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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル系樹脂成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20220106BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C08J3/20 Z CEV
C08L27/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017165847
(22)【出願日】2017-08-30
(65)【公開番号】P2019044009
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】坂 井 昂 次
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-311812(JP,A)
【文献】特表2009-529083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28、99/00,
C08J5/00-5/02、5/12-5/22、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂 100質量部と、
成分(b)可塑剤 40質量部以上、100質量部以下と、
を混練した塩化ビニル系樹脂コンパウンドを準備する工程、および
(B)前記塩化ビニル系樹脂コンパウンドに、第2の塩化ビニル系樹脂を添加して、溶融成形を行う工程、
を含み、
前記第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1が、700以上、1,300以下であり、
前記第2の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P2が、前記第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の0.5倍以上、1.9倍以下であり、
前記第2の塩化ビニル系樹脂の配合量が、前記塩化ビニル系樹脂コンパウンド100質量部に対して1質量部以上、8質量部以下であり、
前記(B)の溶融成形が、塩化ビニル系樹脂コンパウンドのみを用いて溶融成形する場合の成形加工条件と同じ条件にて実施され、
得られた成形物の表面に、前記第2の塩化ビニル系樹脂の未ゲル物が分散される、
ことを特徴とする塩化ビニル系樹脂成形物の製造方法。
【請求項2】
前記塩化ビニル系樹脂コンパウンドは、安定剤をさらに含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P2が、前記第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の1.0倍以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
(A)成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂 100質量部と、
成分(b)可塑剤 40質量部以上、100質量部以下と、
を混練した塩化ビニル系樹脂コンパウンド、および
(B)第2の塩化ビニル系樹脂、
を含む、塩化ビニル系樹脂成形物であって、
前記第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1が、700以上、1,300以下であり、
前記前記第2の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P2が、前記第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の1.0倍以下であり、
前記第2の塩化ビニル系樹脂の配合量が、前記塩化ビニル系樹脂コンパウンド100質量部に対して1質量部以上、8質量部以下であり、
表面に、前記第2の塩化ビニル系樹脂の未ゲル物が分散されてなる、
ことを特徴とする塩化ビニル系樹脂成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦抵抗が小さく、艶消しの表面を有する成形物を得ることができる、ポリ塩化ビニル系樹脂成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル(PVC)を用いた樹脂成形物は、耐薬品性・耐候性・難燃性・電気絶縁性などの優れた化学的・物理的性質を有し、かつ安価であることから、利用価値の高い汎用樹脂材料として広く用いられている。PVC樹脂は、可塑剤の添加により容易に柔軟性を付与したり軟質化できることから、被覆材、床材や防水シート、テープ類や袋類、ホース等、多岐に亘る用途に使用されている。
【0003】
従来の一般的なPVCからなる樹脂成形物は、手や脚などの肌で触れた際の感触が好ましくなく、べたつきや肌への張り付き感を感じることもあった。また、合成樹脂特有の光沢があることから、特に高級感を求められるような場面においては、外観上好ましいとは必ずしもいえなかった。例えば、軟質PVCを用いた散水用ホースは、平滑で滑らかな表面形態を有するものの、その一方で、ホース表面の粘着性や摩擦抵抗性が高いため、リールに巻き取るとホース同士が密着して巻き取りや引き出しがスムーズにできない等の問題があった。
【0004】
そのため、PVC樹脂成形物の表面形態を改善することが行われている。例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂に部分架橋樹脂および表面改質剤を添加することが提案されている(特許文献1)。特許文献1によれば、部分架橋樹脂を添加した塩化ビニル樹脂組成物を押出成形することで低摩擦性面が形成され、樹脂成形物表面の摩擦抵抗を低減できるとされている。また、特許文献1のような部分架橋樹脂を使用せずに塩化ビニル樹脂製ホース表面のベタつきを改善することも提案されている(特許文献2)。特許文献2によれば、分子量の異なる複数の合成樹脂を混合し、低分子量樹脂の溶融温度よりも高く、かつ高分子量樹脂の溶融温度よりも低い温度で加熱成形を行うことにより、成形物の外表面に微細な凹凸(フィッシュアイ)が形成され、摩擦抵抗を低減した合成樹脂ホースが得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-248764号公報
【文献】特許第4187112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の成形物においては、フィッシュアイを形成するためには、ベースとして用いられるPVC樹脂の溶融温度よりも実質的に高い溶融温度で成形を行う必要があるため、通常のPVC樹脂を用いた成形物製造ラインの押出成形機を用いてフィッシュアイを形成するには、押出成形機の温度条件を変更する必要がある。そのため、同じ製造ラインの押出成形機を用いて、通常のPVC樹脂成形物と、フィッシュアイを形成したPVC樹脂成形物とを交互に製造するような場合には、その都度、押出成形機の温度調整を行う必要があるため、煩雑である。また、通常のPVC樹脂に加えて高分子量のPVC樹脂を使用するため、成形加工時の安定性が損なわれる場合もあった。
【0007】
したがって、本発明は、押出成形機の温度等の成形加工条件を変更することなく、表面の摩擦抵抗が低減され、艶消しの表面を有する成形物を得ることができる、ポリ塩化ビニル系樹脂成形物の製造方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、表面の摩擦抵抗が低減され、艶消しの表面を有するポリ塩化ビニル系樹脂成形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究した結果、ポリ塩化ビニル系樹脂に可塑剤を配合したコンパウンドを用いてポリ塩化ビニル系樹脂成形物を製造する際に、コンパウンドとともにポリ塩化ビニル系樹脂を添加して押出成形を行うことで、上記課題を達成できることを見出した。本発明は係る知見によるものである。
【0009】
すなわち、本発明によるポリ塩化ビニル系樹脂成形物の製造方法は、
(A)成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂 100質量部と、
成分(b)可塑剤 40質量部以上、100質量部以下と、
を混練した塩化ビニル系樹脂コンパウンドを準備する工程、および
(B)前記塩化ビニル系樹脂コンパウンドに、第2の塩化ビニル系樹脂を添加して、溶融成形を行う工程、
を含み、
前記第2の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P2が、前記第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の0.5倍以上、1.9倍以下であり、
前記第2の塩化ビニル系樹脂の配合量が、前記塩化ビニル系樹脂コンパウンド100質量部に対して1質量部以上、8質量部以下である、ことを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、前記溶融成形が、前記塩化ビニル系樹脂コンパウンドの溶融成形温度にて行われる、第1の発明に記載の製造方法である。
【0011】
第3の発明は、前記第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1が、500以上、3,000以下である、第1または第2の発明に記載の製造方法である。
【0012】
第4の発明は、前記塩化ビニル系樹脂コンパウンドは、安定剤をさらに含む、第1~第3の発明のいずれかに記載の製造方法である。
【0013】
第5の発明は、前記第2の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P2が、前記第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の1.0倍以下である、第1~第4の発明のいずれかに記載の製造方法である。
【0014】
第6の発明の塩化ビニル系樹脂成形物は、
(A)成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂 100質量部と、
成分(b)可塑剤 40質量部以上、100質量部以下と、
を混練した塩化ビニル系樹脂コンパウンド、および
(B)第2の塩化ビニル系樹脂、
を含む、塩化ビニル系樹脂成形物であって、
前記前記第2の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P2が、前記第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の1.0倍以下であり、
前記第2の塩化ビニル系樹脂の配合量が、前記塩化ビニル系樹脂コンパウンド100質量部に対して1質量部以上、8質量部以下である、ことを特徴とする。
【0015】
第7の発明は、表面に、前記第2の塩化ビニル系樹脂の未ゲル物が分散されてなる、第6の発明に記載の塩化ビニル系樹脂成形物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1の塩化ビニル系樹脂を含む塩化ビニル系樹脂コンパウンドに、所定の重合度を有する第2の塩化ビニル系樹脂を添加して、溶融成形を行うことにより、押出成形機の温度等の成形加工条件を変更することなく、表面の摩擦抵抗性が低減され、摺動性があり、艶消しの(マット感のある)外観を有する塩化ビニル系樹脂成形物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<塩化ビニル系樹脂成形物の製造方法>
本発明による塩化ビニル系樹脂成形物の製造方法は、所定の塩化ビニル系樹脂コンパウンドを準備する工程と、準備した塩化ビニル系樹脂コンパウンドに第2の塩化ビニル系樹脂を添加して溶融成形を行う工程を含むものである。以下、各工程について説明する。
【0018】
塩化ビニル系樹脂コンパウンド準備工程:
本発明による塩化ビニル系樹脂成形物の製造方法においては、塩化ビニル系樹脂コンパウンドが使用される。塩化ビニル系樹脂コンパウンドとは、塩化ビニル系樹脂に可塑剤や安定剤等の添加剤を予め添加し、混練して得られた樹脂組成物を意味する。所定量の可塑剤を配合した塩化ビニル系樹脂コンパウンドとすることにより、得られる成形物は軟質塩化ビニル系樹脂成形物となる。
【0019】
塩化ビニル系樹脂コンパウンドの調製時に使用する成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂とは、-CH-CHCl-で表される基を有する重合体を意味し、塩化ビニルの単独重合体だけでなく、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体;後塩素化ビニル共重合体等の塩化ビニル単独重合体や塩化ビニル系共重合体を改質したもの;更には塩素化ポリエチレン等の構造上塩化ビニル樹脂と類似の塩素化ポリオレフィンを包含する。これらの塩化ビニル樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1は、300以上、5,000以下の範囲にあることが好ましく、500以上、3,000以下のものがより好ましく、700以上、1,300以下のものがさらに好ましい。平均重合度P1を300以上とすることで、得られる成形体の機械特性が良好となる。また、平均重合度を5,000以下とすることで、ゲル化特性が良好となる。なお、平均重合度とは、塩化ビニル系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、ろ過により不溶成分を除去した後、ろ液中のTHFを乾燥除去して得られた樹脂を試料として、JIS K6721「塩化ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定された値を意味する。
【0021】
本発明に用いる成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂の製造方法は特に制限はなく、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の種々の重合法で製造したものを使用することができる。
【0022】
塩化ビニル系樹脂コンパウンドを調製する際に用いられる成分(b)可塑性としては、本発明の目的に反しない限度において、任意の適切な可塑剤を用いることができる。このような可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル可塑剤、や非フタル酸系の可塑剤を用いることができる。フタル酸エステル可塑剤としては、フタル酸ジオクチル(DOP)を用いることが特に好ましい。
【0023】
また、非フタル酸系の可塑剤を併用してもよい。非フタル酸系の可塑剤としては、トリメリット酸系化合物、リン酸系化合物、アジピン酸系化合物、クエン酸系化合物、エーテル系化合物、ポリエステル系化合物、大豆油系化合物、シクロヘキサンジカルボキシレート系化合物、テレフタル酸系化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、例えば、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリイソノニル等のトリメリット酸エステル類;リン酸トリ(2-エチルヘキシル)、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシレニル等のリン酸エステル類;アジピン酸(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸エステル類;アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル;ポリプロピレングリコール等のエーテル系化合物;ポリエステル系化合物;エポキシ化大豆油等の大豆油系化合物;ジメチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート、ジエチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート、ジn-ブチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート、ジ-2-エチルヘキシルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート、ジイソノニルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート、ジイソデシルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレートなどのシクロヘキサンジカルボキシレート系化合物;ジテレフタル酸ジ-2-エチルヘキシルなどのテレフタル酸系化合物を挙げることができる。中でも、ジイソノニルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート、テレフタル酸ジ-2-エチルヘキシルが人体への安全性の面で好ましい。これらは、1種を単独で用いることもできるし、また、2種以上を組合せて併用することもできる。
【0024】
塩化ビニル系樹脂コンパウンドを調製する際の成分(b)可塑剤の配合量を、成形物の使用用途に応じて調整することにより、例えば、カーテンレール、散水用や材料送達用などの可撓性ホース、自動車内装材料、被覆電線・床材・防水シートをはじめとしたシート類、テープ・農業用をはじめとしたフィルム類など、様々な用途で用いることができる。
【0025】
成分(b)可塑性の配合量としては、目的とする成形物の用途にもよるが、本発明においては、第1の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、40質量部以上、100質量部以下の割合で配合する。可塑剤の配合量が上記範囲であれば、柔軟性が良好ないわゆる軟質塩化ビニル系樹脂成形物を得ることがきるとともに、成形加工時のベタつきを抑制することができる。可塑剤の好ましい配合量は、第1の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、45質量部以上、90質量部以下であり、より好ましくは50質量部以上、80質量部以下である。
【0026】
塩化ビニル系樹脂コンパウンドを調製する際、上記した成分(a)および成分(b)以外の成分が含まれていてもよい。本発明においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、その目的に応じて、慣用の安定剤、充填材、難燃剤、滑剤、耐衝撃性改質剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0027】
安定剤としては、例えば三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、ケイ酸鉛等の鉛系安定剤、カリウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、鉛等の金属と2‐エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、ベヘニン酸等の脂肪酸から誘導される金属石けん系安定剤;アルキル基、エステル基、脂肪酸基、マレイン酸基、含硫化物基等を有してなる有機スズ系安定剤;Ba-Zn系、Ca-Zn系、Ba-Ca-Sn系、Ca-Mg-Sn系、Ca-Zn-Sn系、Pb-Sn系、Pb-Ba-Ca系等の複合金属石けん系安定剤;バリウム、亜鉛等の金属基と2-エチルヘキサン酸、イソデカン酸、トリアルキル酢酸等の分岐脂肪酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、ナフテン酸等の脂環族酸、石炭酸、安息香酸、サリチル酸、それらの置換誘導体等の芳香族酸といった有機酸の通常2種以上から誘導される金属塩系安定剤;これら安定剤を石油系炭化水素、アルコール、グリセリン誘導体等の有機溶剤に溶解し、さらに亜リン酸エステル、エポキシ化合物、発色防止剤、透明性改良剤、光安定剤、酸化防止剤、ブリードアウト防止剤、滑剤等の安定化助剤を配合してなる金属塩液状安定剤等といった金属系安定剤のほか、エポキシ樹脂、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル等のエポキシ化合物、有機亜リン酸エステル等の非金属系安定剤が挙げられ、これらは1種または2種以上組み合わせて用いられる。
【0028】
安定剤の添加量については特に制限されないが、成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、1~8質量部がより好ましい。1質量部以上とすることで、加工時の熱分解を抑制することができ、15質量部以下とすることで、成形体の機械物性の低下を防ぐことができる。
【0029】
充填材としては、タルク、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、クレー、マイカ、ウォラストナイト、ゼオライト、シリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等の無機質系のもののほか、ポリアミド等のような有機繊維も使用でき、これらは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
充填材の添加量については特に制限されないが、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1~150質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましい。1質量部以上とすることで、成形体に適度な剛性を付与することができ、150質量部以下とすることで、成形体の柔軟性の低下を防ぐことができる。
【0031】
難燃剤としては、例えば金属水酸化物、臭素系化合物、トリアジン環含有化合物、亜鉛化合物、リン系化合物、ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、イントメッセント系難燃剤、酸化アンチモン等が使用できる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0032】
難燃剤の添加量については特に制限されないが、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1~150質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましい。1質量部以上とすることで、成形体の難燃性を向上することができ、150質量部以下とすることで、成形体の柔軟性の低下を防ぐことができる。
【0033】
滑剤としては、例えば流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、合成パラフィン、低分子量ポリエチレン等の純炭化水素系滑剤、ハロゲン化炭化水素系滑剤、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸等の脂肪酸系滑剤、脂肪酸アミド、ビス脂肪酸アミド等の脂肪酸アミド系滑剤、脂肪酸の低級アルコールエステル、グリセリド等の脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸のポリグリコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル(エステルワックス)等のエステル系滑剤のほか、金属石けん、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル、脂肪酸とポリグリコール、ポリグリセロールの部分エステル等が挙げられ、これらは1種あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
滑剤の添加量については特に制限されないが、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.1~15質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましい。0.1質量部以上とすることで、樹脂組成物の成形機への付着を低減することができ、15質量部以下とすることで、加工性の低下を防ぐことができる。
【0035】
耐衝撃性改質剤を配合する場合には、例えば塩素化ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、フッ素ゴム、スチレン‐ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル‐スチレン‐ブタジエン共重合体ゴム、メタクリル酸メチル‐スチレン‐ブタジエン共重合体ゴム、アクリル酸エステル‐メタクリル酸エステル共重合体等のアクリル系コアシェル型ゴム、シリコーン‐アクリル酸エステル‐メタクリル酸エステル共重合体、シリコーン‐アクリル酸エステル‐アクリロニトリル‐スチレン共重合体等のシリコーン系コアシェル型ゴム等が挙げられる。これらの耐衝撃性改質剤は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
耐衝撃性改質剤の添加量については特に制限されないが、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1~20質量部が好ましく、1~15質量部がより好ましい。1質量部以上とすることで、成形体の衝撃強度を向上することができ、20質量部以下とすることで、成形外観の低下を防ぐことができる。
【0037】
その他、離型剤、流動性改良剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、防曇剤、抗菌剤、発泡剤等も、本発明の効果を損なわない限りにおいて、目的に応じて任意に配合することができる。
【0038】
塩化ビニル系樹脂コンパウンドは、上記した各成分をヘンシェルミキサー、V型ミキサー、リボンブレンダー等の装置を用いてブレンドし、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー等の装置を用いて140~180℃の温度で混練することにより得ることができる。得られた塩化ビニル系樹脂コンパウンドは、適宜ペレット製造装置等を用いてペレット化することが好ましい。
【0039】
溶融成形工程:
本発明による塩化ビニル系樹脂成形物の製造方法においては、上記のようにして準備した塩化ビニル系樹脂コンパウンドに第2の塩化ビニル系樹脂を添加して、溶融成形を行うことで成形物を得る。上記した特許第4187112号公報等に記載の方法では、異なる分子量を有する塩化ビニル樹脂を混合して溶融成形を行うのに対して、本発明では、塩化ビニル系樹脂コンパウンド(即ち、可塑剤等が既に配合された樹脂組成物)に第2の塩化ビニル系樹脂を添加して溶融成形を行う点が特徴といえる。
【0040】
第1の塩化ビニル系樹脂を含む塩化ビニル系樹脂コンパウンドは、所定量の可塑剤が配合されているため、塩化ビニル系樹脂の一部が擬似架橋したような状態となっている。本発明においては、塩化ビニル系樹脂コンパウンドに第2の塩化ビニル系樹脂を添加して溶融形成を行うと、塩化ビニル系樹脂コンパウンドと第2の塩化ビニル系樹脂とが溶融混練された場合であっても、第2の塩化ビニル系樹脂は未溶融のまま成形されるため、成形物表面に未ゲル物として第2の塩化ビニル系樹脂が粒状に出現する。その結果、表面の摩擦抵抗が低減され、艶消しの表面を有する成形物が得られる。即ち、高分子量のPVC樹脂を未溶融物として表面に析出させた特許文献2に記載の手法とは全く異なる概念である。
【0041】
塩化ビニル系樹脂コンパウンドに添加する第2の塩化ビニル系樹脂としては、成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂の欄で列挙した種々のものを使用することができる。また、第2の塩化ビニル系樹脂は、成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂と同じものであってもよく、また異なるものであってもよい。但し、本発明においては、第2の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P2が、第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の0.5倍以上、1.9倍以下とする必要がある。第2の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P2が、第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の0.5倍未満では、成形物の表面に第2の塩化ビニル系樹脂の未ゲル物を出現させるのが難しくなり、摩擦抵抗が低減され、艶消しの表面を有する成形物が得られ難くなる。一方、第2の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P2が、第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の1.9倍を超えると成形性が悪化して、安定的に成形物を得ることが困難となる場合がある。第2の塩化ビニル系樹脂の好ましい平均重合度P2は、第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の1.0倍以下である。
【0042】
塩化ビニル系樹脂コンパウンドに添加する第2の塩化ビニル系樹脂の添加量は、塩化ビニル系樹脂コンパウンド100質量部に対して1質量部以上、8質量部以下とする。第2の塩化ビニル系樹脂の添加量が塩化ビニル系樹脂コンパウンド100質量部に対して1質量未満であると、成形物表面に粒状に出現する未ゲル物の量が少なく、摩擦抵抗の低減や艶消し効果が不十分となる。一方、第2の塩化ビニル系樹脂の添加量が塩化ビニル系樹脂コンパウンド100質量部に対して8質量部を超えると、成形性が悪化して、安定的に成形物を得ることが困難となる場合がある。好ましい第2の塩化ビニル系樹脂の添加量は、塩化ビニル系樹脂コンパウンド100質量部に対して2質量部以上、7質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上、6質量部以下である。
【0043】
塩化ビニル系樹脂コンパウンドと塩化ビニル系樹脂コンパウンドとを溶融成形するには、従来公知の成形機を用いることができる。成形物の使用用途に応じて、射出成形、押出成形、インフレーション成形、カレンダー成形、ブロー成形等の成形方法を適宜選択することができる。成形加工を行う際には、塩化ビニル系樹脂コンパウンドおよび塩化ビニル系樹脂コンパウンドに加えて、適宜、上記した可塑剤等の添加剤を添加してもよい。
【0044】
成形加工する際の温度(成形加工温度)は、塩化ビニル系樹脂コンパウンドの溶融成形温度とすることが好ましい。例えば、上記したように、平均重合度が1300程度のPVCと所定量の可塑剤を配合した塩化ビニル系樹脂コンパウンドでは、成形温度は140~160℃程度であり、当該塩化ビニル系樹脂コンパウンドに第2の塩化ビニル系樹脂を添加して溶融成形を行う際も、140~160℃程度の温度で溶融成形を行うことが好ましい。そのため、本発明においては、押出成形機の温度等の成形加工条件を変更することなく、表面の摩擦抵抗性が低減され、摺動性があり、艶消しの外観を有する塩化ビニル系樹脂成形物を製造することができる。
【0045】
<塩化ビニル系樹脂成形物>
上記のようにして得られる塩化ビニル系樹脂成形物は、第2の塩化ビニル系樹脂の未ゲル物が粒状に出現して、表面に分散した形態を有している。そのため、摩擦抵抗性が低減され、摺動性があり、艶消しの外観を有する成形物を実現することができる。
【0046】
特に、成分(a)第1の塩化ビニル系樹脂 100質量部と成分(b)可塑剤 40質量部以上、100質量部以下とを混練して得られた塩化ビニル系樹脂コンパウンドに、平均重合度P2が、第1の塩化ビニル系樹脂の平均重合度P1の1.0倍以下の第2の塩化ビニル系樹脂を添加して溶融成形した塩化ビニル系樹脂成形物は、表面の摩擦抵抗性が低減され、摺動性があり、艶消しの外観を有するとともに、成形性にも優れている。
【0047】
本発明の塩化ビニル系樹脂成形物は、カーテンレール、散水用や材料送達用などの可撓性ホース、自動車内装材料、被覆電線・床材・防水シートをはじめとしたシート類、テープ・農業用をはじめとしたフィルム類など、様々な用途に使用することができる。
【実施例
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0049】
評価方法:
(1)成形物の表面荒れ性
後記する押出成形条件により成形した各シートについて、対照として用いた比較例1および比較例2との対比により目視で評価した。表面荒れ性の評価基準は以下のとおりとした。
○:比較例1と同等の表面形態である
△:比較例1と比較例2との中間の表面形態である
×:比較例2と同等の表面形態である
【0050】
(2)成形性
押出成形条件によりシートを作製し、得られた各シートを目視で評価した。成形性の評価基準は、以下のとおりとした。
○:シートの端が切れていない
△:シートの端が若干切れている
×:シートが断続的に切れている
【0051】
押出成形条件:
押出成形機:LSE-20(L/D=20)
スクリュー:フルフライトスクリュー
スクリュー回転速度:40rpm
プレート:メッシュ付ブレーカープレート
成形温度:C1温度140℃、C2温度150℃、C3温度160℃、ダイ温度160℃
【0052】
使用した原料:
・塩化ビニル系樹脂
P-400(平均重合度400、ポリ塩化ビニル、積水化学工業株式会社製)
P-700(平均重合度700、ポリ塩化ビニル、信越化学工業株式会社製)
P-800(平均重合度800、ポリ塩化ビニル、信越化学工業株式会社製)
P-1050(平均重合度1050、ポリ塩化ビニル、信越化学工業株式会社製)
P-1300(平均重合度1300、ポリ塩化ビニル、信越化学工業株式会社製)
P-1700(平均重合度1700、ポリ塩化ビニル、信越化学工業株式会社製)
P-2500(平均重合度2500、ポリ塩化ビニル、信越化学工業株式会社製)
・部分架橋塩化ビニル系樹脂
K13M(平均重合度1100、ゲル分率57%、株式会社カネカ製)
・可塑剤
DOP(フタル酸ジオクチル)
O-130S(エポキシ化大豆油、株式会社ADEKA製)
・安定剤
SP-2015(Ca-Zn系安定剤、株式会社ADEKA製)
【0053】
比較例1および比較例2
下表1に示す組成に従って各成分を、混練機(バンバリーミキサー)により160℃で混練してコンパウンドを調製した。なお、表中の数値は質量部を表す。得られた各コンパウンドを用いて、上記押出成形条件にてシートを作製した。
【0054】
【表1】
【0055】
比較例1は架橋PVCを含むため、成形物の表面には粒状の凹凸が形成されており、表面摩擦性が小さく、艶消しの表面を有している。一方、比較例2は架橋PVCを含まないため、成形物の表面は光沢があり、表面荒れ性は不良である。
【0056】
実施例1~5、比較例3および4
比較例2で用いたコンパウンドに、表2に示す組成に従って各重合度のPVC樹脂(P-400、P-700、P-800、P-1050、P-1300、P-1700、およびP-2500)を添加して、上記と同様の押出成形条件にて成形することによりシートを作製した。得られた各シートについて、表面荒れ性および成形性の評価を行った。結果は下記表2に示されるとおりであった。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1~5は、比較例1および2と比較して、表面荒れ性および成形性のいずれも良好であった。驚くべきことに、コンパウンドに含まれるPVC樹脂よりも重合度の高いPVC樹脂を加えた実施例5のみならず、それと同等、またはそれよりも重合度の低いPVC樹脂を加えた実施例1、実施例2、実施例3、および実施例4においても、表面荒れ性および成形性のいずれも良好であった。一方、コンパウンドに含まれるPVC樹脂よりも平均重合度が1.9倍以上大きいPVC樹脂を添加した比較例3では、表面荒れ性は良好であるものの、成形性が不良であった。また、コンパウンドに含まれるPVC樹脂よりも平均重合度が0.5倍未満であるPVC樹脂を添加した比較例4では、成形性は良好であるものの、表面荒れ性が不十分であった。
【0059】
実施例6~7および比較例5
比較例2で用いたコンパウンドに、PVC樹脂(P-1050)を、それぞれ1重量部、8重量部および10重量部添加して、上記と同様の押出成形条件にて成形することによりシートを作製した。得られた各シートについて、表面荒れ性および成形性の評価を行った。結果は下記表3に示されるとおりであった。
【0060】
【表3】
【0061】
実施例6は、コンパウンドに添加するPVC樹脂の添加量が少ないため、実施例3と比べて表面荒れ性がやや劣っており、実施例7は、コンパウンドに添加するPVC樹脂の添加量が多いため、実施例3と比べて成形性がやや劣っている一方、PVC樹脂の添加量を10質量部とした比較例5は、表面荒れ性は良好であるが、成形性が不良であった。