(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20220106BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B41J2/165 303
B41J2/01 303
(21)【出願番号】P 2018087848
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【氏名又は名称】中島 由布子
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-299209(JP,A)
【文献】特開2004-74733(JP,A)
【文献】特開2010-221663(JP,A)
【文献】特開2012-240274(JP,A)
【文献】特開2019-5951(JP,A)
【文献】特開2004-34477(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0207684(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズル孔がノズル面に開口するヘッドと、
前記ノズル面に付着したインクを払拭する払拭片と、を有するインクジェット印刷装置であって、
前記払拭片では、前記ノズル面に付着したインクを払拭する際の前記払拭片の払拭方向における前側の面が前記ノズル面に付着したインクの払拭面となっており、
前記払拭片における前記ノズル面に接触する一端側では、前記払拭片を前記払拭方向の前側に湾曲させて形成したすくい面領域が、前記払拭面に設けられており、
前記払拭面では、前記すくい面領域から見て他端側の領域にロータス効果を発揮する模様が設けられており、
前記払拭片で前記ノズル面に付着したインクを払拭する際に、前記払拭片の前記一端側側を鉛直線方向の上方に配置して、前記ロータス効果を発揮する模様により、前記ノズル面から拭き取られて前記すくい面領域に付着したインクを、前記鉛直線方向で下側に位置する前記他端側に排出させるようにしたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記ロータス効果を発揮する模様は、前記すくい面領域から前記他端側に延びる線状溝であり、
前記払拭面では、前記線状溝が間隔をあけて複数並んでいることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記線状溝の溝幅と、隣接する前記線状溝の間の間隔は、前記払拭面に付着したインクの接触角の最小角が90度になるように設定されていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
前記ヘッドはヘッド保持部材に保持されており、
前記ヘッド保持部材は、当該ヘッド保持部材から突出する突起部を有しており、
前記突起部は、前記払拭片の払拭方向の下流側で前記ノズル面に隣接して設けられており、
前記突起部は、前記払拭方向に直交する方向における所定の長さを有しており、
前記突起部は、前記払拭方向で前記ノズル面から離れるにつれて、前記払拭方向に直交する方向の幅が狭くなっており、
前記突起部は、前記払拭片と当接する突出方向の高さを有すること特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項5】
前記突起部は、前記払拭方向に直交する方向の一方から他方に向かうにつれて、当該払拭方向の長さが短くなっていることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項6】
前記突起部は、前記払拭方向で前記ノズル面から離れるにつれて、前記ヘッド保持部材に近づく傾斜面を有していることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置は、ノズル面に付着したインクを払拭する(掻き取る)ワイピング機構を備える。特許文献1では、掻き取った後のインクがワイパーブレードに付着しないように、当該ワイパーブレードに表面処理を施したインクジェット印刷装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
図9は従来例にかかるインクジェット印刷装置100を説明する図である。(a)は、印刷媒体側からノズル面310を見た図である。ワイパ600は仮想線で示してある。(b)は、(a)のA-A断面図であり、ノズル面310を下側に向けた図である。
図9の(a)に示すように、従来例にかかるインクジェット印刷装置100のヘッド31は、キャリッジ300に搭載されており、主走査方向Xに移動可能である。ヘッド31は、インク滴を吐出するノズル孔315が複数形成されたノズル面310を有する。ヘッド31のノズル面310は、図示しない印刷媒体に対向するように配置される。ノズル孔315からは印刷媒体に向けてインク滴が吐出される。
【0005】
図9の(b)に示すように、ノズル面310にはインクQが付着する。ノズル面310に付着したインクQを除去するために、インクジェット印刷装置100は、インクQを除去するワイピング機構6を備える。ワイピング機構6は、主走査方向Xにおけるノズル面310の一側縁311から他側縁312に向かってワイパ600を相対的に移動させて、ノズル面310に付着したインクQを掻き取る(図中、矢印参照)。ワイパ600は板状の弾性部材である。
【0006】
インクQの掻き取りの際は、ワイパ600は、ノズル面310上を摺動する先端601側が、基端602側よりも移動方向の後側に傾いた状態で弾性変形している。この場合において、ワイパ600が掻き取ったインクQは、ワイパ600の表面に付着する。
弾性変形によるワイパ600のひずみエネルギーは、ワイパ600の先端601がノズル面310の他側縁312から離れた瞬間に解放される。これにより、ワイパ600に付着したインクQは弾き飛ばされる。
【0007】
例えば、複数のヘッド31が主走査方向Xに沿ってキャリッジ300に並設された場合、1つのヘッド31から弾き飛ばされたインクQが、隣接するヘッド31のノズル面310にかかって悪影響を及ぼす。これを避けるためには、隣接するヘッド31同士の間隔を所定の長さだけ離間させる必要がある。よって、キャリッジ300が大型化する。
【0008】
そのため、掻き取ったインクがワイパの表面に付着したままとならないようにすることが求められている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
複数のノズル孔がノズル面に開口するヘッドと、
前記ノズル面に付着したインクを払拭する払拭片と、を有するインクジェット印刷装置であって、
前記払拭片では、前記ノズル面に付着したインクを払拭する際の前記払拭片の払拭方向における前側の面が前記ノズル面に付着したインクの払拭面となっており、
前記払拭片における前記ノズル面に接触する一端側では、前記払拭片を前記払拭方向の前側に湾曲させて形成したすくい面領域が、前記払拭面に設けられており、
前記払拭面では、前記すくい面領域から見て他端側の領域にロータス効果を発揮する模様が設けられており、
前記払拭片で前記ノズル面に付着したインクを払拭する際に、前記払拭片の前記一端側側を鉛直線方向の上方に配置して、前記ロータス効果を発揮する模様により、前記ノズル面から拭き取られて前記すくい面領域に付着したインクを、前記鉛直線方向で下側に位置する前記他端側に排出させるようにした構成のインクジェット印刷装置。
【0010】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記ロータス効果を発揮する模様は、前記すくい面領域から前記他端側にに延びる線状溝であり、
前記払拭面では、前記線状溝が間隔をあけて複数並んでいる構成とした。
【0011】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記線状溝の溝幅と、隣接する前記線状溝の間の間隔は、前記払拭面に付着したインクの接触角の最小角が90度になるように設定されている構成とした。
【0012】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記ヘッドはヘッド保持部材に保持されており、
前記ヘッド保持部材は、当該ヘッド保持部材から突出する突起部を有しており、
前記突起部は、前記払拭片の払拭方向の下流側で前記ノズル面に隣接して設けられており、
前記突起部は、前記払拭方向に直交する方向における所定の長さを有しており、
前記突起部は、前記払拭方向で前記ノズル面から離れるにつれて、前記払拭方向に直交する方向の幅が狭くなっており、
前記突起部は、前記払拭片と当接する突出方向の高さを有する構成とした。
【0013】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記突起部は、前記払拭方向に直交する方向の一方から他方に向かうにつれて、当該払拭方向の長さが短くなっている構成とした。
【0014】
本発明の一態様にかかるインクジェット印刷装置において、
前記突起部は、前記払拭方向で前記ノズル面から離れるにつれて、前記ヘッド保持部材に近づく傾斜面を有している構成とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、掻き取ったインクがワイパの表面に付着したままとならないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】インクジェット印刷装置を説明する図である。
【
図2】インクジェット印刷装置の要部拡大図である。
【
図3】インクジェット印刷装置のキャリッジを説明する図である。
【
図6】ワイピング機構によるインクの掻き取りを説明する図である。
【
図7】ワイピング機構によるインクの掻き取りを説明する図である。
【
図9】従来例にかかるインクジェット印刷装置を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施の形態を、ワイピング機構6を備えるインクジェット印刷装置1を例に挙げて説明する。
【0018】
図1は、インクジェット印刷装置1を説明する模式図である。なお、
図1では、前カバーの記載は省略してある。またガイドレール20の一部を仮想線で記載している。
図2は、インクジェット印刷装置1の要部拡大図であり、印刷部3が待機位置に配置された状態を説明する図である。なお、説明の便宜上、
図2では、ガイドレール20の一部を切欠いて記載してあると共に、吸引装置37の位置をずらして示している。
また、以下の説明では、インクジェット印刷装置1の設置状態を基準とした鉛直線VL方向を、上下方向とも標記する。
【0019】
図1に示すように、インクジェット印刷装置1は、筐体2と、印刷媒体Mへの画像形成(印刷)を行うための印刷部3と、インクを貯留するインクタンク10と、メンテナンスを行うメンテナンス部5と、印刷媒体Mを搬送する搬送部8と、を備える。印刷媒体Mは、例えば紙や布、塩化ビニルやポリエステル等からなる樹脂シート等である。
【0020】
インクタンク10は、使用するインクの種類に応じた数だけ設けられる。インクタンク10内に貯留されたインクは、図示しないインク供給装置によって、後記する印刷部3のヘッド31に供給される。搬送部8は、印刷媒体Mを副走査方向Yに搬送する。
【0021】
インクジェット印刷装置1は、筐体2に配設された操作パネル9と、図示しない制御装置とを備える。制御装置は、印刷部3や搬送部8、他のインクジェット印刷装置1の各部と電気的に接続されている。制御装置は、操作パネル9からの入力信号に応じて、インクジェット印刷装置1の各部の作動を制御する。印刷媒体Mへの印刷処理やインク排出処理、後記する印刷部3のメンテナンス処理等を実行する。制御装置は、具体的にはマイクロコンピュータであり、CPU、RAM、ROM、入力ポート、及び出力ポートを備える。
【0022】
図2に示すように、印刷部3は、筐体2内に配置されている。印刷部3は、インク滴を印刷媒体Mに向けて吐出するヘッド31と、当該ヘッド31を保持するキャリッジ30と、を備える。実施の形態では、キャリッジ30は4つのヘッド31を保持している。4つのヘッド31は主走査方向Xに沿ってキャリッジ30に並設されている。
【0023】
印刷部3のキャリッジ30は、筐体2内に設けられたガイドレール20に係合している。ガイドレール20は、長手方向を主走査方向Xに沿わせて設けられている。キャリッジ30は、ガイドレール20を介して主走査方向Xに往復移動可能である。キャリッジ30の移動は、図示しないキャリッジ移動装置を用いて行われる。
【0024】
ここで、
図1に示すように、ガイドレール20は印刷媒体Mの上方に配置される。主走査方向Xにおいて、ガイドレール20の長さLaは、印刷媒体Mの長さLbよりも長い(La>Lb)。この場合において、ガイドレール20は、長手方向の一端20a側が印刷媒体Mに上下方向で対向し、他端20b側が後記するメンテナンス部5に上下方向で対向する。
【0025】
ガイドレール20は、一端20a側で印刷媒体Mと対向する第1ガイド部21と、他端20b側でメンテナンス部5に上下方向で対向する第2ガイド部22と、から構成される。
印刷を行う場合、印刷部3は第1ガイド部21上を移動し、印刷媒体Mにインク滴を吐出する。印刷を行わない場合、印刷部3は第2ガイド部22上の所定位置で待機する(
図2参照。以下、この位置を待機位置と標記する)。
印刷部3は、第2ガイド部22上の待機位置において、メンテナンス部5によってヘッド31のメンテナンスが行われる。
【0026】
[メンテナンス部5]
図2に示すように、インクジェット印刷装置1のメンテナンス部5は、主走査方向Xにおけるガイドレール20の他端20b側(
図1中、右側)に設けられている。
メンテナンス部5は、後記するヘッド31のノズル面310を払拭するワイピング機構6と、ヘッド31内のインクを吸引する吸引装置7と、を備える。
【0027】
[ワイピング機構6]
ワイピング機構6は、第2ガイド部22の下方に配置されている。ワイピング機構6は、印刷部3の待機位置よりも主走査方向Xにおける第1ガイド部21側に配置されている。ワイピング機構6は、ヘッド31のノズル面310に付着したインクQを掻き取る。詳細は後記する。
【0028】
[吸引装置7]
吸引装置7は、第2ガイド部22の下方に配置されている。吸引装置7は、印刷部3の待機位置において当該印刷部3の下方に位置している。吸引装置7は、本体部70と、ヘッド31と同数のキャップ71と、図示しないインク排出管と、図示しない吸引ポンプとを有する。
【0029】
実施の形態にかかる吸引装置7では、4つのヘッド31に対応して4つのキャップ71を有する。各キャップ71は、本体部70に保持されている。印刷部3が待機位置にある場合において、キャップ71はヘッド31のノズル面310に対向する。本体部70は上下方向に移動可能になっている。本体部70が上方に移動されると、キャップ71はヘッド31のノズル面310を覆う。
【0030】
これにより、吸引装置7は、キャップ71とノズル面310との間に形成された空間に負圧を発生させ、図示しないヘッド31のノズル内に残存するインクを吸引する。図示しないインク排出管は、吸引ポンプによって吸引されたインクを図示しない廃インクタンクに排出する。
【0031】
ここで、メンテナンス部5によるヘッド31のメンテナンスは、以下の手順で行われる。
(i)ヘッド31のノズル内に残存するインクQを吸引装置7で吸引する。
(ii)吸引によって、ノズル面310からはインクQが膨出する。ノズル面310から膨出した(付着した)インクQをワイピング機構6で掻き取る。
(iii)膨出したインクQの掻き取り後、僅かにインク滴を吐出してノズルのフラッシングを行う。
【0032】
[キャリッジ30]
図3は、キャリッジ30を説明する模式図である。(a)は、
図2おけるA-A矢視方向から見たキャリッジ30の斜視図である。(b)は、(a)におけるA領域の拡大図である。なお、(a)では、右側2箇所のヘッド31を省略し、キャリッジ30の開口部350を示している。(b)では、ヘッド31の一部を切り欠いて示すことで、ヘッド31を収容する開口部350を示している。(c)は、(b)におけるC-C断面図である。
【0033】
インクジェット印刷装置1においてキャリッジ30は、主走査方向Xに移動可能に設けられている。
図2、
図3の(a)に示すように、キャリッジ30では、複数のヘッド31が、主走査方向Xに並んでいる。
ヘッド31の各々は、キャリッジ30の下面に固定されたヘッド保持部35で、下端31aが保持される。
なお、以下の説明では、1つのヘッド31を例に挙げて説明する。
【0034】
図3の(b)に示すように、ヘッド31の下端31aでは、主走査方向Xにおける略中央部に、ノズル孔315が並んだ領域(ノズル面310)が設けられている。
ノズル面310は、鉛直線VLに直交する平坦面であり、ノズル面310では、複数のノズル孔315が直列に並んだノズル列316が、主走査方向Xに等間隔で複数設けられている。
【0035】
各ノズル列316においてノズル孔315は、副走査方向Yに等間隔で直列に並んでいる。ヘッド31では、ノズル列316ごとに異なる色のインク滴が吐出される。
なお、
図3の(b)に示したノズル面310の位置、ノズル列316の配置、ノズル列316を構成するノズル孔315は、一例であり、
図3の(b)に示した態様にのみ限定されない。
【0036】
キャリッジ30のヘッド保持部35には、ヘッド31に対応した形状の開口部350が開口している。ヘッド31は、対応する開口部350にノズル面310側が挿入された状態で、キャリッジ30に保持される。
【0037】
この状態において、ヘッド31のノズル面310は、ヘッド保持部35の底面35aよりも下方に配置される(
図6の(b)参照)。
本実施の形態では、ノズル面310は、底面35aから所定高さT2だけ下方に突出している。
【0038】
[突起部4]
図3の(b)に示すように、開口部350は、主走査方向Xに沿う向きで互いに平行に配置された一対の側縁351、352と、側縁351、352の端部同士を接続する一対の側縁353、354と、を有する。
一対の側縁353、354は、副走査方向Yに沿う向きで、互いに平行に設けられている。開口部350は、ヘッド31の外形と整合する矩形形状を成している。
【0039】
ヘッド保持部35では、ヘッド31に対応する開口部350の側縁354に沿って、突起部4が設けられている。突起部4は、ヘッド保持部35の底面35aから下方に突出しており、キャリッジ30と一体に形成されている(
図6の(b)参照)。
【0040】
図3の(b)に示すように、突起部4は、副走査方向Yにおける側縁354の全長に亘って延びる基部40と、当該基部40の副走査方向Yの一端から主走査方向Xに延びる延出部41とを有する。
延出部41は、副走査方向Yにおける基部40の端部から、主走査方向X方向に延出している。主走査方向Xの延出部41の延出長さΔtは、開口部350とヘッド31との隙間の長さΔdよりも長い(Δt>Δd)。
【0041】
図3の(b)に示すように、基部40は、主走査方向Xで開口部350から離れるほど、副走査方向Yにおける幅W1が狭くなっている。また、基部40は主走査方向Xにおける長さL1が副走査方向Yにおける側縁351から側縁352に向かうにつれて短くなっている。つまり、基部40は、
図3の(b)における上側から下側に向かうにつれて主走査方向Xの幅が狭くなっており、下方から見た基部40の形状は、略直角三角形形状となっている。
【0042】
図6の(b)に示すように、基部40及び延出部41の底面35aからの突出高さT1は、前記したノズル面310の底面35aからの突出高さT2より僅かに低い(T1<T2)。上下方向における基部40の先端面40aは、ヘッド31の下端31a(ノズル面310)と平行であり、この先端面40aは、前記した延出部41の先端面41aと、同じ高さで設けられている(
図3の(c)参照)。
【0043】
基部40では、延出部41とは反対側(
図3の(c)における右側)に傾斜面40bが設けられている。傾斜面40bは、ヘッド31から主走査方向Xに離れるにつれて(
図3の(c)における右側に向かうにつれて)、底面35aからの突出高さT1が低くなる傾斜面である。
【0044】
図3の(b)に示すように、傾斜面40bの主走査方向Xの幅は、は副走査方向Yの略全長に亘って略同じとなっている。そのため、先端面40aは、傾斜面40bが設けられていることにより、
図3の(b)における上側から下側に向かうにつれて、主走査方向Xの幅が狭くなっている。
主走査方向Xにおける基部40の開口部350側の側面40c(
図6の(b)参照)は、上下方向で開口部350の側縁354と面一である。
【0045】
[ワイピング機構6]
ワイピング機構6について、
図4、5を用いて説明する。
図4は、ワイピング機構6を説明する図である。(a)は、ワイピング機構6の斜視図であり、ワイピング機構6の主要構成を示した図である。(b)は、リンク機構が展開された状態を示す図である。(c)は、リンク機構が折り畳まれた状態を示す図である。
図5は、ワイパ部60を説明する図である。(a)は、ワイパ部60の斜視図である。(b)は、ワイパ部60の平面図である。(c)は、(b)のワイパ部60のA-A断面図である。なお、ワイパーブレード61の線状溝610の大きさは誇張してある。
【0046】
図5の(a)に示すように、ワイパ部60は、板状のワイパーブレード61と、当該ワイパーブレード61を保持する保持部62と、を有する。ワイパーブレード61は、例えばプロピレン等の樹脂材料や、EPDM等の弾性材料から構成される。
【0047】
図5の(b)に示すように、副走査方向Yにおけるワイパーブレード61の幅W2は、ノズル面310の幅W3(
図3参照)以上の大きさになっている(W2≧W3)。詳細は後記するが、インクQの払拭において、ノズル面310の全体を略均一に払拭するためである。
【0048】
図5の(b)に示すように、ワイパーブレード61は、厚み方向から見て長方形形状をなしている。ワイパーブレード61では、長手方向に直交する方向(図中、上下方向)における下端612側が後記する保持部62に保持され、上端611側が保持部62から突出する。ワイパーブレード61は、下端612側で保持部62に片持ち支持されている。ワイパーブレード61は、厚み方向に弾性的に変位可能となっている。
【0049】
図5の(c)に示すように、ワイパーブレード61の上端611側は、厚み方向における一方の面(掻取面61a)側に円弧状に湾曲している。一方の掻取面61a側の上端611側には、弧状のすくい面領域Sが形成されている。
【0050】
すくい面領域Sは、ワイパーブレード61の長手方向における全長に亘って形成されている(
図5の(b)参照)。詳細は後記するが、ワイパーブレード61は、一方の面61a(すくい面領域S)でノズル面310のインクQの掻き取り(払拭)を行う。そこで、以下の説明では、一方の面61aを掻取面61aとも標記する。
【0051】
ワイパーブレード61の掻取面61aには、線状溝610が形成されている。線状溝610は、上下方向に直線状に形成されている。線状溝610は、ワイパーブレード61の上端611から下端612側に所定距離Δh離れた位置から、下端612に延びる。線状溝610は、長手方向における掻取面61aの全長に亘って等ピッチで複数形成されている。
【0052】
詳細は後記するが、線状溝610の幅ΔLと、長手方向で隣接する線状溝610のピッチPと、は、インクQのワイパーブレード61の掻取面61aに対する接触角φが90度以上となるように設定されている。表面の凹凸によるロータス効果が発揮されるからである。
【0053】
[保持部材62]
図5の(c)に示すように、ワイパーブレード61の下端612側を保持する保持部材62は、断面視において矩形形状を成す基部620の中央に、スリット621を有している。
スリット621は、インクジェット印刷装置1の設置状態を基準とした鉛直線VL方向で、上方を向いて開口している。
保持部材62においてワイパーブレード61は、当該ワイパーブレード61を上方側からスリット621に挿入した状態で、保持部材62に支持されている。
この状態において、ワイパーブレード61の上端611は、水平線HL方向に沿わせた向きで設けられている。
【0054】
ワイパーブレード61は、保持部材62の上端62aから上端611までの突出高さhaが、略一定の高さとなるように、保持部材62で支持されている。
保持部材62の基部620では、ワイパーブレード61の厚み方向における一方の面620aに、係合突起64が設けられており、他方の面620bに、係止部63が設けられている。
【0055】
係合突起64は、基部621の一方の面620aから、水平線HL方向に突出した円柱形状の部材であり、この係合突起64には、後記する第2リンク部材69の一端691が回動可能に連結される(
図4参照)。
【0056】
係止部63は、基部621の他方の面620bから、水平線HL方向に延びる腕部631と、当該腕部631の上端から下方に延びる係止片632と、を有している。
係止片632は、基部621の他方の面620bとの間に間隔をあけて、他方の面620bに対して平行に設けられており、他方の面620bと係止片632との間の領域に、ガイドレール65が挿入されるようになっている。
この状態において係止片632は、ガイドレール65の長手方向に移動可能となっている。
【0057】
図2に示すように、ガイドレール65は、キャリッジ30の下方で、主走査方向Xに直交する向きで設けられており、ガイドレール65に係止部63を介して支持された保持部材62は、主走査方向Xに直交する副走査方向Yに移動可能となっている。
【0058】
保持部材62においてワイパーブレード61は、当該ワイパーブレード61の幅方向を副走査方向Yに沿わせた向きで設けられており、ワイパーブレード61は、保持部材62の副走査方向Yへの移動に連動して、副走査方向Yに移動するようになっている。
【0059】
[駆動機構66]
図4に示すように、ワイピング機構6には、ワイパ部60を副走査方向Yで進退移動させる駆動機構66が設けられている。
駆動機構66は、モータ67と、モータ67の出力軸に連結された第1リンク部材68と、第1リンク部材68と保持部材62とを接続する第2リンク部材69と、を有している。
【0060】
第1リンク部材68は、長手方向の一端681が、モータ67の出力軸671に連結されており、第1リンク部材68の長手方向の他端682は、モータ67の出力回転で、回転軸X1周りの周方向に変位する。
【0061】
第2リンク部材69は、長手方向の一端691が、保持部材62の係合突起64に相対回転可能に連結されており、他端692が、第1リンク部材68の他端682に相対回転可能に連結されている。
【0062】
そのため、モータ67の出力軸671が、
図4において時計回り方向CWに回動すると
第1リンク部材68の他端682と、第2リンク部材69の他端692との連結点X2が、回動軸X1周りの周方向に変位する。
【0063】
そうすると、第2リンク部材69の一端691が、モータ67に近づく方向に引き寄せられて、第2リンク部材69の一端691が連結された保持部材62が、ワイパーブレード61と共に、モータ67側に移動するようになっている。
この際に、保持部材62に設けた係止部63が、ガイドレール65の正面を摺動することで、ワイパーブレード61が、上端611を水平線HLに沿わせたままの状態で、副走査方向Yに移動するようになっている。
【0064】
[ワイピング機構6の動作]
ワイピング機構6では、リンク機構(第1リンク部材68、第2リンク部材69)が、モータ67の出力軸671の回転軸X1回りの回動に連動して、副走査方向Yで展開または折り畳まれることで、ワイパーブレード61を保持する保持部材62が、ガイドレール65に沿って副走査方向Yで進退移動する(
図4の(b)、(c)参照)。
【0065】
インクQの掻き取りを行う場合、リンク機構(第1リンク部材68、第2リンク部材69)は展開される。そうすると、ワイパ部60は副走査方向Yにおける一方側に位置決めされる(
図4の(b)参照)。これにより、ワイパーブレード61の掻取面61aは、主走査方向Xにおけるノズル面310の移動経路と交差する。
【0066】
インクQの掻き取りを行わない場合、リンク機構(第1リンク部材68、第2リンク部材69)は折り畳まれている。ワイパ部60は副走査方向Yにおける他方側(図中、紙面奥側)に位置決めされている(
図4の(c)参照)。ワイパーブレード61の掻取面61aは、ノズル面310の移動経路から離れた位置に退避する。
【0067】
[インクの掻き取り]
ワイピング機構6のインクQの掻き取りについて説明する。
図6、
図7は、ワイピング機構6によるインクQの掻き取りを説明する図である。
図6の(a)は、ノズル面310に対するワイパーブレード61の位置関係を説明する図である。
図6の(b)は、ワイパーブレード61がノズル面310に対して、(P0)アプローチ位置に配置された状態を実線で示すと共に、ワイパーブレード61が、(P1)掻き取り開始位置、(P2)掻き取り途中位置、(P3)掻き取り終了位置、にそれぞれある場合を仮想線で示してある。ワイパーブレード61がノズル面310に対して(P1)掻き取り開始位置、(P2)掻き取り途中位置、(P3)掻き取り終了位置、にそれぞれある場合を仮想線で示してある。
図7の(a)~(c)は、
図6におけるA-A断面を示す図である。
(a)は、ワイパーブレード61が、(P1)掻き取り開始位置にある場合を示している。(b)は、ワイパーブレード61が、(P2)掻き取り途中位置にある場合を示している。(c)は、ワイパーブレード61が、(P3)掻き取り終了位置にある場合を示している。
図7の(d)~(f)は、
図6におけるB-B断面を示す図である。
(d)は、ワイパーブレード61が、(P1)掻き取り開始位置にある場合を示している。(e)は、ワイパーブレード61が、(P2)掻き取り途中位置にある場合を示している。(f)は、ワイパーブレード61が、(P3)掻き取り終了位置にある場合を示している。なお、
図7では、ワイピング機構6はワイパーブレード61と保持部材62のみ記載してある。
【0068】
インクQの掻き取りを行う場合、リンク機構(第1リンク部材68、第2リンク部材69)は展開される(
図4の(b)参照)。これにより、ワイパーブレード61は、主走査方向Xにおける(P0)アプローチ位置に配置される(
図6におけるヘッド31よりも左側)。ワイパーブレード61の掻取面61aは、ノズル面310の移動経路と交差する。
【0069】
ワイパーブレード61を(P0)アプローチ位置に配置したのち、印刷部3(
図2参照)を主走査方向X(ヘッド31をワイパーブレード61に近づける方向:
図6の(b)における左方向)に変位させる。
そうすると、ワイパーブレード61が、(P1)掻き取り開始位置に到達した時点で、ワイパーブレード61は、弾性的に変形しながらノズル面310に乗り上げる(
図7の(a)参照)。
【0070】
この際に、ワイパーブレード61が弾性的に変形して、キャリッジ30の移動側(図中、左側)に傾くことになる。これにより、ワイパーブレード61の掻取面61aのすくい面領域Sが、ノズル面310に対して傾斜した状態となり、ワイパーブレード61にはひずみエネルギーが溜まる。
【0071】
その後、ワイパーブレード61は、(P2)掻き取り途中位置を経て、(P3)掻き取り終了位置に向けて移動する。この過程で、ワイパーブレード61がノズル面310を摺動することで、ノズル面310に付着したインクQが掻き取られる。
【0072】
図6の(a)に示すように、ノズル面310を下側から見ると、ワイパーブレード61は主走査方向Xにおける(P1)掻き取り開始位置側から(P3)掻き取り終了位置側に向かって相対的に移動する(図中、矢印参照)。
図6では、図中左側がワイパーブレード61の移動方向の上流となり、右側が下流となる。
【0073】
図7の(a)、(d)に示すように、ワイパーブレード61が(P0)アプローチ位置に配置されたのち、下流側(左側)に移動すると、(P1)掻き取り開始位置でワイパーブレード61の上端611がノズル面310に当接する。
【0074】
図7の(b)、(e)に示すように、さらにワイパーブレード61が下流側に移動すると、ワイパーブレード61は弾性変形しながらノズル面310上を摺動する((P2)掻き取り途中位置)。この摺動により、ワイパーブレード61はノズル面310に付着したインクQを掻き取る。
【0075】
具体的には、ワイパーブレード61はノズル面310に対して略45度傾斜する。これにより、掻取面61aのすくい面領域Sがノズル面310に対向する。ノズル面310に付着したインクQは、すくい面領域Sによってすくい上げられる形で掻き取られる。
【0076】
なお、前記したように、ワイパーブレード61の幅W2は1つのノズル面310の幅W3以上の大きさになっている(W2≧W3)。よって、ワイパーブレード61の一回の主走査方向Xの移動で、1つのヘッド31のノズル面310のインクQの掻き取りが可能である。
【0077】
図7の(c)、(f)に示すように、さらにワイパーブレード61が下流側に移動すると、ノズル面310でのインクQの掻き取りが終わった後に、ワイパーブレード61は突起部4に乗り上げる((P3)掻き取り終了位置)。
ワイパーブレード61が突起部4に乗り上げると、当該ワイパーブレード61の上端611は、基部40の先端面40a上を摺動する。
【0078】
ここで、ヘッド31と開口部350との間には主走査方向Xで僅かに長さΔdの隙間があるが、ワイパーブレード61は、この隙間を通過する前に突起部4の延出部41に乗り上げる。前記したとおり、隙間の長さΔdよりも延出部41の延出長さΔtの方が長いからである(Δt>Δd、
図3の(b)参照)。これにより、ワイパーブレード61がヘッド31と開口部350との隙間に挟まることを防止される。
【0079】
突起部4の基部40は、上下方向から見て略直角三角形形状を成している(
図6参照)。
ワイパーブレード61が基部40上を主走査方向Xに移動すると、副走査方向Yにおけるワイパーブレード61の上端611の他方側(
図6の(a)における下側)は、基部40の先端面40a上を摺動しなくなる。(
図7の(f)参照)。つまりワイパーブレード61が弾性変形した状態が解除される。
この場合において、副走査方向Yにおける上端611の一方側(
図6の(a)における上側)は、基部40の先端面40a上を摺動している(
図7の(c)参照)。つまりワイパーブレード61が弾性変形した状態が維持されている。
【0080】
よって、副走査方向Yにおけるワイパーブレード61の他方側のひずみエネルギーが最初に解放される。そして、ワイパーブレード61が主走査方向Xに移動するにつれて、ワイパーブレード61は、副走査方向Yにおける他方(開口部350の側縁352)側から一方(開口部350の側縁351)側に向かって順番にひずみエネルギーが解放されていく。
【0081】
よって、ひずみエネルギーを少しずつ解放させることが出来る。これにより、掻き取られたインクQの弾き飛ばしをより好適に抑制できる。
これにより、ワイパーブレード61は副走査方向Yにおける全長に亘ってひずみエネルギーが一気に解放されることを防止している。
【0082】
よって、隣接するヘッド31同士の間隔を大きくすることなく、隣接するヘッド31のノズル面310にインクQがかかることが防止される。
【0083】
ここで、突起部4は、傾斜面40bを有している(
図3の(c)参照)。ワイパーブレード61のひずみエネルギーが解放される際に、上端611が傾斜面40bに摺動する(
図7の(f)参照)。そうすると、上端611が傾斜面40bを摺動する際の摩擦によって、解放されるひずみエネルギーを軽減でき、インクQの弾き飛ばしをより好適に抑制できる。
よって、隣接するヘッド31同士の間隔を大きくすることなく、隣接するヘッド31のノズル面310にインクQがかかることがさらに好適に防止される。
【0084】
なお、図示は省略するが、さらにワイパーブレード61を移動させると、ワイパーブレード61は突起部4から離れる。
【0085】
[ロータス効果]
ワイパーブレード61によって掻き取られた後のインクQについて説明する。
図8は、ワイパーブレード61上のインクQを説明する図である。
(a)は、
図7の(b)におけるワイパーブレード61を、掻取面61a側から見た斜視図である。(b)は、(a)におけるワイパーブレード61を、面Aで切断した切断面を模式的に示す図である。(c)は、(b)における掻取面61aに線状溝610を形成しない場合(平坦面とした場合)を説明する図である。
なお、見やすくするためにインクQのハッチングは省略してある。
【0086】
ワイパーブレード61でインクQを掻き取ると、掻き取った後インクQは掻取面61a上に液滴状態で溜まる(
図8の(a)参照)。液滴状態のインクQは、外気と接触する表面Qaと、掻取面61aと接触する界面Qbと、を有する。
【0087】
図8の(b)に示すように、ワイパーブレード61は、掻取面61a上に線状溝610を複数有しており、断面視において凹凸形状を成している(掻取面61aが凸部に相当、線状溝610が凹部に相当する)。
【0088】
ここで、1つの線状溝610の幅ΔLは、例えば5~15μmに設定されている。隣接する線状溝610のピッチPは、例えば20~30μmに設定されている。
そうすると、線状溝610内にはインクQは入り込まない。線状溝610とインクQの界面Qbとの間には、空気Airの層が形成される。
インクQの界面Qbでは、掻取面61a(凸部)との接触と、線状溝610(凹部)内の空気Airとの接触と、が交互に繰り返される(Cassie-Baxter状態)。
【0089】
Cassie-Baxter状態では、インクQにおける界面Qbと表面Qaの成す角φ(直線Lpと直線Lqの成す角。接触角φとも標記する)は、90度以上となる(
図8の(b)参照)。接触角φが90度以上となる場合、ロータス効果が発揮され、インクQの濡れ性が低くなる(掻取面61aの撥水性が向上する)。
なお、ロータス効果を発揮させるためには、掻取面61aの表面は、線状溝610でなくても良い。例えば掻取面61aは梨地状の模様を成す表面であっても良い。
このようなロータス効果を発揮させる模様は、少なくともインクQのすくい面領域Sにおける上端611とは反対側の下端612の近傍から設けられていることが好ましい。
これにより、すくい面領域Sに掻き取られたインクQを、当該すくい面領域Sから適切に排出させることが出来る。
【0090】
ロータス効果によって、インクQは掻取面61aに付着し難くなる。そして、掻取面61aは傾斜しているため、インクQの自重によって、下方(下端612側)にすばやく流れ落ちる(
図8の(a)の矢印参照)。
これにより、ひずみエネルギーが解放される際にワイパーブレード61上に留まっているインクQの量を少なくすることが出来る。よって、掻き取られたインクQの弾き飛ばしをより好適に抑制できる。
【0091】
ここで、
図8の(c)に示すように、掻取面61aが線状溝610の形成されていない平坦面とした場合は、インクQの界面Qbは、掻取面61aと全面に亘って接触する。
そうすると、界面Qbと表面Qaの成す角(接触角φ)は、0度以上90度未満となる。この場合、ロータス効果は発揮されず、インクQの濡れ性が高くなる(掻取面61aの撥水性は低い)。
【0092】
ロータス効果が発揮されないと、インクQは、掻取面61a上に付着し易くなる。そうすると、ひずみエネルギーが解放される際にワイパーブレード61上に留まっているインクQの量も多くなる。よって、掻き取られたインクQの弾き飛ばしによる影響を受け易くなる。
【0093】
以上の通り、実施の形態では以下の構成を有する。
(1)インクジェット印刷装置1は、
複数のノズル孔315がノズル面310に開口するヘッド31と、
ノズル面310に付着したインクQを払拭するワイパーブレード61(払拭片)と、を有する。
ワイパーブレード61は、ノズル面310に付着したインクQを払拭する際のワイパーブレード61の払拭方向における前側の面が、ノズル面310に付着したインクQの掻取面61aとなっている。
ワイパーブレード61におけるノズル面310に接触する上端611(一端)側では、ワイパーブレード61を払拭方向の前側に湾曲させて形成したすくい面領域Sが、掻取面61a(払拭面)に設けられている。
掻取面61aでは、すくい面領域Sから見て他端側の領域にロータス効果を発揮する線状溝610(模様)が設けられている。
ワイパーブレード61でノズル面310に付着したインクQを払拭する際に、ワイパーブレード61の上端611側を鉛直線方向の上方に配置して、ロータス効果を発揮する線状溝610(模様)により、ノズル面310から拭き取られてすくい面領域Sに付着したインクを、鉛直線方向で下側に位置する下端612(他端)側に排出させるようにした。
【0094】
このように構成すると、ロータス効果によって掻取面61aにおけるインクQの濡れ性が低くなる。これにより、掻き取り後のインクQが、すくい面領域Sに残留したままとならずに、掻取面61aを鉛直線方向の下側に移動する。
これにより、ノズル面310から拭き取られたインクQが、掻取面61aの上側の領域(すくい面領域S)に残留したままとなることを好適に防止できる。
よって、ノズル面310を拭き取る際に弾性的に変形しているワイパーブレード61が、ひずみエネルギーが解放されて元の形状に復帰する際に、すくい面領域Sからはじき飛ばされた周囲に飛散するインクQの量を抑制できる。
【0095】
(2)ロータス効果を発揮する模様である線状溝610は、すくい面領域Sからワイパーブレード61の下端612側に延びる。
掻取面61aでは、線状溝610が間隔をあけて複数並んでいる。
【0096】
このように構成すると、ロータス効果を発揮する線状溝610が、すくい面領域Sに掻き取られたインクを、すくい面領域Sから適切に排出させることができる。
【0097】
(3)掻取面61aでは、上端611から下端612側に所定距離Δh離れた位置から、線状溝610が、下端612側に延びている。
【0098】
このように構成すると、ノズル面310に付着したインクQを確実に掻き取ることが出来る。
【0099】
(4)線状溝610の溝幅ΔLと、隣接する線状溝610の間のピッチ(間隔)は、掻取面61aに付着したインクQの接触角φの最小角が90度になるように設定されている。
【0100】
このように構成すると、ロータス効果が発揮されて、線状溝610とインクQの間には空気の層ができる。インクQは線状溝610内に入り込まない。これにより、インクQの掻取面61aに対する濡れ性が低くなる(掻取面61aの撥水性が向上する)。
よって、掻き取り後のインクQが掻取面61a上に付着することを防止できる。
【0101】
(5)ヘッド31はキャリッジ30(ヘッド保持部材)に保持されている。
キャリッジ30は、当該キャリッジ30の底面35aから突出する突起部4を有している。
突起部4は、下流側でノズル面310に隣接している。
突起部4は、副走査方向Yにおけるノズル面310の側縁351(一方)から側縁352(他方)まで及ぶ所定長さを有している。
突起部4は、主走査方向X(払拭方向)でノズル面310から離れるにつれて、主走査方向Xに直交する方向の幅が狭くなっている。
突起部4は、ワイパーブレード61と当接する突出方向の高さT1を有する。
【0102】
このように構成すると、弾性変形によるワイパーブレード61のひずみエネルギーは、突起部4を離れた部分から少しずつ解放される。よって、掻き取られたインクQの弾き飛ばしを抑制できる。
【0103】
(6)突起部4は、副走査方向Yの側縁351(一方)から側縁352(他方)に向かうにつれて、主走査方向Xの長さが短くなっている。
【0104】
このように構成すると、弾性変形によるワイパーブレードのひずみエネルギーは、副走査方向における他方(側縁352)から一方(側縁351)に順番に解放される。
よって、ひずみエネルギーを少しずつ解放させることが出来、掻き取られたインクQの弾き飛ばしをより好適に抑制できる。
【0105】
(7)突起部4は、主走査方向Xでノズル面310から離れるにつれて、キャリッジ30に近づく傾斜面40bを有している。
【0106】
このように構成すると、ワイパーブレード61は突起部4から離れる際に、傾斜面40bを摺動する。そうすると、弾性変形によるワイパーブレード61のひずみエネルギーは、摺動抵抗を受けつつ解放される。
よって、掻き取られたインクQの弾き飛ばしをより好適に抑制できる。
【0107】
本願発明は、上記した実施の形態の態様に限定されるものではなく、本願発明の技術的な思想の範囲内で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 インクジェット印刷装置
2 筐体
3 印刷部
4 突起部
5 メンテナンス部
6 ワイピング機構
7 吸引装置
8 搬送部
9 操作パネル
10 インクタンク
20 ガイドレール
21 第1ガイド部
22 第2ガイド部
30 キャリッジ
31 ヘッド
310 ノズル面
350 開口部
40 基部
60 ワイパ部
61 ワイパーブレード
610 線状溝
61a 掻取面
62 保持部
63 係止部
64 突起
65 ガイドレール
66 駆動機構
67 モータ
68 第1リンク部材
69 第2リンク部材
70 本体部
71 キャップ
Lm 直線
M 印刷媒体
Q インク
Qa 表面
Qb 界面
X 主走査方向
Y 副走査方向
VL 鉛直線
φ 接触角