(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】地震予測方法及び地震予測システム
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
G01V1/00 D
(21)【出願番号】P 2019149443
(22)【出願日】2019-08-16
【審査請求日】2021-11-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500114254
【氏名又は名称】株式会社エム・アイ・ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】高島 充
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-193753(JP,A)
【文献】特開2005-337923(JP,A)
【文献】特開2015-215221(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102540245(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00 - 99/00
G01H 1/00 - 17/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に断層面が形成される際に放出されるアコースティックエミッションに基づく弾性波であるP波を、
50Hz未満の共振周波数を有する構造物の中に無指向性マイクロホンを設置し、
前記アコースティックエミッションが有する周波数帯域中の、前記構造物の共振周波数に対応した周波数の音を、この構造物の中で共鳴させて圧力変動として増強し、
前記増強された圧力変動を、前記構造物の中に設置された前記無指向性マイクロホンで捉えること、
で捕捉し、
前記P波が、最初に捕捉された時刻から、少なくとも10秒間連続して捕捉されたかを判断し、
前記P波が、少なくとも10秒間連続して捕捉された場合、地震が発生する可能性がある、と判断すること
を特徴とする地震予測方法。
【請求項2】
50Hz未満の共振周波数を有する構造物と、前記構造物の中に設置された無指向性マイクロホンと、を含む圧力変動検出装置と、
前記圧力変動検出装置と結合される観測及び予測装置と、を備え、
前記構造物は、
地中に断層面が形成される際に放出されるアコースティックエミッションが有する周波数帯域中の、前記構造物の共振周波数に対応した周波数の音を、この構造物の中で共鳴させて圧力変動として増強し、
前記無指向性マイクロホンは、
前記増強された圧力変動を、前記構造物の中で捕捉し、
前記観測及び予測装置は、
前記圧力変動が、前記無指向性マイクロホンが最初に捕捉した時刻から、少なくとも10秒間連続して捕捉されたか否かを判断し、
前記圧力変動が、少なくとも10秒間連続して捕捉された場合、地震が発生する可能性がある、と判断すること
を特徴とする地震予測システム。
【請求項3】
前記構造物は、共鳴器を含み、
前記共鳴器は、振動可能な振動板を含むこと又は少なくとも一面が柔軟な壁面を持つ構造物であること
を特徴とする請求項2に記載の地震予測システム。
【請求項4】
前記圧力変動検出装置及び前記観測及び予測装置は、それぞれ通信網と接続可能な通信部を含み、
前記圧力変動検出装置は、
相互に距離をおいて複数の場所に設置され、
前記観測及び予測装置は、
前記複数の場所に設置された圧力変動検出装置からの圧力変動情報を含む信号を、前記通信網を介して受信し、
前記圧力変動検出装置のそれぞれが捉えた前記圧力変動の140秒以内の時間差に基づいて、発生する可能性がある地震の震源地の方位を求めること、及び/又は
前記圧力変動検出装置からの圧力変動情報が140秒以内で一致したとき、地震が発生する可能性がある旨を知らせる注意喚起情報を、情報端末装置に、前記通信網を介して自動送信すること
を特徴とする請求項2又は3に記載の地震予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地震予測方法及び地震予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本において、緊急地震速報が実用化されている。緊急地震速報では、地震波のうち、S(Secondary)波よりも伝搬速度が速いP(Primary)波を察知する。これにより、大きな揺れを伴うS波が到達する前に、大きな地震が発生したことを情報発信する。緊急地震速報は、地震が発生した後、地震が発生したことを速やかに情報発信するシステムである。
【0003】
これに対し、近時、地震が発生する前に、地震が発生する可能性を予測する方法が、様々に検討されている。例えば特許文献1には、震源断層の破断に先行して、震源断層の周辺で無数の「微破壊」が発生することに起因した地鳴りを検出し、この地鳴りの特徴から本震の発生が迫っていることを検知する地震早期検知方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、アスペリティで生じる「スロークエイク(スロースリップ)」によって伝わる可聴領域の音波を検出し、検出された音波を前兆としてアスペリティの弾性復帰による地震の発生を予測する地震予測方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-193753号公報
【文献】特開2015-203693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の地震早期検知方法は、震源断層の破断に先行して、震源断層の周辺で発生する無数の「微破壊」による地鳴りを検出する。
【0007】
特許文献2に記載の地震予測方法は、アスペリティで生じる「スロークエイク(スロースリップ)」によって伝わる可聴領域の音波、おおむね100Hz~1100Hzの周波数領域で大きな音波が観測されたとき、「スロークエイク(スロースリップ)」により生じた音波であると推測して検出する。
【0008】
特許文献1及び2は、本震が発生する前に起こるであろうと考えられている「地中の物理的な破壊現象」で生じた音を、本震の前兆として検出するものである。音は、人間が明瞭に感知できる50Hz以上の領域である。
【0009】
この発明は、本震の発生を、その数日~約30日前に予測することが可能な地震予測方法及び地震予測システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の第1態様に係る地震予測方法は、地中に断層面が形成される際に放出されるアコースティックエミッションに基づく弾性波であるP波を、50Hz未満の共振周波数を有する構造物の中に無指向性マイクロホンを設置し、前記アコースティックエミッションが有する周波数帯域中の、前記構造物の共振周波数に対応した周波数の音を、この構造物の中で共鳴させて圧力変動として増強し、前記増強された圧力変動を、前記構造物の中に設置された前記無指向性マイクロホンで捉えること、で捕捉し、前記P波が、最初に捕捉された時刻から、少なくとも10秒間連続して捕捉されたかを判断し、前記P波が、少なくとも10秒間連続して捕捉された場合、地震が発生する可能性がある、と判断することを特徴とする。
【0011】
この発明の第2態様に係る地震予測システムは、50Hz未満の共振周波数を有する構造物と、前記構造物の中に設置された無指向性マイクロホンと、を含む圧力変動検出装置と、前記圧力変動検出装置と結合される観測及び予測装置と、を備え、前記構造物は、地中に断層面が形成される際に放出されるアコースティックエミッションが有する周波数帯域中の、前記構造物の共振周波数に対応した周波数の音を、この構造物の中で共鳴させて圧力変動として増強し、前記無指向性マイクロホンは、前記増強された圧力変動を、前記構造物の中で捕捉し、前記観測及び予測装置は、前記圧力変動が、前記無指向性マイクロホンが最初に捕捉した時刻から、少なくとも10秒間連続して捕捉されたか否かを判断し、前記圧力変動が、少なくとも10秒間連続して捕捉された場合、地震が発生する可能性がある、と判断することを特徴とする。
【0012】
この発明の第3態様に係る地震予測システムは、第2態様において、前記構造物は、共鳴器を含み、前記共鳴器は、振動可能な振動板を含むこと又は少なくとも一面が柔軟な壁面を持つ構造物であることを特徴とする。
【0013】
この発明の第4態様に係る地震予測システムは、第2態様又は第3態様において、前記圧力変動検出装置及び前記観測及び予測装置は、それぞれ通信網と接続可能な通信部を含み、前記圧力変動検出装置は、相互に距離をおいて複数の場所に設置され、前記観測及び予測装置は、前記複数の場所に設置された圧力変動検出装置からの圧力変動情報を含む信号を、前記通信網を介して受信し、前記圧力変動検出装置のそれぞれが捉えた前記圧力変動の140秒以内の時間差に基づいて、発生する可能性がある地震の震源地の方位を求めること、及び/又は前記圧力変動検出装置からの圧力変動情報が140秒以内で一致したとき、地震が発生する可能性がある旨を知らせる注意喚起情報を、情報端末装置に、前記通信網を介して自動送信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1態様に係る地震予測方法によれば、アコースティックエミッションに基づく弾性波であるP波を捕捉し、P波が、最初に捕捉された時刻から、設定された判断時間連続して捕捉されたかを判断し、P波が、設定された判断時間連続して捕捉された場合、地震が発生する可能性がある、と判断する。これにより、本震の発生を、その数日~約30日前に予測することができる。
【0015】
また、第2態様~第4態様に係る地震予測システムによれば、本震の発生を、その数日~約30日前に予測できる。
【0016】
しかも、第1態様に係る地震予測方法及び第2態様~第4態様に係る地震予測システムが含む圧力変動検出装置によれば、50Hz未満の共振周波数を有する構造物の中に、無指向性マイクロホンを設置する。これにより、P波に含まれる周波数成分のうち、特定の周波数成分を構造物の共振周波数として、例えば地表で抽出できる。さらに、抽出した特定の周波数成分を共鳴により、無指向性マイクロホンによって検出可能な大きさまで増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、地震発生前に、地中及び地表で起こるであろうと推測される一現象を模式的に示す模式図である。
図1(b)は、1つのP波をフーリエ変換して示す図である。
【
図2】
図2は、岩石破壊実験の結果を示す図である。
【
図3】
図3は、自然界における連続P波の実際の観測例を示す図である。
【
図4】
図4は、この発明の一実施形態に係る地震予測方法の一例を示す流れ図である。
【
図5】
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)は、実際に観測された連続P波と実際に発生した地震との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、東北地方太平洋沖地震が発生する12日前に観測された連続P波を示す図である。
【
図7】
図7は、この発明の一実施形態に係る地震予測方法に使用可能な新規なAE検出装置の一例を模式的に示す模式図である。
【
図8】
図8は、この発明の一実施形態に係る地震予測システムの一例を概略的に示すブロック図である。
【
図9】
図9(a)は、部屋の音響特性を調べた結果を示す図である。
図9(b)は、建物の中の部屋の一例を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、この発明の一実施形態に係る地震予測システムの別の例を概略的に示すブロック図である。
【
図12】
図12は、この発明の一実施形態に係る地震予測システムのさらに別の例を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。各図面において、共通する部分については、共通する参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
(地震予測方法)
<科学的な根拠>
最初に、この発明の一実施形態に係る地震予測方法の科学的な根拠を説明する。
【0020】
図1(a)は、地震発生前に、地中及び地表で起こるであろうと推測される一現象を模式的に示す模式図である。
図1(b)は、1つのP波をフーリエ変換して示す図である。
【0021】
図1(a)に示すように、地震が発生する前、地中にある岩盤(BR)には、強い圧力Pが加わっている状態である。この岩盤が壊れてずれると、地震が発生する。本件発明者は、岩盤が壊れてずれる前、岩盤からP(Primary)波が連続的に発生することを見出した。本明細書では、岩盤が壊れてずれる前、連続的に発生するP波を「連続P波(CPW)」と定義する。
【0022】
本件発明者の観測によれば、連続P波は10秒以上続く。しかも、連続P波が観測された後、連続P波は、数日~約30日間、ほぼ観測されなくなる。その後、本震が発生する。本件発明者は、本震が発生する数日~約30日前に観測される「連続P波」について、次のように仮定した。
【0023】
1.岩盤に強い圧力Pが加わる。
2.すると、岩盤には、将来、断層に発展する(又は再滑りする)可能性が高い断層面(FP)が形成される。
3.連続P波は、断層面が形成される際に発生する。
4.断層面が形成されると、連続P波は、一旦ほぼ止まる。
5.数日~約30日後、断層面が形成された岩盤が耐えきれなくなる。
6.なお、もしも特許文献1に記載の地鳴りを伴う微破壊が発生するならば、上記5.で起こると考えられる。
7.やがて、岩盤は、断層面に沿って大きくずれる。
8.本震の発生
【0024】
上記仮定は、岩石破壊実験の結果に基づく。岩石破壊実験は、花崗岩の円柱試験片に圧縮荷重を加え、円柱試験片が破壊するまでのプロセスを観測したものである。試験片の寸法は、直径φ=50mm、長さL=100mmである。圧縮荷重の大きさは、31~32kNである。
【0025】
図2は、岩石破壊実験の結果を示す図である。
図2の横軸は時間であり、縦軸は微小破壊の大きさである。時間の単位は「秒(sec)」である。微小破壊の大きさは、円柱試験片から放出されるアコースティックエミッション(Accoustic Emission、以下AEと略記する)の大きさと同定した。AEの大きさは、既存のAEセンサーを円柱試験片に貼り付けて測定した。既存のAEセンサーは、例えば圧電素子を検出素子として利用したものである。AEの大きさの単位は、「ミリボルト(mV)」である。なお、既存のAEセンサーを用いた岩石破壊実験において観測されるAEの周波数(卓越周波数)は、数十kHz~数MHzの高周波である。
【0026】
図2に示すように、岩石破壊実験では、荷重を加え始めてから約1700秒経過後に、特異な現象が2つ現れた。第1の現象は、約1720秒から約1800秒までの約80秒間に、大きなP波が突発的かつ連続的に発生したことである。第2の現象は、約1800秒経過後から破壊に至る約1850秒前後までの約50秒間、大きなP波が発生しなくなることである。本明細書では、前者の期間を「(1)連続P波発生期」、後者の期間を「(2)休止期(時間的猶予)」と呼ぶ。
【0027】
このように、円柱試験片が破壊するまでのプロセスを、既存のAEセンサーを用いて観測したところ、円柱試験片の破壊の前に、
(1)連続P波発生期
(2)休止期
の2つの現象が現れることが分かった。
【0028】
なお、休止期の後かつ破壊の直前に、「(1)連続P波発生期」に発生するP波よりも、さらに大きなP波が2つ観測されている。破壊の直前に現れたさらに大きな2つのP波は、特許文献1に記載の地鳴りを伴う「微破壊」に相当する現象である、と推測される。これに対して、「(1)連続P波発生期」に発生するP波は、地鳴りを伴う「微破壊」に先行して発生する、さらに小さい「極微破壊」である。また、連続P波は、数日~約30日間、ほぼ観測されなくなる。これは「(2)休止期」に対応する。
【0029】
円柱試験片の破壊は、自然界における地震の発生に置き換えることができる。自然界において、上記2つの現象、特に「(1)連続P波発生期」を捕捉することができれば、その後の数日~約30日間の「(2)休止期」を含んで、地震の発生を予測できる。P波は、AEに基づく弾性波である。したがって、「(1)連続P波発生期」を捕捉するためには、例えばAEに基づく弾性波を観測すればよい。
【0030】
図3は、自然界における連続P波の実際の観測例を示す図である。
図4は、この発明の一実施形態に係る地震予測方法の一例を示す流れ図である。
【0031】
図3に示すように、自然界における連続P波は、少なくとも10秒継続する。この知見に基づき、この発明の一実施形態に係る地震予測方法では、
図4に示すように、
(a)AEに基づく弾性波であるP波を捕捉し(ST.1)、
(b)上記P波が、最初に捕捉された時刻から、設定された判断時間、例えば少なくとも10秒間連続して捕捉されたかを判断し(ST.2)、
(c)上記P波が、上記設定された判断時間、連続して捕捉された場合、「(1)連続P波発生期」を捕捉したと判断し、地震(本震)が発生する可能性が高い(地震が発生する可能性がある)、と判断する(ST.3)。
【0032】
これら(a)~(c)の手順を踏まえることにより、数日~約30日前に、地震(本震)の発生を予測することが可能となる。
【0033】
<実際に観測された連続P波と実際に発生した地震との関係>
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)は、実際に観測された連続P波と実際に発生した地震との関係を示す図である。観測地点は、東京都品川区北品川である。
【0034】
図5(a)に示すように、本件発明者は、2007年11月20日に、継続時間1176秒、大きさ17mVP-P(P-P:Peak to Peak)の連続P波を観測した。観測から2日後の11月22日に、東京都及びその近辺においてマグニチュードM2.1の地震が発生した。
【0035】
また、
図5(b)に示すように、本件発明者は、2008年6月7日に、継続時間7872秒、大きさ5mVP-Pの連続P波を観測した。観測から7日後の6月14日に、岩手県内陸南部を震源とする「岩手・宮城内陸地震(マグニチュードM7.2、最大震度6強)」が発生した。
【0036】
さらに、
図5(c)に示すように、本件発明者は、2011年2月27日に、継続時間3318秒、大きさ30mVP-Pの連続P波を観測した。観測から12日後の3月11日に、岩手県沖から茨城県沖までを震源域とする「東北地方太平洋沖地震(マグニチュードM9.0、最大震度7)」が発生した。
【0037】
このように、連続P波と地震との間には、連続P波の発生から数日~十数日後に地震(本震)が発生する、という相関関係があることが明らかとなった。また、観測された連続P波が大きさが大きい場合、「観測地点に近い場所で地震が発生する」又は「観測地点から遠い場所で巨大な地震が発生する」ことが分かった。さらに、連続P波の捕捉から「7日未満」で地震が発生した場合には「比較的規模が小さい地震」となる可能性が高く、「7日以上」で地震が発生した場合には「巨大な地震」となる可能性が高くなることも分かった。
【0038】
これは太平洋プレートの動きである年間約8cmで観測された結果である。まもなく起こるであろう南海トラフ地震ではフィリピン海プレートが中心的であり、その動きは年間4cmである。このため、フィリピン海プレートの動きに基づく地震の場合、連続P波の発生から地震発生まで、太平洋プレートの動きに基づく地震の約2倍の時間がかかると推測される。したがって、南海トラフ地震の場合は、連続P波の発生から本震の発生まで、最長約30日がかかると見込まれる。このように、太平洋プレートの動きに基づく地震の場合は、連続P波の発生から数日~十数日後に本震が発生すると考えられ、フィリピン海プレートの動きに基づく地震の場合、連続P波の発生から数日~約30日後に本震が発生すると考えられる。
【0039】
これらの知見に基づき、この発明の一実施形態に係る地震予測方法では、さらに
(d)上記「(1)連続P波発生期」に捕捉されたP波の大きさに基づいて、地震の規模を、予測すること
(e)上記「(1)連続P波発生期」の捕捉からの経過日数に基づいて、巨大な地震が発生する可能性がある、と判断すること
が可能である。
【0040】
このようにP波の大きさ、経過日数等を、さらに考慮することで、「巨大な地震」が発生する可能性があることを、さらに予測することが可能である。
【0041】
また、連続P波は、少なくとも10秒継続するが、地震が発生する前に発生する連続P波は、概ね1000秒以上継続する。したがって、
(f)継続時間が、例えば1000秒に達したとき又は1000秒を超えたとき、地震が発生する可能性がある、と判断すること
も可能である。
【0042】
このように継続時間を、さらに考慮することで、継続時間を考慮しない場合に比較して、予測の確度を向上させることができる。
【0043】
<連動型地震の予測>
東北地方太平洋沖地震は、3つの地震が連動した「連動型地震」であった。本件発明者は、連動型地震と連続P波との間にも相関関係があることをつきとめた。
【0044】
図6は、東北地方太平洋沖地震が発生する12日前に観測された連続P波を示す図である。
【0045】
図6に示すように、東北地方太平洋沖地震が発生する12日前に観測された連続P波の継続時間は、3318秒であり、P波の大きさが著しく大きい部分だけでも650秒継続した。この期間において、3つの大きな紡錘形SSが見られた。3つの大きな紡錘形SSは、東北地方太平洋沖地震において連動した3つの地震に対応する、と考えられる。
【0046】
この知見に基づき、この発明の一実施形態に係る地震予測方法では、
(g)上記「(1)連続P波発生期」に捕捉されたP波の紡錘形SSの部分の数に基づいて、連動する地震の数を、さらに予測すること
も可能である。
【0047】
このように紡錘形の部分の数を、さらに考慮することで、発生する可能性がある地震が、「単発型」であるか「連動型」であるかを予測することができる。
【0048】
(地震予測システムの一例)
<圧力変動検出装置100>
P波は、AEに基づく弾性波である。したがって、上述したように「(1)連続P波発生期」を捕捉するためには、例えばAEに基づく弾性波を観測すればよい。しかしながら、既存のAEセンサーを、地中にある岩盤に貼り付けることは不可能である。そこで、本件発明者は、以下に説明するような工夫をすることで、AEに基づく弾性波であるP波を捕捉することに成功した。そして、P波が、最初に捕捉された時刻から、設定された時間、例えば10秒連続して捕捉されたか否かを判断することで、「(1)連続P波発生期」を捕捉した、と判断することに成功した。
【0049】
AEに基づく弾性波は、
図1(a)に示したように、地中から地表まで伝搬する。また、連続P波に含まれたP波の1つ1つは、
図2に示したように、鋭いパルス信号として観測できる。鋭いパルス信号である1つ1つのP波は、
図1(b)に示すように、それぞれ広い周波数帯域を有する。1つ1つのP波は、直流から高周波までのほぼ全帯域の周波数成分を含む、と考えてよい。
【0050】
これらの観点から、P波に含まれる周波数成分のうち、特定の周波数成分を地表で抽出し、抽出した特定の周波数成分を検出可能な大きさまで増強することができれば、P波を捕捉することができる。これを可能とするためには、既存のAEセンサーに代わる新規なAE検出装置を含む地震予測システムが必要となる。新規なAE検出装置では、AEを圧力変動として検出する。以下、新規なAE検出装置を、圧力変動検出装置という。
【0051】
図7は、この発明の一実施形態に係る地震予測方法に使用可能な圧力変動検出装置の一例を模式的に示す模式図である。
図8は、この発明の一実施形態に係る地震予測システムの一例を概略的に示すブロック図である。
【0052】
図7に示すように、圧力変動検出装置100は、構造物1と、無指向性マイクロホン2と、を含む。構造物1は、地面上に設置されている。構造物1は、その内部に空間11を有する。無指向性マイクロホン2は、空間11の中に設置されている。
【0053】
構造物1は共振周波数を有し、音響的に共振可能である。地表に伝搬してきたP波は、構造物1の空間11の中に伝わる。空間11の中に伝わったP波は、空間11の中で、構造物1の共振周波数と共振(共鳴)する。これにより、P波が含む周波数成分のうち、構造物1の共振周波数と合致した周波数成分が、空間11の中において、圧力変動、例えば音波として増強される。
【0054】
無指向性マイクロホン2は、空間11の中の圧力変動を捉える。この実施形態の一例では、無指向性マイクロホン2は、空間11の中の圧力変動を音波として捉える。音波が、無指向性マイクロホン2で捉えることが可能な大きさまで増強されると、無指向性マイクロホン2は、捉えた音波を電気的な信号に変換し、出力する。電気的な信号は、検出された圧力変動情報を含む、例えばアナログ信号である。
【0055】
図8に示すように、無指向性マイクロホン2から出力された圧力変動情報を含む電気的な信号は、増幅器31に入力される。増幅器31は、圧力変動情報を含む電気的な信号を増幅し、出力する。
【0056】
増幅された電気的な信号は、LPF(ローパスフィルタ)32に入力される。LPF32は、増幅された電気的な信号から、その高周波成分をカットして出力する。これは、圧力変動検出装置100では、構造物1の共振周波数が、数十Hzの低周波であることによる。低周波の具体的な例については、後述する。LPF32において、高周波成分をカットすることで、例えば環境音に起因した高周波ノイズ等を除去でき、構造物1の共振周波数付近の周波数帯にある周波数成分を、精度高く取り出すことができる。LPF32は、ある選ばれた周波数帯、例えば共振周波数付近の周波数帯のみを通過させるBPF(バンドパスフィルタ)に置き換えることもできる。
【0057】
高周波成分がカットされた電気的な信号は、A/D(アナログ-デジタル変換器)33に入力される。A/D33は、アナログ信号をデジタル信号に変換(A/D変換)し、出力する。
【0058】
<観測及び予測装置200>
A/D変換された電気的な信号は、観測及び予測装置200に入力される。観測及び予測装置200は、空間11の中における圧力変動を、時間経過とともに観測する。観測及び予測装置200は、観測結果に基づいて、上述した一実施形態に係る地震予測方法の一例にしたがって、地震の発生を予測する。そして、観測及び予測装置200が「地震が発生する可能性がある」と判断したとき、観測及び予測装置200は、地震発生予測警報を発信する。
【0059】
このように、この発明の一実施形態に係る地震予測システムの一例では、圧力変動検出装置100と、観測及び予測装置200と、を含む。
【0060】
圧力変動検出装置100は、AEに基づく弾性波であるP波を、構造物1の共振周波数に共振(共鳴)させて音波として増強し、構造物1の中の空間の圧力変動として捕捉する。これにより、地中にある岩盤から放出されたAEに基づく弾性波であるP波を、地表で捕捉することができる。
【0061】
さらに、観測及び予測装置200は、上述した地震予測方法の一例にしたがって、地震の発生を予測する。一例を挙げれば、観測及び予測装置200は、例えば
図4に示したように、
(a)AEに基づく弾性波であるP波を捕捉し(ST.1)、
(b)上記P波が、最初に捕捉された時刻から、設定された判断時間、例えば少なくとも10秒間連続して捕捉されたかを判断し(ST.2)、
(c)上記P波が、上記設定された判断時間、連続して捕捉された場合、「(1)連続P波発生期」を捕捉したと判断し、地震(本震)が発生する可能性が高い(地震が発生する可能性がある)、と判断する(ST.3)。
【0062】
したがって、この発明の一実施形態に係る地震予測システムの一例によれば、本震の発生を、その数日~約30日前に予測することができる。
【0063】
<構造物1の共振周波数>
共振周波数は、構造物1の共振周波数を調節することによって、任意の値に設定できる。共振周波数は、低周波がよい。高周波では、様々な環境音、通信等に使用される電磁波が含まれてしまい、空間11の中の圧力変動が、P波に基づく圧力変動なのか否かが区別し難くなるためである。低周波の中でも、共振周波数は、例えば50Hz未満がよい。50Hz未満であれば、例えば電源周波数(日本では50Hz又は60Hz)の影響を受け難くなる。さらに共振周波数の範囲を絞るとするならば、例えば30Hz未満がよい。30Hz未満であれば、自動車等に搭載されたエンジンのアイドリング時の低周波音の影響を、さらに受け難くなる。エンジンのアイドリング時の周波数は、例えば、約10~50Hz以上である。
【0064】
<構造物1の一例>
構造物1の一例は、地表に建設された建物である。この場合、空間11は、建物の中の部屋となる。建物は、例えば30000kg以上ある重量物であり、その共振周波数は、低周波の範囲にある。
【0065】
図9(a)は、部屋の音響特性を調べた結果を示す図である。
図9(b)は、建物の中の部屋の一例を示す斜視図である。
【0066】
図9(a)及び
図9(b)に示すように、構造物1の一例である建物は、例えば鉄筋コンクリート造であり、部屋は直方体形状で幅W=4.5m、長さL=10.7m、高さH=2.5mである。音響特性を調べた部屋では、10Hz近傍と、14~15Hz付近に共振周波数があることが確認された。なお、無指向性マイクロホン2は、長さL=10.7の端で、幅W=4.5のほぼ中央部に設置した。
【0067】
このように構造物1の一例である建物は、空間11として部屋を有する。部屋は、低周波帯域に共振周波数を有する。したがって、例えば部屋の中では、AEが有する周波数帯域中の、部屋の共振周波数に対応した周波数の音(本例では、10Hz近傍の音及び14~15Hz付近の低周波音)を共鳴させ、音波として増強することができる。
【0068】
<構造物1の別の例>
図10は、構造物の別の例を示す斜視図である。
図10には、構造物1の別の例として、共鳴器が示されている。
【0069】
図10に示すように、共鳴器12は、円筒状の筒体121と、筒体121の上面に設けられた振動可能な振動板122と、を含む。振動板122は、筒体121の上面に、上下に可動な上下可動エッジ123によって取り付けられており、上下に振動することができる。無指向性マイクロホン2は、例えば筒体121の底に、電気的な信号を出力をするためのリード線124を筒体121の外に出しつつ、設置される。共鳴器12の共振周波数は、例えば50Hz未満に設定される。
【0070】
また、共鳴器12の共振周波数は、30Hz未満に設定されることが、より好ましい。これは、上述した通り、電源周波数の影響を受け難くなるほか、エンジンのアイドリング時の低周波音の影響も受け難くできるためである。
【0071】
さらに、共鳴器12は、上下に振動できる振動板122を備える。このため、構造物1が建物であり、その部屋の中に無指向性マイクロホン2をそのまま設置する場合と比較して、AEが有する周波数帯域中の、共鳴器12の共振周波数に対応した周波数の音を、音波として、さらによく増強することができる。また、共鳴器12は、少なくとも一面が柔軟な壁面を持つ構造物であってもよい。柔軟な壁面は、振動板122と同様に振動できる。したがって、振動板122と同様に、共鳴器12の共振周波数に対応した周波数の音を、音波として、さらによく増強できる、という利点を得ることができる。
【0072】
なお、共鳴器12は、構造物1である建物の中の部屋に設置することも可能である。また、共鳴器12は、後述する地震予測システムの別の例及びさらに別の例にも使用することが可能である。
【0073】
(地震予測システムの別の例)
図11は、この発明の一実施形態に係る地震予測システムの別の例を概略的に示すブロック図である。
【0074】
図11に示すように、別の例に係る地震予測システムが、一例に係る地震予測システムと異なるところは、例えば圧力変動検出装置100を、通信機能付の圧力変動検出装置100aとしたこと、である。圧力変動検出装置100aは通信部34を含み、観測及び予測装置200は通信部41を含む。通信部34及び通信部41は、それぞれ通信網と接続可能である。この別の例では、圧力変動検出装置100aと、観測及び予測装置200とが通信網を介して接続される。これにより、観測及び予測装置200は、例えば複数の圧力変動検出装置100aの集中監視を行う。
【0075】
圧力変動検出装置100aは、相互に距離をおいて複数の場所に設置される。観測及び予測装置200は、複数の場所に設置された圧力変動検出装置100aからの圧力変動情報を含む信号を、通信網300を介して受信する。そして、観測及び予測装置200は、圧力変動検出装置100aのそれぞれが、例えば最初に捉えた圧力変動の時刻の差(時間差)に基づいて、発生する可能性が高い地震の震源地の方位を求める。ただし、最初に捉えた圧力変動の時刻から約140秒以内の時間差は、1つの地震による圧力変動であるとする。この根拠は、P波が伝わる速度が約7~8[km/sec]、圧力変動検出装置100aの検出限界が約1000~1100[km]であることによる。例えば1100[km]/8[km/sec]=137.5[sec]≒140[sec]であるから、別の例に係る地震予測システムでは、時間差が約140秒以内であれば1つの地震による圧力変動である、と判断する。
【0076】
このように圧力変動検出装置100aを、相互に距離をおいて複数の場所に設置し、圧力変動検出装置100aのそれぞれが捉えた圧力変動の時刻の差を求める。この時刻の差に基づいて、発生する可能性が高い地震の震源地の方位を求めることも可能である。
【0077】
(地震予測システムのさらに別の例)
図12は、この発明の一実施形態に係る地震予測システムのさらに別の例を概略的に示すブロック図である。
【0078】
図12に示すように、さらに別の例に係る地震予測システムが、別の例に係る地震予測システムと異なるところは、観測及び予測装置200が、クラウドサービスの、例えば管理サーバを、さらに兼ねることである。通信網300には、圧力変動検出装置100aのほか、例えばクラウドサービスを受ける顧客の情報端末装置400が接続されている。観測及び予測装置200は、複数の圧力変動検出装置100a及び情報端末装置400の集中監視を行う。
【0079】
本例の観測及び予測装置200が「地震が発生する可能性がある」と判断したとき、観測及び予測装置200は、「地震が発生する可能性がある」旨を知らせる注意喚起情報(地震発生予測警報)を、情報端末装置400に、通信網300を介して自動送信する。ただし、最初に捉えた圧力変動の時刻から140秒以内の時間差は、1つの地震による圧力変動であるとする。
【0080】
また、この自動送信は、例えば、全て又は一部の圧力変動検出装置100aからの圧力変動情報が一致したときに行うようにすると、例えば注意喚起情報(地震発生予測警報)の誤送信の可能性を低くでき、予測の信頼性をより高めることができる。なお、一部の圧力変動検出装置100aからの圧力変動の一致については、例えば100台以上一致等のしきい値を予め定めておくとよい。この場合、注意喚起情報(地震発生予測警報)は、圧力変動検出装置100aからの圧力変動情報がしきい値を超えて一致したとき、自動送信される。
【0081】
また、圧力変動検出装置100aは、クラウドサービスにおいては、例えば家庭用設置装置とされてもよい。これにより、圧力変動検出装置100aを、広くかつ数多く設置することができる。この結果、例えば震源地の方位の予測等、地震予測システムの精度を、さらに向上できる。
【0082】
また、圧力変動検出装置100aを数多く設置することで、大量の圧力変動情報を、長期間にわたって蓄積することもできる。これにより、地震予測システムの予測精度の向上に寄与する、という利点を、さらに得ることができる。
【0083】
なお、
図12を参照して説明した地震予測システムのさらに別の例と、
図11に示した地震予測システムの別の例とは、併用しての実施が可能である。また、それぞれ単独での実施も可能である。
【0084】
また、構造物1又は共鳴器12の共振周波数は、例えば50Hz未満又は30Hz未満がよい、と説明したが、共振周波数は、50Hz未満の有限値又は30Hz未満の有限値である。したがって、共振周波数は、50Hz未満又は30Hz未満で、0Hzを除く任意の値を選んで設定することができる。
【0085】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。例えば、本発明は、一実施形態のほか、様々な新規な形態で実施することができる。また、本発明の実施形態は、上述した一実施形態が唯一でもない。従って、一実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更が可能である。このような新規な形態や変形は、本発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明、及び特許請求の範囲に記載された発明の均等物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1 :構造物
11 :空間
12 :共鳴器
121:筒体
122:振動板
123:上下可動エッジ
124:リード線
2 :無指向性マイクロホン
31 :増幅器
32 :LPF(ローパスフィルタ)
33 :A/D(アナログ-デジタル変換器)
34 :通信部
41 :通信部
100 :圧力変動検出装置
100a:通信機能付の圧力変動検出装置
200 :観測及び予測装置
300 :通信網
400 :情報端末
BR :岩盤
FP :断層面
CPW :連続P波
SS :紡錘形
W :幅
L :長さ
H :高さ