(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ホイールローダ、およびホイールローダの制御方法
(51)【国際特許分類】
F16D 48/02 20060101AFI20220106BHJP
F16H 61/00 20060101ALI20220106BHJP
F16H 61/68 20060101ALI20220106BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
F16D48/02 640K
F16D48/02 640G
F16D48/02 640U
F16H61/00
F16H61/68
E02F9/22 H
(21)【出願番号】P 2016165741
(22)【出願日】2016-08-26
【審査請求日】2019-07-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 良太
(72)【発明者】
【氏名】碇 政典
(72)【発明者】
【氏名】矢島 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 卓馬
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-275057(JP,A)
【文献】特開2011-122707(JP,A)
【文献】特公昭49-004171(JP,B1)
【文献】特開2013-249892(JP,A)
【文献】特開2003-166634(JP,A)
【文献】特開平08-029275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/02
F16H 61/00
F16H 61/68-61/688
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体の傾きを検出するセンサと、
前進用または速度段用のクラッチと、
アクセルペダルと、
油圧式のブレーキを作動させるブレーキペダルと、
前記クラッチに供給される作動油の油圧を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記車体の傾きが予め定められた角度未満の場合には、少なくとも前記アクセルペダルが操作されている状態で前記ブレーキペダルが操作されたことを条件に、前記クラッチに供給される作動油の油圧を前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかに応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行し、
前記クラッチ油圧制御によって前記クラッチが完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、前記クラッチ油圧制御を継続し、
前記車体の傾きが前記予め定められた角度以上の場合には、少なくとも前記アクセルペダルが操作されている状態で前記ブレーキペダルが操作されている条件が成立しても、前記クラッチ油圧制御を実行
せず、
前記クラッチ油圧制御時に、前記クラッチが前記半係合状態となるときの前記クラッチに供給される作動油の油圧を判定し、
前記判定結果に基づいて、前記クラッチに供給される作動油の油圧と、前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかとの対応関係を補正し、
前記ブレーキペダルが操作された場合、前記クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量が第1の閾値以上となるか否かを判定し、
前記変化量が前記第1の閾値以上となると判定された場合、前記クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量を前記第1の閾値に制限する、ホイールローダ。
【請求項2】
車体と、
前記車体の傾きを検出するセンサと、
前進用または速度段用のクラッチと、
アクセルペダルと、
油圧式のブレーキを作動させるブレーキペダルと、
前記クラッチに供給される作動油の油圧を制御するコントローラ
と、
前記コントローラから受信した油圧指令信号の電流値に基づいて、前記クラッチに供給される作動油の油圧を調整するクラッチ制御弁とを備え、
前記コントローラは、
前記車体の傾きが予め定められた角度未満の場合には、少なくとも前記アクセルペダルが操作されている状態で前記ブレーキペダルが操作されたことを条件に、前記クラッチに供給される作動油の油圧を前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかに応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行し、
前記クラッチ油圧制御によって前記クラッチが完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、前記クラッチ油圧制御を継続し、
前記車体の傾きが前記予め定められた角度以上の場合には、少なくとも前記アクセルペダルが操作されている状態で前記ブレーキペダルが操作されている条件が成立しても、前記クラッチ油圧制御を実行
せず、
前記クラッチ油圧制御時に、前記クラッチが前記半係合状態となるときの前記クラッチに供給される作動油の油圧を判定し、
前記判定結果に基づいて、前記クラッチに供給される作動油の油圧と、前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかとの対応関係を補正し、
前記クラッチ制御弁に送信する前記油圧指令信号における前記電流値の単位時間あたりの変化量が第1の閾値以上となるか否かを判定し、
前記変化量が前記第1の閾値以上となると判定された場合、前記電流値の単位時間あたりの変化量を前記第1の閾値に制限する、ホイールローダ。
【請求項3】
前記コントローラは、前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかに応じて、前記クラッチに供給される作動油の油圧を連続的に変化させる、請求項1
または2に記載のホイールローダ。
【請求項4】
前記コントローラは、前記ホイールローダが前進していることを条件に前記クラッチ油圧制御を実行する、請求項1
から3のいずれか1項に記載のホイールローダ。
【請求項5】
ブームレバーをさらに備え、
前記コントローラは、前記ホイールローダが前進しており、かつ前記ブームレバーがブーム上げ操作を受け付けていることを条件に、前記クラッチ油圧制御を実行する、請求項
4に記載のホイールローダ。
【請求項6】
前記コントローラは、前記ホイールローダが前進を終了すると、前記クラッチ油圧制御を停止する、請求項
4または
5に記載のホイールローダ。
【請求項7】
前記コントローラは、前記クラッチ油圧制御時に、前記クラッチの通過トルクに基づいて、前記クラッチが前記半係合状態および前記完全係合状態のいずれの状態であるかを判定する、請求項1から6のいずれか1項に記載のホイールローダ。
【請求項8】
前記クラッチが含まれるトランスミッションの入力軸の回転数を検出する第1の回転数センサと、
前記トランスミッションの出力軸の回転数を検出する第2の回転数センサとをさらに備え、
前記コントローラは、前記第1の回転数センサの検出値と前記第2の回転数センサの検出値とに基づいて、前記クラッチが前記半係合状態および前記完全係合状態のいずれの状態であるかを判定する、請求項1から6のいずれか1項に記載のホイールローダ。
【請求項9】
前記コントローラは、
前記第1の回転数センサによる検出値から前記出力軸の回転数を推定し、
推定された前記回転数と、前記第2の回転数センサによる検出値との差を算出し、
算出された前記差が第
2の閾値になると、前記クラッチが前記半係合状態になったと判定する、請求項8に記載のホイールローダ。
【請求項10】
前記コントローラは、
前記クラッチ油圧制御を実行中に、前記クラッチの発熱量を算出し、
算出された前記発熱量が第
3の閾値以上となった場合、予め定められた報知処理および前記クラッチ油圧制御の停止の少なくとも一方を実行する、請求項1から
9のいずれか1項に記載のホイールローダ。
【請求項11】
前記コントローラは、前記半係合状態では、前記完全係合状態のときよりも、前記ブレーキペダルの操作量の単位変化量または前記ブレーキの作動油の圧力の単位変化量に対する、前記クラッチに供給される作動油の油圧の変化量を少なくする、請求項1から
10のいずれか1項に記載のホイールローダ。
【請求項12】
前記コントローラは、前記半係合状態では、前記ブレーキペダルの操作量の単位変化量または前記ブレーキの作動油の圧力の単位変化量に対する、前記クラッチに供給される作動油の油圧の変化量の割合を一定とする、請求項
11に記載のホイールローダ。
【請求項13】
前進用または速度段用のクラッチと、
アクセルペダルと、
油圧式のブレーキを作動させるブレーキペダルと、
前記クラッチに供給される作動油の油圧を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
少なくとも前記アクセルペダルが操作されている状態で前記ブレーキペダルが操作されたことを条件に、前記クラッチに供給される作動油の油圧を前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかに応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行し、
前記クラッチ油圧制御によって前記クラッチが完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、前記クラッチ油圧制御を継続し、
前記クラッチ油圧制御時に、前記クラッチが前記半係合状態となるときの前記クラッチに供給される作動油の油圧を判定し、
前記判定結果に基づいて、前記クラッチに供給される作動油の油圧と、前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかとの対応関係を補正し、
前記ブレーキペダルが操作された場合、前記クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量が所定の閾値以上となるか否かを判定し、
前記変化量が前記所定の閾値以上となると判定された場合、前記クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量を前記所定の閾値に制限する、ホイールローダ。
【請求項14】
前進用または速度段用のクラッチと、
アクセルペダルと、
油圧式のブレーキを作動させるブレーキペダルと、
前記クラッチに供給される作動油の油圧を制御するコントローラと、
前記コントローラから受信した油圧指令信号の電流値に基づいて、前記クラッチに供給される作動油の油圧を調整するクラッチ制御弁とを備え、
前記コントローラは、
少なくとも前記アクセルペダルが操作されている状態で前記ブレーキペダルが操作されたことを条件に、前記クラッチに供給される作動油の油圧を前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかに応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行し、
前記クラッチ油圧制御によって前記クラッチが完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、前記クラッチ油圧制御を継続し、
前記クラッチ油圧制御時に、前記クラッチが前記半係合状態となるときの前記クラッチに供給される作動油の油圧を判定し、
前記判定結果に基づいて、前記クラッチに供給される作動油の油圧と、前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかとの対応関係を補正し、
前記クラッチ制御弁に送信する前記油圧指令信号における前記電流値の単位時間あたりの変化量が所定の閾値以上となるか否かを判定し、
前記変化量が前記所定の閾値以上となると判定された場合、前記電流値の単位時間あたりの変化量を前記所定の閾値に制限する、ホイールローダ。
【請求項15】
ホイールローダの制御方法であって、
ホイールローダの車体の傾きを検出するステップと、
前記車体の傾きが予め定められた角度未満の場合、少なくともアクセルペダルが操作されている状態で油圧式のブレーキを作動させるブレーキペダルが操作されたことを条件に、前進用または速度段用のクラッチに供給される作動油の油圧を前記ブレーキペダルの操作量または前記ブレーキの作動油の圧力に応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行するステップと、
前記クラッチ油圧制御によって前記クラッチが完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、前記クラッチ油圧制御を継続するステップとを備え、
前記車体の傾きが前記予め定められた角度以上の場合には、少なくとも前記アクセルペダルが操作されている状態で前記ブレーキペダルが操作されている条件が成立しても、前記クラッチ油圧制御を実行
せず、
前記ホイールローダの制御方法は、
前記クラッチ油圧制御時に、前記クラッチが前記半係合状態となるときの前記クラッチに供給される作動油の油圧を判定するステップと、
前記判定結果に基づいて、前記クラッチに供給される作動油の油圧と、前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかとの対応関係を補正するステップと、
前記ブレーキペダルが操作された場合、前記クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量が所定の閾値以上となるか否かを判定するステップと、
前記変化量が前記所定の閾値以上となると判定された場合、前記クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量を前記所定の閾値に制限するステップとをさらに備える、ホイールローダの制御方法。
【請求項16】
アクセルペダルが操作されている状態で、油圧式のブレーキを作動させるブレーキペダルが操作されたことを判定するステップと、
少なくともアクセルペダルが操作されている状態で前記ブレーキペダルが操作されたと判定されたことに基づき、前進用または速度段用のクラッチに供給される作動油の油圧をブレーキペダルの操作量または前記ブレーキの作動油の圧力に応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行するステップと、
前記クラッチ油圧制御によって前記クラッチが完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、前記クラッチ油圧制御を継続するステップと、
前記クラッチ油圧制御時に、前記クラッチが前記半係合状態となるときの前記クラッチに供給される作動油の油圧を判定するステップと、
前記判定結果に基づいて、前記クラッチに供給される作動油の油圧と、前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかとの対応関係を補正するステップと、
前記ブレーキペダルが操作された場合、前記クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量が所定の閾値以上となるか否かを判定するステップと、
前記変化量が前記所定の閾値以上となると判定された場合、前記クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量を前記所定の閾値に制限するステップとを備える、ホイールローダの制御方法。
【請求項17】
アクセルペダルが操作されている状態で、油圧式のブレーキを作動させるブレーキペダルが操作されたことを判定するステップと、
少なくともアクセルペダルが操作されている状態で前記ブレーキペダルが操作されたと判定されたことに基づき、前進用または速度段用のクラッチに供給される作動油の油圧をブレーキペダルの操作量または前記ブレーキの作動油の圧力に応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行するステップと、
前記クラッチ油圧制御によって前記クラッチが完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、前記クラッチ油圧制御を継続するステップと、
前記クラッチ油圧制御時に、前記クラッチが前記半係合状態となるときの前記クラッチに供給される作動油の油圧を判定するステップと、
前記判
定結果に基づいて、前記クラッチに供給される作動油の油圧と、前記ブレーキペダルの操作量および前記ブレーキの作動油の圧力のいずれかとの対応関係を補正するステップと、
受信した油圧指令信号の電流値に基づいて、前記クラッチに供給される作動油の油圧を調整するステップと、
前記油圧指令信号における前記電流値の単位時間あたりの変化量が所定の閾値以上となるか否かを判定するステップと、
前記変化量が前記所定の閾値以上となると判定された場合、前記電流値の単位時間あたりの変化量を前記所定の閾値に制限するステップとを備える、ホイールローダの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダ、ホイールローダの制御方法、およびホイールローダの制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自走式作業車両であるホイールローダは、車両を走行させるための走行装置と、掘削などの各種の作業を行うための作業機とを備えている。走行装置と作業機とは、エンジンからの駆動力によって駆動される。
【0003】
ホイールローダのオペレータは、作業機のバケットによって掬い取られた土砂をダンプトラックの荷台に積込むとき、アクセルペダルとブームレバーとを同時に操作する。これにより、ホイールローダは、前進するとともに、ブーム上げを実行する。なお、このような積込み作業は、「ダンプアプローチ」とも呼ばれている。
【0004】
ところで、このような積込み作業において、ホイールローダとダンプトラックとの間の距離が十分でない場合には、バケットをダンプトラックの荷台よりも高い位置に上昇させる前に、ホイールローダがダンプトラックの直前に到達してしまうおそれがある。そこで、オペレータは、ブームの上昇に要する時間を考慮し、アクセルペダルのみならずブレーキペダルを操作することによって、ホイールローダがダンプトラックの傍に到着するまでの時間を調整する。
【0005】
特許文献1には、エンジンからの出力を走行系と油圧装置系とに分配する分配器に接続されたモジュレーションクラッチを備えた作業車両が開示されている。この作業車両は、上記積込み作業が検出されると、モジュレーションクラッチの油圧を低下させる制御を行う。詳しくは、作業車両は、積込み作業が検出された場合に、ブームレバーの操作量およびアクセル操作量に応じてモジュレーションクラッチの油圧を制御する。
【0006】
特許文献2には、ホイールローダ等の作業車両のドライブトレイン(パワートレイン)に関する技術が開示されている。この作業車両は、パワートレインに関連するトルクを選択的に制御するための押下可能な右ペダルを有する。作業車両は、この右ペダルの押下量(位置)に応じて、選択されている方向切替クラッチの圧力を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2009/116248号
【文献】米国特許出願公開第6162146号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載のモジュレーションクラッチおよび特許文献2に記載の右ペダルの設置には、コストとスペースとを要する。また、上記のような積込み作業(ダンプアプローチ)において、アクセルペダルとブレーキペダルとを同時に操作すると、ブレーキ部品(典型的には、ブレーキパッド)の摩耗量の増加と燃費の低下とを招く。
【0009】
それゆえ、モジュレーションクラッチ等のハードウェアを有していないホイールローダにおいて、アクセルペダルと同時にブレーキペダルが操作された場合にブレーキ部品の摩耗量の増加および燃費の低下を抑制することができれば、ハードウェアの設置に要するコスト等をかけずに作業効率を向上させることができる。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、アクセルペダルが操作されている状態でブレーキペダルが操作された場合に、作業効率を向上させることが可能なホイールローダ、ホイールローダの制御方法、およびホイールローダの制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある局面に従うと、ホイールローダは、前進用または速度段用のクラッチと、アクセルペダルと、油圧式のブレーキを作動させるブレーキペダルと、クラッチに供給される作動油の油圧を制御するコントローラとを備える。コントローラは、少なくともアクセルペダルが操作されている状態でブレーキペダルが操作されたことを条件に、クラッチに供給される作動油の油圧をブレーキペダルの操作量およびブレーキの作動油の圧力のいずれかに応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行する。コントローラは、クラッチ油圧制御によってクラッチが完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、クラッチ油圧制御を継続する。
【0012】
上記の構成によれば、クラッチの油圧を半係合状態となるまで低下させない場合に比べて、ブレーキの引きずり度合いを小さくすることが可能となる。それゆえ、ホイールローダは、クラッチの油圧を半係合状態となるまで低下させない場合に比べて、ブレーキパッドの摩耗を低減できるとともに、燃費を低減できる。このように、ホイールローダによれば、アクセルペダルが操作されている状態でブレーキペダルが操作された場合に、作業効率を向上させることが可能となる。
【0013】
好ましくは、コントローラは、ブレーキペダルの操作量およびブレーキの作動油の圧力のいずれかに応じて、クラッチに供給される作動油の油圧を連続的に変化させる。
【0014】
上記の構成によれば、クラッチに供給される作動油の油圧を連続的に変化させない構成に比べて、オペレータは、ホイールローダの速度を細やかに調整可能となる。
【0015】
好ましくは、コントローラは、ホイールローダが前進していることを条件にクラッチ油圧制御を実行する。
【0016】
上記の構成によれば、ダンプアプローチ時に、オペレータは、ホイールローダの前進速度を細やかに調整可能となる。
【0017】
好ましくは、ホイールローダは、ブームレバーをさらに備える。コントローラは、ホイールローダが前進しており、かつブームレバーがブーム上げ操作を受け付けていることを条件に、クラッチ油圧制御を実行する。
【0018】
上記の構成によれば、ダンプアプローチ時に、作業効率を向上させることが可能となる。
【0019】
好ましくは、コントローラは、ホイールローダが前進を終了すると、クラッチ油圧制御を停止する。
【0020】
上記の構成によれば、ホイールローダが前進を終了すると、クラッチの油圧をクラッチ油圧制御の開始前の値に戻すことができる。
【0021】
好ましくは、ホイールローダは、車体と、車体の傾きを検出するセンサとをさらに備える。コントローラは、車体の傾きが予め定められた角度未満であることを条件に、クラッチ油圧制御を実行する。
【0022】
上記の構成によれば、傾斜地においてクラッチの発熱量が大きくなることを低減できる。
【0023】
好ましくは、コントローラは、クラッチ油圧制御時に、クラッチが半係合状態となるときのクラッチに供給される作動油の油圧を判定する。コントローラは、判定結果に基づいて、クラッチに供給される作動油の油圧と、ブレーキペダルの操作量およびブレーキの作動油の圧力のいずれかとの対応関係を補正する。
【0024】
上記の構成によれば、クラッチを制御する制御弁の性能のばらつきに対応できる。
好ましくは、コントローラは、クラッチ油圧制御時に、クラッチの通過トルクに基づいて、クラッチが半係合状態および完全係合状態のいずれの状態であるかを判定する。
【0025】
上記の構成によれば、クラッチが半係合状態および完全係合状態のいずれの状態であるかを判定できる。
【0026】
好ましくは、ホイールローダは、クラッチが含まれるトランスミッションの入力軸の回転数を検出する第1の回転数センサと、トランスミッションの出力軸の回転数を検出する第2の回転数センサとをさらに備える。コントローラは、第1の回転数センサの検出値と第2の回転数センサの検出値とに基づいて、クラッチが半係合状態および完全係合状態のいずれの状態であるかを判定する。
【0027】
上記の構成によれば、クラッチが半係合状態および完全係合状態のいずれの状態であるかを判定できる。
【0028】
好ましくは、コントローラは、第1の回転数センサによる検出値から出力軸の回転数を推定する。コントローラは、推定された回転数と、第2の回転数センサによる検出値との差を算出する。コントローラは、算出された差が第1の閾値になると、クラッチが半係合状態になったと判定する。
【0029】
上記の構成によれば、クラッチが半係合状態になったことを判定できる。
好ましくは、コントローラは、ブレーキペダルが操作された場合、クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量が第2の閾値以上となるか否かを判定する。コントローラは、変化量が第2の閾値以上となると判定された場合、クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量を第2の閾値に制限する。
【0030】
上記の構成によれば、ブレーキペダルが急操作された場合であっても、ホイールローダの車体に大きなショックが生じることを防止できる。
【0031】
好ましくは、ホイールローダは、コントローラから受信した油圧指令信号の電流値に基づいて、クラッチに供給される作動油の油圧を調整するクラッチ制御弁をさらに備える。コントローラは、クラッチ制御弁に送信する油圧指令信号における電流値の単位時間あたりの変化量が第3の閾値以上となるか否かを判定する。コントローラは、変化量が第3の閾値以上となると判定された場合、クラッチに供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量を第3の閾値に制限する。
【0032】
上記の構成によれば、ホイールローダの車体に大きなショックが生じることを防止できる。
【0033】
好ましくは、コントローラは、クラッチ油圧制御を実行中に、クラッチの発熱量を算出する。コントローラは、算出された発熱量が第4の閾値以上となった場合、予め定められた報知処理およびクラッチ油圧制御の停止の少なくとも一方を実行する。
【0034】
上記の構成によれば、クラッチの発熱量を低下させることができる。
好ましくは、コントローラは、半係合状態では、完全係合状態のときよりも、ブレーキペダルの操作量の単位変化量またはブレーキの作動油の圧力の単位変化量に対する、クラッチに供給される作動油の油圧の変化量を少なくする。
【0035】
上記の構成によれば、ブレーキペダルの操作量の単位変化量に対するクラッチの油圧の変化量を小さくしない構成に比べて、オペレータは、ホイールローダの速度を細やかに調整可能となる。
【0036】
好ましくは、コントローラは、半係合状態では、ブレーキペダルの操作量の単位変化量またはブレーキの作動油の圧力の単位変化量に対する、クラッチに供給される作動油の油圧の変化量の割合を一定とする。
【0037】
上記の構成によれば、ブレーキペダルの操作量の単位変化量に対するクラッチの油圧の変化量の割合を一定としない構成に比べて、オペレータは、ホイールローダの速度を細やかに調整可能となる。
【0038】
本発明の他の局面に従うと、ホイールローダの制御方法は、アクセルペダルが操作されている状態で、油圧式のブレーキを作動させるブレーキペダルが操作されたことを判定するステップと、ブレーキペダルが操作されたと判定されたことに基づき、少なくとも前進用または速度段用のクラッチに供給される作動油の油圧をブレーキペダルの操作量またはブレーキの作動油の圧力に応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行するステップと、クラッチ油圧制御によってクラッチが完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、クラッチ油圧制御を継続するステップとを備える。
【0039】
上記の方法によれば、クラッチの油圧を半係合状態となるまで低下させない場合に比べて、ブレーキの引きずり度合いを小さくすることが可能となる。それゆえ、ホイールローダは、クラッチの油圧を半係合状態となるまで低下させない場合に比べて、ブレーキパッドの摩耗を低減できるとともに、燃費を低減できる。
【0040】
本発明のさらに他の局面に従うと、ホイールローダの制御システムは、アクセルペダルの操作量が第1の所定値以上である信号と、ブレーキペダルの操作量が第2の所定値以上である信号およびブレーキの作動油の圧力が第3の所定値以上である信号のいずれかの信号とが同時に入力されたことを条件に、前進用または速度段用のクラッチの作動油の油圧を制御する制御弁に対して、ブレーキペダルの操作量およびブレーキの作動油の圧力に応じて、クラッチの油圧を低下させる指令信号を出力する。ホイールローダの制御システムは、クラッチが完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、制御弁に対してクラッチの油圧を低下させる指令信号を継続して出力する。
【0041】
上記の構成によれば、クラッチの油圧を半係合状態となるまで低下させない場合に比べて、ブレーキの引きずり度合いを小さくすることが可能となる。それゆえ、ホイールローダは、クラッチの油圧を半係合状態となるまで低下させない場合に比べて、ブレーキパッドの摩耗を低減できるとともに、燃費を低減できる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、アクセルペダルが操作されている状態でブレーキペダルが操作された場合に、作業効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図3】ダンプアプローチの概要を説明するための模式図である。
【
図4】ブレーキペダルの操作量と前進クラッチの油圧との関係を示した図である。
【
図5】
図4に基づいて説明したクラッチ油圧制御を実現するための具体的構成を説明するための図である。
【
図6】ホイールローダの前進クラッチの油圧制御の処理の流れを説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、実施形態について図に基づいて説明する。実施形態における構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0045】
以下、ホイールローダについて、図面を参照しながら説明する。以下の説明において、「上」「下」「前」「後」「左」「右」とは、運転席に着座したオペレータを基準とする用語である。
【0046】
<A.全体構成>
図1は、実施形態に基づくホイールローダ1の外観図である。
図1に示されるように、ホイールローダ1は、車体102、作業機103、車輪104a,104b、および運転室105を備えている。ホイールローダ1は、車輪104a,104bが回転駆動されることにより自走可能であると共に、作業機103を用いて所望の作業を行うことができる。
【0047】
車体102は、前車体部102aと後車体部102bとを有している。前車体部102aと後車体部102bとは、互いに左右方向に揺動可能に連結されている。
【0048】
前車体部102aと後車体部102bとに渡って、一対のステアリングシリンダ111a,111bが設けられている。ステアリングシリンダ111a,111bは、図示しないステアリングポンプからの作動油によって駆動される油圧シリンダである。ステアリングシリンダ111a,111bが伸縮することによって、前車体部102aが後車体部102bに対して揺動する。これにより、ホイールローダ1の進行方向が変更される。
【0049】
なお、
図1では、ステアリングシリンダ111a,111bの一方のみを図示しており、他方を省略している。
【0050】
前車体部102aには、作業機103および一対の前輪104aが取り付けられている。作業機103は、車体102の前方に配設されている。作業機103は、油圧ポンプ8(
図2参照)からの作動油によって駆動される。作業機103は、ブーム106と、一対のリフトシリンダ114a,114bと、バケット107と、ベルクランク109と、チルトシリンダ115とを有している。
【0051】
ブーム106は、前車体部102aに回転可能に支持されている。ブーム106の基端部が、ブームピン116によって、前車体部102aに揺動可能に取り付けられている。リフトシリンダ114a,114bの一端は前車体部102aに取り付けられている。リフトシリンダ114a,114bの他端は、ブーム106に取り付けられている。前車体部102aとブーム106とは、リフトシリンダ114a,114bにより連結されている。リフトシリンダ114a,114bが油圧ポンプ8からの作動油によって伸縮することによって、ブーム106がブームピン116を中心として上下に揺動する。
【0052】
なお、
図1では、リフトシリンダ114a,114bのうちの一方のみを図示しており、他方を省略している。
【0053】
バケット107は、ブーム106の先端に回転可能に支持されている。バケット107は、バケットピン117によって、ブーム106の先端部に揺動可能に指示されている。チルトシリンダ115の一端は前車体部102aに取り付けられている。チルトシリンダ115の他端はベルクランク109に取り付けられている。ベルクランク109とバケット107とは、図示しないリンク装置によって連結されている。前車体部102aとバケット107とは、チルトシリンダ115、ベルクランク109およびリンク装置により連結されている。チルトシリンダ115が、油圧ポンプ8からの作動油によって伸縮することによって、バケット107がバケットピン117を中心として上下に揺動する。
【0054】
後車体部102bには、運転室105および一対の後輪104bが取り付けられている。運転室105は、車体102に搭載されている。運転室105には、オペレータが着座するシート、および後述する操作用の装置などが内装されている。
【0055】
前車体部102aには、詳細を後述する角度センサ144が設けられている。
<B.システム構成>
図2は、ホイールローダ1の構成を示す模式図である。
図2に示すように、エンジン2から車輪104bまでの駆動力伝達経路90には、トランスファー6、トルクコンバータ3、トランスミッション4、パーキングブレーキ43およびサービスブレーキ40が設けられている。
【0056】
エンジン2の出力軸は、トランスファー6に連結されている。トランスファー6は、油圧ポンプ8に連結される。
【0057】
エンジン2の出力軸には、出力軸の回転数Neを検出するエンジン回転数センサ29が設けられている。エンジン回転数センサ29は、回転数Neを示す検出信号をコントローラ30に送信する。
【0058】
エンジン2の出力の一部は、トランスファー6、トルクコンバータ3およびトランスミッション4を介して車輪104bに伝達される。これにより、ホイールローダ1は走行する。ホイールローダ1の走行速度Vtは、運転室105に備えられたアクセルペダル31によって制御可能である。アクセルペダル31がオペレータによって踏み込み操作されると、アクセル操作量センサ32は、アクセルペダル31の踏み込み操作量を示す検出信号をコントローラ30に送信する。
【0059】
エンジン2の出力の残りは、トランスファー6を介して油圧ポンプ8に伝達される。これにより油圧ポンプ8が駆動される。油圧ポンプ8は、操作弁42aを介して、ブーム106を駆動する油圧アクチュエータ41aに作動油を供給する。ブーム106の上下動作は、運転室105に備えられたブーム操作レバー71aの操作によって制御可能である。また、油圧ポンプ8は、操作弁42bを介して、バケット107を駆動する油圧アクチュエータ41bに作動油を供給する。バケット107の動作は、運転室105に備えられたバケット操作レバー72aの操作によって制御可能である。
【0060】
このように、ホイールローダ1は、エンジン2の出力を利用して、掘削、後退、ダンプアプローチ、排土、後退という一連の作業を繰り返し行うことができる。これらの作業のうち、ダンプアプローチでは、土砂が積み込まれた作業機103を上昇させながらダンプトラック900に向かって微速前進する動作が行われる。
【0061】
トルクコンバータ3は、トランスファー6とトランスミッション4との間に設けられる。トルクコンバータ3は、ポンプインペラ11と、タービンランナ12と、ステータ13と、ロックアップクラッチ14と、ワンウェイクラッチ15とを有する。ポンプインペラ11は、エンジン2に連結される。タービンランナ12は、トランスミッション4に連結される。ステータ13は、ポンプインペラ11とタービンランナ12との間に設けられる反動要素である。ロックアップクラッチ14は、ポンプインペラ11とタービンランナ12とを係合/開放(ニュートラルの状態)することによって、ポンプインペラ11とエンジン2との間の動力伝達を断接自在にする。ロックアップクラッチ14は、油圧作動する。ワンウェイクラッチ15は、ステータ13の一方向のみの回転を許容する。
【0062】
トルクコンバータ3のポンプインペラ11には、ポンプインペラ11の回転数Ncを検出するトルクコンバータ入力回転数センサ44が設けられている。トルクコンバータ入力回転数センサ44は、回転数Ncを示す検出信号をコントローラ30に送信する。
【0063】
トランスミッション4は、前進走行段に対応する前進クラッチ55と、後進走行段に対応する後進クラッチ56とを有する。トランスミッション4は、1速~4速の速度段それぞれに対応する1速クラッチ51、2速クラッチ52、3速クラッチ53および4速クラッチ54を有する。前進クラッチ55と後進クラッチ56とは、方向切換クラッチであり、1速~4速クラッチ51~54は、速度切換クラッチである。各クラッチ51~56は、湿式多板の油圧クラッチで構成される。トランスミッション4は、ホイールローダの進行方向、必要な駆動力、および必要な走行速度Vtに応じて、各クラッチ51~56を選択的に係合および開放させる。
【0064】
トランスミッション4の各クラッチ51~56の入力側と出力側との係合圧力は、各クラッチ51~56に供給される作動油の油圧によって制御することができる。本実施形態では、各クラッチ51~56は、供給される作動油の油圧が大きくなるに従って、開放から半係合を経て完全係合へと遷移する。各クラッチ51~56の係合圧力は、コントローラ30から各クラッチ制御弁34~39へ送信されたクラッチ油圧指令信号に応じて、各クラッチ制御弁34~39が各クラッチ51~56に供給するクラッチ油圧を調整することで制御される。なお、各クラッチ制御弁34~39は、電子制御式比例電磁弁である。
【0065】
トランスミッション4の入力軸には、入力軸の回転数Nt0を検出するトランスミッション入力軸回転数センサ45が設けられている。トランスミッション入力軸回転数センサ45は、回転数Nt0を示す検出信号をコントローラ30に送信する。
【0066】
トランスミッション4の出力軸には、出力軸の回転数Nt2を検出するトランスミッション出力軸回転数センサ47が設けられている。トランスミッション出力軸回転数センサ47は、回転数Nt2を示す検出信号をコントローラ30に送信する。
【0067】
パーキングブレーキ43は、トランスミッション4とサービスブレーキ40との間に配置される。パーキングブレーキ43は、出力軸に取り付けられる。パーキングブレーキ43は、主としてホイールローダを駐車させるためのネガティブブレーキである。パーキングブレーキ43は、制動状態と非制動状態に切替可能な湿式多板式のブレーキである。パーキングブレーキ43の係合圧力は、運転席に配置されたパーキングブレーキレバーの操作量によって調整可能である。
【0068】
サービスブレーキ40は、パーキングブレーキ43と車輪104bの間に配置される。サービスブレーキ40は、車輪104bに連結される車軸に取り付けられる。サービスブレーキ40は、主として走行中の減速又は停止のために用いられるブレーキである。サービスブレーキ40は、制動状態と非制動状態に切替可能な湿式多板式のいわゆるポジティブブレーキである。サービスブレーキ40の係合圧力(すなわち、制動力)は、コントローラ30からブレーキ制御弁48へ送信されたブレーキ油圧指令信号に応じて、ブレーキ制御弁48がサービスブレーキ40に供給するブレーキ油圧を調整することで制御される。
【0069】
コントローラ30は、アクセル操作量センサ32からの検出信号に基づいて、アクセル開度を調整し、電子制御燃料噴射装置28に燃料噴射量指令信号を送信する。電子制御燃料噴射装置28は、噴射量指令信号を判断し、シリンダ内に噴射される燃料噴射量を調整し、エンジン2の出力(回転数)を制御する。なお、アクセル操作量センサ32は、アクセル開度センサとも称される。
【0070】
ブーム操作レバー71aが操作されると、ブーム操作検出部71bは、コントローラ30に対して、当該操作に基づいたブーム操作信号を送信する。コントローラ30は、ブーム操作信号に応じて、操作弁42aにブーム油圧指令信号を送信する。操作弁42aはブーム油圧指令信号を判断し、油圧ポンプ8から油圧アクチュエータ41aへの作動油の供給量を制御する。ブーム106の動作速度は、ブーム操作レバー71aの操作量を調整することによって行われる。
【0071】
バケット操作レバー72aが操作されると、バケット操作検出部72bは、コントローラ30に対して、当該操作に基づいたバケット操作信号を送信する。コントローラ30は、バケット操作信号に応じて、操作弁42bにバケット油圧指令信号を送信する。操作弁42bはバケット油圧指令信号を判断し、油圧ポンプ8から油圧アクチュエータ41bへの作動油の供給量を制御する。バケット107の動作速度は、バケット操作レバー72aの操作量を調整することによって行われる。
【0072】
前後進切替レバー73aが操作されると、前後進切替検出部73bは、コントローラ30に対して、前後進切替レバー73aの操作位置に応じた前後進切替操作信号を送信する。コントローラ30は、前後進切替操作信号に応じて、前後進クラッチ制御弁34,35にクラッチ油圧指令信号を送信する。前後進クラッチ制御弁34,35はクラッチ油圧指令信号を判断し、前進クラッチ55および後進クラッチ56の一方を係合させる。
【0073】
変速レバー74aが操作されると、変速検出部74bは、コントローラ30に対して、変速レバー74aの操作位置に応じた変速切替操作信号を送信する。コントローラ30は、変速切替操作信号に応じて、各変速クラッチ制御弁36~39にクラッチ油圧指令信号を送信する。各変速クラッチ制御弁36~39はクラッチ油圧指令信号を判断し、トランスミッション4の各速度段クラッチ(変速クラッチ)51~54のいずれかを係合させる。
【0074】
ブレーキペダル75がオペレータによって踏み込み操作されると、ブレーキ操作量センサ76は、ブレーキペダル75の踏み込み操作量を示す検出信号をコントローラ30に送信する。
【0075】
コントローラ30は、ブレーキペダル75の踏み込み操作量に応じて、ブレーキ制御弁48にブレーキ油圧指令信号を送信する。ブレーキ制御弁48は、ブレーキ油圧指令信号を判断し、サービスブレーキ40に供給するブレーキ油圧を調整することでサービスブレーキ40の係合圧力を制御する。
【0076】
コントローラ30は、車体102の傾きを検出する角度センサ144と接続されている。角度センサ144は、
図1に示すように、前車体部102aに設けられている。角度センサ144は、車体102のピッチ角を検出し、検出信号をコントローラ30に入力する。ここで、ホイールローダ1の重心を通り左右方向に延びる軸回りの方向を、ピッチ方向と称する。ピッチ方向は、車体102の前端が車体102の重心に対して下降または上昇する方向をいう。ピッチ角とは、ピッチ方向における車体102の傾斜角度をいう。ピッチ角は、鉛直方向または水平方向などの基準面に対する車体102の前後方向の傾斜角度である。角度センサ144の利用方法については、後述する。
【0077】
コントローラ30は、サービスブレーキ40の作動油の圧力を検出する圧力センサ7と接続されている。圧力センサ7による検出結果の利用方法については後述する。
【0078】
<C.ダンプアプローチの概要>
図3は、ダンプアプローチの概要を説明するための模式図である。なお、ダンプアプローチとは、ホイールローダ1がブーム106を上昇させながらダンプトラックに近づくことをいう。詳しくは、ダンプアプローチとは、ホイールローダ1がダンプトラックに前進して近づいており、かつブームレバーがブーム上げ操作を受け付けている状態を指す。典型的には、ホイールローダ1がダンプトラックに2速で前進して近づいており、かつブーム操作レバー71aがブーム上げ操作を受け付けている状態を指す。
【0079】
なお、以下では、説明の便宜上、ブーム106を上昇させるときには、ブーム上げの速度が一定であるもとして説明する。
【0080】
図3(A)は、ホイールローダとダンプトラックとの間の距離が十分に確保されている場合におけるオペレータ操作を説明するための図である。
図3(A)に示すように、オペレータは、区間Q11では、アクセル操作を行う。具体的には、オペレータは、アクセルペダル31を踏む。さらに、オペレータは、区間Q11では、ブーム106を上げるために、ブーム操作レバー71aを操作する。これにより、区間Q11では、ホイールローダ1がダンプトラック900に向かって走行するとともに、ブーム上げ操作が実行される。
【0081】
なお、オペレータが区間Q11でアクセル操作を行う理由は、ホイールローダ1を走行させるためというよりは、リフトシリンダ114a,114bに対して油圧を十分に供給するための意味合いが濃い。エンジン回転数を上げて、油圧ポンプからの作動油の出力を確保している。したがって、区間Q11で車速を落とすために、オペレータがブレーキペダルを踏み込んだとしても、オペレータはアクセルペダルを踏み続けている。
【0082】
区間Q11に続く区間Q12においては、オペレータは、アクセル操作をやめて、ブレーキ操作を行う。具体的には、オペレータは、アクセルペダル31を踏むのを止めて、ブレーキペダル75を踏む。これにより、オペレータは、ホイールローダ1をダンプトラック900の手前で停止させる。その後、オペレータは、バケット操作レバー72aを操作して、バケット107によって掬い取られた土砂をダンプトラック900の荷台に積み込む。
【0083】
このような一連の操作を行った場合、バケット107の通過軌跡は、典型的には、破線Laとして表される。
【0084】
図3(B)は、ホイールローダとダンプトラックとの間の距離が十分に確保されていない場合におけるオペレータ操作を説明するための図である。
図3(B)に示すように、オペレータは、区間Q21では、ブレーキ操作を行うことなく、アクセル操作を行う。さらに、オペレータは、区間Q21では、ブーム106を上げるために、ブーム操作レバー71aを操作する。これにより、区間Q21では、ホイールローダ1がダンプトラック900に向かって走行するとともに、ブーム上げ操作が実行される。
【0085】
区間Q21に続く区間Q22においては、オペレータは、アクセル操作ともに、ブレーキ操作を行う。具体的には、アクセルペダル31とブレーキペダル75とを同時に踏む。これにより、ホイールローダ1の前進速度を低下させつつ、区間Q21と同じブーム上げ速度でブーム106を上昇させる。
【0086】
オペレータは、ホイールローダ1とダンプトラック900との距離と、バケット107との位置を考慮して、ブレーキ操作を止めて、アクセル操作のみを行なう(区間Q23)。
【0087】
区間Q23に続く区間Q24においては、オペレータは、アクセル操作をやめて、ブレーキ操作を行うことより、ホイールローダ1をダンプトラック900の手前で停止させる。その後、オペレータは、バケット操作レバー72aを操作して、バケット107によって掬い取られた土砂をダンプトラック900の荷台に積み込む。
【0088】
このような一連の操作を行った場合、バケット107の通過軌跡は、典型的には、破線Lbとして表される。
【0089】
本実施の形態では、詳細については後述するが、ホイールローダ1は、区間Q22において、前進クラッチ55に供給する作動油の油圧を変更する制御を実行する。
【0090】
<D.ダンプアプローチ時のクラッチ油圧制御>
以下では、ダンプアプローチ時において実行される、前進クラッチ55に供給される作動油の油圧制御を、具体例を挙げて説明する。特に、
図3に示した区間Q22において実行される、前進クラッチ55の油圧の変更方法について説明する。なお、以下では、前進クラッチ55に供給する作動油の油圧を、「前進クラッチ55の油圧」とも称する。
【0091】
図4は、ブレーキペダル75の操作量Pと前進クラッチ55の油圧Fとの関係を示した図である。ホイールローダ1のコントローラ30は、ダンプアプローチ時においては、
図4のグラフ(線分L1,L2,L3)に示した操作量Pと油圧Fとの関係に従って、前進クラッチ55の油圧Fを制御する。なお、操作量Pは、ブレーキ操作量センサ76から出力される、ブレーキペダル75の踏み込み操作量に対応する。
【0092】
コントローラ30は、ブレーキペダル75の操作量Pが操作量Pa以下の場合、典型的には、ブレーキペダル75を操作する直前の前進クラッチ55の油圧(Fα)と同じ圧となるように、前進クラッチ55の油圧Fを制御する。具体的には、コントローラ30は、線分L1に沿って、前進クラッチ55の油圧Fを制御する。
【0093】
コントローラ30は、ブレーキペダル75の操作量Pが操作量Paを超えると、前進クラッチ55の油圧Fを操作量Pに応じて低下させる制御を開始する。典型的には、コントローラ30は、操作量Pが操作量Pbとなるまでは、単位操作量当たり一定の割合Kα(線分L2の傾き)で、前進クラッチ55の油圧Fを低下させる。具体的には、コントローラ30は、線分L2に沿って、前進クラッチ55の油圧Fを制御する。
【0094】
操作量Pb(Pb>Pa)のときに、前進クラッチ55の油圧Fは、Fβとなる。また、前進クラッチ55の油圧FがFβまで低下しても、前進クラッチ55は完全係合状態を維持している。
【0095】
コントローラ30は、ブレーキペダル75の操作量Pが操作量Pbを超えると、上記割合Kαよりも変化率が少ない一定の割合Kβ(線分L3の傾き)で、前進クラッチ55の油圧Fをさらに低下させる。具体的には、コントローラ30は、線分L3に沿って、前進クラッチ55の油圧Fを制御する。このように、コントローラ30は、操作量Pが操作量Pbを超えると、操作量Paから操作量Pbまでの間の操作量Pのときよりも、ブレーキペダル75の操作量Pの単位変化量に対する前進クラッチ55の油圧Fの変化量を少なくする。
【0096】
ブレーキペダル75の操作量Pが操作量Pc(Pc>Pb)となると、前進クラッチ55が完全係合状態から不完全係合状態に遷移する。
図4においては、このときの前進クラッチ55の油圧FをFγ(Fγ<Fβ)として表記している。
【0097】
ブレーキペダル75の操作量Pが最大操作量Pd(Pd>Pc)となると、前進クラッチ55の油圧Fの値は、値Fδ(Fδ>0)よりも少しだけ大きな値Fδ’(Fδ’>Fδ)となる。
【0098】
このように、前進クラッチ55の油圧Fの値がFγからFαの間は、前進クラッチ55は完全係合状態となり、油圧Fの値がFγからFδの間は、前進クラッチ55は半係合状態となる。Fδ以下になると、前進クラッチは開放状態(ニュートラルの状態)になる。
【0099】
詳しくは、Fβは、Fγにα1(α1は定数)を加えた値であって、かつ、Fδ’は、Fδにα2(α2は定数)を加えた値である。コントローラ30は、Fγを自動設定し、Fβを算出する。なお、Fδ’は、所定値としてもよい。
【0100】
また、油圧FがFrのときに、油圧Fと操作量Pとを線分L3で規定される値にすることにより、車体102にショックが生じづらい。さらに、油圧FがFδ’のときに、前進クラッチ55が確実に不完全係合状態である方が車速の調整が容易となる。
【0101】
また、上記の設定とは異なるが、「Fβ=Fγ」および「Fδ=Fδ’」とすることも可能である。
【0102】
なお、以下では、説明の便宜上、ブレーキペダル75の操作量PがPaからPbの間における前進クラッチ55の油圧の制御の態様を、「第1の態様」とも称する。また、ブレーキペダル75の操作量PがPbからPdの間における前進クラッチ55の油圧の制御の態様を、「第2の態様」とも称する。
【0103】
図5は、
図4に基づいて説明したクラッチ油圧制御を実現するための具体的構成を説明するための図である。
【0104】
図5に示すように、コントローラ30は、データテーブルT4を記憶している。データテーブルT4には、
図4に示した操作量Pと油圧Fとの関係が規定されている。データテーブルT4では、ブレーキペダル75の操作量Pに対して、前進クラッチ55の油圧Fの値が対応付けられている。
【0105】
詳しくは、前進クラッチ55の油圧Fは、コントローラ30から前後進クラッチ制御弁34,35に送信されるクラッチ油圧指令信号の電流値Aにより決定する。このため、データテーブルT4では、操作量Pと油圧Fとクラッチ油圧指令信号の電流値Aとの対応関係が規定されている。
【0106】
なお、データテーブルT4は、前後進クラッチ制御弁34,35についての基準の入出力特性(電流値Aと油圧Fとの関係)に基づき生成されている。典型的には、データテーブルT4は、前後進クラッチ制御弁34,35の前後進クラッチ制御弁34,35の性能および仕様に基づいて作成される。
【0107】
コントローラ30は、前後進切替操作信号と、変速切替操作信号と、ブーム操作信号とに基づき、ダンプアプローチ中か否かを判断する。典型的には、変速段が2速であって、かつブームを上げながら前進している場合には、コントローラ30は、ホイールローダ1がダンプアプローチ状態にあると判断する。
【0108】
コントローラ30は、ダンプアプローチ中であると判断すると、ブレーキペダル75の操作量Pの値を判断する。コントローラ30は、データテーブルT4を参照し、操作量Pに対応付けられた電流値Aのクラッチ油圧指令信号を生成する。コントローラ30は、生成されたクラッチ油圧指令信号を前後進クラッチ制御弁34,35に送信される。
【0109】
これにより、トランスミッション4内の前進クラッチ55には、作動油が供給され、前進クラッチ55の油圧Fは、操作量Pに対応付けられた値となる。
【0110】
以上のように、ダンプアプローチ中にブレーキペダル75に対する操作がなされると、コントローラ30は、前進クラッチ55の油圧Fを低下させる制御を開始する。特に、オペレータは、ブレーキペダル75の操作量Pを多くすることにより、前進クラッチ55を完全係合状態から半係合状態に遷移させることができる。
【0111】
ダンプアプローチ中に前進クラッチ55が半係合状態となると、前進クラッチ55を通過する通過トルクが小さくなる。それゆえ、ホイールローダ1の牽引力も低下する。したがって、ホイールローダ1では、前進クラッチ55の油圧を半係合状態となるまで低下させない場合に比べて、ブレーキの引きずり度合いを小さくすることが可能となる。その結果、ホイールローダ1では、前進クラッチ55の油圧を半係合状態となるまで低下させない場合に比べて、サービスブレーキ40のブレーキパッドの摩耗を低減できるとともに、ホイールローダ1の燃費を低減できる。
【0112】
また、
図4における操作量Paから操作量Pbまでの間は前進クラッチ55が完全係合状態となっているため、前進クラッチ55の油圧の変化がオペレータ操作に影響しない。それゆえ、この間のブレーキペダル75の操作量Pの単位変化量に対する前進クラッチ55の油圧Fの変化量(割合Kα)を、操作量Pbから操作量Pdまでの間における変化量(割合Kβ)よりも大きく設定することにより、前進クラッチ55が半係合状態となる直前の油圧Fβまで、速やかに前進クラッチ55の油圧を低下させることができる。
【0113】
また、コントローラ30は、前進クラッチ55が半係合状態となる直前で、
図4にも示したように、ブレーキペダル75の操作量Pの単位変化量に対する前進クラッチ55の油圧Fの変化量(低下量)を小さくする。
【0114】
上述したように、ブレーキペダル75の操作量Pが操作量Pbを超えた直後に、前進クラッチ55は完全係合状態から半係合状態へと遷移する。このため、操作量Pbを超えると、前進クラッチ55の油圧の変化がオペレータ操作に影響する。特に、ブレーキペダル75の操作量Pが増加するにつれて、前進クラッチ55の滑り度合いが大きくなるため、前進クラッチ55の油圧の変化がオペレータ操作に影響する。
【0115】
それゆえ、前進クラッチ55が半係合状態となる直前で、ブレーキペダル75の操作量Pの単位変化量に対する前進クラッチ55の油圧Fの変化量を小さくすることにより、変化量を変えない構成に比べて、オペレータは、ホイールローダ1の前進速度を細やかに調整可能となる。
【0116】
ところで、コントローラ30は、上述したクラッチ油圧制御時に、クラッチの通過トルクに基づいて、クラッチが半係合状態および完全係合状態のいずれの状態であるかを判定することができる。
【0117】
詳しくは、コントローラ30は、前進クラッチ55が含まれるトランスミッション4の入力軸の回転数を検出するトランスミッション入力軸回転数センサ45(第1の回転数センサ)の検出値と、トランスミッションの出力軸の回転数を検出するトランスミッション出力軸回転数センサ47(第2の回転数センサ)の検出値とに基づいて、前進クラッチ55が半係合状態および完全係合状態のいずれの状態であるかを判定することができる。
【0118】
より詳しくは、コントローラ30は、トランスミッション入力軸回転数センサ45による検出値から出力軸の回転数を推定する。コントローラ30は、推定された回転数と、トランスミッション出力軸回転数センサ47による検出値との差を算出する。コントローラ30は、算出された差が所定の閾値以上となると、前進クラッチ55が半係合状態になったと判定する。
【0119】
クラッチ油圧指令信号に着目して説明すると、以下のとおりである。コントローラ30は、アクセルペダル31の操作量が第1の所定値以上である信号と、ブレーキペダル75の操作量が第2の所定値以上である信号とが同時に入力されたことを条件に、前進クラッチ55の作動油の油圧を制御する前後進クラッチ制御弁34,35に対して、ブレーキペダル75の操作量およびブレーキ作動油の圧力に応じて、前進クラッチ55の油圧を低下させるクラッチ油圧指令信号を出力する。コントローラ30は、前進クラッチ55が完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、前後進クラッチ制御弁34,35に対して前進クラッチ55の油圧を低下させるクラッチ油圧指令信号を継続して出力する。
【0120】
上記第1の所定値は、アクセルペダル31がオペレータによって踏まれていることをコントローラ30が確認するために用いる閾値である。上記第2の所定値は、ブレーキペダル75がオペレータによって踏まれていることをコントローラ30が確認するために用いる閾値である。上記第3の所定値は、サービスブレーキ40がかかっていることをコントローラ30が確認するために用いる閾値である。なお、コントローラ30は、「ホイールローダの制御システム」の一例である。
【0121】
<E.制御構造>
図6は、ホイールローダ1の前進クラッチ55の油圧制御の処理の流れを説明するためのフロー図である。
図6に示すように、コントローラ30は、ステップS2において、現在の動作状態がダンプアプローチ中か否かを判定する。コントローラ30は、ダンプアプローチ中ではないと判定した場合(ステップS2においてNO)、ステップS18において、前進クラッチ55に対して通常の制御を継続する。
【0122】
コントローラ30は、ダンプアプローチ中であると判定した場合(ステップS2においてYES)、ステップS4において、ブレーキペダル75が操作されているか否かを判定する。コントローラ30は、ブレーキペダル75が操作されたと判定された場合(ステップS4においてYES)、ステップS6において、ブレーキペダル75の操作量PがPa以上となったか否かを判定する。コントローラ30は、ブレーキペダル75が操作されていないと判定された場合(ステップS4においてNO)、ステップS20において、前進クラッチ55の油圧をFα(一定値)に制御する。
【0123】
なお、ステップS20の後は、コントローラ30は、処理をステップS2に戻す。この後、コントローラ30は、ステップS2においてダンプアプローチ中でないと判定すると(ステップS2においてNO)、操作量Pに応じて前進クラッチ55の油圧を低下させるクラッチ油圧制御を停止して、通常制御(ステップS18)に戻す。
【0124】
コントローラ30は、操作量PがPa以上となったと判定された場合(ステップS6においてYES)、ステップS8において、前進クラッチ55の油圧を第1の態様で制御する。具体的には、コントローラ30は、単位操作量当たり一定の割合Kαで、前進クラッチ55の油圧を低下させる。コントローラ30は、操作量PがPa未満であると判定された場合(ステップS6においてNO)、処理をステップS20に進める。
【0125】
ステップS10において、コントローラ30は、ブレーキペダル75の操作量PがPa未満となったか否かを判定する。コントローラ30は、操作量PがPa未満となったと判定された場合(ステップS10においてYES)、処理をステップS20に進める。コントローラ30は、ブレーキペダル75の操作量PがPa未満となっていないと判定した場合(ステップS10においてNO)、ステップS12において、ブレーキペダル75の操作量PがPb以上となったか否かを判定する。
【0126】
コントローラ30は、操作量PがPb以上となったと判定された場合(ステップS12においてYES)、ステップS14において、前進クラッチ55の油圧を第2の態様で制御する。具体的には、コントローラ30は、単位操作量当たり一定の割合Kβで、前進クラッチ55の油圧を低下させる。コントローラ30は、操作量PがPb未満であると判定した場合、処理をステップS8に進める。
【0127】
コントローラ30は、ステップS16において、ブレーキペダル75の操作量PがPb未満かつPa以上となったか否かを判定する。コントローラ30は、操作量PがPb未満かつPa以上となったと判定された場合(ステップS16においてYES)、処理をステップS8に進める。コントローラ30は、ブレーキペダル75の操作量PがPb未満かつPa以上の範囲にないと判定された場合(ステップS16においてNO)、ステップS18において、ブレーキペダル75の操作量PがPa未満となったか否かを判定する。
【0128】
コントローラ30は、操作量PがPa未満となったと判定された場合(ステップS18においてYES)、処理をステップS20に進める。コントローラ30は、ブレーキペダル75の操作量PがPa未満となっていないと判定した場合(ステップS18においてNO)、処理をステップS14に進める。
【0129】
<F.小括>
(1)ホイールローダ1は、前進クラッチ55と、アクセルペダル31と、油圧式のサービスブレーキ40を作動させるブレーキペダル75と、前進クラッチ55の油圧(詳しくは、前進クラッチ55に供給される作動油の油圧)を制御するコントローラ30とを備える。
【0130】
コントローラ30は、少なくともアクセルペダル31が操作されている状態でブレーキペダル75が操作されたことを条件に、
図4に示したように、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行する。詳しくは、コントローラ30は、ホイールローダ1がダンプトラック900に前進して近づいており、かつブーム操作レバー71aがブーム上げ操作を受け付けていることを条件(ダンプアプローチ中であることを条件)に、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させるクラッチ油圧制御を開始する。また、コントローラ30は、当該クラッチ油圧制御によって前進クラッチ55が完全係合状態から半係合状態に遷移した後も、クラッチ油圧制御を継続する。
【0131】
ダンプアプローチ中に前進クラッチ55が半係合状態となると、前進クラッチ55を通過する通過トルクが小さくなる。それゆえ、ホイールローダ1の牽引力も低下する。したがって、ホイールローダ1では、前進クラッチ55の油圧を半係合状態となるまで低下させない場合に比べて、ブレーキの引きずり度合いを小さくすることが可能となる。その結果、ホイールローダ1では、前進クラッチ55の油圧を半係合状態となるまで低下させない場合に比べて、サービスブレーキ40のブレーキパッドの摩耗を低減できるとともに、ホイールローダ1の燃費を低減できる。
【0132】
(2)コントローラ30は、ブレーキペダル75の操作量に応じて、前進クラッチ55の油圧を、
図4に示すように連続的に変化させる。このように油圧を連続的に変化させることにより、連続的に変化させない構成に比べて、オペレータは、ホイールローダ1の前進速度を細やかに調整可能となる。
【0133】
(3)コントローラ30は、前進クラッチ55が半係合状態では、前進クラッチ55が完全係合状態(特に、前進クラッチ55の油圧FがFαからFβの値)のときよりも、ブレーキペダル75の操作量Pの単位変化量に対する、前進クラッチ55の油圧の変化量を少なくする。このような構成によれば、操作量Pの単位変化量に対する前進クラッチ55の油圧Fの変化量を小さくしない構成に比べて、オペレータは、ホイールローダ1の前進速度を細やかに調整可能となる。
【0134】
(4)コントローラ30は、前進クラッチ55が半係合状態では、ブレーキペダル75の操作量Pの単位変化量に対する、前進クラッチ55の油圧の変化量の割合を一定とする。このような構成によれば、操作量Pの単位変化量に対する前進クラッチ55の油圧Fの変化量の割合を一定としない構成に比べて、オペレータは、ホイールローダ1の前進速度を細やかに調整可能となる。
【0135】
(5)上述したように、ホイールローダ1は、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させるクラッチ油圧制御を行う。このような構成のホイールローダ1は、ブレーキペダル75の操作量が閾値を超えると前進クラッチ55を開放状態(ニュートラルの状態)にする構成(以下、「トランスミッションカットオフ機能」とも称する)に比べて、以下の利点を有する。
【0136】
ホイールローダ1は、トランスミッションカットオフ機能を備える構成に比べて、前進クラッチ55の油圧の単位時間あたりの変化量が少なくなる。それゆえ、ホイールローダ1は、トランスミッションカットオフ機能を備える構成に比べて、車体102に生じるショックを少なくすることができる。
【0137】
また、ホイールローダ1は、ダンプアプローチ時に、トランスミッションカットオフ機能を備える構成に比べて、ホイールローダ1の車速調整が行いやすい。それゆえ、ホイールローダ1は、トランスミッションカットオフ機能を備える構成に比べて、ダンプアプローチを精度よく実行することができる。
【0138】
<G.変形例>
(g1.サービスブレーキ40の作動油の圧力の利用)
上述した実施の形態では、コントローラ30は、ダンプアプローチ中であることを条件に、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行した。
【0139】
しかしながら、これに限定されるものではなく、コントローラ30は、ダンプアプローチ中であることを条件に、前進クラッチ55の油圧をサービスブレーキ40の作動油の圧力に応じて低下させてもよい。なお、サービスブレーキ40の作動油の圧力は、圧力センサ7によって検出される。
【0140】
このような構成によっても、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させる場合と同様、サービスブレーキ40のブレーキパッドの摩耗を低減できるとともに、ホイールローダ1の燃費を低減できる。
【0141】
このように、ブレーキペダル75の操作量の代わりにサービスブレーキ40の作動油の圧力を利用する構成は、後述する各変形例(g2)~(g8)においても適用できる。
【0142】
(g2.速度段クラッチへの適用)
上述した実施の形態では、コントローラ30は、ダンプアプローチ中であることを条件に、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行した。
【0143】
しかしながら、これに限定されるものではなく、コントローラ30は、ダンプアプローチ中であることを条件に、速度段クラッチ51~54の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させてもよい。
【0144】
詳しくは、コントローラ30は、ダンプアプローチ中であることを条件に、速度段クラッチ51~54のうち変速レバー74aの操作位置に応じた速度段クラッチの油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させてもよい。
【0145】
このような構成によっても、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させる場合と同様、サービスブレーキ40のブレーキパッドの摩耗を低減できるとともに、ホイールローダ1の燃費を低減できる。
【0146】
(g3.データテーブルT4における電流値の補正)
前後進クラッチ制御弁34,35は、コントローラ30からクラッチ油圧指令信号を受信し、前進クラッチ55の油圧が当該クラッチ油圧指令信号の電流値に応じた油圧となるように作動油を前進クラッチ55に供給する。
【0147】
しかしながら、前後進クラッチ制御弁34,35は、上述した基準の入出力特性に対して多少の誤差を有する場合もある。このため、コントローラ30は、前後進クラッチ制御弁34,35の個体差を考慮して、データテーブルT4を補正することが好ましい。当該補正の仕方について説明すると以下のとおりである。
【0148】
コントローラ30は、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させるクラッチ油圧制御時に、前進クラッチ55が半係合状態となるときの前進クラッチ55の油圧を判定する。コントローラ30は、当該判定結果に基づいて、データテーブルT4におけるクラッチ油圧指令信号の電流値と、ブレーキペダル75の操作量との対応関係を補正する。これにより、前進クラッチ55に供給される作動油の油圧と、ブレーキペダル75の操作量との対応関係が補正される。
【0149】
詳しくは、コントローラ30は、前進クラッチ55の通過トルクと、前進クラッチ55が半係合状態となるときの前進クラッチ55の油圧と基づいて、データテーブルT4におけるクラッチ油圧指令信号の電流値と、ブレーキペダル75の操作量との対応関係を補正する。
【0150】
このようにデータテーブルT4を補正することにより、前後進クラッチ制御弁34,35の性能のばらつきに対応できる。
【0151】
(g4.角度センサ144の利用)
コントローラ30は、車体102の傾きが予め定められた角度未満であることを条件に、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させるクラッチ油圧制御を実行してもよい。
【0152】
坂道等の傾斜地では、前進クラッチ55等が滑っている時間が長くなるため、熱負荷が大きくなる。しかしながら、上記のような構成によれば、鉛直方向または水平方向などの基準面に対して車体102の前後方向に車体102が予め定められた角度以上傾斜している場合、ダンプアプローチの条件が成立していても、コントローラ30は、上記のクラッチ油圧制御を実行しない。したがって、傾斜地において熱負荷が大きくなることを低減できる。
【0153】
なお、コントローラ30は、車体102の傾きが予め定められた角度以上であるか否かによって、傾斜地を走行中であるか否かを判断できる。また、車体の傾きは、角度センサ144による検出結果に基づき判断できる。
【0154】
(g5.発熱対策)
次に、ダンプアプローチ中に前進クラッチ55が半係合状態となることによって、前進クラッチ55において熱が発生する。以下では、このような熱の発生量を抑制するための構成について説明する。
【0155】
コントローラ30は、前進クラッチ55の使用状態を監視する。具体的に、コントローラ30は、前進クラッチ55の発熱量Qを算出する。前進クラッチ55の発熱量Qは、放熱量R(t)とクラッチ発熱率qとクラッチ滑らせ時間Δtとを用いた以下の式(1)によって算出することができる。
【0156】
【0157】
また、クラッチ発熱率qは、以下の式(2)によって算出することができる。
クラッチ発熱率q=摩擦係数×相対回転数×クラッチ油圧 ・・・(2)
式(1)において、クラッチ滑らせ時間Δtとは、前進クラッチ55がブレーキペダル75の操作量Pに応じて半係合状態を継続している時間である。前進クラッチ55が完全係合又は切断されたとき、クラッチ滑らせ時間Δtは0に戻る。
【0158】
式(2)において、摩擦係数とは、クラッチプレートの摩擦材の摩擦係数である。相対回転数とは、エンジン回転数センサが検出したエンジン回転数Neと、トルクコンバータ入力回転数センサが検出したポンプインペラ回転数Ncとの差分である。また、相対回転数とは、入力側と出力側の回転数差である。クラッチ油圧とは、クラッチプレート間に生じる面圧である。前後進クラッチ制御弁34,35には電子制御式比例電磁弁を使用しているため、クラッチ油圧は、コントローラ30から前後進クラッチ制御弁34,35に送信されたクラッチ油圧指令信号から読み取ることができる。
【0159】
コントローラ30は、発熱量Qが閾値Qmax(第4の閾値)未満であるか否かを判定する。発熱量QがQmax以上である場合、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させるクラッチ油圧制御を停止する。これによれば、前進クラッチ55の発熱量Qを低下させることができる。
【0160】
あるいは、コントローラ30は、当該クラッチ油圧制御を停止させるための予め定められた報知を出力装置(表示装置またはスピーカ)に行なわせるための制御信号を生成してもよい。これによれば、コントローラ30は、前進クラッチ55の発熱量Qを低下させる契機付をオペレータに与えることができる。
【0161】
(g6.前進クラッチ55に供給される作動油の油圧の単位時間当たりの変化量の制限)
ダンプアプローチ中において、ブレーキペダル75の単位時間当たりの操作量が多くなった場合(たとえば、ブレーキペダル75が急に踏み込まれた場合)に、車体102に大きなショックが生じる可能性がある。そこで、コントローラ30を以下のように構成してもよい。
【0162】
コントローラ30は、ブレーキペダル75が操作された場合、データテーブルT4を参照して、前進クラッチ55に供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量が所定の閾値(第2の閾値)以上となるか否かを判定する。コントローラ30は、当該記変化量が所定の閾値以上となると判定された場合、前進クラッチ55に供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量を所定の閾値に制限する。これによれば、ブレーキペダル75が急操作された場合であっても、車体102に大きなショックが生じることを防止できる。
【0163】
(g7.クラッチ油圧指令信号の電流値の単位時間当たりの変化量の制限)
ダンプアプローチ中において、ブレーキペダル75の単位時間当たりの操作量が多くなった場合(たとえば、ブレーキペダル75が急に踏み込まれた場合)に、クラッチ油圧指令信号の電流値が急激に変化すると、車体102に大きなショックが生じる可能性がある。そこで、コントローラ30を以下のように構成してもよい。
【0164】
コントローラ30は、ブレーキペダル75が操作された場合、前後進クラッチ制御弁34,35に送信するクラッチ油圧指令信号における電流値の単位時間あたりの変化量が所定の閾値(第3の閾値)以上となるか否かを判定する。コントローラ30は、変化量が上記所定の閾値以上となると判定された場合、前進クラッチ55に供給される作動油の油圧の単位時間あたりの変化量を上記所定の閾値に制限する。これによれば、ブレーキペダル75が急操作された場合であっても、車体102に大きなショックが生じることを防止できる。
【0165】
(g8.クラッチ油圧制御の開始条件)
ダンプアプローチ中であることに加えて、バケット107に所定の重量以上の土砂等の積荷を抱えていることが検出されたことを条件に、前進クラッチ55の油圧をブレーキペダル75の操作量に応じて低下させるクラッチ油圧制御を開始するように、コントローラ30を構成してもよい。たとえば、コントローラ30は、バケット107が所定の重量以上の土砂等の積荷を抱えているか否かを、リフトシリンダ114a,114bのボトム圧(油圧)が所定値以上であるか否かで判断できる。
【0166】
今回開示された実施の形態は例示であって、上記内容のみに制限されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0167】
1 ホイールローダ、2 エンジン、3 トルクコンバータ、4 トランスミッション、6 トランスファー、7 圧力センサ、8 油圧ポンプ、10 制御部、11 ポンプインペラ、12 タービンランナ、13 ステータ、14 ロックアップクラッチ、15 ワンウェイクラッチ、28 電子制御燃料噴射装置、29 エンジン回転数センサ、30 コントローラ、31 アクセルペダル、32 アクセル操作量センサ、34,35 前後進クラッチ制御弁、36,37,38,39 変速クラッチ制御弁、40 サービスブレーキ、41a,41b 油圧アクチュエータ、42a,42b 操作弁、43 パーキングブレーキ、44 トルクコンバータ入力回転数センサ、45 トランスミッション入力軸回転数センサ、47 トランスミッション出力軸回転数センサ、48 ブレーキ制御弁、51,52,53,54 速度段クラッチ、55 前進クラッチ、56 後進クラッチ、71a ブーム操作レバー、71b ブーム操作検出部、72a バケット操作レバー、72b バケット操作検出部、73a 前後進切替レバー、73b 前後進切替検出部、74a 変速レバー、74b 変速検出部、75 ブレーキペダル、76 ブレーキ操作量センサ、90 駆動力伝達経路、102 車体、102a 前車体部、102b 後車体部、103 作業機、104a 前輪、104b 後輪、105 運転室、106 ブーム、107 バケット、109 ベルクランク、111a,111b ステアリングシリンダ、114a,114b リフトシリンダ、115 チルトシリンダ、116 ブームピン、117 バケットピン、144 角度センサ、900 ダンプトラック、T4 データテーブル。