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特許6995064適応型サージ防止制御システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】適応型サージ防止制御システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 27/02 20060101AFI20220106BHJP
   F04D 31/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
F04D27/02 A
F04D31/00
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2018567580
(86)(22)【出願日】2017-07-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2017066978
(87)【国際公開番号】W WO2018007544
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】102016000070842
(32)【優先日】2016-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】517029381
【氏名又は名称】ヌオーヴォ・ピニォーネ・テクノロジー・ソチエタ・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】Nuovo Pignone Tecnologie S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】特許業務法人坂本国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】ペレラ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ガリネッリ,ロレンツォ
(72)【発明者】
【氏名】カシッチ,アレッシオ
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/007553(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02325494(EP,A1)
【文献】特表2003-504563(JP,A)
【文献】特開2010-281314(JP,A)
【文献】米国特許第5508943(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 27/02
F04D 31/00
F04D 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入側(9)と吐出側(11)とを有する圧縮機(3)によって処理される多相ガスの液体体積分率を割り出す方法であって、
a)第1の圧縮機動作パラメータを測定するステップと、
b)前記圧縮機(3)によって処理されるガスの仮の液体体積分率を選択するステップと、
c)前記仮の液体体積分率における圧縮機動作曲線を表す記憶済みのデータに基づき、前記第1の圧縮機動作パラメータの関数としての第2の圧縮機動作パラメータの推定値を割り出すステップと、
d)前記第2の圧縮機動作パラメータの実際の値を測定するステップと、
e)前記第2の圧縮機動作パラメータの前記実際の値を前記第2の圧縮機動作パラメータの前記推定値と比較し、該比較から誤差を割り出すステップと、
f)前記誤差に基づき、誤差しきい値以下の誤差値が得られるまで、別の仮の液体体積分率を選択し、ステップ(c)~(e)を繰り返すステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記第1の圧縮機動作パラメータは、圧縮比に関連したパラメータまたは前記圧縮機(3)の駆動動力に関連したパラメータのうちの一方である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の圧縮機動作パラメータは、前記圧縮機(3)の駆動動力に関連したパラメータまたは圧縮比に関連したパラメータのうちの一方である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の圧縮機動作パラメータの推定値を割り出すステップは、
前記仮の液体体積分率における前記圧縮機動作曲線を表す記憶済みのデータに基づき、第3の圧縮機動作パラメータの推定値を割り出すステップと、
前記仮の液体体積分率におけるさらなる圧縮機動作曲線を表す記憶済みのデータに基づき、さらに前記第3の圧縮機動作パラメータの前記推定値に基づいて、前記第2の圧縮機動作パラメータの前記推定値を割り出すステップと
をさらに含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の圧縮機動作パラメータは、圧縮比に関連したパラメータであり、前記第2の圧縮機動作パラメータは、前記圧縮機(3)の駆動動力に関連したパラメータであり、前記第3の圧縮機動作パラメータは、流量関連パラメータである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記さらなる圧縮機動作曲線は、前記圧縮比に関連したパラメータを流量関連パラメータの関数として表現し、あるいは流量関連パラメータを前記圧縮比に関連したパラメータの関数として表現する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記流量関連パラメータは、質量流量および補正後質量流量の一方である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記圧縮機(3)の駆動動力に関連したパラメータは、前記圧縮機(3)の駆動動力および補正後動力の一方である、請求項2,3及び5乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ガスの化学的パラメータの関数として、前記圧縮機動作曲線を選択するステップをさらに含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記圧縮機動作曲線が前記ガスの平均分子量の関数として選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記圧縮機(3)の回転速度または前記圧縮機(3)の補正回転速度の関数として、前記圧縮機動作曲線を選択するステップをさらに含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記圧縮機(3)の前記吸入側(9)に湿性ガスが存在するか、あるいは乾燥ガスが存在するかを判断するための予備ルーチンを実行するステップをさらに含む、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記圧縮機(3)によって処理される前記ガスの仮の液体体積分率を選択するステップは、ゼロに等しい液体体積分率を選択するステップを含む、請求項1乃至12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記圧縮機(3)によって処理される前記ガスの仮の液体体積分率を選択するステップは、前記圧縮機(3)の前記吸入側(9)および前記吐出側(11)における温度および圧力の測定値、ならびに前記ガスの化学的パラメータについての情報に基づき、前記仮の液体体積分率を熱力学的に推定するステップを含む、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記仮の液体体積分率は、前記圧縮機(3)の前記吸入側(9)および前記吐出側(11)における温度および圧力の測定値、ならびに前記ガスの平均分子量に基づき熱力学的に推定される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記誤差値が前記誤差しきい値以下であるときの前記仮の液体体積分率である推定液体体積分率に基づいてサージ制御線を選択するステップをさらに含む、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
ドライバ(5)と、
前記ドライバ(5)に駆動可能に結合し、サージ防止ライン(13)と、前記サージ防止ライン(13)に沿って配置されたサージ防止制御弁(15)とを含むサージ防止機構を備える圧縮機(3)と、
前記サージ防止制御弁(15)に機能的に結合した制御ユニット(17)と
を備えており、
前記制御ユニット(17)は、請求項1乃至1のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成および制御される、システム(1)。
【請求項18】
湿性ガス圧縮機(3)を運転する方法であって、
圧縮機(3)を動作させ、該圧縮機(3)によってガスを処理するステップと、
前記圧縮機(3)の吸入側(9)における前記ガスの液体体積分率を割り出すステップと、
種々の液体体積分率における前記湿性ガス圧縮機(3)の動作曲線群およびサージ制御線のうち、前記割り出された液体体積分率に対応する前記動作曲線群およびそれぞれのサージ制御線を選択するステップと、
を含む、方法。
【請求項19】
湿性ガス圧縮機(3)を運転する方法であって、
圧縮機(3)を動作させ、該圧縮機(3)によってガスを処理するステップと、
前記圧縮機(3)の吸入側(9)における前記ガスの液体体積分率を割り出すステップと、
前記液体体積分率の関数としてサージ制御線を選択するステップと
を含み、
前記ガスの前記液体体積分率を割り出すステップは、前記圧縮機(3)の動作パラメータの測定値に基づいて前記液体体積分率を推定することを含む、方法。
【請求項20】
前記圧縮機(3)の前記吸入側(9)における前記液体体積分率を割り出すステップは、前記圧縮機(3)の運転中に繰り返し実行される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記ガスの前記液体体積分率を割り出すステップは、前記圧縮機(3)の動作パラメータの測定値に基づいて前記液体体積分率を推定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記動作パラメータは、前記圧縮機(3)における圧縮比に関連したパラメータおよび前記圧縮機(3)を駆動するための動力に関連したパラメータを含む、請求項19または21に記載の方法。
【請求項23】
前記ガスの前記液体体積分率を割り出す前記ステップは、多相流量計(29)において液体の量を検出するステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記ガスの平均分子量を割り出し、該平均分子量のさらなる関数として前記サージ制御線を選択するステップをさらに含む、請求項18乃至23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記圧縮機(3)の回転速度を割り出し、該圧縮機(3)の回転速度に関連したパラメータのさらなる関数として前記サージ制御線を選択するステップをさらに含む、請求項18乃至24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
吸入側(9)と吐出側(11)とを有する湿性ガス圧縮機(3)と、
前記圧縮機(3)の前記吸入側(9)および前記吐出側(11)に連通したサージ防止制御ライン(13)と、前記サージ防止制御ライン(13)に沿って配置されたサージ防止制御弁(15)とを備えたサージ防止機構と、
前記サージ防止制御ライン(13)に機能的に接続され、前記圧縮機(3)の前記吸入側(9)におけるガスの液体体積分率を割り出し、種々の液体体積分率における前記圧縮機(3)の動作曲線群およびサージ制御線のうち、前記割り出された液体体積分率に対応する前記動作曲線群およびそれぞれのサージ制御線を選択し、該選択されたサージ制御線を超えて前記圧縮機(3)が動作することがないように前記サージ防止制御弁(15)を操作するように構成および配置された制御ユニット(17)と
を備える圧縮機システム(1)。
【請求項27】
吸入側(9)と吐出側(11)とを有する湿性ガス圧縮機(3)と、
前記圧縮機(3)の前記吸入側(9)および前記吐出側(11)に連通したサージ防止制御ライン(13)と、前記サージ防止制御ライン(13)に沿って配置されたサージ防止制御弁(15)とを備えたサージ防止機構と、
前記サージ防止制御ライン(13)に機能的に接続され、前記圧縮機(3)の前記吸入側(9)におけるガスの液体体積分率を割り出し、該液体体積分率の関数としてサージ制御線を選択し、該選択されたサージ制御線を超えて前記圧縮機(3)が動作することがないように前記サージ防止制御弁(15)を操作するように構成および配置された制御ユニット(17)と、
を備え、
前記ガスの前記液体体積分率は、前記圧縮機(3)の動作パラメータの測定値に基づいて推定される、圧縮機システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機の制御の方法およびシステムに関する。本明細書に開示される実施形態は、具体的には、例えば重質炭化水素、水などの液相を含む可能性があるガスを処理する湿性(wet)圧縮機、とくには遠心湿性圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機は、いわゆる湿性ガス、すなわち或る程度の割合の液相を含む可能性がある気体を、処理するように設計されている。海中井などの井戸から採取されたガスが液体炭化水素相または水を含む可能性がある湿性ガス処理が、石油およびガス産業において、多くの場合に必要とされる。いくつかの理由で、圧縮機によって処理されるガスの液体体積分率(略して、LVF)、すなわち流体流中の液体の体積百分率を知ることが、有用である。しかしながら、通常は、圧縮機の吸入側におけるガス流中の液体体積分率は、知られていない。液体体積分率を測定することができる流量計は、煩雑かつ高価であり、極限の環境条件における特定の用途には適さない可能性がある。
【0003】
したがって、圧縮機を通って流れるガスの液体体積分率を高い信頼性で効率的に推定する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/007553(A1)号
【発明の概要】
【0005】
第1の態様によれば、吸入側と吐出側とを有する圧縮機によって処理される多相ガスの液体体積分率を割り出す方法が開示される。この方法は、以下のステップ、すなわち
a)第1の圧縮機動作パラメータを測定するステップ、
b)圧縮機によって処理されるガスの仮の液体体積分率を選択するステップ、
c)仮の液体体積分率における圧縮機動作曲線を表す記憶済みのデータに基づき、第1の圧縮機動作パラメータの関数として第2の圧縮機動作パラメータの推定値を割り出すステップ、
d)第2の圧縮機動作パラメータの実際の値を測定するステップ、
e)第2の圧縮機動作パラメータの実際の値を第2の圧縮機動作パラメータの推定値と比較し、この比較から誤差を割り出すステップ、および
f)誤差に基づき、誤差しきい値以下の誤差値が得られるまで、別の仮の液体体積分率を選択し、ステップ(c)~(e)を繰り返すステップ
を含むことができる。
【0006】
このようにして、圧縮機によって処理されるガスに含まれる液体体積分率LVFを、直接測定を必要とせずに推定することができる。上記計算によって割り出されたLVFを、例えば圧縮機のサージ防止制御を調整するために使用することができる。サージ防止制御線を、湿性ガスの液体含有量に基づいて、最適なサージ防止動作となるように選択することができる。
【0007】
第1の圧縮機動作パラメータは、圧縮比または圧縮比に関連したパラメータであってよい。他の実施形態において、第1の圧縮機動作パラメータは、例えば補正後動力など、圧縮機の駆動動力に関連したパラメータであってよい。補正後動力の定義は、後に提示され、本明細書に開示される主題の典型的な実施形態が参照される。
【0008】
いくつかの実施形態において、第2の圧縮機動作パラメータは、例えば補正後動力など、圧縮機の駆動動力に関連したパラメータであってよい。他の実施形態において、第2の圧縮機動作パラメータは、圧縮比または圧縮比に関連したパラメータであってよい。
【0009】
いくつかの実施形態において、第2の圧縮機動作パラメータの推定値を割り出すステップは、
仮の液体体積分率における圧縮機動作曲線を表す記憶済みのデータに基づき、第3の圧縮機動作パラメータの推定値を割り出すステップと、
仮の液体体積分率におけるさらなる圧縮機動作曲線を表す記憶済みのデータに基づき、さらに第3の圧縮機動作パラメータの推定値に基づいて、第2の圧縮機動作パラメータの推定値を割り出すステップと
をさらに含む。
【0010】
さらなる態様によれば、
ドライバと、
ドライバに駆動可能に結合し、サージ防止ラインと、サージ防止ラインに沿って配置されたサージ防止制御弁とを含むサージ防止機構を備える圧縮機と、
サージ防止弁に機能的に結合した制御ユニットと
を備えており、
制御ユニットは、上記開示のとおりの方法を実行するように構成および制御されるシステムが、本明細書において開示される。
【0011】
別の態様によれば、湿性ガス圧縮機を運転する方法であって、
圧縮機を動作させ、圧縮機によってガスを処理するステップと、
圧縮機の吸入側におけるガスの液体体積分率を割り出すステップと、
液体体積分率の関数としてサージ制御線を選択するステップと
を含む方法が、本明細書において開示される。
【0012】
この方法は、
種々の液体体積分率における湿性ガス圧縮機の動作曲線群およびサージ制御線を用意するステップと、
割り出された液体体積分率に対応する動作曲線群およびそれぞれのサージ制御線を選択するステップと
をさらに含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態によれば、圧縮機の吸入側における液体体積分率を割り出すステップを、圧縮機の運転中に、例えば一定の時間間隔または変化可能な時間間隔で、繰り返し実行することができる。
【0014】
ガスの液体体積分率を割り出すステップは、多相流量計において液体の量を検出するステップ、または液体の量、すなわち液体体積分率を、圧縮機の動作パラメータに基づいて反復法によって推定するステップを含むことができる。
【0015】
さらなる実施形態によれば、
吸入側と吐出側とを有する湿性ガス圧縮機と、
圧縮機の吸入側および吐出側に連通したサージ防止ラインを備えており、その位置に沿ってサージ防止制御弁を含んでいるサージ防止機構と、
サージ防止制御ラインに機能的に接続され、圧縮機の吸入側におけるガスの液体体積分率を割り出し、液体体積分率の関数としてサージ制御線を選択し、選択されたサージ制御線を超えて圧縮機が動作することがないようにサージ防止制御弁を操作するように構成および配置された制御ユニットと
を備える圧縮機システムが、本明細書において開示される。
【0016】
特徴および実施形態が、本明細書において以下で開示され、本明細書の一体の一部分を形成する添付の特許請求の範囲にさらに記載される。以上の簡単な説明は、以下の詳細な説明をよりよく理解できるようにするため、および本発明の技術的貢献をよりよく理解できるようにするために、本発明の種々の実施形態の特徴を記載している。当然ながら、以下で説明され、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の他の特徴も存在する。この点で、本発明のいくつかの実施形態を詳細に説明する前に、本発明の種々の実施形態が、それらの応用において、以下の説明において述べられ、あるいは図面に示される構成の詳細および構成要素の配置に限定されないことを、理解すべきである。本発明は、他の実施形態も可能であり、さまざまな方法で実施および実行することが可能である。また、本明細書において用いられる表現および用語が、説明を目的とするものであり、限定とみなされてはならないことを、理解すべきである。
【0017】
したがって、本開示の根底にある考え方を、本発明のいくつかの目的を実行するための他の構造、方法、および/またはシステムを設計するための基礎として容易に利用できることを、当業者であれば理解できるであろう。したがって、特許請求の範囲を、本発明の趣旨および範囲から逸脱しない限りにおいて、そのような等価な構成を含むと考えることが重要である。
【0018】
開示される本発明の実施形態およびそれらに付随する多くの利点のさらに完全な認識が、それらが以下の詳細な説明を参照し、添付の図面と併せて検討することによってよりよく理解されるときに、容易に得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示によるシステムの概略図を示している。
図2】種々の液体体積分率における遠心圧縮機の流量対圧縮比図中のいくつかのサージ限界線を示す図を示している。
図3A】種々の液体体積分率における遠心圧縮機の動作曲線図を示している。
図3B】種々の液体体積分率における遠心圧縮機の動作曲線図を示している。
図4】本開示による方法の実施形態のフロー図を示している。
図5】本開示による方法の実施形態のフロー図を示している。
図6】本開示による方法の実施形態のフロー図を示している。
図7】予備ルーチンのフロー図を示している。
図8】予備ルーチンのフロー図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
典型的な実施形態についての以下の詳細な説明は、添付の図面を参照する。別々の図面における同じ参照番号は、同一または類似の要素を表す。さらに、図面は、必ずしも縮尺どおりに描かれていない。また、以下の詳細な説明は、本発明を限定するものではない。代わりに、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定められる。
【0021】
本明細書の全体を通して、「一実施形態」、「実施形態」、または「いくつかの実施形態」への言及は、或る実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、開示される主題の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の全体のさまざまな場所において「一実施形態において」、「実施形態において」、または「いくつかの実施形態において」という表現が現れたとき、それは必ずしも同じ実施形態を指すものではない。さらに、特定の特徴、構造、または特性は、1つ以上の実施形態において任意の適切なやり方で組み合わせられてよい。
【0022】
以下の典型的な実施形態の説明において、液体分率体積(略して、LFV)を推定し、遠心圧縮機のサージ防止制御アルゴリズムを操作するために利用する方法およびシステムを説明する。より具体的には、LVFは、サージ防止アルゴリズムにおいて使用されるサージ制御線を最適化するために使用される。しかしながら、開示されるLVF推定のための方法およびシステムは、湿性ガス中の液体体積分率の測定が所望され、あるいは有用である限りにおいて、他の目的にも使用可能であることを理解されたい。
【0023】
図1は、圧縮機システム1を概略的に示している。圧縮機システム1は、例えば、海中ガス井からのガスを送るための海中圧縮機システムであってよい。圧縮機システム1は、圧縮機3と、圧縮機3を駆動して回転させるドライバ5とを備える。とりわけ海中の用途において、ドライバ5は、電気モータであってよい。他の実施形態においては、ガスタービンエンジンまたは蒸気タービン、あるいは有機ランキンサイクルの膨張機など、他のドライバを使用してもよい。
【0024】
ドライバ5は、駆動軸7によって圧縮機3に駆動可能に結合する。圧縮機3は、遠心多段圧縮機であってよい。圧縮機3およびドライバ5を、単一のケーシング(図示せず)に一体化させ、モータ圧縮機ユニットを形成することができる。
【0025】
圧縮機3は、吸入側9および吐出側11を有する。吸入側9は、吸入温度Tsおよび吸入圧力Psでガスを受け入れる。ガスの圧力は、圧縮機3によって高められ、吐出圧力Pdおよび吐出温度Tdのガスが、圧縮機吐出側11にもたらされる。
【0026】
圧縮機3は、サージ防止機構を備えることができる。いくつかの実施形態において、サージ防止機構は、サージ防止制御弁がその位置に沿って配置されたサージ防止ラインを備え、サージ防止ラインは、圧縮機3の吐出側11を圧縮機3の吸入側9に連通させる。図1の概略図によれば、サージ防止ライン13は、圧縮機3に対する反平行配置にて設けられている。サージ防止ライン13は、圧縮機3の吐出側11に結合した入口と、圧縮機3の吸入側9に結合した出口とを有する。サージ防止制御弁15が、サージ防止ライン13に沿って配置されている。冷却器16を、サージ防止ライン13に沿って設けることもできる。他の実施形態において、冷却器は、圧縮機の吐出部において、サージ防止ラインの分岐の上流に配置される。またさらなる実施形態においては、冷却器を、圧縮機の吸入部において、サージ防止ラインの接続部の下流に配置することができる。
【0027】
サージ防止制御弁15は、2相弁、すなわち気体および液体を含む2相流を操作することができる弁であってよい。
【0028】
システム1は、中央制御ユニット17と、システム1のさまざまな動作パラメータを測定するための手段とをさらに備えることができる。いくつかの実施形態においては、圧力トランスデューサ21および温度トランスデューサ23を配置し、吸入圧力Psおよび吸入温度Tsを測定するように構成することができる。さらに、圧力トランスデューサ25および温度トランスデューサ27を設け、吐出圧力Pdおよび吐出温度Tdを測定することもできる。図1の典型的な実施形態においては、流量計29が、圧縮機の吐出側における体積流量QVDを測定するように配置される。31で概略的に示される動力トランスデューサを使用して、圧縮機の駆動動力、すなわち圧縮機3を駆動するために必要な動力を、測定することができる。いくつかの実施形態においては、圧縮機を駆動するために必要な動力を、トルクおよび回転速度を検出することによって測定することができる。他の実施形態によれば、ドライバが発生させる実際の動力を計算することができる。圧縮機ドライバがガスタービンまたは蒸気タービンである場合、タービンの熱力学的な動作パラメータを使用して、動力を計算することができる。圧縮機ドライバが電気モータである場合、例えば電力計など、ドライバが必要とする電力を測定するトランスデューサを使用することができる。
【0029】
トランスデューサ23~31は、中央制御ユニット17に機能的に接続される。この後者は、動作曲線、すなわち圧縮機3の性能特性を表すデータを記憶するメモリリソース33を、さらに備えることができる。本開示の方法を行うために有用な考えられるいくつかの動作曲線が、本明細書において後述される。曲線のデータを、例えば表または行列の形態で記憶することができる。他の実施形態においては、動作曲線の値を計算するために、関数またはアルゴリズムを記憶することができる。
【0030】
圧縮機3の動作状態は、サージ現象を防止するために注意深く制御されなければならない。これらは、圧縮機が低流量かつ高圧縮比の設計外の条件で運転された場合に発生する。サージは、機械全体に影響し、空気力学的および機械的に望ましくない。振動を引き起こし、逆流につながり、圧縮機および圧縮機のドライバに重大な損傷を与え、サイクル動作全体に悪影響を及ぼす可能性がある。サージを防止するために、圧縮機は、圧縮比対補正後流量図で定義されるサージ限界線から離れた位置にとどまるように制御される。サージ回避線としても知られるサージ制御線が、通常は、サージ限界線から離して設定され、圧縮機は、その動作点がサージ制御線によって境界付けられる動作エンベロープの内側にとどまるように制御される。圧縮機の動作点がサージ制御線に近づくと、サージ防止制御弁15が開かれ、圧縮機吐出側11から圧縮機吸入側9へとガスが戻される。したがって、圧縮比対流量図における圧縮機動作点が、サージ制御線から遠ざけられ、安全な動作領域に戻される。
【0031】
サージ防止ライン13を介してガスを再循環させることで、動力を消費する圧縮プロセスにおいて圧縮されたガスの一部が、吸入圧力で圧縮機の吸入側へと戻されるため、動力の損失が生じる。再循環のガス流の圧縮に費やされた該当の動力が無駄になる。
【0032】
サージ現象を防止しつつ、圧縮されたガスの不必要に大量の再循環を避けるために、サージ制御線の注意深い設定および圧縮機の注意深い制御が望ましい。
【0033】
圧縮機3の吸入側9において圧縮機3に進入するプロセスガスは、乾燥状態であってよく、すなわち液体体積分率がゼロである状態(LVF=0)であってよい。しかしながら、いくつかの動作条件においては、プロセスガスが、かなりの量の液相を含む可能性がある。液体体積分率LVFが、例えば、約0%~約3%になる可能性があり、これは約0%~30%の液体質量分率(LMF)に相当し得る。この上限は、あくまでも例として示されているにすぎず、限定の値として解釈されるべきではないことに、注意すべきである。
【0034】
圧縮の際に、ガスの温度が上昇し、液体体積分率が低下する可能性があり、ゼロになることさえある。しかしながら、いくつかの動作条件においては、圧縮機3の吐出側11のガス流にも液体が存在する可能性がある。
【0035】
湿性ガスを処理する場合、圧縮比対流量図におけるサージ限界線は、液体体積分率LVFが大きくなるにつれて、右方から左方へと移動することに留意されたい。図2が、例えば、圧縮比対体積流量図における種々のLVF値についての一群のサージ限界線(SLL)を示している。圧縮比が、縦軸にプロットされ、圧縮機の入口における体積流量が、横軸にプロットされている。SLL(0%)と標記された右から1つめの曲線は、乾燥ガス、すなわち液体体積分率LVF=0%についてのサージ限界線である。SSL(3%)と標記された左から1つめの線は、3%の液体体積分率(すなわち、LVF=3%)での同じガスのサージ限界線である。図2から理解できるとおり、乾燥ガスよりもむしろ湿性ガスが処理されるならば、圧縮機の有用な動作エンベロープは増大し得る。また、LVF値が増加するにつれて、サージ制御線は右方から左方へと移動する。
【0036】
したがって、ガス流中に存在する液体の量、すなわちLVFを、合理的な近似の程度にて割り出すことが有用であると考えられ、なぜならば、実際のLVF値に基づいて、ガスの再循環を減らすことができるように、サージ制御線を圧縮比対流量図の縦軸に向かって移動させることができるからである。
【0037】
いくつかの状況において、圧縮機の入口9を通って流れるガス中に含まれる液体体積分率(LVF)の量は、測定が困難である可能性があり、そのような測定に高価かつ複雑な手段が必要となる可能性がある。いくつかの状況においては、LVFの直接測定が実行不能または不適切である可能性がある。LVFの直接測定の代替として、反復法を使用して、圧縮機3の測定容易な動作パラメータから出発して、実際の液体体積分率の充分に正確な推定をもたらすことができる。
【0038】
次に、この方法の一実施形態を、図3A図3Bおよび図4を参照して説明する。図3Aおよび図3Bが、圧縮機3の動作図を示している一方で、図4は、反復法の概略のフロー図を示している。
【0039】
より具体的には、図3Aは、圧縮機3の圧縮比対流量関連パラメータの特性曲線をプロットした図を示している。図3Aの曲線は、以下で定義される所与の補正後回転速度およびガスの所与の平均分子量について有効である。異なる回転速度および異なる平均ガス分子量について、異なる一群の曲線をプロットすることができる。より具体的には、流量関連パラメータは、質量流量関連パラメータであってよい。例えば、図3Aの横軸に示される流量関連パラメータは、補正後質量流量であってよい。補正後質量流量によって、
【0040】
【数1】
のように表される質量流量を理解することができ、
ここで
【0041】
【数2】
は、実際の質量流量であり、
inおよびPinは、それぞれ圧縮機の吸入側における温度および圧力であり、
inは、圧縮率因子または圧縮因子であり、
Rは、気体定数(モル気体定数、一般気体定数、または理想気体定数としても知られる)である。
【0042】
圧縮機の補正後回転速度を、
【0043】
【数3】
として表すことができ、
ここで、nは角速度であり、他のパラメータは上で定義されている。
【0044】
図3Aにおいて、圧縮比または圧力比PR=Pd/Psは縦軸に示され、補正後質量流量
【0045】
【数4】
は横軸に示されている。曲線C(LVD0)は、乾燥ガス、すなわちLVF=0%について、圧縮比を、補正後質量流量
【0046】
【数5】
の関数として示している。曲線C(LVF1)、C(LVFj)、C(LVFj+1)、C(LVFj+2)は、大きくなるLVF値、すなわち処理されるガスの液体含有量が多くなるときについて、圧縮比PRと補正後質量流量
【0047】
【数6】
との間の関係を示している。
【0048】
図3Bは、圧縮機3のさらなる動作曲線を示している。図3Bの各々の曲線は、異なるLVF値に対応する。図3Bの縦軸に、圧縮機3によって吸収される動力関連パラメータが、横軸に示される補正後質量流量
【0049】
【数7】
の関数として示されている。吸収される動力関連パラメータは、
【0050】
【数8】
(3)
のように定義される補正後動力であってよく、
ここで、Wは実際の動力であり、残りのパラメータは上で定義されている。
【0051】
いくつかの実施形態においては、実際に測定された圧力および温度の値を、圧力および温度のそれぞれの基準値に対して参照することによって、上記定義の補正後の値を無次元化することができる。
【0052】
曲線W(LVF0)は、乾燥ガス、すなわちLVF=0%に当てはまる。曲線W(LVF1)、・・・、W(LVFj)、W(LVFj+1)、W(LVFj+2)は、液体体積分率が大きくなるときの補正後動力の動作曲線であり、例えば補正後質量流量
【0053】
【数9】
などの流量関連パラメータの関数としてプロットされている。やはり、図3Bの曲線は、圧縮機によって処理されるガスの所与の平均分子量および圧縮機の所与の補正後回転速度(固定のマッハ数)における曲線である。
【0054】
曲線C(LVFj)およびW(LVFj)を、各々の補正後質量流量
【0055】
【数10】
圧縮比の値(PR=Pd/Ps)、および動力値(W)を関連付ける数値の表または行列の形態で表すことができる。上述したように、曲線は、圧縮機の回転速度およびガスの組成にさらに依存する。したがって、図3Aおよび図3Bにプロットされた曲線は、所与のマッハ数(これは同様に圧縮機の回転速度の関数である)および所与の平均ガス分子量についての曲線である。曲線は、例えば、実験、数値シミュレーション、またはこれらの組み合わせによって決定することができる。図3Aおよび図3Bに現れる曲線を表すデータまたは関数を、ストレージリソース33に記憶することができる。回転速度、ガスの組成、または両方が変化する場合に、動作特性曲線の正しい群を計算のために選択することができるように、圧縮機の複数の回転速度または補正後回転速度、あるいはマッハ数、ならびにガスの複数の平均分子量について、複数の曲線群を記憶することができる。
【0056】
図3Aの曲線SCL(0)は、乾燥ガス条件、すなわちLVF=0%における所与の圧縮機回転速度および所与のガス組成(平均分子量)についてのサージ制御曲線またはサージ制御線を表す。曲線SCL(LVF=x%)は、x%の液体体積分率(LVF=x%)を有する湿性ガスについての一般的なサージ制御曲線である。使用すべき正確なサージ制御曲線を、湿性ガスの実際の液体含有量の推定に基づいて決定することができる。圧縮機の入口9におけるガス流中の液体の量を、可能であれば、測定することができる。あるいは、直接のLVF測定に伴う固有の困難を回避するために、以下の反復プロセスを実行することによって、入口のガス流のLVFを推定することができる。
【0057】
図4のフロー図を参照すると、反復法の第1のステップは、液体体積分率について、ここではLVF(j)と示される仮の値を選択することからなる。仮のLVF(j)は、反復手順を開始させるために使用される。いくつかの現時点において好ましい実施形態において、第1の仮のLVF(j)は、
LVF(j)=0%j=0 (4)
のように選択され、
すなわち、入口ガスが乾燥状態にあると仮定される。
【0058】
実際の圧縮比PR=Pd/Psを、圧力トランスデューサ21,25を用いて圧縮機3の吐出圧力Pdおよび吸入圧力Psを測定することによって算出することができる。ひとたび実際の圧力比または圧縮比PRが決定されると、例えば推定補正後質量流量
【0059】
【数11】
などの推定による流量関連パラメータを、図3Aの曲線C(LVF0)を用いて算出することができる。
【0060】
推定補正後質量流量
【0061】
【数12】
に基づき、圧縮機の駆動に必要な推定補正後動力Wjを、図3Bの曲線W(LVF0)を使用して決定することができる。圧縮機3の駆動に必要な実際の補正後動力Wは、動力トランスデューサ31からのデータによって測定可能である。推定補正後動力値Wjと実際の補正後動力値Wとが比較され、動力誤差Eが、
=(W-Wj) (5)
のように算出される。
【0062】
圧縮機3によって処理されるガスが、実際にほぼ乾燥している(すなわち、おおむねLVF=0%である)場合、誤差Eはほぼゼロである。例えば誤差しきい値EW0によって定められるゼロの周囲の所与の許容範囲の外側の誤差Eは、最初に仮定したLVFの値(この例では、LVF(j)=0、すなわち乾燥ガス状態)が誤りであり、次の反復ステップ(j+1)においてLVF(j+1)について新しい値を使用しなければならないことを示している。
【0063】
適切な増分値を選択することができ、例えば各々の後続のLVF(j)値を、前回の値から或る量ΔLVF=0.01%だけ増加させることができ、これは、j番目の反復ステップの各々において、仮のLVF値LVF(j)が
LVF(j+1)=LVF(j)+ΔLVF (6)
と設定されることを意味する。
【0064】
次いで、反復ループの上述の一連のステップが、新たに設定された液体体積分率の仮の値LVF(j)で繰り返される。LVF=LVF(j)についてのC(LVFj)曲線が、図3Aの図において選択される。測定された圧縮比(Pd/Ps)および設定されたLVF値についての曲線C(LVFj)に基づいて、例えば補正後質量流量
【0065】
【数13】
などの新たな推定による流量関連パラメータが、図3Aの図から決定され、図3Bの図において使用される。新たな
【0066】
【数14】
値および新たに設定された仮の値LVF(j)についての動力曲線W(LVFj)に基づいて、推定による動力関連値W(j)が算出され、動力トランスデューサ31によって測定された動力に基づいて計算された実際の動力関連値Wと比較される。新たな誤差
=W-W(j) (7)
が計算され、しきい値EW0と比較される。
【0067】
このような反復プロセスは、推定による動力関連パラメータについての誤差Eが、誤差しきい値EW0以下である場合に終了する。反復プロセスが収束した仮の値LVF(j)が、現在の動作条件(現在の圧縮機の速度およびガスの組成)における推定液体体積分率である。
【0068】
このように決定されたLVF(j)の値を、最適なSCLを選択するために使用することができる。他の実施形態によれば、SCLを、誤差Eが最小化されたときだけでなく、各々の反復ループにおいて選択することができる。
【0069】
上述の反復法においては、2組の動作曲線、すなわち圧縮比(PR=Pd/Ps)を流量関連パラメータ
【0070】
【数15】
の関数として表す曲線(図3A)および動力関連パラメータ(W)を流量関連パラメータ
【0071】
【数16】
の関数として表す曲線(図3B)が使用されている。これら2つの動作曲線群を、圧縮機の駆動に必要な動力関連パラメータ(例えば、上記定義の補正後動力)と圧縮比(PR=Pd/Ps)との間の関係を表す1組の動作曲線PR(W)へと融合させることが可能である。各々の曲線が、所与のLVF値に対応する。これらの曲線が利用可能である場合、上述の反復計算を、図5のフロー図に概略的に示されるように簡単化することができる。
【0072】
この場合にも、この方法を、仮の液体体積分率の値LVF=0%を設定し、乾燥ガス動作条件に対応するPR(W)曲線を選択することによって開始させることができる。測定された実際の圧縮比PR=(Pd/Ps)に基づいて、推定による動力関連パラメータWjを、LVF=0%に対応するPR(W)曲線を使用して計算することができる。次いで、推定による動力関連値Wjが、動力トランスデューサ31を使用して測定される実際の動力関連値Wと比較される。次いで、動力の誤差Eが、
=W-Wj (8)
と計算される。
【0073】
誤差Eは、しきい値EW0と比較され、誤差が許容誤差しきい値EW0よりも大きい場合、次の反復ステップが、新たな仮の液体体積分率値
LVF(j+1)=LVF(j)+ΔLVF (9)
を設定することによって実行される。
【0074】
各々の一般的なj番目の反復ステップにおいて、仮の値LVF(j)が、設定された仮のLVF(j)値に対応する動作曲線PR(Wj)を選択するために使用され、反復プロセスが誤差しきい値EW0以下の誤差Eに収束するまで、上述の計算が繰り返される。対応する仮のLVF(j)値が、推定によるLVFとして仮定される。
【0075】
図5に要約した方法の別の実施形態が、図6のフロー図によって示される。この場合、測定された実際の動力関連パラメータWが使用され、推定による圧縮比PRjが、設定されたLVF(j)値および実際の動力関連パラメータWに対応する選択されたPR(Wj)曲線を使用して計算される。次いで、推定による圧縮比PRjは、測定された実際の圧縮比PRと比較され、そこから誤差EPRが計算される。誤差EPRが誤差しきい値EPR0を上回る場合、この方法は、図6のフロー図に示されるように、新たに設定される仮のLVF値
LVF(i)=LVF(i)+ΔLVF (10)
で再び繰り返される。
【0076】
これまでに開示された全ての実施形態において、第1の圧縮機動作パラメータおよび第2の圧縮機動作パラメータが使用される。図3および図4の実施形態によれば、第1の圧縮機動作パラメータが、圧縮比PR=(Pd/Ps)である一方で、第2の圧縮機パラメータは、動力または例えば補正後動力などの動力関連パラメータである。例えば補正後質量流量
【0077】
【数17】
などの流量関連パラメータが、図3Aおよび図3Bに示される2つの動作曲線群を結び付ける中間パラメータとして使用される。
【0078】
図5の実施形態においては、第1の動作パラメータが、やはり圧縮比PR=(Pd/Ps)であり、第2の圧縮機動作パラメータは、例えば補正後動力Wなどの動力関連パラメータである。図6の実施形態においては、第1の動作パラメータが動力関連パラメータである一方で、第2の動作パラメータが、圧縮比PR=Pd/Psである。
【0079】
上述の実施形態において、反復プロセスの開始点は、LVF=0であり、すなわち最初の反復ループは、乾燥ガスが処理されると仮定して実行される。これは、計算された誤差が誤差しきい値を上回る場合に、次の反復ステップを実施するやり方が1つだけ、すなわち仮定されたLVF値を増やすことだけしか存在しないため、便利である。しかしながら、本明細書に記載の方法の現時点においてはあまり有利でない実施形態においては、反復プロセスの開始点を、任意のLVFの値とすることができる。その場合、一種の摂動および観察(perturb-and-observe)法を実施することができる。計算された誤差が許容されたしきい値を上回る場合、仮定されたLVFが増やされ、あるいは減らされる。次の反復ステップにおいて計算された誤差が、以前に計算された誤差よりも大きい場合、後続の反復ループは、LVFを反対方向に変化させることによって開始され、すなわち以前の反復ループがLVF値を増やすことによって行われた場合には、LVFを減らし、他方で、以前の反復ループがLVF値を減らすことによって行われた場合には、LVFを増やして開始される。
【0080】
いくつかの実施形態においては、処理されるガスのLVFを、熱力学的計算に基づいて推定することができる。推定値を、上記開示の反復法のうちの1つのための開始点として使用することができる。この場合、推定されたLVF値はゼロとは異なるため、摂動および観察の反復プロセスを使用することができる。開始LVF値の推定値は、例えば、ガスの組成ならびに以下のパラメータ、すなわち圧縮機3によって処理されるガスの吸入圧力(Ps)、吐出圧力(Pd)、吸入温度(Ts)、および吐出温度(Td)に基づいて決定される。
【0081】
動作曲線は、圧縮機の回転速度の関数として変化するため、回転速度または式(2)によって定義されるとおりの補正後回転速度を、反復プロセスが実行されるたびに適切な動作曲線群を選択するためのさらなるパラメータとして使用することができる。
【0082】
同じことが、ガスの平均分子量についても当てはまる。圧縮機3によって処理されるガスの異なる化学組成について、異なる動作曲線が当てはまる。ガスの化学組成、したがって分子量は、通常は、ゆっくりと変化するパラメータである。例えば、ガス井の場合、組成はほぼ一定のままであり、ガス組成の更新を、例えば1日に1回、またはさらに少ない頻度で実行することができる。ガス組成を、例えばガスサンプルを使用して研究室においてオフラインで分析することができる。分析の結果に基づいて、例えば、適切な動作曲線を手動で選択することができる。例えばガスクロマトグラフによって、オンラインのガス組成分析も実施してもよい。適切な動作曲線を、自動的に選択することができる。ガスの平均分子量を、化学組成に基づいて計算することができる。
【0083】
上述の計算方法を、圧縮機3の吸入側におけるガスの実際のLVFを監視するために、連続的に実行または所与の頻度で実行することができる。例えば、上述の計算を、所与の時間間隔で再び開始させることができる。
【0084】
しかしながら、上記の計算をより効率的にし、計算負荷を低減するために、いくつかの実施形態においては、実行される反復計算の数を減らし、あるいは計算の実行の頻度を減らすための手段を講じることができる。
【0085】
例えば、液体体積分率は、ガスの吸入圧力Psおよび吸入温度Tsに依存するため、他のパラメータ(例えば、圧縮機の回転速度およびガスの組成)は同じであるとして、使用される反復法がひとたび誤差しきい値未満の誤差に向かって収束したならば、反復計算を停止させることができる。LVFを推定するための新たな計算を、圧縮機3の吸入側9における圧力または温度の変動を検出したときにのみ実行することができる。他の実施形態においては、反復計算を周期的に繰り返すことができるが、その頻度は、圧縮機3の吸入側における圧力および/または温度の変動に依存してよく、すなわち変動が大きいほど、反復計算の繰り返しの頻度を高くすることができる。
【0086】
本方法をさらに単純化し、計算負荷を軽減するために、圧縮機3の吸入側9に湿性ガスが存在することが予備ルーチンによって確認された場合に限って上述の反復計算を実行する処置を講じることができる。予備ルーチンが、圧縮機3の吸入側9に乾燥ガスが存在すると判定した場合、液体体積分率の実際の値はゼロであるため、LVFの推定は行われない。
【0087】
予備ルーチンについて考えられる実施形態を、図7のフロー図を参照して以下で説明する。
【0088】
予備ルーチンの第1のステップは、例えば流量計29による圧縮機3の吐出側の体積流量QVDの測定を提供する。圧縮機3の吸入側および吐出側の測定温度TsおよびTd、吸入側および吐出側の測定圧力PsおよびPd、ならびにガスの組成に基づき、乾燥ガスが圧縮機3の吸入側9に存在すると仮定して、推定質量流量が計算される。次いで、圧縮機3の吸入側9における推定補正後質量流量
【0089】
【数18】
を、式(1)を使用して計算することができる。推定された
【0090】
【数19】
値に基づき、図3AのC(LVF0)曲線を使用して、推定圧縮比PRを決定することができる。実際の圧力比PRは、測定された吸入側圧力Psおよび吐出側圧力Pdに基づいて決定される。次いで、圧縮比誤差EPRが、
PR=PR-PR (11)
と計算され、誤差しきい値EPR0と比較される。誤差EPRが誤差しきい値EPR0以下である場合、吐出側および吸入側の両方においてガスは乾燥しているとする仮定は、正しいと考えることができる。他方で、計算された誤差EPRが誤差しきい値EPR0を上回る場合には、圧縮機3の少なくとも吸入側9に湿性ガス状態が存在するという結論が導き出される。最初の場合(乾燥ガス)、実際のLVFを決定するルーチンは開始されない。第2の場合、図4図5、または図6に要約した上述の実際のLVFを推定するためのルーチンのうちの1つが呼び出され、実行される。
【0091】
図8が、圧縮機3の吸入側9に湿性ガスが存在するかどうかを確認するための予備ルーチンのさらなる実施形態を示している。予備ルーチンの第1のステップは、やはり例えば流量計29による圧縮機3の吐出側の体積流量QVDの測定を提供する。吸入側および吐出側の測定温度TsおよびTd、吸入側および吐出側の測定圧力PsおよびPd、ならびにガスの組成に基づき、乾燥ガスが圧縮機3の吸入側9に存在すると仮定して、圧縮機3の吸入側9における推定質量流量、次いで補正後質量流量
【0092】
【数20】
を、やはり式(1)を使用して計算することができる。推定された
【0093】
【数21】
値に基づき、図3BのW(LVF0)曲線を使用して、例えば推定補正後動力Wなどの推定による圧縮機動力関連パラメータを、式(3)を用いて決定することができる。実際の動力関連パラメータWが、例えばトランスデューサ31によってやはり測定される。次いで、動力誤差Eが、
=W-W (12)
と計算され、誤差しきい値EW0と比較される。誤差Eが誤差しきい値EW0以下である場合、吐出側および吸入側の両方においてガスは乾燥しているとする仮定は、正しいと考えることができる。他方で、計算された誤差Eが誤差しきい値EW0を上回る場合には、圧縮機3の少なくとも吸入側9に湿性ガス状態が存在するという結論が導き出される。最初の場合(乾燥ガス)、実際のLVFを決定するルーチンは開始されない。第2の場合、図4図5、または図6に要約した上述の実際のLVFを推定するためのルーチンのうちの1つが呼び出され、実行される。
【0094】
図7および図8の両方の実施形態において、乾燥ガス状態が検出された場合、乾燥ガス状態が依然として有効かどうかを確認するために、一定または可変の時間間隔Δtの後に予備ルーチンを繰り返すことができる。図8のルーチンが好ましく、なぜならば、使用される曲線が交差せず、したがってこのルーチンがより正確な結果をもたらすからである。いくつかの実施形態においては、図7のルーチンを最初に実行し、その後に結果を図8のルーチンを実行することによって点検することができる。
【0095】
上述の方法に基づいて、圧縮機3によって処理されたガスの推定液体体積分率LVFを充分な精度で求め、この推定値を最適なサージ制御曲線SCL(LVF=x%)の選択に使用することができる(図3A)。このようにして、湿性ガスが処理されるとき、サージ制御曲線を動作マップにおいて相応に移動させ、圧縮機3の動作可能なエンベロープを拡張し、したがってサージ防止制御弁15の介入を低減することができる。サージ制御のためのガス再循環によって生じる動力の無駄が低減され、したがって圧縮機3の全体効率が向上する。
【0096】
上述したLVFの推定方法は、湿性ガスの液体体積分率を計算すべきである限りにおいて、サージ制御以外の目的にも使用することができる。
【0097】
上述の実施形態は、例えばサージ制御を湿性ガス中の実際の液体含有量に適合させるべく適切なサージ制御線を選択するために、圧縮機によって処理されたガスの液体体積分率LVFを計算するための方法を使用する。
【0098】
これまで説明した計算方法は、圧縮機の吸入側での実際の液体含有量の測定を回避しつつ、LVFを決定することを可能にする。しかしながら、サージ制御を変動の可能性があるガス中の液体含有量に適合させるために、上記の反復計算方法に基づくLVFの推定よりもむしろLVFを測定することは、排除されない。
【0099】
本明細書に記載の主題について開示される実施形態を、いくつかの典型的な実施形態に関して、具体的かつ詳細に、図面に示し、充分に上述したが、本明細書において説明した新規な教示、原理、および考え方、ならびに添付の特許請求の範囲に記載される主題の利点から実質的に離れることなく、多数の変更、変化、および省略が可能であることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、開示される技術革新の適切な範囲は、全てのそのような変更、変化、および省略を含むように、添付の特許請求の範囲の最も広い解釈によってのみ定められるべきである。加えて、プロセスまたは方法のあらゆるステップの順序または並びは、代案の実施形態に従って変更または並べ替えが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 圧縮機システム
3 圧縮機
5 ドライバ
7 駆動軸
9 吸入側、圧縮機の入口
11 吐出側
13 サージ防止ライン
15 サージ防止制御弁
16 冷却器
17 中央制御ユニット
21 圧力トランスデューサ
23 温度トランスデューサ
25 圧力トランスデューサ
27 温度トランスデューサ
29 流量計、トランスデューサ
31 動力トランスデューサ
33 メモリリソース、ストレージリソース
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8