IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナカシマプロペラ株式会社の特許一覧 ▶ 流体テクノ有限会社の特許一覧

<>
  • 特許-ステータフィン 図1
  • 特許-ステータフィン 図2
  • 特許-ステータフィン 図3
  • 特許-ステータフィン 図4
  • 特許-ステータフィン 図5
  • 特許-ステータフィン 図6
  • 特許-ステータフィン 図7
  • 特許-ステータフィン 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ステータフィン
(51)【国際特許分類】
   B63H 5/16 20060101AFI20220106BHJP
   B63H 1/28 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B63H5/16 D
B63H1/28 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018020705
(22)【出願日】2018-02-08
(65)【公開番号】P2019137149
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000110435
【氏名又は名称】ナカシマプロペラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502298192
【氏名又は名称】流体テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100110320
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 知子
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】岡田 善久
(72)【発明者】
【氏名】天藤 康博
(72)【発明者】
【氏名】杢尾 憲治
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-306839(JP,A)
【文献】実開昭63-199897(JP,U)
【文献】特開2016-190591(JP,A)
【文献】特開2016-215904(JP,A)
【文献】特開昭62-026197(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0054046(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 5/16
B63H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラの回転方向と逆向きの旋回流を発生させるステータフィンであって、
船尾周りの流れを下向きに整流する第1のフィンと、
前記船尾周りの流れを上向きに整流する第2のフィンとを備え、
前記第1のフィンと前記第2のフィンは、前記プロペラを回転可能に支持するボッシングの外面から放射状に延びて、前記ボッシングの上方又は側方に位置して下方には位置せず、
前記第1のフィン及び前記第2のフィンの基端側と先端側でキャンバーの向きが逆向きであり、
前記第1のフィンの基端側及び前記第2のフィンの基端側が下向きのキャンバーを有し、前記第1のフィンの先端側及び前記第2のフィンの先端側が上向きのキャンバーを有することを特徴とするステータフィン。
【請求項2】
前記第1のフィン及び前記第2のフィンの基端側から先端側に向かってキャンバーの向きが逆向きなるように連続的に変化することを特徴とする請求項に記載のステータフィン。
【請求項3】
前記第1のフィン及び前記第2のフィンがFRP(Fiber Reinforced Plastics)で形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のステータフィン。
【請求項4】
前記第1のフィン及び前記第2のフィンの先端からフィン全長の20%から30%の範囲と基端からフィン全長の30%から40%の範囲でキャンバーの向きが逆向きになることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載のステータフィン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラの前方に取り付けられたステータフィンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータフィンとして、プロペラの回転方向と逆向きの旋回流を生じさせて推進性能を向上させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のステータフィンは、船尾のボッシングから放射状に複数のフィンを突出させており、各フィンによって船尾からプロペラに向かう流れがプロペラの回転方向と逆の向きに整流されている。プロペラの上動側ではフィンによって下降流が作られ、プロペラの下動側ではフィンによって上昇流が作られており、プロペラ回転時のエネルギー損失を減らすようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5137258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、船尾周りの流れの向きは船体形状によって場所毎に異なるため、ステータフィンの各フィンに入り込む流れの向きが一定ではない。特許文献1に記載のステータフィンでは、各フィンの先端側と基端側で流れの向きが異なるため十分に推進効率を向上させることができなかった。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、整流効果とスラスト生成を同時に実現して推進効率を十分に向上させることができるステータフィンを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のステータフィンは、プロペラの回転方向と逆向きの旋回流を発生させるステータフィンであって、船尾周りの流れを下向きに整流する第1のフィンと、前記船尾周りの流れを上向きに整流する第2のフィンとを備え、前記第1のフィンと前記第2のフィンは、前記プロペラを回転可能に支持するボッシングの外面から放射状に延びて、前記ボッシングの上方又は側方に位置して下方には位置せず、前記第1のフィン及び前記第2のフィンの基端側と先端側でキャンバーの向きが逆向きである。
【0007】
この構成によれば、第1、第2のフィンで船尾周りの流れを整流してプロペラと逆向きの旋回流を発生させることで、プロペラ回転時のエネルギー損失が低減されている。また、第1、第2のフィンの基端側と先端側でキャンバーの向きが逆になることで、船尾周りの流れが第1、第2のフィンに沿った場所でも、第1、第2のフィンの上下面の圧力差によって生じる力の水平成分からスラストを生成して推進効率を向上させることができる。
【0008】
本発明の一態様のステータフィンではさらに、前記第1のフィンの基端側及び前記第2のフィンの基端側が下向きのキャンバーを有し、前記第1のフィンの先端側及び前記第2のフィンの先端側が上向きのキャンバーを有する。この構成によれば、船尾周りの流れが第1、第2のフィンの基端側で下向きになり、第1、第2のフィンの先端側で上向きになる際に整流効果とスラスト生成を同時に実現することができる。
【0009】
本発明の一態様のステータフィンにおいて、前記第1のフィン及び前記第2のフィンの基端側から先端側に向かってキャンバーの向きが逆向きなるように連続的に変化する。この構成によれば、第1、第2のフィンの基端側から先端側の船尾周りの流れの変化に合わせてキャンバーの向きを緩やかに変化させることができる。
【0010】
本発明の一態様のステータフィンにおいて、前記第1のフィン及び前記第2のフィンがFRP(Fiber Reinforced Plastics)で形成される。この構成によれば、金属成形が困難な形状でも容易に成形できると共に、各フィンを長くしてスラストを広い範囲で生じさせて推進効率を向上させることができる。
【0011】
本発明の一態様のステータフィンにおいて、前記第1のフィン及び前記第2のフィンの先端側はフィン全長の20%から30%であり、前記第1のフィン及び前記第2のフィンの基端側はフィン全長の30%から40%である。この構成によれば、整流効果とスラスト生成をバランスよく実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1、第2のフィンの基端側と先端側でキャンバーの向きを逆にし、第1のフィン及び第2のフィンの基端側を下向きのキャンバーにし、先端側を上向きのキャンバーにしたことで、整流効果とスラスト生成を同時に実現して推進効率を十分に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態の船尾付近の斜視図である。
図2】本実施の形態のステータフィンの正面図である。
図3】本実施の形態の船尾周りの流れを示す図である。
図4】比較例のステータフィンの整流効果の説明図である。
図5】本実施の形態のステータフィンの整流効果の説明図である。
図6】本実施の形態の他のステータフィンの整流効果の説明図である。
図7】本実施の形態の左舷側及び右舷側のフィンの斜視図である。
図8】本実施の形態のキャンバーの形成範囲を示すフィンの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態のステータフィンについて説明する。図1は、本実施の形態の船尾周辺の斜視図である。図2は、本実施の形態のステータフィンの正面図である。図3は、本実施の形態の船尾周りの流れを示す図である。図4は、比較例のステータフィンの整流効果の説明図である。なお、以下の説明では、ステータフィンの一例を示しており、この構成に限定されるものではない。また、以下の説明ではプロペラが時計回りに回転しているもとして説明する。
【0015】
図1に示すように、船体の船尾10では船底が切り上がっており、この切り上がった船尾10のボッシング11にプロペラ12が回転可能に支持されている。ボッシング11の外面には、船体表面に沿った流れをプロペラ12に導くステータフィン20が取り付けられている。ステータフィン20によってプロペラ12の回転方向と逆向きの旋回流を発生させることで、プロペラ12の後方に捨てられていた回転エネルギーを回収して推進力が向上されている。また、プロペラ12の後方には、水流を捉える舵板13が船体に対して鉛直軸回りに旋回可能に取り付けられている。
【0016】
図2に示すように、ステータフィン20は、ボッシング11から放射状に延びる複数のフィン21A-21Eから成り、各フィン21A-21Eのそれぞれがプロペラ12の回転方向と逆向きの流れになるように整流している。例えば、プロペラ12が上方に旋回する左舷側のフィン21A、21Bは前方から後方に向かって下向きに傾斜しており、フィン21A、21Bによって船尾周りの流れが下向きに整流されている。プロペラ12が下方に旋回する右舷側のフィン21D、21Eは前方から後方に向かって上向きに傾斜しており、フィン21D、21Eによって船尾周りの流れが上向きに整流されている。
【0017】
しかしながら、図3に示すように、船尾10では船底が切り上がっているため、船尾10付近には複雑な流れが生じている。船尾周りの流れの向きが場所毎に異なり、ステータフィン20の各フィン21A-21Eに入り込む流れの向きが一定ではない。より詳細には、左舷側には時計回りに流れが生じており、フィン21Aの先端側では流れが上向きになり、フィン21Aの基端側では流れが下向きになっている。また、右舷側には反時計回りに流れが生じており、フィン21Eの先端側では流れが上向きになり、フィン21Eの基端側では流れが下向きになっている。
【0018】
ところで、図4の比較例に示すように、一般的なステータフィン30は、それぞれ基端から先端に向かって同様な断面形状を有している。このため、各フィン31A-31Eの基端側と先端側で船尾周りの流れの向きが異なると、推進効率を十分に向上させることができない。例えば、左舷のフィン31Aは前方から後方に向かって下向きに傾斜しており、基端から先端に亘って全体的に上向きのキャンバーを有している。また、右舷のフィン31Eは前方から後方に向かって上向きに傾斜しており、基端から先端に亘って全体的に下向きのキャンバーを有している。
【0019】
左舷のフィン31Aの先端側(A-A断面参照)では船尾周りの上向きの流れを下向きに整流して整流効果が得られるが、フィン31Aの基端側(B-B断面参照)ではフィンの傾きに沿って流入するので整流効果は得られない。同様に、右舷のフィン31Eの基端側(C-C断面参照)では船尾周りの下向きの流れを上向きに整流して整流効果が得られるが、フィン31Eの先端側(D-D断面参照)ではフィンの傾きに沿って流入するので整流効果が得られない。整流効果が得られないフィン31Aの基端側、フィン31Eの先端側では、フィン上下面の圧力差によって力FA、FEを受けるが、力FA、FEの水平成分が抵抗RA、REとなって推進効率を低下させる。
【0020】
そこで、本件出願人は、整流効果を得るためのキャンバーの向きが、フィンの傾きに沿った流れでは抵抗となる点に着目して、各フィンの基端側と先端側とでキャンバーの向きを逆向きにしている。これにより、船尾周りの流れの向きがフィンの傾きと交差する場所では、船尾周りの流れの向きを変えて整流効果を得ることができる。また、船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿った場所では、フィン上下面の圧力差によってフィンが受ける力の水平成分からスラストを生成することができる。よって、整流効果とスラスト生成を同時に実現することができ、推進効率を向上させることが可能になっている。
【0021】
以下、図5から図8を参照して、本実施の形態のステータフィンの詳細について説明する。図5は、本実施の形態のステータフィンの整流効果の説明図である。図6は、本実施の形態の他のステータフィンの整流効果の説明図である。図7は、本実施の形態の左舷側及び右舷側のフィンの斜視図である。図8は、本実施の形態のキャンバーの形成範囲を示すフィンの上面図である。
【0022】
図5に示すように、ステータフィン20の各フィン21A-21Eは断面視翼型形状であり、船尾周りの流れに対して所定の迎角で取り付けられている。左舷側のフィン21Aは前縁22Aよりも後縁23Aが低くなるように傾けられており、左舷側のフィン21Bもフィン21Aと同様に傾けられている。右舷側のフィン21Eは前縁22Eよりも後縁23Eが高くなるように傾けられており、右舷側のフィン21Dもフィン21Eと同様に傾けられている。左舷側のフィン21A、21B(第1のフィン)によって船尾周りの流れが下向きに整流され、右舷側のフィン21D、21E(第2のフィン)によって船尾周りの流れが上向きに整流される。
【0023】
フィン21Aの先端側(A-A断面参照)は上向きのキャンバーを有し、基端側(B-B断面参照)が下向きのキャンバーを有している。すなわち、フィン21Aの先端側では前縁22Aと後縁23Aを直線で結んだ翼弦に対して中心線が上向きに反っており、フィン21Aの基端側では翼弦に対して中心線が下向きに反っている。このため、フィン21Aの先端側ではフィン上面24Aが凸状面になり、フィン21Aの基端側ではフィン下面25Aが凸状面になっている。また、フィン21Aの先端側では船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに交差し、フィン21Aの基端側では船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿っている。
【0024】
このため、フィン21Aの先端側では、船尾周りの流れの向きが下向きに整流されて整流効果を得ることが可能になっている。フィン21Aの基端側では、船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿っているが、フィン21Aのキャンバーが下向きであるため、フィン上下面24A、25Aの圧力差によってフィン21Aに下斜め前方の力F1が作用している。このように、フィン21Aに作用する力F1が比較例のフィン31Aに作用する力FAと向きが逆になって(図4参照)、フィン21Aに作用する力F1の水平成分がスラストT1として働いて推進効率を向上させている。
【0025】
詳細は図示しないが、フィン21Bもフィン21Aと同様に、フィン21Bの先端側は上向きのキャンバーを有し、基端側が下向きのキャンバーを有している。このため、フィン21Bの先端側では、船尾周りの流れの向きが下向きに整流されて整流効果を得ることができる。また、フィン21Bの基端側では、船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿っているが、フィン21Bのキャンバーが下向きであるため、フィン21Bにスラストを生じさせて推進効率を向上させている。このように、左舷側ではフィン21A、21Bの先端側で整流効果を得て、基端側でスラストを生成している。
【0026】
また、フィン21Eの基端側(C-C断面参照)は下向きのキャンバーを有し、先端側(D-D断面参照)が上向きのキャンバーを有している。すなわち、フィン21Eの基端側では前縁22Eと後縁23Eを直線で結んだ翼弦に対して中心線が下向きに反っており、フィン21Eの先端側では翼弦に対して中心線が上向きに反っている。このため、フィン21Eの基端側ではフィン下面25Eが凸状面になり、フィン21Eの先端側ではフィン上面24Eが凸状面になっている。また、フィン21Eの基端側では船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに交差し、フィン21Eの先端側では船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿っている。
【0027】
このため、フィン21Eの基端側では、船尾周りの流れの向きが上向きに整流されて整流効果を得ることが可能になっている。フィン21Eの先端側では、船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿っているが、フィン21Eのキャンバーが上向きであるため、フィン上下面24E、25Eの圧力差によってフィン21Eに上斜め前方の力F2が作用している。このように、フィン21Eに作用する力F2が比較例のフィン31Eに作用する力FEと向きが逆になって(図4参照)、フィン21Eに作用する力F2の水平成分がスラストT2として働いて推進効率を向上させている。
【0028】
詳細は図示しないが、フィン21Dもフィン21Eと同様に、フィン21Dの基端側は下向きのキャンバーを有し、先端側が上向きのキャンバーを有している。このため、フィン21Dの基端側では、船尾周りの流れの向きが下向きに整流されて整流効果を得ることができる。また、フィン21Dの先端側では、船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿っているが、フィン21Dのキャンバーが上向きであるため、フィン21Dにスラストを生じさせて推進効率を向上させている。このように、右舷側ではフィン21D、21Eの基端側で整流効果を得て、先端側でスラストを生成している。
【0029】
このように、ステータフィン20によってプロペラ12の回転方向と逆向きの旋回流を生じさせると共にスラストを生じさせることで推進効率が十分に向上されている。ここでは、時計回りにプロペラ12が回転する場合を例示して説明したが、反時計回りにプロペラ12が回転する場合であっても各フィン21の傾きを逆にすることで同様な効果を得ることができる。
【0030】
図6に示すように、プロペラ12の回転方向が反時計回りの場合、左舷側のフィン21Aは前縁22Aよりも後縁23Aが高くなるように傾けられており、左舷側のフィン21Bもフィン21Aと同様に傾けられている。右舷側のフィン21Eは前縁22Eよりも後縁23Eが低くなるように傾けられており、右舷側のフィン21Dもフィン21Eと同様に傾けられている。左舷側のフィン21A、21B(第2のフィン)によって船尾周りの流れが上向きに整流され、右舷側のフィン21D、21E(第1のフィン)によって船尾周りの流れが下向きに整流される。
【0031】
フィン21Aの先端側(A-A断面参照)は上向きのキャンバーを有し、基端側(B-B断面参照)が下向きのキャンバーを有している。フィン21Aの先端側では船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿っているが、フィン21Aのキャンバーが上向きであるため、フィン上下面24A、25Aの圧力差によってフィン21Aに上斜め前方の力F3が作用している。この上斜め前方の力F3の水平成分がスラストT3として働いて推進効率を向上させている。また、フィン21Aの基端側では船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに交差しており、船尾周りの流れの向きが上向きに整流されて整流効果を得ることが可能になっている。
【0032】
詳細は図示しないが、フィン21Bもフィン21Aと同様に、フィン21Bの先端側は上向きのキャンバーを有し、基端側が下向きのキャンバーを有している。このため、フィン21Bの先端側では、船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿っているが、フィン21Bのキャンバーが上向きであるため、フィン21Bにスラストを生じさせて推進効率を向上させている。また、フィン21Bの基端側では、船尾周りの流れの向きが上向きに整流されて整流効果を得ることができる。このように、左舷側ではフィン21A、21Bの先端側でスラストを生成し、基端側で整流効果を得ている。
【0033】
フィン21Eの基端側(C-C断面参照)は下向きのキャンバーを有し、先端側(D-D断面参照)が上向きのキャンバーを有している。フィン21Eの基端側では船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿っているが、フィン21Eのキャンバーが下向きであるため、フィン上下面24E、25Eの圧力差によってフィン21Eに下斜め前方の力F4が作用している。この下斜め前方の力F4の水平成分がスラストT4として働いて推進効率を向上させている。また、フィン21Eの先端側では船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに交差しており、船尾周りの流れの向きが下向きに整流されて整流効果を得ることが可能になっている。
【0034】
詳細は図示しないが、フィン21Dもフィン21Eと同様に、フィン21Dの基端側は下向きのキャンバーを有し、先端側が上向きのキャンバーを有している。このため、フィン21Dの基端側では、船尾周りの流れの向きがフィンの傾きに沿っているが、フィン21Dのキャンバーが下向きであるため、フィン21Dにスラストを生じさせて推進効率を向上させている。また、フィン21Dの先端側では、船尾周りの流れの向きが下向きに整流されて整流効果を得ることができる。このように、右舷側ではフィン21D、21Eの基端側でスラストを生成し、先端側で整流効果を得ている。
【0035】
図7Aに示すように、左舷側のフィン21Aは、基端側から先端側に向かってキャンバーの向きが逆向きになるように連続的に変化している。フィン21Aの基端側が下向きのキャンバーを有し、フィン21Aの先端側が上向きのキャンバーを有するように、基端側から先端側に向かってフィン21Aの断面形状が徐々に変形している。このように、フィン21Aの基端側から先端側の船尾周りの流れの変化に合わせてキャンバーの向きを緩やかに変化させることで整流効果とスラスト生成を同時に実現することができる。左舷側のフィン21Bについてもフィン21Aと同様に形成されている。
【0036】
図7Bに示すように、右舷側のフィン21Eは、基端側から先端側に向かってキャンバーの向きが逆向きになるように連続的に変化している。フィン21Eの基端側が下向きのキャンバーを有し、フィン21Eの先端側が上向きのキャンバーを有するように、基端側から先端側に向かってフィン21Eの断面形状が徐々に変形している。このように、フィン21Eの基端側から先端側の船尾周りの流れの変化に合わせてキャンバーの向きを緩やかに変化させることで整流効果とスラスト生成を同時に実現することができる。右舷側のフィン21Dについてもフィン21Eと同様に形成されている。
【0037】
フィン21A-21EはFRPを素材としているため、金属成形が困難な形状でも成形することができる。また、比較的軽量で高強度であるため、各フィン21A-21Eを長く成形することができ、広い範囲でスラストを生じさせて推進効率を向上させることができる。また、フィン21A-21EにFRPとして、例えばGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)、AFRP(Aramid Fiber Reinforced Plastics)、BFRP(Boron Fiber Reinforced Plastics)が使用されてもよい。
【0038】
図8に示すように、フィン21は基端側から先端側に向かって前縁22から後縁23までの幅が狭くなるように形成されている。また、フィン21の基端からフィン全長の30%から40%の範囲でキャンバーが下向きになり、フィン21の先端からフィン全長の20%から30%の範囲でキャンバーが上向きになることが好ましい。また、フィン21の中央では、フィン全長の30%から40%の範囲でキャンバーが下向きと上向きが混在することが好ましい。この範囲は、一般的な船舶(低速船)の船尾で生じる流れに対応して設定されたものである。船尾周辺では外側から内側に巻き込むように渦が形成されており、船尾の内側では下向きの流れが生じ、船尾の外側に向かって徐々に流れの向きが上向きになるように変化している(図3参照)。下向きの流れが強い船尾の内側、上向きの流れが強い船尾の外側に合わせて、フィン21のキャンバーの向きが変化されている。なお、船尾周辺の流れは船尾形状に依存するが、船尾形状によって大きく変わるものではなく、上記したキャンバーの範囲であれば船尾形状に関わらず効果を得ることが可能である。このように、船尾周辺の流れに合わせてキャンバーの向きを変えることで、整流効果とスラスト生成をバランスよく実現される。
【0039】
以上のように、本実施の形態のステータフィン20においては、フィン21A-21Eで船尾周りの流れを整流してプロペラ12と逆向きの旋回流を発生させることで、プロペラ回転時のエネルギー損失が低減されている。また、左舷側のフィン21A、21Bと右舷側のフィン21D、21Eの基端側と先端側でキャンバーの向きが逆になることで、船尾周りの流れがフィンに沿った場所でも、フィン上下面の圧力差によって生じる力の水平成分からスラストを生成して推進効率を向上させることができる。
【0040】
なお、本実施の形態では、左舷側のフィンと右舷側のフィンの基端側が下向きキャンバーを有し、左舷側のフィンと右舷側のフィンの先端側が上向きのキャンバーを有する構成にしたが、この構成に限定されない。船尾周りの流れの向きに応じて、左舷側のフィンと右舷側のフィンの基端側と先端側のキャンバーの向きを変えてもよい。例えば、船尾の左舷側には反時計回りに流れが生じ、船尾の右舷側には時計回りに流れが生じている場合には、左舷側のフィンと右舷側のフィンの基端側が上向きキャンバーを有し、左舷側のフィンと右舷側のフィンの先端側が下向きのキャンバーを有してもよい。
【0041】
また、本実施の形態では、左舷側のフィンと右舷側のフィンの基端側から先端側に向かってキャンバーの向きが逆向きになるように連続的に変化する構成にしたが、この構成に限定されない。少なくとも左舷側のフィンと右舷側のフィンの基端側と先端側でキャンバーの向きが逆向きになるように形成されていればよい。
【0042】
また、本実施の形態では、左舷側のフィンと右舷側のフィンがFRPで形成される構成にしたが、この構成に限定されない。左舷側のフィンと右舷側のフィンは、どのような材質で形成されていてもよく、例えば、金属で形成されていてもよい。
【0043】
また、本実施の形態では、フィンの基端からフィン全長の30%から40%の範囲でキャンバーが下向きになり、フィンの先端からフィン全長の20%から30%の範囲でキャンバーが上向きになる構成について説明したが、この構成に限定されない。フィンの先端からフィン全長の20%から30%の範囲と基端からフィン全長の30%から40%の範囲でキャンバーの向きが逆になる構成が好ましいが、特に限定されない。
【0044】
また、本発明の各実施の形態を説明したが、本発明の他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0045】
また、本発明の実施の形態は上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施形態をカバーしている。
【0046】
また、本実施の形態では、本発明を船舶に取り付けられるステータフィンについて説明したが、プロペラの前方に取り付けられて、推進効率を向上できる潜水艇等の潜水可能な船にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明は、整流効果とスラスト生成を同時に実現して推進効率を十分に向上させることができるという効果を有し、特に、大型船舶の船尾に取り付けられるステータフィンに有用である。
【符号の説明】
【0048】
12 :プロペラ
20 :ステータフィン
21A :フィン(第1のフィン)
21B :フィン(第1のフィン)
21D :フィン(第2のフィン)
21E :フィン(第2のフィン)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8