(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】連続鋳造における鋳型と鋳片間の摩擦力の測定方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/16 20060101AFI20220106BHJP
B22D 11/053 20060101ALI20220106BHJP
B22C 9/00 20060101ALI20220106BHJP
G01H 11/08 20060101ALI20220106BHJP
G01N 19/02 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B22D11/16 104N
B22D11/16 104R
B22D11/16 105
B22D11/16 A
B22D11/053 B
B22C9/00 E
G01H11/08 Z
G01N19/02 C
(21)【出願番号】P 2020092871
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2021-05-14
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306030275
【氏名又は名称】山田 榮子
(74)【代理人】
【識別番号】393025334
【氏名又は名称】山田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝彦
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-088958(JP,A)
【文献】特開2013-233573(JP,A)
【文献】特開昭57-072760(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190605(WO,A1)
【文献】特開昭63-078045(JP,A)
【文献】特開昭62-286656(JP,A)
【文献】特表2003-532540(JP,A)
【文献】特開昭57-127549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/16
B22D 11/053
G01H 11/08
G01N 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造に際して鋳片と鋳型間の摩擦力を検出する方法において、上下振動する鋳型部をばねを介して連続鋳造機の架構で受けて該鋳型部の見掛質量を
1/10以下とし、上下運動する1本のピストンロッドによって該鋳型部を上下振動させ、該ピストンロッドの中間部に断面縮小部を設けて歪みゲージを取付け、
1)上記ピストンロッドは圧縮応力を受ける部位に設ける、2)
該断面縮小部の破断時には駆動力を代替負荷するバックアップ用の連結部を併設することの2手段により、
断面縮小比を1/10以下とし、当該部の軸方向歪みを連続的に測定することを特徴とする鋳片と鋳型間の摩擦力を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼の連続鋳造において鋳型から鋳片が引き抜かれる際の摩擦力を検出する方法に関している。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においてレードル中の溶鋼は、鋳込流量と鋳込温度を調節するところの中間容器であるタンディシュを介して連続的に鋳型に鋳込まれる。溶鋼が鋳型壁に固着するのを防止するため、鋳型内面には常時潤滑剤が供給されるとともに鋳型を上下振動する。 溶鋼は鋳型内で1次冷却を受け、外皮が形成された鋳片は下方へ連続的に引き抜かれる。該1次冷却条件の安定性は鋳片の表面品質・皮下品質だけでなく操業(鋳込事故)にも大きく影響する。
例えば、スラブやブルーム等の大型断面の鋳造では、上記品質に対して有利なパウダーキャスティング(鋳型鋳片間の潤滑に溶融フラックスを使用する)が適用されるが、種々の原因により潤滑異常・冷却異常が発現すると、局所品質劣化や、場合により鋳片が鋳型表面に固着して破断する拘束性ブレイクアウト(外皮の破断による溶鋼流出・鋳込停止)に到る。
従って潤滑異常・冷却異常を検知し、何らかの対策をしようとする試行が古くからなされるている。
【0003】
一つの手段として鋳型内部に多数の熱電対を配置し、伝熱解析プログラムによって時々刻々の伝熱状況を追跡する方法がある。有効ではあるが技術的に極めて高度・高価な対策である。
特許文献1には、鋳片が鋳型から引き抜かれる際の引抜抵抗を測定する方法が開示されている。それによると、上下振動機構を保有した鋳型振動台に鋳型を内装する鋳型枠を積載するに当たり、該鋳型枠と振動台間にロードセルを介在させ、且つ固定ボルトによって締め付けるに当たりもう一つのロードセルを挟み、都合2段のロードセルによって引抜荷重を測定する。
問題点は、4カ所計8点のロードセルと演算装置が必要で設備費に多少難点があるだけでなく、鋳型交換毎に微妙な調整作業を要することである。
【0004】
特許文献2には、上記同様鋳片の引抜抵抗を測定する方法が開示されている。それによると、鋳型を上下振動させる油圧シリンダーの各上下室の圧力とピストン位置を検知して、演算によって引抜抵抗を求める。上記方法と類似していて同様の問題がある。
【0005】
特許文献3には、ブレイクアウト検知方法が開示されている。それによると鋳型上下振動の負荷を何らかの方法で検出し、チャート上の異常な挙動を解析して、鋳型内で鋳片殻が破断していることを判別し、緊急一時停止する。何らかの方法として、段落[0028]に、油圧シリンダーの圧力検出・ロードセル・駆動モーターの出力値等が例示されている。
潤滑不適・固着によって鋳片殻が鋳型内で破断した状況では引抜抵抗は異常に急増し、上記方法による異常の検出は容易であり、ブレイクアウトの予知と対策(一時的な鋳込・引抜の停止)が可能になる。
【0006】
上記3方法に共通の問題点を検討する。
相当な質量を持つ鋳型を含む鋳型振動台を引抜速度と同程度の速度で上限振動させる動力は空転時においてもかなり大きい。鋳込中は鋳片と鋳型面との摩擦が該動力に付加される。前者の荷重は後者の付加分よりも圧倒的に大きいので、該動力の値によって摩擦状況の微妙な変化を検知するには精度不足が否めない。
鋳片破断のような大きな抵抗の場合には問題なく検出できるが、潤滑剤の種類による微妙な潤滑差異・鋳型の熱変形による引抜抵抗の増加・鋳型組込精度に起因する抵抗の変化・鋳型テーパの不適切による抵抗の変化且つそれらの時系列変化等は上記の従来方法では偏差が小さいので検出困難である。
【0007】
第2の問題点として、パウダーキャスティングは適切に実施すれば鋳片の表面・皮下品質が優れるが、条件が不適切だと拘束性ブレイクアウト・深いオシレーションマーク・パウダーのカミコミ等が発現する。パウダーの選定は高度のノウハウになっていて多くの経験から得られている。摩擦力の精密な解析がなされていないので最適化には多大の時間と労力を要している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】公開実用新案平03-116249
【文献】公開特許公報2000-317596
【文献】公開特許公報2017-087254
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
連続鋳造において、上下振動する鋳型と引き抜かれる鋳片間には摩擦が発生する。鋳込条件が正常であれば該摩擦力は安定した上下変動を示す。潤滑不良・鋳片の変形・鋳型の変形等が発生すると摩擦が増加する。最悪は潤滑不良により溶鋼が鋳型壁に固着し、鋳片殻が引っ張り破断してブレイクアウトに到る。該ブレイクアウトの予知として該摩擦力の検出と高度の演算システムを組み合わせた方法・装置がいくつか提起されている。
摩擦力を鋳型部全体の質量測定(ロードセル使用)から算出する方法、鋳型を振動させる動力(油圧・電動機)から計測する方法等、いずれも全体の荷重に対して摩擦力自体が小さいので検出精度が小さい。従ってブレイクアウトのような大きな抵抗の発生時には有効でも、摩擦状態の微妙な変化を常時監視するには不十分である。
本願発明は、鋳型と鋳片間の摩擦状況を高精度に監視する方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、鋼の連続鋳造に際して鋳片と鋳型間の摩擦力を検出する方法において、上下振動する鋳型部の荷重の大半をばねを介して連続鋳造機の架構で受けて該鋳型部の見掛け質量を半減以下とし、上下運動する1本のピストンロッドによって該鋳型部を上下振動させ、該ピストンロッドの中間部に設けた断面縮小部に歪みゲージを取付け、当該部の軸方向歪みを連続的に測定することを特徴とする鋳片と鋳型間の摩擦力を測定する方法である。
【0011】
第2の発明は、断面縮小部の上下のピストンロッド端部を連結するもう一つの連結部を併設し、該連結部に、該断面縮小部が正常な場合には該連結部には駆動力が作用せず、断面縮小部が破断した場合には替わって駆動力を伝達する機構を組み込んだことを特徴とする第1発明に記載した鋳片と鋳型間の摩擦力を測定する方法である。
【0012】
述語の定義として、『鋳型部』とは、鋳型本体と該鋳型本体を内装する鋳型枠と該鋳型枠を積載して上下振動させる振動台とから成る。
【発明の効果】
【0013】
本発明による第1の効果は、摩擦の検出精度が格段に向上することである。
理由1は、従来方法では数トンの質量を持つ鋳型部の上下振動において振動荷重自体を直接又は間接的に検出し、演算している。対象としている摩擦力は鋳型荷重の1/10以下であるので測定精度に欠ける。本発明では鋳型部の荷重の大半をばねで受けており、駆動系に作用する荷重は半減以下(望ましくは1/10以下)となり、摩擦分が相対的に増大して細かい変化を把握することが容易となる。
理由2は、動力伝達系に発生する応力によって引抜抵抗を含んだ鋳型荷重を計測するが、動力伝達系に断面縮小部を構成することにより該応力を増幅し、微妙な変化がより精密に検出可能となる。
【0014】
第2は、検出精度が向上する結果、潤滑不良・固着(拘束性ブレイクアウトにつながる)が即座に検出され、ブレイクアウトの予知と緊急鋳込停止による該ブレイクアウトの防止が容易になされる。
【0015】
第3に、潤滑用パウダーを変更すると直ちに摩擦力の変化を読みとることができる。パウダーの経時変化も読みとることができ、パウダーの最適化に寄与する。
同様に記録線図の水準の変化から鋳型変形等の異変を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の連続鋳造における鋳片引抜抵抗の検知方法を実施する鋳型部の構造(平面図)を示す。
【
図2】本発明の鋳片引抜抵抗の検知方法を実施する鋳型部の構造(立面図)を示す。
【
図3】本発明の鋳片引抜抵抗を検知する応力検出装置の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1(平面図)、
図2(側面図)は、連続鋳造における鋳型部の構造を示す。鋳型本体11は鋳型枠12内に組み込まれる。該鋳型枠12は枠状の鋳型振動台13に積載され固定される。
該鋳型振動台13は連続鋳造機の架構に設けた基台21上にばね20を介して積載され、下死点の上方で上下方向のみ可動とする(横揺れを拘束するガイドは図示せず)。該ばね20は下死点において鋳型振動台13の荷重の大半を受け、該鋳型振動台13の見掛け荷重を大幅削減し、エレベーターにおけるバランスウェイトと似たような機能を持つ。
【0018】
鋳型振動台13は振動駆動装置(図中の斜線部)により、所定速度・所定ストロークで上下振動する。該振動駆動装置は、架構に水平状態で固定された回転支点軸棒14と、該回転支点軸棒14と連接し鋳型振動台13の外周に設けられたレバー枠15と,該レバー枠15を上下に押し引きするピストンロッド16と、該ピストンロッド16を上下駆動する駆動カム19とから成る。該回転支点軸棒14を支点として該レバー枠15は上下に円弧運動する。他方該レバー枠15の中間点に設けられたバカ孔に鋳型振動台13に設けられたトラニオン17が貫通していて、該レバー枠の円弧運動に追随して該鋳型振動台13が上下垂直に運動する。
【0019】
ピストンロッド16の軸方向に発生する引張・圧縮応力を検出する応力検出装置18が該ピストンロッドの一部を切除して装入・連接される。
図3は応力検出装置18の構造を示す。該応力検出装置18は、材質が高強度鋼であり形状が引張試験片と同様に中央に縮小部を持った検出片33と該検出片33が破断した場合においても駆動力を伝達するバックアップ用の連結部とから成る。
【0020】
該検出片33の中央の縮小部には歪みゲージが35貼り付けてあり、ピストンロッド16(又は31)の軸方向応力を検出することができる。
縮小部を設けた理由は、ピストンロッド等駆動力伝達部材は強固に設計・製作されており、当該部では駆動力や負荷の変化に対応する弾性歪みは極めて小さく、応力検出の精度が低い。縮小部を構成すると実効断面積が数分1に減少するので歪みは数倍に増幅され検出精度が向上するからである。
【0021】
バックアップ用の連結部は、ピストンロッド31の切除部の上下端部近辺に設けられた接続用フランジ32と、両フランジを僅かな隙間を持って連結するボルト37と、ナット38とから成る。
通常は該連結部には駆動力が作用しないように上側フランジ32部のボルト孔は摺動可能になっており、上側ナット38の上下間も僅かに隙間をもって締め付けられる。
縮小部34が破断すると押し上げはできても引き下げは不能になる。当該状態で連結部が押し上げ・引き下げに作用し、駆動力は該連結部に代替負荷され振動は継続する。振動曲線は多少乱れるが鋳込停止には到らない。
該断面縮小部が正常な場合には該連結部には駆動力が作用せず、断面縮小部が破断した場合には替わって駆動力を伝達するバックアップ機構の1例を示したが、他にもいろいろ工夫することができる。
【0022】
検出部はスラブ、ブルームにかかわらず一カ所でよい。なぜなら引抜抵抗の絶対値を知ることが目的ではない。標準の操業状態と比較して、潤滑状況の微妙な差異が読みとれ、鋳片の固着を即時に探知できればよい。
鋳型振動について垂直型の場合を示したが、円弧型でも同様になし得る。
鋳型変形や鋳片変形が問題となりやすいビレットに対しても本方法は有効である。
駆動に伴う応力検出点は、ピストンロッドを例示したが他の部位においても隘路部を巧く設ければよい。
【0023】
本願発明の特徴を従来の方法と比較してまとめる。
振動している鋳型と一定速度で引き抜かれている鋳片との間の摩擦又は引抜抵抗を検出するには、まず振動部全体の荷重又は質量を運動状態下(加速度が作用している)で検出する必要があり、高度の測定技術を要する。得られた信号を即時に演算し摩擦抵抗を求めるが、摩擦抵抗分は鋳型部質量の約10分の1以下であるため検出精度が不十分である。
本願発明では振動部の荷重をばねにより大半を吸収していて荷重は約10分1以下に軽減され、摩擦分の比率が増加して検出精度が向上する。
第2の精度向上策として、振動荷重を駆動系の部材に生ずる応力によって検出するが、最大荷重を受け持つピストンロッドに隘路を設けて歪みを約10倍以上増幅し、歪みゲージによって微妙な摩擦力の変化をも検出することができる。
【実施例】
【0024】
鋳造能率30t/h、垂直曲げ式連続鋳造装置において小型ブルームの鋳込に本発明を適用した。
1) 鋳型断面寸法; 160mmm×250mm
2) 引抜速度; 1.5m/min
3) 鋳型構造; 厚肉チューブ式
4) 振動部質量(鋳型部+振動台+電磁攪拌装置); 約1700kg
5) ばね荷重; 約1200kg
6) 振動長 ; 15mm
7) 振動数 ; 100回/分
8) ピストンロッド径; 60mmA
9) 縮小部径; 15mm
10)潤滑 ; パウダーキャスティング
歪みゲージからの信号を直接指示計に送信し、時系列記録する。振動に対応する線図から引き抜き抵抗の水準と変化を読みとることができる。
始めに空運転時の上下に振福する線図の水準と幅を読みとる。鋳型交換毎の差異が小さいことを確認し、鋳型組立と取付に問題ないことを確認する。次ぎに鋳込み中の線図を読みとり比較する。潤滑性能を評価することができる。
信号値の過大な変動にはアラームを発し、鋳込の緊急一時停止を行う。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明による連続鋳造における鋳片引抜抵抗のトレーサーは操業安定に寄与する。
【符号の説明】
【0026】
11;鋳型 12;鋳型枠 13;鋳型振動台 14;回転支点軸棒 15;レバー枠 16;ピストンロッド 17;トラニオン 18;応力検出装置 19;駆動カム 20;ばね 21;基台 31;ピストンロッド 32;接続用フランジ 33;検出片 34縮小部 35;歪みゲージ 36;固定ピン 37;ボルト 38;ナット