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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】放射線検査装置及び放射線検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/18 20180101AFI20220106BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20220106BHJP
【FI】
G01N23/18
G01N23/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018015631
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019132727
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】391017540
【氏名又は名称】東芝ITコントロールシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】富澤 雅美
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 洋貴
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-146137(JP,A)
【文献】特開2009-236637(JP,A)
【文献】特開平03-114443(JP,A)
【文献】特開2000-184284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0060633(US,A1)
【文献】特開2010-233997(JP,A)
【文献】特開2011-191212(JP,A)
【文献】国際公開第2011/048629(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/128969(WO,A1)
【文献】特開2017-97689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - A61B 6/14
G01B 15/00 - G01B 15/08
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G21K 1/00 - G21K 3/00
G21K 5/00 - G21K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する放射線源と、
前記放射線源の照射範囲に位置し、被検体を載置可能なステージと、
前記ステージを挟んで前記放射線源とは反対側に位置し、前記被検体を透過した放射線を検出する検出器と、
前記検出器から得た前記被検体の二次元の透視情報を画像化する処理装置と、
前記処理装置により得られた画像を表示する表示装置と、
を備え、
前記ステージは、前記被検体の位置をずらすように、前記被検体内の空孔又は異物の大きさ以下の距離を移動し、
前記放射線源は、前記ステージの移動前後で放射線を照射し、
前記検出器は、前記ステージの移動前後で前記被検体を透過した放射線を各々検出し、
前記処理装置は、
前記ステージの移動前後の前記被検体の位置が異なる二つの前記透視情報の比を算出し、二次元の比画像を生成する演算部を有し、
前記表示装置は、
前記演算部が生成した前記比画像を表示すること、
を特徴とする放射線検査装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記透視情報を対数変換する対数変換回路と、
2つの前記対数変換した前記透視情報の差を演算する差分回路と、
前記差分回路により得た値を指数変換する指数変換回路と、
を有すること、
を特徴とする請求項1記載の放射線検査装置。
【請求項3】
前記検出器及び前記処理装置を含むフラットパネルディテクタを有し、
前記フラットパネルディテクタは、
前記被検体を前記ステージ上に載置した状態で、各画素値を同一値にするゲイン補正値を取得するゲイン補正取得部と、
前記ゲイン補正値を記憶する記憶部と、
を更に有し、
前記演算部は、前記ゲイン補正値を取得する時とは異なる位置に前記被検体を移動させて得た前記透視情報と前記ゲイン補正値とを乗算することで、前記比画像を生成すること、
を特徴とする請求項1記載の放射線検査装置。
【請求項4】
前記ステージを移動させる移動機構を有し、
前記移動機構は、前記被検体が位置の移動前後における前記透視情報の変化が少ない方向に、前記被検体を移動させること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の放射線検査装置。
【請求項5】
放射線源、検出器及び表示装置を有する放射線検査装置を用いた放射線検査方法であって、
前記放射線源により照射され、被検体を透過した放射線を前記検出器により検出し、第1の透視情報を取得する第1の取得ステップと、
前記第1の取得ステップの後、前記被検体内の空孔又は異物の大きさ以下の距離分、前記被検体を移動させる移動ステップと、
前記移動ステップの後、前記放射線源により照射され、前記移動ステップで移動させた前記被検体を透過した放射線を前記検出器により検出し、第2の透視情報を取得する第2の取得ステップと、
前記第1の透視情報と前記第2の透視情報との比を算出し、二次元の比画像を生成する演算ステップと、
前記比画像を前記表示装置に表示させる表示ステップと、
を有すること、
を特徴とする放射線検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被検体を透過した放射線を検出して被検体の画像を形成する放射線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線で代表される放射線を被検体に照射し、被検体を透過することによって減弱した放射線の二次元分布を検出して画像化することで、被検体の非破壊検査を行う放射線検査装置が知られている。例えば、この放射線検査装置により被検体内部に存在するボイドとも呼ばれる空孔や、被検体の表面又は内部の異物を発見することができる。
【0003】
しかし、空孔や異物は一般に非常に小さく、その周囲とのコントラストが低い。そのため、透視画像を一見しただけで空孔や異物を検出することは容易ではない。そこで、その検出精度を向上させるために、差分画像を用いる手法が知られている。
【0004】
差分画像は、同一被検体の位置を少しずらして撮像した2枚の透視画像間で、画素値の差分を取ることで得られる画像である。空孔や異物の背景となる被検体を示す画素値は、2枚の透視画像間でほぼ同じである。従って、差分画像では、背景となる被検体が相殺され、空孔や異物が目立つ画像となる。この差分画像を参照することで、空孔や異物の検出精度は向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3545073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、差分画像を用いる手法では、同じ空孔や異物であっても、被検体のどの箇所に存在しているかによって、検出精度が変わることが分かった。その理由は、被検体の厚み、すなわち放射線の透過距離が異なると、背景となる被検体の透過距離が変わることで、厚みの薄い部分の放射線透過強度と、厚みの厚い部分の放射線透過強度が変わるからであり、その影響が差分画像にも反映されるからである。特に、被検体の厚い部分に空孔や異物が存在すると、当該部分の放射線透過強度は、同じ空孔や異物が被検体の薄い部分に存在する場合よりも低くなり、従って差分画像上に現れるコントラストも低いものになってしまい、検出精度にムラがあった。
【0007】
本実施形態は、上述の課題を解決すべく、空孔や異物の存在位置に関わらず、空孔や異物の検出精度を向上させることのできる放射線検査装置及び放射線検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本実施形態に係る放射線検査装置は、放射線を照射する放射線源と、前記放射線源の照射範囲に位置し、被検体を載置可能なステージと、前記ステージを挟んで前記放射線源とは反対側に位置し、前記被検体を透過した放射線を検出する検出器と、前記検出器から得た前記被検体の二次元の透視情報を画像化する処理装置と、前記処理装置により得られた画像を表示する表示装置と、を備え、前記処理装置は、前記被検体の位置が異なる二つの前記透視情報の比を算出し、二次元の比画像を生成する演算部を有し、前記表示装置は、前記演算部が生成した前記比画像を表示すること、を特徴とする。
【0009】
本実施形態に係る放射線検査方法は、放射線源、検出器及び表示装置を有する放射線検査装置を用いた放射線検出方法であって、前記放射線源により照射され、前記被検体を透過した放射線を前記検出器により検出し、第1の透視情報を取得する第1の取得ステップと、前記第1の取得ステップの後、前記被検体を移動させる移動ステップと、前記移動ステップの後、前記放射線源により照射され、前記移動ステップで移動させた前記被検体を透過した放射線を前記検出器により検出し、第2の透視情報を取得する第2の取得ステップと、前記第1の透視情報と前記第2の透視情報との比を算出し、二次元の比画像を生成する演算ステップと、前記比画像を前記表示装置に表示させる表示ステップと、を有すること、を特徴とする。
【0010】
また、本実施形態に係る放射線検査方法は、放射線源、及び、各画素の感度バラツキを補正するゲイン補正値設定モードを備えたフラットパネルディテクタを有する放射線検査装置を用いた放射線検出方法であって、前記ゲイン補正値設定モードを起動させる起動ステップと、前記放射線源により照射され、被検体を透過した放射線を前記フラットパネルディテクタにより検出し、ゲイン補正値を取得するゲイン補正取得ステップと、前記被検体を移動させる移動ステップと、前記移動ステップで移動させた前記被検体を透過した放射線を、前記フラットパネルディテクタにより検出し、透視画像を取得する透視画像取得ステップと、を有すること、を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る放射線検査装置の構成の一例を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る放射線検査装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図3】放射線の透過方向に対して厚みが異なる被検体を示した図であり、内部に空孔が存在する被検体を示す。
図4】放射線の透過方向に対して厚みが異なる被検体を示した図であり、表面に異物が存在する被検体を示す。
図5】放射線の透過方向に対して厚みが異なる被検体を示した図であり、内部に異物が存在する被検体を示す。
図6】第2の実施形態に係る放射線検査装置の構成の一例を示す図である。
図7】ゲイン補正について説明するための図である。
図8】フラットパネルディテクタの機能ブロック図である。
図9】被検体をステージに置いた状態でのゲイン補正について説明するための図である。
図10】第2の実施形態に係る放射線検査装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る放射線検査装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
(構成)
図1は、本実施形態に係る放射線検査装置の構成の一例を示す図である。放射線検査装置は、被検体1に放射線を照射し、被検体1を透過した放射線を検出し、検出結果によって被検体1内の透視画像を形成する。この放射線検査装置は、放射線源2、検出器3、ステージ4、移動機構5、処理装置6、及び表示装置7を有する。
【0014】
放射線源2は、被検体1に向けて放射線ビーム22を照射する。放射線は例えばX線である。放射線ビーム22は、焦点21を頂点として角錐形状に拡大する放射線の束であり、円錐形状に拡がる放射線がコリメータで絞り込まれた結果である。この放射線源2は例えばX線管である。代表的なX線管は、真空内にフィラメントとタングステン等のターゲットとを対向させている。フィラメントは電子を照射し、その電子は、フィラメントとターゲット間の管電圧によって加速され、ターゲットに向かって進み、ターゲットに当たってX線を照射する。この電子の流れが管電流であり、管電流はこの電子の流れと反対向きである。
【0015】
検出器3は、放射線源2の焦点21と対向して配置される。この検出器3は、例えばイメージインテンシファイア(I.I.)とカメラ、又はフラットパネルディテクタ(FPD)により構成される。I.I.は、放射線に励起されると発光するヨウ化セシウム等により成るシンチレータ面を二次元状に拡げ、入射した放射線の二次元分布を蛍光像に変換しつつ、蛍光像の光度を増倍させる。カメラは、CCDやCMOS等の撮像素子を並設し、蛍光像を撮像する。FPDは、シンチレータ面に沿って例えばフォトダイオードとTFTスイッチを有する。フォトダイオードは、蛍光像を電荷に変換して蓄積し、TFTスイッチは、ON信号を与えられると、フォトダイオードに蓄積されていた電荷を出力させる。
【0016】
即ち、検出器3は、放射線の透過経路に応じて減弱した放射線強度の二次元分布を検出し、当該放射線強度に比例した透過データを出力する。そして、透過データは、放射線強度、放射線強度を示す電荷量、又は放射線強度を示す輝度値であり、例えば256階調等にデジタル化される。
【0017】
ステージ4は、被検体1の載置台である。ステージ4は、放射線源2と検出器3との間に介在し、載置面を放射線源2に向け、当該載置面が放射線ビームの光軸と直交して拡がる。このステージ4は、移動機構5により、放射線源2及び検出器3に対して位置可変である。
【0018】
移動機構5は、ステージ4を直線移動及び昇降させる。直線移動方向はX軸方向及びY軸方向である。X軸方向は、ステージ4が拡がる平面に沿う一方向である。Y軸方向は、ステージ4が拡がる平面に沿い、X軸方向と直交する方向である。昇降方向はZ軸方向である。Z軸方向は、ステージ4と直交し、換言すると放射線源2に接離する方向である。
【0019】
処理装置6は、放射線源2、検出器3及び移動機構5を制御し、被検体1を撮影させ、また被検体1内の画像を生成する。この処理装置6は、所謂コンピュータ及び当該コンピュータと信号線で接続されたドライバ回路であり、コンピュータ部分はCPU、HDD又はSSDといったストレージ、RAMで構成される。ストレージはプログラムを記憶し、RAMにはプログラムが展開され、またRAMにはデータが一時的に記憶され、CPUはプログラムを処理し、ドライバ回路は、例えばモータドライバであり、CPUの処理結果に従って各部に電力を供給する。
【0020】
この処理装置6は、被検体1内の画像として比画像を生成する。比画像は、同一の被検体1が位置をずらして撮影することで得られる二つの透過データの比を計算して生成された画像であり、当該二つの透過データの比の値を濃淡で二次元面上に示している。空孔又は異物は同じものであっても被検体1の位置が異なるので、比画像上には、空孔又は異物の像として一対の像が現れる。この処理装置6は、記憶部61、演算部62及び撮影制御部63を有する。
【0021】
撮影制御部63は、ドライバ回路を含み構成され、移動機構5を制御して被検体1の位置をずらすとともに、この移動前後で放射線ビームを照射させて二つの透過データを得る。記憶部61は、ストレージを含み構成され、少なくとも位置をずらす前に得た被検体1の透過データを記憶する。
【0022】
演算部62は、CPUを含み構成され、被検体1の位置が異なる二つの透過データの比を算出し、二次元の比画像を生成する。この演算部62は、例えば、記憶部61に記憶された被検体1の輝度値と、当該被検体1をわずかに移動させた位置の異なる被検体1の輝度値との比を、同一座標の画素において求める。そして、演算部62は、検出器3の載置面に拡がる各画素において当該比を求めることで、二次元の輝度値の比からなる比画像を生成する。
【0023】
表示装置7は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイといったモニタである。この表示装置7は、演算部62で求めた比画像を画面上に表示する。
【0024】
(動作)
このような放射線検査装置の動作を図2のフローチャートに示す。まずステージ4に被検体1を載置する(ステップS1)。そして、放射線により、ステージ4上の被検体1を撮影する(ステップS2)。すなわち、放射線源2により放射線ビーム22を被検体1に照射し、被検体1を透過した放射線を検出器3により検出する。このとき、ここでは、検出器3は、入射された放射線強度を、当該強度に比例する電荷量に変換し、更に当該電荷量に応じて離散的な画素値とする。検出器3は、画素値の二次元分布を透過データとして処理装置6に出力する。そして、処理装置6は、入力された透過データを記憶部61に記憶する(ステップS3)。
【0025】
次に、移動機構5により、ステージ4を移動させることで被検体1をわずかに移動させる(ステップS4)。ここで、「わずかに移動させる」距離は、例えば、空孔V又は異物F(図3及び図4参照)の大きさ程度の距離であり、好ましくは、空孔V又は異物Fの大きさ未満の距離であり、また移動距離と同一幅の大きさを有する像が表示装置7に表示された際、観察者がこの像を明確に把握できる程度である。例えば検出したい異物Fの大きさが100μmであるとすると、100μmよりも小さい距離である。
【0026】
このように被検体1をわずかに移動させた後、放射線により、ステージ4上の被検体1を撮影する(ステップS5)。すなわち、放射線源2により放射線ビーム22を被検体1に照射し、被検体1を透過した放射線を検出器3により検出する。検出器3は、透過データを処理装置6に出力する。
【0027】
そして、演算部62は、記憶部61に記憶された透過データと、ステップS5により検出器3から得られた透過データとの比を、同一座標の画素同士において計算し、比画像を生成する(ステップS6)。演算部62は、生成した比画像を表示装置7に出力し、当該比画像を画面上に表示する(ステップS7)。
【0028】
これにより、空孔V、異物Fの存在位置に関わらず、空孔V、異物Fの固有のコントラストの比画像が得られるので、空孔V、異物Fを検出する精度を向上させることができる。この空孔、異物の検出精度の向上原理について図3及び図4を用いて説明する。
【0029】
(作用)
図3及び図4は、放射線の透過方向に対して厚みが異なる被検体1を示した図であり、図3の被検体1は内部に空孔Vが存在し、図4の被検体1は表面に異物Fが存在する。被検体1を透過して、検出器3の任意の画素に入射する放射線強度をIとし、被検体1が存在しないときに当該画素に入射する放射線強度をIとすると、放射線強度Iは、式(1)のように表せる。
【0030】
μは、被検体1の線減弱係数であり、tは、放射線が被検体1を透過する透過距離、すなわち被検体1の厚みである。
【0031】
図3に示すように、被検体1の厚みが薄い背景部分Iのみを透過した放射線強度Iは、式(2)のように表すことができ、背景部分Iと空孔Vを透過した放射線強度I1+Vは、式(3)のように表すことができる。
【0032】
は、背景部分Iの透過距離であり、tは、空孔Vの透過距離である。
【0033】
従って、式(2)及び式(3)から、放射線強度の比I1+V/Iは、式(4)の通りとなる。
【0034】
【0035】
一方、被検体1の厚みが厚い背景部分IIのみを透過した放射線強度Iは、式(5)のように表すことができ、背景部分IIと空孔Vを透過した放射線強度I2+Vは、式(6)のように表すことができる。
【0036】
は、背景部分IIの透過距離であり、tは、空孔Vの透過距離である。
【0037】
従って、式(5)及び式(6)から、放射線強度の比I2+V/Iは、式(7)の通りとなる。
【0038】
【0039】
上記式(4)及び式(7)から明らかなように、放射線強度の比I1+V/I及びI2+V/Iは等しい。つまり、被検体1の背景部分のみを透過した放射線強度に対する、背景部分と空孔Vとを透過した放射線強度との比は、背景となる被検体1の厚みに影響されず、被検体1の線減弱係数μと、空孔Vの透過距離tとによって決まる固有の値となる。そのため、空孔Vを透過する場合の放射線強度と空孔Vを透過しない場合の放射線強度との比を計算して当該比を反映させた画像を生成することで、空孔Vの存在の有無を検出することができる。
【0040】
また、図4に示すように、被検体1の表面に異物Fが存在する場合も同様に、厚みの異なる放射線強度の比I1+F/I及びI2+F/Iは等しい。すなわち、被検体1の厚みが薄い背景部分Iと異物Fを透過した放射線強度I1+Fは、式(8)のように表すことができ、被検体1の厚みが厚い背景部分IIと異物Fを透過した放射線強度I2+Fは、式(9)のように表すことができる。
【0041】
μは異物Fの線減弱係数であり、tは異物Fの透過距離、すなわち異物Fの厚みである。
【0042】
従って、式(2)、式(5)、式(8)、及び式(9)から、各背景部分I、IIにおける放射線強度の比は、式(10)の通りとなる。
【0043】
【0044】
式(10)から明らかなように、被検体1の背景部分のみを透過した放射線強度に対する、背景部分と異物Fとを透過した放射線強度との比は、背景となる被検体1の厚みに依存せず、異物Fの線減弱係数μと、異物Fの透過距離tとによって決まる固有の値となる。そのため、異物Fを透過する場合の放射線強度と異物Fを透過しない場合の放射線強度との比を計算して当該比を反映させた画像を生成することで、異物Fの存在の有無を検出することができる。
【0045】
また、図5に示すように、被検体1の内部に異物Fが存在する場合も同様に、厚みの異なる放射線強度の比I1+F/I及びI2+F/Iは等しい。すなわち、被検体1の厚みが薄い背景部分Iと異物Fを透過した放射線強度I1+Fは、式(11)のように表すことができ、被検体1の厚みが厚い背景部分IIと異物Fを透過した放射線強度I2+Fは、式(12)のように表すことができる。
【0046】
μは、被検体1の線減弱係数であり、tは、放射線が被検体1の背景部分Iを透過する透過距離、すなわち被検体1の背景部分Iの厚みである。tは、放射線が被検体1の背景部分IIを透過する透過距離、すなわち被検体1の背景部分IIの厚みである。μは異物Fの線減弱係数であり、tは異物Fの透過距離、すなわち異物Fの厚みである。
【0047】
従って、式(2)、式(5)、式(11)、及び式(12)から、各背景部分I、IIにおける放射線強度の比は、式(13)の通りとなる。
【0048】
【0049】
式(13)から明らかなように、被検体1の背景部分のみを透過した放射線強度に対する、背景部分と異物Fとを透過した放射線強度との比は、背景となる被検体1の厚みに依存せず、被検体の線減弱係数μと、異物Fの線減弱係数μと、異物Fの透過距離tとによって決まる固有の値となる。そのため、異物Fを透過する場合の放射線強度と異物Fを透過しない場合の放射線強度との比を計算して当該比を反映させた画像を生成することで、異物Fの存在の有無を検出することができる。
【0050】
即ち、この放射線検査装置においては、ステージ4をわずかに移動させて、移動前後の透過データの比を計算することで、空孔V又は異物Fを透過する場合の放射線強度と空孔V又は異物Fを透過しない場合の放射線強度との比が計算されることになるものである。
【0051】
そして、ステージ4を移動させるのをわずかにするのは、例えば、被検体1の背景部分IIのみを透過した放射線強度と、背景部分Iと空孔V又は異物Fとを透過した放射線強度の比となることを回避するためである。但し、空孔V又は異物Fを透過する場合の放射線強度と空孔V又は異物Fを透過しない場合の放射線強度との比が計算された画素領域が画像上で把握可能となる程度の移動が望ましい。わずかな移動量として具体的には空孔V又は異物Fが存在する位置における検出器3の画素ピッチの例えば3倍程度とするのが望ましい。ここで、空孔V又は異物Fが存在する位置における検出器3の画素ピッチとは、検出器3の画素ピッチを、焦点21と検出器3の放射線入力面との距離FDDと焦点21と空孔V又は異物Fが存在する位置との距離FODとの比FDD/FODで除した値である。
【0052】
尚、移動機構5は、被検体1が並進対称性を有する方向に被検体1を移動させることが望ましい。並進対称性を有する方向とは、被検体1の移動前後における透過データの変化が少ない方向である。そのため、この放射線検査装置は、例えば、陽極箔及び陰極箔が巻回された内部構造を有する円柱形状の電池等の被検体1に特に有効である。この電池は、軸に直交する各断面が同じ構造を有し、その円柱軸方向が並進対称性を有する方向である。
【0053】
(効果)
このように、本実施形態の放射線検査装置は、放射線を照射する放射線源2と、放射線源2の照射範囲に位置し、被検体1を載置可能なステージ4と、ステージ4を挟んで放射線源2とは反対側に位置し、被検体1を透過した放射線を検出する検出器3と、検出器3から得た被検体1の二次元の透視情報を画像化する処理装置6と、処理装置6により得られた画像を表示する表示装置7と、を備える。そして、処理装置6は、被検体1の位置が異なる二つの透過データの比を算出し、二次元の比画像を生成する演算部62を有し、表示装置7は、演算部62が生成した比画像を表示するようにした。
【0054】
これにより、空孔、異物の存在位置に関わらず、空孔、異物の固有のコントラストの比画像が得られるので、空孔、異物を検出する精度を向上させることができる。例えば、透視画像を見たときには、空孔、異物以外の背景部分は、ほぼ均一な濃淡であるため、被検体1の位置が異なる二つの透過データの比を計算することで、背景部分の情報を相殺することができる。その一方、空孔、異物の部分は背景部分のX線透過厚に依存しない固有の値となるので、顕著な濃淡差を持ち、目立たせることができる。したがって、空孔又は異物を検出する精度を向上させることができる。
【0055】
尚、本実施形態では、検出器3から出力された透過データの比を計算したが、放射線強度の二次元分布を由来とする透視情報であれば、空孔、異物の存在位置に関わらず、空孔、異物の固有のコントラストの比画像が得られるので、空孔、異物を検出する精度を向上させることができる。透視情報としては、透過データの他、透過データの画素値をグレースケール等の輝度値に変換して表示装置7に表示可能にした透視画像が挙げられる。
【0056】
また、本実施形態の放射線検査装置は、ステージ4を移動させる移動機構5を有し、移動機構5は、被検体1が並進対称性を有する方向に、被検体1を移動させるようにした。これにより、空孔、異物以外の背景部分の透視情報は、被検体1の移動前後において、ほぼ同じにすることができるので相殺することができ、空孔、異物を目立たせることができる。その結果として、空孔、異物の検出精度を向上させることができる。
【0057】
(第2の実施形態)
(構成)
次に、第2の実施形態に係る放射線検査装置について図面を参照しつつ詳細に説明する。第1の実施形態と同一構成及び同一機能については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0058】
図6は、第2の実施形態に係る放射線検査装置の構成の一例を示す図である。図6に示すように、本実施形態の放射線検査装置は、フラットパネルディテクタ8を有する。フラットパネルディテクタ8は、ゲイン補正値設定モードを有する。ゲイン補正値設定モードとは、各画素の感度のバラツキを補正するゲイン補正値を設定するモードである。図7に示すように、各画素は感度にバラツキがあり、入射した放射線強度が同じでも、出力値である透視情報の値が異なる。そのため、フラットパネルディテクタ8が出力する透視情報の値を各画素で一定の値が出力されるように、ゲイン補正値を求め、フラットパネルディテクタ8の検出量にゲイン補正値を乗算することで感度を一定にする補正をする。各画素の出力値を一定にするため、例えば出力値を1として正規化すると、ゲイン補正値は、フラットパネルディテクタ8の検出量の逆数であり、図7に示すように、各画素の検出感度と相補的な関係にある。
【0059】
図8は、フラットパネルディテクタ8の機能ブロック図である。図8に示すように、このフラットパネルディテクタ8は、X線検出部3aとともに、ゲイン補正取得部81、記憶部82、演算部83を有する。
【0060】
X線検出部3aは、フラットパネルディテクタ8の放射線検出要素であり、シンチレータ面に沿ってフォトダイオードとTFTスイッチを有する。
【0061】
ゲイン補正取得部81は、被検体1をステージ4上に載置した状態で、被検体1を透過させた放射線を検出し、各画素値を同一値にするゲイン補正値を取得する。このゲイン補正値は、二次元分布であり、当該被検体1が反映される。例えば、図9に示すように、被検体1をステージ4上に載置して被検体1を透過させた放射線を検出すると、透視情報には、各画素の感度のバラツキと被検体1の厚みに合わせた形状が現れる。ゲイン補正取得部81は、当該透視情報の逆数としてゲイン補正値を取得する。記憶部82は、ストレージを含み構成され、ゲイン補正取得部81により取得したゲイン補正値を記憶する。演算部83は、CPUを含み構成され、X線検出部3aで得られた透視情報に対してゲイン補正値を乗算する。
【0062】
(作用)
図10は、本実施形態に係る放射線検査装置の動作の一例を示すフローチャートである。図10に示すように、まず、ゲイン補正値設定モードを起動させる(ステップS21)。次に、被検体1をステージ4上に載置する(ステップS22)。そして、放射線源2により照射され、被検体1を透過した放射線をフラットパネルディテクタ8により検出し、ゲイン補正取得部81によりゲイン補正値を取得する(ステップS23)。更に、取得したゲイン補正値を記憶部82に記憶する(ステップS24)。
【0063】
次に、ゲイン補正値設定モードを終了し(ステップS25)、移動機構5により、ステージ4を移動させることで被検体1をわずかに移動させる(ステップS26)。被検体1をわずかに移動させた後、検査モードを起動し(ステップS27)、放射線により、ステージ4上の被検体1を撮影する(ステップS28)。すなわち、放射線源2により放射線ビーム22を被検体1に照射し、被検体1を透過した放射線をフラットパネルディテクタ8により検出する。その検出結果である透視情報は、演算部83に出力される。
【0064】
そして、演算部83は、ステップS28によりX線検出部3aから得られた二次元の輝度値と、記憶部82に記憶されたゲイン補正値とを、同一座標の画素同士で乗算する。このとき、ゲイン補正値は、被検体1の透視情報の逆数であるから、この乗算は比画像を生成することになる(ステップS29)。演算部83は、生成した比画像を表示装置7に出力し、当該比画像を画面上に表示する(ステップS30)。
【0065】
(効果)
本実施形態の放射線検査装置は、フラットパネルディテクタ8を有し、フラットパネルディテクタ8は、被検体1をステージ4上で載置した状態で、各画素値を同一値にするゲイン補正値を取得するゲイン補正取得部81と、ゲイン補正値を記憶する記憶部82と、演算部83を有する。演算部83は、ゲイン補正値を取得する時とは異なる位置に被検体1を移動させて得た透視情報とゲイン補正値とを乗算することで、比画像を生成するようにした。
【0066】
これにより、フラットパネルディテクタ8の出力がそのまま比画像であり、比の画像を計算する構成と時間を削減することができる。すなわち、ステージ4に何も載置しない状態でゲイン補正値を取得し、当該ゲイン補正値を、ステージ4に被検体1を載置した状態の透視情報に乗算することでゲイン補正を行い、その結果をフラットパネルディテクタ8の出力値とする従来の使用方法の場合、1回目の撮像による透視情報と、位置をずらした2回目の撮像による透視情報との比を計算する必要がある。
【0067】
これに対し、本実施形態では、ステージ4に被検体1を置いた状態でゲイン補正値を取得しているので、このゲイン補正値には、各画素の感度のバラツキと、被検体1とが反映されており、ゲイン補正値が、例えば第1の実施形態における1回目の撮像による透視情報の逆数になっている。そのため、このゲイン補正値を、位置をずらした撮像による透視情報に乗算するというゲイン補正を行うことで得られる結果は、比画像そのものになっている。
【0068】
したがって、実際に比画像を計算するまでもなく、ゲイン補正機能を有する一般的なフラットパネルディテクタを用いて、ゲイン補正を行うことで、実質的に比画像を計算したことと同じ効果を得ることができる。換言すれば、演算部83は、演算部62と実質的に同一であり、記憶部61にゲイン補正取得部81により取得したゲイン補正値を記憶させることで、フラットパネルディテクタ8は、検出器3及び処理装置6を含み構成することができる。
【0069】
また、ステージ4に何も載置しない状態の空気を透過させたゲイン補正を用いてゲイン補正するより、SNの良い比画像を得ることができる利点がある。更に、ステージ4に何も載置しない状態の空気を透過させたゲイン補正を用いる従来の方法であると、被検体1が変わっても同じゲイン補正を使用し続けるため、各画素等の経時変化が反映されない。これに対し本実施形態では、被検体1が変わる毎にステージ4に被検体1を置いた状態でゲイン補正値を取得しているので、フラットパネルディテクタ8の経時変化をも考慮した比画像を得ることができ、空孔V、異物Fを検出する精度をより向上させることができる。
【0070】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。以上のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0071】
例えば、第1及び第2の実施形態では、演算部62,83はコンピュータとして構成したが、専用の電子回路により構成しても良い。演算部62は、透視情報を対数変換する対数変換回路と、2つの対数変換した透視情報の差を演算する差分回路と、差分回路により得た値を指数変換する指数変換回路とを有するように構成しても良い。これにより、より高速に比画像を生成することができる。
【0072】
第1及び第2の実施形態では、被検体1を移動機構5により移動させたが、作業員が移動させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0073】
1 被検体
2 放射線源
21 焦点
22 放射線ビーム
3 検出器
3a X線検出部
4 ステージ
5 移動機構
6 処理装置
61 記憶部
62 演算部
63 撮影制御部
7 表示装置
8 フラットパネルディテクタ
81 ゲイン補正取得部
82 記憶部
83 演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10