(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】鋳鋼鋳物製造システム
(51)【国際特許分類】
B22D 47/00 20060101AFI20220106BHJP
B22D 41/12 20060101ALI20220106BHJP
B22D 41/02 20060101ALI20220106BHJP
B22D 27/15 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B22D47/00
B22D41/12 Z
B22D41/02 B
B22D27/15
(21)【出願番号】P 2018128752
(22)【出願日】2018-07-06
【審査請求日】2020-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391020492
【氏名又は名称】藤和電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】西田 理
(72)【発明者】
【氏名】保 裕之
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 利幸
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-212163(JP,A)
【文献】特開2003-025059(JP,A)
【文献】特開2005-193261(JP,A)
【文献】特開平05-138329(JP,A)
【文献】特開平04-071771(JP,A)
【文献】国際公開第2015/111394(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/142983(WO,A1)
【文献】特開2010-240675(JP,A)
【文献】特開平11-342463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 33/00-47/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鋼用溶湯を貯留し、一列に並んだ複数の炉と;
前記炉から前記溶湯を受湯する取鍋を有する注湯機であって、前記複数の炉が並んだ列に平行な方向に移動し、前記取鍋を傾動することにより前記溶湯を鋳型に注湯する注湯機と;
前記注湯機の移動する方向と平行に並んだ複数の鋳型を間欠的に送り、前記注湯機を挟んで前記炉とは反対側に配設された鋳型搬送ラインとを備え;
前記注湯機は、前記注湯機を挟んで前記炉とは反対側に配設された鋳型搬送ライン上の前記注湯機の移動する方向と平行に並んだ鋳型に注湯し;
前記取鍋内の溶湯の温度を測定する温度センサをさらに有し;
前記測定した温度が所定の温度より低くなったときには警報を発する;
鋳鋼鋳物製造システム。
【請求項2】
前記警報が発せられた場合には、注湯を停止し、湯がえしするように構成された;
請求項1に記載の鋳鋼鋳物製造システム。
【請求項3】
前記注湯機は、前記取鍋を前記炉側と前記鋳型側に移動する取鍋移動装置を有する;
請求項1または請求項2に記載の鋳鋼鋳物製造システム。
【請求項4】
前記取鍋移動装置は、前記取鍋を前記炉から受湯する受湯位置から前記鋳型に注湯する注湯位置まで移動するローラーコンベアである;
請求項3に記載の鋳鋼鋳物製造システム。
【請求項5】
前記注湯機は、前記注湯機を移動させる移動台車と、前記ローラーコンベアを昇降する昇降装置と、前記ローラーコンベアを前記受湯位置と前記注湯位置との方向に移動する前後移動装置と、前記ローラーコンベアを傾斜させて前記取鍋から注湯させる傾動装置とを有する;
請求項4に記載の鋳鋼鋳物製造システム。
【請求項6】
前記注湯機は、前記取鍋に蓋を被せ、また、被せた蓋を取り外す蓋取り付け装置を有する;
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の鋳鋼鋳物製造システム。
【請求項7】
前記鋳型は鋳枠付き鋳型であり、前記鋳枠には貫通孔が形成され;
前記貫通孔に連結される連結口を前記鋳型搬送ラインに沿って複数有し、注湯される鋳型の前記鋳枠の貫通孔に前記連結口を連結して、該鋳型を減圧する減圧装置をさらに備える;
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の鋳鋼鋳物製造システム。
【請求項8】
前記取鍋に酸化防止ガスを充填する酸化防止ガス供給装置をさらに備える;
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の鋳鋼鋳物製造システム。
【請求項9】
前記取鍋は、鉄皮と耐火材の間に、多孔質耐火材の層を有する;
請求項8に記載の鋳鋼鋳物製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鋼鋳物を鋳造する鋳鋼鋳物製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶湯を炉から処理取鍋に受湯し、処理取鍋にて合金材と溶湯とを反応させ、反応後の溶湯を注湯取鍋に空け替えて、注湯機により注湯取鍋から鋳型ライン上の鋳型に注湯する鋳物製造装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、鋳物と同様に鋳型に溶湯を鋳込んで製造するが、鋳物より炭素含有量が少なく、強度的に優れた鋳鋼鋳物が知られている。鋳鋼鋳物は、炭素含有量が2%以下であり、通常2.5~4.5%の炭素含有量を有する、いわゆる鋳物(鋳鉄とも称される)とは区別される。鋳鋼は、鋳鉄に比べ、組織が均一であり、強度が高く、品質が均一であるなどの優れた特徴を有する。
【0004】
しかし、鋳鋼鋳物では、溶解および鋳込み温度が高く、かつ、温度低下による流動性の低下が大きいという欠点を有する。そのため、溶解炉で溶解に時間が掛かり、高温の溶湯を一気に鋳型に流し込むために、従来はスクリューなどの大型で単純な形状の製品に用いられるのが主であった。
【0005】
近年、鋳鋼鋳物を小型で複雑な形状にも適用しようとする要求が高まりつつある。そこで、通気性鋳型に空孔部を設けて減圧し、タンディッシュから溶湯を鋳込む方法が提案されている(特許文献2参照)。しかし、タンディッシュ底部の溶湯の流出口をガスで硬化する消耗型の砂型とするなど、小型の鋳鋼鋳物を連続的に大量に製造するには適してはいない。
【0006】
また、上記の鋳鋼鋳物の欠点を克服するために、取鍋の代わりに加熱源を備える炉体を用いる発明も提案されている(たとえば、特許文献3参照)。炉体から注湯することにより、鋳込み温度を高くできるが、設備が複雑になり、費用も余計に掛かることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5934451号公報
【文献】特開平8-290254号公報
【文献】特許第5492129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、比較的単純な設備で、小型の鋳鋼鋳物を連続的に大量に製造するのに適した鋳鋼鋳物製造システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る鋳鋼鋳物製造システム1は、たとえば
図1および
図2に示すように、鋳鋼用溶湯を貯留し、一列に並んだ複数の炉10と;炉10から溶湯を受湯する取鍋30を有する注湯機であって、複数の炉10が並んだ列に平行な方向に移動し、取鍋30を傾動することにより溶湯を鋳型70に注湯する注湯機20と;注湯機20の移動する方向と平行に並んだ複数の鋳型70を間欠的に送り、注湯機20を挟んで炉10とは反対側に配設された鋳型搬送ライン60とを備え;取鍋30内の溶湯の温度を測定する温度センサ38をさらに有し;測定した温度が所定の温度より低くなったときには警報を発する。
【0010】
このように構成すると、注湯機が一列に並んだ複数の炉と平行に移動して、複数の炉から受湯できるので、鋳鋼用溶湯を溶解するのに時間が掛かっても取鍋には適宜溶湯を供給することができる。また、注湯機の取鍋で受湯し、注湯機を挟んで炉と反対側に平行な鋳型搬送ラインの鋳型に注湯するので、取鍋で受湯してからすぐに注湯することができる。すなわち、鋳鋼用溶湯がほとんど温度低下する前に注湯できるので、温度低下による流動性の低下の影響を受けずに済む。さらに、取鍋内の溶湯の温度を計測し、所定の温度より低くなったときには警報を発するので、温度低下して流動性が低下した溶湯を注湯して欠陥のある鋳鋼鋳物を製造することを防止できる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る鋳鋼鋳物製造システム1は、警報が発せられた場合には、注湯を停止し、湯がえしするように構成されている。このように構成すると、温度低下した溶湯を鋳型に注湯することがなくなり、かつ、溶湯を無駄にすることもない。
【0012】
本発明の第3の態様に係る鋳鋼鋳物製造システム1では、たとえば
図5に示すように、注湯機20は、取鍋30を炉10側と鋳型70側に移動する取鍋移動装置40を有する。このように構成すると、注湯機により炉から取鍋に受湯し、取鍋移送装置で移動して、鋳型に注湯できるので、受湯後迅速に注湯することができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る鋳鋼鋳物製造システム1では、たとえば
図5および
図6に示すように、取鍋移動装置は、取鍋30を炉10から受湯する受湯位置から鋳型70に注湯する注湯位置まで移動するローラーコンベア40である。このように構成すると、受湯位置から注湯位置までローラーコンベアで取鍋を移動することができるので、比較的単純な設備で、迅速に取鍋を移動することができる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る鋳鋼鋳物製造システム1では、たとえば
図7に示すように、注湯機20は、注湯機20を移動させる移動台車22と、ローラーコンベア40を昇降する昇降装置46と、ローラーコンベア40を受湯位置と注湯位置との方向に移動する前後移動装置48と、ローラーコンベア40を傾斜させて取鍋30から注湯させる傾動装置42とを有する。このように構成すると、複数の炉から取鍋に受湯でき、注湯する鋳型の前に移動して、昇降装置、前後移動装置および傾動装置にて、ローラーコンベアを介して、取鍋の昇降、前後移動、傾動の3つの動作を同時に制御して、取鍋の位置を注湯するのに適切な位置に保ちつつ注湯することができる。
【0015】
本発明の第6の態様に係る鋳鋼鋳物製造システム1では、たとえば
図5に示すように、注湯機20は、取鍋30に蓋52を被せ、また、被せた蓋52を取り外す蓋取り付け装置50を有する。このように構成すると、受湯した取鍋に蓋を被せ、受湯するときに蓋を取り外すことができるので、取鍋内の空気の流れによる溶湯の温度低下を防止することができる。
【0016】
本発明の第7の態様に係る鋳鋼鋳物製造システム2は、たとえば
図4に示すように、鋳型70は鋳枠付き鋳型であり、鋳枠72には貫通孔74が形成され;貫通孔74に連結される連結口82を鋳型搬送ライン60に沿って複数有し、注湯される鋳型70の鋳枠72の貫通孔74に連結口82を連結して、鋳型70を減圧する減圧装置80をさらに備える。このように構成すると、減圧装置で鋳型搬送ラインの鋳型を減圧して注湯することができるので、溶湯を迅速に鋳込むことができる。
【0017】
本発明の第8の態様に係る鋳鋼鋳物製造システム1は、たとえば
図8に示すように、取鍋30に酸化防止ガスを充填する酸化防止ガス供給装置90をさらに備える。このように構成すると、取鍋内に酸化防止ガスが充填されるので、高温の鋳鋼用溶湯の酸化を防止することができる。
【0018】
本発明の第9の態様に係る鋳鋼鋳物製造システム1では、たとえば
図8に示すように、取鍋30は、鉄皮32と耐火材36の間に、多孔質耐火材34の層を有する。このように構成すると、酸化防止ガスが多孔質耐火材を経由して取鍋内に充填されるので、高温の鋳鋼用溶湯の酸化を防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、取鍋に適宜溶湯を供給することができ、取鍋で受湯してからすぐに注湯することができるので溶湯の温度低下を防止でき、さらに、温度低下して流動性が低下した溶湯を注湯することを防止できるので、比較的単純な設備で、小型の鋳鋼鋳物を連続的に定量に製造するのに適した鋳鋼鋳物製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態としての鋳鋼鋳物製造システムの平面図である。
【
図2】
図1に示す鋳鋼鋳物製造システムの正面図である。なお、鋳型搬送ラインの一部を省略している。
【
図3】
図1に示すのとは異なる実施の形態としての鋳鋼鋳物製造システムの平面図である。
【
図5】炉と注湯機と鋳型搬送ラインの側面図であり、取鍋が炉から受湯するところを示す。
【
図6】炉と注湯機と鋳型搬送ラインの側面図であり、取鍋から鋳型に注湯するところを示す。
【
図8】取鍋と酸化防止ガス供給装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。また、図面では、説明する対象を分かり易く図示するため、一部を省略して図示している。まず、
図1および
図2を参照して、鋳鋼鋳物製造システム1の構成について説明する。
図1は、鋳鋼鋳物製造システム1の炉10、注湯機20とその付近の鋳型搬送ライン60を示す平面図で、
図2は、
図1に示す鋳鋼鋳物製造システム1の正面図で、鋳鋼鋳物製造システム1を一部省略して、炉10や注湯機20を見えるように描いた図である。
【0022】
鋳鋼鋳物製造システム1は、鋳鋼用溶湯を溶解し貯留する溶解炉10を複数備える。
図1では2基の溶解炉10を示すが、3基以上の溶解炉10を備えてもよい。鋳鋼は、1,540℃で固化するため、溶解炉10では鋳鋼用溶湯を1,600℃以上として溶解し、保持する。また、溶解炉10を大型にすると溶解するのに時間が掛かるので、比較的小型の溶解炉10を用いる。高温にするのに時間が掛かるため、鋳鋼鋳物製造システム1は、複数の溶解炉10を備える。複数の溶解炉10は一列に並んで設けられる。溶解炉10が傾けられることで、鋳鋼用溶湯を溶解炉10から注湯機20の取鍋30に注ぐ。
【0023】
鋳鋼鋳物製造システム1は、取鍋30を有する注湯機20を備える。注湯機20は移動台車22を有し、レール28上を移動する。レール28は、一列に並んだ溶解炉10と平行に敷設される。移動台車22でレール28上を移動することにより、複数の溶解炉10のうちの適切な溶解炉10から鋳鋼用溶湯を取鍋に受湯することができる。すなわち、鋳鋼用溶湯が高温になり溶解した溶解炉10を選択して、受湯することができる。後述するように、注湯機20では、傾動装置42により取鍋30を傾動して鋳型70に注湯することができる。
【0024】
鋳鋼鋳物製造システム1は、複数の鋳型70を間欠的に送る鋳型搬送ライン60を備える。基本的に、鋳型搬送ライン60は、注湯機20の移動する方向と平行に、すなわち、一列に並んだ複数の溶解炉10とも平行に、配設される。ここで、「基本的に」としたのは、
図1に示すように、鋳型搬送ライン60は、複数の鋳型70が並ぶ複数の平行な列を有するが、併せて鋳型70を複数の列の間で移動するトラバーサ66を有するためである。鋳型搬送ライン60では、複数の鋳型70が一列に並ぶ端部に、プッシャ62とクッション64とを有する。プッシャ62で鋳型70を1枠分の長さ押し出し、クッション64で送られる鋳型70を押えて、鋳型70を安定して送る。なお、
図1および2では、溶解炉10および注湯機20に近い部分の鋳型搬送ライン60しか示しておらず、図示されるプッシャ62とクッション64に対し、反対側の端部にクッション64とプッシャ62が設けられ、また、一列の端部の鋳型70を隣の列に移動するトラバーサ66、および、鋳型バラシ装置(不図示)を有する。また、図では、鋳型70が2列で示されるが、3列以上であってもよい。なお、鋳型70は、鋳枠つきであっても、鋳枠なしであってもよい。
【0025】
鋳鋼鋳物製造システム1は、取鍋30内の鋳鋼用溶湯の温度を計測する温度センサ38を有する。温度センサ38は、典型的には、赤外線等の放射線による非接触温度センサであり、取鍋30内の湯面(後述する蓋52を取り付けた場合には、蓋52のない注湯部)の温度を計測する。温度センサ38は、ファイバー型2色温度計測定ユニットであってもよい。温度センサ38は、取鍋30の移動に応じて温度測定位置を変えられるように、温度センサアーム39に支持される。計測した温度は、温度用ケーブルを介して、鋳鋼鋳物製造システム1、2の運転を制御する制御装置(不図示)に伝達される。ここで、制御装置は、鋳鋼鋳物製造システム1、2の運転を制御するだけではなく、他のシステムの運転を制御する制御装置(たとえば注湯機20の制御盤24)であってもよく、鋳鋼鋳物製造システム1、2から離れたところに設置されていてもよい。また、たとえば注湯機20の制御盤24等の他の装置を経由して、制御装置に伝達されてもよい。なお、計測した温度は、温度用ケーブルを介することなく、他の回線あるいは無線を介して伝達されてもよい。
【0026】
このように構成した鋳鋼鋳物製造システム1によれば、鋳型搬送ライン60により、注湯機20の移動する方向と平行に鋳型70が並べられるので、注湯機20から順次、鋳型70に注湯することができる。また、鋳型70の枠送りが注湯する時間より余計に掛かるときには、注湯機20を移動させながら注湯することもできる。さらに、鋳鋼鋳物製造システム1では、注湯機20を挟んで複数の溶解炉10と鋳型搬送ライン60が設けられており、取鍋30が受湯してから最短距離の移動で、すなわち短時間で、鋳型70に注湯することができる。
【0027】
溶解炉10から鋳鋼用溶湯を迅速に鋳型70に注湯できるので、鋳鋼用溶湯の温度低下が小さく、流動性の低下も少なく、小型の鋳型70でも鋳込むことができる。しかも、複数の溶解炉10で鋳鋼用溶湯を貯留しているので、取鍋30は溶解炉10から適宜受湯することができる。また、取鍋30に受湯した注湯機20は、溶解炉10と反対側に並んでいる鋳型70に取鍋30を傾動して注湯でき、かつ、注湯機20が鋳型搬送ライン60に沿って移動できるので、大量の鋳型70に注湯可能であり、鋳鋼鋳物を大量に製造するのにも適している。さらに、鋳鋼用溶湯の温度を計測して制御装置に伝達するので、鋳鋼用溶湯の温度が所定温度より低くなったときには、警報を発して、温度低下して流動性が低下した鋳鋼用溶湯を注湯して、欠陥のある鋳鋼鋳物を製造してしまうことを防止できる。
【0028】
図3は、湯回りを良くするために、減圧装置80を備えた鋳鋼鋳物製造システム2の平面図である。
図1と同様に、鋳鋼鋳物製造システム1の炉10、注湯機20とその付近の鋳型搬送ライン60を示す。鋳鋼鋳物製造システム2は、減圧装置80を備える点でのみ鋳鋼鋳物製造システム1と異なるので、重複した説明は省略し、ここでは、減圧装置80についてのみ説明する。
【0029】
図4に減圧装置80を拡大して示す。減圧装置80は、鋳型70を減圧するための装置である。ここでは、鋳型70は鋳枠72付き鋳型である。鋳枠72には、貫通孔74が形成される。減圧装置80は、鋳型搬送ライン60の注湯機20に隣接して並んだ鋳型70に沿って、貫通孔74と連結される複数の連結口82を有する。連結口82は、鋳型70を減圧する際に減圧装置シリンダ88により前進し、鋳型70の貫通孔74と連結する。減圧装置80は、不図示の減圧源、たとえば真空ポンプ、と連通する減圧配管84を有する。減圧装置80は、注湯中に減圧すればよく、鋳型搬送ライン60での鋳型70の枠送り中は、減圧しなくてよい。減圧装置80は、開閉弁である減圧バルブ86を備え、減圧する連結口82を迅速に切り替えることができる。減圧バルブ84を開にすると、減圧シリンダ88が伸びて連結口82が貫通孔74に押し付けられ、鋳枠70が減圧配管84に吸引されて減圧される。なお、連結口82にはバネで閉に付勢されるシールヘッド(不図示)が設けられ、減圧シリンダ88が縮むと連結口82は封止される。なお、鋳型70を減圧する技術は公知であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0030】
鋳型70が減圧されることにより、取鍋30から鋳型70の湯口(不図示)に注がれた鋳鋼用溶湯は、迅速に、そして、確実に鋳込まれる。すなわち、湯回りが良くなる。特に鋳鋼鋳物製造システム2では、複数の連結口82を有し、迅速に減圧する鋳型70と連結し、減圧バルブ86にて減圧し、注湯される鋳型70が減圧されるようにするので、注湯機20からの迅速な注湯に対応して、鋳型70を減圧することができる。鋳型70の減圧では、鋳型70への注湯中に減圧することで、湯回り不良を防止できる。また、鋳型70を減圧することで、ガス欠陥も防止できる。
【0031】
次に、
図5、
図6および
図7を参照して、鋳鋼鋳物製造システム1、2の注湯機20について、詳細に説明する。なお、
図5および
図6では、減圧装置80を備える鋳鋼鋳物製造システム2の注湯機20を示すが、前述の通り、鋳鋼鋳物製造システム1でも注湯機20は同じである。注湯機20では、取鍋30を取鍋移動装置としてのローラーコンベア40上に載置する。ローラーコンベア40は、取鍋30を、溶解炉10から受湯する受湯位置(
図5参照)と鋳型70に注湯する注湯位置(
図6参照)との間で移動する。なお、取鍋30を溶解炉10側と鋳型70側に移動するのは、ローラーコンベア40以外の公知の装置、たとえばレールと台車、であってもよい。溶解炉10から受湯する際に、取鍋30を溶解炉10側にローラーコンベア40で移動し、注湯する際に、取鍋30をローラーコンベア40で鋳型70側に移動することで、迅速に取鍋30を移動することができる。
【0032】
注湯機20では、ローラーコンベア40を傾動装置42で傾動する(
図7参照)。傾動装置42は、取鍋を傾動する公知の傾動装置と同様の構成でよいが、ローラーコンベア40を傾動する点で異なる。なお、鋳鋼鋳物製造システム1、2において、後述するように、取鍋30が小型で軽量とされると、ローラーコンベア40ごと傾動することも容易である。傾動装置42、昇降装置46および前後移動装置48にて、取鍋30の傾動、昇降、前後移動の3つ動作を同時に制御して、取鍋30の出湯口31を中心に傾動し、注湯する。また、注湯機20は、受湯するときに取鍋30から蓋52を取り外し、受湯後に蓋52を取り付ける蓋取り付け装置50を有する。たとえば、蓋取り付け装置50は、蓋52の吊り金具54(後述する)と係合する爪を有するシリンダであって、取鍋30の上方から吊り下げられたシリンダでよい。シリンダを伸ばし、爪を下げた状態で取鍋30をローラーコンベア40で蓋取り付け装置50の直下に移動させることにより、蓋52の吊り金具54に爪が係合し、その後にシリンダを縮めることで蓋52が取鍋30から持ち上げられ、取り外される。逆にシリンダを伸ばし、蓋52を取鍋30に被せ、ローラーコンベア40で取鍋30を蓋取り付け装置50の直下から移動することで、蓋52を取鍋30に被せたままとすることができる。なお、他の公知の手段にて、蓋52の取り付け、取り外しを行ってもよい。取鍋30に蓋52を被せることにより、取鍋30に貯留される鋳鋼用溶湯の温度低下を抑えることができる。
【0033】
注湯機20では、傾動装置42、昇降装置46および前後移動装置48にて、取鍋30の傾動、昇降、前後移動の3つ動作を同時に制御して、取鍋30の出湯口31を中心に傾動して注湯することにより、取鍋30内の鋳鋼用溶湯の残量によらず、すなわち、取鍋30の傾きによらず、流出位置を一定の位置に保つことができる。鋳鋼用溶湯の取鍋30からの流出位置が一定に保たれることにより、取鍋30から鋳型70に注がれる位置を一定に保つことができ、適切な注湯制御が可能となり、確実に所定量の鋳鋼用溶湯が注湯されるようできる。ローラーコンベア40および傾動装置42ごと昇降し、鋳型70に近づけたり遠ざけたり移動するので、ローラーコンベア40から傾動装置42に取鍋30を移送する時間が不要となり、それだけ受湯から短時間で注湯することができる。
【0034】
続いて、
図8を参照して、取鍋30の詳細について説明する。取鍋30は、外側の容器である鋼製の鉄皮32の内側に、耐火材36が貼られている。耐火材36は、耐火レンガ、ホロ砂、ラミング材等の公知の材料で形成され、従来の鋳鉄用取鍋の耐火材と同じである。取鍋30では、鉄皮32と耐火材36との間に、多孔質耐火材の層34を形成する。多孔質耐火材の層34は、たとえばウェットフェルトなどで形成されるが、特に材料が限定されるものではない。取鍋30の側面に貫通孔が形成され、酸化防止ガス供給装置90の酸化防止ガス供給口97が連結する。多孔質耐火材34は、酸化防止ガスを通し、酸化防止ガス供給口97から取鍋30内に充満させる。すなわち、酸化防止ガス封入箇所Vを酸化防止ガスで充満させる。酸化防止ガスは、窒素などの不活性ガスでよく、あるいは、高温の鋳鋼用溶湯Mの酸化を防止するガスであれば、他のガスでもよい。取鍋30内に酸化防止ガスを充満させることで、高温の鋳鋼用溶湯Mの酸化が防止される。
【0035】
酸化防止ガス供給装置90は、取鍋30内に酸化防止ガスを供給する装置である。酸化防止ガス供給装置90は、酸化防止ガスボンベ92と、酸化防止ガス供給口97と、酸化防止ガスボンベ92と酸化防止ガス供給口97とを繋ぐ酸化防止ガス配管98とを有する。酸化防止ガス配管98には、電磁弁93、流量調整弁94、クッションタンク95、および、圧力センサ96が設置される。電磁弁93は、酸化防止ガス供給装置90を停止したとき、あるいは異常時に、酸化防止ガスボンベ92と取鍋30との連結を切る弁である。流量調整弁94は、圧力センサ96で計測した圧力に基づき、酸化防止ガスの供給量を調整する弁である。クッションタンク95は、酸化防止ガスの圧力、すなわち、取鍋30内の圧力の急変を抑えるタンクである。圧力センサ96は、酸化防止ガスの封入圧を計測する。封入圧を計測することにより、酸化防止ガスの供給量を調整するほか、耐火材36が破損して酸化防止ガスが鋳鋼用溶湯M内に噴射した場合や蓋52で酸化防止ガス封入箇所Vが密封されていない場合などを検知することができる。酸化防止ガス供給装置90は、典型的には注湯機20に設置される(
図1、
図3参照)が、他の場所に設置されてもよい。
【0036】
取鍋30には、蓋52が被せられる。蓋52には、蓋52を蓋取り付け装置50(
図5および
図6参照)で取り外したり被せたりするための吊り金具54が設けられる。また、取鍋30内の酸化防止ガス封入箇所Vを区画する、すなわち、取鍋30の注湯部と通じないようにする、区画板56を有する。区画板56は蓋52から取鍋30内の溶湯M内に延在し、酸化防止ガス封入箇所Vが取鍋30、蓋52、区画板56および鋳鋼用溶湯Mで囲まれるようにする。
【0037】
次に、鋳鋼鋳物製造システム1、2の運転について説明する。なお、以下に説明する運転動作は、可能であれば同時に行ってもよい。注湯機20は、一列に並んだ複数の溶解炉10のうち、鋳鋼用溶湯が十分高温になっている溶解炉10の前に移動する。このように、注湯機20を鋳鋼用溶湯の準備ができた溶解炉10の前に移動して受湯できるので、効率的である。注湯機20は、ローラーコンベア40により取鍋30を受湯位置(
図5参照)に移動すると共に、蓋取り付け装置50により取鍋30から蓋52を取り外す。昇降装置46および前後移動装置48にて、取鍋30を受湯しやすい位置に移動しても、溶解炉10の傾きに併せて鋳鋼用溶湯が注がれる位置に移動してもよい。溶解炉10を傾動して所定量の鋳鋼用溶湯を取鍋30に注ぐ。なお、取鍋30は、200kg~500kg程度の鋳鋼用溶湯を貯留する小型のものであるのが好ましい。小さな取鍋30で受湯した鋳鋼用溶湯を短時間で、すなわち鋳鋼用溶湯の温度が低下しないうちに鋳型70に注湯し終えるようにするためである。
【0038】
鋳鋼用溶湯を取鍋30に受湯すると、蓋取り付け装置50により取鍋30に蓋52を取り付ける。取鍋30に蓋52を取り付けたならば、酸化防止ガス供給装置90により酸化防止ガスを取鍋30内に充満させてもよい。酸化防止ガスにより、取鍋30内の鋳鋼用溶湯の酸化が防止される。取鍋30に多孔質耐火材の34の層が形成されているので、酸化防止ガスを取鍋30内に充満し易い。なお、鋳鋼の種類、温度、受湯した鋳鋼用溶湯を注湯するのに要する時間等によっては、酸化防止ガスを充満させなくてもよい。その後、鋳鋼用溶湯の温度を温度センサ38で定期的に計測し、制御装置(不図示)に温度情報を伝達する。取鍋30は、ローラーコンベア40により注湯位置(
図6参照)に移動される。注湯機20は、注湯する鋳型70の前に移動する。
【0039】
傾動装置42で取鍋30を傾動して、鋳型70に注湯する。注湯する際には、傾動装置42、昇降装置46および前後移動装置48にて、取鍋30の傾動、昇降、前後移動の3つ動作を同時に制御して、取鍋30の出湯口31を中心に傾動し、取鍋30から鋳鋼用溶湯が流出する位置を一定に保つ。1つの鋳型70への注湯が完了すると、鋳型搬送ライン60により鋳型70が1枠分送られ、注湯機20は次の鋳型70に注湯する。鋳型搬送ライン60の枠送りに時間が掛かるときには、注湯機20が次の鋳型70に移動して注湯してもよいし、鋳型70の移動に合わせて注湯機20が移動しながら注湯してもよい。
【0040】
一例として、取鍋30が500kgの容量で、50kgの鋳鋼用溶湯を鋳型70に注湯するものとする。鋳鋼用の鋳型70では、耐熱性を持たせるために強度のあるシェル型を用いる。シェル型はレジンで焼き固めた型を接着剤で固定したものである。シェル型を、鋳枠72に収めて、バックアップ用の砂型を入れて、浮き上がり防止用の重錘を載せる。このようにして鋳型を1枠セットするのに30~40秒の時間を要する。一方、1つの鋳型70への注湯は、3~5秒で完了する。そこで、鋳型搬送ライン60により鋳型70の枠送りが1回行われる間に、2つの鋳型70に注湯する。すなわち、注湯機20が1枠分だけ移動して2枠の鋳型70に注湯する。なお、上流側に移動しつつ3枠以上の鋳型70に注湯してもよい。この1枠分上流側に移動して2枠の鋳型70に注湯する動作を5回繰り返す。すなわち、注湯機20は、5枠分上流側に移動する。その後、注湯機20は溶解炉10の前に移動し、取鍋30に受湯し、注湯を開始する位置に戻る。このようにして、注湯機20の待ち時間をなくし、さらに注湯機20は、上流側に移動した枠数だけ鋳型搬送ライン60が間歇的に枠送りする時間を受湯時間として使うことができ、鋳鋼用溶湯の温度低下を防止できると共に、効率のよい運転が実現できる。
【0041】
このように鋳鋼鋳物製造システム1、2では、溶解炉10から受湯した取鍋を取鍋搬送台車で搬送したり、注湯機に移送したりすることなく、注湯機20の取鍋30で受湯する。取鍋30に受湯したならば、蓋52を取り付け、ローラーコンベア40で取鍋30を受湯位置から注湯位置に移動する。そして、傾動装置42、昇降装置46および前後移動装置48にて、取鍋30の傾動、昇降、前後移動の3つ動作を同時に制御して、取鍋30の出湯口31を中心として取鍋30を傾動することにより注湯する。注湯終了後、注湯機20は次の鋳型70に注湯する位置に移動する。このように、受湯から注湯までの時間を顕著に短縮し温度低下を防止することにより、高温で、かつ、温度低下により流動性の低下し易い溶湯であっても、温度低下前に鋳型に注湯することができ、小さく複雑な形状の鋳型であっても、適切に鋳込むことができる。
【0042】
また、取鍋30内の鋳鋼用溶湯の温度を温度センサ38で計測し、計測した情報が制御装置に送信される。制御装置(注湯機20の制御盤などの他の装置を含む)は、温度が所定の温度より低くなったときには、警報を発する。警報は、音や光によりオペレータに伝えるものでも、信号として制御装置等に伝えるものでもよい。警報により、オペレータが鋳鋼鋳物製造システム1、2の運転を制御してもよい。あるいは、警報が発せられたときには、制御装置により、注湯機20から鋳型70への注湯が停止され、取鍋30に残っている鋳鋼用溶湯を湯返し(溶解炉10に戻すこと)してもよい。すなわち、温度低下した鋳鋼用溶湯を注湯して、適切に鋳込まれず、欠陥のある鋳鋼鋳物を製造することが防止される。さらに、湯返しすることで、鋳鋼用溶湯を無駄にすることがなくなる。
【0043】
鋳鋼鋳物製造システム2では、さらに、注湯される鋳型70を減圧する。鋳型70が減圧されることにより、湯回りを良くし、ガス欠陥を防止できる。その際にも、複数の連結口82を備え、注湯される、あるいは注湯した鋳型70に連結する連結口82を適宜切り替えながら減圧できるので、効率的である。
【0044】
なお、鋳鋼用溶湯を注湯された鋳型70は、鋳型搬送ライン60を移動することで、中の鋳鋼用溶湯が冷却固化されて鋳鋼鋳物となる。その後、型バラシ装置(不図示)等で鋳型から鋳鋼鋳物が取り出され、製品として次の工程に送られる。また、鋳型は砂にばらされ、ばらされた砂は、砂処理設備等(不図示)を経由して、再度、鋳型の造型に用いられる。
【0045】
これまでの説明では、溶解炉10から取鍋20に注湯用溶湯が注がれるものとしたが、溶解炉10ではなく、保持炉であってもよい。
【0046】
上記の例では、シェルバックアップ型の鋳型70を用いるものとして説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、たとえば、シェル型の強度が高い場合にはバックアップ用の砂型を用いないシェル型であってもよく、他の鋳型であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1、2 鋳鋼鋳物製造システム
10 炉(溶解炉)
20 注湯機
22 移動台車
24 制御盤
28 レール
30 取鍋
31 出湯口
32 鉄皮
34 多孔質耐火材の層
36 (従来の)耐火材
38 温度センサ
39 温度センサアーム
40 ローラーコンベア(取鍋移動装置)
42 傾動装置
46 昇降装置
48 前後移動装置
50 蓋取り付け装置
52 蓋
54 (蓋の)吊り金具
56 区画板
60 鋳型搬送ライン
62 プッシャ
64 クッション
66 トラバーサ
70 鋳型
72 鋳枠
74 貫通孔
80 減圧装置
82 連結口
84 減圧配管
86 減圧弁(開閉弁)
88 減圧装置シリンダ
90 酸化防止ガス供給装置
92 酸化防止ガスボンベ
93 電磁弁
94 流量調整弁
95 クッションタンク
96 圧力センサ
97 酸化防止ガス供給口
98 酸化防止ガス配管
M 溶湯
V 酸化防止ガス封入箇所