(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】無黄変セメント系ポリウレタン発泡複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 18/00 20060101AFI20220128BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20220128BHJP
E04C 1/40 20060101ALI20220128BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20220128BHJP
C08G 18/73 20060101ALI20220128BHJP
C04B 38/02 20060101ALI20220128BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C08G18/00 K
B29C44/00 G
E04C1/40
C08G18/00 F
C08G18/75 010
C08G18/73
C04B38/02 J
C08G101:00
(21)【出願番号】P 2016253800
(22)【出願日】2016-12-27
【審査請求日】2019-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片 村 広 一
(72)【発明者】
【氏名】加 来 秀 樹
(72)【発明者】
【氏名】浦 野 淳 司
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056077(JP,A)
【文献】特開2009-149827(JP,A)
【文献】特開2006-257187(JP,A)
【文献】特開平09-183826(JP,A)
【文献】特開平08-012402(JP,A)
【文献】特開昭51-150525(JP,A)
【文献】特開平10-203855(JP,A)
【文献】特開2002-038619(JP,A)
【文献】特開2016-160379(JP,A)
【文献】特開2008-169062(JP,A)
【文献】特表平03-505750(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0053490(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 - 18/87
C08G 71/00 - 71/04
C08G 101/00
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
B29C 44/00 - 44/60
B29C 67/20 - 67/24
B29D 30/00 - 30/72
E04B 1/62 - 1/99
E04C 1/00 - 1/42
C04B 38/00 - 38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、セメントと砂、又はセメントと砂と砂利、のいずれかからなるセメント系無機充填剤、
イソシアネート基を2以上有するイソシアネート(A)、及びポリオール(B)を原料成分として含有するセメント系ポリウレタン発泡複合体であって、
イソシアネート(A)が、
イソシアネート基を2以上有する脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と
イソシアネート基を2以上有する脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)とを含有し、且つ
脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)との質量比が、20:80~80:20である、セメント系ポリウレタン発泡複合体。
【請求項2】
脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)が、ヘキサメチレンジイソシアネートまたはその変性体である、請求項1に記載の発泡複合体。
【請求項3】
脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)が、イソホロンジイソシアネート又はその変性体である、請求項1又は2に記載の発泡複合体。
【請求項4】
イソシアネート(A)の25℃での粘度が、40~650mPa・sであり、且つイソシアネート基含有率が22~35%である、請求項1~3のいずれか一項又はに記載の発泡複合体。
【請求項5】
前記ポリオール(B)が、水酸基価5~300mgKOH/gであり且つ平均官能基数2~6であるポリエーテルポリオールを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の発泡複合体。
【請求項6】
前記発泡複合体におけるセメント系無機充填剤とポリウレタン樹脂との質量比が、50:50~90:10である、請求項1~5のいずれか一項に記載の発泡複合体。
【請求項7】
整泡剤、触媒及び水を原料成分としてさらに含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の発泡複合体。
【請求項8】
前記発泡複合体の密度が400~800kg/m
3である、請求項1~7のいずれか一項に記載の発泡複合体。
【請求項9】
前記発泡複合体の圧縮強度が1.3~3.2MPaである、請求項1~8のいずれか一項に記載の発泡複合体。
【請求項10】
前記発泡複合体の曲げ強度が1.5~2.7MPaである、請求項1~9のいずれか一項に記載の発泡複合体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の発泡複合体を含有する、建築材。
【請求項12】
セメント、セメントと砂、又はセメントと砂と砂利、のいずれかからなるセメント系無機充填剤、
イソシアネート基を2以上有するイソシアネート(A)、ポリオール(B)、整泡剤、触媒及び水を含有し、混合物を発泡させる工程を含んでなる、セメント系ポリウレタン発泡複合体の製造方法であって、
イソシアネート(A)が、
イソシアネート基を2以上有する脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と
イソシアネート基を2以上有する脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)とを含有し、且つ
脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)との質量比が、20:80~80:20である、方法。
【請求項13】
前記混合物を型に注入し、脱型するまでの時間が型温40~50℃で30分以内である、請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無黄変セメント系ポリウレタン発泡複合体に関する。更に詳しくは、紫外線や窒素酸化物に起因する黄変が抑制されかつ構造材料としての圧縮・曲げ強度に優れたセメント系ポリウレタン発泡複合体、その製造方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント、モルタル及びコンクリート(以下、「セメント系無機材料」と云うことがある)は建築、土木分野における基礎的構造材料として比較的安価で且つ汎用性のある素材である。一方、セメント系無機材料の軽量化と強度発現の観点から、発泡ポリウレタンとの複合材料が幾つか提案されてきた。発泡ポリウレタンは軽量で且つ高圧縮強度を示すからである。他方、発泡ポリウレタンの側から見れば、その高価格故に、セメント系無機材料への混合割合は軽量化とコストアップとのバランスを勘案し、用途に応じた適切な値が選択されるべきである。
【0003】
特許文献1では、セメント、変性ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニレンイソシアネート)、ポリオール、砂、砂利、水からなる原料混合物を成型型に入れて硬化させ、5分後に脱型し、更に1週間間養生して、圧縮強度1.2~1.7MPaの複合コンクリート材料を得ている。しかしながら、この変性ポリメチレンポリフェニレンイソシアネートは芳香環系イソシアネートであり、これを用いて得られたセメント系ポリウレタン発泡複合体は、日光等の紫外線の影響を受け、時間の経過とともにこの複合体が黄色に変色するという問題があった。また、特許文献1では、使用できるポリイソシアネートとして、脂肪族系や脂環族系のイソシネートも記載されてはいるが、その具体的な使用法は示されていない。
【0004】
このような黄変を防止する手段として、軟質ポリウレタン発泡体では、芳香族系イソシアネートに代えて脂肪族系イソシアネート又は脂環族系イソシアネートを使用した色調変化を受け難い軟質ポリウレタン発泡体が提案されている(例えば特許文献2及び特許文献3を参照)。
しかし、この軟質ポリウレタン発泡体原料にセメントや砂利を混ぜて、セメント系ポリウレタン発泡複合体を得ることは意図されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-056077号公報
【文献】特開2009-149827号公報
【文献】特開2006-257187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、屋外に長期間置いても黄変が抑制されかつ機械的物性に優れたセメント系ポリウレタン発泡複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討を重ねた結果、特定のイソシアネート成分の組合せを原料成分として用いると、屋外に長期間おいても黄変が抑制されかつ機械的物性やフォーム性状に優れたセメント系ポリウレタン発泡複合体が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)セメント、セメントと砂、又はセメントと砂と砂利、のいずれかからなるセメント系無機充填剤、イソシアネート(A)、及びポリオール(B)を原料成分として含有するセメント系ポリウレタン発泡複合体であって、
イソシアネート(A)が、脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)とを含有する、セメント系ポリウレタン発泡複合体。
(2)脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)との質量比が、20:80~80:20である、(1)に記載の発泡複合体。
(3)脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)が、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体である、(1)又は(2)に記載の発泡複合体。
(4)脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)が、イソホロンジイソシアネートである、(1)~(3)のいずれか一項に記載の発泡複合体。
(5)イソシアネート(A)の25℃での粘度が、40~650mPa・sであり、且つイソシアネート基含有率が22~35%である、(1)~(4)のいずれかに記載の発泡複合体。
(6)前記ポリオール(B)が、水酸基価5~300mgKOH/gであり且つ平均官能基数2~6であるポリエーテルポリオールを含有する、(1)~(5)のいずれかに記載の発泡複合体。
(7)前記発泡複合体におけるセメント系無機充填剤とポリウレタン樹脂との質量比が、50:50~90:10である、(1)~(6)のいずれかに記載の発泡複合体。
(8)整泡剤、触媒及び水を原料成分としてさらに含有する、(1)~(7)のいずれかに記載の発泡複合体。
(9)前記発泡複合体の密度が400~800kg/m3である、(1)~(8)のいずれかに記載の発泡複合体。
(10)前記発泡複合体の圧縮強度が1.3~3.2MPaである、(1)~(9)のいずれかに記載の発泡複合体。
(11)前記発泡複合体の曲げ強度が1.5~2.7MPaである、(1)~(10)のいずれかに記載の発泡複合体。
(12)(1)~(11)のいずれかに記載の発泡複合体を含有する、建築材。
(13)セメント、セメントと砂、又はセメントと砂と砂利、のいずれかからなるセメント系無機充填剤、イソシアネート(A)、ポリオール(B)、整泡剤、触媒及び水を含有し、混合物を発泡させる工程を含んでなる、セメント系ポリウレタン発泡複合体の製造方法であって、
イソシアネート(A)が、脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)とを含有する、方法。
(14)前記混合物を型に注入し、脱型するまでの時間が型温40~50℃で30分以内である、(13)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屋外で長期間使用しても黄変等の色調変化を受け難いセメント系ポリウレタン発泡複合体を提供することができる。また、本発明によれば、セメント材料として好適な密度、圧縮強度、曲げ強度等の機械的物性を備えたセメント系ポリウレタン発泡複合体を提供することができる。かかる本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体は、建築、土木分野における基礎的構造材料、屋外インテリア装飾壁・ブロック等の製造において有利に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体は、セメント、セメントと砂、又はセメントと砂と砂利、のいずれかからなるセメント系無機充填剤、イソシアネート(A)、及びポリオール(B)を原料成分として含有しており、
イソシアネート(A)は、脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)とを含有している。
【0011】
以下、前記混合物の原料成分について説明する。
本発明で用いるセメント系無機充填剤は、セメント、セメントと砂、又はセメントと砂と砂利、のいずれかからなる。セメントは、特に限定されるものではないが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色セメント等の最も一般的に用いられるポルトランドセメントの他、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、アルミナセメント、超速硬セメント、コロイドセメント、油井セメント等の特殊セメント、水硬性石灰、ローマンセメント、天然セメントなどが挙げられる。この中でも、例えば、ポルトランドセメント類が好ましい。
【0012】
本発明で用いる骨材としての砂は、特に限定されるものではないが、通常細骨材として分類される10mmふるいをすべて通過し、粒径6mm以下のものが重量で85%以上含まれる砂を指す。中でも、粒径0.3~6mmのモルタル用砂が好ましい。上記セメントと砂に水を加えた混合物が所謂モルタルの主要構成成分である。本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体に於いては、セメントの水和反応の生起の有無に拘らず、本発明所定の良好な物性値を持った発泡複合体が得られる。
【0013】
セメントと砂の量比、即ちモルタル成分中の両者の重量比率は、用いる用途に応じて変化し得るが、通常モルタル製品で用いられる範囲にあってよく、例えばセメント:砂=1:1.5~1:5の範囲、好ましくは、1:2~1:4、例えば、1:2重量比であってよい。
【0014】
上記の他、通常モルタル成分に添加される混和材(フライアッシュ、スラグ粉末、シリカヒュームなどの粉末)を用途に応じて適宜添加することができる。
【0015】
本発明で用いるイソシアネート(A)は、脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)の組合せとされる。
【0016】
脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)は、イソシアネート基を2以上有する脂肪族系イソシアネート、それらを変性して得られる変性イソシアネート、それらの2種類以上の混合物であってもよい。脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等のイソシアネートやそれらの変性体(例えば、イソシアヌレート変性体、ウレタン変性体、ウレア変性体、アダクト変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、カルボジイミド変性体等)が挙げられ、特に好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のイソシアヌレート変性体である。
【0017】
脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)は、イソシアネート基を2以上有する脂環族系イソシアネート、それらを変性して得られる変性イソシアネート、それらの2種類以上の混合物であってもよい。脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)の具体例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添MDI、水添XDI、ノルボルナンジイソシアネート等のイソシアネートやそれらの変性体(例えば、イソシアヌレート変性体、ウレタン変性体、ウレア変性体、アダクト変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、カルボジイミド変性体等)が挙げられ、特に好ましくはイソホロンジイソシアネート(IPDI)である。
【0018】
脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)を混合して得られるイソシアネート(A)の25℃での粘度は、好ましくは30~700mPa・sであり、より好ましくは40~650mPa・sである。二つのイソシアネートを組み合わせたイソシアネート(A)の粘度を30mPa・s以上とすることは、ウレタンが発泡硬化するまでに比重が大きい砂やセメントが型の底に沈降したり、分離してしまうことを回避する上で好ましい。また、イソシアネート(A)の粘度を700mPa・s以下することは、セメントや砂との効率的な攪拌を可能とし、局所的なウレタンの反応の進行に伴う複合体の表面状態の悪化を回避する上で有利である。
【0019】
また、イソシアネート(A)のイソシアネート基含有率は、好ましくは
22~35%であり、より好ましくは25~35%である。ここで、イソシアネート基含有率は、イソシアネート(A)の全質量に対する、イソシアネート(A)中に含まれるイソシアネート基の全質量の理論値の割合として算出することができる。
【0020】
脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)との質量(A1:A2)は、好ましくは10:90~90:10のであり、より好ましくは20:80~80:20でありさらに好ましくは25:75~75:25である。
【0021】
本発明で用いるポリオールとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、水酸基価が5~300mgKOH/gであり、且つ平均官能基数が2~6であるポリエーテルポリオールが好ましい。かかるポリオールを使用することは、セメント系ポリウレタン発泡複合体としての強度を確保する上で特に有利である。ここで、平均官能基数とは、一分子当たりの官能基の数をいい、開始剤の官能基数で制御することができる。また、上記水酸基価とは、試料(固形分)1g中に含まれる水酸基をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数である。そして、無水酢酸を用いて試料中の水酸基をアセチル化し、使われなかった酢酸を水酸化カリウム溶液で滴定した後、下記の式により求められる。水酸基価〔mgKOH/g〕=[((A-B)×f×28.05)/S]+酸価
A:空試験に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)
B:滴定に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)
f:ファクター
S:試料採取量(g)
【0022】
ポリエーテルポリオールの具体的な例としては、グリセリンを出発物質とし、アルキレンオキシドを開環付加重合させて得られる、官能基数3、水酸基価約28mgKOH/gのポリエーテルポリオール、プロピレングリコールを出発物質とし、それにアルキレンオキシドを開環付加重合させて得られる、官能基数2、水酸基価約110mgKOH/gのポリエーテルポリオール(例えば、住化コベストロウレタン(株)社の「スミフェン1600U」)、及び官能基数約2.7、水酸基価約160mgKOH/gのポリエステル系ポリオールであるひまし油等が挙げられる。
【0023】
本発明におけるセメント系無機充填剤(セメント、セメントと砂、又はセメントと砂と砂利、のいずれかからなる)とポリウレタン樹脂(即ち、イソシアネート及びポリオールの合計)との質量比(セメント系無機充填剤:ポリウレタン樹脂)は、軽量性、強度及びコスト等を勘案して適宜決定してよく、好適な範囲としては、例えば、50:50~95:5、55:45~85:15、60:40~95:5、50:50~90:~10等が挙げられる。
【0024】
本発明で用いる整泡剤は良好な気泡を形成するための助剤である。気泡は連通孔となって、得られるセメント系ポリウレタン発泡複合体の縮小を防ぎ、軽量化と強度発現に寄与する。整泡剤としては、特に限定されるものではないが、例えばシリコーン系整泡剤(例として、東レ・ダウコーニング社のSH-193、L-5420A、SZ1325、SF2937F、モメンティブ社のL-580、エボニックデグサ社のB8462)や含フッ素化合物系整泡剤等が挙げられる。
【0025】
本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体は、当該複合体の効率的製造の観点から、整泡剤、触媒及び水を原料成分としてさらに含有しているが好ましい。
【0026】
整泡剤の量は、例えば、ポリエーテルポリオール100質量部に対して1~20質量部、好ましくは1~10質量部、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0027】
本発明で用いる触媒は、イソシアネートとポリオールとのウレタン形成反応を促進するものである。触媒としては、ウレタン形成反応を促進するものであれば特に限定されるものではなく、好ましくはアミン触媒(ヘキサヒドロ-S-トリアジン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エ-テル、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン(Polycat 8)、イミダゾール化合物、N,N,N-トリス(ジメチルアミノプロピル)等)、感温性触媒(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)とその有機酸塩)、金属触媒(ジ-n-ブチル錫ジラウレート(DBTDL))又はそれらの組合せである。
【0028】
触媒の量はイソシアネート100質量部に対して、例えば、0.1~5質量部、好ましくは1~3質量部とすることができる。
【0029】
本発明で用いる水は、原料を分散してスラリーを形成する媒体として用いられると同時に、一部はイソシアネート基と反応して炭酸ガスを発生させて発泡を形成するために有利に利用することができる。
【0030】
水の量は、水とセメント系無機充填剤を撹拌混合して分散し、スラリー状態とするために十分な量があれば特に制限されるものではない。水の量は、セメントの水和反応及び使用するイソシアネートを全て反応するために必要な量を勘案して当業者が適宜設定してよいが、通常は、良好なスラリー状態とするために必要な水の量は、前記反応に必要な水の量に較べれば大過剰である。セメント系無機充填剤と、水との具体的な混合時の質量比は、例えば、セメント系無機充填剤100質量部に対して、例えば、水5~45質量部、好ましくは10~30質量部とすることができる。
【0031】
本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体では、原料成分の量、割合を適宜調節することにより、発泡複合体の用途に応じた密度、強度(圧縮強度、曲げ強度等)を付与することができる。本発明の発泡複合体の密度、圧縮強度、曲げ強度はそれぞれ、JIS K 7222(2005)、K 7220(2006)、K 7221-2(2006)に準拠して測定することができる。
【0032】
本発明の発泡複合体の密度は、例えば、300~900Kg/m3であり、好ましくは400~800Kg/m3であり、より好ましくは400~700Kg/m3である。セメント系ポリウレタン発泡複合体の密度を上記範囲に調整することは、軽量化の上で特に好ましい。
【0033】
また、本発明の発泡複合体の圧縮強度は、例えば、1.3~3.2MPaであり、より好ましくは1.6~3.0MPaである。
【0034】
また、本発明の発泡複合体の曲げ強度は、例えば、1.5~2.7MPaであり、より好ましくは1.6~2.5MPaである。
【0035】
また、本発明の発泡複合体は、上述の通り、優れた耐候安定性を有している。したがって、例えば、12ヶ月間屋外暴露した後であっても、本発明の発泡複合体においては、表面の亀裂、黄変による色調の変化を効果的に防止することができる。本発明における耐候安定性の有無は、後述する試験例3の手法により判定することができる。
【0036】
次に、本発明の製造方法について説明する。本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体は、上述の通り、上記原料成分の混合物を発泡させることにより簡便に製造することができる。したがって、本発明の製造方法は、セメント、セメントと砂、又はセメントと砂と砂利、のいずれかからなるセメント系無機充填剤、イソシアネート(A)、ポリオール(B)、整泡剤、触媒及び水を含有し、混合物を発泡させる工程を含んでなり、イソシアネート(A)は、脂肪族系イソシアネート又はその変性体(A1)と脂環族系イソシアネート又はその変性体(A2)とを含有するものとされる。
【0037】
本発明の製造方法における原料成分の混合物は、セメント系無機充填剤(セメント、セメントと砂、又はセメントと砂と砂利、のいずれかからなる)、イソシアネート(A)、ポリオール、整泡剤、触媒及び水を、任意の順序で添加して撹拌・混合して調製してもよい。但し、触媒の存在下、イソシアネートとポリオール及び/又は水とを接触すると直ちに反応が開始することから、製造工程上、好ましくは、イソシアネートを最後に添加して混合物とすることが好ましい。より具体的には、イソシアネート(A)と、その他の原料成分を含む組成物とを準備し(所謂、「二液反応型組成物」)、次いで当該組成物とイソシアネート(A)との混合を行うことが好ましい。また、反応開始を回避する観点からは、触媒を除く他の原料成分を混合撹拌後、最後に触媒を添加してもよい。
【0038】
原料成分の混合撹拌は、後続する成形工程で用いられるモールド(型枠)中で直接行なってもよいが、型枠は通常直方体をしていることが多いことから、混合効率を勘案すれば円形のカップ(例えば、小規模実験にあってはポリカップ、大規模製造においてはポリマーライナー円形撹拌槽など)中に原料成分を添加してミキサー(例えば、小規模実験にあってはハンドミキサー、大規模製造においては電動撹拌装置など)で撹拌・混合した後に、直ちに型枠に移入することが好ましい。上述の通り、イソシアネート又は触媒の添加と共に直ちにウレタン化反応が開始することから、それらの添加以前に、他の原料成分を予め添加し十分に撹拌混合してスラリー化しておくことが好ましい。イソシアネート又は触媒の添加撹拌開始後には直ちに反応がスタートすることから、円形カップ中での撹拌は短時間(例えば、数秒間)に止めて、直ちに注型することが好ましい。この際、短時間の撹拌で十分な混合効率を得る観点から、高速撹拌することが好ましい。
【0039】
なお、このカップ内の状態で表面状態を視観察及び指蝕観察して、硬化(重合及び架橋)反応の進捗状況の目安とすることができる。より具体的には、原料成分の混合物が硬化するまでの期間(ゲルタイム)を指標とすることができる。
【0040】
また、本発明の製造方法では、原料成分の混合物をモールドに注入することにより、本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体を所望の形状に調製してもよい。モールドの初期温度設定は、本発明の発泡複合体の製造を妨げない限り特に限定されないが、常温程度(40℃~50℃程度)としてもよい。ここで、発泡複合体の形成は、発泡と共にポリウレタン生成の重合熱発生を伴うことから、モールド内の温度も上昇する場合がある。したがってモールド内の温度は、反応中、例えば、30~40℃程度上昇してもよい。また、発泡に伴いモールド内圧力も若干上昇する場合があり、このような圧力の上昇は、例えば、0.5MPa程度であってもよい。
【0041】
また、本発明の発泡複合体は、上述の通り、屋外で長期間使用しても黄変等の色調変化を効果的に回避することができることから、屋外インテリア装飾壁・ブロックなどの建築材として好適に用いることができる。したがって、好ましい態様によれば、本発明の発泡複合体を含有する、建築材が提供される。また、別の態様によれば、建築材の製造における、本発明の発泡複合体の使用が提供される。また、上記いずれかの態様において、上記建築材は、装飾壁材又はブロックである。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
試験例1
<セメント・ポリウレタン発泡複合体の製造1>
[実施例1]
容量500mlのポリカップ(直径8cm)中に、ポルトランドセメントを50g、砂を100g、水を30g、ポリオールB(住化コベストロウレタン社製品のスミフェン1600U;官能基数2、水酸基価110mgKOH/g)を8.8g、整泡剤(東レ・ダウコーニング社のシリコーンSH-193)を0.42g、アミン触媒C1(エアプロダクツ社のPolycat8)を0.5g、アミン触媒C2(エアプロダクツ社のDABCO33LV)を1.0g、感温性触媒C3DBU(サンアプロ社)を0.3g、金属触媒C4(DBTDL)1.0gを添加し、ハンドミキサーにて4,500rpmで7秒間撹拌して、均一なスラリーとした。次いで、イソシアネートA1(住化コベストロ社製品のSumidurN3300)を75g及びイソシアネートA2(コベストロ社製品のDesmodurI)を25g添加し、ハンドミキサーにて4,500rpmで7秒間撹拌し、発泡させ、硬化するまで室温で静置し、セメント系ポリウレタン発泡複合体を得た。
【0044】
[実施例2、3及び比較例1、2]
ポリオール添加量、イソシアネートA1及びイソシアネートA2の種類を表1に記載のように変更した以外、実施例1と同様の手法により、実施例2、3及び比較例1、2を製造した。
【0045】
<セメント系ポリウレタン発泡複合体の物性評価1>
以下に記載の通り、実施例1~3及び比較例1、2のセメント系ポリウレタン発泡複合体の評価を実施した。
【0046】
[ゲルタイム]
イソシアネートA1及びイソシアネートA2を添加して混合を開始する時点をゼロ秒とし、混合液が硬化するまでの期間(発泡体の表面を割り箸で突き刺しそうとしても、内部が硬化して突き刺せない状態になるまでの時間)を測定した(単位:秒)。
【0047】
[発泡性]
実施例1のセメント系ポリウレタン発泡複合体の密度、圧縮強度を後述する方法により測定したところ、密度600kg/m3程度、圧縮強度2MPa程度の理想的な数値を示していた。そこで、このような理想的な物性を備えた発泡複合体を製造するのに前提となる物性を確認するため、ゲルタイムにおけるポリカップに収容された実施例1のセメント・ポリウレタン発泡複合体の高さを基準(A)とし、これよりも高いものを(B)、これよりも低いものを(C)とした。
【0048】
[脆さ]
ゲルタイムにおけるセメント系ポリウレタン発泡複合体の脆さについて、以下の判定基準に従い訓練されたパネラー(健常な成人男性)が人力にて評価を行った。
A:割り箸を用いても突き刺せない(実施例1と同様の脆さ)
B:割り箸で刺そうとするとセメント系ポリウレタン発泡複合体が割れる
【0049】
結果は、表1に示される通りであった。なお、総合評価は、発泡性及び脆さの両者がAの場合を「○」、それ以外を「×」とした。
【表1】
【0050】
試験例2
<セメント・ポリウレタン発泡複合体の製造2>
[実施例4]
容量1000mlのポリカップ中に、ポルトランドセメントを150g、砂を300g、水を75g、ポリオールB(住化コベストロウレタン(株)社製品のスミフェン1600U;官能基数2、水酸基価110mgKOH/g)を30g、整泡剤(東レ・ダウコーニング社のシリコーンSH-193)を1.26g、アミン触媒C1(エアプロダクツ社のPolycat8)を1.5g、アミン触媒C2(エアプロダクツ社のDABCO33LV)を3.0g、感温性触媒C3DBU(サンアプロ社)を0.9g、金属触媒C4(DBTDL)3.0gを添加し、ハンドミキサーにて4,500rpmで7秒間撹拌して、均一なスラリーとした。次いで、イソシアネートA1(住化コベストロ社製品のSumidurN3300)を156g及びイソシアネートA2(コベストロ社製品のDesmodurI)を144g添加し、ハンドミキサーにて4,000rpmで7秒間撹拌した後、40℃の型(縦:210mm×横:210mm×高さ:25mm)に注型し、撹拌開始から30分後に脱型し、セメント系ポリウレタン発泡複合体を得た。
【0051】
[実施例5~7]
イソシアネートA1及びイソシアネートA2の量を表1に記載のように変更した以外、実施例4と同様の手法により、実施例5~7を製造した。
【0052】
<セメント系ポリウレタン発泡複合体の物性評価2>
セメント系ポリウレタン発泡複合体を得た1週間後、以下の手法に従い、密度、圧縮強度、及び曲げ強度の評価を実施した。
【0053】
[密度、圧縮強度及び曲げ強度]
密度、圧縮強度及び曲げ強度はそれぞれ、JIS K 7222(2005)、K 7220(2006)、K 7221-2(2006)に準拠して測定した。
【0054】
【0055】
試験例1において、脂肪族系イソシアネートA1又は、脂環族系イソシアネートA2のどちらか一つだけを使用した場合には、セメント系ポリウレタン発泡複合体の発泡性・脆さを共に満足させることはできなかった。
一方で、脂肪族系イソシアネートA1と脂環族系イソシアネートA2の両者を用いた場合には、セメント系ポリウレタン発泡複合体の発泡性・脆さは共に良好であった。
また、試験例2において、脂肪族系イソシアネートA1と脂環族系イソシアネートA2の両者を用いて実施例5~7のセメント系ポリウレタン発泡複合体を製造した結果、それらの密度は約600kg/m3、圧縮強度は1.6~3.0MPa、曲げ強度は1.6~2.5MPであり、セメント材料として適切な数値を示していた。
【0056】
試験例3
<セメント系ポリウレタン発泡複合体の耐候安定性評価>
実施例5のセメント系ポリウレタン発泡複合体を屋外にて、日光が直接当たる場所に静置し、12ヶ月経過した後の外観の変化を訓練されたパネラー(10名)により以下の判定基準にて評価した。なおここで、過半数の専門パネラーがAと評価する場合には、総合の評価結果もAと判定するものとした。
A:表面の亀裂が無く、色調の変化(黄変)も生じていない
B:表面の亀裂又は色調の変化(黄変)が生じている
【0057】
試験の結果、全ての専門パネラーの評価結果はAであった。本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体が良好な耐候安定性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体には、セメント材料と好適な物性を付与することができる。また、本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体によれば、屋外で長期間使用しても色調変化を効果的に回避することが可能である。かかる本発明のセメント系ポリウレタン発泡複合体は、装飾壁材、ブロックをはじめとする建築材として有利に使用することができる。