(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】改良されたフォルステライト被膜特性を有する方向性珪素鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220106BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20220106BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220106BHJP
C22C 38/34 20060101ALI20220106BHJP
C23C 22/00 20060101ALI20220106BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C21D8/12 B
C21D9/46 501A
C22C38/34
C23C22/00 A
H01F1/147 183
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018089858
(22)【出願日】2018-05-08
(62)【分割の表示】P 2016537773の分割
【原出願日】2014-08-26
【審査請求日】2018-06-04
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-26
(32)【優先日】2013-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503404132
【氏名又は名称】クリーブランド-クリフス スティール プロパティーズ、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ショーエン、ジェリー、ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】パーティン、キマニ、ティラワ
(72)【発明者】
【氏名】ウィルキンス、クリストファー、マーク
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】井上 猛
【審判官】境 周一
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12
C21D 9/46
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板のための改良されたフォルステライト被膜を作成する方法であって、
a.0.7重量%~2.0重量%の濃度のクロミウムを有する鋼を提供する工程と、
b.前記鋼を鋳造して鋳鋼を形成する工程と、
c.前記鋳鋼を熱間圧延する工程と、
d.前記熱間圧延した鋼を冷間圧延して鋼板を形成する工程と、
e.500℃/秒を超える比率で前記鋼板を急速に加熱することによって脱炭焼鈍する工程と、
f.マグネシアを有する被膜で前記脱炭焼鈍した鋼板をコーティングする工程と、
g.表面下の
根となる基本構造を有するフォルステライト被膜を形成するように前記コーティングした鋼板を高温焼鈍する工程と
を有する、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記鋼のクロミウム含有量が、1.2重量%~2.0重量%である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、「改良されたフォルステライト被膜特性を有する高透磁率方向性珪素鋼板の製造方法(Method of Producing a High Permeability Grain Oriented Silicon Steel Sheet With Improved Forsterite Coating Characteristics)」と題する、2013年8月27日出願の米国仮特許出願第61/870332号に対して優先権を主張するものであり、その開示は本明細書中において参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
方向性珪素‐鉄電磁鋼の製造の経過において、高温焼鈍処理中にフォルステライト被膜が形成される。こうしたフォルステライト被膜は方向性鋼の製造方法に関わる先行技術においてよく知られ広く使われている。そうした被覆は当技術分野において「グラスフィルム」、「ミルグラス」、「ミルアニール」被覆などの用語で様々に呼称されており、ASTM規格A976によってタイプC-2絶縁被覆として定義されている。
【0003】
フォルステライト被膜は電磁鋼帯の上に形成された酸化物層と当該鋼帯に対して高温焼鈍前に塗布する焼鈍分離剤被膜との化学反応から形成される。焼鈍分離剤被膜は当技術分野において周知であり、一般的には水ベースの酸化マグネシウムスラリーを有し、その機能を増強するその他の素材を含有する。
【0004】
前記焼鈍分離剤被膜を乾燥させた後、前記鋼帯は一般的にコイルに巻きつけられ、高温焼鈍処理を行うバッチ式箱焼鈍処理において焼鈍される。この高温焼鈍処理の間、フォルステライト被膜の形成に加えて、前記鋼帯中でキューブ・オン・エッジ(cube-on-edge)の粒子配向が発達し、前記鋼帯が精製される。この処理工程には当技術分野においてよく確立されている多種多様な手順が存在する。この高温焼鈍処理の完了後に、前記鋼は冷却され、前記鋼帯は表面を反応しなかった又は過剰であった焼鈍分離剤被覆を除去する周知の方法によって洗浄される。
【0005】
殆どの場合において、前記フォルステライト被膜の上に追加的な被覆が次いで塗布される。そうした追加被覆はASTM規格A976においてタイプC-5被覆として記載されており、しばしば「C-5オーバーC-2(C-5 over C-2)」被覆として記載されている。とりわけ、C-5被覆は、(a)非常に高電圧の電気機器に必要な電気的絶縁を提供し、これは磁心内の各鋼板間における循環電流とそれによる鉄損の上昇とを防止し;(b)当該鋼板を機械的張力をかけた状態に置き、これは当該鋼板の鉄損を減少させて、当該鉄板の磁歪特性を改善し完成した電気機器の振動及びノイズを低減する。前記C-5絶縁被覆は、当技術分野において「高応力(high stress)」、「張力効果(tension effect)」又は「二次(secondary)」被覆のように様々に呼称される。これらは典型的には透明性又は透光性を持つため、これらの既知のC-5オーバーC-2被膜は、方向性電磁鋼板上で使われる場合、高度な表面均一性とC2皮膜中における高度な物理的接着性とを必要とする。C-5被覆及びC-2被覆の組合せは、完成した鋼帯製品に高度な張力を与え、当該鋼帯の磁気特性を向上させる。結果的に、前記フォルステライト被膜と塗布された二次被膜との両方における改良は、当技術分野において大きな関心事項である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
鋼基材のクロミウム含有量を約0.45重量%以上のレベルまで上昇させることにより、より優れより均一な呈色、厚さ、接着力を備えた、大幅に改良されたフォルステライト被覆が製造される。さらに、そうして形成されたフォルステライト被膜はより優れた張力を提供し、よって前記C-5二次被膜の相対的な重要性を減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は高温焼鈍してフォルステライト被膜を形成する前のラボ製造の電磁鋼組成物における表面の酸化物の顕微鏡写真及び酸素含有量を示している。
【
図2】
図2は
図1の電磁鋼の高温焼鈍前における酸素のプロファイルについてのグロー放電分光(GDS:glow discharge spectrometric)分析のグラフを示している。
【
図3】
図3は
図1の電磁鋼の高温焼鈍前におけるクロミウムのプロファイルについてのGDS分析のグラフを示している。
【
図4】
図4は
図1の電磁鋼の高温焼鈍前におけるシリコンのプロファイルについてのGDS分析のグラフを示している。
【
図5】
図5は高温焼鈍後のラボ製造の電磁鋼組成物上に形成されたフォルステライト被膜の顕微鏡写真を示している。
【
図6】
図6は
図5の電磁鋼の高温焼鈍後における酸素のプロファイルについてのGDS分析のグラフを示している。
【
図7】
図7は
図5の電磁鋼の高温焼鈍後におけるクロミウムのプロファイルについてのGDS分析のグラフを示している。
【
図8】
図8はC-5オーバーC-2被覆を持つラボ製造の電磁鋼組成物についての被覆接着力試験サンプルの写真を示している。
【
図9】
図9はC-5オーバーC-2被膜を持つ電磁鋼組成物の1.7Tで測定された相対的な鉄損についてのグラフを示している。
【
図10】
図10はC-5オーバーC-2被膜を持つ電磁鋼組成物の1.8Tで測定された相対的な鉄損についてのグラフを示している。
【
図11】
図11はC-5オーバーC-2被膜を持つ電磁鋼組成物の1.7Tで測定された相対的な鉄損の改善についてのグラフを示している。
【
図12】
図12はC-5オーバーC-2被膜を持つ電磁鋼組成物の1.8Tで測定された相対的な鉄損の改善についてのグラフを示している。
【
図13】
図13は
図12の工場製造の電磁鋼の高温焼鈍前における酸素のプロファイルについてのGDS分析のグラフを示している。
【
図14】
図14は
図12の工場製造の電磁鋼の高温焼鈍前におけるクロミウムのプロファイルについてのGDS分析のグラフを示している。
【
図15】
図15は
図12の工場製造の電磁鋼の高温焼鈍後における酸素のプロファイルについてのGDS分析のグラフを示している。
【
図16】
図16は
図12の工場製造の電磁鋼の高温焼鈍後におけるクロミウムのプロファイルについてのGDS分析のグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
一般的な方向性電磁鋼板の工業的製造法において、鋼は特定の組成でかつ多くの場合独占所有権のある組成へと融解される。殆どの場合、前記鋼溶融物は主要な構成要素のFe及びSiとともに、合金添加元素のC、Mn、S、Se、Al、B及びNを少量含んでいる。前記鋼溶融物は典型的にはスラブに鋳造される。前記鋳造されたスラブに対して、さらなる処理のために1~4mm(一般的には1.5~3mm)の帯に圧延される前に、1つ又は2つの工程でスラブ再加熱及び熱間圧延を行ってもよい。前記熱間圧延された帯に対して、最終的な厚さとなる0.15~0.50mm(一般的には0.18~0.30mm)に冷間圧延される前に、熱延板焼鈍を行ってもよい。前記冷間圧延処理は、通常1つ又は複数の工程において実施される。もし2つ以上の冷間圧延工程が使われる場合、一般的には各冷間圧延工程の間に焼鈍工程が挟まれる。冷間圧延が完了した後、前記鋼に対して(a)炭素レベルを充分に低くして、最終製品における磁気時効を防止するため;及び(b)前記鋼板の表面を充分に酸化して、フォルステライト被膜の形成を促進するために、脱炭焼鈍を行ってもよい。
【0009】
脱炭焼鈍された鋼帯をマグネシア或いはマグネシア及びその他の添加物の混合物によって被覆し、この被覆は前記鋼帯をコイルの形態に巻き付ける前に乾燥される。マグネシア被覆されたコイルを次いで、H2-N2又はN2気体中において高温(1100℃~1200℃)で長時間焼鈍する。この高温焼鈍工程の間、前記方向性電磁鋼の特性が発達する。前記キューブ・オン・エッジ、つまり(110)[001]の粒子配向が発達し、前記鋼はS、Se及びNなどの元素が除去されるように精製され、フォルステライト被膜が形成される。高温焼鈍が完了した後、前記コイルは冷却されて巻きを解かれ、マグネシア分離剤被膜から残留物を除去し、一般的に前記フォルステライト被膜の上にC-5絶縁被膜が塗布される。
【0010】
方向性電磁鋼の製造におけるクロミウム添加物の使用は、「規則的方向性電磁鋼の製造方法(Regular Grain Oriented Electrical Steel Production Process)」と題する、1995年6月6日発行の米国特許第5421911号公報;「珪素-クロム方向性珪素鋼の製造方法(Method for Producing Silicon-Chromium Grain Oriented Electrical Steel)」と題する、1997年12月30日発行の米国特許第5702539号公報;及び「高透磁率方向性電磁鋼材(High Permeability Grain Oriented Electrical Steel)」と題する、2011年2月15日発行の米国特許第7887645号公報において教示されている。これらの各特許の教示は、本明細書中において参照により援用されるものである。前記方向性電磁鋼の製造において、より高い容量の抵抗力を与え、オーステナイトの形成を促進し、その他の有益な特性を与えるために、クロミウム添加物を利用される。商業的実施において、クロミウムは0.10重量%~0.41重量%の範囲、最も一般的には0.20重量%~0.35重量%で用いられてきた。この商業的実施の範囲において、フォルステライト被膜へのクロミウムの有益な効果は明らかとなっていなかった。実際のところ、その他の先行技術はクロミウムが方向性電磁鋼板上のフォルステライト皮膜形成を分解すると報告している。例えば、「方向性電磁鋼板およびその製造方法(Grain Oriented Electrical Steel Sheet and Method for Manufacturing Same)」と題する2013年4月25日公開の米国特許出願公開第2013009508号は、形成されるフォルステライト被膜により与えられる張力を最適とするためには、クロミウム含有量が0.1重量%以下であることを必要とすると教示している。
【0011】
特定の実施形態において、鋼溶融物中に約0.45重量%以上のクロミウムを有する電磁鋼組成が、フォルステライト被膜の接着力を改善し、高温焼鈍後の完成した電磁鋼製品における鉄損を低下させることが明らかになった。さらに他の実施形態において、鋼溶融物中に約0.45重量%~約2.0重量%のクロミウムを有する電磁鋼組成が、フォルステライト被膜の接着力を改善し、高温焼鈍後の完成した電磁鋼製品における鉄損を低下させることが明らかになった。他の実施形態において、鋼溶融物中に約0.7重量%以上のクロミウムを有する電磁鋼組成が、フォルステライト被膜の接着力を改善し、高温焼鈍後の完成した電磁鋼製品における鉄損を低下させることが明らかになった。さらに他の実施形態において、鋼溶融物中に約0.7重量%~約2.0重量%のクロミウムを有する電磁鋼組成が、フォルステライト被膜の接着力を改善し、高温焼鈍後の完成した電磁鋼製品における鉄損を低下させることが明らかになった。他の実施形態において、鋼溶融物中に約1.2重量%以上のクロミウムを有する電磁鋼組成が、フォルステライト被膜の接着力を改善し、高温焼鈍後の完成した電磁鋼製品における鉄損を低下させることが明らかになった。さらに他の実施形態において、鋼溶融物中に約1.2重量%~約2.0重量%のクロミウムを有する電磁鋼組成が、フォルステライト被膜の接着力を改善し、高温焼鈍後の完成した電磁鋼製品における鉄損を低下させることが明らかになった。それぞれの場合において、上昇させたクロミウム含有量以外、前記電磁鋼組成は当業界において用いられている典型的な組成であった。
【0012】
特定の実施形態において、高温焼鈍前の脱炭焼鈍した鋼板の表面から0.5~2.5μmの深さにおいて約0.7重量%以上のクロミウム濃度を有する電磁鋼は、フォルステライト被膜の接着力を改善し、高温焼鈍後の完成した電磁鋼製品における鉄損を低下させた。特定の実施形態において、高温焼鈍前の脱炭焼鈍した鋼板の表面から0.5~2.5μmの深さにおいて約0.7重量%以上のクロミウム濃度を有し、高温焼鈍した鋼板の表面から2~3μmの深さにおいてフォルステライト被膜電磁鋼板中に約7.0重量%以上の酸素濃度を有する電磁鋼は、フォルステライト被膜の接着力を改善し、高温焼鈍後の完成した電磁鋼製品における鉄損を低下させた。それぞれの場合において、上昇させたクロミウム含有量以外、前記電磁鋼組成は当業界において用いられている典型的な組成であった。
【0013】
特定の実施形態において、脱炭焼鈍の後で高温焼鈍の前に測定したとき、クロミウム濃度は板の表面領域(板の表面から2.5μm以下と定義される)の方が、板のバルク領域(板の表面から2.5μm超と定義される)よりも高いことが明らかとなった。驚くべきことに、このクロミウムの濃縮は、高温焼鈍前の処理中にクロミウムが分配されるものであるが、高温焼鈍の後にはもはや存在していないことが測定された。いかなる理論にも拘束されるものではないが、より表面に近い場所におけるこのクロミウム濃度の減衰は、フォルステライト被膜形成時の当該被膜との相互作用の結果であり、フォルステライト被膜特性の改善において重要な役割を果たすと考えられる。
【0014】
0.7重量%~2.0重量%の範囲でクロミウムを含有する電磁鋼の組成を、当技術分野に周知の方法によって調製した。これらの組成を評価して、脱炭焼鈍、脱炭焼鈍中の酸化物層(「鉄橄欖石(fayalite)」)の形成、高温焼鈍後のミルグラス形成、及び二次被覆の接着力に対する、クロミウム濃度の影響を測定した。前記脱炭した板をマグネシア被覆して高温焼鈍し、前記フォルステライト被膜を評価した。0.70%以上のクロミウムを含有する鋼は、前記溶融物のクロミウム濃度が上昇するにつれて、二次被覆の接着力の改善を示した。
【0015】
一連の試験を実施した。第一に、脱炭したままの酸化物層を調べた。鋼質分析はクロミウムの濃度範囲全体において酸化物層の厚さが同様であることを示したが、一方で化学分析は脱炭焼鈍後の総酸化レベルが同じから少し高くなる範囲にあることを示した。前記酸化物層のGDS分析は、クロミウムリッチなピークが板表面の表面近く(0.5~2.5μm)の層において出現しており、このピークは前記溶融物のクロミウム濃度が上昇するにつれて増加することを示した。第二に、フォルステライト被膜を調べた。鋼質分析は、前記鋼板のクロミウム含有量が増加するにつれて、前記鋼表面に形成されるフォルステライト被膜がより厚くなり、より連続的となり、呈色がより均一になり、より広範囲な表面化の「根」となる構造を作ることを示した。改良された「根」構造は、被覆の接着力を向上させることが知られている。第三かつ最後に、CARLITE(登録商標)被覆(AK Steel Corporation(オハイオ州ウェストチェスター)によって市販されている高張力C-5二次被覆)により被覆されたサンプルについて接着力を試験した。試験結果は、クロミウム濃度が上昇するにつれて被覆の接着力が大幅に改善することを示した。
【実施例1】
【0016】
ラボスケールの金属を、先行技術の典型的な組成(金属A及びB)及び本実施形態の組成(金属CからI)で作成した。
【0017】
【0018】
鋼をインゴットに鋳造し、1050℃に加熱し、25%の熱間縮小を与え、さらに1260℃に加熱し、熱間圧延して2.3mm厚を有する熱間圧延帯を製造した。前記熱間圧延帯を次いで1150℃で焼鈍し、空気中で950℃まで冷却し、次いで毎秒50℃超の速度で300℃未満になるまで急速冷却した。前記熱間圧延し焼鈍した帯を次いで、最終的に0.23mm又は0.30mm厚になるよう冷間圧延した。前記冷間圧延帯を、次いで毎秒500℃超の速度で740℃まで急速加熱することによって脱炭焼鈍し、次いで加湿した水素‐窒素気体であってH20/H2比率が名目上0.40~0.45である気体中で815℃まで加熱して、前記鋼中の炭素レベルを低下させた。815℃での浸漬時間として、0.23mm厚に冷間圧延する材料には90秒、0.300mm厚に冷間圧延する材料には170秒を許した。脱炭焼鈍工程が完了した後、炭素及び表面酸素の化学試験と、グロー放電分光分析(GDS:Glow discharge spectrometry)を用いた表面組成分析とのためにサンプルを取って、当該組成と当該酸化物層の深さを測定した。前記帯を次いで、4%酸化チタンを含有する酸化マグネシウムから成る焼鈍分離剤被覆によって被覆した。前記被覆した帯を次いで、75%N225%H2の気体中で浸漬温度の1200℃まで加熱することによって高温焼鈍し、この温度下で前記帯を100%乾燥H2中少なくとも15時間保持した。冷却後、前記帯を洗浄し、反応しなかった焼鈍分離剤被覆を除去した。サンプルをとって、フォルステライト被膜の均一性、厚さ、及び組成を測定した。前記試料を次いで、張力効果C-5タイプ二次被覆によって被覆し、19mm(0.75インチ)成形ロールを用いた1段式の3ロール圧延試験手順を用いて接着力を試験した。前記被覆の接着力を、圧縮側の帯表面を用いて評価した。
【0019】
図1は高温焼鈍が行われる前の酸化物層の顕微鏡写真をクロミウム含有量別に示している。
図2、3、及び4は、焼鈍した表面酸化物層における酸素、クロミウム、及びシリコンの量(重量%)をそれぞれ示している。
図2及び3は前記板表面下0.5~2.5μmの深さにおける酸化物層の酸素及びクロミウム含有量の上昇を示している。
図5は高温焼鈍の間に酸化物層と焼鈍分離剤被膜との間の反応により形成されたフォルステライト被膜の顕微鏡写真を示している。フォルステライト被膜の根構造の増強は、板のクロミウム含有量を上昇させたとき顕著となった。
図6はフォルステライト被膜の酸素プロファイルのGDS分析を示しており、これはフォルステライト被膜の厚さ及び密度を測定するために用いられた。このデータは、フォルステライト被膜の厚さ及び密度が、基材の金属比で0.7%超のクロミウム添加によって増強されたことを示している。
図7はフォルステライト被膜のクロミウムプロファイルのGDS分析を示している。
【0020】
図8は二次被覆及び被覆接着力試験後の標本の写真を示しており、これはクロミウム含有量が上昇するにつれて接着力が劇的に上昇したことを示している。先行技術の鋼である金属A及びBは、被覆が剥がれた場所が線となって確認されるように、被覆の剥離を示している。それとは逆に、金属C~Fの鋼は、被覆に幾つかの斑点で見られるように、剥離が大幅に減少していることを示している。金属H及びIは、実質的に被覆に剥がれ又は斑点が見られないことを示している。
【実施例2】
【0021】
鉄損に対する利点を実演するために、表2に示す組成を有する産業規模の金属を作成した。金属J及びKは先行技術の典型例であり、金属L及びMは本実施形態の組成である。
【0022】
【0023】
鋼を200mm厚を持つスラブへと連続的に鋳造した。前記スラブを1200℃に加熱し、25%の熱間縮小を与えて150mm厚として、さらに1400℃に加熱し圧延して2.0mm厚の熱延鋼板へと圧延した。前記熱間圧延帯を次いで1150℃で焼鈍し、空気中で950℃まで冷却し、次いで毎秒50℃超の速度で300℃未満になるまで急速冷却した。前記圧延帯を、次いで毎秒500℃超の速度で740℃まで急速加熱することによって脱炭焼鈍し、次いで加湿したH2‐N2気体であってH20/H2比率が名目上0.40~0.45である気体中で815℃まで加熱して、前記鋼中の炭素レベルを低下させた。 評価の一部として、実施例1における検討と比較するためにGDS分析用のサンプルを確保した。
【0024】
前記帯を4%酸化チタンを含む酸化マグネシウムから主として成る焼鈍分離剤被膜により被覆した。前記焼鈍分離剤被膜を乾燥させた後、前記帯をH2-N2気体中で浸漬温度の1200℃まで加熱することによって高温焼鈍し、この温度下で前記帯を100%乾燥H2中少なくとも15時間浸漬した。 高温焼鈍が完了した後、前記コイルを冷却し、マグネシア分離剤被膜から残留物を除去し、試験用材料を確保して高温焼鈍中に形成された磁気特性とフォルステライト被膜特性との両方を評価した。前記試験用材料を次いで張力効果ASTM規格タイプC-5被膜を用いて被覆した。前記二次被膜の厚さは名目上4gm/m2~名目上16gm/m2(両表面に塗布された合計)の範囲であり、この測定値は前記二次被膜を完全に乾燥し焼成した後の試料の重量上昇に基づいている。この試料を次いで測定し磁気特性の変化を決定した。
【0025】
表3フォルステライト被膜上に二次被膜を塗布する前及び後の磁気特性について纏めている。
図9及び
図10は、張力効果二次被膜塗布後のそれぞれ1.7T及び1.8Tの磁気密度において計測された60Hzの鉄損を示しており、ここでは明らかな改善が見られる。先行技術の金属J及びKは、本発明の実施形態である金属L及びMよりも大幅に高い鉄損を有している。さらに、これらの実施形態の組成は、より優れた技術的特性を持つフォルステライト被膜を得る結果へと繋る。
図11及び12が示すように、これらの実施形態は、二次被覆重量の製造変動範囲にわたって、より優れた鉄損と非常に優れた鉄損の一貫性とを生み出す。さらに、この二次被覆重量の削減を可能にする能力は、電気機械設計において重要な鋼特性であることが知られる占積率の上昇へと繋がる。
【0026】
図13及び14は、工場処理の間、高温焼鈍前に得た金属L及びMのサンプルについてのGDSにより決定された酸素及びクロミウムの表面化学スペクトルを示している。この結果は実施例1で議論したものと類似しており、つまり、酸化物層の酸素及びクロミウム含有量の増加が、鋼板表面から一定の深さにおいて観察された。
【0027】