(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】免震構造物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
(21)【出願番号】P 2018027235
(22)【出願日】2018-02-19
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩一
【審査官】新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009442(JP,A)
【文献】特開平11-022237(JP,A)
【文献】特開2011-069068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、該コア部に隣接する建物主要部とを備えるとともに、前記コア部と前記建物主要部の下部に設けられた基礎免震層と、前記建物主要部の中間部に設けられた中間免震層とからなる複層免震構造、及び前記コア部と、前記建物主要部とを連結制振装置で連結してなる連結制振構造を備え、
且つ、前記中間免震層より上層の前記コア部と前記建物主要部が一体形成され、前記中間免震層より下層の前記建物主要部の基壇架構が前記コア部と前記連結制振装置で連結されてなる免震構造物において、
前記中間免震層と前記連結制振構造に設置される制振装置の合計の減衰量をc
2としたとき、前記連結制振構造の減衰量が0.3×c
2以上となるように構成されていることを特徴とする免震構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
免震構造は、固有周期を長周期化することによる地震動入力の低減と、免震層に変形を集中させて地震エネルギーの効率的な吸収を両立するシステムであり、近年、このような免震構造を備えた免震構造物は、庁舎や病院、本社機能を有する拠点施設だけでなく、オフィスビルや集合住宅、学校建築など、用途を問わず採用されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の教訓から、様々な地震動が想定され、以前よりもレベルの大きな地震動を設計で考慮する必要が生じ、免震層変位が過大となる可能性が喫緊の課題となっている。
【0004】
免震構造は、建物全体の耐震性能が免震層によって決定づけられているため、免震層に何らかの対応を施すことが第一に考えられるが、高い余裕度を求めて免震クリアランスを大きくすることは床面積の減少に直結するため建築計画的な犠牲が大きい。また、最大級の地震に対しても免震層変位を抑えるべく免震層剛性を高めることや、制震装置を大量に設置して高減衰化すると、かえって上部構造の加速度が大きくなり免震効果そのものが薄れてしまう。
【0005】
一方、東北地方太平洋沖地震以降、地震対策や事業継続に対する社会的ニーズは飛躍的に高まっており、一般の建築物にも免震・制震技術が積極的に採用される中で、防災拠点施設や都心の超高層建物においては、さらにワンランク上の構造性能を追求した免制震技術の提案が求められている。
【0006】
このような動向を踏まえ、より大きな地震動への配慮と、より高性能な免震性能の両立を実現するため、本願の出願人は、現状の免震構造の上をいく新しい免制震複合システムを発明し、さらに各免震層の剛性比や減衰量に関して効果的な範囲に関する発明ついて特許出願を行っている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-019479号公報
【文献】特開平11-241524号公報
【文献】特開2002-266517号公報
【文献】特開2018-009442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献4では、建物全体の応答加速度を従来免震構造よりも低減させることを目的とし、架構形状や各免震層の剛性や減衰量などの諸元について示している。
【0009】
しかしながら、
図1に示す基壇架構2aとコアウォール(コア部1)の層間変位(以後、棟間変位と呼ぶ)を効果的に抑制するための検討については未実施であり、この点に改善の余地が残されていた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、より高性能な免震性能を備え、より大きな地震動に対応可能な免震構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0012】
本発明の免震構造物は、コア部と、該コア部に隣接する建物主要部とを備えるとともに、前記コア部と前記建物主要部の下部に設けられた基礎免震層と、前記建物主要部の中間部に設けられた中間免震層とからなる複層免震構造、及び前記コア部と、前記建物主要部とを連結制振装置で連結してなる連結制振構造を備え、且つ、前記中間免震層より上層の前記コア部と前記建物主要部が一体形成され、前記中間免震層より下層の前記建物主要部の基壇架構が前記コア部と前記連結制振装置で連結されてなる免震構造物において、前記中間免震層と前記連結制振構造に設置される制振装置の合計の減衰量をc2としたとき、前記連結制振構造の減衰量が0.3×c2以上となるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の免震構造物においては、連結制震に設置する減衰量を中間免震層と連結制振の合計の減衰量の30%以上にすることで、より高性能な免震性能を備え、より大きな地震動に対応可能な免震構造物を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る免震構造物を示す図であり、(a)が縦断面図、(b)が平断面図((a)のX1-X1線矢視図)である。
【
図2】(a)が本発明の一実施形態に係る免震構造物の解析モデルを示す図であり、(b)が解析条件を示す図である。
【
図3】解析に用いた地震動の擬似速度応答スペクトルを示す図である。
【
図4】解析に用いたオイルダンパーの緒元を示す図である。
【
図5】解析結果を示す図であり、最大応答加速度分布を示す図である。
【
図6】解析結果を示す図であり、最大応答変位分布を示す図である。
【
図7】解析結果を示す図であり、最大層間変形角分布を示す図である。
【
図8】解析結果を示す図であり、最大棟間変位分布を示す図である。
【
図9】解析結果を示す図であり、時刻歴変位波形を示す図である。
【
図10】解析結果を示す図であり、時刻歴速度波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1から
図10を参照し、本発明の一実施形態に係る免震構造物について説明する。
【0016】
本実施形態の免震構造物は、剛強なコアを複数の免震層を有する複層免震建物の内部に貫通させ、相互を制震装置で連結した複層連結免震構造とし、従来の免震構造では不可能な超長周期化による加速度低減を実現しながらクリアランスやコア下部に設置した連結制震が単なる複層免震では不可能な制震効果を発揮して変位制御を両立するように構成されている。
【0017】
具体的に、本実施形態の免震構造物Aは、免震建物であり、
図1に示すように、建物中央にコアウォールを備えてなる平面視方形状で最下層から最上層まで上下方向に連続的に延設された剛強なコア部(建物中央部)1と、コア部1に隣接し、コア部1を囲繞するように配設されて建物周囲を形成する建物主要部(建物周囲部)2とを備えている。なお、
図1では、コア部1が中央コアとしているが、偏心コアや両端コアを備えた構造物であっても勿論構わない。
【0018】
コア部1と建物主要部2はそれぞれ下部に基礎免震層3を備えており、この基礎免震層3には任意の免震支承(免震装置)と減衰装置が設けられている。例えば、免震支承としては積層ゴム、すべり支承、リニアスライダーのいずれか、もしくは複数を併用し、減衰装置としてはオイルダンパー、鉛ダンパー(積層ゴムに内包するLRBを含む)、鋼材ダンパー、摩擦ダンパーのいずれか、もしくは複数を併用できる。
【0019】
さらに、本実施形態の免震構造物Aは所定の階層に中間免震層4を備えており、中間免震層4よりも上層はコア部1と建物主要部2が一体形成され、中間免震層4から下層は建物主要部2がコア部1との間に所定の空間を設け、それぞれ独立して立設するように形成されている。中間免震層4には基礎免震層3と同様に任意の免震支承(免震装置)が設けられ、この免震支承によって中間免震層4を境に上層の建物主要部2が支持されている。なお、中間免震層4から下層の建物主要部2の独立部分が本発明に係る基壇架構2aである。
【0020】
また、中間免震層4よりも下層のそれぞれ独立して立設された建物主要部2の基壇架構2aとコア部1は、棟間の連結制振装置(連結ダンパー、減衰要素)5を介して連結されている。なお、連結制振装置5としてバネ要素と減衰要素を適用してもよく、この場合には、コア部1と建物主要部2(コア部1と建物主要部2の相互)をTMDの錘要素のように機能させることも可能になる。
【0021】
そして、上記構成からなる本実施形態の免震構造物Aにおいては、基礎免震層3と中間免震層4を有する複層免震構造としたことで、固有周期の超長周期化を実現することができる。
【0022】
また、剛強なコア部1を建物全層にわたって貫通させ、構造的、機能的な心棒とし、さらに中間免震層4よりも下層の建物主要部2(基壇架構2a)とコア部1を接続した連結制震構造としたことによって、応答制御を効率的に行うことが可能になる。なお、一般的な複層免震ではコアウォールが中間免震層4で分断されている。
な心棒としている。
【0023】
また、基壇架構2aとコアウォール(コア部1)の間(棟間)に連結制振装置5を設けて連結したことにより、応答制御を効率的に行うことが可能になる。
【0024】
さらに、コア部1を免震層6(基礎免震層3)で支持することで、地震時に免震層3に設置した減衰装置を積極的に変形させてエネルギー吸収を効率化することが可能になる。なお、中間免震層4の位置は用途の境界等の建築計画的な観点から自由に決定できる。
【0025】
また、上記のように構成することによって、本実施形態の免震構造物Aにおいては、加速度-変位の関係における従来のコア付き免震、複層免震の対象領域以外の領域の免震性能を担うことが可能になる。
【0026】
さらに、中間層免震層4の位置は、用途の境界等の建築計画的な観点から決定できる。
【0027】
[実施例]
ここで、本実施形態の免震構造物Aの効果を検証するために、本実施形態の免震構造物Aの振動モデルを用いて時刻歴応答解析による検討(シミュレーション)を行った。
【0028】
本検討では、
図2に示すように、本実施形態の免震構造物(複層連結免制震架構)Aを55階建てRC造建物に適用した。入力地震動はLv2に基準化した告示波(神戸NS位相)と南海トラフの地震動(OS1)の2波とした。これらの地震動の擬似速度応答スペクトル(h=5%)は
図3に示す通りである。
【0029】
また、
図2に示すように、解析モデルは等価せん断型の多質点系モデルとした。
解析を実施したケースは以下の4ケースとした。
ケース1:基準モデル(中間免震層4にオイルダンパーを14台設置したケース)
ケース2:中間4倍モデル(中間免震層4にオイルダンパーを56台設置したケース)
ケース3:連結モデル(1階~4階に10台ずつ、5階に16台、計56台のオイルダンパーを設置したケース)
ケース4:振分けモデル(中間免震層4に40台、1階、4階に6台ずつ、5階に4台、計56台のオイルダンパーを設置したケース、オイルダンパーの割合は中間層免震:連結制震 =7:3)
【0030】
ここで、中間免震層4の減衰量と連結制震(棟間の連結制振装置5)の減衰量の設定法について以下に示す。
本実施形態の免震構造物Aのオイルダンパーの設置減衰量は中間免震層4と連結制震(連結制振装置5)の減衰係数の合計をc2とすると、以下の式(1)で表すことができる。なお、基礎免震層4の減衰係数の合計をc1とすると、c1は以下の式(2)で表すことができる。
【0031】
【0032】
【0033】
ここで、ω1は1次固有円振動数、ω2は2次固有円振動数、k1は基礎免震層剛性、k2は中間免震層剛性である。
【0034】
解析モデルについて詳細を後述するが、本実施例では、k2=2.04×108(N/mm)、ω1=0.872、ω2=2.73であり、c2の最大値は1.4×108(Ns/m)と算出される。
そして、減衰係数が2.5×106(Ns/m)のオイルダンパーを使用すると、最大設置台数が56台となる。
【0035】
本実施例では、連結制震の効果を検証するため、ケース2の中間免震層に全てのオイルダンパーを設置した中間4倍モデル、ケース3の全てのオイルダンパーを棟間に連結させた連結モデル、ケース4の30%のオイルダンパーを連結制震に振り分けた振分けモデルと、設置するオイルダンパーの合計台数を一致させ、設置箇所を変化させた解析モデルを作成した。
【0036】
図2(a)は使用した多質点系解析モデル図である。また、
図2(b)は比較した解析ケースの解析モデル諸元一覧を示している。
【0037】
22階と23階の間に中間免震層4を配置し、基準階・コア部1の基礎部と基壇架構2aの基礎部にもそれぞれ免震層3、6を配置している。免震装置は全て天然ゴム系積層ゴムを使用し、減衰はオイルダンパーを使用している。1次固有周期は約7.2秒であり、構造減衰として免震層を除く各層に剛性比例で2%の減衰を付与している。
【0038】
ケース1を基準モデルとし、ケース2、ケース3、ケース4は設置するオイルダンパー数は同数とし、設置場所を変更している。ケース2、ケース3、ケース4を比較することにより、連結制震の応答低減効果を検証する。
なお、解析に使用したオイルダンパーの諸元は
図4に示す通りである。
【0039】
<解析結果>
図5から
図8に、応答加速度、層間変位、層間変形角、および棟間変位について、ケース1:基準モデルと、ケース2:中間4倍モデル、およびケース3:連結モデル、ケース4:振分けモデルとを比較して示す。
【0040】
ケース2とケース3を比較すると、オイルダンパーの設置台数は変わらないが、連結制震とすることにより、中間免震層以下の応答加速度が増大するが、棟間変位が2割~3割程度も低減できることがわかる。
【0041】
また、ケース4のように中間層に設置したオイルダンパーの30%程度を連結制震に振り分けることにより、ケース2と比較し、応答加速度の増大を招くことなく棟間変位を1割程度低減できることがわかる。これは、中間免震層の変位や速度よりも、オイルダンパーを連結した棟間変位や棟間速度の方が大きいことにより応答低減効果が大きくなるためである。
【0042】
図9、
図10に、OS1を基準モデルに入力した際の中間免震層と基礎免震層直上階における棟間変位の時刻歴波形、および棟間速度の時刻歴波形を比較して示す。
これら図から、中間免震層よりも基礎免震直上階の棟間変位、棟間速度が大きいことがわかる。
【0043】
また、ケース3の連結モデルでは、ケース2の中間4倍モデルに対して応答加速度が増大している。本解析ではc2として設置可能な減衰の最大量を設置したため、このように加速度が増大したが、c2の減衰量を少なくすることによって加速度の増大を低減することも可能である。
【0044】
したがって、
図2(a)において、c
2として設置する減衰量の30%以上をc
2AB(連結制振装置5)に振り分けることによって棟間変位を効果的に低減可能であると言える。すなわち、下記の式(3)を満たすようにすると、棟間変位を効果的に低減することが可能になる。なお、c
2は
図2(a)におけるc
2Bとc
2ABの和である。
【0045】
【0046】
また、本実施形態の免震構造物Aにおいて、中間免震層に多くの制震装置を設置するのではなく、棟間変位が大きい階に連結させて設置する方が応答加速度を増加させることなく棟間変位も低減できることがわかった。棟間変位を小さくすることで、Exp.J(エキスパンションジョイント)の変形量が小さくなり、損傷する可能性も低くなるだけでなく、Exp.Jのコスト低減を図ることが可能になる。
【0047】
なお、連結するダンパーはオイルダンパー等の粘性ダンパーに限らず、鋼材ダンパーなどの履歴系減衰装置でも同様の応答低減効果があることが別途検証によって確認できている。
【0048】
以上のことから、本実施形態の免震構造物Aにおいては、中間免震層4ではなく棟間変位や棟間速度が大きい階に連結制振装置5を設置することにより、且つ連結制震に設置する減衰量を中間免震層4と連結制振の合計の減衰量の30%以上にすることで以下の作用効果を確実且つ効果的に得ることができる。
【0049】
建物の応答加速度を増大することなく、棟間変位を効果的に抑制することができる。また、棟間変位を抑制することは免震クリアランスの減少となり、Exp.Jの変形も小さくなる。さらに、制振装置の設置箇所が免震層だけでなく棟間にも設置することで、多くの制震装置を設置可能となる。また、オイルダンパーだけでなく、履歴系の鋼材ダンパーの場合は、建物応答加速度が10%程度増加するが、オイルダンパー同様に棟間変位を抑制するために適用することができる。
【0050】
以上、本発明に係る免震構造物の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 コア部
2 建物主要部
3 基礎免震層
4 中間免震層
5 制振装置
6 コア部の基礎免震層
A 免震構造物