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▶ ノヴァ ケミカルズ(アンテルナショナル)ソシエテ アノニムの特許一覧

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  • 特許-改善された酸化的脱水素化触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】改善された酸化的脱水素化触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/12 20060101AFI20220128BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20220128BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20220128BHJP
   B01J 27/057 20060101ALI20220128BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20220128BHJP
   C07C 5/48 20060101ALI20220128BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
B01J37/12
B01J37/03 B
B01J37/08
B01J27/057 Z
C07C11/04
C07C5/48
C07B61/00 300
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018509520
(86)(22)【出願日】2016-08-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 IB2016054717
(87)【国際公開番号】W WO2017029572
(87)【国際公開日】2017-02-23
【審査請求日】2019-07-03
(31)【優先権主張番号】2900775
(32)【優先日】2015-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(73)【特許権者】
【識別番号】513269848
【氏名又は名称】ノヴァ ケミカルズ(アンテルナショナル)ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シマンゼーンコフ、ヴァシリー
(72)【発明者】
【氏名】ガオ、シャオリャン
(72)【発明者】
【氏名】サリヴァン、デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ドラッグ、ハンナ
(72)【発明者】
【氏名】クストフ、レオニド
(72)【発明者】
【氏名】クシェロフ、アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】フィナシナ、エレナ
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0119622(US,A1)
【文献】特開2000-143244(JP,A)
【文献】特開平11-226408(JP,A)
【文献】特表2010-535628(JP,A)
【文献】特開2011-005484(JP,A)
【文献】特開平07-053414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験式(PIXEによって測定):
Mo1.000.22-0.33Te0.10-0.16Nb0.15-0.19
(式中、dは酸化物の価数を満たす数である。)で表される酸化的脱水素化触媒のコンシステンシーを改善する方法であって、
以下の工程によって、調製し乾燥された触媒前駆体を処理することを含む、上記方法:
i)七モリブデン酸アンモニウム(四水和物)とテルル酸との水溶液を温度30℃から85℃にて形成し、窒素含有塩基を用いて前記溶液のpHを6.5~8.5に調整して、可溶性金属塩を形成する工程;
ii)硫酸バナジルの水溶液を室温から80℃の温度にて調製する工程;
iii)工程i)及びii)からの各前記溶液を一緒に混合する工程;
iv)シュウ酸一酸化ニオブ(NbO(CH))の溶液を、工程iii)の前記溶液にゆっくり添加して、スラリーを形成する工程;
v)得られたスラリーをオートクレーブ中、不活性雰囲気下、温度150℃から190℃で10時間以上、加熱する工程;
vi)工程v)で得られた固体を、ろ過し、脱イオン水で洗浄し、次いで、前記洗浄された固体を4から10時間、温度70から100℃で乾燥することで、触媒前駆体を形成する工程;
vii)工程vi)で得られた触媒前駆体を、触媒前駆体1g当たり30%w/wのH水溶液0.3から2.8mLに等価な量のHで、5分から10時間、温度20から80℃で処理する工程;および
viii)不活性雰囲気中で温度200℃から600℃にて1から20時間、前記触媒前駆体をか焼することで、か焼された触媒を形成する工程。
【請求項2】
前記か焼された触媒におけるMo:Vのモル比が、1:0.22から1:0.29である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記か焼された触媒におけるMo:Teのモル比が、1:0.11超であり、かつ1:0.15未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記か焼された触媒が、嵩密度1.20から1.53g/ccを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒の結晶相における、式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14を有する相の量が、XRDによる測定により、前記測定結晶相の75重量%超である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒の結晶相における、式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14を有する相の量が、XRDによる測定により、前記測定結晶相の85重量%超である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
体積比70:30から95:5、温度400℃未満、ガス時空間速度500hr-1以上、及び圧力0.8から1.2気圧のエタンと酸素との混合フィードの酸化的脱水素化の方法であって、前記方法が、前記混合物を、実験式(PIXEによって測定):
Mo1.000.22-0.33Te0.10-0.16Nb0.15-0.19
(式中、dは酸化物の価数を満たす数である。)で表される酸化的脱水素化触媒のコンシステンシーを改善する請求項1に記載の方法から得られたか焼された触媒上を通過させることを含み、
このか焼された触媒におけるMo:Vのモル比が1:0.22から1:0.29であり、前記か焼された触媒におけるMo:Teのモル比が1:0.11超でありかつ1:0.15未満であり、そして前記か焼された触媒の結晶相における式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14を有する相の量が、XRDによる測定により、前記測定結晶相の85重量%超である、酸化的脱水素化方法。
【請求項8】
エチレンへの選択率が、90%以上である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ガス時空間速度が、3000hr-1以上である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記温度が、400℃未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記か焼された触媒が前記酸化的脱水素化方法のための反応器内に固定床を形成する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
実験式(PIXEによって測定):
Mo1.000.22-0.33Te0.10-0.16Nb0.15-0.18
(式中、dは、酸化物の価数を満たす数である。)を有し、且つ、XRDによる測定により、結晶成分の75重量%以上が、式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14を有する、低級アルカンを低級アルケンへ酸化的脱水素化するための触媒。
【請求項13】
XRDによる測定により、式(TeO)0.71(Mo0.730.2Nb0.07を有する前記触媒の前記結晶相が、2.4から12重量%である、低級アルカンを低級アルケンへ酸化的脱水素化するための請求項12に記載の触媒。
【請求項14】
請求項12に記載の前記触媒を用いて播種された反応器の表面。
【請求項15】
ステンレス鋼、シリカ、アルミナコーティング及びポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される、請求項14に記載の表面。
【請求項16】
請求項12に記載の触媒を用いて播種されたステンレス鋼、シリカ、アルミナ及びポリテトラフルオロエチレンの粒子を含有する反応器。
【請求項17】
請求項12に記載の触媒を用いて播種された完全フッ素化エチレンプロピレンポリマーコーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級アルカンを低級アルケンへ酸化的脱水素化するための触媒を製造する改善された方法に関する。アルカンの酸化的脱水素化のための多成分金属酸化物触媒が知られている。このような触媒は、典型的に、金属の溶液を混合し、次いでその溶液から金属酸化物の「混合物」を沈殿させ、そしてそれをか焼することによって製造される。結果として、その触媒は、種々の金属酸化物や相の不均一な混合物であり、幾つかの高度に活性な種に加えて、活性が非常に低い幾つかの種もまた包含する場合がある。本出願人は、沈殿した金属酸化物を、か焼前に、制御された量の過酸化水素で処理することによって、触媒の活性が改善されることを見出した。
【背景技術】
【0002】
Janoskiに対して1959年7月21日に発行され、Sun Oil Companyに譲渡された米国特許第2,895,920号には、脱水素化等の炭化水素の転化のための触媒を調製する方法が教示されている。触媒には、コバルト、鉄、ニッケル、モリブデン、マンガン、クロム、バナジウム、スズ及びタングステンの酸化物が含まれている。この触媒にはニオブは含まれていない。この触媒を製造する方法では、ヒドロゲルは、還元することが困難な金属酸化物(単数又は複数)及び幾つかの酸化状態で存在することができる金属酸化物から調製される。金属のヒドロゲルを調製し、過酸化水素の存在下でエージングさせる。エージングしたヒドロゲルを、その金属を沈殿させる化合物を用いて処理し、次にこれをろ過し、乾燥させ、か焼する。処理の順序は、本発明の順序とは異なる。本発明の方法では、ヒドロゲルは調製しない。
【0003】
Fattoreらに対して1969年10月21日に発行され、Montecatini Edison S.p.A.に譲渡された米国特許第3,474,042号には、モリブデン又はタングステンを含む金属酸化物触媒が教示されている。触媒は、金属酸化物を過酸化水素又は過酸化水素を形成する化合物と反応させることによって、タングステン及びモリブデンのペルオキシ化合物を形成することによって調製される。過酸化物対金属酸化物のモル比は、0.25から10、典型的に1から3の範囲であることができる。溶液は、噴霧乾燥又は担体に含浸させることができる。
【0004】
Nitto Chemical industry Co.,Ltd.に譲渡された、Sasakiらに対して1987年11月24日に発行された米国特許第4,709,070号には、アルカンの酸化、アンモ酸化及び酸化的脱水素化に使用される複合金属酸化物触媒の活性を再生する方法が教示されている。再活性化前の触媒は、本発明の触媒とはかなり異なる。それらには、Fe、Sb、Cu及びCo等の本発明の触媒には存在しない多くの元素が含有される。「失活した」触媒は、Te化合物、Mo化合物又はそれらの混合物を用いて処理される。Te及びMo化合物は、酸化物であってもよい。ある場合には、Te及びMo化合物は、それらをHと、酸化物、オキシ酸、オキシ酸の塩、ヘテロポリ酸又はそれらのモリブデン塩の存在下で接触させることによって調製することができる(第9欄、第38行から第42行参照)。この特許には、触媒前駆体全体を、Hで処理することは何ら教示されていない。
【0005】
2009年4月2日に提出された出願からGaffneyらに対して2012年1月31日に発行され、Lummus Technology Inc.に譲渡された米国特許第8,105,972号には、アルカンの酸化的脱水素化のための触媒が教示されている。触媒は、従来的な方法で、金属酸化物成分を水熱処理することによって形成される。得られた触媒を回収し、乾燥させ、か焼する。次に、か焼された触媒を酸により処理する。この方法には、後か焼処理(post calcining treatment)が教示されているので、本発明の主題とは乖離している。更に、この特許には、Hを用いる処理が教示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、か焼前に、触媒前駆体をHで処理することによって、酸化的脱水素化のための改善された触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の開示
本発明の一実施形態では、酸化的脱水素化触媒の前駆体は、Mo、V、Te、及びNbの化合物を水熱反応させ、そしてか焼前に、前駆体をHで処理することによって調製される。
一実施形態では、本発明は、実験式(empirical formula:経験式)(PIXEによって測定):
Mo1.00.22-033Te0.10-0.16Nb0.15-0.19
(式中、dは酸化物の価数を満たす数である。)を有する酸化的脱水素化触媒のコンシステンシー(consistency)を改善する方法であって、前記方法が、前駆体を、か焼前に、触媒前駆体1グラム当たりHの30%溶液0.30から2.8mLに等価な量のHで処理することを含む、方法を提供する。
【0008】
更なる実施形態では、前駆体は:
i)七モリブデン酸アンモニウム(四水和物)とテルル酸との水溶液を、温度30℃から85℃にて形成し、その溶液のpHを6.5から8.5、好ましくは7から8、最も好ましくは7.3から7.7に、窒素含有塩基を用いて調整して、可溶性金属塩を形成する工程;
ii)硫酸バナジルの水溶液を、室温から80℃(好ましくは50℃から70℃、最も好ましくは55℃から65℃)の温度にて調製する工程;
iii)工程i)及びii)からの各溶液を一緒に混合する工程;
iv)シュウ酸一酸化ニオブ(niobium monoxide oxalate)(NbO(CH))の溶液を、工程iii)の溶液にゆっくり(滴下して)添加して、スラリーを形成する工程;及び
v)得られたスラリーを、オートクレーブ中、不活性雰囲気下、150℃から190℃の温度で10時間以上加熱する工程
によって、調製される。
【0009】
更なる実施形態では、工程v)から得られた固体をろ過し、脱イオン水で洗浄し、洗浄した固体を、4から10時間、70から100℃の温度で乾燥させる。
更なる実施形態では、前駆体を、不活性雰囲気中で200℃から600℃の温度にて1から20時間、か焼する。
更なる実施形態では、前駆体を、触媒前駆体1グラム当たりHの30%w/w溶液0.3から2.8mLの等価量で、5分から10時間、20から80℃の温度で処理する。
更なる実施形態では、触媒におけるMo:Vのモル比は、1:0.22から1:0.29である。
更なる実施態様では、触媒におけるMo:Teのモル比は、1:0.11超かつ1:0.15未満である。
更なる実施形態では、触媒におけるMo:Vのモル比は、1:0.22から1:0.25である。
更なる実施形態では、触媒におけるMo:Teのモル比は、1:0.11から1:0.13である。
更なる実施形態では、触媒は、嵩密度1.20から1.53g/ccを有する。
【0010】
更なる実施形態では、触媒の結晶相において、式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14を有する相の量は、XRDによって測定で、測定結晶相の75重量%超である。
更なる実施形態では、触媒の結晶相において、式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14を有する相の量は、XRDによる測定で、測定結晶相の85重量%超である。
本発明の更なる実施形態は、体積比70:30から95:5のエタンと酸素との混合フィードを、温度420℃未満、好ましくは400℃未満、ガス時空間速度500hr-1以上、及び圧力0.8から1.2気圧で酸化的脱水素化する方法であって、前記混合物に前記触媒上を通過させることを含む方法を提供する。
更なる実施形態では、エチレンへの転化率は、90%以上である。
更なる実施形態では、ガス時空間速度は、1000hr-1以上である。
【0011】
更なる実施形態において、か焼された触媒は、反応器内に固定床を形成する。
更なる実施形態では、触媒は、実験式(PIXEによって測定):
Mo1.00.22-033Te0.10-0.16Nb0.15-0.18
(式中、dは酸化物の価数を満たす数である。)を有し、結晶成分の75重量%以上が、式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14を有し、それはXRDにより測定した。
更なる実施形態では、式(TeO)0.71(Mo0.730.2Nb0.07を有する触媒の結晶相は、2.4から12重量%であり、それはXRDによって測定した。
更なる実施形態では、反応器の表面(内部)は、上記触媒を用いて播種される。
【0012】
更なる実施形態では、反応器の表面は、ステンレス鋼、シリカ、アルミナコーティング及びポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される。
更なる実施形態では、反応器は、上記触媒を用いて播種された、ステンレス鋼、シリカ、アルミナ及びポリテトラフルオロエチレンの粒子(例えば、フレーク、顆粒、小球、フィラメント等の不規則なもの、又は球、楕円、棒、矩形プリズム(直角及び非直角の両方)、五角プリズム、ピラミッド等の規則的なもの)を含有する。
更なる実施形態では、上記触媒を用いて播種された完全フッ素化エチレンプロピレンポリマー反応器コーティングが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、ODH触媒を試験するために使用される反応器の模式図である。
図2図2は、各例で調製した、420℃未満の25%転化率の温度及び95%超のエチレンへの選択率を有する触媒1.41g当りの30%Hの体積に対する、エタンからエチレンへの25%転化率の温度のプロットである。
図3図3は、各例で調製した、420℃未満の25%転化率の温度及び95%超のエチレンへの選択率を有する触媒1.41g当りの30%Hの体積に対する、エチレンへの25%転化率の温度におけるエチレン転化の選択率のプロットである。
【0014】
発明を実施するための最良の形態
数の範囲
実施例又は他の指示がある場合を除き、明細書及び特許請求の範囲で使用された成分の量、反応条件等を指す全ての数又は表現は、全ての場合において「約」の用語によって修飾されるものと理解されるべきである。従って、断りのない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメータは、本発明が得ることを望む特性に応じて変化させることができる近似値である。最低限、特許請求の範囲の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも報告された有効数字の数に照らして且つ通常の丸め技術を適用して解釈されるべきである。
【0015】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示した数値は、可能な限り正確に報告している。しかし、いずれの数値も、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。
また、本明細書に列挙されるいずれの数値範囲も、その中に包含される全ての部分範囲を含むことを意図していると理解すべきである。例えば、「1から10」の範囲は、記載した最小値1と記載した最大値10との間且つそれ自体を含む全ての部分範囲を包含することを意図している。即ち、それは、1に等しいかそれ超の最小値と10に等しいかそれ未満の最大値を有する。開示された数値範囲は連続的であるため、それには、最小値と最大値との間の全ての値が含まれる。明確に断りのない限り、本明細書で特定される様々な数値範囲は近似値である。
【0016】
本明細書に記載されている全ての組成範囲は、実際には合計で100%に制限され、100%を超えない(体積%又は重量%)。組成物中に複数の成分が存在する場合、各成分の最大量の合計は100%を超えることがあるが、実際に使用される成分の量が100%の最大値になることは理解され、当業者であれば容易に理解する。
本明細書では、エタンからエチレンへの25%転化率における温度という表現は、典型的に、25%転化率未満及び超過のデータ点の温度に対するエチレンへの転化率のグラフをプロットすることによって決定される。次に、データのプロットを作成するか、又はデータを式に当てはめ、そしてエタンからエチレンへの25%転化率の温度を決定する。ある場合には、各例においてデータは、25%転化率が生じる温度を決定するために外挿する必要があった。
【0017】
本明細書では、25%転化率における選択率という表現は、温度の関数として選択率をプロットすることによって決定される。次に、データを、温度に対する選択率のグラフ上にプロットするか又は式に当てはめる。次に、25%転化率が生じる温度を計算することにより、グラフ又は式のいずれかからその温度における選択率を決定することができる。
本発明のか焼された触媒は、典型的に、PIXEによって測定した式:
Mo1.00.22-033Te0.10-0.16Nb0.15-0.19
(式中、dは酸化物の価数を満たす数である。)を有する。幾つかの実施形態では、か焼された触媒中のMo:Vのモル比は、1:0.22から1:0.33であり、他の実施形態では、か焼された触媒中のMo:Vのモル比は、1:0.22から1:0.29であり、幾つかの実施形態では、1:0.22から1:0.25である。他の実施形態では、か焼された触媒中のMo:Teのモル比は、1:0.10超且つ1:0.16未満であり、更なる実施形態では、か焼された触媒中のMo:Teのモル比は、1:0.11から1:0.15である。
【0018】
触媒前駆体は、典型的に、金属成分の酸化物又は塩の溶液又はスラリー(懸濁液)を混合することによって調製される。
幾つかの実施形態では、前駆体は、以下の工程を含むプロセスによって調製することができる:
i)七モリブデン酸アンモニウム(四水和物)とテルル酸との水溶液を、温度30℃から85℃にて形成し、その溶液のpHを、6.5から8.5、好ましくは7から8、最も好ましくは7.3から7.7に、好ましくは窒素含有塩基を用いて調整して、可溶性金属塩を形成する工程;
ii)硫酸バナジルの水溶液を、室温から80℃(好ましくは50℃から70℃、最も好ましくは55℃から65℃)の温度にて調製する工程;
iii)工程i)及びii)からの各溶液を一緒に混合する工程;
iv)シュウ酸一酸化ニオブ(NbO(CH))の溶液を、工程iii)の溶液にゆっくり(滴下して)添加して、スラリーを形成する工程;
v)得られたスラリーを、オートクレーブ中、不活性雰囲気下、温度150℃から190℃で10時間以上、加熱する工程。
【0019】
更なる実施形態では、工程v)からのスラリーをろ過し、脱イオン水で洗浄し、4から10時間、温度70から100℃で乾燥させる。
更なる実施形態では:
工程i)の後、以下の工程の1つ以上をプロセスに組み込むことができる:
a)水性溶媒を蒸発させて、固体を得る工程;
b)その固体を、温度80℃から100℃で乾燥させる工程;及び
c)その固体を、水中に温度40℃から80℃(好ましくは50℃から70℃、最も好ましくは55℃から65℃)にて再溶解させる工程。
更なる実施形態では、工程ii)の後、溶液を温度20℃から30℃の温度に冷却する。
更なる実施形態では、工程vi)の一部として、溶液を温度20℃から30℃に冷却する。
【0020】
更なる実施形態では、前駆体は、以下の工程を含むプロセスによって製造することができる:
i)七モリブデン酸アンモニウム(四水和物)とテルル酸との水溶液を、温度30℃から85℃にて形成し、その溶液のpHを7.3から7.7(好ましくは7.4から7.5)に、窒素含有塩基を用いて調整して、可溶性金属塩を形成する工程;
ii)水性溶媒を蒸発させて、固体を得る工程;
iii)その固体を、温度80℃から100℃で乾燥させる工程;及び
iv)その固体を、水中に、温度40℃から80℃(好ましくは50℃から70℃、最も好ましくは55℃から65℃)にて再溶解させる工程;
v)硫酸バナジルの水溶液を、室温から80℃(好ましくは50℃から70℃、最も好ましくは55℃から65℃)の温度にて調製する工程;
vi)工程iv)及びv)からの各溶液を温度20から30℃に冷却する工程
vii)工程vi)からの各冷却溶液を一緒に混合する工程;
viii)シュウ酸一酸化ニオブ(NbO(CH))の溶液をステップvii)の溶液にゆっくり(滴下して)添加して、(褐色の)スラリーを形成する工程;
ix)得られたスラリーを、オートクレーブ中、酸素を含まない雰囲気下、温度150℃から190℃で10時間以上、加熱する工程;
x)オートクレーブを室温に冷却し、ろ過し、得られた固体を脱イオン水で洗浄する工程;及び
xi)洗浄した固体を、4から10時間、温度70から100℃で乾燥する工程。
【0021】
幾つかの実施形態では、(触媒)反応器は、420℃以下で25%のエチレンへの転化率及び90%以上のエチレンへの選択率を有する触媒を用いて播種された、ステンレス鋼、シリカ、アルミナコーティング及びポリテトラフルオロエチレン、好ましくはポリテトラフルオロエチレン(TEFLON)からなる群から選択されるコーティングのライナーを有することができる。
シード触媒は、実験式(PIXEによって測定):
Mo1.00.22-033Te0.10-0.16Nb0.15-0.18
(式中、dは酸化物の価数を満たす数である。)を有し、式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14の結晶成分を75重量%以上有する触媒であってよい。
【0022】
幾つかの実施形態では、(触媒前駆体)反応器は、420℃以下でエチレンへの25%転化率及び90%以上のエチレンへの選択率を有する触媒を用いて播種された、完全フッ素化エチレンプロピレンポリマー(FEP)のコーティングのライナーを有することができる。
幾つかの実施形態では、シード触媒は、実験式(PIXEによって測定)Mo1.00.22-033Te0.10-0.16Nb0.15-0.18(式中、dは、酸化物の価数を満たす数である。)を有し、結晶成分の75重量%以上が式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14を有し、それはXRDにより測定した。
シード触媒の装填量は、反応器(例えば、鋼、TEFLON又はFEP)の表面の1から15重量%であることができる。
ある場合には、(触媒前駆体)反応器は、420℃以下でエチレンへの25%転化率及び90%以上のエチレンへの選択率を有する触媒を用いて播種されたステンレス鋼、シリカ、アルミナ及びポリテトラフルオロエチレンの粒子を含有する。
【0023】
幾つかの実施形態では、シード触媒は、実験式(PIXEによって測定)Mo1.00.22-033Te0.10-0.16Nb0.15-0.19(式中、dは酸化物の価数を満たす数である。)を有し、結晶成分の75重量%以上が式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14を有し、それはXRDにより測定した。
粒子は、(例えばフレーク、顆粒、小球、フィラメント等の不規則なもの、又は球、楕円、棒(攪拌棒)、矩形プリズム(直角及び非直角の両方)、五角プリズム、ピラミッド等の規則的なもの)であることができる。
粒子へのシード触媒の装填量は、粒子の1から15重量%の範囲であることができる。
状況によっては、粒子上のシード触媒が何らかの理由で消耗した粒子を、適切な装填量のシード粒子を有する新たなシード粒子で交換する方が、触媒反応器の内表面のシードコーティングを補充するよりも容易である場合がある。
【0024】
420℃以下でエチレンへの25%転化率及び90%以上のエチレンへの選択率を有する触媒を用いて播種された水熱反応器から製造された触媒は、一般的に、PIXEによって測定された実験式:Mo0.34-0.39Te0.09-0.14Nb0.14-0.16(式中、dは酸化物の価数を満たす数である。)を有する。
過酸化物処理は、大気圧及び室温(例えば、15℃から30℃)から約80℃、ある場合には35℃から75℃、他の場合には40℃から65℃で行うことができる。過酸化物は、濃度10から30重量%、ある場合には、15から25重量%を有する。処理時間は、1から10時間、ある場合には2から8時間、他の場合には4から6時間の範囲であってよい。
【0025】
触媒前駆体は、前駆体1グラム当りHの30重量%水溶液0.3から2.8mL、幾つかの実施形態では、0.3から2.5mLの等価量で処理される。Hの分布を均一にし、温度上昇を抑制するために、処理は、スラリー(例えば、前駆体が少なくとも部分的に懸濁している)中で行うべきである。Hを用いた後か焼処理の場合、Hと、突然、遅れて激しく反応するが、本発明の方法では、より制御され、より安全な瞬間的な反応である。
次に、処理した触媒前駆体をか焼して、活性な酸化的脱水素化触媒を生成する。処理した前駆体は、不活性雰囲気中、温度200℃から600℃で1から20時間か焼することができる。か焼に使用されるパージガスは、200から600℃、好ましくは、300から500℃の、窒素、ヘリウム、アルゴン、CO(好ましくは高純度>90%)の1種以上を含む不活性ガス(前記ガス又は混合物には、1容量%未満の水素又は空気が含有される。)である。か焼工程には、1から20、ある場合には5から15、他の場合には約8から12時間、一般的に約10時間かかることがある。得られた混合酸化物触媒は、典型的に水に不溶性の脆い固体である。典型的に、か焼された生成物は、嵩密度1.20から1.53g/ccを有する。この嵩密度は、1.5mLの圧縮且つ粉砕された触媒の重さに基づいている。
【0026】
得られた酸化的脱水素化触媒は不均一である。それは、非晶質成分と結晶成分とを有する。触媒の元素分析は、任意の適切な技術によって確認することができる。1つの有用な技術としては、粒子線励起X線分析(PIXE)である。Hを用いた処理の前及び処理の後の触媒前駆体のPIXE分析から、Mo対Vの実験的モル比は、過酸化水素で処理することなくか焼された材料と比較して、典型的に1:0.33~1:0.40から1:0.22~1:0.33にまで、ある場合には1.0:0.22~1.0:0.25にまで減少することが確認される。更に、Mo:Teのモル比は、タイトになり、そのように処理せずにか焼された酸化的脱水素化触媒と比較して、典型的に1:0.03~1:0.13の範囲から1:0.10超且つ1:0.16未満にまで、ある場合には1.0:0.11~1.0:0.15(from 1.0:0.11 to 1:0 to 0.15)にまで、(ベース触媒を上回って)増加することがわかった。
【0027】
触媒は、1種以上の結晶性成分及び非晶質成分を有する。結晶成分は、X線回折(XRD)を使用して分析することができる。Rigaku、Shimadzu、Olympus及びBrukerを含むX線回折計の多くの供給者が存在する。粉末サンプルにX線を照射する。サンプルから放出されたX線は、回折格子を通過し、ゴニオメータ(記録計)に集められる。結果は、典型的に、コンピュータプログラム(典型的に、機器供給者から提供される)を使用して分析し、結晶相(単数又は複数)の組成を決定するコンピュータを使用してデータベース(国際回折データセンター:ICDD)と比較する。
2θX線回折パターンは、0から20°の2θでのピーク高さの最大ピーク高さに対する比が15%未満、ある場合には10%未満である。
【0028】
触媒の結晶相も不均一である。X線回折結果を、コンピュータプログラムによって分析し、データベース内にある構造(例えば、デコンボルーションされたもの)と比較して、様々な可能性のある結晶種及びそれらの相対量を特定する。
結晶相は、典型的に、以下の結晶種を含む:
(Mo0.6Nb0.220.1814
TeO0.71(Mo0.730.2Nb0.07
(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)O14
1.1Mo0.9;Mo25;及び
VOMoO
前駆体及びか焼された触媒のX線回折分析から、処理により、結晶相の組成が変化することがわかる。本発明による処理によって、実験式(TeO)0.39(Mo3.521.06Nb0.42)を有する結晶成分の相は、結晶相の75重量%以上、ある場合には85重量%以上、ある場合には90重量%以上、ある場合には、95重量%以上に増加する。
【0029】
幾つかの実施形態では、実験式TeO0.71(Mo0.730.2Nb0.07を有する結晶成分の相は、約2.4から12重量%の量で存在し、幾つかの実施形態では、その相は約8重量%未満の量で存在し、更に別の実施形態では3.5重量%未満で存在する。
か焼された触媒生成物は、典型的に水に不溶性の乾燥した脆い生成物である。必要であれば、触媒を、粉砕等のサイジング工程に供して、所望の粒子サイズにすることができる。触媒がどのように使用されるかに応じて、粒子サイズは異なっていてよい。例えば、担体を用いた噴霧乾燥の場合、粒子サイズは約5から75μm、ある場合には10から60μmの範囲であることができる。担持されていない形態にて床で使用する場合、粒子は、約0.1から0.5mm、ある場合には0.2から0.4mmのサイズを有することができる。
【0030】
本発明において、酸化的脱水素化反応器へのフィードには、爆発/可燃性の上限未満の量で酸素が含まれる。例えば、エタンの酸化的脱水素化の場合、典型的に、酸素は、約16モル%以上、好ましくは約18モル%以上、例えば約22から27モル%、又は23から26モル%の量で存在する。これは、フィード又は最終的な生成物の燃焼に起因する選択率の低下をもたらす可能性があるので、過剰の酸素は多過ぎないことが望ましい。加えて、フィード流中に過剰の酸素が多過ぎると、反応の下流端で追加的な分離工程が必要となる場合がある。
実用的な流動床又は移動床を維持するために、床を通る質量ガス流量は、流動化に必要な最小流よりも大きくなければならず、好ましくはUmfの約1.5から約10倍、より好ましくはUmfの約2から約6倍である。Umfは、流動化を達成するのに必要な最小質量ガス流量の略語として容認された形で使用されている(C.Y.Wen及びY.H.Yuによる“Mechanics of Fluidization”、Chemical Engineering Progress Symposium Series、第62巻、100から111頁(1966年)。典型的に、必要とされる表面ガス速度は、0.3から5m/sの範囲である。
反応器は、固定床反応器であってもよい。
【0031】
酸化的脱水素化プロセスには、エタンと酸素の混合フィードを、420℃未満、ある場合には410℃未満、ある場合には400℃未満、ある場合には390℃未満、ある場合には380℃未満、ある場合には375℃の低い温度で、ガス時空間速度500hr-1以上、典型的に1000hr-1以上、望ましくは2800hr-1以上、好ましくは、少なくとも3000hr-1で1つ以上の床を、圧力0.8から1.2気圧で通過させること、及び前記混合物に酸化的脱水素化触媒上を通過させることが含まれる。幾つかの実施形態では、酸化的脱水素化反応器は、400℃未満、典型的に375℃から400℃の温度で操作される。
【0032】
反応器からの出口圧力は、105kPa(15psi)から172.3kPa(25psi)であり、入口圧力は、床を横切った圧力降下分だけ高く、これは、反応器構成、床の粒子サイズ及び空間速度を含む多数の要因に依存する。一般的に、圧力降下は、689kPa(100psi)未満、好ましくは206.7kPa(30psi)未満であってよい。
酸化脱水素化反応器中の1種以上のアルカンの滞留時間は、0.002から20秒である。
【0033】
担体/結合剤
必要であれば、酸化的脱水素化触媒を担持又は結合させることができる幾つかの方法がある。
セラミック担体を形成するための、及び結合剤のための好ましい成分には、流動床反応器及び固定床反応器の両方の場合に、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、ケイ素酸化物、リン酸塩、リン酸ホウ素、リン酸ジルコニウム及びそれらの混合物が含まれる。流動床では、典型的に、触媒は、一般的に結合剤と共に噴霧乾燥され、典型的に40から100μmのサイズ(有効直径)の範囲の球状粒子を形成する。しかしながら、流動床における摩耗を最小にするために粒子の表面領域に確実に十分な耐久性をもたせるように注意する必要がある。
固定床用触媒の担体は、更に、二酸化ケイ素、溶融二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化トリウム、酸化ランタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化ホウ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、酸化イットリウム、ケイ酸アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素及びそれらの混合物からなる群から選択される酸化物、二酸化物、窒化物、炭化物から形成されたセラミック前駆体であることができる。
【0034】
一実施形態では、固定床用の担体は、酸化的脱水素化触媒の場合、20m/g未満、あるいは15m/g未満、場合によっては3.0m/g未満の低い表面積を有することができる。このような担体は、圧縮成形によって調製することができる。より高い圧力では、セラミック前駆体内の隙間は圧縮されて破壊される。担体前駆体に及ぼされる圧力に応じて、担体の表面積は、約20から10m/gであることができる。
低表面積の担体は、球状、リング状、サドル状等の任意の従来の形状であることができる。
担体は、使用前に(すなわち、触媒を添加する前に)乾燥させることが重要である。一般的に、担体は、少なくとも200℃の温度で24時間まで、典型的に500℃から800℃の温度で約2から20時間、好ましくは4から10時間加熱することができる。得られる担体は、吸着水を含まず、約0.1から5ミリモル/担体1g、好ましくは0.5から3ミリモル/担体1gの表面ヒドロキシル含量を有するべきである。
【0035】
シリカ上のヒドロキシル基の量は、J.B.Peri及びA.L.Hensley,Jr.によって、J.Phys. Chem.第72(8)巻、第2926頁、1968年に開示された方法に従って測定することができ、この内容全体を参照により本明細書に援用する。
固定床触媒用の乾燥された担体は、圧縮成形によって必要な形状に圧縮することができる。担体の粒子サイズに応じて、圧縮部分の形状を保持するために不活性結合剤と組み合わせることができる。
【0036】
装填
典型的に、固定床触媒の場合、担体への触媒の装填は、それぞれ前記触媒の1から30重量%、典型的に5から20重量%、好ましくは8から15重量%、そして前記担体の99から70重量%、典型的に80から95重量%、好ましくは85から92重量%である。
触媒は、多くの方法で担体に添加することができる。例えば、触媒は、水性スラリーから低表面積の担体の表面の1つに、含浸、ウォッシュコーティング、はけ塗り又は噴霧によって堆積させることができる。触媒はまた、スラリーからセラミック前駆体(例えば、アルミナ)と共沈させて、低表面積で担持された触媒を形成することもできる。
【0037】
流動床の場合の触媒の装填は、床の体積、床を通るアルカンの流量、床のエネルギー収支、結合剤の種類等を含む多くの因子に基づいて選択することができる。流動床の場合、触媒の装填は、10重量%から90重量%まで、典型的に20重量%超、望ましくは35重量%超の範囲の広範な値を含むことができる。
この方法は、少なくとも90%、場合によっては95%、望ましくは98%超のエタンからエチレンへの転化率、及び95%以上、ある場合には97%超のエチレンへの選択率を有するように操作されるべきである。
【0038】
酸化的脱水素化プロセス
本発明の触媒は、流動床又は固定床の発熱反応に使用することができる。固定床反応器は管状反応器であり、更なる実施形態では、固定床反応器は、シェル内側に多数の管(例えば、シェル-管タイプ熱交換器の構造)を含む。更なる実施形態では、固定床反応器は、直列及び/又は並列の多数のシェルを含むことができる。反応は、酸化的脱水素化を含む1つ以上の脱水素化工程及び炭化水素の酸化的カップリングを含む水素転移工程を含むことができる。
典型的に、これらの反応は、温度約375℃から約410℃まで、圧力約100から21,000kPa(15から3000psi)、好ましくは出口圧力105kPa(15psi)から172.3kPa(25psi)で、酸化的脱水素化触媒の存在下で行われる。炭化水素流は、C2-4脂肪族炭化水素を含むある範囲の化合物を含有することができる。
【0039】
幾つかの実施形態では、反応には、脂肪族炭化水素、典型的にC1-4脂肪族炭化水素、特にメタン(例えば、エタン流が幾らかのメタンを含有する場合)の酸化的カップリング及びC2-4脂肪族炭化水素の酸化的脱水素化が含まれる。このような反応は、炭化水素の混合フィード、幾つかの実施形態では、体積比70:30から95:5のメタン又はエタン又はその両方と酸素との混合フィードを使用して、温度420℃未満、好ましくは400℃未満で、ガス時空間速度280hr-1以上、幾つかの実施形態では、500hr-1以上、典型的に1000hr-1以上、望ましくは2800hr-1以上、好ましくは少なくとも3000hr-1、及び圧力0.8から1.2気圧で行うことができる。典型的に、このプロセスは、全体の転化率約50から約100%、典型的に約75から98%、及びエチレンへの選択率90%以上、ある場合には95%以上、更なる実施形態では、98%以上を有することができる。ある場合には、制御上限温度は、約400℃未満、幾つかの実施形態では385℃未満である。
得られた生成物流を処理して、エチレンを、酢酸等の副生成物もまた含有する場合がある生成物流の残り、及び反応器に再循環させる未反応フィードから分離する。
【0040】
分離
反応器からの生成物流には、比較的低い含量のエタンが、20重量%未満、ある場合には15重量%未満、ある場合には10重量%未満が含まれるべきである。追加的に、生成物流には、低い含量の副生成物、例えば水、二酸化炭素及び一酸化炭素が、一般的に累積的に5重量%未満、好ましくは3重量%未満の範囲で含まれるべきである。
フィード及び副生成物は、生成物流から分離する必要がある場合がある。幾つかのプロセスは、所謂、希釈したエチレン流を使用することができる。例えば、生成物流があまり多くのエタンを含有していない場合、例えば約15体積%未満である場合、この流れは、気相、スラリー又は溶液プロセス等の重合反応器で更なる精製をすることなく直接使用することができる。
最も一般的な手法は、極低温C2スプリッタを使用することであろう。吸着(油、イオン性液体及びゼオライト)を含む他の既知のエチレン/エタン分離技術もまた使用することができる。
次に、本発明を以下の非限定的な実施例によって説明する。
【実施例
【0041】
実施例では、酸化的脱水素化反応に使用される固定床反応器ユニットを図1に模式的に示す。反応器は、外径2mm(3/4インチ)、長さ117cm(46インチ)の固定床ステンレス鋼管反応器を用いた。反応器は、セラミック断熱材で封止された電気炉内にある。反応器には番号1から7で示された7つの熱電対がある。熱電対は、反応器のその区域の温度を監視するために使用する。熱電対3及び4は、反応器床の熱を制御するためにも使用される。フィードは、反応器の頂部から底部に流れる。入口には、反応器内の空気のドラフトを防止するためのセラミックカップ8がある。セラミックカップの下には、石英ウールの層9がある。石英ウールの層の下には、触媒的に不活性な石英粉末の層がある。石英粉末の下には触媒を含む固定床10がある。固定床の下には、石英粉末の層11、石英ウールの層12及びセラミックカップ13がある。床の出口には、生成物流の組成を測定するガス分析器があった。GHSVは2685hr-1であり、圧力は大気圧(ambient)であった。
実施例では、床温度は熱電対2、3及び4からの温度の平均をとった。フィード流は床と同じ温度を有すると仮定した。
【0042】
課題の本質
ベースライン実験
2つの異なるベースライン触媒を、地理的に離れた実験室で調製した。
第1の実験室では、予め調製した有効な触媒の結晶を表面に有するTEFLON(登録商標)製のライナーを備えた反応器を、水熱処理に使用した。
ガラス器具での手順におけるプレ触媒の形成は以下の通りであった:
(NHMoTeO24・xHO(6.4069g)を、100mLのガラスビーカー内の20mLの蒸留水に添加し、温水浴(80℃)で攪拌した。VOSOxHO(3.6505g)を、50mLのビーカー内で10mLの蒸留水に室温で溶解した。VOSO溶液を(NHMoTeO24溶液に注ぎ、直ちに褐色溶液を得た(溶液1)。
[NbO(C]7.5HO(2.3318g)を、10mLの温水に溶解し、空気雰囲気下で溶液1に添加した。密な濃褐色がかった灰色のスラリーが形成され、これを10分間、空気雰囲気下で撹拌した。
【0043】
水熱処理
次に、スラリーのサンプルを、予め製造しておいた触媒を用いて播種されたTEFLONライナーを有するオートクレーブ中で、不活性雰囲気下、温度150℃から190℃で、10時間以上加熱した。スラリーをろ過し、脱イオン水で洗浄し、4から10時間、温度70から100℃で乾燥させた。
ベースライン触媒のサブサンプルを直ちにか焼した。
この方法で2つのサンプルを調製した。
第1のサンプル(A)は、約370℃でエタンからエチレンへの25%の転化率及びこの温度で98%の選択率を有した。
第2のサンプル(B)は、約354℃でエタンからエチレンへの25%の転化率及びこの温度で99%の選択率を有した。
このことから、水熱処理では触媒シードを有しても、ばらつきがあることがわかる。(これは、種結晶の違いによる可能性がある。)
【0044】
プレ触媒Aの3つのサブサンプルとプレ触媒Bの4つのサブサンプルを、様々な量のHで処理し、次にか焼し、次に、78%のエタンと22%の酸素との混合物を流量600cm/hで酸化的脱水素化するために使用した。
結果を以下の表1に示す。
【表1】

420℃未満の温度で25%の転化率及び高い選択率を有する触媒を、触媒1g当たり0.3から2.8mLの量の30%過酸化水素で処理した場合、測定可能な性能損失は引き起こさない。
【0045】
第2の実験室
プレ触媒の調製
(NHMoTeO24・xHO(6.4g)を、温水浴を用いて100mLの丸底フラスコ内で20mLの水に溶解した。透明な溶液を室温に冷却した。VOSOx3.47HO(3.4g)を、30mLのビーカー内で10mLの水に溶解した(温水浴もまた用いた)。形成された青色の溶液を室温に冷却した。VOSO溶液を、(NHMoTeO24溶液に注いだ。ビーカーを、水(2×0.5mL)ですすぎ、すすぎ溶液をフラスコに加えた。形成された褐色の溶液を窒素でバブリングして、10分間撹拌した。H[NbO(C](0.3431mmol/溶液1g、13.29g、4.56mmolのNb)の水溶液を、上記の褐色の溶液にピペットでゆっくり添加した(約2.5分間で)。くすんだレッドストーン色のスラリーが形成され、これに対して、Nによるバブリングを行いながら約10分間攪拌した。
【0046】
非播種TEFLONライナー付反応器における水熱処理
スラリーを非播種のテフロン(登録商標)ライナーを有する60mLのオートクレーブに移し、これを脱気し、Nを再充填した(周囲圧力)。内容物をマグネチックスターラで攪拌しながら(300rpm)、オートクレーブを加熱スリーブで加熱した。混合物を内部温度175℃で48時間加熱した。オートクレーブを室温に冷却し、内容物をろ過し、500mLの水で洗浄した。その固形物を90℃で一晩乾燥させ、粉砕し、250ミクロンのふるいでふるった。紫色の固体を600℃でか焼した(窒素流のOレベル:0.4ppm)。この触媒は、か焼後、褐色に見えた。
触媒を上記のように試験した。
ODH反応を、フィードガスの自然発火温度を避けるために420℃までの温度で実施した。転化率は低かったので、温度の関数としての転化率のグラフから、25%転化率が生じる温度の概算を得るために直線的に外挿する必要があった。25%転化率が生じる推定温度は635℃であった。これは、エタン82%及び酸素18%を含むフィードガスの自然発火温度を大きく上回るので、商業的には実行できないと考えられる。
【0047】
播種されたテフロンライナー付反応器
第2の実験室では、プロ触媒を以下の一般的な手順を使用して調製した。
触媒の調製手順は以下の通りであった。
上記のように調製されたスラリーを、TEFLONライナーを備えた300mLのオートクレーブに注いだ。反応器は専用であり、水熱処理の間に洗浄しないので、前の使用の際に作られた触媒の結晶が残っていた。オートクレーブを閉じた。上部空間の酸素をN(20psi)でパージした。パージ後、バルブを閉じ、オートクレーブを23℃のオーブンに入れた。温度を175℃に上げ、この温度で、攪拌することなく、50時間保持した。オートクレーブをオーブンから取り出し、室温に冷却した。オートクレーブの圧力を、水バブラーを介して解放した。オートクレーブを開けた。固体をろ過し、500mLの水ですすぎ、80℃で一晩乾燥させた。褐色の固体(6.19g)を石英ボートに装填し、精製窒素のゆっくりとした流れ(30mL/分)下でか焼した(室温から600℃、4時間、600℃で2時間保持)。得られた固体は黒色の粉末であり、これを粉砕し、250ミクロンのふるいでふるった(5.94g)。得られた個体は、緩かった(loose)(ふわふわしていた)。
【0048】
触媒を、ODH反応器中で上記の条件を使用して試験した。
この実験から、エチレンへの25%転化率が生じる温度は、370℃から383℃の範囲であり、これらの温度での選択率は90%超であった。このことは、触媒の性質が不均一であること、結晶相が複雑であること、及び一様にフィードの自然発火温度未満であることを考慮すると、かなりタイトである。
核形成部位の性質は明らかではなかった。この部位に、400℃未満で25%の転化率及びこの温度で95%超のエチレンへの選択率を有する触媒が含まれる場合、得られる触媒としては、より高い確率でこれらの特性を有する触媒が得られると考えられる。
【0049】
播種されたTEFLONライナー付き水熱反応器にて上記のように調製された多数の触媒サンプルを、以下の例に記載されたようにXRD分析に供して、触媒の結晶相を測定した。結果を以下の表に示す。
【表2】

このことから、水熱反応器の反応器壁(TEFLONライナー又は鋼)が触媒を用いて播種されていても、最終的な触媒にはかなりのばらつきがある場合があることがわかる。
播種を施された反応器から得られたか焼された触媒のサンプルは、PIXEによる測定で以下の実験式を有する:
Mo0.34-0.39Te0.09-0.14Nb0.14-0.16
式中、dは酸化物の価数を満たす数である。サンプルは、温度372℃から383℃で25%の転化率、及びこれらの温度で93から96%のエチレンへの選択率を有した。
【0050】
第2の実験室で
一連の触媒を、清浄なガラス製反応器で調製し、TEFLONライナーなし且つ触媒播種なしのステンレス鋼製反応器での水熱処理に供した。
総体的な反応工程:
(NHMoTeO24・xHO(19.2086g、15.15mmol、1.00モル当量)を、温水浴を用いて500mLの丸底フラスコ内で60mLの蒸留水に溶解した。得られた透明且つ無色の溶液を、室温に冷却させた。VOSOx3.47HO(10.2185g、62.59mmol、4.13モル当量)を、温水浴を用いて30mLのビーカー内で25mLの蒸留水に溶解した。最終的に形成された透明な青色溶液を室温に冷却した。
VOSO溶液を(NHMoTeO24溶液に注ぐと、褐色の溶液が直ちに得られた。VOSO溶液が入ったビーカーを、2つの1mLアリコートの水ですすぎ、これらのすすぎ液(rinsings)をそのフラスコに加えた。得られた褐色の溶液を、窒素のバブリングと共に15分間、撹拌した。H[NbO(C]水溶液(0.3420mmol(Nb)/g(溶液)、39.9737g(溶液)、13.68mmol(Nb)、0.903モル当量)を、Nバブリング下でゆっくりと(7分間かけて滴下して)褐色の溶液にピペットを介して添加した。くすんだ紫色のスラリーが形成され、これをNのバブリングと共に10分間撹拌した。
【0051】
総体的な水熱処理工程
スラリーを、TEFLON攪拌棒を備えた600mLのライナーの付かない鋼製オートクレーブに注いだ。オートクレーブを閉じ、10回、オートクレーブ内側の雰囲気を排気(真空に)し、N(バルク窒素ラインから30psi)で満たした後、N(バルク窒素ラインから30psi)でパージし、N圧力を水のバブラーに解放(正圧の解放)することを追加的に10回繰返した。オートクレーブを周囲圧力のN雰囲気下に放置し、オートクレーブ上部のニードルバルブを使用して容器を密封した。
オートクレーブを加熱ブランケット装置に入れ、オートクレーブの内側と外側の熱電対を介して熱コントローラによって熱を制御した。加熱ブランケット及びオートクレーブを断熱セラミック繊維テープに包んで、確実に適切な断熱を行った。温度を173℃に1時間かけて上げ、この温度で48時間攪拌しながら反応を進行させた。
次に、オートクレーブを攪拌することなくゆっくりと室温に冷却した。冷却後、オートクレーブ内側の反応過程の間に蓄積した過剰の圧力を、水のバブラーを介して解放し、オートクレーブを開けた。固体(濃い紫色)をろ過し、約300mLの蒸留水ですすぎ(濾液は鮮青色)、90℃のオーブンで一晩乾燥させた。
【0052】
総体的なか焼工程
乾燥された触媒の固体を、乳鉢/乳棒を使用して粉砕し、250ミクロンの気孔率のふるいでふるった。0.25ミクロン未満の粒子サイズの濃紫色の固体を石英ボートに装填し、ボートをか焼に使用するガラス炉管に入れた。か焼の間、空気を確実に排除するために、その装置を窒素下でパージした。か焼は、ゆっくりとした精製した窒素流(30mL/分)(水のバブラーを介するベント)下で、以下の条件(即ち、4時間かけて室温から600℃にし、600℃で2時間保持した。)で進行した。得られた固体は、黒色の粉末であり、これを粉砕し、250ミクロンのふるいでふるい、緩く且つふわふわした粉末を得た。
触媒を上記のように試験した。25%転化率(測定又は直線的な外挿のいずれか)の温度は、380から504℃の範囲であった。これは、調製物間で明らかな差異がなかったので、25%転化率の温度は広範な広がりを示した。5つのサンプルのうち2つは、大規模な商業的なODH反応器についての「合理的な」上限温度であると考えられる400℃未満の25%転化率の温度を有した。
【0053】
これらの例は、所望の特性(400℃未満の25%転化率の温度及びこの温度で90%超のエチレンへの選択率)を有する触媒シードを使うことなく、400℃未満で25%転化率を有する触媒を製造する際のばらつきを更に示している。
文献では、性能を改善するために過酸化水素を用いてか焼後にODH触媒を処理することが知られている(Catalysis Communications 2005,6,215-220;Catalysis Communications 2012,21,22-26;Journal of Catalysis 2012,285,48-60参照)。
【0054】
第2の実験室では、上記触媒のように調製された触媒のサンプルを、600℃で2から4時間か焼した。次に、か焼されたサンプルを、触媒1g当たりHの30%w/wの水溶液約12から16mLで処理した。反応は、反応の兆候がない(例えば、熱又は泡立ちがない)又は反応を開始するインキュベーション時間が非常に予測できない(例えば、20分から3時間)、そして反応が開始した場合、反応が非常に速く(秒単位で)、激しい(爆発の可能性)という点で一定していなかった。
触媒をか焼した後にHを添加することは、上記の複雑さ及び安全性に関連する事項に起因して、触媒を調製するための商業的に実行可能なルートとはならない。
【0055】
本発明
第1の実験室
第1の実験室では、播種されたTEFLONライナーを用いて調製されたベースライン触媒前駆体の部分を、か焼前に前駆体1g当りHの30%w/w水溶液5.6mlまでで処理した。前駆体を処理することで、即座に、制御され且つ観察可能な反応が起こった(泡立ち及び約60℃を超えない穏やかな熱)。次に、処理された前駆体を通常の方法でか焼した。
次に、触媒をODH反応器で試験した。
処理によって、過酸化物量3.5ccまでで選択率がわずかに変化し(99%と98%との間)、過剰のHをより多く使用した場合(5.6cc)のみ、測定可能な選択率の損失を生じる。
図2は、第1の実験室で調製された240℃未満の25%転化率の温度及び95%超のエチレンへの選択率を有する触媒1.41g当りの30%Hの体積に対する、エタンからエチレンへの25%転化率の温度のプロットである。
【0056】
図3は、第1の実験室で調製された240℃未満の25%転化率の温度及び95%超のチレンへの選択率を有する触媒1.41g当りの30%Hの体積に対する、エチレンへの25%転化率の温度におけるエチレン転化の選択率のプロットである。
これらのプロットは、240℃未満の25%転化率の温度と95%超のエチレンへの選択率を有する触媒1.4g当りの30%Hの体積を示し、そこで、当該触媒は、触媒1.4g当りの30%H約5.6mL(即ち、触媒1g当りHの30%溶液0.30~2.8mL)まで比較的変化しないことが分かる。
【0057】
第2の実験室で
上記のように調製され、そしてTEFLONライナーなし且つ播種なしのステンレス製反応器で処理されたベースライン触媒前駆体の部分を、か焼前の前駆体1g当りHの30%w/w水溶液0.35から1.42mLまでで処理した。前駆体を処理することで、即座に、制御され且つ観察可能な反応が起こった(泡立ち及び約60℃を超えない穏やかな熱)。
ベースライン触媒及び本発明に従って処理された第2の実験室からの触媒の一連のPIXE特性が得られた。
典型的なベースライン未処理触媒は、以下に示すPIXE特性を有していた:
(Mo1.000.37-0.39Te0.03-0.08Nb0.14-0.15Fe0.003-0.006)O7.89-9.07
ライナーなしの水熱反応器中で処理されたベースライン触媒では、少量の鉄及びクロムが検出された。鉄は、Mo1モル当たり最小値0.0026から最大値0.0416モルの範囲であった。クロムは、Mo1モル当たり0.000から0.0065モルの範囲である。
【0058】
か焼の前に本発明に従って処理された触媒の場合、PIXIE分析は(Mo1.000.28-0.29Te0.13Nb0.15-0.16Fe0.008)O8.17であった。
上記の基本構造の触媒中の鉄及びクロムの各量は、触媒の酸化的脱水素化特性に寄与しないと考えられる。
【0059】
第2の実験室で調製された、420℃未満の25%転化率の温度及び95%超のエチレンへの選択率を有する触媒の過酸化水素処理。
サンプル1A
触媒前駆体を、上記のように調製し、TEFLONライナーを付けず且つ240℃未満の25%転化率の温度及び95%超のエチレンへの選択率を有する触媒が播種されていないステンレス鋼水熱反応器中で、過酸化水素を用いて処理した。
粗紫色触媒前駆体5.4672gを、過酸化水素処理に使用した。触媒前駆体を、攪拌棒を備えた400mLのビーカーに添加し、蒸留水20mLを添加して黒ずんだスラリーを得た。スラリーを攪拌により混合し、H4mL(HOに30%w/w;1.41gODH:1mLH2O2の比)を全て一気に添加すると、激しい泡立ち及び熱を生じた。反応物は自己発熱し、泡立ち、暗紫色のスラリーから黒色のスラリーに変化した。反応物を攪拌し、終了まで5分間反応させた。固体をろ過し、水約100mLですすぎ、90℃のオーブンで一晩乾燥させて、か焼工程用の灰色の前駆体4.4296gを生成した。サンプルを上記のようにか焼した。
【0060】
サンプル1C
粗紫色触媒前駆体5.5679gを、終了まで2時間反応させた以外は、例1Aと同じ方法で処理した。わずかな泡立ちが、2時間の反応時間後でも、反応によって生じていることが観察された。固体をろ過し(濾液の色は黄色であった。)、水約100mLですすぎ、90℃のオーブン中で一晩乾燥させて、か焼工程用の鮮紫色の前駆体4.6231gを得た。得られたサンプルを上記のようにか焼した。
【0061】
サンプル1B
上記のようにガラス製フラスコにて調製された前駆体のサンプルは、処理せず、上記のようにか焼した。
次に、サンプルをエチレンの酸化的脱水素化にて使用した。
酸化的脱水素化試験の結果を以下の表に示す。
【表3】

420℃未満の25%転化率の温度及び95%超のエチレンへの選択率を有する触媒の前駆体を、触媒前駆体1.4g当り30%H1mLで処理した場合、その触媒は悪影響を受けない。
【0062】
次に、サンプルを,Rigaku Ultima X-Ray Diffractometer;285mm半径シータ/シータゴニオメーター;D/teX-ULTRA High Speed Detector;及びASC-48Automatic Sampleチェンジャーを使用してXRD分析に供した。使用されたソフトウェアは、Data Acquisition Rigaku“Standard Measurement”アプリケーション;分析ソフトウェアMDI Jade2010バージョン2.6.6 2014であり、比較データベースは、ICDD PDF-42014(354,264の無機データパターンを有する)であった。
【表4】

この表から、(TeO)0.39(Mo3.521.062Nb)0.42)O14相の含量が増加し、(TeO)0.71(Mo0.730.2Nb)0.07層の含量を減少させることが望ましいことが示唆される。
420℃未満の25%転化率の温度及び95%超のエチレンへの選択率を有する触媒の更なるサンプルを試験した。
【0063】
例2A
粗紫色触媒前駆体7.0552gを、反応が終わるまで20分間反応させたことを除いて、例1Aと同じ方法で処理した。固体をろ過し、水約100mLですすぎ、90℃のオーブンで一晩乾燥させて、か焼工程用の黒色前駆体5.8907gを得た。
例2B
ベースライン触媒は処理しなかった。
酸化的脱水素化試験の結果を以下の表に示す。
【表5】

420℃未満の25%転化率の温度及び95%超のエチレンへの選択率を有する触媒の前駆体を、触媒前駆体1.4g当り30%H1mLで処理した場合、その触媒は悪影響を受けない。
【0064】
次に、サンプルを上記のようにXRD分析に供した。
【表6】

で処理すると、構造(TeO)0.39(Mo3.521.062Nb)0.42)O14を有する相の相対的な割合が増加し、触媒の性能が向上する。
【0065】
420℃未満の25%転化率の温度及び95%超のエチレンへの選択率を有しない触媒を、Hで処理する例。
ベースライン
3B
で処理することなくか焼された触媒前駆体のサンプルを、酸化的脱水素化反応器中で試験した。これは、25%転化率に対する推定温度が504℃である上記触媒であった。
3A
未処理サンプル用の粗紫色触媒前駆体5.9354gを、過酸化水素で処理した。触媒前駆体を、撹拌棒を備えた250mLの丸底フラスコに添加し、蒸留水20mLを添加して、黒ずんだスラリーを得た。スラリーを撹拌して混合し、H8.5mL(HOに30%w/w;0.705gODH:1mLH2O2の比)を全て一気に添加し、激しい泡立ち及び熱を生じた。反応物は自己発熱し、泡立ち、暗紫色のスラリーから黒色のスラリーに変化した。終了まで2時間、反応物を攪拌した。暗紫色の固体をろ過し、水約100mLですすぎ、90℃のオーブンで一晩乾燥させて、か焼工程用の灰色の固体3.7494gを得た。
【0066】
3C
1.75mL(HOに30%w/w;2.82gODH:1mLH2O2の比)を全て一気に添加したことを除いて、粗紫色触媒前駆体4.9755gを上記3Aのように処理した。泡立ち及び熱がより少なかった。反応物のスラリーは暗紫色のままであった。終了まで2時間、反応物を攪拌した。暗紫色の固体をろ過し、水約100mLですすぎ、90℃のオーブンで一晩乾燥させて、か焼工程用の灰色の固体3.8326gを得た。
次に、サンプルを、酸化的脱水素化反応器中で試験した。結果を以下の表に示す。
【表7】

420℃超の25%転化率の温度及び95%未満のエチレンへの選択率を有する触媒の前駆体を、触媒前駆体0.7~2.8g当り30%H1mLで処理した場合、触媒は有意に改善される。
【0067】
次に、サンプルを上記のようにXRD分析に供した。
【表8】

データから、相(TeO)0.39(Mo3.521.062Nb)0.42)O14の含量が増加すると、触媒の活性及び選択率が有意に増加することが示唆される。
【0068】
例4
による母液の処理・ろ過なし
前駆体のサンプルを、上記のように調製した。一部をベースライン基準として使用した(Hでの処理なし)。次に、水熱処理からの粗紫色触媒前駆体4.96g及び水性母液(約500mL)を、攪拌棒を備えた250mLの丸底フラスコに添加して、黒ずんだスラリーを得た。その黒ずんだスラリーを、窒素雰囲気下に保持した。スラリーを攪拌して混合し、H3.6mL(HOに30%w/w;1.39gODH:1mLH2O2の比)を全て一度に添加したが、激しい泡立ち及び熱は見られなかった。反応物は暗紫色のスラリーから黒色のスラリーに変化した。終了まで3時間、反応物を撹拌した。暗紫色の固体をろ過し、水約200mLですすぎ、90℃のオーブンで一晩乾燥させて、か焼工程用の灰色の固体3.3720gを得た。
【0069】
酸化的脱水素化反応器における活性について触媒を試験した。結果を以下の表に示す。
【表9】

前駆体を、反応器からの分離前、乾燥前の前駆体1.4g当り1mLH2O2(30重量%)を用いて処理した場合、か焼された脱水素化触媒の活性が改善される。
【0070】
例5
サンプル100g
複数の触媒サンプル(約40,40及び20g)を、5Lの丸底フラスコに入れ、蒸留水400mLを添加して、紫色のスラリーを得た。100mLの滴下漏斗を、フラスコに取り付け、H39mL(30%wt/wt;約2.82gODH/1mLH2O2)を、攪拌されているスラリーに16分間かけてゆっくりと滴下して添加した。スラリーは、暗紫色から黒色に変化した。固体をろ過し、脱イオン水ですすぎ、90℃のオーブンで一晩乾燥させた。次に、固体を、乳鉢と乳棒で粉砕し、250ミクロンの気孔率のふるいでふるい、か焼用の緩くてふわふわした粉末101.7gを回収した。
全ての粉末を、上部の空間をガスが流れることができるボートとして機能する石英管に装填した。石英管ボートを、より大きな石英管の内側に置き、か焼用ユニットに入れた。か焼ユニットは、か焼のために十分に嫌気的な環境を確保するために、バルクの精製窒素下で完全にパージされた。精製窒素は、サンプル上を1分当り150標準立方センチメートルで流れた。サンプルを、室温から600℃に4時間で加熱し、600℃で4時間保持し、室温に4時間で冷却した。
【0071】
得られた触媒100gのうち約2gの少量のサンプルを、上記のように酸化的脱水素化反応器でふるい分けした。それは、376.5℃で25%転化率及びこの転化率で97%のエチレンへの選択率を示した。
【0072】
産業上の利用可能性
本発明は、改善された活性を有するアルケン製造のための酸化的脱水素化触媒を提供する。
本発明に包含され得る諸態様は、以下のように要約される。
[態様1]
実験式(PIXEによって測定):
Mo 1.00 0.22-0.33 Te 0.10-0.16 Nb 0.15-0.19
(式中、dは酸化物の価数を満たす数である。)で表される酸化的脱水素化触媒のコンシステンシーを改善する方法であって、
前記方法が、か焼前に前駆体を、触媒前駆体1グラム当たりH の30%溶液0.30から2.8mLに等価な量のH で処理することを含む、方法。
[態様2]
前記前駆体が:
i)七モリブデン酸アンモニウム(四水和物)とテルル酸との水溶液を温度30℃から85℃にて形成し、窒素含有塩基を用いて前記溶液のpHを6.5~8.5に調整して、可溶性金属塩を形成する工程;
ii)硫酸バナジルの水溶液を室温から80℃の温度にて調製する工程;
iii)工程i)及びii)からの各前記溶液を一緒に混合する工程;
iv)シュウ酸一酸化ニオブ(NbO(C H) )の溶液を、工程iii)の前記溶液にゆっくり添加して、スラリーを形成する工程;及び
v)得られたスラリーをオートクレーブ中、不活性雰囲気下、温度150℃から190℃で10時間以上、加熱する工程;
を含む方法によって調製される、上記態様1に記載の方法。
[態様3]
工程v)で得られた固体が、ろ過され、脱イオン水で洗浄され、前記洗浄された固体が4から10時間、温度70から100℃で乾燥される、上記態様2に記載の方法。
[態様4]
不活性雰囲気中で温度200℃から600℃にて1から20時間、前記触媒をか焼することを更に含む、上記態様3に記載の方法。
[態様5]
前記前駆体が、触媒前駆体1g当たりH の30%w/w水溶液0.3から2.8mLの等価量で、5分から10時間、温度20から80℃で処理される、上記態様4に記載の方法。
[態様6]
前記か焼された触媒におけるMo:Vのモル比が、1:0.22から1:0.29である、上記態様5に記載の方法。
[態様7]
前記か焼された触媒におけるMo:Teのモル比が、1:0.11超であり、かつ1:0.15未満である、上記態様6に記載の方法。
[態様8]
前記か焼された触媒が、嵩密度1.20から1.53g/ccを有する、上記態様7に記載の方法。
[態様9]
前記触媒の結晶相における、式(TeO) 0.39 (Mo 3.52 1.06 Nb 0.42 )O 14 を有する相の量が、XRDによる測定により、前記測定結晶相の75重量%超である、上記態様8に記載の方法。
[態様10]
前記触媒の結晶相における、式(TeO) 0.39 (Mo 3.52 1.06 Nb 0.42 )O 14 を有する相の量が、XRDによる測定により、前記測定結晶相の85重量%超である、上記態様9に記載の方法。
[態様11]
体積比70:30から95:5、温度400℃未満、ガス時空間速度500hr -1 以上、及び圧力0.8から1.2気圧のエタンと酸素との混合フィードの酸化的脱水素化の方法であって、前記方法が、前記混合物を上記態様10に記載の前記か焼された触媒上を通過させることを含む、方法。
[態様12]
エチレンへの選択率が、90%以上である、上記態様11に記載の方法。
[態様13]
前記ガス時空間速度が、3000hr -1 以上である、上記態様12に記載の方法。
[態様14]
前記温度が、400℃未満である、上記態様13に記載の方法。
[態様15]
前記か焼された生成物が前記反応器内に固定床を形成する、上記態様14に記載の方法。
[態様16]
実験式(PIXEによって測定):
Mo 1.00 0.22-0.33 Te 0.10-0.16 Nb 0.15-0.18
(式中、dは、酸化物の価数を満たす数である。)を有し、且つ、XRDによる測定により、結晶成分の75重量%以上が、式(TeO) 0.39 (Mo 3.52 1.06 Nb 0.42 )O 14 を有する、触媒。
[態様17]
XRDによる測定により、式(TeO) 0.71 (Mo 0.73 0.2 Nb 0.07 を有する前記触媒の前記結晶相が、2.4から12重量%である、上記態様16に記載の触媒。
[態様18]
上記態様16に記載の前記触媒を用いて播種された反応器の表面。
[態様19]
ステンレス鋼、シリカ、アルミナコーティング及びポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される、上記態様18に記載の表面。
[態様20]
上記態様16に記載の触媒を用いて播種されたステンレス鋼、シリカ、アルミナ及びポリテトラフルオロエチレンの粒子を含有する反応器。
[態様21]
上記態様16に記載の触媒を用いて播種された完全フッ素化エチレンプロピレンポリマーコーティング。
[態様22]
420℃以下でエチレンへの25%転化率及び90%以上のエチレンへの選択率を有するシード触媒の存在下で調製される、PIXEによって測定される実験式:
Mo 1.00 0.34-0.39 Te 0.09-0.14 Nb 0.14-0.16
(式中、dは、酸化物の価数を満たす数である。)を有する触媒。
図1
図2
図3