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特許6995206フェニルアラニンの添加により食用・薬用真菌の細胞外多糖の収量を高める方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】フェニルアラニンの添加により食用・薬用真菌の細胞外多糖の収量を高める方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/04 20060101AFI20220106BHJP
   C12R 1/645 20060101ALN20220106BHJP
【FI】
C12P19/04 B
C12R1:645
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020535638
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 CN2018074935
(87)【国際公開番号】W WO2019148418
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】丁重陽
(72)【発明者】
【氏名】馬忠宝
(72)【発明者】
【氏名】徐萌萌
(72)【発明者】
【氏名】王瓊
(72)【発明者】
【氏名】許正宏
(72)【発明者】
【氏名】趙麗▲てい▼
(72)【発明者】
【氏名】劉高強
(72)【発明者】
【氏名】顧正華
(72)【発明者】
【氏名】石貴陽
【審査官】田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/020944(WO,A2)
【文献】Journal of Northwest A&F University, 2010, Vol.38, No.11, pp.156-160
【文献】World J Microbiol Biotechnol, 2009, Vol.25, pp.2187-2193
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/04
C12R 1/645
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真菌発酵の初期又は発酵中にフェニルアラニンを添加すること、及び
前記真菌が、霊芝(Ganoderma lucidum)、アギタケ(Pleurotus ferulae)、アラゲカワラタケ(Coriolus hirsutus)又はスエヒロタケ(Schizophyllum commune)を含むことを特徴とする真菌細胞外多糖の収量を高める方法。
【請求項2】
フェニルアラニンの最終濃度が0.05~3.5g/Lであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フェニルアラニンは発酵の0~96hで添加されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項4】
フェニルアラニンはバッチ添加又は連続流加により添加されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
真菌を発酵培地に接種して発酵を行い、発酵の0~96時間で発酵培地にフェニルアラニンを添加すること、及び
前記真菌が、霊芝(Ganoderma lucidum)、アギタケ(Pleurotus ferulae)、アラゲカワラタケ(Coriolus hirsutus)又はスエヒロタケ(Schizophyllum commune)を含むことを特徴とする食用・薬用真菌の細胞外多糖の製造方法。
【請求項6】
真菌発酵の初期又は発酵中に、フェニルアラニンを最終濃度が0.05~3.5g/Lとなるように発酵培地に添加し、25~33℃、150~200r・min-1で5~7日間、発酵させることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
3~6gの菌糸体湿重量/L培地の接種量で食用・薬用真菌を接種することを特徴とする請求項又はに記載の方法。
【請求項8】
細胞外多糖を含む製品を製造するための、請求項1~のいずれか1項に記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニルアラニンの添加により食用・薬用真菌の細胞外多糖の収量を高める方法に関し、微生物発酵分野に属する。
【背景技術】
【0002】
食用菌は重要な食料源の1つであり、多種のビタミン、ミネラルおよび食物繊維に富み、高タンパク質、低脂肪、低カロリーで、老若に適している食品であり、また、21世紀の人類食料ではめったにないグリーンフードでもある。食用・薬用真菌に含まれる真菌多糖、ポリペプチド類及びその他の極めて豊富な生物活性成分には、抗腫瘍、血中脂質低下、生体の免疫調節、心臓・脳血管保護など、さまざまな薬用価値がある。たとえば、霊芝(Ganoderma lucidum)は、優れた栄養機能及び薬用価値を備えた貴重な食用・薬用真菌である。霊芝多糖は霊芝の主要な生物活性物質の一つであり、免疫調節、抗腫瘍、抗酸化、血糖低下、肝臓保護などの活性を有する。これらの生物活性は、霊芝多糖が食品、医薬及び化粧品の分野に巨大な応用可能性を有することになる。
【0003】
現在、液体深部発酵技術による食用・薬用真菌の培養は、食用・薬用の真菌多糖を得るための主な発酵方式となっており、固相発酵に比べて発酵サイクルが短く、抽出コストが低くなるものの、多糖の収量は比較的低く、食用・薬用真菌多糖の発酵収量を如何に大幅に増加させて製造コストをさらに低減し、上記分野での幅広い用途を達成することは、食用・薬用真菌の液体発酵において解決すべき急務となっている。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1目的は、真菌発酵の初期又は発酵中にフェニルアラニンを添加する真菌細胞外多糖の収量を高める方法を提供することである。
【0005】
本発明の一実施形態では、前記真菌は食用・薬用真菌である。
【0006】
本発明の一実施形態では、前記食用・薬用真菌には、霊芝、キクラゲ、シイタケ、チョレイマイタケ、シロキクラゲ、マイタケ、マツホド、カワラタケ、ヤマブシタケ、冬虫夏草及び通常の生物分類学的に近縁種である又は形質が近い食用・薬用真菌の子実体又は菌糸体が含まれるが、これらに制限されない。
【0007】
本発明の一実施形態では、前記真菌には、霊芝(Ganoderma lucidum)、アギタケ(Pleurotus ferulae)、アラゲカワラタケ(Coriolushisutus)、スエヒロタケ(Schizophyllumcommune)が含まれるが、これらに制限されない。
【0008】
本発明の一実施形態では、前記方法において、発酵の0~96hでフェニルアラニンを添加する。
【0009】
本発明の一実施形態では、前記フェニルアラニンの最終濃度が0.05~3.5g/Lである。
【0010】
本発明の一実施形態では、前記方法では、真菌を発酵培地に接種して、発酵培地にフェニルアラニンを添加する。
【0011】
本発明の一実施形態では、発酵培地は、食用・薬用真菌によく使用される液体発酵培地である。
【0012】
本発明の一実施形態では、前記液体発酵培地1Lあたり、グルコース20g、トリプトン5g、アミノ酸不含酵母(YNB)5g、リン酸二水素カリウム4.5g、硫酸マグネシウム七水和物2gが含まれ、この培地は自然pHである。
【0013】
本発明の第2目的は、真菌細胞外多糖の製造方法を提供し、前記方法では、真菌を発酵培地に接種し、真菌発酵の初期又は発酵中に発酵培地へフェニルアラニンを添加し、25~33℃、150~200r・min-1で5~7日間、発酵させる。
【0014】
本発明の一実施形態では、3~6g菌糸体湿重量/L培地の接種量で接種する。
【0015】
本発明は、細胞外多糖を含む製品を製造するための、前記方法の使用をさらに提供する。
【0016】
有益な効果は以下のとおりである。本発明では、発酵中にフェニルアラニンを添加することにより、元の発酵サイクルを延ばすことなく、食用・薬用真菌の細胞外多糖の収量を著しく増加させ、最大では40%以上向上させ、食用・薬用真菌多糖の製造コストを大幅に低減させ、工業的生産や製品の応用に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
多糖の抽出
発酵液のろ液を100mL採取し、4倍の95%アルコールを加え、20min撹拌して、4000r・min-1で5min遠心分離し、タンパク質を除去して、上澄み液に2.25倍の95%アルコールを加え、20min撹拌後、4℃で一晩静置した。溶液を10000r・min-1で5min遠心分離し、上澄みを除去して、沈殿に蒸留水30mLを加えて振とうして溶解させ、10000r・min-1で10min遠心分離し、透明液として水溶性多糖溶液を得た。
多糖の測定
多糖の含有量測定には、フェノール硫酸法が使用され、測定系は、サンプル溶液2mL、6%フェノール1mL、濃硫酸5mLである。反応終了後、冷却し、その後、490nm波長でOD値を測定した。
【0018】
実施例1
霊芝のシード培養
サイズ0.5cmの菌塊を採取し、シード培地の液体仕込み量が80mL/250mLの三角フラスコに接種して、150r・min-1、30℃で7日間、培養した。
霊芝の発酵培養
500mL三角フラスコに発酵培地150mLを加え、115℃で20分殺菌した。発酵培地に湿重量0.5gの霊芝菌糸体を接種して、150r・min-1、30℃で7日間、培養した。
前記シード培地と発酵培地の配合は以下のとおりである。1Lあたり、グルコース20g、トリプトン5g、無アミノ基酵母(YNB)5g、リン酸二水素カリウム4.5g、硫酸マグネシウム七水和物2gが含まれ、この培地は自然pHである。
発酵中に、霊芝細胞外多糖の収量を測定した。その結果から明らかなように、7日間培養した霊芝多糖の収量は0.320g/L発酵上澄み液であった。
【0019】
実施例2
0hに発酵培地へフェニルアラニンを培地中のフェニルアラニンの最終濃度が0.05g/Lとなるように添加する以外、培地及び培養方法は実施例1と同様であった。発酵中に、霊芝細胞外多糖の収量を測定した。その結果から明らかなように、霊芝多糖の収量は0.400g/L発酵上澄み液であり、実施例1よりも25%向上した。
【0020】
実施例3
0hに発酵培地へフェニルアラニンをその最終濃度が3.5g/Lとなるように添加する以外、培地及び培養方法は実施例1と同様であった。発酵中に、霊芝細胞外多糖の収量を測定した。その結果から明らかなように、霊芝多糖の収量は0.384g/L発酵上澄み液であり、実施例1よりも20%向上した。
【0021】
実施例4
0hに発酵培地へフェニルアラニンをその最終濃度が1g/Lとなるように添加する以外、培地及び培養方法は実施例1と同様であった。発酵中に、霊芝細胞外多糖の収量を測定した。その結果から明らかなように、霊芝多糖の収量は0.432g/L発酵上澄み液であり、実施例1よりも35%向上した。
【0022】
実施例5
48hの発酵でフェニルアラニンをその最終濃度が2g/Lとなるように添加する以外、培地及び培養方法は実施例1と同様であった。発酵中に、霊芝細胞外多糖の収量を測定した。その結果から明らかなように、霊芝多糖の収量は0.448g/L発酵上澄み液であり、実施例1よりも40%向上した。
【0023】
実施例6
96hの発酵でフェニルアラニンをその最終濃度が1g/Lとなるように添加する以外、培地及び培養方法は実施例1と同様であった。発酵中に、霊芝細胞外多糖の収量を測定した。その結果から明らかなように、霊芝多糖の収量は0.416g/L発酵上澄み液であり、実施例1よりも30%向上した。
【0024】
実施例7
霊芝のシード培養
サイズ0.5cmの菌塊を採取し、シード培地の液体仕込み量が80mL/250mLの三角フラスコに接種して、150r・min-1、30℃で7日間、培養した。
霊芝の発酵培養
500mLの三角フラスコに発酵培地150mLを加え、115℃で20分殺菌した。発酵培地に湿重量0.5gの霊芝菌糸体を接種して、150r・min-1、30℃で7日間、培養した。
前記シード培地と発酵培地の配合は以下のとおりである。1Lあたり、グルコース20g、トウモロコシ粉10g、ふすま10g、リン酸二水素カリウム3g、硫酸マグネシウム七水和物2gが含まれ、この培地は自然pHである。
発酵中に、霊芝細胞外多糖の収量を測定した。その結果から明らかなように、7日間、発酵させたとき、霊芝多糖の収量は0.368g/L発酵上澄み液であった。
【0025】
実施例8
0hに発酵培地へフェニルアラニンをその最終濃度が1g/Lとなるように添加する以外、培地及び培養方法は実施例7と同様であった。発酵中に、霊芝細胞外多糖の収量を測定した。その結果から明らかなように、霊芝多糖の収量は0.442g/L発酵上澄み液であり、実施例7よりも20%向上した。
【0026】
実施例9
霊芝のシード培養
サイズ0.5cmの菌塊を採取し、シード培地の液体仕込み量が80mL/250mLの三角フラスコに接種して、150r・min-1、30℃で7日間、培養した。
霊芝の発酵培養
5L発酵タンクに発酵培地3Lを加え、115℃で20分殺菌した。湿重量10gの霊芝菌糸体を接種し、150r・min-1、通気量1.5L・min-1、30℃で7日間、培養した。
前記シード培地と発酵培地の配合は以下のとおりである。1Lあたり、グルコース20g、トウモロコシ粉10g、ふすま10g、リン酸二水素カリウム3g、硫酸マグネシウム七水和物2gが含まれ、この培地は自然pHである。
24~96時間の発酵中には、濃度20g/Lのフェニルアラニンを連続流加して、7日間、発酵させ、合計160mL流加し、その最終濃度が1g/Lとなるようにした。発酵中に、霊芝細胞外多糖の収量を測定した。その結果から明らかなように、霊芝多糖の収量は0.471g/Lであり、実施例7よりも28%向上した。
【0027】
実施例10
アギタケのシード培養
サイズ0.5cmの菌塊を採取し、シード培地の液体仕込み量が80mL/250mLの三角フラスコに接種して、150r・min-1、28℃で7日間、培養した。
アギタケの発酵培養
500mLの三角フラスコに発酵培地150mLを加え、115℃で20分殺菌した。発酵培地に湿重量0.5gの菌糸体を接種して、150r・min-1、28℃で7日間、培養した。
前記シード培地と発酵培地1の配合は以下のとおりである。1Lあたり、グルコース20g、トリプトン5g、無アミノ基酵母(YNB)5g、リン酸二水素カリウム4.5g、硫酸マグネシウム七水和物2gが含まれ、この培地は自然pHである。
発酵中に、アギタケ細胞外多糖の収量を測定し、その結果から明らかなように、アギタケ細胞外多糖の収量は0.201g/L発酵上澄み液であった。
【0028】
実施例11
0hに発酵培地へフェニルアラニンをその最終濃度が1g/Lとなるように添加する以外、培地及び培養方法は実施例10と同様であった。発酵中に、アギタケ細胞外多糖の収量を測定し、その結果から明らかなように、アギタケ細胞外多糖の収量は0.264g/L発酵上澄み液であり、実施例10よりも31%向上した。
【0029】
実施例12
実験菌株にはアラゲカワラタケが使用される以外、培地及び培養方法は実施例10と同様であった。発酵中に、アラゲカワラタケ細胞外多糖の収量を測定し、その結果から明らかなように、アラゲカワラタケ細胞外多糖の収量は0.280g/L発酵上澄み液であった。
【0030】
実施例13
実験菌株にはアラゲカワラタケが使用され、且つ、0hに発酵培地へフェニルアラニンをその最終濃度が2g/Lとなるように添加する以外、培地及び培養方法は実施例10と同様であった。発酵中に、アラゲカワラタケ細胞外多糖の収量を測定し、その結果から明らかなように、アラゲカワラタケ細胞外多糖の収量は0.322g/L発酵上澄み液であり、実施例12よりも15%向上した。
【0031】
実施例14
実験菌株にはスエヒロタケが使用される以外、培地及び培養方法は実施例10と同様であった。発酵中に、スエヒロタケ細胞外多糖の収量を測定し、その結果から明らかなように、スエヒロタケ細胞外多糖の収量は0.452g/L発酵上澄み液であった。
【0032】
実施例15
実験菌株にはスエヒロタケが使用され、且つ、0hに発酵培地へフェニルアラニンをその最終濃度が3g/Lとなるように添加する以外、培地及び培養方法は実施例10と同様であった。発酵中に、スエヒロタケ細胞外多糖の収量を測定し、その結果から明らかなように、スエヒロタケ細胞外多糖の収量は0.563g/L発酵上澄み液であり、実施例14よりも25%向上した。
【0033】
実施例16
実施例1~15と同様な方策によって、キクラゲ、シイタケ、チョレイマイタケ、シロキクラゲ、マツホド、カワラタケ、ヤマブシタケ、冬虫夏草などの食用・薬用真菌の発酵中にフェニルアラニンをそれぞれ添加し、その結果から明らかなように、細胞外多糖の収量は、異なる程度の向上を有する。
比較例1
発酵液にアミノ酸を最終濃度が1g/Lとなるようにそれぞれ添加する以外、実施例1と同様にして、細胞外多糖の収量を測定し、結果を下記表1に示した。本比較例では、実施例1と比較して、添加したアミノ酸をトリプトファン、アルギニン、ヒスチジン、リジン、イソロイシン、プロリン、バリンに変えた。
【0034】
本願に記載の食用・薬用真菌は、今のところ知られている細胞外多糖を産生するための食用・薬用真菌に限定されず、既知の食用・薬用真菌に類似性のある既知又は未知の属種の真菌は、いずれも本願の方法に適用でき、細胞外多糖の収量向上には類似した効果を達成することができる。
【0035】
以上、本発明を好適な実施例により開示したが、これらは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなく、様々な変更や修飾を行うことができるため、本発明の特許範囲は、特許請求の範囲によって定められるものとする。