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特許6995669圧電体フィルム、圧電体フィルムの製造方法、および、圧電体デバイス
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  • 特許-圧電体フィルム、圧電体フィルムの製造方法、および、圧電体デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】圧電体フィルム、圧電体フィルムの製造方法、および、圧電体デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/193 20060101AFI20220106BHJP
   H01L 41/45 20130101ALI20220106BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20220106BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20220106BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H01L41/193
H01L41/45
H01L41/09
H01L41/113
C08J7/00 303
C08J7/00 CEW
C08J7/00 301
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018038532
(22)【出願日】2018-03-05
(65)【公開番号】P2019153713
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】寺島 久明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信文
(72)【発明者】
【氏名】菅野 和幸
(72)【発明者】
【氏名】會田 恵子
【審査官】西出 隆二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05254296(US,A)
【文献】Masahiro Inoue, et al.,Thermal stability of poly(vinylidene fluoride) films pre-annealed at various temperatures,Polymer Degradation and Stability,92(2007),ELSEVIER,2007年07月27日,1833-1840頁
【文献】V. Sencadas, et al.,Characterization of poled and non-poled β-PVDF films using thermal analysis techniques,thermochimica acta,424(2004),ELSEVIER,2004年07月28日,201-207頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/193
H01L 41/45
H01L 41/09
H01L 41/113
C08J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンに由来した繰り返し単位を主たる構成単位として含むフッ素樹脂を圧電材料として含む圧電体フィルムであって、
前記圧電体フィルムの圧電定数d31が20pC/N以上であり、かつ、
TMA測定によって求められる収縮開始の補外開始温度が90℃以上135℃以下であり、
前記圧電体フィルムを100℃で24時間加熱する処理が試験処理であり、前記試験処理の前後で測定された圧電定数d31の差が、前記試験処理前の圧電定数d31に対して20%以下である
圧電体フィルム。
【請求項2】
前記フッ素樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体である
請求項1に記載の圧電体フィルム。
【請求項3】
フッ化ビニリデンに由来した繰り返し単位を主たる構成単位として含むフッ素樹脂から形成されたシートに対して、延伸処理と分極処理とを行い、それによって、圧電性を有した結晶性高分子フィルムを形成するフィルム形成工程と、
90℃以上115℃以下が第1温度であり、前記結晶性高分子フィルムを前記第1温度で5秒以上130秒以下加熱し、それによって、前記結晶性高分子フィルムに対して、熱固定と残留歪みの緩和とを行う緩和工程と、
前記緩和工程後の前記結晶性高分子フィルムを前記第1温度以上140℃以下で15秒以上120秒以下さらに再加熱して圧電体フィルムを製造する二次加熱工程と、
を含む
圧電体フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記二次加熱工程は、前記結晶性高分子フィルムを前記第1温度で加熱する
請求項に記載の圧電体フィルムの製造方法。
【請求項5】
結晶性高分子シートから圧電体フィルムを製造する方法であって、
フッ化ビニリデンに由来した繰り返し単位を主たる構成単位として含むフッ素樹脂から形成されたシートに対して、延伸処理と分極処理とを行い、それによって、圧電性を有した結晶性高分子フィルムを形成するフィルム形成工程と、
115℃よりも高く150℃以下の温度で前記結晶性高分子フィルムを10秒以上140秒以下加熱し、それによって、前記結晶性高分子フィルムに対して、熱固定と残留歪の緩和とを行う緩和工程と、を含む
圧電体フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の圧電体フィルムを備える
圧電体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデンに由来した繰り返し単位を主たる構成単位として含むフッ素樹脂を圧電材料として備えた圧電体フィルム、圧電体フィルムの製造方法、および、圧電体フィルムを備える圧電体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ化ビニリデンを圧電材料として備えた圧電体フィルムは、振動センサ、接触センサ、超音波センサ、加速度センサなどの各種のセンサや、加振用アクチュエータ、制振用アクチュエータなどの各種のアクチュエータなどの多くの用途に用いられている。特許文献1は、ポリフッ化ビニリデンフィルムの製造に際して、MD(Machine Direction)方向へのポリフッ化ビニリデンシートの一軸延伸処理と、ポリフッ化ビニリデンシートの分極処理とを同時に行う。MD方向への延伸によって製造された圧電体フィルムは、高い圧電定数d31を有する点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-171935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、延伸によって製造された圧電体フィルムは、通常、ロール状に巻き回された製品として一旦保管されて、その後、センサやアクチュエータの加工に用いられる。この際、圧電体フィルムは、ロール状の製品から引き出されて、センサやアクチュエータなどの加工に際しては、蒸着処理やラミネート処理などの加熱を伴う処理を施される加工工程において圧電体フィルムが高温で加熱される結果、その圧電体フィルムでは、圧電定数d31が低下してしまうという新たな課題が招来している。そして、このような圧電定数d31が低下した圧電フィルムを備える圧電体デバイスにおいて、不具合が生じることとなる。
本発明の目的は、圧電定数d31の低下を抑制可能とした圧電体フィルム、圧電体フィルムの製造方法、および、圧電体デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための圧電体フィルムは、フッ化ビニリデンに由来した繰り返し単位を主たる構成単位として含むフッ素樹脂を圧電材料として含む圧電体フィルムであって、前記圧電体フィルムの圧電定数d31が20pC/N以上であり、かつ、TMA測定によって求められる収縮開始の補外開始温度が90℃以上135℃以下である。
【0006】
上記課題を解決するための圧電体フィルムの製造方法は、フッ化ビニリデンに由来した繰り返し単位を主たる構成単位として含むフッ素樹脂から形成されたシートに対して、延伸処理と分極処理とを行い、それによって、圧電性を有した結晶性高分子フィルム(以下、単に、「結晶性高分子フィルム」とも言う)を形成するフィルム形成工程と、90℃以上115℃以下が第1温度であり、前記結晶性高分子フィルムを前記第1温度で5秒以上130秒以下加熱し、それによって、前記結晶性高分子フィルムに対して、熱固定と残留歪みの緩和とを行う緩和工程と、前記緩和工程後の前記結晶性高分子フィルムを前記第1温度以上140℃以下でさらに再加熱して圧電体フィルムを製造する二次加熱工程と、を含む。
【0007】
上記課題を解決するための圧電体フィルムの製造方法は、結晶性高分子シートから圧電体フィルムを製造する方法であって、フッ化ビニリデンに由来した繰り返し単位を主たる構成単位として含むフッ素樹脂から形成されたシートに対して、延伸処理と分極処理とを行い、それによって、圧電性を有した結晶性高分子フィルムを形成するフィルム形成工程と、115℃よりも高く150℃以下の温度で前記結晶性高分子フィルムを10秒以上140秒以下加熱し、それによって、前記結晶性高分子フィルムに対して、熱固定と残留歪の緩和とを行う緩和工程と、を含む。
【0008】
上記圧電体フィルム、および、上記圧電体フィルムの製造方法によれば、圧電体フィルムの加工時に圧電体フィルムの加熱が行われるとしても、加工による圧電定数d31の低下を抑えることが可能となる。
【0009】
上記圧電体フィルムにおいて、前記圧電体フィルムを100℃で24時間加熱する処理が試験処理であり、前記試験処理の前後で測定された圧電定数d31の差が、前記試験処理前の圧電定数d31に対して20%以下であってもよい。この圧電体フィルムによれば、圧電定数d31の減衰率が20%以下に確保されるため、圧電定数d31と補外開始温度とによって圧電体フィルムが特定される構成と比べて、加工による圧電定数d31の低下を、より確実に抑えることが可能ともなる。
【0010】
上記圧電体フィルムにおいて、前記フッ素樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体であってもよい。この圧電体フィルムによれば、フッ素樹脂が、フッ化ビニリデンの共重合体である構成と比べて、圧電体フィルムの圧電定数d31を高めることが容易でもある。
【0011】
上記圧電体フィルムの製造方法において、前記二次加熱工程は、前記結晶性高分子フィルムを前記第1温度で加熱してもよい。この圧電体フィルムの製造方法によれば、緩和工程で用いられる加熱の設備と、二次加熱工程で用いられる加熱の設備との共通化を図ることが可能ともなる。
上記課題を解決するための圧電体デバイスは、上記圧電体フィルムを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る圧電体フィルム、圧電体フィルムの製造方法、および、圧電体デバイスによれば、圧電定数d31の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】各実施例および比較例における補外開始温度と圧電定数d31との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、圧電体フィルム、圧電体フィルムの製造方法、および、圧電体デバイスの一実施形態について図1を参照して説明する。なお、圧電体フィルムは、例えば、製品としてロール状に巻き回されて搬送される。圧電体フィルムを備えた圧電体デバイスは、圧電体フィルムの製品から引き出される圧電体フィルムを用いて製造される。
【0015】
[圧電体フィルム]
圧電体フィルムは、フッ化ビニリデンに由来した繰り返し単位を主たる構成単位として含むフッ素樹脂を圧電材料として含む。フッ素樹脂は、フッ化ビニリデンに由来した繰り返し単位を主たる構成単位として含む樹脂(以下、ポリフッ化ビニリデン樹脂とも称する)である。本明細書等において「主たる構成単位」とは、樹脂を構成する全ての繰り返し単位を100モル%としたときに、フッ化ビニリデンに由来した繰り返し単位を50モル%以上含むことを意味している。
【0016】
ポリフッ化ビニリデン樹脂は、単独重合体であることが好ましいが、共重合体であってもよい。ここでの共重合体とは、フッ化ビニリデンと、1-クロロ-1-フルオロ-エチレン、1-クロロ-2-フルオロ-エチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロピレン、および、ビニルフルオリドからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0017】
なお、ポリフッ化ビニリデン樹脂のインヘレント粘度は、1.0dl/g以上であることが好ましい。インヘレント粘度は、0.4g/dlの濃度を有したジメチルホルムアミド溶液の30℃での測定値である。1.0dl/g以上のインヘレント粘度を有したポリフッ化ビニリデン樹脂は、ネッキング延伸でシートに作用するせん断力によるシートの破断を抑えられる。1.1dl/g以上2.0dl/g以下のインヘレント粘度を有したポリフッ化ビニリデン樹脂は、ネッキング延伸において、高い強度と良好な延伸性とを得られる。ネッキング延伸とは、延伸処理時にシートの進行する方向での一点で、シートの厚みおよび幅に括れ(ネッキング部)を生じる形態での延伸である。
【0018】
圧電体フィルムには、フッ素樹脂以外の樹脂、または、添加剤などの成分が含まれてもよい。フッ素樹脂以外の樹脂としては、例えば、メタクリル樹脂、セルロース誘導体樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂を挙げることができる。
【0019】
また、添加物としては、例えば、金属酸化物粒子、カップリング剤、界面活性剤である。金属酸化物粒子は、例えば、アルミナ粒子、酸化マグネシウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化イットリウム粒子である。カップリング剤は、フッ素樹脂に分散した金属酸化物粒子と圧電材料との結合度合いを高める機能を有し、例えば、有機チタン化合物、有機シラン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物である。界面活性剤は、フッ素樹脂に分散した金属酸化物粒子と圧電材料との親和性を高める機能を有し、例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤である。
圧電体フィルムは、下記[条件1][条件2]を満たす。
[条件1]圧電定数d31が20pC/N以上である。
[条件2]収縮開始の補外開始温度が90℃以上135℃以下である。
【0020】
なお、収縮開始の補外開始温度は、圧電体フィルムを用いたTMA(Thermomechanical Analyzer)測定によって求められる。補外開始温度(Extrapolated onset temperature)は、JIS K0129に準拠した温度である。補外開始温度は、加熱測定において、低温側のベースラインを高温側へ延長した直線と、ピークの低温側の曲線に勾配が最大となる点で引いた接線との交点の温度である。補外開始温度は、圧電体フィルムにおいて熱収縮の挙動が発現する温度である。
【0021】
圧電体フィルムは、下記[条件3]を満たすことが好ましい。
[条件3]試験処理での圧電定数d31の減衰率が20%以下である。
なお、試験処理は、圧電体フィルムを100℃で24時間加熱する試験であり、圧電定数d31の減衰率は、試験処理前の圧電定数d31に対する、試験処理前後で測定された圧電定数d31の差の比である。
【0022】
なお、圧電体フィルムは、圧電定数d31の発現する方向と一致する方向に、表面擦過傷を有してもよい。このような表面擦過傷は、圧電体フィルムの製造工程において、導電性を有した加熱ロールを延伸処理に用い、加熱ロールの表面を粗面化することによって得られる。圧電体フィルムの備える表面擦過傷は、圧電体フィルムと電極との密着強度を高めることを可能とする。圧電体フィルムの有する厚みは、例えば、10μm以上500μm以下である。
【0023】
[圧電体デバイス]
圧電体デバイスは、圧力センサ、振動センサ、接触センサ、超音波センサ、加速度センサなどの各種のセンサや、加振用アクチュエータ、制振用アクチュエータなどの各種のアクチュエータである。
【0024】
センサ機器の一例である振動センサは、振動を受けて変位する錘と、錘の荷重を受ける上記圧電体フィルムとを備え、圧電体フィルムの表面と裏面とに電極を備えている。そして、振動センサは、振動に応じて変位する錘の荷重の変化を、圧電体フィルムを挟む電極間の電圧信号として検出する。
【0025】
センサ機器の他の例である接触センサは、カバーフィルムと、カバーフィルムと重なる上記圧電体フィルムとを備え、圧電体フィルムの表面と裏面とに電極を備えている。そして、接触センサは、圧電体フィルムを挟む電極間の電圧信号を検出し、電圧信号の変化が検出された部位を、カバーフィルムで押圧された部位として検出する。
【0026】
[圧電体フィルムの第1製造方法]
圧電体フィルムの第1製造方法は、結晶性高分子シートを出発原料として用いる。結晶性高分子シートは、フッ素樹脂を主成分として形成される。圧電体フィルムの第1製造方法は、(A)フィルム形成工程と、(B)第1緩和工程と、(C)二次加熱工程とを含む。(B)第1緩和工程と(C)二次加熱工程との間では、結晶性高分子フィルムがロール状に巻き取られ、例えば、常温下で数日間にわたり静置される。
【0027】
(A)フィルム形成工程
フィルム形成工程は、結晶性高分子シートに対して、延伸処理と分極処理とを行い、それによって、結晶性高分子シートから、結晶性高分子フィルムを形成する工程である。延伸処理と分極処理とは、同時に行ってもよいし、延伸処理を行った後に、分極処理を行うようにしてもよい。
【0028】
結晶性高分子シートを構成する樹脂は、上記の圧電体フィルムの項目で説明したフッ素樹脂を主成分として用いたものである。なお、ここでの「主成分」とは、結晶性高分子シートを形成するために用いられる成分の中で最も多く含まれる成分であることを意味している。結晶性高分子シートを構成する樹脂は、直流電圧の印加である分極処理によって圧電性を発現する。
【0029】
延伸処理と分極処理とが行われる前の結晶性高分子シートは、圧電性を有しないシートであり、例えば、溶融押出法や、溶液キャスティング法を用いて形成される。溶融押出法を用いて形成される結晶性高分子シートは、延伸条件の変更によって結晶性高分子シートの厚みを適宜調整される。結晶性高分子シートの厚みは、例えば、20μm以上2500μm以下が好ましく、40μm以上1500μm以下がより好ましい。20μm以上の厚みを有した結晶性高分子シートは、延伸処理に際して結晶性高分子シートの破断を生じにくい。2500μm以下の厚みを有した結晶性高分子シートは、延伸処理に際して結晶性高分子シートの搬送に適した柔軟性を結晶性高分子シートで得られやすい。
【0030】
結晶性高分子シートは、導電性を有した加熱ロールに送給される。加熱ロールに送給された結晶性高分子シートは、延伸方向をMD方向として、加熱ロールと接触する領域で、ネッキング延伸される。加熱ロールの温度は、ネッキング延伸を効果的に進めるために、室温以上、かつ、結晶性高分子シートの融点未満、例えば、70℃以上135℃以下に設定される。この際、直流電源に接続された非接触の電極と、接地された加熱ロールとの間に直流電圧が印加され、それによって、結晶性高分子シートの延伸処理と、結晶性高分子シートの分極処理とが同時に行われる。
【0031】
なお、結晶性高分子シートの延伸倍率は、例えば2.5倍以上6.0倍以下である。結晶性高分子シートの延伸倍率が2.5倍以上であれば、ネッキング延伸を安定させやすい。結晶性高分子シートの延伸倍率が6.0倍以下であれば、結晶性高分子シートや結晶性高分子フィルムでの破断を抑えやすい。
【0032】
(B)第1緩和工程
第1緩和工程は、フィルム形成工程で形成された結晶性高分子フィルムを加熱し、それによって、結晶性高分子フィルムにおける残留歪みを緩和させ、また、結晶性高分子フィルムを熱固定する工程である。熱固定後の結晶性高分子フィルムは、熱固定前の結晶性高分子フィルムと比べて、加熱を伴う処理を施される加工工程で熱収縮を生じにくい。結晶性高分子フィルムを加熱する方法としては、例えば、結晶性高分子フィルムを熱風に曝す方法、結晶性高分子フィルムを加熱ロールに通す方法、および、これらの組み合わせが用いられる。
【0033】
第1緩和工程での結晶性高分子フィルムの温度は、第1温度である。第1温度とは、90℃以上115℃以下の温度である。第1緩和工程での結晶性高分子フィルムの加熱時間は、例えば、1分以上5分以下である。
【0034】
(C)二次加熱工程
二次加熱工程は、熱固定後の結晶性高分子フィルムを用い、結晶性高分子フィルムの耐熱性を高めるための加熱として、結晶性高分子フィルムを再度加熱し(再加熱し)、それによって、結晶性高分子フィルムから圧電体フィルムを形成する工程である。結晶性高分子フィルムを再加熱する方法としては、例えば、結晶性高分子フィルムを熱風に曝す方法、結晶性高分子フィルムを加熱ロールに通す方法、および、これらの組み合わせが用いられる。
【0035】
二次加熱工程での結晶性高分子フィルムの温度は、第2温度である。第2温度とは、第1温度以上140℃以下の温度である。したがって、第2温度の範囲としては、90℃以上140℃以下が最も広い範囲となる。二次加熱工程での結晶性高分子フィルムの加熱時間は、15秒以上120秒以下であり、20秒以上60秒以下であることが好ましい。第2温度が140℃以下であれば、結晶性高分子フィルムが軟化することを抑えることが可能である。なお、二次加熱工程では、結晶性高分子フィルムに対して所定の張力を加えながら第2温度で加熱することが好ましい。加熱時間が20秒以下であると所望の特性が得られず、120秒以上であると結晶性高分子フィルムの耐久性に制約が生じる。
【0036】
ここで、製品としての圧電体フィルムは、通常、圧電体フィルムを用いる次の加工工程に向けて、ロール状に巻き取られたり、ロールから引き出されたりする。この際、結晶性高分子フィルムは、センサなどの加工工程に合わせて引き出され、表面蒸着処理やドライラミネート処理などの加工工程に合わせて加熱される。結果として、熱固定後の結晶性高分子フィルムであっても、結晶性高分子フィルムには、若干の熱収縮を生じ(後収縮を生じ)、結晶性高分子フィルムの圧電定数d31を低下させてしまう。
【0037】
この点、上述した圧電体フィルムの製造方法では、ロール状に巻き取られた結晶性高分子フィルムが静置された後、その結晶性高分子フィルムに対して、二次加熱工程が行われる。そして、ロール状に巻かれた結晶性高分子フィルムは、二次加熱工程に合わせて引き出され、第1温度以上140℃以下で再加熱される。結果として、圧電体フィルムは、上述した加工工程での収縮を、この二次加熱工程で予め矯正される。なお、熱固定後の結晶性高分子フィルムでは、後収縮を開始する温度が、熱固定によって既に上昇している。他方、二次加熱工程では、この熱固定時の温度以上で結晶性高分子フィルムが再加熱される。そのため、後収縮を開始する温度が、熱固定によって上昇したとしても、後収縮を矯正することが可能でもある。
【0038】
[圧電体フィルムの第2製造方法]
圧電体フィルムの第2製造方法は、第1製造方法と同様に、結晶性高分子シートを出発原料として用いる。圧電体フィルムの第2製造方法は、(A)フィルム形成工程と、(B)第2緩和工程とを含む。なお、(A)フィルム形成工程は、第1製造方法のフィルム形成工程と同様であるため、ここでは、その説明を省略する。以下では、(B)第2緩和工程について詳細に説明する。
【0039】
(B)第2緩和工程
第2製造方法における第2緩和工程は、結晶性高分子フィルムを加熱するうえで第1緩和工程と同様の処理ではあるが、結晶性高分子フィルムの温度範囲が異なる。すなわち、第2緩和工程での結晶性高分子フィルムの温度は、115℃よりも高く150℃以下の温度であることが好ましく、130℃よりも高く135℃以下であることがより好ましい。なお、第2緩和工程での結晶性高分子フィルムの加熱時間は、例えば、10秒以上140秒以下であることが好ましく、20秒以上140秒以下であることがより好ましい。
【0040】
第2緩和工程での温度は、上記温度範囲であれば特に限定されるものではない。ただし、結晶性高分子フィルムを加熱する温度が115℃以下であれば、第1製造方法のように、二次加熱工程が必要になる。また、結晶性高分子フィルムを加熱する温度が150℃以上であれば、結晶性高分子フィルムの耐久性に制約が生じる。
【0041】
この点、第2緩和工程を行う第2製造方法であれば、第1製造方法で行われる(C)二次加熱工程を省略することもできる。すなわち、第2製造方法であれば、(C)二次加熱工程を行うことなく、補外開始温度を90℃以上135℃以下とすることもできる。また、第2製造方法により得られる結晶性高分子フィルムの圧電定数d31の減衰率を低下させることができる。
【0042】
[実施例1~8:第1製造方法]
厚みが100μmであるポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製 KF#1100)のシートを結晶性高分子シートとして用い、結晶性高分子シートに対して、ネッキング延伸処理の後、分極処理を行った。この際、表面温度120℃に加熱された加熱ロールに、結晶性高分子シートを通し、直流電圧を0kVから20kVに増加させて、延伸処理後に分極処理を行った。そして、厚みが27μmである実施例の結晶性高分子フィルムを得た。
【0043】
次いで、第1温度として100℃を設定し、かつ、加熱時間として10秒を設定し、実施例の結晶性高分子フィルムに、熱風による第1緩和工程を行った。さらに、第1温度として90℃を設定し、かつ、加熱時間として2分を設定し、熱風に曝した結晶性高分子フィルムを加熱ローラに通し、さらなる第1緩和工程を行った。そして、熱風および加熱ローラによる第1緩和工程後の結晶性高分子フィルムをロール状に巻き取り、常温下で3日間にわたり静置した。なお、熱風および加熱ローラによる第1緩和工程では、結晶性高分子フィルムに対する張力が一定となるように、第1緩和工程内の結晶性高分子フィルムの送り出し速度に差を設けた。
【0044】
続いて、第2温度として90℃以上130℃以下を設定し、かつ、加熱時間として20秒以上60秒以下を設定し、第1緩和工程後の結晶性高分子フィルムに、二次加熱工程を行った。そして、第2温度と加熱時間とのいずれか一方を変更し、8種類の実施例の圧電体フィルムを得た。なお、実施例1の第2温度は90℃であり、加熱時間は60秒である。実施例2の第2温度は100℃であり、加熱時間は60秒である。実施例3の第2温度は110℃であり、加熱時間は60秒である。実施例4の第2温度は120℃であり、加熱時間は60秒である。実施例5の第2温度は125℃であり、加熱時間は40秒である。実施例6の第2温度は125℃であり、加熱時間は60秒である。実施例7の第2温度は130℃であり、加熱時間は60秒である。実施例8の第2温度は130℃であり、加熱時間は20秒である。また、二次加熱工程を行わないこと以外は、実施例と同じ条件を用い、比較例の圧電体フィルムを得た。
【0045】
[実施例9,10:第2製造方法]
実施例1~8において用いられた厚みが27μmである実施例の結晶性高分子フィルムを用いて、第2緩和工程での加熱温度として135℃を設定し、かつ、加熱時間として20秒を設定し、結晶性高分子フィルムに、熱風による第2緩和工程を行った。さらに、温度として90℃を設定し、かつ、加熱時間として2分を設定し、熱風に曝した結晶性高分子フィルムを加熱ローラに通し、さらなる低温での温調工程を行った。この後、二次加熱処理を行わないこと以外は、実施例1~8と同様にして、実施例9の圧電フィルムを得た。また、実施例9における加熱ローラの温度を90℃から120℃に変更して温調工程を第2緩和工程の延長とし、それ以外の条件を実施例9と同じくして、実施例10の圧電フィルムを得た。なお、実施例9,10において、第2緩和工程後の温調工程は、第2緩和工程直後の結晶性高分子フィルムの急冷を抑えて、薄い結晶性高分子フィルムでの急冷による皺の発生や、厚い結晶性高分子フィルムでの急冷による反りの発生を抑える。
【0046】
そして、実施例1~10の圧電体フィルム、および、比較例の圧電体フィルムについて、以下の条件に基づき、補外開始温度、圧電定数d31、および、圧電定数d31の減衰率を測定した。
【0047】
[試験片]
各実施例、および、比較例の圧電体フィルムの表面および裏面に、厚みが100nm以上800nm以下のアルミニウム電極を蒸着法によって形成した。次いで、アルミニウム電極が形成された圧電体フィルムから、圧電定数測定用のサンプルとして、7mm×30mmのサイズを有した試験片を切り出した。また、補外開始温度測定用のサンプルとして、圧電体フィルムから、3mm×60mmのサイズを有した試験片を切り出した。
[圧電定数d31の測定]
各実施例および比較例の試験片を用い、以下の条件で圧電定数d31を測定した。
・測定装置 レオログラフ-ソリッド(株式会社 東洋精機製作所製)
・測定温度 23℃
・測定周波数 10Hz
・印加張力 1N
[補外開始温度の測定]
各実施例および比較例の試験片(3mm×60mm)を用い、以下の条件で熱収縮挙動を測定し、その測定結果に基づいて、補外開始温度を測定した。
・測定装置 EXSTAR6000(セイコーインスツル株式会社製)
・開始温度 30℃
・終了温度 150℃
・昇温速度 2℃/分
・測定間隔 1秒
【0048】
[圧電定数d31の減衰率測定]
実施例1~10および比較例の試験片に対して以下の試験処理を行い、試験前の圧電定数d31と、試験後の圧電定数d31とを測定した。そして、試験処理前の圧電定数d31に対する試験処理後の圧電定数d31の減衰率を算出した。減衰率は、試験処理前の圧電定数d31に対する、試験処理前後の圧電定数d31の差の比率である。
・試験温度 100℃
・試験時間 24時間
・試験装置 恒温器HT320(楠本化成株式会社製)
【0049】
実施例1~10および比較例における製造方法の種別、二次加熱工程の処理条件の詳細、第2緩和工程の処理条件の詳細、補外開始温度、圧電定数d31、圧電定数d31の減衰率を表1に示す。また、実施例1~10および比較例について、補外開始温度と圧電定数d31の減衰率との関係を図1に示す。なお、表1において、第1製造方法を「(1)」と表記し、第2製造方法を「(2)」と表記する。そして、第1製造方法を用いた実施例1~8の各々では、熱処理条件として、二次加熱工程の処理条件を示し、第2製造方法を用いた実施例9,10では、熱処理条件として、第2緩和工程の処理条件を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1が示すように、比較例の圧電体フィルムでは、試験前の圧電定数d31が27.9pC/Nであり、試験後の圧電定数d31が21.6pC/Nであり、補外開始温度が84.8℃であり、圧電定数d31の減衰率が22.6%であることが認められた。これに対して、二次加熱工程を経た圧電体フィルム(実施例1~8)は、試験後の圧電定数d31が22.8pC/N以上26.1pC/N以下であり、補外開始温度が92.3℃以上と高く、かつ、減衰率が17.8%以下と低いことが認められた。また、第2緩和工程における加熱温度を135℃とし、二次加熱工程を行わなかった実施例9の圧電体フィルムは、試験後の圧電定数d31が実施例1~8よりも高い26.8pC/Nであり、実施例10の圧電体フィルムは、試験後の圧電定数d31が実施例1~4,7,8よりも高い25.3pC/Nであることが認められた。また、実施例9,10の圧電体フィルムは、補外開始温度が98.8℃以上と高く、かつ、減衰率が7.3%以下と低いことが認められた。すなわち、実施例1~10は、[条件1][条件2][条件3]を満たすことが認められた。
【0052】
また、表1および図1が示すように、実施例1~10において、補外開始温度が高いほど、減衰率が低いという傾向が認められた。なお、二次加熱工程での第2温度が高いほど、また、二次加熱工程での加熱時間が長いほど、補外開始温度はおよそ低く、また、減衰率もおよそ低いという傾向も認められた。特に、二次加熱工程での第2温度が125℃である条件では、補外開始温度が非常に高い110℃以上であり、また、減衰率が非常に低い10%未満であることが認められた。さらに、実施例9,10では、第2緩和工程において135℃という高い温度で処理することで、減衰率を大きく低減させることができることが認められた。
【0053】
以上、上記実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)圧電体フィルムの加工に際して、圧電体フィルムの加熱が行われるとしても、加工による圧電定数d31の低下を抑えることが可能となる。
(2)圧電定数d31の減衰率が、20%以下に確保されるため、[条件1][条件2]のみで圧電体フィルムが特定される構成と比べて、加工による圧電定数d31の低下を、より確実に抑えることが可能ともなる。
【0054】
(3)圧電体フィルムを構成するフッ素樹脂が、フッ化ビニリデンの単独重合体である構成では、フッ化ビニリデンの共重合体である構成と比べて、圧電体フィルムの圧電定数d31を高めることが容易でもある。
【0055】
(4)第1温度と第2温度とが相互に等しい方法であれば、第1温度で加熱するための設備と、第2温度で加熱するための設備との共通化を図ることが可能ともなる。
【0056】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することも可能である。
・第1緩和工程では、相互に異なる第1温度を用い、各第1温度において、別々の加熱方法を採用することも可能である。また、第1緩和工程では、相互に等しい第1温度を用い、各第1温度において、別々の加熱方法を採用することも可能である。
【0057】
・二次加熱工程では、相互に異なる第2温度を用い、各第2温度において、別々の加熱方法を採用することも可能である。また、二次加熱工程では、相互に等しい第2温度を用い、各第2温度において、別々の加熱方法を採用することも可能である。
【0058】
・緩和工程と二次加熱工程との間において、結晶性高分子フィルムの室温での保管の形態は、ロール状に巻き回された状態での保管に限らず、例えば、所定の載置面上に重ねて載置された状態での保管とすることも可能である。
【0059】
・第2緩和工程では、115℃よりも高く150℃以下の温度で、相互に異なる加熱温度を用い、各加熱温度において、別々の加熱方法や別々の加熱時間を採用することも可能である。また、第2緩和工程では、115℃よりも高く150℃以下の温度で、相互に等しい加熱温度を用い、各加熱温度において、別々の加熱方法と別々の加熱時間とを採用することも可能である。
図1