IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社TRISTARHCOの特許一覧

特許6995373炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法
<>
  • 特許-炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法 図1
  • 特許-炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法 図2
  • 特許-炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法 図3
  • 特許-炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法 図4
  • 特許-炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法 図5
  • 特許-炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法 図6
  • 特許-炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法 図7
  • 特許-炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法 図8
  • 特許-炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】炭化水素系燃料油に水を添加して炭化水素系合成燃料を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/32 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
C10L1/32 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018542825
(86)(22)【出願日】2017-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2017035109
(87)【国際公開番号】W WO2018062345
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2016193904
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516061388
【氏名又は名称】株式会社TRISTARHCO
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】青木 文男
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-003297(JP,A)
【文献】特開2013-216794(JP,A)
【文献】特許第6128453(JP,B1)
【文献】国際公開第2013/186936(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159254(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系燃料元油に水を加えて該炭化水素系燃料元油の体積より大きい体積の炭化水素系合成燃料油を製造する炭化水素系合成燃料油の製造方法であって、
a)水に対して超音波を水に照射することで行う活性化処理を施して、活性化された活性化水を生成する活性化水生成工程と、
b)前記活性化水を、当初燃料元油として使用される炭化水素系燃料元油に添加して、反応性環境のもとで所定時間撹拌し混合する撹拌混合工程であって、前記反応性環境は、カタラーゼを添加した前記水に超音波を照射しながら、該水を撹拌することにより形成される、前記撹拌混合工程と、
c)前記撹拌混合工程を経た炭化水素系燃料元油と前記活性化水とを前記反応性環境のもとで融合させる融合工程と、
d)前記融合工程を経た混合物から得られる炭化水素系燃料油を一次生成炭化水素系燃料油として収集する一次生成炭化水素系燃料油収集工程と、
を含み、次いで、
前記一次生成炭化水素系燃料油を二次燃料元油として使用し、前記b)c)d)の工程を行って、二次生成炭化水素系燃料油を収集し、以下、得られた炭化水素系燃料油を、順次燃料元油として使用し、前記b)c)d)の工程を行う処理を複数回繰り返すことにより、前記当初燃料元油よりも大きい体積の、水(H2O)を実質的に含まず、前記当初燃料元油と実質的に同等であるか、又はこれに近似する組成の炭化水素系燃料油からなる複数次生成炭化水素系合成燃料油を生成する
ことを特徴とする炭化水素系合成燃料の製造方法。
【請求項2】
炭化水素系燃料元油に水を加えて該炭化水素系燃料元油の体積より大きい体積の炭化水素系合成燃料を製造する炭化水素系合成燃料の製造方法であって、
a)水に対して超音波を水に照射することで行う活性化処理を施して、活性化された活性化水を生成する活性化水生成工程と、
b)前記活性化水を、当初燃料元油として使用される炭化水素系燃料元油に添加して、反応性環境のもとで所定時間撹拌し混合する撹拌混合工程であって、前記反応性環境は、カタラーゼを添加した前記水に超音波を照射しながら、該水を撹拌することにより形成される、前記撹拌混合工程と、
c)前記撹拌混合工程を経た炭化水素系燃料元油と前記活性化水とを前記反応性環境のもとで融合させる融合工程と、
d)前記融合工程を経た混合物を静置して、水(H2O)を実質的に含まず前記当初燃料元油と実質的に同等であるか、又はこれに近似する組成の炭化水素系燃料油からなる上方の油層と、下方の水層とに相分離させる油水分離工程と、
e)前記上方の油層の炭化水素系燃料油を一次生成炭化水素系燃料油として収集する一次生成炭化水素系燃料油収集工程と、
を含み、
f)前記撹拌混合工程と前記融合工程とは、前記一次生成炭化水素系燃料油収集工程により得られる一次生成炭化水素系燃料油の体積が前記当初燃料元油として使用される前記炭化水素系燃料元油の体積より大きくなる時間にわたり行われ、次いで、
g)前記一次生成炭化水素系燃料油を二次燃料元油として使用し、前記b)c)d)e)f)の工程を行って、二次生成炭化水素系燃料油を収集し、以下、得られた炭化水素系燃料油を、順次燃料元油として使用し、前記b)c)d)e)f)の工程を行う処理を複数回繰り返すことにより、前記当初燃料元油よりも大きい体積の、水(H2O)を実質的に含まず前記当初燃料元油と実質的に同等であるか、又はこれに近似する組成の炭化水素系燃料油からなる複数次生成炭化水素系合成燃料油を生成する
ことを特徴とする炭化水素系合成燃料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載した炭化水素系合成燃料の製造方法であって、
前記活性化された活性化水は、マイクロバブルのホットスポットを含むように活性化されたものであることを特徴とする炭化水素系合成燃料の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載した炭化水素系合成燃料の製造方法であって、前記活性化水生成工程は、水を35℃から45℃の範囲の温度に昇温し電圧を印加した状態で、該水に超音波を照射することにより行われることを特徴とする炭化水素系合成燃料の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載した炭化水素系合成燃料の製造方法であって、前記電圧の印加は、前記水に浸漬したトルマリンに超音波を照射して該トルマリンを励起状態にすることにより行われることを特徴とする炭化水素系合成燃料の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載した炭化水素系合成燃料の製造方法であって、前記水には、マイクロバブルのホットスポットを保持するのに有効な物質が添加されており、該物質が、トルマリンに炭酸カルシウムを主成分とする琉球石灰岩を混入させたものであることを特徴とする炭化水素系合成燃料の製造方法。
【請求項7】
請求項又は請求項6に記載した炭化水素系合成燃料の製造方法であって、前記マイクロバブルのホットスポットの生成は、前記トルマリンに照射される超音波の周波数とは異なる周波数の超音波を前記水に対して照射することにより行われることを特徴とする炭化水素系合成燃料の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載した炭化水素系合成燃料の製造方法であって、前記撹拌は、水と燃料元油の混合物の液面に波立ちを生じさせるように行われることを特徴とする炭化水素系合成燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系燃料元油に水を加えて元油と同等な炭化水素系合成燃料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に環境問題が重要課題となって久しい近年、対応案として、太陽光や風力発電などの技術開発が盛んに進められている。しかし、このような再生可能エネルギへ完全に移行できるようになるまでの間、枯渇化の問題を含む従来の化石燃料を大切に使用し、エネルギ損失が少ない内燃機関及び燃焼施設などの開発、更には発熱並びに燃焼特性の優れた化石燃料を得るように化石燃料自体を改善するなど、多方面からの技術開発を並行して進める必要があり、その一つとして、燃料油に水を混合することにより燃料油を増量する方法の開発が試みられている。
【0003】
燃料油に水を混合する従来の手法は、該手法を採用することにより、使用燃料が大幅に削減され、燃料が削減された分だけCO2(二酸化炭素)の排出量が削減されるので環境負荷を軽減できる燃料と考えられる。また、この手法によれば、燃料油の完全燃焼が期待されるので、燃焼に使用される空気量が相当量削減でき、それに伴い、窒素酸化物及び粒子状物質(PM)の発生も抑制でき、ボイラー又は内燃機関が排出するガスがもたらす環境負荷を低減させる効果がある。
このように、水を添加することにより増量された燃料は、大変有用なものであるが、一般的に、水と油は完全な融合が難しく、混合しても時間が経過すると分離してしまう傾向がある。また、融合を十分に行うことが不可能ではないとしても、それには非常に時間がかかり、経済的観点から、実用化には程遠いと予測される。
そのため、水と燃料油を完全に融合させ、時間が経過しても分離することがない炭化水素系合成燃料を製造できるような、短時間で水と燃料油の融合処理を行うことができる技術が望まれている。
【0004】
炭化水素系燃料の増量化の一手法として、燃料油と水の混合液にカタラーゼを添加し、カタラーゼを添加した燃料油と水の混合液を、超音波等の振動波によって励起させた天然鉱物又は金属に接触させて、撹拌し、混合することにより、混合液のエマルジョン状態の透明度を高める加水燃料製造方法が、特許第4682287号(特許文献1)により提案されている。より詳しく述べると、特許文献1は、カタラーゼを添加した燃料油と水の混合液に振動波励起状態の天然鉱石又は金属を接触させながら攪拌混合し、さらに撹拌混合された燃料油と水の混合液を30℃~150℃に加熱し、かつ、3気圧ないし10気圧で加圧することにより、燃料と水を融合させて、該混合液のエマルジョン状態の透明度を高める方法を開示する。特許文献1では、カタラーゼが添加された燃料油及び水を、振動波によって励起させた天然鉱物又は金属に接触させることにより、燃料油及び水の分子集合体を細分化し、その後、燃料油及び水を撹拌混合し、次いで、撹拌混合した燃料油及び水を加熱及び加圧することにより、融合させて、加水燃料のエマルジョン状態の透明度を高めることができる、と説明されている。特許文献1には、実施例1と実施例2の2つの実施例が記載されているが、これらの実施例のいずれにおいても、水と燃料油が等量で混合され、融合工程を経ることにより、透明な燃料油が得られたことが示されている。また、特許文献1においては、この製造方法により、加水化率50%以上のエマルジョン燃料において油水分離現象を防止できる、と述べられている。
【0005】
この特許文献1に記載の製造方法は、燃料油に水を加えることにより、燃焼カロリーの素となる炭化水素が減少することを前提としており、この炭化水素の減少による燃焼カロリーの減少分を、カタラーゼの作用により、燃料油の含有水素比率を高めて補おうとするものである。すなわち、カタラーゼが過酸化水素を水素と酸素に分解し、酸素はガスとして大気に放出させ、水素は燃料油に残存させることによって含有水素比率を増大させることができる、というのが、特許文献1の教示である。しかしながら、加水による炭化水素比率の減少分を含有水素比率の増大だけで補うのは限界があり、特許文献1に教示される方法では、燃料の大幅な増量を期待することができない。
【0006】
特開2014-47229号公報(特許文献2)は、界面活性剤を使用することなく、長期間にわたり燃料油と水が分離せず、原料の燃料油と同程度の品質及び発熱量のエマルジョン燃料を製造することができる方法を開示する。この方法は、遠赤外光線マイクロ波又は超音波を照射した電気石に、水を接触させるように流し、電磁波応答型触媒が付与された酸化チタンボールに燃料油を接触させるように流し、この水と燃料油を混合し、混合液を循環させながら熱と圧力をかけることからなる。この特許文献2にも、カタラーゼの添加により、水素含有率が高められることが記載されている。しかし、特許文献2は、特許文献1を超える技術的教示を含むものではない。
【0007】
J-STAGEが2015年8月29日にウエブに掲載したTadayuki Imanakaらによる「An efficient way of producing fuel hydrocarbon from CO2 and activated water」と題する論文(非特許文献1)には、ナノバブルを含む水に対して、2酸化チタン触媒の存在下で、UV光及び黒色光(波長350nm~400nm)を照射する処理を行って活性化水を生成し、この活性化水を軽油と混合して強力に撹拌することにより、合成油を生成する方法が開示されている。この論文に記載された方法は、活性水を、反応層となる特殊ミキサーにより軽油と混合し、混合液をミキサーの壁に衝突させ、この衝突が繰り返されるように、混合液を循環させる。この過程で、反応層であるミキサーの上部空間に二酸化炭素を供給する。非特許文献1に記載の方法によれば、上述の工程で白濁エマルジョンが生成される。そして、このエマルジョンを静置すると、エマルジョンが油相と水相の2相に相分離され、油相部分から軽油と同等の油を得ることができる。非特許文献1の論文には、ここに開示された方法により、元油として使用した軽油に対し、5~10容積%増量された軽油が得られた、と報告されている。この非特許文献1に記載の方法においては、ミキサーの上部空間に二酸化炭素を供給するので、水の添加により不足する炭素を、この二酸化炭素の分解により補うものと理解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4682287号
【文献】特開2014-47229号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Tadayuki Imanaka他論文「An efficient way of producing fuel hydrocarbon from CO2 and activated water」J-STAGE2015年8月29日ウエブ掲載
【文献】「キャビテーションの化学的な応用;ソノケミストリー(Application of Cavitation Induced by Ultrasound)」香田忍、電子情報通信学会誌A VOl.J89-ANo.9(2006)
【文献】「超音波による化学物質の分解と超音波反応器の開発((Decomposition of Chemical Compounds by Ultrasound and Development of Sonochemical Reactor")」安田啓司、関東化学株式会社平成21年4月1日刊行、"THE CHEMICAL TIMES"
【文献】クリエイション・コア東大阪で2013年2月20日開催の「ものづくり基礎講座(第34回技術セミナー)」におけるプレゼンテーション資料「超音波の基礎」、水越克彰
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の公知文献に記載された方法においては、元油として使用される燃料油に対してある程度の増量を達成することができるであろうが、その増量の程度には限界がある。例えば、非特許文献1に記載の方法では、該文献に記載されているように、増量は10容積%程度に過ぎず、特許文献1及び2に記載の方法においても、2倍程度の増量しか達成できていない。
本発明は、従来技術におけるこの問題に対処するのもので、元油となる炭化水素系燃料に対する合成燃料の割合を従来に比べて飛躍的に高めることができる、元油に対して水を添加することによる炭化水素系合成燃料製造方法を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、水添加前の燃料である燃料元油と対比して、組成及び物理的特性が実質的に同じであるか、又はこれに近似しており、油水分離の観点からも燃料元油と同等の特性を備えた炭化水素系合成燃料油を、燃料元油の量に比べて大幅に増加した量で製造することができる、炭化水素系合成燃料油の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明による方法は、炭化水素系燃料元油に水を加えて該炭化水素系燃料元油の体積より大きい体積の炭化水素系合成燃料油を製造する炭化水素系合成燃料油の製造方法において、当該製造方法により製造された炭化水素系合成燃料油を、次の炭化水素系合成燃料油の製造における燃料元油として使用し、さらに同様な工程を順次複数回繰り返すことにより、水の添加割合が高い、炭化水素系合成燃料を製造することを特徴とするものである。
すなわち、本発明の一態様による炭化水素系合成燃料油の製造方法は、
a)水に対して活性化処理を施して、活性化された活性化水を生成する活性化水生成工程と、
b)該活性化水を、当初燃料元油として使用される炭化水素系燃料元油に添加して、反応性環境のもとで所定時間撹拌し混合する撹拌混合工程と、
c)該撹拌混合工程を経た炭化水素系燃料元油と活性化水とを反応性環境のもとで融合させる融合工程と、
d)該融合工程を経た混合物から得られる炭化水素系燃料油を一次生成炭化水素系燃料油として収集する一次生成炭化水素系燃料油収集工程と、
を含み、次いで、
該一次生成炭化水素系燃料油を二次燃料元油として使用し、上記b)c)d)の工程を行って、二次生成炭化水素系燃料油を収集し、以下、得られた炭化水素系燃料油を、順次燃料元油として使用し、上記b)c)d)の工程を行う処理を複数回、繰り返すことにより、当初燃料元油よりも大きい体積の、水(H2O)を実質的に含まず、該当初燃料元油と実質的に同等であるか、又はこれに近似する組成の炭化水素系燃料油からなる複数次生成炭化水系合成素燃料油を生成する
ことを含むものである。
【0012】
本発明の他の態様による炭化水素系合成燃料油の製造方法は、
a)水に対して活性化処理を施して、活性化された活性化水を生成する活性化水生成工程と、
b)該活性化水を、当初燃料元油として使用される炭化水素系燃料元油に添加して、反応性環境のもとで所定時間撹拌し混合する撹拌混合工程と、
c)該撹拌混合工程を経た炭化水素系燃料元油と活性化水とを反応性環境のもとで融合させる融合工程と、
d)該融合工程を経た混合液を静置して、水(H2O)を実質的に含まず当初燃料元油と実質的に同等であるか、又はこれに近似する組成の炭化水素系燃料油からなる上方の油層と、下方の水層とに相分離させる油水分離工程と、
e)該上方の油層の炭化水素系燃料油を一次生成炭化水素系燃料油として収集する一次生成炭化水素系燃料油収集工程と、
を含み、
f)該撹拌混合工程と融合工程とは、該一次生成炭化水素系燃料油収集工程により得られる一次生成炭化水素系燃料油の体積が当初燃料元油として使用される炭化水素系燃料元油の体積より大きくなる時間にわたり行われるようにし、次いで、
g)該一次生成炭化水素系燃料油を二次燃料元油として使用し、上記b)c)d)e)f)の工程を行って、二次生成炭化水素系燃料油を収集し、以下、得られた炭化水素系燃料油を、順次燃料元油として使用し、上記b)c)d)e)f)の工程を行う処理を複数回繰り返すことにより、当初燃料元油よりも大きい体積の、水(H2O)を実質的に含まず前記当初燃料元油と実質的に同等であるか、又はこれに近似する組成の炭化水素系燃料油からなる複数次生成炭化水素系合成燃料油を生成する
ことを含むものである。
【0013】
本発明の方法においては、活性化水は、マイクロバブルのホットスポットを含むものであることが好ましい。また、活性化水生成工程は、水を35℃から45℃の範囲の温度に昇温し電圧を印加した状態で、該水に超音波を照射することにより行われることが好ましい。さらに、電圧の印加は、水に浸漬したトルマリンに超音波を照射して該トルマリンを励起状態にすることにより行われることが好ましい。活性化水がマイクロバブルのホットスポットを含むものである場合には、該活性化水には、マイクロバブルのホットスポットを保持するのに有効な物質が添加されていることが好ましい。
【0014】
マイクロバブルのホットスポットの生成は、トルマリンに照射される超音波の周波数とは異なる周波数の超音波を水に対して照射することにより行われることが好ましい。撹拌混合工程における反応性環境は、カタラーゼを添加した水に超音波を照射しながら、該水を撹拌することにより形成することができる。撹拌は、水と燃料元油の混合物の液面に強い波立ちを生じさせるように行われることが好ましい。さらに、撹拌混合工程における反応性環境は、水に光触媒を添加し、紫外光を照射しながら撹拌を行うことにより形成することができる。
【0015】
本発明の方法により製造された燃料油は炭化水素系合成燃料油であり、水(H2O)を実質的に含まず、かつ、燃料元油と実質的に同一であるか、これに近似する組成及び物理的特性を有するものとなる。例えば、燃料元油がディーゼル燃料として使用される軽油である場合には、得られる合成燃料油は、元油である軽油と同等の軽油となる、という驚くべき結果が得られる。本発明により製造される軽油は、実質的に水(H2O)を含まないので、長期間にわたり保存しても油水分離を生じないことが確認された。
同様に、本発明の方法によれば、燃料元油がA重油である場合には、該A重油と実質的に同等か、これに近似する重油を製造することができる。
【0016】
燃料元油に水を加えたにも拘わらず、合成燃料が、水(H2O)を実質的に含まず、かつ、燃料元油と実質的に同一であるか、これに近似する組成及び物理的特性を有するものとなるようにするためには、可燃成分である炭化水素を生成するための炭素を外部から取り入れることが必要になる。このためには、燃料元油と水の混合液の液面から周囲空気中の二酸化炭素を取り込み、該二酸化炭素を分解してその炭素を利用することにより、合成燃料の生成のための反応に必要とされる炭素の少なくとも大部分を得るようにすることが考えられる。このためには、撹拌混合工程が大気への開放空間で行われる場合には、該撹拌混合工程において、燃料元油と水の混合液の液面に強い波立ちを生じるように混合液を循環させることが有効である。撹拌混合工程が行われる周囲が閉空間である場合には、周囲空気中から取り込まれる二酸化炭素の量が不足するが、このような状況のもとでは、燃料元油と水の混合物に炭素を加えることにより意図する合成燃料が得られることが確認できた。加える炭素としては、木材を炭化させた木炭を使用することができる。その他、工業用途に使用される粉末炭素も有利に使用することができる。また、一酸化炭素ガス或いは二酸化炭素ガスを加えて、空気中から取り込んだ二酸化炭素の場合と同様に分解し、合成燃料の生成に使用しても良い。
また、可燃成分である炭化水素の生成に必要な水素は、活性化された水分子の分解により得られるものと推測される。水分子は、本発明の方法においてマイクロバブルのホットスポットを含むように活性化されており、このように活性化された水分子を含む水に、カタラーゼ、水酸化ナトリウム、過酸化水素水溶液の少なくとも一つを添加した状態で、撹拌することにより、反応に必要な水素が得られることが確認されている。
【0017】
燃料元油に添加される水の量は、特に限界はないと考えられるが、燃料元油に対する水の添加量が多くなり過ぎると、所望の組成を有する合成燃料の生成に要する反応時間が過大になり、実用的ではなくなることが懸念される。本発明の発明者は、体積比で、燃料元油1に対し水を約1の割合で混合した場合にも、十分に短い時間で所望の合成燃料を生成できることを確認した。水の添加量がこれよりも少ない場合には、より短い時間で所望の結果を得ることができる。したがって、本発明において、燃料元油と水の混合割合は、体積比で、燃料元油1に対し、水は約1以下とすることが好ましい。
【0018】
本発明の方法においては、攪拌混合工程において、まず、燃料元油のみを攪拌混合タンクに投入し、攪拌しながら、水活性化工程と添加剤投入工程を経た水を所定量ずつ添加混合することが好ましい。この場合、液面に強い波立ちを生じるように激しく撹拌することが、空気中の二酸化炭素を液中に取り込むために好ましい。
【0019】
本発明の方法においては、円筒部分を持つ攪拌混合タンクと、水活性化工程と添加剤投入工程とを経た水を該タンク内に噴射等の手法により投入する少なくとも一つの噴射管とを有する装置を使用し、該噴射管による水の噴射方向は、該円筒部分の直径線に対して所定の角度を持つようにすることが好ましい。
【0020】
円筒部分を持つ攪拌混合タンクに少なくとも一つの噴射管を備えた装置を使用する上記態様による本発明の方法においては、上記の所定の角度は、約40度ないし約50度、特に約45度であることが好ましく、複数の噴射管が備えられる場合には、すべての噴射管における上記の所定の角度が、約40度ないし約50度の範囲内の特定の角度、例えば、約45度であるようにすることが好ましい。撹拌混合タンク中の液面に上述した強い波立ちを生じさせるためには、噴射管の吐出口は、液面から少なくとも8cm、好ましくは10cm又はそれ以上、上方に位置させ、高速噴流として活性化水を液面に噴射することが好ましい。
【0021】
本発明の上記態様においては、該噴射管は、攪拌混合タンクタンクの内部に突出する突出部を持つ構成にすることが好ましい。
【0022】
この場合において、該突出部の長さは、約10cmとすることが好ましい。
【0023】
本発明の一態様においては、添加剤添加工程において、カタラーゼを、水に対する重量比で0.04から0.05%添加することが好ましい。
【0024】
本発明のさらに他の態様においては、上述した水活性化工程で活性化された水は、そのORPが160mVから-200mVとなるようにすることが好ましい。
【0025】
本発明の好ましい態様においては、水活性化工程は、トルマリン又は銅イオン発生材料を水に接触させた状態に保持し、水に対して、或いは、該トルマリン又は銅イオン発生材料に、10KHzから60KHzまでと、200KHz以上の2つの周波数超音波を交互に照射して、該トルマリンから放射される電気エネルギ又は該銅イオン発生材料から放射される銅イオンにより水を活性化することにより行われる。
【0026】
本発明の更に好ましい態様においては、融合工程における加圧圧力を0.3MPa以上とし、加熱温度を40℃から80℃までの範囲とする。
【0027】
本発明の更に好ましい態様においては、攪拌混合工程において、OHRミキサを用いることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、上述した方法により、合成された後には水と油に分離され難いか、又は分離される恐れが殆どない炭化水素系合成燃料油を得ることができる。また、得られた合成燃料油を元油として使用して、これに水を加え、さらに同様の工程を繰り返すことにより、加水率の高い炭化水素系合成燃料油を効率よく生成することができる。上述したように、本発明の方法により製造された合成燃料油は、水(H2O)を実質的に含まず、かつ、燃料元油と実質的に同一であるか、又はこれに近似する組成及び物理的特性を有するものとなる。
また、本発明の炭化水素系合成燃料油は、既存の燃料油と単位分量当たりの発熱量が同等又はそれ以上であり、かつ、既存の燃料油と比較して、燃焼後の燃焼室、排気管等の劣化や腐食が少ないという効果がある。さらに、本発明の合成燃料油は、完全燃焼性に優れており、一酸化炭素が生成されにくく、また一酸化炭素の排出量も少ないなど、といった効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係る合成燃料油の製造方法の工程図である。
図2】本発明に係る合成燃料油の製造方法に用いる製造装置の全体構成図である。
図3図2の製造装置に使用することができる撹拌装置の反応槽への噴射管の構造図である。
図4図2の製造装置に使用することができるイオン化装置の一例の概略図である。
図5】本発明の一実施例に係る方法により軽油を元油として得られた炭化水素系合成燃料油についてのGC-MS分析の結果を示すチャートである。
図6】本発明の一実施例に係る方法により軽油を元油として得られた他の合成燃料についてのGC-MS分析の結果を示すチャートである。
図7】本発明の一実施例において、元油として使用した軽油についてのGC-MS分析の結果を示すチャートである。
図8】本発明の他の実施例に係る方法によりA重油を元油として得られた他の合成燃料についてのGC-MS分析の結果を示すチャートである。
図9図8に示す実施例において、元油として使用したA重油についてのGC-MS分析の結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明による炭化水素系合成燃料油の製造方法について、以下に一実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、本実施例で示される合成燃料の製造方法の全体的な構成及び各細部の構成、数値は、下記に述べる実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内、即ち、同一の作用効果を発揮できる形状及び寸法の範囲内で変更することができるものである。
【0031】
図1図2、及び図3を参照して、本発明の一実施形態を説明する。図1は、本発明に係る製造装置を用いて遂行される本発明の一実施形態による方法のフロー図である。図2は、本発明に係る合成燃料の製造方法に用いる製造装置の全体構成図であり、図3は、本発明に係る製造装置の反応槽への水噴射を行うための噴射管の構造図である。
図2を参照すると、本発明の一実施形態において、合成燃料製造装置1は、元油改善槽2、精製水槽3、反応促進剤注入部4、反応槽5、静置槽6、及び製品受槽7から構成される。この装置1の概要を説明すると、元油改善槽2において燃料元油の前処理を行い、精製水槽3で水の活性化処理を行い、反応促進剤注入部4から添加剤を所定の槽に投入する。さらに、反応槽5において燃料元油と水の攪拌混合及び融合を行い、静置槽6においてスカムなどの不要な残留物を除去し、必要な場合には油相と水相の相分離を行い、該静置槽6から製品受槽7に製品である炭化水素系合成燃料油を導入する。
【0032】
元油改善槽2は、燃料油を混合する前の処理を行う槽である。燃料元油は、別の元油槽201から供給される。この元油改善槽は、油の温度を混合に適した温度にすることを目的とするものである。燃料元油は、元油槽201から元油改善槽2に供給された後、該元油改善槽2に設けられたヒータ8によって加熱され、熱電対(T)によって所定の温度に管理される。
元油改善槽2内の燃料元油は、油温の均一度を高めるために、ポンプ11により、該元油改善槽2から取出し、ヘッダ管202を通して槽内に再投入することにより、循環させてもよい。また、触媒を用いて、前処理として、油の分子を細分化してもよい。
【0033】
精製水槽3は、水活性化工程を遂行する。本発明の方法に使用される水は、軟水であることが好ましく、したがって、水は軟水化装置301から供給されるようにすることが好ましい。この精製水槽3は、水の温度を混合に適した温度に維持すると共に、水の分子を活性レベルまで細分化し、マイクロバブルスポットを含む活性化水とすることを目的とする。該精製水槽3に供給された水は、該精製水槽3に設けられたヒータ8によって、加熱され、熱電対(T)によって所定の温度に管理される。ORP(酸化・還元電位)計によって、活性化の程度を測定することができる。精製水槽3の底部には超音波発生部10が設けられており、該超音波発生部10から、超音波を水に照射することで、水の分子集合体を細分化することができる。この場合において、2種類の波長の超音波を交互に照射することが好適である。具体的には、10kHz~60kHzの超音波と200kHz以上の超音波を交互に照射する。こうすることで、活性化の効率が向上する。
【0034】
さらに、精製水槽3においては、触媒9として、トルマリン、銅イオン発生材料を用いることが好ましい。超音波発生部10から超音波を照射する際に、水に触媒9を接触させることで、該触媒9から放射される電気エネルギにより、活性化の効率を向上させることができる。また、精製水槽3内に浸漬したトルマリン又は銅イオン発生材料等の触媒9に超音波を照射して、該触媒の作用を促進させることができる。
【0035】
活性化が均等に行われるように、槽内の水をポンプ11によりヘッダ302に取出し、該ヘッダ302から再度、精製水槽3内に戻すことにより、水を循環させてもよい。この場合には、水を槽の下部から引き出し、ポンプ11で圧力をかけ、ヘッダ管302を通して、槽の上部から水を再噴射させる。このような構造とすることで、水の温度、活性化を均等に行うことができる。
【0036】
水の活性化は、高圧トランスに接続された電極間に放電を発生させ、この放電により水を解離・電離させるように構成された、水のプラズマアーク処理によって行うこともできる。プラズマアーク処理により水を活性化させる場合、例えば、水の循環経路中、精製水槽3とポンプ11との間にプラズマアーク処理装置を設置することにより、処理を行うことができる。また、プラズマアーク処理を行う場合、触媒9としてアルミニウムを好適に使用することができる。
本発明においては、上述した電気エネルギの印加、及び水のプラズマアーク処理を総称して、「電気的刺激」と呼ぶ。
【0037】
反応促進剤注入部4は、反応促進剤として添加剤を精製水槽3又は反応槽5に投入するものである。添加剤は、過酸化水素を水素と酸素に分解して酸素はガスとして大気に放出させる作用を達成する物質である。この作用により、生成される燃料油の含有水素比率を増大させ発熱量の低下を防止できる。添加剤としては、カタラーゼ、水酸化ナトリウム、過酸化水素水溶液などを用いることができる。添加剤の投入量は、細かく調整する必要がある。カタラーゼを添加する場合には、該カタラーゼの添加量は、水に対する重量比で、0.04%から0.05%が好適である。カタラーゼの添加量が0.04重量%よりも少ないと効果が薄く、0.05%よりも多いと十分溶けず、返ってスカムを増やすこととなり、生成される燃料油の品質を下げることとなる。
【0038】
反応槽5は、攪拌混合工程及び融合工程を遂行するためのものである。燃料元油は、元油改善槽2から反応槽容器13の上部に供給される。水は、精製水槽3から反応槽5の容器13の側面に、噴射管14により供給される。油と水の混合液は、反応槽5の容器13の排出口15からポンプ11により取り出され、加圧された状態で、OHRミキサ12を通って、ヘッダ管502から噴射管14を通って反応槽5の容器13内部に循環させられる。OHRミキサ12は、複数の物質を効率よく混合するためのものである。この反応槽5は、融合工程に使用する際に、3~9気圧程度の圧力を作用させることになるので、他の槽よりも高圧力に耐える構造とする必要がある。槽の中段には、ヒータ8があり、油と水の混合物は、該ヒータ8によって所定の温度に管理される。
【0039】
静置槽6は、融合工程後の生成液を一時的に貯蔵する槽である。この槽6では、添加物などで発生したスカムなどを沈殿させる。油と水が完全に一体となった合成燃料油と、不純物とは、この静置槽6内に静置することによって分離され、上澄みである合成燃料油が製品受槽7に供給される。不純物には添加剤も含まれており、この不純物は、反応槽5に戻す。この静置槽6での滞留時間は1時間程度が好適である。融合工程後の生成液が水を含む場合には、生成液は、該静置槽6において、上方の油相と下方の水相に相分離され、上方の油相の合成油が生成物として製品受槽7に取り出される。
【0040】
製品受槽7は、製品として生成された合成燃料油を貯蔵する槽である。生成された合成燃料油は、ある程度まとまった段階で製品受槽7から製品貯蔵槽701に供給される。
【0041】
次に、本発明による合成燃料の製造方法において基本となる工程について、図1を参照して説明する。この方法は、水を処理する工程と、燃料元油を処理する工程とに分けられる。水を処理する工程は、水活性化工程と添加剤投入工程を含む。燃料元油を処理する工程は、元油改善工程と添加剤投入工程とを含む。水活性化工程及び添加剤投入工程を経た活性化水と、元油改善工程及び添加剤投入工程を経た燃料元油は、攪拌混合工程において撹拌混合され、融合工程を経て一次生成合成油が生成される。必要に応じて、一次生成合成油の取出し前に、ろ過工程が遂行される。
【0042】
活性化工程は、精製水槽3において行われる。この工程においては、水分子集合体が活性レベルまで細分化される。水を活性レベルまで細分化することによって、燃料元油の分子との親和性が向上し、より多くの水を合成燃料の生成に使用することができるようになる。水を精製水槽3に入れ、超音波発生部10によって、超音波を水に照射し、水を高周波で振動させることで、水分子の細分化を促す。超音波の照射は、異なる2つの周波数をもった超音波を、交互に照射することで、水の細分化を促すことができる。超音波の周波数は、例えば、10KHz~60KHzと200KHz以上の2種類とすることでより細分化が可能となる。また、超音波発生部10を用いる際に、さらに、トルマリン又は銅イオン発生材料のような物質を触媒として用いて、水に電気的刺激を与えることが有効である。このような触媒材料を水に浸漬させた状態で超音波発生部10を動作させることにより、水に対して電気的刺激が与えられ、水にマイクロバブルのホットスポットが形成されて、水の活性化の度合を高めることができる。この場合、トルマリン又は銅イオン発生材料のような触媒材料に超音波が当たるように、超音波の照射を行うことが好ましい。
【0043】
超音波を照射することによる活性化の程度は、ORP(酸化還元電位)(mv)を測定することにより確認することができる。超音波を照射して得られる水のORPは、好ましくは160mV~-790mV、さらに好ましくは30mV~-600mVである。因みに、通常の水道水のORPは、700mV~500mVである。
また、超音波を照射することによって、水から酸素が放出され、水の含有水素比率が向上する。
例えば、水200Lを改質するためにトルマリンと水を接触させる場合には、20L/min~50L/minの流量で水を配管からトルマリンに向けて噴出させることが望ましい。反応時間は、1時間程度が適当であるが、20分から1日でも効果を出すことができる。
【0044】
次に、添加剤投入工程について説明する。添加剤投入工程は、反応促進剤注入部4に貯蔵された添加剤を、精製水槽3又は反応槽5に添加することで、水の含有水素比率を増大させるものである。
添加剤としては、カタラーゼ、水酸化ナトリウム、過酸化水素水溶液の一種又は複数種を用いる。添加剤の投入量は、細かく調整する必要がある。前述したように、カタラーゼを使用する場合には、カタラーゼの添加量は、水に対する重量比で、0.04%から0.05%とするのが好適である。0.04%よりも少ないと効果が薄く、0.05%よりも多いと十分溶けず、返ってスカムを増やすこととなり、燃料の品質を下げることとなる。
水酸化ナトリウムについては、水に対して0.001重量%~0.1重量%の添加で添加剤としても効果を十分発揮する。過酸化水素水溶液の場合は、水に対して0.001重量%から0.1重量%の添加で添加剤としても効果を十分発揮する。
【0045】
次に、攪拌混合工程について説明する。攪拌混合工程では、精製水槽3において活性化され、添加剤が投入された後の水と、燃料元油とを混合する。まず、反応槽5に燃料元油のみを投入する。この燃料元油を反応槽5のOHRミキサ12を通して循環させる。OHRミキサ12を通すことで、燃料元油の分子が均一化され、水と融合しやすくなる。ある程度、循環が完了した時点で、精製水槽3から活性化水を反応槽5に少量ずつ投入する。これは、燃料元油に対して水をできるだけ均一に分散させるためである。精製水槽3から供給される活性化水は、精製水槽3のポンプ11によって加圧され、反応槽5の排出口15から取り出された燃料元油と混合され、反応槽5のポンプ11によって加圧され、OHRミキサ12によって混合される。OHRミキサ12の圧力は、3気圧(0.3MPa)以上、温度は、40℃から80℃が好適である。したがって、精製水槽3、反応槽5のポンプ11の圧力は、それに見合った圧力とし、精製水槽3、反応槽5のヒータ8の加温もそれに見合ったものとする。OHRミキサ12で混合された活性化水と燃料元油は、ヘッダ管502を通って、噴射管14から反応槽5に再投入される。反応槽5に対する噴射管14の角度、反応槽5内部での突出量によって、混合の効率及び質が変化する。
例えば、活性化水100Lを燃料元油100Lと混合する場合には、活性化水と燃料元油の混合液は、20L/min~50L/minの流量で、配管サイズ15A~50Aの配管を通して循環させることが好ましい。混合時間は、5分ないし1時間程度とすることができる。
【0046】
次に、融合工程について説明する。融合工程では、活性化水の精製水槽3から反応槽5への投入は完了しており、該融合工程は、OHRミキサ12を通して、活性化水と燃料元油の混合液を循環させることにより遂行される。この場合の圧力は、攪拌混合工程と同じ3気圧(0.3MPa)以上であることが好ましく、温度は、40℃から80℃が好適である。この工程において、活性化水と燃料元油の混合液を、OHRミキサ12に十分な時間にわたって通すことにより、活性化水と油の融合が行われ、分離する恐れのない炭化水素系合成燃料油を得ることができる。
例えば、活性化水100Lを燃料元油100Lに融合させる場合には、混合液に作用させる加圧圧力は、0.3MPa(3気圧)以上とすることが望ましい。温度は、70℃或いはそれ以下の温度でもよい。融合工程における加圧圧力は0.9MPa、温度は50℃とすることが最も有効である。反応時間は、この加圧圧力及び温度に到達してから20分ないし60分が適当である。
【0047】
次に、ろ過工程について説明する。ろ過工程では、完全に生成された合成燃料から、生成時に酵素を使用した場合に酵素の成分やその他の成分が凝固してスカム状となったものを分離する工程である。静置槽6を用いる方法は、生成物を静置させ、比重分離する方法である。比較的比重の重いスカムなどは底に溜まり、合成燃料は、比重が軽いので上層に集まる。上層の合成燃料を製品受槽7に送ることにより、製品としての炭化水素系合成燃料油を得ることができる。静置槽6における混合液滞留時間は、1時間以上とすることが望ましい。
また、ろ過フィルターを通過させることによっても、合成燃料とスカムなどを分離することができる。ろ過フィルターは、10μmないし30μm程度のものを用いる。ろ過フィルターを通過させる温度は40℃以下が好ましく、通過時間は、配管サイズ20A~50Aの配管に通す場合には、流量20L/min~50L/min程度が望ましいが、速度は穏やかな方がより望ましい。ろ過フィルター通過の回数は1回又はそれ以上とすることができる。
【0048】
このように、上記の工程を行うことによって、水と燃料油を完全に混合し融和させ、時間が経過しても分離することがない炭化水素系合成油を生成することができる。また、活性化水と燃料元油の融合処理を短時間で行うことが可能になる。
図1に示すように、得られた一次生成合成燃料油を燃料元油として使用し、同様の工程を繰り返すことにより、二次生成合成燃料油を製造することができる。その後、同様にして、得られた合成油を元油とする工程を複数回繰り返すことにより、複数次生成合成燃料油を製造することが可能である。本発明の方法により製造されるこのような複数次生成合成燃料油は、加水率が非常に高いものとなる。
【0049】
本発明の他の実施形態について図3を用いて説明する。以下の説明において、前述の実施形態と同様の部分は説明を省略する。図3は、本発明に係る製造装置に使用できる反応槽5への液噴射管の構造を示す図である。図3(a)は、反応槽5と噴射管14の位置関係を示すための、上部から見た図である。図3(b)は、反応槽5の側面図である。
【0050】
前述の実施形態に関連して、合成燃料製造のための各工程について説明したが、各工程の中で、攪拌混合工程及び融合工程で遂行される、活性化水と燃料元油の混合液の循環が重要である。循環は、図2に示す装置において、基本的に、反応槽5の排出口15から取り出された混合液を、ポンプ11及びOHRミキサ12から、噴射管14を経て、反応槽5の上部側面から、再び反応槽5内に噴射状態で投入することにより行われる。この循環過程では、混合液のすべてが均等に循環されることが理想である。しかし、反応槽5内への再投入の方法が適当でないと、混合液の一部のみがより多く循環され、他の部分は、あまり循環されないこととなり、全体が均一の合成燃料油とはならないか、又は均一にするまでの時間が非常に長くなることが懸念される。
【0051】
そこで、本発明の発明者は、反応槽5へ混合物を再投入する噴射管14と反応槽5との関係について検討した。図3(b)に示すように、反応槽5は、上部が円筒体、下部が円錐体である。上部の側面には、噴射管14が4個配置され、図3(a)に示すように、4方向から、油水混合物を反応槽5内に噴射することができる。図3(c)に示すように、反応槽5の円筒部の中心軸と噴射管14が反応槽5に取り付けられる取付点とを結ぶ直径線に対する、噴射管14の長さ方向の角度を、該噴射管14の取付角又は噴射方向と定めた。そして、この取付角を、0度から90度まで変えた際の、融合に必要な時間、生成された合成燃料油の品質について検討した。図3(c)において、取付角が0度の場合が噴射管14a1である。以下14a2、14a3、14a4と軸からの角度を15度づつ大きくした。このように、角度を15度ごとに変化させて試験を行い、検討した結果、軸からの角度が45度のときが最も融合に必要な時間が短く、生成された合成燃焼の品質もよいことが確認された。この結果から、噴射管14の取付角は、上述の直径線に対し、約40度から約50度までの範囲が好ましいことが分かる。
【0052】
次に、図3(d)のように、噴射管14の、直径が60cmの反応槽5内部への突出量と融合に必要な時間及び生成された合成燃料油の品質について検討した。図3(d)において、突出量が0の場合が噴射管14b1である。以下14b2、14b3、14b4と突出量を大きくした。突出量は、10cmづつ変化させて検討した。その結果、突出量は10cmのときが最も融合に必要な時間が短く、生成された合成燃料油の品質もよいことが分かった。なお、さらに大きい反応槽を使用する場合には、反応槽の直径に応じて噴射管の突出量を大きくするのが好ましく、また、噴射管の数を増やすのが望ましいと考えられる。
【0053】
以上のことから、反応槽5への噴射管14による混合物の投入は、円筒の直径線に対して45度の角度が最適で、直径が60cmの反応槽5の事例では、噴射管14の反応槽5内部への突出量は、10cmが最適であると考えてよい。円筒の直径方向軸に対して角度を持たせることによって、槽内に自然な渦を作ることができる。そのため、混合も効率的にできる。また、噴射管14の反応槽5内部への突出量を所定の量とすることによって、混合物の円周付近又は、中心付近のみに循環した混合物が集まってしまうことを避けることができる。噴射管14は、反応槽5内の液面から少なくとも8cm、好ましくは少なくとも10cmだけ上方に位置するように配置し、混合物は、高速で噴射管14から噴射されるようにすることが好ましい。
【0054】
このように、噴射管14の反応槽5に対する配置を調整することによって、活性化水と燃料元油を完全に混合し融和させて、時間が経過しても分離することがない炭化水素系合成燃料油を製造することができる。また、活性化水と燃料油の融合処理は、短時間で行うことができる。
【0055】
本発明のさらに別の実施形態について図4を用いて説明する。
図4は、本発明に係る製造装置の活性化装置として使用可能なプラズマアーク処理装置の一例を示す概略図である。このプラズマアーク処理装置20は、それぞれが高圧トランス(図示せず)に接続されている、装置の中心に配置された(図中六角形で示す)電極21と、この中心電極を取り囲むように配置された複数の(図では12本)電極22を備えている。電極に電力を供給することにより、電極間にアーク放電が発生する。図2に示されている製造装置1中の精製水槽3において、精製水槽3とポンプ11との間にプラズマアーク処理装置20を設置して、精製水槽からの水をプラズマアーク処理装置20に通すことにより、水をプラズマアーク処理によって活性化することができる。このようなプラズマアーク処理装置としては、例えば、株式会社日本理水研社製のウルトラU-MANに使用されているようなプラズマアーク処理装置を好適に使用することができる。
【実施例
【0056】
〔活性化水の形成〕
(トルマリン及びカタラーゼの準備)
ブラジル国トカンチン州産出で粒径20mmないし80mmのトルマリンを、有限会社ニュー・ウェーブから購入した。さらに、ナガセケムテックス株式会社から、商品名「レオネットF-35」のカタラーゼを購入した。これらトルマリン及びカタラーゼを、以下の製造例及び実施例において使用した。
(活性水の形成例)
活性水を形成するための水として、軟水である水道水を使用した。常温の水20リットルにトルマリン3kgを浸漬させ、トルマリンに対して周波数30kHzないし40kHzの超音波を、水に対して周波数200kHzないし600kHzの超音波を、20分間照射する。以下の製造例及び実施例では、トルマリンに照射される超音波の周波数は35kHz、水に照射される超音波の周波数は400kHzとした。20分経過後に、上述の超音波照射を続け、水をポンプで循環させながら、ヒータを使用して43℃の水温まで昇温した。水温が43℃に達したとき、水の循環と、ヒータによる加熱及び超音波照射を停止した。この時点で水のORPは約-790mVであり、pHは8ないし9であり、水にはマイクロバブルのホットスポットが形成されており、活性化されていることが認められた。
上述の操作において、マイクロバブルのホットスポットを維持する物質として、トルマリンに、炭酸カルシウムを主成分とする琉球石灰岩を予め混入させた。上記した活性化水の準備工程では、水のORPがマイナス傾向で安定し、pHが8ないし9になれば、活性化は完了したものと考えてよい。
【0057】
ここで、マイクロバブルとは、水に超音波を照射した場合に、局所的な圧力変動により生じる微小気泡を意味するものである。名古屋大学大学院工学研究科の香田忍が電子情報通信学会誌A VOl.J89-ANo.9(2006)に発表した「キャビテーションの化学的な応用;ソノケミストリー(Application of Cavitation Induced by Ultrasound)」と題する論文(非特許文献2)、関東化学株式会社が平成21年4月1日に刊行した"THE CHEMICAL TIMES"に名古屋大学大学院工学研究科の安田啓司が発表した「超音波による化学物質の分解と超音波反応器の開発((Decomposition of Chemical Compounds by Ultrasound and Development of Sonochemical Reactor")」と題する論文(非特許文献3)、及び、東北大学金属材料研究所の水越克彰による、2013年2月20日開催の「ものづくり基礎講座(第34回技術セミナー)」におけるプレゼンテーション資料(非特許文献4)には、液体に強力な超音波を照射して、該液体に微小な気泡を発生させた状態すなわちキャビテーション状態を生じさせ、液体分子の分解を生じさせることを基本とするソノケミストリーが詳細に論じられている。これらの非特許文献の記載によると、超音波により発生した気泡すなわちマイクロバブルは、数サイクルで凡そ数十μm程度の大きさまで膨張し、その後急激に準断熱圧縮過程により収縮する。その結果、収縮時には気泡内部は5000K~数万Kの温度で、1000数百気圧に達する。この高温・高圧の局所場は、ホットスポットと呼ばれ、キャビテーションによる化学作用の起源となっているものと理解される。
【0058】
[一次生成合成燃料油の製造]
(一次燃料油製造例1)
次のとおりの方法により、A重油を元油とする一次合成燃料油を製造した。
まず、トルマリンを収容する部分と超音波発生装置(35kHzの超音波振動子)、及び温度計を備え、循環ポンプ(24リットル/分×0.5Mpa)を接続した容積25リットルの容器に、トルマリン(有限会社ニュー・ウェーブから購入したブラジル・トカンチン州鉱山直輸入で小サイズのトルマリン原石)3kgと、水道水20リットルとを入れた。この水に、カタラーゼ(ナガセケムテックス株式会社製 レオネットF-35)を20ミリリットル添加した。次いで、超音波振動子を作動させて、「活性化水の形成例1」において述べた条件で、超音波をトルマリンと水に照射しながら、循環用ポンプにより水の循環を開始した。水の循環経路中に設けた3kWのラインヒータの設定温度を40℃として、容器内の水の温度が40℃以上になったことを確認した時点から1時間、循環を続けた。1時間経過後、ORP計によって容器中の水の酸化還元電位を測定したところ、12mVであり、水が活性化されたことが確認できた。
【0059】
次に、上記容器と同様に温度計を備え、循環ポンプを接続した容積25リットルの容器に、市販のA重油(富士興産株式会社から購入した1種1号A重油)を20リットル入れた。循環ポンプによりA重油の循環を開始した。A重油の循環経路中に設けた3kWのラインヒータの設定温度を40℃とし、容器内のA重油の温度が40℃以上になったことを確認した時点から1時間、循環を続けた。
【0060】
このようにして得られた活性化した水とA重油を、次のように混合し、攪拌し、次いで混合液を加熱し、圧力を印加して融合させた。すなわち、温度計に加えて1kWの加温ヒータと回転翼式の攪拌機とを備え、容積25リットルの上部を大気に開放した開放系の容器に、活性化した水を10リットル、得られたA重油を10リットル入れた。容器は、循環ポンプと混合ミキサ(株式会社OHR流体工学研究所製OHRミキサ)を接続した構成であった。この活性化水とA重油を入れた容器において、加温ヒータの電源を入れ、容器内の液体の温度が40℃で維持されるようにした。ここに、上記と同じカタラーゼを10ミリリットル添加した。40分経過した後、攪拌機の電源を入れ、水とA重油を混合、撹拌した。次いで、循環ポンプを作動させるとともに、混合ミキサへの供給圧力が0.5MPa程度となるように調整して、混合液体を循環させた。その際、循環経路から容器に液体を投入する循環配管が、容器内の混合液体の液面から8cm程度上方に位置するようにした。混合液体を1時間循環させた後、攪拌機、循環ポンプ及び加温ヒータを停止した。このようにして得られた液体を約3日間静置した後、分析のため試料を採取した。採取した試料の量は、20リットルであり、表1に示す特性の合成燃料油であることが確認された。
【0061】
(一次燃料油製造例2)
元油として、A重油に代えて市販の軽油(JXエネルギ株式会社(ENEOS)から購入した2号軽油)を使用したことを除き、製造例1と同様にして合成燃料油を製造し、分析のため試料を採取した。採取した試料の量は、20リットルであった。
【0062】
表1に、本発明の一次合成燃料油製造例1及び2で生成された合成燃料油の成分分析結果を示す。水と油を1対1で混合、融合したものである。
比較のため、元油として使用したA重油及び軽油についても同様の成分分析を行った。
まず、総発熱量、真発熱量を見ると、実施例1、実施例2とも、元油を上回っており、本発明の効果が出ていることが分かる。
次に、水分の項目を見ると、製造例1、製造例2とも、合成燃料油における水分の容積%は0.00%であり、水を実質的に含まないことが分かる。燃料油と水を1対1で混合し、融合させたものであるから、十分な融合ができていなければ、水分量として検出されるはずである。しかるに、水分の容積%が0.00%であるということは、燃料元油と水が完全に融合し、水成分として、分析されなかったことを示す。
このように、本発明によれば、燃料元油と水を完全融合し、高品質の炭化水素系合成燃料油を生成することができる。
【0063】
【表1】
【0064】
(一次燃料油製造例3)
図2及び図3に示したような装置を使用し、元油として軽油を使用して、合成燃料を製造した。
まず、トルマリンを収容する部分に製造例1で使用したものと同じトルマリンを充填した精製水槽に、水道水を150リットル注入した。該精製水槽に設置されたヒータの電源を入れ、温度を40℃に設定した。さらに、製造例1で使用したものと同じカタラーゼを150ミリリットル添加した。次いで、精製水槽に接続された循環ポンプを作動させ(吐出圧力0.5MPa)、精製水槽に設置された超音波発生装置を作動させて、水の温度が40℃に達するまで60分間、40℃に達した後さらに60分間、トルマリンと水に超音波(周波数40kHz)を照射した。水を精製水槽に投入する際、4本の噴射管のうち1本のみを使用(3本を閉止)して、噴射管先端部での流速を3.3m/sとした。ORP計によって得られた水の酸化還元電位を測定したところ、20mVであった。このようにして活性化水を得た。
【0065】
次に、元油改善槽に、市販の軽油(JXエネルギ株式会社(ENEOS)から購入した2号軽油)を150リットル注入した。次いで、元油改善槽に設置されたヒータの電源を入れ、温度を40℃に設定した。元油改善槽に接続された循環ポンプを作動させ(吐出圧力0.3MPa)、軽油の温度が40℃に達するまで60分間、40℃に達した後さらに60分間、軽油を循環させた。軽油を元油改善槽に噴射する際、4本の噴射管のうち1本のみを使用(3本を閉止)して、噴射管先端部での流速を2.0m/sとした。
【0066】
このようにして得られた活性化水及び軽油を、反応槽に入れて混合し、攪拌した。さらに、活性化水と軽油を昇温し、圧力を印加することによって、融合させた。詳細に述べると、反応槽に、元油改善槽からの元油を75リットル、精製水槽中からの活性化水を55リットル移送した(加水率約42%)。この反応槽に、製造例1で使用したものと同じカタラーゼを65ミリリットル添加した。次いで、ヒータの電源を入れ、容器内の液体の温度が40℃となるようにした。液温が40℃に達した後、循環ポンプを作動させるとともに、混合ミキサへの供給圧力が0.5MPa程度となるように調整して、混合液体を60分間循環させた。混合液を反応槽に投入する際、4本の噴射管のうち1本のみを使用(3本を閉止)して、噴射管先端部での流速を2.0m/sとした。また、噴射管が、反応槽中で混合液中に没しないようにした。具体的には、噴射管が、反応槽内の混合液の液面から8cm程度上方に位置するようにした。得られた液体から、分析のための合成燃料油の試料を採取した。採取した試料の量は、114リットルであった。
【0067】
(一次燃料油製造例4)
精製水槽と、元油改善槽、及び反応槽の温度を、製造例3の場合よりも高く、それぞれ42℃、41℃、及び44℃に設定し、精製水槽及び元油改善槽での循環時間を製造例3の場合の半分(すなわちいずれも60分)としたことを除き、製造例3と同様の工程を行って合成燃料油を製造した。なお、ORP計によって精製水槽で得られた水の酸化還元電位を測定したところ、26mVであった。反応槽で得られた液体から、分析のための合成燃料油の試料を採取した。採取した試料の量は、114リットルであった。
【0068】
(一次燃料油製造例5)
元油としてA重油(富士興産株式会社から購入した1種1号A重油)を使用し、反応槽温度を36℃に設定し、精製水槽及び元油改善槽での循環時間をいずれも90分とするとともに、カタラーゼの精製水槽及び反応槽への添加量をそれぞれ230ミリリットル及び130ミリリットルとしたことを除き、製造例3と同様に合成燃料を製造した。なお、ORP計によって精製水槽で得られた水の酸化還元電位を測定したところ、18mVであった。反応槽で得られた液体から、分析のための合成燃料油の試料を採取した。採取した試料の量は、114リットルであった。
【0069】
表2に、本発明の製造例4及び5で生成された炭化水素系合成燃料油の成分分析結果を示す。
【0070】
【表2】
【0071】
[一次生成合成燃料油の定性分析]
製造例3において軽油を燃料元油として本発明の方法により得られた合成燃料油の試料について、ガスクロマトグラム質量分析法(GC-MS)による定性分析を行った。分析試料として、製造例3で得られた試料をn-ヘキサンで1000倍に希釈したものを準備した。カラムはHP-5MS(長さ30m、内径2.5mm、膜厚0.25μm)を使用し、キャリアーガスはHeとした。分析試料の注入量は1マイクロリットル、注入方法はスプリットレスモードとし、オーブン温度は50℃で3分間保持、その温度から100℃まで毎分5℃の昇温速度で昇温し、さらにそこから300℃まで毎分15℃の昇温速度で昇温し、300℃で3分間保持した。結果として得られたGC-MSのチャートを図5に示す。(a)はTICクロマトグラム、(b)は18.4分付近のピークのマススペクトルである。
製造例4で得られた合成燃料の試料についても、同様の定性分析を行った。結果を図6に示す。
比較のため、燃料元油として使用した軽油についても、同様の定性分析を行った。結果を図7に示す。
図5及び図6図7と対比すると、炭素数の多い成分(C19よりも大きいもの)が、元油に比べて減少する傾向が認められるものの、製造例3及び4で得られた炭化水素系合成燃料油は、その成分組成が元油とよく一致することが確認された。
【0072】
製造例5においてA重油を元油として本発明の方法により得られた一次生成合成燃料油の試料についても、同様の定性分析を行った。結果を図8に示す。
比較のため、元油として使用したA重油についても、同様の定性分析を行った。結果を図9に示す。
図8図9と対比すると、製造例5で得られた一次生成合成燃料油も、その成分組成が元油とよく一致することが確認された。
【0073】
[一次生成合成燃料の性状試験]
製造例3及び4において軽油を元油として本発明の方法により得られた合成燃料油の試料について、性状試験を行った。性状試験の項目と方法は、次のとおりとした。
・密度(振動式15℃): JIS K2249
・動粘度(30℃): JIS K2283
・窒素定量分析: JIS K2609
・硫黄分(紫外蛍光法): JIS K2541-6
・酸素分: ASTM D5622
・軽油組成分析(JPI法): JPI-5S-49
比較のため、元油として使用した軽油についても、同様の性状試験を行った。
結果を表3に示す。
表3から、本発明の方法により得られた一次生成合成燃料油では、元油に比べて芳香族分が減少し、飽和分が増加していることが認められる。芳香族分が少なく飽和分が多い軽油は、効率や排ガスの毒性分及びPMの削減の観点から望ましいとされている。
【0074】
【表3】
【0075】
[一次生成合成燃料油の酸化安定度試験]
製造例3及び4において軽油を元油として本発明の方法により得られた一次生成合成燃料油の試料について、酸化安定度試験(試験方法:ASTM D2274)を遂行した。比較のため、元油として使用した軽油についても、同様の酸化安定度試験を行った。
測定されたスラッジ量は、いずれの試料についても、測定限界である0.1mg/100ミリリットルを下回っていた。
【0076】
[一次生成合成燃料油による走行試験]
製造例3で軽油を燃料元油として本発明の方法により得られた一次生成合成燃料油について、JC08モード走行試験を行った(使用車:日産自動車 NV350 型式LDF-VW2E26 重量1840kg)。比較のため、市販の軽油(JIS2号)についても、同様の走行試験を行った。
結果を表4に示す。参考のため、排ガス規制値も併記した。
表4から、本発明の方法により得られた一次生成合成燃料油では、特にCO2排出量が市販の軽油に比べて低い点が注目される。
製造例3で得られた一次生成合成燃料油は、体積比率で42%が水由来である。燃料元油に混合した水の燃料への転換率は、これまでの実験結果から略70%と推定され、生成された燃料の総量のうち、水由来の燃料の体積比率は、式
〔水由来の燃料の体積比率〕=(42×0.7)/(58+42×0.7)=34%
により求めることができる。このことから、製造例3の場合には、得られた燃料のうち、34%は石油由来でないと評価できる。したがって、製造例3により得られた燃料は、炭素排出量を34%程度削減していると見ることができる。
【0077】
【表4】
(一次燃料油製造例6)
先に「活性化水の形成」において述べた手順により形成した活性化水5リットルと、元油改善槽2に通した市販の軽油(JXエネルギ株式会社(ENEOS)から購入した2号軽油)10リットルを、反応槽5内に投入し、製造例2におけると同様の条件で、混合、撹拌、融合の各工程を遂行した。その後、生成された混合液を静置槽6に移し、1時間静置した。その結果、混合液は、上方の油相と下方の水相に相分離した。そこで、上方の油相に存在する油を一次生成合成燃料油として取り出した。一次生成合成燃料油の量は、11リットルであった。水相に残る水の量は4リットルであった。この工程により、5リットルの水のうち、1リットルが合成燃料油に変換されたことが確認できた。元油に比べて合成燃料油は10%増量されたことが分かる。
【0078】
〔実施例1〕
本発明の実施例として、一次燃料油製造例6において生成された合成燃料油を元油として使用し、二次合成燃料油を製造した。具体的に述べると、一次燃料油製造例6において生成された合成燃料油10リットルを、元油改善槽2に通して調整したのち、反応槽5内に投入した。同時に、「活性化水の形成」において述べた手順により形成した活性化水5リットルを反応槽5に投入し、製造例2におけると同様の条件で、混合、撹拌、融合の各工程を遂行した。その後、生成された混合液を静置槽6に移し、1時間静置した。その結果、混合液は、上方の油相と下方の水相に相分離した。そこで、上方の油相に存在する油を二次生成合成燃料油として取り出した。取り出された二次生成合成燃料油の量は、11リットルであった。水相に残る水の量は4リットルであった。この工程により、5リットルの水のうち、1リットルが合成燃料油に変換されたことが確認できた。元油として使用された一次生成合成燃料油に比べて二次合成燃料油は10%増量されたことが分かる。
【0079】
次に、上記工程により得られた二次生成合成燃料油を元油として使用し、三次合成燃料油を製造した。具体的に述べると、上記工程において生成された二次合成燃料油10リットルを、元油改善槽2に通して調整したのち、反応槽5内に投入した。同時に、「活性化水の形成」において述べた手順により形成した活性化水5リットルを反応槽5に投入し、製造例2におけると同様の条件で、混合、撹拌、融合の各工程を遂行した。その後、生成された混合液を静置槽6に移し、1時間静置した。その結果、混合液は、上方の油相と下方の水相に相分離した。そこで、上方の油相に存在する油を三次生成合成燃料油として取り出した。取り出された三次生成合成燃料油の量は、11リットルであった。水相に残る水の量は4リットルであった。この工程により、5リットルの水のうち、1リットルが合成燃料油に変換されたことが確認できた。元油として使用された二次生成合成燃料油に比べて三次生成合成燃料油は10%増量されたことが分かる。
一次燃料油製造例6により製造した一次生成合成燃料油と、実施例1で製造した二次生成合成燃料油の発熱量測定及び成分分析を行った。結果を、一次燃料油製造例6において元油として使用した市販の軽油のものと対比して表5に示す。
【表5】
上記実施例1は、一次燃料油製造例6により製造した一次生成合成燃料油を元油として使用する例であるが、一次燃料油製造例1ないし5により製造した一次生成合成燃料油を元油として、実施例1と同様に合成燃料油を製造することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 合成燃料製造装置
2 元油改善槽
3 精製水槽
4 反応促進剤注入部
5 反応槽
6 静置槽
7 製品受槽
8 ヒータ
9 触媒
10 超音波発生部
11 ポンプ
12 OHRミキサ
13 反応槽容器
14 噴射管
15 排出口
20 プラズマアーク処理装置
21、22 電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9