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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】皮革用ブラシ
(51)【国際特許分類】
   A46B 5/00 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
A46B5/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017215845
(22)【出願日】2017-11-08
(65)【公開番号】P2019084155
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-07-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 展示日:平成29年9月6日~平成29年9月8日 展示会名:スットキスト 開催場所:東京都豊島区西池袋2-31-3 自由学園明日館本館講堂EXS.INC.ブース 公開者:米沢絨毯有限会社 出展内容:米沢絨毯有限会社は、平成29年スットキットの展示会にて、滝沢寛子が発明した「天然繊維を撚った毛材からなるブラシ部を備えた皮革用ブラシ」を公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】515192070
【氏名又は名称】米沢絨毯有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129159
【弁理士】
【氏名又は名称】黒沼 吉行
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 寛子
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-269306(JP,A)
【文献】特開平11-151119(JP,A)
【文献】特開2004-357993(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169055(WO,A1)
【文献】特開昭60-007807(JP,A)
【文献】特開平08-246281(JP,A)
【文献】特開2005-230732(JP,A)
【文献】実開昭52-038466(JP,U)
【文献】特開2006-116687(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0199793(US,A1)
【文献】中国実用新案第203369544(CN,U)
【文献】登録実用新案第3098034(JP,U)
【文献】登録実用新案第3112510(JP,U)
【文献】特開2006-296496(JP,A)
【文献】特開2008-110734(JP,A)
【文献】特開平10-015834(JP,A)
【文献】特開2001-105296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A46B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛材からなるブラシ部を備えた皮革用ブラシであって、
当該ブラシ部は、羊毛を撚った3番糸以上、5番糸以下の毛材によって形成されており、
当該毛材は、パイル糸として地経糸又は基布の3cm四方の領域内に500本以上設けられて、2mm以上で30mm以下の毛足に形成されている、皮革用ブラシ。
【請求項2】
前記ブラシ部を構成する毛材は、その先端部分において相互に接する密度で設けられている、請求項1に記載の皮革用ブラシ。
【請求項3】
前記ブラシ部において、パイル糸を設けた地経糸又は基布には柔軟性を有する材料からなるシート状部材を裏打ちしている、請求項1又は2に記載の皮革用ブラシ。
【請求項4】
前記ブラシ部の背面側には、使用者の掌を差し入れて装着するための帯状のストラップが設けられている、請求項3に記載の皮革用ブラシ。
【請求項5】
前記ブラシ部は、領域ごとに毛足の長さ、毛材の太さ、毛材の材質、及び毛材の密度の少なくとも何れかが異なっている、請求項1~4の何れか一項に記載の皮革用ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛材からなるブラシ部を備えた皮革用ブラシに関する。特に皮革製靴、皮革製袋物、皮革製ベルト、皮革製クッション、皮革製ソファー等の様々な皮革製品のメンテナンスに適した皮革用ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、皮革製靴、皮革製袋物、皮革製ベルト、皮革製クッション、皮革製ソファー等様々な革製品が存在しており、天然皮革及び合成皮革を問わずに革製品のメンテナンスも行われている。そしてこの革製品のメンテナンスには、革製品に付着したホコリや汚れを落とすためにブラシも使用されている。
【0003】
例えば特許文献1(特開2004-357993号公報)では、生産しやすく、しかも、指先部分を指先の動きに追従させて変形でき、靴の中敷きや内面、及び表面全域を洗え、安全性を向上する靴用ブラシとして、ミトンからなる手袋の親指の付け根部分よりも上側全域にブラシとなる毛を静電植毛加工によって植え付けた靴用ブラシが提案されている。
【0004】
また特許文献2(特開平11-151119号公報)では、皮靴に艶出し効果と、撥水効果とを付与させると共に、塵埃を効率良く除去できる使い捨て靴ブラシを提案している。この文献で提案している使い捨て靴ブラシは、生地の表面にパイルを植毛した生地であって、該生地の裏面には厚紙にて形成される保護紙が貼着されており、且つ、前記パイルは所定の長さと、太さに加工されると共に、シリコン液に浸漬させ、該シリコンを含浸して形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-357993号公報
【文献】特開平11-151119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記革製品のメンテナンスに使用されるブラシは、本来は革製品に付着したホコリや汚れを落とすために使用されるものであるが、従前においては、前記特許文献2で提案されているように、塵埃除去のみならず、皮靴に艶出し効果と撥水効果とを付与させることのできるブラシも提案されている。
【0007】
しかしながら、当該特許文献2で提案されているブラシは、レーヨン原糸にシリコン液を含浸させたパイルを用いるものであり、当該艶出し効果はシリコンに基づくものであったことから、革本来の自然な艶を出すのが困難であった。また長期に亘って使用した場合には、シリコン成分が抜け出てしまい、艶出し効果が得られないばかりか、むしろレーヨン原糸による損傷も危惧された。
【0008】
そこで本発明は、革本来の自然な艶を出すことができ、しかも長期的に使用しても艶出し効果が低減しにくい皮革用ブラシを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は天然繊維を用いたブラシを使用することにより前記課題を解決できることを見出し、本発明にかかる皮革用ブラシを完成させるに至ったものである。
【0010】
即ち本発明では、毛材からなるブラシ部を備えた皮革用ブラシであって、当該ブラシ部は、天然繊維を撚った毛材によって形成されており、当該毛材は、2mm以上の毛足に形成されている皮革用ブラシを提供する。かかる毛材は、メンテナンスの対象となる革製品にもよるが、その長さ(毛足)は、2mm以上であり、且つ30mm以下、特に20mmであることが望ましい。皮革製品をブラッシングし、また磨くための毛腰を確保するためである。
【0011】
特に、前記ブラシ部を構成する毛材は、その先端部分において相互に接する密度で設けられていることが望ましい。革製品をブラッシング乃至は磨くための毛腰を確保するためである。
【0012】
また、前記ブラシ部は、地経糸又は基布にパイル糸(毛材)を設けて形成することができる。当該パイル糸は、前記地経糸又は基布に結ぶか、巻き付けるか、あるいは植え付けて固定することができる。また、かかるブラシ部は、絨毯や緞通などの織物を利用して形成することができる。また、当該ブラシ部は毛材の基部を束ねて、いわゆる梵天形状又はブラシ形状に形成することができる。その際、基部を束ねる毛材は向きを揃えて形成されていることが望ましく、長さ方向に揃えた毛材の中間部分を縛り、当該縛った部位で2つ折りにして、当該折り畳み部近傍を縛ることで、毛材密度の高いブラシ部を形成することができる。
【0013】
そしてブラシ部を構成する毛材を、地経糸又は基布に設けたパイル糸によって形成する場合には、当該ブラシ部は、パイル糸として羊毛紡毛糸の3番糸以上、5番糸以下の糸を用いて、前記地経糸又は基布の3cm四方の領域内に500本以上設けるのが望ましい。例えば羊毛紡毛糸の3番糸をパイル糸に用いた場合には、3cm四方の領域内に600本以上設けるのが望ましく、また羊毛紡毛糸の5番糸をパイル糸に用いた場合には、3cm四方の領域内に800本以上設けるのが望ましい。
【0014】
そして上記本発明に係る皮革用ブラシにおいて、前記ブラシ部は、領域ごとに毛材の毛足の長さ、毛材の太さ、毛材の材質、及び毛材の密度の少なくとも何れかを異ならせて形成することができる。即ち何れかの領域に存在する毛材を、他の領域に存在する毛材よりも、毛足を短く(又は長く)形成したり、毛材の太さを太く(又は細く)形成したり、及び毛材の材質(羊毛紡糸と絹糸、あるいは紡毛糸と梳毛糸の違いなど)を異ならせたり、毛材の密度(単位面積当たりのパイル糸の数)を異ならせたりすることができる。かかる領域は、任意の場所であって良く、ブラシ部の中心、縁部、広さ方向の任意の広さの一部の領域であって良い。
【0015】
また、上記本発明に係る皮革用ブラシは、使用者が把持する把持部を伴って形成することができる。かかる把持部は布帛、不織布、編物、樹脂、木材、金属などの各種材料を用いて形成することができ、当該把持部の何れかの面に前記ブラシ部を設けることができる。かかる把持部には、柄、取っ手、ストラップなどを設けることもできる。
【0016】
また前記ブラシ部において毛材が存在する面の反対側の面には、シート状部材を裏打ちすることができる。かかるシート状部材は、布帛、不織布、編物で形成する他、樹脂シート、皮革シートなどであって良い。この場合、当該ブラシ部と裏打ちしたシート状部材からなる皮革用ブラシは、シート状部材を掌に保持するためのストラップを設けることもできる。かかるストラップとシート状部材の間に使用者の手を差し入れることで、当該皮革用ブラシを保持し、皮革製品をブラッシングすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の皮革用ブラシは、ブラシ部が天然繊維を撚った毛材によって形成されていることから、天然繊維由来の成分や表面構造によって皮革製品本来の自然な艶を復活させることができる。しかも当該ブラシ部は、天然繊維由来の毛材の特性に基づいて皮革製品の艶出し効果を発現することから、長期に亘って使用しても艶出し効果が低減しにくい皮革用ブラシが実現する。
【0018】
よって本発明に係る皮革用ブラシによれば、前記課題を解決し、革本来の自然な艶を出すことができ、しかも長期的に使用しても艶出し効果が低減しにくい皮革用ブラシを提供することができる。
【0019】
更に、ブラシ部を形成する毛材は、2mm以上の毛足に形成されていることから、皮革製品におけるデザインや縫製に基づく凹凸や、使用によって生じたシワの凹凸にも毛材が入り込むことができ、細部に入り込んだ塵埃も毛材が掻き出して綺麗にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1の実施の形態に係る皮革用ブラシを示す(A)底面斜視図、(B)上面斜視図、(C)C方向矢視図、(D)D方向矢視図(側面図)である。
図2】第2の実施の形態に係る皮革用ブラシを示す(A)上面斜視図、(C)C方向矢視図である。
図3】第2の実施の形態に係る皮革用ブラシのサンプルを映した写真であり、(A)(B)は斜視方向から撮影した写真、(C)使用状態を示す写真である。
図4】他の実施の形態に係る皮革用ブラシを示す側面図である。
図5】更に他の実施の形態に係る皮革用ブラシの製造工程図である。
図6】実施例1(ウール紡毛糸の緞通)の結果を示す写真
図7】実施例2(シルクの緞通)の結果を示す写真
図8】実施例3(綿のタオル地)の結果を示す写真
図9】比較例1(アクリルのカットカーペット)の結果を示す写真
図10】実施例4(ウール紡毛糸の緞通)の結果を示す写真
図11】実施例5(ウールループ紡毛糸の緞通)の結果を示す写真
図12】実施例6(シルクの緞通)の結果を示す写真
図13】実施例7(綿のタオル地)の結果を示す写真
図14】比較例2(アクリルのカットカーペット)の結果を示す写真
図15】比較例3(アクリルのループカーペット)の結果を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本実施の形態にかかる皮革用ブラシ10を具体的に説明する。特に第1の実施の形態にかかる皮革用ブラシ10は、作業者の手に装着して使用する皮革用ブラシ10、第2の実施の形態にかかる皮革用ブラシ10は、作業者が手に持って使用する皮革用ブラシ10を説明しているが、これ等に限定することなく、本発明の技術的思想の範囲内において、適宜変更することができる。
【0022】
図1は第1の実施の形態に係る皮革用ブラシ10を示す(A)底面斜視図、(B)上面斜視図、(C)C方向矢視図、(D)D方向矢視図(側面図)である。この第1の実施の形態に係る皮革用ブラシ10は、作業者の手に装着して使用する皮革用ブラシ10となっており、ブラシ部15と、このブラシ部15の上面(ブラシ部15において毛材11が存在する面の反対側の面)に裏打ちしたシート状部材12と、この上面に帯状に突出するストラップ13部で形成している。
【0023】
本実施の形態において、ブラシ部15は複数の毛材11を備えて形成しており、当該毛材11は天然繊維によって形成している。またこの毛材11は毛足の長さを5mm以上、20mm以下の長さに形成している。特に本実施の形態では、当該ブラシ部15を、絨毯(望ましくは緞通)を用いて形成している。また、本実施の形態では、羊毛紡毛の3番糸を毛材11として用い、3cm四方の領域内に630本存在させた絨毯(望ましくは緞通)を用いてブラシ部15を形成している。このように形成したブラシ部15では皮革製品をブラッシングする際でも十分な毛腰を有し、同時に磨きの効果も得ることができる。
【0024】
かかる絨毯(望ましくは緞通)を用いてブラシ部15を構成することにより、革製品をブラッシングした時に、革本来の艶を出すことができる。特に本実施の形態に係る皮革用ブラシ10は、ブラシ部15を天然繊維からなる毛材11で形成していることから、その特性に基づいて長期的に効果を発現することができる。
【0025】
この天然繊維は、綿、麻、絹、羊毛のように天然に繊維として存在しているものから形成したものであり、綿や麻などの植物を由来する植物性繊維、及び羊毛や絹などの動物に由来する動物性繊維を含む。ただし、皮革製品における自然な艶を実現するためには、獣毛、特に羊毛が望ましい。羊毛で形成した毛材11によってブラシ部15を形成することにより、当該毛材11の柔らかさや繊維構造(キューティクル構造を含む)等と相まって、皮革製品をブラッシング又は磨いたときの艶を、エナメル調のような過度の艶(光沢)とすることなく、自然な風合いの艶を実現することができる。また、羊毛からなる毛材11にあっては、埃などの吸い取り能力(吸着能力)が高く、また倒れた後の復元力がシルクからなる毛材11よりも高いことから望ましい。また羊毛からなる毛材11を用いた場合には、革用クリームなどの油分を吸収しやすく、革製品を磨く際に満遍なく、長きにわたって靴用クリームなどを塗り広げることができる。更に、ブラッシングにより汚れや埃が付着したブラシ部15は、叩くか或いは清澄な部材でなでることにより、毛材11に付着した汚れや埃を除去することができ、再びブラッシング効果を復元させることができる。
【0026】
そして前記ブラシ部15を形成する毛材11は紡毛糸でも梳毛糸でも良いが、望ましくは紡毛糸を用いて形成する。紡毛糸は梳毛糸に比べて毛腰が強く、皮革製品をブラッシングするのに望ましいためである。よって、当該毛材11は、羊毛糸からなる紡毛糸が望ましい。
【0027】
そして本実施の形態に係るブラシ部15は、天然繊維からなる毛材11を使用して形成していることから、ブラッシングによって皮革製品に付着した埃や汚れなどの塵埃を除去すると共に、磨きによって艶を出現させることができる。即ち、本実施の形態に係る皮革用ブラシ10によれば、皮革製品の塵埃を取るブラッシングと光沢を出す磨きを同時に行うことができる。
【0028】
よって本実施の形態にかかる皮革用ブラシ10は、天然繊維からなる毛材11で形成した絨毯(望ましくは緞通)を用いて形成するのが望ましく、特に羊毛や絹などの動物に由来する動物性繊維を用いて形成した皮革用ブラシ10とするのが望ましい。
【0029】
なお、本実施の形態に係る皮革製品は、革靴等の革製履物、革ベルトなどの革製ベルト類、革鞄等の革製袋物、革製ソファーやクッションなどのように皮革を用いた革製家具、及びレザーシートや革製ダッシュボードなどの革製自動車用品・部品を対象とすることができる。これら革製品を本実施の形態に係る皮革用ブラシ10でブラッシング・磨き処理を行うことにより、塵埃を除去すると共に、革本来の自然な艶を出すことができる。また、当該革製品は天然皮革であることが望ましいが、合成皮革であっても良い。合成皮革製の製品に使用しても、天然皮革と同じような「しっとり」した艶を醸し出すことができ、また付着した塵埃を除去することができる。また、本実施の形態に係る皮革用ブラシ10は、皮革製品以外の材料、例えば木材、金属あるいは樹脂を磨くために使用することもできる。
【0030】
そしてブラシ部15はパイルを設けた地経糸又は基布が露出していても良いが、本実施の形態に係る皮革用ブラシ10では、前記ブラシ部15にシート状部材12を裏打ちしている。かかるシート状部材12は柔軟性を有する材料を用いることができ、布帛、不織布、編物、樹脂シート、皮革シートなどを用いて形成することができる。当該シート状部材12で裏打ちすることにより、地経糸や基布にパイル糸を連結した絨毯などにおいても、その平面方向における柔軟性を損なうことなく、地経糸や基布の露出を避けることができる。即ち柔軟なシート状部材12で裏打ちして形成した皮革用ブラシ10によれば、処理対象物の革製品の凹凸に合わせて柔軟に変形することができる。この為、靴や鞄、あるいはソファーなどのように凹凸のある製品において、その形に追従することができ、全体を均等な力で磨くことが可能になる。
【0031】
そして上記のようにシート状部材12で裏打ちした皮革用ブラシ10には、更に当該シート状部材12を掌に沿わせて取り付けるための帯状のストラップ13を設けている。このストラップ13は布や革あるいは樹脂などによって形成することができ、望ましくは伸縮性を有するゴムや革などによって形成することができる。かかるストラップ13を設けた皮革用ブラシ10においては、ストラップ13と裏打ちしたシート状部材12の間に、使用者の掌を差し入れて装着して使用することができる。
【0032】
図2は上記第1の実施の形態に係る皮革用ブラシ10に関連し、シート状部材12の裏打ちを省略し、裏面の縁部分にカガリ部14を設けている。また背面側には、前記ストラップ13部を設けていることから、使用時には、図2(C)に示すように、当該ストラップ13部に手を通して使用することができる。
【0033】
次に図3を参照しながら、第2の実施の形態に係る皮革用ブラシ20を説明する。この第2の実施の形態に係る皮革用ブラシ20は、作業者が手に持って使用する皮革用ブラシ20となっている。
【0034】
即ち、この実施の形態に係る皮革用ブラシ20は、前記第1の実施の形態に示した皮革用ブラシ10において裏打ちしたシート状部材12に変え、または当該シート状部材12と共に、作業者が把持するための把持部22を伴って形成している。
【0035】
この把持部22は布帛、不織布、編物、樹脂、木材、金属などの各種材料を用いて形成することができ、望ましくは一定の硬さを有する樹脂、木材、金属などを用いて形成するのが望ましい。一定の硬さを有することにより、毛材11全体に均等な力を作用させることができる。そして当該把持部22は、任意の形状であって良いが使用者が把持しやすい大きさに形成するのが望ましい。当該把持部22は板状に形成する他、棒状、あるいは取って形状に形成することもできる。
【0036】
かかる把持部22は皮革製品のメンテナンス作業に際して、皮革製品に接することが考えられることから、当該革製品に傷をつけることの無いように、角部を丸めた形状に形成するのが望ましい。また当該把持部22が処理対象の皮革製品に接するのを極力避けるために、平面視においてブラシ部15の内側に存在する大きさ(ブラシ部15に収まる大きさ)に形成するのが望ましい。本実施の形態では、ブラシ部15は、その先端側が把持部の周縁を超えて膨らみ出ていることから、当該皮革製品のメンテナンス作業時における把持部22の接触を極力避けることができる。
【0037】
また、この実施の形態に係る皮革用ブラシ10において、把持部22はブラシ部15の全体に力が作用するように、ブラシ部15の裏側の殆どの領域を覆う広さに形成している。把持部をこのような大きさに形成することにより、革製品のブラッシングや磨き処理において、ブラシ部先端に均等に力が作用し、磨きむらが発生するのを阻止することができる。
【0038】
そして本実施の形態に係る皮革用ブラシ10では、前記把持部22を設けた上で、当該把持部を掌に保持できるようにするために、更に前記ストラップ13を設けている。これにより、ブラッシングを行う場所や領域、あるいは革製品の大きさに合わせて、把持または固定することができ、作業効率を高めることができる。ただし把持部22を設ける場合には、このストラップ13を省略することもできる。
【0039】
そして図4は上記実施の形態にかかる皮革用ブラシ10等で実施することのできる他の実施の形態に係る皮革用ブラシ30を示す側面図である。
【0040】
即ち、この実施の形態に係る皮革用ブラシ30は、ブラシ部15の少なくとも一部の領域の毛材11の長さを、他の領域の毛材11の長さと異ならせている。本実施の形態では、図4(A)に示すように、矩形に形成したブラシ部15の長さ方向の一部の領域31の毛材11の長さを短く(又は長く)形成したり、図4(B)に示すように、中央部分の領域32の毛材11の長さを短く形成したり、あるいは図4(C)に示すように、一定の領域33ごとに短い毛足の毛材11とし、毛足の短い毛材11と毛足の長い毛材11とを交互に配置したりすることができる。
【0041】
このように毛材11の長さを領域ごとに変えることにより、毛材11の長さに応じた毛腰が実現し、2つ以上の強さでブラッシング及び磨きを行うことのできる皮革用ブラシ30とすることができる。ただし、当該毛材11の毛足の長さの調整は、より狭い領域ごとに変えることもでき、更に他のパターンで毛材11の長さを変えることもできる。また毛足を短くして溝状に凹んだ部分を設けることもできる。
【0042】
また、この図4の実施形態に関連し、前記領域ごとに毛材11の太さ、材質又は密度などを変えることもできる。例えば、この図4において短い毛足の毛材11で形成している領域を植物性繊維(又はシルク繊維)からなる毛材11で形成し、長い毛足の毛材11で形成している領域を、当該短い毛足の毛材11とは異なる材料からなる毛材11で形成することもできる。このように毛材11の材質、太さ又は密度を変える場合には、毛材11の長さを異ならせる他、同じにすることもできる。
【0043】
特に、図4(A)に示すように、領域31ごとに毛材11の材質、長さ及び太さの少なくとも何れかを変えることにより、処理対象となる皮革製品の形状や材質などに応じて、使用するブラシ部15材の領域を変えることができ、使用勝手の良い皮革用ブラシ30が実現する。
【0044】
なお、前記の様に毛材11の長さ、材質および太さの少なくとも何れかを異ならせる場合には、何れかの領域で異ならせる他、ブラシ部15を構成する毛材11は、毛材11の長さ、材質および太さの少なくとも何れかが異なるものを混在させて形成することもでき、更に領域ごとに混在の割合を異ならせることもできる。
【0045】
図5は他の実施の形態に係る皮革用ブラシ40の製造工程図である。この実施の形態に係る皮革用ブラシ40は、毛材11の基部を束ねてブラシ部15を形成している。即ち、自由端部である毛先の基端側(根元側)を紐やリング部材等の結束部材43,44で束ねて形成した皮革用ブラシ40の実施形態を示している。
【0046】
この実施の形態に係る皮革用ブラシ40の製造に際しては、図5(A)に示すように、最初にブラシ部15を構成する毛材11の向きを揃えて配置する。この毛材11は上記実施の形態と同じように天然繊維を撚った毛材11を用いることができ、特に羊毛を撚った毛材11を用いるのが望ましい。また向きを揃える毛材11は、同じ材質や太さである他、材質や太さが異なる毛材11を組み合わせることもできる。そしてこのように向きを揃えた毛材11は、毛の長さがそろっていることが望ましいが、後で毛先を揃える場合には、毛材11の長さが異なっていても良い。
【0047】
そして上記の様に毛材11の向きを揃えたものは、その中央付近を紐やリング部材等からなる第1結束部材43で束ねて(図5(B))、当該束ねた部分を中心に2つ折りに折り曲げている(図5(C))。このように中央付近で縛って折り曲げることにより、毛材11の本数を多くすることができる。
【0048】
上記の様に折り曲げた毛材11の束は、図5(C)に示すように、折り曲げた近傍を更に第2結束部材44で縛ることで本実施の形態に係る皮革用ブラシ40としている。このように形成した皮革用ブラシ40では、毛材密度も高く且つ毛材11の抜けを阻止した皮革用ブラシ40として提供することができる。この実施の形態に係る皮革用ブラシ40では、束ねる毛材11の本数によって、ブラシ部15の大きさを任意に調整することができる。ただし実用性や製造コストの観点において、当該ブラシ部15は折り曲げて縛った部分の太さが直径1cm以上、望ましくは2cm以上に形成する。また折り曲げた後の毛材11の束は、1か所のみならず、2か所以上で束ねることもできる。
【0049】
また、向きを揃える毛材11の長さを調整することにより、ブラシ部15における毛足の長さを調整することもできる。即ち、毛足の長いブラシを形成する場合には、長い毛材11を束ねて形成することができる。
【0050】
更に本実施の形態では、毛材11の向きを揃えた後に、長さ方向の中央部分を束ねたが、何れかの端部側に偏った位置で束ねることもできる。このように形成したブラシ部15は、基端部側において毛材11の密度が高く、毛先側が毛材密度の低いブラシ部15とすることができ、同時に毛足の長さを長くすることもできる。
【0051】
なお、本実施の形態では、折り曲げた部位を把持してブラッシングを行うことができるが、その他にも当該折り曲げた部位には、別途把持部を設けることもできる。
【実施例1】
【0052】
以下では、ブラシ部の毛材として天然繊維の毛材を使用する効果を確認するための実験を行った。即ち、ウール(羊毛)の紡毛糸からなる緞通を用いて形成した皮革用ブラシ、ウールループの紡毛糸からなる緞通を用いて形成した皮革用ブラシ、シルクの緞通を用いて形成した皮革用ブラシ、綿のタオル地を用いて形成した皮革用ブラシ、及びアクリルのカットカーペットを用いて形成した皮革用ブラシ、を用いて、実際に皮革製品をメンテナンスした。その結果を図6~15に示す。
【0053】
〔実施例1〕
この実施例1では、ウール(羊毛)の紡毛糸からなる緞通を用いて形成した皮革用ブラシを用いて革製品をメンテナンスした。この結果は図6に示しており、図6(A)はメンテナンス対象となる皮革製品を示しており、図6(B)は、本実施例の皮革用ブラシで皮革製品を拭き上げた状態を示している。この実施例においては、当初の皮革製品の汚れやほこりを除去した上で、革本来の自然な艶を再現することができた。また使用後の毛材は倒れることなく復元していた。
【0054】
〔実施例2〕
この実施例2では、シルクの緞通を用いて形成した皮革用ブラシを用いて革製品をメンテナンスした。この結果は図7に示しており、図7(A)はメンテナンス対象となる皮革製品を示しており、図7(B)は、本実施例の皮革用ブラシで皮革製品を拭き上げた状態を示している。この実施例においても、当初の皮革製品の汚れやほこりを除去した上で、革本来の自然な艶を再現することができた。ただし汚れや埃の除去効果は実施例1よりも低く、使用に際して毛材が倒れている部分も存在した。
【0055】
〔実施例3〕
この実施例3では、綿のタオル地を用いて形成した皮革用ブラシを用いて革製品をメンテナンスした。この結果は図8に示しており、図8(A)はメンテナンス対象となる皮革製品を示しており、図8(B)は、本実施例の皮革用ブラシで皮革製品を拭き上げた状態を示している。この実施例においても、当初の皮革製品の汚れやほこりを除去することができたが、その効果は実施例2よりも低かった。また艶に関しても革本来の自然な艶を再現することができたが、実施例1や2ほどの艶は得られず、ややくすんでいた。
【0056】
〔比較例1〕
この比較例1では、アクリルのカットカーペットを用いて皮革製品をメンテナンスした。この結果は図9に示しており、図9(A)はメンテナンス対象となる皮革製品を示しており、図9(B)は、アクリルのカットカーペットで皮革製品を拭き上げた状態を示している。この比較例において、拭き上げ処理に際しては痛む音がしていた。また当初の皮革製品の汚れやほこりは、僅かながら除去できたものの、未だ取り切れていない状態であり、更に革本来の艶を再現するのが困難であった。
【0057】
〔実施例4〕
この実施例4では、ウールの紡毛糸からなる緞通を用いて形成した皮革用ブラシを用い、革製品用クリームを使用して革製品をメンテナンスした。この結果は図10に示しており、図10(A)はメンテナンス対象となる皮革製品を示しており、図10(B)は、本実施例の皮革用ブラシで埃取りを行った状態を示しており、図10(C)は革製品用クリームを塗って磨いた状態を示しており、図10(D)は更に拭き上げた状態を示している。この実施例においても、当初の皮革製品の汚れやほこりを除去した上で、全体に革製品用クリームを塗布し、革本来の自然な艶を再現することができた。
【0058】
〔実施例5〕
この実施例5では、ウールループの紡毛糸からなる緞通を用いて形成した皮革用ブラシを用い、革製品用クリームを使用して革製品をメンテナンスした。この結果は図11に示しており、図11(A)はメンテナンス対象となる皮革製品を示しており、図11(B)は、本実施例の皮革用ブラシで埃取りを行った状態を示しており、図11(C)は革製品用クリームを塗って磨いた状態を示しており、図11(D)は更に拭き上げた状態を示している。この実施例においても、当初の皮革製品の汚れやほこりを除去した上で、全体に革製品用クリームを塗布し、革本来の自然な艶を再現することができた。
【0059】
〔実施例6〕
この実施例6では、シルクの緞通を用いて形成した皮革用ブラシを用い、革製品用クリームを使用して革製品をメンテナンスした。この結果は図12に示しており、図12(A)はメンテナンス対象となる皮革製品を示しており、図12(B)は、本実施例の皮革用ブラシで埃取りを行った状態を示しており、図12(C)は革製品用クリームを塗って磨いた状態を示しており、図12(D)は更に拭き上げた状態を示している。この実施例においても、当初の皮革製品の汚れやほこりを除去した上で、全体に革製品用クリームを塗布して革本来の自然な艶を再現することができた。ただし、革製品クリームによって毛材の倒れが発生し、また革製品クリームの持ちが実施例4や5よりも短かった。
【0060】
〔実施例7〕
この実施例7では、綿のタオル地を用いて形成した皮革用ブラシを用い、革製品用クリームを使用して革製品をメンテナンスした。この結果は図13に示しており、図13(A)はメンテナンス対象となる皮革製品を示しており、図13(B)は、本実施例の皮革用ブラシで埃取りを行った状態を示しており、図13(C)は革製品用クリームを塗って磨いた状態を示しており、図13(D)は更に拭き上げた状態を示している。この実施例においても、当初の皮革製品の汚れやほこりを除去した上で、全体に革製品用クリームを塗布して革本来の自然な艶を再現することができた。革製品用クリームにより、艶の度合いは適度であった。
【0061】
〔比較例2〕
この比較例2では、アクリルのカットカーペットを用い、革製品用クリームを使用して皮革製品をメンテナンスした。この結果は図14に示しており、図14(A)はメンテナンス対象となる皮革製品を示しており、図14(B)は、アクリルのカットカーペットで埃取りを行った状態を示しており、図14(C)は革製品用クリームを塗ってアクリルのカットカーペットで磨いた状態を示しており、図14(D)は更にアクリルのカットカーペットで拭き上げた状態を示している。この比較例において、拭き上げ処理に際しては痛む音がしていた。また、当初の皮革製品の汚れやほこりは除去できたものの、革表面におけるクリームの延びに斑があった。
【0062】
〔比較例3〕
この比較例3では、アクリルのループカーペットを用い、革製品用クリームを使用して皮革製品をメンテナンスした。この結果は図15に示しており、図15(A)はメンテナンス対象となる皮革製品を示しており、図15(B)は、アクリルのループカーペットで埃取りを行った状態を示しており、図15(C)は革製品用クリームを塗ってアクリルのループカーペットで磨いた状態を示しており、図15(D)は更にアクリルのループカーペットで拭き上げた状態を示している。この比較例において、拭き上げ処理に際しては痛む音がしていた。また、当初の皮革製品の汚れやほこりは除去できたものの、革表面におけるクリームの延びに斑があった。
【0063】
《考察》
以上の実験結果から、毛材が天然繊維、特に動物由来の動物性繊維からなる皮革用ブラシで埃取りや磨きのメンテナンスを行うことにより、革本来の自然な艶に仕上げることができた。一方、アクリルからなる毛材で皮革製品をメンテナンスした際には、拭き上げ処理に際しては痛む音がしており、革製品の痛みが危惧された。また埃取りの効果が十分とは言えなかった。
【0064】
更にウールの紡毛からなる毛材を使用した場合には、毛腰も強く、革製品に付着している埃や汚れの除去効果は高く、また磨きあがりにおいて自然な光沢が得られた。更に当該ウールの紡毛からなる毛材を用いた皮革用ブラシでは、革製品用クリームの持ちも良く、作業効率が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る皮革用ブラシは、皮革製靴、皮革製袋物、皮革製ベルト、皮革製クッション、皮革製ソファー等の様々な皮革製品のメンテナンスにおいて好適に使用することができる。更に当該皮革用ブラシは革製品に限らず、木材、陶器又は樹脂などの他の材料からなる他の製品(例えば室内装飾品や電化製品、車両、あるいは食器等)の汚れや埃を取るため及び/又は磨くために使用することもできる。
【符号の説明】
【0066】
10,20,30,40 皮革用ブラシ
11 毛材
12 シート状部材
13 ストラップ
14 カガリ部
15 ブラシ部
22 把持部
31 領域
32 領域
33 領域
43,44 結束部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15