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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】内燃機関用点火コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/12 20060101AFI20220106BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20220106BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20220106BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H01F38/12 J
C08L63/00 C
C08K3/34
C08G59/42
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018565947
(86)(22)【出願日】2017-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2017040250
(87)【国際公開番号】W WO2018142710
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2017015706
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174426
【氏名又は名称】日立Astemo阪神株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】上川 将行
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-268222(JP,A)
【文献】特開2014-187152(JP,A)
【文献】特開平11-162258(JP,A)
【文献】特開2005-042000(JP,A)
【文献】特開平07-238881(JP,A)
【文献】特開2000-311824(JP,A)
【文献】Technical Information ALBIDUR EP2240A,EVONIK NUTRITION & CARE GMBH,2020年03月,Table of Technical deta
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
C08L 63/00- 63/10
C08K 3/00- 13/08
H01F 38/00- 38/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と、
前記鉄心の周囲に配置された一次コイルと、
前記一次コイルの周囲に配置された二次コイルと、
前記鉄心と前記一次コイルと前記二次コイルとを封止する絶縁部と、を備え、
前記絶縁部は、エポキシ樹脂と、酸無水物と、無機フィラと、マイカとを含み、前記酸無水物の含有量が以下に定義する等量比で0.5~0.8であり、前記無機フィラが水酸化アルミニウム又はシリカを含み、前記無機フィラの配合量が前記エポキシ樹脂及び前記酸無水物の合計100質量部に対し、10~300質量部であり、前記マイカの粒径が2~20μm、含有量が4.8~5.3質量%である樹脂組成物が硬化されたものであり、
10kV以上の電圧を印加する条件で用いられる、内燃機関用点火コイル。
等量比=[酸無水物添加量(g)/酸無水物当量(g/eq)]/[エポキシ樹脂添加量(g)/エポキシ当量(g/eq)]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、絶縁材及び内燃機関用点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用点火コイルは、コイルケース内に、中心鉄心と、その中心鉄心の周囲を包囲するように設けられた側面鉄心と、を備えている。中心鉄心の外周には、バッテリに接続された一次コイルが配置されている。その一次コイルの外周には、間隔をもってプラグに接続された二次コイルが配置されている。二次コイルの外周には、間隔をもって側面鉄芯が配置されている。そして、コイルケース内は、一次コイルと二次コイルとの間、二次コイルと側面鉄芯との間等の絶縁性を確保するために、絶縁用樹脂により封止されている。
【0003】
車両等のエンジンにおける内燃機関の点火プラグに火花放電を発生させるために高電圧を供給する内燃機関用点火コイルは、燃費規制の施行に伴い、小型化及び高出力化が要求されている。つまり、高電圧でも高い耐久性を有する点火コイルが必要とされ、それに伴って高耐圧絶縁材料が求められている。
【0004】
特許文献1には、点火コイルに用いる絶縁材である樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂中に分散された充填材の粒度分布曲線において、2つのピークを有し、2つのピークの間に、小径のピークよりも頻度が低い谷間を有するものが開示されている。特許文献1においては、球状の大径粒子の隙間に球状の小径粒子を入り込ませることで、樹脂の流動性を向上させ、巻線間に樹脂が浸透しやすくし、絶縁体における絶縁破壊を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-2310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の樹脂組成物の硬化温度は、点火コイルの構成部材の耐熱温度以上とすることは難しいが、点火コイルの構成部材の耐熱温度は、およそ160℃以下である。硬化剤は、エポキシ樹脂の当量を添加することにより、過不足なく反応し、未反応物が残存することがない。ただし、これは、硬化温度が200℃程度以上で十分に硬化反応が進行した場合である。点火コイルでは、硬化温度が低く、反応が十分に進行しないため、10kV以上、特に20kV以上の高電圧下においては、未反応の硬化剤である酸無水物が導体として作用し、容易に絶縁破壊するという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題に鑑みてなされたものであり、絶縁材を構成する樹脂組成物の絶縁性を向上し、内燃機関用点火コイルの高出力化に対応することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、酸無水物と、を含み、酸無水物の含有量は、以下に定義する等量比で0.5~0.8である。
【0009】
等量比=[酸無水物添加量(g)/酸無水物当量(g/eq)]/[エポキシ樹脂添加量(g)/エポキシ当量(g/eq)]
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絶縁材の絶縁性及び耐久性を向上する樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の内燃機関用点火コイルの例を示す上面図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】本発明の絶縁材の微細構造を示す模式拡大断面図である。
図4】本発明の点火コイルの絶縁性能と、絶縁材を構成するエポキシ樹脂に対する硬化剤の等量比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、樹脂組成物及び絶縁材に関し、内燃機関の点火プラグに高電圧を供給する点火コイルであって絶縁部に当該絶縁材を用いたものに関する。
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、内燃機関用点火コイルの例を示したものである。
【0015】
図2は、図1のA-A断面図である。
【0016】
図1においては、内燃機関用点火コイル1は、独立点火型であり、内燃機関の各シリンダのプラグホールに装着され、点火プラグに直結している。
【0017】
図2に示すように、内燃機関用点火コイル1は、中心鉄心部6Aと側面鉄心部6Bとから構成される鉄心を有し、この鉄心により磁気回路が構成されている。また、点火コイルは、コイルケース7と、コイルケース7内に収容された一次コイル3と、二次コイル5と、を備えている。コイルケース7内には、絶縁部10が形成され、中心鉄心部6A、側面鉄心部6B、一次コイル3及び二次コイル5が封止されている。
【0018】
本図において、一次コイル3は、中心鉄心部6Aを格納する一次ボビン2と、一次ボビン2に巻装された電線と、から構成されている。中心鉄心部6Aは、0.2~0.7mmの珪素鋼板をプレス積層して閉磁路をなす磁路を形成している。中心鉄心部6Aの一端部には、側面鉄心部6Bが設けられている。側面鉄心部6Bの中心鉄心部6A側と反対側の端部は、閉磁路が形成される。
【0019】
一次コイル3の電線には、線径0.3~1.0mm程度のエナメル線が用いられる。一次コイル3は、電線を、一層当たり数十回ずつ数層にわたり合計百ないし三百回程度一次ボビン2に積層巻することにより形成される。
【0020】
また、二次コイル5は、一次ボビン2に周設された二次ボビン4と、二次ボビン4に巻装された電線と、から構成される。この二次ボビン4は、複数個の巻溝を有し、熱可塑性合成樹脂によって成形されている。二次コイル5の電線としては、例えば線径0.01~0.1mm程度のエナメル線を用いる。二次コイル5は、エナメル線を合計五千ないし三万回程度二次ボビン4に分割巻することにより形成される。
【0021】
また、中心鉄心部6Aの他端部と側面鉄心部6Bとの間には、一次コイル3の通電によって中心鉄心部6Aを励磁する方向と逆方向に磁化された永久磁石が挿入されていてもよい。
【0022】
一次コイル3に供給する電力は、端子8を介して供給される。端子8には、コネクタが接続される。一方、二次コイル5には、高圧端子9が接続されている。二次コイル5には、一次コイル3の通電によって、点火プラグに火花放電を発生させるための高電圧が誘起される。二次コイル5に誘起された高電圧は、高圧端子9を介して点火プラグに供給される。点火プラグは、二次コイル5に誘起された高電圧の供給を受け、火花放電を発生させる。
【0023】
絶縁部10は、一次コイル3及び二次コイル5が収容されているコイルケース7の空隙部に、硬化前の熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を注入し、硬化させることにより、形成したものである。したがって、一次ボビン2に巻装された一次コイル3、及び二次ボビン4に巻装された二次コイル5の周囲の隙間は、絶縁部10を構成する絶縁材料により充たされている。これにより、一次コイル3と二次コイル5との絶縁が保たれるようになっている。すなわち、コイルケース7内では、絶縁材料によって、一次コイル3、二次コイル5、一次ボビン2及び二次ボビン4が絶縁され、固定されている。
【0024】
図3は、本発明の一実施形態に係る点火コイルの電線及びその周辺部の微細構造を模式的に示したものである。
【0025】
本図に示すように、二次電線14の周囲は、絶縁材で覆われている。絶縁材は、エポキシ樹脂硬化物13で構成されている。
【0026】
本図においては、絶縁材の構成要素として層状珪酸塩12(マイカ等)が含まれる例を示している。この場合、高電圧により線径の小さい二次電線14から発生する電流は、エポキシ樹脂硬化物13の内部を通過しやすく、層状珪酸塩12の周囲を迂回する。これにより、折れ曲がった電気トリー15が形成される。よって、層状珪酸塩12は、絶縁破壊の抑制に寄与する。このほか、絶縁材は、無機フィラ16を含むものであってもよい。
【0027】
エポキシ樹脂硬化物13は、エポキシ樹脂が、硬化剤である酸無水物で架橋されることにより形成される。
【0028】
本発明者は、点火コイルに用いられる封止樹脂において、絶縁破壊の原因となる不純物が比較的少ないにもかかわらず、10kV以上の高電圧を印加した場合に、従来問題とならなかった未反応の酸無水物が絶縁に悪影響を及ぼすことを見出した。特に、20kV以上では、その傾向が顕著であった。ここで、10kV以上の高電圧は、1mm~10mm程度の寸法の領域に印加される。特に、二次コイルを構成する線径が小さい電線の近傍においては、電界が非常に強くなる。
【0029】
なお、エポキシ樹脂硬化物13は、硬化剤である酸無水物で架橋されているが、エポキシ樹脂と酸無水物の官能基が過不足なく反応する場合のエポキシ樹脂に対する酸無水物の含有量を「等量」と定義し、エポキシ樹脂に対する酸無水物の含有量として、等量比を下記式のように定義することにする。
【0030】
【数1】
【0031】
本発明においては、酸無水物の望ましい含有量は、等量比0.5~0.8である。
【0032】
従来の絶縁材においては、硬化剤である酸無水物の含有量は、等量比1.0近傍である。この場合、エポキシ樹脂硬化物の中に、未反応の酸無水物が残存することになる。残存する酸無水物は、導体として作用するため、エポキシ樹脂硬化物に高電圧が印加された場合には、容易に絶縁破壊する。
【0033】
また、酸無水物の含有量が等量比0.5未満であるエポキシ樹脂硬化物は、酸無水物の架橋が少なく、樹脂の構造が脆弱であるため、電気トリーの進展が速く、絶縁破壊しやすい。この場合、樹脂の強度も低く、耐久性の観点からも問題がある。
【0034】
これに対して、本発明のエポキシ樹脂硬化物は、硬化剤である酸無水物の含有量が、等量比0.5~0.8であるため、未反応の酸無水物が少なく、かつ、十分に架橋している。このため、電気トリーの進展を遅らせることができる。
【0035】
したがって、このような絶縁材を点火コイルに用いることにより、絶縁性及び耐久性を向上させることができ、点火コイルの高出力化に対応することができる。
【0036】
上記エポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができる。例えば、芳香族エポキシ樹脂であるビスフェノール型エポキシ樹脂及びノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。脂環式エポキシ樹脂を用いてもよい。これらの中でも、揮発性が小さく低粘度であるため取り扱いが容易なビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることが好ましく、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が望ましい。
【0037】
絶縁材を形成するためにエポキシ樹脂組成物に用いられる硬化剤である酸無水物は、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテート、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヒドロ無水フタル酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸-マレイン酸付加物、ドデセニル無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物、ポリドデカン二酸無水物、クロレンド酸無水物、3or4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、3or4-メチル-ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらの酸無水物は、エポキシ樹脂用硬化剤として用いられる。
【0038】
また、無機フィラは、耐熱性の向上、熱膨張率の低減等の観点から望ましい。無機フィラとしては、水酸化アルミニウム、クレイ、タルク、アルミナ、ガラス粉末等があるが、本発明では、水酸化アルミニウム又はシリカが好ましく、シリカが特に好ましい。無機フィラには、分離・沈降が小さく、配合時の粘度増大が小さいことが望ましいが、そのためには、無機フィラの平均粒径は1~50μmであることが好ましい。
【0039】
無機フィラは、主剤もしくは酸無水物あるいはその両方に配合してよい。無機フィラの配合量は、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計100質量部に対し、10~300質量部であることが好ましい。上記範囲より小さいと、無機フィラを配合する効果が小さい。一方、上記範囲より大きいと、粘度増大が大きく、主剤と酸無水物との混合後の取り扱いが困難となる場合がある。
【0040】
本発明では、上記素材の他、必要に応じて、消泡剤、カップリング剤、反応希釈剤、チクソ付与剤、顔料等を使用することもできる。
【0041】
本発明に係る絶縁材には、層状珪酸塩を添加してもよい。これにより、電気トリーの進展経路を迂回させることができ、絶縁性を向上させることができる。
【0042】
層状珪酸塩は、SiO四面体が3個の酸素原子を互いに共有して連なり、二次元的な、平らな層構造を有しており、このような層構造を複数層積層して形成されている。層状珪酸塩は、薄片状粒子である。層状珪酸塩の層と層の間には、水素原子が入って水酸基(OH基)が形成されていることが多い。
【0043】
層状珪酸塩としては、白雲母、金雲母、黒雲母、脆雲母、クロライト、フロゴパイト、レピドライト、マスコバイト、バイオタイト、パラゴナイト、レビトライト、マーガライト、バーミキュライト類等の雲母(マイカ)及びその変質鉱物が挙げられる。
【0044】
層状珪酸塩の平均粒径は、粒径の小さなものは2~20μmが望ましく、粒径の大きなものは10μm以上が望ましい。層状珪酸塩は、平均粒径が2μm以下である場合、添加量に比して粘度が増大するため、十分な絶縁性を得ようとすると、樹脂の注入が困難になるおそれがある。本発明の樹脂組成物における層状珪酸塩の含有量は、0.1~40質量%であり、好ましくは0.5~20質量%である。0.1質量%未満の場合、十分な絶縁破壊強度増大の効果が得られず、40質量%を超過する場合、硬化前の樹脂の粘度が著しく増大し、注入及び成形が困難となるおそれがある。
【0045】
エポキシ樹脂組成物においては、エポキシ樹脂、酸無水物、層状珪酸塩、アミンの他に、硬化促進剤を配合することができる。硬化促進剤としては、例えば、2-エチル4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-エチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、アミン化合物、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)等があるが、特に限定されるものではない。
【0046】
また、本発明の絶縁材は、コイルを有する電気機器の絶縁にも用いることができ、例えば、モータのコイルに含浸させることで絶縁性を向上させることができる。
【0047】
<絶縁材の製造方法>
絶縁材である樹脂組成物の調製方法に特に限定はなく、通常の方法が適用される。例えば、主にエポキシ樹脂を含む主剤は、エポキシ樹脂、層状珪酸塩、無機充填材及びその他の添加剤等を配合して、これらをDCモータ、らいかい機、ディスパーザー、自公転ミキサ等の装置で撹拌混合することで調製することができる。主に酸無水物を含む硬化剤についても同様に、エポキシ樹脂用硬化剤としての酸無水物、無機充填材及びその他添加剤等を撹拌混合することで調製することができる。撹拌混合は、エポキシ樹脂に添加した材料を十分に分散することができれば特に限定されるものではない。
【0048】
樹脂組成物調製工程においては、エポキシ樹脂、酸無水物、無機質充填材、その他の添加剤等を、真空脱泡しながら撹拌混合することが好ましい。
【0049】
<点火コイルの製造方法>
本発明に係る点火コイルの製造方法は、絶縁材である樹脂組成物調製工程と、樹脂組成物を硬化する硬化処理工程と、を含む。樹脂組成物調製工程は前述しているため、硬化処理工程について述べる。
【0050】
硬化処理工程は、樹脂組成物をコイルケースに注入した後、加熱する工程である。本発明に係る樹脂組成物は、加熱することにより硬化できる。硬化処理工程は、あらかじめ加熱したコイルケースに樹脂組成物を注入した後、加熱してもよい。硬化温度は、アルキル基の熱運動の点から140℃以上とするのが好ましく、180℃以上とするのが更に好ましいが、コイルケース等の耐熱温度がそれ以下であれば必ずしもその限りではない。
【0051】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
各実施例においては、具体的な点火コイルの製造方法を説明する。なお、ここでは、エポキシ当量を「エポキシ樹脂の分子量をエポキシ基の数で除した値」と定義し、酸無水物当量を「酸無水物の分子量を酸無水物基の数で除した値」と定義する。
【実施例1】
【0053】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828、三菱化学(株)製、エポキシ当量184~194g/eq)100質量部に、マイカ(SB-061R、ヤマグチマイカ(株)製)15質量部と、シリカ(XJ-7、龍森(株)製)120質量部とを添加した後、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸(MHAC-P、日立化成(株)製、酸無水物当量178g/eq)を等量比70質量部添加し、更に硬化促進剤(2E4MZ、四国化成(株)製)0.5質量部を添加した。その後、撹拌混合及び真空脱泡を行うことで、樹脂組成物の調製を行った。実施例1では、等量比は約0.7である。
【0054】
この樹脂組成物を予め60℃に加熱したコイルケース内に注入し、真空脱泡を行った後、140℃で5時間硬化処理を行うことで点火コイルを得た。
【実施例2】
【0055】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828、三菱化学(株)製、エポキシ当量184~194g/eq)100質量部に、マイカ(ミクロマイカKM、コープケミカル(株)製)15質量部と、シリカ(XJ-7、龍森(株)製)120質量部とを添加した後、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸(MHAC-P、日立化成(株)製、酸無水物当量178g/eq)を80質量部添加し、更に硬化促進剤(2E4MZ、四国化成(株)製)0.5質量部を添加した。その後、撹拌混合及び真空脱泡を行うことで、樹脂組成物の調製を行った。実施例2では、等量比は約0.8である。
【0056】
この樹脂組成物を予め60℃に加熱したコイルケース内に注入し、真空脱泡を行った後、140℃で5時間硬化処理を行うことで点火コイルを得た。
【実施例3】
【0057】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828、三菱化学(株)製、エポキシ当量184~194g/eq)100質量部に、マイカ(SB-061R、ヤマグチマイカ(株)製)15質量部と、シリカ(XJ-7、龍森(株)製)120質量部とを添加した後、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸(MHAC-P、日立化成(株)製、酸無水物当量178g/eq)を50質量部添加し、更に硬化促進剤(2E4MZ、四国化成(株)製)0.5質量部を添加した。その後、撹拌混合及び真空脱泡を行うことで、樹脂組成物の調製を行った。実施例3では、等量比は約0.5である。
【0058】
この樹脂組成物を予め60℃に加熱したコイルケース内に注入し、真空脱泡を行った後、140℃で5時間硬化処理を行うことで点火コイルを得た。
【0059】
(比較例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828、三菱化学(株)製、エポキシ当量184~194g/eq)100質量部に、マイカ(SB-061R、ヤマグチマイカ(株)製)15質量部と、シリカ(XJ-7、龍森(株)製)120質量部とを添加した後、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸(MHAC-P、日立化成(株)製、酸無水物当量178g/eq)を100質量部添加し、更に硬化促進剤(2E4MZ、四国化成(株)製)0.5質量部を添加した。その後、撹拌混合及び真空脱泡を行うことで、樹脂組成物の調製を行った。比較例1では、等量比は約1.0である。
【0060】
この樹脂組成物を予め60℃に加熱したコイルケース内に注入し、真空脱泡を行った後、140℃で5時間硬化処理を行うことで点火コイルを得た。
【0061】
(比較例2)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828、三菱化学(株)製、エポキシ当量184~194g/eq)100質量部に、マイカ(SB-061R、ヤマグチマイカ(株)製)15質量部と、シリカ(XJ-7、龍森(株)製)120質量部とを添加した後、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸(MHAC-P、日立化成(株)製、酸無水物当量178g/eq)を90質量部添加し、更に硬化促進剤(2E4MZ、四国化成(株)製)0.5質量部を添加した。その後、撹拌混合及び真空脱泡を行うことで、樹脂組成物の調製を行った。比較例2では、等量比は約0.9である。
【0062】
この樹脂組成物を予め60℃に加熱したコイルケース内に注入し、真空脱泡を行った後、140℃で5時間硬化処理を行うことで点火コイルを得た。
【0063】
<電圧耐久評価試験>
実施例1~3及び比較例1、2で作製した点火コイルについて、40kVでの電圧耐久評価試験を行った。点火コイルに12Vを連続的に印加し、絶縁破壊するまでの点火回数を測定した。
【0064】
表1は、電圧耐久評価試験の結果を示したものである。
【0065】
【表1】
【0066】
表1より、酸無水物の添加量を、等量比0.5~0.8としたエポキシ樹脂組成物を硬化させることにより形成された絶縁材料を用いることにより、絶縁破壊時間が長くなることが分かる。
【0067】
図4は、表1に示す結果をグラフにまとめたものであり、点火コイルの絶縁性能と、等量比との関係を示したものである。横軸には、等量比をとり、縦軸には、点火コイルの絶縁性能である、絶縁破壊が生じるまでの点火回数をとっている。
【0068】
本図に示すように、等量比が0.5~0.8の範囲では、点火回数が1011を超えている。これに対して、等量比が0.9以上では、点火回数が1010未満となっている。等量比が0.8の場合と0.9の場合との間で、点火回数が急激に減少することがわかる。これは、等量比が0.8を超えると、未反応の酸無水物が多くなり、電気トリーが進展しやすくなるためと考えられる。
【符号の説明】
【0069】
1:内燃機関用点火コイル、2:一次ボビン、3:一次コイル、4:二次ボビン、5:二次コイル、6A:中心鉄心部、6B:側面鉄心部、7:コイルケース、8:端子、9:高圧端子、10:絶縁部、12:層状珪酸塩、13:エポキシ樹脂硬化物、14:二次電線、15:電気トリー、16:無機フィラ。
図1
図2
図3
図4