(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】末梢血管疾患を有する患者における間欠跛行の症状を軽減するために用いられるキノリノン誘導体シロスタゾールの新規製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4709 20060101AFI20220106BHJP
A61K 9/26 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220106BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220106BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20220106BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220106BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20220106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61K31/4709
A61K9/26
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/20
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/40
A61K47/44
A61P7/02
A61P9/00
A61P9/08
A61P43/00 111
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2015224682
(22)【出願日】2015-11-17
【審査請求日】2018-09-25
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-27
(32)【優先日】2014-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515319895
【氏名又は名称】ジェノベイト バイオテクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GENOVATE BIOTECHNOLOGY CO.LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】チェン フェンチュー
(72)【発明者】
【氏名】ワン インシャン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン イールン
(72)【発明者】
【氏名】リン ユーイン
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】藤原 浩子
【審判官】穴吹 智子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/206348(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/255155(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/165236(US,A1)
【文献】国際公開第2008/041553(WO,A1)
【文献】特開2003-63997(JP,A)
【文献】特表2013-504615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTplus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物であって、
累積粒度分布における90%粒径が
10~30μmである粒子状のシロスタゾールまたはその塩、
水溶性セルロース、
非水溶性セルロース、
賦形剤、および
滑沢剤
を含有し、前記医薬組成物は固体かつ徐放性形態であり、重量基準で前記医薬組成物の1%~25%の水溶性セルロース、20%~40%の非水溶性セルロース、および15%~70%の前記粒子状のシロスタゾールまたはその塩を含み、シロスタゾールのin vivo血漿プロファイルがC
24h/C
max>0.25であり、非水溶性セルロースがエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、またはこれらの組合せであることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
水溶性セルロースが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、またはこれらの組合せであり、非水溶性セルロースが、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸セルロース、またはこれらの組合せである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
賦形剤が、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、デキストラート、デキストロース、エリスリトール、フルクトース、カオリン、ラクチトール、ラクトース、マンニトール、シメチコン、塩化ナトリウム、ソルビトール、デンプン、スクロース、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、トレハロース、キシリトール、結晶セルロース、またはこれらの組合せである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
滑沢剤が、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセリン、ベヘン酸グリセリル、グリセリルパルミトステアラート、水素添加ヒマシ油、水素添加植物油、軽質鉱油、ラウリル硫酸ナトリウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、安息香酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ミリスチン酸、パルミチン酸、ポロキサマー、ポリエチレングリコール、安息香酸カリウム、タルク、またはこれらの組合せである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
水溶性セルロースがHPMCであり、非水溶性セルロースがエチルセルロースである、請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
賦形剤がラクトース、結晶セルロース、またはこれらの組合せである、請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
滑沢剤がステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはこれらの組合せである、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項8】
水溶性セルロースがHPMCであり、非水溶性セルロースがエチルセルロースであり、賦形剤がラクトース、結晶セルロース、またはこれらの組合せであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはこれらの組合せである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
シロスタゾールの曲線下面積が4600~13400ng*hr/mlであることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
C
maxが280~800ng/mlである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
C
24hが0.1μg/mlを超える、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
C
maxが280~800ng/mlであり、C
24hが0.1μg/mlを超える、請求項
9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
粒子状のシロスタゾールまたはその塩の量が100mgである、請求項
12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
シロスタゾールまたはその塩の量が200mgである、請求項
12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
C
maxが280~660ng/mlであり、前記曲線下面積が4600~7900ng*hr/mlである、請求項
13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
C
maxが470~800ng/mlであり、前記曲線下面積が6400~13400ng*hr/mlである、請求項
14に記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の医薬組成物を調製する方法であって、
累積粒度分布における90%粒径が
10~30μmの粒子状のシロスタゾールまたはその塩、水溶性セルロース、賦形剤、および水を混合して均質混合物を形成する工程、
前記均質混合物を顆粒化して顆粒を形成する工程、
前記顆粒を加熱して乾燥顆粒を形成する工程、
前記乾燥顆粒、滑沢剤、および非水溶性セルロースを混合して混和物を形成する工程、および
前記混和物を圧縮して錠剤を形成する工程
を有し、非水溶性セルロースがエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、またはこれらの組合せである方法。
【請求項18】
水溶性セルロースが、HPMC、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、またはこれらの組合せである、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
賦形剤が、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、デキストラート、デキストロース、エリスリトール、フルクトース、カオリン、ラクチトール、ラクトース、マンニトール、シメチコン、塩化ナトリウム、ソルビトール、デンプン、スクロース、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、トレハロース、キシリトール、結晶セルロース、またはこれらの組合せである、請求項
17に記載の方法。
【請求項20】
滑沢剤が、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセリン、ベヘン酸グリセリル、グリセリルパルミトステアラート、水素添加ヒマシ油、水素添加植物油、軽質鉱油、ラウリル硫酸ナトリウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、安息香酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ミリスチン酸、パルミチン酸、ポロキサマー、ポリエチレングリコール、安息香酸カリウム、タルク、またはこれらの組合せである、請求項
17に記載の方法。
【請求項21】
非水溶性セルロースが、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸セルロース、またはこれらの組合せである、請求項
17に記載の方法。
【請求項22】
賦形剤が、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、デキストラート、デキストロース、エリスリトール、フルクトース、カオリン、ラクチトール、ラクトース、マンニトール、シメチコン、塩化ナトリウム、ソルビトール、デンプン、スクロース、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、トレハロース、キシリトール、結晶セルロース、またはこれらの組合せであり、滑沢剤が、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセリン、ベヘン酸グリセリル、グリセリルパルミトステアラート、水素添加ヒマシ油、水素添加植物油、軽質鉱油、ラウリル硫酸ナトリウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、安息香酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ミリスチン酸、パルミチン酸、ポロキサマー、ポリエチレングリコール、安息香酸カリウム、タルク、またはこれらの組合せであり、非水溶性セルロースが、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸セルロース、またはこれらの組合せである、請求項
18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホジエステラーゼ阻害剤シロスタゾールの医薬製剤に関し、より具体的には1日1回の投与に適した徐放性剤形に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホジエステラーゼ3の選択的阻害剤シロスタゾールは、血小板凝集を阻害し、直接的な動脈血管拡張剤として作用する。これは、大塚製薬製のPletaal(登録商標)錠剤として市販されており、そこに記載されている兆候は間欠跛行の症状の軽減を含む。
【0003】
間欠跛行を患っている患者は、下肢痛および引きずり足歩行を生じやすく、長い距離を休息せずに歩くことができない。この病気の重さは、初期跛行距離すなわち患者が痛みを生じる前に歩くことのできる距離によって、または、絶対跛行距離すなわち患者が休息を要するまでに歩くことのできる距離によって、臨床的に測定される。
【0004】
間欠跛行は高齢者によく見られる病気であり、末梢血管疾患(末梢動脈閉塞性疾患と呼ばれることもある)の臨床症状である。この原因としては、動脈硬化病変および血小板活性化障害が挙げられる。これらは動脈を徐々に狭めていき、虚血症状を引き起こす。ホスホジエステラーゼ3阻害剤のシロスタゾールおよびその代謝物は、血中cAMP濃度を、その代謝をブロックすることにより上昇させることで、抗血小板凝集および血管拡張の治療効果をもたらす。
【0005】
シロスタゾールは間欠跛行の治療に用いられてきた。50および100mgのPletaal(登録商標)錠剤は、1日2回の投与が必要である。これらは体内で急速に分解される即放性錠剤であり、血中のシロスタゾール濃度が急激に上昇すると深刻な有害反応を生じ得る。報告されているシロスタゾールに起因する副作用には、頭痛、異常便、下痢、眩暈、および動悸がある。
【0006】
投与時に、より少ない副作用に寄与し得る、より安定なシロスタゾールの血中濃度をもたらすシロスタゾールの徐放性形態の開発が必要とされている。さらに、徐放性形態は1日1回だけ服用すればよく、それにより患者のコンプライアンスが高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2008/0206348号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0165236号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0255155号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、医薬組成物すなわち徐放性形態のシロスタゾールを提供する。これは予想外にも、Pletaal(登録商標)よりも有効性が高く、かつ副作用が少ない。そのため、これは間欠跛行を治療するために1日1回投与されればよい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、粒子状のシロスタゾールまたはその塩、セルロース、賦形剤、および滑沢剤を含有する固体形態の医薬組成物に関する。粒子状のシロスタゾールまたはその塩は、累積粒度分布における90%粒径が5~75μm(好ましくは10~30μm)であり、重量基準で医薬組成物の15%~70%(好ましくは25%~55%)を構成する。本発明の医薬組成物は、シロスタゾールのin vivo血漿プロファイルがC24h/Cmax>0.25(好ましくは、C24h/Cmax>0.5)であることを特徴とする。
【0010】
セルロースは水に可溶のものでも水に不溶のものでもよく、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース(EC)、酢酸フタル酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、またはこれらの組合せとすることができる。これらの中でも、HPMC、EC、およびこれらの組合せが好ましい。
【0011】
一方、賦形剤は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、デキストラート、デキストロース、エリスリトール、フルクトース、カオリン、ラクチトール、ラクトース、マンニトール、シメチコン、塩化ナトリウム、ソルビトール、デンプン、スクロース、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、トレハロース、キシリトール、結晶セルロース、またはこれらの組合せとすることができる。ラクトース、結晶セルロース、およびこれらの組合せが好ましい。
【0012】
滑沢剤の例としては、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセリン、ベヘン酸グリセリル、グリセリルパルミトステアラート、水素添加ヒマシ油、水素添加植物油、軽質鉱油、ラウリル硫酸ナトリウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、安息香酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ミリスチン酸、パルミチン酸、ポロキサマー、ポリエチレングリコール、安息香酸カリウム、タルク、およびこれらの組合せが挙げられる。ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、およびこれらの組合せが好ましい。
【0013】
一実施形態において、この医薬組成物は100mgの量の粒子状のシロスタゾールまたはその塩を含有する。別の実施形態において、粒子状のシロスタゾールまたはその塩の量は200mgである。
【0014】
本発明の別の態様は、上記の医薬組成物を調製する方法に関する。この方法は下記の工程を含む:(i)累積粒度分布における90%粒径が5~75μmの粒子状のシロスタゾールまたはその塩、第1のセルロース、賦形剤、および水を混合して均質混合物を形成する工程、(ii)前記均質混合物を顆粒化して顆粒を形成する工程、(iii)前記顆粒を加熱して乾燥顆粒を形成する工程、(iv)前記乾燥顆粒、滑沢剤、および任意選択で第2のセルロース(すなわち、前記第1のセルロースとは異なるもの)を混合して混和物を形成する工程、および(v)前記混和物を圧縮して錠剤を形成する工程。このように調製された医薬組成物は、粒子状のシロスタゾールまたはその塩、第1のセルロース、賦形剤、滑沢剤、および任意選択で第2のセルロースを含有する。
【0015】
第1のセルロースは、HPMC、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、またはこれらの組合せとすることができる。
【0016】
第2のセルロースは、EC、酢酸フタル酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、またはこれらの組合せとすることができる。
賦形剤および滑沢剤の例は上記に列挙されている。
【0017】
本発明の詳細を、図面および下記の説明において述べる。本発明の他の特徴、目的、および利点は、この説明から、ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の教示に従う4つの典型的なシロスタゾール組成物、すなわち実施例1~4の例示的な放出速度プロファイルを示す。
【
図2】本発明の教示に従う3つの典型的なシロスタゾール組成物、すなわち実施例5~7の例示的な放出速度プロファイルを示す。
【
図3】本発明の教示に従う3つの典型的なシロスタゾール組成物、すなわち実施例8~10の例示的な放出速度プロファイルを示す。
【
図4】本発明の教示に従う4つの典型的なシロスタゾール組成物、すなわち実施例11~14の例示的な放出速度プロファイルを示す。
【
図5】本発明の教示に従う2つの典型的なシロスタゾール組成物、すなわち実施例15および16の例示的なin vivo血漿プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の医薬組成物はPletaal(登録商標)放出改変型(modified release)錠剤であり得、本願では“PMR”と称される。PMRはシロスタゾールの徐放性形態である。反対に、Pletaal(登録商標)は即放性シロスタゾール錠剤である。
【0020】
PMR錠剤は、有効成分として粒子状のシロスタゾールまたはその塩を含有する。水に不溶の薬剤であるシロスタゾールの粒子化は、そのバイオアベイラビリティを高める。粒子状のシロスタゾールまたはその塩の累積粒度分布は、国際特許出願国際公開第2007/027612号に記載の既知の方法に従い、マルバーンのマスターサイザー(Malvern Mastersizer)を用いて測定される。D(0.9)は、測定された累積粒度分布における90%の粒子のサイズと定義される。同様に、D(0.5)およびD(0.1)はそれぞれ50%および10%の粒子のサイズと定義される。粒子状のシロスタゾールまたはその塩のD(0.9)は好ましくは10~20μm、より好ましくは10~15μmであり、D(0.5)は好ましくは5~10μm、より好ましくは6~8μmであり、D(0.1)は好ましくは0.3~1μm、より好ましくは0.4~0.7μmである。
【0021】
この粒子状のシロスタゾールまたはその塩は、重量基準で医薬組成物の15%~70%を構成する。治療効果を維持するため、PMR錠剤は最低レベル(例えば15重量%)を超える有効成分を含有する必要がある。一方、過剰レベルの有効成分(例えば>70重量%)はPMR錠剤の徐放性能を弱める。
【0022】
また、PMR錠剤は、水溶性でも非水溶性でもよい1種以上のセルロースを含有する。
水溶性セルロースは、水に溶解すると多孔性の親水性コロイドマトリックスを形成し、コロイドマトリックスに捕捉された薬剤の緩やかな放出が達成される。この種のセルロースの例としては、HPMC、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。高粘度のHPMCが好ましい。例えば、25℃で、水溶液中2%(w/v)のHPMCは10,000mPa超、更には50,000mPa超の粘度を有し得る。水溶性セルロースは、重量基準で医薬組成物の1%~25%(好ましくは2%~10%)を構成する。
【0023】
非水溶性セルロースは、医薬組成物中での薬剤の溶出率を調整する働きをする。例として、EC、酢酸フタル酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、およびヒプロメロースフタル酸エステルが挙げられる。中程度の粘度を持つECが好ましい。例えば、25℃で、トルエン/エタノール(80:20w/w)溶液中5%(w/v)のECは、12~110mPa(18~80mPaが好ましく、40~52mPaがより好ましい)の粘度を有し得る。非水溶性セルロースを使用する場合、これは重量基準で医薬組成物の50%以下(好ましくは20%~40%)を構成する。
【0024】
PMR錠剤は、とりわけポビドンを含むことができる。ポビドンは有効成分の溶出率を調整するバインダーとして作用する。ポビドンを使用する場合、分子量8,000~400,000のポビドン製品が好ましく、分子量30,000~100,000のものがより好ましい。賦形剤は、重量基準で医薬組成物の25%以下(好ましくは2%~10%)を構成する。
【0025】
in vitro溶出試験において、PMR錠剤は0度放出(zero degree release)を示した。
健康な成人ヒト対象への単回投与後の薬物動態(PK)試験では、この錠剤はPletaal(登録商標)よりも優れたin vivo血漿プロファイルを示した。より具体的には、これら2つの錠剤がそれぞれ等しいシロスタゾール量で投与された時、PMR錠剤はPletaal(登録商標)よりも低い最大血漿濃度(Cmax)およびPletaal(登録商標)よりも高い24時間後血漿濃度(C24h)を示した。さらに、PMR錠剤は>0.25のC24h対Cmax比を示した。
【0026】
上記のPK試験において、PMR錠剤は4600~13400ng*hr/mlの、曲線下面積(AUC)として従来表現されているようなバイオアベイラビリティを示した。さらに、これは280~800ng/mlのCmaxおよび>0.1μg/mlのC24hを示した。
【0027】
一実施形態において、PMR錠剤は100mgの量の粒子状のシロスタゾールまたはその塩を有し、280~660ng/mlのCmaxおよび4600~7900ng*hr/mlのAUCを特徴とする。
【0028】
別の実施形態において、PMR錠剤は200mgの量の粒子状のシロスタゾールまたはその塩を有し、470~800ng/mlのCmaxおよび6400~13400ng*hr/mlのAUCを特徴とする。
【0029】
下記に、本発明のPMR錠剤を調製する例示的な手順を記載する。
表1は4つの異なるワークフローモデルを列記しており、これに基づき、異なるセルロースおよび賦形剤の組合せを用いてPMR錠剤が調製される。例としてモデル1を挙げる。まず、5~75μmのD(0.9)を有する粒子状のシロスタゾールまたはその塩、賦形剤(表1には示していない)、例えばラクトース、およびHPMCを水と混合して均質混合物を形成する。次に、均質混合物を顆粒化して顆粒を形成し、その後加熱乾燥を行う。乾燥させた顆粒を続いて滑沢剤(表1には示していない)、例えばステアリン酸と混合し、混和物を形成する。最後に、混和物を圧縮して錠剤を形成する。
【0030】
【0031】
下記の特定の実施例は単なる例示として解釈されるものとし、本開示の残りの部分を如何なる態様でも限定するものではない。更なる詳細がなくても、当業者は本明細書の記載に基づき、本発明を最大限に活用可能なはずである。本明細書で引用した全ての出版物は、その全体が参照によって援用される。
【0032】
実施例1~4:シロスタゾールの徐放性錠剤およびそのin vitro溶出プロファイル
それぞれ100mgの量の非粒子状シロスタゾールを含有するPMR実施例1~4を、表1に記載のワークフローモデル1に従って下記の表2に示す成分から調製した。
【0033】
【0034】
実施例1~4のin vitro溶出プロファイルを評価するために試験を行った。試験は、米国薬局方(USP36,2031)に記載された手順に従って実施した。より具体的には、実施例1~4のそれぞれを約37℃の温度下で溶出媒体に入れ、溶出媒体を約50または100rpmの速度でパドルにより撹拌した。溶出媒体中のシロスタゾール濃度を、様々な時間間隔で測定した。結果を下記の表3および
図1に示す。
【0035】
【0036】
結果は、実施例1~4が溶出媒体中でそれぞれ0度放出プロファイルを示したことを示す。
実施例5~7:シロスタゾールの徐放性錠剤およびそのin vitro溶出プロファイル
それぞれ100mgの量の粒子状シロスタゾールを含有するPMR実施例5~7を、表1に記載のワークフローモデル1に従って下記の表4に示す成分から調製した。実施例1~4に対し、実施例5~7ではD(0.9)が5.1~75.2μmの粒子状のシロスタゾールを用いたことに留意されたい。
【0037】
【0038】
実施例5~7のin vitro溶出プロファイルを評価するために試験を行った。試験は上述した手順に従って実施した。結果を下記の表5および
図2に示す。
【0039】
【0040】
結果は、粒子状シロスタゾールを用いて調製された実施例5~7が、実施例1~4と比較して、溶出媒体中でより一定した0度放出プロファイルを示したことを示す。
図1および2を参照されたい。
【0041】
実施例8~10:シロスタゾールの徐放性錠剤およびそのin vitro溶出プロファイル
それぞれ100mgの量の粒子状シロスタゾールを含有するPMR実施例8~10を、表1に記載のワークフローモデル2に従って下記の表6に示す成分から調製した。
【0042】
【0043】
実施例8~10のin vitro溶出プロファイルを評価するために試験を行った。試験は上述した手順に従って実施した。結果を下記の表7および
図3に示す。
【0044】
【0045】
結果は、調製物に用いられるポビドン製品の量が変化しても、PMR錠剤のin vitro溶出プロファイルには影響を与えないことを示す。
実施例11~14:シロスタゾールの徐放性錠剤およびそのin vitro溶出プロファイル
それぞれ200mgの量の粒子状シロスタゾールを含有するPMR実施例11~14を、表1に記載のワークフローモデル3に従って下記の表8に示す成分から調製した。実施例11~14の錠剤化に際し、異なる圧縮力が適用されたことに留意されたい。
【0046】
【0047】
実施例11~14のin vitro溶出プロファイルを評価するために試験を行った。試験は上述した手順に従って実施した。結果を下記の表9および
図4に示す。
【0048】
【0049】
結果は、実施例11および12のように多量のエチルセルロースを使用し、また、実施例12および14のように錠剤化中に圧縮力を適用すると、PMR錠剤のin vitro溶出プロファイルに影響を与えたことを示す。
【0050】
実施例15および16:シロスタゾールの徐放性錠剤およびそのin vivo血漿プロファイル
それぞれ100mgおよび200mgの量の粒子状シロスタゾールを含有するPMR実施例15および16を、表1に記載のワークフローモデル3に従って下記の表10に示す成分から調製した。
【0051】
【0052】
健康な成人ヒト対象において、PMR実施例15または16の単回投与後のPK試験を実施し、in vivo血漿プロファイルを評価した。また、この試験では即放性錠剤Pletaal(登録商標)を対照に用いた。100mgの量のPletaal(登録商標)、実施例15、および実施例16を、それぞれ「Pletaal100mg」、「PMR100mg」、および「PMR200mg」と表記する。結果を下記の表11および
図5に示す。
【0053】
【0054】
同じPK試験から、これら3つの試料のCmax、Tmax(最大血漿濃度に達するのに要する時間)、およびAUCを下記の表12に示す。
【0055】
【0056】
結果は、「PMR100mg」(実施例15)および「PMR200mg」(実施例16)がそれぞれ「Pletaal100mg」よりも優れたin vivo血漿プロファイルを示すことを実証している。すなわち、「PMR100mg」および「PMR200mg」はそれぞれ、「Pletaal100mg」よりも遥かに低いCmax(982±188に対して468±189および636±163)ならびに「Pletaal100mg」よりも遥かに長いTmax(2.4±1.0に対して4.5±1.4および3.3±2.1)を示した。
【0057】
実施例17:シロスタゾールの徐放性錠剤およびその有効性試験
200mgの量の粒子状シロスタゾールを含有するPMR実施例17を、表1に記載のワークフローモデル4に従って下記の表13に示す成分から調製した。
【0058】
【0059】
無作為化二重盲検治験において、実施例17錠剤(PMR200mg、1日1回)およびPletaal(登録商標)錠剤(Pletaal100mg、1日2回)をそれぞれ用いて、10人の末梢血管疾患患者のグループを個別に16週間治療した。治験の開始時(0週間)、中期(8週間)、および終了時(16週間)に、これら20人の患者の初期跛行距離(initial claudication distances:ICD)を測定した。治療の結果としてのICDの改善が、治療の開始時のICDと比較した「増加率(%)」として測定された。下記の表14にまとめた結果で、「PMR200mg」すなわち実施例17および「Pletaal100mg」の、間欠跛行の治療における有効性を比較している。
【0060】
【0061】
結果は、間欠跛行の治療において、「PMR200mg」は1日1回、「Pletaal100mg」は1日2回投与されたにもかかわらず、16週間の治験の終了時に、「PMR200mg」すなわち本発明の徐放性医薬組成物では予想外にも、即放性錠剤の「Pletaal100mg」よりも遥かに大きい臨床的改善(69.1%に対し103.7%)が得られたことを示している。
【0062】
同じ治験において、「PMR200mg」は予想外にも、「Pletaal100mg」よりも遥かに少ない副作用を示した。特に、「PMR200mg」グループにおいて有害事象が無かったと報告した患者の数は、「Pletaal100mg」グループのそれよりも遥かに多く(10%に対し20%)、また、「PMR200mg」グループにおいて薬剤関連の有害事象を報告した患者の数は、「Pletaal100mg」グループのそれよりも遥かに少なかった(40%に対し30%)。
【0063】
他の実施形態
本明細書に開示した全ての特徴は、任意の組合せで組み合わせてもよい。本明細書に開示した各特徴は、同じ、同等の、または類似の目的を果たす代替の特徴に置換してもよい。したがって、別様に明示的に記述されない限り、開示された各特徴は、同等または類似の包括的な一連の特徴の一例に過ぎない。
【0064】
さらに、上記の説明から、当業者は本発明の必須の特徴を容易に特定することができ、その主旨および範囲から逸脱することなく、本発明を様々に変更および改変して、様々な用途および条件に適合させることができる。よって、他の実施形態も特許請求の範囲内にある。