(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】溶鋼温度計測方法及び溶鋼温度計測装置
(51)【国際特許分類】
G01K 1/14 20210101AFI20220106BHJP
【FI】
G01K1/14 G
G01K1/14 N
(21)【出願番号】P 2017206000
(22)【出願日】2017-10-25
【審査請求日】2020-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】本田 稔
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-146182(JP,A)
【文献】特開2000-045009(JP,A)
【文献】特開2010-159921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
F27D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼鍋内の溶鋼の温度を計測する溶鋼温度計測方法であって、
プローブ昇降装置により、前記溶鋼の湯面に向かって測温プローブを下降させる工程と、
前記測温プローブを下降させる前記プローブ昇降装置の駆動電流値を監視する工程と、
前記駆動電流値の変化量が所定の第1閾値以上であるか否かを判定する工程と、
前記変化量が前記第1閾値以上である場合に、前記測温プローブが前記湯面に到達していると判定し、該測温プローブの高さを基準として、所定の浸漬深さまで前記測温プローブを下降させて前記溶鋼の温度を計測する工程とを含
み、
前記変化量が前記第1閾値以上であるか否かを判定する工程は、前記プローブ昇降装置によって前記測温プローブが前記湯面に近接する所定の湯面判定領域に到達した場合にのみ実施する、溶鋼温度計測方法。
【請求項2】
前記測温プローブを下降させる工程では、前記湯面に近接する所定の近接領域において前記測温プローブの下降速度を低減し、低速度にて測温プローブを溶鋼鍋内の溶鋼湯面に浸漬させる、請求項1記載の溶鋼温度計測方法。
【請求項3】
前記変化量が前記第1閾値以上であるか否かを判定する工程では、直近10ミリ秒の前記変化量が30mA以上となった場合に前記変化量が前記第1閾値以上であると判定する、請求項1
又は2記載の溶鋼温度計測方法。
【請求項4】
前記駆動電流値の最新値と、該最新値よりも前に検知された前記駆動電流値の複数の過去値の平均値との差異が所定の第2閾値以上であるか否かを判定する工程を更に含み、
前記溶鋼の温度を計測する工程では、前記変化量が前記第1閾値以上であり、且つ、前記差異が前記第2閾値以上である場合に、前記測温プローブが前記湯面に到達していると判定する、請求項
1~3のいずれか一項記載の溶鋼温度計測方法。
【請求項5】
溶鋼鍋内の溶鋼の温度を計測する溶鋼温度計測装置であって、
前記溶鋼の温度を計測する測温プローブと、
前記測温プローブを昇降させるプローブ昇降装置と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記溶鋼の湯面に向かって前記測温プローブが下降するように前記プローブ昇降装置を制御することと、
前記プローブ昇降装置の駆動電流値の変化量が所定の第1閾値以上であるか否かを判定することと、
前記変化量が前記第1閾値以上である場合に、前記測温プローブが前記湯面に到達していると判定し、該測温プローブの高さを基準として、該測温プローブが所定の浸漬深さまで下降するように前記プローブ昇降装置を制御することと、を実行するように構成されて
おり、
前記変化量が所定の第1閾値以上であるか否かを判定することを、前記プローブ昇降装置によって前記測温プローブが前記湯面に近接する所定の湯面判定領域に到達した場合にのみ実施する、溶鋼温度計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼鍋内の溶鋼温度計測方法及び溶鋼温度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工場では、一般的に、排滓設備、脱りん炉設備、LF設備等の各処理設備において、溶鋼鍋内の溶鋼温度の計測が行われる。溶鋼温度の計測は、溶鋼鍋上方から測温プローブを溶鋼鍋内に下降挿入することにより行われる。このような溶鋼温度計測を行う装置として、例えば特許文献1に示された装置が知られている。特許文献1には、測温プローブの先端位置を溶鋼鍋内の目標高さに制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶鋼温度の計測は、予め定められた浸漬深さ(溶鋼湯面から更に下降挿入された所定の深さ)で行われる必要がある。ここで、製鋼工場の各処理設備における各処理は、溶鋼鍋1チャージ毎のバッチ処理で行われる。溶鋼鍋内の湯面高さはチャージ毎に異なることから、湯面高さが異なる場合においても予め定められた浸漬深さで温度計測を行うには、温度計測の前工程において、何らかの方法で湯面高さ(湯面レベル)を特定する必要がある。
【0005】
湯面レベルを特定する方法としては、μ波レベル計等の湯面レベル計測装置を設けることが考えられる。しかしながら、溶鋼温度計測に係る装置とは別に湯面レベル計測装置を設ける場合には、設備費が増加すると共に設置スペースの増大が問題となる。また、別装置が湯面レベルを計測し、該湯面レベルに基づき溶鋼温度計測装置が所定の浸漬深さで温度計測を行う場合においては、2つの装置間での湯面計測誤差ならびに位置制御誤差が生じやすくなるため、高精度に所定の浸漬深さでの温度計測を行うことができない場合がある。
【0006】
また、湯面レベル計測装置を設けずに、オペレータの目視によって湯面レベルを特定することも考えられる。しかしながら、オペレータの作業位置から湯面までは目視で正確に判断できない程度の距離があることから、一般的には、目視だけではなく、鍋内の溶鋼重量から概算される湯面レベルの情報等も用いて湯面レベルを特定する必要がある。このようにして湯面レベルを特定する場合には、上述した湯面レベル計測装置を用いる場合よりも、湯面レベルの特定精度が低くなってしまい、高精度に所定の浸漬深さでの温度計測を行うことができない。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、高精度に湯面レベルを特定し、該湯面レベルに基づき、所定の浸漬深さで温度計測を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る溶鋼温度計測方法は、溶鋼鍋内の溶鋼の温度を計測する溶鋼温度計測方法であって、プローブ昇降装置により、溶鋼の湯面に向かって測温プローブを下降させる工程と、測温プローブを下降させるプローブ昇降装置の駆動電流値を監視する工程と、駆動電流値の変化量が所定の第1閾値以上であるか否かを判定する工程と、変化量が第1閾値以上である場合に、測温プローブが湯面に到達していると判定し、該測温プローブの高さを基準として、所定の浸漬深さまで測温プローブを下降させて溶鋼の温度を計測する工程とを含む。
【0009】
本発明の一態様に係る溶鋼温度計測方法では、溶鋼の湯面に向かって測温プローブを下降させるプローブ昇降装置の駆動電流値が監視され、該駆動電流値が第1閾値以上である場合に測温プローブが湯面に到達していると判定される。測温プローブが空中を下降する状態においては、測温プローブに対して、特段、抵抗負荷となるものが存在しないため、プローブ昇降装置の駆動電流値は比較的小さくなる。一方で、測温プローブが溶鋼の湯面に到達した際には、測温プローブが比重の高い溶鋼内に進入することとなるため溶鋼が抵抗負荷となると共に、湯面にはスラグ等の溶融析出物又は介在物が浮遊していることからこれらを測温プローブの先端が突き抜けていく際の衝撃負荷が加わり、上述した駆動電流値が増大する。よって、空中を下降してきた測温プローブが湯面に到達した際に、プローブ昇降装置の駆動電流値は急激に増大することとなる。このため、本発明の一態様に係る溶鋼温度計測方法のように、駆動電流値の変化量が一定値(第1閾値)を超えた場合に測温プローブが湯面に到達していると判定することにより、湯面レベルを高精度に特定することができる。そして、本発明の一態様に係る溶鋼温度計測方法では、判定した湯面レベルが基準とされて所定の浸漬深さまで更に測温プローブを下降させ、所定の浸漬深さにおける溶鋼の温度が計測されるため、高精度に特定した湯面レベルに基づき、所定の浸漬深さで温度計測を行うことが可能となる。すなわち、本発明に係る溶鋼温度計測方法によれば、チャージ毎に異なる湯面レベルの影響を受けることなく常に一定の浸漬深さで安定した精度の高い温度計測を実現することができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る溶鋼温度計測方法では、プローブ昇降装置の駆動電流値の変化量から湯面レベルを判定しているため、μ波レベル計等の湯面レベル計測装置を別に設けることなく、高精度に湯面レベルを特定することが可能となっている。別装置を設けないことにより、設備費の増加及び設置スペースの増大等が生じることを回避することができる。
【0011】
上述した測温プローブを下降させる工程では、湯面に近接する所定の近接領域において測温プローブの下降速度を低減し、低速度にて測温プローブを溶鋼鍋内の溶鋼湯面に浸漬させてもよい。溶鋼鍋内の湯面レベルはチャージ毎に異なるものの、湯面レベルは概ね特定の範囲に限定できるため、予め、湯面に近接すると想定される高さ(領域)を近接領域として設定しておくことができる。そして、当該近接領域においては測温プローブの下降速度を低減することにより、所定の時間間隔で駆動電流値の変化量を判定する場合において、より高精度に湯面レベルを特定することができる。
【0012】
上述した変化量が第1閾値以上であるか否かを判定する工程は、プローブ昇降装置によって測温プローブが湯面に近接する所定の湯面判定領域に到達した場合にのみ実施してもよい。湯面判定領域は、概ね特定された湯面レベルの手前に予め湯面判定範囲を設定するものである。測温プローブを下降させる過程においては、下降開始時の加減速や機械装置の引っ掛かりなど何らかの外的要因等により、湯面に到達していない状態においても駆動電流値の変化量が大きくなることが考えられ、この場合には湯面レベルを誤検知してしまうおそれがある。測温プローブのような比較的小型の構成によって温度計測を行う場合には、上述した外的要因等による駆動電流値の変化がより顕著に生じるおそれがある。この点、湯面レベルとなり得ない範囲では変化量の判定を行わないこととし、測温プローブが所定の湯面判定領域に到達した場合のみ変化量の判定を行うことにより、上述した湯面レベルの誤検知を防止することができる。
【0013】
上述した変化量が第1閾値以上であるか否かを判定する工程では、直近10ミリ秒の変化量が30mA以上となった場合に変化量が第1閾値以上であると判定してもよい。このように、駆動電流値が30mA/10ミリ秒以上変化した場合に測温プローブが湯面に到達したと判定することにより、湯面レベルを高精度に特定することができる。
【0014】
上述した溶鋼温度計測方法は、駆動電流値の最新値と、該最新値よりも前(例えば、直前)に検知された駆動電流値の複数の過去値の平均値との差異が所定の第2閾値以上であるか否かを判定する工程を更に含み、溶鋼の温度を計測する工程では、変化量が第1閾値以上であり、且つ、差異が第2閾値以上である場合に、測温プローブが湯面に到達していると判定してもよい。このように、駆動電流値の直近の変化量に加えて、複数の過去値の平均値(時平均データ)との差異が所定値以上であることを、湯面到達と判定するための条件とすることにより、例えば直近の駆動電流値だけが外的要因等により小さな値となったことによって駆動電流値の変化量が大きくなり湯面レベルを誤検知してしまうこと等を防止することができる。すなわち、湯面レベルをより高精度に特定することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る溶鋼温度計測装置は、溶鋼鍋内の溶鋼の温度を計測する溶鋼温度計測装置であって、溶鋼の温度を計測する測温プローブと、測温プローブを昇降させるプローブ昇降装置と、制御部と、を備え、制御部は、溶鋼の湯面に向かって測温プローブが下降するようにプローブ昇降装置を制御することと、プローブ昇降装置の駆動電流値の変化量が所定の第1閾値以上であるか否かを判定することと、変化量が第1閾値以上である場合に、測温プローブが湯面に到達していると判定し、該測温プローブの高さを基準として、該測温プローブが所定の浸漬深さまで下降するようにプローブ昇降装置を制御することと、を実行するように構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高精度に湯面レベルを特定し、該湯面レベルに基づき、所定の浸漬深さで温度計測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る溶鋼温度計測装置の概略構成を示す模式図である。
【
図3】直近10ミリ秒毎の電流値変化量と湯面到達との関係に関する実験結果を示す表である。
【
図4】溶鋼温度計測方法の実行手順を示すフローチャートである。
【
図5】昇降速度、プローブ高さ、及び駆動電流値の関係の一例を時系列に示したチャート図である。
【
図6】昇降速度、プローブ高さ、及び駆動電流値の関係の他の例を時系列に示したチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
[溶鋼温度計測装置]
最初に、
図1を参照して、本実施形態に係る溶鋼温度計測装置1の概要を説明する。溶鋼温度計測装置1は、溶鋼鍋100内の溶鋼の温度を計測する装置である。溶鋼温度計測装置1は、測温プローブ3と、プローブ昇降装置7と、昇降制御装置50(制御部)と、を備えている。
【0020】
測温プローブ3は、溶鋼鍋100内の溶鋼の温度を計測するプローブである。測温プローブ3は、プローブ昇降装置7によって昇降させられ、下方に溶鋼鍋100がセットされた状態において、溶鋼鍋100内の溶鋼の湯面MSに向かって下降する。測温プローブ3は、プローブ昇降装置7によって溶鋼の湯面MSから所定の浸漬深さまで下降し(詳細は後述)、該所定の浸漬深さにおける溶鋼温度を計測する。測温プローブ3は、溶鋼温度を精度よく、また再現性高く安定的に計測する観点から、溶鋼鍋100内の湯面MSから所定の浸漬深さまでプローブ先端を溶鋼内に挿入した位置で計測を行う必要がある。測温プローブ3は、計測した温度を示す測温信号を温度計測盤10に出力する。温度計測盤10は、測温プローブ3によって計測された温度を示すデータをオペレータに表示する。また、温度計測盤10は、例えば他の通信機器と通信可能に構成されており、測温プローブ3によって計測された温度を示すデータを他の通信機器に送信してもよい。
【0021】
プローブ昇降装置7は、昇降制御装置50の制御に応じて測温プローブ3を昇降させる装置である。プローブ昇降装置7は、昇降アーム(不図示)によって測温プローブ3を把持しており、昇降制御装置50から供給される駆動電流に応じて昇降駆動モータ(不図示)が動作することにより昇降アームが昇降し、測温プローブ3を昇降させる。プローブ昇降装置7は、測温プローブ3の位置(詳細には測温プローブ3の先端の高さ)を検出する位置検出器(不図示)を有しており、該位置検出器が検出した測温プローブ3の位置を昇降制御装置50に出力する。位置検出器は、例えば、昇降駆動モータの回転量を検出することにより測温プローブ3の変位量を取得し、測温プローブ3の初期位置と、上記変位量とに基づき、測温プローブ3の位置(測温プローブ3の先端の高さ)を特定する。
【0022】
昇降制御装置50は、溶鋼の湯面MSに向かって測温プローブ3が下降するようにプローブ昇降装置7を制御することと、プローブ昇降装置7の駆動電流値の変化量が所定の第1閾値以上であるか否かを判定することと、変化量が第1閾値以上である場合に、測温プローブ3が湯面MSに到達していると判定し、該測温プローブ3の高さを基準として、該測温プローブ3が所定の浸漬深さまで下降するようにプローブ昇降装置7を制御することと、を実行するように構成されている。
【0023】
昇降制御装置50は、
図2に示されるように、一つ又は複数のプロセッサ53と、メモリ54と、ストレージ55と、入出力ポート56と、入力部57とを有する回路51により構成される。入出力ポート56は、入力部57からオペレータの入力に係る制御信号を受け、プローブ昇降装置7から測温プローブ3の先端の高さ位置を示す情報を含む信号を受けると共に、プローブ昇降装置7に駆動電流を出力する。入力部57は入出力ポート56に接続され、オペレータによる入力を受け付ける。入力部57は、例えば、操作スイッチ、キーボード、マウス又はタッチパネル等により構成される。入力部57は、例えば、ネットワーク回線を介して入出力ポート56に接続されていてもよい。
【0024】
ストレージ55は、昇降制御装置50による処理を実行させるためのプログラムを記録している。ストレージ55は、コンピュータ読み取り可能であればどのようなものであってもよい。具体例として、ハードディスク、不揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク及び光ディスク等が挙げられる。メモリ54は、ストレージ55からロードしたプログラム及びプロセッサ53の演算結果等を一時的に記憶する。プロセッサ53は、メモリ54と協働してプログラムを実行することで、上述した各機能モジュールを構成する。
【0025】
なお、昇降制御装置50のハードウェア構成は、必ずしもプログラムにより各機能モジュールを構成するものに限られない。例えば昇降制御装置50の各機能モジュールは、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により構成されていてもよい。
【0026】
図1に戻り、以下、昇降制御装置50の具体的な構成例を説明する。昇降制御装置50は、機能モジュールとして、昇降制御部61と、湯面判定部62とを有する。
【0027】
昇降制御部61は、溶鋼の湯面MSに向かって測温プローブ3が下降するようにプローブ昇降装置7を制御する。具体的には、昇降制御部61は、プローブ昇降装置7の昇降駆動モータに駆動電流を供給し、該昇降駆動モータを動作させることにより、測温プローブ3を把持する昇降アームを下降させる。
【0028】
昇降制御部61は、測温プローブ3を下降させる工程において、湯面MSに近接する所定の近接領域において測温プローブ3の下降速度が低減するように、プローブ昇降装置7を制御してもよい。当該近接領域は、例えばオペレータにより予め設定されている。昇降制御部61は、プローブ昇降装置7の位置検出器から取得した測温プローブ3の位置が、所定の近接領域に含まれている場合に、測温プローブ3の下降速度が低減するようにプローブ昇降装置7を制御する。なお、溶鋼鍋100内の湯面MSレベルは、チャージ毎に異なるものの、各チャージにおける湯面MSレベルは概ね特定の範囲となるため、上述した近接領域を予め設定することが可能である。また、湯面MSレベルにプローブが到達する前に低速域を設定する前記近接領域とは別に、湯面判定を行う湯面判定領域についても予め設定することが可能である。
【0029】
昇降制御部61は、湯面判定部62によって、測温プローブ3が溶鋼の湯面MSに到達していると判定された場合に、該測温プローブ3の高さを基準として、該測温プローブ3が所定の浸漬深さまで下降するようにプローブ昇降装置7を制御する。所定の浸漬深さとは、溶鋼温度を計測する深さ(溶鋼の湯面MSからの深さ)として予め設定された深さである。昇降制御部61は、湯面判定部62によってプローブ昇降装置7の駆動電流値の変化量が第1閾値以上であると判定された位置(測温プローブ3が湯面MSに到達したと判定される位置)から、設定されている所定の浸漬深さ分だけ測温プローブ3が下降するように、プローブ昇降装置7を制御する。
【0030】
湯面判定部62は、測温プローブ3を下降させるプローブ昇降装置7の駆動電流値を監視し、該駆動電流値の変化量が所定の第1閾値以上であるか否かを判定する。湯面判定部62は、例えば昇降制御部61からプローブ昇降装置7の昇降駆動モータに供給される駆動電流値を監視し、上述した判定を所定の時間間隔(例えば10ミリ秒間隔)で行う。駆動電流値の変化量とは、例えば直近に判定を行った際の駆動電流値からの変化量である。所定の第1閾値は、例えば30mAとされる。すなわち、例えば10ミリ秒間隔で判定が行われる場合には、湯面判定部62は、直近10ミリ秒の駆動電流値の変化量が第1閾値(30mA)以上であるか否かを判定する。湯面判定部62は、駆動電流値の変化量が第1閾値以上である場合に、測温プローブ3が湯面MSに到達していると判定する。このような判定は、比重の高い溶鋼内に測温プローブ3が進入する際(溶鋼の湯面MSに到達した際)には、測温プローブ3が空中を下降する場合と比較して、抵抗負荷が大きくなるため、上述した駆動電流値が増大する(すなわち、駆動電流値の変化量が大きくなる)ことによるものである。
【0031】
上述した第1閾値の値は、直近10ミリ秒の電流値変化量と湯面MS到達との関係に関する実験から見出された値である。
図3は、直近10ミリ秒の電流値変化量と湯面MS到達との関係に関する実験結果を示す表である。当該実験においては、事前に湯面MSの位置を把握しておき、測温プローブ3を下降させながら、検知された駆動電流値に基づく直近10ミリ秒の駆動電流値の変化量と、湯面MSへの到達との関係を記録した。なお、当該実験は、下記の条件で実施した。ただし、当該実験結果は下記の条件で実施した場合に限り有効なものではなく、同様の処理設備において一般的に行われる溶鋼温度計測に対して有効なものである。
・溶鋼鍋:250ton
・鍋口径:3800mm
・測温プローブ:Φ30mm×1200mm
・測温昇降ストローク:6000mm
【0032】
図3に示すように、経過時間t=10.82秒~10.85秒までは、直近10ミリ秒の駆動電流値の変化量が-2.1mA~22.2mAの範囲内であり、測温プローブ3は湯面MSに到達していなかった。一方で、経過時間t=10.86秒では、直近10ミリ秒の駆動電流値の変化量が35.2mAとなり、この時点で、測温プローブ3は湯面MSに到達した。以上の実験結果から、湯面判定部62は、直近10ミリ秒の駆動電流値の変化量が30mA以上となった場合に、変化量が第1閾値以上であると判定する。
【0033】
なお、製鋼工場での用途ならびに装置規模などによって測温装置の昇降部重量や昇降機構が異なるため、具体的な判定閾値は設備の試運転時に最適値に設定するものであり、上述した第1閾値を基に個々の装置で設定すればよい。この観点から測温プローブの仕様変更なども考慮し湯面判定値の設定は外部から設定変更が可能な設定器としておいてもよい。
【0034】
湯面判定部62は、駆動電流値の変化量が第1閾値以上であるか否かの判定を、プローブ昇降装置7によって測温プローブ3が所定の湯面判定領域に到達した場合にのみ実施してもよい。言い換えると、湯面判定部62は、測温プローブ3が所定の湯面判定領域に到達するまでは、上記判定を行わなくてもよい。当該湯面判定領域は、湯面MSレベルとなりえない領域を除いて設定され、例えばオペレータにより予め設定されている。湯面判定領域は、例えば上述した測温プローブ3の下降速度の減速が開始されてから所定時間(例えば300ミリ秒)が経過した後に測温プローブ3が到達した位置から下方の範囲とされてもよい。湯面判定部62は、プローブ昇降装置7の位置検出器から取得した測温プローブ3の位置が、所定の湯面判定領域に到達した場合にのみ、上記判定を実施する。
【0035】
湯面判定部62は、駆動電流値の変化量が第1閾値以上であるか否かの判定に加えて、駆動電流値の最新値と、該最新値よりも前(例えば直前)に検知された駆動電流値の複数の過去値の平均値(時平均データ)との差異(偏差)が所定の第2閾値以上であるか否かを判定してもよい。この場合、湯面判定部62は、駆動電流値の変化量が第1閾値以上であり、且つ、偏差が第2閾値以上である場合に、測温プローブ3が湯面MSに到達していると判定する。湯面判定部62は、例えば、所定の時間間隔で判定が行われる場合において、駆動電流値の最新値と、過去7回(直前の7回)の判定に用いられた駆動電流値の時平均データとの偏差が所定の第2閾値以上であるか否かを判定する。所定の第2閾値は、例えば50mAとされる。
【0036】
なお、昇降制御装置50として、高速の演算装置を使用することにより、測温プローブ3が溶鋼湯面MSに進入する際のプローブ昇降装置7の駆動電流の変化による湯面MS判定(湯面MS検知)を安定的に実現することができる。
【0037】
[溶鋼温度計測方法]
次に、
図4を参照して、溶鋼温度計測方法(溶鋼温度計測処理)の実行手順を説明する。
図4に示すように、昇降制御装置50は、ステップS1~S11を順に実行する。
【0038】
ステップS1では、製鋼設備の各処理工程の中で溶鋼温度の測定位置に溶鋼鍋100が到着すると、昇降制御部61が、測温プローブ3が下降を開始するようにプローブ昇降装置7を制御する。具体的には、昇降制御部61は、プローブ昇降装置7の昇降駆動モータに駆動電流を供給し、該昇降駆動モータを動作させることにより、測温プローブ3を把持する昇降アームを下降させ、測温プローブ3を湯面MSに向かって下降させる。昇降制御部61は、測温プローブ3の下降速度が所定速度に到達すると、後述するステップS4のタイミングまで当該所定速度を維持する。
【0039】
ステップS2では、湯面判定部62が、測温プローブ3を下降させるプローブ昇降装置7の駆動電流値の監視を開始する。具体的には、湯面判定部62は、昇降制御部61からプローブ昇降装置7の昇降駆動モータに供給される駆動電流値を監視する。
【0040】
ステップS3では、昇降制御部61が、測温プローブ3の位置が近接領域に到達しているか否かを判定する。具体的には、昇降制御部61は、プローブ昇降装置7の位置検出器から取得した測温プローブ3の位置が、所定の近接領域に到達しているか否かを判定する。ステップS3において、測温プローブ3の位置が所定の近接領域に到達していないと判定された場合には、昇降制御部61は、引き続き、測温プローブ3を所定速度で下降させ、所定時間経過後に再度ステップS3を実行する。ステップS3において、測温プローブ3の位置が所定の近接領域に到達していると判定された場合には、昇降制御部61はステップS4を実行する。
【0041】
ステップS4では、昇降制御部61が、測温プローブ3の下降速度が低減するようにプローブ昇降装置7を制御する。昇降制御部61は、例えば、測温プローブ3が上述した湯面判定領域(駆動電流値の変化量が第1閾値以上であるか否かを判定する範囲)に到達する前に、下降速度の低減を完了させる。昇降制御部61は、測温プローブ3の下降速度が低減後の速度に到達すると、当該低減後の速度を維持する。
【0042】
ステップS5では、湯面判定部62が、測温プローブ3の位置が湯面判定領域に到達しているか否かを判定する。具体的には、湯面判定部62は、プローブ昇降装置7の位置検出器から取得した測温プローブ3の位置が、所定の湯面判定領域に到達しているか否かを判定する。ステップS5において、測温プローブ3の位置が所定の湯面判定領域に到達していないと判定された場合には、昇降制御部61は、引き続き、測温プローブ3を低減後の速度で下降させ、測温プローブ3の位置が所定の湯面判定領域に到達していると判定された時点で、湯面判定部62はステップS6を実行する。
【0043】
ステップS6では、湯面判定部62が、プローブ昇降装置7の駆動電流値の変化量が所定の第1閾値以上であるか否かを判定する。具体的には、湯面判定部62は、例えば、昇降制御部61からプローブ昇降装置7の昇降駆動モータに供給される駆動電流値の直近10ミリ秒の変化量が30mA以上であるか否かを判定する。ステップS6において、駆動電流値の変化量が第1閾値以上でないと判定された場合には、湯面判定部62はステップS7を実行する。一方で、ステップS6において、駆動電流値の変化量が第1閾値以上であると判定された場合には、湯面判定部62はステップS8を実行する。
【0044】
ステップS7では、湯面判定部62が、所定の判定間隔(例えば10ミリ秒)が経過しているか否かを判定する。ステップS7は、所定の判定間隔が経過するまで繰り返し実行される。ステップS7において所定の判定間隔が経過していると判定された場合には、湯面判定部62は再度ステップS6を実行する。
【0045】
ステップS8では、湯面判定部62が、駆動電流値の最新値と、該最新値よりも前に検知された駆動電流値の複数の過去値の平均値(時平均データ)との差異(偏差)が所定の第2閾値以上であるか否かを判定する。具体的には、湯面判定部62は、例えば、駆動電流値の最新値と、過去7回の判定に用いられた駆動電流値の時平均データとの偏差が所定の第2閾値以上であるか否かを判定する。ステップS8において、偏差が第2閾値以上でないと判定された場合には、湯面判定部62は、上述したステップS7を実行する。一方で、ステップS8において、偏差が第2閾値以上であると判定された場合には、湯面判定部62はステップS9を実行する。
【0046】
ステップS9では、湯面判定部62が、駆動電流値の変化量が第1閾値以上となっており、且つ、時平均データとの差異が第2閾値以上となっていることを条件に、測温プローブ3が湯面MSに到達していると判定する。
【0047】
ステップS10では、昇降制御部61が、湯面判定部62によって湯面MSに到達していると判定された測温プローブ3の現在の高さを基準として、該測温プローブ3が所定の浸漬深さまで下降するようにプローブ昇降装置7を制御する。すなわち、昇降制御部61は、湯面判定部62によって測温プローブ3が湯面MSに到達したと判定された位置から、設定されている所定の浸漬深さ分だけ測温プローブ3が下降するように、プローブ昇降装置7を制御する。
【0048】
ステップS11では、昇降制御部61が、所定の浸漬深さで測温プローブ3が停止するように、プローブ昇降装置7を制御し、測温プローブ3に所定の浸漬深さにおける溶鋼温度の計測を行わせる。以上の処理により、駆動電流値に基づき高精度に特定された湯面レベルに基づいて、所定の浸漬深さで溶鋼温度の計測を行うことができる。
【0049】
[本実施形態の作用効果]
製鋼工場の各処理設備においては、溶鋼に測温プローブが挿入され、該測温プローブにより溶鋼温度(溶鋼における所定位置の温度)の計測が行われる。溶鋼温度の計測は、湯面レベルを基準として、該湯面レベルから所定の浸漬深さだけ測温プローブを下降挿入することにより実施される。ここで、溶鋼鍋内の湯面レベルは、チャージ毎に異なる場合がある。そのため、溶鋼温度の計測においては、チャージ毎に、溶鋼鍋内の湯面レベルを正確に特定し、該湯面レベルに基づき所定の浸漬深さで温度計測を行うことが重要となる。
【0050】
湯面レベルを特定する方法として、μ波レベル計等の湯面レベル計測装置を設けることが考えられる。しかしながら、溶鋼温度計測に係る装置とは別に湯面レベル計測装置を設ける場合には、設備費が増加すると共に設置スペースの増大が問題となる。また、別装置が湯面レベルを計測し、該湯面レベルに基づき溶鋼温度計測装置が所定の浸漬深さで温度計測を行う場合においては、2つの装置間での湯面計測誤差ならびに位置制御誤差が生じやすくなるため、高精度に所定の浸漬深さでの温度計測を行うことができない場合がある。また、湯面レベル計測装置を設けずに、オペレータの目視によって湯面レベルを特定することも考えられる。しかしながら、オペレータの作業位置から湯面までは目視で正確に判断できない程度の距離があることから、一般的には、目視だけではなく、鍋内の溶鋼重量から概算される湯面レベルの情報等も用いて湯面レベルを特定する必要がある。このようにして湯面レベルを特定する場合には、上述した湯面レベル計測装置を用いる場合よりも、湯面レベルの特定精度が低くなってしまい、高精度に所定の浸漬深さでの温度計測を行うことができない。
【0051】
このような従来の課題を解決する本実施形態の溶鋼温度計測方法は、溶鋼鍋100内の溶鋼の温度を計測する溶鋼温度計測方法であって、プローブ昇降装置7により、溶鋼の湯面MSに向かって測温プローブ3を下降させる工程と、測温プローブ3を下降させるプローブ昇降装置7の駆動電流値を監視する工程と、駆動電流値の変化量が所定の第1閾値以上であるか否かを判定する工程と、変化量が第1閾値以上である場合に、測温プローブ3が湯面MSに到達していると判定し、該測温プローブ3の高さを基準として、所定の浸漬深さまで測温プローブ3を下降させて測温プローブ3により溶鋼の温度を計測する工程と、を含む。
【0052】
本実施形態に係る溶鋼温度計測方法では、溶鋼の湯面MSに向かって測温プローブ3を下降させるプローブ昇降装置7の駆動電流値が監視され、該駆動電流値が第1閾値以上である場合に測温プローブ3が湯面MSに到達していると判定される。測温プローブ3が空中を下降する状態においては、測温プローブ3に対して、特段、抵抗負荷となるものが存在しないため、プローブ昇降装置7の駆動電流値は比較的小さくなる。一方で、測温プローブ3が溶鋼の湯面MSに到達した際には、測温プローブ3が比重の高い溶鋼内に進入することとなるため溶鋼が抵抗負荷となると共に、湯面MSにはスラグ等の溶融析出物又は介在物が浮遊していることからこれらを測温プローブ3の先端が突き抜けていく際の衝撃負荷が加わり、上述した駆動電流値が増大する。よって、空中を下降してきた測温プローブ3が湯面MSに到達した際に、プローブ昇降装置7の駆動電流値は急激に増大することとなる。本実施形態に係る溶鋼温度計測方法では、このような駆動電流値の急激な増大に着目し、駆動電流値の変化量が一定値(第1閾値)を超えた場合に測温プローブが湯面に到達していると判定している。これにより、湯面MSレベルを高精度に特定することができる。そして、本実施形態に係る溶鋼温度計測方法では、判定した湯面MSレベルが基準とされて所定の浸漬深さまで更に測温プローブ3を下降させ、所定の浸漬深さにおける溶鋼の温度が計測されるため、高精度に特定した湯面MSレベルに基づき、所定の浸漬深さで温度計測を行うことが可能となる。すなわち、本実施形態に係る溶鋼温度計測方法によれば、チャージ毎に異なる湯面MSレベルの影響を受けることなく常に一定の浸漬深さで安定した精度の高い温度計測を実現することができる。
【0053】
また、本実施形態に係る溶鋼温度計測方法では、プローブ昇降装置7の駆動電流値の変化量から湯面MSレベルを判定しているため、μ波レベル計等の湯面レベル計測装置を別に設けることなく、高精度に湯面MSレベルを特定することが可能となっている。別装置を設けないことにより、設備費の増加及び設置スペースの増大等が生じることを回避することができる。
【0054】
上述した本実施形態に係る溶鋼温度計測方法の作用効果について、
図5を参照してより詳細に説明する。
図5は、昇降速度、プローブ高さ、及び駆動電流値の関係の一例を時系列に示したチャート図である。
図5に示すように、時刻t0において、昇降制御装置50によるプローブ昇降装置7への駆動電流の供給が開始され、測温プローブ3が下降を開始する。昇降制御装置50は、測温プローブ3が所定の下降速度(
図5に示す例では40m/分)となるまで徐々に下降速度を増加させ、時刻t1において所定の下降速度となると、当該所定の下降速度を維持した状態で測温プローブ3を更に下降させる。そして、時刻t2に示される減速開始点から昇降速度が低減されていく中で、時刻t3において駆動電流値の変化量が急激に大きく(第1閾値よりも大きく)なっている。これにより昇降制御装置50は、当該時刻t3の時点の測温プローブ3の位置を湯面MSレベルであると判定することができる。このように、駆動電流値の変化量はプローブ先端が湯面に到達した時点で急激に大きくなるため、駆動電流値を監視することによって、湯面MSレベルを容易に判定することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る溶鋼温度計測方法において、測温プローブ3を下降させる工程では、湯面MSに近接する所定の近接領域において測温プローブ3の下降速度を低減している。溶鋼鍋100内の湯面MSレベルはチャージ毎に異なるものの、湯面MSレベルは概ね特定の範囲に限定できるため、予め、湯面MSに近接すると想定される高さ(領域)を近接領域として設定しておくことができる。そして、当該近接領域においては測温プローブ3の下降速度を低減することにより、所定の時間間隔で駆動電流値の変化量を判定する場合において、より高精度に湯面MSレベルを特定することができる。
【0056】
図6は、昇降速度、プローブ高さ、及び駆動電流値の関係の他の例を時系列に示したチャート図である。
図6に示すチャート図は、概ね
図5に示すチャート図と一致しているものの、湯面MSに到達する時刻t3の前の、時刻tx~時刻tyの区間(近接領域の区間)において、測温プローブ3の下降速度が低減されている(時刻t3の前に下降速度の低減が完了している)点において異なっている。このように、湯面MSに到達する前段階で測温プローブ3の下降速度が低減されていることにより、駆動電流値の変化量から湯面MSの到達を判定する場合において、より正確に湯面MSの到達を判定することができる。
図6に示す測温プローブが湯面MSに到達する前段階でプローブの下降速度が低減されている場合には駆動電流値の変化も低減されるため、湯面判定部の第1閾値は例えば20mA以上、第2閾値は例えば40mA以上のように設定すればよいことになる。
【0057】
また、本実施形態の溶鋼温度計測方法では、駆動電流値の変化量が第1閾値以上であるか否かを判定する工程を、プローブ昇降装置7によって測温プローブ3が所定の湯面判定領域に到達した場合にのみ実施している。測温プローブ3を下降させる過程においては、何らかの外的要因等により、湯面MSに到達していない状態においても駆動電流値の変化量が大きくなることが考えられ、この場合には湯面MSレベルを誤検知してしまうおそれがある。この点、湯面MSレベルとなり得ない範囲では変化量の判定を行わないこととし、測温プローブ3が所定の湯面判定領域に到達した場合のみ変化量の判定を行うことにより、上述した湯面MSレベルの誤検知を防止することができる。
【0058】
また、本実施形態の溶鋼温度計測方法において、駆動電流値の変化量が第1閾値以上であるか否かを判定する工程では、直近10ミリ秒の変化量が30mA以上となった場合に変化量が第1閾値以上であると判定する。このように、
図3に示した実験結果等に基づいて、駆動電流値が30mA/10ミリ秒以上変化した場合に測温プローブ3が湯面MSに到達したと判定することにより、湯面MSレベルを高精度に特定することができる。
【0059】
また、本実施形態の溶鋼温度計測方法は、駆動電流値の最新値と、該最新値よりも前に検知された駆動電流値の複数の過去値の平均値との差異(偏差)が所定の第2閾値以上であるか否かを判定する工程を更に含み、溶鋼の温度を計測する工程では、変化量が第1閾値以上であり、且つ、偏差が第2閾値以上である場合に、測温プローブ3が湯面MSに到達していると判定する。このように、駆動電流値の直近の変化量に加えて、複数の過去値の平均値(時平均データ)との差異が所定値以上であることを、湯面MS到達と判定するための条件とすることにより、例えば直近の駆動電流値だけが外的要因等により小さな値となったことによって駆動電流値の変化量が大きくなり湯面MSレベルを誤検知してしまうこと等を防止することができる。すなわち、湯面MSレベルをより高精度に特定することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…溶鋼温度計測装置、3…測温プローブ、7…プローブ昇降装置、50…昇降制御装置(制御部)、100…溶鋼鍋、MS…湯面。