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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ダイシングダイボンドフィルム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20220106BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20220106BHJP
   C09J 11/02 20060101ALI20220106BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H01L21/52 E
C09J7/20
C09J11/02
C09J201/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017121871
(22)【出願日】2017-06-22
(65)【公開番号】P2019009203
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 章洋
(72)【発明者】
【氏名】高本 尚英
(72)【発明者】
【氏名】大西 謙司
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄大
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2011/125778(JP,A1)
【文献】特開2012-007007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
C09J 7/20
C09J 201/00
C09J 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、
前記ダイシングテープにおける前記粘着剤層に剥離可能に密着している接着剤層とを備え、
前記接着剤層は、熱硬化性成分、フィラー、及び硬化促進剤を含有し、130℃で30分間加熱した後のDSC測定による発熱量が、加熱前の発熱量の60%以下であり、前記加熱後の130℃における貯蔵弾性率が20MPa以上4000MPa以下であり、
前記フィラーは、平均粒径70~300nmのシリカである、ダイシングダイボンドフィルム。
【請求項2】
前記熱硬化性成分は、熱硬化性樹脂及び/又は熱硬化性官能基含有熱可塑性樹脂である、請求項1に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項3】
前記粘着剤層は、90℃における粘度が300~100000Pa・sである、請求項1または2に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシングダイボンドフィルムに関する。より詳細には、本発明は、半導体装置の製造過程で使用することができるダイシングダイボンドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程においては、ダイボンディング用のチップ相当サイズの接着フィルムを有する半導体チップ、すなわち、ダイボンディング用接着剤層付き半導体チップを得る過程で、ダイシングダイボンドフィルムが使用される場合がある。ダイシングダイボンドフィルムは、加工対象である半導体ウエハに対応するサイズを有し、例えば、基材及び粘着剤層からなるダイシングテープと、その粘着剤層側に剥離可能に密着しているダイボンドフィルム(接着剤層)とを有する。
【0003】
ダイシングダイボンドフィルムを使用して接着剤層付き半導体チップを得る手法の一つとして、ダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープをエキスパンドしてダイボンドフィルムを割断させるための工程を経る手法が知られている。この手法では、まず、ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドフィルム上に半導体ウエハを貼り合わせる。この半導体ウエハは、例えば、後にダイボンドフィルムに共だって割断されて複数の半導体チップへと個片化可能なように加工されたものである。次に、ダイシングテープ上のダイボンドフィルムを割断させるために、エキスパンド装置を使用してダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープを半導体ウエハの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばす。このエキスパンド工程では、ダイボンドフィルムにおける割断箇所に相当する箇所でダイボンドフィルム上の半導体ウエハにおいても割断が生じ、ダイシングダイボンドフィルム又はダイシングテープ上にて半導体ウエハが複数の半導体チップに個片化される。次に、ダイシングテープ上の割断後の複数のダイボンドフィルム付き半導体チップについて離間距離を広げるために、再度のエキスパンド工程を行う。次に、例えば洗浄工程を経た後、各半導体チップをそれに密着しているチップ相当サイズのダイボンドフィルムと共に、ダイシングテープの下側からピックアップ機構のピン部材によって突き上げてダイシングテープ上からピックアップする。このようにして、ダイボンドフィルムすなわち接着剤層付き半導体チップが得られる。この接着剤層付き半導体チップは、その接着剤層を介して、実装基板等の被着体にダイボンディングによって固着されることとなる。以上のように使用されるダイシングダイボンドフィルムに関する技術については、例えば下記の特許文献1~3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-2173号公報
【文献】特開2010-177401号公報
【文献】特開2016-115804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体装置及びそのパッケージの高機能化、薄型化、小型化がより一層求められている。その一策として、半導体素子(半導体チップ)をその厚さ方向に複数段に積層させて半導体素子の高密度集積化を図る3次元実装技術が開発されている。
【0006】
上記3次元実装技術としては、例えば、基板等の被着体上に、ダイボンドフィルム付き半導体チップとして半導体チップを固定し、この最下段の半導体チップ上に、別途得られたダイボンドフィルム付き半導体チップを順次積層していく技術が知られている。積層の際、下側となる半導体チップのワイヤーボンド面(上面)の電極パッドを避けるように、上側となるダイボンドフィルム付き半導体チップを下側となる半導体チップに対して面広がり方向にずらして固定することがある。このような技術により得られた、被着体上にダイボンドフィルムを用いて半導体チップが多段積層された半導体装置(多段積層半導体装置)は、階段状となり、ダイボンドフィルム付き半導体チップが下側の半導体チップの上面から面広がり方向にはみ出た部分(いわゆるオーバーハング部)を段ごとに有する。
【0007】
半導体チップと被着体とは、半導体チップ上面の電極パッドと被着体の有する端子部とをボンディングワイヤーを介して電気的に接続される(ワイヤーボンディング)。ワイヤーボンディングのための半導体チップ上面の電極パッドとボンディングワイヤーとの結線は、加熱下で超音波による振動エネルギーと印加加圧による圧着工ネルギーの併用により行われる。ここで、半導体チップのオーバーハング部上に存在する電極パッドにワイヤーボンディングを行う際、超音波による振動やオーバーハング部への加圧による負荷に起因してオーバーハング部が揺れて結線が困難となる、オーバーハング部の半導体チップが折れ曲がることがある等という問題があった。
【0008】
このような問題は、半導体チップの接着に用いるダイボンドフィルムをある程度硬くすることで軽減することができる。但し、ダイボンドフィルムが、ダイボンドフィルム付き半導体チップの積層時にはある程度の粘着性を有し、且つ結線時にはある程度の硬さを有することとするためには、半導体チップの積層後から結線前の間に、上記問題が生じにくくなる程度までダイボンドフィルムを硬化させる手法が考えられる。しかしながら、充分なダイボンドフィルムの硬化に時間がかかると生産性が低下する。このため、ダイボンドフィルムには短時間で硬化可能であることが求められる。
【0009】
一方、短時間で硬化可能であるダイボンドフィルムは、保存中にも硬化が進行しやすい傾向にあるため、保存安定性(特に、室温での保存安定性)に劣る傾向がある。すなわち、短時間での硬化性と保存安定性とはトレードオフの関係にある。従って、保存安定性に優れながら、短時間で硬化可能であり、且つ硬化後は適切なワイヤーボンディング(特に、オーバーハング部への適切なワイヤーボンディング)を行うことが可能なダイボンドフィルム(接着剤層)が求められている。
【0010】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、保存安定性に優れながら、短時間で硬化可能であり、且つ硬化後は適切なワイヤーボンディングを行うことが可能な接着剤層を有するダイシングダイボンドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、熱硬化性成分、フィラー、及び硬化促進剤を含有し、130℃で30分間加熱した後のDSC測定による発熱量が、加熱前の発熱量の60%以下であり、上記加熱後の130℃における貯蔵弾性率が20MPa以上4000MPa以下である接着剤層を用いると、ダイシングダイボンドフィルムとしても保存安定性に優れながら、接着剤層は短時間で硬化可能であり、且つ硬化後は適切なワイヤーボンディングを行うことが可能であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、上記ダイシングテープにおける上記粘着剤層に剥離可能に密着している接着剤層とを備え、上記接着剤層は、熱硬化性成分、フィラー、及び硬化促進剤を含有し、130℃で30分間加熱した後のDSC測定による発熱量が、加熱前の発熱量の60%以下であり、上記加熱後の130℃における貯蔵弾性率が20MPa以上4000MPa以下である、ダイシングダイボンドフィルムを提供する。
【0013】
本発明のダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープ及び接着剤層を備える。ダイシングテープは、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有する。接着剤層は、ダイシングテープにおける粘着剤層に剥離可能に密着している。このような構成のダイシングダイボンドフィルムは、半導体装置の製造過程で接着剤層付き半導体チップを得るために使用することができる。
【0014】
本発明のダイシングダイボンドフィルムにおいて、上記接着剤層は、上述のように、熱硬化性成分、フィラー、及び硬化促進剤を含有する。そして、130℃で30分間加熱した後のDSC測定による発熱量が、加熱前の発熱量の60%以下である。これは、130℃、30分間の条件での加熱により、加熱前の接着剤層中の未硬化である熱硬化性成分の60%以上が硬化することを意味する。本発明のダイシングダイボンドフィルムにおける接着剤層が上記構成を有することにより、上記接着剤層は、比較的短時間の加熱条件での加熱による接着剤層の硬化割合が大きいため、短時間で硬化可能であり、短時間で貯蔵弾性率を向上させることができる。また、比較的短時間の加熱条件での加熱による接着剤層の硬化割合が大きいため、保存中も加熱前までは硬化が起こりにくく、すなわち保存安定性に優れる。
【0015】
また、本発明のダイシングダイボンドフィルムにおいて、上記接着剤層は、上述のように、上記加熱後の130℃における貯蔵弾性率が20MPa以上4000MPa以下である。上記加熱後の貯蔵弾性率が20MPa以上であることにより、接着剤層は、短時間で硬化可能でありながら、硬化後はある程度の硬さを有するため、硬化後は適切なワイヤーボンディングを行うことが可能である。特に、上記接着剤層をオーバーハング部を有する多段積層半導体装置に用いた場合であっても、ワイヤーボンディング時の超音波による振動やオーバーハング部への加圧による負荷に起因するオーバーハング部の揺れを抑制でき、オーバーハング部への適切なワイヤーボンディングを行うことが可能である。また、上記加熱後の貯蔵弾性率が4000MPa以下であることにより、硬化後においても被着体との接着信頼性や半導体チップ同士の接着信頼性に優れる。
【0016】
また、上記接着剤層における上記熱硬化性成分は、熱硬化性樹脂及び/又は熱硬化性官能基含有熱可塑性樹脂であることが好ましい。上記接着剤層は、熱硬化性成分として、熱硬化性樹脂あるいは熱硬化性官能基含有熱可塑性樹脂を用いた構成において、保存安定性に優れながら、短時間で硬化可能であり、且つ硬化後は適切なワイヤーボンディング(特に、オーバーハング部への適切なワイヤーボンディング)を行うことが可能である。
【0017】
また、上記接着剤層は、90℃における粘度が300~100000Pa・sであることが好ましい。多段積層半導体装置は、一般的に、回路層が多いために半導体チップが大きく反りやすく、これに起因して半導体チップが剥離しやすい傾向がある。しかしながら、上記接着剤層の90℃における粘度が300Pa・s以上であると、比較的反りやすい半導体チップにダイボンドした際はダイボンドステージからの熱により粘度が低下し、半導体チップが反った場合でも半導体チップの剥離が起こりにくい。また、上記粘度が100000Pa・s以下であると、硬化後においても被着体との接着信頼性や半導体チップ同士の接着信頼性により優れる。
【0018】
また、上記接着剤層における上記フィラーは、平均粒径70~300nmのシリカであることが好ましい。上記平均粒径は、ダイシングダイボンドフィルムにおける接着剤層に通常用いられるフィラーの平均粒径よりも比較的小さいものである。上記フィラーとして通常よりも比較的小さい300nm以下の平均粒径を有するシリカを用いると、接着剤層中におけるフィラーの表面積が大きく、反応促進剤がフィラーによりトラップされることにより、保存中の反応促進剤の作用が抑制されるものと推測され、保存安定性により優れる。また、上記フィラーとして平均粒径が70nm以上の平均粒径を有するシリカを用いると、接着剤層の硬化性が向上し、比較的短時間の条件での加熱による接着剤層の硬化割合が大きくなりやすい。また、半導体ウエハ等の被着体への濡れ性、接着性がより向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のダイシングダイボンドフィルムは、保存安定性に優れながら、短時間で硬化可能であり、且つ硬化後は適切なワイヤーボンディングを行うことが可能な接着剤層を有する。このため、本発明のダイシングダイボンドフィルムを用いて得られる接着剤層付き半導体チップを、オーバーハング部を有する多段積層半導体装置に適用した場合、保存安定性に優れ且つ短時間で硬化可能でありながら、ワイヤーボンディング時の超音波による振動やオーバーハング部への加圧による負荷に起因するオーバーハング部の揺れを抑制でき、オーバーハング部への適切なワイヤーボンディングを行うことが可能である。
【0020】
また、保存安定性の観点からダイシングダイボンドフィルムは一般的に冷蔵保管されるが、この場合、使用時には常温に戻す必要がある。このため、冷蔵保管する場合は常温に戻すための時間が必要となり、生産性が低下する。一方、本発明のダイシングダイボンドフィルムは、常温での保存安定性にも優れ、使用時に常温に戻す必要がなく、生産性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態を示す断面模式図である。
図2図1に示すダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法における一部の工程を表す。
図3図2に示す工程の後に続く工程を表す。
図4図3に示す工程の後に続く工程を表す。
図5図4に示す工程の後に続く工程を表す。
図6図5に示す工程の後に続く工程を表す。
図7図6に示す工程の後に続く工程を表す。
図8図1に示すダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法の変形例における一部の工程を表す。
図9図1に示すダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法の変形例における一部の工程を表す。
図10図1に示すダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法の変形例における一部の工程を表す。
図11図1に示すダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法の変形例における一部の工程を表す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[ダイシングダイボンドフィルム]
本発明のダイシングダイボンドフィルムは、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、上記ダイシングテープにおける上記粘着剤層に剥離可能に密着している接着剤層と、を備える。本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態について、以下に説明する。図1は、本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態を示す断面模式図である。
【0023】
図1に示すように、ダイシングダイボンドフィルム1は、ダイシングテープ10と、ダイシングテープ10における粘着剤層12上に積層された接着剤層20とを備え、半導体装置の製造において接着剤層付き半導体チップを得る過程でのエキスパンド工程に使用することのできるものである。また、ダイシングダイボンドフィルム1は、半導体装置の製造過程における加工対象の半導体ウエハに対応するサイズの円盤形状を有する。ダイシングダイボンドフィルム1の直径は、例えば、345~380mmの範囲内(12インチウエハ対応型)、245~280mmの範囲内(8インチウエハ対応型)、195~230mmの範囲内(6インチウエハ対応型)、又は、495~530mmの範囲内(18インチウエハ対応型)にある。ダイシングダイボンドフィルム1におけるダイシングテープ10は、基材11と粘着剤層12とを含む積層構造を有する。
【0024】
(接着剤層)
接着剤層20は、ダイボンディング用の熱硬化性を示す接着剤として機能を有し、さらに必要に応じて半導体ウエハ等のワークとリングフレーム等のフレーム部材とを保持するための粘着機能を併有する。接着剤層20は、引張応力を加えることによる割断が可能であり、引張応力を加えることにより割断させて使用される。
【0025】
接着剤層20及び接着剤層20を形成する接着剤は、熱硬化性成分、フィラー、及び硬化促進剤を含有する。上記熱硬化性成分としては、熱硬化性樹脂、及び硬化剤と反応して結合を生じ得る硬化性官能基を有する熱可塑性樹脂(熱硬化性官能基含有熱可塑性樹脂)のうちの少なくとも一方であることが好ましい。すなわち、上記熱硬化性成分は、熱硬化性樹脂及び/又は熱硬化性官能基含有熱可塑性樹脂であることが好ましい。接着剤層20は、熱硬化性成分として、熱硬化性樹脂あるいは熱硬化性官能基含有熱可塑性樹脂を用いた構成において、保存安定性に優れながら、短時間で硬化可能であり、且つ硬化後は適切なワイヤーボンディング(特に、オーバーハング部への適切なワイヤーボンディング)を行うことが可能である。接着剤層20が上記熱硬化性成分として熱硬化性樹脂を含む場合、熱硬化性樹脂に加えて、例えばバインダー成分としての熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。接着剤層20が、熱硬化性官能基含有熱可塑性樹脂を含む場合、接着剤層20は熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)を含む必要はない。接着剤層20は、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。
【0026】
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。ダイボンディング対象の半導体チップの腐食原因となり得るイオン性不純物等の含有量の少ない傾向にあるという理由から、上記熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂が好ましい。また、エポキシ樹脂の硬化剤としてはフェノール樹脂が好ましい。
【0027】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、グリシジルアミン型のエポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み且つ耐熱性に優れることから、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂の硬化剤として作用し得るフェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。上記フェノール樹脂は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。中でも、ダイボンディング用接着剤としてのエポキシ樹脂の硬化剤として用いられる場合に当該接着剤の接続信頼性を向上させる傾向にある観点から、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂が好ましい。
【0029】
接着剤層20において、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、フェノール樹脂は、エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、当該フェノール樹脂中のヒドロキシ基が好ましくは0.5~2.0当量、より好ましくは0.7~1.5当量となる量で含まれる。
【0030】
接着剤層20が熱硬化性樹脂を含む場合、上記熱硬化性樹脂の含有割合は、接着剤層20の総質量に対して、10~70質量%が好ましく、より好ましくは20~60質量%である。上記含有割合が10質量%以上であると、接着剤層20において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させやすく、また、上記貯蔵弾性率を高くすることができ、適切なワイヤーボンディング(特に、オーバーハング部への適切なワイヤーボンディング)を実現しやすい。上記含有割合が70質量%以下であると、上記貯蔵弾性率が高くなりすぎることを抑制し、多段積層半導体装置において半導体チップが反った場合でも半導体チップの剥離がより起こりにくい。
【0031】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。上記熱可塑性樹脂としては、イオン性不純物が少なく且つ耐熱性が高いために接着剤層20による接着信頼性を確保しやすいという理由から、アクリル樹脂が好ましい。
【0032】
上記アクリル系樹脂は、ポリマーの構成単位として、アクリル系モノマー(分子中に(メタ)アクリロイル基を有するモノマー成分)に由来する構成単位を含むポリマーである。上記アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含むポリマーであることが好ましい。なお、アクリル系ポリマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。また、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」(「アクリル」及び「メタクリル」のうち、いずれか一方又は両方)を表し、他も同様である。
【0033】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s-ブチルエステル、t-ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2-エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル(ラウリルエステル)、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、エイコシルエステル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のシクロペンチルエステル、シクロヘキシルエステル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のフェニルエステル、ベンジルエステルが挙げられる。上記炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を接着剤層20において適切に発現させるためには、アクリル樹脂を形成するための全モノマー成分における、上記炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルの割合は、40質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上である。
【0034】
上記アクリル樹脂は、凝集力、耐熱性等の改質を目的として、上記炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマー成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。上記他のモノマー成分としては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、アクリロニトリル等の官能基含有モノマー等が挙げられる。上記カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。上記酸無水物モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。上記ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記グリシジル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジル等が挙げられる。上記スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等が挙げられる。上記リン酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等が挙げられる。上記他のモノマー成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を接着剤層20において適切に発現させるためには、アクリル樹脂を形成するための全モノマー成分における、上記他のモノマー成分の割合は、60質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
【0035】
接着剤層20が熱可塑性樹脂を含む場合、上記熱可塑性樹脂の含有割合は、接着剤層20の総質量に対して、3~40質量%が好ましく、より好ましくは10~30質量%である。上記含有割合が3質量%以上であると、上記貯蔵弾性率が高くなりすぎることを抑制し、多段積層半導体装置において半導体チップが反った場合でも半導体チップの剥離がより起こりにくい。上記含有割合が40質量%以下であると、上記貯蔵弾性率を比較的高くすることができ、適切なワイヤーボンディング(特に、オーバーハング部への適切なワイヤーボンディング)を実現しやすい。
【0036】
上記熱硬化性官能基含有熱可塑性樹脂としては、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂を用いることができる。この熱硬化性官能基含有アクリル樹脂におけるアクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多い構成単位として含む。当該(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、上述の熱可塑性樹脂としてのアクリル系樹脂を形成する(メタ)アクリル酸エステルとして例示された(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。一方、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。中でも、グリシジル基、カルボキシ基が好ましい。すなわち、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂としては、グリシジル基含有アクリル樹脂、カルボキシ基含有アクリル樹脂が特に好ましい。また、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂とともに硬化剤を含むことが好ましい。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基がグリシジル基である場合には、硬化剤としてポリフェノール系化合物を用いることが好ましく、例えば上述の各種フェノール樹脂を用いることができる。
【0037】
ダイボンディングのために硬化される前の接着剤層20について、ある程度の架橋度を実現するためには、例えば、接着剤層20に含まれ得る上述の樹脂の分子鎖末端の官能基等と反応して結合し得る多官能性化合物を架橋成分として接着剤層を形成する組成物(接着剤組成物)に配合しておくのが好ましい。このような構成は、接着剤層20について、高温下での接着特性を向上させる観点で、また、耐熱性の改善を図る観点で好ましい。上記架橋成分としては、例えばポリイソシアネート化合物が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、多価アルコールとジイソシアネートの付加物等が挙げられる。接着剤組成物における架橋成分の含有量は、当該架橋成分と反応して結合し得る上記官能基を有する樹脂100質量部に対し、形成される接着剤層20の凝集力向上の観点からは0.05質量部以上が好ましく、形成される接着剤層20の接着力向上の観点からは7質量部以下が好ましい。また、上記架橋成分としては、エポキシ樹脂等の他の多官能性化合物をポリイソシアネート化合物と併用してもよい。
【0038】
接着剤層20に配合され得る上記アクリル樹脂及び上記熱硬化性官能基含有アクリル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは-40~10℃である。ポリマーのガラス転移温度については、下記のFoxの式に基づき求められるガラス転移温度(理論値)を用いることができる。Foxの式は、ポリマーのガラス転移温度Tgと、当該ポリマーにおける構成モノマーごとの単独重合体のガラス転移温度Tgiとの関係式である。下記のFoxの式において、Tgはポリマーのガラス転移温度(℃)を表し、Wiは当該ポリマーを構成するモノマーiの質量分率を表し、Tgiはモノマーiの単独重合体のガラス転移温度(℃)を示す。単独重合体のガラス転移温度については文献値を用いることができ、例えば「新高分子文庫7 塗料用合成樹脂入門」(北岡協三 著,高分子刊行会,1995年)や「アクリルエステルカタログ(1997年度版)」(三菱レイヨン株式会社)には、各種の単独重合体のガラス転移温度が挙げられている。一方、モノマーの単独重合体のガラス転移温度については、特開2007-51271号公報に具体的に記載されている手法によって求めることも可能である。
Foxの式 1/(273+Tg)=Σ[Wi/(273+Tgi)]
【0039】
接着剤層20は、上述のように、フィラーを含有する。接着剤層20へのフィラーの配合により、接着剤層20の導電性や、熱伝導性、弾性率等の物性を調整することができる。フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーが挙げられ、特に無機フィラーが好ましい。無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)の他、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の金属単体や、合金、アモルファスカーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。フィラーは、球状、針状、フレーク状等の各種形状を有していてもよい。上記フィラーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。上記フィラーとしては、中でも、他のフィラーと対比して平均粒径を調整しやすいため保存安定性の向上を容易に行える観点、さらには低コスト、絶縁性であることの観点から、シリカが好ましい。
【0040】
上記フィラーは、表面に放射線硬化性の炭素-炭素二重結合(特に、ラジカル重合性官能基)を有しないことが好ましい。フィラーが表面に放射線硬化性の炭素-炭素二重結合を有する場合、放射線照射より粘着剤層12中のポリマーとの反応が進行する可能性がある。このため、上記表面に放射線硬化性の炭素-炭素二重結合を有しないフィラーを用いることにより、保存安定性がより向上する。また、粘着剤層12の放射線硬化後に後述のピックアップ工程を行う場合、当該ピックアップ工程において粘着剤層12からの接着剤層付き半導体チップ31のピックアップをより容易に行うことができる。上記表面に放射線硬化性の炭素-炭素二重結合を有しないフィラーとしては、表面処理が施されていないフィラーを用いることができる。
【0041】
上記フィラーの平均粒径は、70~300nmが好ましく、より好ましくは75~250nmである。上記平均粒径は、ダイシングダイボンドフィルムにおける接着剤層に通常用いられるフィラーの平均粒径よりも比較的小さいものである。上記フィラーとして通常よりも比較的小さい300nm以下の平均粒径を有するフィラーを用いると、接着剤層中におけるフィラーの表面積が大きく、反応促進剤がフィラーによりトラップされることにより、保存中の反応促進剤の作用が抑制されるものと推測され、保存安定性により優れる。また、上記フィラーとして平均粒径が70nm以上の平均粒径を有するフィラーを用いると、フィラーによる硬化促進剤のトラップが適度なものとなると推測され、硬化促進剤の作用を維持することにより接着剤層20の硬化性が向上し、比較的短時間の加熱条件での加熱による接着剤層20の硬化割合がより大きくなりやすい。また、半導体ウエハ等の被着体への濡れ性、接着性がより向上する。なお、フィラーの平均粒径は、以下のようにして求める。硬化後の接着剤層20を樹脂に包埋させ、包埋した樹脂から接着剤層の断面を表出させ、当該断面をCP加工装置によるイオンミリング加工後、導電処理を施しFE-SEM観察を行って反射電子像を得、取り込んだ画像内のフィラーの面積を画像内のフィラー個数で割り、フィラーの平均面積を求めて、これをフィラーの平均粒径とする。特に、上記フィラーは、平均粒径が上記範囲内であるシリカであることが好ましい。
【0042】
接着剤層20中のフィラーの含有割合は、接着剤層20の総質量に対して、3~60質量%が好ましく、より好ましくは20~50質量%である。上記含有割合が3質量%以上であると、後述のクールエキスパンド工程において接着剤層20をより良好に割断しやすく、また、後述のピックアップ工程において接着剤層付き半導体チップをより良好にピックアップすることができる。上記含有割合が60質量%以下であると、粘着剤層12との密着性、半導体チップ同士あるいは被着体と半導体チップの接着性がより良好となる。
【0043】
接着剤層20は、上述のように、硬化促進剤を含有する。接着剤層20への硬化促進剤の配合により、接着剤層20の硬化にあたって熱硬化性成分の硬化反応を充分に進行させたり、硬化反応速度を高めることができる。上記硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール系化合物、トリフェニルホスフィン系化合物、アミン系化合物、トリハロゲンボラン系化合物等が挙げられる。イミダゾール系化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。トリフェニルホスフィン系化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリ(p-メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、ジフェニルトリルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、メチルトリフェニルホスホニウム、メチルトリフェニルホスホニウムクロライド、メトキシメチルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド等が挙げられる。トリフェニルホスフィン系化合物には、トリフェニルホスフィン構造とトリフェニルボラン構造とを併有する化合物も含まれるものとする。このような化合物としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリボレート、ベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン等が挙げられる。アミン系化合物としては、例えば、モノエタノールアミントリフルオロボレート、ジシアンジアミド等が挙げられる。トリハロゲンボラン系化合物としては、例えばトリクロロボラン等が挙げられる。硬化促進剤は、一種のみ使用してもよいし、二種以上使用してもよい。
【0044】
接着剤層20中の硬化促進剤の含有量は、熱硬化性成分100質量部に対して、0.15~10質量部が好ましく、より好ましくは0.2~3質量部である。上記含有量が0.15質量部以上であると、硬化促進剤の作用がより充分に発揮され、比較的短時間の加熱条件での加熱による接着剤層20の硬化がより大きく進行しやすい。上記含有量が10質量部以下であると、保存安定性により優れる。
【0045】
接着剤層20は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、例えば、難燃剤、シランカップリング剤、イオントラップ剤、染料等が挙げられる。上記難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。上記シランカップリング剤としては、例えば、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。上記イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、含水酸化アンチモン(例えば東亜合成株式会社製の「IXE?300」)、特定構造のリン酸ジルコニウム(例えば東亜合成株式会社製の「IXE?100」)、ケイ酸マグネシウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード600」)、ケイ酸アルミニウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード700」)等が挙げられる。金属イオンとの間で錯体を形成し得る化合物もイオントラップ剤として使用することができる。そのような化合物としては、例えば、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、ビピリジル系化合物が挙げられる。これらのうち、金属イオンとの間で形成される錯体の安定性の観点からはトリアゾール系化合物が好ましい。そのようなトリアゾール系化合物としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-{N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル}ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-t-オクチル-6’-t-ブチル-4’-メチル-2,2’-メチレンビスフェノール、1-(2’,3’-ヒドロキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1-(1,2-ジカルボキシジエチル)ベンゾトリアゾール、1-(2-エチルヘキシルアミノメチル)ベンゾトリアゾール、2,4-ジ-t-ペンチル-6-{(H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル}フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-エチルヘキシル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-ブチルフェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロ-ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ジ(1,1-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、メチル-3?[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート等が挙げられる。また、キノール化合物や、ヒドロキシアントラキノン化合物、ポリフェノール化合物等の特定のヒドロキシ基含有化合物も、イオントラップ剤として使用することができる。そのようなヒドロキシ基含有化合物としては、具体的には、1,2-ベンゼンジオール、アリザリン、アントラルフィン、タンニン、没食子酸、没食子酸メチル、ピロガロール等が挙げられる。上記他の添加剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用していてもよい。
【0046】
接着剤層20の厚さ(積層体の場合は、総厚み)は、特に限定されないが、例えば1~200μmである。上限は、100μmが好ましく、より好ましくは80μmである。下限は、3μmが好ましく、より好ましくは5μmである。
【0047】
接着剤層20は、上述のように、130℃で30分間加熱した後のDSC測定による発熱量が、加熱前の発熱量の60%以下である。すなわち、[130℃で30分間加熱した後のDSC測定による発熱量(J/g)/加熱前の発熱量(J/g)×100](%)が60%以下である。これは、130℃、30分間の条件での加熱により、加熱前の接着剤層中の未硬化である熱硬化性成分の60%以上が硬化することを意味する。本発明のダイシングダイボンドフィルムにおける接着剤層が上記構成を有することにより、上記接着剤層は、比較的短時間の加熱条件での加熱による接着剤層の硬化割合が大きいため、短時間で硬化可能であり、短時間で貯蔵弾性率を向上させることができる。また、比較的短時間の加熱条件での加熱による接着剤層の硬化割合が大きいため、保存中も加熱前までは硬化が起こりにくく、すなわち保存安定性に優れる。上記130℃で30分間加熱した後のDSC測定による発熱量は、加熱前の発熱量の50%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下である。下限は、0%であってもよく、10%であってもよい。
【0048】
接着剤層20の、加熱前のDSC測定による発熱量は、20~500J/gであることが好ましく、より好ましくは50~300J/gである。上記発熱量が20J/g以上であると、接着剤層20は比較的短時間の加熱条件での加熱により硬化がより大きく進行し得る。上記発熱量が500J/g以下であると、接着剤層20表面の粘着力をある程度確保でき、ダイシングダイボンドフィルムの使用過程において半導体ウエハ及び半導体チップに対する密着性に優れる。
【0049】
接着剤層20の、130℃で30分間加熱した後のDSC測定による発熱量は、5~60J/gであることが好ましく、より好ましくは10~50J/gである。上記発熱量が5J/g以上であると、ワイヤーボンディング工程より後の封止工程において封止樹脂と一括に硬化することができる。上記発熱量が60J/g以下であると、接着剤層20は比較的短時間の加熱条件での加熱により硬化がより大きく進行し得る。
【0050】
上記DSC測定による発熱量は、示差走査熱量測定装置を用い、接着剤層20を0℃から350℃まで昇温速度10℃/minにて昇温させた際の全発熱量[J/g]である。DSC測定に用いる接着剤層20の質量は、例えば10~15mgである。
【0051】
上記DSC測定による、加熱前の発熱量及び130℃で30分間加熱した後の発熱量は、接着剤層20中の熱硬化性成分の割合、硬化促進剤の量、フィラーの割合及び粒径等により制御することができる。具体的には、熱硬化性成分の割合が多いほど加熱前の発熱量が大きくなる傾向がある。硬化促進剤の量が多いほど比較的短時間での硬化の進行が大きくなるため130℃で30分間加熱した後の発熱量が小さくなる傾向がある。フィラーの割合が少ないほど、またフィラーの粒径が大きいほど、トラップする硬化促進剤の量が少なくなると推測され、比較的短時間での硬化の進行が大きくなり130℃で30分間加熱した後の発熱量が小さくなる傾向がある。
【0052】
接着剤層20は、上述のように、上記加熱後の130℃における貯蔵弾性率が20MPa以上4000MPa以下である。上記加熱後の貯蔵弾性率が20MPa以上であることにより、接着剤層は、短時間で硬化可能でありながら、硬化後はある程度の硬さを有するため、硬化後は適切なワイヤーボンディングを行うことが可能である。特に、上記接着剤層をオーバーハング部を有する多段積層半導体装置に用いた場合であっても、ワイヤーボンディング時の超音波による振動やオーバーハング部への加圧による負荷に起因するオーバーハング部の揺れを抑制でき、オーバーハング部への適切なワイヤーボンディングを行うことが可能である。また、上記加熱後の貯蔵弾性率が4000MPa以下であることにより、硬化後においても被着体との接着信頼性や半導体チップ同士の接着信頼性に優れる。上記貯蔵弾性率の上限は、2000MPaであってもよく、1000MPaであってもよく、500MPaであってもよい。
【0053】
上記貯蔵弾性率は、粘断性測定装置を用い、周波数1Hz、初期チャック間距離10mm、歪み0.1%の条件で、引張モードにて測定される、130℃における動的貯蔵弾性率である。
【0054】
上記貯蔵弾性率は、接着剤層20中の熱硬化性成分の割合、熱可塑性樹脂の割合、硬化促進剤の量、フィラーの割合等により制御することができる。具体的には、熱硬化性成分の割合、硬化促進剤の量、及びフィラーの割合が多いほど加熱後の接着剤層20が硬くなるため、貯蔵弾性率が高くなる傾向がある。一方、熱可塑性樹脂の割合が多いほど加熱後の接着剤層20がやわらかくなるため、貯蔵弾性率が低下する傾向がある。
【0055】
接着剤層20の90℃における粘度は、300~100000Pa・sであることが好ましい。上述の多段積層半導体装置は、一般的に、回路層が多いために半導体チップが大きく反りやすく、これに起因して半導体チップが剥離しやすい傾向がある。しかしながら、接着剤層20の90℃における粘度が300Pa・s以上であると、比較的反りやすい半導体チップにダイボンドした際はダイボンドステージからの熱により粘度が低下し、半導体チップが反った場合でも半導体チップの剥離が起こりにくい。また、上記粘度が100000Pa・s以下であると、硬化後においても被着体との接着信頼性や半導体チップ同士の接着信頼性により優れる。上記粘度は、500~50000Pa・sが好ましく、より好ましくは1000~40000Pa・sである。また、23℃で28日間保存後の接着剤層20の90℃における粘度が、上記範囲内であることが好ましい。上記粘度は、ギャップ100μm、回転プレート直径8mm、昇温速度10℃/min、歪み10%、周波数5rad/secの条件下にて回転式粘度計により測定される値である。
【0056】
接着剤層20の、23℃で28日間保存後の90℃における粘度の増加率(粘度増加率)[{23℃で28日間保存後の90℃における粘度(Pa・s)-90℃における粘度(Pa・s)}/{90℃における粘度(Pa・s)}×100](%)は、150%未満であることが好ましく、より好ましくは100%未満である。上記粘度の増加率が150%未満であると、保存安定性により優れる。上記粘度の増加率の下限は、0%であってもよい。
【0057】
(基材)
ダイシングテープ10における基材11は、ダイシングテープ10やダイシングダイボンドフィルム1において支持体として機能する要素である。基材11としては、例えば、プラスチック基材(特にプラスチックフィルム)が挙げられる。上記基材11は、単層であってもよいし、同種又は異種の基材の積層体であってもよい。
【0058】
上記プラスチック基材を構成する樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルイミド;アラミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド;ポリフェニルスルフィド;フッ素樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;セルロース樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。基材11において良好な熱収縮性を確保して、後述の常温エキスパンド工程においてチップ離間距離をダイシングテープ10又は基材11の部分的熱収縮を利用して維持しやすい観点から、基材11は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分として含むことが好ましい。なお、基材11の主成分とは、構成成分中で最も大きな質量割合を占める成分とする。上記樹脂は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。粘着剤層12が後述のように放射線硬化型粘着剤層である場合、基材11は放射線透過性を有することが好ましい。
【0059】
基材11がプラスチックフィルムである場合、上記プラスチックフィルムは、無配向であってもよく、少なくとも一方向(一軸方向、二軸方向等)に配向していてもよい。少なくとも一方向に配向している場合、プラスチックフィルムは当該少なくとも一方向に熱収縮可能となる。熱収縮性を有していると、ダイシングテープ10の、半導体ウエハの外周部分をヒートシュリンクさせることが可能となり、これにより個片化された接着剤層付きの半導体チップ同士の間隔を広げた状態で固定できるため、半導体チップのピックアップを容易に行うことができる。基材11及びダイシングテープ10が等方的な熱収縮性を有するためには、基材11は二軸配向フィルムであることが好ましい。なお、上記少なくとも一方向に配向したプラスチックフィルムは、無延伸のプラスチックフィルムを当該少なくとも一方向に延伸(一軸延伸、二軸延伸等)することにより得ることができる。基材11及びダイシングテープ10は、加熱温度100℃及び加熱時間処理60秒の条件で行われる加熱処理試験における熱収縮率が、1~30%であることが好ましく、より好ましくは2~25%、さらに好ましくは3~20%、特に好ましくは5~20%である。上記熱収縮率は、MD方向及びTD方向の少なくとも一方向の熱収縮率であることが好ましい。
【0060】
基材11の粘着剤層12側表面は、粘着剤層12との密着性、保持性等を高める目的で、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、サンドマット加工処理、オゾン暴露処理、火炎暴露処理、高圧電撃暴露処理、イオン化放射線処理等の物理的処理;クロム酸処理等の化学的処理;コーティング剤(下塗り剤)による易接着処理等の表面処理が施されていてもよい。また、帯電防止能を付与するため、金属、合金、これらの酸化物等を含む導電性の蒸着層を基材11表面に設けてもよい。密着性を高めるための表面処理は、基材11における粘着剤層12側の表面全体に施されていることが好ましい。
【0061】
基材11の厚さは、ダイシングテープ10及びダイシングダイボンドフィルム1における支持体として基材11が機能するための強度を確保するという観点からは、40μm以上が好ましく、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは55μm以上、特に好ましくは60μm以上である。また、ダイシングテープ10及びダイシングダイボンドフィルム1において適度な可撓性を実現するという観点からは、基材11の厚さは、200μm以下が好ましく、より好ましくは180μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。
【0062】
(粘着剤層)
ダイシングダイボンドフィルム1における粘着剤層12は、ダイシングダイボンドフィルム1の使用過程において外部からの作用によって意図的に粘着力を低減させることが可能な粘着剤層(粘着力低減可能型粘着剤層)であってもよいしダイシングダイボンドフィルム1の使用過程において外部からの作用によっては粘着力がほとんど又は全く低減しない粘着剤層(粘着力非低減型粘着剤層)であってもよく、ダイシングダイボンドフィルム1を使用して個片化される半導体ウエハの個片化の手法や条件等に応じて適宜に選択することができる。
【0063】
粘着剤層12が粘着力低減可能型粘着剤層である場合、ダイシングダイボンドフィルム1の製造過程や使用過程において、粘着剤層12が相対的に高い粘着力を示す状態と相対的に低い粘着力を示す状態とを使い分けることが可能となる。例えば、ダイシングダイボンドフィルム1の製造過程でダイシングテープ10の粘着剤層12に接着剤層20を貼り合わせる時や、ダイシングダイボンドフィルム1がダイシング工程に使用される時には、粘着剤層12が相対的に高い粘着力を示す状態を利用して粘着剤層12から接着剤層20等の被着体の浮きを抑制・防止することが可能となる一方で、その後、ダイシングダイボンドフィルム1のダイシングテープ10から接着剤層付き半導体チップをピックアップするためのピックアップ工程では、粘着剤層12の粘着力を低減させることで、ピックアップを容易に行うことができる。
【0064】
このような粘着力低減可能型粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えば、放射線硬化性粘着剤、加熱発泡型粘着剤等が挙げられる。粘着力低減可能型粘着剤層を形成する粘着剤としては、一種の粘着剤を使用してもよいし、二種以上の粘着剤を使用してもよい。
【0065】
上記放射線硬化性粘着剤としては、例えば、電子線、紫外線、α線、β線、γ線、又はX線の照射により硬化するタイプの粘着剤を用いることができ、紫外線照射によって硬化するタイプの粘着剤(紫外線硬化性粘着剤)を特に好ましく用いることができる。
【0066】
上記放射線硬化性粘着剤としては、例えば、アクリル系ポリマー等のベースポリマーと、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基を有する放射線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分とを含有する添加型の放射線硬化性粘着剤が挙げられる。
【0067】
上記アクリル系ポリマーは、ポリマーの構成単位として、アクリル系モノマー(分子中に(メタ)アクリロイル基を有するモノマー成分)に由来する構成単位を含むポリマーである。上記アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含むポリマーであることが好ましい。なお、アクリル系ポリマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0068】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、上述の接着剤層20に含まれ得る熱可塑性樹脂としてのアクリル樹脂の構成単位として例示されたものが挙げられる。上記炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を粘着剤層12において適切に発現させるためには、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における、炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルの割合は、40質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上である。
【0069】
上記アクリル系ポリマーは、凝集力、耐熱性等の改質を目的として、上記炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマー成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。上記他のモノマー成分としては、上述の接着剤層20に含まれ得る熱可塑性樹脂としてのアクリル樹脂の構成単位として例示されたものが挙げられる。上記他のモノマー成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を粘着剤層12において適切に発現させるためには、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における、上記他のモノマー成分の合計割合は、60質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
【0070】
上記アクリル系ポリマーは、そのポリマー骨格中に架橋構造を形成するために、アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分と共重合可能な多官能性モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。上記多官能性モノマーとしては、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(例えば、ポリグリシジル(メタ)アクリレート)、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の分子内に(メタ)アクリロイル基と他の反応性官能基を有する単量体等が挙げられる。上記多官能性モノマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を粘着剤層12において適切に発現させるためには、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における上記多官能性モノマーの割合は、40質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下である。
【0071】
アクリル系ポリマーは、アクリル系モノマーを含む一種以上のモノマー成分を重合に付すことにより得られる。重合方法としては、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等が挙げられる。
【0072】
アクリル系ポリマーの質量平均分子量は、10万以上が好ましく、より好ましくは20万~300万である。質量平均分子量が10万以上であると、粘着剤層中の低分子量物質が少ない傾向にあり、接着剤層や半導体ウエハ等への汚染をより抑制することができる。
【0073】
粘着剤層12あるいは粘着剤層12を形成する粘着剤は、架橋剤を含有していてもよい。例えば、ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを用いる場合、アクリル系ポリマーを架橋させ、粘着剤層12中の低分子量物質をより低減させることができる。また、アクリル系ポリマーの質量平均分子量を高めることができる。上記架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリオール化合物(ポリフェノール系化合物等)、アジリジン化合物、メラミン化合物等が挙げられる。架橋剤を使用する場合、その使用量は、ベースポリマー100質量部に対して、5質量部程度以下が好ましく、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0074】
上記放射線重合性のモノマー成分としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等挙げられる。上記放射線重合性のオリゴマー成分としては、例えば、ウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系等の種々のオリゴマーが挙げられ、分子量が100~30000程度のものが好ましい。粘着剤層12を形成する放射線硬化性粘着剤中の上記放射線硬化性のモノマー成分及びオリゴマー成分の含有量は、上記ベースポリマー100質量部に対して、例えば5~500質量部、好ましくは40~150質量部程度である。また、添加型の放射線硬化性粘着剤としては、例えば特開昭60-196956号公報に開示のものを用いてもよい。
【0075】
上記放射線硬化性粘着剤としては、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基をポリマー側鎖や、ポリマー主鎖中、ポリマー主鎖末端に有するベースポリマーを含有する内在型の放射線硬化性粘着剤も挙げられる。このような内在型の放射線硬化性粘着剤を用いると、形成された粘着剤層12内での低分子量成分の移動に起因する粘着特性の意図しない経時的変化を抑制することができる傾向がある。
【0076】
上記内在型の放射線硬化性粘着剤に含有されるベースポリマーとしては、アクリル系ポリマーが好ましい。アクリル系ポリマーへの放射線重合性の炭素-炭素二重結合の導入方法としては、例えば、第1の官能基を有するモノマー成分を含む原料モノマーを重合(共重合)させてアクリル系ポリマーを得た後、上記第1の官能基と反応し得る第2の官能基及び放射線重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を、炭素-炭素二重結合の放射線重合性を維持したままアクリル系ポリマーに対して縮合反応又は付加反応させる方法が挙げられる。
【0077】
上記第1の官能基と上記第2の官能基の組み合わせとしては、例えば、カルボキシ基とエポキシ基、エポキシ基とカルボキシ基、カルボキシ基とアジリジル基、アジリジル基とカルボキシ基、ヒドロキシ基とイソシアネート基、イソシアネート基とヒドロキシ基等が挙げられる。これらの中でも、反応追跡の容易さの観点から、ヒドロキシ基とイソシアネート基の組み合わせ、イソシアネート基とヒドロキシ基の組み合わせが好ましい。中でも、反応性の高いイソシアネート基を有するポリマーを作製することは技術的難易度が高く、一方でヒドロキシ基を有するアクリル系ポリマーの作製及び入手の容易性の観点から、上記第1の官能基がヒドロキシ基であり、上記第2の官能基がイソシアネート基である組み合わせが好ましい。イソシアネート基及び放射性重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物、すなわち、放射線重合性の不飽和官能基含有イソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。また、ヒドロキシ基を有するアクリル系ポリマーとしては、上述のヒドロキシ基含有モノマーや、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングルコールモノビニルエーテル等のエーテル系化合物に由来する構成単位を含むものが挙げられる。
【0078】
上記放射線硬化性粘着剤は、光重合開始剤を含有することが好ましい。上記光重合開始剤としては、例えば、α-ケトール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール系化合物、芳香族スルホニルクロリド系化合物、光活性オキシム系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、アシルホスフォナート等が挙げられる。上記α-ケトール系化合物としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、α-ヒドロキシ-α,α’-ジメチルアセトフェノン、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。上記アセトフェノン系化合物としては、例えば、メトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフエノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-1等が挙げられる。上記ベンゾインエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニソインメチルエーテル等が挙げられる。上記ケタール系化合物としては、例えば、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。上記芳香族スルホニルクロリド系化合物としては、例えば、2-ナフタレンスルホニルクロリド等が挙げられる。上記光活性オキシム系化合物としては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシム等が挙げられる。上記ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。上記チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等が挙げられる。放射線硬化性粘着剤中の光重合開始剤の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、例えば0.05~20質量部である。
【0079】
上記加熱発泡型粘着剤は、加熱によって発泡や膨張をする成分(発泡剤、熱膨張性微小球等)を含有する粘着剤である。上記発泡剤としては、種々の無機系発泡剤や有機系発泡剤が挙げられる。上記無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、アジド類等が挙げられる。上記有機系発泡剤としては、例えば、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタン等の塩フッ化アルカン;アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレート等のアゾ系化合物;パラトルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホニルヒドラジド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)等のヒドラジン系化合物;p-トルイレンスルホニルセミカルバジド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)等のセミカルバジド系化合物;5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾール等のトリアゾール系化合物;N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソテレフタルアミド等のN-ニトロソ系化合物等が挙げられる。上記熱膨張性微小球としては、例えば、加熱によって容易にガス化して膨張する物質が殻内に封入された構成の微小球が挙げられる。上記加熱によって容易にガス化して膨張する物質としては、例えば、イソブタン、プロパン、ペンタン等が挙げられる。加熱によって容易にガス化して膨張する物質をコアセルべーション法や界面重合法等によって殻形成物質内に封入することによって、熱膨張性微小球を作製することができる。上記殻形成物質としては、熱溶融性を示す物質や、封入物質の熱膨張の作用によって破裂し得る物質を用いることができる。そのような物質としては、例えば、塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホン等が挙げられる。
【0080】
上記粘着力非低減型粘着剤層としては、例えば、感圧型粘着剤層が挙げられる。なお、感圧型粘着剤層には、粘着力低減可能型粘着剤層に関して上述した放射線硬化性粘着剤から形成された粘着剤層を予め放射線照射によって硬化させつつも一定の粘着力を有する形態の粘着剤層が含まれる。粘着力非低減型粘着剤層を形成する粘着剤としては、一種の粘着剤を使用してもよいし、二種以上の粘着剤を使用してもよい。また、粘着剤層12の全体が粘着力非低減型粘着剤層であってもよいし、一部が粘着力非低減型粘着剤層であってもよい。例えば、粘着剤層12が単層構造を有する場合、粘着剤層12の全体が粘着力非低減型粘着剤層であってもよいし、粘着剤層12における特定の部位(例えば、リングフレームの貼着対象領域であって、中央領域の外側にある領域)が粘着力非低減型粘着剤層であり、他の部位(例えば、半導体ウエハの貼着対象領域である中央領域)が粘着力低減可能型粘着剤層であってもよい。また、粘着剤層12が積層構造を有する場合、積層構造における全ての粘着剤層が粘着力非低減型粘着剤層であってもよいし、積層構造中の一部の粘着剤層が粘着力非低減型粘着剤層であってもよい。
【0081】
放射線硬化性粘着剤から形成された粘着剤層(放射線未照射放射線硬化型粘着剤層)を予め放射線照射によって硬化させた形態の粘着剤層(放射線照射済放射線硬化型粘着剤層)は、放射線照射によって粘着力が低減されているとしても、含有するポリマー成分に起因する粘着性を示し、ダイシング工程等においてダイシングテープの粘着剤層に最低限必要な粘着力を発揮することが可能である。放射線照射済放射線硬化型粘着剤層を用いる場合、粘着剤層12の面広がり方向において、粘着剤層12の全体が放射線照射済放射線硬化型粘着剤層であってもよく、粘着剤層12の一部が放射線照射済放射線硬化型粘着剤層であり且つ他の部分が放射線未照射の放射線硬化型粘着剤層であってもよい。なお、本明細書において、「放射線硬化型粘着剤層」とは、放射線硬化性粘着剤から形成された粘着剤層をいい、放射線硬化性を有する放射線未照射放射線硬化型粘着剤層及び当該粘着剤層が放射線照射により硬化した後の放射線硬化済放射線硬化型粘着剤層の両方を含む。
【0082】
上記感圧型粘着剤層を形成する粘着剤としては、公知乃至慣用の感圧型の粘着剤を用いることができ、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤やゴム系粘着剤を好ましく用いることができる。粘着剤層12が感圧型の粘着剤としてアクリル系ポリマーを含有する場合、当該アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多い構成単位として含むポリマーであることが好ましい。上記アクリル系ポリマーとしては、例えば、上述の添加型の放射線硬化性粘着剤に含まれ得るアクリル系ポリマーとして説明されたアクリル系ポリマーを採用することができる。
【0083】
粘着剤層12又は粘着剤層12を形成する粘着剤は、上述の各成分以外に、架橋促進剤、粘着付与剤、老化防止剤、着色剤(顔料、染料等)等の公知乃至慣用の粘着剤層に用いられる添加剤が配合されていてもよい。上記着色剤としては、例えば、放射線照射により着色する化合物が挙げられる。放射線照射により着色する化合物を含有する場合、放射線照射された部分のみを着色することができる。上記放射線照射により着色する化合物は、放射線照射前には無色又は淡色であるが、放射線照射により有色となる化合物であり、例えば、ロイコ染料等が挙げられる。上記放射線照射により着色する化合物の使用量は特に限定されず適宜選択することができる。
【0084】
粘着剤層12の厚さは、特に限定されないが、粘着剤層12が放射線硬化性粘着剤から形成された粘着剤層である場合に当該粘着剤層12の放射線硬化の前後における接着剤層20に対する接着力のバランスをとる観点から、1~50μm程度が好ましく、より好ましくは2~30μm、さらに好ましくは5~25μmである。
【0085】
ダイシングダイボンドフィルム1は、セパレータを有していてもよい。具体的には、ダイシングダイボンドフィルム1ごとに、セパレータを有するシート状の形態であってもよいし、セパレータが長尺状であってその上に複数のダイシングダイボンドフィルム1が配され且つ当該セパレータが巻き回されてロールの形態とされていてもよい。セパレータは、ダイシングダイボンドフィルム1の接着剤層20の表面を被覆して保護するための要素であり、ダイシングダイボンドフィルム1を使用する際には当該フィルムから剥がされる。セパレータとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、フッ素系剥離剤や長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙類等が挙げられる。セパレータの厚さは、例えば5~200μmである。
【0086】
本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態であるダイシングダイボンドフィルム1は、例えば、次の通りにして製造される。まず基材11は、公知乃至慣用の製膜方法により製膜して得ることができる。上記製膜方法としては、例えば、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法等が挙げられる。
【0087】
次に、基材11上に、粘着剤層12を形成する粘着剤及び溶媒等を含む、粘着剤層を形成する組成物(粘着剤組成物)を塗布して塗布膜を形成した後、必要に応じて脱溶媒や硬化等により該塗布膜を固化させ、粘着剤層12を形成することができる。上記塗布の方法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の公知乃至慣用の塗布方法が挙げられる。また、脱溶媒条件としては、例えば、温度80~150℃、時間0.5~5分間の範囲内で行われる。また、セパレータ上に粘着剤組成物を塗布して塗布膜を形成した後、上記の脱溶媒条件で塗布膜を固化させて粘着剤層12を形成してもよい。その後、基材11上に粘着剤層12をセパレータと共に貼り合わせる。以上のようにして、ダイシングテープ10を作製することができる。
【0088】
接着剤層20について、まず、熱硬化性成分、フィラー、硬化促進剤、溶媒等を含む、接着剤層20を形成する組成物(接着剤組成物)を作製する。次に、接着剤組成物をセパレータ上に塗布して塗布膜を形成した後、必要に応じて脱溶媒や硬化等により該塗布膜を固化させ、接着剤層20を形成する。塗布方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の公知乃至慣用の塗布方法が挙げられる。また、脱溶媒条件としては、例えば、温度70~160℃、時間1~5分間の範囲内で行われる。
【0089】
続いて、ダイシングテープ10及び接着剤層20からそれぞれセパレータを剥離し、接着剤層20と粘着剤層12とが貼り合わせ面となるようにして両者を貼り合わせる。貼り合わせは、例えば圧着により行うことができる。このとき、ラミネート温度は特に限定されず、例えば、30~50℃が好ましく、より好ましくは35~45℃である。また、線圧は特に限定されず、例えば、0.1~20kgf/cmが好ましく、より好ましくは1~10kgf/cmである。
【0090】
上述のように、粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層である場合に接着剤層20の貼り合わせより後に粘着剤層12に紫外線等の放射線を照射する時には、例えば基材11の側から粘着剤層12に放射線照射を行い、その照射量は、例えば50~500mJであり、好ましくは100~300mJである。ダイシングダイボンドフィルム1において粘着剤層12の粘着力低減措置としての照射が行われる領域(照射領域R)は、通常、粘着剤層12における接着剤層20貼り合わせ領域内のその周縁部を除く領域である。部分的に照射領域Rを設ける場合、照射領域Rを除く領域に対応するパターンを形成したフォトマスクを介して行うことができる。また、スポット的に放射線を照射して照射領域Rを形成する方法も挙げられる。
【0091】
以上のようにして、例えば図1に示すダイシングダイボンドフィルム1を作製することができる。
【0092】
ダイシングダイボンドフィルム1は、半導体装置の製造に用いることができる。具体的には、後述の半導体装置の製造方法に記載の通りである。そして、ダイシングダイボンドフィルム1における接着剤層20は、製造される半導体装置に組み込まれる。具体的には、被着体と半導体チップの接着用途及び/又は半導体チップ同士の接着用途に用いられることが好ましく、より好ましくは、図7(b1)、図7(b2)、及び図7(c)に示すように、半導体チップが多段積層された半導体装置(多段積層半導体装置)における、被着体と半導体チップの接着用途及び/又は半導体チップ同士の接着用途に用いられることである。接着剤層20は、特に、図7(b1)、図7(b2)、及び図7(c)に示すように、オーバーハング部を有する多段積層半導体装置におけるオーバーハング部に少なくとも用いられることが好ましい。
【0093】
[半導体装置の製造方法]
本発明のダイシングダイボンドフィルムを用いて、半導体装置を製造することができる。具体的には、本発明のダイシングダイボンドフィルムにおける上記接着剤層側に、複数の半導体チップを含む半導体ウエハの分割体、又は複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハを貼り付ける工程(「工程A」と称する場合がある)と、相対的に低温の条件下で、本発明のダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープをエキスパンドして、少なくとも上記接着剤層を割断して接着剤層付き半導体チップを得る工程(「工程B」と称する場合がある)と、相対的に高温の条件下で、上記ダイシングテープをエキスパンドして、上記接着剤層付き半導体チップ同士の間隔を広げる工程(「工程C」と称する場合がある)と、上記接着剤層付き半導体チップをピックアップする工程(「工程D」と称する場合がある)とを含む製造方法により、半導体装置を製造することができる。
【0094】
工程Aで用いる上記複数の半導体チップを含む半導体ウエハの分割体、又は複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハは、以下のようにして得ることができる。まず、図2(a)及び図2(b)に示すように、半導体ウエハWに分割溝30aを形成する(分割溝形成工程)。半導体ウエハWは、第1面Wa及び第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。そして、粘着面T1aを有するウエハ加工用テープT1を半導体ウエハWの第2面Wb側に貼り合わせた後、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWの第1面Wa側に所定深さの分割溝30aをダイシング装置等の回転ブレードを使用して形成する。分割溝30aは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための空隙である(図2~4では分割溝30aを模式的に太線で表す)。
【0095】
次に、図2(c)に示すように、粘着面T2aを有するウエハ加工用テープT2の、半導体ウエハWの第1面Wa側への貼り合わせと、半導体ウエハWからのウエハ加工用テープT1の剥離とを行う。
【0096】
次に、図2(d)に示すように、ウエハ加工用テープT2に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化する(ウエハ薄化工程)。研削加工は、研削砥石を備える研削加工装置を使用して行うことができる。このウエハ薄化工程によって、本実施形態では、複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Aが形成される。半導体ウエハ30Aは、具体的には、当該ウエハにおいて複数の半導体チップ31へと個片化されることとなる部位を第2面Wb側で連結する部位(連結部)を有する。半導体ウエハ30Aにおける連結部の厚さ、すなわち、半導体ウエハ30Aの第2面Wbと分割溝30aの第2面Wb側先端との間の距離は、例えば1~30μmであり、好ましくは3~20μmである。
【0097】
(工程A)
工程Aでは、ダイシングダイボンドフィルム1における接着剤層20側に、複数の半導体チップを含む半導体ウエハの分割体、又は複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハを貼り付ける。
【0098】
工程Aにおける一実施形態では、図3(a)に示すように、ウエハ加工用テープT2に保持された半導体ウエハ30Aをダイシングダイボンドフィルム1の接着剤層20に対して貼り合わせる。この後、図3(b)に示すように、半導体ウエハ30Aからウエハ加工用テープT2を剥がす。ダイシングダイボンドフィルム1における粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層である場合には、ダイシングダイボンドフィルム1の製造過程での上述の放射線照射に代えて、半導体ウエハ30Aの接着剤層20への貼り合わせの後に、基材11の側から粘着剤層12に対して紫外線等の放射線を照射してもよい。照射量は、例えば50~500mJ/cm2であり、好ましくは100~300mJ/cm2である。ダイシングダイボンドフィルム1において粘着剤層12の粘着力低減措置としての照射が行われる領域(図1に示す照射領域R)は、例えば、粘着剤層12における接着剤層20貼り合わせ領域内のその周縁部を除く領域である。
【0099】
(工程B)
工程Bでは、相対的に低温の条件下で、ダイシングダイボンドフィルム1におけるダイシングテープ10をエキスパンドして、少なくとも接着剤層20を割断して接着剤層付き半導体チップを得る。
【0100】
工程Bにおける一実施形態では、まず、ダイシングダイボンドフィルム1におけるダイシングテープ10の粘着剤層12上にリングフレーム41を貼り付けた後、図4(a)に示すように、半導体ウエハ30Aを伴う当該ダイシングダイボンドフィルム1をエキスパンド装置の保持具42に固定する。
【0101】
次に、相対的に低温の条件下での第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を、図4(b)に示すように行い、半導体ウエハ30Aを複数の半導体チップ31へと個片化するとともに、ダイシングダイボンドフィルム1の接着剤層20を小片の接着剤層21に割断して、接着剤層付き半導体チップ31を得る。クールエキスパンド工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を、ダイシングダイボンドフィルム1の図中下側においてダイシングテープ10に当接させて上昇させ、半導体ウエハ30Aの貼り合わせられたダイシングダイボンドフィルム1のダイシングテープ10を、半導体ウエハ30Aの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばすようにエキスパンドする。このエキスパンドは、ダイシングテープ10において15~32MPa、好ましくは20~32MPaの範囲内の引張応力が生じる条件で行う。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、好ましくは0.1~100mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、好ましくは3~16mmである。
【0102】
工程Bでは、複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハ30Aを用いた場合、半導体ウエハ30Aにおいて薄肉で割れやすい部位に割断が生じて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、工程Bでは、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝の図中垂直方向に位置する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生じる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間の分割溝の垂直方向に位置する箇所が割断されることとなる。エキスパンドによる割断の後、図4(c)に示すように、突き上げ部材43を下降させて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態を解除する。
【0103】
(工程C)
工程Cでは、相対的に高温の条件下で、上記ダイシングテープ10をエキスパンドして、上記接着剤層付き半導体チップ同士の間隔を広げる。
【0104】
工程Cにおける一実施形態では、まず、相対的に高温の条件下での第2エキスパンド工程(常温エキスパンド工程)を、図5(a)に示すように行い、接着剤層付き半導体チップ31間の距離(離間距離)を広げる。工程Cでは、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を再び上昇させ、ダイシングダイボンドフィルム1のダイシングテープ10をエキスパンドする。第2エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15~30℃である。第2エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、例えば0.1~10mm/秒であり、好ましくは0.3~1mm/秒である。また、第2エキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3~16mmである。後述のピックアップ工程にてダイシングテープ10から接着剤層付き半導体チップ31を適切にピックアップ可能な程度に、工程Cでは接着剤層付き半導体チップ31の離間距離を広げる。エキスパンドにより離間距離を広げた後、図5(b)に示すように、突き上げ部材43を下降させて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態を解除する。エキスパンド状態解除後にダイシングテープ10上の接着剤層付き半導体チップ31の離間距離が狭まることを抑制する観点では、エキスパンド状態を解除するより前に、ダイシングテープ10における半導体チップ31保持領域より外側の部分を加熱して収縮させることが好ましい。
【0105】
工程Cの後、接着剤層付き半導体チップ31を伴うダイシングテープ10における半導体チップ31側を水等の洗浄液を使用して洗浄するクリーニング工程を必要に応じて有していてもよい。
【0106】
(工程D)
工程D(ピックアップ工程)では、個片化された接着剤層付き半導体チップをピックアップする。工程Dにおける一実施形態では、必要に応じて上記クリーニング工程を経た後、図6に示すように、接着剤層付き半導体チップ31をダイシングテープ10からピックアップする。例えば、ピックアップ対象の接着剤層付き半導体チップ31について、ダイシングテープ10の図中下側においてピックアップ機構のピン部材44を上昇させてダイシングテープ10を介して突き上げた後、吸着治具45によって吸着保持する。ピックアップ工程において、ピン部材44の突き上げ速度は例えば1~100mm/秒であり、ピン部材44の突き上げ量は例えば50~3000μmである。
【0107】
上記半導体装置の製造方法は、工程A~D以外の他の工程を含んでいてもよい。例えば、一実施形態においては、図7(a)に示すように、ピックアップした接着剤層付き半導体チップ31を、被着体51に対して接着剤層21を介して仮固着する(仮固着工程)。被着体51としては、例えば、リードフレーム、TAB(Tape Automated Bonding)フィルム、配線基板、別途作製した半導体チップ等が挙げられる。接着剤層21の仮固着時における25℃での剪断接着力は、被着体51に対して0.2MPa以上が好ましく、より好ましくは0.2~10MPaである。接着剤層21の上記剪断接着力が0.2MPa以上であるという構成は、後述のワイヤーボンディング工程において、超音波振動や加熱によって接着剤層21と半導体チップ31又は被着体51との接着面でずり変形が生じるのを抑制して適切にワイヤーボンディングを行うことができる。また、接着剤層21の仮固着時における175℃での剪断接着力は、被着体51に対して0.01MPa以上が好ましく、より好ましくは0.01~5MPaである。上記仮固着工程の後、接着剤層21を例えば130℃30分の条件で加熱して不完全に硬化させてもよい(前硬化工程)。
【0108】
次に、半導体チップ31の電極パッド(図示略)と被着体51の有する端子部(図示略)とをボンディングワイヤー52を介して電気的に接続する(ワイヤーボンディング工程)。半導体チップ31の電極パッドや被着体51の端子部とボンディングワイヤー52との結線は、加熱を伴う超音波溶接によって実現でき、接着剤層21を熱硬化させないように行われる。ボンディングワイヤー52としては、例えば金線、アルミニウム線、銅線等を用いることができる。ワイヤーボンディングにおけるワイヤー加熱温度は、例えば80~250℃であり、好ましくは80~220℃である。また、その加熱時間は数秒~数分間である。
【0109】
図7(b1)に示すような、被着体51上に、半導体チップ31が接着剤層21を介して多段積層された構成を作製する場合、以下のようにして仮固着工程及びワイヤーボンディング工程を行う。ピックアップした接着剤層付き半導体チップ31を、被着体51に対して接着剤層21を介して仮固着した後(図7(a))、さらに、別途ピックアップした接着剤層付き半導体チップ31を、接着剤層21を介して被着体51に仮固着された半導体チップ31の上面に対して、上記仮固着工程と同様にして仮固着する。なお、この際、被着体51に仮固着された半導体チップ31の上面の電極パッドを避けるようにして、面広がり方向にずらして仮固着する。この再度の仮固着を複数回繰り返し行う(仮固着工程)。その後、必要に応じて上記前硬化工程を経て複数の接着剤層21を不完全に硬化させ、次いで各半導体チップ31について、上記ワイヤーボンディング工程と同様にしてワイヤーボンディングする(ワイヤーボンディング工程)。
【0110】
図7(b1)に示すような半導体チップ31の多段積層構成では、接着剤層付き半導体チップ31がこれを一単位として、結線部を避けるように、一方の面広がり方向(図7(b1)では右方向)にずらされて積層されている。このような多段積層構成では、最上段の半導体チップ31aはオーバーハング部にワイヤーボンディングされている。なお、他の形態の多段積層構成としては、図7(b2)に示すように、多段積層構成が半導体チップ31の面広がり方向に広がりすぎることを避けるため、接着剤層付き半導体チップ31がこれを一単位として、一方の面広がり方向(例えば右方向)にずらされて積層され、ある程度積層された段階でずらす方向を反転させ他方の面広がり方向(例えば左方向)にずらされて積層された構成が挙げられる。このような他の形態の多段積層構成において、最上段の半導体チップ31a及び積層方向を反転させる部分の半導体チップ31bはオーバーハング部にワイヤーボンディングされている。
【0111】
次に、図7(c)に示すように、被着体51上の各半導体チップ31やボンディングワイヤー52を保護するための封止樹脂53によって半導体チップ31を封止する(封止工程)。封止工程では、接着剤層21の熱硬化が進行する。封止工程では、例えば、金型を使用して行うトランスファーモールド技術によって封止樹脂53を形成する。封止樹脂53の構成材料としては、例えばエポキシ系樹脂を用いることができる。封止工程において、封止樹脂53を形成するための加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば60秒~数分間である。封止工程で封止樹脂53の硬化が十分に進行しない場合には、封止工程の後に封止樹脂53を完全に硬化させるための後硬化工程を行う。封止工程において接着剤層21が完全に熱硬化しない場合であっても、後硬化工程において封止樹脂53と共に接着剤層21の完全な熱硬化が可能となる。後硬化工程において、加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば0.5~8時間である。
【0112】
上記の実施形態では、上述のように、接着剤層付き半導体チップ31を被着体51に仮固着させた後、接着剤層21を完全に熱硬化させることなくワイヤーボンディング工程が行われる。このような構成に代えて、上記半導体装置の製造方法では、接着剤層付き半導体チップ31を被着体51に仮固着させた後、接着剤層21を熱硬化させてからワイヤーボンディング工程を行ってもよい。
【0113】
上記半導体装置の製造方法においては、他の実施形態として、図2(d)を参照して上述したウエハ薄化工程に代えて、図8に示すウエハ薄化工程を行ってもよい。図2(c)を参照して上述した過程を経た後、図8に示すウエハ薄化工程では、ウエハ加工用テープT2に半導体ウエハWが保持された状態で、当該ウエハが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化させて、複数の半導体チップ31を含んでウエハ加工用テープT2に保持された半導体ウエハ分割体30Bを形成する。上記ウエハ薄化工程では、分割溝30aが第2面Wb側に露出するまでウエハを研削する手法(第1の手法)を採用してもよいし、第2面Wb側から分割溝30aに至るより前までウエハを研削し、その後、回転砥石からウエハへの押圧力の作用により分割溝30aと第2面Wbとの間にクラックを生じさせて半導体ウエハ分割体30Bを形成する手法(第2の手法)を採用してもよい。採用される手法に応じて、図2(a)及び図2(b)を参照して上述したように形成する分割溝30aの、第1面Waからの深さは、適宜に決定される。図8では、第1の手法を経た分割溝30a、又は、第2の手法を経た分割溝30a及びこれに連なるクラックについて、模式的に太線で表す。上記半導体装置の製造方法では、工程Aにおいて、半導体ウエハ分割体としてこのようにして作製される半導体ウエハ分割体30Bを半導体ウエハ30Aの代わりに用い、図3から図7を参照して上述した各工程を行ってもよい。
【0114】
図9(a)及び図9(b)は、当該実施形態における工程B、すなわち半導体ウエハ分割体30Bをダイシングダイボンドフィルム1に貼り合わせた後に行う第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を表す。当該実施形態における工程Bでは、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を、ダイシングダイボンドフィルム1の図中下側においてダイシングテープ10に当接させて上昇させ、半導体ウエハ分割体30Bの貼り合わせられたダイシングダイボンドフィルム1のダイシングテープ10を、半導体ウエハ分割体30Bの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばすようにエキスパンドする。このエキスパンドは、ダイシングテープ10において、例えば5~28MPa、好ましくは8~25MPaの範囲内の引張応力が生じる条件で行う。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、好ましくは1~400mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、好ましくは50~200mmである。このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングダイボンドフィルム1の接着剤層20を小片の接着剤層21に割断して接着剤層付き半導体チップ31が得られる。具体的に、クールエキスパンド工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において、半導体ウエハ分割体30Bの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝30aの図中垂直方向に位置する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生じる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間の分割溝30aの図中垂直方向に位置する箇所が割断されることとなる。
【0115】
上記半導体装置の製造方法においては、さらなる他の実施形態として、工程Aにおいて用いる半導体ウエハ30A又は半導体ウエハ分割体30Bに代えて、以下のようにして作製される半導体ウエハ30Cを用いてもよい。
【0116】
当該実施形態では、図10(a)及び図10(b)に示すように、まず、半導体ウエハWに改質領域30bを形成する。半導体ウエハWは、第1面Wa及び第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。そして、粘着面T3aを有するウエハ加工用テープT3を半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わせた後、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光をウエハ加工用テープT3とは反対の側から半導体ウエハWに対して分割予定ラインに沿って照射して、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30bを形成する。改質領域30bは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハにおいてレーザー光照射によって分割予定ライン上に改質領域30bを形成する方法については、例えば特開2002-192370号公報に詳述されているが、当該実施形態におけるレーザー光照射条件は、例えば以下の条件の範囲内で適宜に調整される。
<レーザー光照射条件>
(A)レーザー光
レーザー光源 半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー
波長 1064nm
レーザー光スポット断面積 3.14×10-8cm2
発振形態 Qスイッチパルス
繰り返し周波数 100kHz以下
パルス幅 1μs以下
出力 1mJ以下
レーザー光品質 TEM00
偏光特性 直線偏光
(B)集光用レンズ
倍率 100倍以下
NA 0.55
レーザー光波長に対する透過率 100%以下
(C)半導体基板が載置される裁置台の移動速度 280mm/秒以下
【0117】
次に、図10(c)に示すように、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化させ、これによって複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Cを形成する(ウエハ薄化工程)。上記半導体装置の製造方法では、工程Aにおいて、個片化可能は半導体ウエハとしてこのようにして作製される半導体ウエハ30Cを半導体ウエハ30Aの代わりに用い、図3から図7を参照して上述した各工程を行ってもよい。
【0118】
図11(a)及び図11(b)は、当該実施形態における工程B、すなわち半導体ウエハ30Cをダイシングダイボンドフィルム1に貼り合わせた後に行う第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を表す。クールエキスパンド工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を、ダイシングダイボンドフィルム1の図中下側においてダイシングテープ10に当接させて上昇させ、半導体ウエハ30Cの貼り合わせられたダイシングダイボンドフィルム1のダイシングテープ10を、半導体ウエハ30Cの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばすようにエキスパンドする。このエキスパンドは、ダイシングテープ10において、例えば5~28MPa、好ましくは8~25MPaの範囲内の引張応力が生じる条件で行う。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、好ましくは1~400mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、好ましくは50~200mmである。このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングダイボンドフィルム1の接着剤層20を小片の接着剤層21に割断して接着剤層付き半導体チップ31が得られる。具体的に、クールエキスパンド工程では、半導体ウエハ30Cにおいて脆弱な改質領域30bにクラックを形成されて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、クールエキスパンド工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において、半導体ウエハ30Cの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、ウエハのクラック形成箇所の図中垂直方向に位置する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生じる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間のクラック形成箇所の図中垂直方向に位置する箇所が割断されることとなる。
【0119】
また、上記半導体装置の製造方法において、ダイシングダイボンドフィルム1は、上述のように接着剤層付き半導体チップを得る用途に使用することができるが、複数の半導体チップを積層して3次元実装をする場合における接着剤層付き半導体チップを得るための用途にも使用することができる。そのような3次元実装における半導体チップ31間には、接着剤層21と共にスペーサが介在していてもよいし、スペーサが介在していなくてもよい。
【実施例
【0120】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0121】
実施例1
(ダイシングテープの作製)
冷却管、窒素導入管、温度計、及び撹拌装置を備えた反応容器に、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)100質量部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)19質量部、過酸化ベンゾイル0.4質量部、及びトルエン80質量部を入れ、窒素気流中で60℃にて10時間重合を行い、アクリル系ポリマーAを含む溶液得た。
このアクリル系ポリマーAを含む溶液に2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)1.2質量部を加え、空気気流中で50℃にて60時間、付加反応を行い、アクリル系ポリマーA’を得た。
次に、アクリル系ポリマーA’100質量部に対し、ポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」、東ソー株式会社製)1.3質量部、及び光重合開始剤(商品名「イルガキュア184」、BASF社製)3質量部を加えて、粘着剤組成物Aを作製した。
得られた粘着剤組成物Aを、PET系セパレータのシリコーン処理を施した面上に塗布し、120℃で2分間加熱して脱溶媒し、厚さ10μmの粘着剤層Aを形成した。次いで、当該粘着剤層面に、基材としてのEVAフィルム(グンゼ株式会社製、厚さ125μm)と貼り合わせ、23℃にて72時間保存し、ダイシングテープAを得た。
【0122】
(接着剤層の作製)
アクリル樹脂(商品名「テイサンレジン SG-70L」、ナガセケムテックス株式会社製、質量平均分子量90万)100質量部に対して、エポキシ樹脂(商品名「KI-3000-4」、東都化成工業株式会社製)200質量部、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」、明和化成株式会社製)200質量部、シリカフィラー(商品名「ST-ZL」、日産化学工業株式会社製、平均粒径85nm)350質量部(シリカフィラー換算)、及び硬化促進剤(商品名「キュアゾール 2PHZ-PW」、四国化成工業株式会社製)2質量部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が30質量%となる接着剤組成物Aを調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物Aを塗布して塗膜を形成し、この塗膜について120℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、厚さ(平均厚さ)10μmの接着剤層AをPETセパレータ上に作製した。
【0123】
(ダイシングダイボンドフィルムの作製)
ダイシングテープAからPET系セパレータを剥離し、露出した粘着剤層に接着剤層Aを貼り合わせた。貼り合わせにおいては、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とを位置合わせした。また、貼り合わせには、ハンドローラーを使用した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を300mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープと接着剤層とを含む積層構造を有する実施例1のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0124】
実施例2
(接着剤層の作製)
アクリル樹脂(商品名「テイサンレジン SG-70L」、ナガセケムテックス株式会社製、質量平均分子量90万)100質量部に対して、エポキシ樹脂(商品名「KI-3000-4」、東都化成工業株式会社製)200質量部、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」、明和化成株式会社製)200質量部、シリカフィラー(商品名「MEK-ST-2040」、日産化学工業株式会社製、平均粒径190nm)350質量部(シリカフィラー換算)、及び硬化促進剤(商品名「キュアゾール 2PHZ-PW」、四国化成工業株式会社製)2質量部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が30質量%となる接着剤組成物Bを調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物Bを塗布して塗膜を形成し、この塗膜について120℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、厚さ(平均厚さ)10μmの接着剤層BをPETセパレータ上に作製した。
【0125】
(ダイシングダイボンドフィルムの作製)
ダイシングテープAからPET系セパレータを剥離し、露出した粘着剤層に接着剤層Bを貼り合わせた。貼り合わせにおいては、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とを位置合わせした。また、貼り合わせには、ハンドローラーを使用した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を300mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープと接着剤層とを含む積層構造を有する実施例2のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0126】
実施例3
(接着剤層の作製)
アクリル樹脂(商品名「テイサンレジン SG-70L」、ナガセケムテックス株式会社製、質量平均分子量90万)100質量部に対して、エポキシ樹脂(商品名「KI-3000-4」、東都化成工業株式会社製)200質量部、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」、明和化成株式会社製)200質量部、シリカフィラー(商品名「SQ-EM1」、株式会社アドマテックス製、平均粒径300nm)350質量部(シリカフィラー換算)、及び硬化促進剤(商品名「キュアゾール 2PHZ-PW」、四国化成工業株式会社製)2質量部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が30質量%となる接着剤組成物Cを調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物Cを塗布して塗膜を形成し、この塗膜について120℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、厚さ(平均厚さ)10μmの接着剤層CをPETセパレータ上に作製した。
【0127】
(ダイシングダイボンドフィルムの作製)
ダイシングテープAからPET系セパレータを剥離し、露出した粘着剤層に接着剤層Cを貼り合わせた。貼り合わせにおいては、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とを位置合わせした。また、貼り合わせには、ハンドローラーを使用した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を300mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープと接着剤層とを含む積層構造を有する実施例3のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0128】
実施例4
(接着剤層の作製)
アクリル樹脂(商品名「テイサンレジン SG-70L」、ナガセケムテックス株式会社製、質量平均分子量90万)100質量部に対して、エポキシ樹脂(商品名「KI-3000-4」、東都化成工業株式会社製)115質量部、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」、明和化成株式会社製)115質量部、シリカフィラー(商品名「MEK-ST-2040」、日産化学工業株式会社製、平均粒径190nm)220質量部(シリカフィラー換算)、及び硬化促進剤(商品名「キュアゾール 2PHZ-PW」、四国化成工業株式会社製)2質量部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が28質量%となる接着剤組成物Dを調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物Dを塗布して塗膜を形成し、この塗膜について120℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、厚さ(平均厚さ)10μmの接着剤層DをPETセパレータ上に作製した。
【0129】
(ダイシングダイボンドフィルムの作製)
ダイシングテープAからPET系セパレータを剥離し、露出した粘着剤層に接着剤層Dを貼り合わせた。貼り合わせにおいては、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とを位置合わせした。また、貼り合わせには、ハンドローラーを使用した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を300mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープと接着剤層とを含む積層構造を有する実施例4のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0130】
実施例5
(接着剤層の作製)
アクリル樹脂(商品名「テイサンレジン SG-70L」、ナガセケムテックス株式会社製、質量平均分子量90万)100質量部に対して、エポキシ樹脂(商品名「KI-3000-4」、東都化成工業株式会社製)200質量部、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」、明和化成株式会社製)200質量部、シリカフィラー(商品名「MEK-ST-2040」、日産化学工業株式会社製、平均粒径190nm)350質量部(シリカフィラー換算)、及び硬化促進剤(商品名「キュアゾール 2PHZ-PW」、四国化成工業株式会社製)1質量部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が30質量%となる接着剤組成物Eを調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物Eを塗布して塗膜を形成し、この塗膜について120℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、厚さ(平均厚さ)10μmの接着剤層EをPETセパレータ上に作製した。
【0131】
(ダイシングダイボンドフィルムの作製)
ダイシングテープAからPET系セパレータを剥離し、露出した粘着剤層に接着剤層Eを貼り合わせた。貼り合わせにおいては、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とを位置合わせした。また、貼り合わせには、ハンドローラーを使用した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を300mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープと接着剤層とを含む積層構造を有する実施例5のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0132】
実施例6
(接着剤層の作製)
アクリル樹脂(商品名「テイサンレジン SG-70L」、ナガセケムテックス株式会社製、質量平均分子量90万)100質量部に対して、エポキシ樹脂(商品名「KI-3000-4」、東都化成工業株式会社製)200質量部、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」、明和化成株式会社製)200質量部、シリカフィラー(商品名「SE2050-MCV」、株式会社アドマテックス製、平均粒径500nm)350質量部(シリカフィラー換算)、及び硬化促進剤(商品名「キュアゾール 2PHZ-PW」、四国化成工業株式会社製)2質量部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が30質量%となる接着剤組成物Fを調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物Fを塗布して塗膜を形成し、この塗膜について120℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、厚さ(平均厚さ)10μmの接着剤層FをPETセパレータ上に作製した。
【0133】
(ダイシングダイボンドフィルムの作製)
ダイシングテープAからPET系セパレータを剥離し、露出した粘着剤層に接着剤層Fを貼り合わせた。貼り合わせにおいては、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とを位置合わせした。また、貼り合わせには、ハンドローラーを使用した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を300mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープと接着剤層とを含む積層構造を有する実施例6のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0134】
実施例7
(接着剤層の作製)
アクリル樹脂(商品名「テイサンレジン SG-70L」、ナガセケムテックス株式会社製、質量平均分子量90万)100質量部に対して、エポキシ樹脂(商品名「KI-3000-4」、東都化成工業株式会社製)440質量部、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」、明和化成株式会社製)440質量部、シリカフィラー(商品名「MEK-ST-2040」、日産化学工業株式会社製、平均粒径190nm)430質量部(シリカフィラー換算)、及び硬化促進剤(商品名「キュアゾール 2PHZ-PW」、四国化成工業株式会社製)3質量部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が30質量%となる接着剤組成物Gを調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物Gを塗布して塗膜を形成し、この塗膜について120℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、厚さ(平均厚さ)10μmの接着剤層GをPETセパレータ上に作製した。
【0135】
(ダイシングダイボンドフィルムの作製)
ダイシングテープAからPET系セパレータを剥離し、露出した粘着剤層に接着剤層Gを貼り合わせた。貼り合わせにおいては、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とを位置合わせした。また、貼り合わせには、ハンドローラーを使用した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を300mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープと接着剤層とを含む積層構造を有する実施例7のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0136】
比較例1
(接着剤層の作製)
アクリル樹脂(商品名「テイサンレジン SG-70L」、ナガセケムテックス株式会社製、質量平均分子量90万)100質量部に対して、エポキシ樹脂(商品名「KI-3000-4」、東都化成工業株式会社製)200質量部、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」、明和化成株式会社製)200質量部、シリカフィラー(商品名「YA050C-MJF」、株式会社アドマテックス製、平均粒径50nm)350質量部(シリカフィラー換算)、及び硬化促進剤(商品名「キュアゾール 2PHZ-PW」、四国化成工業株式会社製)2質量部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が30質量%となる接着剤組成物Hを調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物Hを塗布して塗膜を形成し、この塗膜について120℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、厚さ(平均厚さ)20μmの接着剤層HをPETセパレータ上に作製した。
【0137】
(ダイシングダイボンドフィルムの作製)
ダイシングテープAからPET系セパレータを剥離し、露出した粘着剤層に接着剤層Hを貼り合わせた。貼り合わせにおいては、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とを位置合わせした。また、貼り合わせには、ハンドローラーを使用した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を300mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープと接着剤層とを含む積層構造を有する比較例1のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0138】
比較例2
(接着剤層の作製)
アクリル樹脂(商品名「テイサンレジン SG-70L」、ナガセケムテックス株式会社製、質量平均分子量90万)100質量部に対して、エポキシ樹脂(商品名「KI-3000-4」、東都化成工業株式会社製)200質量部、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」、明和化成株式会社製)200質量部、シリカフィラー(商品名「MEK-ST-2040」、日産化学工業株式会社製、平均粒径190nm)350質量部(シリカフィラー換算)、及び硬化促進剤(商品名「キュアゾール 2PHZ-PW」、四国化成工業株式会社製)0.5質量部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度が30質量%となる接着剤組成物Iを調製した。
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物Iを塗布して塗膜を形成し、この塗膜について120℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、厚さ(平均厚さ)10μmの接着剤層IをPETセパレータ上に作製した。
【0139】
(ダイシングダイボンドフィルムの作製)
ダイシングテープAからPET系セパレータを剥離し、露出した粘着剤層に接着剤層Iを貼り合わせた。貼り合わせにおいては、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とを位置合わせした。また、貼り合わせには、ハンドローラーを使用した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対してEVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を300mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープと接着剤層とを含む積層構造を有する比較例2のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0140】
<評価>
実施例及び比較例で得られた接着剤層及びダイシングダイボンドフィルムについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0141】
(加熱前の発熱量)
実施例及び比較例でそれぞれ得られた接着剤層について、接着剤層を10~15mg秤量して測定サンプルとし、示差走査熱量測定装置(商品名「Q200」、(TA Instruments社製)を用い、測定サンプルを0℃から350℃まで昇温速度10℃/minにて昇温させてDSC測定を行い、その際の全発熱量[J/g]を算出し、加熱前の発熱量とした。
【0142】
(130℃30分間加熱後の発熱量)
実施例及び比較例でそれぞれ得られた接着剤層について、接着剤層を200μmの厚さとなるように積層し、加圧オーブンにて室温から130℃まで30分かけて昇温し、130℃で30分間保持した。なお、加熱中は7kgfの気体による加圧を行った。このようにして加熱を行った後の接着剤層を用いたこと以外は上記「加熱前の発熱量」と同様にして、130℃30分間加熱後の発熱量[J/g]を算出した。
【0143】
(貯蔵弾性率)
実施例及び比較例でそれぞれ得られた接着剤層について、接着剤層を200μmの厚さとなるように積層し、上記「130℃30分間加熱後の発熱量」における加熱と同様にして加熱及び加圧を行ったサンプルを、幅4mm、長さ30mmの短冊状にカッターナイフで切り出して試験片とし、固体粘弾性測定装置(測定装置:RSA-G2、レオメトリックサイエンティフィック社製)を用いて、周波数1Hz、昇温速度10℃/分、初期チャック間距離10mm、歪み0.1%の条件で、0~200℃の温度範囲で、引張モードにて動的貯蔵弾性率を測定した。なお、昇温は0℃で5分間保持した後に開始した。そして130℃での値を読み取り、この値を130℃30分間加熱後の130℃における貯蔵弾性率[MPa]とした。
【0144】
(フィラーの平均粒径)
実施例及び比較例でそれぞれ得られた各接着剤層について、175℃1時間の条件で熱硬化させ、Struers社製のEpoFix kitを用いて樹脂に包埋させた。包埋した樹脂への機械研磨により接着剤層の断面を表出させ、当該断面をCP加工装置(商品名「SM-09010」、日本電子株式会社製)によるイオンミリング加工後、導電処理を施しFE-SEM観察を行った。FE-SEM観察は加速電圧1~5kVにて行い、反射電子像を観察した。取り込んだ画像を画像解析ソフト「Image-J」を用いて二値化処理によりフィラー粒子を識別した後、画像内のフィラーの面積を画像内のフィラー個数で割り、フィラーの平均面積を求め、フィラーの平均粒径を算出した。
【0145】
(チップ積層評価)
実施例6と同様にして厚さ25μmの接着剤層Fを作製し接着シートとした。この接着シートを、レーザー光照射により分割予定ラインへの改質領域の形成を行ったミラーウエハに貼り合わせ、175℃で2時間硬化させた後、ミラーウエハと上記接着シートの総厚さが50μmとなるまでミラーウエハ側から研削した。実施例及び比較例でそれぞれ得られたダイシングダイボンドフィルムに、上記研削を行ったウエハ及びダイシングリングを貼り合わせた後(ウエハ貼り合わせ温度:50~80℃)、ダイセパレーター(商品名「DDS2300」、株式会社ディスコ製)を用いて、ウエハの割断及びダイシングテープの熱収縮を行うことにより、サンプルを得た。すなわち、まずクールエキスパンダーユニットで、エキスパンド温度-15℃、エキスパンド速度100mm/秒、エキスパンド量12mmの条件でウエハを割断した。割断後に得られたチップはサイズ10mm×10mm、チップ厚み25μmであった。その後、ヒートエキスパンダーユニットで、エキスパンド量10mm、ヒート温度250℃、風量40L/min、ヒート距離20mm、ローテーションスピード3°/secの条件でダイシングテープを熱収縮させて、接着剤層付きの評価用チップを得た。
【0146】
上記接着剤層付き評価用チップを、ダイボンダー(商品名「ダイボンダーSPA-300」、株式会社新川製)を使用して、ステージ温度90℃、ダイボンド荷重1000gf、ダイボンド時間1秒の条件にてBGA基板(材質:AUS308)に階段状に5枚積層してダイボンディングした。積層は同一方向に200μmずつずらすことで階段状とした。積層後に、剥離が無い場合を〇、1か所剥離している場合を△、2か所以上剥離している場合を×として評価した。
【0147】
(ワイヤーボンディング評価)
片面をアルミ蒸着したウエハを研削することにより、厚さ30μmのダイシング用ウエハを得た。ダイシング用ウエハを実施例及び比較例でそれぞれ得られたダイシングダイボンドフィルムの接着剤層側に貼りつけ、次いで上記「チップ積層評価」と同様にしてウエハの割断を行い、接着剤層付きチップを得た。得られた接着剤層付きチップをCuリードフレーム上に、ステージ温度90℃、ダイボンド荷重1000gf、ダイボンド時間1秒の条件にて階段状に5枚積層してダイボンディングした。積層は同一方向に200μmずつずらすことで階段状とした。ダイボンディング後の積層体を130℃で30分間加熱硬化させた後、ワイヤーボンディング装置(商品名「Maxum Plus」、キューリック・アンド・ソファ社製)を用いて、最上段のチップのオーバーハング部に線径18μmのAuワイヤーを5本ボンディングした。出力80Amp、時間10ms、荷重50gの条件でAuワイヤーをCuリードフレームに打った。また、温度130℃、出力125Amp、時間10ms、荷重80gの条件でAuワイヤーをチップに打った。5本のAuワイヤーのうち1本以上チップに接合できなかった場合を×と判定し、5本のAuワイヤーのうち5本をチップに接合できた場合を○と判定した。
【0148】
(保存性評価)
保存性評価は粘度の経時変化により行った。実施例及び比較例でそれぞれ得られた接着剤層の作製後の初期の90℃における粘度を初期粘度とし、作製後23℃で28日間保存後の接着剤層の90℃における粘度において、初期粘度からの増加率(粘度増加率)[{23℃で28日間保存後の90℃における粘度(Pa・s)-初期粘度(Pa・s)}/初期粘度(Pa・s)×100](%)を算出し、上記粘度増加率が100%未満の場合を〇、100%以上150%未満の場合を△、150%以上の場合を×として評価した。なお、上記粘度は、回転式粘度計(商品名「HAAKE MARS III」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により測定した。測定条件は、ギャップ100μm、回転プレート直径8mm、昇温速度10℃/min、歪み10%、周波数5rad/secとした。
【0149】
【表1】
【0150】
実施例1~7の接着剤層は、粘度増加率が小さく保存安定性に優れながら、加熱前に対する加熱後の発熱量が比較例1及び2に比べて小さく、短時間で硬化可能であることを示した。且つ、硬化後は130℃における弾性率が高く、オーバーハング部に対しても適切なワイヤーボンディングを行うことが可能であった。
【符号の説明】
【0151】
1 ダイシングダイボンドフィルム
10 ダイシングテープ
11 基材
12 粘着剤層
20,21 接着剤層
W,30A,30C 半導体ウエハ
30B 半導体ウエハ分割体
30a 分割溝
30b 改質領域
31 半導体チップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11