(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220106BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20220106BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220106BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220106BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220106BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20220106BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220106BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220106BHJP
H01M 10/39 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/48
H01M10/39 A
(21)【出願番号】P 2019552753
(86)(22)【出願日】2018-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2018040686
(87)【国際公開番号】W WO2019093221
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2017217188
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017235917
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(72)【発明者】
【氏名】武内 幸久
(72)【発明者】
【氏名】大和田 巌
(72)【発明者】
【氏名】由良 幸信
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊広
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-084477(JP,A)
【文献】特開2017-033689(JP,A)
【文献】特開2015-065021(JP,A)
【文献】特開2016-100218(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188232(WO,A1)
【文献】特開2016-066550(JP,A)
【文献】特開2010-212062(JP,A)
【文献】特開2012-099225(JP,A)
【文献】特表2015-534243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0585
H01M 10/39
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物形態の正極活物質を含む無機材料で構成される厚さ25μm以上の焼結体板である正極板と、酸化物形態の負極活物質を含む無機材料で構成される厚さ25μm以上の負極板と、無機固体電解質層とを含み、
前記正極板の気孔率が10~50%であり、前記正極板に含まれる気孔
の70%以上に無機固体電解質が充填されており、
前記負極板の気孔率が10~50%であり、前記負極板に含まれる気孔の70%以上に無機固体電解質が充填されており、
100℃以上の温度で充放電されることを特徴とする、二次電池。
【請求項2】
前記温度が100~300℃である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極板の厚さが25~400μmであり、かつ、前記負極板の厚さが25~400μmである、請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記負極板の容量Aに対する前記正極板の容量Cの比率C/Aが、1.0<C/A<1.6を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質が、Li
xMO
2(0.05<x<1.10であり、MはCo、Ni、Mn及びAlからなる群から選択される少なくとも1種を含む)で表されるリチウム複合酸化物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記正極板に含まれる前記正極活物質の複数の粒子が、物理的及び電気的に互いに連結している、請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記正極板が、リチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、前記複数の一次粒子が前記正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極板である、請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記正極板が前記無機固体電解質及び前記正極活物質のみからなる、請求項1~
7のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項9】
前記正極板に含まれる気孔の85%以上に前記無機固体電解質が充填されている、請求項1~
8のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項10】
前記正極板が1.2以上の平均気孔アスペクト比を有する、請求項1~
9のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項11】
前記正極板に含まれる複数の気孔が配向している、請求項1~
10のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項12】
前記負極活物質が少なくともTiを含有する酸化物である、請求項1~
11のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項13】
前記負極板に含まれる前記負極活物質の複数の粒子が、互いに物理的及び電気的に連結している、請求項1~
12のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項14】
前記負極板が焼結体板である、請求項1~
13のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項15】
前記負極板が前記無機固体電解質及び前記負極活物質のみからなる、請求項
1~14のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項16】
前記負極板に含まれる気孔の85%以上に前記無機固体電解質が
充填されている、請求項
1~15のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項17】
前記無機固体電解質が、前記正極板又は前記負極板の融点若しくは分解温度よりも低い融点を有する、請求項1~
16のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項18】
前記無機固体電解質が、電池作動温度を超え600℃以下の融点を有する、請求項1~
17のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項19】
前記無機固体電解質層の厚さTe、前記正極板の厚さTc、及び前記負極板の厚さTaが、Te/(Tc+Ta)<0.25を満たす、請求項1~
18のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項20】
請求項1~
19のいずれか一項に記載の二次電池を製造する方法であって、
前記正極板又は前記負極板に、前記正極板又は前記負極板の融点若しくは分解温度よりも低い融点を有する無機固体電解質粉末を載置する工程と、
前記無機固体電解質粉末上に前記負極板又は前記正極板を載置する工程と、
前記負極板を前記正極板に向けて又は前記正極板を前記負極板に向けて100~600℃の温度でプレスして、前記無機固体電解質粉末を溶融させて前記正極板内又は/及び前記負極板内の空隙に浸透させる工程と、
前記正極板、前記溶融された電解質、及び前記負極板を放冷又は冷却して、前記溶融された電解質を凝固させる工程と、
を含む、方法。
【請求項21】
前記二次電池が、前記正極板と前記負極板の間に前記無機固体電解質層の厚さを規定するスペーサを備えており、
前記無機固体電解質粉末上に前記負極板又は前記正極板を載置する際に、前記正極板と前記負極板の間に前記スペーサが前記無機固体電解質粉末と一緒に挟み込まれる、請求項
20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話等のポータブル機器の開発に伴い、その電源としての電池の需要が大幅に拡大している。このような用途に用いられる電池においては、イオンを移動させる媒体として、希釈溶媒に可燃性の有機溶媒を用いた有機溶媒等の液体の電解質(電解液)が従来使用されている。このような電解液を用いた電池においては、電解液の漏液や、発火、爆発等の問題を生ずる可能性がある。かかる問題を解消すべく、本質的な安全性確保のために、液体の電解質に代えて固体電解質を使用するとともに、その他の要素の全てを固体で構成した全固体二次電池の開発が進められている。全固体二次電池は、電解質が固体であることから、発火の心配が少なく、漏液せず、また、腐食による電池性能の劣化等の問題も生じ難い。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2016-66550号公報)には、高温下で安定した充放電特性を有する全固体二次電池として、Li、Al、Ti及びPを含むNASICON構造を持つ第1の層と、Tiを含まずにLi、Al、M(但し、MはGe又はZrである)及びPを含むNASICON構造を持つ第2の層とを有する固体電解質層を備えたものが開示されている。この文献には、正極層の厚さが9μm、負極層の厚さが12μm、固体電解質層の厚さが12μmの全固体二次電池を製造したことが記載されている。
【0004】
特許文献2(特開2015-185337号公報)には、正極、負極及び固体電解質層を有し、正極又は負極にチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)焼結体を用いた全固体電池が開示されている。
【0005】
特許文献3(国際公開第2017/146088号)には、固体電解質を備えるリチウム二次電池の正極として、コバルト酸リチウム(LiCoO2)等のリチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極板を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-66550号公報
【文献】特開2015-185337号公報
【文献】国際公開第2017/146088号
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される全固体二次電池は、容量ないしエネルギー密度が低いとの問題がある。一方、特許文献2に開示される全固体二次電池は、高温条件下で駆動した際における電池の劣化が顕著であるとの問題がある。
【0008】
本発明者らは、今般、酸化物を含む無機材料製の正極板及び負極板、並びに無機固体電解質層を備えた二次電池において、正極板及び負極板の各々を25μm以上の厚さとし、かつ、100℃以上の温度で充放電させることで、二次電池の大容量化を図りながら、急速充放電を高いサイクル容量維持率で実現できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、二次電池の大容量化を図りながら、急速充放電を高いサイクル容量維持率で実現することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、酸化物形態の正極活物質を含む無機材料で構成される厚さ25μm以上の正極板と、酸化物形態の負極活物質を含む無機材料で構成される厚さ25μm以上の負極板と、無機固体電解質層とを含み、100℃以上の温度で充放電されることを特徴とする、二次電池が提供される。
【0011】
本発明の別の態様によれば、酸化物形態の正極活物質を含む無機材料で構成される厚さ25μm以上の正極板と、酸化物形態の負極活物質を含む無機材料で構成される厚さ25μm以上の負極板と、無機固体電解質層とを含む二次電池を用意する工程と、
前記二次電池を100℃以上の温度に加熱して充放電させる工程と、
を含む、二次電池の使用方法が提供される。
【0012】
本発明の別の態様によれば、前記二次電池を製造する方法であって、
前記正極板又は前記負極板に、前記正極板又は前記負極板の融点若しくは分解温度よりも低い融点を有する無機固体電解質粉末を載置する工程と、
前記無機固体電解質粉末上に前記負極板又は前記正極板を載置する工程と、
前記負極板を前記正極板に向けて又は前記正極板を前記負極板に向けて100~600℃の温度でプレスして、前記無機固体電解質粉末を溶融させて前記正極板内又は/及び前記負極板内の空隙に浸透させる工程と、
前記正極板、前記溶融された電解質、及び前記負極板を放冷又は冷却して、前記溶融された電解質を凝固させる工程と、
を含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の二次電池の一例を示す模式断面図である。
【
図2】配向正極板の板面に垂直な断面の一例を示すSEM像である。
【
図3】
図2に示される配向正極板の断面におけるEBSD像である。
【
図4】
図3のEBSD像における一次粒子の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
二次電池
本発明は二次電池に関するものである。本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な電池を広く指すものであり、正極板、負極板及び固体電解質層の各々が後述する無機材料で構成される限り、特に限定されない。そのような二次電池の例としては、リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池とも称される)、ナトリウムイオン電池、マグネシウムイオン二次電池、アルミニウムイオン二次電池等が挙げられ、好ましくはリチウム二次電池である。
【0015】
図1に本発明の二次電池の一例を模式的に示す。
図1に示される二次電池10は、正極板12、無機固体電解質層14、及び負極板16を含む。正極板12は、酸化物形態の正極活物質を含む無機材料で構成される。負極板16は、酸化物形態の負極活物質を含む無機材料で構成される。正極板12及び負極板16の厚さはそれぞれ25μm以上である。そして、この二次電池10は、100℃以上の温度で充放電されるものである。このように、酸化物を含む無機材料製の正極板12及び負極板16、並びに無機固体電解質層14を備えた二次電池において、正極板12及び負極板16の各々を25μm以上の厚さとし、かつ、100℃以上の温度で充放電させることで、二次電池10の大容量化を図りながら、急速充放電を高いサイクル容量維持率で実現することができる。すなわち、正極板12及び負極板16が上述のとおり厚いことで、二次電池10は大容量の電池として構成可能である。つまり、正極板12及び負極板16がいずれもセラミックス部材であるため、それらの厚みを任意に厚くすることで、高容量化及び高エネルギー密度化を実現することができる。そして、かかる二次電池10を100℃以上の高温で充放電させることで、急速充放電が可能となる。つまり、二次電池10は上記温度で高速でかつ安定に駆動することができる。しかも、急速充放電を繰り返し行っても高い容量を維持することができる、すなわち高いサイクル容量維持率を実現することができる。
【0016】
したがって、二次電池10は100℃以上の作動温度で充放電されるものであるが、好ましい作動温度が100~300℃であり、より好ましくは100~200℃、さらに好ましくは100~150℃である。上記作動温度を実現するための加熱手段は、各種ヒータや発熱を伴う各種装置又はデバイスであることができるが、好ましい例としては通電加熱式セラミックヒーターが挙げられる。換言すれば、本発明の二次電池10は加熱手段を伴った二次電池システムとして提供されるのが好ましい。
【0017】
正極板12は無機材料で構成されており、この無機材料は酸化物形態の正極活物質を含む。酸化物形態の正極活物質は、二次電池10の種類に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、リチウム二次電池の場合、正極活物質はリチウム複合酸化物であるのが好ましい。リチウム複合酸化物とは、LixMO2(0.05<x<1.10であり、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、Mは典型的にはCo、Ni、Mn及びAlからなる群から選択される少なくとも1種を含む)で表される酸化物である。リチウム複合酸化物は層状岩塩構造を有する。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的にはα-NaFeO2型構造、すなわち立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。リチウム複合酸化物の例としては、LixCoO2(コバルト酸リチウム)、LixNiO2(ニッケル酸リチウム)、LixMnO2(マンガン酸リチウム)、LixNiMnO2(ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixNiCoO2(ニッケル・コバルト酸リチウム)、LixCoNiMnO2(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixCoMnO2(コバルト・マンガン酸リチウム)、Li2MnO3、及び上記化合物との固溶物等が挙げられ、特に好ましくはLixCoO2(コバルト酸リチウム、典型的にはLiCoO2)である。リチウム複合酸化物には、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y,Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Bi、及びWから選択される1種以上の元素が含まれていてもよい。あるいは、他の構造として、スピネル構造を持つLiMn2O4系材料やLiNi0.5Mn1.5O4系材料、オリビン構造を持つLiMPO4(式中、MはFe、Co、Mn及びNiから選択される少なくとも1種である)等も好適に用いることができる。
【0018】
正極板12に含まれる正極活物質の複数の粒子は、物理的及び電気的に互いに連結しているのが、エネルギー密度を高めつつ電子伝導性及びイオン導電性を高める観点から好ましい。したがって、正極板12は焼結体板(例えばリチウム複合酸化物焼結体板)であるのが好ましい。焼結体板の場合、正極板にはバインダーが含まれないため、正極活物質(例えばリチウム複合酸化物)の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率を得ることができる。なお、正極板にはバインダーが含まれない理由は、グリーンシートにバインダーが含まれていたとしても、焼成時にバインダーが消失又は焼失するからである。
【0019】
正極板12がリチウム複合酸化物焼結体板である場合、正極板12は、リチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極板であるのが好ましい。かかる配向正極板は、特許文献3(国際公開第2017/146088号)に記載される方法に従って製造することができる。
図2に配向正極板の板面に垂直な断面SEM像の一例を示す一方、
図3に配向正極板の板面に垂直な断面における電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)像を示す。また、
図4に、
図3のEBSD像における一次粒子11の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムを示す。
図3に示されるEBSD像では、結晶方位の不連続性を観測することができる。
図3では、各一次粒子11の配向角度が色の濃淡で示されており、色が濃いほど配向角度が小さいことを示している。配向角度とは、各一次粒子11の(003)面が板面方向に対して成す傾斜角度である。なお、
図2及び3において、配向正極板の内部で黒表示されている箇所は気孔である。
【0020】
図2及び3に示されるように、正極板12は、互いに結合された複数の一次粒子11で構成された配向焼結体であるのが好ましい。各一次粒子11は、主に板状であるが、直方体状、立方体状及び球状などに形成されたものが含まれていてもよい。各一次粒子11の断面形状は特に制限されるものではなく、矩形、矩形以外の多角形、円形、楕円形、或いはこれら以外の複雑形状であってもよい。
【0021】
図2及び3に示されるように、リチウム複合酸化物で構成される各一次粒子11の配向角度の平均値、すなわち平均配向角度は0°超30°以下であるのが好ましい。高温条件下で駆動した際における電池の劣化をより一層低減することができる。これは、以下に示される様々な利点が寄与したことによるものと考えられる。第一に、各一次粒子11が厚み方向に対して傾斜した向きに寝た状態になるため、各一次粒子同士の密着性を向上させることができる。その結果、ある一次粒子11と当該一次粒子11の長手方向両側に隣接する他の一次粒子11との間におけるイオン伝導性を向上させることができるため、レート特性を向上させることができる。第二に、サイクル特性を向上させることができる。すなわち、リチウムイオンの出入りに応じて(003)面と垂直な方向に各一次粒子11が伸縮するところ、板面方向に対する(003)面の傾斜角度を小さくすることによって、板面方向における配向正極板12の膨張収縮量が低減されて、配向正極板12と無機固体電解質層14との間に応力が生じることを抑制できる。第三に、レート特性をより向上させることができる。これは、上述のとおり、リチウムイオンの出入りに際して、正極板12では、板面方向よりも厚み方向における膨張収縮が優勢となるため、正極板12の膨張収縮がスムーズになるところ、それに伴ってキャリアイオン(例えばリチウムイオン)の出入りもスムーズになるからである。
【0022】
リチウム複合酸化物で構成される一次粒子11の平均配向角度は、(i)正極板をクロスセクションポリッシャ(CP)により研磨し、(ii)得られた正極板断面(正極板の板面に垂直な断面)を所定の倍率(例えば1000倍)及び所定の視野(例えば125μm×125μm)でEBSD測定し、(iii)得られたEBSD像において特定される全ての粒子について、一次粒子の(003)面と正極板の板面とがなす角度(すなわち(003)からの結晶方位の傾き)を傾斜角として求め、(iv)それらの角度の平均値を算出することにより決定することができる。一次粒子11の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、30°以下が好ましく、より好ましくは25°以下である。一次粒子11の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、2°以上が好ましく、より好ましくは5°以上である。
【0023】
図4に示されるように、リチウム複合酸化物で構成される各一次粒子11の配向角度は、0°から90°まで広く分布していてもよいが、その大部分は0°超30°以下の領域に分布していることが好ましい。すなわち、配向正極板12を構成する配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子11のうち配向正極板12の板面に対する配向角度が0°超30°以下である一次粒子11(以下、低角一次粒子という)の合計面積が、断面に含まれる一次粒子11(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。これにより、相互密着性の高い一次粒子11の割合を増加させることができるため、レート特性をより向上させることができる。また、低角一次粒子のうち配向角度が20°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の総面積に対して50%以上であることがより好ましい。さらに、低角一次粒子のうち配向角度が10°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の総面積に対して15%以上であることがより好ましい。
【0024】
リチウム複合酸化物で構成される各一次粒子11は、主に板状であるため、
図2及び3に示されるように、各一次粒子11の断面はそれぞれ所定方向に延びており、典型的には略矩形状となる。すなわち、配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子11のうちアスペクト比が4以上である一次粒子11の合計面積が、断面に含まれる一次粒子11(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。具体的には、
図3に示されるようなEBSD像において、これにより、一次粒子11同士の相互密着性をより向上することができ、その結果、レート特性をより向上させることができる。一次粒子11のアスペクト比は、一次粒子11の最大フェレー径を最小フェレー径で除した値である。最大フェレー径は、断面観察した際のEBSD像上において、一次粒子11を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最大距離である。最小フェレー径は、EBSD像上において、一次粒子11を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最小距離である。
【0025】
正極板12の気孔に無機固体電解質を充填させない場合、配向焼結体を構成する複数の一次粒子の平均粒径が5μm以上であるのが好ましい。具体的には、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の平均粒径が、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは12μm以上である。これにより、リチウムイオンが伝導する方向における一次粒子11同士の粒界数が少なくなって全体としてのイオン伝導性が向上するため、レート特性をより向上させることができる。一次粒子11の平均粒径は、各一次粒子11の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各一次粒子11と同じ面積を有する円の直径のことである。
【0026】
正極板12の気孔に無機固体電解質を充填させる場合、配向焼結体を構成する複数の一次粒子の平均粒径は20μm以下であるのが好ましい。具体的には、一次粒子11の平均粒径が、20μm以下であることが好ましく、より好ましくは15μm以下である。これにより、一次粒子11の粒内をリチウムイオンが伝導する距離が短くなり、レート特性をより向上させることができる。具体的には、例えば充電においては、リチウムイオンは正極一次粒子11の粒内から空隙に充填された固体電解質に移動し、更に膜状(或いは平面状)となっている固体電解質14を経て、対極の負極粒子へと移動するが、充填された固体電解質によって律速となる一次粒子11を含む正極内のリチウムイオンの伝導距離が短くなることから、レート特性を向上させることができる。一次粒径11の平均粒径は、焼結体板の断面SEM像を画像解析することにより測定することができる。例えば、焼結体板をクロスセクションポリッシャ(CP)で加工して研磨断面を露出させる。この研磨断面を所定の倍率(例えば1000倍)及び所定の視野(例えば125μm×125μm)でSEM(走査電子顕微鏡)により観察する。このとき、視野内に20個以上の一次粒子が存在するように視野を設定する。得られたSEM像中の全ての一次粒子について外接円を描いたときの当該外接円の直径を求め、これらの一次粒径11の平均粒径とすることができる。
【0027】
正極板12は気孔を含んでいるのが好ましい。正極板12が気孔を含むことで、充放電サイクルにおけるキャリアイオン(例えばリチウムイオン)の出入りに伴う結晶格子の伸縮によって発生する応力が、当該気孔によって良好(均一)に開放される。このため、充放電サイクルの繰り返しに伴う粒界クラックの発生が可及的に抑制される。正極板12に含まれる複数の気孔が配向しているのが、上記効果を高められる点で好ましい。複数の気孔の配向は、例えば、原料粒子に板状結晶を用いることにより実現することができる。特に、高温にて高速で充放電した際に上記効果は顕著なものとなる。
【0028】
正極板12の平均気孔アスペクト比は1.2以上であり、好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.8以上である。そして、このようなアスペクト比によって規定される異方性を有する気孔形状が、曲げた際の応力や充放電した際の応力を好都合に分散させることで、耐曲げ性や急速充電性能等の優れた性能を実現するものと考えられる。平均気孔アスペクト比の上限値は特に限定されないが、平均気孔アスペクト比は30以下が好ましく、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下である。正極板12の平均気孔アスペクト比は、正極板12内に含まれる気孔のアスペクト比の平均値であり、気孔のアスペクト比は、気孔の長手方向の長さの気孔の短手方向の長さに対する比である。平均気孔アスペクト比は、後述する実施例で詳述されるように、正極板12の断面SEM像を画像解析することにより測定することができる。
【0029】
正極板12の気孔率は2~20%であるのが好ましく、より好ましくは3~20%、さらに好ましくは5~18%である。このような範囲内であると、気孔による応力開放効果と、高容量化の効果とを望ましく実現することができる。正極板12の気孔率は、正極板12における、気孔(開気孔及び閉気孔を含む)の体積比率であり、後述する実施例で詳述されるように、正極板12の断面SEM像を画像解析することにより測定することができる。
【0030】
あるいは、正極板12の気孔率が10~50%であるのも好ましく、より好ましくは10~40%、さらに好ましくは12~35%である。このような範囲内であると、正極板12に含まれる気孔に無機固体電解質を充填させるのに有利となる。正極板が緻密であるほど、正極板内のリチウム拡散が遅くなるため、正極板が本来的に備える放電容量が得られにくくなりうるが、正極板を多孔化してその気孔部分に無機固体電解質を充填させた電池とすることで、正極板内のリチウム拡散を電解質が補助し、得られる放電容量が向上する。したがって、正極板12に含まれる気孔に無機固体電解質が充填されているのが好ましく、より好ましくは正極板12に含まれる気孔の70%以上に、さらに好ましくは85%以上に無機固体電解質が充填されている。正極板12の気孔における無機固体電解質充填率は高ければ高い方が望ましく100%であってもよいが、典型的には99%以下である。また、正極板12は無機固体電解質及び正極活物質のみからなるのが好ましい。すなわち、正極板内に電子伝導助剤が含まれると、その分活物質が減り容量低下を招くが、正極板として焼結体板を採用することで、電子伝導助剤を用いることなく、正極活物質のみで、望ましい電子伝導性を確保することができる。これは、焼結体板の構成粒子(正極活物質粒子)同士がネッキングにより強固に結合して電子伝導性の向上をもたらすためである。また、焼結体板を採用することで正極板内の気孔(これは容量低下につながる)を適度に減らすことでき、それだけ電池のエネルギー密度を向上することもできる。
【0031】
正極板12の厚さは、単位面積当りの活物質容量を高めてリチウム二次電池10のエネルギー密度を向上する観点から、25μm以上であり、好ましくは30μm以上であり、より好ましくは40μm以上、特に好ましくは50μm以上、最も好ましくは55μm以上である。厚さの上限値は特に限定されないが、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に抵抗値の上昇)を抑制する観点から、正極板12の厚さは500μm未満が好ましく、400μm以下がより好ましく、さらに好ましくは300μm以下、特に好ましくは250μm以下、より特に好ましくは200μm以下である。また、正極板12のサイズは、好ましくは5mm×5mm平方以上、より好ましくは10mm×10mm平方以上であり、別の表現をすれば、好ましくは25mm2以上、より好ましくは100mm2以上である。
【0032】
負極板16は無機材料で構成されており、この無機材料は酸化物形態の負極活物質を含む。酸化物形態の負極活物質は、二次電池10の種類に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、少なくともTiを含有する酸化物であるのが好ましい。例えば、リチウム二次電池の場合、負極活物質の好ましい例としては、チタン酸リチウムLi4Ti5O12(以下、LTO)、ニオブチタン複合酸化物Nb2TiO7、酸化チタンTiO2が挙げられ、より好ましくはLTO及びNb2TiO7である。なお、LTOは典型的にはスピネル型構造を有するものとして知られているが、充放電時には他の構造も採りうる。例えば、LTOは充放電時にLi4Ti5O12(スピネル構造)とLi7Ti5O12(岩塩構造)の二相共存にて反応が進行する。したがって、LTOはスピネル構造に限定されるものではない。
【0033】
負極板16に含まれる負極活物質の複数の粒子は、物理的及び電気的に互いに連結しているのが、エネルギー密度を高めつつ電子伝導性及びイオン導電性を高める観点から好ましい。したがって、負極板16は焼結体板(例えばLTO又はNb2TiO7焼結体板)であるのが好ましい。焼結体板の場合、負極板にはバインダーが含まれないため、負極活物質(例えばLTO又はNb2TiO7)の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率を得ることができる。なお、負極板にはバインダーが含まれない理由は、グリーンシートにバインダーが含まれていたとしても、焼成時にバインダーが消失又は焼失するからである。LTO焼結体板は、特許文献2(特開2015-185337号公報)に記載される方法に従って製造することができる。
【0034】
負極板16は気孔を含んでいるのが好ましい。負極板16が気孔を含むことで、充放電サイクルにおけるキャリアイオン(例えばリチウムイオン)の出入りに伴う結晶格子の伸縮によって発生する応力が、当該気孔によって良好(均一)に開放される。このため、充放電サイクルの繰り返しに伴う粒界クラックの発生が可及的に抑制される。
【0035】
負極板16の気孔率は2~20%であるのが好ましく、より好ましくは3~20%、さらに好ましくは5~18%である。このような範囲内であると、気孔による応力開放効果と、高容量化の効果とを望ましく実現することができる。負極板16の気孔率は、負極板16における、気孔(開気孔及び閉気孔を含む)の体積比率であり、後述する実施例で詳述されるように、負極板16の断面SEM像を画像解析することにより測定することができる。
【0036】
あるいは、負極板16の気孔率が10~50%であるのも好ましく、より好ましくは10~40%、さらに好ましくは12~35%である。このような範囲内であると、負極板16に含まれる気孔に無機固体電解質を充填させるのに有利となる。負極板が緻密であるほど、負極板内のリチウム拡散が遅くなるため、負極板が本来的に備える放電容量が得られにくくなりうるが、負極板を多孔化してその気孔部分に無機固体電解質を充填させた電池とすることで、負極板内のリチウム拡散を電解質が補助し、得られる放電容量が向上する。したがって、負極板16に含まれる気孔に無機固体電解質が充填されているのが好ましく、より好ましくは負極板16に含まれる気孔の70%以上に、さらに好ましくは85%以上に無機固体電解質が含浸されている。負極板16の気孔における無機固体電解質充填率は高ければ高い方が望ましく100%であってもよいが、典型的には99%以下である。また、負極板16が無機固体電解質及び負極活物質のみからなるのが好ましい。すなわち、負極板内に電子伝導助剤が含まれると、その分活物質が減り容量低下を招くが、負極板として焼結体板を採用することで、電子伝導助剤を用いることなく、換言すれば無機固体電解質及び負極活物質のみで、望ましい電子伝導性を確保することができる。これは、焼結体板の構成粒子(負極活物質粒子)同士がネッキングにより強固に結合して電子伝導性の向上をもたらすためである。また、焼結体板を採用することで負極板内の気孔(これは容量低下につながる)を適度に減らすことでき、それだけ電池のエネルギー密度を向上することもできる。
【0037】
負極板16の厚さは、単位面積当りの活物質容量を高めてリチウム二次電池10のエネルギー密度を向上する観点から、25μm以上であり、好ましくは30μm以上であり、より好ましくは40μm以上、特に好ましくは50μm以上、最も好ましくは55μm以上である。厚さの上限値は特に限定されないが、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に抵抗値の上昇)を抑制する観点から、負極板16の厚さは400μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下である。また、負極板16のサイズは、好ましくは5mm×5mm平方以上、より好ましくは10mm×10mm平方以上であり、別の表現をすれば、好ましくは25mm2以上、より好ましくは100mm2以上である。
【0038】
負極板16の容量Aに対する正極板12の容量Cの比率C/Aが、1.0<C/A<1.6を満たすようにするのが好ましく、より好ましくは1.005<C/A<1.500である。このように正極板12の容量Cを負極板16の容量Aよりも大きくすることで、二次電池10が負極板16の容量分のみで駆動することになるため、正極板12内のキャリア(例えばリチウム)を使う範囲が減る結果、キャリアイオン(例えばリチウムイオン)の出入りに伴う正極板12の膨張収縮を抑えられる。また、上記効果は高温条件下において特に顕著である。その理由は定かではないが、正極板12及び負極板16の内部におけるキャリアの拡散が速く、内部におけるキャリア濃度差(これは膨張収縮差につながる)が大きくならないことが一要因として推察される。
【0039】
上記範囲内のC/A比は、正極板12の厚さ、気孔率等の諸特性と、負極板16の厚さ、気孔率等の諸特性とをそれぞれ適宜制御することにより実現することができる。なお、C/A比は、以下の手順に従い決定されるのが好ましい。
(i)正極板12の容量Cとして、正極板の面積1cm2当りの25℃での正極板12の実電気容量(mAh)を求める。この実電気容量は、0.2C電流、リチウム金属に対する電位が4.25Vの定電流-定電圧充電を10時間行った後、0.2C電流の定電流放電をリチウム金属に対する電位が3.0Vに到達するまで行ったときの電気容量とする。
(ii)負極板の容量Aとして、負極板16の面積1cm2当りの25℃での負極板16の実電気容量(mAh)を求める。この実電気容量は、0.2C電流、リチウム金属に対する電位が0.8Vの定電流-定電圧充電を10時間行った後、0.2C電流の定電流放電をリチウム金属に対する電位が2.0Vに到達するまで行ったときの電気容量とする。
(iii)最後に、負極板16の容量Aに対する正極板12の容量Cの比率を算出してC/A比とする。
【0040】
前述のとおり、正極板12はLiCoO2(LCO)焼結体板であるのが好ましく、負極板16はLi4Ti5O12(LTO)焼結体板であるのが好ましい。特に、LCO正極板の配向角度の平均値、すなわち平均配向角度が0°超30°以下である場合、充放電時に面方向へ膨張収縮が生じず、また、LTO負極板も充放電時に膨張収縮が生じなく、固体電解質層も充放電時に膨張収縮しないため、充放電時に応力(特に正極板12又は負極板16と無機固体電解質層14との界面における応力)が発生しなくなり、大容量の充放電を安定かつ高速に行うことができる。また、上記同様の目的から、負極板16としてNb2TiO7焼結体板を用いる場合は、膨張収縮を制御するように、Nb2TiO7焼結体板を構成する一次粒子を配向させるのが好ましい。
【0041】
無機固体電解質層14は、無機固体電解質を含む層であれば、二次電池10の種類に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、リチウム二次電池の場合、無機固体電解質はリチウムイオン伝導材料であることが望まれる。無機固体電解質層14を構成しうるリチウムイオン伝導材料の好ましい例としては、ガーネット系セラミックス材料、窒化物系セラミックス材料、ペロブスカイト系セラミックス材料、リン酸系セラミックス材料、硫化物系セラミックス材料、ホウケイ酸系セラミックス材料、リチウム-ハロゲン化物系材料、及び高分子系材料が挙げられ、より好ましくは、ガーネット系セラミックス材料、窒化物系セラミックス材料、ペロブスカイト系セラミックス材料、及びリン酸系セラミックス材料からなる群から選択される少なくとも一種である。ガーネット系セラミックス材料の例としては、Li-La-Zr-O系材料(具体的には、Li7La3Zr2O12など)、Li-La-Ta-O系材料(具体的には、Li7La3Ta2O12など)が挙げられる。窒化物系セラミックス材料の例としては、Li3N。ペロブスカイト系セラミックス材料の例としては、Li-La-Zr-O系材料(具体的には、LiLa1-xTixO3(0.04≦x≦0.14)など)が挙げられる。リン酸系セラミックス材料の例としては、リン酸リチウム、窒素置換リン酸リチウム(LiPON)、Li-Al-Ti-P-O、Li-Al-Ge-P-O、及びLi-Al-Ti-Si-P-O(具体的には、Li1+x+yAlxTi2-xSiyP3-yO12(0≦x≦0.4、0<y≦0.6)など)が挙げられる。硫化物系セラミックス材料の例としては、LiOH-Li2SO4、及びLi3BO3-Li2SO4-Li2CO3が挙げられる。ホウケイ酸系セラミックス材料の例としては、Li2O-B2O3-SiO2が挙げられる。リチウム-ハロゲン化物系材料の例としては、Li3OX(式中、XはCl及び/又はBrである)、Li2(OH)1-aFaCl(式中、0≦a≦0.3である)、及びLi2OHX(式中、XはCl及び/又はBrである)が挙げられ、特に好ましくはLi3OClである。
【0042】
無機固体電解質は、正極板12又は負極板16の融点若しくは分解温度よりも低い融点を有するのが好ましい。こうすることで、上述したように、正極板12及び/又は負極板16に含まれる気孔に無機固体電解質を充填させるのに有利となる。無機固体電解質の融点は、電池動作温度より高いのが典型的であり、より典型的には、電池動作温度を超え600℃以下である。この無機固体電解質は融点が低いため、後述するように100~600℃の温度で溶融させて正極板12の空隙及び/又は負極板の16の空隙に浸透させることができ、強固な界面接触を実現することができる。この場合、無機固体電解質は、リチウム-ハロゲン化物系材料を含むのが好ましい。このリチウム-ハロゲン化物系材料の好ましい例としては、Li3OCl、Li(3-x)Mx/2OA(式中、0≦x≦0.8、MはMg、Ca、Ba及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、AはF、Cl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種である)、Li2(OH)1-aFaCl(式中、0≦a≦0.3である)、及びLi2OHX(式中、XはCl及び/又はBrである)からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられ、より好ましくはLi3OClやLi2(OH)0.9F0.1Clである。また、固体電解質14としてのリチウム-ハロゲン化物系材料の別の好ましい例としては、Lia(OH)bFcBr(式中、1.8≦a≦2.3、b=a-c-1、0.01≦c≦0.11である)の組成式で表され、かつ、逆ペロブスカイト型の結晶相を含むものが挙げられ、例えばLi2(OH)0.9F0.1Brである。あるいは、固体電解質14はリチウム-ハロゲン化物系材料以外の材料であってもよく、例えば、xLiOH・yLi2SO4(式中、x+y=1、0.6≦x≦0.95である)の組成式で表されるものも好ましく用いることができ、例えば3LiOH・Li2SO4である。上述した材料はいずれもイオン伝導度が高いとの利点がある。
【0043】
また、リン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)系セラミックス材料も好ましい。LiPONは、Li2.9PO3.3N0.46の組成によって代表されるような化合物群であり、例えばLiaPObNc(式中、aは2~4、bは3~5、cは0.1~0.9である)で表される化合物群である。
【0044】
無機固体電解質層14の作製方法は特に限定されないが、作製方法の例としては、スパッタリング及びCVD等の気相法、スクリーン印刷及びスピンコート等の液相法、粉末を圧縮する方法、原料を融点以上に加熱した後凝固させる方法、粉末を圧縮しながら融点以上に加熱した後凝固させる方法等が挙げられる。
【0045】
無機固体電解質層14の寸法は特に限定されないが、厚さは充放電レート特性と機械的強度の観点から、0.0005mm~1.0mmが好ましく、より好ましくは0.001mm~0.1mm、さらに好ましくは0.002~0.05mmである。固体電解質層は成膜する厚みにより制御してもよいし、粉末を圧縮しながら融点以上に加熱した後に凝固させる方法の場合、スペーサにより厚み制御を行ってもよい。すなわち、全固体リチウム電池は、配向正極板12と負極板16の間に固体電解質層14の厚さを規定するスペーサをさらに備えているのが好ましい。スペーサの抵抗率は1×105Ω・cm以上であるのが好ましく、より好ましくは1×107Ω・cm以上である。スペーサの種類は特に限定されないが、スペーサがセラミックスで構成されるのが好ましく、そのようなセラミックスの例としては、Al2O3、MgO、ZrO2等が挙げられる。
【0046】
無機固体電解質層の厚さTe、正極板の厚さTc、及び負極板の厚さTaは、Te/(Tc+Ta)<0.25を満たすのが好ましく、より好ましくは0.002<Te/(Tc+Ta)<0.25、さらに好ましくは0.005<Te/(Tc+Ta)<0.2である。このような範囲内とすることで、無機固体電解質層の厚さTeを正極板の厚さ及び負極板の合計厚さTa+Tcよりも相対的にかなり薄くすることができ、二次電池10のエネルギー密度を有意に高くすることができる。
【0047】
正極板12の無機固体電解質層14から離れた側の面には、正極集電体13が設けられるのが好ましい。また、負極板16の無機固体電解質層14から離れた側の面には、負極集電体17が設けられるのが好ましい。正極集電体13及び負極集電体17を構成する材料の例としては、白金(Pt)、白金(Pt)/パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ITO(インジウム-錫酸化膜)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。
【0048】
正極板12、無機固体電解質層14及び負極板16は容器18に収容される。容器18は、単位電池又はそれを複数個直列若しくは並列に積層させたスタックを収容可能な容器であれば特に限定されない。特に、二次電池10は電解液の漏れの懸念が無いため、容器18は比較的簡素な容器形態を採用可能であり、外装材での包装であってもよい。例えば、電子回路に実装するためのチップ形態や、薄く幅広の空間用途のためのラミネートセル形態(例えばアルミニウム(Al)/ポリプロピレン(PP)の複層品)が採用可能である。正極集電体13及び/又は負極集電体17が容器18の一部を兼ねる構造としてもよい。また、耐熱性をより高めるために、ポリプロピレンの代わりにPCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ポリイミド、ポリアミド等の耐熱樹脂を用いてもよい。また、外装材と集電体との絶縁を確保した上で、アルミニウム、ステンレス等の金属を用いてもよい。
【0049】
製造方法
本発明の二次電池10は以下のようにして製造するのが好ましい。まず、正極板12(又は負極板16)に、正極板12(又は負極板16)の融点若しくは分解温度よりも低い融点を有する無機固体電解質粉末を載置する。この無機固体電解質粉末上に負極板16(又は正極板12)を載置する。負極板16を正極板12に向けて(又は正極板を負極板に向けて)100~600℃、好ましくは200~500℃、より好ましくは250~450℃の温度でプレスして、無機固体電解質粉末を溶融させて正極板内の空隙に浸透させる。ここで、上記プレスは、荷重を加えることができる手法であれば特に限定されず、機械的に荷重を加えてもよいし、重しを載せるより荷重を加えてもよい。続いて、正極板12、溶融された電解質、及び負極板16を放冷又は冷却して、溶融された電解質を凝固させて無機固体電解質14を形成させる。なお、正極板12(又は負極板16)の融点若しくは分解温度よりも低い融点を有する無機固体電解質粉末の好ましい例としては、前述したxLiOH・yLi2SO4、Li3OCl、Li(3-x)Mx/2OA、Li2(OH)1-aFaCl、Li2OHX及びLia(OH)bFcBrからなる群から選択される少なくとも1種を含む粉末が挙げられる。
【0050】
前述したとおり、二次電池10は、正極板12と負極板16の間に無機固体電解質層14の厚さを規定するスペーサを備えていてもよい。この構成は、無機固体電解質粉末上に負極板16又は正極板12を載置する際に、正極板12と負極板16の間にスペーサが固体電解質粉末と一緒に挟み込むことにより好ましく実現することができる。
【実施例】
【0051】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の例において、LiCoO2を「LCO」と略称し、Li4Ti5O12を「LTO」と略称するものとする。
【0052】
例A1~A5
(1)正極板の作製
(1a)LCOグリーンシートの作製
Li/Coのモル比が1.02となるように秤量されたCo3O4粉末(正同化学工業株式会社製、平均粒径0.9μm)及びLi2CO3粉末(本荘ケミカル株式会社製)を混合した後、750℃で5時間保持した。得られた粉末をポットミルにて体積基準D50が0.4μmとなるように粉砕して、LCO板状粒子からなる粉末を得た。得られたLCO粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LCOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LCOグリーンシートを形成した。LCOグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが25μm(例A1)又は200μm(例A2~A5及びA7)となるような値とした。
【0053】
(1b)Li2CO3グリーンシート(過剰リチウム源)の作製
Li2CO3原料粉末(体積基準D50粒径2.5μm、本荘ケミカル株式会社製)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)5重量部と、可塑剤(DOP:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、黒金化成株式会社製)2重量部と、分散剤(レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、Li2CO3スラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたLi2CO3スラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、Li2CO3グリーンシートを形成した。乾燥後のLi2CO3グリーンシートの厚さは、LCOグリーンシートにおけるCo含有量に対する、Li2CO3グリーンシートにおけるLi含有量のモル比である、Li/Co比を所定の値とすることができるように設定した。
【0054】
(1c)LCO焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたLCOグリーンシートをカッターで50mm角に切り出し、下部セッターとしてのマグネシア製セッター(寸法90mm角、高さ1mm)の中央に載置した。LCOグリーンシートを昇温速度200℃/hで600℃まで昇温して3時間脱脂した後、900℃で3時間保持することで仮焼した。得られたLCO仮焼板におけるCo含有量に対する、Li2CO3グリーンシートにおけるLi含有量のモル比である、Li/Co比が0.5となるようなサイズに、乾燥されたLi2CO3グリーンシートを切り出した。LCO仮焼板上に、上記切り出されたLi2CO3グリーンシート片を過剰リチウム源として載置し、その上に上部セッターとしての多孔質マグネシア製セッターを載置した。上記焼結板及びグリーンシート片をセッターで挟んだ状態で、120mm角のアルミナ鞘(株式会社ニッカトー製)内に載置した。このとき、アルミナ鞘を密閉せず、0.5mmの隙間を空けて蓋をした。得られた積層物を昇温速度200℃/hで600℃まで昇温して3時間脱脂した後に、800℃まで200℃/hで昇温して5時間保持した後900℃まで200℃/hで昇温して24時間保持することで焼成を行った。焼成後、室温まで降温させた後に焼成体をアルミナ鞘より取り出した。こうしてLCO焼結板を正極板として得た。得られたLCO焼結板の下部セッターに接触していた面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した後、10mm×10mm平方の形状にレーザー加工した。
【0055】
(2)負極板の作製
(2a)LTOグリーンシートの作製
LTO粉末(体積基準D50粒径0.06μm、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた負極原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LTOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LTOグリーンシートを形成した。乾燥後のLTOグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが28μm(例A1)、224μm(例A2及びA3)、257μm(例A4)又は161μm(例A5)となるような値とした。
【0056】
(2b)LTOグリーンシートの焼成
得られたグリーンシートを25mm角にカッターナイフで切り出し、エンボス加工され
ジルコニア製セッター上に載置した。セッター上のグリーンシートをアルミナ製鞘に入れて500℃で5時間保持した後に、昇温速度200℃/hにて昇温し、800℃で5時間焼成を行なった。得られたLTO焼結体板のセッターに接触していた面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した後、10mm×10mm平方の形状にレーザー加工した。
【0057】
(3)無機固体電解質の作製
少量の脱イオン水に4.790gのLiOH及び4.239gのLiClを溶解させて原料水溶液を調製した。これらの前駆体の量は、式:Li3OCl+H2Oに対応する化学量論比となるようにした。水の大部分は、ロータリーエバポレーターおよび約90℃の浴温により脱水した。得られた固体をアルミナボートに入れた。ボートを電気炉の中に入れ、約280℃の温度で約48時間真空加熱し、無機固体電解質であるLi3OCl粉末を反応生成物として得た。
【0058】
(4)電池の作製
上記正極板上に上記Li3OCl粉末を載置し、ホットプレートで正極板及びLi3OCl粉末を400℃で加熱し、上から負極板を加圧しながら載せた。このときLi3OCl粉末は溶融し、その後の凝固を経て、最終的に厚さ20μmの固体電解質層が形成された。得られた正極板/固体電解質層/負極板からなるセルを用いてラミネート電池を作製した。
【0059】
(5)評価
上記(1)で合成されたLCO正極板、上記(2)で合成されたLTO負極板、及び上記(4)で作製された電池について、以下に示されるとおり各種の評価を行った。
【0060】
<一次粒子の平均配向角度>
LCO正極板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた正極板断面(正極板の板面に垂直な断面)を1000倍の視野(125μm×125μm)でEBSD測定して、EBSD像を得た。このEBSD測定は、ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式JSM-7800F)を用いて行った。得られたEBSD像において特定される全ての粒子について、一次粒子の(003)面と正極板の板面とがなす角度(すなわち(003)からの結晶方位の傾き)を傾斜角として求め、それらの角度の平均値を一次粒子の平均配向角度(平均傾斜角)とした。
【0061】
<板厚>
LCO正極板及びLTO負極板の各々をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた電極板断面をSEM観察(日本電子株式会社製、JSM6390LA)して各電極板の厚さを測定した。
【0062】
<気孔率>
LCO正極板及びLTO負極板の各々をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた電極板断面を1000倍の視野(125μm×125μm)でSEM観察(日本電子製JSM6390LA)した後に画像解析し、全ての気孔の面積を各板の面積で除し、得られた値に100を乗じることで各電極板の気孔率(%)を算出した。
【0063】
<平均気孔アスペクト比>
LCO正極板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた正極板断面を1000倍の視野(125μm×125μm)でSEM観察(日本電子株式会社製、JSM6390LA)した。得られたSEM像を画像解析ソフトImageJを用いて二値化し、得られた二値化画像から気孔を判別した。二値化画像において判別した個々の気孔について、長手方向の長さを短手方向の長さで除することによりアスペクト比を算出した。二値化画像中の全ての気孔についてのアスペクト比を算出し、それらの平均値を平均アスペクト比とした。
【0064】
<C/A比>
正極板の容量Cとして、正極板の面積1cm2当りの25℃での正極板の実電気容量(mAh)を求めた。この実電気容量は、0.2C電流、リチウム金属に対する電位が4.25Vの定電流-定電圧充電を10時間行った後、0.2C電流の定電流放電をリチウム金属に対する電位が3.0Vに到達するまで行ったときの電気容量とした。一方、負極板の容量Aとして、負極板の面積1cm2当りの25℃での負極板の実電気容量(mAh)を求めた。この実電気容量は、0.2C電流、リチウム金属に対する電位が0.8Vの定電流-定電圧充電を10時間行った後、0.2C電流の定電流放電をリチウム金属に対する電位が2.0Vに到達するまで行ったときの電気容量とした。最後に、負極板の容量Aに対する正極板の容量Cの比率を算出してC/A比とした。
【0065】
<サイクル容量維持率>
100℃又は300℃の作動温度における電池のサイクル容量維持率を2.7V-1.5Vの電位範囲において以下の手順で測定した。
(i)1Cレートで電池電圧が2.7Vとなるまで定電流充電し、引き続き電流値が0.2Cレートになるまで定電圧充電した後、1Cレートで1.5Vになるまで放電することを含む充放電サイクルを合計3回繰り返すことにより放電容量の測定を行い、それらの平均値を初期放電容量とした。
(ii)充電レート2C及び放電レート2Cで充放電を合計100回行った。
(iii)1Cレートで電池電圧が2.7Vとなるまで定電流充電し、引き続き0.2Cレートになるまで定電圧充電した後、1Cレートで1.5Vになるまで放電することを含む充放電サイクルを合計3回繰り返すことにより放電容量の測定を行い、それらの平均値をサイクル後放電容量とした。
(iv)上記(i)で得られた初期放電容量に対する、上記(iii)で得られたサイクル後放電容量の比率を算出して100を乗じることにより、サイクル容量維持率(%)を得た。
【0066】
例A6
負極板を以下のようにして作製したこと以外は、例A2と同様にして、電池の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0067】
(負極板の作製)
TiO2粉末(石原産業株式会社製、CR-ER)とNb2O5粉末(三井金属鉱業株式会社製、セラミックスグレード)を1:2のモル比となるように秤量し、混合した。得られた混合粉末を1150℃で5時間保持した後、ポットミルにて体積基準D50が0.5μmとなるように粉砕してNb2TiO7粉末を得た。得られたNb2TiO7粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた負極原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、Nb2TiO7スラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、Nb2TiO7グリーンシートを形成した。乾燥後のNb2TiO7グリーンシートの厚さは焼成後の厚さが100μmとなるような値とした。得られたグリーンシートを25mm角にカッターナイフで切り出し、エンボス加工されジルコニア製セッター上に載置した。セッター上のグリーンシートをアルミナ製鞘に入れて500℃で5時間保持した後に、昇温速度200℃/hにて昇温し、1100℃で5時間焼成を行なった。得られたNb2TiO7焼結体板のセッターに接触していた面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した後、10mm×10mm平方の形状にレーザー加工した。
【0068】
例A7(比較)
サイクル容量維持率の評価における電池作動温度を25℃としたこと以外は例A2と同様にして、電池の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0069】
【表1】
例B1
(1)正極板の作製
(1a)LCOグリーンシートの作製
Li/Coのモル比が1.02となるように秤量されたCo
3O
4粉末(平均粒径0.3μm)と市販のLi
2CO
3粉末(D50粒径2.5μm)を混合後、750℃で5時間保持した。得られた粉末をポットミルにて体積基準D50が1μm以下となるように粉砕して、LCO板状粒子からなる粉末を得た。得られたLCO粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー10重量部と、可塑剤4重量部と、分散剤2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を調整することによって、LCOスラリーを調製した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LCOグリーンシートを形成した。LCOグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが200μmとなるような値とした。
【0070】
(1b)Li2CO3グリーンシート(過剰リチウム源)の作製
市販のLi2CO3原料粉末(D50粒径2.5μm)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー5重量部と、可塑剤2重量部と、分散剤2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を調整することによって、Li2CO3スラリーを調製した。こうして調製されたLi2CO3スラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、Li2CO3グリーンシートを形成した。乾燥後のLi2CO3グリーンシートの厚さは、LCOグリーンシートにおけるCo含有量に対する、Li2CO3グリーンシートにおけるLi含有量のモル比である、Li/Co比を所定の値とすることができるように設定した。
【0071】
(1c)LCO焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたLCOグリーンシートをカッターで50mm角に切り出し、下部セッターとしてのマグネシア製セッターの中央に載置した。LCOグリーンシートを昇温速度200℃/hで600℃まで昇温して3時間脱脂した後、900℃で3時間保持することで仮焼した。得られたLCO仮焼板におけるCo含有量に対する、Li2CO3グリーンシートにおけるLi含有量のモル比である、Li/Co比が0.5となるようなサイズに、乾燥されたLi2CO3グリーンシートを切り出した。LCO仮焼板上に、上記切り出されたLi2CO3グリーンシート片を過剰リチウム源として載置し、その上に上部セッターとしての多孔質マグネシア製セッターを載置した。上記焼結板及びグリーンシート片をセッターで挟んだ状態で、120mm角のアルミナ鞘内に載置した。このとき、アルミナ鞘を密閉せず、わずかに隙間を空けて蓋をした。得られた積層物を昇温速度200℃/hで600℃まで昇温して3時間脱脂した後に、800℃まで200℃/hで昇温して5時間保持した後900℃まで200℃/hで昇温して24時間保持することで焼成を行った。焼成後、室温まで降温させた後に焼成体をアルミナ鞘より取り出した。こうしてLCO焼結板を正極板として得た。得られたLCO焼結体板の下部セッターに接触していた面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した後、10mm×10mm平方の形状にレーザー加工した。
【0072】
(2)負極板の作製
(2a)LTOグリーンシートの作製
市販のLTO粉末(体積基準D50粒径0.06μm)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー20重量部と、可塑剤4重量部と、分散剤2重量部とを混合した。得られた負極原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を調整することによって、LTOスラリーを調製した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LTOグリーンシートを形成した。乾燥後のLTOグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが200μmとなるような値とした。
【0073】
(2b)LTOグリーンシートの焼成
得られたグリーンシートを25mm角にカッターナイフで切り出し、ジルコニア製セッター上に載置した。セッター上のグリーンシートをアルミナ製鞘に入れて500℃で5時間保持した後に、昇温速度200℃/hにて昇温し、800℃で5時間焼成を行った。得られたLTO焼結体板のセッターに接触していた面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した後、10mm×10mm平方の形状にレーザー加工した。
【0074】
(3)無機固体電解質の作製
市販のLiOH(純度98.0%以上)とLi2SO4(純度98.0%以上)とを用意した。露点-50℃以下のAr雰囲気グローブボックス内にて、それぞれの原料をLiOH:Li2SO4=3.0:1.0(モル比)となるように秤量し混合した。混合物をAr雰囲気のガラス管に入れ、430℃で2時間加熱することによって溶融した。そして、ガラス管を水中に投入して10分間保持することによって、溶融物を急冷して凝固体を形成した。次に、凝固体をAr雰囲気中乳鉢で粉砕することによって固体電解質である3LiOH・Li2SO4粉末を得た。
【0075】
(4)電池の作製
上記正極板上に直径30μmのZrO2ビーズを5wt%添加したLiOH・Li2SO4系粉末を載置し、その上に負極板を載置した。更に負極板上に15gの重しを載置し、電気炉内で400℃で45分間加熱した。このとき、LiOH・Li2SO4系粉末は溶融し、その後の凝固を経て、最終的に厚さ40μmの固体電解質層が形成された。得られた正極板/固体電解質/負極板からなるセルを用いてラミネート電池を作製した。
【0076】
(5)評価
上記(1)で合成された正極板、上記(2)で合成された負極板、及び上記(4)で作製された電池について、以下に示されるとおり各種の評価を行った。
【0077】
<一次粒子の平均配向角度>
例A1と同様にして、正極板について一次粒子の平均配向角度を測定した。
【0078】
<板厚>
例A1と同様にして、正極板及び負極板の各々の板厚を測定した。
【0079】
<気孔率>
例A1と同様にして、正極板及び負極板の各々の気孔率を測定した。なお、例B1では気孔が部分的に無機固体電解質で含浸されているが、本明細書においては特に断りが無いかぎり「気孔率」は、気孔内の無機固体電解質が充填された部分も含めた正極板自体の正味の気孔率を意味する。
【0080】
<電解質充填率>
上記気孔率の測定に用いた断面SEM像を画像解析して、全ての気孔内に充填された無機固体電解質の面積を、全ての気孔の面積で除し、得られた値に100を乗じることにより、電解質充填率(%)を算出した。
【0081】
<残留気孔率>
上記気孔率P0(%)及び上記電解質充電率E(%)を下記式に代入して、残留気孔率P1(%)を算出した。
残留気孔率P1=P0×(100-E)/100
【0082】
<C/A比>
正極板の容量Cとして、正極板の面積1cm2当りの25℃での正極板の実電気容量(mAh)を例A1と同様にして求めた。
【0083】
<放電容量率>
100℃の作動温度における電池の放電容量を2.7V-1.5Vの電圧範囲において以下の手順で測定した。1Cレートで電池電圧が上記電圧範囲の上限に達するまで定電流充電し、引き続き電流値が0.2Cレートになるまで定電圧充電した後、0.2Cレートで上記電圧範囲の下限になるまで放電することを含む充放電サイクルを合計3回繰り返すことにより放電の測定を行い、それらの平均値を放電容量として、正極板の実電気容量(mAh)に対する比率(放電容量率(%))として求めた。
【0084】
例B2
正極板及び負極板の作製を以下のとおり行ったこと以外は例B1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。
【0085】
(正極板の作製)
(a)LiCoO2成形体の作製
市販のLiCoO2粉末(D50粒径7μm)を金型にて100MPaで一軸加圧することによって、LiCoO2成形体を作製した。成形体の厚さは焼成後の厚さが200μmとなるような値とした。
【0086】
(b)LiCoO2焼結板の作製
LiCoO2成形体を、アルミナ製セッターに載置し、アルミナ鞘内に載置した。このとき、アルミナ鞘を密閉せず、わずかに隙間を空けて蓋をした。得られた積層物を昇温速度200℃/hで925℃まで昇温して20時間保持することで焼成を行った。焼成後、室温まで降温させた後に焼成体をアルミナ鞘より取り出した。こうしてLiCoO2焼結板を正極板として得た。得られたLiCoO2焼結板の片面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した。
【0087】
(負極板の作製)
上記(2a)において、LTO粉末として別のLTO粉末(D50粒径0.7μm)を用いたこと以外は、例B1と同様にしてLTO焼結板を作製した。
【0088】
例B3
正極板及び負極板の作製を以下のとおり行ったこと以外は例B1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。
【0089】
(正極板の作製)
焼成温度を775℃に変更したこと以外は、例B2と同様にしてLCO焼結板を作製した。
【0090】
(負極板の作製)
焼成温度を750℃に変更したこと以外は、例B2と同様にしてLTO焼結板を作製した。
【0091】
例B4
正極板及び負極板として例B2と同じものを使用したこと、及び上記(4)における電気炉内での加熱を380℃で45分間行ったこと以外は例B1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。
【0092】
例B5
正極板の作製を以下のとおり行ったこと、負極板として例B2と同じものを使用したこと以外は例B1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。
【0093】
(正極板の作製)
上記(1a)においてCo3O4粉末として別のCo3O4粉末(平均粒径0.9μm)を用いたこと、及び上記(1c)において、LCO仮焼板上に積載するLi2CO3グリーンシートにおけるLi含有量のモル比であるLi/Co比を0.1とし、かつ、最高温度を850℃としたこと以外は、例B1と同様にしてLCO焼結板を作製した。
【0094】
例B6
正極板及び負極板の作製を以下のとおり行ったこと以外は例B1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。
【0095】
(正極板の作製)
上記(1c)において、Li/Co比を0.6とし、かつ、最高温度900℃での焼成を24時間行ったこと以外は、例B1と同様にしてLCO焼結板を作製した。
【0096】
(負極板の作製)
上記(2b)において最高温度800℃での焼成を10時間行ったこと以外は、例B1と同様にしてLTO焼結板を作製した。
【0097】
例B7
正極板及び負極板として例B2と同じものを用い、かつ、上記(4)において固体電解質として以下のようにして作製したLi(OH)0.9F0.1Cl系粉末を用いて、固体電解質粉末の加熱を350℃で45分間行ったこと以外は例B1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。
【0098】
(固体電解質粉末の作製)
原料として、市販のLiOH(純度98.0%以上)、LiCl(純度99.9%以上)及びLiF(純度99.9%)を用意した。露点-50℃以下のAr雰囲気グローブボックス内にて、それぞれの原料をLiOH:LiCl:LiFを0.9:1.0:0.1(モル比)となるように秤量し混合した。得られた混合粉末をアルミナ製のるつぼに投入し、さらに石英管へ入れ、フランジで密閉した。この石英管を管状炉へセットし、フランジのガス導入口から露点-50℃以下のArガスを流してガス排出口から排出させながら、かつ、混合粉末を攪拌しながら、350℃で30分間の熱処理を行った。冷却後、ガス導入口及びガス排出口を閉じ、再び露点-50℃以下のAr雰囲気グローブボックス内にてるつぼを取り出した。るつぼ内から合成物を取り出し、乳鉢で粉砕して、固体電解質であるLi2(OH)0.9F0.1Cl粉末を得た。なお、Arガス雰囲気下での加熱温度及び加熱時間は適宜変更可能であり、一般的には、加熱温度は250℃以上600℃以下であり、加熱時間は0.1時間以上であればよい。
【0099】
例B8
正極板及び負極板として例B2と同じものを用い、かつ、上記(4)において固体電解質として以下のようにして作製したLi(OH)0.9F0.1Br系粉末を用いて固体電解質粉末の加熱を350℃で45分間行ったこと以外は例B1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。
【0100】
(固体電解質粉末の作製)
原料として、市販のLiOH(純度98.0%以上)、LiBr(純度99.9%以上)及びLiF(純度99.9%)を用意した。露点-50℃以下のAr雰囲気グローブボックス内にて、それぞれの原料をLiOH:LiBr:LiFを0.9:1.0:0.1(モル比)となるように秤量し混合した。得られた混合粉末をアルミナ製のるつぼに投入し、さらに石英管へ入れ、フランジで密閉した。この石英管を管状炉へセットし、フランジのガス導入口から露点-50℃以下のArガスを流してガス排出口から排出させながら、かつ、混合粉末を攪拌しながら、350℃で30分間の熱処理を行った。冷却後、ガス導入口及びガス排出口を閉じ、再び露点-50℃以下のAr雰囲気グローブボックス内にてるつぼを取り出した。るつぼ内から合成物を取り出し、乳鉢で粉砕して、固体電解質であるLi2(OH)0.9F0.1Br粉末を得た。なお、Arガス雰囲気下での加熱温度及び加熱時間は適宜変更可能であり、一般的には、加熱温度は250℃以上600℃以下であり、加熱時間は0.1時間以上であればよい。
【0101】
例B9
正極板として以下のようにして作製したLNMO焼結板を用いたこと、負極板を以下のようにして作製したこと、並びにC/A比及び放電容量率の測定を以下のように行ったこと以外は例B1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。
【0102】
(正極板の作製)
(a)LNMOグリーンシートの作製
焼成後にLiNi0.5Mn1.5O4となるように秤量された市販のLi2CO3粉末、NiO粉末、及びMnO2粉末を混合後、アルミナ製鞘に入れ200℃/hで昇温し最高温度900℃で4時間保持した後、650℃で4時間保持して200℃/hで降温した。得られた粉末を乳鉢粉砕とポットミルにてD50が5μm以下となるように粉砕した後、再度上記同様にして熱処理を行った。得られた合成物を体積基準D50が1μm以下となるように粉砕して、LNMO粉末を得た。得られたLNMO粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー10重量部と、可塑剤4重量部と、分散剤2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を調整することによって、LNMOスラリーを調製した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LNMOグリーンシートを形成した。LNMOグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが200μmとなるような値とした。
【0103】
(b)LNMO焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたLNMOグリーンシートをカッターで50mm角に切り出し、下部セッターとしてのマグネシア製セッターの中央に載置し、LNMOグリーンシートの上に上部セッターとしての多孔質マグネシア製セッターを載置した。上記グリーンシート片をセッターで挟んだ状態で、アルミナ鞘内に載置した。このとき、アルミナ鞘を密閉せず、わずかに隙間を空けて蓋をした。得られた積層物を昇温速度200℃/hで600℃まで昇温して3時間脱脂した後に、900℃まで200℃/hで昇温して5時間保持し、650℃で4時間保持して200℃/hで降温することで焼成を行った。焼成後、室温まで降温させた後に焼成体をアルミナ鞘より取り出した。こうしてLNMO焼結板を正極板として得た。得られたLNMO焼結体板の下部セッターに接触していた面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した後、10mm×10mm平方の形状にレーザー加工した。
【0104】
(負極板の作製)
焼成後の厚さを150μmとしたこと以外は例B2と同様にして、LTO焼結板を作製した。
【0105】
(C/A比)
正極板の容量Cとして、正極板の面積1cm2当りの25℃での正極板の実電気容量(mAh)を求めた。この実電気容量は、0.2C電流、リチウム金属に対する電位が4.9Vの定電流-定電圧充電を10時間行った後、0.2C電流の定電流放電をリチウム金属に対する電位が3.0Vに到達するまで行ったときの電気容量とした。
【0106】
(放電容量率)
充放電サイクルの電圧範囲を3.4V-1.5Vとしたこと以外は例B1と同様にして、放電容量率(%)を求めた。
【0107】
例B10
正極板として以下のようにして作製したNCM焼結板を用いたこと、負極板として例B2と同じものを使用したこと、並びにC/A比及び放電容量率の測定を以下のように行ったこと以外は例B1と同様にして、電池の作製及び評価を行った。
【0108】
(正極板の作製)
(a)Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2(以下NCM(523))成形体の作製
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(OH)2粉末(平均粒径9μm)とLi2CO3粉末(平均粒径2.5μm)を混合後、840℃で15時間保持し、NCM(523)粒子からなる粉末を得た。この粉末をナイロン製メッシュ(180メッシュ)に通した後、金型にて100MPaで1分間一軸加圧することによって、NCM(523)成形体を作製した。NCM(523)成形体の厚さは焼成後の厚さが200μmとなるような値とした。
【0109】
(b)NCM(523)焼結板の作製
NCM(523)成形体を、アルミナ製セッターに載置し、これをアルミナ鞘内に載置した。このとき、アルミナ鞘を密閉せず、わずかに隙間を空けて蓋をした。得られた積層物を昇温速度200℃/hで920℃まで昇温して10時間保持することで焼成を行った。焼成後、室温まで降温させた後に焼成体をアルミナ鞘より取り出した。こうしてNCM(523)焼結板を正極板として得た。得られたNCM(523)焼結板の片面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した。
【0110】
(C/A比)
正極板の容量Cとして、正極板の面積1cm2当りの25℃での正極板の実電気容量(mAh)を求めた。この実電気容量は、0.2C電流、リチウム金属に対する電位が4.25Vの定電流-定電圧充電を10時間行った後、0.2C電流の定電流放電をリチウム金属に対する電位が3.0Vに到達するまで行ったときの電気容量とした。
【0111】
(放電容量率)
充放電サイクルの電圧範囲を含め、例B1と同様にして、放電容量率(%)を求めた。
【0112】
結果
例B1~B10の結果は、表2に示されるとおりであった。
【0113】