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  • 特許-X線撮影のための試料調製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】X線撮影のための試料調製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20220106BHJP
   G01N 23/083 20180101ALI20220106BHJP
【FI】
G01N23/046
G01N23/083
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018547765
(86)(22)【出願日】2017-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2017038794
(87)【国際公開番号】W WO2018079682
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2016212330
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】江連 智暢
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0266054(US,A1)
【文献】特開2009-50726(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0065663(US,A1)
【文献】特表2009-524826(JP,A)
【文献】国際公開第2015/188040(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/04-23/046
G01N 23/083
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線画像撮影法による皮膚試料の観察方法であって、
皮膚試料とアセトン含有溶液とを接触させる工程;
皮膚試料とヨウ素含有溶液とを接触させる工程;
皮膚試料を、X線コンピュータ断層撮影装置により3次元画像を取得する工程
を含む、前記観察方法。
【請求項2】
前記観察方法が、皮膚試料中の付属器の観察を可能にする、請求項1に記載の観察方法。
【請求項3】
前記付属器が、皮脂腺、汗腺、毛器官からなる群から選ばれる、請求項2に記載の観察方法。
【請求項4】
ヨウ素含有溶液が、ヨウ化カリウム及びヨウ素の少なくとも1を含む、請求項1又は2に記載の観察方法。
【請求項5】
X線画像撮影のための皮膚試料の調製方法であって、
皮膚試料とアセトン含有溶液とを接触させる工程;
皮膚試料とヨウ素含有溶液とを接触させる工程;
を含む、前記調製方法。
【請求項6】
ヨウ素含有溶液が、ヨウ化カリウム及びヨウ素の少なくとも1を含む、請求項5に記載の調製方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の観察方法を用いて付属器の深度を測定することによる、皮膚空洞化の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚試料に対するX線画像撮影法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は透過性が高い一方で、物質に応じて透過性が異なる。そこでX線の透過性の差を利用して、医療分野や非破壊内部検査分野で用いられている。X線撮影をコンピュータで処理して3次元画像を取得する技術が開発されており、コンピュータ断層撮影(CT)と呼ばれている。CTは、放射線被曝の影響を考えなければ、解像度を極めて高くすることができ、顕微鏡レベル又はそれ以上の微細構造の3次元画像を取得することができる。このようなCTはX線マイクロCTと呼ばれており、生体に適用することは好ましくないものの、取得された組織の内部の3次元構造をより精緻に観察するのに適している。
【0003】
X線マイクロCTが開発されて以来、単離組織、樹脂成形品、小型電子部品等様々な物質の断面画像の取得及び解析が可能になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】Journal of Cell Science (2016), vol. 129,pp, 2483-2492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが、X線マイクロCTを用いて、ヒト皮膚組織試料について皮膚の3次元構造の解析を試みたところ、表皮層、真皮層、及び皮下脂肪層といった大まかな構造の差異を識別可能であった一方で、皮膚構造に含まれる付属器といった構造については識別ができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らが、X線マイクロCT装置の設定、組織試料の調製について鋭意検討を行った。本発明者らが、アセトンにより皮膚組織試料を前処理し、ヨウ素含有溶液で染色し、X線マイクロCT装置に供したところ、驚くべきことに、皮膚に含まれる微小器官である付属器を識別可能になり、本発明に至った。
【0007】
具体的に、本発明は、X線画像撮影法による皮膚試料の観察方法に関する。本発明の観察法では、以下の:
皮膚試料とアセトン含有溶液とを接触させる工程;
皮膚試料とヨウ素含有溶液とを接触させる工程;及び
皮膚試料を、X線コンピュータ断層撮影装置により3次元画像を取得する工程
を含むことを特徴とする。
【0008】
他の態様では、本発明は、X線画像撮影のための皮膚試料の調製方法にも関する。本発明の調製方法では、以下の:
皮膚試料とアセトン含有溶液とを接触させる工程;及び
皮膚試料とヨウ素含有溶液とを接触させる工程
を含むことを特徴とする。
【0009】
さらに別の態様では、本発明の観察方法を用いて、汗腺の最下部の深度を測定することによる、皮膚空洞化の検出方法にも関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の皮膚試料の調製方法により調製された皮膚試料を観察することで、皮膚に含まれる微細な組織である付属器の構造の観察が可能になる。また、付属器の一つである汗腺の深度を測定することにより皮膚空洞化を検出することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、前処理溶液-染色液の組合せとして、(1)PFA-ヨウ素含有溶液(Lugol)、(2)PFA-リンタングステン酸、(3)アセトン-ヨウ素含有溶液(Lugol)、及び(4)アセトン-リンタングステン酸を用いて処理を行い、X線マイクロCTで取得された3次元画像を示す。
図2図2は、アセトン-ヨウ素含有溶液の組合せで処理されて、X線マイクロCTで取得された3次元画像において、器官(毛(hair)、立毛筋(hair muscle, arrector pili)、汗腺(sweat gland)、及び皮脂腺(sebaceous gland))並びに組織(表皮(epidermis)、真皮層(dermal layer))を表した図である。
図3図3Aは、正常(normal)皮膚と、重篤なたるみ(severe sagging)のある皮膚における外観写真と、超音波による内部画像を示す。正常皮膚では、真皮層(dermal layer)と皮下脂肪(fat)との境界が平坦である一方で、重篤なたるみのある皮膚では、重篤な真皮の欠損(severe defect)が見られた。図3Bは、真皮空洞の大きさ(defect severity)と皮膚の弾力性(skin firmness)との関係を示すグラフである。真皮空洞が大きくなる(Large)ほど皮膚の弾力性が低下し、真皮空洞が小さくなるほど、皮膚の弾力性が高くなった(High)。相関計数は、ピアソンの相関係数(Pearson's correlation coefficient)により示した。
図4図4Aは、X線マイクロCTで取得された汗腺(sweat gland)を含む部分の3次元画像を示す。汗腺の下側に空洞(cavity)が見られた。図4Bは、汗腺(sweat gland)、毛嚢(hair follicle)、及び皮脂腺(sebaceous gland)の組織切片染色写真を示す。汗腺では空洞が存在した(cavitation)一方で、毛嚢や皮脂腺には空洞が存在しなかった(no cavitation)。図4Cは、汗腺と真皮空洞との共局在(co-localized)の割合(ratio)を示すグラフである。共局在していない(none)場合は、およそ10%程度であった。有意差はスチューデントのt検知(Student's t-test)により求めた。
図5図5は、30代の若い(young)皮膚と60代の年配の(old)皮膚における汗腺(sweat gland)部分の3次元画像を示す。年配の皮膚では、汗腺は表皮(epidermis)側へと上方に収縮していた(shrink upward)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、X線画像撮影法による皮膚試料の観察方法に関する。この観察法では、以下の:
皮膚試料とアセトン含有溶液とを接触させる工程;
皮膚試料とヨウ素含有溶液とを接触させる工程;及び
皮膚試料を、X線コンピュータ断層撮影装置により3次元画像を取得する工程
を含むことを特徴とする。
【0013】
X線画像撮影方法は、任意の出力および解像度が選択されうる。3次元構造を観察することから、断層写真(CT像)が好ましい。また、付属器などの微小器官を観察する観点から、0.1μm以下の分解能を有する、いわゆるX線マイクロCTと呼ばれる撮影法が好ましい。X線マイクロCTの分解能は、より小さい組織を観察する観点から、0.1μm以下が好ましく、0.01μm以下がさらに好ましく、0.05μm以下がさらに好ましい。分解能の下限は特に限定されないが、X線CT装置の能力に左右され、例えば0.0001μm以上、又は0.001μm以上である。
【0014】
皮膚試料とは、皮膚から取得された試料をいう。皮膚試料は、観察したい領域を含む形で取得されていればよい。皮膚試料は、表皮、真皮、及び皮下組織のいずれか1以上を含んでいればよい。皮膚切片を用いることもできるし、3次元培養皮膚モデルを用いることもできる。皮膚試料の取得元の動物種は限定されないが、例えばヒト、ブタ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、ウマなどである。特にヒトの皮膚が好ましいが、ヒトの皮膚と近い構造を有するブタの皮膚も観察資料として好ましい。
【0015】
表皮は、皮膚最外層に存在する皮膚組織である。表皮は、角層、顆粒層、有棘層、及び基底層から主に構成されている。基底層に存在する基底細胞が分裂し、外層へと移動する。この移動の過程で脱核が生じて扁平化し角層へと分化し、最終的に剥がれ落ちる。表皮には、ケラチノサイトの他、メラノサイト、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞などが存在する。表皮と真皮との境界に基底膜が存在しており、基底膜は隆起して乳頭構造をとる。真皮は、乳頭層、乳頭下層、網状層から構成される。表皮から真皮にかけて、汗腺や皮脂腺などの分泌腺や毛器官が陥没して存在する。分泌線としては、エクリン汗腺、アポクリン汗腺、皮脂腺、毛脂腺が存在する。毛器官としては、毛嚢、毛、及び立毛筋が存在する。分泌線のうち、アポクリン汗腺、毛脂腺は毛器官に付随している。従来のX腺マイクロCTでは、これらの毛器官や分泌腺の識別は困難であったところ、本発明の試料調製方法により試料を調製し、観察方法により観察した場合には、これらの付属器の識別が可能になった。
【0016】
取得された皮膚試料は、取得後に冷蔵又は冷凍で保存されていてもよいし、取得後すぐにアセトン含有溶液と接触されてもよい。アセトン含有溶液は、アセトンを含む溶液であれば任意の溶液である。アセトンの含有量は、50%以上が好ましく、さらに好ましくは80%以上であり、最も好ましくは100%アセトンである。
【0017】
アセトン含有溶液との接触時間は、皮膚試料の大きさに応じて任意に選択することができる。例えば5mmの厚さの皮膚切片では、6時間以上、好ましくは12時間以上、さらに好ましくは24時間以上接触されうる。接触時間の上限は特に限定されないが、実験簡略化の観点から、48時間以内、より好ましくは24時間以内である。アセトン含有溶液との接触工程は、任意の温度で行われてよく、例えば室温や冷蔵下で行われうる。生体試料を扱う観点から、冷蔵下、例えば4℃で行われることが好ましい。
【0018】
本発明において、ヨウ素含有溶液とは、ヨウ素又はヨウ化物が含有されていれば任意の溶液であってよい。ヨウ素はX線の吸収率が高いことから、ヨウ素の沈着度に応じてX線撮影により組織の識別が可能になると考えられる。したがって、ヨウ素含有溶液は、染色液と言うこともできる。ヨウ化物は、ヨウ素の溶解を助けるために用いられうる。本発明のヨウ素含有溶液に含まれうるヨウ化物としては、ヨウ化水素、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、四ヨウ化炭素など、任意のヨウ化物が挙げられる。ヨウ素とヨウ化カリウムの混合溶液であってもよく、例えばルゴール試薬であってもよい。ヨウ素含有溶液におけるヨウ化物及びヨウ素の濃度は、合計で0.1~10%の濃度を用いることができ、さらに好ましくは1~5%の濃度を用いることができる。ヨウ化物とヨウ素の混合比としては、1:10~10:1の間で任意に選択することができる。混合比としてはより好ましくは1:5~5:1であり、更に好ましくは1:2~2:1である。ルゴール試薬では、ヨウ化カリウムとヨウ素の合計量は3.75%で使用され、その存在比は2:1である。
【0019】
ヨウ素含有溶液との接触時間は、皮膚試料の大きさに応じて任意に選択することができる。例えば5mmの厚さの皮膚切片では、12時間以上、好ましくは24時間以上、さらに好ましくは48時間以上接触されうる。接触時間の上限は特に限定されないが、実験簡略化の観点から、96時間以内、より好ましくは48時間以内である。アセトン含有溶液との接触工程は、任意の温度で行われてよく、例えば室温や冷蔵下で行われうる。生体試料を扱う観点から、冷蔵下、例えば4℃で行われることが好ましい。
【0020】
本発明において、各工程の前又は後において、各工程で用いた溶液を洗い流すために洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、任意の溶液で1~複数回置換することで行われうる。使用する溶液としては、生体試料を扱う観点からリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が使用されてもよいし、次の工程で使用される溶液を用いてもよい。
【0021】
ヨウ素含有溶液との接触工程の後に、3次元画像を取得するために、X線コンピュータ断層撮影装置により撮影が行われる。撮影は、任意のX線CT装置において、出力を適宜選択することにより行うことができる。使用される出力としては、分解能を高める観点から10kV以上が好ましく、より好ましくは25kV以上で撮影を行うことができる。100kV以下が好ましく、より好ましくは50kV以下で撮影が行われる。一例として、Comscan Techno社のμCT装置(D200RSS270)において、出力を50kV及びX線管電流200μAに設定して観察を行うことができる。
【0022】
本発明の方法を用いて、皮膚試料をX腺マイクロCTにより可視化した際に、皮膚表面からの長さが縮んでいる汗腺があることを見いだした。このような汗腺を萎縮した汗腺ということにする。汗腺のなかでも特にエクリン汗腺が萎縮していた。萎縮した汗腺は主に高齢者の皮膚において多く観察された。汗腺の最深部は、通常真皮と皮下組織との境界に存在しているところ、萎縮した汗腺は、萎縮した分だけ皮膚表層側へと移動しており、その移動した領域は皮下組織に置き換わっていることが分かった(図3及び4)。このように皮下組織が真皮側へと隆起して形成される洞を真皮空洞と呼ぶこととする。真皮空洞の大きさは、おおよそ10μm~1000μmの直径を有する略球状であるが、その形状は一定ではない。真皮空洞内は皮下脂肪組織により充填されていることから、単に真皮洞ともいうことができる。真皮層中に含まれる細胞成分や間質成分が、真皮空洞内には含まれないことにより、皮膚の弾力が失われ、たるみが生じ、皮膚の老化に繋がると考えられる(PCT/JP2015/072140)。
【0023】
したがって、汗腺が萎縮しているか否かを判定することで、皮膚のたるみを測定することができる。汗腺の萎縮を、皮膚表面からの汗腺の最下部までの深度に基づき決定することができる。また、萎縮度を、汗腺が存在しておらず皮下脂肪組織が隆起していない領域における皮膚表面から皮下脂肪組織までの距離(L1)と、汗腺が存在している領域の汗腺の最深部(又は皮下組織)までの距離(L2)とから求めることができる。例えば、以下の式:
【数1】
で表すこともできる。深度が増加するにつれ、萎縮度が低下し、皮膚の空洞は少なくなる。一方で、深度が低下するにつれ、萎縮度が増加し、皮膚の空洞が大きくなる。
【0024】
したがって、本発明の観察方法を用いて汗腺の萎縮度を測定することにより、皮膚空洞化の検出が可能となる。
【0025】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0026】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例
【0027】
実施例1:
皮膚検体を4% PFAまたはアセトンで前処理後、ルゴール又はリンタングステン酸に浸しPBSで洗浄後、CTで撮影を行った。
形成外科手術を受けた17名の女性被験者及び20名の男性被験者から、余剰皮膚を取得し、5mm厚に切ることで皮膚試料とした。PBSで洗浄後、皮膚試料をアセトン中に入れ、24時間4℃でインキュベートすることにより前処理を行った。比較として、4%PFA水溶液を前処理溶液のアセトンの代わりに用いた。インキュベート後、皮膚試料をPBSで洗浄した。次にルゴール試薬を希釈したヨウ素含有溶液(2.5%ヨウ化カリウム及び1.25%ヨウ素水溶液)中に皮膚試料を入れ、24時間4℃でインキュベートした。比較として、ヨウ素含有溶液の代わりに、リンタングステン酸含有溶液を用いた。リンタングステン酸含有溶液は、6.7%リンタングステン酸水溶液をストック溶液とし、ストック溶液1.5mlに対し、1.5mlの水及び100%エタノール7mlを添加して染色液とし、試料を染色した。染色後の皮膚試料をPBSで洗浄し、μCT(D200RSS270;Comscan Techno)により測定した。前処理溶液-染色液の組合せ:(1)PFA-ヨウ素含有溶液(Lugol)、(2)PFA-リンタングステン酸、(3)アセトン-ヨウ素含有溶液(Lugol)、及び(4)アセトン-リンタングステン酸についてのX線マイクロCTの取得画像を図1に示す。
【0028】
前処理-染色液として、(3)アセトン-ヨウ素含有溶液を用いて取得した3次元画像を示す(図2)。図2には、器官(毛(hair)、立毛筋(hair muscle, arrector pili)、汗腺(sweat gland)、及び皮脂腺(sebaceous gland))並びに組織(表皮(epidermis)、真皮層(dermal layer))が表示される。
【0029】
実施例2:
30代の同年齢の2名の女性の皮膚外観について写真をとり、また皮膚の内部を超音波造影装置で画像を取得した。1名の皮膚外観は正常であったが、もう1名の皮膚外観は皮膚のたるみを有していた。皮膚外観と、超音波画像を図3A示す。同じ年齢の対象であっても、皮膚のたるみがある対象の皮膚では、超音波画像において真皮部分への脂肪組織の隆起(以下、真皮空洞という)が見られるのに対し、たるみのない正常対象の皮膚では、そのような空洞は見られなかった。次に皮膚における真皮空洞の大きさと、その部分の堅さとの関係について、被験者を変えて計測した。皮膚の弾力性(skin firmness)は、キュートメーターを用いてUr/Uf値を測定することにより決定した。結果を図3Bに示す。
【0030】
本発明者らが、真皮空洞の原因を探るべく、実施例1で得られた3次元画像を解析していたところ、真皮空洞が存在する箇所に汗腺が存在していることを発見した(図4A)。汗腺と真皮空洞との関連を調べるため、組織切片染色画像において、汗腺(sweat gland)、皮脂腺(Sebaceous gland)、及び毛嚢(Hair follicle)について観察したところ、汗腺において特異的に真皮空洞が存在することがわかった(図4B)。汗腺と真皮空洞との共局在率を計算した(図4C)。
【0031】
次に、30代の皮膚における汗腺と、60代の皮膚における汗腺を、3次元画像及び組織切片染色画像の両者で比較したところ、60代の皮膚では、汗腺の位置が浅くなっていることが分かり、年齢と共に萎縮していることが分かった(図5)。そして汗腺が萎縮した領域に、真皮空洞として、脂肪組織が隆起していることが分かった。
【0032】
30代及び60代の皮膚における汗腺の深度を求めた。深度は、皮膚表面から、汗腺の最深部までの距離で表した。また、真皮空洞化の重篤度を、皮膚表面から空洞の最上部までの距離として表した。したがって、汗腺深度と年齢、汗腺深度と真皮空洞化の重篤度との相関を調べた。結果を下記の表に示す。
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5