(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/26 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
G01N29/26
(21)【出願番号】P 2018155475
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江原 和也
(72)【発明者】
【氏名】大内 弘文
(72)【発明者】
【氏名】大島 佑己
【審査官】佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-190993(JP,A)
【文献】特開2014-048169(JP,A)
【文献】特開平07-190994(JP,A)
【文献】特開平10-160886(JP,A)
【文献】実開平02-101264(JP,U)
【文献】特開平11-072484(JP,A)
【文献】特開2011-237234(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0243144(US,A1)
【文献】NANEKAR P. et al.,Ultrasonic phased array examination of circumferential weld joint in reactor pressure vessel of BWR,Nuclear Engineering and Design ,2013年,265(2013),pages 366-374
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC
G01N 29/00-G01N 29/52,
G21C 17/00-G21C 17/003,
G21C 17/013,
G21C 17/02,
G21C 17/025,
G21C 17/032-G21C 17/10,
G21C 17/108,
G21C 17/12-G21C 17/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器の胴体のフランジのボルト穴の周辺部のうち、前記フランジの径方向における前記ボルト穴より内側である部分に生じた欠陥を検知する超音波探傷方法であって、
前記フランジの径方向における前記ボルト穴より内側にて前記フランジの主面から上側に段差して形成されたシート面を回避しつつ、前記フランジの径方向における前記ボルト穴より内側に位置するように、且つ、前記フランジの径方向中心と前記ボルト穴の径方向中心を結ぶ基準線を境として前記フランジの周方向一方側及び反対側にそれぞれ位置するように、送信用アレイ探触子及び受信用アレイ探触子を前記フランジの主面に配置し、
前記送信用アレイ探触子を構成
し且つ前記基準線に対して垂直な方向に配列された複数の振動子の送信タイミングを制御して超音波の送信角を可変制御すると共に、前記受信用アレイ探触子を構成
し且つ前記基準線に対して垂直な方向に配列された複数の振動子の受信タイミングを制御して超音波の受信角を可変制御
することにより、前記基準線に対して垂直な方向及び前記ボルト穴の軸方向に延在する仮想平面を探傷することを特徴とする超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉圧力容器の胴体のフランジのボルト穴の周辺部のうち、フランジの径方向におけるボルト穴より内側である部分に生じた欠陥を検知するのに好適な超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ボルトの外周部に生じた欠陥を検知する超音波探傷方法を開示している。この超音波探傷方法では、例えば垂直探触子をボルトの端面に配置し、ボルトの軸方向に対して平行に超音波を送信する。そして、例えばボルトの軸方向に対して垂直な方向に延在する欠陥(詳細には、割れ等)が生じていれば、欠陥で反射された超音波が垂直探触子で受信される。これにより、ボルトの外周部に生じた欠陥を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
沸騰水型原子力発電プラントでは、定期検査時に、原子炉圧力容器の胴体から上蓋を取外して、胴体内の燃料棒の交換等の作業を行うと共に、種々の部位の検査を行う。その検査の一つとして、胴体のフランジのボルト穴(雌ネジ)の周辺部の検査が望まれている。
【0005】
詳しく説明すると、プラントの運転中、胴体のフランジのボルト穴の周辺部では、ボルト穴の軸方向に対して垂直な方向に引張応力が加わる。そのため、ボルト穴の軸方向に対して垂直な方向に延在する欠陥(詳細には、割れ等)が生じる可能性がある。そこで、上述した超音波探傷方法を採用することが考えられる。すなわち、例えば垂直探触子を胴体のフランジの主面(上面)に配置し、ボルト穴の軸方向に対して平行に超音波を送信する。そして、例えばボルト穴の周辺部に欠陥が生じていれば、欠陥で反射された超音波が垂直探触子で受信される。これにより、ボルト穴の周辺部に生じた欠陥を検知する。
【0006】
ところが、フランジの径方向におけるボルト穴より内側には、上蓋との機密性を保つためのシート面が形成されている(後述の
図1~
図3参照)。このシート面は、フランジの主面から上側に段差して形成されている。そして、フランジの主面とシート面の境界からボルト穴までの距離が狭くなっている部分(言い換えれば、フランジの主面の面積が小さくなっている部分)には、垂直探触子を配置することができない。したがって、ボルト穴の周辺部のうち、フランジの径方向におけるボルト穴より内側である部分に生じた欠陥を検知することが困難である。
【0007】
そこで、例えば、送受信用斜角探触子をシート面に配置し、ボルト穴の半径方向の内側に向けて斜めに超音波を送信する方法が考えられる。しかし、この場合、送受信用斜角探触子は、欠陥からの反射波だけでなく、ボルト穴のフランク(言い換えれば、ネジ山の傾斜面)からの反射波も受信する。そのため、欠陥が小さければ、欠陥からの反射波とボルト穴のフランクからの反射波との識別が困難になり、欠陥の検知精度が低下する。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、原子炉圧力容器の胴体のフランジのボルト穴の周辺部のうち、フランジの径方向におけるボルト穴より内側である部分に生じた欠陥を精度よく検知することができる超音波探傷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、原子炉圧力容器の胴体のフランジのボルト穴の周辺部のうち、前記フランジの径方向における前記ボルト穴より内側である部分に生じた欠陥を検知する超音波探傷方法であって、前記フランジの径方向における前記ボルト穴より内側にて前記フランジの主面から上側に段差して形成されたシート面を回避しつつ、前記フランジの径方向における前記ボルト穴より内側に位置するように、且つ、前記フランジの径方向中心と前記ボルト穴の径方向中心を結ぶ基準線を境として前記フランジの周方向一方側及び反対側にそれぞれ位置するように、送信用アレイ探触子及び受信用アレイ探触子を前記フランジの主面に配置し、前記送信用アレイ探触子を構成し且つ前記基準線に対して垂直な方向に配列された複数の振動子の送信タイミングを制御して超音波の送信角を可変制御すると共に、前記受信用アレイ探触子を構成し且つ前記基準線に対して垂直な方向に配列された複数の振動子の受信タイミングを制御して超音波の受信角を可変制御することにより、前記基準線に対して垂直な方向及び前記ボルト穴の軸方向に延在する仮想平面を探傷する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原子炉圧力容器の胴体のフランジのボルト穴の周辺部のうち、フランジの径方向におけるボルト穴より内側である部分に生じた欠陥を精度よく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の検査対象である原子炉圧力容器の胴体のフランジの構造を表す上面図である。
【
図3】
図2中断面III-IIIによる鉛直断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態における超音波探傷装置の構成を表すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態における送信用アレイ探触子及び受信用アレイ探触子の配置を表す上面図である。
【
図6】
図5中断面VI-VIによる鉛直断面図に、送信用アレイ探触子、受信用アレイ探触子、並びに超音波の送信経路及び受信経路を投影して表す図である。
【
図7】
図5中断面VII-VIIによる鉛直断面図であって、具体例として超音波の送信角の可変範囲と超音波の受信角の可変範囲を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の検査対象について説明する。
図1は、本発明の検査対象である原子炉圧力容器の胴体のフランジの構造を表す上面図である。
図2は、
図1中部分IIの拡大図である。
図3は、
図2中断面III-IIIによる鉛直断面図である。
【0013】
原子炉圧力容器の胴体のフランジ1は、フランジ1の径方向外側に位置する円環状の主面(上面)2と、主面2に穿たれた複数のボルト穴3と、フランジ1の径方向内側(言い換えれば、フランジ1の径方向におけるボルト穴3より内側)に位置し、フランジ1の主面2から上側に段差して形成された円環状のシート面4とを有している。
【0014】
本発明の一実施形態の超音波探傷方法は、フランジ1のボルト穴3の周辺部5(
図2及び
図3中二点鎖線で示す範囲。詳細には、例えば、ボルト穴3の半径方向にて30mm程度、ボルト穴3の軸方向にて百数十mm程度の範囲)のうち、フランジ1の径方向におけるボルト穴3より内側である部分(特に、
図2及び
図3中ハッチングで示す範囲6)に生じた欠陥を検知することを目的とする。
【0015】
詳しく説明すると、
図2で示すように、フランジ1の主面2とシート面4の境界からボルト穴3までの距離が数mm程度であって狭くなっている部分(言い換えれば、主面2の面積が小さくなっている部分)には、垂直探触子7(詳細には、例えば直径20mm程度の振動子を有するもの)を配置することができない。そのため、垂直探触子7を用いた場合に探傷できない範囲6が存在する。なお、超小型の垂直探触子(図示せず)をフランジ1の主面2に配置する方法も考えられるが、この方法では、超音波の強度が弱くなるため、ボルト穴3の深さ方向にて探傷できない範囲(図示せず)が存在する。
【0016】
そこで、本発明の一実施形態の超音波探傷方法では、後述するように、送信用アレイ探触子11及び受信用アレイ探触子12をフランジ1の主面2に配置して、フランジ1のボルト穴3の周辺部5のうち、フランジ1の径方向におけるボルト穴3より内側である部分(特に、上述した範囲6)に生じた欠陥を検知する。
【0017】
次に、本発明の一実施形態の超音波探傷方法について説明する。
図4は、本発明の一実施形態における超音波探傷装置の構成を表すブロック図である。
図5は、本発明の一実施形態における送信用アレイ探触子及び受信用アレイ探触子の配置を表す上面図である。
図6は、
図5中断面VI-VIによる鉛直断面図に、送信用アレイ探触子、受信用アレイ探触子、並びに超音波の送信経路及び受信経路を投影して表す図である。
図7は、
図5中断面VII-VIIによる鉛直断面図であって、具体例として超音波の送信角の可変範囲と超音波の受信角の可変範囲を表す。
【0018】
本実施形態の超音波探傷装置は、送信用アレイ探触子11、受信用アレイ探触子12、送受信装置13、制御装置14、記憶装置15、及び表示装置16を備えている。送受信装置13は、パルサ17、レシーバ18、遅延制御部19、及び波形合成部20を有している。なお、制御装置14はコンピュータ等で構成され、記憶装置15はハードディスク等で構成され、表示装置16はディスプレイ等で構成されている。
【0019】
送信用アレイ探触子11及び受信用アレイ探触子12は、フランジ1のシート面4を回避するように、主面2に配置されている。詳細には、フランジ1の径方向におけるボルト穴3より内側(
図5の上側)に位置するように、且つ、フランジ1の径方向中心O
1(上述の
図1参照)とボルト穴3の径方向中心O
2を結ぶ基準線Lを境としてフランジ1の周方向一方側(
図5の左側)及び反対側(
図5の右側)にそれぞれ位置するように、フランジ1の主面2に配置されている。なお、送信用アレイ探触子11の位置と受信用アレイ探触子12の位置は、入れ替わってもよい。
【0020】
更に詳しく説明すると、送信用アレイ探触子11は、基準線Lに対して垂直な方向(
図5及び
図7の左右方向)及びボルト穴3の軸方向(
図6及び
図7の上下方向)に延在する仮想平面に沿った送信経路S
1で超音波を送信するように配置されている。受信用アレイ探触子12は、前述した仮想平面に沿った受信経路S
2で超音波を受信するように配置されている。
【0021】
送信用アレイ探触子11は、少なくとも一方向(本実施形態では、基準線Lに対して垂直な方向)に配列された複数の振動子を有しており、これらの振動子は、送受信装置13のパルサ17からの駆動信号によって超音波を送信する。受信用アレイ探触子12は、少なくとも一方向(本実施形態では、基準線Lに対して垂直な方向)に配列された複数の振動子を有しており、これらの振動子は、欠陥8で反射された超音波を受信して波形信号に変換し、送受信装置13のレシーバ18へ出力する。
【0022】
送受信装置13は、制御装置14からの指令に応じて、送信用アレイ探触子11による超音波の送信角θ
1を、例えば
図7で示すような範囲R
1内で可変制御すると共に、受信用アレイ探触子12による超音波の受信角θ
2を、例えば
図7で示すような範囲R
2内で可変制御する。すなわち、超音波の送信角θ
1と受信角θ
2の組み合わせを変更することにより、フランジ1のボルト穴3の周辺部5のうち、フランジ1の径方向におけるボルト穴3より内側である部分(特に、範囲6)を探傷するようになっている。
【0023】
詳しく説明すると、送受信装置13の遅延制御部19は、制御装置14からの指令に応じて、超音波の送信角θ1に対応する送信遅延パターンをパルサ17に出力する。パルサ17は、送信遅延パターンに基づいて、送信用アレイ探触子11の各振動子へ駆動信号を出力するとともに、各駆動信号の出力タイミング(すなわち、各振動子の超音波の送信タイミング)を変化させる。これにより、送信用アレイ探触子11の全体による超音波の送信角θ1を制御する。
【0024】
送受信装置13の遅延制御部19は、制御装置14からの指令に応じて、超音波の受信角θ2に対応する受信遅延パターンを波形合成部20に出力する。波形合成部20は、受信遅延パターンに基づき、レシーバ18からの各波形信号の入力タイミング(すなわち、各振動子の超音波の受信タイミング)を変化させて合成する。これにより、受信用アレイ探触子12の全体による超音波の受信角θ2を制御しながら、受信用アレイ探触子12で受信した超音波の振幅の経時変化を取得する。
【0025】
制御装置14は、送受信装置13の波形合成部20で取得された超音波の振幅の経時変化を、超音波の送信角θ1と受信角θ2の組み合わせに関連付けさせて、記憶装置15に記憶させると共に、表示装置16に表示させる。検査者は、表示装置16で表示された超音波の振幅が所定の閾値を超えているか否かにより、欠陥が生じているか否かを確認することができる。
【0026】
なお、制御装置14は、送信用アレイ探触子11及び受信用アレイ探触子12の位置や超音波の送信角θ1及び受信角θ2に基づき、鉛直断面上の探傷位置(詳細には、超音波の送信経路S1と受信経路S2が交差する位置)とこれに対応する時間ゲートを演算し、この時間ゲートにおける超音波の振幅を抽出してもよい。そして、各探傷位置における超音波の振幅を色で示す二次元探傷画像を生成し、この画像を記憶装置15に記憶させると共に、表示装置16に表示させてもよい。また、制御装置14は、超音波の振幅が所定の閾値を超えているか否かにより、欠陥が生じているか否かを判定し、その判定結果を記憶装置15に記憶させると共に、表示装置16に表示させてもよい。
【0027】
以上のように、本実施形態では、原子炉圧力容器の胴体のフランジ1のボルト穴3の周辺部5のうち、フランジ1の径方向におけるボルト穴3より内側である部分(特に、範囲6)に生じた欠陥を検知することができる。例えば、送受信用斜角探触子をフランジ1のシート面4に配置し、ボルト穴3の半径方向の内側に向かって斜めに超音波を送信する場合を想定すれば、この場合と比べ、本実施形態では、ボルト穴3のフランクからの反射波を受信するのを低減することができる。また、例えば、送信用アレイ探触子11に代えて、単一の振動子を有する送信用斜角探触子をフランジ1の主面2に配置すると共に、受信用アレイ探触子12に代えて、単一の振動子を有する受信用斜角探触子をフランジ1の主面2に配置する場合を想定すれば、この場合とは異なり、本実施形態では、探傷の深さに応じて探触子間の距離を変更する必要がない。そのため、探触子間の距離の増大に伴う超音波のビーム拡大を抑えることができ、ボルト穴3のフランクからの反射波を受信するのを低減することができる。したがって、本実施形態では、欠陥を精度よく検知することができる。
【0028】
また、本実施形態では、送信用アレイ探触子11は、基準線Lに対して垂直な方向及びボルト穴3の軸方向に延在する仮想平面に沿った送信経路S1で超音波を送信し、受信用アレイ探触子12は、前述した仮想平面に沿った受信経路S2で超音波を受信する。これにより、ボルト穴3の軸方向に対して垂直な方向に延在する欠陥が生じた場合、この欠陥に対して垂直な仮想平面に沿って超音波が伝播することになる。これにより、受信用アレイ探触子12で受信する超音波の振幅を高めることができる。したがって、欠陥を精度よく検知することができる。
【0029】
また、本実施形態では、送信用アレイ探触子11及び受信用アレイ探触子12をフランジ1の主面2に配置するので、シート面4の損傷を防止することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 フランジ
2 主面
3 ボルト穴
4 シート面
5 ボルト穴の周辺部
8 欠陥
11 送信用アレイ探触子
12 受信用アレイ探触子