(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】波形生成装置及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20220106BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/14 303
(21)【出願番号】P 2017181294
(22)【出願日】2017-09-21
【審査請求日】2020-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】市川 晶也
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-075509(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0375683(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室内の液体をノズルから吐出させるためにアクチュエーターに印加する駆動信号を生成する生成部を備え、
前記駆動信号は、前記圧力室の圧力を減少させるように前記アクチュエーターを駆動させる第1のパルスと、前記圧力室の圧力を増加させるように前記アクチュエーターを駆動させる第2のパルスとを含み、前記第1のパルスの印加時間は第1の時間であり、前記第2のパルスの印加開始は前記第1のパルスの印加終了から第2の時間経過後であり、前記第2のパルスの印加時間は第3の時間であり、
前記第2の時間と前記第1の時間の比
X(=(前記第2の時間)/(前記第1の時間))と、前記第3の時間と前記第1の時間の比
Y(=(前記第3の時間)/(前記第1の時間))とが、下記(1)~(6)式を満た
し、
前記比Xは、1.64以上である、波形生成装置。
【数1】
【請求項2】
圧力室内の液体をノズルから吐出させるためにアクチュエーターに印加する駆動信号を生成する生成部を備え、
前記駆動信号は、前記圧力室の圧力を減少させるように前記アクチュエーターを駆動させる第1のパルスと、前記圧力室の圧力を増加させるように前記アクチュエーターを駆動させる第2のパルスとを含み、前記第1のパルスの印加時間は第1の時間であり、前記第2のパルスの印加開始は前記第1のパルスの
印加終了から第2の時間
経過後であり、前記第2のパルスの印加時間は第3の時間であり、
前記第2の時間と前記第1の時間の比X(=(前記第2の時間)/(前記第1の時間))と、前記第3の時間と前記第1の時間の比Y(=(前記第3の時間)/(前記第1の時間))との組み合わせが、下記表1のA~Iで示された範囲内であ
り、
前記比Xは、1.64以上である、波形生成装置。
【表1】
【請求項3】
前記比Xと
前記比Yとの組み合わせが、前記表1のA~Fで示された範囲内である、請求項2に記載の波形生成装置。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の波形生成装置を備えるインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、波形生成装置及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターなどのインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドのノズルから吐出されたメインドット(主液滴)に付随して、サテライト又はミストなどと呼ばれる小液滴が発生する場合がある。このような小液滴は、印刷品質の低下などに繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、小液滴の発生を抑える波形生成装置及びインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の波形生成装置は、圧力室内の液体をノズルから吐出させるためにアクチュエーターに印加する駆動信号を生成する生成部を備える。前記駆動信号は、前記圧力室の圧力を減少させるように前記アクチュエーターを駆動させる第1のパルスと、前記圧力室の圧力を増加させるように前記アクチュエーターを駆動させる第2のパルスとを含む。前記第1のパルスの印加時間は第1の時間であり、前記第2のパルスの印加開始は前記第1のパルスの印加終了から第2の時間経過後であり、前記第2のパルスの印加時間は第3の時間である。前記第2の時間と前記第1の時間の比の値X(=(前記第2の時間)/(前記第1の時間))と、前記第3の時間と前記第1の時間の比の値Y(=(前記第3の時間)/(前記第1の時間))とが、下記(1)~(6)式を満たす。
【数1】
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係るインクジェット記録装置の構成の一例を示す模式図。
【
図2】
図1中に示す液体吐出ヘッドの構成の一例を示す斜視模式図。
【
図3】
図1中に示す液体吐出ヘッドの構成の一例を示す分解斜視模式図。
【
図5】
図1に示すインクジェット記録装置の要部回路構成の一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態に係るインクジェット記録装置について図面を用いて説明する。なお、実施形態の説明に用いる各図面は、説明のため、各部の縮尺を適宜変更して示している場合がある。また、実施形態の説明に用いる各図面は、説明のため、構成を省略して示している場合がある。
【0008】
図1は、実施形態に係るインクジェット記録装置1の構成の一例を示す模式図である。
インクジェット記録装置1は、インクなどの記録材を用いて画像形成媒体Sなどに画像を形成する。インクジェット記録装置1は、一例として、複数の液体吐出部2と、液体吐出部2を移動可能に支持するヘッド支持機構3と、画像形成媒体Sを移動可能に支持する媒体支持機構4と、を備える。画像形成媒体Sは、例えば、紙、布又は樹脂などを素材とするシートである。
【0009】
図1に示すように、複数の液体吐出部2が、所定の方向に並列して配置された状態でヘッド支持機構3に支持される。ヘッド支持機構3は、ローラー3aに掛けられた無端ベルト3bに取り付けられている。インクジェット記録装置1は、ローラー3aを回転させることで、ヘッド支持機構3を、画像形成媒体Sの搬送方向に対して直交する主走査方向Aに移動させることが可能である。液体吐出部2は、インクジェットヘッド10及び循環装置20を一体に備える。液体吐出部2は、液体として例えばインクIをインクジェットヘッド10から吐出させる吐出動作を行う。インクジェット記録装置1は、一例として、ヘッド支持機構3を主走査方向Aに往復移動させながらインク吐出動作を行うことで、対向して配置される画像形成媒体Sに所望の画像を形成するスキャン方式である。あるいは、インクジェット記録装置1は、ヘッド支持機構3を主走査方向Aに移動させずにインク吐出動作を行うシングルパス方式であっても良い。この場合、ローラー3a及び無端ベルト3bは、設けるには及ばない。また、ヘッド支持機構3は、インクジェット記録装置1の筐体などに固定される。
【0010】
複数の液体吐出部2は、例えば、CMYK(cyan, magenta, yellow, and key(black))に対応する4色のインク、すなわちシアンインク、マゼンタインク、イエローインク及びブラックインクを、それぞれ吐出する。
【0011】
以下、インクジェットヘッド10について
図2~
図4に基づいて説明する。なお、インクジェットヘッド10として、シェアモードシェアウォール方式の循環タイプのサイドシューター型インクジェットヘッドを各図に例示する。しかしながら、インクジェットヘッド10は、その他の種類のインクジェットヘッドであっても良い。
図2は、インクジェットヘッド10の構成の一例を示す斜視図である。
図3は、インクジェットヘッド10の構成の一例を示す分解斜視図である。
図4は、
図2のF-F線断面図である。
【0012】
インクジェットヘッド10は、インクジェット記録装置1に搭載され、チューブのような部品を介してインクタンクに接続されている。このようなインクジェットヘッド10は、ヘッド本体11と、ユニット部12と、一対の回路基板13とを備えている。インクジェットヘッド10は、波形生成装置の一例である。
【0013】
ヘッド本体11は、インクを吐出するための装置である。ヘッド本体11は、ユニット部12に取り付けられている。ユニット部12は、ヘッド本体11と前記インクタンクとの間の経路の一部を形成するマニホールドや、インクジェット記録装置1の内部に取り付けるための部材を含んでいる。一対の回路基板13は、ヘッド本体11にそれぞれ取り付けられている。
【0014】
ヘッド本体11は、
図3及び
図4に示すようにベースプレート15と、ノズルプレート16と、枠部材17と、一対の駆動素子18とを備えている。ヘッド本体11の内部には、
図4に示すように、インクが供給されるインク室19が形成されている。
【0015】
ベースプレート15は、
図3に示すように、例えばアルミナのようなセラミックスによって矩形の板状に形成されている。ベースプレート15は、平坦な実装面21を有している。ベースプレート15は、実装面21に、複数の供給孔22と、複数の排出孔23とが開口している。
【0016】
供給孔22は、ベースプレート15の中央部において、ベースプレート15の長手方向に並んで設けられている。供給孔22は、ユニット部12の前記マニホールドのインク供給部12aに連通している。供給孔22は、インク供給部12aを介して循環装置20内のインクタンクに接続されている。前記インクタンクのインクは、インク供給部及び供給孔22を通じてインク室19に供給される。
【0017】
排出孔23は、供給孔22を挟むように二列に並んで設けられている。排出孔23は、ユニット部12の前記マニホールドのインク排出部12bに連通している。排出孔23は、インク排出部12bを介して循環装置20内のインクタンクに接続されている。インク室19のインクは、インク排出部12b及び排出孔23を通じて前記インクタンクに回収される。このように、インクは前記インクタンクとインク室19との間で循環する。
【0018】
ノズルプレート16は、例えば表面に撥液性機能を付与したポリイミド製の矩形状のフィルムによって形成されている。ノズルプレート16は、ベースプレート15の実装面21に対向している。ノズルプレート16に、複数のノズル25が設けられている。複数のノズル25は、ノズルプレート16の長手方向に沿って二列に並んでいる。
【0019】
枠部材17は、例えばニッケル合金によって矩形の枠状に形成されている。枠部材17は、ベースプレート15の実装面21とノズルプレート16との間に介在している。枠部材17は、実装面21とノズルプレート16とにそれぞれ接着されている。すなわち、ノズルプレート16は、枠部材17を介してベースプレート15に取り付けられている。インク室19は、
図4に示すように、ベースプレート15と、ノズルプレート16と、枠部材17とに囲まれて形成されている。
【0020】
駆動素子18は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって形成された板状の二つの圧電体によって形成されている。前記二つの圧電体は、分極方向がその厚さ方向に互いに逆向きになるように貼り合わされている。
【0021】
一対の駆動素子18は、
図3に示すように、ベースプレート15の実装面21に接着されている。一対の駆動素子18は、
図4に示すように、二列に並ぶノズル25に対応して、インク室19の中に平行に配置されている。駆動素子18は、断面台形状に形成されている。駆動素子18の頂部は、ノズルプレート16に接着されている。
【0022】
駆動素子18に、複数の溝27が設けられている。溝27は、駆動素子18の長手方向と交差する方向にそれぞれ延びており、駆動素子18の長手方向に並んでいる。複数の溝27は、ノズルプレート16の複数のノズル25に対向している。本実施形態の駆動素子18は、
図4に示すように、溝27にインクを吐出する駆動流路となる複数の圧力室51を配置している。
【0023】
複数の溝27のそれぞれに、電極28が設けられている。電極28は、例えばニッケル薄膜をフォトレジストエッチング加工することによって形成されている。電極28は、溝27の内面を覆っている。
【0024】
図3に示すように、ベースプレート15の実装面21から駆動素子18に亘って、複数の配線パターン35が設けられている。これらの配線パターン35は、例えばニッケル薄膜をフォトレジストエッチング加工することによって形成されている。
【0025】
配線パターン35は、実装面21の一つの側端部21aおよび他方の側端部21bからそれぞれ延びている。なお、側端部21a,21bは、実装面21の縁のみならずその周辺の領域を含む。このため、配線パターン35は、実装面21の縁よりも内側に設けられても良い。
【0026】
以下、一つの側端部21aから延びる配線パターン35について代表して説明する。なお、他方の側端部21bの配線パターン35の基本的な構成は、一つの側端部21aの配線パターン35と同様である。
【0027】
配線パターン35は、
図3及び
図4に示すように、第1の部分35aと、第2の部分35bとを有している。配線パターン35の第1の部分35aは、実装面21の側端部21aから駆動素子18に向かって直線状に延びている部分である。第1の部分35aは、互いに平行に延びている。配線パターン35の第2の部分35bは、第1の部分35aの端部と、電極28とに跨る部分である。第2の部分35bは、電極28にそれぞれ電気的に接続されている。
【0028】
一つの駆動素子18において、複数の電極28のうち幾つかの電極28は、第1の電極群31を構成する。複数の電極28のうち他の幾つかの電極28は、第2の電極群32を構成する。
【0029】
第1の電極群31と第2の電極群32とは、駆動素子18の長手方向の中央部を境に分かれている。第2の電極群32は、第1の電極群31と隣り合っている。第1および第2の電極群31,32は、例えば159個の電極28をそれぞれ含んでいる。
【0030】
図2に示すように、一対の回路基板13のそれぞれは、基板本体44と、一対のフィルムキャリアーパッケージ(FCP)45とをそれぞれ有している。なお、FCPは、テープキャリアーパッケージ(TCP)とも称される。
【0031】
基板本体44は、矩形状に形成された剛性を有するプリント配線板である。基板本体44に、種々の電子部品やコネクターが実装される。また、基板本体44に、一対のFCP45がそれぞれ取り付けられている。
【0032】
一対のFCP45は、複数の配線が形成されるとともに柔軟性を有する樹脂製のフィルム46と、前記複数の配線に接続されたヘッド駆動回路47とをそれぞれ有している。フィルム46は、テープオートメーテッドボンディング(TAB)である。ヘッド駆動回路47は、電極28に電圧を印加するためのIC(integrated circuit)である。ヘッド駆動回路47は、樹脂によってフィルム46に固定されている。
【0033】
一方のFCP45の端部は、異方性導電性フィルム(ACF)48によって、配線パターン35の第1の部分35aに、熱圧着接続されている。これにより、FCP45の前記複数の配線は、配線パターン35に電気的に接続される。
【0034】
FCP45が配線パターン35に接続されることで、ヘッド駆動回路47が、FCP45の前記配線を介して電極28に電気的に接続される。ヘッド駆動回路47は、フィルム46の前記配線を介して電極28に電圧を印加する。
【0035】
ヘッド駆動回路47が電極28に電圧を印加すると、駆動素子18がシェアモード変形することにより、当該電極28が設けられた圧力室51の容積が増減させられる。これにより、圧力室51の中のインクの圧力が変化し、当該インクがノズル25から吐出される。このように、圧力室51を隔てる駆動素子18は、圧力室51の内部に圧力振動を与えるためのアクチュエーターとなる。
【0036】
図1に示す循環装置20は、金属製などの連結部品によりインクジェットヘッド10の上部に一体に連結されている。循環装置20は、前記インクタンク及びインクジェットヘッド10を通り液体が循環可能に構成された所定の循環路を備える。循環装置20は、液体を循環させるためのポンプを備える。当該液体は、ポンプの働きにより循環装置20からインク供給部を通じてインクジェットヘッド10内に供給され、所定の流路を通った後、インク排出部を通じてインクジェットヘッド10内から循環装置20へと送られる。
また、循環装置20は、循環路の外部に設けられる補給タンクとしてのカートリッジから循環路に液体を補給する。
【0037】
インクジェット記録装置1の要部回路構成について説明する。
図5は、実施形態に係るインクジェット記録装置1の要部回路構成の一例を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、プロセッサー101、ROM(read-only memory)102、RAM(random-access memory)103、通信インターフェース104、表示部105、操作部106、ヘッドインターフェース107、バス108及びインクジェットヘッド10を含む。
【0038】
プロセッサー101は、インクジェット記録装置1の動作に必要な処理及び制御を行うコンピューターの中枢部分に相当する。プロセッサー101は、ROM102に記憶されたシステムソフトウェア、アプリケーションソフトウェア又はファームウェアなどのプログラムに基づいて、インクジェット記録装置1の各種の機能を実現するべく各部を制御する。プロセッサー101は、例えば、CPU(central processing unit)、MPU(micro processing unit)、SoC(system on a chip)、DSP(digital signal processor)又はGPU(graphics processing unit)などである。あるいは、プロセッサー101は、これらの組み合わせである。
【0039】
ROM102は、プロセッサー101を中枢とするコンピューターの主記憶部分に相当する、専らデータの読み出しに用いられる不揮発性メモリである。ROM102は、上記のプログラムを記憶する。また、ROM102は、プロセッサー101が各種の処理を行う上で使用するデータ又は各種の設定値などを記憶する。
【0040】
RAM103は、プロセッサー101を中枢とするコンピューターの主記憶部分に相当する、データの読み書きに用いられるメモリである。RAM103は、プロセッサー101が各種の処理を行う上で一時的に使用するデータを記憶しておく、いわゆるワークエリアなどとして利用される。
【0041】
通信インターフェース104は、インクジェット記録装置1がネットワーク又は通信ケーブルなどを介してホストコンピューターなどと通信するためのインターフェースである。
【0042】
表示部105は、インクジェット記録装置1の操作者に各種情報を通知するための画面を表示する。表示部105は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機EL(electro-luminescence)ディスプレイなどのディスプレイである。
【0043】
操作部106は、インクジェット記録装置1の操作者による操作を受け付ける。操作部106は、例えば、キーボード、キーパッド、タッチパッド又はマウスなどである。また、操作部106としては、表示部105の表示パネルに重ねて配置されたタッチパッドを用いることもできる。すなわち、タッチパネルが備える表示パネルを表示部105として、タッチパネルが備えるタッチパッドを操作部106として用いることができる。
【0044】
ヘッドインターフェース107は、プロセッサー101がインクジェットヘッド10と通信するために設けられる。ヘッドインターフェース107は、プロセッサー101の制御のもと、階調データなどをインクジェットヘッド10へ送信する。
【0045】
バス108は、コントロールバス、アドレスバス及びデータバスなどを含み、インクジェット記録装置1の各部で授受される信号を伝送する。
【0046】
インクジェットヘッド10は、ヘッドドライバー100を備える。
ヘッドドライバー100は、インクジェットヘッド10を動作させるための駆動回路である。ヘッドドライバー100は、例えばラインドライバーである。ヘッドドライバー100は、入力される階調データに基づき、複数の駆動素子18のそれぞれに印加する駆動信号を生成する。そして、ヘッドドライバー100は、生成した駆動信号を複数の駆動素子18のそれぞれに印加する。ヘッドドライバー100は、波形生成装置の一例である。ヘッドドライバー100は、駆動信号を生成することで、生成部として動作する。
【0047】
駆動信号が印加されることで、圧電体である駆動素子18は、シェアモード変形する。この変形により、圧力室51の容積が変化する。
駆動信号の電位が0のときの圧力室51は、通常状態である。駆動信号の電位が正のとき、圧力室51は収縮して圧力室51の容積は通常状態に比べて減少する。また、駆動信号の電位が負のとき、圧力室51は拡張して圧力室51の容積は通常状態に比べて増加する。以上のような圧力室51の容積変化に伴い、圧力室51内のインクの圧力が変化する。インクジェットヘッド10は、特定の波形を有する駆動信号が印加されることによって、インクを吐出させる。なお、駆動信号の波形を以下「駆動波形」という。
【0048】
駆動波形について、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6及び
図7は、駆動波形について説明するための図である。従来の駆動波形は、一般的に、
図6に示すような波形である。
図6に示す駆動波形は、負電位(a)、零電位(b)、正電位(c)の順で電位が変化する波形である。なお、負電位(a)の前と正電位(c)の後は、零電位である。負電位(a)及び正電位(c)は、それぞれ、単一の矩形波である。
図6に示すような駆動波形により、主液滴1滴分のインクがノズル25から吐出される。
図6に示すような駆動波形は、DRP波形とも呼ばれ、D、R及びPの3つのパラメーターによって波形が決定される。すなわち、負電位の印加時間は、Dである。零電位の印加時間は、Rである。そして、負電位の印加時間は、Pである。パラメーターDは、圧力室51のインク固有振動周期(インク伝播時間)の半分の時間をAL(acoustic length)とすると、1ALであることが好ましい。そして、従来の駆動波形のパラメーターR及びPは、圧力波の残留振動が最も小さくなるような値又はその近傍である。なお、
図6の駆動波形に比べて残留振動が大きい駆動波形を
図7に参考として示す。
図7に示す残留振動は、
図6に示す残留振動より大きいことが分かる。また、
図8に残留振動が最も小さくなるようなパラメーターを示す。なお、D=1ALとして、X=R/D、Y=P/Dと規定する。すなわち、Xは、RとDの比の値である。Yは、PとDの比の値である。
図8に◆で示すXとYの組み合わせのとき、◇に示すXとYの組み合わせよりも残留振動が少なくなる。すなわち、
図8に◆で示す近傍のXとYの組み合わせのとき、残留振動が最も小さくなる。
【0049】
次に、実施形態の駆動波形について説明する。実施形態の駆動波形は、従来の駆動波形と同様に、DRP波形である。したがって、実施形態の駆動波形は、負電位(a)、零電位(b)、正電位(c)の順で電位が変化する波形である。また、実施形態の駆動波形は、従来の駆動波形と同様に、パラメーターDは、1ALであることが好ましい。パラメーターDが1ALであることにより、インクが効率よく吐出される。したがって、以下、パラメーターDが1ALであるとして説明を行う。
なお、負電位(a)を印加することで圧力室51は拡張する。これにより、圧力室51内のインクは、圧力が減少する。したがって、負電位(a)は、圧力室の圧力を減少させるようにアクチュエーターを駆動させる第1のパルスの一例である。また、正電位(c)を印加することで圧力室51は収縮する。これにより、圧力室51内のインクは、圧力が増加する。したがって、正電位(c)は、圧力室の圧力を増加させるようにアクチュエーターを駆動させる第2のパルスの一例である。また、パラメーターDが示す時間は、第1の時間の一例である。パラメーターRが示す時間は、第2の時間の一例である。パラメーターPが示す時間は、第3の時間の一例である。
【0050】
実施形態の駆動波形は、従来の駆動波形とは、X、Y又はその両方が異なる。以下に、XとYの条件を説明する。
XとYを様々に変化させた場合の印刷の安定性を表1に示す。なお、当該安定性は、○、不安定、かすれ、及び×の4段階で評価している。「○」は、印刷が安定していることを示す。「不安定」は、吐出安定性に低下がみられることを示す。「かすれ」は、かすれが発することを示す。そして、「×」は、主液滴の吐出が全くできないことを示す。したがって、評価を安定性が良い順に並べると、○>不安定>かすれ>×の順となる。
また、XとYを様々に変化させた場合の小液滴の発生量の大小を表2に示す。小液滴の発生量の大小は、○、小、中、大、及び×の5段階で評価している。すなわち、評価を小液滴の発生量が少ない順に並べると、○>小>中>大>×の順となる。
【0051】
【0052】
表2を見ればわかるように、従来の駆動波形の小液滴の発生量は、「大」である。したがって、小液滴の発生量が「○」、「小」又は「中」であれば、印刷品質を向上させることができる可能性がある。しかしながら、主液滴が吐出されなければ、印刷品質を大きく低下させてしまう可能性がある。したがって、印刷の安定性は、「○」、「不安定」又は「かすれ」であることが求められる。
ここで、表1及び表2に基づき、{印刷安定性,小液滴の発生量の大小}によって以下のようにA~I及び×を対応付ける。
{○,○}:A
{○,小}:B
{○,中}:C
{不安定,○}:D
{不安定,小}:E
{不安定,中}:F
{かすれ,○}:G
{かすれ,小}:H
{かすれ,中}:I
その他:×
以上のように対応付けたものを表3に示す。
【0053】
【0054】
表3に示すA~Iは、印刷の安定性が「○」、「不安定」又は「かすれ」であり、小液滴の発生量が「○」、「小」又は「中」であることから、印刷品質が向上するといえる。また、A~Iを印刷品質が良いと考えられる順にならべると、A>B>C>D>E>F>G>H>I>×となる。したがって、表3で示される範囲を印刷品質が良い順に並べると、Aで示される範囲>A及びBで示される範囲>A~Cで示される範囲>A~Dで示される範囲>A~Eで示される範囲>A~Fで示される範囲>A~Gで示される範囲>A~Hで示される範囲>A~Iで示される範囲、となる。
なお、表3で示される範囲は、A~Iで示される各点のみではなくその周囲も含む。例えば、表3にA~Iで示される範囲は、表3にA~Iで示されるXとYの組み合わせに対してXが0以上0.08未満異なりYが0以上0.08未満異なるXとYの組み合わせの集合を含む。あるいは、表3にA~Iで示される範囲は、表3にA~Iで示されるXとYの組み合わせに対してXが0以上0.04以下異なりYが0以上0.04以下異なるXとYの組み合わせの集合を含む。あるいは、表3にA~Iで示される範囲は、表3にA~Iで示されるXとYの組み合わせに対してXが0以上0.04以下異なりYが0以上0.04以下異なるXとYの組み合わせの集合から、表3にA~I以外(すなわち「×」。)で示されるXとYの組み合わせに対してXが0以上0.08未満異なりYが0以上0.08未満異なるXとYの組み合わせの集合を除いた集合を含む。
なお、A~Iのうちの少なくとも1つ以上を含むもので示される範囲についても、A~Iで示される範囲と同様に、上述のようにその周囲を含む。
【0055】
表3にA~Iで示されたXとYの組み合わせは、表3に示される値丁度でなくても良く、その前後の値も含む。例えば、表3に示された数値に対して、Xの値が0.08未満まで異なっていても良く、Yの値が0.08未満まで異なっていても良い。あるいは、表3に示された数値に対して、Xの値が0.04以下まで異なっていても良く、Yの値が0.04以下まで異なっていても良い。
例として、表3にX=1.64、Y=0.28として示されている場合、例えば、1.58<X<1.72、0.20<Y<0.36の範囲を示す。あるいは、表3にX=1.64、Y=0.28として示されている場合、例えば、1.60≦X≦1.68、0.24≦Y≦0.32の範囲を示す。
【0056】
次に、表3にA~Iで示される範囲を、数式によって表すことを考える。分かりやすくするため、A~Iを□に置き換えた表を
図9に示す。
図9は、数式について説明するための図である。
【0057】
図9の表の各列について見ると、X=1.8の列を除いて、□が縦に3つ又は4つ連続している。ここで、各列の連続した□の中央を通るような数式Kを考える。なお、連続した□の中央は、
図9に中黒IPとして示している。すなわち、中黒IPは、□が縦に3つ連続している場合、2番目の□のセルの中央にある。そして、中黒IPは、□が縦に4つ連続している場合、2番目の□のセルと3番目の□のセルの間にある。このような数式Kは、例えば以下に示す(7)式のように表すことができる。
【数2】
そして、(7)式においてa、b及びcを適切に選択することで、各列の連続した□の中央を通るような数式Kが得られる。
さらに、この式を基に、
図9に示された□を含むような数式を考える。このような数式は、例えば、以下に示す(8)式のように表すことができる。
【数3】
そして、(8)式においてd及びeを適切に選択することで、
図9に示された□を含むような数式が得られる。
以上の考えをもとに、
図9に□で示された範囲を近似的に数式で示すと、以下に示す(1)~(6)式のようになる。
【0058】
【数4】
(1)~(6)式が示す範囲を表4に示す。
【0059】
【0060】
表4を見ればわかるように、(1)~(6)式が示す範囲は、表3のA~Iで示される範囲と近いものとなっていることがわかる。
【0061】
また、XとYを様々に変化させた場合に、規定の体積の液滴を吐出するのに必要な駆動電圧(以下「規定電圧」という。)を表5に示す。
【0062】
【0063】
表5などを見ればわかるように、残留振動の有無などによって、規定電圧が変化することが分かる。なお、駆動電圧が高すぎるとICなどの故障率が上がる恐れがあるが、実施形態における規定電圧は、表5に示すように従来とそれほど差がなく、駆動電圧が高すぎないことがわかる。
なお、駆動波形を、規定電圧が従来よりも低くなるようなXとYの組み合わせにすることで、消費電力を低減させることが可能である。
【0064】
実施形態の式(1)~(6)に示す範囲の駆動波形は、従来の駆動波形よりも残留振動が大きい場合がある。しかしながら、印刷品質は従来よりも向上する。
また、実施形態の表1のA~Iに示す範囲の駆動波形は、従来の駆動波形よりも残留振動が大きい場合がある。しかしながら、印刷品質は従来よりも向上する。
【0065】
実施形態の式(1)~(6)に示す範囲の駆動波形のうち、Xが1.64以上の駆動波形は、表2に示すように小液滴の発生量が小又は○である。また、実施形態の表1のA~Iに示す範囲の駆動波形のうちXが1.64以上の駆動波形は、表2に示すように小液滴の発生量が小又は○である。したがって、Xが1.64以上の駆動波形は、小液滴の発生量が特に少なく、印刷品質の向上が期待できる。
【0066】
上記の実施形態は以下のような変形も可能である。
上記の実施形態では、式(1)~(6)によってX及びYの範囲を規定した。しかしながら、他の数式によって同様の範囲を規定しても良い。
【0067】
上記の実施形態では、駆動信号の電位が正のとき圧力室51が収縮し、駆動信号の電位が負のとき圧力室51が拡張する。しかしながら、駆動信号の電位が負のとき圧力室51が収縮し、駆動信号の電位が正のとき圧力室51が拡張するような態様であっても良い。
上記の実施形態では、駆動素子18は、シェアモード変形する。しかしながら、駆動素子18は、シェアモード以外のモードで変形するものであっても良い。
【0068】
インクジェットヘッド10は、上記実施形態の他、例えば静電気で振動板を変形させてインクを吐出する構造、あるいはヒーターなどの熱エネルギーを利用してノズルからインクを吐出する構造などであってもよい。これらの場合、当該振動板又はヒーターなどは、圧力室51の内部に圧力振動を与えるためのアクチュエーターである。
【0069】
実施形態のインクジェット記録装置1は、画像形成媒体Sに、インクによる二次元の画像を形成するインクジェットプリンターである。しかしながら、実施形態のインクジェット記録装置は、これに限られるものではない。実施形態のインクジェット記録装置は、例えば、3Dプリンター、産業用の製造機械又は医療用機械などであっても良い。実施形態のインクジェット記録装置が3Dプリンターなどである場合には、実施形態のインクジェット記録装置は、例えば、素材となる物質又は素材を固めるためのバインダーなどをインクジェットヘッドから吐出させることで、立体物を形成する。
【0070】
実施形態のインクジェット記録装置1は、液体吐出部2を4つ備え、それぞれの液体吐出部2が使用するインクIの色はシアン、マゼンタ、イエロー又はブラックである。しかしながら、インクジェット記録装置が備える液体吐出部2の数は4つに限定せず、また、複数ではなくても良い。また、それぞれの液体吐出部2が使用するインクIの色及び特性などは限定しない。
また、液体吐出部2は、透明光沢インク、赤外線又は紫外線等を照射したときに発色するインク、又はその他の特殊インクなども吐出可能である。さらに、液体吐出部2は、インク以外の液体を吐出することができるものであっても良い。なお、液体吐出部2が吐出する液体は、懸濁液などの分散液であっても良い。液体吐出部2が吐出するインク以外の液体としては例えば、プリント配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体、人工的に組織又は臓器などを形成するための細胞などを含む液体、接着剤などのバインダー、ワックス、又は液体状の樹脂などが挙げられる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]圧力室内の液体をノズルから吐出させるためにアクチュエーターに印加する駆動信号を生成する生成部を備え、前記駆動信号は、前記圧力室の圧力を減少させるように前記アクチュエーターを駆動させる第1のパルスと、前記圧力室の圧力を増加させるように前記アクチュエーターを駆動させる第2のパルスとを含み、前記第1のパルスの印加時間は第1の時間であり、前記第2のパルスの印加開始は前記第1のパルスの印加終了から第2の時間経過後であり、前記第2のパルスの印加時間は第3の時間であり、前記第2の時間と前記第1の時間の比の値Xと、前記第3の時間と前記第1の時間の比の値Yとが、下記(1)~(6)式を満たす、波形生成装置。
【数1】
[2]圧力室内の液体をノズルから吐出させるためにアクチュエーターに印加する駆動信号を生成する生成部を備え、前記駆動信号は、前記圧力室の圧力を減少させるように前記アクチュエーターを駆動させる第1のパルスと、前記圧力室の圧力を増加させるように前記アクチュエーターを駆動させる第2のパルスとを含み、前記第1のパルスの印加時間は第1の時間であり、前記第2のパルスの印加開始は前記第1のパルスの第2の時間後であり、前記第2のパルスの印加時間は第3の時間であり、前記第2の時間と前記第1の時間の比X(=(前記第2の時間)/(前記第1の時間))と、前記第3の時間と前記第1の時間の比Y(=(前記第3の時間)/(前記第1の時間))との組み合わせが、下記表1のA~Iで示された範囲内である、波形生成装置。
【表1】
[3]XとYとの組み合わせが、前記表1のA~Fで示された範囲内である、付記[2]に記載の波形生成装置。
[4]Xは、1.64以上である、付記[1]乃至付記[3]のいずれか1項に記載の波形生成装置。
[5]付記[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の波形生成装置を備えるインクジェット記録装置。
【符号の説明】
【0072】
1……インクジェット記録装置、10……インクジェットヘッド、18……駆動素子、100……ヘッドドライバー