(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】HLA拘束性にHLA-A2/TYRDに結合することができる抗体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220128BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220128BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220128BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220128BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220128BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220128BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220128BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220128BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20220128BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220128BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220128BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220128BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220128BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220128BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220128BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220128BHJP
A61K 47/55 20170101ALI20220128BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220128BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K39/395 L
A61K45/00
A61K35/15 Z
A61K35/17 Z
A61K35/12
A61K35/76
A61K48/00
A61P35/00
A61P25/00
A61P17/00
A61K47/55
A61K47/68
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2019569420
(86)(22)【出願日】2017-06-14
(86)【国際出願番号】 IB2017053539
(87)【国際公開番号】W WO2018229530
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】517421736
【氏名又は名称】アディセット バイオ インク.
【氏名又は名称原語表記】ADICET BIO INC.
【住所又は居所原語表記】200 Constitution Drive, Menlo Park, CA, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャコボヴィッツ アヤ
(72)【発明者】
【氏名】フォード オリット
(72)【発明者】
【氏名】サタペイヴ ダウレット カディル
(72)【発明者】
【氏名】ペレド カマル ミラ
(72)【発明者】
【氏名】デンクベルク ガリット
(72)【発明者】
【氏名】レイター ヨラム
(72)【発明者】
【氏名】ベール イラン
(72)【発明者】
【氏名】シニク ケレン
(72)【発明者】
【氏名】テボウル (エルバズ) ヤエル
(72)【発明者】
【氏名】シュパーベル (セリー) ヤエル
(72)【発明者】
【氏名】アール セガル ロウト
(72)【発明者】
【氏名】オレン ラヴィト
(72)【発明者】
【氏名】アリシェケヴィッツ ドロー シュムエル
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/199141(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C12N 1/00-38
C12N 5/00-28
C07K 16/00-46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-Cの順にCDR配列:
CDR1重鎖(HC) 配列番号8 TSGMGVS
CDR2 HC 配列番号9 HIYWDDDKRYNPSLKS
CDR3 HC 配列番号10 KDYGSSFYAMHY
CDR1軽鎖(LC) 配列番号5 KASQDIHNYIA
CDR2 LC 配列番号6 YTSTLQP
CDR3 LC 配列番号7 LQYDNLWT
を含む抗原結合ドメインを含む抗体であって、
前記重鎖の可変領域が配列番号4で示され、前記軽鎖の可変領域が配列番号2で示され、
前記抗体がHLA拘束性にHLA-A2/Tyr
D369-377に結合することができる、前記抗体。
【請求項2】
前記抗体の前記重鎖が配列番号21または27で示される、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体の前記軽鎖が配列番号25で示される、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
IgGである、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
抗体断片である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
Fab、F(ab’)2、Fv、scFv、dsFv及び単一ドメイン分子からなる群から選択される、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
二重特異性抗体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項8】
前記二重特異性抗体が抗CD3または抗CD16を含む、
請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
前記抗CD3がscFvを含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
治療薬部分をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項11】
前記治療薬部分が、細胞傷害性部分、毒性部分、サイトカイン部分及び薬物からなる群から選択される、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
前記治療薬部分が細胞を含む、請求項10に記載の抗体。
【請求項13】
前記細胞が、αβT細胞、γδT細胞、NK、CIK、NKT、マクロファージ及びB細胞からなる群から選択される、請求項12に記載の抗体。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体を含むキメラ抗原受容体。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体または請求項14に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含む、単離ポリヌクレオチド。
【請求項16】
シス作用性調節エレメントに機能可能に繋げられた請求項15に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項17】
ウイルスベクターである、請求項16に記載の発現ベクター。
【請求項18】
請求項15に記載のポリヌクレオチドまたは請求項16に記載の発現ベクターを含む、細胞。
【請求項19】
請求項1~13のいずれか1項に記載の抗体、請求項14に記載のキメラ抗原受容体、請求項16または17に記載の発現ベクター、または
請求項18に記載の細胞を含む、医薬組成物。
【請求項20】
メラノーマまたは神経膠芽腫の治療用である、請求項19に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、HLA拘束性にHLA-A2/TyrDに結合することができる抗体及びその用途に関する。
【0002】
CD8+細胞傷害性T細胞は、腫瘍及びウイルス感染細胞を認識し、それに応えて活性化され、これらの細胞を排除する。活性化されるためにはクロノタイプのT細胞受容体(TCR)が、膜表面の主要組織適合性複合体(MHC)分子によって提示された特定のペプチド抗原と遭遇する必要がある。悪性形質転換またはウイルス感染を経た細胞はそれらのMHCクラスI分子上に、腫瘍関連抗原またはウイルスタンパク質に由来するペプチドを提示する。それゆえ、疾患特異的なMHC-ペプチド複合体は、免疫療法的手法の望ましい標的である。1つのそのような手法は、MHC-ペプチド複合体に対して本質的な親和性は低いながらもTCRが有している固有の鋭敏な特異性を、腫瘍またはウイルスエピトープに対するTCR様の特異性が付与された高親和性の可溶性抗体分子に変換する。これらの抗体は、TCR様抗体と呼称されるが、腫瘍及びウイルス感染細胞を標的としそれらの特異的傷害を媒介する新しい部類の免疫療法薬として開発されつつある。その治療能力に加えて、TCR様抗体はがん及び感染症の診断試薬としても開発されつつあり、また、MHCクラスI抗原提示を試験するための価値ある研究用ツールとして役立つ。
【0003】
メラノーマは、メラノサイトかメラノサイト関連母斑細胞かのどちらかに由来する頻繁に転移する侵攻性腫瘍である。メラノーマが一見して皮膚に限局されている場合でさえ、全身転移を発症する患者は30%にのぼる。メラノーマの古典的な治療様式には外科手術、放射線及び化学療法が含まれる。過去10年間で免疫療法及び遺伝子療法は、メラノーマを治療するための新しく有望な方法として出現した。
【0004】
WO03/068201には、チロシナーゼを含めた腫瘍抗原に対するTCR様抗体を生産する方法が開示されている。
【0005】
WO2008/120202には、HLA-チロシナーゼ369-377複合体に対するTCR様抗体が開示されている。
【0006】
さらなる背景技術としては、
WO2016/199141
WO2016/199140
が挙げられる。
【発明の概要】
【0007】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、N-Cの順にCDR配列:
CDR1重鎖(HC) 配列番号8 TSGMGVS
CDR2 HC 配列番号9 HIYWDDDKRYNPSLKS
CDR3 HC 配列番号10 KDYGSSFYAMHY
CDR1軽鎖(LC) 配列番号5 KASQDIHNYIA
CDR2 LC 配列番号6 YTSTLQP
CDR3 LC 配列番号7 LQYDNLWT
を含む抗原結合ドメインを含む抗体であって、抗体の重鎖の可変領域が配列番号4で示され、抗体がHLA拘束性にHLA-A2/TyrD369-377に結合することができる、当該抗体が提供される。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、N-Cの順にCDR配列:
CDR1重鎖(HC) 配列番号8 TSGMGVS
CDR2 HC 配列番号9 HIYWDDDKRYNPSLKS
CDR3 HC 配列番号10 KDYGSSFYAMHY
CDR1軽鎖(LC) 配列番号5 KASQDIHNYIA
CDR2 LC 配列番号6 YTSTLQP
CDR3 LC 配列番号7 LQYDNLWT
を含む抗原結合ドメインを含む抗体であって、抗体の重鎖の可変領域が配列番号4で示され、抗体の軽鎖の可変領域が配列番号2で示され、抗体がHLA拘束性にHLA-A2/TyrD369-377に結合することができる、当該抗体が提供される。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態によれば、抗体はIgGである。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態によれば、抗体はキメラ抗体である。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態によれば、抗体は抗体断片である。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態によれば、抗体は、Fab、F(ab’)2、Fv、scFv、dsFv及び単一ドメイン分子からなる群から選択される。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態によれば、抗体の重鎖は、配列番号21または配列番号27で示される。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態によれば、抗体の軽鎖は、配列番号2、配列番号19または配列番号25で示される。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態によれば、抗体は治療薬部分を含む。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態によれば、治療薬部分は、細胞傷害性部分、毒性部分、サイトカイン部分及び薬物からなる群から選択される。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態によれば、治療薬部分は細胞を含む。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞は、αβT細胞、γδT細胞、NK、CIK、NKT、マクロファージ及びB細胞からなる群から選択される。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態によれば、抗体は二重特異性抗体である。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によれば、二重特異性抗体は抗CD3または抗CD16を含む。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態によれば、抗CD3はscFvを含む。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によれば、HLA拘束性にHLA-A2/TyrD369-377に結合することができる抗体の軽鎖は配列番号2を含む。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、抗体をコードする核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドが提供される。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、シス作用性調節エレメントに機能可能に繋げられたポリヌクレオチドを含む発現ベクターが提供される。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態によれば、発現ベクターはウイルスベクターである。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、ポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む、細胞が提供される。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、抗体、請求項に記載のベクター、または細胞を含む、医薬組成物が提供される。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、メラノーマまたは神経膠芽腫を治療する方法であって、それを必要とする対象に治療的有効量の抗体、ベクターまたは細胞を投与してそれによってメラノーマまたは神経膠芽腫を治療することを含む、当該方法が提供される。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、メラノーマまたは神経膠芽腫を治療する上での抗体、ベクターまたは細胞が提供される。
【0030】
特に定義されていない限り、本明細書中で使用する全ての技術的及び/または科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実施形態の実施または試験において、本明細書に記載されているのと類似しているかまたは等価である方法及び材料を用いることはできるが、例示的な方法及び/または材料を以下に記載する。係争の場合には、定義を含めた本特許明細書が優先されよう。さらに、材料、方法及び例は例説のためのものであるにすぎず、必ずしも限定を意図していない。
【0031】
添付の図面を参照して本発明のいくつかの実施形態を、単なる例として本明細書に記載する。これから詳しく具体的に言及する図面に関して、示されている詳細は例としてのものであり、本発明の実施形態を例説する目的のためのものである、といことを強調しておく。この点で、図面と併せて理解される説明は当業者に対して本発明の実施形態がいかにして実施され得るかを明確にする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1-1】ヒト化D11(hD11-5)TCRL抗体重鎖及び軽鎖のヌクレオチド及びアミノ酸配列(配列番号1~4及び配列番号24~27を含む)を示す。
【
図1-2】ヒト化D11(hD11-5)TCRL抗体重鎖及び軽鎖のヌクレオチド及びアミノ酸配列(配列番号1~4及び配列番号24~27を含む)を示す。
【
図2】SPRによって決定した、HLA-A2/TyrD369-377複合体に対するD11及びhD11-5TCRL抗体の見掛けの結合親和性の決定結果を示す。
【
図3】ビオチン化されたD11及びhD11-5 TCRL抗体の、HLA-A2+/Tyr抗原陽性または陰性細胞に対する結合特異性を示す。
【
図4】ビオチン化されたD11及びhD11-5 TCRL抗体の、HLA-A2+初代正常細胞に対する結合を示す。
【
図5】A~Bは、CD3-ChD11-5二重特異性(BS)TCRL(配列番号16~21)によるHLA-A2+/Tyr+及びHLA-A2+/Tyr-細胞株の傷害を示す。
【
図6】CD3-ChD11-5 BS TCRLによるHLA-A2+正常初代細胞及び正常網膜色素上皮細胞株(ARPE-19)の傷害を示す。
【
図7】確立されたヒトメラノーマ異種移植モデルMel526におけるCD3-D11及びCD3-ChD11-5 BS TCRLの抗腫瘍活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、HLA拘束性にHLA-A2/TyrDに結合することができる抗体及びその用途に関する。
【0034】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明の用途が必ずしも、以下の説明で示されるかまたは実施例で例示される詳細によって限定されるわけではないことは理解されるべきである。本発明は、他の実施形態が可能である、または様々な方法で実施もしくは実行されることができる。
【0035】
T細胞受容体(TCR)様(TCRL)抗体は、腫瘍エピトープに対するTCR様の特異性が付与されている。HLA-ペプチド抗原複合体に対する低い親和性を呈するTCRとは異なり、TCRLは、その可溶性形態においてさえ親和性を有することを特徴としている。TCRLは、腫瘍細胞を標的とするため及びその特異的な傷害を媒介するための新しい治療薬の部類として開発されつつある。
【0036】
本発明者らは以前に、困難なスクリーニング及び実験を通して、TyrD-HLA-A2に対するかつてない鋭敏な特異性を呈するTCRLを同定した(WO2016/199141)。当該抗体はD11と名付けられた。
【0037】
本発明者らはいま、D11をヒト化すること、及び抗CD3アームを有するその二重特異性配置を生み出すことに成功した。軽鎖可変領域における必須のフレームワーク改変(Y49H)を含めた煩雑なヒト化プロセスの後に、hD11-5と呼ぶ完全なヒト化抗体が得られた。ヒト化形態は、見掛けの結合親和性及び結合特異性を含めたD11の全ての機能的特徴を維持している(
図2~4)。抗CD3アームを含む抗体の二重特異性配置(CD3-ChD11-5と呼ぶ)は、試験管内及び生体内で決定した場合に有力なメラノーマ細胞傷害活性を示した(
図5~7参照)。
【0038】
総じて本発明の発見は、がんを治療する上での強力なツールとしてhD11-5を位置付ける。
【0039】
かくして、本発明の態様によれば、N-Cの順にCDR配列:
CDR1重鎖(HC) 配列番号8 TSGMGVS
CDR2 HC 配列番号9 HIYWDDDKRYNPSLKS
CDR3 HC 配列番号10 KDYGSSFYAMHY
CDR1軽鎖(LC) 配列番号5 KASQDIHNYIA
CDR2 LC 配列番号6 YTSTLQP
CDR3 LC 配列番号7 LQYDNLWT
を含む抗原結合ドメインを含む抗体であって、抗体の重鎖の可変領域が配列番号4で示され、抗体がHLA拘束性にHLA-A2/TyrD369-377に結合することができる、当該抗体が提供される。
【0040】
あるいは、N-Cの順にCDR配列:
CDR1重鎖(HC) 配列番号8 TSGMGVS
CDR2 HC 配列番号9 HIYWDDDKRYNPSLKS
CDR3 HC 配列番号10 KDYGSSFYAMHY
CDR1軽鎖(LC) 配列番号5 KASQDIHNYIA
CDR2 LC 配列番号6 YTSTLQP
CDR3 LC 配列番号7 LQYDNLWT
を含む抗原結合ドメインを含む抗体であって、抗体の重鎖の可変領域が配列番号4で示され、抗体の軽鎖の可変領域が配列番号2で示され、抗体がHLA拘束性にHLA-A2/TyrD369-377に結合することができる、当該抗体が提供される。
【0041】
本明細書中で使用する場合、「結合」または「結合する」は、抗体-抗原様式の結合を指すが、これは概して、臨床上関連のあるTCRLの場合であり、この場合、表面プラズモン共鳴アッセイ(SPR)で決定されるKDが5nM未満(例えば3.5~4.9nM)の範囲にある。
【0042】
抗体のその抗原に対する親和性は、アビディティーがその一因となることを最小限に抑えるために、捕捉または固定化モノクローナル抗体(MAb)フォーマットを用いて表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定される。親和性を評価するためには、可溶性形態の、つまり以下に記載する一本鎖(sc)HLA-A2/TyrD369-377複合体としての抗原を使用する。
【0043】
本明細書中で使用する場合、「KD」という用語は、抗原結合ドメインとその個別の抗原との平衡解離定数を指す。
【0044】
本発明において使用する「抗体」という用語は、完全な分子、例えばIgGを含むだけでなく、ヒト化重鎖の可変領域すなわち配列番号4を含むその断片も含む。
【0045】
具体的な実施形態によれば、抗体断片には、HLA拘束性に抗原のエピトープに結合することができる、一本鎖、Fab、Fab’及びF(ab’)2断片、Fv、dsFv、scFv、ダイアボディ、ミニボディ、ナノボディ、Fab発現ライブラリーまたは単一ドメイン分子、例えばVH及びVLが含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
本明細書で使用する場合、「可変領域」及び「CDR」は、当技術分野で知られている、手法の組合せも含めた任意の手法によって定義される、可変領域及びCDRを指すものであり得る。具体的な実施形態によれば、CDRは、Kabat et al.(上記参照)に従って決定される。
【0047】
具体的な実施形態によれば、抗体はヒト化抗体である。
【0048】
具体的な実施形態によれば、抗体はキメラ抗体である。
【0049】
本明細書中で使用する場合、「キメラ抗体」は、少なくとも1つの鎖が非ヒト(例えばマウス)動物のものでありかつ定常領域[例えば定常領域、例えばCL(カッパまたはラムダ)]がヒトである抗体を指す。このように、抗体は例えば、両方の鎖が非ヒト可変領域及びヒト定常領域を含む完全抗体またはその断片であり得る。別の例によれば、1本の鎖はヒト化されており、もう1本の鎖は非ヒト可変領域及びヒト定常領域を含む。キメラ抗体の二重特異性配置を以下に記載する。
【0050】
非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化形態は免疫グロブリンのキメラ分子であり、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含有する免疫グロブリン鎖である。ヒト化抗体は、この場合のマウスなどの非ヒト種(ドナー抗体)の所望の特異性、親和性及び効力(細胞傷害性)を有する相補性決定領域(CDR)からの残基によってレシピエントのCDRからの残基が置き換えられた、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)を含む。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が、対応する非ヒト残基で置き換えられる。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体にも移入CDRまたはフレームワーク配列にもみられない残基を含んでいてもよい。ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応する全てのCDR領域と、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域の全てまたは実質的に全てとを含む。ヒト化抗体は、場合によってはさらに、免疫グロブリン定常領域(Fc)の、典型的にはヒト免疫グロブリンのそれの、少なくとも一部を含むであろう[Jones et al.,Nature,321:522-525(1986)、Riechmann et al.,Nature,332:323-329(1988)、及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593-596(1992)]。
【0051】
具体的な実施形態によれば、抗体は、配列番号2または配列番号25で示される軽鎖の可変領域を含み、したがって、ヒト化抗体である。
【0052】
具体的な実施形態によれば、抗体は、配列番号19で示される軽鎖の可変領域を含む。
【0053】
いくつかの実施形態において、免疫グロブリンアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4から選択され、とりわけIgG1またはIgG4である。具体的な実施形態では、アイソタイプはIgG1である。
【0054】
具体的な実施形態によれば、抗体は治療薬部分を含む。
【0055】
具体的な実施形態によれば、抗体は二重特異性抗体である。
【0056】
したがって、本明細書ではhD11-5抗体の二重特異性配置も、(配列番号2及び配列番号4で示されるそれぞれ軽鎖及び重鎖の可変領域を有する)ヒト化形態か、(例えば配列番号19で示される軽鎖及び配列番号21で示される重鎖の可変ドメインを有する)キメラ形態かのどちらかとして企図される。二重特異性抗体(BsAb)は、2つの異なるモノクローナル抗体の断片から構成される人工タンパク質であり、それゆえ、タイプの異なる2つの抗原に結合し、この場合ではHLA-A2/TyrD369-377と、上記TyrD369-377とは異なる別のエピトープとに結合する。具体的な実施形態によれば、BsAbは、CD3を介してT細胞などの細胞傷害性細胞に結合すると同時にTyrD HLA-A2拘束性ペプチドを介して標的メラノーマ細胞に結合するように操作される。他の例示的な配置を以下に記載する。
【0057】
本明細書中で使用する場合、「MHC(またはHLA)拘束性ペプチド」という語句は、HLA分子上に提示されるペプチドを指し、この場合では、HLA-A2分子上に提示されるTyrD369-377(本明細書では略すと「TyrD」配列番号15)を指す。
【0058】
具体的な実施形態によれば、抗CD3のscFvは、配列番号16、17のポリヌクレオチドまたはポリペプチドで示される。
【0059】
本発明の態様によれば、本明細書に記載の抗体をコードする核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドも提供される。
【0060】
具体的な実施形態によれば、HLA-A2拘束性にTyrD369-377に結合することができるヒト化抗体をコードする核酸配列は、配列番号1、配列番号3、配列番号24、配列番号26で示される。
【0061】
具体的な実施形態によれば、HLA拘束性にTyrD369-377に結合することができるキメラ抗体をコードする核酸配列は、配列番号3、配列番号20または配列番号26及び配列番号18で示される。
【0062】
具体的な実施形態によれば、抗CD3 scFvをコードする核酸配列は、配列番号17で示される。
【0063】
また、シス作用性調節エレメントに機能可能に繋げられたポリヌクレオチドを含む発現ベクターも提供される。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態の核酸構築物(本明細書中では「発現ベクター」とも呼称される)は、このベクターを原核生物、真核生物または好ましくはその両方(例えばシャトルベクター)における複製及び組込みに適したものにする追加の配列を含む。加えて、典型的なクローニングベクターはさらに、転写及び翻訳開始配列、転写及び翻訳終結及びポリアデニル化シグナルも含有し得る。例を挙げると、そのような構築物は、5’LTR、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、第2鎖DNA合成起点、及び3’LTRまたはその一部を含むのが典型的であろう。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態の核酸構築物は、典型的には、中にそれが入っている宿主細胞からの抗体の分泌または提示のためのシグナル配列を含む。好ましくはこの目的のためのシグナル配列は哺乳動物シグナル配列である。
【0066】
真核生物プロモーターは典型的には、2つのタイプの認識配列、TATAボックス、及び上流プロモーターエレメントを含有する。TATAボックスは、転写開始部位よりも25~30塩基対だけ上流側に位置し、RNAポリメラーゼにRNA合成を開始させるように仕向けることに関与すると考えられている。その他の上流プロモーターエレメントは、転写を開始する速度を決定付ける。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態の核酸構築物が利用するプロモーターは、形質転換された特定細胞集団において活性であることが好ましい。細胞種特異的及び/または組織特異的プロモーターの例としては、肝臓特異的なアルブミンなどのプロモーター[Pinkert et al.,(1987)Genes Dev.1:268-277]、リンパ系特異的プロモーター[Calame et al.,(1988)Adv.Immunol.43:235-275]、特に、T細胞受容体[Winoto et al.,(1989)EMBO J.8:729-733]及び免疫グロブリン[Banerji et al.(1983)Cell 33729-740]のプロモーター、ニューロン特異的プロモーター、例えばニューロフィラメントプロモーター[Byrne et al.(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5473-5477]、膵臓特異的プロモーター[Edlunch et al.(1985)Science 230:912-916]、または乳腺特異的プロモーター、例えば乳清プロモーター(米国特許第4,873,316号及び欧州特許出願公開第264,166号)が挙げられる。
【0068】
エンハンサーエレメントは、繋げられた同種または異種プロモーターに比べて転写を1,000倍にまで刺激することができる。エンハンサーは転写開始部位の下流または上流に配置された場合に活性である。ウイルスに由来する多くのエンハンサーエレメントは、広範な宿主範囲を有し、様々な組織において活性である。例えば、SV40早期遺伝子エンハンサーは多くの細胞種に適する。本発明のいくつかの実施形態に適する他のエンハンサー/プロモーターの組合せとしては、ポリオーマウイルス、ヒトまたはマウスサイトメガロウイルス(CMV)に由来するもの、マウス白血病ウイルス、マウスまたはラウス肉腫ウイルス、及びHIVなどの様々なレトロウイルスからの長鎖末端反復配列(long term repeat)が挙げられる。Enhancers and Eukaryotic Expression,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.1983を参照されたく、参照によりこれを本明細書に援用する。
【0069】
発現ベクターを構築する際、プロモーターは、異種転写開始部位からの距離がその天然環境での転写開始部位からの距離とほぼ同じになるように配置されることが好ましい。但し、当技術分野で知られているように、プロモーター機能を失うことなくこの距離のいくらかの変更を許容することができる。
【0070】
TCRL mRNA翻訳の効率を向上させるためにポリアデニル化配列も発現ベクターに加えることができる。正確かつ効率的なポリアデニル化のためには2つの別個の配列エレメントが必要とされる:ポリアデニル化部位の下流に位置する、GUまたはUに富む配列、及び11~30ヌクレオチドだけ上流側に位置する高度に保存された6ヌクレオチドAAUAAAの配列。本発明のいくつかの実施形態に適する終結及びポリアデニル化シグナルとしては、SV40に由来するものが挙げられる。
【0071】
既に記載したエレメントの他にも、本発明のいくつかの実施形態の発現ベクターは、クローニングされた核酸の発現レベルを向上させること、または組換えDNAを保有する細胞の同定を容易にすることを意図した他の特殊なエレメントを含有し得るのが典型的である。例えば、いくつかの動物ウイルスは、許容細胞種におけるウイルスゲノムの染色体外複製を促進するDNA配列を含有する。これらのウイルスレプリコンを担ったプラスミドは、プラスミド上に保有しているか宿主細胞のゲノムと共にあるかのどちらかである遺伝子によって適切な因子が提供される限り、エピソームとして複製される。
【0072】
ベクターは、真核生物レプリコンを含んでいてもいなくてもよい。真核生物レプリコンが存在する場合には、適切な選択マーカーを使用してベクターを真核細胞内で増幅することができる。ベクターが真核生物レプリコンを含んでいない場合、エピソームによる増幅はできない。その代わりに、操作された細胞のゲノムの中に組換えDNAが組み込まれ、そこでプロモーターが所望の核酸の発現を促す。
【0073】
哺乳動物細胞における組換えポリペプチド発現の改善は、トランスフェクトされる宿主細胞への遺伝子投入量を効果的に増加させることによって実現され得る。遺伝子コピー数の増加は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)またはグルタミン合成酵素(GS)などの酵素を欠く細胞株と併せて、これらの酵素をコードする遺伝子を含有する発現ベクターと、DHFRを阻害するメトトレキサート(MTX)及びGSを阻害するメチオニンスルホキシアミン(MSX)などの薬剤とを使用する、遺伝子増幅によって実現されるのが最も一般的である。このように、例示的な実施形態では、強力なプロモーターの制御下にある組換え遺伝子とDHFRまたはGSをコードする遺伝子とを含有する発現ベクター、DHFR+またはGS.sup+形質移入体をそれぞれ得ることができ、その後、漸増濃度のMTXまたはMSX0のもとで形質移入体を成長させることによって遺伝子増幅が成し遂げられる。
【0074】
発現のための例示的なシステムはEP2861741、US20120178126及びUS20080145895に記載されており、参照によりその全体を本明細書に援用する。
【0075】
さらに、本明細書に記載のポリヌクレオチド/発現ベクターを含む細胞が提供される。
【0076】
抗体コードベクターのクローニングまたは発現に適する宿主細胞としては、本明細書に記載の原核細胞または真核細胞が挙げられる。例えば、抗体は、とりわけグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要でない場合に、細菌内で産生され得る。E.coliにおける抗体断片の発現について記載しているCharlton,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,N.J.,2003),pp.245-254も参照されたい。発現後、細菌細胞ペーストから抗体を可溶性画分として単離することができ、さらに精製がなされ得る。
【0077】
原核生物に加えて糸状菌または酵母などの真核微生物は抗体コードベクターに適したクローニングまたは発現宿主であり、これには、グリコシル化経路が「ヒト化」されておりその結果として部分的または完全にヒトのグリコシル化型を有する抗体を産生する真菌及び酵母株が含まれる。Gerngross,Nat.Biotech.22:1409-1414(2004)、及びLi et al.,Nat.Biotech.24:210-215(2006)を参照されたい。
【0078】
グリコシル化抗体の発現に適する宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)からも得られる。無脊椎動物細胞の例としては、植物及び昆虫細胞が挙げられる。昆虫細胞と一緒に使用され得る、特にSpodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために使用され得る、多くのバキュロウイルス株が同定されている。
【0079】
植物細胞培養物を宿主として利用することもできる。例えば、(遺伝子導入植物において抗体を産生させるためのPLANTIBODIES(商標)技術について記載している)米国特許第5,959,177号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号、及び第6,417,429号を参照されたい。
【0080】
脊椎動物細胞も宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で成長するのに適合した哺乳動物細胞株が有用であり得る。他の有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40で形質転換したサル腎CV1株(COS-7);ヒト胚性腎臓株(例えばGraham et al.,J.Gen Virol.36:59(1977)に記載されているような293または293細胞);ベビーハムスター腎細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えばMather,Biol.Reprod.23:243-251(1980)に記載されているようなTM4細胞);サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76);ヒト子宮頸部癌細胞(HELA);イヌ腎細胞(MDCK;バッファローラット肝細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2);マウス乳腺腫瘍(MMT060562);例えばMather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383:44-68(1982)に記載されているようなTRI細胞;MRC5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては、DHFR.sup.-CHO細胞(Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980))を含めたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;ならびに骨髄腫細胞株、例えばY0,NS0及びSp2/0が挙げられる。抗体産生に適する特定の哺乳動物宿主細胞株の総説については、例えば、Yazaki and Wu,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,N.J.),pp.255-268(2003)を参照されたい。
【0081】
抗体の高い特異性はそれを診断(とりわけ、抗体のヒト化された特性が必須となる生体内診断)及び治療の用途に特に適したものにする。
【0082】
かくして、本発明の態様によれば、HLA拘束性にTyrD369-377を提示する細胞を検出する方法が提供される。方法は、HLA-A2拘束性TyrDペプチド抗原に対する特異性を有する本発明の抗体に細胞を接触させることを含む。接触は、免疫複合体形成を可能にする条件の下でもたらされ、免疫複合体の存在またはそのレベルは、関心対象のHLA拘束性ペプチド抗原を提示する細胞を示すものである。
【0083】
本明細書中で使用される「検出する」という用語は、細胞を検出する、検知する、明らかにする、曝露する、可視化する、または同定する行為を指す。厳密な検出方法は、本明細書中で以下にさらに説明する、抗体が取り付けられる検出可能部分(本明細書中では同定可能部分とも呼ぶ)によって決まる。
【0084】
上記検出方法は、HLA拘束性なTyrD369-377の提示を特徴とするがん、例えばメラノーマ及び神経膠芽腫の診断に役立てられ得る。
【0085】
本明細書中で使用する場合、「診断する」という用語は、疾患を分類すること、疾患の重症度(グレードまたはステージ)を判定すること、進行を追跡評価すること、疾患の転帰及び/または回復の見込みを予測することを指す。
【0086】
対象は、定期的な健康診断を受けている健常な対象(例えばヒト)であり得る。あるいは、対象は疾患リスクを有していてもよい。あるいはまた、治療有効性を追跡評価するために方法を用いてもよい。
【0087】
TCRLは、同定可能部分を含み得、例えばそれに取り付けられ得る。あるいは、またはさらに、TCRL(またはそれを含む複合体)を間接的に、例えば二次抗体を使用することによって同定してもよい。
【0088】
既に述べたとおり、本発明の方法は、免疫複合体(例えば、典型的には細胞を溶解させていないときの、本発明の抗体とHLAに複合化したペプチドとの複合体)を形成するのに十分な条件の下で成し遂げられ、そのような条件(例えば、適切な濃度、緩衝液、温度、反応時間)及びそのような条件を最適化するための方法は当業者に知られており、本明細書中に例が開示されている。
【0089】
本発明の抗体は、がんの治療に特に有用である。
【0090】
本明細書中で使用する「がん」という用語は、異常細胞の急速な制御されない成長を特徴とする疾患として定義される。がん細胞は、局所的に、または血流及びリンパ系によって他の身体部分に蔓延し得る。
【0091】
本発明のいくつかの実施形態によれば、病状は固形腫瘍である。
【0092】
具体的な実施形態によれば、病状はメラノーマである。
【0093】
具体的な実施形態によれば、病状は神経膠芽腫である。
【0094】
本発明のいくつかの実施形態によれば、本発明の抗体は抗腫瘍作用を有する。
【0095】
本明細書中で使用する「抗腫瘍作用」という用語は、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞の数の減少、転移の数の減少、平均余命の延び、またはがん性病態に関連する様々な生理学的症候の改善によって証明され得る生物学的作用を指す。「抗腫瘍作用」はまた、最初の腫瘍の発生の防止における本発明の医薬の能力によっても証明され得る。
【0096】
具体的な実施形態によれば、抗体は、チロシナーゼ(TyrD)陽性がんのためのものである。
【0097】
「TyrD369-377陽性がん」という用語は、HLA拘束性にTyrDを提示する細胞を含むがんを指す。具体的な実施形態によれば、TyrD369-377陽性がんはメラノーマまたは神経膠芽腫である。
【0098】
本明細書中で使用する場合、「メラノーマ」は、メラノサイトとして知られる色素含有細胞から発症するがんを指す。メラノーマは典型的には皮膚に起こるが、口腔、腸または眼に起こることが稀にあり得る。
【0099】
本発明の実施形態は、以下のタイプのメラノーマに言及している:
悪性黒子
悪性黒子型メラノーマ
表在拡大型メラノーマ
末端黒子型メラノーマ
粘膜メラノーマ
結節型メラノーマ
ポリープ状メラノーマ
線維形成性メラノーマ
小型母斑様細胞を伴うメラノーマ
スピッツ母斑の特徴を有するメラノーマ
ぶどう膜メラノーマ。
【0100】
メラノーマのがんステージ判定はTNMを利用することができる。また、腫瘍浸潤の微視的深度に言及するものである「Clarkレベル」及び「Breslowの厚さ」も重要である。メラノーマのステージはその各々が本明細書において企図される。
ステージ0:表皮内メラノーマ(ClarkレベルI)、生存率99.9%
ステージI/II:浸潤性メラノーマ、生存率89~95%
T1a:原発腫瘍厚さが1.0mm未満であり、潰瘍形成がなく、有糸分裂が1/mm2未満である
T1b:原発腫瘍厚さが1.0mm未満であり、潰瘍形成があるかまたは有糸分裂が1/mm2以上である
T2a:原発腫瘍厚さが1.01~2.0mmであり、潰瘍形成がない
ステージII:高リスクのメラノーマ、生存率45~79%
T2b:原発腫瘍厚さが1.01~2.0mmであり、潰瘍形成がある
T3a:原発腫瘍厚さが2.01~4.0mmであり、潰瘍形成がない
T3b:原発腫瘍厚さが2.01~4.0mmであり、潰瘍形成がある
T4a:原発腫瘍厚さが4.0mmより厚く、潰瘍形成がない
T4b:原発腫瘍厚さが4.0mmより厚く、潰瘍形成がある
ステージIII:局所転移、生存率24~70%
N1:単一の陽性リンパ節
N2:2~3個の陽性リンパ節または局所皮膚/イントランジット転移
N3:4個の陽性リンパ節または1個のリンパ節及び局所皮膚/イントランジット転移
ステージIV:遠隔転移、生存率7~19%
M1a:遠隔皮膚転移、正常LDH
M1b:肺転移、正常LDH
M1c:その他の遠隔転移、またはLDH上昇を伴う任意の遠隔転移
【0101】
適切な処置がなされた場合の初回メラノーマ診断時からのAJCC5年生存率に基づく。
【0102】
本明細書中で使用する場合、「神経膠芽腫」または「多形性神経膠芽腫(GBM)」は、脳内で始まる最も侵攻性が高いがんを指す。
【0103】
具体的な実施形態によれば、神経膠芽腫は以下のとおりに分類される:
【0104】
古典的:「古典的」亜型である腫瘍のうちの97パーセントは、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の余剰のコピーを保有しており、ほとんどのものは上皮成長因子受容体(EGFR)の発現が正常時よりも高いが、これに対して、神経膠芽腫において突然変異を起こすことが多い遺伝子TP53(p53)は、この亜型において滅多に突然変異を起こさない。
【0105】
前神経亜型は、TP53(p53)、a型血小板由来成長因子受容体をコードする遺伝子であるPDGFRA、及びイソクエン酸脱水素酵素1をコードする遺伝子であるIDH1が高い割合で変化していることが多い。
【0106】
間葉系亜型は、ニューロフィブロミン1をコードする遺伝子であるNF1における突然変異またはその他の変化の高い割合、及びEGFR遺伝子におけるより少ない変化、及び他の型に比べて少ないEGFRの発現によって特徴付けられる。
【0107】
神経系亜型の象徴は、NEFL、GABRA1、SYT1及びSLC12A5などのニューロンマーカーの発現である。
【0108】
神経膠芽腫における他の遺伝子変化について記載が多くなされており、その大部分はRBとPI3K/AKTとの2つの経路にまとめられる。神経膠芽腫ではこれらの経路のそれぞれ68~78%及び88%が変化している。
【0109】
もう1つの重要な変化は、DNA修復酵素の「自殺」であるMGMTのメチル化である。メチル化は、DNA転写、したがってMGMT酵素の発現を修復するという記載がある。MGMT酵素はその自殺修復機序によってたった1つのDNAアルキル化しか修復できないので、逆行能は低く、MGMT遺伝子プロモーターのメチル化はDNA修復能に非常に大きな影響を与える。[35][36]実際、MGMTメチル化は、DNAを損傷する化学療法薬、例えばテモゾロミドによる処置の奏効の改善と関係がある。
【0110】
どの場合においても、いくつかの実施形態によれば、がんは、(例えばRT-PCRまたは免疫組織化学などの当技術分野でよく知られている方法を用いて決定される)チロシナーゼmRNAまたはタンパク質の発現を特徴とする。
【0111】
上記分類は、診断及び治療の両方に適したものである。
【0112】
本発明の免疫複合体の存在またはレベルの判定は、抗体を取り付ける検出可能部分に依拠する。
【0113】
本発明で使用することができる検出可能部分の例としては、限定されないが、放射性同位体、リン光化学物質、化学発光化学物質、蛍光化学物質、酵素、蛍光ポリペプチド、及びエピトープタグが挙げられる。検出可能部分は結合対のメンバーであり得るが、これは、結合対の別のメンバーとの相互作用、及び直接可視化される標識による同定が可能なものである。一例として、結合対のメンバーは、対応する標識抗体によって同定される抗原である。一例として、標識は、蛍光タンパク質、または比色分析反応を生じる酵素である。
【0114】
検出可能部分のさらなる例には、陽電子放射断層撮影(PET)及び磁気共鳴画像法(MRI)によって検出することができるものが含まれ、これらは全て当業者によく知られている。
【0115】
検出可能部分がポリペプチドである場合、免疫標識(すなわち、検出可能部分と複合した抗体)を組換え手段によって作ってもよいし、またはそれを、例えば固相ペプチド合成技術を用いて所定の順序で1つ以上のアミノ酸残基を段階的に添加することによって化学合成してもよい。(TCRLをコードするポリヌクレオチドが翻訳によって検出可能部分と融合する)組換えDNA技術を用いて本発明の抗体に繋げられることができるポリペプチド検出可能部分の例としては、蛍光ポリペプチド、リン光ポリペプチド、酵素、及びエピトープタグが挙げられる。
【0116】
あるいは、検出可能部分を本発明の抗体に化学的に取り付けることは、直接的または間接的な任意の好適な化学結合を用いて、例えば(検出可能部分がポリペプチドである場合に)ペプチド結合を介して、または介在するリンカー要素、例えばリンカーペプチドもしくはその他の化学部分、例えば有機ポリマーとの共有結合を介して成し遂げられ得る。そのようなキメラペプチドは、ペプチドのカルボキシ(C)またはアミノ(N)末端における結合を介して、または内部の化学基、例えば、直鎖、分岐鎖または環状側鎖、内部の炭素または窒素原子などとの結合を介して繋げられ得る。そのような修飾ペプチドは、ペプチドを合成する及び/またはペプチドを共有結合で繋げる周知の方法を用いて当業者によって簡単に同定及び調製され得る。抗体を蛍光標識することについての記載は米国特許第3,940,475号、第4,289,747号、及び第4,376,110号に詳しく提供されている。
【0117】
このように、本明細書に記載の複合体は、抗体を脂質、炭水化物、タンパク質、毒素、薬物、またはその他の原子及び分子に繋げる既知の方法によって調製され得る。いくつかの実施形態では、複合体は、好適な連結または結合を用いる部位特異的複合化によって形成される。部位特異的複合化は抗体の結合活性を保護する可能性が高い。物質はチオエーテル結合形成によって、還元された抗原結合構築物のヒンジ領域に複合し得る、または取り付けられ得る。いくつかの実施形態では、チロシン複合化を採用することができる。複合体を形成するために用いられる他の連結または結合には、共有結合、非共有結合、ジスルフィド結合、ヒドラゾン結合、エステル結合、アミド結合、及びアミノ結合、イミノ結合、チオセミカルバゾン結合、セミカルバゾン結合、オキシム結合、及び炭素-炭素結合が含まれ得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、抗体にシステインまたはその他の連結態様を含ませる必要がない(Bioconjugate Techniques(Third Edition)Author(s):Greg T.Hermanson ISBN:978-0-12-382239-0)。
【0118】
部分を複合させる例示的な方法はWO2017/027325またはU.S.9,078,931に記載されており、これをもって参照によりこれらの各々の全体を援用する。
【0119】
既に述べたとおり、本発明の抗体を治療薬に使用することもできる。
【0120】
全抗体においては、Fcドメインが抗体依存性細胞傷害(ADCC)を活性化させるので、治療効果は分子に固有のものである。ADCCは、膜表面抗原に特異性抗体が結合した標的細胞を免疫系のエフェクター細胞が活発に溶解する手立てとなる細胞媒介性免疫防御の機序である。それは、体液性免疫応答の一部として抗体が感染を制限し封じ込めるように振る舞うことができるすべとなる機序の1つである。古典的なADCCはナチュラルキラー(NK)細胞によって媒介されるが、マクロファージ、好中球及び好酸球もADCCを媒介することができる。例えば、好酸球は、IgEが媒介するADCCによって、寄生蠕虫として知られる特定の寄生虫を殺滅することができる。ADCCは、以前の抗体応答に依存するので、適応免疫応答の一部である。
【0121】
あるいは、またはさらに、抗体は、既に述べたとおり、治療薬部分がT細胞係合子、例えば抗CD3抗体または抗CD16aである二重特異性抗体であってもよく、あるいは、治療薬部分は抗免疫チェックポイント分子(例えば、抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA4)であってもよい。具体的な実施形態によれば、治療薬部分は抗CD3である。
【0122】
あるいは、またはさらに、抗体を異種治療薬部分に取り付けてもよい(複合化の方法は以上に記載されている)。治療薬部分は、例えば、細胞傷害性部分、毒性部分、サイトカイン部分、薬物であり得る。例としては、限定されないが、BRAF阻害薬、例えばベムラフェニブ及びダブラフェニブ、ならびに放射性同位体または毒素、例えば、プロチオニン、シュードモナス属の外毒素A、メトトレキサートが挙げられる。
【0123】
抗体は可溶性または不溶性形態であり得る。
【0124】
不溶性形態は、その中で細胞(すなわち、本明細書では治療薬部分とも呼ぶ)がヒト化抗体の可変領域を含む分子を発現させるものであり得る。
【0125】
そのような細胞の例としては、免疫細胞、T細胞、B細胞、樹状細胞、CIK、NKT、NK細胞(自家、同種異系、異種)が挙げられる。
【0126】
具体的な実施形態によれば、抗体(またはその可変領域)はCARまたは人工T細胞受容体を形成する。
【0127】
本明細書中で使用される「キメラ抗原受容体(CAR)」という用語は、例えば、人工T細胞受容体、Tボディ、一本鎖免疫受容体、キメラT細胞受容体、またはキメラ免疫受容体を指し得、また、人工的な特異性を特定の免疫エフェクター細胞に結び付ける操作された受容体を包含し得る。CARは、モノクローナル抗体の特異性をT細胞に付与するために採用されてもよく、それによって、例えば養子細胞療法に使用するための、多くの特異性T細胞を生み出すことが可能になり得る。具体的な実施形態では、CARは細胞の特異性を例えば腫瘍関連抗原へと指向する。いくつかの実施形態では、CARは、(標的腫瘍細胞などの標的細胞との標的指向性部分の係合によってT細胞が活性化するのを可能にする)細胞内活性化ドメイン、膜貫通ドメイン及び、疾患または障害に関連する例えば腫瘍抗原結合領域を含み様々な長さであり得る細胞外ドメインを含む。特定の態様では、CARは、モノクローナル抗体由来の一本鎖可変断片(scFv)と、CD3-ゼータに融合した膜貫通ドメインと、エンドドメインとの融合体を含む。他のCARデザインの特異性は、受容体のリガンド(例えばペプチド)に由来するものであってもよいし、またはデクチンなどのパターン認識受容体に由来するものであってもよい。ある場合には、抗原認識ドメインの間隔を調整して活性化誘導細胞死を軽減することができる。ある場合には、CARは、追加の共刺激シグナル伝達のためのドメイン、例えば、CD3-ゼータ、FcR、CD27、CD28、CD137、DAP10/12、及び/またはOX40、ICOS、TLRなどを含む。ある場合には、共刺激分子、撮像のための(例えば陽電子放射断層撮影のための)レポーター遺伝子、プロドラッグ添加時に条件的にT細胞を除去する遺伝子産物、ホーミング受容体、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、及びサイトカイン受容体を含めた分子をCARと共発現させることができる。
【0128】
特定の実施形態では、本発明のいくつかの実施形態のαβT細胞、γδT細胞、NK、マクロファージまたはB細胞または細胞集団(複数可)は、発現カセットにコードされる1つ以上の構造的に別個な抗体を安定的に発現させるように操作される。抗体は、MHCとの複合体(ペプチド-MHC複合体)として細胞表面に発現した(i)細胞表面腫瘍抗原または(ii)腫瘍抗原由来のペプチドに結合する、キメラ抗原受容体(CAR)、全抗体もしくはそれらの抗原結合断片、一本鎖可変断片(scFv)、重鎖もしくは軽鎖単一ドメイン抗体(sdAb)、Fab、F(ab)2またはそれらの任意の組合せからなる群から選択され得る。
【0129】
したがって、そのような分子をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号1、配列番号3または、配列番号2、配列番号4をコードする任意のポリヌクレオチド)を関心対象の細胞に形質導入する。
【0130】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞、標的細胞に対してエフェクター傷害機能を働かせる細胞、エフェクターT細胞に対して抑制作用を及ぼす細胞、エフェクター傷害機能によって操作された細胞、または抑制機能によって操作された細胞である。
【0131】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞は、T細胞、またはαβT細胞、またはγδT細胞である。
【0132】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞はナチュラルキラー(NK)細胞である。
【0133】
本発明のいくつかの実施形態によれば、がんを標的とするためにナチュラルキラー細胞を使用する。
【0134】
本発明のいくつかの実施形態によれば、T細胞はサイトカインT細胞(エフェクターT細胞)である。
【0135】
本発明のいくつかの実施形態によれば、がん抗原、この場合ではTyrDを標的とするために、サイトカインT細胞(エフェクターT細胞)を使用する。
【0136】
本発明のいくつかの実施形態によれば、T細胞はTreg(T調節性細胞)を含む。
【0137】
本発明のいくつかの実施形態によれば、T細胞はCD3 T細胞を含む。
【0138】
本発明のいくつかの実施形態によれば、T細胞はCD4 T細胞を含む。
【0139】
本発明のいくつかの実施形態によれば、T細胞はCD8 T細胞を含む。
【0140】
本発明のいくつかの実施形態によれば、抗体は一本鎖Fv(scFv)分子である。
【0141】
本発明のCAR分子の細胞質側ドメイン(「細胞内シグナル伝達ドメイン」とも呼ぶ)は、CARが配置された免疫細胞の正常なエフェクター機能のうちの少なくとも1つの活性化を担う。
【0142】
「エフェクター機能」という用語は、細胞の特殊な機能を指す。例えば、T細胞のエフェクター機能は、サイトカインの分泌を含めた細胞溶解活性またはヘルパー活性であり得る。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを変換して、特殊な機能を実施するように細胞を仕向ける、タンパク質の部分を指す。大抵は細胞内シグナル伝達ドメインの全体が採用され得るが、多くの場合、鎖全体を使用する必要はない。切断された細胞内シグナル伝達ドメインの部分を使用する範囲内で、そのような切断された部分は、それがエフェクター機能シグナルを変換する限り、完全鎖の代わりに使用され得る。このように、細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、エフェクター機能シグナルを変換するに足る任意の切断された細胞内シグナル伝達ドメインの部分を含むことが意図されている。
【0143】
本発明のCAR分子に使用するための細胞内シグナル伝達ドメインの例としては、T細胞受容体(TCR)及び、抗原受容体係合後に協奏的に作用してシグナル伝達を開始する共受容体の細胞質側配列、ならびにこれらの配列の任意の派生物または変異体、及び同じ機能的能力を有する任意の合成配列が挙げられる。
【0144】
TCR単独で生成したシグナルがT細胞の十分な活性化には不十分であること、及び二次または共刺激シグナルも必要であることは知られている。このように、T細胞活性化は2つの別個の部類の細胞質側シグナル伝達配列によって媒介され得る:TCRによって抗原依存的な一次活性化を開始するもの(一次細胞質側シグナル伝達配列)、及び抗原依存的に作用して二次または共刺激シグナルを供給するもの(二次細胞質側シグナル伝達配列)。
【0145】
一次細胞質側シグナル伝達配列は、TCR複合体の一次活性化を刺激するように、または抑制するように調節する。刺激するように働く一次細胞質側シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシン依存性活性化モチーフ(ITAM)として知られるシグナル伝達モチーフを含有し得る。
【0146】
本発明において特に有用な、ITAMを含有する一次細胞質側シグナル伝達配列の例としては、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dに由来するものが挙げられる。本発明のCARの中の細胞質側シグナル伝達分子は、CD3ゼータに由来する細胞質側シグナル伝達配列を含むことが特に好ましい。
【0147】
好ましい実施形態では、CARの細胞質側ドメインはCD3-ゼータシグナル伝達ドメインを、単独で、または本発明のCARに関して有用な他の所望の細胞質側ドメイン(複数可)と組み合わせて、含むように設計され得る。例えば、CARの細胞質側ドメインはCD3ゼータ鎖部分と共刺激シグナル伝達領域とを含むことができる。共刺激シグナル伝達領域は、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの部分を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的応答に必要とされる、抗原受容体またはそのリガンドとは異なる細胞表面分子である。そのような分子の例としては、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及びCD83に特異的に結合するリガンドなどが挙げられる。このように、本発明において共刺激シグナル伝達エレメントは主に4-1BBによって例示されるが他の共刺激エレメントも本発明の範囲に含まれる。
【0148】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞内ドメインは共刺激シグナル伝達領域とゼータ鎖部分とを含む。共刺激シグナル伝達領域は、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCAR分子の部分を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的応答に必要とされる、抗原受容体またはそのリガンドとは異なる細胞表面分子である。
【0149】
「共刺激リガンド」は、当該用語が本明細書中で使用される場合、T細胞上の同族共刺激分子に特異的に結合する、抗原提示細胞上[例えば、aAPC(人工抗原提示細胞)上、樹状細胞上、B細胞上など]の分子を含む。当該結合は、例えばTCR/CD3複合体とペプチドを負荷したMHC分子との結合によって提供される一次シグナルに加えて、増殖、活性化、分化などを含むがこれらに限定されないT細胞応答を媒介するシグナルを提供する。共刺激リガンドには、CD7、B7-1、(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンベータ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結合する作動薬または抗体、及びB7-H3に特異的に結合するリガンドが含まれ得るが、これらに限定されない。共刺激リガンドはさらに、数ある中でも、限定されないがCD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3などのT細胞上に存在する共刺激分子に特異的に結合する抗体、及びCD83に特異的に結合するリガンドを包含する。
【0150】
「共刺激分子」は、共刺激リガンドに特異的に結合してそれによってT細胞による共刺激応答、例えば、限定されないが、増殖を媒介する、T細胞上の同族結合相手を指す。共刺激分子としては、限定されないが、MHCクラスI分子、BTLA及びTollリガンド受容体が挙げられる。
【0151】
「共刺激シグナル」は、本明細書中で使用される場合、TCR/CD3ライゲーションなどの一次シグナルと組み合わさってT細胞増殖及び/または重要分子の上方制御もしくは下方制御をもたらすシグナルを指す。
【0152】
「刺激」という用語は、刺激分子(例えばTCR/CD3複合体)とその同族リガンドとの結合によって誘導されてそれによってシグナル変換事象、例えば、限定されないが、TCR/CD3複合体を介したシグナル変換を媒介する、一次応答を意味する。刺激は、特定の分子の発現の変化、例えばTGF-βの下方制御、及び/または細胞骨格構造の再構築などを媒介し得る。
【0153】
「刺激分子」は、当該用語が本明細書中で使用される場合、抗原提示細胞上に存在する同族刺激リガンドに特異的に結合するT細胞上の分子を意味する。
【0154】
「刺激リガンド」は、本明細書中で使用される場合、抗原提示細胞上(例えば、aAPC上、樹状細胞上、B細胞上など)に存在しているときにT細胞上の同族結合相手(本明細書中では「刺激分子」と呼ぶ)に特異的に結合することができ、それによって活性化、免疫応答の開始、増殖などを含むがこれらに限定されないT細胞による一次応答を媒介することができる、リガンドを意味する。刺激リガンドは当技術分野でよく知られており、数ある中でも、ペプチドを負荷したMHCクラスI分子、抗CD3抗体、スーパーアゴニスト抗CD28抗体、及びスーパーアゴニスト抗CD2抗体を包含する。
【0155】
細胞質側ドメインに関して、本発明のいくつかの実施形態のCAR分子は、CD28及び/または4-1BBシグナル伝達ドメインを単独で、または本発明のいくつかの実施形態のCAR分子に関して有用である他の任意の所望の細胞質側ドメイン(複数可)と組み合わせて含むように、設計され得る。一実施形態では、CARの細胞質側ドメインは、CD3-ゼータのシグナル伝達ドメインをさらに含むように設計され得る。例えば、CARの細胞質側ドメインは、限定されないが、CD3-ゼータ、4-1BB、及びCD28シグナル伝達モジュール、及びそれらの組合せを含み得る。
【0156】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞内ドメインは、CD3ζ(CD247、CD3z)、CD28、41BB、ICOS、OX40及びCD137からなる群から選択される少なくとも1つ、例えば、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、例えば少なくとも6つのポリペプチドを含む。
【0157】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞内ドメインはCD3ζ鎖[「CD3-ゼータ」及び「CD3z」としても知られるCD247分子;GenBank受託番号NP_000725.1及びNP_932170.1]を含むが、これは内在性TCRからのシグナルの一次伝達物質である。
【0158】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞内ドメインは、T細胞にさらなるシグナルを供給するためにCARの細胞質側テイル部までの様々な共刺激タンパク質受容体を含む(第2世代CAR)。例としては、限定されないが、CD28[例えばGenBank受託番号NP_001230006.1、NP_001230007.1、NP_006130.1]、4-1BB[「CD137」としても知られる腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバー9(TNFRSF9)、例えばGenBank受託番号NP_001552.2]、及びICOS[誘導性T細胞共刺激因子、例えばGenBank受託番号NP_036224.1]が挙げられる。前臨床試験は、CARデザインの第2世代がT細胞の抗腫瘍活性を向上させることを示した。
【0159】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞内ドメインは、有効性をさらに増大させるために、複数のシグナル伝達ドメイン、例えば、CD3z-CD28-41BB、またはCD3z-CD28-OX40を含む。「OX40」という用語は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバー4(TNFRSF4)、例えばGenBank受託番号NP_003318.1(「第3世代」CAR)を指す。
【0160】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞内ドメインは、CD28-CD3z、CD3z、CD28-CD137-CD3zを含む。「CD137」という用語は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのメンバー9(TNFRSF9)、例えばGenBank受託番号NP_001552.2を指す。
【0161】
本発明のいくつかの実施形態によれば、CAR分子をナチュラルキラー細胞のために設計する場合には、シグナル伝達ドメインはCD28及び/またはCD3ζであり得る。膜貫通ドメインは、天然供給源か合成供給源かのどちらかに由来するものであり得る。供給源が天然のものである場合、ドメインは任意の膜結合または膜貫通タンパク質に由来するものであり得る。本発明において特に有用な膜貫通領域は、T細胞受容体のアルファ、ベータまたはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154に由来するもの(すなわち、少なくともその膜貫通領域(複数可)を含むもの)であり得る。あるいは、膜貫通ドメインは合成のものであってもよく、この場合それは、ロイシン及びバリンなどの主に疎水性である残基を含むであろう。好ましくは、フェニルアラニンとトリプトファンとバリンとの三つ組が合成膜貫通ドメインの両末端にみられよう。場合によっては、2~10アミノ酸の長さを有することが好ましい短鎖のオリゴまたはポリペプチドリンカーが、CARの膜貫通ドメインと細胞質側シグナル伝達ドメインとの間の連結を形成していてもよい。グリシン-セリンの2つ組は特に好適なリンカーを提供する。
【0162】
本発明のいくつかの実施形態によれば、本発明のいくつかの実施形態のCAR分子の中に含まれている膜貫通ドメインは、天然ではCAR中のドメインのうちの1つに関連している膜貫通ドメインである。本発明のいくつかの実施形態によれば、膜貫通ドメインは、そのようなドメインが同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに結合することを回避して受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、アミノ酸置換によって選択または改変され得る。
【0163】
いくつかの実施形態によれば、CAR分子の細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間、またはCAR分子の細胞質側ドメインと膜貫通ドメインとの間に、スペーサードメインが組み込まれ得る。本明細書中で使用する場合、「スペーサードメイン」という用語は、総じて、膜貫通ドメインをポリペプチド鎖の細胞外ドメインか細胞質側ドメインかのどちらかに繋げる機能をする任意のオリゴまたはポリペプチドを意味する。スペーサードメインは、300個以下のアミノ酸、好ましくは10~100個のアミノ酸、最も好ましくは25~50個のアミノ酸を含み得る。
【0164】
上記配置のいずれかを療法に用いることができる。
【0165】
本発明のいくつかの実施形態の態様によれば、それを必要とする対象のがんを治療する方法であって、本明細書に記載の抗体を対象に投与してそれによって対象のがんを治療することを含む、当該方法が提供される。
【0166】
さらに、病状、例えばがんを治療するための医薬の製造における本明細書に記載の抗体の用途が提供される。
【0167】
「治療する」という用語は、病状(疾患、障害または病態)の進展を抑制、防止もしくは阻止すること、及び/または病状の軽減、寛解または消退をもたらすことを指す。当業者であれば、病状の進展を評価するために様々な方法論及びアッセイを用いることができること、及び同様に病状の軽減、寛解または消退を評価するために様々な方法論及びアッセイが用いられ得ることを理解するであろう。
【0168】
本明細書中で使用する場合、「対象」という用語は、病状を患っている任意の年齢の哺乳動物、好ましくはヒトを含む。
【0169】
本発明のいくつかの実施形態の抗体は、それ自体が、または好適な担体もしくは賦形剤と混合した医薬組成物として、生物に投与され得る。
【0170】
本明細書中で使用する場合、「医薬組成物」は、本明細書に記載の1つ以上の有効成分と、他の化学成分、例えば生理学的に適する担体及び賦形剤との調合物を指す。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
【0171】
本明細書において、「有効成分」という用語は、生物学的作用の根拠となっている抗体を指す。
【0172】
以下、交換可能に使用され得る「生理学的に許容される担体」及び「薬学的に許容される担体」という語句は、生物に顕著な刺激を引き起こさず、投与される化合物の生物学的活性及び特性をなくさせない、担体または希釈剤を指す。アジュバントはこれらの語句の下に含まれる。
【0173】
本明細書において「賦形剤」という用語は、有効成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。賦形剤の限定されない例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、デンプンの様々な糖及び種類の、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0174】
薬物の製剤化及び投与のための技術は、“Remington’s Pharmaceutical Sciences,”Mack Publishing Co.,Easton,PA,latest editionの中に見出され得るが、参照によりこれを本明細書に援用する。
【0175】
好適な投与経路としては、例えば、経口、直腸、経粘膜、特に、経鼻腔、腸内または非経口送達が挙げられ、これらには、粘膜内、皮下及び髄内注射ならびに、クモ膜下腔内、直接脳室内、心臓内、例えば、右心室内または左心室内、共通冠動脈内、静脈内、腹腔内、鼻腔内または眼内注射が含まれる。
【0176】
具体的な実施形態によれば、投与は静脈内投与を含む。
【0177】
中枢神経系(CNS)への薬物送達のための従来の手法としては、神経外科的方策(例えば脳内注射または脳室内輸注);BBBの内因性輸送経路の1つを利用する試みのための、薬剤の分子操作(例えば、内皮細胞表面分子との親和性を有する輸送ペプチドを、単独でBBBを越えることができない薬剤と組み合わせて含む、キメラ融合タンパク質の生産);薬剤の脂質溶解性を向上させることを企図した薬理学的方策(例えば、水溶性薬剤と脂質またはコレステロール担体との複合化);及び(頸動脈内へのマンニトール溶液の輸注またはアンジオテンシンペプチドなどの生物学的活性剤の使用によって起こる)高浸透崩壊によるBBBの完全性の一時的崩壊が挙げられる。しかしながら、これらの方策の各々には限界があり、例えば、侵襲的外科手技に関連する固有のリスク、内因性輸送系に固有の限界によって課されるサイズ制限、CNS外で活性となり得る担体モチーフを含むキメラ分子の全身投与に関連する潜在的に望ましくない生物学的副作用、及び、それを最適未満の送達方法にするものである、BBBが崩壊した脳の領域内にあり得る脳損傷リスクがある。
【0178】
あるいは、全身的にではなく局所的に、例えば患者の組織領域への直接的な医薬組成物の注射によって、医薬組成物を投与してもよい。
【0179】
「組織」という用語は、1つまたは複数の機能をなすよう設計される細胞からなる、生物の部分を指す。例としては、限定されないが、脳、組織、網膜、皮膚組織、肝臓組織、膵臓組織、骨、軟骨、結合組織、血液組織、筋肉組織、心臓組織 脳組織、脈管組織、腎組織、肺組織、性腺組織、造血組織が挙げられる。
【0180】
本発明のいくつかの実施形態の医薬組成物は、当技術分野でよく知られているプロセスによって、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、粉砕、乳化、カプセル封入、捕捉または凍結乾燥プロセスによって製造され得る。
【0181】
このように、本発明のいくつかの実施形態に係る用途のための医薬組成物は、有効成分を加工して薬学的に使用可能な調合物にするのを容易にするものである賦形剤及び助剤を含む1つ以上の生理学的に許容される担体を使用して従来の方法で製剤化され得る。適切な製剤は、選択される投与経路によって決まる。
【0182】
注射のためには、医薬組成物の有効成分は、水溶液、好ましくは生理学的に適合する緩衝液、例えば、ハンクス溶液、リンガー溶液または生理食塩水緩衝液として製剤化され得る。経粘膜投与のためには、障壁の通過に適した浸透剤を製剤に使用する。そのような浸透剤は当技術分野で一般的に知られている。
【0183】
経口投与のためには、活性化合物と、当技術分野でよく知られている薬学的に許容される担体とを混合することによって容易に医薬組成物を製剤化することができる。そのような担体は、患者による経口服用のための錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー、懸濁液などとして医薬組成物を製剤化することを可能にする。経口使用のための薬物調合物は、固体賦形剤を使用して、得られた混合物を場合によって粉砕し、顆粒の混合物を加工し、所望により好適な助剤を添加して、錠剤または糖衣錠コアを得ることによって作られ得る。好適な賦形剤は、詳しくは、ラクトース、スクロース、マンニトールもしくはソルビトールを含めた糖などのフィラー;セルロース調製品、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボメチルセルロースナトリウムなど;及び/または生理学的に許容されるポリマー、例えばポリビニルピロリドン(PVP)である。所望により、崩壊剤、例えば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムを添加してもよい。
【0184】
糖衣錠コアには好適なコーティングを施す。この目的のために、濃い糖溶液を使用してもよく、それは場合によって、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液及び好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有していてもよい。活性化合物の投薬の様々な組合せを同定するまたは特徴付けるために、染料または顔料を錠剤または糖衣錠コーティングに添加してもよい。
【0185】
経口使用され得る医薬組成物は、ゼラチン製の押込式カプセルならびに、ゼラチンとグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤とで作られた密封軟カプセルを含む。押込式カプセルは有効成分を、ラクトースなどのフィラー、デンプンなどの結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、及び場合によって安定化剤との混合剤として含有し得る。軟カプセルでは、好適な液体、例えば、脂肪油、流動パラフィンまたは液体ポリエチレングリコールの中に有効成分が溶解または懸濁していてもよい。さらに、安定化剤を添加してもよい。経口投与のための製剤は全て、選択された投与経路に適した投薬量のものでなければならない。
【0186】
頬側投与のためには、組成物は、従来の様式で製剤化された錠剤または口内錠の形態をとり得る。
【0187】
鼻腔内吸入による投与のためには、本発明のいくつかの実施形態に係る用途のための有効成分は、加圧パックからの、または好適な推進薬、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素の使用を伴うネブライザーからのエアゾールスプレー提供の形態で簡便に送達される。加圧エアゾールの場合、投薬単位は、計量された量を送達するためのバルブを設けることによって決定され得る。分配器で使用するための、化合物とラクトースまたはデンプンなどの好適な粉末基剤との粉末混合物を含有する例えばゼラチンのカプセル及びカートリッジを製剤化してもよい。
【0188】
本明細書に記載の医薬組成物を例えばボーラス注射または連続輸注による非経口投与のために製剤化してもよい。注射用製剤は、場合によって保存剤の添加を伴って単位剤形、例えばアンプルまたは多回投薬容器で提供され得る。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンであり得、また、製剤化剤、例えば、懸濁化剤、安定化剤及び/または分散剤を含有し得る。
【0189】
非経口投与のための医薬組成物は、水溶性形態の活性調合物の水溶液を含む。加えて、有効成分の懸濁液は、適切な油性または水性の注射用懸濁液として調製され得る。好適な親油性溶媒またはビヒクルとしては、ゴマ油などの脂肪油、または合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチル、トリグリセライドもしくはリポソームが挙げられる。水性の注射用懸濁液は、懸濁液の粘度を向上させる物質、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランを含有し得る。高濃度溶液の調製を可能にするために懸濁液はまた、場合によって、好適な安定化剤、または有効成分の溶解性を向上させる薬剤を含有してもよい。
【0190】
あるいは、有効成分は、使用前に適切なビヒクル、例えば発熱物質不含滅菌水溶液で構成するための粉末形態であってもよい。
【0191】
本発明のいくつかの実施形態の医薬組成物は、例えばココアバターまたはその他のグリセライドなどの従来の坐薬基剤を使用して、坐薬または停留浣腸などの直腸用組成物としても製剤化され得る。
【0192】
本発明のいくつかの実施形態に関して使用するのに適する医薬組成物には、意図した目的を達成するのに有効な量で有効成分を含有する組成物が含まれる。より具体的には、治療的有効量は、障害(例えばがん)の症候を防止、緩和もしくは改善するかまたは処置される対象の生存率を延ばすのに効果的な有効成分(TCRL抗体)の量を意味する。
【0193】
治療的有効量の決定は、特に本明細書において提供される詳細な開示に鑑みれば、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0194】
本発明の方法に使用されるいかなる調合物についても、治療的有効量または用量は最初に試験管内及び細胞培養アッセイから推定することができる。例えば、所望の濃度または力価を実現するために動物モデルで用量を定めることができる。そのような情報は、ヒトに有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。
【0195】
本明細書に記載の有効成分の毒性及び治療有効性は、試験管内で、細胞培養で、または実験動物で標準的な薬学的手順によって決定され得る。これらの試験管内及び細胞培養アッセイならびに動物試験から得られたデータは、ヒトに用いるための投薬量範囲を定めるために使用することができる。投薬量は、採用する剤形及び利用する投与経路によって様々であり得る。厳密な製剤化、投与経路及び投薬量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択され得る(例えば、Fingl,et al.,1975,in “The Pharmacological Basis of Therapeutics”,Ch.1 p.1を参照のこと)。
【0196】
投薬の量及び間隔は、有効成分のレベルが生物学的作用を誘発または抑制するのに十分(最小有効濃度、MEC)となるように、TCRLまたはTCRL含有実体、例えば細胞(TCRL組織)を提供すべく、個々に調節され得る。MECは、調合物ごとに様々であろうものの、試験管内でのデータから推定され得る。MECを実現するのに必要とされる投薬量は個体の特質及び投与経路によって決まるであろう。検出アッセイを用いて血漿中濃度を決定することができる。
【0197】
処置される病態の重症度及び応答性に応じて、投薬量は単回または複数回の投与によるものであり得、治療過程は数日~数週間、または治癒がもたらされるまで、もしくは疾患状態の縮小が得られるまで継続される。
【0198】
投与される組成物の量は当然、処置される対象、病の重症度、投与の様式、処方医師の判断などに依存するであろう。
【0199】
本発明のいくつかの実施形態の組成物は、所望により、有効成分を含有する1つ以上の単位剤形を収容し得る包みまたは分配装置、例えばFDA承認済みのキット(診断用または治療用)の中に入った状態で提供されてもよい。包みは例えば金属またはプラスチックの薄膜、例えばブリスターパックを含み得る。包みまたは分配装置には投与のための説明書を添えてもよい。包みまたは分配器にはさらに、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって定められた書式の通知書を容器に関連付けて添えてもよいが、この通知書は、組成物の形態またはヒトへの投与もしくは獣医学的投与についての当局による承認を反映するものである。そのような通知書は例えば、処方薬のための米国食品医薬品局によって承認されたラベル表示であってもよいし、または承認済みの製品添付文書であってもよい。上にさらに詳しく述べたように、適合性を有する医薬担体の中に入れて製剤化した本発明の調合物を含む組成物を調製し、適切な容器に入れ、表示された病態の処置のためのラベルを付けてもよい。
【0200】
本明細書中で使用する場合、「約」という用語は、±10%を指す。
【0201】
「含む(comprise)」、「含んでいる(comprising)」、「含む(include)」、「含んでいる(including)」、「有する」という用語及びそれらの活用形は、「限定はしないが含んでいる」ということを意味する。
【0202】
「からなる」という用語は、「含んでおりかつ限定される」ということを意味する。
【0203】
「から本質的になる」という用語は、組成物、方法または構造が追加の成分、ステップ及び/または部分を含む可能性はあるがそれは、追加の成分、ステップ及び/または部分が特許請求の範囲に記載の組成物、方法または構造の基本的及び新規な特質を実質的に変化させない場合だけである、ということを意味する。
【0204】
本明細書中で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は複数形での意味を含むが、但し、そうでないことが文脈から明らかである場合は除く。例えば、「化合物」または「少なくとも1つの化合物」という用語には、その混合物も含めた複数の化合物が含まれ得る。
【0205】
本願の全体を通して本発明の様々な実施形態が範囲形式で提供され得る。範囲形式での記載が単に便宜及び簡潔さのためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定と解釈されるべきでないことは、理解されるべきである。したがって、範囲の記載は、可能なあらゆる小範囲及びその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものとみなされねばならない。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの小範囲ならびにその範囲内の個々の数字、例えば、1、2、3、4、5及び6を具体的に開示したものとみなされねばならない。このことは範囲の広さに関係なく当てはまる。
【0206】
数値範囲を本明細書中に示すときは常に、その示された範囲に入る任意の引用される数字(小数または整数)を含むことを意図する。第1指示数と第2指示数との「間の範囲にある/間の範囲」、及び第1指示数「から」第2指示数「までの範囲にある/までの範囲」という語句は、本明細書中では交換可能に使用され、第1及び第2の指示数ならびにそれらの間にあるあらゆる小数及び整数の数を含むことを意図する。
【0207】
本明細書中で使用する場合、「方法」という用語は、所与の課題を成し遂げるための様式、手段、技術及び手順を指し、これらには、化学、薬理学、生物学、生物化学及び医学の分野の専門家に知られているかまたは彼らによって既知の様式、手段、技術及び手順から容易に開発される様式、手段、技術及び手順が含まれるが、これらに限定されない。
【0208】
本明細書中で使用する場合、「治療する」という用語は、病態の進行をなくさせること、実質的に阻止すること、遅らせること、もしくは反転させること、病態の臨床的もしくは審美的症候を実質的に改善すること、または病態の臨床的もしくは審美的症候の顕在化を実質的に防止することを含む。
【0209】
特定の配列表に言及する場合、このような言及は、例えば配列過誤、クローニング過誤または、塩基置換、塩基欠失もしくは塩基付加をもたらすその他の変化によって起こる軽微な配列変異を含む実質的にその相補的配列に対応する配列も包含すると理解されるべきであるが、但し、そのような変異の頻度は50ヌクレオチドに1回未満、あるいは100ヌクレオチドに1回未満、あるいは200ヌクレオチドに1回未満、あるいは500ヌクレオチドに1回未満、あるいは1000ヌクレオチドに1回未満、5,000ヌクレオチドに1回未満、あるいは10,000ヌクレオチドに1回未満である。
【0210】
本願において開示される任意の配列識別番号(配列番号)がたとえDNA配列形式またはRNA配列形式だけで表現されていても、その配列番号は、その配列番号について言及している文脈に応じてDNA配列かRNA配列かのどちらかを指し得ることは、理解される。
【0211】
明瞭さのために別々の実施形態の文脈で記載されている本発明の特定の特徴が、単一の実施形態で組み合わさって提供される場合もあることは認識される。反対に、簡潔さのために単一の実施形態の文脈で記載されている本発明の様々な特徴が、本発明の他の任意の記載された実施形態では個別に、または任意の好適な部分的組合せとして、または好適な加減で提供される場合もある。様々な実施形態の文脈で記載されるある特徴は、それらの要素なしでは実施形態が機能しないというわけでない限り、それらの実施形態の必須の特徴とみなされるべきでない。
【0212】
以上に列挙される、及び以下の特許請求の範囲の部で特許請求される本発明の様々な実施形態及び態様は、以下の実施例において実験によって裏付けられる。
【実施例】
【0213】
これより、以下の実施例に言及するが、これは上記説明と一緒に本発明のいくつかの実施形態を非限定的に例示するものである。
【0214】
概して、本明細書中で用いる術語体系、及び本発明に利用される実験室手順は、分子、生化学、微生物及び組換えDNAの技術を含む。そのような技術は文献の中で克明に説明されている。例えば、“Molecular Cloning:A laboratory Manual”Sambrook et al.,(1989)、“Current Protocols in Molecular Biology”Volumes I-III Ausubel,R.M.,ed.(1994)、Ausubel et al.,“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley and Sons,Baltimore,Maryland(1989)、Perbal,“A Practical Guide to Molecular Cloning”,John Wiley &Sons,New York(1988)、Watson et al.,“Recombinant DNA”,Scientific American Books,New York、Birren et al.(eds)“Genome Analysis:A Laboratory Manual Series”,Vols.1-4,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1998);米国特許第4,666,828号、第4,683,202号、第4,801,531号、第5,192,659号及び第5,272,057号に示されている方法論、“Cell Biology:A Laboratory Handbook”,Volumes I-III Cellis,J.E.,ed.(1994)、“Culture of Animal Cells-A Manual of Basic Technique”by Freshney,Wiley-Liss,N.Y.(1994),Third Edition、“Current Protocols in Immunology”Volumes I-III Coligan J.E.,ed.(1994)、Stites et al.(eds),“Basic and Clinical Immunology”(8th Edition),Appleton &Lange,Norwalk,CT(1994)、Mishell and Shiigi(eds),“Selected Methods in Cellular Immunology”,W.H.Freeman and Co.,New York(1980)を参照されたく、利用可能なイムノアッセイについては、特許及び科学文献に広範囲に記載されており、例えば、米国特許第3,791,932号、第3,839,153号、第3,850,752号、第3,850,578号、第3,853,987号、第3,867,517号、第3,879,262号、第3,901,654号、第3,935,074号、第3,984,533号、第3,996,345号、第4,034,074号、第4,098,876号、第4,879,219号、第5,011,771号及び第5,281,521号、“Oligonucleotide Synthesis”Gait,M.J.,ed.(1984)、“Nucleic Acid Hybridization”Hames,B.D.,and Higgins S.J.,eds.(1985)、“Transcription and Translation”Hames,B.D.,and Higgins S.J.,eds.(1984)、“Animal Cell Culture”Freshney,R.I.,ed.(1986)、“Immobilized Cells and Enzymes”IRL Press,(1986)、“A Practical Guide to Molecular Cloning”Perbal,B.,(1984)、及び“Methods in Enzymology”Vol.1-317,Academic Press、“PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications”,Academic Press, San Diego,CA(1990)、Marshak et al.,“Strategies for Protein Purification and Characterization-A Laboratory Course Manual”CSHL Press(1996)を参照されたく、参照によりこれらの全てを、あたかも全体的に本明細書中に示したかのように援用する。その他の一般的な参考文献はこの文書の全体にわたって提供されている。その中の手順は、当技術分野でよく知られていると考えられ、読み手の便宜のために提供される。参照によりその中に含まれている全ての情報を本明細書に援用する。
【0215】
実施例1
CDR接合を用いるD11 TCRL抗体のヒト化
ヒトIgフレームワーク領域に対する相補性決定領域(CDR)接合を用いることによって、HLA-A2/TyrD369-377(配列番号15)ペプチド-HLA複合体に対するマウスモノクローナル抗体であるD11(Kabatに従って決定される配列番号5~10で示されるCDRを有する配列番号11~14)をヒト化した。重鎖及び軽鎖のためのヒトフレームワークは、機能性ヒト生殖細胞系遺伝子との配列及び構造の類似性に基づいて選択された。これに関して、構造類似性は、マウスカノニカルCDR構造と、同じカノニカル構造を有するヒト候補体との比較によって評価された。
【0216】
コンピュータ支援によるCDR接合法(Abysis Database,UCL Business Plc.)と、分子操作技術とを用いてD11をヒト化してhD11-5を得た。分子操作手順は、当技術分野で認知されている技術を用いて行った。その目的に向けて、RT-PCRで増幅するマウス抗体可変領域DNA配列の正確な決定、及びその重鎖及び軽鎖タンパク質翻訳の相同性モデリングが出発点となった。
【0217】
D11の結合の好ましい特性を維持するためには単一のフレームワーク変更が必要であった。この点に関して、重鎖可変領域になされるフレームワーク変更または復帰突然変異はなく、軽鎖可変領域において単一のフレームワーク改変(hD11-5におけるY49H)を行うのみとした。Y49H復帰突然変異は、HLA-A2/TyrD
369-377複合体に対するヒト化抗体の完全な結合性を回復させるために必須であった。ヒト化D11抗体(hD11-5)のアミノ酸及びヌクレオチド配列を
図1に示す(配列番号24~27)。
【0218】
CDR接合による全ての選択された抗体のヒト化の後、得られた重鎖及び軽鎖可変領域アミノ酸配列を分析して、マウスドナー及びヒトアクセプター軽鎖及び重鎖可変領域とのそれらの相同性を決定した。
【0219】
実施例2
ヒトIgG1発現ベクターへのhD11-5 TCRL抗体のクローニングならびにそれに続くExpi293系における発現及び精製。
図1に示すように、hIgG1重鎖及び軽鎖の定常領域を含有するpCI発現ベクターにhD11-5のヒト化可変重鎖及び軽鎖の合成DNA断片をクローニングした。その後、得られた重鎖及び軽鎖の構築物のExpi293細胞(ThermoFisher A14635)への共トランスフェクションによってhD11-5抗体を発現させた。分泌を媒介するためにシグナル配列を含ませた(軽鎖には配列番号36、配列番号37、また、重鎖には配列番号38、配列番号39)。
【0220】
手短に述べると、選択されたヒト免疫グロブリン発現ベクターの中へのヒト化可変領域遺伝子の指向的クローニングを行った。Ig遺伝子特異的PCRにおいて使用した全てのプライマーは、ヒトIgG1重鎖及び軽鎖の定常領域を含有する発現ベクターの中への直接クローニングを可能にする制限部位を含んでいた。(重鎖では)AgeI及びXhoIならびに(軽鎖では)XmaI及びDraIIIによって消化された合成遺伝子を精製し、その後、発現ベクターにライゲートした。ライゲーション反応は200UのT4-DNAリガーゼ(New England Biolabs)と、消化及び精製された遺伝子特異的PCR産物7.5μLと、25ngの線状化ベクターDNAとを使用して10μLの総体積で実施された。1μLのライゲーション産物をアンピシリンプレート上に播種した状態(100μg/mL)で電気穿孔(BioRad)によってエレクトロコンピテントE.coli DH10B細菌(Life Technologies)を形質転換した。VH領域のAgeI-XhoI断片はpCI-HuIgG1発現ベクターの同じ部位にクローニングされた一方、合成XmaI-DraIII VKインサートはそれぞれのpCI-Hu-カッパ発現ベクターのXmaI-DraIII部位にクローニングされた。
【0221】
プラスミドDNAをQIAprepスピンカラム(Qiagen)で精製した。Expi293細胞を、2%のFBSが補充されたDMEM培地の中で培養した。
【0222】
一過的トランスフェクションのために、Expi293細胞を1mlあたり細胞が250万個になるまで成長させた。等量のIgH及び対応IgL鎖ベクターDNA(各々15μgずつ)を、Opti-MEM培地(ThermoFisher 31985062)1.5mL中80μLのExpiFectamine293試薬が混ざった1.5mLのOpti-MEM培地に添加した。混合物を30分間室温でインキュベートし、10cm組織培養プレート(Corning)に均一に広げた。トランスフェクションから3日後に上清を採集し、10%のFBSが補充された20mLの新鮮なDMEMに替え、トランスフェクション後6日目に再び採集した。800×gで10分間の遠心分離によって培養上清から細胞残屑を除去した。組換えヒト化抗体hD11-5を、プロテインA親和性クロマトグラフィー(GE Healthcare)を用いて精製したかまたは、上清として使用した。
【0223】
実施例3
Expi293系におけるD11 TCRL抗体のクローニング及び発現
マウス親D11(IgG1アイソタイプ)重鎖及び軽鎖(配列番号11~14)をLife Technologies,GeneArtによって個々にpCDNA3.4発現ベクターにクローニングした。分泌を媒介するためにリーダー配列(配列番号34、配列番号35)をインフレームに含ませた。
【0224】
一過的トランスフェクションのために、Expi293細胞をExpi293発現用培地(Gibco,Cat.A14351-01)の中で1mlあたり細胞が250万個になるまでエルレンマイヤーフラスコ(Thermo scientific,Cat.4115-1000)内でオービタルシェーカー(125rpm)、37℃のインキュベーター、8%のCO2で成長させた。等量のIgH及び対応IgL鎖ベクターDNA(各々375μgずつ)を37.5mLのOpti-MEM培地(Gibco,Cat.31985-047)に添加した。2.0mlのExpiFectamine293Reagent(Gibco,Cat.100014994)をOpti-MEM培地に添加して37.5mLの終体積にした。2つの溶液を混合し、室温で30分間インキュベートした。混合物25mlを1リットルエルレンマイヤーフラスコ1つあたり212.5mlの細胞培養物に添加することを合計3つのフラスコに行った。トランスフェクションから16~18時間後にExpiFectamine293transfection Enhancer1(Gibco,Cat.100013863)及びEnhancer2(Gibco,Cat.A14350-01)を添加した(フラスコ1つあたりそれぞれ1.25ml及び12.5ml)。トランスフェクションから6日後に細胞を700×gで5分間の遠心分離によって採集し、上清を回収し、濾過し、4℃で保存した。組換えマウス抗体をProteinA Mabselect Hitrap extraカラム(GE Healthcare)で精製し、適切な条件の下で保存した。
【0225】
実施例4
SPRによって決定したhD11-5 TCRL抗体結合の親和性
一本鎖HLA-ペプチド複合体の生産
一本鎖HLA-A2(scHLA-A2)/TyrD369-377ペプチド複合体を、Denkberg,et al.(2000)Eur.J.Immunol.30,3522-3532に詳しく記載されているようなイソプロピルβ-D-チオガラクトシド(IPTG)誘導によってEscherichia coliで産生された封入体の試験管内での再折りたたみによって生産した。手短に述べると、柔軟なリンカーによって互いに連結され合ったHLA-A2遺伝子のβ2-マイクログロブリンと細胞外ドメインとを含有するものであるscHLAを、遺伝子操作によって作った。試験管内での再折りたたみはTyrD369-377(配列番号15)ペプチドの存在下で実施した。正しく折りたたまれたHLA-ペプチド複合体を単離し、アニオン交換Q-セファロースクロマトグラフィー(GE Healthcare Life Sciences)によって精製した。
【0226】
親D11 TCRL抗体と比較したときのhD11-5の見掛けの親和性を決定するために、チップ表面に固定された抗マウスまたは抗ヒト抗体によってIgG TCRL抗体を捕捉する表面プラズモン共鳴(SPR)結合分析を実施した。精製した一本鎖組換えHLA-A2/TyrD369-377ペプチド複合体を被分析物として使用した。手短に述べると、ProteOn GLMセンサーチップ(BioRad laboratories)の6本のチャネルを0.04MのN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)と0.01Mのスルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド(Sulfo-NHS)との混合物50μlによって30μl/分の流速で活性化させた。抗マウスまたは抗ヒトポリクローナル抗体(Jackson ImmunoResearch)を10mMの酢酸ナトリウム緩衝液pH4.5で希釈して25μg/mlの終濃度にし、150μlを注入し、その後、1Mのエタノールアミン-HCl pH8.5を150μl注入した。IgG TCRL抗体を垂直配向で30μl/分の流速で注入した。精製した一本鎖組換えHLA-A2/TyrD369-377ペプチド複合体を、5つの異なる濃度(250、125、62.5、31.2及び16nM)を用いてProteOnの水平配向で注入した。実験中のチップセンサー表面からの捕捉抗体の逸失について補正する二重参照のために流動用緩衝液(PBST)を6番目のチャネルに同時に注入した。全ての結合センサーグラムを収集し、組み込まれているProteOn Manager(Bio-Rad Laboratories,Hercules,USA)ソフトウェアを使用して処理及び解析した。1:1結合化学量論を表現するラングミュアモデルを使用して、またはラングミュア及び物質移動限界モデルによって結合曲線を近似した。
図2に示すように、HLA-A2/TyrD369-377ペプチド複合体に対してhD11-5及びD11 TCRL抗体はどちらも、それぞれ3.9及び4.6nMの類似した親和性を示した。
【0227】
実施例5
hD11-5 TCRL抗体の選択性及び特異性
HLA-A2/TyrD369-377複合体に対するhD11-5結合の選択性及び特異性を、HLA-A2+細胞株及び初代細胞のパネルに対するフローサイトメトリーによって示した。WM266.4細胞株(CRL-1676、ATCC)を、10%FBSが補充された完全DMEM(全てGIBCO提供)の中で培養した。C33A細胞株(HTB-31、ATCC)を、10%のFBSが補充された完全EMEM(全てGIBCO提供)の中で培養した。501A、Mel526、SKMel5(HTB-70、ATCC)、Mewo(HTB-65、ATCC)及び1938(メラノーマ)、Saos2(HTB-85、ATCCからの骨肉腫)、Panc1(CRL-1469、ATCCからの膵臓癌)、J82(HTB-1、ATCC)、JVM2(CRL-3002、ATCCからのマントル細胞リンパ腫)及びSW620(CCL-227、ATCCからの大腸腺癌)細胞株を、10%のFBSが補充された完全RPMI(全てGIBCO提供)の中で培養した。Malme3M(HTB-64、ATCCからのメラノーマ)及びY79(HTB-18、ATCCからの網膜芽細胞腫)細胞株を、20%のFBSが補充された完全RPMI(全てGIBCO提供)の中で培養した。細胞株は7.5%CO2の加湿雰囲気中で37℃に維持した。
【0228】
正常初代角化細胞、肝細胞、心筋細胞、骨芽細胞、星状膠細胞、気管支上皮細胞、結腸平滑筋細胞、尿路上皮細胞及び腎上皮細胞はSciencellから入手した。網膜上皮(ARPE-19)細胞はATCC(CRL-2302)から入手した。細胞を製造者の指示に従って培養し、7.5%CO2の加湿雰囲気中で37℃に維持した。
【0229】
手短に述べると、Tyr+(501A、SKMEL5、WM266.4、526)及びTyr-(1938、PANC1、C33A、SAOS2、SW620、JVM2)細胞株を10μg/mlのビオチン化hD11-5及びD11 TCRL抗体と共に4℃で1時間インキュベートし、その後、PE標識ストレプトアビジン複合体と共に4℃で45分間インキュベートした。BB7.2抗体(10μg/ml)を使用し、二次PE標識抗マウスIgGを使用して、HLA-A2の発現を追跡評価した。
【0230】
図3に示すように、ビオチン化hD11-5及びD11 TCRL抗体はHLA-A2+/Tyr陽性細胞を特異的に染色した。複数のHLA-A2+/Tyr陰性細胞株に対する反応性は何ら検出されなかった。BB7.2抗体染色はこのパネル中の細胞株のHLA-A2+状態を裏付けた。
【0231】
星状膠細胞、肝細胞、腎細胞、心筋細胞、結腸筋、気管支上皮、骨芽細胞、気管支、角化細胞及び正常網膜色素上皮細胞株ARPE19を含む正常初代細胞のパネルで、ビオチン化hD11-5及びD11 TCRL抗体の反応性も試験した(
図4)。これらのHLA-A2+細胞に対する結合は何ら認められなかった。BB7.2抗体染色はこのパネル中の細胞のHLA-A2+状態を裏付けた。
【0232】
実施例6
細胞傷害性アッセイにおけるキメラ二重特異性TCRL CD3-ChD11-5の生成及び機能性特徴
ヒト化重鎖の可変領域及びヒト定常領域1(VH-CH1)ならびにマウス軽鎖の可変領域(VL)及びD11のヒト定常カッパ鎖(CL)(配列番号20及び配列番号18)を抗CD3 scFv断片(配列番号16)と共にアセンブルして二重特異性構築物にしたが、これは、エフェクターT細胞をHLA-A2+/Tyr369-377+標的細胞へ再指向することができるものである。手短に述べると、コネクタ(配列番号32、配列番号33)を介して抗CD3 scFvをキメラ軽鎖(マウス-VL ヒト-CLカッパ)のN末端と融合させ、6xHisタグをhD11-5のVH-CH1(配列番号20、配列番号21)ドメインのC末端に付加させた。リーダー配列(配列番号34、配列番号35)をインフレームに含ませた。どちらの構築物も哺乳動物細胞での発現のためのpcDNA3.4ベクターにクローニングして、CD3-ChD11-5 BSと呼ぶ二重特異性抗体を得た。
【0233】
実施例3に記載のとおりに2つの構築物をExpi293Fヒト細胞に共トランスフェクションすることによってCD3-ChD11-5 BS TCRLを発現させた。6日間培養した後に細胞を700×gで5分間遠心分離し、CD3-ChD11-5 BS TCRL抗体を含有する上清を採集、濾過及び透析した。CD3-ChD11-5 BS TCRL組換えタンパク質を金属親和性(Talon)及びサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex200 10/300GL GE)によって精製した。
【0234】
細胞傷害性は、CytoTox96(登録商標)(Promega)を使用する非放射アッセイにおいて測定された。このアッセイは、細胞溶解時に放出される酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)を定量的に測定する。培養上清中に放出されたLDHは10分の結合酵素アッセイで測定するが、これはテトラゾリウム塩(INT)から赤色のホルマザン生成物への転化をもたらすものである。生成する色素の量は、溶解した細胞の数に比例する。
【0235】
具体的には、標的細胞及びエフェクター細胞を洗浄し、計数し、そしてフェノールレッドなしでcRPMI培地(1%FBS)中に再懸濁させた。標的細胞を1mlあたり2.5×105細胞の細胞密度に調整し、エフェクター細胞を1mlあたり2.5×106細胞の細胞密度に調整した。40μl(1×104細胞)の標的細胞を96ウェルV字形プレート内で培養した。CD3-ChD11-5 BS TCRL試験試薬の5×の原液を最高試験濃度に調製し、その後、別のプレートにおいてフェノールレッドを含まない培地で1:10に段階希釈して他の試験濃度を得た。その後、アッセイプレート内の標的細胞に1ウェルあたり20μlのCD3-ChD11-5及びCD3-D11 BS TCRLを添加して、最終指示滴定量を得た。その後、BS TCRLと混ざった標的細胞を含有するアッセイプレートを37℃/5%CO2で20分間インキュベートした。インキュベート後に40μlのエフェクター細胞(1×105細胞)を各ウェルに加えて10:1のエフェクター対標的(E:T)比にした。エフェクターの自然放出を計算するためのエフェクター細胞単独、標的の自然放出を計算するための標的細胞単独、及び最大放出を計算するための最終的に80μg/mlのジギトニンを含む標的細胞を含んだ対照ウェルを設けた。100μlの終体積で各条件を3反復でアッセイした。プレートを37℃/5%CO2で24時間インキュベートした。インキュベーション期間の後、プレートを700×gで5分間遠心分離し、50μlを各ウェルから96ウェル平底Maxisorbプレート(Nunc)内の対応ウェルへと移した。CytoTox96(登録商標)アッセイ用緩衝液を製造者の指示に従って使用してCytoTox96(登録商標)基質ミックスを再構成し、50μlをプレートの各ウェルに加えた。プレートをアルミニウム箔で覆い、室温で10分間インキュベートした。490nmでの吸光度をプレートリーダーで記録した。その後、下記式を使用して百分率での細胞傷害性を算出した:特異的溶解=[(実験値-エフェクター自然値-標的自然値)/(標的最大値-標的自然値)]×100。傷害アッセイのためのPBMCは、あらゆる規制上のIRB承認及び書面での同意を伴って健常ボランティアから単離される。エフェクターPBMCは、Lymphoprep手順を用いて単離される。
【0236】
図5A~B及び
図6に示すように、CD3-chD11-5 BS TCRLは試験管内でヒトPBMCの存在下でメラノーマWM266.4細胞に対する細胞傷害性を示した。Panc-1、HLA-A2+/Tyr-細胞株は陰性対照としての役割を果たし、細胞傷害性を何ら示さなかった。細胞傷害性はHLA-A2+/Tyr+ メラノーマ細胞株のパネルに対しても検出された(
図5A)。HLA-A2+/Tyr-細胞株(
図5B)及び正常ヒト初代細胞(
図6)のパネルに対してはCD-ChD11-5 BS TCRLによる細胞傷害性は何ら検出されず、その選択性が裏付けられた。
【0237】
実施例7
確立されたメラノーマ異種移植マウスモデルにおけるCD3-ChD11-5 BS TCRL及びCD3-D11 BS TCRLの抗腫瘍活性
Mel526メラノーマ細胞株を、10%のウシ胎仔血清(GIBCO,Waltham MA,USA)が補充されたRPMI1640成長培地(GIBCO,Waltham MA,USA)の中で培養した。ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を健常ドナーから調製し、CD3陽性細胞を生体外で増殖させ、参照によりここに全体を援用するWO2016/19914 1に記載されているようにエフェクター細胞として使用した。
【0238】
0日目に6~8週齢の雌のNOD/SCIDマウス(Envigo,Israel)の片方の側腹の皮下(s.c.)に、15×106個の生体外増殖したエフェクターPBMC(エフェクター:腫瘍細胞の比3:1)を含むかまたは含まない5×106個のMel526メラノーマ細胞が入った終体積0.1mlの50%Matrigel(登録商標)(Corning)を接種した。5日目に触診可能な腫瘍が確立された時点でマウスを終体積0.1mlで投薬量15μg/マウスのCD3-D11、CD3-ChD11-5もしくはCD3-対照 BS TCRL、またはビヒクル対照(PBS)をi.v.にて処置し、追加で5回の投薬を24時間ごとに投与して合計6回の投薬とした。
【0239】
図7は、このモデルでCD3-ChD11-5及びCD3-D11 BS TCRLが両方とも29日の期間にわたって腫瘍退縮を誘導したことを示す。
【0240】
本発明をその具体的な実施形態と関連させて説明してきたが、多くの代替形態、改変及び変化形態が当業者にとって明らかであろうことは明白である。したがって、別記の特許請求の範囲の趣旨及び広い範囲に含まれるそのような代替形態、改変及び変化形態を全て包含することが意図される。
【0241】
本明細書中で言及した全ての刊行物、特許及び特許出願は、各個の刊行物、特許または特許出願を参照により本明細書に援用することを具体的かつ個別に示したのと同じ程度に、参照によりそれらの全体が本明細書の中に援用される。加えて、本願におけるいかなる参考文献の引用または特定も、本発明に対する先行技術としてそのような参考文献を利用できることの容認であると解釈されるべきでない。節の見出しが使用されている範囲内において、それらは必ずしも限定をしていると解釈されるべきでない。
【配列表フリーテキスト】
【0242】
配列番号1: 可変軽鎖
配列番号2: 可変軽鎖
配列番号3: 可変重鎖
配列番号4: 可変重鎖
配列番号5: CDR1 Variable重鎖
配列番号6: CDR2軽鎖
配列番号7: CDR3軽鎖
配列番号8: CDR1重鎖
配列番号9: CDR2重鎖
配列番号10: CDR3重鎖
配列番号15: TyrD 369-377アミノ酸配列
配列番号16: ScFv CD3核酸配列
配列番号17: ScFv CD3アミノ酸配列
配列番号18:軽鎖 D11 in BS核酸配列
配列番号19:軽鎖 D11 in BSアミノ酸配列
配列番号20: VHCH1 in BS核酸配列
配列番号21: VHCH1 in BSアミノ酸配列
配列番号22: CDR1軽鎖核酸配列
配列番号23: CDR2軽鎖核酸配列
配列番号24: hD11-5全長軽鎖核酸配列
配列番号25: hD11-5全長軽鎖アミノ酸配列
配列番号26: hD11-5全長重鎖核酸配列
配列番号27: hD11-5全長重鎖アミノ酸配列
配列番号28: CDR3軽鎖核酸配列
配列番号29: CDR1重鎖核酸配列
配列番号30: CDR2重鎖核酸配列
配列番号31: CDR3重鎖核酸配列
配列番号32: 抗CD3とD11 VL核酸配列との間のコネクター
配列番号33: 抗CD3とD11 VLアミノ酸配列との間のコネクター
配列番号34: pCDNA3.4における発現のためのマウスIgHシグナル配列-リーダー配列
配列番号35: pCDNA3.4における発現のためのマウスIgHシグナル配列-リーダー配列
配列番号36: pCI軽鎖における発現用のリーダー配列
配列番号37: pCI軽鎖における発現用のリーダー配列
配列番号38: pCI重鎖における発現用のリーダー配列
配列番号39: pCI重鎖における発現用のリーダー配列
【配列表】