IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社Epsilon Molecular Engineeringの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】高速試験管内スクリーニング法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6811 20180101AFI20220128BHJP
   C40B 30/04 20060101ALI20220128BHJP
   C12N 15/10 20060101ALN20220128BHJP
   C40B 40/08 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12Q1/6811 Z ZNA
C40B30/04
C12N15/10 110Z
C40B40/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018509384
(86)(22)【出願日】2017-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2017013076
(87)【国際公開番号】W WO2017170776
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2018-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2016069064
(32)【優先日】2016-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516255448
【氏名又は名称】株式会社Epsilon Molecular Engineering
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 直人
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】松川 優太
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/056713(WO,A1)
【文献】特開2015-051023(JP,A)
【文献】特開2016-002041(JP,A)
【文献】特開2009-124946(JP,A)
【文献】特表2014-515749(JP,A)
【文献】特表2012-531887(JP,A)
【文献】特開2010-006745(JP,A)
【文献】特開2006-211984(JP,A)
【文献】MOCHIZUKI Y. et al.,Journal of Biotechnology,2015年08月28日,Vol.212,p.174-180
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C40B 30/04
C12N 15/10
C40B 40/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
cDNAディスプレイライブラリ及び核酸アプタマーライブラリからなる群から選ばれるいずれかのライブラリの高速試験管内スクリーニング方法であって、
(i)球状分子上に標的分子を固定したポジティブ球状構造体と、前記標的分子を固定していないネガティブ球状構造体を調製する球状構造体調製工程と;
(ii)1010以上のライブラリサイズを有する前記いずれかのライブラリから選択した前記標的分子と結合し得る標的検出分子を検出するために、前記ライブラリを転写してmRNAを得てリンカーと結合させてmRNA-リンカー結合体とし、前記結合体中のmRNAを翻訳してタンパク質が結合したmRNA-リンカー‐タンパク質連結体とし、前記mRNA-リンカー‐タンパク質連結体に結合している前記mRNAを逆転写して得られた核酸を含むmRNA-タンパク質連結体を前記ポジティブ球状構造体及び前記ネガティブ球状構造体のそれぞれに同時に結合させて、ポジティブ球状結合体及びネガティブ球状結合体を同時に形成させる球状結合体形成工程と;
(iii)前記ポジティブ球状結合体と前記ネガティブ球状結合体とをセルソーターで蛍光によって選別する球状結合体選別工程と;
(iv)前記球状結合体工程で選別された前記ポジティブ球状結合体及び前記ネガティブ球状結合体のいずれか一方と結合した、前記核酸分子を含むmRNA-タンパク質連結体から前記ポジティブ球状結合体又は前記ネガティブ球状結合体を除去し、前記mRNA-タンパク質連結体を磁性体粒子と結合させて逆転写を行い、mRNA-タンパク質-cDNA連結体を作製し、得られた前記mRNA-タンパク質-cDNA連結体をPCRに供して増幅させる増幅工程と;
(v)前記増幅工程で得られたポジティブ球状結合体に由来するPCR産物と、前記ネガティブ球状結合体に由来するPCR産物とを、前記PCR産物が結合している磁性体粒子からそれぞれ溶出させる溶出工程と;
(vi)前記(i)~(v)工程を5回以内で繰り返す反復工程と;
(vii)前記溶出されたPCR産物をそれぞれ分析し、前記ポジティブ球状結合体から溶出されたPCR産物の配列と、前記ネガティブ球状結合体にから溶出されたPCR産物の配列とを対比し、前記磁性体粒子から溶出された、ポジティブ球状結合体に由来するPCR産物と、前記ネガティブ球状結合体に由来するPCR産物との濃度から、標的分子に結合した分子の濃縮率を得る工程と;
を備える、高速試験管内スクリーニング方法。
【請求項2】
前記球状構造体は、リポソーム、セファロースビーズ、シリカビーズ及びラテックスビーズからなる群から選ばれるいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の高速試験管内スクリーニング方法。
【請求項3】
前記球状構造体は、粒径が0.5μm~20μmであることを特徴とする、請求項2に記載の高速試験管内スクリーニング方法。
【請求項4】
前記標的検出分子は、cDNAディスプレイ法によってcDNAディスプレイライブラリから得られる核酸-リンカー連結体、又は前記核酸-リンカー連結体から得られる核酸アプタマーである、ことを特徴とする請求項1に記載の高速試験管内スクリーニング方法。
【請求項5】
前記標的検出分子は、前記球状構造体表面の官能基と直接的に結合されるか、又は前記球状構造体表面に固定された前記標的分子を介して結合される、ことを特徴とする請求項1に記載の高速試験管内スクリーニング方法
【請求項6】
前記官能基は、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基からなる群から選ばれるいずれかであることを特徴とする、請求項5に記載の高速試験管内スクリーニング方法。
【請求項7】
前記標的分子は、ビオチン、ストレプトレプトアビジン、クリックケミストリーによるアジ化物及びN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)からなる群から選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする、請求項5に記載の高速試験管内スクリーニング方法。
【請求項8】
下の工程を備えるcDNAディスプレイ法によって得られる前記標的検出分子を使用する、ことを特徴とする請求項1に記載の高速試験管内スクリーニング方法:
(a)所望のmRNAを調製するmRNA調製工程;
(b)前記所望のmRNAを、リンカーと結合させてmRNA-リンカー連結体を得るリンカー結合工程;
(c)前記mRNA-リンカー連結体を翻訳してmRNA-リンカー-タンパク質連結体を形成させるmRNA-リンカー-タンパク質連結体形成工程;及び
(d)前記mRNA--リンカー-タンパク質連結体を逆転写してmRNA/cDNA-タンパク質連結体を得る逆転写工程。
【請求項9】
前記リンカーは、主鎖と側鎖とを有し、
前記主鎖は、(p1)前記リンカーを固相に結合する固相結合部位と(p2)前記固相から前記リンカーを切り離す切断部位と、(p3)3’末端近傍に3-シアノビニルカルバゾールで構成されたmRNA結合部位を含み、
前記側鎖は、(s1)主鎖結合部位と、(s2)主鎖用蛍光標識結合部位を有するスペーサーと、(s3)前記主鎖用蛍光標識結合部位に結合した主鎖用蛍光標識と、(s4)ペプチド結合部位であるピューロマイシンとを備えており、
前記切断部位は前記固相結合部位内に設けられている、ことを特徴とする請求項8に記載の高速試験管内スクリーニング方法。
【請求項10】
前記球状結合体は、以下の(1)~(4)からなる群から選ばれるいずれかの組み合せを含むことを特徴とする、請求項1に記載の高速試験管内スクリーニング方法:
(1)蛍光標識を内包することによって蛍光標識されている前記ポジティブ球状結合体と、蛍光標識されていない前記ネガティブ球状結合体、及び標識されていない前記標的検出分子;
(2)蛍光標識を内包することによって蛍光標識されている前記ポジティブ球状結合体、前記ポジティブ球状結合体とは異なる蛍光を内包することによって蛍光標識されている前記ネガティブ球状結合体、及び標識されていない前記標的検出分子;
(3)蛍光標識されていない前記ポジティブ球状結合体、蛍光標識を内包することによって蛍光標識されている前記ネガティブ球状結合体、及び前記蛍光標識とは異なる蛍光を発する標識で蛍光標識された前記標的検出分子;及び
(4)蛍光標識されていない前記ポジティブ球状結合体、蛍光標識されていない前記ネガティブ球状結合体、及び蛍光標識された前記標的検出分子。
【請求項11】
前記蛍光標識は、Alexa Fluor 594(商標)、Fluorescein Amine、FITC、Rhodamine、mCherry2(商標)及びQuantum Dotからなる群から選ばれるいずれかであることを特徴とする、請求項10に記載の高速試験管内スクリーニング方法。
【請求項12】
前記異なる蛍光を発する標識は、SYBR(登録商標) Gold、SYBR(登録商標) Green及びQuantum Dotの蛍光分子からなる群から選ばれるいずれかであることを特徴とする、請求項10に記載の高速試験管内スクリーニング方法。
【請求項13】
前記選別は、2つの異なる波長で蛍光標識を励起し、前記2つの異なる波長双方で励起された前記球状結合体のみをセルソーターを用いて行うことを特徴とする、請求項1~12のいずれかに記載の高速試験管内スクリーニング方法。
【請求項14】
特定のポリペプチドを共存させて選択圧をかけることにより、さらに前記選別を行なう請求項13に記載の高速試験管内スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、cDNAディスプレイ及び核酸アプタマーの高速試験管内スクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の生物を含む天然物から機能分子を探査することなく、現在、タンパク質やペプチド等の新しい機能性分子を人工的に合成したDNAから創るという方向へと研究志向がシフトしている。例えば、抗体はモノクローナル抗体であっても継体培養するうちに変異が入り、ロット差が大きいことが診断薬や研究試薬の分野で問題となっている。
【0003】
これに対し次世代抗体やペプチドアプタマーは、DNA配列に基づき大腸菌で合成したりペプチド合成を行うため、抗体のような変異が入りにくいことと、コスト的にも有利であり、かつ、熱安定性が高いことも有利な特徴である。このような次世代抗体を取得する進化工学的手法として、様々なディスプレイ手法が開発されている。代表的なものとしてファージディスプレイ法がある。
【0004】
これは、所望のタンパク質をバクテリオファージの最外殻に局在するコートタンパク質に融合させて提示し、ビオチン化したリガンドに結合させてスクリーニングするという方法である。抗体、DNA結合性タンパク質及びプロテアーゼ阻害剤等のスクリーニングにこの方法が用いられており、生理活性リガンドや医薬として機能するタンパク質やペプチド分子が取得されている。また、微生物の表面へのディスプレイ方法も開発されている。
【0005】
こうしたディスプレイ法の中で、ファージディスプレイよりも分子量が大きく、特定の活性を有するタンパク質やペプチドを、真核生物である酵母細胞の細胞表層へディスプレイする酵母ディスプレイ法が確立されている。酵母ディスプレイは、翻訳後の修飾が出来ないためファージディスプレイでは適用できなかった真核生物のタンパク質もディスプレイすることができるという方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0006】
この方法は、以下のような手順で目的タンパク質のディスプレイを行なう。先ず、翻訳後のタンパク質を細胞膜へと運ぶ分泌シグナル配列、目的タンパク質のコード配列、細胞壁又は細胞膜局在タンパク質のコード配列及び細胞膜のアンカータンパク質のコード配列を含むDNA配列を合成し、コンストラクトDNAを作製する。次いで、このコンストラクトDNAで酵母細胞を形質転換し、融合タンパク質を発現させる。発現した融合タンパク質は、小胞体内腔に露出した形であり、ゴルジ体を経て、分泌小胞を介したエキソサイトーシスにより細胞膜へ輸送される。この後、アンカータンパク質と細胞膜が融合すると細胞膜上に目的タンパク質がディスプレイされる。細胞壁を持つ酵母などの場合、アンカータンパク質が酵素によって切断され、目的タンパク質と細胞壁局在タンパク質は細胞壁に運ばれて、細胞表面に目的タンパク質がディスプレイされる。
【0007】
この酵母ディスプレイを応用して、Feldhausらは、細胞表面にscFvを表示するよう形質転換した酵母細胞をフローサイトメトリーで選択する方法を開発した(特許文献1及び非特許文献2参照、以下、「従来技術1」という。)。また、エレクトロポレーション法を用いて、最大2×1010のサイズのライブラリの作製を可能にするための、酵母細胞を形質転換する高効率で迅速な方法が提案されている(特許文献2参照:以下、「従来技術2」という。)。
【0008】
一方、ファージディスプレイと比較して、ライブラリの多様性をより確保することができ、より大きなライブラリサイズでスクリーニングを行うことができるレトロウィルスのサイクルを模倣したIn vitro virusが提案され、その後、このIn vitro virusを改良した、核酸部分をmRNAからcDNAに変換したcDNAディスプレイ法が提案されている(非特許文献3:以下、「従来技術3」という。)。
【0009】
また、上記cDNAディスプレイの他、核酸アプタマーを利用した、医薬・診断薬の研究開発が進められている。核酸アプタマーは、生物を用いることなく作製できる点や、化学合成によって安価に製造できるなどの特徴を有する。現在、核酸アプタマーは、SELEX(systematic evolution of ligand by exponential enrichment)法等によって、任意の標的分子に対応する分子を調製されている。
【0010】
SELEX法では、配列の異なる1010~1014種類の一本鎖オリゴDNAの混合物からなる初期ライブラリを、標的分子が固定化されたアフィニティカラム等に通し、標的分子に対する結合活性があるものとないものとを選別する。その後、標的分子と親和性を示したDNAを、PCRで増幅させ、λエキソヌクレアーゼを用いる方法等により、増幅後の二本鎖を一本鎖DNAにする。その後、再びアフィニティカラム等を用いた選別にかけ、PCRによる増幅を行う。この選別と増幅を繰り返すことにより、標的分子に親和性を示すDNA配列(DNAライブラリ)が濃縮される。その後、クローニング法によって、濃縮されたDNAライブラリからDNAアプタマーが単離される。
【0011】
近年、このSELEX法が改良され、固相に固定化された標的分子と、液相中の核酸ライブラリとの間の結合親和性の違いによって活性配列を分離する際の、核酸ライブラリの非特異的吸着を改善するため、キャピラリー・ゾーン電気泳動を用いた方法が開発されている(非特許文献4参照:以下、「従来技術4」という。)。
【0012】
また、上記アフィニティカラムやキャピラリー・ゾーン電気泳動のいずれも使用しない、原子間力顕微鏡を使用した核酸アプタマーのスクリーニング方法も開示されている(特許文献3参照:以下、「従来技術5」という。)。
【0013】
このほか、RNAライブラリから、ストレプトアビジンと結合するRNAアプタマーを選択し、ビオチンを競合溶出剤として用いることで、アフィニティータグとして使用することができるストレプトアビジン結合RNAアプタマーが知られている(非特許文献5参照:以下、「従来技術6」という)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】US 6699658 B1
【文献】特表2011-512841
【文献】特開2011-055770
【非特許文献】
【0015】
【文献】化学と生物 vol.40, No.4 (2002)
【文献】Nature Biotech, vol. 21, 163-170 (2003)
【文献】Nucleic Acid Research, vol. 37, No.16, e108 (2009)
【文献】http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100222.html
【文献】RNA, vol. 7, 632-641 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来技術1は、酵母ディスプレイにおいて、Fluorescence Activated Cell Sorting(FACS)装置を用いたスクリーニング方法により、1×1010というサイズのライブラリを取得できるという点、及び複数の抗原に対する複数の抗体を2~3週間で同時にスクリーニングすることができるという点では優れた技術である。しかし、形質転換用に導入したscFvが40~80%しか細胞表面に発現しないこと、また、発現したscFvも、同じアミノ酸配列を有する異なる複数のペプチドと結合してしまうため、高い特異性を有する分子の取得ができないという問題があった。
【0017】
従来技術2は、エレクトロポレーション法を用いて酵母の形質転換効率自体を高めることにより、従来技術1より大きな最大2×1010というサイズのライブラリを構築できるという点では優れた技術である。しかし、いずれの酵母ディスプレイ法においても、ライブラリサイズは1010オーダーに留まっているという問題があった。
【0018】
さらに、タンパク質やペプチドの遺伝子配列を導入した酵母を培養する必要があり、またFACSを使用したセルソーティング時においては、酵母を抗体等で標識する処理をしなければならないなど、迅速なディスプレイの構築が困難であった。
【0019】
従来技術3は、従来技術1及び2よりも短時間でスクリーニングができるという点では優れた技術である。しかし、従来のcDNAディスプレイ法のスクリーニング工程では、結合タンパク質の濃縮又は選択を手作業で行っていたため手間と半日~数日程度の時間がかかり、また人為的操作に伴う作業のバラツキの問題があった。
【0020】
従来技術3では、酵母ディスプレイに比べ1,000倍近い1014というサイズのライブラリを構築できるが、上記スクリーニング工程がcDNAディスプレイ法の作業工程における律速段階となっており、新しい機能を有する分子の迅速な検索の障害になっていた。
このため、cDNAディスプレイのスクリーニングを、大きなサイズのライブラリを用いて、高速で行い、高い特異性を有する分子を取得することに対する強い社会的要請があった。
【0021】
従来技術4は、標的分子もライブラリも液相中に存在し、標的分子と活性配列との複合体と、標的に結合しない不活性配列とを高度に分離できる点で優れた技術である。一方で、標的分子と活性配列を含んだ複合体を分離は出来るとしながらも、あくまで原理上は活性配列の分画に不活性配列が混入しないという点に留まり、精度の高いスクリーニングができるかについて課題が残っていた。
【0022】
従来技術5は、アミノ酸などの低分子に対する高い特異的結合力を有する核酸アプタマーを効率よくスクリーニングできる点で優れている。一方で、原子間力顕微鏡のカンチレバーに標的物質を固定し、かつ探針で走査する平板の表面に核酸を固定する必要があるなど、手間と時間が掛かり、簡便で迅速なスクリーニングに対して課題が残っていた。
【0023】
従来技術6は、1016のRNAライブラリから、9回のセレクションサイクルを行うことで、ストレプトアビジンに結合するRNAアプタマーを選択することができる点では優れた技術である。しかし、ここで行われるセレクションは、切り出し精製とカラムによる精製であるため、濃縮効率が60倍という低い範囲に留まっていた。
このため、核酸アプタマーのスクリーニングにおいても、高速で行い、高い特異性を有する分子を取得することに対する強い社会的要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0024】
こうした状況の下で、本発明の発明者らは、鋭意研究を重ねて本願発明を完成したものである。
すなわち、本発明の態様は、(i)球状分子上に標的分子を固定したポジティブ球状構造体と、標的分子を固定していないネガティブ球状構造体を調製する球状構造体調製工程と;(ii) 1010以上のライブラリサイズを有する前記いずれかのライブラリから選択した前記標的分子と結合し得る標的検出分子を検出するために、前記ライブラリを転写してmRNAを得てリンカーと結合させてmRNA-リンカー結合体とし、前記結合体中のmRNAを翻訳してタンパク質が結合したmRNA-リンカー‐タンパク質連結体とし、前記mRNA-リンカー‐タンパク質連結体に結合している前記mRNAを逆転写して得られた核酸を含むmRNA-タンパク質連結体を前記ポジティブ球状構造体及び前記ネガティブ球状構造体のそれぞれに同時に結合させて、ポジティブ球状結合体及びネガティブ球状結合体を同時に形成させる球状結合体形成工程と;
【0025】
(iii)前記ポジティブ球状結合体と前記ネガティブ球状結合体とをセルソーターで蛍光によって選別する球状結合体選別工程と;(iv)前記球状結合体工程で選別された前記ポジティブ球状結合体及び前記ネガティブ球状結合体のいずれか一方と結合した、前記核酸分子を含むmRNA-タンパク質連結体から前記ポジティブ球状結合体又は前記ネガティブ球状結合体を除去し、前記mRNA-タンパク質連結体を磁性体粒子と結合させて逆転写を行い、mRNA-タンパク質-cDNA連結体を作製し、得られた前記mRNA-タンパク質-cDNA連結体をPCRに供して増幅させる増幅工程と;(v)前記増幅工程で得られたポジティブ球状結合体に由来するPCR産物と、前記ネガティブ球状結合体に由来するPCR産物とを、前記PCR産物が結合している磁性体粒子からそれぞれ溶出させる溶出工程と;(vi)前記(i)~(v)工程を5回以内で繰り返す反復工程と;(vii)前記溶出されたPCR産物をそれぞれ分析し、前記ポジティブ球状結合体から溶出されたPCR産物の配列と、前記ネガティブ球状結合体にから溶出されたPCR産物の配列とを対比し、前記磁性体粒子から溶出された、ポジティブ球状結合体に由来するPCR産物と、前記ネガティブ球状結合体に由来するPCR産物との濃度から、標的分子に結合した分子の濃縮率を得る工程と;を備える、高速試験管内スクリーニング方法である。
【0026】
前記球状構造体は、リポソーム、セファロースビーズ、シリカビーズ、及びラテックスビーズからなる群から選ばれるいずれかであることが、標的分子の固定という観点から好ましい。また、前記球状構造体は、粒径が0.5μm~20μmであることが、FACSでのソーティングを正確に行うことができるという点で好ましい。
【0027】
前記標的検出分子は、cDNAディスプレイ法(図1A)によってcDNAディスプレイライブラリから得られる核酸-リンカー連結体、又は前記核酸-リンカー連結体から得られる核酸アプタマーであることが好ましく、前記球状構造体表面の官能基と直接的に結合されるか、又は前記球状構造体表面に固定された前記標的分子を介して結合されることが、球状構造体に特異的に結合する分子を選択する上で好ましい。
【0028】
前記標的分子は、ビオチン、ストレプトアビジン、クリックケミストリーによるアジ化物及びN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)からなる群から選ばれるいずれかの化合物であることが、前記標的分子と前記標的検出分子との間の相互作用が強いことから好ましい。前記官能基は、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基からなる群から選ばれるいずれかであることが、前記球状構造体と前記標的検出分子との間の相互作用が強いことから好ましい。
【0029】
本発明のスクリーニング方法では、以下の工程を備えるcDNAディスプレイ法によって得られる前記標的検出分子を使用することが、cDNAディスプレイライブラリの高速スクリーニングが可能となるために好ましい:(a)所望のmRNAを調製するmRNA調製工程;(b)前記所望のmRNAを、リンカーと結合させてmRNA-リンカー連結体を得るリンカー結合工程;(c)前記mRNA-リンカー連結体を翻訳してmRNA-リンカー-タンパク質連結体を形成させるmRNA-リンカー-タンパク質連結体形成工程;及び(d)前記mRNA--リンカー-タンパク質連結体を逆転写してmRNA/cDNA-タンパク質連結体を得る逆転写工程。
【0030】
さらに、(i)~(iv)の工程を繰り返す回数が10回以内であることが、迅速にスクリーニングを行う点から好ましい。
【0031】
また、前記リンカーは、主鎖と側鎖とを有し、前記主鎖は、(p1)前記リンカーを固相に結合する固相結合部位と(p2)前記固相から前記リンカーを切り離す切断部位と、(p3)3’末端近傍に3-シアノビニルカルバゾールで構成されたmRNA結合部位とを含み、前記側鎖は、(s1)主鎖結合部位と、(s2)主鎖用蛍光標識結合部位を有するスペーサーと、(s3)前記主鎖用蛍光標識結合部位に結合した主鎖用蛍光標識と、(s4)ペプチド結合部位であるピューロマイシンとを備えている。そして、前記切断部位は前記固相結合部位内に設けられていることが、リンカーとmRNAを光架橋により非酵素的に連結でき、リンカー合成時間の短縮が図れる点で好ましい。
【0032】
前記球状結合体は、以下の組み合わせを含むことが、目的に応じて蛍光標識してソーティングできる点で好ましい:(1)蛍光標識を内包することによって蛍光標識されている前記ポジティブ球状結合体、蛍光標識されていない前記ネガティブ球状結合体、及び標識されていない前記標的検出分子;(2)蛍光標識を内包することによって蛍光標識されている前記ポジティブ球状結合体、前記ポジティブ球状結合体とは異なる蛍光を内包することによって蛍光標識されている前記ネガティブ球状結合体及び標識されていない前記標的検出分子;(3)蛍光標識されていない前記ポジティブ球状結合体、蛍光標識を内包することによって蛍光標識されている前記ネガティブ球状結合体、及び前記蛍光標識とは異なる蛍光を発する標識で蛍光標識された前記標的検出分子;及び(4)蛍光標識されていない前記ポジティブ球状結合体、蛍光標識されていない前記ネガティブ球状結合体、及び蛍光標識された前記標的検出分子。
【0033】
例えば、スクリーニングにより選択したmRNA/cDNA-タンパク質連結体の濃度が低い場合は(1)を選択し、高い場合は(2)を選択することができる。さらに、前記蛍光標識されているポジティブ球状結合体は、表面に前記mRNA-タンパク質連結体又は前記mRNA/cDNA-タンパク質連結体と結合可能な標的分子を備え、かつ蛍光標識を内包していることが、ソーティングの精度を高め効率よくcDNAディスプレイ分子又は核酸アプタマーのスクリーニングができる点で好ましい。
【0034】
さらに、前記蛍光標識は、Alexa Fluor 594、Fluorescein Amine 、FITC、Rhodamine、mCherry2及びQuantum Dotからなる群から選ばれるいずれかであることが、遺伝子発現に使用ができること及び多重標識ができることから好ましい。さらに、こうした蛍光標識と異なる蛍光を発する標識は、蛍光性のインターカレーターである、SYBR Gold、SYBR Green及びQuantum Dotからなる群から選ばれるいずれかの分子であることが、標的検出分子の標識が容易であること、及びセルソーティングに適していることから好ましい。
【0035】
前記選別は、例えば、2つの異なる波長で上記の蛍光標識を励起し、前記2つの異なる波長双方で励起された標識を有する球状結合体のみをセルソーターを用いて行うことが、スクリーニング精度を高める上で好ましい。また、特定のペプチドを共存させて選択圧をかけることにより、さらに選別を行なうことが、スクリーニングの精度をさらに高めることができるために好ましい。
【発明の効果】
【0036】
従来、cDNAディスプレイライブラリ又は核酸アプタマーライブラリのスクリーニングには、カラムやビーズ、キャピラリー・ゾーン電気泳動や原子間力顕微鏡を使用して濃縮し、選択を行なう必要があり、煩雑で時間と手間とを要していた。
本発明の高速試験管内スクリーニング方法によれば、蛍光標識と球状構造体を結合させ、セルソーターを用いて高速で選択を行なうことにより、1010以上のライブラリサイズのcDNAディスプレイライブラリ又は核酸アプタマーライブラリから、目的のcDNAディスプレイ分子又は核酸アプタマーを、簡便かつ短時間のうちに、高速スクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1A図1Aは、cDNAディスプレイ法の試験管内スクリーニングの手順を表した図である。
図1B図1Bは、標的検出分子としてRNAを用いた場合のスクリーニングの手順を表した図である。
図2A図2Aは、ネガティブ球状構造体(以下、「球状構造体N」ということがある。)を表した図である。
【0038】
図2B図2Bは、ポジティブ球状構造体(以下、「球状構造体P」ということがある。)を表した図である。
図2C図2Cは、球状構造体P及びNを使用した、高速スクリーニングの手順を示す図(1)である。
図2D図2Dは、球状構造体P及びNを使用した、高速スクリーニングの手順を示す図(2)である。
図3図3は、蛍光物質含有リポソームの顕微鏡の写真である。A1は微分干渉像、B1はFITCを用いた蛍光画像及びC1はAlexa-Fluor 594を用いた蛍光画像を、それぞれ示す。A2~C2は、それぞれA1~C1の模式図である。
【0039】
図4A図4Aは、Magainin 2未処理の蛍光リポソームのFACSによる解析結果を表した図である。
図4B図4Bは、10μM のMagainin 2で処理した蛍光リポソームのFACSによる解析結果を表した図である。
図4C図4Cは、30μM のMagainin 2で処理した蛍光リポソームのFACSによる解析結果を表した図である。
【0040】
図5図5は、デザインDNAライブラリにより翻訳されるペプチド予想配列及び当該配列を、A(1~18番目のアミノ酸の出現位置)及びB(19~35番目のアミノ酸の出現位置)という2つのαヘリックス車輪上に並べた図である。
図6図6は、プロモーター-DNA結合体(244mer)を作製する際の伸長PCRの模式図である。
図7図7は、光架橋型リンカーの模式図である。
【0041】
図8図8は、光架橋型リンカー、及びこのリンカーに、光架橋によって結合されたmRNAを模式的に示した図である。
図9図9は、従来型リンカー、及びこの従来型リンカーに、T4RNAリガーゼによって酵素的に結合されたmRNAを模式的に示した図である。
図10図10は、mRNAとピューロマイシンリンカーのライゲーション産物の電気泳動結果の写真である。
【0042】
図11A図11Aは、本発明の高速スクリーニングサイクル1回目の蛍光リポソームのFACSによる解析結果を示した図である。
図11B図11Bは、本発明の高速スクリーニングサイクル2回目の蛍光リポソームのFACSによる解析結果を示した図である。
図11C図11Cは、本発明の高速スクリーニングサイクル3回目の蛍光リポソームのFACSによる解析結果を示した図である。
【0043】
図12図12は、本発明の高速スクリーニングサイクル1~3の後のcDNAディスプレイ分子のPCR産物の電気泳動結果を示す写真である。
図13図13は、クローニングシーケンスから得られたペプチドのアミノ酸配列及び当該配列を、A(1~18番目のアミノ酸の出現位置)及びB(19~35番目のアミノ酸の出現位置)という2つのαへリックス車輪図上に並べた図である。
図14A図14Aは、ベクターに導入する融合タンパク質の遺伝子配列の模式図である。
図14B図14Bは、標的認識分子の構造を示す模式図である。
図15図15は、mCherry-LB-1融合タンパク質、又はmCherryのみと反応させたリポソームの蛍光顕微鏡像である。A1は、上記リポソームの膜外にmCherry-LB-1融合タンパク質が2μM結合したときの蛍光顕微鏡像である。B1は、上記リポソームの膜外にmCherryのみが2μM結合したときの蛍光顕微鏡像である。A2及びB2は、それぞれA1及びB1の模式図である。Xは明赤色蛍光を発するリポソーム膜を示し、Yは暗赤色蛍光を発するリポソーム膜を示す。
【0044】
図16図16は、ストレプトアビジン結合RNAアプタマーのDNAの電気泳動の写真である。
図17図17は、ストレプトアビジン結合RNAアプタマーの電気泳動の写真である。
図18図18は、ストレプトアビジンが結合したストレプトアビジン結合RNAアプタマーの電気泳動の写真である。
図19図19は、ストレプトアビジンを固定化したローダミンBで標識シリカビーズとフルオレセイン標識ビオチンとの反応産物のFITCの蛍光強度を示した写真である。
【0045】
図20図20は、FACSによるローダミンBのソーティング領域を示したグラフである。
図21図21は、ストレプトアビジン結合RNAアプタマーと、ストレプトアビジン非結合RNAアプタマーとを1:10~1:10,000の比率で混合し、所定の条件でPCRを15サイクル行った結果物を、FACSによるソーティングに供した結果を示すゲル電気泳動像である。RはFACSによる淘汰前の核酸、Pはプラスビーズから溶出された核酸、及びNはマイナスビーズから溶出された核酸をそれぞれ示す。
図22図22は、ストレプトアビジン結合RNAアプタマーとストレプトアビジン非結合RNAアプタマーとを、1:1,000又は1:10,000で混合し、図21と同じ条件でPCRを10サイクル、15サイクル又は20サイクル行った結果物をFACSによるソーティングに供した結果を示すゲル電気泳動像である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に、本発明を、図1A~2D及び6~9を参照しつつ、詳細に説明する。
本発明は、上述したように、cDNAディスプレイライブラリ及び核酸アプタマーライブラリとからなる群から選ばれるいずれかのライブラリの高速試験管内スクリーニング方法であり、以下の工程を備えている(図1A及びB)。
【0047】
(i)球状分子から球状構造体P又は球状構造体Nを調製する球状構造体調製工程
(ii)上記工程で得られた上記球状構造体P又は前記球状構造体Nから、標的検出分子を結合させた球状結合体P又は球状結合体Nを調製する球状結合体形成工程
(iii)上記工程で得られた球状結合体を選別する選別工程
(iv)上記各球状結合体の表面の標的分子と結合した核酸分子を増幅する増幅工程
(v)上記(i)~(iv)を繰り返す反復工程。
【0048】
この工程で使用する球状分子としては、セルソーターを用いた選別に使用できる者であれば特に限定されないが、例えば、脂質二重層で構成されたリポソーム、セファロースビーズ、シリカビーズ、ラテックスビーズ、デキストランビーズ、キトサンビーズ、及びポリスチレンビーズ等の分子を挙げることができ、リポソーム、セファロースビーズ、シリカビーズ、及びラテックスビーズを好適に使用することができる。
【0049】
球状分子の粒径は、0.5μm~20μmであることが、精度の高い測定が可能となるために好ましい。上記リポソームは粒子径の制御が難しいが、上記のような各ビーズの表面をリポソームで常法に従って被覆することにより、粒径分布の均一な球状粒子を調製することができ、セルソーターによる選別の精度を向上させることができる。
【0050】
また、球状分子は、その内部にAlexa Fluor 594、Fluorescein Amine、FITC、Rhodamine、mCherry2及びQuantum Dot等の標識を含んでいてもよく、マグネタイトその他の磁化物を含んでいてもよい。また、これらのビーズの外側が、青、赤、緑、黒等に色素によって着色されていてもよい。当該球状粒子は、通常は多孔性ではないが、多孔性であってもよい。また、球状粒子表面が、例えば、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基等の官能基で修飾されていることが、mRNA-タンパク質連結体やmRNA/cDNA-タンパク質連結体上のタンパク質と結合しやすくなる点で好ましい。
【0051】
上記球状粒子は市販品を購入して使用してもよく、例えば、リポソームの場合には、以下のようにして調製したものを使用してもよい。
【0052】
リポソーム(以下、「ベシクル」ということがある。)の調製法は、W/Oエマルジョン法が主流であり、以下のようにして調製する。先ず、リポソームとなる原料となるリン脂質を、アルコールやクロロホルムその他有機溶媒に溶解させて脂質溶液とし、試験管その他のガラス器具の中に注ぎ、有機溶媒を揮発させながらこれらの内壁表面上に薄いフィルムを形成させる。
【0053】
次に、オイルを加えて内壁に形成されたリン脂質のフィルムを溶かし、リン脂質を含むオイルにリポソームの内液となる水溶液を加えてよく混合し、油水混合液とする。この油水混合液をベシクルの外液となる水溶液の上に静かに流し込み、しばらく静置した後に遠心分離する。以上の操作によって、リン脂質一重膜で覆われた液滴が上記オイルと水溶液との界面に形成されたリン脂質一重膜を通過し、リポソームを得ることができる。一般的に、セルソーターで選別可能な細胞その他の物質のサイズは、約0.5μm~20μmと言われているため、このようなサイズのリポソームを作製することが好ましい。
【0054】
リポソーム作製の際に、リポソームの内液として、蛍光標識分子を含む水溶液を使用することが、後述するセルソーターを用いた選別工程において、精度のよい目的とするリポソームの選別を行う上で好ましい。こうした蛍光標識としては、セルソーターで使用可能な蛍光標識であれば特に限定されないが、Alexa Fluor 594、FITC、Rhodamine、mCherry2及びQuantum Dotからなる群から選ばれるいずれかであることが、遺伝子発現が容易に確認できること、及び多重標識ができるという点からさらに好ましい。
【0055】
上記リポソームが、内包した蛍光標識等によって標識されている場合には、リポソーム膜を以下のようなタンパク質又はペプチドで修飾しておくことが、後述するセルソーターを用いた選別工程において、精度のよい選別が可能となるために好ましい。こうした修飾ペプチドとしては、リポソーム膜上にアンカーリングできるペプチド分子、蛍光タンパク質、各種抗体、疾病のマーカータンパク質その他の生体分子をコードする配列を有する標的分子との融合タンパク質等を挙げることができる。
【0056】
また、上記リポソームが蛍光標識等で標識されていない場合には、リポソームの表面にmRNA/cDNA-タンパク質連結体と結合可能な標識された標的分子を結合させるようにすることが、後述するセルソーターを用いた選別工程において、精度のよい選別が可能となるために好ましい。この場合、上記のような蛍光標識で標識されていてもよく、インターカレーターで標識されていてもよい。このようなインターカレーターは、一般的に使用されているものであれば特に限定されないが、SYBR Gold、SYBR Green及びQuantum Dotからなる群から選ばれるいずれかの蛍光分子であることが、蛍光強度及び入手の容易性の点から好ましい。
【0057】
上記球状分子に固定する標的分子は、これと結合する標的検出分子との組み合わせを考慮して選択し、調製する。ここで、標的検出分子とは、上記球状分子に固定された標的分子と結合し得る分子をいい、標的分子が結合された上記球状粒子をポジティブ球状構造体(球状構造体P;図2A)、標的分子が結合されていない上記球状粒子をネガティブ球状構造体(球状構造体N;図2B)という。
【0058】
例えば、上記標的検出分子がストレプトアビジンに結合するRNAアプタマーである場合、又は上記標的検出分子にビオチンが固定されている場合には、ストレプトアビジンを標的分子として選択し、上記の球状結合体P又は球状結合体Nを調製する。上記標的分子を結合させる球状分子として、カルボキシル基で表面が修飾された球状分子を用いる場合には、当該カルボキシル基をN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化させ、NHSエステルを形成させる。その後、ストレプトアビジンと反応させ、NHSエステルとストレプトアビジンのアミンとのアミド結合を形成させて、球状構造体にストレプトアビジンを固定する。このほか、ストレプトアビジンで表面修飾されたシリカビーズ又はラテックスビーズ等の市販の球状分子を使用することも出来る。このようにして得られた、球状構造体P及び球状構造体Nを次の工程に供する。
【0059】
次いで(ii)の球状結合体形成工程では、上記の球状構造体調製工程で得られた球状構造体P又は球状構造体Nと標的検出分子とを反応させる(図2C)。本明細書において、標的検出分子とは、cDNAディスプレイ法によって取得された核酸、核酸誘導体、ペプチド及びこれらにcDNAディスプレイ用リンカーが連結した分子、又はこれらに基づいて作成された核酸アプタマーをいう(図1A)。核酸には、一本鎖オリゴDNA、二本鎖DNA及びRNAが含まれる。また、核酸誘導体には、標的分子、例えば、ストレプトアビジンに結合するRNAアプタマー等が含まれる。また、上記の核酸とリンカーとが連結したものには、例えば、後述するmRNA-タンパク質連結体及びmRNA/cDNA-タンパク質連結体等が含まれる。
【0060】
cDNAライブラリを使用する場合には、(a)cDNAディスプレイ法で使用するためのmRNAを調製するmRNA調製工程と、(b)このmRNAをリンカーと光架橋によって結合させるmRNA-リンカー結合工程と、(c)上記mRNA-リンカー結合体にmRNAが翻訳されたタンパク質を結合させるmRNA-リンカー-タンパク質連結体形成工程と、(d)前記mRNA-リンカー-タンパク質連結体のmRNAを逆転写して、mRNA/cDNA-リンカー-タンパク質連結体を形成させる逆転写工程とを、さらに備えることが、所望のmRNA、cDNA等を、cDNAディスプレイ法を用いて得ることができる点で好ましい。
【0061】
上記球状分子と上記標的検出分子を、所定の結合バッファー中でこれらの分子の濃度が所定の濃度になるように調製し、例えば、約4℃~約30℃で、約0.5時間~約3時間反応させて結合させることができる。
【0062】
(iii)の球状結合体選別工程では、まず、上記の工程で得られた球状結合体P及び球状結合体Nを、所定の溶液中で所定の濃度になるよう調製する。次いで、市販のセルソーターを用いて当該製品の使用説明書に従ってソーティングを行い、目的とする球状結合体を選別する(図2D)。例えば、使用した球状分子がリポソームの場合、リポソーム中の蛍光標識又は標的検出分子(例えば、mRNA/cDNA-タンパク質連結体)と結合した蛍光標識(例えば、インターカレーター)の蛍光強度から、蛍光標識された蛍光リポソーム(以下、「蛍光リポソーム)ということがある」)を選択的に分取する。
【0063】
このとき、リポソームを標識する蛍光標識と、標的検出分子を異なる波長の蛍光を発する標識を用いて標識しておくことにより、異なる2つの励起波長の双方で励起された蛍光標識を有する球状結合体のみを、セルソーターを用いて選別することできるようになる。そして、こうした選別が可能となることから、ソーティングの効率が改善されて所望の標的分子の含有率の高い球状結合体を含む画分を得ることができるようになる。
また、標的結合分子と競合阻害を起こす分子等を上記の結合溶液中に共存させて選択圧をかけることにより、所望の標的分子をより高い割合で有する球状結合体を含む画分を得ることができるようになる。
【0064】
上記球状構造体と標的検出分子の標識との組み合わせを下記表1に示す。表中、「球状構造体P」及び「球状構造体N」は上述した通りである。また、標識1と2はそれぞれ異なる蛍光標識を示す。標的検出分子は、cDNAライブラリから、cDNAディスプレイ法で選択されたリンカー-核酸分子(C)、又は核酸アプタマーライブラリに含まれるアプタマー分子(A)である。
【0065】
【表1】
【0066】
リポソームを使用する場合には、常法に従って作製し分取した蛍光リポソーム画分から、リポソーム形成に用いられなかったリン脂質の塊等を、例えば、遠心分離によって除去し、蛍光物質含有リポソームを精製することができる。
精製されたリポソームを用いて、これらと標的分子とを結合させたポジティブリポソーム結合体(以下、LiBP)及び標的分子を結合させていないネガティブリポソーム結合体(以下、LiBN)をそれぞれ調製し、これらを標的検出分子と上記のような方法で結合させ、その後、セルソーターで選別する。このようなリポソームの選別は、使用するセルソーターの機器によって若干の相違はあるが、約0.1時間~約6時間程度で終えることができる。
【0067】
また、上記選別工程の後に、常法に従ってmRNA-タンパク質連結体中のmRNAの逆転写を行ない、mRNA/cDNA-タンパク質連結体を得てもよい。具体的には、例えば、上記のようにして得られたmRNA-タンパク質連結体を、スチレンビーズその他の磁性体ビーズ上に固定し、その後に逆転写を行う。後述する増幅工程前にこうした逆転写を行なうことが、mRNA/cDNA-タンパク質連結体を効率よく精製できる点で好ましい。
【0068】
その後、所望の洗浄バッファーで上記磁性体ビーズを洗浄し、次いで酵素その他のmRNA/cDNA-タンパク質連結体の遊離剤をここに加えてインキュベートすると、リンカー中の切断部位から切断されたmRNA/cDNA-タンパク質連結体を遊離させることができる。その後、His-タグその他のタンパク質精製用タグを用いてmRNA/cDNA-タンパク質連結体を精製することが好ましい。
【0069】
(iv)の増幅工程では、上記のようにして得られた球状結合体上のmRNA/cDNA-タンパク質連結体(標的検出分子)に含まれるDNAを、常法に従ってPCRにより増幅させる。標的検出分子がRNAの場合は、PCRの前に逆転写を行ない、cDNAを調製する。例えば、まず、上記mRNA/cDNA-タンパク質連結体を、共沈剤、例えば、エタノールを用いて沈殿させ、cDNAを得る。得られたcDNAを所望のPCR反応液に加え、所望のPCRプログラムにより増幅させる。増幅されたDNAを用いて、上記(i)~(iv)の工程を繰り返し、当初のDNAライブラリから、所望の配列を有するDNAを、高速スクリーニングによって得ることができる。上記(i)~(iv)の工程を繰り返す回数は10回以内であることが、DNAの高速スクリーニングには好ましい。当初の1011オーダーのダイバーシチを有するライブラリに含まれるDNAを、数十のオーダーにまで収束させることができるからである。繰り返しの回数を5回以内とすることがより好ましく、3回以内とすることが、コストパフォーマンスの点でさらに好ましい。
【0070】
また、上記(a)~(d)の工程を備えるcDNAディスプレイ法のうち、(a)のmRNA調製工程では、上記選別した一定数のDNAに、プロモーター、及びその他フルコンストラクト作製に必要な配列を結合させてフルコンストラクトのDNAを構築し、このフルコンストラクトDNAからmRNAを調製する(図6)。ここで、「プロモーター」としては、例えば、T7プロモーター、SP6及びT3プロモーター等を挙げることができ、T7プロモーターを使用することが汎用性の点から好ましい。また、「その他フルコンストラクト作製に必要な配列」とは、球状構造体にリポソームを用いた場合における、リポソーム結合配列、Hisタグ、Strep-tagその他の精製用のタグ配列等を挙げることができる。上記のような配列を含むDNA断片を作製し、伸長PCRによってDNAを増幅させ、二本鎖のフルコンストラクトDNA(以下、「プロモーター-DNA結合体」ということがある。)を得ることができる。
【0071】
また、得られたプロモーター-DNA結合体を常法に従って転写し、mRNAを得ることができる。ここで、ScripTMAX(R) Thermo T7 Transcription Kit(東洋紡(株)製)やRiboMAXTM Large Scale RNA Production System-T7(プロメガ社製)、T7 Transcription Kit(コスモバイオ(株)製)その他の市販の転写キットを使用すると、迅速、簡便、かつ精度よく転写を行い、mRNAを調製することができる。
【0072】
続く(b)のリンカー結合工程では、上記で得られたmRNAをcDNAディスプレイ用リンカーと結合させ、リンカー-mRNA連結体を調製する。高速スクリーニングのためには、上記リンカーとmRNAとの連結時間の短縮が必要となるため、短時間で連結させることができるリンカーを使用することが好ましい。こうした短時間での連結は、光架橋で行うことが好ましく、光架橋連結型リンカーを使用することが好ましい。こうした光架橋連結型リンカーとしては、高速光架橋型人工核酸(3-シアノビニルカルバゾール)(以下、「cnvK」ということがある)を主鎖中に含む光架橋型リンカーを使用することが、迅速かつ効率よく、リンカー-mRNA連結体を得られる点で好ましい。
【0073】
具体的には、上記リンカーの主鎖は、(p1)前記リンカーを固相に結合する固相結合部位と、(p2)側鎖を結合する側鎖結合部位と、(p3)mRNA結合部位を有する主鎖と、(p4)前記固相から前記リンカーを切り離す切断部位とを備え、前記側鎖は、(s1)主鎖と結合する主鎖結合部位と、(s2)mRNA-リンカー結合体の検出用標識を結合する標識結合部位と、(s3)mRNAに対応して合成された配列を有するペプチドが結合するペプチド結合部位とを備えている。そして、上記主鎖の切断部位と側鎖結合部位との間にはcnvKが含まれている。また、上記側鎖の標識結合部位は、1以上のスペーサー配列で構成されていてもよく、蛍光標識が結合されている。さらに、上記ペプチド結合部位は、ピューロマイシン又はその類縁体で構成されていてもよい。
【0074】
上記リンカーは以上のような構造を有しているため、T4 RNAリガーゼを使用する場合と比べると、1/30以下という短時間でmRNAと上記リンカーとを連結させることができる。そして、このように短時間でこれらを連結させることができるため、RNaseによるmRNAの分解というリスクを大幅に低減させることができる。また、上記リンカーの側鎖に結合された標識を利用することにより、リンカー-mRNA連結体を容易に選別することもできる。
【0075】
なお、上記のようなリンカー-mRNA連結体は、従来使用されているリンカーと上記のようにして得られたmRNAとをT4RNAリガーゼ等の酵素を用いた酵素的連結手法により調製することもできる。
【0076】
次いで、(c)のmRNA-タンパク質連結体形成工程では、上記で得られたリンカー-mRNA連結体を、無細胞翻訳系を用いて翻訳し、上記リンカーのペプチド結合部位にmRNAに対応する配列のペプチドをディスプレイさせ、mRNA-リンカー-タンパク質連結体を形成させる。無細胞系翻訳としては、ウサギ網状赤血球細胞のライセートその他の市販の網状赤血球細胞のライセートを使用することが、迅速に翻訳が行われ、安定した結果が得られることから好ましい。
【0077】
上記(c)の工程で得られたmRNA-タンパク質連結体(標的検出分子)又は後述する(d)の工程で得られたmRNA/cDNA-タンパク質連結体中のリンカーのペプチド結合部位に結合したペプチドは、前記球状構造体の標的分子と結合するか又は前記球状構造体表面の官能基と直接結合する。これによって、球状結合体を得ることができる。
【0078】
上記mRNA-タンパク質連結体を逆転写してmRNA/cDNA-タンパク質連結体を得る工程は、上記(iii)の選別工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。上記(iii)の選別工程の前に行うと、上記リンカーに結合したmRNAを安定させることができるために好ましい。具体的には、(d)の逆転写工程において、球状結合体中のmRNA-タンパク質連結体を、所定の条件で逆転写させる。すなわち、この逆転写反応の条件は任意に設定することができ、例えば、常法に従って、dNTP混合液と、DTTと、逆転写酵素と、RNAseを除去した水(以下、「RNAseフリー水」という。)を加えて所定の容量の反応系を調製し、所定の温度で所定の時間、逆転写を行わせることができる。また、PrimeScript RT-PCR Kit(タカラバイオ(株)製)又はReverTra Ase(東洋紡(株)製)等の市販のキットを用いて、これらのキットに付属しているプロトコルに従って行ってもよい。上記(iii)の選別工程の後に行う場合については、後述する。
【0079】
以下に、球状構造体にリポソームを使用し、T7プロモーター、Cap配列、Ω配列、Kozak配列、及びHis-tag配列と、所望のペプチドをコードするDNA配列とを使用した場合を例に挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)プロモーター-DNA結合体の調製
所望の配列を有するDNA断片は、常法に従って合成することができる。例えば、まず、ペプチド配列をコードする配列とHis-tagを有する配列のDNAフラグメントを含むPCR反応液を調製し、所望の条件で伸長PCRを行う。その後、このPCR産物にT7プロモーター配列-Cap配列-Ω配列-Kozak配列からなる配列を含むPCR反応液を加えて、所望の条件で伸長PCRを行い、目的の配列のDNAを得ることが出来る。
【0080】
例えば、所望のペプチドをコードする配列とHis-tagを有する配列とを含む、25~75μLのPCR反応液(1×PrimeSTAR バッファー(Mg2+)、0.1~0.4mMのdNTPs、0.01~0.04U/μLのPrimeSTAR HS DNAポリメラーゼ(タカラバイオ(株)製))を調製し、以下のPCRプログラムを用いてオーバーラップエクステンションPCR1を行う。このときのPCRプログラムは、例えば、(a)92~96℃(1~3分)、(b)92~96℃(5~45秒)、(c)50~70℃(2~30秒)、(d)65~80℃(20~40秒)、(e)65~80℃(1~3分)とし、ステップ(b)~(d)を6~10サイクル行うことが、十分な増幅産物を入手できる点から好ましい。
【0081】
次に、上記のオーバーラップエクステンションPCR1で得られたPCR産物を25~75μLのPCR反応液(T7プロモーター配列-Cap配列-Ω配列-Kozak配列からなる配列を含む、0.6μM F1をさらに含む点を除き、上記オーバーラップエクステンションPCR1で使用したものと同じ)に加えて、全量を50~150μLとしたのちに、以下のPCRプログラムを用いてオーバーラップエクステンションPCR2を行う。このときのPCRプログラムを上記と同様とすることが、十分な増幅産物を入手できる点から好ましい。
【0082】
以上のオーバーラップエクステンションPCR2によって得られた二本鎖フルコンストラクトDNAを、例えば、共沈剤(Quick-Precip Plus Solution, EdgeBio社製)を使用して沈殿させた後に、例えば、FavorPrep PCR Clean-Up Mini Kit(Favogen社製)を使用して精製することが好ましい。
【0083】
同様に、所望のペプチドをコードするようデザインしたDNAを含むランダム配列、T7プロモーターとSD配列を含む配列及びYtag配列を用いて、伸長PCRを行い、二本鎖フルコンストラクトDNAを得ることが出来る。この場合は、先ず、ランダム配列及びYtag配列を含むPCR反応液を調製し、所望の条件で伸長PCRを行う。PCRプログラムは、ステップ(b)~(d)を4~10サイクル行う点を除いて上記と同様とすることが、十分な増幅産物を入手できる点から好ましい。
【0084】
その後、得られたPCR産物にT7プロモーター-SD配列を含むPCR反応液を加えて、所望の条件で伸長PCRを行い、目的の配列のDNAを得ることが出来る。PCRプログラムは、上記と同様に、ステップ(b)~(d)を4~10サイクル行うことが好ましい。
【0085】
(2)mRNAの調製
以上のようにして得たDNAを鋳型DNAとして用いて、常法に従って転写を行う。例えば、所定の濃度のT7転写バッファー、rNTPs(各々25 mMのATP,CTP,UTP,GTPを含む混合物)、酵素混合物及び鋳型DNAを含む反応液を、約37℃で約2~約6時間反応させ、その後、RQ-1 RNase-Free DNase(プロメガ社製)を加えて、更に約37℃で約15~30分間反応させる。反応終了後、例えばRNeasy MinElute Cleanup kit (QIAGEN社製)を用いて精製を行い、精製mRNAを得ることができる。
【0086】
こうした転写は、市販されている転写キットを使用してもよく、例えば、RiboMAX Large Scale RNA Production Systems - T7(プロメガ社製)を用いることが、迅速、簡便かつ正確な転写ができることから好ましい。こうしたキットを使用する場合には、キットに付属しているプロトコルに従い、例えば、0.5~5μgのdsDNAを使用して、10~30μLのスケールで転写を行えばよい。汎用されている恒温槽を用いて、所望の条件でインキュベートし、所望量のDNaseを加えて再びインキュベートしてmRNAを得ることができる。
【0087】
また、例えば、アルミブロック恒温槽(Anatech社製、Cool Stat 5200)を使用して、約35~40℃で、約1~3時間インキュベーションし、その後、キットに付属するRQ1 DNaseの0.5~2μLを試料中に加え、さらに約35~40℃で5~30分間インキュベートすることによって、mRNAを得ることが合成効率の上から好ましい。得られたmRNAは、所望のキットを用いて精製することができ、こうした精製キットとしては、例えば、After Tri-Reagent RNA Clean-Up Kit(Favogen社製)等を使用することができる。
【0088】
(3)mRNA-リンカー連結体の調製
(3-1)リンカーの調製
本明細書において、「リンカー」とは、cDNAディスプレイ法において用いられる、リンカー-mRNA連結体、リンカー-mRNA-タンパク質連結体、又はリンカー-mRNA/cDNA-タンパク質連結体(以下、「IVV」ということがある。)のいずれかを生成する際に使用するリンカーのことをいう。また、「mRNA-タンパク質連結体」とは、前記リンカー-mRNA連結体を翻訳し、後述するリンカーのペプチド結合部位に、上記mRNAに対応する配列のペプチドを結合させた、リンカー-mRNA-ペプチド複合体のことをいう。さらに、「mRNA/cDNA-タンパク質連結体」とは、前記mRNA-タンパク質連結体を逆転写して、リンカー主鎖上にcDNAを結合させた、リンカー-mRNA/cDNA-ペプチド複合体のことをいう。
【0089】
前記リンカーは、主としてDNAで構成されるが、cnvKを含むことがmRNAと短時間で光架橋できることから好ましい。また、デオキシイノシン、ビオチン修飾デオキシチミン、Fluorescein修飾デオキシチミン等のDNAアナログを含んでいてもよく、全体として、柔軟性と親水性とを有するように、設計することが好ましい。
【0090】
固相との結合を形成する分子としては、例えば、固相にアビジン及びストレプトアビジン等が結合されている場合にはビオチン又はその類縁体、マルトース結合タンパク質が結合されている場合にはマルトース、Gタンパク質が結合されている場合にはグアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチドが結合されている場合にはNi又はCo等の金属、グルタチオン-S-トランスフェラーゼが結合されている場合にはグルタチオンであることが好ましい。
【0091】
配列特異的なDNA又はRNA結合タンパク質が結合されている場合にはこれらに特異的な配列を有するDNA又はRNA、抗体又はアプタマーが結合されている場合には抗原又はエピトープペプチド、カルモジュリンが結合されている場合にはカルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質が結合されている場合にはATP、エストラジオール受容体タンパク質が結合されている場合にはエストラジオール等を挙げることができる。これらの中でも、ビオチン、マルトース、Ni又はCo等の金属、グルタチオン、抗原分子又はエピトープペプチド等を使用することが好ましく、リンカー合成の容易さの面から、ビオチン又はその類縁体を使用することが好ましい。
【0092】
前記固相結合部位(p1)は、上述したmRNA-タンパク質連結体又はmRNA/cDNA-タンパク質連結体を、リンカーを介して固相に結合させるための部位であり、前記固相結合部位(p1)は、少なくとも1~10塩基で構成されている。例えば、ビオチン修飾デオキシチミジン(dT)、ビオチン、ストレプトアビジンアルキン、クリックケミストリーによるアジ化物、アミノ基、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)、SH基、及びAuからなる群から選ばれるいずれかの化合物と、前記化合物に結合したポリAとで構成されていることが好ましい。上記ポリAは、少なくとも10個以上のアデニンが結合していることが固相と適度な間隔を維持することができ、後述する固相からの切り離しがうまくできることから好ましく、約20個のアデニンが結合していることがさらに好ましい。
【0093】
前記リンカーの3’末端側近傍に位置する側鎖結合部位(p2)は、後述する側鎖が結合する部位である。また、例えば、リンカーの側鎖結合部位(p2)が、Amino-Modifier C6 dTで構成されている場合には、前記側鎖の5'末端を5'-Thiol-Modifier C6として、EMCSを用いて架橋させ、主鎖と側鎖とを結合させることができる。
【0094】
プライマー領域(PR)は、前記リンカーの3’末端側に位置し、前記リンカー上で逆転写が行われる場合に逆転写用のプライマーとして機能する領域であり、前記側鎖結合部位の3’側に隣接している。ここで、プライマー領域(PR)は、前記リンカー上で逆転写が行われる場合に逆転写用のプライマーとして機能する領域である。この領域は、約1~15塩基からなることが好ましく、特に3~5塩基からなることが好ましい。15塩基を越えると、リンカーとしての結合効率が悪くなるため、リンカーとの結合効率及びプライマーとしての反応効率という面から、上記の塩基数とすることが好ましい。
【0095】
前記ペプチド結合部位はピューロマイシン又はその類縁化合物で構成されていることが好ましい。前記ピューロマイシンの類縁化合物としては、3'-N-アミノアシルピューロマイシン(PANS-アミノ酸)及び3'-N-アミノアシルアデノシンアミノ酸のヌクレオシド(AANS-アミノ酸)等を使用することができ、PANSのアミノ酸部分がグリシンであるPANS-Gly、バリンであるPANS-Val、アラニンであるPANS-Ala、PANSアミノ酸の混合物、AANSのアミノ酸部分がグリシンであるAANS-Gly、バリンであるAANS-Val、アラニンであるAANS-Ala、AANSアミノ酸の混合物からなる群から選ばれるいずれかの化合物であることがさらに好ましい。
【0096】
PANS-アミノ酸としては、例えば、PANS-Gly、PANS-Val、PANS-Ala等を挙げることができ、AANS-アミノ酸としては、AANS-Gly、AANS-Val、AANS-Ala等を挙げることができる。また、ヌクレオシドとアミノ酸とがエステル結合したものなども使用することができるが、ピューロマイシンを使用することが、前記ペプチド結合部位におけるペプチドの結合の安定性が高いことから特に好ましい。
【0097】
前記側鎖が、前記ペプチド結合部位と、前記側鎖結合部位との間に蛍光基を有することで、後述するcDNAディスプレイ法の各工程において、リンカーとの結合の有無を容易に検出することが可能となる。蛍光基としては、例えば、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、ホスホロアミダイドに変換可能な水酸基、又はアミノ基等のフリーの官能基を有し、標識された塩基としてリンカーに結合することができる蛍光化合物を使用することが好ましい。このような蛍光化合物としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Cy dye、Alexa Fluorなどを挙げることができ、FITCを使用することがコストの面から好ましい。
【0098】
本発明では、光架橋型リンカー(図7)を使用することが好ましい。主鎖とmRNAとの連結にT4 RNAリガーゼ等の酵素を使用すると、RNAseを完全に除去することが難しく、また、連結に長時間かかるため、mRNAが分解されてしまうことがある。しかし、本発明のリンカーは酵素を使用しないため、mRNAが分解される心配はなく、また、cnvKを含むために、バッファー中ではなく、水中で紫外線照射によってきわめて短時間でmRNAとリンカーとの架橋形成ができるからである。また、この光架橋リンカーの構造は上述した通りである。
【0099】
また、上記固相切断部位(p2)はデオキシイノシンで構成されることが、以下の理由から好ましい。固相から、後述する2つの連結体、すなわち、本発明のリンカーとmRNAとcDNAとの連結体又は本発明のリンカーとmRNAとcDNAとペプチドとの連結体(以下、双方を合わせて単に「融合体」ということがある。)を、固相から切り離すには、エンドヌクレアーゼVを使用する。その際に固相切断部位をデオキシイノシンで構成しておくと、前記リンカーから、固相結合部位ごと固相を特異的に切り離すことができる。
【0100】
以上のような光架橋リンカーは、以下のようにして作製することができる。
まず、cnvKが固相結合部位と、主鎖と側鎖が結合する部位との間の所望の位置になるように本発明のリンカーの主鎖(poly A+cnvKセグメント)を設計し、DNAの化学合成を常法に従って行う。このようなDNA鎖の化学合成は、合成を行う会社に委託してもよい。
【0101】
このような主鎖としては、例えば、図7に示すような逆転写開始部位と、側鎖連結部位と、3-シアノビニルカルバゾールからなる高速光架橋部位と、固相結合部位とを含むように設計することができる。図7に示す主鎖のうち、修飾された部位を除く主鎖の塩基配列を下記の配列(配列番号1)に示す。下記の主鎖は、5'末端にBioTEGが付加されている。また、下記の塩基配列中、Rはイノシンを表し、YはアミノC6-dTを表す。
【0102】
[配列番号1]
5'AAAAAAAAAAAAAAAAAAAARTTCCAGCCGCCCCCCGYCCT 3'
【0103】
リンカーの側鎖(以下、「ピューロマイシン-セグメント」ということがある。)も、所望の配列となるように設計し、Poly A+cnvKセグメントと同様に、DNAの化学合成を常法に従って行う。このようなDNA鎖の化学合成は、合成を行う会社に委託してもよい。
【0104】
このような側鎖としては、例えば、図7に示すように、側鎖連結部位と、蛍光標識と、ペプチド結合部位とを含むように設計することが好ましい。上記側鎖のうち、修飾された部位を除く塩基配列(配列番号2)は、下記の通りである。下記の側鎖は、遊離末端となるP(下記配列のK)はペプチド結合部位としてのピューロマイシンである。また、下記の塩基配列中、Rは5’Thiol C6を、YはFITC-dTを、そしてMは Spacer18をそれぞれ表す。
【0105】
[配列番号2]
5' RTCTYMMCCK
【0106】
例えば、上記のような配列を有する主鎖を、10~20nmol(終濃度100~200μM)を含む0.1~0.3Mのリン酸ナトリウム(pH 7.0~7.4)に、EMCS((株)同仁化学研究所製)を終濃度が15~18mMとなるように加えて、約37℃で20~40分インキュベートし、その後、エタノール沈殿させる。好ましくは、約15nmolの上記主鎖(終濃度約150μM)を含む0.1~0.3Mのリン酸ナトリウム溶液(約pH 7.2)に、EMCSを終濃度約16.7mMとなるように加え、約37℃で約30分インキュベートし、その後、例えば、Quick-Precip Plus Solution(Edge BioSystems社製)等を用いてエタノール沈殿させて、修飾する。
【0107】
次に、30~45nmol分の側鎖を終濃度が400~430μMとなるように、40~60mMのDTTを含む0.8~1.5Mのリン酸水素ナトリウム水溶液に溶解し、シェーカーを用いて、室温で0.75~1.5時間撹拌する。引き続き、この溶液についてバッファー交換を行う。好ましくは、約37.5nmol分の側鎖を終濃度が約417μMとなるように、約50mMのDTTを含む約1Mのリン酸水素ナトリウム水溶液に溶解し、シェーカーを用いて、室温にて約1時間撹拌する。引き続き、バッファー交換を行う。例えば、NAP5カラム等を用いて、約0.15MのNaClを含む約0.1Mのリン酸ナトリウム(約pH 7.0)にバッファーを交換し、還元側鎖を得る。
【0108】
続いて、上記のようにバッファー交換を行った還元側鎖を含む溶液を、上記のEMCS修飾済みの主鎖のエタノール沈殿産物と混合し、2~6℃で一晩放置する。その後、終濃度が40~60mMとなるようにDTTを上記反応液に投入し、室温で15~60分間撹拌する。その後、エタノール沈殿を行い、得られたエタノール沈殿産物を50~200μLのヌクレアーゼフリー水に溶解して精製を行う。好ましくは、上記のバッファー中にて、バッファー交換した還元側鎖を含む溶液を、上記のEMCS修飾済み主鎖のエタノール沈殿産物と混合し、約4℃で一晩放置する。その後、終濃度が約50mMとなるようにDTTを上記の反応液中に加え、室温で約30分間撹拌し、その後、例えば、Quick-Precip Plus Solution(Edge BioSystems社製)を用いて、エタノール沈殿を行なう。得られたエタノール沈殿産物を、約100μLのヌクレオチドフリー水に溶解し、例えば、以下の条件でC18カラムを用いたグラジエント溶出によりHPLCで精製を行い、光架橋型リンカーを得ることができる(図8)。
【0109】
グラジエント溶出に使用する溶出液は、例えば、A液を0.05~0.2Mの酢酸トリメチルアンモニウム(超純水中)、B液を75~85%アセトニトリルとし、開始時の溶出期中のA液の割合を、40~50分かけて、20%ほど低下させるようにしてもよい。流速は0.5~1.5ml/分とし、画分は0.5~1.5mLとすることができる。好ましくは、A液を約0.1Mの酢酸トリメチルアンモニウム(超純水中)、B液を約80%アセトニトリルとし、開始時の溶出期中のA液の割合(約85%)を、40~50分かけて、約65%に低下させるようにする。流速は約1.0ml/分、画分は約1.0mLとする。
【0110】
上記の画分中の成分を蛍光及び紫外吸収(例えば、280nm)で確認し、双方の検出手段でピークが見られる画分を集めて、真空エバポレターを用いて溶媒を蒸発させ、その後、エタノール沈殿等を行ない、ヌクレオチドフリー水に溶解することによって、本発明のリンカーを製造することができる。例えば、30~32分までの画分で、蛍光とUVの両方でピークが見られる場合には、30~32分までの画分を集め、真空エバポレターを用いて溶媒を蒸発させる。その後、例えば、Quick-Precip Plus Solutionを用いてエタノール沈殿を行ない、光架橋リンカーを得る。得られた光架橋リンカーは、ヌクレアーゼフリー水に溶解させて約-20℃で保存すればよい。
【0111】
なお、本発明では、従来の酵素型リンカーを使用することもできる。まず、所望の配列となるように、常法に従ってDNAを合成し、主鎖として使用するための一本鎖のオリゴマーを作製する。このように合成した一本鎖オリゴマーは、上述したように、固相結合部位と、2以上の切断部位と、mRNA結合部位と、側鎖結合部位と、プライマー領域とを備えている。2以上の切断部位の大きさ及び主鎖中の位置によって、主鎖となる一本鎖オリゴマーの長さを適宜決定する。次いで、所望の長さの側鎖を合成し、主鎖上の側鎖結合部位に結合させる。側鎖の遊離末端に、例えば、ピューロマイシンを導入し、上述したFluorescein-dTを蛍光標識部位に導入して、本発明のmRNA/cDNA-ペプチド連結体作製用リンカーを得ることができる。
【0112】
主鎖の設計に際しては、各種のmRNAのコード配列を参考にすることができる。例えば、配列が知られている各種のレセプタータンパク質をコードするmRNA、各種抗体又はその断片をコードするmRNAその他のmRNA等を挙げることができる。mRNAのコード配列から翻訳されて生成されたポリペプチド鎖のC末端に、ピューロマイシンやその類縁体といったアミノアシルtRNAの3'末端アナログが取り込まれ、前記ポリペプチド鎖とリンカー-mRNA連結体とが結合されるためには、終止コドンを含まない配列を選択する。こうしたmRNAは、in vitro転写反応、化学合成、生体・細胞・微生物からの抽出その他の各種の方法を用いて得ることができるが、in vitro転写反応を用いて作製すると、リンカーとの結合及び無細胞翻訳の反応効率が高い。
【0113】
また、5’末端の7-メチル化グアノシンキャップ構造、又は3’末端のポリA尾部構造の少なくとも一方の構造を有するものであることが、タンパク質の合成効率の点から好ましい。Kozak配列や、Shine-Dalgarno配列を有することが、翻訳の開始を促進することから、さらに好ましい。ここで使用するmRNAの長さは、原則として本発明を利用して分子進化させるべきタンパク質又はポリペプチドの長さより規定されるコード領域の長さに依存する。50~1,000塩基長であることが、反応効率の面から好ましく、200~500塩基であることが、最も高い反応効率を得られることから、さらに好ましい。
【0114】
(3-2)mRNAとリンカーのライゲーション
上記で得られたmRNAと本発明のリンカーの光架橋を300~400nmの長波長のUVを0.5~5分間照射してライゲーションを行う。長波長でしかも照射時間も短いことから、合成されたcDNA中でチミンダイマーが形成されるといった障害が発生することもなく、使用したmRNAに対応する所望のペプチドを得ることができるという利点がある。
【0115】
(3-3)mRNA-リンカー連結体の無細胞翻訳によるmRNA/cDNA-タンパク質連結体の調製
mRNA-リンカー連結体の無細胞翻訳には、哺乳類の網状赤血球細胞のライセートを利用することが好ましく、ウサギの血液から得られた網状赤血球細胞のライセートを利用することがさらに好ましい。また、前記哺乳動物に予めアセチルフェニルヒドラジンを投与して溶血性貧血等を誘導し、数日間経過した後に採血をすると、血中の網状赤血球の割合を高めることができる。例えば、前記ライセートとして、マイクロコッカルヌクレアーゼによって細胞由来のmRNAを分解し、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)を加えてカルシウムをキレートし、前記ヌクレアーゼを不活化処理したもの(以下、「マイクロコッカルヌクレアーゼ処理済」という。)を使用する。
【0116】
例えば、約16~約400mMの酢酸カリウム、約0.1~約2.5mMの酢酸マグネシウム、約0.2~約50mMのクレアチンリン酸、0~約0.25mMのアミノ酸を含む反応液(濃度はいずれも終濃度)10~100μL中に、マイクロコッカルヌクレアーゼ処理済のウサギ網状赤血球ライセートと上記連結体とを加えて、翻訳反応を行うことができる。
【0117】
反応効率の点から、ウサギ網状赤血球ライセートの量を約8.5~約17μL、上記連結体の量を約1.2~約2pmolとし、反応系のサイズを約12.5~約25μLとして、約20~約40℃で約10~約30分間行う。この場合に使用する反応液は、約80mMの酢酸カリウム、約0.5mMの酢酸マグネシウム、約10mMのクレアチンリン酸、それぞれ約0.025mMのメチオニン及びロイシン、約0.05mMのメチオニン及びロイシン以外のアミノ酸を含む。約30℃で約20分間翻訳を行うと、生成効率と作業効率が高い。
【0118】
翻訳反応後、翻訳産物であるペプチドとリンカー-mRNA連結体とを、例えば、約0.3~約1.6Mの塩化カリウム及び約40~約170mMの塩化マグネシウムの存在下(濃度はいずれも終濃度)、約27~約47℃で、約30分~約1.5時間反応させると、ペプチドを上記連結体と効率よく結合させることができる。
【0119】
(4)球状構造体の調製
(4-1)球状分子の調製
球状分子として、リポソームを使用する場合を例に挙げて説明する。光学顕微鏡で確認でき、セルソーターで使用可能な巨大リポソームは、W/Oエマルジョン法により調製することができる。先ず、リン脂質をクロロホルムに対して5~15mMとなるように調製する。この溶液をガラス製の試験管内に入れ、この溶液に窒素ガスを吹き付けてクロロホルムを除去し、試験管の内壁にリン脂質の薄いフィルムを形成させる。ここで、リン脂質としては、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、卵フォスファチジルコリン(eggPC)等を用いることができる。
【0120】
次にその試験管中に流動パラフィンを200~400μL加えて55℃~65℃で、一時間以上にわたって超音波振動をかけることにより、脂質を流動パラフィンに溶解させる。超音波振動をかけた後、この溶液中に所望量のリポソームの膜内溶液を加え、超音波振動をかけることにより30秒以上激しく混合する。リポソーム膜内溶液として、25~75mM NaCl及び27~75mM tris buffer(pH7.5)を含んだ0.1~0.4Mのグルコースを使用することができる。
【0121】
またこのリポソーム膜内溶液に、フローサイトメトリーで使用可能な蛍光標識を加えてリポソームを標識することが出来る。こうした蛍光標識としては、AMCA、Pacific Blur、Alex Flur 405、Pacfic Orange、Krome Orange、Brilliant Violet 421、Brilliant Violet 510、Brilliant Violet 605、Brilliant Violet 650、Brilliant Violet 711、Brilliant Violet 785、Alex Flur 488、Quantum Dot、FITC、PE/RD1、ECD、PE-TexasRed、PC5、SPRD、PE-Cy5、PC5.5、PE-Cy5.5、PerCP、PerCP-5.5、PE-Alex Fluor 700、PE-Alex Fluor 750、PC7、PE-Cy7、TRITC、Cy3、Alex Fluor 594、TexasRed、Alex Flur 594、Alex Flur 700、Cy5、Cy5.5、APC、APC7、APC-Cy7、APC Alexa Fluor 700、APC Alexa Fluor 750、Hoechst33342、DAPI、DyeCycle Violet、Chromomycin A3、PI、YOYO-1、CPO、Pyronin Y、7-AAD、Ethidium homodimer-1、SYTO9、SYBR Greeen I、LDS751、DRAQ5、DRAQ7、TO-PRO3、Indo-1(AM)、Fluo-3(AM)、Fluo-4(AM)、Fura Red (AM)、BCECF(AM)、SNARF-1(AM)、Fluorecein、R110、EBFP、ECFP、Keima-Red、AmCyan、EGFP、ZsGreen、EYFP、mBanana、mOrenge、DsRed、tdTomato、mCherry、mCherry2、E2-Crimson、Kusabira-Orange、JC-1、Rhodamine、mCIB、CMFDA、CFSE、DiOC2(3)、DiBAC4(3)、PKH26、DCFH-DA、DHR、FDA、Calein AM、Nile Red、Fluorescein Amine等を挙げることができる。
【0122】
また、上記蛍光標識から、異なる蛍光波長を有する複数の蛍光標識を選択してリポソームを標識することが、精度良く目的の蛍光リポソームを選択できる点で好ましい。例えば、緑色蛍光を発するFluorescein Amineと赤色蛍光を発するAlexa Fluora 594を選択し、又は緑色蛍光を発するFITCと赤色蛍光を発するmCherry2を選択し、これらの蛍光標識で二重標識すると、精度よく蛍光標識されたリポソーム(以下、「蛍光リポソーム」ということがある。)を選択することができる。
【0123】
その後、例えば、Tris buffer (pH7.5)やNaClを含む0.1~0.5Mグルコース溶液をリポソーム膜外液として用い、この外液の上に、リポソーム膜内溶液を静置し、室温で遠心分離を行う。これにより、リン脂質一重膜で覆われたリポソーム膜内混合液の液滴が、オイルとリポソーム膜外液の界面に形成されたリン脂質一重膜を通過することで、リポソームが形成される。その後、上部に存在する流動パラフィンを除去し、リポソームを含む溶液を得ることができる。
【0124】
また、上記で得たリポソームの膜を常法に従って蛍光標識することができる。また、市販のキット、例えば、Green-fluorescent Cytoplasmic Membrane Staining Kit(タカラバイオ(株)製)を用いて、緑色蛍光を発するカルボシアニン色素でリポソーム膜を蛍光標識してもよい。この他、例えば、Orange-fluorescent Cytoplasmic Membrane Staining Kit(タカラバイオ(株)製)を用いてオレンジに、Red-fluorescent Cytoplasmic Membrane Staining Kit(タカラバイオ(株)製)を用いて赤色に、Blue-fluorescent Cytoplasmic Membrane Staining Kit(タカラバイオ(株)製)を用いて青色に標識することもできる。こうした標識によって、蛍光リポソームをセルソーターで識別することもできる。
【0125】
さらに、リポソームの膜に結合するタンパク質と標識分子とからなる融合タンパク質を用いて、表面に標識分子を修飾することができる。例えば、リポソーム膜に対するアンカーとして機能するLB-1ペプチドをコードする配列、標識分子としてのmCherry2やGFPその他の蛍光タンパク質、各種抗体、疾病マーカーとなるタンパク質その他の生体分子をコードする配列、及びHisタグ等を含む配列を合成する。次いで、これらを、ベクターのマルチクローニングサイトに導入し、常法に従って、LB-1と蛍光タンパク質からなる融合タンパク質を大腸菌で発現させ、その後、例えばHisタグによる精製を行って融合タンパク質を得ることができる。
【0126】
得られた融合タンパク質を所定の濃度で上記リポソーム溶液に加えて良く撹拌すると、LB-1タンパクがリポソーム膜に結合し、リポソーム膜表面に標識分子が露出する。標的分子が蛍光タンパク質である場合、顕微鏡観察するとリポソーム膜が蛍光標識で標識された像を得ることができる。
【0127】
(4-2)mRNA-タンパク質連結体又はmRNA/cDNA-タンパク質連結体とリポソームとの結合
上記のようにして得られたmRNA-タンパク質連結体又はmRNA/cDNA-タンパク質連結体は、リンカーのペプチド結合部位に結合したペプチドとリポソーム膜の標的分子とが結合するか、又は、リンカー上のペプチドがリポソーム膜の官能基と直接結合することによって、リポソームと結合する。例えば、Magainin2、PGLa、Melittin等の抗菌ペプチドは、細菌の細胞膜に結合する。これらのペプチドは、アミノ酸残基が15~40ほどで、塩基性アミノ酸と疎水性アミノ酸のクラスターからなる両親媒性であることから、その多くが細菌細胞膜表面に結合するとαヘリックス構造をとるという性質を有している。この性質を利用して、リポソーム膜結合タンパク質をコードするDNAをデザインし、mRNA-タンパク質連結体又はmRNA/cDNA-タンパク質連結体とリポソームを結合させ、球状結合体としてのリポソーム結合体を得ることができる。
【0128】
(5)逆転写
逆転写は、セルソーターによる選別工程の前に行ってもよく、又は後に行ってもよい。mRNA-タンパク質連結体のリンカー上の主鎖の3’末端を反応開始点とし、前記mRNAを鋳型として、所定の条件の下で、常法に従ってcDNA鎖を合成することにより、mRNA/cDNA-タンパク質連結体が得られる。逆転写反応系は任意に選択でき、特に限定されないが、上記リンカー-mRNA連結体と、dNTP混合物と、DTTと、逆転写酵素と、標準溶液と、RNAseを除去した水(以下、「RNAseフリー水」という。)とを加えて反応系を調製し、この系中にて、5~20分間、30~50℃の条件で逆転写を行わせることが好ましい。また、市販のキットを使用して逆転写を行ってもよい。例えば、PrimeScript RT-PCR Kit(タカラバイオ(株)製)やReverTra Ase(東洋紡(株)製)を用いて、付属のプロトコルに従って逆転写を行うことができる。
【0129】
(6)ソーティング
汎用のセルソーターで、マニュアルに従って蛍光リポソームのみをセルソーティングする。複数の蛍光色素を使用した場合は、適宜蛍光補正を行い、標識した蛍光色素の蛍光強度分布から、目的の蛍光リポソームの領域を特定する。具体的には、目的のペプチドと類似の機能を有する対照サンプルをリポソームとを反応させ、ヒストグラム上で蛍光領域を特定し、目的サンプルで同様の領域から蛍光リポソームを選択分取することもできる。
【0130】
例えばMagainin 2、PGLa、Melittin等の細胞膜に結合する抗菌性ペプチド様のペプチドをコードするDNAをデザインした場合、予め、これら抗菌性ペプチドと蛍光標識したリポソームとを反応させ、セルソーターで蛍光領域を特定しておく。そして、上記抗菌ペプチドの性質を考慮して、リポソーム膜に結合するペプチドをコードするDNAをデザインし、セルソーターの解析図から、上記で特定した領域と同様な領域で囲むことによって、目的とするペプチドが結合したリポソーム結合体(以下、「蛍光リポソーム結合体」ということがある)を分取することができる。
【0131】
ソーティング後のリポソーム結合体の溶液をボルテックス等で撹拌し、リポソーム結合体からcDNA ディスプレイ分子(mRNA-タンパク質連結体、mRNA/cDNA-タンパク質連結体)を遊離させ、この溶液を遠心して脂質を含む有機相とcDNAディスプレイ分子を含む水相とを分離する。水相中に溶解したcDNAディスプレイ分子から、エタノール沈殿又は核酸カラム精製の方法を用いて、mRNA-タンパク質連結体又はmRNA/cDNA-タンパク質連結体を精製することができる。
【0132】
(7)PCR用サンプルの調製
上記の精製によって得られたmRNA-タンパク質連結体は、逆転写を行う際に、所望の固相に固定化することができる。固相としては、例えば、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ等のビーズ;ガラス基板、シリコン(石英)基板、プラスチック基板、金属基板(例えば、金箔基板)等の基板;ガラス容器、プラスチック容器等の容器;ニトロセルロース、ポリビニリデンフロリド(PVDF)等の材料からなるメンブレンなどが挙げられる。
【0133】
固相がスチレンビーズ、スチレン基板などのプラスチック材料で構成されている場合には、必要に応じて、公知の手法を用いてリンカーの一部を直接それらの固相に共有結合させてもよい(Qiagen社製、LiquiChip Applications Handbook等参照)。mRNA/cDNA-タンパク質連結体にビオチン又はその類縁体が結合されている場合には、固相にアビジンを結合させておけば、上記連結体を容易に固相に結合させることができる。
【0134】
上記固定化して得られたmRNA/cDNA-タンパク質連結体から磁性体ビーズを除去し、リンカー-mRNA/cDNA連結体を回収する。まず、所望の洗浄バッファーで上記磁性体ビーズを洗浄し、次いで遊離剤を加えてインキュベートし、リンカー中の切断部位から切断されたリンカー-mRNA/cDNA連結体を遊離させる。こうした洗浄バッファーとしては、例えば、1xHis-タグ洗浄バッファー(10~30mM リン酸ナトリウム(pH7.4), 0.25~0.75M NaCl, 10~30mM イミダゾール, 0.025~0.1%Tween-20を含む)や、1× NEB 4 bufferを使用することができる。また、遊離剤としては所定の濃度のRNA分解酵素、例えば、500~1,500UのRNAse T1を含む1xHis-タグ洗浄バッファーや10UのEndoNucleaseV(New England Biolabs社製)を含む1× NE buffer等を使用することができる。
【0135】
リンカー-mRNA/cDNA連結体は、His-タグタンパク質精製用ビーズ等を用いて精製することができる。こうしたHis-タグタンパク質精製用ビーズとしては、His MagセファロースNi(GE healthcare社製)等を使用することができる。His-タグタンパク質精製用ビーズを、予め上記His-タグ洗浄バッファーで洗浄する。次に、洗浄済の上記His-タグタンパク質精製用ビーズに、回収した上記リンカー-mRNA/cDNA連結体を加え、所望の条件でインキュベートし、上記ビーズを上記His-タグ洗浄バッファーで洗浄した後に、His-タグタンパク質溶出バッファーを加えて所望の条件で撹拌し、精製リンカー-mRNA/cDNA連結体を得ることができる。
【0136】
上記精製リンカー-mRNA/cDNA連結体を、所望のプライマーを用いてPCR法を用いて増幅させ、所望のコード配列を含むDNAライブラリを作製することができる。例えば、精製リンカー-mRNA/cDNA連結体を含む溶液を、例えば共沈剤(Quick-Precip Plus Solution, EdgeBio社製)を使用して沈殿させ、PCR反応液を加え、所望のPCRプログラムを行う。
【0137】
また、以下に、標的分子としてストレプトアビジンを、標的検出分子としてRNAアプタマーを使用した場合を例に挙げて説明する。
【0138】
(1)DNA及びRNAアプタマーの作成
標的分子であるストレプトアビジンに結合するRNAアプタマーとして、公知のストレプトアビジン結合RNAアプタマー(以下、「SAB-RNAアプタマー」という)を用いることが出来る。例えば、SAB-RNAアプタマー及びストレプトアビジンが結合しないRNAアプタマー(以下、「SAN-RNAアプタマー」という)のDNAは、転写後に目的のRNAを作製できるように、両者のRNAアプタマーの5’側にT7プロモーター配列を有する配列として構築する。
【0139】
SAB-RNAアプタマーのDNAを作製する場合には、下記表2に示す以下の配列のプライマーをそれぞれ作製して使用する。当該5’プライマーのうち、3番目~22番目がT7プロモーター配列である。
【0140】
同様に、SAN-RNAアプタマーのDNAを作製する場合には、以下の配列のプライマー(配列番号12)を作製し、配列番号11のプライマーとともに使用する。当該5’プライマーのうち、3番目~22番目がT7プロモーター配列である。
【0141】
【表2】
【0142】
DNAポリメラーゼ、例えばTaq DNAポリメラーゼ、及びdNTPを含むDNA合成反応溶液を調製し、それぞれ上記2つのプライマーを所定の濃度になるよう加え、オーバーラップエクステンション法により、各DNAを合成する。DNA合成反応溶液は、PrimeSTAR(タカラバイオ(株)製)等の市販されているキットを使用することができる。また、オーバーラップエクステンションの条件は、95~98℃で30秒~1分30秒、60~62℃で5~10秒、71~73℃で20~40秒反応させた後、10℃まで冷却させる。その後、常法に従ってDNAの精製を行う。こうした精製は、例えば、FavorPrep PCR Clean-Up Mini Kit(Favorgen社製)等の市販されているキットを用い、添付のマニュアルに従って行うことができる。
【0143】
次いで、RNAポリメラーゼ、例えばT7 RNAポリメラーゼ、及びrNTPを含む転写反応液を調製し、精製後のDNAを所定量加え、37℃で20分~1時間インキュベートし転写反応を行う。その後、例えば、切り出し精製や、RNeasy MinElute Cleanup kit (QIAGEN社製)等のキットを用い、添付のマニュアルに従って精製を行うことができる。得られたSA結合RNAアプタマー及び非結合RNAアプタマーを球状構造体との結合に供する。
【0144】
(2)標的分子の球状構造体への固定化
標的分子であるストレプトアビジンを球状構造体に固定するため、例えばカルボキシル基等の官能基で修飾された球状構造体を選択することができる。こうした球状構造体は、市販されているものを使用することができ、例えば、Sicastar(登録商標:マイクロモッド社製)等のシリカビーズ、及びMicormer(登録商標:マイクロモッド社製)等のラテックスビーズを購入して使用することができる。
【0145】
表面がカルボキシル基で修飾された球状構造体を選択した場合、カルボキシル基をイミド化合物で活性化させNHS化した後、タンパク質であるストレプトアビジンと結合させる。例えば、球状構造体にカルボキシル基で修飾されたシリカビーズを用いる場合には、先ず、遠心チューブにシリカビーズを約10~約30μL加えて約15,000rpm(約20,000xg)で3~7分間、室温にて遠心し、その後、上清を除去する。続いて、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略すことがある。)を約80~約120μL加えてよく撹拌し、その後、約15,000rpm(約20,000xg)で約3~7分間遠心して上清を除去する(洗浄工程)。
【0146】
この洗浄工程を数回繰り返した後、約40~約60μLの約100~約300mMのNHS溶液、及び約40~約60μLの約100~約300mMの1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(以下、「EDC」ということがある。)を加え、約20~約30℃で約1~約3時間撹拌する。撹拌後、約15,000rpm(約20,000xg)で約3~7分間遠心して上清を除去する。ここで、上記の洗浄工程を数回繰り返す。洗浄後、約80~約120μLの約5~約15μMのストレプトアビジンを加えて、室温で終夜撹拌する。
【0147】
撹拌後、約15,000rpm(約20,000xg)で約3~約7分間遠心して上清を除去する。次いで、ここに超純水を約80~約120μL加えてよく撹拌し、その後上清を除去する。この洗浄工程を数回繰り返す。最後に、HEPES-Na buffer (pH約7.2~約7.6)を約10~約30μL加えて、ストレプトアビジンを固定したシリカビーズ(ポジティブ球状構造体)を分散させ、ポジティブ球状構造体含有液を得ることができる。
【0148】
また、上記球状構造体を調製する際は、表面に官能基が修飾されたものの他、赤、青及び緑等の標識を有する球状構造体を使用することができ、これによりソーティングの効率を上げることができる。これらの標識を有する球状構造体は、市販されているものを使用することができる。ここで、標識には、蛍光タンパク質、蛍光色素等が含まれる。
【0149】
(3)球状結合体形成及びソーティング
上記のようにして得られた球状構造体に、標的分子(ストレプトアビジン)を固定したポジティブ球状構造体(球状構造体P)、標的分子が固定されていないネガティブ球状構造体(球状構造体N)、SAB-RNAアプタマー及びSAN-RNAアプタマーを、30%グリセロールを配合したHEPES-Naバッファー (pH約7.2~7.4)に所定の濃度になるように加え、室温で約30分~約1.5時間反応させ、球状構造体Pに主としてSAB-RNAアプタマーが結合したポジティブ球状結合体(球状結合体P)、ネガティブ球状構造体に主としてSAN-RNAアプタマーが結合したネガティブ球状結合(球状結合体N)体を得ることができる。
【0150】
上記球状結合体P及び球状結合体Nに所定の濃度のHEPES-Naバッファー (pH約7.2~7.4)を加えたのち、FACSを用いてソーティングを行う。ソーティングは、使用した球状構造体の標識及びサイズ等に応じた設定を行ない、使用する機械のマニュアルに従って行う。
【実施例
【0151】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は、あくまでも例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
(実施例1)標識された球状構造体の調製
上述した通り、リポソームは各種ビーズの表面をコートするためにも使用できるため、球状分子として、リポソームを使用した。
(1)試薬の調製
(1-1)リン脂質含有クロロホルム溶液
リポソームを構成するリン脂質として、ジオレオイルホスファチジルコリン及びジオレオイルホスファチジルグリセロール(いずれも、Avanti社製)を、各リン脂質の終濃度が10mMとなるようにクロロホルム(和光純薬工業(株)製)に溶解させ、下記表3に示す組成のリン脂質含有クロロホルム溶液を調製した。
【0152】
【表3】
【0153】
(1-2)蛍光リポソーム膜内溶液及び膜外溶液の調製
蛍光標識を含有するリポソーム(以下、「蛍光リポソーム」ということがある。)を調製するために、下記表4に示す配合の蛍光物質を含んだリポソーム膜内溶液及び下記表5に示すリポソーム膜外溶液をそれぞれ調製した。表に示すスクロース、グルコース、NaCl、Tris-塩酸はいずれも和光純薬工業(株)より、フルオレセインアミンはシグマ-アルドリッチ社より、また、トランスフェリン-アレクサFluor 594(以下、単に「アレクサ」ということがある。)はライフテクノロジー社よりそれぞれ購入した。
【0154】
【表4】
【0155】
【表5】
【0156】
(2)リポソームの調製
リポソームの調製は、以下のようにwater/oil Emulsion法により行った。先ず、全長30mmのダーラム試験管((株)マルエム製)に上記(1)で調製したリン脂質含有クロロホルム溶液を20μL入れ、このクロロホルム溶液に窒素ガスを吹き付けてクロロホルムを蒸発させ、ダーラム試験管の内壁にリン脂質の薄いフィルムを形成させた。リン脂質の薄いフィルムが形成されたダーラム試験管を真空ポンプ付きデシケーター内に静置し、1時間以上かけて残存するクロロホルムを除去した。デシケーターから取り出した後、このダーラム試験管内に流動パラフィン(和光純薬工業(株)製)を150mL加え、60℃で1時間以上ソニケーター中に置いてリン脂質を流動パラフィンに溶解させ、リン脂質含有パラフィン溶液とした。
【0157】
その後、このリン脂質含有パラフィン溶液中に蛍光標識であるアレクサを含むリポソーム膜内溶液を20μL加え、30秒以上超音波振動機を用いて激しく混合した。その後、この溶液中に200μLのリポソーム膜外溶液をゆっくりと加えて、30分以上室温にて静置した。その後、多目的微量遠心機SWING MAN((株)ハイテック製)を用いて、室温にて4,200xgで10分間、遠心分離を行った。遠心後、溶液の上部にある流動パラフィンをピペットマンで除去し、蛍光標識を内包するリポソーム含有溶液を回収した。
【0158】
(3)蛍光標識を内包するリポソームの精製
以上のようにして回収した蛍光標識を内包するリポソーム(以下、「蛍光リポソーム」ということがある。)溶液を、室温にて1,000xgで10分間遠心し、リポソーム形成に至らなかったリン脂質の塊等の浮遊物を除去し、蛍光リポソームを精製した。
【0159】
(4)共焦点レーザー顕微鏡による観察
上記のようにして調製した蛍光リポソームを、以下のようにして顕微鏡で観察した。先ず、厚さ200μmのシリコンシート(アズワン(株)製)を20×20mmサイズ(カバーガラスサイズ)に切り分け、その中心に市販の穴あけパンチで直径5mmの開口部を形成した。カバーガラスにこのように開口部を形成したシリコンシートを載せ、上記開口部が形成するくぼみに蛍光リポソーム含有溶液を5μLほど滴下し、別のカバーガラスで蓋をして試料とした。このようにして作製した試料をサンプル台に載せ、共焦点レーザー顕微鏡FV-1000D(オリンパス(株)製)で、精製された蛍光リポソーム溶液(以下、「蛍光リポソーム浮遊液」ということがある。)の状態を観察した。
【0160】
その結果、フルオレセインアミン及びトランスフェリン-Alexa Fluor 594を封入してもリポソーム形成には影響がないこと(図3A)、及び形成されたリポソームの粒径は数μm~数十μmのサイズとなることが明らかになった。また、2つの蛍光色素は、共に共焦点顕微鏡で観察するのに十分な蛍光強度を有することも確認できた(図3B及びC)。
【0161】
(5)FACSによる、蛍光リポソーム領域の同定
セルソーターとしてFACSを使用した。FACSによる蛍光リポソーム浮遊液の分取するに先立って、実験の再現性に大きく影響するリポソームの安定性を確認した。リポソームの安定性の確認のために、脂質膜に結合して膜を破壊する性質を有するMagainin 2(SIGMA-ALDRICH社製)を使用した。
Magainin 2の添加量を変化させると、FACSのヒストグラム上に変化が現れるため、その結果からリポソームを分取すべき領域の同定を行った。先ず、蛍光リポソーム浮遊液のみをFACSで解析した。続いて、400μLの上記蛍光リポソーム浮遊液に、400μMのMagainin 2(終濃度10μM又は30μM)を加え、室温で1時間反応させた。その後、孔径40μmのフィルターを用いてろ過し、FACS(Cell Sorter SH800:ソニービジネスソリューション(株)製)を用いてろ液の蛍光強度解析を行った。
【0162】
その結果、Magainin 2未添加試料では、2種の蛍光強度が共に高い領域(以下、「高領域」ということがある。)と、共に低い領域(以下、「低領域」ということがある。)の、2つの領域があることが確認された(図4A)。一方、Magainin 2を10μM添加した試料では低領域が消失し(図4B)、Magainin 2を30μM添加した試料では、高領域及び低領域がいずれも消失した(図4C)。このことから、高領域及び低領域に蛍光リポソームが存在することが確認された。また、高領域に比べて、低領域が広範囲に分布していることから、蛍光リポソームを分取する領域の再現性を考慮して、本発明のスクリーニングを行う際は、高領域からリポソームを分取することにした。
【0163】
(実施例2)蛍光リポソーム結合体の調製
(1)DNAライブラリの作製
リン脂質膜に作用するペプチドは、リシンとアルギニンとを多く含み、リン脂質膜において両親媒性のαへリックス構造をとりやすい配列とする必要がある。このため、αへリックス車輪図を用いて、当該車輪図の右半分(A)にリシン及びアルギニンを含む極性アミノ酸残基、左半分(B)に非極性アミノ酸となるように出現位置を調整し、DNAライブラリを図5のA及びBの上に示された5’-3’の線のようにデザインした。
【0164】
上記DNAライブラリは、以下のようにして作製した。まず、全長244merの配列を、オーバーラップ領域を含むように、ランダム領域(配列番号3)、R-Ytag領域(配列番号4)及びT7-PRO-SD領域(配列番号5)という3つの領域に分けてそれぞれDNA配列断片を作製し、これらを伸長PCRによって伸長させて全長配列とした。ランダム領域、R-Ytag領域及びT7-PRO-SD領域は、つくばオリゴサービス(株)に、それぞれDNA合成を依頼して入手した。これらを用いて、図6の模式図に示す手順で伸長PCRを行ない、以下に示すような配列を有する上記3つのDNA断片を作製した。
【0165】
[配列番号3]
5' ATTCCACCATGGGCGGTBDHBDHKSWRYMKSWKSWRYMRYMKSWKSWRYMKSWKSWRYMRYMKSWBDHBDHBDHBDHKSWRYMKSWKSWRYMRYMKSWKSWRYMKSWKSWRYMRYMKSWBDBGGGGGAGGCAGCCA 3'
【0166】
上記配列中、ATCG以外の塩基がATGCに代えて出現する頻度(A:T:G:C)は以下の表6の通りであった。
【0167】
【表6】
【0168】
[配列番号4]
5' TTTCCCCGCCGCCCCCCGTCCTATGGCTGCCTCCCCC 3'
【0169】
[配列番号5]
5'- GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCACAACGGTTTCCCTCTAGAAATAATTTTGTTTAACTTTAAGAAGGAGATTCCACCATGGGCGG 3'
【0170】
図6の伸長PCR1は、PrimeSTAR(登録商標)HS DNA Polymerase
(タカラバイオ(株)製)を用いて行った。下記表7に示す組成の反応液を超純水で25μLに調製し、ランダム領域を以下のPCRプログラムで増幅させた。PCRプログラムは、(a)96℃(2分)、(b)94℃(20秒)、(c)51℃(5秒)、(d)72℃(30秒)、及び(e)72℃(2分)とし、ステップ(b)~(d)を5サイクルとした。
【0171】
【表7】
【0172】
図6の伸長PCR2は、下記表8に示す組成の反応液を超純水で25μLに調製し、以下のPCRプログラムでT7-PRO-SD領域を増幅させた。PCRプログラムは、(a)96℃(2分)、(b)94℃(20秒)、(c)58℃(5秒)、(d)72℃(30秒)及び(e)72℃(2分)とし、ステップ(b)~(d)を5サイクル行った。
【0173】
【表8】
【0174】
(2)標識結合分子の調製(mRNAとリンカーのライゲーション)
(2-1)mRNAの調製
まず、上記で得られたDNAライブラリからmRNAへの転写を以下のようにして行った。
下記表9に示す組成の反応液を超純水で20μLに調製し、37℃で4時間反応させた。その後、1μLのRQ-1 RNAse-Free DNAse(プロメガ社製)をこの反応液に加え、更に37℃で20分間反応させた。反応終了後、速やかにRneasy minElute Cleanup kit (QIAGEN社製) を用い、添付のマニュアルに従って精製を行った。
【0175】
【表9】
【0176】
(2-2)mRNAと従来リンカーとの結合
次いで、得られたmRNAと後述するピューロマイシンリンカーとのライゲーションを、以下のようにして行った。まず、下記表10に示す組成の反応液を超純水で20μLに調製し、反応液を90℃で2分及び70℃で1分インキュベートした後、4℃まで降温させた。最後に25℃で1時間アニーリングさせた。その後、この反応溶液中に、1μLのT4 ポリヌクレオチドレオキナーゼ、1μLのT4 RNA リガーゼをそれぞれ加え、更に25℃で1時間反応させた。
【0177】
【表10】
【0178】
ピューロマイシンリンカー(図9)は下記引用文献に記載の方法により作製した。
引用文献:Mochizuki Y, Biyani M, Tsuji-Ueno S, Suzuki M, Nishigaki K, Husimi Y, and Nemoto N. (2011) One-pot preparation of mRNA/cDNA display by a novel and versatile puromycin-linker DNA. ACS Comb. Sci., 13, 478-485
【0179】
即ち、短いビオチン-セグメント・ピューロマイシンリンカー(Short Biotin-segment Puromycin (SBP)-linker)の作製に使用する修飾されたオリゴヌクレオチドである、「ピューロマイシンセグメント(PS)」、及び「短いビオチンセグメント(SBS)」は、ジーンワールド社(Tokyo, Japan)より入手した。このPSは、以下の構造を有する。
【0180】
5’-(S)-TC(F)-((Spc18) x 4)-CC-(Puro)-3’
【0181】
ここで、(S)は5’-チオールモディファイヤーC6を表し、(F)はフルオレセイン-dTを表す。(Puro)はピューロマイシンCPGを表し、(Spc18)はスペーサー・ホスホロアミダイト18を表す。また、上記SBSは以下の構造を有する。
【0182】
5’-CC-(rG)C(T-B)C(rG)ACCCCGCCGCCCCCCG(T)CCT-3’
【0183】
ここで、(T)はアミノモディファイヤーC6 dTを表し、(T-B)は、ビオチン-dTを表す。
(rG)はリボGを表す。EMCSは、(株)同仁化学研究所(熊本、日本国)より購入した。2つのセグメント(ピューロマイシンセグメント(PS)と短いビオチンセグメント(SBS))をピューロマイシン-リンカーは、EMCS(N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド)を用いて、化学架橋させて合成した。
【0184】
常法に従って、ライゲーション反応物を6%PAGEによる電気泳動で確認した。結果を図10に示す。図10に示すように、DNAライブラリを転写して得られたライブラリmRNAのバンドの位置と、ピューロマイシンリンカーと結合したmRNAのバンドの位置とから、DNAライブラリのmRNAへの転写及び、mRNAとピューロマイシンリンカーとのライゲーションが問題なく行われ、mRNA-リンカー連結体が得られたことが示された。
【0185】
(3)mRNA-タンパク質連結体の形成
上記のようにFACSによって分取した、mRNA-リンカー連結体を無細胞翻訳系により以下のように翻訳した。下記表11に示す組成の反応液を超純水で25μLに調製し、37℃で15分間反応させて、この反応液に、5μLの3M KCl及び1.5μLの1M MgCl2を加えた。その後、この溶液を更に37℃で40分間反応させ、mRNA-タンパク質連結体(標的結合分子)を得た。
【0186】
【表11】
【0187】
(4)蛍光リポソーム結合体の調製
上記実施例1で得られた蛍光リポソームと、上記のようにして得られたmRNA-タンパク質連結体とを室温下で混合処理して、蛍光リポソーム結合体を得た。
【0188】
(5)FACSによるリポソームの分取
FACS(Cell Sorter SH800:ソニービジネスソリューション(株)製)の指定されたタンクに超純水を規定量になるまで満たした後、ソフトウェアを起動させた。ソーティングチップをセットした後、ソフトウェアの指示に従い操作を行った。この間、各フィルターに発生した気泡は除去した。引き続き、専用の自動セットアップ調整用ビーズ用いてサンプル流路、分取時のドロップレット形成条件のセットアップを行った。
【0189】
得られた蛍光リポソーム結合体をFACSによって解析、分取する際は、あらかじめ孔径が35μmのフィルターを用いてリポソーム浮遊溶液の濾過を行い、サンプル流路内でリポソームが詰まることの無いようにした。得られたヒストグラムの解析結果から、高領域を選択し目的の蛍光リポソーム結合体を分取した。
【0190】
(実施例3)mRNA/cDNA-タンパク質連結体及びcDNAの精製
(1)蛍光リポソームの除去
実施例2で分取した蛍光リポソーム結合体から、遠心分離により蛍光リポソームを除去し、mRNA-リンカー-タンパク質連結体を得た。
【0191】
(2)磁性体ビーズによる精製
ストレプトアビジン(SA)磁性粒子(Dynabeads MyOne Streptavidin C1:Invitrogen社製)を説明書に従って洗浄し、上記mRNA-タンパク質連結体を固定するのに必要な量をエッペンドルフチューブにとり、磁気スタンド上に1分間静置した。その後、上清を除去し、溶液A(100mM NaOH, 50mM NaCl)で再懸濁した。タッピングを1~2分間行った後に、磁気スタンド上に1分間静置した。その後、溶液Aでもう1回、同様の操作を行い、溶液B(100mM NaCl)で1回、同様の操作を行った。
【0192】
蛍光リポソームを除去した前記mRNA-タンパク質連結体に、2×結合バッファー(20mM Tris-HCl (pH8.0), 2mM EDTA, 2M NaCl, 0.2% Tween20, 500mM EDTA)を等量加えて、上記ストレプトアビジン(SA)磁性粒子と室温で60分インキュベートした。エッペンドルフチューブを磁気スタンド上に1分間静置した後に、上清を除去した。1×結合を200μL加え、タッピングを1~2分間行った後に、磁気スタンド上に1分間静置して上清を除去した。この操作をさらに2回繰り返し、ストレプトアビジン(SA)磁性粒子に固定化されたmRNA-タンパク質連結体を得た。
【0193】
(3)逆転写反応によるcDNAの合成
上記固定化mRNA-タンパク質連結体に、下記表12に示す組成の反応液を入れ、42℃で30分間インキュベートして逆転写を行い、ストレプトアビジン(SA)磁性粒子に固定化された状態のまま、mRNA/cDNA-タンパク質連結体を調製した。
【0194】
【表12】
【0195】
(4)cDNAの精製
上記ストレプトアビジン(SA)磁性ビーズに固定化されたmRNA/cDNA-タンパク質連結体を、1× NEB 4バッファーで1回洗浄したのち、10UのエンドヌクレアーV(New England Biolabs社製)を含む40μLの1× NEB 4バッファーを加え、37℃で60分間インキュベートし、ストレプトアビジン(SA)磁性ビーズ結合しているcDNAディスプレイ分子を溶出させた。
【0196】
(実施例4)スクリーニング後の各種解析
(1)FACSによる解析
実施例1~3で得られた、図1Aの試験管内淘汰サイクル1回目~3回目までのスクリーニングの蛍光リポソーム結合体のFACSによる解析結果を図11A図11Cに示す。これらのヒストグラムから、分取予定の蛍光リポソーム結合体の大きさや密度に差異が生じているものの、領域の特徴自体には変化がなく、試験管内淘汰サイクルでのスクリーニングを行なった際にも蛍光リポソーム結合体の分取が可能であることが示された。
【0197】
(2)cDNAディスプレイ分子のPCR産物の電気泳動
実施例3で得られたcDNAディスプレイ分子を溶出させ、以下のプライマーを用いて、常法に従ってPCRを行った。その後、常法に従って、PCR産物を6%PAGE電気泳動に供した。当該電気泳動の結果より、スクリーニングを進める(試験管内淘汰サイクルを重ねる)につれて、リポソームPCR産物のバンドが濃くなることから、FACSによるリポソームの領域を分取した際に取得できる分子数が増加していることが示された。また、対照的に、夾雑物PCR産物のバンドが薄くなっていることから、DNAライブラリでのリポソームに作用する性質を有しない翻訳産物の淘汰が進んでいることが示された(図12)。
フォワードプライマー: GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCACAACGGTTTCCC(配列番号6)
リバースプライマー :TTTCCCCGCCGCCCCCCGTCCT(配列番号7)
【0198】
(3)クローニングシーケンス解析
試験管内淘汰サイクルによる、DNAライブラリの収束度を詳細に確かめるために、大腸菌を用いたクローニングシーケンス解析を行った。実験手順は以下の通りである。
大腸菌コロニー培養プレート、及び大腸菌用の培養液としては、いずれも5gのBactoTrypton(Invitrogen社製)、2.5gのBacto Yeast extract(Invitrogen社製)、5gのNaClを混合し、MilliQ 水で500mLまでメスアップし、オートクレーブしたものを使用した。滅菌処理後の溶液温度が40℃以下になったところで、50mgのアンピシリンを加え、大腸菌コロニー培養プレート用の溶液には更に7.5gの寒天を加えて寒天培地とした。寒天培地が固まる前に、速やかにプレート上に厚さ約0.5cmになるよう流し込んだ。培養プレートに大腸菌を播種する直前に、プレート1枚につき100μLの100mM IPTG及び20μL 50mg/ml X-Galを塗りこんだ。

【0199】
試験管内淘汰サイクルで得られたDNAを大腸菌で発現させるために、プラスミドDNAにこのDNAをライゲーションした。MilliQ水で10μLに調製した下記表13に示す組成の溶液を、室温にて1時間反応させた。
【0200】
【表13】
【0201】
40μLのコンピテントセルに、3μLのベクターライゲーション産物を加え、氷上において30分間反応させた。反応後、インキュベーター中に、42℃、30秒間静置し、ヒートショックを加えた。続けて速やかに氷上に移し、再度2分間反応させた。その後、470μLのSOC培養液に加え、37℃にて1時間振とう培養を行い、大腸菌含有液を調製した。各培養プレート上に、それぞれ100μLの大腸菌含有液をまき、37℃で12~16時間、培養してコロニーを形成させた。形成されたコロニーを、一つずつ取って液体培地中に写し、別々に37℃にて12~16時間、培養した後、得られたプラスミドの精製を行った。このプラスミド精製は精製キット(キアゲン社製)の手順マニュアルに沿って行った。
【0202】
シーケンスは、Eurofins社に委託して行った。シーケンス結果から、得られたペプチドのアミノ酸配列の一つは以下の通りであった。
【0203】
[配列番号8]
Thr Asp Gln Phe Lys Arg Cys Ala Arg Thr Met Glu Lys Val Thr Gln Cys Pro Met Ile Glu Thr Lys Glu Gly Ala Thr Lys Ile Glu Ser Pro Pro Gln Arg
【0204】
上記配列を、1~18番目と19~35番目のアミノ酸の出現位置で分けた2つのαへリックス車輪図(図13A及びB)上に並べ、極性アミノ酸と非極性アミノ酸との出現位置を、確認した。この結果から、当初デザインした配列(図5)に近似する両親媒性へリックスが得られ、目的とするスクリーニングが行われていたことが明らかになった。
【0205】
(実施例5)リポソーム膜結合性融合タンパク質によるリポソーム膜の修飾
リポソームの膜に結合する融合タンパク質を調製し、リポソームの表面を標的分子で修飾した。
まず、リポソーム膜に対するアンカーとして機能する、LB-1ペプチド(配列番号9)をコードする配列と、標識分子である赤色蛍光色素mCherry2をコードする配列を含む遺伝子配列とを含む配列を、Eurofins社に依頼して合成した。常法に従って、この配列をpET-21a(+)ベクターのマルチクローニングサイトに導入した(図14A)。次に、常法に従って、上記ベクターを大腸菌に挿入し、LB-1とmcherry2との融合タンパク質を発現させた。その後、常法に従ってHisタグによる精製を行い、融合タンパク質溶液を得た。得られた融合タンパク質を模式的に図14Bに示す。
【0206】
[配列番号9]
Arg His Ser Lys Ser Leu Pro Ser Arg Val Ile Pro Arg Ala Asp Pro Arg Thr Lys Thr Arg Arg Arg Arg Arg Arg Lys Arg Thr Leu -Cys(F)
【0207】
実施例1と同様に蛍光色素を含まないリポソーム溶液を調製し、これに融合タンパク質溶液を加えてmCherry2の濃度が2μMになるように調製した。587nmで励起させ顕微鏡観察した。その結果、融合タンパク質を加えたリポソーム表面上に、mCherry2の赤い蛍光存在することが観察された(図15A)。一方、リポソーム溶液にmCherr2だけを加えたリポソームは、蛍光強度が弱く、リポソーム表面を十分に標識できなかった(図15B)。このことから、LB-1ペプチドがリポソーム膜に結合しmCherry2という標識分子を修飾できることが示された。
【0208】
(実施例6)RNAアプタマーを用いたスクリーニング
球状分子としてシリカビーズ(Micromod社製)を、標的検出分子としてストレプトアビジン結合RNAアプタマー(以下、「SAB-RNAアプタマー」ということがある。)又はストレプトアビジン非結合RNAアプタマー(以下、「SAN-RNAアプタマー」ということがある。)を用いて、スクリーニングを行なった。
【0209】
(1)DNA及びRNAアプタマーの作成
SAB-RNAアプタマー調製用DNAを作製するためのに、下記配列のプライマー(5’プライマー及び3’プライマー)を作成した。
【0210】
5’プライマー: AGTAATACGACTCACTATAGGGAGTCGACCGACCAGAATCATGCAAGTGCGTAAGATAGTCGCGGGCCGGGGGCGTATTATGTGCGTCTACATCTAGACTCAT(配列番号10)
3’プライマー: ATGAGTCTAGATGTAGACGCACATA(配列番号11)
【0211】
また、SAN-RNAアプタマー用DNAを作製するために、下記配列のプライマー(5’プライマー)を作成した。3’プライマーは、SAB-RNAアプタマー用DNAの作製に使用したものと同じとした。
5’プライマー: AGTAATACGACTCACTATAGGGAGTCGACCGACCAGAAATGGATAACAAATTCAACAAAGAACAACAATATGTGCGTCTACATCTAGACTCAT(配列番号12)
【0212】
上記プライマーを用いて、下記表14に示す反応液を調製し、PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ(株)製)を用いて、オーバーラップエクステンション(overlap extension)により、SAB-RNAアプタマー用DNA及びSAN-RNAアプタマー用DNAを作成した。overlap extensionは、98℃で1分、61℃で5秒、72℃で30秒の反応後、10℃まで冷却するという条件で行った。反応後、FavorPrep PCR Clean-Up Mini Kit(Favorgen社製)を用いて、キットに付属のマニュアルに従って精製を行った。
【0213】
【表14】
【0214】
上記のように精製して得られたDNAを、200Vで30分間の条件で電気泳動に供した。その結果、一番右のレーンに、103bpのSAB-RNAアプタマー用DNAのバンドが確認できた(図16)。図16中、Mはマーカーを示す。
【0215】
T7 RiboMAX(登録商標)Express Large Scale RNA Production System(プロメガ社製)を用いて、下記表15に示す反応液を調製し、37℃で3時間転写反応を行なってRNAを得た。転写後、RQ1 DNAse(Promega社製)を4μL加え、37℃で30分間反応させ、鋳型DNAを分解した。その後、切り出し精製を行い、200Vで30分間の条件で電気泳動を行った。その結果、一番右のレーンに、84merの目的のSAB-RNAアプタマー用DNAのバンドが確認された(図17参照)。図17中、Mはマーカーを示す。
【0216】
【表15】
【0217】
(2)SAB-RNAアプタマーの結合アッセイ
上記で得られたSAB-RNAアプタマーとストレプトアビジンとの結合アッセイを行うため、結合バッファー(pH7.4)調製した。HEPES、MgCl2及びNaClはいずれも和光純薬工業(株)から購入した。上記結合アッセイ用バッファーの組成は、下記表16に示す通りとし、超純水を加えて200mlとした。表16に示す組成の溶液に超純水を加えて800mlになるようにして30%グリセロール結合バッファー(pH7.4)を調製した。
【0218】
【表16】
【0219】
上記結合バッファー1.25μLに50 pmol、200 pmol及び456pmolの各濃度のストレプトアビジンを加え、SAB-RNAアプタマーの終濃度が1μMとなるように超純水で反応液の量を調製した。この反応液を25℃で1時間反応させた後、上記30%グリセロール結合バッファーを2μL加え、200Vで30分間の条件で、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。その結果、ストレプトアビジンを50pmol以上加えたときは、ストレプトアビジンを加えなかったときよりも移動度が小さいバンド(図中に矢印で示すバンド)が現れることが示された(図18)。これは、ストレプトアビジンがSAB-RNAアプタマーに結合したため移動度が小さくなったことによる。以上の結果から、SAB-RNAアプタマーがストレプトアビジンに結合することが確認された。
【0220】
(3)ストレプトアビジンの球状構造体への固定化
標的分子であるストレプトアビジンを固定する球状構造体として、粒径1.5μmでローダミンBを内包し、表面をCOOH基で修飾したシリカビーズ(製品名:Sicaster-redF、Micromod社製)を使用した。上記シリカビーズ上のCOOH基をNHS化し、NHS化されたカルボキシル基に標的分子(タンパク質)であるストレプトアビジンを、以下の手順で固定化した。
【0221】
まず、遠心チューブに上記シリカビーズ分散液を20μL加え、15,000rpmで5分間遠心したのち、上清を除去した。これに、ジメチルホルムアミド(DMF)を100μL加えてよく撹拌したのち、室温にて15,000rpmで5分間遠心し、上清を除去した。DMFを加えて室温にて15,000rpmで5分間遠心し、その後、上清を除去するという処理を3回繰り返した。引き続き、50μLの200mM NHS溶液及び50μLの200mM EDCを加え、25℃で2時間撹拌した。
【0222】
撹拌終了後、この溶液を15,000rpmで5分間遠心したのち、上清を除去した。これに、DMFを100μL加えてよく撹拌したのち、15,000rpmで5分間遠心し、上清を除去した。このDMFを加えて遠心後に上清を除去する処理を3回繰り返した。続いて、100μLの10μM ストレプトアビジン(フナコシ(株)製)を加え、25℃で一晩撹拌した。撹拌後、15,000 rpmで5分間遠心したのち、上清を除去した。このチューブに、超純水を100μL加え、15,000 rpmで5分間遠心し、上清を除去するという処理を3回繰り返した。その後、上記結合バッファーの4倍希釈液を20μL加えて、ストレプトアビジンが結合したシリカビーズ(球状構造体)を分散させた。
【0223】
固定されたストレプトアビジンの量の測定は、得られた球状結合体とフルオレセインで標識されたビオチンとを以下のように反応させ、FITCの蛍光強度から算出した。まず、上記分散溶液1μLに、1pmolのビオチン-4-フルオレセイン(SIGMA-ALDRICH社製)を加え、20μLの結合バッファーを加えた。25℃で1時間反応させたあと、15,000rpmで5分間遠心し、上清を除去した。このチューブに結合バッファーを20μL加え、15,000rpmで5分間遠心し、上清を除去するという処理を3回繰り返した。最後に、結合バッファーを20μL加え、蛍光強度測定用サンプルを調製した。
【0224】
シリカビーズ中のローダミンBの蛍光の影響を避けるために、上記ビオチン-4-フルオレセインを反応させた後に遠心分離して得られた上清(以下、「Sup」ということがある。)中、及び、その後、結合バッファーで洗浄した後の上清(以下、「Wash」ということがある。)中に遊離してきたビオチン-4-フルオレセインの蛍光強度を測定し、固定されたストレプトアビジンの量を算出した(図19)。
【0225】
Sup及びWashそれぞれの蛍光強度を合計した値(以下、「Sup+Wash」ということがある。)と、ビオチン-4-フルオレセインの蛍光強度(以下、「B4F」ということがある。)とを合計した値の全体を100としたときに、Sup+Wash:B4Fは、23.82:76.18であった。測定サンプル量が各20μLであること、及び加えたビオチン-4-フルオレセインが1pmolであったことを考慮すると、Sup及びWash中に遊離されたビオチン-4-フルオレセインの全量は0.31pmolとなった。この結果、使用した1μLのシリカビーズに固定されたストレプトアビジンと結合したビオチン-4-フルオレセインは0.69pmolとなった。
【0226】
(4)FACSによるソーティング
ストレプトアビジン固定-ローダミンB内包シリカビーズ(以下、「プラスビーズ」ということがある。)、及びストレプトアビジンが固定化されておらず蛍光標識も含まないSicastar(Micromod社製、以下、「マイナスビーズ」ということがある)の2種類のシリカビーズ、SAB-RNAアプタマー及びSAN-RNAアプタマーを用いて、下記表17の組成物に超純水を加えて5μLとなるように各ソーティング用溶液を調製した。
【0227】
【表17】
【0228】
表17に示す上記ソーティング用溶液を、25℃で1時間反応させたのち、結合バッファーを加えて2mlにした希釈溶液を、MoFlo Astrois EQ High Speed Cell Sorter(Bechman coulter社製)を用いて、ソーティングを行った。その結果、103付近にローダミンBBの蛍光のピークを有する領域が確認できた(図20)。この領域を固定化Sicastar-redFとし、100~101付近の領域をSicastarとしてソーティングを行った。
【0229】
(5)淘汰の検討
プラスビーズ又はマイナスビーズを含むソーティング溶液を、それぞれセルソーターでソーティングした。これらのソーティングされた溶液200μLに、1μLの24μM ビオチン-4-フルオレセインを加えて、25℃で1時間反応させ、プラスビーズ又はマイナスビーズからSAB-RNAアプタマー又はSAN-RNAアプタマーを、ビオチンとの競合溶出によって遊離させた。その後、この溶液を入れたチューブを15,000rpmで5分間遠心し、エタノール沈殿法によって、遠心上清からRNAを回収した。
【0230】
回収されたRNAを含む溶液に、6.5μLの超純水及び0.5μLの10μM 3’-プライマー(配列番号11)を加え、65℃で5分間反応させた。このチューブを氷上に写し、8μLの2.5mM dNTPs混合液、4μLのバッファー及び1μLのReverTra Ace(東洋紡(株)製)を加え、60℃で30分間逆転写反応を行った。
【0231】
その後、99℃で5分間加温したのち、PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ(株)製)を用いて、下記表18に示す組成のPCR反応液を調製してこれを加え、PCRを行った。反応条件は、98℃で10秒、68℃で5秒、72℃で7秒を5~20サイクル行い、72℃で1分反応させた後に10℃まで冷却した。T7プライマーは配列番号13、3’プライマーは配列番号11の配列を有するものを使用した。
【0232】
【表18】
【0233】
得られたPCR産物を用いて、8 M尿素の条件で8%アクリルアミドゲル電気泳動を行った。その結果、PCRが15サイクルの場合、SAB-RNAアプタマーとSAN-RNAアプタマーの濃度比が1:10又は1:100であれば、ソーティング前のリファレンスのレーン(図21中、Rと表示されているレーン)では確認できなかったバンドが、ポジティブレーン(図21中、Pと表示されているレーン)で確認された。このことから、プラスビーズから溶出されたRNAのほとんどが、SAB-RNAアプタマーであり、親和性の高い候補配列を取得できたことが確認された(図21)。
【0234】
PCRのサイクル数が15回の場合、上記濃度比が1:1,000又は1:10,000のときは、ポジティブレーン及びネガティブレーン(図21中、Nと表示されているレーン)のいずれにおいても、SAB-RNAアプタマーのバンドは確認できなかった。しかし、PCRのサイクル数を20回に増やすと、上記濃度比が1:1,000の場合には、SAB-RNAアプタマー及びSAN-RNAアプタマーのバンドの位置に、同様な強度のバンドが検出された(図22)。
【0235】
以上のことから、スクリーニングの際の濃縮率は100倍~1,000倍と推定された。また、上記濃度比が1:1,000のときに、SAB-RNAアプタマー及びSAN-RNAアプタマーが同様なバンド強度を示したことから、FACSを用いた濃縮率は600倍以上と推定された。従来技術6の濃縮率は約60倍であることから、カラムと切り出しを選択技術として使用した従来の手法の濃縮率よりも、10倍以上高い濃縮率となることが示され、高速で、高い特異性を有する分子を取得できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0236】
本願発明は、医薬分野、特に診断薬の分野において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0237】
配列番号1:光架橋型リンカーの主鎖の塩基配列
配列番号2:光架橋型リンカーの側鎖の塩基配列
配列番号3:DNAライブラリ合成用のDNA断片の塩基配列
配列番号4:DNAライブラリ合成用のDNA断片の塩基配列
配列番号5:DNAライブラリ合成用のDNA断片の塩基配列
配列番号6:PCR用フォワードプライマー
配列番号7:PCR用リバースプライマー
配列番号8:デザインDNAから得られたペプチドのアミノ酸配列
配列番号9:LB-1ペプチドのアミノ酸配列
配列番号10:SA結合RNAアプタマーのDNA合成用5’プライマー
配列番号11:RNAアプタマーのDNA合成用3’プライマー
配列番号12:非結合RNAアプタマーのDNA合成用5’プライマー
配列番号13:PCR用T7プライマー
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【配列表】
0006995367000001.app