IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

<>
  • 特許-光触媒およびその使用方法 図1
  • 特許-光触媒およびその使用方法 図2
  • 特許-光触媒およびその使用方法 図3
  • 特許-光触媒およびその使用方法 図4
  • 特許-光触媒およびその使用方法 図5
  • 特許-光触媒およびその使用方法 図6
  • 特許-光触媒およびその使用方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】光触媒およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20220106BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20220106BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20220106BHJP
【FI】
B01J35/02 J ZAB
B01J31/22 M
C01B32/50
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017076377
(22)【出願日】2017-04-07
(65)【公開番号】P2018176036
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】史 力
(72)【発明者】
【氏名】ザン フアビン
(72)【発明者】
【氏名】楊 柳青
(72)【発明者】
【氏名】加古 哲也
(72)【発明者】
【氏名】葉 金花
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105289734(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0115961(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105669773(CN,A)
【文献】第115回触媒討論会講演予稿集,2015年03月10日,p.200,2P43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 32/50
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物クラスターと金属ポルフィリンを含む金属有機構造体であって、
前記金属化合物クラスターは無機2次元構造単位としてZr金属化合物を含み、
前記金属ポルフィリンは前記金属化合物クラスターの架橋配位子になっており、
前記金属ポルフィリンの金属は、Fe3+,Fe2+の少なくとも何れか1以上である、光触媒。
【請求項2】
金属化合物クラスターと金属ポルフィリン誘導体を含む金属有機構造体であって、
前記金属化合物クラスターは無機2次元構造単位としてZr金属化合物を含み、
前記金属ポルフィリン誘導体は前記金属化合物クラスターの架橋配位子になっており、
前記金属ポルフィリン誘導体の金属は、Fe3+,Fe2+の少なくとも何れか1以上である、光触媒。
【請求項3】
前記金属ポルフィリンまたは前記金属ポルフィリン誘導体の金属サイトが、前記金属ポルフィリンまたは前記金属ポルフィリン誘導体の金属で全て埋められている、請求項1または2記載の光触媒。
【請求項4】
前記金属ポルフィリンまたは前記金属ポルフィリン誘導体の金属サイトの一部が、前記金属ポルフィリンまたは前記金属ポルフィリン誘導体の金属以外の物質に置き換わっている、あるいは欠損している、請求項1から3の何れか1記載の光触媒。
【請求項5】
前記金属化合物クラスターは、μを3個の金属に架橋していることを表すとして、Zr(μ-O)(μ-OH)(OH)(OH(COOまたはZr(μ-OH)(OH)である、請求項1から4の何れか1記載の光触媒。
【請求項6】
有機物を二酸化炭素に酸化分解する、請求項1から5の何れか1記載の光触媒。
【請求項7】
有害金属をより無害化する、請求項1から5の何れか1記載の光触媒。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1記載の光触媒に可視光を照射する、光触媒の使用方法。
【請求項9】
請求項1から7の何れか1記載の光触媒に赤外光を照射する、光触媒の使用方法。
【請求項10】
請求項1から7の何れか1記載の光触媒に可視光および赤外光を照射する、光触媒の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒とその使用方法に関し、特に、可視光あるいは赤外光照射により高い効率で有機物を二酸化炭素まで分解することが可能な有機金属構造体からなる光触媒とその使用方法に係る。
【背景技術】
【0002】
光照射により有害物質を分解除去する材料として光触媒材料が知られている。紫外線の量が多い屋外などでは、光触媒として酸化チタンが幅広く利用されており、それを用いて有害物質の分解が行われている。
しかし、紫外線の少ない室内では酸化チタンはその光触媒機能を十分に発揮できない。それゆえ、室内で機能する光触媒の研究が盛んにおこなわれている。
【0003】
室内には紫外線は少ないが、可視光が大量に存在する。そこで、その可視光に応答する光触媒材料の開発が行われている。その例として、可視光に応答するために、酸化チタンのバンドギャップを小さくすべく窒素をドープした、窒素ドープ型酸化チタンが報告されている(特許文献1参照)。しかし、窒素ドープ型酸化チタンでも可視光の吸収量は十分ではなく、比表面積も大きくないので、その光触媒としての効率は要求を満たすものではなかった。
【0004】
また、比表面積が比較的大きく、可視光を吸収する材料として、カーボンナイトライド(C)が挙げられるが、カーボンナイトライドでもバンドギャップは、非特許文献1に記載があるように、2.7eV以上であり、可視光の一部しか吸収できない。このため、より多くの可視光を吸収する材料が求められている。
【0005】
可視光をよく吸収し、比表面積が大きいという2つの特性を満足する材料として、金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)を利用した光触媒材料が近年開発されている。光触媒金属有機構造体は、無機2次元構造単位である金属化合物クラスターと有機化合物とが配位結合を通して3次元に規則的に架橋しあってできた細孔を持つ多孔体である。金属有機構造体MIL-53は可視光照射下で、アルコールをアルデヒドやケトンにまで選択率ほぼ100%で酸化できると報告されている(非特許文献2参照)。一方で、このことは、アルデヒド、ケトン以上より細かくは分解できず、二酸化炭素にまで酸化できないことを示唆している。
アルデヒドやケトンは有害物であることが多く、より無害な二酸化炭素にまで酸化できなければ、環境浄化に資するとは言い難いという問題が従来の金属有機構造体を利用した光触媒にはあった。
また、特許文献2に開示されているように、可視光に比較的近い長波長の光で触媒作用を有するアンチモンポルフィリン光触媒の報告もあるが、紫外光を含む360nmより長い波長の光を照射したときのフェノールの分解率は71%に留まっていた。
なお、ポルフィリンを用いた光触媒としては、金属クラスターがポルフィリンで被覆された物も開示されているが、この材料はアルコール、アルデヒドなどの有害物質の吸着、分解に役立つ細孔を持っていない(特許文献3参照)。
【0006】
以上示したように、室内光などの可視光で機能する従来の光触媒は、その比表面積が不十分であったり、可視光吸収特性が不十分であったり、酸化特性が不十分であったりと、その活性に重要な3要素をすべて満たすものではなく、可視光に対する光触媒としての効率が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-205103号公報
【文献】特開2001-340761号公報
【文献】特開2005-131458号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Quanjun Xiang,Jiaguo Yu,Mietek Jaroniec,Journal of Physical Chemistry C,Vol.115(2011)7355-7363.
【文献】Zhiwang Yang,Xueqing Xu,Xixi Liang,Cheng Lei,Yuli Wei,Peiqi He,Bolin Lv,Hengchang Ma,Ziqiang Lei,Applied Catalysis B,Environmental,Vol.198(2016)112-123.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決し、可視光から赤外光に対しより高い効率で、有機物を二酸化炭素を含む炭素含有物質にまで酸化分解できる光触媒を提供することを目的とする。また、可視光から赤外光に対しより高い効率で、有機物を、二酸化炭素を含む炭素含有物質あるいは二酸化炭素にまで酸化分解できる光触媒の使用方法を提供することを目的とする。
より詳しく言うと、本発明は、可視から赤外領域の幅広い光に対する光吸収が強く、有機物を吸着する比表面積が大きく、有機物、とりわけアルコールなどの有害な有機物を、二酸化炭素を含む有害性の低い炭素含有物質あるいは二酸化炭素にまで酸化分解する金属有機構造体光触媒およびその光触媒の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の状況を顧みて、試行錯誤を重ねて検討を行った。その結果、金属有機構造体の架橋配位子に金属ポルフィリン、特に鉄ポルフィリン、銅ポルフィリン、ニッケルポルフィリン、コバルトポルフィリン、マンガンポルフィリンの何れか1つ以上の金属ポルフィリンを用いることにより、光照射により生じた電子、ホールといったキャリアの再結合を抑え、光触媒活性を高め、さらには有害な有機物を二酸化炭素にまで酸化分解できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
金属化合物クラスターと金属ポルフィリンを含む金属有機構造体であって、
前記金属化合物クラスターは無機2次元構造単位としてZr金属化合物を含み、
前記金属ポルフィリンは前記金属化合物クラスターの架橋配位子になっており、
前記金属ポルフィリンの金属は、Fe3+,Fe2+の少なくとも何れか1以上である、光触媒。
(構成2)
金属化合物クラスターと金属ポルフィリン誘導体を含む金属有機構造体であって、
前記金属化合物クラスターは無機2次元構造単位としてZr金属化合物を含み、
前記金属ポルフィリン誘導体は前記金属化合物クラスターの架橋配位子になっており、
前記金属ポルフィリン誘導体の金属は、Fe3+,Fe2+の少なくとも何れか1以上である、光触媒。
(構成3)
前記金属ポルフィリンまたは前記金属ポルフィリン誘導体の金属サイトが、前記金属ポルフィリンまたは前記金属ポルフィリン誘導体の金属で全て埋められている、構成1または2記載の光触媒。
(構成4)
前記金属ポルフィリンまたは前記金属ポルフィリン誘導体の金属サイトの一部が、前記金属ポルフィリンまたは前記金属ポルフィリン誘導体の金属以外の物質に置き換わっている、あるいは欠損している、構成1から3の何れか1記載の光触媒。
(構成5)
前記金属化合物クラスターは、μを3個の金属に架橋していることを表すとして、Zr(μ-O)(μ-OH)(OH)(OH(COOまたはZr(μ-OH)(OH)である、構成1から4の何れか1記載の光触媒。
(構成6)
有機物を二酸化炭素に酸化分解する、構成1から5の何れか1記載の光触媒。
(構成7)
有害金属をより無害化する、構成1から5の何れか1記載の光触媒。
(構成8)
構成1から7の何れか1記載の光触媒に可視光を照射する、光触媒の使用方法。
(構成9)
構成1から7の何れか1記載の光触媒に赤外光を照射する、光触媒の使用方法。
(構成10)
構成1から7の何れか1記載の光触媒に可視光および赤外光を照射する、光触媒の使用方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光触媒金属有機構造体は、可視光および赤外光を強く吸収する多孔体光触媒であり、1000m-1以上の大きな比表面積を持ち、可視光照射下で強い酸化力を持つ光触媒である。このため、本発明により、可視光から赤外光を含む幅広い波長域の光により高い効率で、有害な有機物を含む有機物を、二酸化炭素または二酸化炭素を含む炭素含有物質にまで酸化分解できる光触媒、およびその使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Fe-PCN-224有機金属構造体の構造模式図。
図2】本発明の有機金属構造体の光吸収スペクトルを示す特性図。
図3】可視光照射下での2-プロパノール分解実験において生成されるアセトン発生量の時間変化を示す特性図。
図4】本発明の有機金属構造体の光触媒耐久性を示す特性図。
図5】可視光照射下での6価クロムの低減試験における6価クロムの量の時間変化を示す特性図。
図6】可視光照射下での2-プロパノール分解実験において生成されるアセトン発生量の時間変化を示す特性図。
図7】フォトルミネッセンス(光発光)特性を実施例1と比較例1で比較した特性図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(実施の形態1)
本発明の有機金属構造体光触媒は、図1に示すように無機2次元構造単位としてZr(OH)などを含んだ金属化合物クラスター11に金属ポルフィリン12が架橋して配位することでできた多孔体である。その具体例としては、PCN(Porous Coordination Network)-224、PCN-222、MMPF(Metal‐Metalloporphyrin Framework)-1などが挙げられる。
金属化合物クラスターの金属化合物としては、金属ポルフィリンと安定な多孔体を作ればどのような金属化合物でもよく、ジルコニウム(Zr)金属化合物、ハフニウム(Hf)金属化合物、チタン(Ti)金属化合物、鉄(Fe)金属化合物、ニッケル(Ni)金属化合物、マンガン(Mn)金属化合物、ゲルマニウム(Ge)金属化合物、シリコン(Si)金属化合物、スズ(Sn)金属化合物などを挙げることができる。これらの中でも、Zr金属化合物、Hf金属化合物、Ti金属化合物、Ni金属化合物およびMn金属化合物は安定であり、好ましい。無機2次元構造単位である金属化合物クラスターの具体例としては、Zr(μ-O)(μ-OH)(OH)(OH(COO、Zr(μ-OH)(OH)などが挙げられる。ここで、μは3個の金属に架橋していることを表す。
【0015】
金属ポルフィリンを構成するポルフィリンは特に制約はなく、例えば、テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン、テトラ(4-ピリジル)ポルフィリン、ディカルボキシフェニルポルフェリンなどを挙げることができる。
【0016】
金属ポルフィリンに利用できる金属(金属イオン)としては、可視光から赤外光の領域の光を強く吸収し、酸化分解力を高めるという観点から、Fe3+,Fe2+,Cu,Cu2+,Co2+,Co3+,Mn2+,Mn4+,Mn7+が特に好ましい。また、ここに挙げた金属は混合原子価をもち、金属イオン自身の酸化、還元、再酸化、再還元の一連のプロセスが容易で、光触媒の耐久性を高める上でも有効である。また、これらの金属は非白色の有色の金属イオンであり、このことにより可視光および赤外光の吸収を高めることができる。
なお、半金属であるアンチモン(Sb)を用いた場合は、Sb5+イオンを含むNaSbOが白色あるいは無色を示すように、可視光域の光吸収能を殆ど増強できず、有機物を効率的には分解できない。
【0017】
また、金属ポルフィリンは、その金属が配置される金属サイトがその金属ポルフィリンの金属で全て埋められている状態が好ましいが、金属ポルフィリンの金属サイトの一部がディフェクトとなっている状態、すなわち、ポルフィリンと金属ポルフィリンが併存している状態でも用いることができる。
【0018】
また、金属ポルフィリンの代わりに金属ポルフィリン誘導体を用いることもできる。金属ポルフィリン誘導体としては、例えばコロール、フタロシアニン、クロリンなどを挙げることができる。
【0019】
また、本発明の光触媒は、酸化チタンや酸化タングステンといった他の光触媒と併用して利用してもよい。すなわち紫外光領域で高活性な酸化チタンと本発明の有機金属構造体光触媒のハイブリットにして利用してもよい。
【0020】
本発明の有機金属構造体光触媒は、紫外光、可視光、赤外光に強い吸収を持つので、紫外光が豊富にある屋外のみならず、紫外光は少ないが可視光は十分にある屋内でも、様々な有機物を酸化分解することができる。さらには、本発明の光触媒では、有機物の酸化は、反応中間体生成までではなく、最終酸化生成物である二酸化炭素にまで分解するほど強い酸化力を持つ。その極めて強い酸化分解力を用いることで様々な機能を得ることができる。
例えば、汚れ防止効果や悪臭の防止、汚染した空気の清浄、殺菌、抗菌、セルフクリーニング効果など様々な用途に利用できる。
【0021】
さらに、本発明の光触媒は有機化合物と金属化合物のハイブリット材料なので、様々な材料と親和性が優れるように調製することができる。様々な材料表面にスパッタや塗布などにより本発明の光触媒をコーティングすることで、その面に上記に示した機能を付与することが可能になる。
【実施例
【0022】
以下に示す本発明の実施例においては、有機金属構造体光触媒は粉末状であるが、PLD(Pulsed Laser Deposition)やスパッタリング装置などにより、素材表面に蒸着することで薄膜での形成が可能であり、上記目的に供することができる。また、この粉末を溶媒に溶かしてゾルあるいは分散させてスラリーにすることによっても薄膜にすることができる。
【0023】
なお、ここに挙げた機能性や用途は本発明の効果などの一部を述べているのにすぎず、様々な用途に利用できる。本発明の実施形態である光触媒材料およびその製造方法は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、変更して用いることもできる。本実施形態の具体例を以下の実施例を用いて示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
鉄ポルフィリンを配位子としたジルコニウム(Zr)化合物を用いた有機金属構造体(Fe-PCN-224)を以下に示す方法を用いて合成した。
120mgのZrOCl・8HOを50mLのジメチルホルムアミド(DMF)中で撹拌後、そこに25mgのテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンと12.5mLの酢酸を加えた。その溶液を密閉容器内で338Kの温度で3日間熱処理することで粉末を得た(ソルボサーマル合成)。その粉末を洗浄後、塩化鉄で処理することで有機金属構造体(Fe-PCN-224)を合成した。
その構造の模式図を図1に示す。ここで、同図の(a)は全体の構造を、(b)はその中の架橋配位子の部分の構造を示す。Mは金属を表し、実施例1の場合Feである。その周りに配置された4つの大きい球は窒素、その周りの中くらいの球は炭素、小さい球は水素を表し、最外部の4カ所計8個の大きな球は酸素を表す。1つのZr化合物無機2次元構造単位に6つのポルフィリンが配位した構造をしている。作製した試料がこの構造になることは、XRD(X-ray Diffraction)によって確認した。
【0025】
この試料の光吸収特性を評価した。その結果を図2に示す。
この試料(Fe-PCN-224)は、波長400nm以上の可視光に対して強い吸収を示し、赤外線領域の波長800nm以上の光に対しても吸収を示した。このようにこの試料は可視光域全域の光を吸収する。
また、比表面積を比表面積・細孔分布測定装置(BelsorpII、日本ベル社製)を用いて77Kでの窒素吸着法で測定したところ、その値は約1690m・g-1であり、高い比表面積を示した。
【0026】
次に可視光照射下での光触媒活性の評価を行った。その結果を図3に示す。
ここでの光触媒活性は以下の方法により評価した。
500cmの反応容器に上記試料50mg(面積8.5cm)を入れ、密閉した後、2-プロパノールガスをその反応容器に入れた。その後、暗所で数時間保持して吸着脱離平衡状態になったことを確認後、可視光を照射した。その後、生成したガスをFID(Flame Ionization Detector)検出器、メタナイザー付きガスクロマトグラフィーを用いて定量した。なお、可視光照射には300Wのキセノンランプと紫外光カットフィルターを利用した。
【0027】
2-プロパノールを酸化分解すると、まず反応中間体としてアセトンが生成するので、そのアセトンの生成量について評価した。アセトンの生成量はほぼ光照射時間に比例して増加し、4時間光照射後には1000ppmを超える大量のアセトンが検出された。このことはこの光触媒材料が高活性であることを示している。また、反応は擬0次反応で進行し、その反応速度は280ppm・h‐1と見積もられた。同時に最終生成物である二酸化炭素の増加も検出され、表1に示すようにその反応速度は3.7ppm・h‐1であった。有意に二酸化炭素の増大も見られることから、この光触媒は強い酸化力を持つ光触媒である。
【0028】
【表1】
【0029】
次に光触媒の耐久性を評価した(図4)。
上記作製した試料(Fe-PCN-224)に対して光を4時間照射後、反応容器内を純空気(清浄度の高い乾燥空気)で置換して反応容器内のアセトン量を0ppmにした後、再度2-プロパノールを加え、4時間光照射するという一連の実験を繰り返すことで耐久性の評価を行った。
その結果、図4に示されるように、繰り返し実験を行ってもアセトンの生成速度に低下は見られず、実施例1で作製した光触媒は活性を維持した。したがって、この材料は高い耐久性を持っていることが確認された。
【0030】
(実施例2)
さらに、この試料の6価クロムの毒性低下実験によっても光触媒特性を評価した。6価クロムとしてはK2Cr207を用い、反応容器に試料5mgと60mLの6価クロム水溶液(6価クロム濃度:16ppm)を入れ、吸着平衡状態を確認後300Wキセノンライトと紫外光カットフィルターを用いて可視光を照射することで光触媒活性を評価した。なお、水溶液にはシュウ酸5mgを添加してpHを3にコントロールした。また、6価クロムは、DPC(Diphenylcarbazide)法を用いて発色させ、波長542nmにおける吸光度を紫外可視分光光度計で測定することで定量化した。
【0031】
吸着平衡後の6価クロムの量をC、光照射により光触媒反応処理を行っているときの量をCとして6価クロム量の吸着平衡後の初期値との比(C/C)を得られたデータでプロットすると、可視光照射により急激に6価クロムの量が減少していることがわかる(図5)。そして、わずか40分でほぼすべての6価クロムをより有害性の低い3価クロムに変換できた。
【0032】
(実施例3)
鉄ポルフィリンを配位子としたZr化合物を用いた有機金属構造体(Fe-PCN-222)を以下に示す方法を用いて合成した。
75mgのZrOCl・8HOを20mLのジメチルホルムアミド(DMF)中で撹拌後、そこに13mgのテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンと14mLの蟻酸を加えた。その溶液を密閉容器内で403Kの温度で熱処理することで粉末を得た。その粉末を洗浄後、塩化鉄で処理することで有機金属構造体(Fe-PCN-222)を合成した。
【0033】
次に、可視光照射下での光触媒活性の評価を行った。その結果を図6に示す。
活性評価は、実施例1の活性評価法と同様の方法で評価した。
その結果、アセトンの生成量は4時間光照射後約1000ppmとなり、この実施例3の材料も活性の高い材料であることがわかった。
【0034】
(比較例1)
鉄を含まないポルフィリンを配位子としたZr化合物を用いた有機金属構造体(Fe-PCN-224)を以下に示す方法を用いて合成した。
120mgのZrOCl・8HOを50mLのジメチルホルムアミド(DMF)中で撹拌後、そこに25mgのテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンと12.5mLの酢酸を加えた。その溶液を密閉容器内で338Kの温度で3日間熱処理することで粉末を得た。その粉末を洗浄することで、比較例1のPCN-224サンプルを得た。その比表面積は約2270m・g-1と高い表面積を示した。
【0035】
その試料の活性を実施例1の活性評価法と同様の方法で評価した。
その結果、アセトンの生成は確認できたが、4時間で生成したアセトンの量は150ppmにも満たず、そのアセトンの生成速度は32ppm・h‐1と実施例1、3と比べてはるかに低いものであった(図3)。二酸化炭素の生成速度も0.4ppm・h‐1と微量で、有意な二酸化炭素の生成は確認できなかった(表1)。すなわち、比較例1のサンプルの酸化力は弱いことがわかった。
【0036】
作製した材料の光吸収スペクトルを比較した図2からわかるように、比較例1の光吸収は、実施例1に比べ、特に波長400nm以上500nm以下、および600nm以上の光に対して約4割吸収が少ない。言い換えれば、鉄ポルフォリンを用いた実施例1の光触媒は、鉄を含まないポルフォリンを用いた比較例1より光吸収が約4割大きい。一方で、有機物の分解量は、表1に示されるように、実施例1が比較例1より桁違いに大きい。鉄ポルフォリンを用いることにより、光吸収を大幅に上回る光触媒効率が得られることが分かる。
【0037】
実施例1と比較例1の両試料のフォトルミネッセンス(光発光)を、蛍光分光装置(日本分光製)を用いて測定した。その結果を図7に示すが、発光のピークが比較例1の方が大きく、より比較例1の方が光照射で生じた電子とホールが再結合しやすいことがわかる。電子とホールが再結合しやすいと、光触媒反応に利用される電子、ホール量が減るため、光触媒活性が低くなりやすくなる。
【0038】
以上述べてきたように、金属ポルフォリン(鉄ポルフォリン)を用いることと、その金属ポルフォリンを架橋配位子として金属化合物クラスターに組みことの両者の相乗効果によって、このような高い光触媒効率と二酸化炭素にまで分解できる強い酸化力が得られた。
【0039】
(比較例2)
さらに、この試料の6価クロムの毒性低下実験によっても光触媒特性を評価した。その活性の評価方法は実施例2と同じ方法を用いた。可視光照射により6価クロムの量が減少するが、40分の光照射でわずか20~30%の6価クロムしか削減処理できなかった(図5)。実施例2の材料は同じ時間の光照射でほぼすべて処理できていることから、実施例2の試料(Fe-PCN-224)は優れた有害金属の毒性を低下させる能力のある材料であるといえる。
【0040】
(比較例3)
鉄を含まないポルフィリンを配位子としたZr化合物を用いた有機金属構造体(PCN-222)を以下に示す方法を用いて合成した。
75mgのZrOCl・8HOを20mLのジメチルホルムアミド(DMF)中で撹拌後、そこに13mgのテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリンと14mLの蟻酸を加えた。その溶液を密閉容器内で403Kの温度で熱処理することで粉末を得た。その粉末を洗浄し、乾燥させることで比較例3の試料を得た。
【0041】
その試料の活性を実施例1の活性評価法と同様の方法で評価した。
その結果、図6に示すように、アセトンの4時間後の生成量は200ppm程度であり、実施例1,3に比べて十分低く、活性は高くなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の光触媒は、可視光から赤外光に渡る幅広く、かつ室内、室外ともに溢れている光によって、高い効率で、しかも耐久力を持って有機物を二酸化炭素に至る炭素含有物質まで酸化分解するものである。そして、本発明の光触媒は、粉末状に限らず、各種素材面に薄膜として被着させることも可能である。したがって、本発明により、有害な有機物を、可視光を中心とした光で利便性よく害の少ない二酸化炭素などに効率的に分解できるので、民生および産業分野で大いに利用される可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7