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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】SRモータ制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/092 20160101AFI20220106BHJP
【FI】
H02P25/092
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018017734
(22)【出願日】2018-02-03
(65)【公開番号】P2019134654
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100102853
【弁理士】
【氏名又は名称】鷹野 寧
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸次郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宏昭
【審査官】大島 等志
(56)【参考文献】
【文献】特許第3170838(JP,B2)
【文献】特開2007-99066(JP,A)
【文献】特開2002-84758(JP,A)
【文献】特開2015-33272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/092
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y結線された複数相の巻線を有するSRモータと、
各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加することにより、前記SRモータを回転駆動させる制御装置と、を備えるSRモータ制御システムであって、
前記制御装置は、
前記巻線に対し電圧を印加するための電源と、該電源に接続された複数のスイッチング素子とを備え、該スイッチング素子をON/OFFさせることにより、各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加するモータ駆動部と、
前記巻線の各相電流に基づいて、各相の前記巻線に供給する電圧を算出する電圧指令算出部と、
前記電圧指令算出部の算出結果に基づき、前記スイッチング素子のON/OFFに関する制御指令を形成し、前記モータ駆動部に対し出力する駆動指令信号算出部と、
前記巻線のY結線交点と接続され、該交点に対し電圧を印加する中性点電圧制御部と、を有し、
前記中性点電圧制御部は、前記Y結線交点に印加する電圧を制御しつつ、各相の前記巻線に印加する電圧を選択的に切り替え、前記電圧指令算出部にて算出された各相の前記巻線に供給する電圧の中で最も小さいものをVmin、最も大きいものをVmaxとし、前記電源の電圧をVdcとしたとき、前記Y結線交点に印加する電圧を、
Vn=Vdc/2-(Vmin+Vmax)/2
に設定することを特徴とするSRモータ制御システム。
【請求項2】
Y結線された複数相の巻線を有するSRモータと、
各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加することにより、前記SRモータを回転駆動させる制御装置と、を備えるSRモータ制御システムであって、
前記制御装置は、
前記巻線に対し電圧を印加するための電源と、該電源に接続された複数のスイッチング素子とを備え、該スイッチング素子をON/OFFさせることにより、各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加するモータ駆動部と、
前記巻線の各相電流に基づいて、各相の前記巻線に供給する電圧を算出する電圧指令算出部と、
前記電圧指令算出部の算出結果に基づき、前記スイッチング素子のON/OFFに関する制御指令を形成し、前記モータ駆動部に対し出力する駆動指令信号算出部と、
前記巻線のY結線交点と接続され、該交点に対し電圧を印加する中性点電圧制御部と、を有し、
前記中性点電圧制御部は、前記Y結線交点に印加する電圧を制御しつつ、各相の前記巻線に印加する電圧を選択的に切り替え、前記電圧指令算出部にて算出された各相の前記巻線に供給する電圧の中で最も小さいものをVminとしたとき、Vmin<0の場合は、Vminを構成する前記巻線の相をグランド電圧(0V)とすることを特徴とするSRモータ制御システム。
【請求項3】
Y結線された複数相の巻線を有するSRモータと、
各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加することにより、前記SRモータを回転駆動させる制御装置と、を備えるSRモータ制御システムであって、
前記制御装置は、
前記巻線に対し電圧を印加するための電源と、該電源に接続された複数のスイッチング素子とを備え、該スイッチング素子をON/OFFさせることにより、各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加するモータ駆動部と、
前記巻線の各相電流に基づいて、各相の前記巻線に供給する電圧を算出する電圧指令算出部と、
前記電圧指令算出部の算出結果に基づき、前記スイッチング素子のON/OFFに関する制御指令を形成し、前記モータ駆動部に対し出力する駆動指令信号算出部と、
前記巻線のY結線交点と接続され、該交点に対し電圧を印加する中性点電圧制御部と、を有し、
前記中性点電圧制御部は、前記Y結線交点に印加する電圧を制御しつつ、各相の前記巻線に印加する電圧を選択的に切り替え、前記電圧指令算出部にて算出された各相の前記巻線に供給する電圧の中で最も大きいものをVmaxとしたとき、Vmax≧0の場合は、Vmaxを構成する前記巻線の相を前記電源の電圧とすることを特徴とするSRモータ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SRモータ(Switched reluctance motor:スイッチトリラクタンスモータ)の駆動制御技術に関し、特に、少ないスイッチング素子にてSRモータを効率良く制御可能な制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
SRモータをベクトル制御駆動する場合、例えば三相のSRモータでは、従来より図14のような独立した三相のインバータ回路が用いられている。図14の回路では、各相(U,V,W相)ごとに、4個の制御素子51a,51bが使用されたインバータ回路が配され、各相に対する通電を適宜切り替えることにより、SRモータを回転駆動させる。また、近年では、SRモータにおいても、DCブラシレスモータのように、各相にオフセットされた正弦波状の電流を供給してベクトル制御を行う制御方式も用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-28866号公報
【文献】特許3170838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各相独立回路を用いた駆動方式では、例えば三相では、図14のように4素子×三相=12素子が必要となり、回路の設置面積が大きくなり、コストも高くなるという問題があった。また、図14のような三相独立回路の場合、回生電流が各回路上を流れるため、駆動回路内における電流リップルが大きくなるという問題もあった。
【0005】
一方、正弦波状電流によってSRモータを駆動する場合、DCブラシレスモータにて用いられるスター結線(Y字結線)回路を使用できれば簡便である。しかしながら、DCブラシレスモータでは中性点の各相電流の和は0であるのに対し、SRモータのベクトル制御では、中性点のオフセット電流が0にならない。このため、単純なスター結線回路ではオフセットされた正弦波状の電流を流せず、SRモータをうまく駆動させることができないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、少ないスイッチング素子にてSRモータを効率良く駆動制御可能なSRモータ制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のSRモータ制御システムは、Y結線された複数相の巻線を有するSRモータと、各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加することにより、前記SRモータを回転駆動させる制御装置と、を備えるSRモータ制御システムであって、前記制御装置は、前記巻線に対し電圧を印加するための電源と、該電源に接続された複数のスイッチング素子とを備え、該スイッチング素子をON/OFFさせることにより、各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加するモータ駆動部と、前記巻線の各相電流に基づいて、各相の前記巻線に供給する電圧を算出する電圧指令算出部と、前記電圧指令算出部の算出結果に基づき、前記スイッチング素子のON/OFFに関する制御指令を形成し、前記モータ駆動部に対し出力する駆動指令信号算出部と、前記巻線のY結線交点と接続され、該交点に対し電圧を印加する中性点電圧制御部と、を有し、前記中性点電圧制御部は、前記Y結線交点に印加する電圧を制御しつつ、各相の前記巻線に印加する電圧を選択的に切り替え、前記電圧指令算出部にて算出された各相の前記巻線に供給する電圧の中で最も小さいものをVmin、最も大きいものをVmaxとし、前記電源の電圧をVdcとしたとき、前記Y結線交点に印加する電圧を、Vn=Vdc/2-(Vmin+Vmax)/2に設定することを特徴とする。
【0008】
本発明の他のSRモータ制御システムは、Y結線された複数相の巻線を有するSRモータと、各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加することにより、前記SRモータを回転駆動させる制御装置と、を備えるSRモータ制御システムであって、前記制御装置は、前記巻線に対し電圧を印加するための電源と、該電源に接続された複数のスイッチング素子とを備え、該スイッチング素子をON/OFFさせることにより、各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加するモータ駆動部と、前記巻線の各相電流に基づいて、各相の前記巻線に供給する電圧を算出する電圧指令算出部と、前記電圧指令算出部の算出結果に基づき、前記スイッチング素子のON/OFFに関する制御指令を形成し、前記モータ駆動部に対し出力する駆動指令信号算出部と、前記巻線のY結線交点と接続され、該交点に対し電圧を印加する中性点電圧制御部と、を有し、前記中性点電圧制御部は、前記Y結線交点に印加する電圧を制御しつつ、各相の前記巻線に印加する電圧を選択的に切り替え、前記電圧指令算出部にて算出された各相の前記巻線に供給する電圧の中で最も小さいものをVminとしたとき、Vmin<0の場合は、Vminを構成する前記巻線の相をグランド電圧(0V)とすることを特徴とする。
【0009】
本発明の他のSRモータ制御システムは、Y結線された複数相の巻線を有するSRモータと、各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加することにより、前記SRモータを回転駆動させる制御装置と、を備えるSRモータ制御システムであって、前記制御装置は、前記巻線に対し電圧を印加するための電源と、該電源に接続された複数のスイッチング素子とを備え、該スイッチング素子をON/OFFさせることにより、各相の前記巻線に対し選択的に電圧を印加するモータ駆動部と、前記巻線の各相電流に基づいて、各相の前記巻線に供給する電圧を算出する電圧指令算出部と、前記電圧指令算出部の算出結果に基づき、前記スイッチング素子のON/OFFに関する制御指令を形成し、前記モータ駆動部に対し出力する駆動指令信号算出部と、前記巻線のY結線交点と接続され、該交点に対し電圧を印加する中性点電圧制御部と、を有し、前記中性点電圧制御部は、前記Y結線交点に印加する電圧を制御しつつ、各相の前記巻線に印加する電圧を選択的に切り替え、前記電圧指令算出部にて算出された各相の前記巻線に供給する電圧の中で最も大きいものをVmaxとしたとき、Vmax≧0の場合は、Vmaxを構成する前記巻線の相を前記電源の電圧とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のSRモータ制御システムによれば、Y結線交点に電圧を印加することにより、SRモータの各相巻線に三相のオフセット電流を流すことができ、6素子のY字結線回路にてSRモータを駆動することが可能となる。このため、DCブラシレスモータのベクトル制御と同様に、SRモータにおいても、応答性や制御効率に優れ、低振動(低騒音)でトルク変動に応じたきめ細かい制御を実施することが可能となる。また、従来のSRモータ駆動回路に比して、スイッチング素子を半減させることができるため、回路の設置面積やコストを削減でき、少ないスイッチング素子にてSRモータを効率良く駆動制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態1であるSRモータ制御システムの構成を示すブロック図である。
図2図1のシステムにおけるSRモータ駆動回路の構成を示す説明図である。
図3】本発明の実施の形態2であるSRモータ制御システムの構成を示すブロック図である。
図4図3のシステムにおけるSRモータ駆動回路の構成を示す説明図である。
図5】本発明の実施の形態3であるSRモータ制御システムにおけるモータ駆動回路の構成を示す説明図である。
図6図2の駆動回路を用いてSRモータを回転駆動させた場合における各種電圧波形を示す説明図である。
図7】SRモータ駆動回路における各種電圧の説明図である。
図8】実施の形態3であるSRモータ制御システムにおいて制御方式Aを採用した場合の各種電圧波形を示す説明図である。
図9】実施の形態3であるSRモータ制御システムにおいて制御方式Bを採用した場合の中性点電圧Vnの設定を示す説明図である。
図10】実施の形態3であるSRモータ制御システムにおいて制御方式Bを採用した場合の各種電圧波形を示す説明図である。
図11】実施の形態3であるSRモータ制御システムにおいて制御方式Cを採用した場合の中性点電圧Vnの設定を示す説明図である。
図12】実施の形態3であるSRモータ制御システムにおいて制御方式Cを採用した場合の各種電圧波形を示す説明図である。
図13】実施形態3のSRモータ制御システムに適用されるモータ駆動回路の変形例を示す説明図である。
図14】三相SRモータ用の従来の駆動回路の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、実施の形態1であるSRモータ制御システムの構成を示すブロック図、図2は、図1のシステムにおけるSRモータ駆動回路の構成を示す説明図である。図1のSRモータ制御システムは、三相のSRモータ1(以下、モータ1と略記する)に対してベクトル制御を行い、電気角で120°位相がずれた正弦波状の波形の三相電流を供給し、モータ1を回転駆動させる。当該システムでは、レゾルバ(ロータ位置検出手段)2によって検出されたロータ回転位置情報と、各相巻線3U,3V,3Wに対する供給電流値とに基づいて、制御装置10によりモータ1をベクトル制御する。
【0014】
制御装置10は、各相電流(U,V,W)をdq0電流に変換する座標変換部11と、電流指令信号(d,q,0)とdq0電流の差から三相(d,q,0)の電圧指令値を算出する電圧指令生成部12を有する。また、電圧指令生成部12の後段には、d,q,0の電圧指令値をU,V,Wの電圧信号(制御電圧)に変換する電圧指令算出部13が設けられている。さらに、電圧指令算出部13の後段には、各相の制御電圧Vu,Vv,Vwから、各相のPWMduty値を算出し制御指令として出力するPWM信号算出部(駆動指令信号算出部)14が設けられている。PWM信号算出部14の後段には、インバータ回路を備え、各相のPWMduty値に応じて各相巻線3U,3V,3Wに適宜電力を供給するモータ駆動部15が設けられている。
【0015】
前述のように、モータ1には角度センサとしてレゾルバ2が配されており、レゾルバ2からの信号は座標変換部11に入力される。座標変換部11には、各相巻線3U,3V,3Wの電流値(U相電流値Iu,V相電流値Iv,W相電流値Iw)も入力される。座標変換部11は、各相の電流値Iu,Iv,Iwを回転座標に座標変換し(uvw→dq0)、d軸電流Id,q軸電流Iq,0軸電流Iを出力する。回転座標系に変換された電流Id,Iq,Iは、電流指令信号(目標電流値)Idref,Iqref,Irefとの差が算出され、電圧指令生成部12に入力される。電圧指令生成部12では、Id,Iq,IとIdref,Iqref,Irefの偏差に基づき比例・積分演算(PI演算)が実施され、三相(d,q,0)の電圧指令値(d軸電圧Vd,q軸電圧Vq,0軸電圧V)が出力される。
【0016】
電圧指令生成部12から出力されたd軸電圧Vd,q軸電圧Vq,0軸電圧Vは、電圧指令算出部13に入力され、三相(U,V,W)の電圧信号(U相制御電圧Vu,V相制御電圧Vv,W相制御電圧Vw)に変換され、PWM信号算出部14に入力される。PWM信号算出部14は、各相の制御電圧Vu,Vv,Vwから、各相のPWMduty値を算出し、PWM指令信号としてモータ駆動部15に出力する。モータ駆動部15は、各相のPWMduty値に従い、各相巻線3U,3V,3Wに対し、適宜電力を供給する。これにより、モータ1は、各相巻線3U,3V,3Wの電流値をフィードバックしつつ、制御装置10によってベクトル制御される。
【0017】
実施の形態1のシステムでは、モータ駆動部15に、図2のような駆動回路21が設けられている。駆動回路21は、Y結線された各相巻線3U,3V,3Wに対し、Y結線の交点である中性点Nを、バッテリ22a(Vdc1)とバッテリ22b(Vdc2)の間に接続した6素子Y+1結線構造となっている。バッテリ22a,22bと各相巻線3U,3V,3Wとの間には、FET23を6個(23UH,23UL,23VH,23VL,23WH,23WL)備えたインバータ回路が設けられている。各FET23は、PWM信号算出部14からの指令に基づいてPWM制御(パルス幅変調制御)され、各相巻線3U,3V,3Wには、各相端に正弦波状の電流が流れるように計算された指令電圧が印加される。
【0018】
駆動回路21では、中性点Nと電源側とを接続する接続線24が設けられている。中性点Nには、接続線24を介して、バッテリ22(22a,22b)の電圧に応じて定電圧(中性点電圧Vn)が印加される。すなわち、実施の形態1のシステムでは、接続線24とバッテリ22a,22bにより、中性点Nの電圧を調整する中性点電圧制御部25が形成されている。例えば、両バッテリ22a,22bの電圧が等しい場合(Vdc1=Vdc2)は、中性点Nの電圧はバッテリ電源電圧Vdc(Vdc1+Vdc2)の半分(Vdc/2)となる。電圧指令算出部13は、中性点電圧Vnに基づいて各相電圧を算出し、電源電圧制限(0~Vdc)の下、各相の制御電圧としてPWM信号算出部14に出力される。なお、バッテリ22a,22bの電圧が異なる場合には、中性点電圧Vnは各バッテリ22a,22bの電圧値を比例配分した値となる。
【0019】
このように、中性点Nの電圧を一定化すると、各相巻線3U,3V,3Wに三相のオフセット電流を流すことが可能となり、6素子のY字結線回路にてSRモータを駆動できる。このため、DCブラシレスモータのベクトル制御と同様に、SRモータにおいても、応答性や制御効率に優れ、低振動(低騒音)でトルク変動に応じたきめ細かい制御を実施することが可能となる。また、従来の駆動回路に比して、スイッチング素子を半減させることができるため、回路の設置面積やコストを削減でき、少ないスイッチング素子にてSRモータを効率良く駆動制御することが可能となる。
【0020】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2として、中性点Nを外部の充電用バッテリ26に接続したものについて説明する。図3は、実施の形態2であるSRモータ制御システムの構成を示すブロック図、図4は、図3のシステムにおけるSRモータ駆動回路の構成を示す説明図である。なお、以下の実施の形態では、実施の形態1と同様のものについては同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0021】
図3に示すように、実施の形態2のシステムは、実施の形態1のシステム(図1)に、鉛蓄電池の充電用バッテリ26を付加した構成となっている。それ以外の構成は図1のシステムと同様であり、当該システムもまた、モータ1は、制御装置10によってベクトル制御される。制御装置10のモータ駆動部15には、図4の駆動回路27が設けられている。図4に示すように、駆動回路27では、中性点Nは接続線28を介して外部の充電用バッテリ26に接続されている。すなわち、実施の形態2のシステムでは、接続線28と充電用バッテリ26により、中性点Nの電圧を調整する中性点電圧制御部25が形成されている。充電用バッテリ26の電圧(=中性点電圧)Vnは電圧測定部29にて検出されている。電圧測定部29の検出値はPWM信号算出部14に入力され、各相のPWMduty値を算出する際に参照される。なお、充電用バッテリ26としては、鉛蓄電池以外にも、電気二重層コンデンサ等も使用できる。
【0022】
当該システムでは、充電用バッテリ26の電圧Vnは、主電源バッテリ30の電圧Vdcにおける低電圧側から高電圧側の範囲内(例えば、Vdcの半分程度の値:Vdc/2)となっており、中性点Nを定電圧Vnにて充電する。この場合も、各FET23は、PWM信号算出部14からの指令に基づいてPWM制御され、前述のように、その際、中性点電圧Vnが参照される。そして、各相巻線3U,3V,3Wには、各相端に正弦波状の電流が流れるように計算された指令電圧が印加される。なお、中性点電圧Vnをモータ駆動状態に応じてVdc/2からずらして制御することも可能である。例えば、モータ力行時は、各相にかかる電圧が低電圧側に偏るため、中性点電圧を通常よりも高くしたり(Vn>Vdc/2)、回生・発電時には、各相にかかる電圧が高電圧側に偏るため、中性点電圧を通常よりも低くしたり(Vn<Vdc/2)したりしても良い。
【0023】
このように、実施の形態2の制御システムにおいても、中性点電圧制御部により中性点Nが定電圧化されるため、各相巻線3U,3V,3Wに三相のオフセット電流を流すことが可能となる。その結果、6素子のY字結線回路にてSRモータを駆動でき、前述同様、応答性や制御効率の向上などが図られる。また、回生電流を外部の充電用バッテリ26に充電できるため、主電源バッテリ30側への回生電流を低減でき、回生電流による駆動回路27内の電流リップルを抑えることが可能となる。なお、ベクトル制御により、電流が常にプラスとなるユニポーラ駆動条件を設定することもでき、これにより、主電源バッテリ30への回生電流をなくすことも可能である。
【0024】
なお、充電用バッテリ26と主電源バッテリ30を接続するとともに、両バッテリの電圧をモニタし、モータ停止時(ロータ回転停止時)に、主電源電圧と中性点電圧をコントロールしつつ、充電用バッテリ26から主電源バッテリ30側に電気的エネルギーを移送しても良い。また、中性点Nに接続するバッテリを複数個設け、それらをスイッチによって適宜切り替え、中性点電圧を複数設定できるようにしても良い。例えば、前述のモータ力行時と回生・発電時の中性点電圧の切り替えをそこで行っても良い。
【0025】
(実施の形態3)
さらに、本発明の実施の形態3として、中性点電圧を駆動回路内から供給する形態の制御システムについて説明する。図5は、実施の形態3であるSRモータ制御システムにおける駆動回路31の構成を示す説明図である。図5の駆動回路31は、図1と同様の構成からなるSRモータ制御システムにて使用される。駆動回路31は、図2,3と同様の三相電流供給用の6素子に中性点電圧用の2素子を加えた8素子構成となっている。つまり、駆動回路31には、前述同様の6個のFET23(23UH,23UL,23VH,23VL,23WH,23WL)に加えて、中性点電圧制御部25として、2個のFET23NH,23NLと接続線32が設けられており、当該システムは、8素子による矩形波電圧バイポーラ通電にてSRモータを駆動するインバータシステムとなっている。
【0026】
ここで、実施の形態1の駆動回路21では、中性点電圧を一定化することにより、6素子のY字結線回路によるSRモータの駆動を実現している。ところが、図2の回路では、低速回転域では特に支障はないが、中性点電圧が固定されているため、各相電圧が飽和してしまう場合があった。図6は、図2の駆動回路21を用いてSRモータを回転駆動(ここでは500rpm)させた場合における各種電圧波形を示す説明図である。図6において、(a)は計算された各相電圧(中性点から見た電圧:Van,Vbn,Vcn、図7参照)、(b)は中性点電圧(ここでは、36V=Vdc/2:Vdc=72V)、(c)はグランドから各相端点a,b,cへの電圧(Va0,Vb0,Vc0:同上)、(d)は実際に各相にかかる電圧(Va0-Vn,Vb0-Vn,Vc0-Vn)をそれぞれ示している。なお、(d)の値は、中性点からの電圧となるため、(c)から(b)を引いた値となる。
【0027】
この場合、各相にかかる電圧(d)は、計算された各相電圧(a)から、中性点電圧分の-Vdc/2から+Vdc/2までを取り出した形となる。このため、図6(d)に示すように、各相にかかる実際の電圧は、低電圧側が切り取られ飽和した状態となり、電流波形が正弦波から崩れてしまう。その結果、電源電圧の利用効率が低下し、電流の応答性も低下し、希望の特性が得られず制御性が悪くなるという課題があった。この課題は、特に高速回転時に顕著に現れる。そこで、中性点電圧をモータ駆動状態に応じてコントロールできるようにし、高回転駆動時における飽和状態を回避して制御性の向上を図ったのが図5の駆動回路31である。
【0028】
本実施の形態においても、制御装置10によるベクトル制御が行われ、各相巻線3U,3V,3Wに対し、電気角で120°位相がずれた正弦波状波形の三相電流が供給される。そして、駆動回路31では、電圧指令算出部13での演算結果に基づき、電源電圧制限の下、PWM信号算出部14からの指令により、中性点電圧制御部であるFET23NH,23NLが適宜ON/OFFされ中性点Nの電圧Vnが制御される。その際、中性点電圧Vnの制御形態として、ここでは、3通りの方式を説明する。
【0029】
《制御方式A》
第1の制御方式Aでは、モータ駆動状態に基づいて計算された各相電圧Van,Vbn,Vcnの中で最も小さいものをVmin、最も大きいものをVmaxとし、その中央値((Vmin+Vmax)/2)から中性点電圧Vnを設定する。
駆動回路31では、電圧指令算出部13にて指令電圧Van,Vbn,Vcnが算出され、それに基づいてVmin,Vmaxが求められる。そして、次式により中性点電圧Vnが算出される。
Vn=Vdc/2-(Vmin+Vmax)/2
このようにして中性点電圧Vnを設定し、グランドから各相端点a,b,cへの電圧Va0,Vb0,Vc0を算出する。
Va0 = Van + Vn,Vb0 = Vbn + Vn,Vc0 = Vcn + Vn
その上で、これに電源電圧制限を考慮して、各相端点に実際に印加する電圧が算出される。
【0030】
そして、PWM信号算出部14は、電圧指令算出部13からの指令に基づいて、FET23NH,23NLを制御して中性点電圧Vnを設定しつつ、他のFET23(23UH,23UL,23VH,23VL,23WH,23WL)を制御し、各相端点a,b,cに適宜電圧を印加する。図8は、制御方式Aを採用した場合の各種電圧波形を示す説明図であり、(a)~(d)は、図6と同様である。図8に示すように、ここでは、中性電圧Vn(b)が変化し、それに対応して(c),(d)のグラフが上方に引き上げられる形となる。このため、図6(c),(d)の場合と異なり、低電圧側が切り取られることなく現れ、高回転駆動時における飽和状態が解消される。したがって、電圧飽和に伴う正弦波状電流波形の崩れを防止でき、電源電圧の利用効率や電流応答性が改善され、制御性の向上を図ることが可能となる。
【0031】
《制御方式B》
第2の制御方式Bでは、Vmin<0(Van,Vbn,Vcnの中で最も小さいものが負)の場合は、その相をグランド電圧に張り付かせる。一方、Vmin≧0(Van,Vbn,Vcnの中で最も小さいものが0以上、すなわち、Van,Vbn,Vcnが全て0以上)の場合は、Vnをグランド電圧に張り付かせる。また、Vmin<-Vdcの場合はVn=Vdcとする。したがって、Vnは、図9に示すように、Vmin≧0では0,-Vdc≦Vmin<0では|Vmin|、Vmin<-VdcではVdcとなる。
【0032】
図10は、制御方式Bを採用した場合の各種電圧波形を示す説明図であり、(a)~(d)は、図6と同様である。図10に示すように、例えば、図10(a)P1部では、V相電圧Vbnが最も小さく負となっている。すなわち、P1部ではVmin<0となり、このとき、Vb0を、同図(c)P2部に示すようにグランド(0V)とする。すると、中性点から見た点b(V相)の電圧は、Vb0-Vbn=-Vbnとなり、同図(d)P3部のように、飽和のない状態となる。これにより、前述同様、高回転駆動時における飽和状態が解消され、制御性の向上を図ることが可能となる。また、制御方式Bの場合、Vmin<0のとき、当該相におけるスイッチング動作を停止できるため、スイッチング損失を低減させることも可能となる。なお、例えば、図10(a)Q1部ではVmin≧0となるため、Vnを、同図(b)Q2部に示すようにグランド(0V)とする(Vbn=Vb0)。
【0033】
《制御方式C》
第3の制御方式Cでは、VmaxとVdcを比較する。図11は、制御方式Cを採用した場合の中性点電圧Vnの設定を示す説明図、図12は、制御方式Cを採用した場合の各種電圧波形を示す説明図であり、(a)~(d)は、図6と同様である。ここでは、図11に示すように、Vmaxが0V以上でVdc以下の場合(0≦Vmax≦Vdc)は、Vmaxの相をVdcに張り付かせると共に、Vn=Vdc-Vmaxとする。そして、0≦Vmax≦Vdcでは、前述のVnを用いて、Va0=Van+Vn,Vb0=Vbn+Vn,Vc0=Vcn+Vnとする。また、Vdc<Vmaxの場合はVn=0、Vmax<0の場合はVn=Vdcとする。
【0034】
このような制御形態では、例えば、図12(a)P4部では、W相電圧Vcnが最も大きく正であり、かつ、Vdc(72V)よりも小さくなっている。すなわち、P4部では0≦Vmax≦Vdcとなり、Vmaxの相であるVc0は、同図(c)P5部に示すようにVdcとなる。また、このとき、Vnは前述のようにVdc-Vmaxであり、さらに、Vb0=Vbn+Vnであることから、中性点から見た点b(V相)の電圧は、Vb0-Vn=Vb0-(Vdc-Vmax)=Vb0-Vdc+Vmaxとなり、同図(d)P6部のように、飽和のない状態となる。これにより、前述同様、高回転駆動時における飽和状態が解消され、制御性の向上を図ることが可能となる。また、制御方式Cの場合も、Vmaxの相をVdcに張り付かせる際やVdc<Vmaxのとき、当該相におけるスイッチング動作を停止できるため、スイッチング損失を低減させることが可能となる。なお、Vdc<VmaxやVmax<0となる場合は、制御方式Cの図12には現れていない。
【0035】
このように、実施の形態3のシステムでは、8素子を用いたインバータ制御手法により、高回転駆動時に電圧が飽和状態となるのを防止でき、電圧利用率が高く制御性の高いSRモータの駆動制御が可能となる。また、制御方式B,Cでは、スイッチング動作を停止できる相を設けることができるため、スイッチング損失の低減を図ることが可能となる。
【0036】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の実施形態3では、8素子を同一回路内に配した構成を示したが、中性点電圧Vnを供給・制御するFET23NH,23NLを別回路としても良く、図13のように、外部のスイッチング回路33を介して別のバッテリ34と中性点Nを接続し、これらによって中性点電圧Vnを供給・制御しても良い。また、本発明の適用対象は三相駆動のSRモータには限定されず、4相以上にて駆動されるSRモータにも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 SRモータ
2 レゾルバ
3U,3V,3W 巻線
10 制御装置
11 座標変換部
12 電圧指令生成部
13 電圧指令算出部
14 PWM信号算出部(駆動指令信号算出部)
15 モータ駆動部
21 駆動回路
22 バッテリ
22a,22b バッテリ
23 FET
24 接続線
25 中性点電圧制御部
26 充電用バッテリ
27 駆動回路
28 接続線
29 電圧測定部
30 主電源バッテリ
31 駆動回路
32 接続線
33 スイッチング回路
34 バッテリ
51a,51b 制御素子
N 中性点
Vdc バッテリ電源電圧
Vn 中性点電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14