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  • 特許-ダームシジン誘導剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ダームシジン誘導剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/739 20060101AFI20220106BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220106BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61K31/739
A61K35/74 D
A61P17/00
A61P43/00 105
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2016168572
(22)【出願日】2016-08-30
(65)【公開番号】P2018035084
(43)【公開日】2018-03-08
【審査請求日】2019-07-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】500315024
【氏名又は名称】有限会社バイオメディカルリサーチグループ
(73)【特許権者】
【識別番号】390025210
【氏名又は名称】杣 源一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】河内 千恵
(72)【発明者】
【氏名】杣 源一郎
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】田中 耕一郎
【審判官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-198902(JP,A)
【文献】特開平7-126172(JP,A)
【文献】特開2016-74654(JP,A)
【文献】特開2016-147816(JP,A)
【文献】Journal of Bioscience and Bioengineering, 2006, 102(6), pp.485-496
【文献】Acta Microbiologica et Immunologica Hungarica, 2004, 51(3), pp.303-310
【文献】The Journal of Immunology, 2005, 174, pp.4870-4879
【文献】日本補完代謝医療学会誌,2007年,第4巻,第2号,第79~90頁
【文献】アレルギー,2016(2016年7月21日),第65巻,第6号,第794~795頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物菌体から得られ、次のa)~c)の理化学的性質
a)タンパク質マーカーを用いてSDS-PAGE法で測定した分子量が5,000±2,000であり
b)エルソン-モルガン法により測定したヘキソサミン含量が1~3個/分子量5,000であること
c)ジフェニルアミン法により測定した2-ケト-3-デオキシオクトネート含量が1~3個/分子量5,000であること
を有する低分子量リポポリサッカライドを有効成分として含有しケラチノサイトからダームシジンを誘導することを特徴とするダームシジン誘導剤
【請求項2】
前記微生物菌体がパントエア属に属する微生物菌体であること特徴とする請求項1記載のダームシジン誘導剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特定の理化学的性質を有し、安全性が極めて高く、かつ生物活性の高い低分子量リポポリサッカライド(LMM-LPS)を配合してなるダームシジン誘導剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダームシジンは汗腺で産生し汗に含まれることが知られており、皮膚の抗菌作用に重要な働きを持つとされる。そこで、我々は、皮膚全体を覆うのは皮膚上皮細胞のケラチノサイトであることから、この細胞からダームシジンが誘導出来る物質を開発することができれば、汎用性が高く、常に皮膚の健康状態を維持出来ると考えた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4043533号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Rieg S、外4名、”Dermcidin is constitutively produced by eccrine sweat glands and isnot induced in epidermal cells under inflammatory skin conditions.”、British Journal of Dermatology、2004年9月、151(3)、p.534-539
【文献】Kakurai M、外7名、”Vasoactive Intestinal Peptide and Cytokines Enhance Stem Cell FactorProduction From Epidermal Keratinocytes DJM-1.”、JInvest Dermatol、2002年11月、119(5)、p.1183-1188
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ケラチノサイトからダームシジンは産生しないことが報告されている。さらに、文献ではLPSでも誘導しないことが記載されている(非特許文献1)。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ケラチノサイトからダームシジンを産生する課題について、我々は鋭意研究したところ、パントエア菌LPSから得られる分子量5000±2000の低分子量LPS (LMM-LPS)は、これまでの常識を覆してケラチノサイトからダームシジンを産生することを見出し、本発明を確立することが出来た。
【発明の効果】
【0007】
皮膚全体を覆う皮膚上皮細胞のケラチノサイトからダームシジンが誘導出来る物質を開発したので、汎用性が高く、常に皮膚の健康状態を維持出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
低分子量リポポリサッカライドがケラチノサイトからダームシジンを産生することを明らかにするために、ケラチノサイトから誘導されるメッセンジャーRNA (mRNA)を比較定量するリアルタイムPCR法を用いた。
【0010】
本発明に使用した低分子量リポポリサッカライドは、パントエア・アグロメランスを常法により培養し、培地から菌体を集め、集めた菌体から公知の方法、例えば、熱フェノール法[オー・ウエストファール(O.Westphal)編、メソッズ・イン・カーボハイドレート・ケミストリー(Methods in Carbohydrate Chemistry)、第5巻、第83ページ、アカデミック・プレス(Academic Press)1965年]、により抽出し、さらに、陰イオン交換樹脂により精製して製造した。すなわち、パントエア菌の菌体を蒸留水に懸濁し、この懸濁液を蒸留水および等容量の熱フェノールの混合液に添加して撹拌し、次いで遠心分離して水層を回収し、この水層を透析してフェノールを除去し、限界濾過法により濃縮して粗LPS画分を採取し、この画分を常法の陰イオン交換クロマトグラフィー(例えば、モノQ-セファロースまたはQ-セファロースを使用する)により精製し常法により脱塩して、精製LPSを得た。
【0011】
得られた精製LPSは既報(特許文献1)に従い、デオキシコール酸ナトリウム等の界面活性剤の存在下でゲル濾過し、低分子量LSPを含有する画分のみを回収し、混在する高分子量LSPを除去することによって、高度に精製された低分子量リポポリサッカライドを得た(LMM-LPS)。
【0012】
以上の方法により製造されたこの発明の新規な低分子量LPSは、
a)タンパク質マーカーを用いてSDS-PAGE法で測定した分子量が5,000±2,000であり
b)エルソン-モルガン法により測定したヘキソサミン含量が1~3個/分子量5,000であること
c)ジフェニルアミン法により測定した2-ケト-3-デオキシオクトネート含量が1~3個/分子量5,000であること
d)リムラス活性が、少なくとも10EU/ngであること
e)タンパク質含量が、1%以下であること
f)核酸含量が、1%以下であること
という理化学的および生物学的性質を有し、かつ少なくとも98%の純度を有している。
【0013】
ケラチノサイトとしては、正常ヒト単離のケラチノサイトと同等の性質を示すDMJ-1細胞(非特許文献2)を理研バイオリソースセンターから購入した。DJM-1細胞は、培養液(10% FBS、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有するMEM培地)にて継代培養したものを用いた。
【0014】
Escherichia coli LPSは、SIMA ALDRICHから購入したEscherichia coli 0111:B4株由来のもの(製品番号L2630-10MG)を用いた。
【0015】
DJM-1細胞1×106 cellを直径6cmのプラスチックディッシュに播種し、37℃の5%炭酸ガスインキュベーターで24時間培養した。24時間後に培養液を除き、LPSを含む培養液に交換し、6時間培養を行った、培養後、リン酸緩衝液でディッシュを洗浄後、RNA抽出バッファーを加え、細胞を懸濁した。細胞懸濁液を1.5mLチューブに移し、RNeasy mini kit(キアゲン)を用いて全RNAを調整した。
【0016】
抽出した全RNAに含まれるmRNAを増幅するための準備段階として、相補的DNA(cDNA)を合成した。cDNA合成にはReverTra Ace(R) qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(TOYOBO)を用いた。合成した相補的DNAを鋳型にして、定量ポリメラーゼチェインリアクション(PCR)を実施した。定量PCRはサイバーグリーン(iQ(TM) SYBR(R) Green スーパーミックス(バイオラッド))を用いて行った。ダームシジン(DCD、アクセッション番号NM_053283)遺伝子の発現量はβ-actinを標準としてΔΔCT法を用いて算出した。
【0017】
結果
ヒトケラチノサイト細胞のDJM-1細胞を大腸菌LPS(LPSe)、パントエア菌由来の低分子量LPS(LMM-LPS))で刺激した6時間後の結果を図1に示した。大腸菌LPSは一般的に使用されている高分子量を多く含むLPSとして用いた。図1に示されるように、10ng/mlの大腸菌LPSではダームシジンの誘導はほとんど起こらなかったが、LMM-LPSはダームシジンを誘導していた。
【0018】
以上のことから、低分子量LPSはヒトケラチノサイトからダームシジンを誘導することを明らかにした。
図1