(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/739 20060101AFI20220106BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20220106BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20220106BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H01L29/78 655E
H01L29/78 652J
H01L29/78 652K
H01L29/78 658H
H01L29/78 655G
H01L29/78 653C
H01L29/78 652T
(21)【出願番号】P 2018174503
(22)【出願日】2018-09-19
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100157901
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】末代 知子
(72)【発明者】
【氏名】岩鍜治 陽子
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 剛史
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-274301(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151227(WO,A1)
【文献】特開平05-243561(JP,A)
【文献】特開2019-129250(JP,A)
【文献】特開2019-021891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/739
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電形の第1半導体層を含む半導体部と、
前記半導体部の表面上に設けられた第1電極と、
前記半導体部の裏面上に設けられた第2電極と、
前記半導体部中に設けられ、前記第1電極から前記第2電極に向かう方向に延びる複数の制御電極と、
前記複数の制御電極を前記半導体部から電気的に絶縁する絶縁膜と、
を備え、
前記複数の制御電極のうちの隣接する2つの制御電極の間に位置し、前記第1電極と前記第1半導体層との間に設けられた第2導電形の第2半導体層と、
前記第1電極と前記第2半導体層との間に設けられた第1導電形の第3半導体層と、
前記複数の制御電極のうちの隣接する別の2つの制御電極間に設けられ、前記第1電極と前記第1半導体層との間に設けられた第2導電形の第4半導体層と、
前記第1電極と前記第4半導体層との間に設けられた第2導電形の第5半導体層であって、前記第1電極と前記第5半導体層との間に第1導電形の半導体領域もしくは第1導電形の半導体層が設けられないように構成された、第5半導体層と、
前記第4半導体層と前記第5半導体層との間に設けられ、前記第5半導体
層に接し、第1導電形不純物を含む第6半導体層と、
を含む前記半導体部を有し、
前記第6半導体層は、前記第4半導体層と前記第5半導体層との間に位置する主部と、前記絶縁膜と前記主部との間に位置する境界部と、を有し、前記境界部における第1導電形不純物の濃度は、前記主部における第1導電形不純物の濃度よりも低い半導体装置。
【請求項2】
前記境界部は、第1導電形不純物の前記濃度よりも高濃度の第2導電形不純物を含む請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体部は、前記第1半導体層と前記第2電極との間に位置する第2導電形の第7半導体層をさらに含む請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体部は、前記第1半導体層と前記第7半導体層との間に位置し、前記第1半導体層の第1導電形不純物濃度よりも高濃度の第1導電形不純物を含む第1導電形の第8半導体層をさらに含む請求項
3記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体部は、前記隣接する2つの制御電極の間に位置し、前記第2半導体層と前記第3半導体層とを含む第1領域と、前記別の2つの制御電極間に位置し、前記第4半導体層と前記第5半導体層と前記第6半導体層とを含む第2領域と、を有し、
前記第1領域および前記第2領域は、それぞれ複数配置され、
前記半導体部の表面に沿った方向において隣り合う2つの前記第1領域の間に、2つ以上の前記第2領域が配置される請求項1~4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体部は、前記隣接する2つの制御電極の間に位置し、前記第2半導体層と前記第3半導体層とを含む第1領域と、前記別の2つの制御電極間に位置し、前記第4半導体層と前記第5半導体層と前記第6半導体層とを含む第2領域と、を有し、
前記第1領域および前記第2領域は、それぞれ複数配置され、
前記半導体部の表面に沿った方向において隣り合う2つの前記第2領域の間に、2つ以上の前記第1領域が配置される請求項1~4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項7】
第1導電形の第1半導体層を含む半導体部と、
前記半導体部の表面上に設けられた第1電極と、
前記半導体部の裏面上に設けられた第2電極と、
前記半導体部中に設けられ、前記第1電極から前記第2電極に向かう方向に延びる複数
の制御電極と、
前記複数の制御電極を前記半導体部から電気的に絶縁する絶縁膜と、
を備え、
前記複数の制御電極のうちの隣接する2つの制御電極の間に位置し、前記第1電極と前記第1半導体層との間に設けられた第2導電形の第2半導体層と、
前記第1電極と前記第2半導体層との間に設けられた第1導電形の第3半導体層と、
前記複数の制御電極のうちの隣接する別の2つの制御電極間に設けられ、前記第1電極と前記第1半導体層との間に設けられた第2導電形の第4半導体層と、
前記第1電極と前記第4半導体層との間に設けられた第2導電形の第5半導体層と、
前記第4半導体層と前記第5半導体層との間に設けられた第1導電形の第6半導体層と、
を含む前記半導体部を有し、
前記第6半導体層と前記別の2つの制御電極のうちの1つとの間に位置する前記絶縁膜の一部は、前記第4半導体層と前記別の2つの制御電極のうちの1つとの間に位置する前記絶縁膜の別の一部の膜厚よりも薄い膜厚を有
し、前記第2半導体層と前記2つの制御電極のうちの1つとの間に位置する前記絶縁膜の膜厚よりも薄い前記膜厚を有する半導体装置。
【請求項8】
第1導電形の第1半導体層を含む半導体部と、
前記半導体部の表面上に設けられた第1電極と、
前記半導体部の裏面上に設けられた第2電極と、
前記半導体部中に設けられ、前記第1電極から前記第2電極に向かう方向に延びる複数の制御電極と、
前記複数の制御電極を前記半導体部から電気的に絶縁する絶縁膜と、
を備え、
前記複数の制御電極のうちの隣接する2つの制御電極の間に位置し、前記第1電極と前記第1半導体層との間に設けられた第2導電形の第2半導体層と、
前記第1電極と前記第2半導体層との間に設けられた第1導電形の第3半導体層と、
前記複数の制御電極のうちの隣接する別の2つの制御電極間に設けられ、前記第1電極と前記第1半導体層との間に設けられた第2導電形の第4半導体層と、
前記第1電極と前記第4半導体層との間に設けられた第2導電形の第5半導体層と、
前記第4半導体層と前記第5半導体層との間に設けられた第1導電形の第6半導体層と、
を含む前記半導体部を有し、
前記第6半導体層は、第2導電形のキャリアをトラップする準位を含む半導体装置。
【請求項9】
第1導電形の第1半導体層を含む半導体部と、
前記半導体部の表面上に設けられた第1電極と、
前記半導体部の裏面上に設けられた第2電極と、
前記半導体部中に設けられ、前記第1電極から前記第2電極に向かう方向に延びる複数の制御電極と、
前記複数の制御電極を前記半導体部から電気的に絶縁する絶縁膜と、
を備え、
前記複数の制御電極のうちの隣接する2つの制御電極の間に位置し、前記第1電極と前記第1半導体層との間に設けられた第2導電形の第2半導体層と、
前記第1電極と前記第2半導体層との間に設けられた第1導電形の第3半導体層と、
前記複数の制御電極のうちの隣接する別の2つの制御電極間に設けられ、前記第1電極と前記第1半導体層との間に設けられた第2導電形の第4半導体層と、
前記第1電極と前記第4半導体層との間に設けられた第2導電形の第5半導体層と、
前記第4半導体層と前記第5半導体層との間に設けられ、第1導電形不純物を含む第6半導体層と、
を含む前記半導体部を有し、
前記第6半導体層は、前記第4半導体層と前記第5半導体層との間に位置する主部と、前記絶縁膜と前記主部との間に位置する境界部と、を有し、前記境界部における第1導電形不純物の濃度は、前記主部における第1導電形不純物の濃度よりも低く、
前記境界部は、第1導電形不純物の前記濃度よりも高濃度の第2導電形不純物を含む半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
600V以上の耐圧を有する半導体装置として、例えば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)が知られている。このような半導体装置は、例えば、電力変換器に用いられるため、定常損失およびスイッチング損失の双方が低いこと、言い換えれば、オン抵抗が低いこと、および、スイッチング速度が速いことが望まれている。
【0003】
例えば、トレンチゲート構造のIGBTでは、ゲート電極をチャネル領域からn-形ベース層中の深い位置まで延伸させることが好ましい。これにより、隣り合うゲート電極間のn-形ベース層にキャリアを効率よく蓄積することが可能となり、オン抵抗を低減することができる。しかしながら、n-形ベース層中にキャリアを蓄積し、オン抵抗を低減すれば、ターンオフ時に排出されるキャリア量も多くなる。このため、ターンオフ時間が長くなり、スイッチング損失が増大する。つまり、定常損失の低減とスイッチング損失の低減はトレードオフの関係にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態は、オン抵抗が低く、スイッチング損失が低減された半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る半導体装置は、第1導電形の第1半導体層を含む半導体部と、前記半導体部の表面上に設けられた第1電極と、前記半導体部の裏面上に設けられた第2電極と、前記半導体部中に設けられ、前記第1電極から前記第2電極に向かう方向に延びる複数の制御電極と、前記複数の制御電極を前記半導体部から電気的に絶縁する絶縁膜と、を備える。前記半導体部は、前記複数の制御電極のうちの隣接する2つの制御電極の間に位置し、前記第1電極と前記第1半導体層との間に設けられた第2導電形の第2半導体層と、前記第1電極と前記第2半導体層との間に設けられた第1導電形の第3半導体層と、前記複数の制御電極のうちの隣接する別の2つの制御電極間に設けられ、前記第1電極と前記第1半導体層との間に設けられた第2導電形の第4半導体層と、前記第1電極と前記第4半導体層との間に設けられた第2導電形の第5半導体層と、前記第4半導体層と前記第5半導体層との間に設けられ、前記第5半導体層に接し、第1導電形不純物を含む第6半導体層と、を含む。前記第5半導体層は、前記第1電極と前記第5半導体層との間に第1導電形の半導体領域もしくは第1導電形の半導体層が設けられないように構成され、前記第6半導体層は、前記第4半導体層と前記第5半導体層との間に位置する主部と、前記絶縁膜と前記主部との間に位置する境界部と、を有し、前記境界部における第1導電形不純物の濃度は、前記主部における第1導電形不純物の濃度よりも低い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る半導体装置を模式的に示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る半導体装置の動作を示す模式図である。
【
図4】第1実施形態の変形例に係る半導体装置を模式的に示す斜視図である。
【
図5】第1実施形態の別の変形例に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図6】第2実施形態に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図7】第3実施形態に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図8】第4実施形態に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図9】第5実施形態に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。図面中の同一部分には、同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
【0009】
さらに、各図中に示すX軸、Y軸およびZ軸を用いて各部分の配置および構成を説明する。X軸、Y軸、Z軸は、相互に直交し、それぞれX方向、Y方向、Z方向を表す。また、Z方向を上方、その反対方向を下方として説明する場合がある。
【0010】
また、n+、n、及びn-は、n形半導体であることを示し、そのn形不純物濃度はこの順に低く設定される。p+、p、及びp-は、p形半導体であることを示し、そのp形不純物濃度はこの順に低く設定される。
【0011】
(第1実施形態)
図1および
図2は、第1実施形態に係る半導体装置1を示す模式図である。半導体装置1は、例えば、IGBTである。
図1は、半導体装置1の主要部を模式的に示す斜視図である。
図2は、半導体装置1の構造を示す模式断面図である。
【0012】
図1に示すように、半導体装置1は、半導体部SPと、ゲート電極GEと、を備える。ゲート電極GEは、半導体部SP中に形成されたゲートトレンチGTの内部に設けられる。ゲートトレンチGTは、例えば、半導体部SPの表面から裏面に向かう方向(-Z方向)に掘り下げられ、半導体部SPの表面に沿ったY方向に延びる。ゲートトレンチGTは、例えば、X方向に並べて配置される。ゲート電極GEは、例えば、ゲートトレンチGTの内部に埋め込まれ、Y方向およびZ方向に延びる板状に設けられる。
【0013】
半導体部SPは、n-形ベース層10と、n形バリア層15と、p形ベース層20と、n形エミッタ層30と、p+形コンタクト層40と、を含む。ゲートトレンチGTは、半導体部SPの表面からn-形ベース層10中に至る深さを有し、n形バリア層15、p形ベース層20、n形エミッタ層30およびp+形コンタクト層40は、X方向において隣接するゲート電極GEの間に設けられる。
【0014】
n形バリア層15は、n-形ベース層10の上に設けられ、p形ベース層20は、n形バリア層15の上に設けられる。n形エミッタ層30およびp+形コンタクト層40は、p形ベース層20の上に選択的に設けられており、例えば、Y方向に交互に配置される。ゲート電極GEは、ゲート絶縁膜23を介してn-形ベース層10、n形バリア層15、p形ベース層20に向き合うように設けられる。
【0015】
半導体部SPは、p形半導体層50と、n形半導体層60と、p形半導体層70と、をさらに含む。p形半導体層50、n形半導体層60およびp形半導体層70は、ゲート電極GE間のp形ベース層20を設けない領域に設けられる。p形半導体層50は、n-形ベース層10の上に設けられ、n形半導体層60は、p形半導体層50の上に設けられる。p形半導体層70は、n形半導体層60の上に設けられる。ゲート電極GEは、別のゲート絶縁膜23を介してp形半導体層50、n形半導体層60およびp形半導体層70に向き合うように配置される。
【0016】
さらに、n形半導体層60は、主部60aと境界部60bとを含む。主部60aは、高濃度のn形不純物を含み、境界部60bは、主部60aよりも低濃度のn形不純物を含む。境界部60bは、ゲート絶縁膜23と主部60aとの間に位置する。また、主部60aおよび境界部60bは、p形半導体層50および70に接する。
【0017】
図2に示すように、半導体部SPは、コレクタ電極80と、エミッタ電極90と、の間に配置される。コレクタ電極80は、半導体部SPの裏面側に配置される。エミッタ電極90は、半導体部SPの表面側に配置され、n形エミッタ層30、p
+形コンタクト層40およびp形半導体層70に接する。コレクタ電極80およびエミッタ電極90は、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)および金(Au)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属層である。エミッタ電極90は、例えば、導電性のポリシリコン層であっても良い。
【0018】
半導体部SPは、n形バッファ層17とp形コレクタ層85とをさらに含む。p形コレクタ層85は、n-形ベース層10とコレクタ電極80との間に位置する。n形バッファ層17は、n-形ベース層10とp形コレクタ層85との間に設けられる。n形バッファ層17は、n-形ベース層10よりも高濃度のn形不純物を含む。また、n形バッファ層17は、n-形ベース層10と一体に形成されても良い。
【0019】
半導体部SPの材料は、例えば、シリコン(Si)である。半導体部SPの材料は、これに限定される訳ではなく、例えば、炭化シリコン(SiC)等の半導体を用いても良い。ゲートトレンチGTは、半導体部SPの表面からn-形ベース層10に達する深さを有する。ゲートトレンチGTの深さは、例えば、1~10μmである。ゲートトレンチGTは、例えば、0.1~数μmの間隔でX方向に配置される。
【0020】
ゲート電極GEは、ゲートトレンチGTの内部に配置され、ゲート絶縁膜23によりn-形ベース層10、n形バリア層15、p形ベース層20、n形エミッタ層30、p+形コンタクト層40、p形半導体層50、n形半導体層60およびp形半導体層70から電気的に絶縁される。また、ゲート電極GEは、層間絶縁膜24によりエミッタ電極90から電気的に絶縁される。
【0021】
ゲート絶縁膜23および層間絶縁膜24は、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)である。ゲート絶縁膜23および層間絶縁膜24の材料は、これに限定される訳ではなく、例えば、ゲート絶縁膜23の材料と層間絶縁膜24の材料とが異なっても良い。ゲート電極GEは、例えば、n形またはp形不純物を含むポリシリコンである。また、ゲート電極GEの材料は、金属であっても良い。
【0022】
n-形ベース層10は、例えば、1×1012~1×1015cm-3のn形不純物濃度を有する半導体層である。n-形ベース層10は、例えば、1~1000μmの層厚を有する。n-形ベース層10のn形不純物濃度および層厚は、所定の素子耐圧が得られるように設定される。
【0023】
n形バリア層15は、n-形ベース層10のn形不純物濃度よりも高いn形不純物濃度を有する。n形バリア層15は、例えば、1×1012~1×1014cm-2のn形不純物を含む。n形バリア層15の層厚は、例えば、0.1~数μm程度である。
【0024】
p形ベース層20は、例えば、1×1012~1×1014cm-2のp形不純物を含む。p形ベース層20の層厚は、例えば、0.1~数μm程度である。p形ベース層20は、p+形コンタクト層40を介してエミッタ電極90に電気的に接続される。
【0025】
n形エミッタ層30は、n-形ベース層10のn形不純物濃度よりも高いn形不純物濃度を有する。n形エミッタ層30は、例えば、1×1014~1×1016cm-2のn形不純物を含む。n形エミッタ層30の層厚は、例えば、0.1~数μmである。
【0026】
p+形コンタクト層40は、p形ベース層20のp形不純物濃度よりも高濃度のp形不純物を含む。p+形コンタクト層40は、例えば、1×1014~1×1016cm-2のp形不純物を含む。p+形コンタクト層40の層厚は、例えば、0.1~数μmである。
【0027】
p形コレクタ層85は、例えば、1×1013~1×1015cm-2のp形不純物を含む。p形コレクタ層85の層厚は、例えば、0.1~10μmである。
【0028】
半導体装置1は、チャネル領域CRとPNP領域とを含む。チャネル領域CRは、ゲート電極GE間に設けられ、p形ベース層20およびn形エミッタ層30を含む。PNP領域は、ゲート電極GE間において、p形半導体層50、n形半導体層60およびp形半導体層70を含む。チャネル領域CRとPNP領域は、例えば、X方向に交互に配置される。また、
図2に示すように、X方向において隣接するチャネル領域CR間に複数のPNP領域が配置されても良い。もしくは、X方向において隣接するPNP領域間に複数のチャネル領域CRが配置されても良い。
【0029】
次に、
図2および
図3を参照して、半導体装置1の動作を説明する。
図3は、第1実施形態に係る半導体装置1の動作を示すタイムチャートである。
【0030】
例えば、半導体装置1をターンオンさせる定常状態では、ゲート電極GEにしきい値を超える正の駆動信号(ゲート電圧VGE)が印加される。これにより、チャネル領域CRにおけるp形ベース層20とゲート絶縁膜23との界面にn形チャネルが形成され、n-形ベース層10とn形バリア層15、n形エミッタ層30との間が導通する。その結果、電子がn-形ベース層10中に注入される。このため、p形コレクタ層85がn-形ベース層10に対して、正バイアスされてp形コレクタ層85から正孔がn-形ベース層10に注入されオン状態になる。このときに注入された正孔は、n-形ベース層10を走行しp形ベース層20に流れ込む。
【0031】
さらに、n-形ベース層10とゲート絶縁膜23との界面には、n形蓄積層が形成される。このn形蓄積層の負電荷とバランスさせるために、p形コレクタ層85からn-形ベース層10への正孔注入が促進され、n-形ベース層10中のキャリア量が増加する。この結果、半導体装置1のターンオン状態におけるオン抵抗が低減される。
【0032】
PNP領域は、p形半導体層50、p形半導体層70のp形不純物濃度を、ゲート電極GEにしきい値を超える正の駆動信号(ゲート電圧V
GE)が印加された時でも、p形半導体層50、p形半導体層70とゲート絶縁膜23との界面にn形チャネルが形成されない濃度に設定しておく。これにより、PNP領域ではn形チャネルは導通しない。しかし、PNP領域の接合部を通じてわずかな漏れ電流が発生し、
図3中に破線で示すPNP領域を設けない場合に比べて、コレクタエミッタ間電圧Vceがわずかに上昇する。このため、Vceの増分ΔVceに対応したエネルギー損失(Vce*Ic)の増分ΔEが発生する。
【0033】
半導体装置1では、n形半導体層60に高濃度のn形不純物を含む主部60aを設けることにより、PNP領域の接合部における漏れ電流を抑制し、ターンオン状態におけるVceの上昇およびVce*Icの増加ΔEを抑制することができる。
【0034】
次に、半導体装置1をターンオフさせる場合、ゲート電極GEに印加されるゲート電圧VGEをしきい値より低い駆動信号にまで下げる(以降、オフすると記載する)。この時、チャネル領域CRにおける閾値以下にゲート電圧VGEを低下させ、さらに、ゲート電極VGEに負電位を印加する。これにより、チャネル領域CRのn形チャネルおよびn-形ベース層10とゲート絶縁膜23との界面においてn形蓄積層が消失する。この結果。n形チャネルを介したn-形ベース層10への電子の注入が止まり、半導体装置1は、ターンオフされる。
【0035】
しかしながら、コレクタ電流Icは、n-形ベース層10に蓄積されたキャリアがコレクタ電極80およびエミッタ電極90に排出されるまで流れるため、ゲート電圧VGEをオフしてから半導体装置1がターンオフするまでに時間遅れ(ターンオフ時間)が生じる。
【0036】
図3に示すように、ゲート電圧V
GEをオフすると、コレクタ電流Icの低下が始まり、一定のレベルまで低下すると、半導体装置1は、ターンオフ状態となる。この間、Vceの増加に伴い、Vce*Icは上昇する。その後、コレクタ電流Icが低減されると共に、Vce*Icは低下し、ターンオフ状態においてゼロレベルになる。このターンオフ期間におけるVce*Icの積分値がスイッチング損失となる。
【0037】
半導体装置1では、ゲート電極GEに負電位を印加することにより、PNP領域のn形半導体層60とゲート絶縁膜23との界面にp形チャネルが形成される。よって、p形半導体層50とp形半導体層70との間が導通し、エミッタ電極90への正孔の排出を促進することができる。これにより、PNP領域を設けない場合に比べてターンオフ時間を短縮し、スイッチング損失を低減することができる。
【0038】
半導体装置1では、n形半導体層60がゲート絶縁膜23に接する部分にn形不純物濃度が低い境界部60bを設けることにより、p形チャネルを形成する閾値の絶対値を小さくすることができる。
【0039】
例えば、ゲート電極GEへ印加されるゲート電圧VGEを正電位から負電位に変化させた時、ゲート容量に応じたミラー効果により、ゲート電位がp形チャネルが形成される閾値以下となるまでに一定の時間を要する。半導体装置1では、境界部60bを配置することにより閾値値の絶対値を小さくし、p形チャネルが形成されるまでの時間を短縮することが可能となる。これにより、ターンオフ時間を短縮し、スイッチング損失を低減することができる。
【0040】
図4は、第1実施形態の変形例に係る半導体装置2を模式的に示す斜視図である。半導体装置2では、チャネル領域CRにおけるn形エミッタ層30とp
+形コンタクト層40の配置が、半導体装置1とは異なる。
【0041】
図4に示すように、n形エミッタ層30およびp
+形コンタクト層40は、半導体部SPの表面に沿ったゲートトレンチの延在方向に交互に配置される。n形エミッタ層30およびp
+形コンタクト層40は、X方向における両側に配置されたゲート電極GEにゲート絶縁膜23を介して向き合うように設けられる。
【0042】
図1および
図4に示したn形エミッタ層30およびp
+形コンタクト層40の配置は例示であり、実施形態は、これらに限定される訳ではない。以下の
図5~
図9では、
図1と同じn形エミッタ層30およびp
+形コンタクト層40の配置を有する実施例を表しているが、これに限定される訳ではない。例えば、
図5~
図9に示す実施形態にも、
図4に示したn形エミッタ層30およびp
+形コンタクト層40の配置を適用することができる。
【0043】
図5は、第1実施形態の別の変形例に係る半導体装置3を示す模式断面図である。半導体装置3では、チャネル領域CRにn形バリア層15が設けられず、n
-形ベース層10の上にp形ベース層20が直接設けられている。
【0044】
半導体装置3をターンオンさせた場合、n
-形ベース層10とゲート絶縁膜23との界面に形成されるn形蓄積層は、p形ベース層20の近傍まで伸びる。これにより、p形コレクタ層85からn
-形ベース層10への正孔注入が促進され、低いオン抵抗が得られる。このようなn形バリア層15を設けない構造は、以下の
図6~
図9に示す実施形態にも適用可能である。
【0045】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態に係る半導体装置4を示す模式断面図である。半導体装置4では、PNP領域において、n形半導体層60とゲート電極GEとの間にゲート絶縁膜25が設けられ、p形半導体層70とゲート電極GEとの間にゲート絶縁膜27が設けられる。
【0046】
ゲート絶縁膜25の厚さW2は、例えば、ゲート絶縁膜23の厚さW1よりも薄い。これにより、ゲート絶縁膜25とn形半導体層60との界面にp形チャネルを形成するための閾値電圧の絶対値を低減することができる。すなわち、n形半導体層60のn形不純物の濃度を高くして、ターンオン状態における漏れ電流を抑制すると共に、ターンオフ時におけるp形チャネルの形成を容易にして、ターンオフ時間を短縮することが可能となる。これにより、定常損失とスイッチング損失の両方を低減することができる。
【0047】
なお、ゲート絶縁膜27は、ゲート電極GEとp形半導体層70との間に印加される電圧に対して絶縁破壊を生じさせない厚さW3を有すれば良く、例えば、ゲート絶縁膜25と一体に形成される場合は、ゲート絶縁膜25と略同一の厚さを有する。
【0048】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態に係る半導体装置5を示す模式断面図である。半導体装置5では、PNP領域のゲート絶縁膜23とn形半導体層60との間にp形領域65が設けられる。p形領域65は、例えば、n形半導体層60のn形不純物よりも低濃度のn形不純物を含み、さらに、そのn形不純物よりも高濃度のp形不純物を含む。
【0049】
p形領域65は、ゲート絶縁膜23に接し、p形半導体層50およびp形半導体層70につながるように設けられる。p形領域65における、そのp形不純物は、ゲート電極GEに正のゲート電圧VGEが印加された場合にn形に反転する濃度を有し、その厚みは、n形に反転した領域とn形半導体層60がつながる厚みを有する。
【0050】
半導体装置5では、ターンオン状態において、p形領域65はn形反転層となり、高濃度のn形半導体層60と共にPNP領域における漏れ電流を抑制する。一方、ターンオフ時には、p形半導体層50、p形領域65およびp形半導体層70を介してn-形ベース層10からエミッタ電極90へ正孔が排出され、ターンオフ時間を短縮することができる。これにより、定常損失とスイッチング損失の両方を低減することができる。
【0051】
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態に係る半導体装置6を示す模式断面図である。半導体装置6は、PNP領域に設けられたn形半導体層55を有する。n形半導体層55は、正孔に対するトラップ準位TPとなる欠陥を含む。
【0052】
半導体装置6では、ゲート電極GEに負電位が印加された時、ゲート絶縁膜23とn形半導体層55との界面にp形チャネルが形成され、p形半導体層50とp形半導体層70との間が導通するように設けられる。これにより、ターンオフ時において、正孔の排出を促進し、ターンオフ時間を短縮することができる。一方、ターンオン状態では、n形半導体層55中の正孔トラップにより、PNP領域の接合部の漏れ電流を抑制することができる。
【0053】
(第5実施形態)
図9は、第5実施形態に係る半導体装置7を示す模式断面図である。半導体装置7では、X方向において隣接する2つのチャネル領域CRの間に、PNP領域と2つのP領域PRとが設けられる。PNP領域は、2つのP領域PRの間に配置される。
【0054】
P領域PRには、p形半導体層75が配置される。PNP領域は、p形半導体層50と、n形半導体層60と、p形半導体層70と、を含む。PNP領域は、例えば、
図1、
図6~
図8に記載されたいずれかの構造を有しても良い。
【0055】
さらに、半導体装置7は、第1ゲート電極MGおよび第2ゲート電極CGを有する。第1ゲート電極MGは、チャネル領域CRとP領域PRとの間に位置し、第2ゲート電極CGは、P領域PRとPNP領域との間に位置する。
【0056】
第2ゲート電極CGは、第1ゲート電極MGとは独立に制御され、例えば、ターンオフ時において、第1ゲート電極MGに印加される正のゲート電圧VGEがオフされるタイミングよりも前に、正の電位から負の電位へ切り替えられ、PNP領域のp形半導体層50とp形半導体層70との間を導通させる。これにより、ターンオフ時における正孔の排出が促進され、スイッチング損失を低減することができる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1~7…半導体装置、 10…n-形ベース層、 15…n形バリア層、 17…n形バッファ層、 20…p形ベース層、 23、25、27…ゲート絶縁膜、 24…層間絶縁膜、 30…n形エミッタ層、 40…p+形コンタクト層、 50、70、75…p形半導体層、 55、60…n形半導体層、 60a…主部、 60b…境界部、 65…p形領域、 80…コレクタ電極、 85…p形コレクタ層、 90…エミッタ電極、 GE…ゲート電極、 MG…第1ゲート電極、 CG…第2ゲート電極、 CR…チャネル領域、 GT…ゲートトレンチ、 SP…半導体部