IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社マキタの特許一覧

<>
  • 特許-インパクト工具 図1
  • 特許-インパクト工具 図2
  • 特許-インパクト工具 図3
  • 特許-インパクト工具 図4
  • 特許-インパクト工具 図5
  • 特許-インパクト工具 図6
  • 特許-インパクト工具 図7
  • 特許-インパクト工具 図8
  • 特許-インパクト工具 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】インパクト工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
B25B21/02 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017230792
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019098450
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】平林 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】川合 靖仁
【審査官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-190741(JP,A)
【文献】特開2012-111035(JP,A)
【文献】特開2013-035090(JP,A)
【文献】特開2012-139801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00-21/02
B23B 45/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの駆動により回転し、前後方向に延びるスピンドルと、
前記スピンドルと同軸上に配置されて前方へ突出するアンビルと、
前記スピンドルに外装され、前記アンビルの軸方向に前後移動して前記アンビルに係脱することで前記アンビルを回転方向に打撃する筒状のメインハンマと、
前記メインハンマの後方で前記スピンドルに遊挿されて前方が開口し、前記メインハンマに後方から外装される有底筒状で、前記スピンドルの軸方向での前後移動が規制されて前記メインハンマへ回転方向で一体に結合されるサブハンマと、
前記メインハンマと前記サブハンマとを前後方向で一体に結合可能な結合手段と、
前記サブハンマに外装され、前記サブハンマと結合して一体回転する後退位置と、前記後退位置よりも前方で前記サブハンマとの結合が解除される第1の前進位置と、前記第1の前進位置よりも前方で前記結合手段により前記メインハンマと前記サブハンマとを結合させる第2の前進位置と、の間で前後方向へスライド可能なウエイトリングと、
前記ウエイトリングのスライド位置を切替操作可能な切替部材と、を含み、
前記切替部材の切替操作により、
前記ウエイトリングの前記第1の前進位置では、前記メインハンマと前記サブハンマとが一体回転して前記アンビルが打撃される第1の打撃モードが、前記ウエイトリングの前記後退位置では、前記メインハンマと前記サブハンマと前記ウエイトリングとが一体回転して前記アンビルが打撃される第2の打撃モードが、前記ウエイトリングの前記第2の前進位置では、前記メインハンマの前後移動を規制して前記アンビルと一体回転させるドリルモードがそれぞれ選択可能であることを特徴とするインパクト工具。
【請求項2】
前記結合手段は、前記メインハンマの外周面で周方向に形成されるリング状の嵌合溝と、前記サブハンマの周壁を半径方向に貫通する円形孔と、前記円形孔に嵌合して前記半径方向に移動可能なボールとを含んでなり、
前記ウエイトリングは、前記第2の前進位置では前記ボールを前記周壁の軸心側へ押圧して前記円形孔と前記嵌合溝とに跨がって嵌合させ、前記後退位置及び前記第1の前進位置では前記ボールの押圧を解除することを特徴とする請求項1に記載のインパクト工具。
【請求項3】
前記モータの回転数を複数段階に切り替え可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインパクト工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングの前方へ突出させたアンビル回転による打撃力や慣性力を付与する機構を備えたインパクトドライバ等のインパクト工具関する。
【背景技術】
【0002】
インパクト工具は、モータを収容したハウジングの前方に突出されてモータから回転伝達されるアンビル等の出力軸を備えると共に、ハウジングに、出力軸に回転方向の打撃力(インパクト)を間欠的に付与する打撃機構を備えている。例えば特許文献1には、モータから回転伝達されるスピンドルに外装され、アンビルに係合するメインハンマと、そのメインハンマの後方でスピンドルに遊挿され、メインハンマに後方から外装されて一体回転可能な筒状のサブハンマとを含む打撃機構を備えた震動機構付きのインパクト工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-35091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記インパクト工具においては、メインハンマとサブハンマとを合わせた質量でアンビルに係脱させてインパクトを発生させるため、回転方向の打撃力及び慣性力が常に一定となっている。しかし、このようなハンマを用いた機械的な打撃機構においても、打撃力や慣性力を例えば強弱二段階に切り替え可能として使い勝手を良くするのが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、打撃力や慣性力が簡単に切り替え可能となるインパクト工具提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、モータと、モータの駆動により回転し、前後方向に延びるスピンドルと、スピンドルと同軸上に配置されて前方へ突出するアンビルと、スピンドルに外装され、アンビルの軸方向に前後移動してアンビルに係脱することでアンビルを回転方向に打撃する筒状のメインハンマと、
メインハンマの後方でスピンドルに遊挿されて前方が開口し、メインハンマに後方から外装される有底筒状で、スピンドルの軸方向での前後移動が規制されてメインハンマへ回転方向で一体に結合されるサブハンマと、
メインハンマとサブハンマとを前後方向で一体に結合可能な結合手段と、
サブハンマに外装され、サブハンマと結合して一体回転する後退位置と、後退位置よりも前方でサブハンマとの結合が解除される第1の前進位置と、第1の前進位置よりも前方で結合手段によりメインハンマとサブハンマとを結合させる第2の前進位置と、の間で前後方向へスライド可能なウエイトリングと、
ウエイトリングのスライド位置を切替操作可能な切替部材と、を含み、
切替部材の切替操作により、ウエイトリングの第1の前進位置では、メインハンマとサブハンマとが一体回転してアンビルが打撃される第1の打撃モードが、ウエイトリングの後退位置では、メインハンマとサブハンマとウエイトリングとが一体回転してアンビルが打撃される第2の打撃モードが、ウエイトリングの第2の前進位置では、メインハンマの前後移動を規制してアンビルと一体回転させるドリルモードがそれぞれ選択可能であることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、結合手段は、メインハンマの外周面で周方向に形成されるリング状の嵌合溝と、サブハンマの周壁を半径方向に貫通する円形孔と、円形孔に嵌合して半径方向に移動可能なボールとを含んでなり、
ウエイトリングは、第2の前進位置ではボールを周壁の軸心側へ押圧して円形孔と嵌合溝とに跨がって嵌合させ、後退位置及び第1の前進位置ではボールの押圧を解除することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、モータの回転数を複数段階に切り替え可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、打撃力や慣性力が簡単に切り替え可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】インパクトドライバの側面図である。
図2】インパクトドライバの平面図である。
図3】本体ハウジング部分の中央縦断面図である。
図4】遊星歯車減速機構及び打撃機構の分解斜視図である。
図5図3のA-A線断面図である。
図6】震動機構の分解斜視図である。
図7】(A)は、パワーインパクトモードでのユニット部分の一部を断面で示す平面図、(B)は右側の半割ハウジングを省略した側面図である。
図8】(A)は、インパクトモードでの一部を断面で示す平面図、(B)は右側の半割ハウジングを省略した側面図である。
図9】(A)は、ドリルモードでの一部を断面で示す平面図、(B)は右側の半割ハウジングを省略した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、インパクト工具及び回転工具の一例であるインパクトドライバ1の側面図、図2は平面図、図3は本体ハウジング部分の中央縦断面図である。
このインパクトドライバ1は、左右の半割ハウジング3,3を複数のネジ3a,3a・・によって組み付けて形成される本体ハウジング2を有し、本体ハウジング2内に、後方からモータ4、遊星歯車減速機構5、スピンドル6がそれぞれ収容されている。また、本体ハウジング2の前部には、スピンドル6と共に打撃機構8を収容した筒状のインナーハウジング7が組み付けられて、スピンドル6の前方同軸上に配置された出力軸としてのアンビル9が、インナーハウジング7及びその前端に固定される前ハウジング10に軸支されて前方へ突出している。前ハウジング10内には、震動機構11が収容されている。前ハウジング10の前端には、ゴム製リング状のバンパ12が嵌着されている。
【0010】
本体ハウジング2の下方には、ハンドル13が下向きに延設され、ハンドル13内には、トリガ15を備えたスイッチ14が収容されている。スイッチ14の上側には、モータ4の正逆切替レバー16が設けられ、その前方には、アンビル9の前方を照射するLED17が設けられている。
ハンドル13の下端には、電源となるバッテリーパック19を前方からスライド装着させるバッテリー装着部18が形成されて、バッテリー装着部18内には、装着されたバッテリーパック19と電気的に接続される端子台と、モータ4を制御するマイコンやスイッチング素子等を搭載した制御回路基板からなるコントローラと(何れも図示略)が収容されている。
【0011】
モータ4は、ステータ20とその内側のロータ21とからなるインナロータ型のブラシレスモータで、ステータ20は、筒状のステータコア22とその前後の端面に取り付けられた前インシュレータ23及び後インシュレータ24と、前後インシュレータ23,24を介してステータコア22の内側に巻回される複数のコイル25,25・・とを備えている。ロータ21は、軸心に位置する回転軸26と、回転軸26の周囲に配置される筒状のロータコア27と、ロータコア27の外側に配置され、筒状で周方向に極性を交互に変えた永久磁石28,28・・と、これらの前側において放射状に配置された複数のセンサ用永久磁石29,29・・とを有する。前インシュレータ23の前面には、センサ用永久磁石29,29・・の位置を検出する回転検出素子を備えたセンサ回路基板30が取り付けられている。
【0012】
また、回転軸26の前端は、本体ハウジング2内でインナーハウジング7の後部に組み付けられる有底筒状のギヤハウジング31の後端面を貫通して軸受32によって軸支され、前端にはピニオン33が取り付けられている。
一方、回転軸26の後端には、遠心ファン34が取り付けられてその後方に軸受35が組み付けられて、遠心ファン34の径方向外側で本体ハウジング2の側面には、複数の排気口36,36・・が形成されている。排気口36の前方でセンサ回路基板30の径方向外側から後方へかけて本体ハウジング2の側面には、複数の吸気口37,37・・が形成されている。
【0013】
[遊星歯車減速機構及び変速機構]
遊星歯車減速機構5は、モータ4の前方でギヤハウジング31内に収容されて、図4にも示すように、第1インターナルギヤ41内で遊星運動する一段目の遊星歯車42,42・・を保持する第1キャリア40と、第2インターナルギヤ44内で遊星運動する二段目の遊星歯車45,45・・を保持する第2キャリア43とを備え、ギヤハウジング31内に突出する回転軸26のピニオン33に一段目の遊星歯車42を噛合させている。また、第2キャリア43は、スピンドル6の後端へ一体に形成されて、ギヤハウジング31内に設けた保持リング46に保持される軸受47に軸支されている。
【0014】
ここで、第1インターナルギヤ41は、内周前側に、周方向へ所定間隔で複数の内歯48,48・・を備える一方、第2インターナルギヤ44は、外周前側にリング状の係合溝49を、外周後側に、周方向へ所定間隔で突設した複数の外歯50,50・・をそれぞれ備えている。また、第2インターナルギヤ44は、第2キャリア43の後方へ一体に連結したスパーギヤ51と二段目の遊星歯車45,45・・との双方に噛合する前進位置と、第1インターナルギヤ41の内歯48に外歯50を係合させて二段目の遊星歯車45,45・・のみに噛合する後退位置との間でスライド可能に設けられている。
このスパーギヤ51は、遊星歯車45,45・・を支持する支持ピン52,52・・に貫通されて第2キャリア43と遊星歯車45,45・・との間に位置する別体のギヤで、第2キャリア43の外径は、歯先を含むスパーギヤ51の外径よりも小径となっている。
【0015】
第2インターナルギヤ44の外側には、ギヤハウジング31及びインナーハウジング7の内周面に沿って前後へスライド可能なスライドリング53が設けられて、スライドリング53の外側から半径方向に貫通する係合ピン54,54・・が、第2インターナルギヤ44の係合溝49と係合している。スライドリング53の上部外周には、ギヤハウジング31の上部に突出する突起55が設けられて、この突起55が、本体ハウジング2に前後へスライド可能に設けたスライドボタン56に、前後のコイルバネ57,57を介して保持されている。
よって、スライドボタン56の前後へのスライド操作により、スライドリング53を介して第2インターナルギヤ44の位置を前後へ切替可能となる変速機構が形成される。すなわち、第2インターナルギヤ44の前進位置では、第2インターナルギヤ44がスパーギヤ51と一体回転することで遊星歯車45,45・・の遊星運動をキャンセルした高速モード(2速)となり、第2インターナルギヤ44の後退位置では、第2インターナルギヤ44が固定されて遊星歯車45,45・・を遊星運動させる低速モード(1速)となる。
【0016】
[打撃機構]
打撃機構8は、アンビル9の後端に設けた一対のアーム(図示略)にハンマ60を係脱させる構造であるが、ここでのハンマ60は、スピンドル6の前端に外装され、アームに係合する一対の爪61,61を前面に突設した筒状のメインハンマ60Aと、そのメインハンマ60Aの後方でスピンドル6に同軸で遊挿されて前方が開口する有底筒状で、メインハンマ60Aに後方から外装されるサブハンマ60Bとに分割されている。メインハンマ60Aとサブハンマ60Bの周壁とを合わせた径は従前のハンマの外径と等しくなっている。
まず、メインハンマ60Aは、その内周面に前端から後方へ向けて凹設されて後端が先細りとなる図示しない山形溝と、スピンドル6の外周面で先端を前方に向けて凹設されたV字溝62,62とに跨って嵌合するボール63,63を介してスピンドル6と連結されている。
【0017】
一方、メインハンマ60Aとサブハンマ60Bとの間でスピンドル6には、コイルバネ64が外装されて、メインハンマ60Aを爪61がアームに係合する前進位置へ付勢する一方、サブハンマ60Bを後方へ付勢している。サブハンマ60Bと第2キャリア43との間でスピンドル6には、ワッシャー65が外装され、サブハンマ60Bの後面に凹設されたリング溝66には、後面から突出する複数のボール67,67・・が収容されてスラスト軸受を形成している。よって、コイルバネ64によって後方へ付勢されるサブハンマ60Bは、ボール67がワッシャー65に当接する後方位置へ回転可能な状態で押圧されて前後動が規制されることになる。
【0018】
また、サブハンマ60Bの周壁の内周面には、前端から軸方向で後方へ伸びる複数の案内溝68,68・・が、周方向へ等間隔をおいて形成されており、メインハンマ60Aの外周には、案内溝68よりも短い複数の長円溝69,69・・が、周方向に案内溝68と同じ間隔で形成されて、案内溝68と長円溝69とに跨って円柱状の連結ピン70,70・・が嵌合している。よって、メインハンマ60Aとサブハンマ60Bとは、連結ピン70により、軸方向への相対移動が許容された状態で、回転方向へは一体に連結される。
さらに、メインハンマ60Aの外周面で後端際には、周方向にリング状の嵌合溝71が凹設される一方、サブハンマ60Bの周壁において、案内溝68の後端位置で案内溝68,68の間には、半径方向に貫通する複数の円形孔72,72・・が形成されて、その円形孔72にボール73がそれぞれ嵌合している。加えて、サブハンマ60Bの後端外周には、前方へ向けた山形状となる後突起74,74・・が、周方向に等間隔をおいて複数突設されている。
【0019】
そして、サブハンマ60Bの周壁には、ウエイトリング75が外装されている。このウエイトリング75は、内周がサブハンマ60Bの周壁に摺接する内径を有し、後端内周には、サブハンマ60Bの後突起74,74・・に噛み合う後ろ向きの山形状となる前突起76,76・・が、周方向に等間隔をおいて複数突設されている。また、ウエイトリング75の内周には、リング状の逃がし溝77が、前端から後方へ向けて形成されている。さらに、ウエイトリング75の外周面で前後方向の中間部位にも、リング状の凹溝78が形成されている。このウエイトリング75は、図5に示すように、前突起76,76・・がサブハンマ60Bの後突起74,74・・に噛み合ってサブハンマ60Bと一体回転する後方の結合位置と、前突起76,76・・が後突起74,74・・から離れてサブハンマ60Bとの結合が解除される前方の非結合位置との間で前後へスライド可能となっている。
【0020】
一方、インナーハウジング7には、図6にも示すように、本体ハウジング2の前方に位置するモード切替部材としてのモード切替リング80を前端外周へ一体回転可能に装着した連係スリーブ79が外装されている。この連係スリーブ79は、周方向の一部を軸方向全長に亘って切り欠いたC字状の筒状体で、前後方向の中央部には、周方向に切欠き81が形成されており、この切欠き81に、インナーハウジング7の外周面に突設した案内突起82を嵌合させることで、連係スリーブ79は、前後方向への移動を規制された状態で回転可能となっている。また、切欠き81の後方で連係スリーブ79の外周の点対称位置には、前後方向の長円となる一対の貫通孔83,83が形成され、各貫通孔83に沿った外周面には、貫通孔83より一回り大きい四角形状の案内凹部84がそれぞれ形成されている。さらに、案内凹部84,84の間の外周面には、周方向に沿った第1突条85と、その第1突条85の端部から周方向へ行くに従って後方へ直線状に傾斜する第2突条86とが突設されて、両突条85,86と略点対称位置となる連係スリーブ79の後端には、後述するマイクロスイッチ123A,123Bのプランジャ124A,124Bの押し込み又はその解除を行う接触子87が形成されている。
【0021】
そして、連係スリーブ79の各貫通孔83には、案内凹部84に嵌合する正方形状のフランジ部89を外側端部に有する筒状のガイドホルダ88がそれぞれ貫通している。各ガイドホルダ88は、半径方向で連係スリーブ79の軸心側へ突出すると共に、案内凹部84によるフランジ部89の案内により、前後方向へ移動可能となっている。
インナーハウジング7には、ガイドホルダ88が貫通し、貫通孔83の前端に対応する前後位置で周方向に形成される前側溝91と、貫通孔83の中間に対応する前後位置で周方向に形成される中間溝92と、貫通孔83の後端に対応する前後位置で周方向に形成される後側溝93と、前側溝91と中間溝92との間及び中間溝92と後側溝93との間をそれぞれ連通させる傾斜溝94,94とからなるガイド溝90が形成されている。ガイドホルダ88には、インナーハウジング7の軸心側からガイド溝90を介してガイドピン95が差し込まれて、ガイドピン95の頭部をウエイトリング75の凹溝78に嵌合させている。
【0022】
なお、アンビル9は、後面軸心に形成した軸受孔96に、スピンドル6の前端に突設した小径の先端部97を嵌合させて、スピンドル6の前端を同軸で軸支している。軸受孔96には、コイルバネ98によって先端部97の端面に押圧されてスラスト方向の荷重を受けるボール99が収容されている。アンビル9は、ボール99の外側でインナーハウジング7の前面へ同軸で結合される前筒100の内側で、軸受101を介して軸支されている。
さらに、前ハウジング10から突出するアンビル9の前端には、ビットの装着孔102が形成されると共に、装着孔102に挿入されたビットを抜け止め装着するために、アンビル9に設けたボールを後退位置で装着孔102内へ押圧するスリーブ103等を備えたチャック機構が設けられている。
【0023】
[震動機構]
震動機構11は、インナーハウジング7の前筒100と、その前筒100に外装される前ハウジング10との内側に収容される。まず前ハウジング10内でアンビル9には、図6にも示すように、後面にカム面105を形成した第1カム104が一体に固着されて、前ハウジング10内で軸受106に軸支されている。第1カム104及び軸受106の前方には、止め輪107が設けられている。
また、第1カム104の後方でアンビル9には、前面にカム面109を形成した第2カム108が回転可能に外装されている。この第2カム108は、インナーハウジング7の前面でリング状の受け金110に沿って収容された複数のボール111,111・・によって後面が保持されて、常態ではカム面109を第1カム104のカム面105と係合させている。第2カム108の外周には、半径方向へ突出する複数の突起112,112・・が、周方向へ等間隔をおいて形成されている。また、第2カム108の外周と軸受106との間には、スプリングワッシャー113及びスペーサ114が介在されている。
【0024】
一方、前筒100内には、震動切替リング115が設けられている。この震動切替リング115は、第2カム108の外径よりも内径が大きいリング体で、外周に突設した複数の外突起116,116・・を、前筒100の内面に設けた軸方向の規制溝117,117・・に嵌合させることで、前筒100内で回転規制された状態で前後移動可能に保持されている。震動切替リング115の内周には、第2カム108に外装させた状態で第2カム108の突起112に係止する内突起118が突設されている。すなわち、震動切替リング115が第2カム108に外装される前進位置では、第2カム108の回転を規制し、震動切替リング115が第2カム108から離間する後退位置では、第2カム108の回転を許容するものとなる。
【0025】
また、震動切替リング115には、一対の連係板119,119(図4)が係止している。この連係板119は、インナーハウジング7の前側側面へ点対称に配設される帯板状の金属板で、インナーハウジング7の側面で前後方向に形成した一対の外溝120,120の案内で前後方向へ移動可能となる。各連係板119の外面には、外側へ突出する係合突起121が形成されている。
モード切替リング80の内周面には、各連係板119の係合突起121が嵌合する図示しない案内溝が形成されて、モード切替リング80の回転操作に伴い、連係板119,119が前進して震動切替リング115を前進位置に移動させる第1の位置と、連係板119,119が後退して震動切替リング115を後退位置に移動させる第2の位置とが選択可能となっている。
【0026】
一方、スライドボタン56の下面で前端左側のコーナー部には、スライドボタン56が1速である後退位置にある状態で連係スリーブ79が回転した際に、第2突条86の先端と係合する受け突起122(図3)が突設されている。よって、そのまま連係スリーブ79が回転すると、第2突条86に沿って受け突起122が前方へ案内されることで、スライドボタン56は前進する。受け突起122が第1突条85の前方に乗り上がると、スライドボタン56は2速である前進位置に到達するようになっている。
【0027】
そして、インナーハウジング7の後方下面には、左右一対のマイクロスイッチ123A,123Bが、プランジャ124A,124Bを前方へ向けて配設されている。このマイクロスイッチ123A,123Bは、ハンドル13の下端に設けたコントローラに、クラッチモードのON/OFF信号を出力するもので、コントローラは、マイクロスイッチ123Bのプランジャ124Bのみの押し込みによるON信号が入力されると、モータ4に設けた図示しないトルクセンサから得られるトルク値を監視し、設定されたトルク値に達すると、モータ4へ制動をかけてアンビル9へのトルクを遮断するものとなる。
【0028】
[各動作モードの選択]
以上の如く構成されたインパクトドライバ1において、モード切替リング80及び連係スリーブ79の回転位置(切替位置)と各動作モードとについて説明する。
(1)パワーインパクトモード
まず、図7(A)に示すように、モード切替リング80を前方から見て最も右側へ回転させた第1位置(モード切替リング80の表示Pが本体ハウジング2の上面に設けた矢印125の前方に位置する切替位置)では、連係スリーブ79と回転方向で一体のガイドホルダ88も右回転方向へ移動し、ガイド溝90内を移動して後側溝93に達する。よって、同図(B)に示すように、ガイドホルダ88は貫通孔83の後端に位置する。すると、ガイドピン95を介してガイドホルダ88に連結されるウエイトリング75は、前突起76をサブハンマ60Bの後突起74に噛合させて逃がし溝77をボール73,73・・の外側に位置させる結合位置へ後退する。この結合位置で各ボール73は、サブハンマ60Bの内周面に没入してメインハンマ60Aの嵌合溝71から離間する解除位置へ移動することができる。よって、メインハンマ60Aの後退を許容すると共に、サブハンマ60Bをウエイトリング75と共にメインハンマ60Aと一体回転させるパワーインパクトモード(第2の打撃モード、第2の回転モード)となる。
【0029】
このとき、連係スリーブ79の第1突条85がスライドボタン56の受け突起122の後方に位置してスライドボタン56を前進位置に移動させているため、スライドボタン56の後退は規制され、常に高速モードとなる。一方、連係板119,119は後退位置にあって震動切替リング115を後退させて第2カム108の回転をフリーとする。また、接触子87は、マイクロスイッチ123A,123Bの何れのプランジャ124A,124Bにも当接していない。
【0030】
従って、ハンドル13に設けたトリガ15を操作してスイッチ14をONさせると、モータ4が駆動する。すなわち、コントローラが、センサ回路基板30の回転検出素子により検出されるセンサ用永久磁石29,29の位置に基づいてロータ21の回転状態を取得し、スイッチング素子をON/OFF動作させてステータ20のコイル25,25に順番に電流を流すことでロータ21を回転させる。すると、ロータ21の回転軸26の回転が遊星歯車減速機構5を介してスピンドル6に伝わり、スピンドル6を回転させる。スピンドル6は、ボール63,63を介してメインハンマ60Aを回転させ、メインハンマ60Aが係合するアンビル9を回転させるため、アンビル9の先端に装着したビットによってネジ締め等が可能となる。このとき連結ピン70,70・・を介して回転方向に連結されるサブハンマ60Bも、ウエイトリング75と共にメインハンマ60Aと一体に回転する。なお、アンビル9の回転に伴って第1カム104が回転しても、これと係合する第2カム108の回転はフリーであるため、第2カム108も一体回転してアンビル9に震動は発生しない。
【0031】
ネジ締めが進んでアンビル9のトルクが高まると、メインハンマ60Aの回転とスピンドル6の回転とにずれが生じるため、メインハンマ60Aは、ボール63,63がV字溝62,62に沿って転動することで、スピンドル6に対して相対的に回転しながらコイルバネ64の付勢に抗して後退する。このときサブハンマ60Bは、メインハンマ60Aの後退を許容しつつ連結ピン70,70・・を介してメインハンマ60A及びウエイトリング75と一体に回転する。
そして、メインハンマ60Aの爪61,61がアームから外れると、メインハンマ60Aはコイルバネ64の付勢により、ボール63,63がV字溝62,62の先端に向けて転動することで回転しながら前進する。よって、メインハンマ60Aの爪61,61が再びアームに係合して回転方向の打撃力(インパクト)を発生させる。このアンビル9への係脱を繰り返すことでさらなる締め付けが行われる。
【0032】
このとき、サブハンマ60B及びウエイトリング75もメインハンマ60Aに追従して回転するため、両ハンマ60A,60B及びウエイトリング75を合わせた質量でアンビル9へ係脱することになる。また、回転時には後面のボール67,67・・がワッシャー65の前面を転動することで回転抵抗が軽減されるため、メインハンマ60Aの前後動に伴ってコイルバネ64が伸縮してもサブハンマ60Bはスムーズに回転できる。さらに、メインハンマ60Aがインパクト発生時に前後動を繰り返しても、サブハンマ60Bは後方位置を維持して前後へ移動することはないため、インパクト発生時の振動は抑えられる。
【0033】
なお、モータ4の回転数は、コントローラに設けられてバッテリー装着部18の上面に露出する図示しない操作パネルに備えられたボタンの操作により、4段階に切り替え可能となっている。また、操作パネルに設けた表示部には、「弱」「中」「強」「最強」の文字が記載されており、選択した段階の回転数が点灯表示される。
ここで高い回転数が選択されると、ハンマ60による慣性力も大きくなるため、このインパクトドライバ1では、ハンマ60による慣性力の電気的な変更と機械的な変更とが共にできることになる。
【0034】
(2)インパクトモード
次に、図8(A)に示すように、モード切替リング80を第1位置から所定角度左回転させた第2位置(モード切替リング80の表示M1が矢印125の前方に位置する切替位置)では、ガイドホルダ88も左回転方向へ移動し、ガイド溝90内を移動して傾斜溝94から中間溝92に達する。よって、同図(B)に示すように、ガイドホルダ88は貫通孔83の略中間に位置する。すると、ガイドピン95を介してガイドホルダ88に連結されるウエイトリング75は、前突起76をサブハンマ60Bの後突起74から離間させる非結合位置へ前進する。但し、逃がし溝77をボール73の外側に位置させる状態は変わらないため、ボール73は、サブハンマ60Bの内周面に没入してメインハンマ60Aの嵌合溝71から離間する解除位置へ移動することができる。よって、メインハンマ60Aの後退を許容すると共に、サブハンマ60Bのみをメインハンマ60Aと一体回転させるインパクトモード(第1の打撃モード、第1の回転モード)となる。
【0035】
このときも連係スリーブ79の第1突条85がスライドボタン56の受け突起122の後方に位置してスライドボタン56を前進位置に移動させているため、スライドボタン56の後退は規制され、常に高速モードとなる。一方、連係板119,119は後退位置にあって震動切替リング115を後退させて第2カム108の回転をフリーとする。また、接触子87は、マイクロスイッチ123A,123Bの何れのプランジャ124A,124Bにも当接していない。
【0036】
従って、ハンドル13に設けたトリガ15を操作してモータ4を駆動させると、回転軸26の回転が遊星歯車減速機構5を介してスピンドル6に伝わり、スピンドル6を回転させる。スピンドル6は、ボール63,63を介してメインハンマ60Aを回転させ、メインハンマ60Aが係合するアンビル9を回転させるため、アンビル9の先端に装着したビットによってネジ締め等が可能となる。このとき連結ピン70を介して回転方向に連結されるサブハンマ60Bもメインハンマ60Aと一体に回転するが、非結合位置にあるウエイトリング75は一体に回転しない。なお、アンビル9の回転に伴って第1カム104が回転しても、これと係合する第2カム108の回転はフリーであるため、第2カム108も一体回転してアンビル9に震動は発生しない。
【0037】
ネジ締めが進んでアンビル9のトルクが高まると、メインハンマ60Aの回転とスピンドル6の回転とにずれが生じるため、メインハンマ60Aは、ボール63,63がV字溝62,62に沿って転動することで、スピンドル6に対して相対的に回転しながらコイルバネ64の付勢に抗して後退する。このときサブハンマ60Bは、メインハンマ60Aの後退を許容しつつ連結ピン70を介してメインハンマ60Aと一体に回転する。
そして、メインハンマ60Aの爪がアームから外れると、メインハンマ60Aはコイルバネ64の付勢により、ボール63がV字溝62の先端に向けて転動することで回転しながら前進する。よって、メインハンマ60Aの爪61が再びアームに係合して打撃力(インパクト)を発生させる。このアンビル9への係脱を繰り返すことでさらなる締め付けが行われる。
【0038】
このとき、サブハンマ60Bもメインハンマ60Aに追従して回転するため、両ハンマ60A,60Bを合わせた質量でアンビル9へ係脱することになる。また、回転時には後面のボール67がワッシャー65の前面を転動することで回転抵抗が軽減されるため、メインハンマ60Aの前後動に伴ってコイルバネ64が伸縮してもサブハンマ60Bはスムーズに回転できる。さらに、メインハンマ60Aがインパクト発生時に前後動を繰り返しても、サブハンマ60Bは後方位置を維持して前後へ移動することはないため、インパクト発生時の振動は抑えられる。
【0039】
(3)震動ドリルモード
次に、モード切替リング80を第2位置から所定角度左回転させた第3位置(モード切替リング80の表示M2が矢印125の前方に位置する切替位置)では、ガイドホルダ88も周方向で左回転方向へ移動し、ガイド溝90内を移動して前側溝91に達する。よって、ガイドホルダ88は、図9(B)に示すドリルモードと同様に貫通孔83の前端に位置する。すると、ウエイトリング75は前進し、同図(A)に示すドリルモードと同様に、逃がし溝77の後方でボール73を軸心側へ押圧してメインハンマ60Aの嵌合溝71に嵌合させる連結位置に固定される。このため、メインハンマ60Aとサブハンマ60Bとが前後方向で連結されてメインハンマ60Aの後退が規制される。
【0040】
このとき、連係板119,119は、モード切替リング80の案内溝による係合突起121の案内によって前進する。よって、震動切替リング115が前進位置に移動し、第2カム108の回転を規制する震動ドリルモードとなる。
一方、連係スリーブ79の第1突条85は、インパクトモードと同様にまだ受け突起122の後方に位置しているため、スライドボタン56の後退は規制され、常に高速モードとなる。また、接触子87は、マイクロスイッチ123Aのプランジャ124Aのみを押圧しているため、クラッチは作動しない。
【0041】
従って、トリガ15を操作してスピンドル6を回転させると、スピンドル6は、ボール63,63を介してメインハンマ60Aを回転させ、メインハンマ60Aが係合するアンビル9を回転させる。このアンビル9の回転に伴って第1カム104が回転すると、回転規制される第2カム108とカム面105,109同士が干渉する。アンビル9は、アームの前後に遊びがある状態で軸支されているため、カム面105,109同士の干渉によってアンビル9に軸方向の震動が発生する。また、連結ピン70を介して回転方向に連結されるサブハンマ60Bもメインハンマ60Aと一体に回転する。
そして、アンビル9のトルクが高まっても、メインハンマ60Aはボール73によって後退が規制されるため、メインハンマ60Aはアンビル9に対して係脱動作を行わない。よって、インパクトは発生せず、アンビル9はスピンドル6と一体回転することになる。
【0042】
(4)ドリルモード
次に、図9に示すように、モード切替リング80を第4位置から所定角度左回転させた第5位置(モード切替リング80の表示M3が矢印125の前方に位置する切替位置)では、ガイドホルダ88も周方向で左回転方向へ移動するが、そのまま前側溝91内に位置するため、ガイドホルダ88が貫通孔83の前端に位置する状態は変わらない。これにより、ウエイトリング75は前進位置にあってボール73もメインハンマ60Aの嵌合溝71に嵌合する連結位置に固定される。よって、メインハンマ60Aとサブハンマ60Bとを前後方向で連結してメインハンマ60Aの後退を規制するドリルモードとなる。
【0043】
このとき、連係板119,119は、モード切替リング80の案内溝による係合突起121の案内により後退し、震動切替リング115を後退させて第2カム108の回転をフリーとする。また、接触子87は、両方のマイクロスイッチ123A,123Bのプランジャ124A,124Bを同時に押圧しているため、クラッチは作動しない。
一方、連係スリーブ79の第1突条85は、スライドボタン56から左側へ離れ、第2突条86も端部を受け突起122よりも後方に位置させているため、スライドボタン56の後退が可能となる。よって、高低何れのモードも選択できる。
【0044】
従って、トリガ15を操作してスピンドル6を回転させると、スピンドル6は、ボール63を介してメインハンマ60Aを回転させ、メインハンマ60Aが係合するアンビル9を回転させる。このとき連結ピン70を介して回転方向に連結されるサブハンマ60Bもメインハンマ60Aと一体に回転するが、非結合位置にあるウエイトリング75はサブハンマ60Bと一体に回転しない。なお、アンビル9の回転に伴って第1カム104が回転しても、これと対向する第2カム108の回転はフリーであるため、アンビル9に震動は発生しない。
そして、アンビル9のトルクが高まっても、メインハンマ60Aはボール73によって後退が規制されるため、メインハンマ60Aはアンビル9に対して係脱動作を行わない。よって、インパクトは発生せず、アンビル9はスピンドル6と一体回転することになる。
【0045】
(5)クラッチモード
次に、モード切替リング80を第4位置から所定角度左回転させた第5位置(モード切替リング80の表示M4が矢印125の前方に位置する切替位置)では、ガイドホルダ88も周方向で左回転方向へ移動するが、そのまま前側溝91内に位置するため、ガイドホルダ88が貫通孔83の前端に位置する状態は変わらない。よって、ウエイトリング75は前進位置にあってボール73もメインハンマ60Aの嵌合溝71に嵌合する連結位置に固定され、メインハンマ60Aとサブハンマ60Bとを前後方向で連結してメインハンマ60Aの後退を規制する。
このとき、連係板119,119は後退位置にあって震動切替リング115を後退させて第2カム108の回転をフリーとする。但し、接触子87は、マイクロスイッチ123Bのプランジャ124Bのみを押圧しているため、クラッチモードとなる。
一方、第1、第2突条85,86はスライドボタン56から左側へ離れているため、スライドボタン56の前後何れへのスライド操作が可能となる。
【0046】
従って、トリガ15を操作してスピンドル6を回転させると、スピンドル6は、ボール63を介してメインハンマ60Aを回転させ、メインハンマ60Aが係合するアンビル9を回転させる。このとき連結ピン70を介して回転方向に連結されるサブハンマ60Bもメインハンマ60Aと一体に回転するが、非結合位置にあるウエイトリング75はサブハンマ60Bと一体に回転しない。なお、アンビル9の回転に伴って第1カム104が回転しても、これと対向する第2カム108の回転はフリーであるため、アンビル9に震動は発生しない。
そして、アンビル9のトルクが高まってトルクセンサで検出されるトルク値が設定したトルク値に達すると、コントローラによりモータ4に制動がかけられてスピンドル6からアンビル9へのトルク伝達が遮断されることになる。
【0047】
なお、低速で使用していたドリルモードやクラッチモードから震動ドリルモード又はインパクトモード、パワーインパクトモードに切り替える場合は、上記動作と逆に、スライドボタン56から離れていた第2突条86が、連係スリーブ79の右回転によって、後退位置にあるスライドボタン56の受け突起122に係合し、そのまま連係スリーブ79の回転に連れて第2突条86に沿って受け突起122を相対的にスライドさせながらスライドボタン56を前進位置に移動させることになる。よって、震動ドリルモード及びインパクトモード、パワーインパクトモードでは常に高速モードとなる。
【0048】
このように、上記形態のインパクトドライバ1によれば、モータ4と、モータ4の駆動により回転する第1のハンマ(ハンマ60)と、第1のハンマにより回転方向に打撃されるアンビル9と、第1のハンマに対する結合/非結合状態が切り替え可能な第2のハンマ(ウエイトリング75)とを含み、第1のハンマ(ハンマ60)のみによってアンビル9が打撃される第1の打撃モード(インパクトモード)と、第1のハンマ(ハンマ60)及び第2のハンマ(ウエイトリング75)によってアンビル9が打撃される第2の打撃モード(パワーインパクトモード)とが選択可能であるので、打撃力及び慣性力が簡単に切り替え可能となる。
【0049】
特にここでは、ハンマ60を、アンビル9の軸方向に前後移動してアンビル9に係脱することでアンビル9を打撃するメインハンマ60Aと、当該軸方向の前後移動が規制されてメインハンマ60Aへ回転方向で一体に結合されるサブハンマ60Bとからなるものとして、第2のハンマ(ウエイトリング75)を、サブハンマ60Bに対して結合/非結合状態を切り替え可能としているので、前後移動しないサブハンマ60Bを利用して打撃力及び慣性力の切り替えが容易に行える。
また、メインハンマ60Aとサブハンマ60Bとを前後方向で一体に結合可能な結合手段(嵌合溝71、円形孔72、ボール73)を備え、結合手段によるメインハンマ60Aとサブハンマ60Bとの結合により、メインハンマ60Aの前後移動を規制してアンビル9と一体回転させるドリルモードを選択可能としているので、選択できる動作モードが増加して使い勝手がより向上する。
【0050】
また、上記形態のインパクトドライバ1によれば、モータ4と、モータ4の駆動により回転するスピンドル6と、スピンドル6に保持されるハンマ60と、ハンマ60により回転方向に打撃されるアンビル9と、ハンマ60による打撃に慣性力を増加させる慣性力増加部材(ウエイトリング75)と、モータ4、スピンドル6、ハンマ60及びアンビル9を収容するハウジング(本体ハウジング2)と、ハウジング(本体ハウジング2)に設けられるモード切替部材(モード切替リング80)と、を含み、モード切替部材(モード切替リング80)の操作により、ハンマ60によってアンビル9が打撃される第1の位置(インパクトモードの位置)と、慣性力増加部材(ウエイトリング75)により慣性力が増加したハンマ60によってアンビル9が打撃される第2の位置(パワーインパクトモードの位置)と、スピンドル6とハンマ60とアンビル9とが一体回転する第3の位置(ドリルモードの位置)とが選択可能であることで、打撃力及び慣性力が簡単に切り替え可能となると共に、1つの工具で3つの動作モードが選択可能となって使い勝手が良好となる。
特にここでは、モータ4の回転数を複数段階(ここでは4段階)に切り替え可能であるため、打撃力及び慣性力をより細かく設定できる。
【0051】
さらに、上記形態のインパクトドライバ1によれば、モータ4と、モータ4の駆動により回転するハンマ60と、を含み、ハンマ60の質量をウエイトリング75の結合/非結合により変えることでハンマ60の回転による慣性力を変更可能であり、且つモータ4の回転数を変えることで当該慣性力を変更可能であるので、ハンマ60による慣性力の電気的な変更と機械的な変更とが共に可能となり、慣性力をより細かく設定することができる。
【0052】
そして、上記形態のインパクトドライバ1によれば、モータ4と、モータ4の駆動により回転する第1の回転部材(ハンマ60)と、第1の回転部材(ハンマ60)の回転により回転する出力軸(アンビル9)と、第1の回転部材(ハンマ60)に対する結合/非結合状態が切り替え可能な第2の回転部材(ウエイトリング75)と、を含み、第1の回転部材(ハンマ60)のみによって出力軸(アンビル9)が回転する第1の回転モード(インパクトモード)と、第1の回転部材(ハンマ60)及び第2の回転部材(ウエイトリング75)によって出力軸(アンビル9)が回転する第2の回転モード(パワーインパクトモード)とが選択可能であることで、慣性力が簡単に切り替え可能となる。
【0053】
なお、メインハンマとサブハンマとの係脱構造は、上記形態の後突起と前突起とによるものに限らず、例えば前突起をウエイトリングの内周側でなく後端に形成したり、突起の数や形状を変更したりして差し支えない。
また、上記形態では、ウエイトリングをサブハンマに対して結合/非結合可能としているが、ウエイトリングをメインハンマに対して結合/非結合可能としてもよい。よって、ハンマはメインハンマとサブハンマとに分割される構造に限らず、1つのハンマのみを備えたインパクト工具であっても慣性力増加部材の追加は可能である。
さらに、インナーハウジングとサブハンマとの間や、インナーハウジングとウエイトリングとの間に、摩擦を低減するための手段を付与してもよい。この摩擦低減手段としては、両者の間にベアリング(メタルやニードルベアリング等)を介在させたり、低摩擦材を介在させたり、インナーハウジングの内面及び/又はサブハンマの外面、インナーハウジングの内面及び/又はウエイトリングの外面に低摩擦材料をコーティングしたりすることが考えられる。
【0054】
一方、上記形態では、パワーインパクトモードとインパクトモードとに加えて、震動機構やマイクロスイッチ等を備えて震動ドリルモードやドリルモード、クラッチモードをさらに選択可能としているが、震動機構やマイクロスイッチ等をなくしてパワーインパクトモードとインパクトモードとの2つの動作モードのみ、或いはパワーインパクトモードとインパクトモードとドリルモードとの3つの動作モードのみを選択可能なインパクト工具とすることもできる。変速機構も省略して差し支えない。
【符号の説明】
【0055】
1・・インパクトドライバ、2・・本体ハウジング、4・・モータ、5・・遊星歯車減速機構、6・・スピンドル、7・・インナーハウジング、8・・打撃機構、9・・アンビル、10・・前ハウジング、11・・震動機構、26・・回転軸、31・・ギヤハウジング、56・・スライドボタン、60・・ハンマ、60A・・メインハンマ、60B・・サブハンマ、64・・コイルバネ、70・・連結ピン、71・・嵌合溝、73・・ボール、74・・後突起、75・・ウエイトリング、76・・前突起、77・・逃がし溝、78・・凹溝、79・・連係スリーブ、80・・モード切替リング、83・・貫通孔、88・・ガイドホルダ、90・・ガイド溝、95・・ガイドピン、104・・第1カム、108・・第2カム、115・・震動切替リング、119・・連係板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9