(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】パターンレスタッチパネル
(51)【国際特許分類】
G06F 3/044 20060101AFI20220106BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
G06F3/044 110
G06F3/041 512
G06F3/041 422
(21)【出願番号】P 2018041529
(22)【出願日】2018-03-08
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500132214
【氏名又は名称】学校法人明星学苑
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 佳高
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 寛治
(72)【発明者】
【氏名】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】秋山 豊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽一
【審査官】岩橋 龍太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003660(WO,A1)
【文献】特開2006-268262(JP,A)
【文献】特開2004-070730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041-3/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有するシート状の基体と、前記基体の裏面側における中央部分を含む検知領域に一様に形成されかつ周縁部に第1信号入力ノードが設けられた導電性の信号入力層と、前記基体の表面側における前記検知領域に一様に形成されかつ周縁部に互いに離間するように複数の信号出力ノードが設けられている導電性の検知層と、を有する導電シートと、
前記第1信号入力ノードに計測信号を与え、前記複数の信号出力ノードの中から選択された対をなすペアノードから出力された出力信号の差分情報に基づいて、前記検知層に接近した物体の位置を演算する位置検出部を備えている
ことを特徴とするパターンレスタッチパネル。
【請求項2】
前記検知層の表面側における前記検知領域に、絶縁層を介して表面側導電層が積層により一様に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載のパターンレスタッチパネル。
【請求項3】
前記表面側導電層に前記計測信号を受ける第2信号入力ノードが設けられている
ことを特徴とする請求項2記載のパターンレスタッチパネル。
【請求項4】
前記基体表面には、前記検知層の周りに、前記信号出力ノードに接続された出力配線が形成された配線領域が設けられ、
前記第1信号入力ノードには、平面視において前記配線領域と重なる領域でかつ前記出力配線とは重ならないように前記基体裏面に形成された入力配線が接続されている
ことを特徴とする請求項1記載のパターンレスタッチパネル。
【請求項5】
前記基体の厚さは、前記絶縁層の厚さよりも厚い
ことを特徴とする請求項2記載のパターンレスタッチパネル。
【請求項6】
前記検知層は、矩形状の検知領域に一様に形成されており、
前記信号出力ノードは、前記検知領域の各辺に、互いに離間するように少なくとも2箇所ずつ設けられている
ことを特徴とする請求項1記載のパターンレスタッチパネル。
【請求項7】
前記検知層は、カーボン、銀、銅、アルミニウム、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、金属ドープ酸化亜鉛、金属ナノワイヤ、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、ポリチオフェン(PEDOT)、ポリアニリン、及び水溶性スルホン化ポリアニリンからなる群から選択される1種または2種以上を含有し、
前記信号入力層は、銅、アルミニウム、鉄からなる群から選択される1種以上を含有し、かつ、抵抗率が1×10-4Ω・cm以下である
ことを特徴とする請求項1記載のパターンレスタッチパネル。
【請求項8】
前記基体は、アルミナ、ガラスクロス含浸エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリ塩化ビニル(PVC)、及びトリアセテート、トリアセチルセルロース(TAC)からなる群から選択される1種以上を含有し、
前記基体の厚みが0.8mm以上かつ6.8mm以下である
ことを特徴とする、請求項1記載のパターンレスタッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターンレスタッチパネルに関し、特にパターンレスタッチパネルに好適に用いられる導電シートを備えたパターンレスタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3には、透明導電膜の4辺に電極を設け、同相かつ同電位の位置検出用の交流電圧を供給するパターンレスのタッチパネルが開示されている。具体的には、特許文献1では、導電膜の4隅の電極に対応して4個の波形検出回路を設け、その検出回路の出力電圧に基づいて座標位置を演算している。また、特許文献2では、矩形状の導電膜の4隅の電極に同相、同電圧のパルス信号を与え、対数信号比を用いてユーザーのタッチ位置を検出している。さらに、特許文献3では非線形のデータを用いた演算手法を用いることで解像度を高めている。これらのタッチパネルでは、導電シートに微細な透明電極パターンを形成する必要がなく、導電層を一様に積層した導電シートが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2013/153609号パンフレット
【文献】特開2013-250642号公報
【文献】特開2015-201223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、上記文献に記載されたパターンレスタッチパネルに適用可能な導電シートを試作し、当該導電シートを実装したパターンレスタッチパネルの評価試験を行った。本評価試験では、絶縁フィルムの一方の面全体に一様な導電層を形成し、この導電層上に絶縁膜を介して配線を形成した導電シートを用いた。その結果、タッチ位置の検知精度の面で改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明では、良好な検知精度を有するパターンレスタッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るパターンレスタッチパネルでは、基体裏面の検知領域に信号入力層を一様に形成し、基体表面の検知領域に検知層を一様に形成した導電シートを用いた。そして、信号検知部が、信号入力層に設けられた第1信号入力ノードに計測信号を与え、検知層に設けられたペアノードから出力された出力信号の差分情報に基づいて検知層に接近した物体の位置を演算するようにした。
【0007】
すなわち、本発明の一態様に係るパターンレスタッチパネルは、絶縁性を有するシート状の基体と、前記基体の裏面側における中央部分を含む検知領域に一様に形成されかつ周縁部に第1信号入力ノードが設けられた導電性の信号入力層と、前記基体の表面側における前記検知領域に一様に形成されかつ周縁部に互いに離間するように複数の信号出力ノードが設けられている導電性の検知層と、を有する導電シートと、前記第1信号入力ノードに計測信号を与え、前記複数の信号出力ノードの中から選択された対をなすペアノードから出力された出力信号の差分情報に基づいて、前記検知層に接近した物体の位置を演算する位置検出部を備えていることを特徴とする。
【0008】
ここで、「シート」には、薄板状に形成されたシートに加えて、薄板より薄いフィルム状に形成されたシートを含む。「シート状」という場合も同様であり、薄板状及びフィルム状を含む概念である。
【0009】
本願発明者らは、上述のパターンレスタッチパネルにおいて、絶縁性を有する基体の表面に計測信号入力用の信号入力ノードが設けられた信号入力層、基体の裏面に互いに離間する信号出力ノードが設けられた検知層を、それぞれ一様に形成した導電シートをパターンレスタッチパネルに用いることで、良好な検知精度を有することを見いだした。具体的に、信号入力層と検知層とを、絶縁性の基体を介して分離するようにしているので、信号入力ノードと信号出力ノードとの間に信号の干渉が起こらないようにすることができる。
【0010】
上記態様のパターンレスタッチパネルにおいて、前記検知層の表面における前記検知領域に、絶縁層を介して表面側導電層が積層により一様に形成されていてもよい。さらに、前記表面側導電層に前記計測信号を受ける第2信号入力ノードが設けられていてもよい。
【0011】
これにより、雑音が多い環境下においても、良好な検知精度を有するパターンレスタッチパネルを実現することができる。
【0012】
上記態様のパターンレスタッチパネルにおいて、前記基体表面には、前記検知層の周りに、前記信号出力ノードに接続された出力配線が形成された配線領域が設けられ、前記第1信号入力ノードには、平面視において前記配線領域と重なる領域でかつ前記出力配線とは重ならないように前記基体裏面に形成された入力配線が接続されていてもよい。
【0013】
これにより、入力配線と出力配線との間に配線間容量が生じることを避けることができ、良好な検知精度を有するパターンレスタッチパネルを実現することができる。
【0014】
上記態様のパターンレスタッチパネルにおいて、前記基体の厚さを、前記絶縁層の厚さよりも厚くしてもよい。
【0015】
これにより、タッチ操作に係る電位の変化を高めることができ、タッチ位置の検知精度を高めることができる。
【0016】
上記態様のパターンレスタッチパネルにおいて、前記検知層は、矩形状の検知領域に一様に形成されており、前記信号出力ノードは、前記検知領域の各辺に、互いに離間するように少なくとも2箇所ずつ設けられている。
【0017】
これにより、タッチ位置の検知精度が良好でかつ経時安定性のよい、パターンレスタッチパネルを得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明によると、高い位置検出精度を有するパターンレスタッチパネルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係るパターンレスタッチパネル用の導電シートを模式的に示す平面図である。
【
図2】
図1のII-II線における概略断面図である。
【
図3】接地層及び第2入力配線を模式的に示す平面図である。
【
図4】検知層及び出力配線を模式的に示す平面図である。
【
図5】信号入力層及び第1入力配線を模式的に示す平面図である。
【
図6】導電シートを適用したタッチパネルの位置検出原理を説明するための図である。
【
図7】
図6の点TPがタッチされた場合における信号波形の一例を示した図である。
【
図8】パターンレスタッチパネルの概略構成を示す図である。
【
図9】導電シートの検知領域を分割した分割領域を示す平面図である。
【
図10】2点タッチのタッチ位置とピーク電圧との関係を示す図である。
【
図11】2点タッチのタッチ位置とピーク電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0021】
図8に示すように、パターンレスタッチパネルは、導電シート1と、導電シート1の検知層31に接近した物体の位置を演算する位置検出部6とを備えている。
【0022】
<導電シート>
図1は実施形態に係る導電シートを模式的に示す平面図である。また、
図2は、
図1のII-II線における概略断面図である。なお、
図1では、検知層31及び出力配線53を実線で示し、接地層33及び第2入力配線52を破線で示している。
【0023】
導電シート1は、タッチパネルとして機能させる表示画面を表示させる表示デバイス(例えば、液晶デバイス)の前側または後側に配置される。すなわち、本実施形態に係る導電シート1は、表示デバイスの前後のどちらに配置しても機能させることができるものである。
【0024】
図1,2に示すように、実施形態に係る導電シート1は、シート状(フィルム状または薄板状)の基体2を有している。
【0025】
基体2の表面には、その中央部分を含む矩形状の検知領域Rdにおいて、基体2に近い方から順に、検知層31、絶縁層32及び表面側導電層としての接地層33がそれぞれ一様に形成され、積層されている。同様に、基体2の裏面には、検知領域Rdにおいて、信号入力層41が一様に形成されている。検知領域Rdとは、導電シート1をパターンレスタッチパネルの部材として用いたときに、タッチ位置を検知する領域に相当する。なお、本実施形態では、基体2の表面が操作者と対向しているものとする。また、「前」とは操作者側を指し、「後」はその反対側を指すものとする。
【0026】
以下、導電シート1の各構成について詳述する。
【0027】
-基体-
基体2は、導電シート1をパターンレスタッチパネルの部材として用いたときに、他部材と導電層2との接触による短絡を防ぐ観点から、絶縁性材料を用いることが好ましい。本実施形態に係る基体2は、所定の厚さを有する基板21と、基板の表面に粘着フィルム(例えば、OCA(Optical Clear Adhesive)フィルム)で貼り付けられた絶縁性フィルム22からなる。
【0028】
基板21の材料としては、絶縁性を有する物質であればよく、特に限定されないが、例えば、アルミナやガラスクロス含浸エポキシ樹脂などの硬質板「いわゆるFR4(Flame Retardant Type 4)基板」、樹脂製のフィルム、ゴム材料(柔軟性を有する方が望ましい)からなる群から選択される1種又は2種以上の材料を用いることができる。中でも、検知層31と信号入力層41との間の容量を減らす観点から、誘電率の低いFR4基板が望ましい。樹脂製フィルムは、具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリ塩化ビニル(PVC)、トリアセテート、トリアセチルセルロース(TAC)等が挙げられ、特に、耐熱性及びコストの面からPETフィルムがより望ましい。これらフィルムは可塑剤が入っているため、多少の柔軟性があり、ゴム材でなくともその機能を発現できる。
【0029】
基板21の厚さは、信号入力層41と検知層31との間における良好な信号伝搬性能を得る観点、例えば信号入力層41と検知層31との間に形成されるタッチ容量値やタッチ位置から位置検出部6に至るインピーダンス等、に基づいて決定される。基板21の厚さが十分確保されていないと、位置検出部6(
図8参照)において、信号入力層41と検知層31との間の容量がタッチ容量に対して相対的に大きい場合に、十分な出力信号が得られない場合がある。具体的に、基体の厚みが0.2mm以上かつ6.8mm以下であるのが好ましい。
【0030】
絶縁性フィルム22は、具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリ塩化ビニル(PVC)、トリアセテート、トリアセチルセルロース(TAC)等が挙げられ、特に、耐熱性及びコストの面からPENフィルムがより望ましい。絶縁性フィルム22の厚さは、特に限定されないが、接合応力を回避する観点から、基板2よりも十分に薄いことが好ましく、例えば、10μm~200μmである。
【0031】
また、導電シート1を前述の表示デバイスの前側に配置する場合、視認性を確保する観点から、基体2は光透過性が高いもの(例えば、透明)が望ましい。一方で、導電シート1を表示デバイスの後側に配置する場合、基体2は透過性の高い(例えば、透明である)必要はなく、着色されていてもよい。
【0032】
-検知層-
基体2の表面には、矩形状の検知領域Rdに検知層31が一様に形成され、検知領域Rdの周りを包囲する配線領域Rwに複数の出力配線53が形成されている。検知領域Rdは、導電シート1をパターンレスタッチパネルの部材として用いたときに、タッチ位置を検知する領域に相当する。換言すると、本発明の導電シート1は、パターンレスタッチパネルに実装されることにより、位置検出部6(
図8参照)によってタッチ操作の有無が検出できるように構成されている。なお、検知層31は、電極Eや出力配線53と信号入力層41や接地層33との間に容量が生じるのを避ける観点から、検知領域Rdよりも若干広い検知層形成領域R1に一様に形成されていることが望ましい。この場合においても、検知領域Rdにおいて、検知層31は一様に形成されているといえる。
【0033】
検知層31の各辺上(周縁部に相当)には、各辺のコーナーから所定の間隔をあけた辺長手方向の中間位置に、等しいピッチで複数の電極E(信号出力ノードNoに相当)が形成されている。電極Eの数と後述する配線領域の出力配線53の数とが等しくなっている。
図1では、導電層22の各辺にそれぞれ3個ずつ電極Eが設けられている例を示している。なお、本実施形態において、「等しい」とは、実質的に等しければよく、多少の位置ずれがあっても同様の効果が得られる。したがって、「等しい」とは、等しいこと(完全に一致すること)に加えて、概ね等しいことを含む概念である。
【0034】
なお、本実施形態において、タッチ操作とは、タッチパネルに直接タッチする操作と、ホバリング操作とを含む概念である。また、上記「タッチ操作」を行うことを「タッチする」というものとする。また、「タッチ操作」が行われた場合における指示体(例えば、操作者の指)の位置と対応する導電層2上の位置を「タッチ位置」というものとする。
【0035】
検知層31には、カーボン、銀、銅、アルミニウム、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、金属ドープ酸化亜鉛、金属ナノワイヤ、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、ポリチオフェン(PEDOT)、ポリアニリン、及び水溶性スルホン化ポリアニリンからなる群から選択される1種または2種以上の導電材料が含有されている。カーボンは、導電性が発現すれば特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブを用いることができる。
【0036】
検知層31に用いる導電材料は、基体2との密着性を向上させる目的でバインダーとなる合成樹脂と同時に用いられてもよい。また、加工性の面から、導電材料が分散された合成樹脂と揮発溶剤の混合液を用いることが望ましい。バインダーとなる合成樹脂は、特に限定されないが、経時安定性の面から、耐湿熱性のあるポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタンエステル樹脂、エポキシ樹脂が望ましい。具体的には、ポリエステル樹脂、フッ素系ゴム、ジエン系ゴム、スチレン系ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、チオコール、フッ素系樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ニトリル樹脂など水への溶解度が1%未満の樹脂が好適に使用できる。なお、導電層には架橋剤が含まれていてもよい。
【0037】
(検知層の抵抗値)
検知層31は、検出精度に優れ且つ経時安定性に優れた導電シート1を得る観点から、中小型の用途(例えば、タブレットPC等)においては、抵抗値が1kΩ/□以上であることが好ましい。抵抗値が1kΩ/□未満であると、2つの電極からの検知電流の差動電位で発生するピーク時間が小さくなるため、位置検出部6でのタッチ位置の検出に際してノイズと区別がつかなくなってしまうおそれがある。一方で、大型の用途(例えば、大型パネル)では、タッチ位置から検知層31の電極Eまでの抵抗が高くなるので、下限抵抗値は50Ω/□以上あれば十分である。また、中小型及び大型の両用途において、検知層31の抵抗値は、10MΩ/□以下であることが好ましい。抵抗値が10MΩ/□を超えると、位置検出部6でのタッチ位置の検出において抵抗による出力の低下で感度が鈍るだけでなく遅延が発生してしまうおそれがある。
【0038】
(検知層の抵抗値ばらつき)
検知層31の抵抗値ばらつきは、検出精度の安定性を得る観点から、好ましくは20%以下である。抵抗値ばらつきを上記範囲に抑えることにより、検知層31上の場所によらず安定した良好な検出精度を有する導電シート1を実現することができる。
【0039】
(検知層の厚さ)
検知層31の厚さは、パターンレスタッチパネル用の導電シート1としての十分な抵抗値を得る観点から、平均厚さが好ましくは0.1μm以上かつ40μm以下、より好ましくは0.5μm以上かつ5μm以下である。
【0040】
なお、検知層31の厚さは均一であることが望ましい。ここに、「検知層31の厚さが均一」であるとは、検知層31の厚さのばらつきが上記平均厚さの20%以下であることをいう。検知層31の厚さが均一であることにより、検知層31の抵抗値ばらつきが低減され、安定した検出精度を有するとともに、経時安定性の高めることができる。
【0041】
(検知層の透光性)
導電シート1を前述の表示デバイス(図示省略)の前側に配置する場合、導電シート1の検知層31は、表示画面の視認性を確保する観点から、透過性の高い導電材料で形成することが望ましい。
【0042】
一方で、導電シート1を表示デバイスの後側に配置する場合、表示画面の視認性への影響を考慮する必要がなく、検知層31は、透過性の低い導電材料で形成することが可能である。具体的には、導電シート1の全光線透過率は、好ましくは80%未満、より好ましく70%以下、特に好ましくは50%以下とすることができる。
【0043】
-出力配線-
基体表面の配線領域Rwには、検知層31の周縁に沿って延びる複数の出力配線53が形成されている。出力配線53は、検知層31の信号出力ノードNoとしての電極Eから出力された電流の取得のために用いられる。換言すると、それぞれの出力配線53は、互いに離間するように設けられている電極Eを介して検知層31に接続されており、この電極Eが信号出力ノードとして作用する。また、各出力配線53は、検知層31の周縁に沿って引き回され、1箇所(
図1では右下の隅角部近傍)に集約され、互いに異なる電極Eにそれぞれ接続されている。このように、出力配線53の端部(電極)を集約させることにより、位置検出部6に接続しやすくなる。
【0044】
出力配線53の材質は、特に限定されないが、金、銀、銅、アルミニウムなど公知の金属線、金属箔、導電ペーストを用いることができる。電極Eを介した出力配線53と検知層31との密着性の観点から、出力配線53は導電ペーストが望ましい。導電ペーストに含まれる導電性物質は、特に限定されないが、カーボン粉、銀粉、銅粉、樹脂コア金属メッキ粉、アルミニウム粉、及び、これら混合粉であってもよく、その形状は特に限定されないが、例えば、球状、リン片状であってもよい。
【0045】
(出力配線の抵抗値)
出力配線53は、より高い検知電圧を得るために、抵抗率が1×10-4Ω・cm以下であることが好ましい。出力配線の抵抗率が1×10-4Ω・cmを超えると、出力配線53による電圧降下が大きくなり、後述する信号入力ノードNi(第2及び第3電極E2,E3)に必要以上に電圧を印加しなければならないおそれがある。
【0046】
(出力配線のサイズ及び導電層との間隔)
出力配線53の線幅は、特に限定されないが、加工性の観点から、10μm以上かつ1000μm以下であることが好ましく、具体的には300μm程度であることがより好ましい。出力配線53の線幅が、10μm未満であると、加工性が著しく低下し、出力配線53の断線や配線領域Rwの抵抗値上昇のおそれがある。また、出力配線53の線幅が、1000μmを超えると、タッチ位置の検知に関与しない配線領域Rwの容量増大につながるおそれがある。
【0047】
出力配線53の厚さは、特に限定されないが、加工性の観点から、3μm以上かつ20μm以下であることが好ましい。出力配線53の厚みが、3μm未満であると、ハンドリングによる配線の断線や抵抗値上昇のおそれがある。また、出力配線53の厚みが、20μmを超えると、粘度上昇や2回塗工の必要性等に起因して、加工性が著しく低下するおそれがある。
【0048】
さらに、出力配線53は、
図2に示すような検知層31との接続部(電極E)以外は、検知層31や他の出力配線53から離れて配線されていればよい。好ましくは、検知層31と出力配線53との間の間隔が200μm以上離れているとよい。これにより、出力配線53にノイズが重畳しないようにすることができる。
【0049】
-接地層(表面側導電層)-
図2に示すように、検知層31や出力配線53の表面側には、絶縁層32を介して導電性の接地層33が積層により一様に形成されている。
【0050】
絶縁層32は、例えば、粘着フィルムで貼り付けられた絶縁性フィルムで構成することができる。なお、絶縁層32を構成する絶縁性フィルムの材質や厚さは、基体2を構成する絶縁性フィルムと同様の考え方で設定することができるので、ここではその詳細な説明を省略する。
【0051】
図3に示すように、接地層33は、検知領域Rdと略同じ広さの接地層形成領域R2に一様に形成されている。すなわち、接地層33の形成範囲は、検知層31よりも若干狭くなるように、かつ、平面視において検知層31の電極Eと重ならないように形成されている。これにより、検知層31の電極Eと接地層33との間に容量が生じるのを避けることができ、タッチ位置の検出精度を高めることができる。なお、
図3では、接地層33及び第2入力配線52を実線で示し、検知層31を破線で示している。
【0052】
接地層33は、抵抗率が低いことが好ましく、例えば、抵抗率が1×10-4Ω・cm以下であるのが好ましい。また、接地層33は、銅、アルミニウム、鉄からなる群から選択される1種以上を含有する金属的導体であるのが好ましい。例えば、銅、アルミニウム、鉄、または、それらの合金である。なお、接地層33に第2入力配線52を半田付けする場合には、接地層33として銅を採用するのが好ましい。
【0053】
接地層33の図面上辺(周縁部に相当)における図面左右方向の左寄りの中間位置には、信号入力ノードNiが設けられている。信号入力ノードNiには、出力配線53よりも幅広の第2入力配線52が接続されている。第2入力配線52は、
図3の図面上方向に延びた後、基体2の周縁に沿って図面右方向及び図面下方向に向かって右辺の上下方向の中間位置までL字状に延びている。第2入力配線52の先端部には、後述する位置検出部6のパターンジェネレータPGが接続される。そして、第2入力配線52を介してパターンジェネレータPGからの計測信号が信号入力ノードNiに供給される。第2入力配線52の材質、抵抗値、厚さは、出力配線53と同様に設定すればよく、ここでは詳細な説明を省略する。また、第2入力配線の線幅は、特に限定されないが、例えば、10μm以上かつ1000μm以下であるのが好ましい。
【0054】
-信号入力層-
図2に示すように、基体2の裏面には、信号入力層41が形成されている。
図4及び
図5に示すように、信号入力層41は、検知領域Rdと略同じ広さの信号入力層形成領域R3に一様に形成されている。接地層33と信号入力層41とは、導電シート1内の平面視における互いの位置が略同じになるように配置されている。なお、
図4では、検知層31及び出力配線53を実線で示し、信号入力層41及び第1入力配線51を破線で示している。また、
図5では、信号入力層41及び第1入力配線51を実線で示し、検知層31を破線で示している。
【0055】
図5に示すように、信号入力層41の図面上辺(周縁部に相当)における図面左右方向の左寄りの中間位置に、信号入力ノードNiが設けられている。信号入力ノードNiには、出力配線53よりも幅広の第1入力配線51が接続されている。第1入力配線51と第2入力配線52とは、導電シート1内の平面視における互いの位置が略同じになるように配置されている。具体的に、第1入力配線51は、
図5の図面上方向に延びた後、導電シートの周縁に沿って図面右方向及び図面下方向に向かってL字状に、図面右辺の上下方向の中間位置まで延びている。第1入力配線51の先端部には、後述する位置検出部6のパターンジェネレータPGが接続される。そして、第2入力配線52と同様に、第1入力配線51を介してパターンジェネレータPGからの計測信号が信号入力ノードNiに供給される。
【0056】
ここで、
図4に示すように、第1入力配線51及び第2入力配線52と出力配線53とが、平面視において重ならないように形成している。これにより、第1入力配線51と出力配線53との間及び第2入力配線52と出力配線53との間に、配線間容量が発生するのを避けることができる。
【0057】
信号入力層41は、抵抗率が低いことが好ましく、例えば、抵抗率が1×10-4Ω・cm以下であるのが好ましい。また、信号入力層41は、銅、アルミニウム、鉄からなる群から選択される1種以上を含有する金属的導体であるのが好ましい。例えば、銅、アルミニウム、鉄、または、それらの合金である。
【0058】
さらに、
図2及び
図4に示すように、基体2の裏面には、平面視において、出力配線53と重なる位置に、接地配線42が形成されている。接地配線42は、信号入力層41及び第1入力配線51と電気的及び機械的に接続されないように、かつ、信号入力層41の周りを囲むように延びている。このように、出力配線53の裏面側に接地配線42を設けることにより、出力配線53と接地配線42との間のインピーダンスを所望の値(例えば、50Ω程度)に整合させることができるようになる。
【0059】
-絶縁カバー層-
図2に示すように、接地層の表面及び信号入力層41の裏面を絶縁カバー層で覆うようにしてもよい。
【0060】
具体的に、
図2の例では、接地層33の表面に、絶縁性フィルム34が粘着フィルム(例えば、OCA(Optical Clear Adhesive)フィルム)で貼り付けられている。絶縁性フィルム34は、基体2を構成する絶縁性フィルム22と同様のものを使用することができるので、ここではその詳細な記載を省略する。
【0061】
また、信号入力層41の裏面には、ソルダーレジスト43が塗布されている。ソルダーレジスト43の材質、厚さは特に限定されず、従来技術に係る汎用品を適用することができる。
【0062】
なお、例えば、導電シート1の前後に空間を設けたり、絶縁性の部品を配置したりする場合や、導電シート1の周りを筐体等で覆ったりした場合には、絶縁カバー層を設けなくてもよい。
【0063】
<位置検出部>
図8に示すように、位置検出部6は、信号入力ノードNiに計測信号を与えるパルスジェネレータPGと、同一構成の2つのアナログスイッチ61,61(
図8ではASと表記する)と、差動アンプ62と、ノイズフィルタ63と、ピークホールド部64と、アナログデジタル変換回路65(
図8ではADCと表記する)と、演算部66を備えている。
【0064】
アナログスイッチ61,61は、検知層31に設けられた電極Eの中から任意に選択された測定対象となる2つの電極E1,E2(以下、ペア電極という)からの出力信号を通過させる。差動アンプ62では、アナログスイッチ61,61からの出力信号の信号量差を示す差動信号を出力する。ノイズフィルタ63は、差動アンプ62から出力された差動信号のノイズ成分を除去する。ピークホールド部64は、ノイズが除去された差動信号のピーク電圧をアナログ信号として保持する。アナログデジタル変換回路65は、ピークホールド部64で生成されたピーク電圧(アナログ信号)に基づいて、ピーク電圧値及びピーク電圧の符号情報をデジタル値に変換する。
【0065】
演算部66は、位置検出部6の各ブロックの動作を制御するように構成されている。例えば、演算部66は、検知層31に設けられた電極Eの中からペア電極E1,E2(ペアノードに相当)を選択し、ペア電極E1,E2を示す電極選択信号SC1を2つのアナログスイッチ61,61に送信する。さらに、演算部66は、アナログデジタル変換回路65から出力された差動信号(デジタル値)に含まれる差分情報に基づいて、検知層31に接近又は接触した物体(例えば、ユーザーの指)の位置を演算により求める。ここで、差分情報とは、差動信号に基づいて得られる情報全般を指すものとする。例えば、差分情報には、差動信号が正の電圧信号か負の電圧信号かを示す符号情報、差動信号の大きさを示す電圧差情報、差動信号が所定の電圧に到達するまでの時間情報等が含まれる。また、演算部66は、上記制御を行うためのプログラムが格納されたROMが格納された記憶部(図示省略)を備えている。
【0066】
<タッチパネルの位置検出原理>
以下において、導電シート1を用いたパターンレスタッチパネルのタッチ操作に係るタッチ位置の検出原理について、具体的に説明する。
図6は、導電シート1を用いたパターンレスタッチパネルにおいて、導電シート1に、位置検知部6のパルスジェネレータPG及び差動アンプ62を接続した状態を示す模式図である。
図6において、Zは、信号入力層41と検知層31との間のインピーダンス及び検知層31と接地層33との間のインピーダンスを示している。このインピーダンスZは、所定の値(例えば、50Ω程度)にマッチングされている。なお、
図6では、アナログスイッチ61,61の図示を省略している。
【0067】
図6において、パルスジェネレータPGは、入力抵抗Riaを介して信号入力層41の信号入力ノードNiに接続されている。また、信号入力層41の信号入力ノードNiと接地層33の信号入力ノードNiとの間に入力抵抗Ribが接続され、接地層33の信号入力ノードNiは接地されている。
【0068】
そして、パルスジェネレータPGから信号入力ノードNiに計測信号が与えられると、計測信号が基体21を介して検知層31に伝搬され、検知層31の電極Eから出力信号として出力される。差動アンプ62には、アナログスイッチ61,61を介して、ペア電極E1,E2から出力された出力信号が与えられる。その後、後段に接続された演算部66(
図8参照)により、タッチ位置の演算が行われる。
【0069】
具体的に、タッチ位置TPがタッチされた状態において、信号入力ノードNiにパルス信号が供給されると、タッチ位置がチャージアップされ、ペア電極E1,E2には、それぞれ下式(1)に応じた電圧が出力される。
【0070】
V=Vdd(1-exp(-t/RC)) ‥(1)
【0071】
C=CT+CS ‥(2)
【0072】
ここで、式(2)は式(1)のCの値を示している。式(2)において、CTはタッチした指と検知層31との間の容量であり、CSはタッチ位置TPにおける導電シート1の内部の容量である。なお、Csは、Ct/Csの値が、1~100程度になるように設定されるのが望ましい。
【0073】
また、式(1)のRには、ペア電極を構成する電極E1,E2とタッチ位置との間の抵抗値であるR1,R2と、各電極E1,E2から位置検知装置6までの配線抵抗RLおよび信号入力層41と検知層31との間のインピーダンスZの抵抗成分RZが含まれる。ただし、配線抵抗RL及び抵抗成分RZはほとんど影響がない程度に小さくできるため、以下の計算では、配線抵抗RL及び抵抗成分RZは「0(ゼロ)」であるものとする。
【0074】
そうすると、ペア電極のうちの一方の電極E1とタッチ位置TPとの間の抵抗をR1とすると、電極E1には、それぞれ下式(3)で示す電圧が出力される。
【0075】
V1=Vdd(1-exp(-t/R1C)) ‥(3)
【0076】
同様に、ペア電極のうちの他方の電極E2とタッチ位置TPとの間の抵抗をR2とすると、電極E2には、それぞれ下式(4)で示す電圧が出力される。
【0077】
V2=Vdd(1-exp(-t/R2C)) ‥(4)
【0078】
したがって、差動アンプ42からは、下式(5)に示す差動信号(式(3),(4)の差分の信号)が出力される。
【0079】
Vdf=V1-V2
=Vdd(-exp(-t/R1C)+exp(-t/R2C))‥(5)
【0080】
図7はユーザーによりタッチ位置TPがタッチされた場合におけるペア電極E1,E2の出力信号及び差動アンプ42から出力される差動信号の一例を示した図である。
図7において、縦軸は電圧値であり、横軸は時間である。また、
図7(a)は後述する式(1),(2)で求められるV
1,V
2の信号波形を示しており、
図7(b)は式(3)で求められるV
dfの信号波形を示している。
【0081】
そして、位置検出部6の演算部66では、タッチ位置に応じて式(5)で示される差動信号の符号や大きさ等(以下、差動信号情報という)が異なるため、その差動信号情報に基づいてタッチ位置を演算することができる。
【0082】
なお、タッチ操作の種別(タッチパネル上に直接指示体が触れる操作とホバリング操作)によって、位置検出部6で検出される電圧の振幅が異なるが、タッチ操作の種別によらず基本的な検出原理は同じである。同様に、タッチ位置が1点(いわゆる1点タッチ)の場合、タッチ位置が2点(いわゆる2点タッチ)の場合、および、タッチ位置が3点以上(いわゆるマルチタッチ)の場合についても位置検出部6で検出される電圧の振幅が異なるが、基本的な検出原理は同じである。
【0083】
以上のように、本願発明者らは、絶縁性を有する基体2にタッチ位置を検知するための検知領域Rdを設定し、検知領域Rdの裏面側に計測信号を与えるための信号入力層41を一様に形成し、検知領域Rdの表面側に基体2を介して伝搬された計測信号を出力するための信号出力ノードNoが形成された検知層31を一様に形成した導電シート1をパターンレスタッチパネルに用いることで、高精度なタッチ位置の検知が可能であることを見いだした。具体的には、信号入力層41と検知層31とを分離しているので、信号入力ノードNiと信号出力ノードNoとの間で信号の干渉が起こらないようにすることができる。
【0084】
<その他の実施形態>
上記実施形態では、検知領域Rdが矩形状であり、検知層31及び信号入力層41が矩形状であるものとしたが、これに限定されない。例えば、
図12に示すように、検知領域Rd(検知層31及び信号入力層41)が楕円形状であってもよい。なお、検知層31は、
図1の場合と同様に、信号入力層41よりも若干広い領域に形成されているのが好ましい。なお、検知領域Rdが楕円形状であっても、タッチ位置の検出原理は上記実施形態と同様であり、ここではその詳細説明を省略する。
【0085】
上記実施形態では、配線領域Rwが、検知層31の周りを取り囲んでいる(包囲している)例を示しているが、これに限定されず、配線領域Rwは、検知領域Rdの周りに設けられていればよい。例えば、基体2が矩形状のフィルムで、かつ、検知領域Rdも矩形状である場合において、配線領域Rwが、(1)コの字状(検知領域Rdの3辺の周りに設けられるもの)、(2)ニの字状(検知領域Rdの対向する2辺の周りに設けられるもの)及び(3)L字状(検知領域Rdの直交する2辺の周りに設けられるもの)であってもよい。ただし、検知層31の4辺それぞれに電極Eを設けることによりタッチ位置の検出精度を向上させることができるので、配線領域Rwが検知領域Rdを包囲していることが最も好ましい。したがって、検知領域Rdの検知層31が矩形状の場合、配線領域Rwはロ字状に形成されていることが最も好ましい。
【0086】
また、上記実施形態では、検知層31の各辺の中間位置に各3つの電極4を設けた例を示しているが、これに限定されない。例えば、検知層31の各辺の中間位置に加えてまたは代えて検知層31の四隅に電極Eを形成してもよい。また、検知層31の周縁部に合計で少なくとも2つの電極Eが形成されていればよく、その電極Eがどの辺に、何個ずつ設けられているかについて特に限定されない。例えば、検知層31の辺のうち、電極Eが設けられていない辺があってもよい。これらの電極Eの配置及び電極数は、パターンレスタッチパネルのサイズ、検出精度等の設計仕様に基づいて適宜変更することができる。ただし、パターンレスタッチパネルでは、従来型(アレイ型)タッチパネルと比較して、多数の電極を設ける必要がない特徴がある。具体的には、パターンレスタッチパネルに必要な電極数は、パネルのサイズ及び要求精度にもよるが、検知層31の周の長さが1m未満の場合、検知層31の周縁部に合計20個(例えば、各辺5個ずつ)あれば十分な検出精度を得ることができる。この必要な電極数は、パネルのサイズが大きくなる場合、その大きさに合わせて適宜増加させればよい。例えば、検知層31の周の長さが数mあるようなタッチパネル(例えば、会議室や教室等に設置されるホワイトボード)においても、検知層31の周縁部に合計30~40個程度の電極があれば十分な検出精度を得ることができる。
【実施例】
【0087】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。なお、以下の実施例に記載された各種の数値は、発明の理解を助けることを目的として例示したものであり、以下に記載された数値に限定することを意図するものではまったくない。
【0088】
(実施例1)
25cm×30cm、厚さ1.6mmのFR4基板の表面に、光学粘着(厚さ50μm)で、PENフィルム(25cm×30cm、厚さ50μm)を貼り合わせて基体2を構成した。
【0089】
-検知層(導電層)の塗工-
カーボンを含有する塗工液は、カーボン含有量2.5質量%、ポリエステル樹脂を12.0質量%、残部溶剤となるように、大阪印刷インキ製造株式会社製EXP28004EC黒コンク(カーボン含有量2.5質量%、ポリエステル樹脂12.0質量%、残部溶剤)を使用した。この塗工液を、上記基体2のPENフィルム表面の検知領域Rdにダイレクトグラビアを用いて塗布した。具体的には、塗布範囲は、PENフィルムの中央部のみ、つまり検知層の周囲が配線領域Rw(導電層が形成されていない余白)となる様に、17cm×22cmの長方形形状の範囲とした。その後、120℃にて1分間乾燥した。乾燥後に形成された検知層31は、カーボン濃度が17.2質量%で、厚みが2.64μmであった。
【0090】
-配線の形成-
次いで、上記基体のPENフィルム表面の配線領域Rwに、検知層31の周縁に沿って延びる複数の出力配線53を形成した。出力配線53の線幅が300μmとなるように、スクリーン印刷によりAgペースト(東洋紡株式会社製DW-420L-2)を用いて形成した。各出力配線53は、隣接する配線同士の間隔がそれぞれ200μmとなるようにした。また、検知層31の辺に隣接する出力配線53は、検知層の周縁との間隔D1が500μmとなるようにした。
【0091】
-接地層の形成-
検知層31の表面側において、検知領域Rdに、絶縁層32としての絶縁性フィルムを介して接地層33を形成した。接地層33の形成範囲は、検知層31よりも若干狭くなるように設定している。
【0092】
-信号入力層の形成-
基体2の裏面の検知領域Rdに、検知層31よりも若干狭くなるように設定した信号入力層41を形成した。
【0093】
-絶縁カバー層の形成-
接地層33の表面全体及び信号入力層41の裏面全体を絶縁カバー層34,43で覆った。接地層33の表面には、OCAフィルムを介してPENフィルムを貼り付けた。また、信号入力層41の裏面には、ソルダーレジストを塗布した。
【0094】
-タッチ位置検出試験-
パターンレスタッチパネルの試作機(明星大学製)に導電シート1を設置し、タッチ操作によるタッチ位置の検知精度について検証を行った。試作機では、検知層31を上側に向けた状態で導電シート1をアクリル板上に静置した。さらに、導電シート1に設けた出力配線53を位置検出部6に接続した。位置検出部6では、任意に選択されたペア電極から出力された出力信号に基づいて、差動ピーク電圧等の差動情報を取得し、演算部66で演算をするようにした。演算部66には、差動情報を表示画面(図示省略)で確認できるような設定(プログラミング)を行った。
【0095】
上記のように、設定されたパターンレスタッチパネルの試作機において、タッチ位置検出試験を行った。具体的に、
図9に示すように、導電シートの検知領域を80個の分割領域に分割し、実験者が指で丸印または三角印に示す2点をタッチすると共に、そこから矢印に沿って指を動かした場合の出力結果を確認した。なお、
図9では、説明の便宜上、電極Eのうち、検知層31の左辺/右辺に設けられた電極を図面上から下に向かって順にE11/E31,E12/E32,E13/E33とした。同様に、検知層31の上辺/下辺に設けられた電極を、図面右から左に向かって順にE21/E41,E22/E42,E23/E43とした。
【0096】
図10及び
図11に実験結果を示している。
図10及び
図11に示されるように、丸印及び三角印の2点タッチの両方において、タッチ位置の移動に伴って線形的かつ大きな(有意な)電圧変化を検出することができた。この検出データに対し、例えば、パーセトプロンの概念を利用したディープラーニングのアルゴリズムを適用することにより、良好な検知精度でタッチ位置を演算することができる。
【0097】
ディープラーニングに用いる学習データは、例えば、以下の方法で取得することができる。まず、上記分割領域に対して適当に間引いた特定点に対して人物や環境を変えた正味データを取得し、その特定点を学習させる。このとき、正味データの取得は、数百回以上好ましくは千回以上実施するとよい。その後、間引かれた部分に関して、内挿及び外挿により補間する。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、タッチ位置の検出精度が高いパターンレスタッチパネル用の導電シートをもたらすことができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0099】
1 導電シート(パターンレスタッチパネル用導電シート)
2 基体
31 検知層
33 接地層(表面側導電層)
41 信号入力層
6 位置検出部
Ni 信号入力ノード
No 信号出力ノード
Rd 検知領域