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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04858 20160101AFI20220128BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20220128BHJP
   B60L 50/75 20190101ALI20220128BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220128BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/04537
B60L50/75
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018004477
(22)【出願日】2018-01-15
(65)【公開番号】P2019125461
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中村 健
(72)【発明者】
【氏名】森本 誠
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/004493(WO,A1)
【文献】特許第3461841(JP,B2)
【文献】国際公開第2010/053027(WO,A1)
【文献】特開2005-257067(JP,A)
【文献】国際公開第2016/185609(WO,A1)
【文献】特開2017-139119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックへの燃料ガスの供給量を調整する第1調整部と、
前記燃料電池スタックへの酸化剤ガスの供給量を調整する第2調整部と、
前記燃料電池スタックの出力電力を検出する検出部と、
前記第1調整部及び前記第2調整部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記燃料電池スタックの出力電力の目標値となる出力指令値を求め、前記検出部の検出結果に基づいて、前記燃料電池スタックの出力電力が前記出力指令値に追従するように前記酸化剤ガスの供給量を調整するようにフィードバック制御を行い、
前記燃料電池スタックの出力偏差が閾値以上となる出力偏差条件と、
前記出力偏差条件が予め定められた時間以上継続して成立する継続条件と、を含む特定条件が成立した場合、前記特定条件が成立した時点での前記出力指令値よりも前記目標値の低い調整後出力指令値を前記出力指令値とし、
前記特定条件が成立した時点よりも前記酸化剤ガスの供給量が抑制されるように、前記燃料電池スタックの出力電力が前記調整後出力指令値に追従するようにフィードバック制御を行う燃料電池システム。
【請求項2】
前記特定条件は、前記出力指令値のフィードバック積分項が上限値となる積分項条件を含む請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池スタックが接続される負荷に並列接続される蓄電装置と、
前記蓄電装置の充電率を検出する充電率検出部と、を備え、
前記制御部は、
前記充電率検出部によって検出される前記蓄電装置の充電率に応じて、前記出力指令値を段階的に切り替え、
前記特定条件が成立した場合、前記特定条件が成立した時点での前記出力指令値の1段階下の前記出力指令値を前記調整後出力指令値とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックへの燃料ガスの供給量を調整する第1調整部と、
前記燃料電池スタックへの酸化剤ガスの供給量を調整する第2調整部と、
前記燃料電池スタックの出力電力を検出する検出部と、
前記第1調整部及び前記第2調整部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記燃料電池スタックの出力電力の目標値となる出力指令値を求め、前記検出部の検出結果に基づいて、前記燃料電池スタックの出力電力が前記出力指令値に追従するように前記酸化剤ガスの供給量を調整するようにフィードバック制御を行い、
前記出力指令値のフィードバック積分項が上限値となる積分項条件と、
前記燃料電池スタックの出力偏差が閾値以上となる出力偏差条件と、を含む特定条件が成立した場合、前記特定条件が成立した時点での前記出力指令値よりも前記目標値の低い調整後出力指令値を前記出力指令値とし、
前記特定条件が成立した時点よりも前記酸化剤ガスの供給量が抑制されるように、前記燃料電池スタックの出力電力が前記調整後出力指令値に追従するようにフィードバック制御を行う燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料ガスと酸化剤ガスとの化学反応によって発電を行う燃料電池スタックを備える。燃料電池スタックの出力電力(=発電量)は、燃料電池スタックへの燃料ガスの供給量、及び、燃料電池スタックへの酸化剤ガスの供給量が多くなるにつれて大きくなる。燃料電池システムは、燃料電池スタックの出力電力の目標値となる出力指令値を演算し、燃料電池スタックの出力電力が出力指令値に追従するように制御を行う制御部を備える。制御部は、出力指令値に応じて、燃料ガスの供給量、及び、酸化剤ガスの供給量を調整することで、燃料電池スタックの出力電力を制御している。
【0003】
特許文献1には、燃料電池スタックの出力性能が低下する場合があることが記載されている。燃料電池スタックの出力性能が低下した場合、出力指令値に応じた供給量の燃料ガス、及び、酸化剤ガスを供給したとしても、出力電力(実出力電力)が出力指令値に追従しなくなる。即ち、出力指令値よりも低い出力電力しか得られなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-280645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、燃料ガスの供給量、及び、酸化剤ガスの供給量は、出力指令値に応じて定まる。このため、出力指令値よりも出力電力が低い場合、出力指令値通りの出力電力が出力されていないにも関わらず、出力指令値通りの出力電力を出力させようとして燃料電池スタックには過剰な空気が供給されていることになる。燃料電池スタックに過剰に空気が供給されると、燃料電池スタック内の湿度が低下する。結果として、燃料電池スタックの劣化が促進されることになる。
【0006】
本発明の目的は、燃料電池スタックの劣化を抑制できる燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する燃料電池システムは、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックへの燃料ガスの供給量を調整する第1調整部と、前記燃料電池スタックへの酸化剤ガスの供給量を調整する第2調整部と、前記燃料電池スタックの出力電力を検出する検出部と、前記第1調整部及び前記第2調整部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記燃料電池スタックの出力電力の目標値となる出力指令値を求め、前記検出部の検出結果に基づいて、前記燃料電池スタックの出力電力が前記出力指令値に追従するようにフィードバック制御を行い、前記燃料電池スタックの出力偏差が閾値以上となる出力偏差条件と、前記出力偏差条件が予め定められた時間以上継続して成立する継続条件と、を含む特定条件が成立した場合、前記特定条件が成立した時点での前記出力指令値よりも前記目標値の低い調整後出力指令値を前記出力指令値とする。
【0008】
これによれば、出力偏差条件、及び、継続条件を含む特定条件が成立した場合、調整後出力指令値が出力指令値となる。制御部は、出力偏差を小さくするためにフィードバック制御を行っているため、出力偏差条件、及び、継続条件が成立する状況は、出力指令値と出力電力の差である出力偏差が小さくならない状態で維持されている状況といえる。言い換えれば、出力電力を出力指令値に追従させようとして、燃料ガスの供給量、及び、酸化剤ガスの供給量を増やしているにも関わらず、出力電力が大きくならない状況といえる。調整後出力指令値は、特定条件が成立した時点での出力指令値よりも目標値の低い値である。調整後出力指令値を出力指令値とすることで、特定条件が成立した時点よりも燃料電池スタックへの燃料ガスの供給量、及び、酸化剤ガスの供給量は減ることになる。燃料電池スタックの劣化や、使用環境によって出力性能が低下している場合、出力指令値が低くなることで、酸化剤ガスの供給量が抑えられることになる。したがって、燃料電池スタックに過剰な酸化剤ガスが供給されることが抑制され、燃料電池スタックの劣化を抑制できる。
【0009】
前記特定条件は、前記出力指令値のフィードバック積分項が上限値となる積分項条件を含んでもよい。
フィードバック積分項が上限値になる状況は、出力偏差を小さくするためにフィードバック積分項を大きくしているにも関わらず、出力偏差が小さくならない状況である。特定条件に積分項条件を含めることで、調整後出力指令値を出力指令値とするか否かの判断をより適切に行うことができる。
【0010】
上記燃料電池システムについて、前記燃料電池スタックが接続される負荷に並列接続される蓄電装置と、前記蓄電装置の充電率を検出する充電率検出部と、を備え、前記制御部は、前記充電率検出部によって検出される前記蓄電装置の充電率に応じて、前記出力指令値を段階的に切り替え、前記特定条件が成立した場合、前記特定条件が成立した時点での前記出力指令値の1段階下の前記出力指令値を前記調整後出力指令値としてもよい。
【0011】
出力指令値を段階的に切り替えているため、調整後出力指令値を求める際には、特定条件が成立した時点での出力指令値よりも1段階下の出力指令値を調整後出力指令値とすればよい。このため、調整後出力指令値の演算が容易となる。
【0012】
上記課題を解決する燃料電池システムは、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックへの燃料ガスの供給量を調整する第1調整部と、前記燃料電池スタックへの酸化剤ガスの供給量を調整する第2調整部と、前記燃料電池スタックの出力電力を検出する検出部と、前記第1調整部及び前記第2調整部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記燃料電池スタックの出力電力の目標値となる出力指令値を求め、前記検出部の検出結果に基づいて、前記燃料電池スタックの出力電力が前記出力指令値に追従するようにフィードバック制御を行い、前記出力指令値のフィードバック積分項が上限値となる積分項条件と、前記燃料電池スタックの出力偏差が閾値以上となる出力偏差条件と、を含む特定条件が成立した場合、前記特定条件が成立した時点での前記出力指令値よりも前記目標値の低い調整後出力指令値を前記出力指令値とする。
【0013】
これによれば、積分項条件、及び、出力偏差条件を含む特定条件が成立した場合、調整後出力指令値が出力指令値となる。積分項条件、及び、出力偏差条件の成立する状況は、出力指令値と出力電力の差である出力偏差が閾値以上であり、出力偏差を小さくするためにフィードバック積分項を大きくしているにも関わらず、出力偏差が小さくならない状況である。言い換えれば、出力電力を出力指令値に追従させようとして、燃料ガスの供給量、及び、酸化剤ガスの供給量を増やしているにも関わらず、出力電力が大きくならない状況といえる。調整後出力指令値は、特定条件が成立した時点での出力指令値よりも目標値の低い値である。調整後出力指令値を出力指令値とすることで、特定条件が成立した時点よりも燃料電池スタックへの燃料ガスの供給量、及び、酸化剤ガスの供給量は減ることになる。燃料電池スタックの劣化や、使用環境によって出力性能が低下している場合、出力指令値が低くなることで、酸化剤ガスの供給量が抑えられることになる。したがって、燃料電池スタックに過剰な酸化剤ガスが供給されることが抑制され、燃料電池スタックの劣化を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃料電池スタックの劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】燃料電池システムを示すブロック図。
図2】出力電力を出力指令値に追従させる制御態様を示す制御ブロック図。
図3】出力指令値を導出する処理を示す図。
図4】出力状態の切り替え態様を示す状態遷移図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、燃料電池システムの一実施形態について説明を行う。なお、本実施形態の燃料電池システムは、乗用車や、産業車両(例えば、フォークリフト)などの車両に搭載される。
【0017】
図1に示すように、燃料電池システム10は、燃料電池スタック11を備える。燃料電池スタック11は、複数の燃料電池セルをスタック化したものである。燃料電池セルは、例えば、固体高分子型燃料電池である。燃料電池スタック11は、燃料ガスと、酸化剤ガスとの化学反応によって発電を行う。本実施形態では、水素ガスを燃料ガス、空気中の酸素を酸化剤ガスとして発電が行われる。燃料電池システム10は、燃料電池スタック11の発電した電力によって負荷30を駆動させるシステムである。
【0018】
燃料電池システム10は、水素ガスが貯蔵された水素タンク12と、水素タンク12から燃料電池スタック11への水素ガスの供給量を調整するための電磁弁13と、大気中の空気を吸引して、圧縮した空気を吐出するコンプレッサ14と、を備える。また、燃料電池システム10は、燃料電池スタック11への水素ガスの供給量、及び、燃料電池スタック11への空気の供給量を調整することで燃料電池スタック11の出力電力Pg(発電量)を制御する制御部としてのECU(電子制御ユニット)15を備える。
【0019】
水素タンク12は、断面円筒状で高圧の水素ガスが貯留されるものである。電磁弁13は、ECU15によって設定された駆動周期や開弁時間に応じて、弁体が電磁的に駆動する電磁駆動式の開閉弁である。ECU15によって、電磁弁13の駆動周期や開弁時間が制御されることで、燃料電池スタック11への水素ガスの供給量は制御される。
【0020】
コンプレッサ14は、電動モータによって駆動する電動圧縮機である。ECU15によって電動モータのトルクが制御されることで、燃料電池スタック11への空気の供給量は制御される。詳細にいえば、コンプレッサ14は、電動モータに接続されたインバータINVを備え、このインバータINVがECU15に制御されることで、燃料電池スタック11への空気の供給量は制御される。電磁弁13は、第1調整部として機能し、コンプレッサ14は、第2調整部として機能している。
【0021】
燃料電池システム10は、燃料電池スタック11と負荷30との間に設けられたDC/DCコンバータ16と、負荷30に並列接続された蓄電装置17と、蓄電装置17の充電率を検出する充電率検出部としての電圧推定部23と、を備える。DC/DCコンバータ16は、燃料電池スタック11の出力電圧を変圧して出力する。燃料電池スタック11の出力電力Pgが負荷30の要求電力Pwを上回っている場合、余剰の電力は蓄電装置17に充電される。燃料電池スタック11の出力電力Pgが負荷30の要求電力Pwを下回っている場合、不足分の電力が蓄電装置17から放電される。
【0022】
蓄電装置17は、放電、及び、充電が可能なものであり、例えば、二次電池やキャパシタが用いられる。電圧推定部23は、蓄電装置17に入出力される電流を積算することで蓄電装置17の充電量を求め、その充電量に基づいて蓄電装置17の閉回路電圧を推定する。電圧推定部23によって推定された閉回路電圧は、ECU15に出力される。ECU15は、閉回路電圧に基づき、蓄電装置17の充電率を演算する。
【0023】
燃料電池スタック11は、電圧センサ21を備える。電圧センサ21は、燃料電池スタック11の出力電圧を検出する。電圧センサ21は、検出結果をECU15に出力する。DC/DCコンバータ16は、電流センサ22を備える。電流センサ22は、DC/DCコンバータ16への入力電流を検出する。DC/DCコンバータ16に入力される電流は、燃料電池スタック11から出力されており、DC/DCコンバータ16への入力電流は、燃料電池スタック11の出力電流といえる。電流センサ22は、検出結果をECU15に出力する。ECU15は、燃料電池スタック11の出力電圧と出力電流から、燃料電池スタック11の出力電力Pg、言い換えれば、燃料電池スタック11の発電量を演算することができる。本実施形態では、電圧センサ21、及び、電流センサ22の検出結果から出力電力Pgが演算されるため、電圧センサ21、及び、電流センサ22が燃料電池スタック11の出力電力Pgを検出する検出部として機能しているといえる。
【0024】
燃料電池スタック11の出力電力Pgは、燃料電池スタック11への水素ガスの供給量、及び、燃料電池スタック11への空気の供給量によって変動する。
ECU15は、燃料電池スタック11への水素ガスの供給量、及び、空気の供給量を調整することで、燃料電池スタック11の出力電力Pgを制御する。ECU15は、燃料電池スタック11の出力電力Pgの目標値となる出力指令値Pcを演算する。そして、ECU15は、燃料電池スタック11の出力電力Pgが出力指令値Pcに追従するように、電磁弁13、及び、コンプレッサ14の制御を行う。以下、詳細に説明を行う。
【0025】
図2に示すように、ECU15は、フィードフォワード制御と、フィードバック制御(PI制御)とを併用して、燃料電池スタック11の出力電力Pgを制御する。
ECU15は、出力指令値Pc[kW]を演算により求めると、出力指令値Pcから電流指令値(FF)[A]を算出する。電流指令値(FF)は、燃料電池スタック11の電流-電圧特性、及び、フォードフォワードゲインから算出される。
【0026】
また、ECU15は、出力電圧と出力電流から出力電力Pg[kW]を演算する。なお、図2では、出力電圧をFC電圧、出力電流をFC電流、出力電力PgをFC実電力と表記している。ECU15は、出力指令値Pcと出力電力Pgから出力偏差ΔP[kW]を演算する。ECU15は、出力偏差ΔP、比例ゲイン、及び、積分ゲインから、電流指令値(FB)[A]を算出する。詳細にいえば、ECU15は、出力偏差ΔPと比例ゲインからフィードバック比例項を算出し、出力偏差ΔPの積分値と積分ゲインからフィードバック積分項を演算する。フィードバック比例項とフィードバック積分項との和が電流指令値(FB)となる。
【0027】
ECU15は、電流指令値(FF)と、電流指令値(FB)との和を電流指令値とする。ECU15は、電流指令値に対応する量の水素ガスと空気が燃料電池スタック11に供給されるように電磁弁13、及び、コンプレッサ14を制御する。これにより、出力指令値Pcに出力電力Pgが追従するように水素ガスの供給量と、空気の供給量とが調整される。
【0028】
しかしながら、燃料電池スタック11の劣化や、使用環境などに起因して、燃料電池スタック11の出力電力Pgが十分に得られない場合がある。この場合、出力偏差ΔPが小さくならない場合がある。即ち、燃料電池スタック11の出力電力Pgが、出力指令値Pcよりも低い状態となり、空気が過剰に供給される場合がある。
【0029】
ECU15は、以下の制御によって出力指令値Pcを演算することで、燃料電池スタック11に過剰な量の空気が供給されることを抑制している。
図3に示すように、本実施形態のECU15は、発電量決定処理と、発電量偏差調整処理の二段階の処理を行うことで出力指令値Pcを演算する。発電量決定処理は、蓄電装置17の充電率に応じて、燃料電池スタック11の出力指令値Pc1(発電量の目標値)を決定する処理である。発電量偏差調整処理は、特定条件が成立した場合に、発電量決定処理で演算された出力指令値Pc1の値を調整し、調整された出力指令値である調整後出力指令値Pc2を新たな出力指令値Pcとする処理である。
【0030】
まず、発電量決定処理について説明する。
図4に示すように、ECU15は、蓄電装置17の充電率に応じて、燃料電池スタック11の出力状態を段階的に切り替える。本実施形態の出力状態は、発電停止状態S1、低出力状態S2、中出力状態S3、高出力状態S4の4段階の状態である。4つの出力状態によって、出力指令値Pc1は異なっている。したがって、出力状態とともに、出力指令値Pc1も段階的に切り替わる。
【0031】
発電停止状態S1とは、燃料電池スタック11の発電を行わない状態である。発電停止状態S1では、出力指令値Pc1=0[kW]となる。
低出力状態S2とは、燃料電池スタック11の劣化を伴うことなく発電可能である最低値の発電を行わせる状態である。低出力状態S2での出力指令値Pc1は、発電停止状態S1よりも大きな値となり、例えば、出力指令値Pc1=3[kW]となる。
【0032】
中出力状態S3とは、低出力状態S2よりも燃料電池スタック11の発電量が多い状態である。中出力状態S3での出力指令値Pc1は、低出力状態S2よりも大きな値であり、例えば、出力指令値Pc1=6[kW]となる。中出力状態S3における出力指令値Pc1は、通常の使用条件において車両が動作する際の負荷30の要求電力Pwの平均的な値に設定される。
【0033】
高出力状態S4とは、車両が最大負荷で動作する際の負荷30の要求電力Pwを燃料電池スタック11に出力させる状態である。高出力状態S4での出力指令値Pc1は、中出力状態S3よりも大きな値であり、例えば、出力指令値Pc1=12[kW]となる。中出力状態S3とは、低出力状態S2と高出力状態S4との間の状態ともいえる。
【0034】
ECU15は蓄電装置17の充電率に応じて、燃料電池スタック11の出力状態を適宜切り替える。まず、燃料電池スタック11が発電停止状態S1である際に、蓄電装置17の充電率が発電開始閾値V=50[%]以下になった場合、燃料電池スタック11は発電を開始して、出力状態は発電停止状態S1から低出力状態S2に移行する。
【0035】
燃料電池スタック11が低出力状態S2である際に、蓄電装置17の充電率が中出力切替閾値V=45[%]以下になった場合、燃料電池スタック11の出力状態は低出力状態S2から中出力状態S3に移行する。
【0036】
燃料電池スタック11が中出力状態S3である際に、蓄電装置17の充電率が高出力切替閾値V=30[%]以下になった場合、燃料電池スタック11の出力状態は中出力状態S3から高出力状態S4に移行する。なお、高出力切替閾値Vは、車両が最も厳しい条件で使用された際に燃料電池システム10を保護するために最低限な蓄電装置17の充電率として設定される。
【0037】
一方、燃料電池スタック11が高出力状態S4である際に、蓄電装置17の充電率が中出力切替閾値V=45[%]以上になった場合、燃料電池スタック11の出力状態は高出力状態S4から中出力状態S3に移行する。
【0038】
燃料電池スタック11が中出力状態S3である際に、蓄電装置17の充電率が出力切替閾値V=60[%]以上になった場合、燃料電池スタック11の出力状態は中出力状態S3から低出力状態S2に移行する。
【0039】
燃料電池スタック11が低出力状態S2である際に、蓄電装置17の充電率が発電停止閾値V=70[%]以上になった場合、燃料電池スタック11は発電を停止して、出力状態は低出力状態S2から発電停止状態S1に移行する。なお、発電停止閾値Vは、蓄電装置17が過充電状態となるのを防止するための最高限度の充電率として設定され、残りの充電率の30[%]分は、蓄電装置17が回生エネルギーを受け取るために必要な余剰分として確保されている。燃料電池システム10において、中出力切替閾値V=45[%]は、高出力切替閾値V=30[%]と出力切替閾値V=60[%]との中間の値に設定されている。上記したように、蓄電装置17の充電率に応じて、出力指令値Pc1は変化することになる。
【0040】
次に、発電量偏差調整処理について説明する。
本実施形態において、調整後出力指令値Pc2は、特定条件が成立した時点での出力指令値Pc1よりも1段階下の出力状態での出力指令値Pc1である。特定条件が成立した時点で、出力状態が高出力状態S4であれば、調整後出力指令値Pc2は中出力状態S3での出力指令値Pc1となる。特定条件が成立した時点で、出力状態が中出力状態S3であれば、調整後出力指令値Pc2は低出力状態S2での出力指令値Pc1となる。なお、特定条件が成立した時点で、出力状態が低出力状態S2の場合、出力指令値Pc1は低出力状態S2での出力指令値Pc1に維持される。
【0041】
ECU15は、特定条件として、以下の積分項条件、出力偏差条件、及び、継続条件が成立した場合、調整後出力指令値Pc2を出力指令値Pcとする。即ち、積分項条件、出力偏差条件、及び、継続条件が成立しなければ発電量決定処理で演算された出力指令値Pc1に追従するように燃料電池スタック11の出力電力Pgは制御される。一方で、積分項条件、出力偏差条件、及び、継続条件が成立すれば調整後出力指令値Pc2に追従するように燃料電池スタック11の出力電力Pgは制御される。
【0042】
積分項条件…出力指令値Pcのフィードバック積分項が上限値となること。
出力偏差条件…燃料電池スタック11の出力偏差ΔPが閾値以上となること。
継続条件…積分項条件、及び、出力偏差条件の両方が予め定められた時間以上継続して成立していること。
【0043】
積分項条件におけるフォードバック積分項は、出力偏差ΔPが大きくなると、これに合わせて大きくなる。フィードバック積分項の上限値とは、燃料電池システム10で設定された上限値である。この上限値は、燃料電池スタック11の特性などを考慮した上で、電流指令値の値が過剰に上昇しないように設定されている。
【0044】
出力偏差条件における出力偏差ΔPの閾値は、シミュレーション結果や、実験結果などに基づいて定められた値である。フィードバック制御は、出力偏差ΔPを小さくするために行っているため、燃料電池スタック11の出力性能に問題がなければ、出力偏差ΔPは所定の範囲内に収まる。出力偏差ΔPの閾値は、この所定の範囲よりも大きな値に設定される。
【0045】
ここで、積分項条件、及び、出力偏差条件の成立する状況は、出力指令値Pcと出力電力Pgの差である出力偏差ΔPが閾値以上であり、出力偏差ΔPを小さくするためにフィードバック積分項を大きくしているにも関わらず、出力偏差ΔPが小さくならない状況である。言い換えれば、出力電力Pgを出力指令値Pcに追従させようとして、水素ガスの供給量及び空気の供給量を増やしているにも関わらず、出力電力Pgが大きくならない状況といえる。このような状況は、燃料電池スタック11の劣化や、使用環境によって出力性能が永続的、あるいは、一時的に低下している状況である。
【0046】
継続条件における予め定められた時間とは、外乱などで偶発的に積分項条件及び出力偏差条件が成立した場合に、出力指令値Pcが調整後出力指令値Pc2とされることを抑制するために設定された時間である。予め定められた時間は、シミュレーション結果や、実験結果などに基づいて定められている。なお、継続条件は、所定の制御周期で繰り返される積分項条件及び出力偏差条件の成立判定において、連続して両条件が成立しているかを判断しているともいえる。
【0047】
次に、本実施形態の燃料電池システム10の作用について説明する。
燃料電池システム10の出力性能が低下すると、空気、及び、水素ガスの供給量に対して、出力電力Pgが不十分となる場合がある。この場合、出力偏差ΔPが大きくなることで、出力指令値Pcのフィードバック積分項は制御周期毎に増加していく。
【0048】
特定条件が成立すると、ECU15は、調整後出力指令値Pc2を出力指令値Pcとする。調整後出力指令値Pc2は、特定条件が成立した時点での出力指令値Pcよりも目標値の低い値である。調整後出力指令値Pc2を出力指令値Pcとすることで、特定条件が成立した時点よりも燃料電池スタック11への水素ガスの供給量、及び、空気の供給量は減ることになる。
【0049】
出力指令値Pcが低くなることで、出力偏差ΔPも小さくなる。これにより、積分項条件、及び、出力偏差条件のいずれかが成立しなくなった場合、燃料電池スタック11に出力性能に見合った供給量の空気、及び、水素ガスが供給されているといえる。
【0050】
一方で、調整後出力指令値Pc2を出力指令値Pcとしたにも関わらず、特定条件が成立している場合、出力指令値Pcを更に低くする。例えば、高出力状態S4のときに特定条件が成立し、中出力状態S3の出力指令値Pc1を出力指令値Pcにしたにも関わらず、依然として特定条件が成立している場合、低出力状態S2の出力指令値Pc1を出力指令値Pcとする。
【0051】
したがって、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)特定条件が成立した場合、特定条件が成立した時点での出力指令値Pcよりも低い目標値の調整後出力指令値Pc2を出力指令値Pcとしている。燃料電池スタック11の劣化や、使用環境によって出力性能が低下している場合、出力指令値Pcが低くなることで、空気の供給量が抑えられることになる。したがって、燃料電池スタック11に過剰な空気が供給されることが抑制され、燃料電池スタック11の劣化を抑制できる。これにより、燃料電池スタック11の劣化の促進を抑制できる。
【0052】
(2)特定条件は、出力偏差条件、及び、継続条件に加えて、積分項条件を含む。フィードバック積分項が上限値になる状況は、出力偏差ΔPを小さくするためにフィードバック積分項を大きくしているにも関わらず、出力偏差ΔPが小さくならない状況である。特定条件に積分項条件を含めることで、調整後出力指令値を出力指令値とするか否かの判断をより適切に行うことができる。
【0053】
(3)ECU15は、出力状態を段階的に切り替えている。出力状態毎に出力指令値Pc1が異なっており、ECU15は、出力指令値Pcを段階的に切り替えているともいえる。積分項条件、及び、出力偏差条件が成立した場合、両条件が成立した時点の出力指令値Pc1よりも1段階下の出力指令値Pc1が調整後出力指令値Pc2となる。出力指令値Pc1は、出力状態に対応付けられて予め定まっているため、調整後出力指令値Pc2の演算が容易である。
【0054】
なお、実施形態は、以下のように変更してもよい。
○特定条件は、出力偏差条件、及び、継続条件のみでもよい。即ち、出力偏差条件、及び、継続条件の両方の条件が成立した場合、調整後出力指令値Pc2が出力指令値Pcとなるようにしてもよい。なお、この場合の継続条件は、出力偏差条件が予め定められた時間以上継続して成立していることである。
【0055】
出力偏差条件、及び、継続条件が成立する状況は、出力偏差ΔPが閾値以上となる状態が予め定められた時間以上継続している状況である。前述したように、フィードバック制御は、出力偏差ΔPを小さくするために行っているため、出力偏差ΔPが閾値以上となる状態が予め定められた時間以上継続している状況は、出力偏差ΔPを小さくしようとしているにも関わらず、出力偏差ΔPが閾値未満にならない状況といえる。言い換えれば、出力電力Pgを出力指令値Pcに追従させようとして、水素ガスの供給量及び空気の供給量を増やしているにも関わらず、出力電力Pgが大きくならない状況といえる。このような状況は、燃料電池スタック11の劣化や、使用環境によって出力性能が永続的、あるいは、一時的に低下している状況である。
【0056】
なお、この場合の継続条件における「予め定められた時間」とは、出力偏差ΔPが閾値以上に維持されている時間から、燃料電池スタック11の出力性能が低下しているか否かを判断できる時間に設定される。詳細には、燃料電池スタック11の出力性能が低下していない状態で、出力偏差ΔPを閾値以上の状態から閾値未満の状態に遷移させるのに要する時間を想定した上で、この時間よりも長い時間に設定される。燃料電池スタック11の出力性能が低下し、出力偏差ΔPを閾値未満にできない場合、特定条件が成立する。これにより、燃料電池スタック11に過剰な空気が供給されることが抑制され、燃料電池スタック11の劣化を抑制できる。
【0057】
○調整後出力指令値Pc2は、特定条件が成立した時点での出力指令値Pcよりも目標値の低い値であればよく、特定条件が成立した時点での出力指令値Pcから所定値を減算した値としてもよい。所定値は、固定値でもよいし、変動値でもよい。所定値を固定値とする場合、実験結果やシミュレーション結果に基づいて値が設定される。所定値を変動値とする場合、出力指令値Pcや、出力偏差ΔPに応じて所定値の値が変動するようにしてもよい。例えば、出力指令値Pcが大きいほど、所定値が大きくなるようにしてもよいし、出力偏差ΔPが大きいほど所定値が大きくなるようにしてもよい。なお、特定条件が成立した時点での出力指令値Pcから所定値を減算した値が0以下になる場合、ECU15は、所定値の減算を行うことなく、出力指令値Pcを維持してもよい。
【0058】
また、調整後出力指令値Pc2は、特定条件が成立した時点での出力指令値Pcの50%~95%の値など、特定条件が成立した時点での出力指令値Pcの100%未満の値としてもよい。
【0059】
○発電量決定処理で演算される出力指令値Pc1は、蓄電装置17の充電率に応じて、線形に切り替わるようにしてもよい。この場合の調整後出力指令値Pc2としては、上記したように、特定条件が成立した時点での出力指令値Pcから所定値を減算したり、特定条件が成立した時点での出力指令値Pcの割合から演算されるようにする。
【0060】
○出力指令値Pcは、蓄電装置17の充電率以外の要素から演算されるようにしてもよい。例えば、負荷30の要求電力Pwから出力指令値Pcが演算されるようにしてもよい。なお、実施形態のように、車両に搭載される燃料電池システム10であれば、例えば、アクセルペダルの操作量から負荷30の要求電力Pwを演算することができる。
【0061】
○出力状態(出力指令値Pc1)は、3段階以上の状態としてもよいし、5段階以上の状態としてもよい。
○継続条件は、出力偏差条件が予め定められた時間以上継続して成立していることであってもよい。積分項条件が継続して成立している時間については、特定条件に含まれていなくてもよい。
【0062】
○特定条件は、積分項条件、及び、出力偏差条件のみでもよい。即ち、積分項条件、及び、出力偏差条件の両方の条件が成立した場合、調整後出力指令値Pc2が出力指令値Pcとなるようにしてもよい。
【0063】
この場合、外乱などの要因で、偶発的に積分項条件、及び、出力偏差条件が成立した場合であっても、調整後出力指令値Pc2が出力指令値Pcとなり、燃料電池スタック11の出力電力Pgは低下することになる。しかしながら、偶発的に積分項条件、及び、出力偏差条件が成立した場合、積分項条件、及び、出力偏差条件が成立する期間は一時的であり、燃料電池スタック11の出力電力Pgが低下しても、実用上の支障は来さないと考えられる。
【0064】
また、出力指令値Pcが低くなれば、空気の供給量は少なくなる。このため、仮に、外乱などによって、出力指令値Pcを誤って低下させた場合であっても、空気の過剰供給によって燃料電池スタック11の劣化が促進されることはない。
【0065】
○ECU15が行うフィードバック制御は、少なくとも積分動作(I動作)を含んでいればよく、PID制御であってもよい。
○ECU15は、フィードバック制御のみで電流指令値を演算するようにしてもよい。即ち、フィードフォワード制御を行わなくてもよい。
【0066】
○出力指令値Pcの演算を行うECUや、出力指令値Pcに応じて燃料電池スタック11の出力電力Pgを制御するECUを別々で設けてもよい。この場合、複数のECUが制御部として機能することになる。
【0067】
○燃料電池スタック11は、携帯機器に搭載されるものや、定置電源として用いられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…燃料電池システム、11…燃料電池スタック、13…電磁弁(第1調整部)、14…コンプレッサ(第2調整部)、15…ECU(制御部)、17…蓄電装置、21…電圧センサ(検出部)、22…電流センサ(検出部)、23…電圧推定部(充電率検出部)。
図1
図2
図3
図4