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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/09 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
H01J37/09 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018150444
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020027688
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆光
(72)【発明者】
【氏名】福田 知久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴己
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-95192(JP,A)
【文献】特開2011-14299(JP,A)
【文献】特開2005-310699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/09
H01L 21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに径が異なる第1絞り孔および第2絞り孔が設けられた絞り板と、
前記絞り板を移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
前記第1絞り孔が所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第1位置を経由して、第2位置に移動するように前記移動機構を制御する処理と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第3位置を経由して、第4位置に移動するように前記移動機構を制御する処理と、
を行い、
前記第1位置と前記第3位置とは異なる位置であり、
前記第1位置から前記第2位置に向かう第1ベクトルの向きおよび大きさは、前記第3位置から前記第4位置に向かう第2ベクトルの向きおよび大きさと等しい、荷電粒子線装置。
【請求項2】
互いに径が異なる第1絞り孔および第2絞り孔が設けられた絞り板と、
前記絞り板を移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
前記第1絞り孔が所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第1位置を経由して、第2位置に移動するように前記移動機構を制御する処理と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第3位置を経由して、第4位置に移動するように前記移動機構を制御する処理と、
前記第1絞り孔が前記所定位置に位置するように前記移動機構を制御したときの前記第1絞り孔の位置の再現性を、前記第1位置から前記第2位置に向かう第1ベクトルの向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する処理と、
前記第1絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて、前記第1ベクトルの向きおよび大きさを決定する処理と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記移動機構を制御したときの前記第2絞り孔の位置の再現性を、前記第3位置から前記第4位置に向かう第2ベクトルの向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する処理と、
前記第2絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて、前記第2ベクトルの向きおよび大きさを決定する処理と、
を行う、荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記所定位置は、光軸の位置である、荷電粒子線装置。
【請求項4】
互いに径が異なる第1絞り孔および第2絞り孔が設けられた絞り板と、前記絞り板を移動させる移動機構と、を含む荷電粒子線装置の制御方法であって、
前記第1絞り孔が所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第1位置を経由して、第2位置に移動するように前記移動機構を制御する工程と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第3位置を経由して、第4位置に移動するように前記移動機構を制御する工程と、
を含み、
前記第1位置と前記第3位置とは異なる位置であり、
前記第1位置から前記第2位置に向かう第1ベクトルの向きおよび大きさは、前記第3位置から前記第4位置に向かう第2ベクトルの向きおよび大きさと等しい、荷電粒子線装置の制御方法。
【請求項5】
互いに径が異なる第1絞り孔および第2絞り孔が設けられた絞り板と、前記絞り板を移動させる移動機構と、を含む荷電粒子線装置の制御方法であって、
前記第1絞り孔が所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第1位置を経由して、第2位置に移動するように前記移動機構を制御する工程と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第3位置を経由して、第4位置に移動するように前記移動機構を制御する工程と、
前記第1絞り孔が前記所定位置に位置するように前記移動機構を制御したときの前記第1絞り孔の位置の再現性を、前記第1位置から前記第2位置に向かう第1ベクトルの向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する工程と、
前記第1絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて、前記第1ベクトルの向きおよび大きさを決定する工程と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記移動機構を制御したときの前記第2絞り孔の位置の再現性を、前記第3位置から前記第4位置に向かう第2ベクトルの向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する工程と、
前記第2絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて、前記第2ベクトルの向きおよび大きさを決定する工程と、
を含む、荷電粒子線装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡や集束イオンビーム装置などの荷電粒子線装置では、様々な絞りが用いられている。例えば、透過電子顕微鏡では、コンデンサー絞り、対物レンズ絞り、制限視野絞りなどが用いられている。
【0003】
これらの絞りには、互いに径の異なる複数の絞り孔が設けられている。例えば、透過電子顕微鏡では、観察モードや、観察倍率、電子線の照射条件などに応じて適切な径の絞り孔が選択され、選択された絞り孔が光軸に配置される。
【0004】
荷電粒子線装置において、高い精度で情報を得るためには、絞り孔を正確に位置決めしなければならない。例えば、特許文献1には、電動モーターを用いて、自動で、選択された絞り孔を正確に所定の位置に位置決めすることができる電子顕微鏡が開示されている。
【0005】
特許文献1では、現在光軸上にセットされている絞り孔から次に光軸上にセットされる絞り孔に絞りを移動させるときの座標が、現在光軸上にセットされている絞り孔と次にセットされる絞り孔のすべての組み合わせについて設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-957192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、荷電粒子線装置では高い精度で情報を得るためには、絞り孔を正確に位置決めしなければならないため、絞り孔を正確に位置決めできる荷電粒子線装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る荷電粒子線装置の一態様は、
互いに径が異なる第1絞り孔および第2絞り孔が設けられた絞り板と、
前記絞り板を移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
前記第1絞り孔が所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第1位置を経由して、第2位置に移動するように前記移動機構を制御する処理と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第3位置を経由して、第4位置に移動するように前記移動機構を制御する処理と、
を行い、
前記第1位置と前記第3位置とは異なる位置であり、
前記第1位置から前記第2位置に向かう第1ベクトルの向きおよび大きさは、前記第3位置から前記第4位置に向かう第2ベクトルの向きおよび大きさと等しい。
【0009】
このような荷電粒子線装置では、第1ベクトルの向きおよび大きさが第2ベクトルの向きおよび大きさと等しいため、移動機構の機械的ヒステリシスの影響を低減でき、絞り孔の位置決め精度を向上できる。
【0010】
本発明に係る荷電粒子線装置の一態様は、
互いに径が異なる第1絞り孔および第2絞り孔が設けられた絞り板と、
前記絞り板を移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
前記第1絞り孔が所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第1位置を経由して、第2位置に移動するように前記移動機構を制御する処理と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第3位置を経由して、第4位置に移動するように前記移動機構を制御する処理と、
前記第1絞り孔が前記所定位置に位置するように前記移動機構を制御したときの前記第1絞り孔の位置の再現性を、前記第1位置から前記第2位置に向かう第1ベクトルの向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する処理と、
前記第1絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて、前記第1ベクトルの向きおよび大きさを決定する処理と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記移動機構を制御したときの前記第2絞り孔の位置の再現性を、前記第3位置から前記第4位置に向かう第2ベクトルの向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する処理と、
前記第2絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて、前記第2ベクトルの向きおよび大きさを決定する処理と、
を行う。
【0011】
このような荷電粒子線装置では、制御部が、第1絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて第1ベクトルの向きおよび大きさを決定し、第2絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて第2ベクトルの向きおよび大きさを決定するため、移動機構の機械的ヒステリシスの影響を低減でき、絞り孔の位置決め精度を向上できる。
【0012】
本発明に係る荷電粒子線装置の制御方法の一態様は、
互いに径が異なる第1絞り孔および第2絞り孔が設けられた絞り板と、前記絞り板を移動させる移動機構と、を含む荷電粒子線装置の制御方法であって、
前記第1絞り孔が所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第1位置を経由して、第2位置に移動するように前記移動機構を制御する工程と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第3位置を経由して、第4位置に移動するように前記移動機構を制御する工程と、
を含み、
前記第1位置と前記第3位置とは異なる位置であり、
前記第1位置から前記第2位置に向かう第1ベクトルの向きおよび大きさは、前記第3位置から前記第4位置に向かう第2ベクトルの向きおよび大きさと等しい。
【0013】
このような荷電粒子線装置の制御方法では、第1ベクトルの向きおよび大きさが第2ベクトルの向きおよび大きさと等しいため、移動機構の機械的ヒステリシスの影響を低減でき、絞り孔の位置決め精度を向上できる。
【0014】
本発明に係る荷電粒子線装置の制御方法の一態様は、
互いに径が異なる第1絞り孔および第2絞り孔が設けられた絞り板と、前記絞り板を移動させる移動機構と、を含む荷電粒子線装置の制御方法であって、
前記第1絞り孔が所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第1位置を経由して、第2位置に移動するように前記移動機構を制御する工程と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記絞り板を移動させる場合に、前記絞り板が、第3位置を経由して、第4位置に移動するように前記移動機構を制御する工程と、
前記第1絞り孔が前記所定位置に位置するように前記移動機構を制御したときの前記第1絞り孔の位置の再現性を、前記第1位置から前記第2位置に向かう第1ベクトルの向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する工程と、
前記第1絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて、前記第1ベクトルの向きおよび大きさを決定する工程と、
前記第2絞り孔が前記所定位置に位置するように前記移動機構を制御したときの前記第2絞り孔の位置の再現性を、前記第3位置から前記第4位置に向かう第2ベクトルの向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する工程と、
前記第2絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて、前記第2ベクトルの向きおよび大きさを決定する工程と、
を含む。
【0015】
このような荷電粒子線装置の制御方法では、第1絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて第1ベクトルの向きおよび大きさを決定し、第2絞り孔の位置の再現性の評価結果に基づいて第2ベクトルの向きおよび大きさを決定するため、移動機構の機械的ヒステリシスの影響を低減でき、絞り孔の位置決め精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図2】絞り装置の構成を示す図。
図3】絞り装置の動作の参考例を説明するための図。
図4】絞り装置の動作の参考例を説明するための図。
図5】絞り装置の動作を説明するための図。
図6】絞り装置の動作を説明するための図。
図7】絞り装置の動作の参考例を説明するための図。
図8】絞り装置の動作を説明するための図。
図9】絞り装置の動作を説明するための図。
図10】制御部の処理の一例を示すフローチャート。
図11】TEM像から第1絞り孔の中心の座標情報を取得する手法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0018】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡の構成
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡(荷電粒子線装置の一例)について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡1000の構成を示す図である。なお、図1には、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、およびZ軸を図示している。Z軸は、光軸Lに平行な軸である。
【0019】
電子顕微鏡1000は、図1に示すように、絞り装置100を含む。電子顕微鏡1000は、さらに、電子源1002と、照射レンズ1004と、試料ステージ1006と、試料ホルダー1008と、対物レンズ1010と、中間レンズ1012と、投影レンズ1014と、撮像装置1016と、を含んで構成されている。電子顕微鏡1000は、試料Sを透過した電子線で結像する透過電子顕微鏡である。
【0020】
電子源1002は、電子を発生させる。電子源1002は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0021】
照射レンズ1004は、電子源1002から放出された電子線を集束して試料Sに照射する。照射レンズ1004は、図示はしないが、複数の電子レンズで構成されていてもよい。
【0022】
絞り装置100は、互いに径が異なる複数の絞り孔が設けられた絞り板110と、絞り板110を移動させる移動機構120と、移動機構120を制御する制御部130と、記憶部132と、を含んで構成されている。
【0023】
絞り板110は、照射系に組み込まれている。絞り板110は、コンデンサー絞りとして機能する。コンデンサー絞りは、試料Sに入射する電子線の開き角および照射量を調整するための絞りである。電子顕微鏡1000では、移動機構120によって、絞り孔を切り替えることにより、電子線の開き角および照射量を変更することができる。
【0024】
試料ステージ1006は、試料ホルダー1008が保持している試料Sを位置決めする。試料ステージ1006では、試料Sを移動させるための移動機構を備えている。
【0025】
対物レンズ1010は、試料Sを透過した電子線で透過電子顕微鏡像(以下、「TEM像」ともいう)を結像するための初段のレンズである。中間レンズ1012および投影レンズ1014は、対物レンズ1010によって結像された像を拡大し、撮像装置1016上に結像させる。対物レンズ1010、中間レンズ1012、および投影レンズ1014は、電子顕微鏡1000の結像系を構成している。
【0026】
撮像装置1016は、結像系によって結像されたTEM像を撮影する。撮像装置1016は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ等のデジタルカメラである。
【0027】
電子顕微鏡1000では、電子源1002から放出された電子線は、照射レンズ1004によって集束されて試料Sに照射される。このとき、コンデンサー絞りとして機能する絞り板110によって試料Sに照射される電子線の開き角および照射量が制御される。試料Sに照射された電子線は、試料Sを透過して対物レンズ1010によって結像される。対物レンズ1010によって結像されたTEM像は、中間レンズ1012および投影レンズ1014によってさらに拡大され、撮像装置1016で撮影される。
【0028】
1.2. 絞り装置
次に、絞り装置100について、図面を参照しながら説明する。図2は、絞り装置100の構成を示す図である。なお、図2には、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、およびZ軸を図示している。
【0029】
絞り装置100は、図2に示すように、絞り板110と、移動機構120と、制御部130と、記憶部132と、を含む。
【0030】
絞り板110には、互いに径が異なる複数の絞り孔が設けられている。図示の例では、絞り板110には、第1絞り孔12、第2絞り孔14、第3絞り孔16、第4絞り孔18が設けられている。なお、絞り孔の数は、2以上であれば特に限定されない。第1絞り孔12、第2絞り孔14、第3絞り孔16、および第4絞り孔18は、X軸に沿って配列されている。
【0031】
絞り板110は、支持部材20によって支持されている。支持部材20は、棒状の部材であり、先端に絞り板110が固定されている。支持部材20の後端は、レバー34に接触している。支持部材20は、ケース22に収容されている。
【0032】
移動機構120は、X移動機構30と、Y移動機構50と、を含む。
【0033】
X移動機構30は、絞り板110をX方向に移動させる。X移動機構30は、ばね32と、てこ式のレバー34と、ロッド36と、送りねじ38と、減速機40と、モーター42と、エンコーダ44と、リミットスイッチ46と、を含む。
【0034】
ばね32は、ケース22に収容されている。ばね32の先端はケース22に当接し、ばね32の後端は、支持部材20の後端に当接している。ばね32を圧縮することによって、支持部材20は-X方向に付勢される。
【0035】
ロッド36は、レバー34を押したり、引いたりする。すなわち、ロッド36は、レバー34を+X方向に移動させたり、-X方向に移動させたりする。ロッド36は、送りねじ38に接続されている。送りねじ38は、モーター42の回転運動をX方向の直線運動に変換する。モーター42の回転は、減速機40を介して送りねじ38に伝達される。
【0036】
エンコーダ44は、モーター42に取り付けられている。エンコーダ44は、モーター42と連動して位置情報を出力する。エンコーダ44は、絞り板110のX方向の位置情報を、エンコーダパルス信号として出力する。
【0037】
リミットスイッチ46は、レバー34を介して、絞り板110のX方向の位置を検出する。リミットスイッチ46は、絞り板110のX方向の位置情報を、リミットスイッチ信号として出力する。
【0038】
このように、絞り板110のX方向の位置情報は、エンコーダ44およびリミットスイッチ46から出力される。
【0039】
X移動機構30では、減速機40で速度が低減されたモーター42の回転運動を、送りねじ38が直線運動に変換して、ロッド36に伝達する。これにより、ロッド36は、X方向に移動する。このとき、ロッド36が+X方向に移動すると、レバー34が支持部材20を押して支持部材20が+X方向に移動し、絞り板110が+X方向に移動する。また、ロッド36が-X方向に移動すると、支持部材20がばね32の付勢力により-X方向に移動し、絞り板110が-X方向に移動する。ロッド36が+X方向に移動するのか、あるいは-X方向に移動するのかは、モーター42の回転方向によって決まる。
【0040】
Y移動機構50は、絞り板110をY方向に移動させる。Y移動機構50は、ばね52と、てこ式のレバー54と、ロッド56と、送りねじ58と、減速機60と、モーター62と、エンコーダ64と、リミットスイッチ66と、を含む。
【0041】
はね52とレバー54は、ケース22を挟んで配置されている。ばね52は、ケース22の+Y方向に配置され、レバー54は、ケース22の-Y方向に配置されている。ばね
52が圧縮されることによって、ケース22は-Y方向に付勢される。
【0042】
ロッド56は、レバー54を押したり、引いたりする。すなわち、ロッド56は、レバー54を+Y方向に移動させたり、-Y方向に移動させたりする。ロッド56は、送りねじ58に接続されている。送りねじ58は、モーター62の回転運動をY方向の直線運動に変換する。モーター62の回転は、減速機60を介して送りねじ58に伝達される。
【0043】
エンコーダ64は、モーター62に取り付けられている。エンコーダ64は、モーター62と連動して位置情報を出力する。エンコーダ64は、絞り板110のY方向の位置情報を、エンコーダパルス信号として出力する。
【0044】
リミットスイッチ66は、レバー54を介して、絞り板110のY方向の位置を検出する。リミットスイッチ66は、絞り板110のY方向の位置情報を、リミットスイッチ信号として出力する。
【0045】
このように、絞り板110のY方向の位置情報は、エンコーダ64およびリミットスイッチ66から出力される。
【0046】
Y移動機構50では、減速機60で速度が低減されたモーター62の回転運動を、送りねじ58が直線運動に変換して、ロッド56に伝達する。これにより、ロッド56は、Y方向に移動する。このとき、ロッド56が+Y方向に移動すると、レバー54がケース22を押して、絞り板110が+Y方向に移動する。また、ロッド56が-Y方向に移動すると、ばね52の付勢力によりケース22が-Y方向に押されて、絞り板110が-Y方向に移動する。ロッド56が+Y方向に移動するのか、あるいは、-Y方向に移動するのかは、モーター62の回転方向によって決まる。
【0047】
絞り装置100は、さらに、制御基板70を含む。制御基板70には、モーター駆動回路72と、エンコーダパルス受信回路74と、電圧計測回路76と、制御用プログラマブル素子78と、が設けられている。
【0048】
モーター駆動回路72は、モーター42およびモーター62を駆動する。エンコーダパルス受信回路74は、エンコーダ44から出力されるエンコーダパルス信号、およびエンコーダ64から出力されるエンコーダパルス信号を受信する。電圧計測回路76は、リミットスイッチ46から出力されるリミットスイッチ信号、およびリミットスイッチ66から出力されるリミットスイッチ信号を検出する。制御用プログラマブル素子78は、モーター駆動回路72、エンコーダパルス受信回路74、および電圧計測回路76を統括して制御する。制御基板70(制御用プログラマブル素子78)は、制御部130との間で情報をやり取りする。
【0049】
制御部130は、例えば、絞り装置100を動作させるための各種条件を設定し、絞り装置100の動作を監視する。制御部130の機能は、例えば、各種プロセッサ(CPU(Central Processing Unit)等)でプログラムを実行することにより実現できる。
【0050】
記憶部132は、制御部130が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータを記憶している。記憶部132の機能は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、およびハードディスクなどにより実現できる。
【0051】
1.3. 絞り装置の動作
次に、絞り装置100の動作について説明する。以下では、まず、絞り装置の動作の参考例について説明し、次に、第1実施形態に電子顕微鏡1000の絞り装置100の動作
について説明する。
【0052】
図3および図4は、絞り装置の動作の参考例を説明するための図である。ここでは、1つの絞り孔(第1絞り孔12)の位置制御について説明する。
【0053】
図3に示す参考例では、初期位置P0から第1絞り孔12が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合、絞り板110を初期位置P0からターゲット位置P1まで最短距離で移動させている。
【0054】
ここで、+X方向は移動機構120(具体的にはX移動機構30)の負荷が大きくなる方向であり、-X方向は移動機構120(具体的にはX移動機構30)の負荷が小さくなる方向である。図示の例では、+X方向は、ばね32が圧縮される方向であるため、X移動機構30の負荷が大きくなる。また、+Y方向は移動機構120(具体的にはY移動機構50)の負荷が大きくなる方向であり、-Y方向は移動機構120(具体的にはY移動機構50)の負荷が小さくなる方向である。図示の例では、+Y方向は、ばね52が圧縮される方向であるため、Y移動機構50の負荷が大きくなる。
【0055】
図3に示す参考例では、初期位置P0からターゲット位置P1に向かうベクトルV0のX成分は、移動機構120の負荷が大きくなる方向であり、ベクトルV0のY成分は、移動機構120の負荷が小さくなる方向である。
【0056】
ここで、図4に示すように、初期位置P0から初期位置P0dに初期位置を変更する。この場合、初期位置P0dからターゲット位置P1に向かうベクトルV0dのX成分は、図3に示す例と同様に移動機構120の負荷が大きくなる方向であるが、ベクトルV0dのY成分は、図3に示す例と異なり、移動機構120の負荷が大きくなる方向である。
【0057】
そのため、図3に示す場合と、図4に示す場合では、動作を停止した際の移動機構120における機械の変形および機械の歪みの程度が異なってしまう。したがって、図3および図4に示すように、絞り板110を最短距離で移動させる場合、機械的ヒステリシスの影響により絞り孔の位置再現性が低下し、絞り孔の位置決め精度が低下してしまう。
【0058】
図5および図6は、絞り装置100の動作を説明するための図である。
【0059】
図5に示す例では、初期位置P0から第1絞り孔12が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合、絞り板110を、初期位置P0から経由位置P3を経由して、ターゲット位置P1に移動させる。経由位置P3からターゲット位置P1に向かうベクトルAは、Y成分のみを有し、Y成分は移動機構120の負荷が大きくなる方向である。
【0060】
ここで、図6に示すように、初期位置P0から初期位置P0dに初期位置を変更する。この場合でも、経由位置P3を経由して、ターゲット位置P1に絞り板110を移動させることにより、経由位置P3からターゲット位置P1に向かうベクトルAは、図5に示す場合と、向きおよび大きさが同じになる。このように、経由位置P3を経由して、ターゲット位置P1に絞り板110を移動させることにより、初期位置をどの位置に設定しても、動作を停止した際の移動機構120における機械の変形および機械の歪みを同程度にできる。したがって、絞り孔の位置再現性を向上でき、絞り孔の位置決め精度を向上できる。
【0061】
上記では、1つの絞り孔(第1絞り孔12)の位置制御について説明したが、複数の絞り孔の位置制御も同様に行うことができる。以下では、まず、絞り装置の動作の参考例について説明し、次に、第1実施形態に電子顕微鏡1000の絞り装置100の動作につい
て説明する。
【0062】
図7は、絞り装置の参考例を説明するための図である。なお、図7では、絞り板110の第1絞り孔12の中心を基準位置とし、基準位置の座標で絞り板110の位置を特定する。すなわち、絞り板110を初期位置P0(X0,Y0)からターゲット位置P1(X1,Y1)まで移動させるといった場合、絞り板110の基準位置を初期位置P0からターゲット位置P1まで移動させることをいう。また、ここでは、基準位置を、絞り板110の第1絞り孔12の中心としたが、基準位置は、絞り板110の任意の位置に設定可能である。例えば、基準位置を、絞り板110の中心としてもよい。
【0063】
図7に示す参考例では、初期位置から第1絞り孔12が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合、絞り板110を初期位置P0からターゲット位置P1まで最短距離で移動させている。同様に、初期位置から第2絞り孔14が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合、絞り板110を初期位置P0からターゲット位置P2まで最短距離で移動させている。
【0064】
この場合、初期位置P0からターゲット位置P1に向かうベクトルV1と初期位置P0からターゲット位置P2に向かうベクトルV2とは、向きおよび大きさが異なる。そのため、初期位置から第1絞り孔12が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合と、初期位置から第2絞り孔14が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合とでは、移動機構120における機械の変形および機械の歪みの程度が異なる。したがって、機械的ヒステリシスの影響により、絞り孔の位置決め精度が低下してしまう。
【0065】
図8は、絞り装置100の動作を説明するための図である。
【0066】
これに対して、図8に示す例では、初期位置から第1絞り孔12が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合、絞り板110を、初期位置P0から経由位置P3(X3,Y3)を経由して、ターゲット位置P1に移動させる。すなわち、例えば、絞り板110を、初期位置P0から経由位置P3に最短距離で移動させた後、経由位置P3からターゲット位置P1に最短距離で移動させる。
【0067】
また、初期位置から第2絞り孔14が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合、絞り板110を、初期位置P0から経由位置P4(X4,Y4)を経由して、ターゲット位置P2に移動させる。すなわち、例えば、絞り板110を、初期位置P0から経由位置P4に最短距離で移動させた後、経由位置P4からターゲット位置P2に最短距離で移動させる。
【0068】
この場合、経由位置P3からターゲット位置P1に向かう第1ベクトルA1と、経由位置P4からターゲット位置P2に向かう第2ベクトルA2とは、向きおよび大きさが互いに等しい。そのため、初期位置から第1絞り孔12が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合と、初期位置から第2絞り孔14が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合とでは、移動機構120における機械の変形および機械の歪みを同程度にできる。したがって、図7に示す参考例と比べて、機械的ヒステリシスの影響を低減でき、絞り孔の位置決め精度を向上できる。
【0069】
図9は、絞り装置100の動作の他の例を説明するための図である。
【0070】
図9に示す例では、第1絞り孔12が光軸L上に位置している状態(すなわち、初期位置をターゲット位置P1とした場合)から第2絞り孔14が光軸L上に位置するように絞
り板110を移動させる。この場合、絞り板110を、ターゲット位置P1から経由位置P4を経由して、ターゲット位置P2に移動させる。
【0071】
また、第2絞り孔14が光軸L上に位置している状態(すなわち、初期位置をターゲット位置P2とした場合)から第1絞り孔12が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合、絞り板110を、ターゲット位置P2から経由位置P3を経由して、ターゲット位置P1に移動させる。
【0072】
図9に示す例でも、第1ベクトルA1と第2ベクトルA2とは、向きおよび大きさが互いに等しい。したがって、絞り孔の位置決め精度を向上できる。
【0073】
n個のターゲット位置がある場合、ターゲット位置をPm(Xm,Ym)[m=1,2,3,・・・,n]とし、経由位置をPm´(Xm´,Ym´)とした場合、経由位置Pm´からターゲット位置Pmに向かうベクトルA(以下、「アプローチベクトル」ともいう)は、次式のように表される。
【0074】
A(X,Y)=Pm(Xm,Ym)-Pm´(Xm´,Ym´)
【0075】
図8および図9に示す例では、第1絞り孔12を選択したときのアプローチベクトルAは、第1ベクトルA1であり、第2絞り孔14を選択したときのアプローチベクトルAは、第2ベクトルA2である。絞り装置100では、アプローチベクトルAは、どの絞り孔を選択したときも同じ向きおよび同じ大きさである。
【0076】
ここで、任意の絞り孔が光軸L上に位置している状態からα番目の絞り孔が光軸L上に位置するように絞り板110をターゲット位置Pα(Xα,Yα)に移動させる場合、経由位置は、Pα(Xα,Yα)-A(X,Y)で表される。そのため、絞り装置100において、上述した図8および図9に示す動作を実現するためには、絞り孔が光軸L上に位置している状態での絞り板110の座標(すなわちターゲット位置Pm)と、アプローチベクトルAと、を設定すればよい。絞り装置100では、ターゲット位置Pmの情報、およびアプローチベクトルAの情報(すなわち、アプローチベクトルAの向きおよび大きさの情報)は、記憶部132に記録されている。
【0077】
1.4. 電子顕微鏡の動作
次に、電子顕微鏡1000の動作の一例について説明する。
【0078】
図8に示すように、絞り板110が初期位置P0に位置している状態で、ユーザーが操作部(図示せず)を介して第1絞り孔12を選択する指令を入力すると、制御部130は、記憶部132から、アプローチベクトルAの情報およびターゲット位置P1の情報を読み出して、当該情報に基づいて、移動機構120を制御する。具体的には、制御部130は、絞り板110が経由位置P3を経由してターゲット位置P1に移動するように移動機構120を制御する。このとき、制御部130は、経由位置P3からターゲット位置P1まで、第1ベクトルA1に沿って絞り板110を移動させる。これにより、第1絞り孔12が光軸L上に配置される。
【0079】
次に、ユーザーが操作部を介して第2絞り孔14を選択する指令を入力すると、図9に示すように、制御部130は、記憶部132から、アプローチベクトルAの情報およびターゲット位置P2の情報を読み出して、当該情報に基づいて、移動機構120を制御する。具体的には、制御部130は、絞り板110が経由位置P4を経由してターゲット位置P2に移動するように移動機構120を制御する。このとき、制御部130は、経由位置P4からターゲット位置P2まで、第2ベクトルA2に沿って絞り板110を移動させる
。これにより、第2絞り孔14が光軸L上に配置される。
【0080】
1.5. 特徴
電子顕微鏡1000は、例えば、以下の特徴を有する。
【0081】
電子顕微鏡1000では、制御部130は、第1絞り孔12が光軸Lに位置するように絞り板110を移動させる場合に、絞り板110が、経由位置P3(第1位置)を経由して、ターゲット位置P1(第2位置)に移動するように移動機構120を制御する処理を行う。また、制御部130は、第2絞り孔14が光軸Lに位置するように絞り板110を移動させる場合に、絞り板110が、経由位置P4(第3位置)を経由してターゲット位置P2(第4位置)に移動するように移動機構120を制御する処理を行う。また、経由位置P3と経由位置P4とは異なる位置であり、経由位置P3からターゲット位置P1に向かう第1ベクトルA1の向きおよび大きさは、経由位置P4からターゲット位置P2に向かう第2ベクトルA2の向きおよび大きさと等しい。
【0082】
そのため、電子顕微鏡1000では、機械的ヒステリシスの影響を低減して、絞り孔の位置決め精度を向上できる。
【0083】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡の構成
第2実施形態に係る電子顕微鏡の構成は、上述した電子顕微鏡1000の構成と同じであり、図示および説明を省略する。
【0084】
2.2. 手法
第2実施形態では、制御部130がアプローチベクトルを設定する処理を行う。以下では、上述した第1実施形態と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0085】
ここで、移動機構120では、絞り板110が停止する位置によっても機械的ヒステリシスが変化する。例えば、図2に示すように、X移動機構30では、ばね32が用いられているため、ばね32が大きく圧縮されている場合とばね32がほとんど圧縮されていない場合とでは、X移動機構30にかかる負荷も異なる。そのため、絞り板110が停止する位置によっても、機械的ヒステリシスも変化する。
【0086】
したがって、制御部130は、絞り孔ごとに、位置再現性を確認しながら、アプローチベクトルAを設定する。例えば、制御部130は、第1絞り孔12が光軸L上に位置するように移動機構120を制御したときの第1絞り孔12の位置の再現性を、第1ベクトルA1の向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する。そして、第1絞り孔12の位置の再現性の評価結果に基づいて、第1ベクトルA1の向きおよび大きさを決定する。
【0087】
同様に、制御部130は、第2絞り孔14が光軸L上に位置するように移動機構120を制御したときの第2絞り孔14の位置の再現性を、第2ベクトルA2の向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する。そして、第2絞り孔14の位置の再現性の評価結果に基づいて、第2ベクトルA2の向きおよび大きさを決定する。
【0088】
制御部130は、上記の処理を、絞り板110の全ての絞り孔について行う。これにより、すべての絞り孔に対してアプローチベクトルAの向きおよび大きさを決定することができる。
【0089】
2.3. 処理
図10は、制御部130の処理の一例を示すフローチャートである。
【0090】
制御部130は、まず、n=1として(S10)、第1絞り孔12を選択する(S12)。具体的には、制御部130は、初期位置P0から第1絞り孔12が光軸L上に位置するように移動機構120を制御する。ここでは、第1ベクトルA1は設定されておらず、初期位置P0からターゲット位置P1まで、最短距離で絞り板110を移動させる。
【0091】
なお、あらかじめ任意のアプローチベクトルAを設定しておいてもよい。この場合、絞り板110が初期位置P0から経由位置P3を経由して、ターゲット位置P1に移動するように移動機構120を制御する。
【0092】
次に、制御部130は、TEM像から第1絞り孔12の中心の座標情報(以下「第1座標情報」ともいう)を取得する(S14)。
【0093】
図11は、TEM像から第1絞り孔12の中心の座標情報を取得する手法を説明するための図である。図11に示すように、TEM像を2値化し、2値画像から第1絞り孔12の中心の位置を計算により求める。
【0094】
次に、制御部130は、第n+1絞り孔、すなわち、第2絞り孔14を選択する(S16)。具体的には、制御部130は、第1絞り孔12が光軸L上に位置している状態から、第2絞り孔14が光軸L上に位置するように移動機構120を制御する。なお、ここでは、第2絞り孔が光軸L上に位置するように移動機構120を制御したが、ステップS16において絞り板110を移動させる位置は特に限定されず、任意の位置に絞り板110を移動させることができる。
【0095】
次に、制御部130は、第1絞り孔12を選択し(S18)、TEM像から第1絞り孔12の中心の座標情報(以下「第2座標情報」ともいう)を取得する(S20)。ステップS18の処理は、ステップS12の処理と同様に行われる。また、ステップS20の処理は、ステップS14の処理と同様に行われる。
【0096】
次に、制御部130は、第1座標情報と第2座標情報に基づいて、第1絞り孔12の位置の再現性を評価する(S22)。制御部130は、例えば、第1座標情報と第2座標情報との差分を計算し、当該差分が所定値以上の場合には再現性なしと判定し、当該差分が所定値未満の場合には再現性ありと判定する。
【0097】
制御部130は、再現性なしと判定した場合(S22のNo)、アプローチベクトルA(ここでは第1ベクトルA1)を変更する(S24)。具体的には、制御部130は、第1ベクトルA1の向きおよび大きさの少なくとも一方を変更する。例えば、移動機構120の機械的負荷が比較的大きい場合には、アプローチベクトルAが大きくなるように変更する。そして、制御部130は、絞り板110が初期位置P0に位置するように移動機構120を制御する(S26)。
【0098】
制御部130は、ステップS12に戻って、再び、ステップS12、ステップS14、ステップS16、ステップS18、ステップS20、およびステップS22の処理を行って、第1絞り孔12の位置の再現性を評価する。
【0099】
制御部130は、再現性ありと判定した場合(S22のYes)、このときの第1ベクトルA1の向きおよび大きさを、第1絞り孔12の第1ベクトルA1の向きおよび大きさに決定する(S28)。
【0100】
次に、制御部130は、n=mか否かを判定する(S30)。すなわち、すべての絞り孔に対して経由位置が設定されたか否かを判定する。
【0101】
制御部130は、n=mでないと判定した場合(S30のNo)、n=n+1として(SS32)、第2絞り孔14を選択する(S12)。そして、制御部130は、ステップS12、ステップS14、ステップS16、ステップS18、ステップS20、ステップS22、ステップS24、ステップS26、ステップS28の処理を行う。すなわち、第2絞り孔14の位置の再現性を、第2ベクトルA2の向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価し、再現性の評価結果に基づいて、第2ベクトルA2の向きおよび大きさを決定する。
【0102】
制御部130は、n=mと判定した場合(S30のYes)、すなわち、すべての絞り孔に対してアプローチベクトルAの向きおよび大きさを決定した場合に、処理を終了する。
【0103】
2.4. 特徴
第2実施形態に係る電子顕微鏡は、例えば、以下の特徴を有する。
【0104】
第2実施形態に係る電子顕微鏡では、制御部130は、第1絞り孔12が光軸Lに位置するように移動機構120を制御したときの第1絞り孔12の位置の再現性を、第1ベクトルA1の向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する処理と、第1絞り孔12の位置の再現性の評価結果に基づいて、第1ベクトルA1の向きおよび大きさを決定する処理を行う。同様に、制御部130は、第2絞り孔14が光軸Lに位置するように移動機構120を制御したときの第2絞り孔14の位置の再現性を、第2ベクトルA2の向きおよび大きさの少なくとも一方を変えて評価する処理と、第2絞り孔14の位置の再現性の評価結果に基づいて、第2ベクトルA2の向きおよび大きさを決定する処理と、を行う。
【0105】
そのため、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、絞り孔の位置決め精度を向上できる。また、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、各絞り孔のアプローチベクトルの向きおよび大きさを自動で決定できる。
【0106】
3. その他
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0107】
例えば、上述した第1実施形態および第2実施形態では、絞り板110をコンデンサー絞りとして用いた例について説明したが、絞り板110を、例えば対物絞りとして用いてもよいし、制限視野絞りとして用いてもよい。対物絞りは、対物レンズ1010の後焦点面に配置され、明視野像や暗視野像を得るために透過波や回折波を取り込むための絞りである。制限視野絞りは、対物レンズ1010と中間レンズ1012との間(対物レンズ1010の像面)に配置され、制限視野回折を行う際、回折図形を得る試料の領域を制限する絞りである。
【0108】
また、例えば、上述した第1実施形態および第2実施形態では、絞り孔が光軸L上に位置するように絞り板110を移動させる場合について説明したが、絞り孔が光軸L上以外の所定位置に位置するように絞り板110を移動させてもよい。例えば、絞り板110を対物絞りとして用いる場合、回折波のみを取り込む際には、回折波の位置に絞り孔を配置させる。
【0109】
また、例えば、上述した第1実施形態および第2実施形態では、本発明に係る荷電粒子
線装置が透過電子顕微鏡である場合について説明したが、本発明に係る荷電粒子線装置は、走査電子顕微鏡であってもよいし、走査透過電子顕微鏡であってもよい。また、本発明に係る荷電粒子線装置は、電子線以外の荷電粒子線(イオンビーム等)を照射する装置であってもよい。例えば、本発明に係る荷電粒子線装置は、集束イオンビーム装置であってもよい。
【0110】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0111】
12…第1絞り孔、14…第2絞り孔、16…第3絞り孔、18…第4絞り孔、20…支持部材、22…ケース、30…X移動機構、32…ばね、34…レバー、36…ロッド、38…送りねじ、40…減速機、42…モーター、44…エンコーダ、46…リミットスイッチ、50…Y移動機構、52…ばね、54…レバー、56…ロッド、58…送りねじ、60…減速機、62…モーター、64…エンコーダ、66…リミットスイッチ、70…制御基板、72…モーター駆動回路、74…エンコーダパルス受信回路、76…電圧計測回路、78…制御用プログラマブル素子、100…絞り装置、110…絞り板、120…移動機構、130…制御部、132…記憶部、1000…電子顕微鏡、1002…電子源、1004…照射レンズ、1006…試料ステージ、1008…試料ホルダー、1010…対物レンズ、1012…中間レンズ、1014…投影レンズ、1016…撮像装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11