(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】M2表現型に極性化されたマクロファージを作る方法及びその用具
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0786 20100101AFI20220106BHJP
C12M 1/04 20060101ALI20220106BHJP
C12M 1/24 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C12N5/0786
C12M1/04
C12M1/24
(21)【出願番号】P 2019537872
(86)(22)【出願日】2017-09-25
(86)【国際出願番号】 EP2017074209
(87)【国際公開番号】W WO2018055153
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-04
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519103425
【氏名又は名称】クスセルル メディカル ソルティオンス, エッセ.エッレ.
【氏名又は名称原語表記】XCELL MEDICAL SOLUTIONS, S.L.
【住所又は居所原語表記】C/ Fortuny 29,1O,28010 Madrid, ES
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オトテル コリピオ,マリア ヘオルヒナ
(72)【発明者】
【氏名】ソラ マルティネス,アナ マリア
(72)【発明者】
【氏名】マルティン コルデロ,ホルヘ ビセンテ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア デ ラ リバ メストレ,パブロ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥミンゲス サンチェス,ルベン
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス モレノ,ハイメ
(72)【発明者】
【氏名】ヒネスタ ブチ,クサビエル
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス ガルシア,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】カスティリョ ガルシア,アドリアン
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140334(JP,A)
【文献】特開2012-090612(JP,A)
【文献】Journal of Allergy and Clinical Immunology,2016年02月,Vol.137, No.2, Suppl.1, Abstracts AB403, L43
【文献】American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine,Vol.189, No.5, p.593-601,2014年
【文献】Fluids and Barriers of the CNS,Vol.12, Article No. 6,2015年
【文献】The Annals of Thoracic Surgery,Vol.86, p.1774-1779,2008年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-5/28
C12M 1/00-3/10
A61K 35/00-35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M2表現型に極性化
されたマクロファージを得る方法であって、
(a)単離したマクロファージが、低酸素-再酸素化を3シリーズまたは4シリーズ受ける、
ここで各低酸素-再酸素化シリーズは、酸素濃度が0%と0.6%の間での低酸素が2分と5分の間と、それに続く再酸素化が少なくとも45秒である段階であって、
(a’)前記(a)のステップで得られたマクロファージが、1時間30分以内で行われる最終再酸素化ステップを受ける段階と、
(b)前記(a)と
(a’)のステップで得られたマクロファージを回収する
段階と、からなることを特徴とする
M2表現型に極性化されたマクロファージを得る方法。
【請求項2】
前記(a)の
段階は、前記低酸素-再酸素化を4シリーズ行うことを特徴とする請求項1に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを得る方法。
【請求項3】
前記(a)
の段階のマクロファージが、単球であることを特徴とする請求項1
または2項に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを得る方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法によって単離されたマクロファージ上に低酸素状態と再酸素化状態を作るための用具であって、
該用具は、単離したマクロファージが、低酸素-再酸素化を3シリーズ又は4シリーズ受けるように構成され、
単離されたマクロファージを収容するように構成された取り外し可能チャンバ(1)
と、
前記取り外し可能チャンバ(1)に接続された第1取外し可能接続部(4)と、前記取外し可能チャンバ(1)に流すガスのガス源(5、6)を選択できるように構成されたバルブ(7)に接続された第1ガス源(5)と第2ガス源(6)とを備えた第1ガス流通回路(2)
と、
前記取り外し可能チャンバ(1)に接続された第2取外し可能接続部(8)と、外部環境(15)に接続された接続部または真空用具に接続された接続部とを備え、前記取外し可能チャンバ(1)内部のガスの排出を制御するように構成された第2ガス流通回路(3)
と、
前記取外し可能チャンバ(1)は、前記第1取外し可能接続部(4)および/または前記第2取外し可能接続部(8)を受けるための少なくとも1つの受入接続部(14)
と、
を含んでなることを特徴とする
M2表現型に極性化されたマクロファージを作る用具。
【請求項5】
前記第1ガス流通回路は、さらに、前記第1ガス源(5)と前記バルブ(7)の間、または前記ガス源(6)と前記バルブ(7)に少なくとも1つのHEPAフィルタ(9)および/または安全弁(10)をさらに備えることを特徴とする請求項
4に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを作る用具。
【請求項6】
前記第1ガス流通回路(2)は、さらに、前記バルブ(7)と前記取外し可能チャンバ(1)に接続された前記第1取外し可能接続部(4)との間にセンサ(11)を備えることを特徴とする請求項
4に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを作る用具。
【請求項7】
前記第1ガス流通回路(2)は、さらに、前記ガスセンサ(11)と前記第1取外し可能接続部(4)との間にHEPAフィルタ(9)および/または安全弁(10)を備えることを特徴とする請求項
6に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを作る用具。
【請求項8】
前記取外し可能接続部(4、8)の少なくとも1つは、ルアーロックコネクタまたはルアーロックバルブであることを特徴とする請求項
4に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを作る用具。
【請求項9】
前記第2ガス流通回路は、前記第2取外し可能接続部(8)と前記外部環境(15)に接続された接続部または前記真空用具に接続された接続部の間に少なくともHEPAフィルタ(9)および/または安全弁(10)を備えることを特徴とする請求項
4に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを作る用具。
【請求項10】
前記第2ガス流通回路は、また、前記第2取外し可能接続部(8)と前記外部環境(15)に接続された接続部または前記真空用具に接続された接続部の間にガスセンサ(11)を備えることを特徴とする請求項
4に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを作る用具。
【請求項11】
前記第2ガス流通回路は、前記第2取外し可能接続部(8)と前記真空用具に接続された接続部または前記外部環境(15)に接続された接続部の間に少なくとも一つのポンプ(12)を備えることを特徴とする請求項
4に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを作る用具。
【請求項12】
前記取外し可能チャンバ(1)は、遠心分離管であることを特徴とする請求項
4に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを作る用具。
【請求項13】
さらに、前記ガスセンサ(11)からシグナルを受信し、前記バルブ(7)を制御して前記第1ガス源(5)または前記第2ガス源(6)のガスが通過できるように構成されたコントローラを備えることを特徴とする請求項
6または10のいずれか1項に記載の
M2表現型に極性化されたマクロファージを作る用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織修復の細胞治療の分野に属する。特に、本発明は組織再生に適したM2表現型に極性化された(polarized)マクロファージを得るインビトロ方法に関するものである。また、この方法によって得られたM2マクロファージ集団、ならびに損傷した、傷ついた、或いは損なわれた組織再生における細胞治療に使用する医薬および医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マクロファージは、血管系を出てその周囲組織に入り、そこで局所シグナルにより常在組織マクロファージに分化する循環単球に由来している。常駐マクロファージにはさまざまな役割がある;すなわち、それらは、食作用によって除かれる損傷したまたはアポトーシス細胞のために組織を巡り、細菌、真菌などの侵入病原体やウイルスに感染した細胞を同定および除去し、リポタンパク質を一掃し、また、新しい血管の形成を促しそして血管透過性を調節することにより組織への酸素付加を制御している。
【0003】
マクロファージは、それらの位置および活性化状態に応じて素晴らしい機能レパートリーを有する非常に用途の広い細胞型である。これには、抗原提示、抗菌性および抗腫瘍活性、ならびに多種多様な調節ペプチド因子、プロスタノイド、および酵素の分泌がある。
【0004】
それ故に、マクロファージは、炎症、組織修復、免疫応答を含む種々の機能を統合する免疫細胞の集団である。この機能的多様性は、分化した可塑性(plasticity)と局所的な環境要因からそれらの表現型を大きく変える能力を有するマクロファージの著しい異質性によって達成される。
【0005】
免疫エフェクター細胞として、炎症および宿主防御におけるマクロファージの役割は非常に特徴的である。さらに、マクロファージは、適切な創傷の治癒促進、および病原攻撃または組織損傷に応答した炎症消散に不可欠である(非特許文献1参照)。これらの多様な生理学的機能は、これらの細胞が局所の環境シグナルに応答してそれらの形態および機能を大きく変化させることを可能にするマクロファージの顕著な可塑性から生じている。刺激していないマクロファージは、通常静止している。しかしながら、これらの細胞を刺激すると、局所的な微小環境に存在する分子的合図(molecular cues)に応答して著しく極性化された表現型を発生させる。
【0006】
マクロファージの現在の分類では、2つの異なる表現型への極性化が認められている。このように、マクロファージは、一般に、古典的(M1)または選択的(M2)活性化として分類される。M1マクロファージは、食作用活性の増加と、病原体および異常または損傷した組織の除去を助ける炎症誘発性サイトカインの分泌の増加を促す炎症性表現型を有している。M2マクロファージは、高レベルの抗炎症性サイトカインと、炎症を消散し創傷治癒を促進するのに役立つ線維形成因子および血管新生因子を示す極性が正反対の表現型を有する(非特許文献2参照)。M1およびM2マクロファージは、共に異なる分子マーカーを発現する。
【0007】
M1マクロファージは、細菌性リポ多糖(LPS)やペプチドグリカンなどの病原体関連分子パターン、または放出された細胞内タンパク質や核酸、ならびにT細胞-分泌サイトカインインターフェロンガンマ(IFN-γ)による刺激などの損傷関連分子パターンを認識して誘導される。M1は、炎症性表現型を示し、食作用および抗原プロセシング活性を高め、ならびに炎症性サイトカイン(例えば、インターロイキン1[IL-1]、IL-6、IL-12、および腫瘍壊死因子アルファ[TNF-α])と酸化的代謝産物(例えば、一酸化窒素およびスーパーオキシド)の産出を増大させて、宿主の防御を強め、および損傷組織の除去を促進する。対照的に、M2マクロファージは、種々の刺激(例えば、IL-4/IL-13、グルココルチコイド)によって誘発され、創傷治癒および組織再構築の促進ならびに炎症の消散において潜在的に重要な表現型を示す(非特許文献3参照)。
【0008】
マクロファージの顕著な可塑性は、臨床科学にとって重要な意味を持っている。マクロファージの適切な極性化は、創傷治癒、免疫応答、および神経/筋肉再生を含むがこれらに限定されないいくつかの重要な生理学的プロセスにおいて必要である(非特許文献4参照)。従って、マクロファージの異常な極性化は、不充分な創傷治癒、糖尿病、筋ジストロフィー、関節リウマチならびに肝臓および肺の線維症のような線維増殖性疾患、ならびに腫瘍進行に見られる病態のいくつかと関連していることは驚くに値しない。マクロファージの極性化に寄与する特定の微小環境シグナルを解明することは、潜在的に、マクロファージ表現型の薬理学的操作方法に繋がって、有利なプロセスを促進(例えば創傷治癒)し、または病理学的プロセス(例えば、線維増殖性疾患および腫瘍増大)を阻止することができる可能性がある。
【0009】
前述したように、マクロファージが種々の環境刺激に応答してその表現型を変える能力は、これらの表現型を誘導する多種多様なシグナルを同定することと、M1およびM2マクロファージの分子プロフィールを特徴付けることにかなりの研究を注ぎ込むことになった。しかしながら、マクロファージの極性化は複雑なプロセスであり、そして明瞭なマクロファージ表現型を誘発する一連の幅広いシグナルがあることが明らかになってきた。
罹患した組織中マクロファージの数の増加のうち、多くは、血管新生が不十分な低酸素部位またはその近傍に集まっているとみられ、ここには、かなりの組織損傷が起きている可能性がある。乳癌および卵巣癌の無血管および壊死部位、皮膚傷の低酸素域(非特許文献5参照)、動脈硬化プラークの無血管部位、関節リウマチの関節滑膜、増殖性網膜症の虚血部位、および脳マラリアの血管閉塞部周囲には、マクロファージの数が多いことが報告されている。
【0010】
マクロファージは、遺伝子発現を変化させ、そしてそれらの代謝活性を適応させることにより、そのような不利な条件下で機能することができる。低酸素は、マクロファージの分泌活性に著しい変化を誘発することができ、インビトロおよびインビボでマクロファージによる血管新生促進性と炎症性サイトカインの両方の放出を誘発する。いくつかの研究では、種々のマクロファージ機能について実験的低酸素の影響を概説している(非特許文献6及び非特許文献7参照)。
【0011】
しかしながら、低酸素は、通常罹患組織では一過性であり、他の病原性刺激とは別の細胞に生じることは滅多にないので、これらの研究は、マクロファージに及ぼす影響をみるために共刺激の必要性があることを強調している。
【0012】
最新技術から、細胞培養において低酸素を誘発するための複数の医療用具が知られている。例えば、特許文献1:GB2499372には、ガス注入口およびガス排出口を有するプラスチックチャンバを有する細胞培養用の低酸素圧チャンバが記載されている。特許文献2:US3886047には、制御された雰囲気下で培養成長させるための入口と出口ガス管のある低酸素チャンバが開示されている。
【0013】
酸素濃度をモニターしてチャンバ内のガスプロファイルを制御することができる特許文献3:US2003092178に記載の培養チャンバも知られている。さらに、特許文献4:WO2010058898には、細胞培養のための培養チャンバと、培養チャンバから外部に空気を排出するための真空ポンプと、培養チャンバに二酸化炭素を供給する二酸化炭素タンクの供給管と培養チャンバに窒素を供給する窒素タンクの供給管を制御するための自動制御弁とを備えた用具が提案されている。
【0014】
これら用具の全ては、低酸素チャンバで細胞を培養するように設計されており、そして研究目的に有用であることは共通している。これらの用具のどれも、そのプロセスを無菌状態では行わないので、臨床応用には有用でないであろう。前述した全てのシステムにおいては、細胞培養は、低酸素室から外部環境に置き動かされ、従って汚染され易い。
【0015】
一方、いくつかのシステムは、血液サンプルから血液成分を分離し濃縮するように設計されてきた。例として、特許文献5:ES1059764、特許文献6:US7976796および特許文献7:US2016015884があるが、どのシステムも用具中の細胞上を低酸素にするとした記載はない。
【0016】
要約すると、創傷治癒および一般的に組織再生を促進する表現型に極性化したマクロファージを得るための方法が必要とされている。とりわけ、M2マクロファージは、創傷治癒および組織再構築を促進することおよび炎症消散させることに重要である表現型を提示するので、マクロファージをM2表現型に人工的に極性化する方法は、特別な興味があることであろう。それ故、これらの方法の開発は、マクロファージの極性化を人工的に操作して、傷修復など通常の生理学的プロセスを増強するマクロファージ表現型を得ることを可能にするであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】英国特許第2499372号明細書
【文献】米国特許3886047号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/092178号明細書
【文献】国際公開第2010/058898号
【文献】スペイン国特許第1059764号明細書
【文献】米国特許第7976796号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/015884号明細書
【非特許文献】
【0018】
【文献】クリストファー J.フェランテ(Christopher J.Ferrante 及び サミュエル ジョセフ レイボビッチ(Samuel Joseph Leibovich),2012,Advances in wound care,1:1,10-16.
【文献】マルチネス FO, ヘルミング L,及び ゴードン S(Martinez FO,Helming L,and Gordon S).2009.Annu Rev Immunol;27:451-483.
【文献】マルチネス FO, シカ A, マントバニ A,及び ロカティ M( Martinez FO,Sica A,Mantovani A,and Locati M).2008.Front Biosci;13:453-461.
【文献】キゲール KA、ら( Kigerl KA, et al.),2009,J Neurosci;29:13435-13444.
【文献】ハント,T.K.,ら( Hunt,T.K.,et al.),1983,Surgery,96,48-54.
【文献】クレイル ルイス,ら( Claire Lewis,et al.),1999,Journal of Leukocyte Biology,66,889-900.
【文献】マリア M エスクリベス,ら( Maria M Escribese,et al.),2012,Immunobiology,217,1233-1240.
【0019】
[発明の概要]
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】低酸素-再酸素化を1、2、3、4または5シリーズ受けた培養中のマクロファージ、または標準条件下で培養したマクロファージ(コントロール)におけるGAPDHに対し正規化したNGAL遺伝子発現(mRNA)。*P<0.005
【
図2】低酸素-再酸素化を1、2、3、4または5シリーズ受けた培養中のマクロファージ、または標準条件下で培養したマクロファージ(コントロール)におけるGAPDHに対し正規化したIL10遺伝子発現(mRNA)。* P<0.005、**P<0.001
【
図3a】単離したマクロファージ上に、低酸素と再酸素化状態を作る用具のダイアグラムを示している。
【
図3b】単離したマクロファージ上に低酸素と再酸素化状態を作る用具の斜視図を示している。
【
図4a】
図3a~bの用具の取外し可能チャンバの異なる実施形態を示している。
【
図4b】
図3a~bの用具の取外し可能チャンバの異なる実施形態を示している。
【
図4c】
図3a~bの用具の取外し可能チャンバの異なる実施形態を示している。
【
図4d】
図3a~bの用具の取外し可能チャンバの異なる実施形態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、組織修復に有用なM2表現型へのマクロファージの極性化(分化)を誘発するインビトロ方法を提供する。この方法によって得られた活性M2マクロファージは、NGALおよび抗炎症性サイトカイン(IL-10)などの組織再構築および炎症緩和に重要な分子を過剰発現する。従って、この方法によって得られたM2マクロファージは、組織再生のための細胞治療として有用である。
【0022】
本発明に記載した方法は、単離されたマクロファージ、好ましくは培養中の、より好ましくは予め患者から単離したマクロファージが、低酸素-再酸素化シリーズ(各シリーズは、低酸素条件下での第1ステップ、続いて再酸素化条件下での第2ステップ)を反復、そして連続してインビトロまたはエキソビボで受けることを含んでいる。より好ましくは、この方法は、低酸素-再酸素化を3シリーズまたは4シリーズ、さらにより好ましくは低酸素-再酸素化を4シリーズ行うことからなる。これらの条件下で培養されたマクロファージは、低酸素-再酸素化期間がある結果、活性M2表現型を獲得する。従って、このようにしたマクロファージは、その後で損傷組織のある患者に投与して、完全な組織再生を促進するに有用である。
【0023】
以下の実施例は、本発明の方法によって得られた極性化M2マクロファージが、本発明に記載した低酸素-再酸素化プロトコルを受けていない培養マクロファージ(コントロール)と比較して、少なくともNGALと、好ましくはIL-10(より好ましくは、mRNAレベル)をも過剰発現することを示している。さらに、このNGAL過剰発現は、本発明に提案したとは異なる数の低酸素-再酸素化シリーズを受けたマクロファージには観察されない。例えば、以下の例は、低酸素-再酸素化を5シリーズ受けたマクロファージは、コントロール(低酸素-再酸素化条件を受けていないマクロファージ)と比較して、NGAL発現が増えていないことを示している。これらの結果は、ここに記載した方法で低酸素-再酸素化を特定数のシリーズで受けると、他の異なる数のシリーズで受けるよりも有利であることを証明している。従って、本発明に記載の方法は、たとえ低酸素状態での培養を含んでいても別の誘発プロトコルによっては得ることができない有利なM2活性マクロファージを提供する。
【0024】
それ故、本発明に記載の方法によって得られたM2マクロファージは、それを必要としている患者の損傷領域に投与することで組織再生をする細胞治療方法に使用できる。好ましくは、これらのM2マクロファージは、組織再生、より好ましくは筋肉修復を目的として、損傷領域に注射、より好ましくは筋肉内注射される。
【0025】
本発明の主な利点の1つは、本発明の方法に記載した条件で培養して極性化したマクロファージは、自己のものであることである。これは、極性化細胞を用いて投与された患者に有害な免疫学的反応に関連した危険性を低くし、或いはなくすことになる。さらに、本発明の方法に記載した条件で培養されるマクロファージは、患者から、好ましくは血液流から容易に得られ、そして単離することができる。さらに、このようにして得られたM2マクロファージは、組織再生、炎症緩和、および傷跡または線維症の除去(線維症の減少)を促進することができる。
【0026】
従って、本発明の一態様は、M2表現型に極性化または分化したマクロファージを得る方法、以下「本発明の方法」、に関するもので、それは、
(a)単離されたマクロファージを、低酸素-再酸素化を少なくとも1シリーズ以上5シリーズより少なく受けさせる、および
(b)(a)ステップの後に得られたマクロファージを回収する。
を含んでいる。
【0027】
本発明のこの方法は、また「マクロファージのM2表現型への極性化/分化方法」、または「M2表現型を有するマクロファージを得る方法」、または「組織の再構築、再生または修復を誘発する表現型をもった活性マクロファージを得る方法」として記載することもできる。
【0028】
本発明のこの方法の(a)ステップにおけるマクロファージは、インビトロ細胞培養中にあってもよく、または好ましくは、酸素分圧(oxygen tension)を外部コントロールしたカプセル中に単離されてもよい。
【0029】
本発明の方法の好ましい実施形態で、(a)ステップのマクロファージは、ヒトまたは非ヒト哺乳動物マクロファージ、より好ましくは、ヒトマクロファージである。さらにより好ましい態様では、このマクロファージは、自己由来のものである。この用語「自己由来」は、それによって得られたM2マクロファージが投与される個人と同じ個人から得たマクロファージを指す。従って、用語「自己由来」は、ドナーとレシピエントの両方としての一つの(同じ)個体を含んでいる。
【0030】
「マクロファージ」は一種の白血球であり、炎症、組織修復、および免疫応答を含む多様な機能を支配する免疫細胞内にある。例えば、それらは、食作用の過程で、細胞破片、異物、微生物、癌細胞、およびその表面に健康な体細胞に特異的なタイプのタンパク質を持たない細胞を飲み込みそして消化する。マクロファージは、本質的に全ての組織に見出され、アメーバ運動によって潜在的な病原体を巡視している。それらは、体内で(種々の名称の)種々の形態をとり(例えば、組織球、クッパー細胞、肺胞マクロファージ、ミクログリア、およびその他)、全てではないが単核食細胞系の一部である。それらは、食作用の他に、非特異的防御(先天性免疫)で重要な役割を果たし、また、リンパ球など他の免疫細胞を動員することでの特異的防御機構(順応性免疫)を開始するのを助けている。例えば、それらは、T細胞に対して抗原提示体として重要である。炎症が大きくなり免疫系を刺激したとき、マクロファージは、また重要な抗炎症作用を果たし、サイトカインの放出を通して免疫反応を減少させることができる。マクロファージは、例えば、流動細胞計測法、または、限定するものではないが、CD14、CD40、CD11b、CD64、F4/80(マウス)/EMR1(ヒト)、リゾチームM、MAC-1/MAC-3および/またはCD68などのタンパク質の特異的発現による免疫組織化学的染色を使用して同定することができる、但しこれに限定するものではない。
【0031】
本発明方法の(a)ステップのマクロファージは、また単球またはM1マクロファージであってもよい。従って、本発明方法の(a)ステップで使用される用語「マクロファージ」は、単球の分化によって産出されるマクロファージ、任意の分化または未分化表現型のマクロファージ(M1マクロファージを含む)、および単核食細胞系に含まれる単球を含む任意の細胞を含むものである。本発明方法の(a)ステップで使用する用語「マクロファージ」は、「単核食細胞系の細胞」を指している。同様に、本発明方法の(a)ステップで使用する用語「マクロファージ」は、限定するものではないが、脂肪組織マクロファージ、単球、クッパー細胞、洞組織球、肺胞マクロファージ(ダスト細胞)、巨大細胞となる組織マクロファージ(組織球)、ランゲルハンス細胞、ミクログリア、ホフバウア細胞、糸球体内メサンギウム細胞、破骨細胞、類上皮細胞、赤脾髄マクロファージ(類洞内皮細胞)、腹腔マクロファージ、リソマックなどを含んでいる。好ましい態様において、(a)ステップのマクロファージは、腹腔マクロファージである。別の好ましい実施形態で、(a)ステップのマクロファージは、より好ましくは治療される個体の血液流から前もって単離された単球である。
【0032】
マクロファージは、(a)ステップを行う前に、所望の細胞、この特定の場合ではマクロファージまたは単球を含む生体サンプルを得る公知の任意な手段により、個体、好ましくは血液流から単離するのがよい。マクロファージは、血液流からのみでなく、如何なる組織からも単離できる(組織内在住マクロファージ)。マクロファージは、好ましくはチオグリコレートを用いた腹腔内注射によって単離する。同様に、マクロファージは、本発明方法の(a)ステップで、任意の手段で、任意の培地と、細胞、好ましくはマクロファージ、より好ましくは単球、さらにより好ましくはヒト単球のインビトロでの保持および増殖に適した当業者に公知のサポートの存在下に培養することができる。好ましい実施形態では、マクロファージは、ウシ胎児血清(FBS)を加えたRPMI培地の存在下、本方法の(a)ステップで培養される。
【0033】
マクロファージは、微小環境によって表現型的に極性化して、特定機能プログラムを持たせることができる。極性化マクロファージは、広く、古典的活性マクロファージ(またはM1)と、選択的活性化マクロファージ(またはM2)の2つの主グループに分類することができる。
【0034】
炎症を促進するマクロファージは「M1マクロファージ」と呼ばれ、一方、炎症を減少させそして組織修復を促進するマクロファージは「M2マクロファージ」と呼ばれる。この違いはそれらの代謝に反映される。M1マクロファージは、アルギニンを「キラー」分子の一酸化窒素に代謝するユニークな能力を有するのに対し、M2マクロファージは、アルギニンを「修復」分子のオルニチンに代謝するユニークな能力を有している。M1マクロファージ(以前は「古典的活性マクロファージ」と呼ばれていた)は、LPSとIFN-γによって活性化され、高レベルのIL-12と低レベルのIL-10を分泌する。対照的に、M2の「修復」の呼称(「選択的活性化マクロファージ」とも呼ばれる)は、広く、創傷治癒および組織修復のような建設的プロセスに機能するマクロファージであり、IL-10のような抗炎症性サイトカインの発生により免疫系の活性が損われるのを止めるマクロファージである。M2は、常在性組織マクロファージの表現型であり、IL-4、IL-13、免疫複合体+トール様受容体(TLR)またはIL-1受容体リガンド、IL10およびグルココルチコイドのような異なる刺激によってさらに高められる。M2マクロファージは、高レベルのIL-10、TGF-ベータと、低レベルのIL-12を産出する。腫瘍関連マクロファージは、主にM2表現型であり、腫瘍の増殖を活発に促進するようである。M2マクロファージは、Th2免疫応答と関連している。それらは、パラサイトの被包には重要であるが、それらはまたII型過敏症の原因でもある。抗原提示は、上方制御されている(MHCII、CD86)。それらはまた、細胞外マトリックス成分の産出と、組織再構築に寄与している。グルココルチコイドは、マクロファージの付着、播種、アポトーシス、および食作用に影響を与える。
【0035】
「マクロファージ極性化」は、マクロファージが微小環境シグナルに応答して異なる機能プログラムを発現するプロセスである。マクロファージの極性化には多くの機能的状態があり、それらは完全に極性化され、M1またはM2のような特定の表現型を獲得することができる。これら特定表現型は、マクロファージが存在する組織と特定の微小環境に依存している。マクロファージの極性化は、一方で病原体に対する宿主の防御にとって非常に重要であるが、他方では恒常性維持にとって不可欠である。マクロファージの長期に及ぶM1型は生体にとって有害であり、それ故に組織修復と復元が必要である。M2マクロファージは、その組織修復に関与しているが、それらはまた慢性感染症とも関連している。
【0036】
種々の炎症性モジュレーター、シグナル伝達分子、および転写因子の協調作用は、マクロファージ極性化を調節することに関与している。細胞レベルで、M1およびM2マクロファージ活性は、TまたはB細胞の影響なしに存在するが、特殊化または極性化したT細胞(Th1、Th2、Tregs)は、マクロファージ極性活性化に役割を果たしている。規準的なIRF/STATシグナル伝達は、マクロファージの極性化を調節する中心的な経路である。IFNおよびTLRシグナル伝達によるIRF/STATシグナル伝達経路の活性化は、マクロファージ機能を(STAT1を介して)M1表現型に向かってゆがめ(skew)、一方、IL-4およびIL-13によるIRF/STATシグナル伝達経路の活性化は、マクロファージ機能を(STAT6を介して)M2表現型の方にゆがめる。IL-10、グルココルチコイドホルモン、アポトーシス細胞放出分子、および免疫複合体からのシグナルもまた、マクロファージの機能的状態に深く影響を及ぼすことがある。マクロファージの極性化は、低酸素などの局所的な微小環境条件によっても調節される。さらに重要なことは、マクロファージのM1-M2極性化は、高度に動的なプロセスであり、極性化マクロファージの表現型は、生理学的および病理学的条件下で逆転することがある。
【0037】
本発明方法の(a)ステップで、単離されたマクロファージは、低酸素-再酸素化を連続して1、2、3または4シリーズ受ける。従って、低酸素-再酸素化の5シリーズ以上は、本発明の範囲から除かれる。好ましくは、本発明方法の(a)ステップは、低酸素-再酸素化が3または4シリーズからなる。より好ましくは、この(a)ステップは、低酸素-再酸素化が4シリーズでなっている。以下の実施例に示したように、マクロファージが低酸素-再酸素化を4シリーズ受けると、低酸素-再酸素化シリーズを受けないまたは低酸素症-再酸素化を異なる回数(より少なく、もしくはより多く)のシリーズを受けたコントロールマクロファージに比べて、有意に高いNGALIとL-10の過剰発現が達成されている。そこで、(a)ステップでマクロファージが低酸素-再酸素化を4シリーズ受けるこの好ましい実施形態は、改善されたM2表現型を有する改善されたマクロファージとなる。
【0038】
IL-10およびNGALの過剰発現は、得られたマクロファージの組織再生および抗炎症活性にとって重要である。「インターロイキン10(IL-10)」は、免疫調節および炎症に複数の多面効果を有する抗炎症性サイトカインである。それは、マクロファージ上のTh1サイトカイン、MHCクラスII抗原、および共刺激分子の発現を下方制御する。それはまた、B細胞の生存、増殖および抗体産出を増強する。IL-10は、マクロファージおよびTh1T細胞などの細胞によって作られるIFN-γ、IL-2、IL-3、TNFα、およびGM-CSFなどの炎症誘発性サイトカインの合成を阻害することができる。他方、「NGAL」または「好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン」は、リポカリンスーパーファミリーの25kDaタンパク質であり、シデロフォアを捕獲および枯渇させることによって静菌効果を発揮する。NGALは、種々の細胞型において増殖および分化因子として作用する。外因性NGALが、初期の上皮前駆細胞を反映する遺伝子マーカーの発現を起こし、そして上皮細胞の増殖を助けることは示してきた。NGALはまた、好中球およびリンパ球における細胞死を誘発して炎症を抑えるが、非造血細胞およびマクロファージは耐性がある。マクロファージにNGAL産出を遮断すると、腎臓虚血/再灌流障害モデルにおいてIL-10過剰発現マクロファージを用いて達成される防御効果を減少させ、NGAL関連の増殖性および抗炎症性を実現させる。マクロファージにおけるNGAL過剰発現は、炎症前の組織再生を誘発し、その後の炎症を減少させる(炎症性サイトカインのレベルが低下し、そして抗炎症性サイトカインのレベルが上昇する)。それ故に、NGALは、本発明方法によって得られるマクロファージを組織再生/修復に適したものにする増殖促進性(proproliferative)、再生促進性(proregenerative)、および抗炎症性を示す。
【0039】
本発明において、それぞれの「低酸素-再酸素化シリーズ」は、単離されたマクロファージが低酸素状態を受ける第一段階を有している。この第一段階の直ぐ後に第二段階が続き、ここでマクロファージが標準的な酸素条件を受ける。すなわち、この第二段階において、細胞環境中で酸素濃度が回復する。好ましい実施形態では、それぞれの低酸素-再酸素化シリーズは、2分と5分の間、より好ましくは3分の低酸素と、その後に少なくとも45秒の再酸素化でなっている。より好ましくは、再酸素化段階は1分より少なく行う。
【0040】
「低酸素(Hypoxic)状態」或いは「低酸素(hypoxia)状態」は、細胞を、酸素が0%と0.6%の間、好ましくはO2が0%の酸素濃度を受けるものである。より好ましくは、低濃度酸素は、低濃度酸素室において窒素が95%、CO2が5%、O2が0%の条件下でできる。
【0041】
「標準酸素条件」または「再酸素化条件」は、細胞が大気を受ける条件である。好ましくは、再酸素化条件は、CO2が5%とプラス大気である。
【0042】
本発明に記載した方法では、(a)ステップで、低酸素-再酸素化シリーズを連続的かつ継続的に行うが、これは1つのシリーズと次のシリーズとの間に時間を置かず、前のシリーズの再酸素化に続いて直ちに次のシリーズの低酸素段階を行うことを意味している。
【0043】
別の好ましい実施形態では、本発明方法は、(a)ステップと(b)ステップの間に追加の(a’)ステップを有して、ここでは(a)ステップで得られたマクロファージが最終再酸素化ステップを受ける。すなわち、最後の低酸素-再酸素化シリーズの後に、最終再酸素化段階からなる追加のステップを任意に実施することができる。この最終再酸素化工程は、標準的な酸素条件下で行われる。より好ましい実施形態では、この最終再酸素化工程は、1時間30分を超えない時間で行われる。さらにより好ましい実施形態では、この最終の再酸素化ステップは、1時間30分で行われる。
【0044】
本発明方法は、限定するものではないが、(a)ステップの前に、マクロファージを標準培養条件下で、好ましくは少なくとも24時間の保持および増殖するステップ、および/またはステップ(b)の後に、得られたマクロファージを標準条件下で好ましくは少なくとも1時間30分の保持および増殖するステップ、など他のステップを追加で行うことができる。
【0045】
本発明方法の最後に得られたマクロファージは、典型的なM2表現型を有している。しかしながら、遺伝子発現プロファイルおよびその結果としてのマクロファージの機能は、誘発刺激の性質に基づいて異なってくることがあり得ることが当技術分野において知られている。かくして、本発明方法は、特定のシグナル伝達経路を変化および誘発することによりマクロファージ極性化に影響を及ぼす特定の低酸素-再酸素化状態を含むので、本発明方法により得られたそれら特定M2マクロファージは、他の刺激、或いは本明細書に特定して記載したとは異なる他の低酸素状態によって極性化または活性化された他のM2マクロファージとは、遺伝子発現プロファイルに関して、従って機能性に関して異なることは明らかである。
【0046】
従って、本発明の別の態様は、本発明方法によって得られたまたは得ることができるM2マクロファージまたはM2マクロファージ集団に関するものであり、このM2マクロファージ(および群になったM2マクロファージ)は、少なくともNGALを過剰発現する。以下、これらを「本発明のM2マクロファージ」および「本発明のM2マクロファージ集団」ともいう。好ましい態様において、本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団は、IL10も過剰発現する。
【0047】
本明細書で使用する用語「過剰発現」は、低酸素-再酸素化を受けていない(しかし標準条件下で培養されている)コントロールのマクロファージの同じ遺伝子の遺伝子発現レベルより、または、試験中の、もしくは評価されるマクロファージに使用されると同じ低酸素-再酸素化条件を受けていない遺伝子レベルより高い、好ましくは有意に高い遺伝子発現レベルであり、特にNGALおよびIL-10遺伝子発現レベルにあるものである。
【0048】
本発明で言及した「過剰発現」は、タンパク質またはmRNAレベル、好ましくはmRNAレベルであることができる。従って、「遺伝子発現レベル」という表現は、本明細書では「タンパク質発現レベル」または「mRNA発現レベル」と理解してよい。
【0049】
遺伝子発現レベルは、例えば、限定するものではないが、PCR、RT-LCR、RT-PCR、qRT-PCRまたは核酸の増幅を行う他の任意の方法、インサイチュ合成されたオリゴヌクレオチドで作製されたDNAマイクロアレイ、特定標識プローブ、電気泳動ゲル、膜透過を用いたインサイチュハイブリッド化、および特定のプローブ、RMNを用いたハイブリッド化、ウエスタンブロット、免疫沈降、タンパク質アレイ、免疫蛍光、免疫組織化学、ELISAまたは他の任意の酵素方法などアッセイ中の特定抗体を用いた培養、特定リガンド、クロマトグラフィー、質量分析などを用いた培養により作製されたDNAマイクロアレイ;により、細胞中で測定または決定することができる。
【0050】
M2マクロファージが本発明方法の(b)ステップで回収されると、これらは、組織修復の目的で個体、好ましくは損傷領域に投与される、或いはそれらはそれらの使用のために、損傷または怪我をした組織の再生における細胞治療医薬品として医学的または医薬組成物に加えられる。それ故、本発明の別の態様は、本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団を含む医薬組成物、以下「本発明の組成物」または「本発明の医薬組成物」に関するものである。
【0051】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容されるビヒクル、賦形剤、補助剤および/または他の活性成分を追加で含んでいてもよい。
【0052】
用語「賦形剤」は、本発明組成物の成分の吸収を助け、この成分を安定化し、活性化し、或いはコンシステンシーを与えるという意味で組成物の調製を助ける物質を指している。従って、賦形剤は、例えばデンプン、砂糖またはセルロースの場合のように成分を互いに結合させる結合機能、甘味機能、染色機能、例えば組成物を空気および/または湿気から隔離して組成物を保護する保護機能、例えば二塩基性リン酸カルシウムの場合のように丸薬、カプセルまたは他の提示形状に充填する充填機能、成分およびそれらの成分を溶出および吸収し易くする崩壊機能があるが、この文章で述べていない如何なる種類の賦形剤も除外するものではない。
【0053】
賦形剤と同様に、「薬学的に許容されるビヒクル」は、その組成物中で、任意の成分がある容積または重量になるまで希釈するに使用する物質または物質の組合わせである。用語「ビヒクル」は、本発明の組成物が一緒に投与されなければならない溶媒、補助剤、賦形剤または担体を指している。明らかに、このビヒクルは、この組成物およびこの中にある細胞と適合したものでなければならない。薬学的に許容されるビヒクルは、限定するものではないが、固体、液体、溶剤または界面活性剤がある。ビヒクルの例は、限定するものではないが、水、オイル類または界面活性剤があり、このオイル類または界面活性剤は、石油、動物、植物もしくは合成起源のものが含まれ、例えば、限定しない意味で、ピーナツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油、ひまし油、ポリソルベート類、ソルビタンエステル類、硫酸エーテル類、硫酸塩類、ベタイン類、グルコシド類、マルトシド類、脂肪アルコール類、ノノキシノール類、ポロキサマー類、ポリオキシエチレン類、ポリエチレングリコール類、デキストロース、グリセロール、ジギトニンなど、およびそれらの混合物がある。薬理学的に許容されるビヒクルは、本発明組成物に含まれる成分のいずれかと同様の動きを有する不活性物質またはビヒクルである。ビヒクルの機能は、他の成分との一体化を容易にすること、投与および服用し易くすること、および組成物にコンシステンシーと形状を与えることである。提示形状が液体である場合、薬理学的に許容されるビヒクルは、溶剤である。
【0054】
本発明組成物は、本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団を治療上有効な量または濃度で含んでいる。「治療上の有効量」は、治療される患者に投与されたときに所望の効果をもたらし、それによって組織修復および炎症緩和を促進する本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団の量または濃度であると理解される。治療上の有効量は、様々な要因、例えば、限定するものではないが、組織内の損傷のタイプ、損傷度、および損傷の広がり、ならびに本発明組成物が投与されようとしている個体の年齢、体調、細胞治療への応答能または耐性能力などに応じて変わる。
【0055】
本発明の組成物および/またはその製剤は、例えば、限定するものではないが、非経口、腹腔内、静脈内、皮内、硬膜外、脊髄内、基質内、関節内、滑膜内、髄腔内、病巣内、動脈内、心臓内、筋肉内、鼻腔内、頭蓋内、皮膚もしくは皮下、眼窩内、嚢内、局所、眼または眼球、外科用インプラントの手段、内部外科用ペイント、注入ポンプまたはカテーテルによるなど様々の方法で投与できる。
【0056】
本発明組成物は、最新技術で知られている様々な方法で、動物に、好ましくはヒトを含む哺乳動物に投与するように処方することができる。製剤の例としては、局所投与または非経口投与、好ましくは非経口投与用に、任意の固体組成物(錠剤、丸薬、カプセル、袋、ボトル、粉末、顆粒、棒、薬棒、蒸発器、エアロゾルなど)、半固体(軟膏、クリーム、香油、ゲル、ヒドロゲル、フォーム、ローション、石鹸、ゼラチンなど)、または液体(水性または非水性溶液、水性アルコールまたは水性グリコール溶液、懸濁液、エマルション、シロップ、無水組成物、水性分散液、油、ミルク、バルサム、塗り薬、血清など)がある。本発明の組成物はまた、徐放性製剤または任意の他の従来の放出システムの形態であることができる。用語「徐放性」は、従来からの意味で、前記の細胞を、ある時間にわたって徐々に放出できる、好ましくは、必ずしも必要ではないが、細胞をある時間にわたって比較的一定の細胞放出ができる化合物または細胞運搬作用システムに関して用いられる。徐放性のビヒクルまたはシステムの具体例は、限定するものではないが、リポソーム、混合リポソーム、オレオソーム、ニオソーム、エトソーム、ミリカプセル、マイクロカプセル、ナノカプセル、スポンジ、シクロデキストリン、ブリスター、ミセル、混合界面活性剤ミセル、混合界面活性剤リン脂質ミセル、ミリスフェア、マイクロスフェア、ナノスフェア、リポスフェア、マイクロエマルジョン、ナノエマルジョン、ミニ粒子、ミリ粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子、固体脂質ナノ粒子、ナノ構造脂質媒体、ポリマー材料、生分解性もしくは非生分解性パッチもしくはインプラント、または例えば生分解性マイクロ粒子などのマイクロ粒子がある。
【0057】
本発明の組成物はまた、本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団を、組織再生および/または組織炎症の緩和に充分な濃度で所望の領域に放出することを可能にする医療用具(medical devices)によって適用するのに適している。これらの用具は、好ましくは、細胞を局所に投与して、治療が罹患領域に作用し、分散しないようにするに適したものでなければならない。これらの用具は、例えば、限定するものではないが、その内部に細胞を含み、またはそれでコーティングすることができる。
【0058】
本発明の別の態様は、本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団を含むインプラント(固体、液体またはゲルなどの半固体)または医療用具に関する。このインプラントまたは医療用具は、その内部にマクロファージを含み得る、またはマクロファージでコーティングできる。
【0059】
本発明の別の態様は、マクロファージ、好ましくは単球を、個体から、より好ましくは血液流から、例えば生体適合の勾配によって単離することができる医療用具または医療器具(medical instrument)に関するものである。ここでこの医療用具または器具は、さらに、単離された細胞上に低酸素状態を作ることができるチャンバを有している。すなわち、この医療用具のチャンバ(低酸素チャンバ)は、マクロファージを低酸素にさらすことができる。その後、低酸素受けたマクロファージは、組織の修復または再生のために、個体の体内、好ましくは損傷のある組織に再導入される。本発明の別の態様は、組織修復、組織再生、組織再構築、創傷治療、炎症消散、創傷治療および/または修復、(組織)炎症治療、損傷、怪我または障害がある組織の治療などのために、組織損傷の治療を行う医療用具または器具の使用に関するものである。
【0060】
従って、本発明の別の態様は、単離された細胞上を低酸素および再酸素化状態にすることができる用具に関する。提案した用具は、前述の方法を実施することができる。
【0061】
この用具は、無菌条件下で生体サンプル、好ましくは血液サンプル、または細胞画分を充填することができ、さらに少なくとも2つの異なったガス源から少なくとも2つの異なるガス組成物を充填することができる取り外し可能チャンバを有している。この用具はさらに、細胞を、マクロファージを組織内に注入するに適した医療器具に回収できるようにしている。
【0062】
この用具の取り外し可能なチャンバはまた、生体サンプル、好ましくは血液を遠心分離して、複数の細胞画分を得、そしてその生体サンプルから細胞画分を単離するにも使用できる。
【0063】
本発明の別の態様は、医薬、好ましくは細胞療法医薬として、より好ましくは、組織修復、組織再生、組織再構築、創傷治癒、炎症消散、傷の治療および/または修復、(組織)炎症治療、損傷した、怪我をしたまたは障害がある組織の治療などとして、本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団の使用に関するものである。
【0064】
本発明の別の態様は、本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団の医薬製造への使用に関するものであり、この医薬は、好ましくは、細胞治療医薬、より好ましくは、組織修復、組織再生、組織再構築、創傷治癒、炎症消散、傷の治療および/または修復、(組織)炎症治療、損傷した、損傷したまたは障害がある組織の治療などを目的にした細胞治療医薬である。
【0065】
本発明の別の態様は、組織修復、組織再生、組織再構築、創傷治癒、炎症消散、傷の治療および/または修復、(組織)炎症治療、損傷した、損傷したまたは障害がある組織の治療など、それを必要とする被験体に、本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団または本発明の医薬組成物を治療上有効量で投与することを含む方法に関するものである。
【0066】
本発明の他の態様は、医薬として使用する本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団に関するものである。好ましい実施形態では、この医薬は、細胞治療医薬である。
【0067】
本明細書で使用する「細胞治療(cell therapy)」(英語では、“cellular therapy”または“cytotherapy”とも呼ばれる)は、細胞材料または細胞を患者に注射する治療法を指す。本発明の場合では、健全な生きた細胞を意味している。
【0068】
本発明の別の態様は、組織損傷の治療において使用する、または組織修復、組織再生、組織再構築、創傷治癒、炎症消散、傷の治療および/または修復、(組織)炎症治療、損傷した、損傷したまたは障害がある組織の治療などにおいて使用する本発明のM2マクロファージまたは本発明のM2マクロファージ集団に関する。
【0069】
好ましくは、本発明に従って修復される組織は、骨格筋、皮膚、神経組織、腎臓、肝臓、脳、肺または一般的に任意の腫れた体組織である。より好ましくは、修復される組織は骨格筋であり、さらにより好ましくは過剰使用または外傷により損傷を受けた骨格筋である。
【0070】
本発明の他の態様は、本発明のM2マクロファージ、本発明のM2マクロファージ集団または本発明の医薬組成物を、好ましくは治療上有効量で含むキット、以下「本発明のキット」およびマクロファージを組織に注射するに適した医療器具に関するものである。
【0071】
「組織へのマクロファージの注入に適した医療器具」は、細胞を体内に封入(好ましくは注入)するに使用できる任意の医療用具または器具である。これらの用具または器具の例は、限定するものではないが、シリンジ、バイアル、カテーテル、針、カニューレ、または細胞治療に使用される一般に当技術分野で公知の任意の器具である。
【0072】
本発明のM2マクロファージ、本発明のM2マクロファージ集団または本発明の医薬組成物は、例えば、バイアル中にカプセル化され、ラベルが付され、および/または本発明のキット中の支持体に固定化されていてもよい。
【0073】
さらに、本発明のキットは、キット中の本発明のM2マクロファージ、本発明のM2マクロファージ集団または本発明の医薬組成物を、インビトロまたはエキソビボで維持するに有用な他の成分を含んでいてもよい。
【0074】
本発明のキットは、抗生物質、静菌剤、殺菌剤および/または防カビ化合物などそれに含まれるM2マクロファージの汚染を防ぐ成分も含んでいてよい。
【0075】
本発明のキットはまた、組織修復、組織再生、組織再構築、創傷治癒、炎症の消散、傷の治療および/または修復、(組織)炎症治療、損傷した、怪我をしたまたは障害がある組織の治療などに適した他の化合物、医薬組成物または医薬を含んでいてよい。これらの追加の化合物は、本発明のM2マクロファージ、本発明のM2マクロファージ集団または本発明の医薬組成物を用いた細胞療法において(組み合わせて)補助剤として作用するであろう。
【0076】
他に定義されない限り、ここに使用した全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有している。ここに記載したと類似または同等の方法および材料は、本発明を実施するのに使用できる。説明および特許請求の範囲を通して、用語「含む」およびその変形は、他の技術的形態、添加剤、構成成分、またはステップを排除することを意図していない。本発明のさらなる目的、利点および特徴は、本記載を検討することで当業者には明らかとなり、または本発明の実施によって習得することができる。以下の実施例、図面および実施順序は、例示のために提供するものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0077】
〔実施例1:腹腔マクロファージの極性化に及ぼす短時間低酸素-再酸素化の影響〕
1.1.目的
この目標は、マクロファージを低酸素-再酸素化(低酸素3分-再酸素化45秒)を1、2、3、4または5シリーズ受けると、標準培養条件でのコントロールに比較して、NGALとIL10発現を増加させてマクロファージのM2表現型への極性化が促進されるかを評価することである。
【0078】
1.2.実験デザイン
(a)酸素標準状態(CO2;5%とプラス大気)のコントロール群:
6匹のマウスから腹腔マクロファージを抽出および単離し、標準条件下で24時間培養した。
(b)低酸素(窒素:95%;CO2:5%;O2;0%)- 再酸素化を1、2、3、4または5シリーズと、プラス再酸素化を1時間30分受けた群:
【0079】
6匹のマウスから腹腔マクロファージを抽出および単離し、標準条件下で24時間培養した。次いで、マクロファージに、低酸素-再酸素化(低酸素を3分-再酸素化を45’秒)を1、2、3、4または5シリーズ行った。最後に、マクロファージに再酸素化を1時間30分行った。
【0080】
1.3.材料と方法
腹腔マクロファージを抽出するために、6匹のマウスにチオグリコレート2.5mlを腹腔内注射した。
【0081】
このプロセスを、それぞれのマウスに1回で、6回行った。
1)腹腔マクロファージを、PBS20ml中に抽出した。
2)細胞を、PBS10%、P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)1%を含むRPMI培地1mlに再懸濁した。
3)細胞を計数し、1ウェルあたり350万個の生きた細胞を播種した(表1)。
【0082】
【0083】
次いで、低酸素チャンバ内で、間欠的に低酸素プロトコルを、窒素が95%およびCO2が5%、O2が0%の条件で行った。評価したグループは以下の通りである。
1)酸素標準条件下(CO2;5%とプラス大気)でのコントロール:PBS10%、P/S1%を含むRPMI培地2mlに24時間置いたウエル中の腹腔マクロファージ
2)低酸素-再酸素化を1シリーズ。PBS10%、P/S1%を含むRPMI培地2mlのウェル中、低酸素が3分/再酸素化が45秒を1シリーズと、プラス再酸素化を1時間30分受けた腹腔マクロファージ。
3)低酸素-再酸素化を2シリーズ。PBS10%、P/S1%を含むRPMI培地2mlのウェル中、低酸素が3分/再酸素化が45秒を2シリーズと、プラス再酸素化を1時間30分受けた腹腔マクロファージ。
4)低酸素-再酸素化を3シリーズ。PBS10%、P/S1%を含むRPMI培地2mlのウェル中、低酸素が3分/再酸素化が45秒を3シリーズと、プラス再酸素化を1時間30分受けた腹腔マクロファージ。
5)低酸素-再酸素化を4シリーズ。PBS10%、P/S1%を含むRPMI培地2mlのウェル中、低酸素が3分/再酸素化が45秒を4シリーズと、プラス再酸素化を1時間30分受けた腹腔マクロファージ。
6)低酸素-再酸素化を5シリーズ。PBS10%、P/S1%を含むRPMI培地2mlのウェル中、低酸素が3分/再酸素化が45秒を5シリーズと、プラス再酸素化を1時間30分受けた腹腔マクロファージ。
【0084】
各群で各プロトコルが終了したら、細胞を標準条件下で1時間30分間培養した。この後、細胞を採取し、引き続き行うRNA抽出プロトコルのために乾燥ペレット中で凍結させた。
【0085】
凍結サンプルからRNAを抽出し、cDNAへの逆転写を行った。細胞からの全RNAは、RNeasyミニキットを用い、製造元のプロトコル(Qiagen,Barcelona,Spain)に従って単離した。RNA濃度は、Nanodrop ND-1000(NanoDrop Technologies、Wilmington、DE、USA)を使用してA260決定して計算した。cDNAは、Bio-RadからのiScript-cDNA合成キットを用い、製造者の推奨に従って合成した。定量的RT-PCRは、SYBR Green RT-PCR検出キット(Bio-Rad、Madrid、Spain)で、製造者の指示に従って使用して実施した。リアルタイムPCRの結果は、Bio-RadからのGene Expression Macro(バージョン1.1)を用い、安定発現(ハウスキーピング遺伝子)のための内部コントロールとしてグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)で定量した。
【0086】
各群におけるNGALおよびIL10発現を評価するために、いくつかのRT-PCRを行った。
【0087】
1.4.結果
低酸素3分-再酸素化45秒を1、2、および3シリーズ行うと、NGAL発現の増加となるが、測定した両方のパラメータ(NGALとIL-10)での有意性は、4シリーズ行ったときのみ達成されたが、5シリーズではNGALレベルが下がっていた(
図1及び2)。
【0088】
〔実施例2:用具の好ましい実施態様の説明〕
図3aに、前述の方法に従って単離したマクロファージ上に低酸素状態および再酸素化状態を作るために提案した用具のダイアグラムを示している。
図3bは、その用具の斜視図である。
【0089】
この図に見られるように、用具の主要構成物は、単離されたマクロファージを収容するように構成された取外し可能チャンバ(1)、第1ガス流通回路(2)および第2ガス流通回路(3)である。
【0090】
第1ガス流通回路(2)は、取外し可能チャンバ(1)に接続され、好ましくは栓である第1取外し可能接続部(4)、第1ガス源(5)および第2ガス源(6)を備えている。第1および第2ガス源(5、6)は、取外し可能チャンバ(1)に通すガスのガス供給源を選択するように構成された電磁バルブ(7)に接続されている。
【0091】
第1ガス流通回路(2)はまた、電磁バルブ(7)と第1取外し可能接続部(4)との間に圧力センサ(16)を配置することができる。本発明の別の実施形態では、圧力センサ(16)は、電磁バルブ(7)とガスセンサ(11)または安全弁(10)またはHEPAフィルタ(9)との間に配置される。
【0092】
第2ガス流通回路(3)は、取外し可能チャンバ(1)に接続された第2取外し可能接続部(8)と、外部環境(15)に接続された接続部または真空用具に接続された接続部とを備えている。第2ガス流通回路(3)は、取外し可能チャンバ(1)内部のガスの除去を制御するように構成されている。
【0093】
第1ガス流通回路(2)は、さらに第1ガス源(5)とバルブ(7)との間、または第2ガス源(6)とバルブ(7)との間に少なくとも1つのHEPAフィルタ(9)および/または安全弁(10)を備えている。好ましくは、用具が両方の構成物を持つとき、安全弁(10)は、第1ガス源(5)または第2ガス源(6)とバルブ(7)との間に配置される。
【0094】
この場合、安全弁(10)は、第1ガス流通回路(2)を過圧から保護するためのものである。これが、安全弁(10)が、第1ガス流通回路(2)の入口と出口に配置されなければならない理由である。
【0095】
この用具はまた、第1ガス流通回路(2)内に、バルブ(9)と取外し可能チャンバ(1)に接続する第1取外し可能接続部(4)との間にガスセンサ(11)を備えることができる。取外し可能チャンバ(1)の内部にガスセンサを入れるのは不可能であるので、導入されるガスの量を確実にするために、本発明の好ましい実施形態では、取外し可能チャンバ(1)からのガスの入口/出口にガスセンサ(11)がある。
【0096】
好ましくは、第1ガス流通回路(2)は、さらにガスセンサと第1取外し可能接続部(4)との間に安全弁(10)および/またはHEPAフィルタ(9)を備えている。
【0097】
第1取外し可能接続部(4)は、好ましはルアーロックコネクターまたはルアーロックバルブである。
【0098】
さらに、第2ガス流通回路(3)は、第2取外し可能な接続部(8)と外部環境(15)に接続された接続部または真空用具に接続された接続部との間に少なくともHEPAフィルタ(9)および/または安全弁(10)を備えることができる。両方の構成物がある場合には、HEPAフィルタ(9)は、好ましくは、第2取外し可能接続部(8)と安全弁(10)との間に配置される。
【0099】
第2取外し可能接続部(8)は、好ましくはルアーロックコネクタまたはルアーロックバルブである。
【0100】
第2ガス流通回路(3)において、安全弁(10)はこのガス流通回路(3)を、過圧に対して保護することを意図している。
【0101】
第1取外し可能接続部(4)および第2取外し可能接続部(8)は、取外し可能チャンバ(1)の少なくとも受入接続部(14)に接続するように構成される。少なくとも1つの受入接続部(14)は、本発明の一実施形態では、ルアーロックバルブのあるストップロックである。
【0102】
第2ガス流通回路(3)はまた、第2取外し可能接続部(8)と外部環境(15)に接続された接続部または真空用具に接続された接続部との間にガスセンサー(11)を備えることができる。
【0103】
また、第2ガス流通回路(3)は、第2取外し可能接続部(8)と真空用具に接続された接続部または外部環境(15)に接続された接続部との間に少なくとも電磁バルブおよび/またはポンプ(12)を備えることができる。
【0104】
好ましくは、取外し可能チャンバ(1)は、遠心管である。
図4a~
図4dには、取外し可能チャンバ(1)のいくつかの異なる実施形態を示している。この用具はまた、ガスセンサ(11)からのシグナルを受信するように構成されたコントローラを備え、その受信したシグナルに応じて、どのガス源(5、6)からのガスを取外し可能チャンバ(1)に充填するかを選択するために、バルブ(7)および電磁バルブまたはポンプ(12)を制御する。
【0105】
前述したように、取外し可能チャンバ(1)は、好ましくはチューブであり、より好ましくは遠心分離チューブである。取外し可能チャンバ(1)は、チャンバ内を長さ方向に移動することができるプランジャ(13)を備えることができ、このプランジャ(13)は、
図4aに見られるように、1つの受入接続部(14)を有する少なくとも1つのポート、好ましくは、細胞を取外し可能チャンバ(1)の内部に入れるまたは内部から取出すことができるシリンジまたは他の任意の適切な用具に連結できるルアーロックバルブを備えている。次いで、受入接続部(14)は、第1および第2ガス流通回路(5、6)に気密に結合して、ガスを取外し可能チャンバ(1)の内部に充填および内部から排出できる。
【0106】
特定の実施形態(
図4b)では、プランジャ(13)は、シリンジに接続することができるガスの入口および出口用の共通受入接続部、第1ガス流通回路(2)と気密に結合できる第2受入接続部(14b)、および第2ガス流通回路(3)と気密に結合できる第3受入接続部(14c)を備えている。別の可能な実施形態で、
図4cに示すように、プランジャ(13)を針で打ち抜いて、細胞を取外し可能チャンバ(1)の内部に入れるまたは内部から取出す、或いはガス組成物を取外し可能チャンバ(1)の内部に充填および内部から排出できるようにする。
【0107】
別の実施形態(
図4d)では、プランジャー(13)を針(14a)で打ち抜いて、細胞を取外し可能チャンバ(1)の内部に入れるまたは内部から取出すことができ、そして、第1ガス流通回路(2)に気密に結合することができる第1受入接続部(14b)と、第2ガス流通回路(3)に気密に結合することができる第2受入接続部(14c)を備えている。
【0108】
用具内で行うプロセスの例を説明する。この場合、個体からの血液サンプルを、シリンジを使用してチューブ(取外し可能チャンバ(1))に入れ、遠心分離にかけて複数の細胞画分を得る。次いで、第2のシリンジを取外し可能チャンバ(1)の受入接続部(14)(ルアーロック)に接続し、プランジャ(13)を取外し可能チャンバ(1)内の下方に移動させると単離された細胞画分がシリンジに入る。このプロセスを、目的の細胞画分がそれぞれのシリンジ内に分割されるまで数回繰り返す。
【0109】
目的の細胞画分を、用具の取外し可能チャンバ(1)に入れる。取外し可能チャンバ(1)を用具に接続し、先ず、取外し可能チャンバ(1)の内部にあったガス組成物を、第2ガス流通回路(3)を通して第1のガス組成物(N2)で置換し、その後、第2ガス流通回路(3)を通して第2ガス組成物(合成空気)で満たす。このプロセスを4回繰り返す。
【0110】
取外し可能チャンバ(1)を用具から切り離し、シリンジを受入接続部(14)に接続し、プランジャ(13)を取外し可能チャンバ(1)内を下方に動かし、細胞画分をシリンジ中に回収する。