(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】基板上にCdTe膜を堆積させる方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20220106BHJP
C23C 14/02 20060101ALI20220106BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20220106BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20220106BHJP
H01L 31/18 20060101ALI20220106BHJP
H01L 31/073 20120101ALI20220106BHJP
【FI】
C23C14/06 G
C23C14/02 Z
C23C14/24 J
C23C14/24 C
C23C14/32 B
H01L31/04 420
H01L31/06 420
(21)【出願番号】P 2018540719
(86)(22)【出願日】2017-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2017052323
(87)【国際公開番号】W WO2017134191
(87)【国際公開日】2017-08-10
【審査請求日】2019-08-29
(31)【優先権主張番号】102016101856.2
(32)【優先日】2016-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer-Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D-80686 Muenchen, Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】518234427
【氏名又は名称】シーティエフ ソーラー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CTF Solar GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリー モアグナー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ メツナー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ヒアシュ
(72)【発明者】
【氏名】オーラフ ツュヴィツキ
(72)【発明者】
【氏名】ルートヴィヒ デッカー
(72)【発明者】
【氏名】トアステン ヴェアナー
(72)【発明者】
【氏名】バスティアン ズィープヒェン
(72)【発明者】
【氏名】ベッティーナ シュペート
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナクマール ヴェラッパン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン クラフト
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ドロスト
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-195799(JP,A)
【文献】特開2010-141343(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0032440(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0184249(US,A1)
【文献】特開昭63-024679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 31/18
H01L 31/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ(1)内で物理蒸着によって基板(2)上にCdTe膜を堆積させる方法であって、前記基板(2)を堆積プロセスの前に被覆温度に加熱し、次いで前記基板(2)を搬送して、CdTe(4)を蒸気状態へと移行させる少なくとも1つの容器(3)の近傍を通過させる方法において、前記基板(2)を搬送して前記少なくとも1つの容器(3)の近傍を通過させる前に、前記真空チャンバ内の真空に対して高められた圧力を有する
ガス状成分として酸素が、少なくとも1つの入口(5)を通って前記被覆すべき基板(2)の表面に向かって流れることによって、前記ガス状成分が前記被覆すべき基板(2)の表面に吸着することを特徴とする方法。
【請求項2】
CdTe(4)を昇華させる複数の容器(3)を前記基板(2)の移動方向に並べて配置し、かつ
前記複数の容器(3)のそれぞれの手前で、前記真空チャンバ内の真空に対して高められた圧力を有する
前記ガス状成分が、少なくとも1つの入口(5)を通って前記被覆すべき基板(2)の表面に向かって流れることを特徴とする、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
前記基板を搬送して前記少なくとも1つの容器の近傍を数回通過させることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記ガス状成分をプラズマで活性化させることを特徴とする、請求項1から
3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記CdTe膜をCSSによって堆積させることを特徴とする、請求項1から
4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記CdTe膜をVTDによって堆積させることを特徴とする、請求項1から
4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記CdTe蒸気をプラズマで活性化させることを特徴とする、請求項1から
6までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、基板上にCdTe膜を堆積させる方法であって、該方法を用いることにより堆積膜に少なくとも1つの追加の化学元素を組み込むことができる方法に関する。
【0002】
CdTe膜は、半導体産業において、特に薄膜太陽電池やカメラのイメージセンサの製造において、重要性を増している。
【0003】
CdTe膜の堆積には、いわゆる「近接昇華法(Close Space Sublimation)」(CSSと略記)なるプロセス技術が広く用いられている。この技術では、CdTe粒状物を容器内で加熱し、この容器内でこの粒状物を昇華させて蒸気状態へと移行させる。被覆温度に加熱した被覆すべき基板を、多くの場合この容器の上方で近接した状態で移動させ、それによってこの基板表面上にCdTeが沈着する。
【0004】
薄膜太陽電池に向けたCSSによるCdTe膜の堆積は、例えば”CdTe Duennschichtsolarmodule auf dem Weg zur Produktion”, Dr. Dieter Bonnet, FVS Themen 2000, p.116-118に記載されている。
【0005】
独国特許出願公開第102014202961号明細書(DE 10 2014 202 961 A1)から、pドープCdTe膜の製造方法であって、2つのCdTe部分膜を例えばCSSによって堆積させ、これら2つの部分膜の間にドーパントを含む犠牲膜を堆積させる方法が知られている。この犠牲膜から隣接するCdTe部分膜領域へとドーパントが拡散する。
【0006】
あるいは、CSS法において、昇華するCdTe粒状物と被覆すべき基板との間に存在する拡散するCdTe蒸気の領域に、例えば酸素のような反応性ガスを通すことによって、反応性堆積プロセスを行うことも可能である。この場合、その際に容器内のCdTe粒状物も酸化してしまい、このことが蒸気歩留まりに悪影響を及ぼすという不利な結果が生じる。
【0007】
CdTe膜を堆積させるためのもう1つの公知の方法は、いわゆる「気相輸送法(Vapor Transport Deposition)」(VTDと略記)である。このVTD堆積法では、CdTeを容器内で蒸気状態へと移行させ、このCdTe蒸気を不活性キャリアガスのガス流を用いて被覆ゾーンへと搬送し、この被覆ゾーンでこのCdTe蒸気を基板上に堆積させる。このVTD堆積法は、基板の上面を上方から下方へ被覆する方向で被覆するのに用いられることが多い。独国特許出願公開第102010051815号明細書(DE 10 2010 051 815 A1)から、例えば少なくとも1つの光起電力構成要素を形成する方法であって、例えばCdTeから作製される吸収体膜をVTDによって堆積させることができる方法が知られている。
【0008】
”Vapor transport deposition of large-area polycrystalline CdTe for radiation image sensor application ”, Keedong Yang, Bokyung Cha, Duchang Heo, and Sungchae Jeon, Phys. Status Solidi, C11, Nr.7-8, 2014, p.1341-1344”には、イメージセンサ用途向けのVTDによるCdTe膜の堆積が記載されている。
【0009】
VTDによってCdTe膜を堆積させる場合、例えば添加すべき化学元素のガス状成分をキャリアガスに加えることによってCdTe膜にさらなる化学元素を組み込むことができる。しかし、例えば酸素がこの不活性キャリアガスに混ざると、CdTe蒸気が被覆ゾーンへと輸送される間に、酸素がCdTe蒸気の粒子と反応して酸化カドミウムが生成されるという悪影響が生じ、これによって堆積膜の品質が低下する。
【0010】
したがって本発明は、基板上にCdTe膜を堆積させる方法であって、該方法により従来技術の欠点を克服し得る方法を創出するという技術的課題に基づく。特に、本発明による方法を用いることによって、蒸発材料の、例えば酸化による化学的変化を生じさせることなく、堆積膜に追加の化学元素を組み込むことも可能となる。
【0011】
この技術的課題は、請求項1の特徴を有する対象によって解決される。本発明のさらなる有利な実施形態は、従属請求項から明らかである。
【0012】
本発明による方法では、真空チャンバ内で物理蒸着によって基板上にCdTe膜を堆積させる。基板としては例えばガラス基板を使用することができ、この基板上には、CdTe膜を堆積させる前にCdTe以外の材料で作製された1つまたは複数の膜がすでに堆積されていてもよい。あるいはまた、金属製またはプラスチック製の基板を使用することもできる。本発明による方法では、CdTeで被覆すべき基板を堆積プロセスの前に被覆温度に加熱し、次いでこの基板を搬送して、CdTeを蒸気状態へと移行させる少なくとも1つの容器の近傍を通過させることにより、生成されるCdTe蒸気を、被覆すべき基板表面上に堆積させる。本発明による方法は、例えばCdTe膜の導電性に影響を及ぼし得る少なくとも1つのさらなる化学元素をCdTe堆積膜に組み込むことを特徴とする。このことは本発明によれば、基板を搬送して、CdTeを蒸気状態へと移行させる少なくとも1つの容器の近傍を通過させる前に、(真空チャンバ内の真空に対して)高められた圧力を有するガス状成分が、少なくとも1つの入口を通って被覆すべき基板表面に向かって流れ、その結果、これらのガス状成分がこの被覆すべき基板表面に吸着することによって実現される。そうすると、基板表面に付着したこれらのガス状成分が、後続のCdTeの蒸着時に、生成される膜に取り込まれる。
【0013】
本発明による方法を実施するために、例えば、酸素、窒素、硫黄、塩素、フッ素、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、テルルの群からの元素の少なくとも1つを含むガス状成分を使用することができる。太陽電池膜システムの一部としてCdTe膜を堆積させる場合には、ガス状成分としては酸素が特に適している。なぜならば、組み込まれた酸素によって、隣接する膜からCdTe膜への塩素および硫黄の望ましい内方拡散が促進され、これによって太陽電池の効率が向上するためである。
【0014】
本発明の一実施形態では、基板を搬送して、CdTeを蒸気状態へと移行させる少なくとも1つの容器の近傍を数回通過させ、その際、基板がこれらの容器の被覆ゾーンに入る前に、被覆すべき基板表面にガス状成分を毎回吸着させる。これは、毎回同一のガス状成分であってもよいし、その度ごとに異なるガス状成分であってもよい。あるいは、真空チャンバ内には、CdTeを蒸気状態へと移行させる複数の容器が、基板の移動方向で見た場合に並んで配置されていてもよく、その際、基板が容器の被覆ゾーンに入る前に、ガス状成分が少なくとも1つの入口を通って被覆すべき基板表面に向かって流れることによって、被覆すべき基板表面にガス状成分を毎回吸着させる。
【0015】
もう1つの実施形態では、ガス状成分を、基板表面に吸着させる前および/または後にプラズマで活性化させ、これによってCdTe膜へのガス状成分の化学元素の取込みを改善することができる。
【0016】
本発明による方法では、CdTe膜をCSS法によって堆積させることが好ましい。あるいは本発明によれば、CdTe膜をVTDによって堆積させることも可能である。
【0017】
さらに本発明による方法では、CdTe蒸気をプラズマで活性化させることができ、それによってCdTe堆積膜の特性に影響を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1に、本発明による方法を実施することができる装置の概略図を示す。
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
図1に、本発明による方法を実施することができる装置の概略図を示す。真空チャンバ1を通って基板2を搬送し、この基板の片面にCdTe膜を太陽電池膜システムの一部として堆積させることを予定している。その際、このCdTe堆積膜にさらに、化学元素である酸素をできるだけ均一に組み込むことも予定している。
【0020】
本実施例では基板はガラスからなり、このガラス上には先行するプロセスですでにTCO膜を堆積させ、次いでCdS膜を堆積させてある。基板2を真空チャンバ1に搬入する前に、これらの基板2を被覆温度に加熱しておいた。あるいは、基板2の被覆温度への加熱または基板2の被覆温度の保持を、真空チャンバ1内で例えば輻射型ヒータで行うことも可能である。
【0021】
基板2の上方には矢印で基板移動方向が示されており、真空チャンバ1内には、この基板移動方向に3つの容器3が配置されている。これらの容器3内にはCdTe粒状物4が存在し、このCdTe粒状物4は、容器3に熱を供給することによって昇華する。各基板2をわずか数ミリメートルの間隔をあけて各容器3の上方で搬送することによって、これらの基板2上にCdTe膜を堆積させる。
【0022】
本発明によれば、基板移動方向で見て各容器3の手前にガス入口5が配置されており、このガス入口5から被覆すべき基板表面の方向へと酸素が流れる。酸素の流れの方向は、本実施例では、被覆すべき基板表面に対して垂直である。この酸素は、被覆すべき基板表面に吸着され、基板2に付着した状態でこの基板2と一緒にそれぞれの後続の容器3の被覆ゾーンへと搬送され、そしてこの被覆ゾーンにおいて膜が堆積される際に堆積膜に取り込まれる。
【0023】
本実施例で説明するように、基板2を1つまたは複数の容器3の被覆ゾーンを数回通過させ、かつ被覆すべき基板表面にガス状成分が予め毎回吸着する場合には、本発明による方法によって、少なくとも1つの追加の化学元素をCdTe膜の膜厚プロファイル全体に均一に組み込む可能性が示される。
【0024】
各基板2はわずか数ミリメートルの間隔で各容器3の上方で搬送されることから、一方では側方蒸発損失が非常にわずかであり、他方では、容器3の内部でCdTe粒状物4と基板2との間の領域で比較的高い蒸気圧が生じることに付随して基板2と容器縁部との間隙が狭いため、CdTe粒状物に達する酸素はごくわずかであるにすぎない。それにより、容器3内のCdTe粒状物の酸化の程度は無視できるほどに低く、蒸気歩留まりが非常に高い。
【0025】
太陽電池膜システムでは、CdTe膜を堆積させた後に、このCdTe膜内に塩素を拡散させて塩素化合物によりCdTe膜を活性化させることが知られている。驚くべきことに、本発明によるCdTe膜への酸素の組込みによって、後続の塩素での活性化による塩素の拡散だけでなく、CdTe膜の下方に堆積しているCdS膜からの硫黄の拡散も促進されることが判明した。したがって、本発明により堆積させたCdTe膜を備えた太陽電池では、本発明による酸素の組込みを行わない方法よりも高効率であることを確認することができた。
【0026】
さらに、本発明により堆積させたCdTe膜を分析したところ、本発明によりCdTe膜に酸素を組み込んでも、CdTe膜内に酸化カドミウムが形成されないことが判明した。
【0027】
本発明による方法では、CdTe膜に酸素を取り込むことができるだけではなく、CdTe膜に、前述の化学元素のうちの、例えばCdTe膜にドーピングするための他の元素を取り込むこともできることに改めて留意すべきである。また、
図1に示す3つの容器3は、数の点では単なる例示である。課題に応じて、本発明による方法を、3つより多いまたは少ない容器3および付属のガス入口5を用いて実施することもできる。