IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大木 彬の特許一覧

特許6995230発泡性耐火塗料用組成物及びそれを用いた発泡性耐火塗膜の製造方法
<>
  • 特許-発泡性耐火塗料用組成物及びそれを用いた発泡性耐火塗膜の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】発泡性耐火塗料用組成物及びそれを用いた発泡性耐火塗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220106BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220106BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220106BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20220106BHJP
   C09D 183/02 20060101ALI20220106BHJP
   C09D 131/04 20060101ALI20220106BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20220106BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220106BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20220106BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20220106BHJP
   C09D 5/18 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/61
C09D133/00
C09D183/02
C09D131/04
C09D7/43
B05D7/24 301L
B05D5/00 E
B05D5/00 J
B05D1/02 Z
C09D5/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021017329
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2021-02-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515020636
【氏名又は名称】大木 彬
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大 木 彬
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-013648(JP,A)
【文献】特開2005-113002(JP,A)
【文献】特開2007-169496(JP,A)
【文献】特開2017-039893(JP,A)
【文献】特開2009-197125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B05D 7/24
B05D 5/00
B05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡性耐火塗料用組成物は、
リン系発泡剤25質量%乃至50質量%(発泡性耐火塗料用組成物を100質量%とする)と、
高分子樹脂エマルジョン15質量%乃至40質量%と、
炭化剤5質量%乃至15質量%と、
酸化亜鉛、酸化第2鉄、酸化第2銅、2酸化マンガンからなる金属酸化物と、塩基性炭酸銅を含む複合酸化物と、から選ばれる1以上の金属酸化物の無機顔料8質量%乃至18質量%と、
水又は/及び有機溶媒から選ばれる溶媒10質量%乃至30質量%と、
その他の添加剤2質量%乃至8質量%と、を含み、
前記発泡性耐火塗料用組成物のずり速度0.1(l/s)における粘度が500乃至1000(Pa・S、23℃)であり、ずり速度100(l/s)における粘度が10乃至100(Pa・S、23℃)であり、
前記発泡性耐火塗料用組成物は、300℃乃至500℃に加熱されて多孔性の気泡含有断熱層を形成し、600℃においても前記気泡含有断熱層を維持する塗膜を形成することを特徴とする発泡性耐火塗料用組成物。
【請求項2】
前記リン系発泡剤が、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸2アンモニウム、リン酸2アンモニウム、リン酸アンモニウム、又はリン酸メラミンから選ばれる1以上であり、
前記高分子樹脂エマルジョンの高分子樹脂が、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、及び酢酸ビニル系樹脂から選ばれる1以上であり、
前記炭化剤が多価アルコール、デキストリン、又は糖類から選ばれる1以上であることを特徴とする請求項に記載の発泡性耐火塗料用組成物。
【請求項3】
前記添加剤が、アルカリ性増粘剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡性耐火塗料用組成物。
【請求項4】
前記発泡剤の平均粒径が、20マイクロメーター以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の発泡性耐火塗料用組成物。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の発泡性耐火塗料用組成物を、攪拌しながら吹き付け塗装することを特徴とする発泡性耐火塗膜の製造方法。
【請求項6】
前記発泡性耐火塗料用組成物を、ずり速度10(l/s)乃至500(l/s)で攪拌しながら吹き付け塗装することを特徴とする請求項に記載の発泡性耐火塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性耐火塗料用組成物及びそれを用いた発泡性耐火塗膜の製造方法に係り、より詳しくは、塗膜形成性に優れ、厚い塗膜を容易に形成できる発泡性耐火塗料用組成物、及び、それを用いて、火災等により基材表面の温度が上昇すると分解し発泡して不燃性の気泡含有断熱層を形成し更に高温になって有機成分が分解した後にも残存して耐火性を示し得る発泡性耐火塗膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡性耐火塗料は、プラスチック類、繊維強化プラスチック(FRP)、壁紙、無機質ボード、木材、合板、モルタル、コンクリート、鉄鋼等の表面に塗布されて発泡性耐火塗膜を形成し、それらを火災から保護する、或いは延焼を遅延させ被害を軽減させる目的で使用される。
【0003】
このような発泡性耐火塗料としては、発泡剤としてりん酸塩、炭化剤として多価アルコール類又は糖類、無機物の粉末、及び高分子樹脂からなる塗料用組成物から形成された発泡性耐火塗料が知られている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、これらの発泡性耐火塗料から形成された塗膜は、一定温度での耐火性能は優れているものの、基材への接着性及び柔軟な基材への追従性が不十分なものであった。
【0004】
また、プラスチック類、繊維強化プラスチック(FRP)、壁紙、無機質ボード、木材、合板、モルタル、コンクリート等の基材のほかに、柔軟性のある基材、例えば、紙、布、繊維、ゴム等の防火に用いることができる発泡性耐火塗膜を形成し得る塗料用組成物として、アクリル樹脂エマルジョンと、りん系難燃剤と、被覆剤と、炭化剤と、難燃性充填剤とを含有する発泡性耐火塗料用組成物が広く用いられている(例えば、特許文献2を参照)。しかし、これらの塗料用組成物は粘度が低いために塗装時に液だれし易く塗装性が満足できるものではなく、また形成された塗膜は、柔軟な基材への追従性は向上しているものの高温度に対する耐火性が不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-331124号公報
【文献】特開2014-136744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発泡性耐火塗料の耐熱性を向上させるためには、塗膜及び耐熱層を更に厚くすることが有効であるが、従来の発泡性耐火塗料は、一回の塗装では充分な厚さの塗膜を形成することができないのが実状であった。本発明は、一回の塗装で充分な厚さの発泡性耐火塗膜を形成することができる発泡性耐火塗料用組成物を提供することを目的とする。
【0007】
また、発泡性耐火塗料の塗膜の耐火性を更に向上させるためには、塗膜は、多くの有機物の分界点以上に加熱されて塗膜の有機物が分解され始めた後まで耐火性を示す必要がある。本発明は、耐火塗膜が、加熱されると気泡含有耐火層を形成し、有機成分が分解し始めた後までも耐火性を示し得る発泡性耐火塗料用組成物及びそれを用いた発泡性耐火塗膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、本発明の発泡性耐火塗料用組成物は、発泡性耐火塗料用組成物を100質量%とすると、リン系発泡剤25~50質量%と、高分子樹脂エマルジョン15~40質量%と、炭化剤5~15質量%と、酸化亜鉛、酸化第2鉄、酸化第2銅、2酸化マンガンからなる金属酸化物と、塩基性炭酸銅を含む複合酸化物と、から選ばれる1以上の金属酸化物の無機顔料8~18質量%と、水又は/及び有機溶媒から選ばれる溶媒10~30質量%と、その他の添加剤2~8質量%とを含み、発泡性耐火塗料用組成物の、ずり速度0.1(l/s)における粘度が500~1000(Pa・S、23℃)であり、ずり速度100(l/s)における粘度が10~100(Pa・S、23℃)であり、発泡性耐火塗料用組成物は、300℃~500℃に加熱されて多孔性の気泡含有断熱層を形成し、600℃においても気泡含有断熱層を維持する塗膜を形成することを特徴とする。
【0009】
前記リン系発泡剤が、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸2アンモニウム、リン酸2アンモニウム、リン酸アンモニウム、又はリン酸メラミン等のリン系発泡剤から選ばれる1以上であり、高分子樹脂エマルジョンの高分子樹脂が、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、及び酢酸ビニル樹脂から選ばれる1以上であり、炭化剤が多価アルコール、デキストリン、又は糖類から選ばれる1以上であることが好ましい。
【0010】
前記金属酸化物の無機顔料は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化第2鉄、酸化第2銅、2酸化マンガンを含む金属酸化物と、塩基性炭酸銅を含む複合酸化物と、から選ばれる1以上であることが好ましい。
前記添加剤が、アルカリ性増粘剤を含みうる。
前記発泡剤の平均粒径が、20マイクロメーター以下であることが好ましい。
【0011】
また、発泡性耐火塗膜の製造方法は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発泡性耐火塗料用組成物を、撹拌しながら吹き付け塗装することを特徴とする。
発泡性耐火塗料用組成物を、ずり速度10~500(l/s)で撹拌しながら吹き付け塗装して製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発泡性耐火塗料用組成物は、固体成分と、水又は/及び有機溶媒からなる液体成分と、を含み、一般の耐火塗料用組成物と比較すると固体成分に対して液体成分が少ないペースト状であって、ずり速度0.1(l/s)における粘度が500乃至1000(Pa・S、23℃)であり、ずり速度100(l/s)における粘度が10乃至100(Pa・S、23℃)のチキソトロピー性を有するペースト状である。
【0013】
したがって、塗料用組成物を、高速撹拌して粘性が低下した状態で吹き付け塗装すると、塗料用組成物が基材に塗布されて静止した時に短時間で粘性が増大するので、基材が傾斜していても塗膜の偏りや液垂れが起こらず、一回の塗装で乾燥膜厚が0.5~2mm程度になるように厚塗りしても、均一な塗膜を形成することができる。
また、本発明に係る発泡性耐火塗膜は、基材に対する付着強度、均一発泡性、耐タレ性、耐割れ性、耐脱落性、及び耐剥離性などに優れた発泡性耐火塗膜を形成できるという特徴を有する。
【0014】
更に、無機顔料として金属酸化物を用いた本発明の発泡性耐火塗膜は、加熱されて高温で分解する時に、リン系の発泡剤から発生するりん酸誘導体と金属酸化物とからりん酸の金属塩を生成する。
特に、無機顔料として白色顔料である酸化チタン又は酸化亜鉛を使用した本発明の発泡性耐火塗膜は、発泡剤が熱分解して生成したりん酸誘導体と、酸化チタン又は酸化亜鉛と、が反応して、高温安定性に優れ鉄鋼の表面保護材としても使用されるリン酸チタン(Ti(PO)又はりん酸亜鉛(Zn(PO)を生成して気泡含有断熱層を形成する。
【0015】
本発明の発泡性耐火塗膜は、JIS A 1304に示す標準曲線に基づいて加熱昇温された200℃~600℃の電気炉雰囲気中(100℃間隔)に1時間放置したところ、200℃乃至300℃から発泡が始まって、300℃~500℃にかけて炭化剤が炭化されて分解され、10~20倍に膨張して気泡含有断熱層を形成した(図1を参照)。更に600℃において有機物(炭素)が分解されて白色化した後も、多孔性の気泡含有断熱層を形成して維持することができた。
【0016】
火災が発生し室内の温度が約500℃に達すると、高温で可燃性ガスが発生し引火してフラッシュオーバーという爆発的な燃焼が発生し、延焼が急加速される。本発明の気泡含有断熱層は600℃でも維持されて高温の火焔の進入を防ぐので火災の発生及び延焼を大幅に遅らせることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例に係る発泡性耐火塗膜を、常温及び200℃~600℃に加熱した電気炉中(100℃間隔)に1時間放置した後の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、添付図面を参照しながら本発明の発泡性耐火塗料用組成物及び発泡性耐火塗膜の製造方法を詳細に説明する。
本発明の発泡性耐火塗料用組成物は、(A)発泡剤、(B)高分子樹脂エマルジョン、(C)炭化剤、(D)無機顔料、(E)溶媒、及び(F)その他の添加物を含有する。
【0019】
本発明の発泡性耐火塗料用組成物においては、顔料として8~18質量%(発泡性耐火塗料用組成物全体の質量を100質量%とする、質量%は以下同じ。)(D)無機顔料を用いることが好ましい。無機顔料は、発泡性耐火塗膜及び基材の有機物が熱分熱するような高温においても残存して気泡含有断熱層を形成することができる。
【0020】
本発明の発泡性耐火塗料用組成物における無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化第2鉄(弁柄)、酸化第2銅、及び2酸化マンガン(黒色)等の金属酸化物の顔料を挙げることができる。また、塩基性炭酸銅(緑青)のような複合酸化物も含めることができる。なお、色調を調節するために、有機顔料を添加することは妨げない。
【0021】
たとえば、白色顔料である酸化チタン又は酸化亜鉛を使用した本発明の発泡性耐火塗膜は、発泡剤が熱分解して生成したりん酸誘導体及び金属酸化物が反応して安定なリン酸チタン(Ti(PO)又はりん酸亜鉛(Zn(PO)を生成し、気泡含有断熱層を形成する。また、酸化第2鉄はバラ色のりん酸第2鉄を、酸化銅は生成条件によって異なるが、青色系の色のりん酸化物を形成する。
【0022】
本発明の発泡性耐火塗料用組成物において(A)発泡剤としては、ポリりん酸アンモニウム、りん酸アンモニウム、ポリりん酸2アンモニウム、りん酸2アンモニウム、りん酸2水素1アンモニウム、りん酸1水素2アンモニウム、メタりん酸アンモニウム、りん酸メラミン、ポリりん酸メラミン、メタりん酸メラミン、りん酸グアニジン、正りん酸、ポリりん酸、及び亜りん酸等を含むりん系難燃剤等を例示することができるが、本発明の(A)発泡剤は、本発明に利用できるりん系発泡剤であれば特に制限されず、いずれのりん系発泡剤も用いることができる。
【0023】
本発明の発泡性耐火塗料用組成物における(B)高分子樹脂エマルジョンは、高分子樹脂原料を水に分散した公知のものであり、通常、水を40%~50%含んでいる。高分子樹脂としては本発明に利用できるものであれば特に制限されないが、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、及び酢酸ビニル系樹脂等を例示することができる。
【0024】
より詳しくは、アクリル系樹脂としてメタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル系モノマーから形成されるホモポリマー又はコポリマー等を挙げることができるが、これらの高分子樹脂に限定されるものではない。
【0025】
本発明の発泡性耐火塗料用組成物における(C)炭化剤としては、多価アルコール、デキストリン、糖類、及びペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトール等の公知の多価アルコール類を例示することができる。
本発明の発泡性耐火塗料用組成物は更に、トルエン、キシレン、などの有機溶媒、水、およびアルコール類等の(E)溶媒を加えることができる。
発泡性耐火塗料用組成物においては、更に必要に応じて、当分野で通常用いられている重合開始剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、分散剤等の(F)その他の添加物を含有することができる。
【0026】
また、本発明の発泡性耐火塗料用組成物は、例えば(A)発泡剤、(B)高分子樹脂エマルジョン、(C)炭化剤、(D)無機顔料、及び(F)その他の添加物に、(E)溶媒を添加し撹拌して製造することができる。(E)溶媒を添加する方法としては、(E)溶媒に(A)発泡剤、(B)高分子樹脂エマルジョン、(C)炭化剤、(D)無機顔料、及び(F)その他の添加物を一括又は別々に添加し、次いで撹拌機等により混合、均一分散させればよい。
【0027】
本発明の発泡性耐火塗料用組成物は、ずり速度0.1(l/s)における粘度が500乃至1000(Pa・S、23℃)であり、ずり速度100(l/s)における粘度が10乃至100(Pa・S、23℃)であることが好ましい。本発明の発泡性耐火塗料用組成物の粘度は、(E)溶媒の量を調節するか、(F)その他の添加物としてアルカリ性増粘剤を添加することによって調節することができる。
【0028】
本発明の発泡性耐火塗料用組成物はチキソトロピー性を有する。したがって、塗料用組成物を高速で撹拌して粘性を低下させた状態で吹き付け塗装すると、塗料用組成物が基材に塗布されて静止した時に粘性が増大するので、例えば基材が傾斜して設置されていても塗膜の偏りや液垂れが起こらず、一回の塗装で乾燥膜厚が0.5~2mm以上になるように厚塗りして均一な塗膜を得ることができる。
【0029】
基材に吹き付け塗布された発泡性耐火塗料用組成物は、多くの場合は表面張力によって平滑な塗面を形成するが、用いる発泡性耐火塗料用組成物の粘度が特に高い場合には、生成した塗膜の表面に小さな凹凸が残ることもある。この凹凸は、美しく風情があるものであるが、凹凸が好ましくない場合には、発泡性耐火塗料用組成物の粘度を下げるなどの対応が必要である。
【0030】
本発明の発泡性耐火塗膜は、JIS A 1304に示す標準曲線に基づいて加熱昇温させた200℃~600℃(100℃間隔)の電気炉中に1時間放置したところ、200℃~300℃から発泡が始まって、300℃~500℃にかけて厚さが10~20倍に膨張して気泡を含有する断熱層を形成し、更に、炭化剤が炭化され分解された600℃においても、多孔性の気泡含有断熱層を維持することができるという効果を有する。
【0031】
特に、無機顔料として白色顔料である酸化チタン又は酸化亜鉛を使用した本発明の発泡性耐火塗膜は、発泡剤が熱分解して生成したりん酸根とチタン又は亜鉛とが反応して安定なリン酸チタン(Ti(PO)又はりん酸亜鉛(Zn(PO)を生成し、気泡含有断熱層を形成することができる。
【0032】
[製造例1]
発泡剤として平均粒径15がマイクロメーター以下のポリりん酸アンモニウム(たとえばクラリアントケミカルズ株式会社、AP 422 平均粒径15マイクロメーター)33.9質量部、ジペンタエリスリトール9.1質量部、メタクリル酸エチル エマルジョン(50%) 20.7質量部、酸化亜鉛 (粒径<1マイクロメーター)13.4質量部、水 19.0質量部、添加剤 3.9質量部を混合し、撹拌して発泡性耐火塗料用組成物を製造した。ずり速度0.1(l/s)における粘度が680(Pa・S、23℃)であり、ずり速度100(l/s)における粘度が47(Pa・S、23℃)であった。
【0033】
[比較製造例1]
実施例1と同様に、但し水40質量部を加えて比較製造例1の発泡性耐火塗料用組成物製造した。
【0034】
[実施例1]
製造例1で製造した発泡性耐火塗料用組成物を、回転翼付きの撹拌機で撹拌翼を毎分200回転で撹拌させながら、石膏ボードの基材に、1.0Kg/mの割合で吹き付け塗装し、乾燥膜厚0.51mmの発泡性耐火塗膜を得た。
【0035】
[比較例1]
比較製造例1で製造した発泡性耐火塗料用組成物を、撹拌機で撹拌翼を毎分200回転で撹拌しながら石膏ボードの基材に1.0Kg/mの割合で吹き付け塗装した。しかし、比較製造例1で製造した発泡性耐火塗料用組成物は、粘度が低すぎて液だれし、充分な厚さの塗膜を形成することができなかった。
【0036】
[測定例]
電気炉を、JIS A 1304に規定された標準曲線に基づいて200℃、300℃400℃、500℃、及び600℃に加熱昇温させ、各電気炉中に実施例1で製造した発泡性耐火塗膜塗布片を1時間放置して変化を観察した。結果を図1に示す。
図1に示すように、本発明に係る発泡性耐火塗膜は、200℃~300℃で発泡を開始し、300℃~500℃で10~20倍に膨張し、膨張分解する。しかし炭素が分解した600℃でも、気泡を有する気泡含有断熱層を維持した。
【要約】
【課題】 一回の塗装で充分な厚さの発泡性耐火塗膜を形成することができ、600℃でも気泡含有断熱層を維持し得る発泡性耐火塗膜を形成する発泡性耐火塗料用組成物、及びそれを用いた発泡性耐火塗膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 発泡剤が、ポリりん酸アンモニウム、ポリりん酸2アンモニウム、りん酸2アンモニウム、りん酸アンモニウム、及びりん酸メラミン等を含む1以上のりん系発泡剤であり、高分子樹脂が、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、又は酢酸ビニル系樹脂から選ばれる1以上であり、炭化剤が多価アルコール、デキストリン、又は糖類等から選ばれる1以上であり、顔料が無機顔料であることが好ましい。
【選択図】 図1
図1