IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 長谷川香料株式会社の特許一覧

特許6995452ドデセン酸を有効成分とする飲食品の旨味増強剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ドデセン酸を有効成分とする飲食品の旨味増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20220106BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20220106BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20220106BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/00 D
A23L27/20 D
A23L33/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019095182
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020188703
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2020-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸司
(72)【発明者】
【氏名】大久保 浩二
(72)【発明者】
【氏名】野澤 俊文
(72)【発明者】
【氏名】中西 啓
(72)【発明者】
【氏名】小西 俊介
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065212(JP,A)
【文献】国際公開第2018/185318(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00-27/40
A23L 27/60
A23L 31/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸および10-ドデセン酸からなる群から選択される1種または2種以上を有効成分とする、飲食品のうま味増強剤であって、前記飲食品がグルタミン酸、イノシン酸およびグアニル酸ならびにこれらの塩からなる群から選択される1種または2種以上を含有する飲食品である、飲食品のうま味増強剤
【請求項2】
請求項1に記載の飲食品のうま味増強剤を含有する飲食品のうま味増強組成物であって、前記有効成分の合計量が0.1ppm~5%である、飲食品のうま味増強組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の飲食品のうま味増強剤または請求項2に記載の飲食品のうま味増強組成物を、前記飲食品に、前記有効成分の合計量が1ppb~100ppmとなるように含有させる、飲食品のうま味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品が有している好ましい自然な香味をベースに、旨味を増強することができる旨味増強剤、および当該旨味増強剤を含有する組成物、ならびに、飲食品に当該旨味増強剤を添加することにより飲食品の旨味を増強する方法、ならびに、おいしさを改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食品用香料において、消費者の嗜好性の多様化とともに、従来にない新しいタイプの香気・香味を有する香料に対するニーズが高まり、マイルドで新鮮な香質を有し、持続性に優れたユニークな香料素材の開発が望まれている。このような背景にあって、香料素材を適宜に、またその配合量を変えて組合せ、できるだけ天然らしさを有するように調合する研究等が行われているが、未だ充分とはいえない。そこで、新たな香料素材として様々な有機化合物の探索が行われている。
【0003】
香料化合物は嗅覚を刺激する化合物であるが、その種類は数万あるとされる。一方、食の風味は嗅覚刺激と味覚刺激が脳で統合された感覚と考えられている。すなわち、嗅覚刺激は味覚を刺激する化合物(食塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウムなど)と組み合され、食全体の風味が形成されている。そこで、近年、香気を有する化合物の中から、嗅覚と同時に味覚を刺激する化合物について探索が盛んとなり、飲食品の総合的な風味の向上に用いられている。
【0004】
嗅覚と同時に味覚を刺激する化合物として、例えば、4-ヒドロキシ-2(5)-エチル-5(2)-メチル-3(2H)-フラノンは醤油に添加すると塩味を増強する効果があることが見出されている(特許文献1)。また、1,3,5-ウンデカトリエンは炭酸飲料に使用することで食感刺激に類似した炭酸感増強効果を併せ持つことが見出されている(特許文献2)。一般に、香料化合物は味覚に対しては苦味として作用するものが多い。なかでも代表的な香料化合物であるメントールは嗅覚刺激作用として清涼香を有するが、嗅覚刺激作用以外にも、痛覚刺激作用として皮膚や口腔内の冷涼感を生じ、味覚刺激作用として苦味を有することが知られている。
【0005】
基本味である旨味についても、香料化合物のなかに嗅覚と同時に旨味に関する味覚を刺激する化合物が見出され、これらの化合物を食品香料として応用し、飲食品の機能性を広げ、消費者の求める新たな風味を提供している。例えば、2-アルキルピリジンは旨味を持つことが開示されている(特許文献3)。また、ピリジン環を含む置換基を有する芳香族ケトン化合物(特許文献4)、芳香族アミド化合物(特許文献5)についても旨味物質として開示されている。さらに、2-(フェニルアルキロキシアルキル)ピリジンの一種である2-(2-ベンジルオキシエチル)ピリジンは、旨味増強剤としての用途を有することが開示されている(特許文献6)。さらにまた、2-(3-ベンジルオキシプロピル)ピリジンについても、旨味増強剤としての用途を有することが開示されている(特許文献7)。
【0006】
ドデセン酸は香料用途として有用であり、特に、7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸または10-ドデセン酸は、乳脂感、油脂感などの香気・香味を改善することができ、香りの持続性を高め、また、7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸または10-ドデセン酸を含有する香料組成物を飲食品などに添加することにより、乳脂感、油脂感などの香気・香味を改善し、香りの持続性を高めることができる(特許文献8)。しかしながら、これらのドデセン酸は香料としての用途が知られているものの、飲食品に添加することにより旨味増強する効果については、全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-70636号公報
【文献】特許第5500664号公報
【文献】特表2011-516059号公報
【文献】特表2012-532848号公報
【文献】特表2014-531448号公報
【文献】WO2015/000900
【文献】特許第5805902号公報
【文献】特許第6315529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、飲食品が有している好ましい自然な香味をベースに、旨味を増強することができる旨味増強剤、および当該旨味増強剤を含有する組成物、ならびに、飲食品に当該旨味増強剤を添加することにより飲食品の旨味を増強する方法、ならびに、おいしさを改善する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行ってきた結果、7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸または10-ドデセン酸を、飲食品に添加することにより、これらの飲食品に不必要な香気・香味を付与することなく、飲食品の旨味を増強し、飲食品の風味を改善できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明は以下のものを提供する。
(1)7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸および10-ドデセン酸からなる群から選択される1種または2種以上からなる飲食品の旨味増強剤。
(2)(1)の旨味増強剤を0.1ppm~5%含有する、飲食品の旨味増強組成物。
(3)(1)の旨味増強剤を、飲食品に1ppb~100ppm含有させる、飲食品の旨味増強方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、飲食品に不必要な香気・香味を付与することなく、飲食品が有している好ましい自然な香味をベースにして、飲食品の旨味を増強し、飲食品の風味を改善することができる。また、うま味を増強することで、減塩によって味のまとまりがなくなった飲食品のおいしさを引き上げる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0013】
本発明において、%、ppm、ppbの値は特に断りのない限り、それぞれ質量対質量の値を示す。
【0014】
旨味とは、一般的には、食品の有するおいしさを意味しているが、本発明では、前記の飲食品の有するおいしさという定義とともに、「うま味」とも記される、アミノ酸(グルタミン酸塩)や核酸(イノシン酸塩、グアニル酸塩)などの成分に由来する味の種類であり、甘味、塩味、苦味、酸味と同様、味の要素である基本味のひとつであることも意味している。例えば、本発明の旨味は、かつお節・昆布・シイタケなどでとった、だしの味も意味している。
【0015】
本発明において、旨味の増強とは、前記記載に定義づけられた旨味を増強することであり、例えば、呈味のまとまりがなくなった飲食品のおいしさを増強すること、飲食品中のだし感を増強させるといったことが挙げられる。
【0016】
本発明の化合物である、7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸または10-ドデセン酸は、(E)体および(Z)体の混合物でもよいし、(E)体または(Z)体単体でも本発明の効果を有する。
【0017】
本発明の化合物である、7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸または10-ドデセン酸は、例えば特許文献8に記載される、以下に示す反応経路に従って製造することができる。
【0018】
【化1】
【0019】
上記反応の工程は、末端に二重結合を有する不飽和脂肪酸を原料として任意のアルコールおよびパラトルエンスルホン酸などの酸触媒を用いてエステル化し、オゾン酸化によりアルデヒドとする。得られたアルデヒドと、ホスホニウム塩から得られたリンイリドとのウィッティヒ反応を行い、得られたドデセン酸エステルをアルカリ加水分解することにより、7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸または10-ドデセン酸を製造することができる。
【0020】
飲食品、例えば、旨味を有する飲食品に対し、本発明の化合物である、7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸または10-ドデセン酸を、そのまま飲食品に配合することにより、飲飲食品が有している好ましい自然な香味をベースにして、飲食品の旨味を増強し、飲食品の風味を改善することができる。旨味を有する飲食品とは、例えばアミノ酸類、核酸類、有機酸類、油脂、食塩などを含有する飲食品が挙げられるが、これに限定されない。さらに、本発明の7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸または10-ドデセン酸を2種以上の任意の割合で混合して用いることもできる。
【0021】
本発明の7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸もしくは10-ドデセン酸、またはこれらの2種以上の混合物の、飲食品の旨味増強組成物への含有量は、その目的あるいは旨味増強組成物の種類によっても異なるが、飲食品の旨味増強組成物の全体質量に対して0.1ppm~5%、好ましくは0.2ppm~1%、さらに好ましくは0.5ppm~0.5%、より好ましくは1ppm~0.2%、特に好ましくは2ppm~0.1%の範囲を例示することができる。これらの範囲内では、飲食品の旨味を増強する優れた効果を有する。
【0022】
本発明の旨味増強剤は、単独で飲食品に添加することもできるが、香料成分と任意に組み合わせて、飲食品用の旨味増強組成物として使用することもできる。本発明の旨味増強剤と共に含有しうる他の香料成分としては、各種の合成香料、天然香料、天然精油、植物エキスなどを挙げることができる。例えば、「特許庁、周知慣用技術集(香料)第II部食品香料」または「合成香料、化学と商品知識、増補新版、化学工業日報発行」に記載されている天然精油、天然香料、合成香料を挙げることができる。
【0023】
これらの成分として、食品用香料(香料組成物および旨味増強組成物)の素材として、例えば、炭化水素化合物としてα-ピネン、β-ピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなど;アルコール化合物としてブタノール、ペンタノール、プレノール、ヘキサノールなどの直鎖・飽和アルカノール類、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、2,6-ノナジエノールなどの直鎖・不飽和アルコール類、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロールなどのテルペンアルコール類、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、フルフリルアルコールなどの芳香族アルコール類;アルデヒド化合物としてアセトアルデヒド、ヘキサナール、デカナールなどの直鎖・飽和アルデヒド、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの直鎖・不飽和アルデヒド類、シトロネラール、シトラールなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、フルフラール、ヘリオトロピンなどの芳香族アルデヒド類、ケトン化合物として2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オンなどの直鎖・飽和および不飽和ケトン類、アセトイン、ジアセチル、2,3-ペンタジオン、マルトール、エチルマルトール、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどの直鎖および環状ジケトン類、ヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン類、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン類、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトン類;フラン・エーテル化合物としてローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピランなどの環状エーテル類;エステル化合物として酢酸エチル、酢酸イソアミルなどの脂肪族アルコールの酢酸エステル類、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリルなどのテルペンアルコール酢酸エステル類、酪酸エチル、カプロン酸エチルなどの脂肪酸と低級アルコールエステル類、酢酸ベンジル、サリチル酸メチルなどの芳香族エステル類;ラクトン化合物としてγ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトンなどの飽和ラクトン類、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの不飽和ラクトン類;酸化合物として酪酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和・不飽和脂肪酸類;含窒素化合物としてインドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチルなど;含硫化合物としてメタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネートなどが挙げられる。
【0024】
これらの、合成香料に関しては、市場で容易に入手可能であり、必要により容易に合成することもできる。
【0025】
また、各種のエキスとしてハーブ・スパイス抽出物、コーヒー・緑茶・紅茶・ウーロン茶抽出物、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼ・プロテアーゼなどの酵素分解物も挙げられる。
【0026】
また、旨味増強組成物の素材としては、前記食品用香料の素材に加え、さらに、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸などのアミノ酸類、イノシン酸、グアニル酸、アデニル酸、ウラジル酸シチジル酸などの核酸類及びその塩類、酵母エキス、コハク酸などの有機酸類、リボース、キシロース、アラビノース、グルコース、フラクトース、ラムノース、ラクトース、マルトース、シュークロース、トレハロース、セロビオース、マルトトリオース、水飴などの糖類などが挙げられる。
【0027】
本発明の旨味増強剤または旨味増強組成物はそのまま飲食品に添加して使用することができるが、水混和性有機溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤などして飲食品に添加することもできる。
【0028】
本発明の旨味増強剤または旨味増強組成物を溶解するための水混和性有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、2-プロパノール、グリセリン、プロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノール、グリセリンまたはプロピレングリコールが特に好ましい。
【0029】
また、乳化製剤とするためには、本発明の旨味増強剤または旨味増強組成物を乳化剤と共に乳化して得ることができる。例えば、キラヤ抽出物、酵素処理レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アラビアガムなどの乳化剤ないし安定剤の1種以上を配合して、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化することにより乳化香料製剤の形態とすることもできる。かかる乳化剤ないし安定剤の使用量は乳化剤ないし安定剤の種類などにより異なるが、例えば、乳化香料製剤の質量を基準として0.1~25質量%の範囲、好ましくは5~20質量%の範囲内を挙げることができる。
【0030】
さらに、例えば、前記乳化香料製剤に砂糖、乳糖、ブドウ糖、トレハロース、セロビオース、水飴、還元水飴などの糖類;糖アルコール類;デキストリンなどの各種デンプン分解物およびデンプン誘導体、デンプン、ゼラチン、アラビアガムなどの天然ガム類などの賦形剤を適宜配合した後、例えば、噴霧乾燥、真空乾燥などの適宜な乾燥手段により乾燥して粉末香料製剤の形態とすることもできる。これらの賦形剤の配合量は粉末香料製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0031】
旨味増強剤または旨味増強組成物により、旨味を増強することができる飲食品の具体例としては、コーラ飲料、果汁入り炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料などの炭酸飲料類;果汁飲料、野菜飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、豆乳、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料、乳飲料などのソフト飲料類;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティー、ミルクティー、コーヒー飲料などの嗜好飲料類;チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒などのアルコール飲料類;バター、チーズ、ミルク、ヨーグルトなどの乳製品;アイスクリーム、ラクトアイス、シャーベット、ヨーグルト、プリン、ゼリー、デイリーデザートなどのデザート類及びそれらを製造するためのミックス類;キャラメル、キャンディー、錠菓、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、スナックなどの菓子類及びそれらを製造するためのケーキミックスなどのミックス類;パン、スープ、各種インスタント食品などの一般食品類、歯磨きなどの口腔用組成物を挙げることができる。
【0032】
本発明の7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸もしくは10-ドデセン酸、またはこれらの2種以上の混合物の配合量は、その目的あるいは飲食品の種類によっても異なるが、例えば、飲食品の全体重量に対して1ppb~100ppm、好ましくは2ppb~50ppm、さらに好ましくは5ppb~20ppm、より好ましくは10ppb~10ppm、特に好ましくは20ppb~5ppmの範囲を例示することができる。これらの範囲内では、飲食品対し旨味を増強する優れた効果を有する。
【0033】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0034】
本発明における、7-ドデセン酸(本発明品1)、8-ドデセン酸(本発明品2)、9-ドデセン酸(本発明品3)、10-ドデセン酸(本発明品4)を特許文献8に記載されている合成反応に従って調製した。
【0035】
実施例1:旨味増強の効果
0.03質量%のグルタミン酸ナトリウム(MSG)水溶液に、表1に示す濃度の本発明品1~4を溶解したMSG水溶液を調製した。前記MSG水溶液をコントロール品として、本発明品1~4を溶解した溶液を、よく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、旨味についての官能評価を行った。
【0036】
旨味評点は、MSG水溶液をコントロール品として、0:コントロールと変化なし、1:コントロールより少し強い、2:コントロールより強い、3:コントロールよりかなり強い、4:呈味のバランスが悪い、として採点した。そのパネリスト10名の平均点を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示した通り、本発明品1~4を単独でMSG水溶液に添加した場合に、その水溶液はMSG水溶液と比較して旨味を有していた。また、その濃度としては、質量を基準として、1ppb~100ppmの範囲内で旨味が増強されることが認められた。特に10ppb~10ppmの範囲内で良好な旨味が感じられることが分かった。また、500ppmの添加濃度では、旨味は増強するが、本発明品1~4が有するウリ様、グリーン様などの香気特性が出てしまい、呈味バランスを欠くとの結果であった。
【0039】
参考例1:水蒸気蒸留によるカツオ節フレーバーの調製
5リットル容の水蒸気蒸留釜に鰹荒節粉砕物200gおよび水1800gを仕込み、釜の下部より水蒸気を吹き込み、約100℃で約3時間水蒸気蒸留を行った。留出する揮発性香気成分を含んだ水蒸気を水冷式ガラス冷却管に導き、約20℃に冷却し、凝縮させることにより回収香400gを得た。得られた回収香400gにODO(登録商標:日清オイリオ社製の中鎖脂肪酸トリグリセライドの商品名)40gを添加して、室温下30分撹拌抽出した。抽出後60分静置し、油層部をデカント分離し、無水硫酸ナトリウムにて脱水し、濾紙濾過してカツオ節フレーバー(参考品1)38gを得た。
【0040】
参考例2:含水アルコール抽出によるカツオ節フレーバーの調製
3リットル容のフラスコに鰹本枯節粉砕物200gおよび80%含水アルコール100gを加え、80~85℃にて3時間撹拌抽出した。抽出後、遠心分離、濾過して抽出液800gを得、減圧下にてアルコールを回収しカツオ節フレーバー(参考品2)15gを得た。
【0041】
参考例3:香料化合物の調合によるカツオ節フレーバーの調製
表2に示す以下の各成分を調合した(参考品3)
【0042】
【表2】
【0043】
参考例4:カツオ節様旨味増強組成物の調製
カツオ節様の旨味増強組成物として、下記の各成分(質量部)を調製した(参考品)。
参考品1 10質量部
参考品2 25
参考品3 0.5
アルコール 35
水 29.5
合計 100
【0044】
実施例2:旨味増強組成物による旨味増強の効果
上記参考品に、本発明品1~4を0.01ppm、0.1ppm、1ppm、10ppm、0.1%、1.0%、5.0%となるように添加し、旨味増強組成物を調製した。
参考品をコントロール品として、それぞれの旨味増強組成物の水溶液についてよく訓練されたパネリスト10名により旨味の官能評価を行った。官能評価の評点は、実施例1と同じ方法で採点した。パネリスト10名の平均点を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示した通り、本発明品1~4を単独で参考品に添加した場合に、その水溶液は参考品と比較して旨味を有していた。また、その濃度としては、参考品への質量を基準として、0.1ppm~5.0%の範囲内で旨味が増強されることが認められた。また、5.0%の添加濃度では、特に、本発明品3、4については、旨味は増強するが、本発明品が有するウリ様、グリーン様などの香気特性が出てしまい、呈味バランスを欠くとの結果であった。
【0047】
実施例3:イノシン酸ナトリウムへの添加
0.1質量%のイノシン酸ナトリウム(5’-IMP・2Na)と、これに、本発明品1~4を0.1ppmそれぞれ単独で加えた水溶液をよく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、旨味についての官能評価を行った。その結果、10名全員が、本発明品1~4を0.1ppmそれぞれ加えた水溶液の方が、0.1質量%のイノシン酸ナトリウム水溶液と比較して旨味が増強されているという評価であった。
【0048】
実施例4:チキンコンソメスープへの添加
市販のチキンコンソメスープ用粉末10gに熱湯を加えて全量を600mLとし、チキンコンソメスープを調製した。これに本発明品1~4をチキンコンソメスープに対してそれぞれ単独で0.1ppmとなるように添加したものを調製した。よく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、旨味についての官能評価を行った。その結果、10名全員が、本発明品1~4をそれぞれ単独で0.1ppmとしたチキンコンソメスープの方が、無添加のチキンコンソメスープと比較して旨味が増強されているという評価であった。
【0049】
実施例5:鶏がらスープへの添加
市販の鶏がらスープ用粉末10gに熱湯を加えて全量を600mLとし、鶏がらスープを調製した。これに本発明品1~4を鶏がらスープに対して各0.02ppm、合計0.08ppmとなるように添加したものを調製した。よく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、旨味についての官能評価を行った。その結果、10名中8名が、本発明品1~4を計0.08ppmとした鶏がらスープの方が、無添加の鶏がらスープと比較して旨味が増強されているという評価であった。
【0050】
実施例6:カツオブシ様調合香料組成物のめんつゆへの添加
下記表4の処方により、カツオブシ様の調合香料組成物(香気の付与に加えて、旨味を付与するタイプ)を調合した。
【0051】
【表4】
【0052】
下記表5の処方によりめんつゆを調製し、これに表4に示すカツオブシ様調合香料組成物を0.02%添加したものを調製した。
【0053】
【表5】
【0054】
カツオブシ様調合香料組成物無添加のめんつゆと、添加しためんつゆを、よく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、官能評価を行った。その結果、10名全員が、本発明のカツオブシ様調合香料組成物を添加した方が、無添加のめんつゆと比較して、旨味が増強されており、おいしく良好であるという評価であった。