルsj及び最後のマススペクトルskが含まれる。個々のマススペクトルは、図示の例において、m/z軸上に離散的に並んだ複数のピーク波形からなる。
【0040】
マススペクトルアレイ42において、符号44で示すように、選択された重合度(つまり質量)に対応する複数のピーク波形(例えばq1,qj,qkを参照)についての複数のイオン強度が参照される。例えば、個々のピーク波形における面積としてイオン強度が特定される。複数のピクセルに対応する複数のイオン強度をマッピングすることにより、選択された重合度に対応するマスイメージ46が生成される。個々のイオン強度の大きさは輝度変化又は色相変化により表現される。このような処理の繰り返しにより、複数の重合度に対応する複数のマスイメージが生成される。それらはマスイメージアレイを構成する。
【0041】
図3には、上記指標分布像生成部において実行される指標分布像生成方法が示されている。マススペクトルアレイ42に基づいて指標セットアレイ44が演算される。
図3においては、1番目の指標セットg1、j番目の指標セットgj及び最後の指標セットgkが明示されている。具体的には、マススペクトルごとに、当該マススペクトルに基づいてイオン強度列が特定され、イオン強度列に基づく複数の指標演算式の実行により、指標セットが算出される。個々の指標セットは、例えば、指標aから指標dまでの4つの指標により構成される。例えば、指標aから指標dは、数平均分子量、重量平均分子量、多分散度、及び、総イオン量である。指標セットアレイ44に基づくマッピングにより、指標a~dに対応する指標分布像46a~46dが生成される。複数の指標分布像を参照することにより、マススペクトルの空間的な変化を複数の観点から評価することが可能となる。
【0042】
図4には、マススペクトル解析方法の一例が示されている。分析対象ポリマーのマススペクトル50は、複数の重合度に対応した複数のピーク波形52により構成されている。例えば、ポリマーの分子量が一万よりも小さい場合、このような離散的なスペクトルが得られ易い。
図4に示す例では、マススペクトル50と共に、分析対象ではないポリマーのマススペクトル54も観測されている。それも複数の重合度に対応した複数のピーク波形56により構成されている。分析対象ポリマーのマススペクトル50を識別するために、マススペクトルが解析される。
【0043】
その際においては、
図5に示されるように、分析対象ポリマーについてポリマーシリーズ特定情報64に基づいて、当該ポリマーについての複数の重合度に対応する複数の質量理論値(質量理論値列)78が演算される。ここでは、例えば、繰り返し単位(モノマー)の質量66、末端基の質量68、カチオン化剤の質量70及び重合度範囲72に基づいて、質量理論値列78が計算されている。
【0044】
図4に戻って、質量理論値列に基づいて、分析対象ポリマーに相当する複数のピーク波形を識別することが可能となる。具体的には、m/z軸上において、各質量理論値60の近傍範囲αにおいて最大ピークを探索することにより、イオン強度演算対象となるピーク波形が識別される。各質量理論値60の近傍範囲αに属する複数のピーク波形の全部をイオン強度演算対象として識別するようにしてもよい。各質量理論値60の近傍範囲α内で積算処理を行ってイオン強度を算出するようにしてもよい。いずれにしても、上記のような処理により、マススペクトル全体にわたって離散的に存在する複数の部分が特定され、
個々の部分ごとにイオン強度を特定することが可能である。なお、複数の部分は、マススペクトル全体から抽出された複数の代表部分とも言い得る。
【0045】
なお、イオン強度軸上において閾値62を設定し、その閾値62を超えるピーク波形だけを処理対象としてもよい。
図4に示す例においては、マススペクトル50が識別されていたが、マススペクトル50及びマススペクトル54の両方が識別されてもよい。
【0046】
図6には、マススペクトル解析方法の他の例が示されている。マススペクトル80は連続スペクトルである。例えば、分析対象ポリマーの分子量が1万を上回る場合、このような連続スペクトルになり易い。連続スペクトルが得られた場合及び測定対象が未知のモノマーである場合には以下のような処理を適用し得る。
【0047】
マススペクトル80に対する分割処理範囲の最小値min及び最大値maxがユーザーにより指定される。また、分割数N又は分割区間長84がユーザーにより指定される。指定された条件の下で、マススペクトル80が複数の分割区間#1~#Nに分割される。それらはm/z軸上において相互に連なるものである。個々の分割区間#1~#Nごとに面積86が演算される。その面積86はイオン強度に相当する。
図6に示す例においても、マススペクトルの全体にわたって複数の部分が特定され、個々の部分ごとにイオン強度が演算される。
【0048】
図7には、指標分布像に対する色付け法の一例が示されている。
図7に示すように、指標の大小を色相の変化により表現してもよい。図示の例では、最小指標に対して青が割り当てられており、最大指標に対して赤が割り当てられている。その色相変化は例示である。複数種類の指標に対して複数種類の色相変化を割り当ててもよい。
【0049】
図8には指標分布像に対する色付け方法の他の例が示されている。
図8に示す例では、2つの指標に基づいて1つの指標分布像が生成されている。具体的には、第1指標が色相変化によって表現されており、第2指標が輝度変化によって表現されている。逆に言えば、色相及び輝度の組み合わせから第1指標及び第2指標の組み合わせを特定することが可能である。複数の指標分布像を生成した上でそれらを合成するようにしてもよい。例えば、三次元表現を利用してもよい。
【0050】
図9~11を用いて指標分布像の具体例について説明する。
図9の左側には担体101が示されている。担体101上には円形の第1試料100A及び円形の第2試料100Bが設けられている。第1試料100Aは第1のポリマーである。第2試料100Bは第1のポリマー及び第2のポリマーの混合体である。
【0051】
図9の右側には、数平均分子量分布像セット104、重量平均分子量分布像セット106、多分散度分布像セット108及び総イオン量分布像セット110が示されている。例えば、前4つの画像は二次元カラー画像であり、最後の画像は二次元白黒画像である。数平均分子量分布像セット104は、第1試料100Aについての数平均分子量分布像104A及び第2試料100Bについての数平均分子量分布像104Bを含む。重量平均分子量分布像セット106は、第1試料100Aについての重量平均分子量分布像106A及び第2試料100Bについての重量平均分子量分布像106Bを含む。多分散度分布像セット108は、第1試料100Aについての多分散度分布像108A及び第2試料100Bについての多分散度分布像108Bを含む。総イオン量分布像セット110は、第1試料100Aについての総イオン量分布像110A及び第2試料100Bについての総イオン量分布像110Bを含む。
【0052】
図10には、
図9における位置112での数平均分子量の一次元変化及び
図9における位置114での多分散度の一次元変化が比較表示されている。
図10は拡大図に相当するものである。数平均分子量の一次元変化は、具体的には、第1試料についての数平均分子量分布120A及び第2試料についての数平均分子量分布120Bからなる。多分散度分布の一次元変化は、第1試料についての多分散度分布122A及び第2試料についての多分散度分布122Bからなる。
【0053】
図11には、
図9における位置116における総イオン量の一次元変化及び
図9における位置114における多分散度の一次元変化が比較表示されている。総イオン量の一次元変化は、第1試料についての総イオン量分布124A及び第2試料についての総イオン量分布124Bからなる。多分散度分布の一次元変化は、
図10に示したものと同様、第1試料についての多分散度分布126A及び第2試料についての多分散度分布126Bからなる。
【0054】
以上のように、複数の指標分布像を同時に表示すれば、個々の試料を空間的に多面的に評価することが容易となる。
【0055】
次に、以上説明した内容の整理を兼ねて、
図12~
図14を用いて、情報処理装置において実行されるスペクトル処理方法の第1例~第3例を説明する。
【0056】
図12に示す第1例において、S10では、質量分析装置からのマススペクトルデータセットが取り込まれる。それは記憶部上に格納される。S12では、ユーザー入力されるポリマーシリーズ特定情報が受け付けられる。S14では、ポリマーシリーズ特定情報に基づいて算出される質量理論値列に基づいて、試料に対応する複数のピーク波形が特定される。この処理がマススペクトル単位で実行される。S16では、マススペクトルごとに、複数のピーク波形から複数のイオン強度が特定される。S18では、マススペクトルごとにつまりピクセルごとに、複数のイオン強度から指標セットが演算される。S20では、個々の指標のマッピングにより複数の指標分布像が生成される。
【0057】
図13には、スペクトル処理方法の第2例が示されている。なお、
図12に示した工程と同様の工程には同一符号を付しその説明を省略する。このことは、後に
図14に示す第3例、及び、後に
図17~19に示す第4例~第6例についても同様である。
【0058】
S14Aでは、ポリマーシリーズ特定情報に基づいて計算される質量理論値列に基づいて、近傍区間列が設定される。例えば、個々の質量理論値を中心として一定幅を有する近傍区間が設定される。S16Aにおいては、個々の近傍区間内に属する1又は複数のピーク波形の面積として又は個々の近傍区間内の総面積としてイオン強度が演算される。
【0059】
図14には、スペクトル処理方法の第3例が示されている。S14Bではマススペクトルに対して複数の分割区間が設定され、つまり、マススペクトルが複数の部分に分割される。S16Bにおいては、個々の分割区間の面積が演算される。これにより複数の分割区間に対応する複数のイオン強度が特定される。
【0060】
図15には、第2実施形態に係る情報処理装置が示されている。
図1に示した構成と同様の構成には同一符号を付しその説明を省略する。
【0061】
第2実施形態においては、マスイメージ生成部26Aにおいて、マススペクトルアレイに基づいて、複数の質量に対応する複数のマスイメージが生成される。それらはマスイメージアレイを構成するものであり、それらはマスイメージアレイ記憶部130に格納される。マスイメージアレイ記憶部130は、ハードディスクドライブ、半導体メモリ等により構成される。
【0062】
指標分布像生成部28Aは、イオン強度列演算手段として機能するイオン強度列演算部30A、指標演算手段として機能する指標演算部32A、及び、生成手段として機能するマッピング部34Aにより構成される。指標演算部32Aがイオン強度列演算手段及び指標演算手段の両方として機能してもよい。
【0063】
イオン強度列演算部30Aは、マスイメージアレイの中から、質量理論値列に基づいて、複数のマスイメージを抽出し、それらに基づいて、個々のピクセルに対応するイオン強度列を演算する。マスイメージ抽出方法としては幾つかの方法が考えられる。例えば、個々の質量理論値に対応するマスイメージを抽出してもよい。あるいは、個々の質量理論値を基準として近傍区間を設定し、近傍区間に属する複数のマスイメージを抽出してもよい。その場合、ピクセル単位で近傍区間に属する複数のイオン強度を評価し、それらの中から試料に対応するイオン強度を特定してもよいし、近傍区間に属する複数のイオン強度の全部をイオン強度演算対象としてもよい。あるいは、マスイメージアレイに対して質量軸上の複数の分割区間を設定し、分割区間ごとにピクセル単位で複数のイオン強度を積算するようにしてもよい。
【0064】
指標演算部32Aは、個々のピクセルごとに演算されたイオン強度列に基づいて指標セットを演算する。マッピング部34Aは、個々の指標セットを構成する複数の指標をそれぞれマッピングすることにより複数の指標分布像を生成する。このように、個々のマスイメージはイオン強度の二次元分布であるので、マスイメージアレイの形成後にイオン強度列の特定及び指標演算を行うことが可能である。
【0065】
図16には第2実施形態に係るマスイメージアレイの処理が示されている。マスイメージアレイ132は、質量軸方向に並ぶ複数のマスイメージ134により構成される。例えば、あるピクセルに着目すると、そのピクセルに対しては、質量軸方向に並ぶイオン強度列138が存在しており、それは複数のイオン強度136からなるものである。例えば、近傍区間又は分割区間としての区間140が設定された場合、当該区間140に属する複数のイオン強度142が参照され、それらの中から指標演算で使用する1又は複数のイオン強度が選択され、あるいは、それらの全部が指標演算で使用される。
【0066】
図17~
図19を用いて、情報処理装置において実行されるスペクトル処理方法の第4例~第6例について説明する。
【0067】
図17に示す第4例において、S11Aでは、マススペクトルアレイに基づいてマスイメージアレイが生成される。S12において受け付けられたポリマーシリーズ特定情報に基づいて質量理論値列が特定される。S14Cでは、質量理論値列に基づいて、抽出対象となる、つまりイオン強度の演算で参照される複数のマスイメージが特定される。例えば、質量理論値列を構成する複数の質量理論値に対応する複数のマスイメージが抽出されてもよい。S16Cでは、抽出された複数のマスイメージに基づいて、複数のピクセルに対応する複数のイオン強度列が特定され、それらに基づいて複数のピクセルに対応する複数の指標セットが演算される。
【0068】
図18に示す第5例において、S14Dでは、質量理論値列に基づいて、質量軸上において近傍区間列が設定される。個々の近傍区間は、個々の質量理論値を中心とした一定の区間である。個々の近傍区間に属する複数のマスイメージが抽出される。S16Dにおいては、個々の近傍区間ごとに、抽出された複数のマスイメージに基づいてピクセル単位でイオン強度が演算される。
【0069】
図19に示す第6例において、S14Eでは、マスイメージアレイに対して、質量軸上における分割区間列が設定される。分割区間ごとに、それに属する複数のマスイメージが抽出される。S16Eでは、それらに基づいて、分割区間ごとに、且つ、ピクセルごとにイオン強度が演算される。これにより、マスイメージアレイ全体として、複数のピクセルに対応する複数のイオン強度列が特定される。それらに基づいて複数の指標セットが演算される。
【0070】
以上のように、第1実施形態及び第2実施形態によれば、複数のピクセルに対応する複数のマススペクトルの全体が反映された指標分布像をユーザーに提供できる。そのような指標分布像は特にポリマーの解析において有用なものである。複数種類の指標分布像をユーザーに対して提供すれば、ポリマーを空間的にかつ多面的に評価、解析することが容易となる。
【符号の説明】
【0071】
10 質量分析装置、12 情報処理装置(マススペクトル処理装置)、22 マススペクトルアレイ記憶部、26 マスイメージ生成部、28 指標分布像生成部、30 イオン強度列演算部、32 指標演算部、34 マッピング部。