(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】透光板及び透光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220214BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220214BHJP
C09D 183/00 20060101ALI20220214BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220214BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220214BHJP
B60J 1/00 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
B32B27/00 101
C09D5/00 D
C09D183/00
C09D175/04
C09D133/00
B60J1/00 H
(21)【出願番号】P 2017132083
(22)【出願日】2017-07-05
【審査請求日】2020-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 章人
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-177772(JP,A)
【文献】国際公開第2011/078178(WO,A1)
【文献】特表2013-514908(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086659(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 5/00
C09D 183/00
C09D 175/04
C09D 133/00
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の基材と、前記基材の上に設けられたプライマー層と、前記プライマー層の上に設けられたハードコート層と、からなる透光板であって、
前記プライマー層は、
分子内のウレタン構造によって架橋されている、溶媒に不溶な架橋ポリマーからなり、
前記ハードコート層は、シリコーン樹脂からなり、
前記プライマー層と前記ハードコート層との間には、前記プライマー層より高いSi濃度を有する境界層が形成されていることを特徴とする透光板。
【請求項2】
前記架橋ポリマーは、アクリル樹脂又はウレタン樹脂からなる請求項1に記載の透光板。
【請求項3】
前記境界層の厚さは、前記プライマー層の厚さの5~50%である請求項1
又は2に記載の透光板。
【請求項4】
前記境界層中のSi濃度は、9at%以上である請求項1~
3のいずれか1項に記載の透光板。
【請求項5】
樹脂材料、架橋剤及び溶媒を含有する樹脂溶液を樹脂製の基材の上に塗布した後、乾燥及び硬化させることにより、溶媒に不溶な架橋ポリマーからなるプライマー層を形成する工程と、
前記プライマー層の上に、シリコーン樹脂からなるハードコート層を形成する工程と、からなり、
前記プライマー層が膨潤した状態で前記ハードコート層を形成することにより、前記プライマー層と前記ハードコート層との間に、前記プライマー層より高いSi濃度を有する境界層が形成されることを特徴とする透光板の製造方法。
【請求項6】
前記プライマー層を形成する工程では、沸点の異なる複数の溶媒を用い、沸点の高い溶媒が完全に乾燥しないよう残留させることにより、前記プライマー層が膨潤した状態を形成する請求項
5に記載の透光板の製造方法。
【請求項7】
前記
ハードコート層を形成する工程では、酢酸を用いて
シリコーン樹脂を含有する樹脂溶液のpHを調整する請求項
5又は
6に記載の透光板の製造方法。
【請求項8】
前記架橋ポリマーは、アクリル樹脂又はウレタン樹脂からなる請求項
5~
7のいずれか1項に記載の透光板の製造方法。
【請求項9】
前記架橋ポリマーは、分子内のウレタン構造によって架橋されている請求項
5~
8のいずれか1項に記載の透光板の製造方法。
【請求項10】
前記境界層の厚さは、前記プライマー層の厚さの5~50%である請求項
5~
9のいずれか1項に記載の透光板の製造方法。
【請求項11】
前記境界層中のSi濃度は、9at%以上である請求項
5~
10のいずれか1項に記載の透光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プラスチックレンズに使用されるハードコート用のプライマー組成物として、テトラブロモビスフェノールAに由来する単位を含有する臭素化合物及びポリイソシアネート又はこれらを反応せしめて得られるプレポリマーを主たる皮膜形成物質として含有するプライマー組成物が開示されている。特許文献1に記載のプライマー組成物においては、高屈折率でかつ耐衝撃性を有する硬化膜を与えることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、眼鏡等のプラスチックレンズを対象とするものであり、自動車用の窓等として用いるには、充分な耐久性を備えているとは言えない。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、耐久性の高いハードコート層を備える透光板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の透光板は、樹脂製の基材と、上記基材の上に設けられたプライマー層と、上記プライマー層の上に設けられたハードコート層と、からなる透光板であって、上記プライマー層は、架橋ポリマーからなり、上記ハードコート層は、シリコーン樹脂からなり、上記プライマー層と上記ハードコート層との間には、上記プライマー層より高いSi濃度を有する境界層が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の透光板においては、プライマー層が架橋ポリマーからなるため、充分な硬さを有し、透光板の耐久性を高くすることができる。さらに、プライマー層とハードコート層との間には、プライマー層より高いSi濃度を有する境界層が形成されているため、シリコーン樹脂からなるハードコート層とプライマー層との密着性を高めることができ、透光板の耐久性をより高くすることができる。
【0008】
このような境界層は、ハードコート層中のSi成分がプライマー層に拡散することによって形成される。プライマー層が架橋ポリマーからなる場合、従来は、プライマー層が強固であるため、ハードコート層中のSi成分が拡散せず、境界層を形成することができなかった。本発明者は、架橋ポリマーからなる強固なプライマー層が形成されている場合であっても、プライマー層が膨潤した状態でハードコート層を形成することによって、ハードコート層中のSi成分をプライマー層に拡散させ、Si濃度の高い境界層を形成することを可能とした。
【0009】
本発明の透光板において、上記架橋ポリマーは、アクリル樹脂又はウレタン樹脂からなることが好ましい。
上記の樹脂を用いることにより、透光板の耐候性を高くすることができる。
【0010】
本発明の透光板において、上記架橋ポリマーは、分子内のウレタン構造によって架橋されていることが好ましい。
例えば、上記架橋ポリマーは、複数のイソシアネート基を有する架橋剤によって架橋されていることが好ましい。イソシアネート基を有する架橋剤は反応性が高いため、硬い架橋ポリマーを形成することができる。イソシアネート基は、例えばOH基と反応してウレタン構造を形成するので、ポリマーの主鎖にOH基があると、ここから架橋を形成することができる。複数のイソシアネート基を有している架橋剤では、イソシアネート基が反応して得られるウレタン構造が、架橋構造を形成する部分となる。
【0011】
本発明の透光板において、上記境界層の厚さは、上記プライマー層の厚さの5~50%であることが好ましい。
境界層の厚さがプライマー層の厚さの5%以上であると、ハードコート層とプライマー層との密着性を高めることができる。一方、境界層の厚さがプライマー層の厚さの50%以下であると、境界層はハードコート層から供給されたSiによって形成されているので、ハードコート層の成分比に偏りが生じにくく、剥がれにくくすることができる。
【0012】
本発明の透光板において、上記境界層中のSi濃度は、9at%以上であることが好ましい。
境界層中のSi濃度を上記範囲とすることにより、ハードコート層とプライマー層との密着性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の透光板の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1のサンプルの断面を示すTEM画像である。
【
図3】
図3は、比較例1のサンプルの断面を示すTEM画像である。
【0014】
(発明の詳細な説明)
図1は、本発明の透光板の一例を模式的に示す断面図である。なお、
図1に示す各層の厚さは、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の厚さの関係を表してはいない。
【0015】
図1に示す透光板1は、樹脂製の基材11と、基材11の上に設けられたプライマー層12と、プライマー層12の上に設けられたハードコート層13と、からなる。プライマー層12とハードコート層13との間には、境界層14が形成されている。
【0016】
以下、本発明の透光板について説明する。
本発明の透光板は、樹脂製の基材と、上記基材の上に設けられたプライマー層と、上記プライマー層の上に設けられたハードコート層と、プライマー層とハードコート層に挟まれた境界層とからなる。
【0017】
本発明の透光板において、樹脂製の基材を構成する樹脂材料としては、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)等が挙げられる。これらの中では、ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートが好ましく、ポリカーボネートがより好ましい。ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートは、強度が高く、また、透明度が高いので、樹脂製の基材として好適に使用することができる。
【0018】
本発明の透光板において、基材の形状は、特に限定されるものではなく、平板、曲板、半円筒、円筒状の他、その断面の外縁の形状は、楕円形、多角形等の任意の形状であってもよい。
例えば、本発明の透光板を自動車用等のガラスとして使用する場合、基材は、曲面状に湾曲していることが好ましい。
【0019】
本発明の透光板において、基材は、無色である必要はなく、有色であってもよい。
【0020】
本発明の透光板においては、サンドブラスト処理や化学薬品等によって基材の表面が粗化されていてもよい。基材の表面が粗化されていても、プライマー層及びハードコート層によって平滑化され、光が散乱されにくくすることができる。
【0021】
本発明の透光板において、基材の厚さは、1~10mmであることが好ましい。
基材の厚さが上記範囲であると、例えば自動車用等のガラスとして使用する場合の機械的強度を確保することができ、さらに、透光板の全体に歪み等が発生しにくくなる。
【0022】
本発明の透光板においては、基材の上にプライマー層が設けられている。
基材とハードコート層との間にプライマー層が設けられていると、基材及びハードコート層の双方に対する接着力を強くすることができ、透光板の耐久性を強くすることができる。
【0023】
本発明の透光板において、プライマー層は、架橋ポリマーからなる。
架橋ポリマーからなるプライマー層は、充分な硬さを有するため、透光板の耐久性を高くすることができる。
【0024】
架橋ポリマーとしては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂や、アクリル樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂は、架橋剤と組み合わせて架橋させることができる。また、これらは、1種又は2種以上使用することができる。
【0025】
中でも、架橋ポリマーは、アクリル樹脂又はウレタン樹脂からなることが好ましい。
上記の樹脂を用いることにより、透光板の耐候性を高くすることができる。
【0026】
アクリル樹脂としては、例えば、メタクリル酸アルキルエステルの重合体、アクリル酸アルキルエステルの重合体等が挙げられる。ウレタン樹脂は、ポリオール化合物とイソシアネート化合物の反応生成物である。ポリオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール等、イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンイソシアネート、フェニレンイソシアネート、ジフェニルメタンイソシアネート等が挙げられ、ウレタン樹脂としては、上記したポリオール化合物とイソシアネート化合物の任意の反応生成物が挙げられる。
【0027】
架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤等が挙げられる。イソシアネート系架橋剤は、複数のイソシアネート基を有することが好ましい。なお、イソシアネート系架橋剤は、イソシアネート基とブロック剤とを結合させたブロックイソシアネートであってもよい。ブロックイソシアネートを用いる場合には、加熱してイソシアネート基からブロック剤を解離させることにより、硬化反応を生じさせることができる。
【0028】
イソシアネート系架橋剤は、2官能以上であることが好ましく、3官能以上であることがより好ましい。例えばポリマーがOH基を有する場合、イソシアネート系架橋剤と反応させて架橋することによって、プライマー層を硬くさせ、ハードコート層を剥がれにくくすることができる。
【0029】
本発明の透光板において、架橋ポリマーは、分子内のウレタン構造によって架橋されていることが好ましい。
例えば、架橋ポリマーは、複数のイソシアネート基を有する架橋剤によって架橋されていることが好ましい。イソシアネート基を有する架橋剤は反応性が高いため、硬い架橋ポリマーを形成することができる。イソシアネート基は、例えばOH基と反応してウレタン構造を形成する。複数のイソシアネート基を有している架橋剤では、イソシアネート基が反応して得られるウレタン構造が、架橋構造を形成する部分となる。
【0030】
架橋ポリマーが分子内にウレタン構造を有することは、例えば、赤外吸収スペクトルにより確認することができる。また、架橋されていることは、溶媒に膨潤するのみで不溶であることから判断することができる。
【0031】
本発明の透光板において、プライマー層の厚さは特に限定されないが、基材及びハードコート層との接着性の観点から、1~10μmが好ましく、2~5μmがより好ましい。
【0032】
本発明の透光板においては、プライマー層の上にハードコート層が設けられている。
【0033】
本発明の透光板において、ハードコート層は、シリコーン樹脂からなる。
本明細書において、シリコーン樹脂とは、主鎖が主にシロキサン結合で構成された樹脂であればよく、側鎖、官能基などは特に限定されない。さらに、ハードコート層には、シリコーン樹脂の他に添加物が加えられていてもよい。添加物としては、例えば、シリカハイブリッドコンポジット、シリカゾル等が挙げられる。これらの添加物は、1種又は2種以上使用することができる。
【0034】
本発明の透光板において、ハードコート層の厚さは特に限定されないが、高い表面硬度を得る観点から、1~10μmが好ましく、2~5μmがより好ましい。
【0035】
本発明の透光板において、プライマー層とハードコート層との間には、プライマー層より高いSi濃度を有する境界層が形成されている。
ハードコート層は樹脂の材料としてSiを含有しているが、プライマー層ではSiは必須成分ではなくほとんど含有していない。Siをほとんど含有していないプライマー層にSiを含有する境界層を形成することによって、プライマー層からハードコート層に向かってSi濃度が順に高くなるようになるため、界面におけるSi濃度差を小さくでき、密着力を強くすることができる。また、プライマー層より高いSi濃度を有する境界層をプライマー層とハードコート層との間に形成することにより、シリコーン樹脂からなるハードコート層とプライマー層との密着性を高めることができ、透光板の耐久性をより高くすることができる。
【0036】
このような境界層は、ハードコート層中のSi成分がプライマー層に拡散することによって形成される。プライマー層が架橋ポリマーからなる場合、従来は、プライマー層が強固であるため、ハードコート層中のSi成分が拡散せず、境界層を形成することができなかった。本発明者は、架橋ポリマーからなる強固なプライマー層が形成されている場合であっても、プライマー層が膨潤した状態でハードコート層を形成することによって、ハードコート層中のSi成分をプライマー層に拡散させ、Si濃度の高い境界層を形成することを可能とした。
【0037】
本発明の透光板において、境界層の厚さは、プライマー層の厚さの5~50%であることが好ましく、10~40%であることがより好ましい。
境界層の厚さがプライマー層の厚さの5%以上であると、ハードコート層とプライマー層との密着性を高めることができる。また、境界層の厚さがプライマー層の厚さの10%以上であると、ハードコート層とプライマー層との密着性をさらに高めることができる。
一方、境界層の厚さがプライマー層の厚さの50%以下であると、境界層はハードコート層から供給されたSiによって形成されているので、ハードコート層の成分比に偏りが生じにくく、剥がれにくくすることができる。また、境界層の厚さがプライマー層の厚さの40%以下であると、ハードコート層の成分比に偏りが生じにくく、さらに剥がれにくくすることができる。
【0038】
本発明の透光板において、境界層の厚さは、2μm未満であることが好ましい。一方、境界層の厚さは、0.3μm以上であることが好ましい。
境界層の厚さを上記範囲とすることにより、ハードコート層とプライマー層との密着性を高めることができる。
【0039】
境界層の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて透光板の断面を観察したTEM画像から測定することができる。上述したプライマー層の厚さ、及び、ハードコート層の厚さについても、同様の方法により測定することができる。
【0040】
本発明の透光板において、境界層中のSi濃度は、プライマー層中のSi濃度より高い限り特に限定されないが、9at%以上であることが好ましい。一方、境界層中のSi濃度は、ハードコート層中のSi濃度より低いことが好ましく、18at%以下であることがより好ましい。
境界層中のSi濃度を上記範囲とすることにより、ハードコート層とプライマー層との密着性を高めることができる。
【0041】
境界層中のSi濃度は、エネルギー分散型X線分析法によって測定することができる。プライマー層中のSi濃度、ハードコート層中のSi濃度についても同様である。
【0042】
本発明の透光板において、プライマー層及びハードコート層は、基材の片面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。また、ハードコート層の上には、セラミック層が設けられていてもよい。
【0043】
本発明の透光板の製造方法は、好ましくは、樹脂製の基材の上に、架橋ポリマーからなるプライマー層を形成する工程と、上記プライマー層の上に、シリコーン樹脂からなるハードコート層を形成する工程と、からなり、上記プライマー層が膨潤した状態で上記ハードコート層を形成することを特徴とする。
【0044】
上述したように、プライマー層が膨潤した状態でハードコート層を形成することによって、架橋ポリマーからなる強固なプライマー層が形成されている場合であっても、未硬化のハードコート層中のSi成分をプライマー層に拡散させ、Si濃度の高い境界層を形成することができる。その結果、シリコーン樹脂からなるハードコート層とプライマー層との密着性を高めることができ、透光板の耐久性をより高くすることができる。
【0045】
架橋ポリマーからなるプライマー層は、例えば、アクリル樹脂等の樹脂材料、架橋剤、及び、溶媒等を含有する樹脂溶液を基材の上に塗布した後、乾燥・硬化させることによって得ることができる。塗布の方法は特に限定されず、例えば、スプレーコート、ディップコート等が挙げられる。また、高沸点の溶媒を含む複数の溶媒を用い、高沸点溶媒が完全に乾燥しないよう残留させることにより、プライマー層を膨潤させておくことができる。
高沸点溶媒としては、水、アルキレングリコールアルキルエーテル、アルコール類などが挙げられる。アルキレングリコールアルキルエーテルとしては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM、1-メトキシ-2-プロパノールともいう、沸点121℃)等が挙げられる。アルコール類としては、n-ブタノール(沸点117℃)、ジアセトンアルコール(沸点166℃)などが挙げられる。
【0046】
シリコーン樹脂からなるハードコート層は、例えば、シリコーン樹脂、及び、溶媒等を含有する樹脂溶液をプライマー層の上に塗布した後、乾燥・硬化させることによって得ることができる。また、シリカゾル、シリカ粒子などの添加物をシリコーン樹脂に添加してもよい。塗布の方法は特に限定されず、例えば、スプレーコート、ディップコート等が挙げられる。
【0047】
ハードコート層を形成するための樹脂溶液に含まれる溶媒は、水、アルキレングリコールアルキルエーテル、及び、揮発性の水溶性有機溶媒を含むことが好ましい。アルキレングリコールアルキルエーテルとしては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM、1-メトキシ-2-プロパノールともいう)等が挙げられる。揮発性の水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA、2-プロパノールともいう)等が挙げられる。
【0048】
プライマー層が膨潤した状態でハードコート層を形成する方法としては、例えば、ハードコート層を形成するための樹脂溶液をプライマー層の上に塗布する際の温度及び/又は湿度を乾固させないよう溶媒が少量残るよう調整する方法、さらにハードコート層を形成するための樹脂溶液のpHを適宜調整し、膨潤した状態を形成する方法、等が挙げられる。これらの方法を組み合わせることが好ましい。
【0049】
また、ハードコート層を形成するための樹脂溶液に含まれる溶媒のうち、PGM等のアルキレングリコールアルキルエーテルは、ハードコート層の未反応成分との溶解性が高いと考えられている。そのため、樹脂溶液中のアルキレングリコールアルキルエーテルの割合を高くすることによっても、ハードコート層中のSi成分をプライマー層に拡散させ、Si濃度の高い境界層を効率よく形成することができると考えられる。また、プライマー層に残留する溶媒と同一であるか親和性の高い溶媒を、ハードコート層を形成するための樹脂溶液の溶媒として用いてもよい。このような構成にすることにより浸透力を高めることができる。
【0050】
本発明の透光板は、自動車用のガラスとして使用されることが好ましく、具体的には、自動車用の窓、ランプカバー又はランプレンズに使用されることが好ましい。
【0051】
自動車用の窓としては、前後左右の窓、ルーフ等が挙げられる。中でも、リアウインドウに使用されることが好ましい。
ランプカバーとしては、ヘッドランプカバー、スモールランプカバー、ウィンカーカバー、フォグランプカバー、テールランプカバー、ブレーキランプカバー、バックランプカバー、車内灯カバー等が挙げられる。
ランプレンズとしては、ヘッドランプレンズ、スモールランプレンズ、ウィンカーレンズ、フォグランプレンズ、テールランプレンズ、ブレーキランプレンズ、バックランプレンズ、車内灯レンズ等が挙げられ、ランプカバーと一体化したものであってもよい。
【0052】
本発明の透光板は、自動車用のガラス以外の用途として、列車、航空機、船舶、二輪車、自転車等の自動車以外の輸送用機器用のガラス(窓、ランプカバー、各種ランプレンズ等);家屋、オフィスビル等の建築物用のガラス(窓等);室内照明(LED照明、蛍光灯)、信号機、道路灯、歩道灯、防犯灯、公園灯等の各種照明のカバー等に使用することができる。
【0053】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
<サンプルの作製>
[実施例1]
以下のように、樹脂製の基材の表面にプライマー層を形成した後、ハードコート層を形成することにより、実施例1のサンプルを作製した。
基材としては、100mm×100mm×5mmのポリカーボネート(旭硝子株式会社製カーボグラス(登録商標))を準備した。
アクリル系プライマー(モメンティブ社製 470 FT 2050:固形分9wt%、PGM76wt%、ジアセトンプロパノール15wt%)100重量部、及び、架橋剤(旭化成社製ブロックイソシアネート デュラネートMF-B60B:固形分量60wt%)0.95重量部を含有する樹脂溶液を満たした槽に基材をディップしたのち引き上げ、135℃で40分間乾燥させた。
プライマー層が形成された基材を、シリコーン樹脂(モメンティブ社製 AS4700F)を含有する樹脂溶液に酢酸を添加して、樹脂溶液のpHを4.7に調整した後にディップしたのち引き上げ、140℃で60分間乾燥させた。シリコーン樹脂を含有する樹脂溶液には、高沸点溶媒としてPGM1.9wt%、水13.1wt%、n-ブタノール14.2wt%が含まれている。
【0055】
[比較例1]
シリコーン樹脂を含有する樹脂溶液に酢酸を添加しなかったことを除いて、実施例1と同様に、プライマー層及びハードコート層を形成した。樹脂溶液のpHは5.4であった。以上により、比較例1のサンプルを得た。
【0056】
<TEM観察>
透過型電子顕微鏡(日本電子社製 JEM2010)を用いて、各サンプルの断面を観察した。加速電圧は200kVであった。
【0057】
図2は、実施例1のサンプルの断面を示すTEM画像であり、
図3は比較例1のサンプルの断面を示すTEM画像である。
【0058】
図2に示すように、実施例1のサンプルでは、プライマー層12とハードコート層13との間に境界層14が形成されている。一方、
図3に示すように、比較例1のサンプルでは、プライマー層12とハードコート層13との間に境界層が形成されていない。
【0059】
図2に示すTEM画像から境界層14の厚さを測定したところ、実施例1における境界層の厚さは800nmであった。
【0060】
<Si濃度の測定>
エネルギー分散型X線分析法を用いて、実施例1及び比較例1のサンプルの元素分析を行うことにより、ハードコート層中のSi濃度、境界層中のSi濃度、及び、プライマー層中のSi濃度を求めた。
【0061】
エネルギー分散型X線分析法で用いた装置及び測定条件は、以下のとおりである。
・エネルギー分散型X線分析装置:EMAX ENERGY((株)堀場製作所製)
・加速電圧:10kV
・印加電流:10μA
・測定倍率:×5k
【0062】
実施例1のサンプルにおいて、ハードコート層中のSi濃度、境界層中のSi濃度、及び、プライマー層中のSi濃度は、それぞれ21at%、10at%、及び、0at%であった。一方、比較例1のサンプルにおいて、ハードコート層中のSi濃度、プライマー層中のSi濃度は、それぞれ21at%、0at%であった。
以上の結果から、実施例1のサンプルにおいて、境界層中のSi濃度は、プライマー層中のSi濃度より高いことが確認された。また、実施例1のサンプルにおいて、境界層中のSi濃度は、ハードコート層中のSi濃度より低いことも確認された。
【0063】
<耐久性の評価>
以下に示す煮沸試験を行い、ハードコート層とプライマー層との密着性を評価することにより、各サンプルの耐久性を評価した。
【0064】
各サンプルのハードコート層に碁盤目のクロスカット(1mm2のマス目を100個)を施した後、常圧下において、100℃のイオン交換水に2時間浸漬させた。その後、JIS Z 1522適合品のセロハン粘着テープ(ニチバン社製)をハードコート層の上に貼り付け、指で強く押し付けた後、90°方向に剥離し、ハードコート層が剥離した個数により評価を行った。
【0065】
実施例1のサンプルの剥離個数は0個、比較例1のサンプルの剥離個数は14個であった。実施例1と比較例1との比較から、プライマー層とハードコート層との間に境界層を形成することにより、ハードコート層とプライマー層との密着性を高めることができることが確認された。
【符号の説明】
【0066】
1 透光板
11 基材
12 プライマー層
13 ハードコート層
14 境界層