(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】種なし果実を実らせる植物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/29 20060101AFI20220128BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20220128BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20220128BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20220128BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20220128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220128BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220128BHJP
A01H 1/06 20060101ALN20220128BHJP
C12N 15/10 20060101ALN20220128BHJP
C07K 14/415 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12N15/29 ZNA
A01H1/00 A
A01H5/00 A
A01H5/00 Z
A01H5/10
C12N5/04
C12N5/10
C12N15/09 100
C12N15/09 110
A01H1/06
C12N15/10 200Z
C07K14/415
(21)【出願番号】P 2018561684
(86)(22)【出願日】2017-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2017062093
(87)【国際公開番号】W WO2017202715
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-05-19
(32)【優先日】2016-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517030099
【氏名又は名称】ヌンヘムス、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】NUNHEMS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100104617
【氏名又は名称】池田 伸美
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト、シリッゾッティ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード、ベルナルド、ベレンツェン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリック、ビレム、フリーゼン
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/074144(WO,A1)
【文献】Yoshitaka Azumi et al.,Homolog interaction during meiotic prophase I in Arabidopsis requires the SOLO DANCERS gene encoding a novel cyclin-like protein,The EMBO Journal,2002年,Vol.21, No.12,p.3081-3095
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異アレルを含み、対応する野生型アレルと比較して、前記変異アレルが1つ以上の制御配列中の変異を含むことで、転写産物の少なくとも70%の減少を伴う遺伝子発現の減少または遺伝子が発現しないことをもたらすか、あるいは前記野生型アレルによりコードされるタンパク質と比較して、前記変異アレルが1以上のアミノ酸の欠失、短縮化、挿入または置換を含むタンパク質をコードすることで、サイクリンSDS様タンパク質の機能低下または機能喪失をもたらし、かつ、前記変異アレルがホモ接合体である場合
、植物細胞を含むスイカ植物が受粉時に種無し果実を産生するスイカ植物細胞であって、
前記野生型アレルの前記サイクリンSDS様タンパク質が:
a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
b)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する配列のタンパク質をコードする核酸分子;
c)配列番号1により示されるヌクレオチド配列またはその相補配列を含む核酸分子;
d)c)に記載の核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する核酸分子;
e)遺伝暗号の縮退により、a)またはb)で同定された核酸分子の配列から逸脱するヌクレオチド配列を有する核酸分子
からなる群から選択される核酸分子によりコードされることを特徴とする、スイカ植物細胞。
【請求項2】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルが、タンパク質をコードし、ここで、前記タンパク質の
保存サイクリン_Cドメインおよび/またはサイクリン_Nドメインにおいて1以上のアミノ酸が置換、挿入もしくは欠失されるか、あるいは
保存サイクリン_Cドメインおよび/またはサイクリン_Nドメインの全部または一部が存在しない、請求項1に記載のスイカ植物細胞。
【請求項3】
請求項1または2に記載の
スイカ植物細胞を含んでなる、スイカ植物。
【請求項4】
請求項3に記載のスイカ植物が生育することができる、種子。
【請求項5】
スイカ植物を選択する方法であって、以下の工程:
a)サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子をコードするアレル中に変異を有するスイカ植物を同定する工程であって、前記遺伝子の野生型アレルが、配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を含むサイクリンSDS様タンパク質をコードするものである、工
程を含んでなり、
前記工程a)の変異アレルが、1以上の制御配列中に変異を含むことで、転写産物の少なくとも70%の減少を伴う遺伝子発現の減少または遺伝子が発現しないことをもたらすか、あるいは前記野生型アレルによりコードされるタンパク質と比較して、前記変異アレルが1以上のアミノ酸の欠失、短縮化、挿入または置換を含むタンパク質をコードすることで、サイクリンSDS様タンパク質の機能低下または機能喪失をもたらし、前記変異アレルがホモ接合体である場合、受粉時に種無し果実を産生する、方法。
【請求項6】
b)前記植物が雄性稔性であるかどうか、前記植物または自家受精により産生された子孫植物が種なし果実を実らせるかどうかを決定する工程、および/または
c)工程a)の変異体アレルの少なくとも1つの複製物を含む植物を選択する工程を更に含んで得なる、請求項5に記載のスイカ植物を選択する方法。
【請求項7】
スイカ植物を生産する方法であって、以下の工程:
a)植物集団に変異を誘導する工程、
b)種なし果実を産生する雄性稔性植物を選択する工程;
および
c)b)で選択された植物がサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子をコードするアレル中に変異を有するかどうかを検証し、このような変異を含む植物を選択する工
程
を含んでなり、
前記遺伝子の野生型アレルが、配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を含むサイクリンSDS様タンパク質をコードするものである、方法。
【請求項8】
d)c)で得られる植物を生育/栽培する工程を更に含んで得なる、請求項7に記載のスイカ植物を生産する方法。
【請求項9】
スイカ植物を生産する方法であって、以下の工程:
a)外来性核酸分子をスイカ植物に導入する工程であって、前記外来性核酸分子は:
i)配列番号2と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の発現低下に影響を及ぼす少なくとも1つのアンチセンスRNAをコードするDNA分子;
ii)同時抑制効果によって、配列番号2と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の発現低下をもたらすDNA分子;
iii)配列番号2と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の特異的転写
物を
切断する少なくとも1つのリボザイムをコードするDNA分子;
iv)少なくとも1つのアンチセンスRNAおよび少なくとも1つのセンスRNAを同時にコードするDNA分子であって、前記アンチセンスRNAおよび前記センスRNAが、配列番号2と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の発現低下に影響を及ぼす(RNAi技術)二重鎖RNA分子を形成する、DNA分子;
v)配列番号2と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子中の変異または異種配列の挿入をもたらすインビボ変異誘発によって誘導された核酸分子であって、該変異または挿入がサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の発現低下に影響を及ぼすかもしくは不活性サイクリンSDS様タンパク質の合成をもたらす、核酸分子;
vi)抗体をコードする核酸分子であって、前記抗体が内在性サイクリンSDS様タンパク質と結合するために、前記抗体が、配列番号2と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の活性低下をもたらす、核酸分子;
vii)トランスポゾンを含むDNA分子であって、これらのトランスポゾンの組込みが、配列番号2と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子における変異または挿入をもたらすか、サイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の発現低下に影響を及ぼすか、もしくは不活性サイクリンSDS様タンパク質の合成をもたらす、DNA分子;
viii)配列番号2と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子における挿入により、サイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の発現低下に影響を及ぼすか、もしくは不活性サイクリンSDS様タンパク質の合成をもたらす、T-DNA分子;
ix)レア切断エンドヌクレアーゼもしくはカスタムテーラードレア切断エンドヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、TALENもしくはCRISPR/Casシステムをコードする核酸分子
からなる群から選択される、工程;
および
b)雄性稔性植物を選択する工程であって、前記植物または自家受精により産生された前記植物の子孫が種なし果実を実らせるものである、工程
;
を含んでなる、方法。
【請求項10】
c)b)で選択された植物が、そのゲノム中に外来性核酸分子が組み込まれない野生型植物と比較して、サイクリンSDS様タンパク質が活性低下するか否かを検証する工程;
および/または
d)c)で得られる植物を生育/栽培する工程を更に含んで得なる、請求項9に記載のスイカ植物を生産する方法。
【請求項11】
請求項5~
10のいずれか一項に記載の方法により得られる、スイカ植物。
【請求項12】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子をコードするアレル中に変異を有する細胞を含んでなり、または、請求項
9に記載の外来性核酸分子を含む細胞を含んでなる、請求項1もしくは2に記載の
スイカ植物細胞を含むスイカ植物のさし穂もしくは栄養繁殖
体、または請求項
11に記載の
スイカ植物のさし穂もしくは栄養繁殖
体。
【請求項13】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子をコードするアレル中に変異を有する細胞を含んでなり、または請求項
9に記載の外来性核酸分子を含む細胞を含んでなる、請求項1または2に記載の
スイカ植物細胞を含む繁殖器官(propagation material)、または請求項3または
11に記載のスイカ植物から得られる繁殖器官。
【請求項14】
請求項1または2に記載のスイカ植物細胞を含んでなる、果実、あるいは請求項3または
11に記載の
スイカ植物から得ることができる、果実、あるいは請求項
13に記載の繁殖器官から得ることができる、果実。
【請求項15】
前記植物または種子が、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である、請求項3に記載のスイカ植物または請求項4に記載の種子。
【請求項16】
請求項
15に記載のスイカ植物を生育させる工程、前記
スイカ植物の受粉を可能とする工程、および種なし果実を収穫する工程を含んでなる、種なし
スイカ果実を生産する方法。
【請求項17】
前記繁殖器官が栄養繁殖した植物である、請求項
13に記載の繁殖器官。
【請求項18】
前記植物または種子が、二倍体、三倍体もしくは四倍体スイカ植物である、請求項3に記載のスイカ植物または請求項4に記載の種子。
【請求項19】
変異アレルがタンパク質をコードし、対応する野生型サイクリンSDS様タンパク質と比較して、少なくとも25個のアミノ酸がアミノ酸配列のN末端またはC末端から欠損している、請求項1に記載のスイカ植物細胞。
【請求項20】
サイクリンSDS用タンパク質をコードする遺伝子
の変異アレルを含み、前記変異アレルが、配列番号2の野生型タンパク質の358~562のアミノ酸を欠く
か、配列番号2の野生型タンパク質の224~562のアミノ酸を欠く短縮化されたタンパク質をコードする、請求項1に記載のスイカ植物細胞。
【請求項21】
前記変異アレルが、配列番号4または配列番号18のタンパク質をコードする、請求項1に記載のスイカ植物細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種なし果実を実らせる植物を対象とする。本発明は、前記植物の生産方法および種なし果実の産生のためのサイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸の使用も含む。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの市販の種なし果実は、その果実が通常果実の果肉全体にわたって分布する多数の比較的大きな硬い種を含む植物から開発されてきた。種なし果実は、例えば、スイカ、トマト、キュウリ、ナス、ブドウ、バナナ、オレンジ、レモンおよびライムなどの柑橘類果実について知られている。種なし果実の消費は概してより簡単で、より便利であるので、これらは有益だと考えられている。
【0003】
通常、花の胚珠区画内の1つ以上の卵細胞が花粉からの精核で受精する場合に、果実発育は始まる。
【0004】
種なし果実は、2つの異なる現象に起因し得る。ある場合には、花粉による胚珠の受精なしで果実が発育する、単為結果として知られている現象である。他の場合には、種子(胚および/または内乳)成長が阻害または該種子が早期に死ぬ場合に受粉後種なし果実が生じるが、果実の残部は成長し続ける(偽単為結果)。単為結果と対照的に、偽単為結果は、果実成長の開始のために受粉を必要とする。
【0005】
種なしオレンジ果実は、単為結果の一例である。いくつかのオレンジ変種(例えば、ネーブル)は成長可能な花粉を産生しない。しかしながら、これらは、他の変種からの花粉と、他家受粉させることができる。果樹園において雄性不稔性変種が生育される場合のみ、受粉はなく、単為結果種なし果実が実る。それぞれのオレンジの木の繁殖は、さし木、次いで、別の台木に接木することにより共通して行われる。
【0006】
種なしバナナは三倍体である。場合によっては、受粉は正常であり得るが、果実の大多数は種なしである。これは、減数分裂中の染色体の不適当な分裂をもたらす染色体の奇数組(3×)および成長できない花粉の産生への結果として説明される。受精なしで、三倍体バナナは、種なし果実を着果および発育することもできる。受粉が起こる場合でさえ、300個の果実のうちせいぜい1個は数個の種子を含んでなる。これは、説明される理由として、成長できない三倍体花粉によるものであり得る。したがって、バナナ植物は、概して、単為結果性であると分かる。バナナ植物は、通常、主茎の底部においてサイドシュートまたは地下ほふく枝から無性生殖的に繁殖するが、このサイドシュートまたは地下ほふく枝を、栽培品種を継続するために切り離して植え直すことができる。栽培者は、組織培養によっても、特に無病の材料を生産するためにバナナを繁殖させる。
【0007】
種なしキュウリ、種なしカボチャおよび種なしナスは、例えば、受粉が損なわれる条件下(例えば、低温)、受粉なしで種なし果実を実らせることができる作物(単為結果)の例である。それにもかかわらず、市販品質の果実は、これらの条件下生産することができる。しかしながら、全てのこれらの作物は、受粉時に果実をつける種子を産生することができる。したがって、これらの作物は、条件的単為結果である。作物の繁殖は、自家受粉または他家受粉、インビトロ繁殖、および接ぎ木により行うことができる。
【0008】
トマト変異体から、正常な受粉/受精が損なわれる条件下(例えば、低温環境下)での条件において種なし果実を実らせることができる。したがって、これらの変異体も、条件的単為結果である。この表現型を示すことが知られている変異体は、pat、pat-2およびpat-3/pat-4系である。これらの変異体の根底にある遺伝子は公知ではなく、pat-3/pat-4系は、複数の座位に依存すると思われる。
【0009】
単為結果は、遺伝子組み換えによっても、いくつかの植物種に導入されてきた。胚珠および胎座特異的DefH9プロモーターの制御の下でオーキシン合成を与える細菌性トリプトファンモノオキシゲナーゼ(iaaM)の発現は、キュウリ(Yin et al., 2006, Clular & molecular Biotech. Letters 11, 279-290)、ナス(Acciarri et al., 2002, BMC Biotech. 2(4))、トマト(Rotino et al., 2005, BMC Biotech. 5(32))およびタバコにおける単為結果を誘発した。
【0010】
これらのトランスジェニック植物は、種子および果実の発育における植物ホルモンの重要性を示している。種子および果実の発育が他の因子に加えていくつかの植物ホルモンの強力な支配下にあることは、当技術分野において周知である。果実の種なしの論理的帰結を含む単為結果は、例えば、植物ホルモン、特に、オーキシンまたはジベレリンの外因性適用によっても誘発され得る(Ruan et al., Trends in Plant Sci. 17(11), 1360-1385)。
【0011】
育種家により生産された種なしスイカは、偽単為結果作物の例である。通常のスイカ植物は二倍体(2n)である。スイカを実らせる種なし果実は、雄性二倍体(2n)スイカ植物を、雌性四倍体(4n)スイカ植物と交雑させることにより生産された雑種である。得られたF1雑種の種子は三倍体(3n)である。F1雑種植物における果実の着果誘発は受粉を必要とする。三倍体(3n)F1雑種植物が繁殖性花粉を産生しないので、いわゆる、授粉媒介者または送粉者となる植物が同じ畑に栽培されていなければならない。花粉媒介植物は二倍体(2n)である。概して、約1~3の雑種植物に対する花粉媒介植物の比は、全てのF1雑種植物を花粉媒介するのに充分な花粉を提供するための所与の計画において栽培されなければならない。二倍体(2n)花粉媒介植物および雌性三倍体(3n)雑種植物間の他家受粉は着果を誘発し、三倍体雑種植物に種なし三倍体果実を実らせる。F1雑種の二倍体(2n)および四倍体(4n)親は各々種あり果実を実らせ、双方は自家受粉により互いに独立して繁殖することができる。
【0012】
種なしブドウは、単為結果または偽単為結果のいずれかである植物から生産することができる。変種ブラックコリンス(Black Corinth)は単為結果であり、スルタニーナ(Sultanina)は偽単為結果である。概して、つる植物は、さし木および引き続き別の台木に接木することにより繁殖させる。
【0013】
減数分裂の不規則性は、種なし果実を実らせる植物をもたらす因子であり得る。種なし果実を実らせる植物の例は、Zhangら(2012, Scientia Horticulture 140, 107-114)に与えられ、種なしスイカを開示している。雄性および雌性不稔性(MFS)変異体は、その種子をガンマ線で照射後にF1雑種の子孫から得られた。MFS変異体の花粉は全く生存できなかった。種なし果実は、雄性稔性植物の花粉で受粉した場合に、MFS植物により生産される。したがって、MFSスイカは、偽単為結果であると分類することができる。MFS変異体を異なる雄性稔性植物の花粉で他家受粉すると大部分種をつけなかったので、胚珠もほとんど完全に生存できなかった。減数分裂中の不完全な対合および染色分体の異常分離がMFS変異体において観察され、雄性および雌性不稔性の原因であると思われた。MFS変異体に存在する影響の原因となる遺伝子は同定されなかったが、おそらく、MFS変異体における表現型が単一劣性遺伝子によるものであると思われる。
【0014】
Pradilloら(2014, Frontiers in Plant Sci. 5, Article 23, do: 10.3389/fpls.2014.00023)は、アラビドプシス(Arabidospsis)の減数分裂中の相同組換えに関係する遺伝子についての当技術分野における知見について概説している。
【0015】
Azumiら(2002, EMBO J. 21(12), 3081-3095)は、対合における欠損および雄性減数分裂における二価染色体形成、ならびにそれほどではないが雌性減数分裂における同様な欠損を有するアラビドプシス(Arabidopsis)変異体の単離について記載している。該変異体は「ソロダンサー(Solo Dancers)」(sds)と命名され、単一劣性遺伝子由来であると分かった。SDS変異体は雄性不稔性であり、雌性稔性は強力に損なわれる。sds変異に対してホモ接合の植物は雄性不稔性であるが、少なくとも僅かに雌性稔性であり、これは、sds変異体植物を雄性稔性植物の花粉で他家受粉することにより示された。したがって、SDS変異体は雄性不稔性であり、雌性稔性は強力に損なわれる。sds遺伝子は、サイクリン型タンパク質をコードする遺伝子に属することが同定され、アラビドプシスCDK、Cdc2aおよびCcdc2bタンパク質と相互作用することが示された。しかしながら、SDSは、新規なそれ以前には知られていないサイクリン型タンパク質であると同定された。De Muytら(2009, PLOS genet. 5(9) e1000654, doi: 10.1371/journal.pgen.1000654)は、sdsアラビドプシス変異体は減数分裂における組み換え欠損を有することを確認し、この欠損が減数分裂中の細胞内の別のタンパク質(AtDMC1)の不適正配分に起因することを示唆している。
【0016】
上記考察から、植物が種なし果実を実らせるかどうかを決める因子は実際は複数あり、いくつかの、例えば、形態的、生理的および/または遺伝的原因に存在し得ることは明白である。
【0017】
偽単為結果作物において種なし果実を実らせるために、植物の雌性花部は受粉されなければならない。今日生育する偽単為結果作物は雄性不稔性である。結果として、雌性植物に加えて、異なる雄性稔性植物(花粉媒介植物または送粉植物)は同じ畑において追加で生育されなければならない。花粉媒介植物のために使用される面積は種なし果実を実らせる雌性植物に利用できる面積を犠牲にするので、耕作された面積当たりの収穫量は減少する。概して、花粉媒介植物は、自家受粉することができる正常な植物である。しかしながら、花粉媒介植物により実った果実は種子をつける。スイカでは、花粉媒介植物は通常二倍体(2n)であり、これは、自家受粉で種あり果実を産生し、場合によっては、収穫をして、別々に販売してもよい(国際公開第2012/069539号参照)。商業的理由のため、花粉媒介植物のこれらの種あり果実は種なし果実と混合することができない。したがって、種なし果実および種あり果実は収穫前または収穫後に分離されるが、これは機械収穫を困難または不可能にするか、または収穫後のさらなる処理を必要とする場合がある。講じられるべきこれらの追加予防策は、種なし果実生産における投入原価を増大させる。加えて、雌植物花およびその柱頭が着果の誘発のために花粉を受けることができると同時に、花粉媒介植物は花が咲き充分な生存可能な花粉を産生するように、花粉媒介植物は生育される。したがって、花粉媒介植物は、開花および受精タイミングに関して種なし果実を実らせる雌植物と合致しなければならない。花粉媒介植物およびそれぞれの雌植物の開花タイミングが充分に同調しない場合、受粉は起こらないか、または不純分な量でしか起こらないだろう。結果として、ほとんどの果実は、偽単為結果雌植物により実らない。さらに、雨、熱、その他などの気象条件が遺伝型の異なる雌植物の柱頭稔性タイミングと異なって授粉媒介植物の花粉産生に影響を与え得ることは当技術分野において周知である。したがって、気象条件も、花粉媒介植物および雌植物の稔性タイミングの非同調性をもたらして収穫量を減らすように影響し得る。
【0018】
それぞれの不都合は、本明細書中、下記の本発明の植物には該当しない。
【発明の概要】
【0019】
したがって、現在栽培されている種なし果実産生植物の不都合を克服することが本発明の目的である。
【0020】
変異誘発M2二倍体スイカ植物の集団において、種なし果実を実らせる植物が観察された。変異体植物をEMB1と命名した。驚くべきことに、前記植物に花粉は、戻し交雑するために使用することができた。したがって、当技術分野において公知の種なし果実産生植物と対照的に、本明細書で開示される植物は雄性稔性である。戻し交雑は自家受粉であり、それから得られた植物の25%は種なし果実を実らせた。種なし果実表現型の原因となった変異体アレル(emb1)を同定した、すなわち、emb1(emb1/emb1)に対してホモ接合された二倍体植物が自家受粉または別の植物の花粉により受粉された場合、これらは種なし二倍体果実を産生した。したがって、種なし果実表現型は、emb1アレルにおいて劣性変異に対してホモ接合である植物において起こる。本発明の変異体emb1アレルに対応する野生型アレルによりコードされる野生型タンパク質はいくつかの類似性を有するが、サイクリンSDSタンパク質によって有意な違いを有するので、したがって、「サイクリンSDS様タンパク質」と命名した。サイクリンSDSタンパク質および当技術分野において公知のそのコード核酸配列ならびに本明細書に開示されるサイクリンSDS様タンパク質のそれぞれの配列間の配列同一性は低い。植物の表現効果を考慮して、サイクリンSDSタンパク質中の変異を有する当技術分野において公知の植物は雄性不稔性表現型を有するが、サイクリンSDS様タンパク質中の変異を有する本明細書に開示される植物は雄性稔性である。
【発明の具体的説明】
【0021】
本発明の第一実施態様は、植物細胞または植物が機能的野生型サイクリンSDS様タンパク質を含んでなる植物細胞または植物と比較して、サイクリンSDS様タンパク質の低下した活性を有することを特徴とする、植物細胞、植物部分および植物に関する。
【0022】
本発明との関連で、「サイクリンSDS様タンパク質」は、植物においてその活性が低下またはその発現が全体的にノックアウトされる場合に、植物により産生された雄性稔性花粉をもたらす(例えば、サイクリンSDS様タンパク質をコードする変異体ヌクレオチド配列に対してホモ接合された植物において)が、同時に、自家受粉の場合に前記植物の種なし果実の産生をもたらすタンパク質を意味すると理解されるべきである。
【0023】
本発明との関連で、タンパク質の「低下した活性」は、対応する野生型植物細胞または対応する野生型植物と比較した場合に、サイクリンSDS様タンパク質の活性低下を意味する。1つの態様では、低下は、遺伝子発現の全体ノックアウト、または機能喪失もしくは機能低下の成果を含み、サイクリンSDS様タンパク質、例えば、短縮化されたSDS様タンパク質は機能喪失または機能低下し得る。活性低下は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の発現減少(ノックダウンとも呼ぶ)、またはサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の発現のノックアウトおよび/または細胞内のサイクリンSDS様タンパク質の量の減少または細胞内のサイクリンSDS様タンパク質の酵素活性における機能低下もしくは機能喪失であり得る。
【0024】
「ノックアウト」または「全体ノックアウト」は、それぞれの遺伝子の発現がこれ以上検出できないと理解されるべきである。
【0025】
「機能喪失(酵素活性における)」は、本発明との関連で、対応する野生型タンパク質と同じまたは類似の量で存在するが、タンパク質はこれ以上その影響を惹起しない、すなわち、変異体アレルが二倍体植物においてホモ接合体で存在する場合、植物は雄性稔性であるが、受粉時種なし果実のみを産生することを意味する。用語「非機能的」および「失活」は、「機能喪失」と同じ意味を有する。全ての3つの用語は本明細書において互換的に使用される。したがって、非機能的タンパク質をコードするサイクリンSDS様遺伝子と言う場合、該遺伝子は発現され得るが、コードされたタンパク質は、例えば、短縮化されているタンパク質または野生SDS様タンパク質と比較して1つ以上のアミノ酸置換、挿入もしくは欠失を含んでなるタンパク質によるもので機能的でない。
【0026】
「機能低下(酵素活性における)」または「低下した機能」は、本発明との関連で、対応する野生型タンパク質と同じまたは類似の量で存在するが、タンパク質はこれ以上その影響を惹起しない、すなわち、二倍体植物においてホモ接合体で存在する場合、植物は雄性稔性であるが、受粉時種なし果実のみを産生することを意味する。
【0027】
「保存ドメイン」は、サイクリン_Nドメイン(pfam00134)およびサイクリン_Cドメイン(pfam02984)などの保存タンパク質ドメインを表す。これらのドメインは、例えば、NCBIの保存ドメインデータベースにおいて見つけることができる(ncbi.nlm.nih.gov/cddにおけるワールドワイドウェブ)。
【0028】
本発明との関連で、「M1世代」または「M1植物」は、変異誘発処理から直接生産された第一世代を表す。変異誘発で処理された種子から生育された植物は、例えば、M1世代の代表である。
【0029】
「M2世代」または「M2植物」は、本明細書において、M1世代の自家受粉から得られた世代を表す。自家受粉されたM1植物から得られた種子から生育された植物は、M2植物である。
【0030】
発現減少は、例えば、ノーザンブロット解析またはRT-PCRなどを用いて、サイクリンSDS様タンパク質をコードするRNA転写産物の量の測定により決定することができる。このとき、減少は、少なくとも50%、特に少なくとも70%、好ましくは少なくとも85%、特に好ましくは少なくとも95%転写産物量の減少を好ましくは意味する。
【0031】
該当する植物細胞または植物におけるこれらのタンパク質の活性低下をもたらすサイクリンSDS様タンパク質の量の減少は、例えば、ウエスタンブロット解析、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)またはRIA(放射性免アッセイ)などの疫学的方法により決定することができる。このとき、減少は、少なくとも50%、特に少なくとも70%、好ましくは少なくとも85%、特に好ましくは少なくとも95%サイクリンSDS様タンパク質の量の減少を好ましくは意味する。
【0032】
指定タンパク質と特異的に反応する、すなわち、前記タンパク質と特異的に結合する抗体の製造方法は、当業者に公知である(例えば、Lottspeich and Zorbas (Eds.), 1998, Bioanalytik, Spektrum akad, Verlag, Heidelberg, Berlin, ISBN 3-8274-0041-4参照)。このような抗体の製造は、いくつかの企業により契約サービスとして提供されている。
【0033】
本発明に関して、本発明による植物のサイクリンSDS様タンパク質の活性低下は、植物表現型により決定することもできる。サイクリンSDS様タンパク質をコードするかまたはサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を有する変異体アレルに対してホモ接合の植物は種なし果実を実らせ、雄性稔性である(生存可能な花粉を産生する)。
【0034】
1つの実施態様では、サイクリンSDS様機能を有するタンパク質の活性低下は、対応する野生型植物細胞または野生型植物と比較して、本発明による植物細胞または植物において減少する。
【0035】
本発明との関連で、用語「野生型植物細胞」または「野生型植物」は、該当する植物細胞または植物を、本発明による植物細胞または植物の生産のための出発材料として使用した、すなわち、導入された(遺伝子)組換え(単数または複数)または変異(単数または複数)は別としてこれらの遺伝子情報は、本発明による植物細胞または植物のものに相当することを意味する。1つの態様では、野生型植物または野生型植物細胞は、完全に機能的なサイクリンSDS様タンパク質を含んでなる植物であり、例えば、スイカ植物または植物細胞に関して言えば、配列番号2のタンパク質を産生し、自家受粉時種あり果実を産生する二倍体スイカ植物である。またはメロン植物もしくは細胞に関して言えば、配列番号6のタンパク質を産生する二倍体メロン植物、またはキュウリ植物もしくは細胞に関して言えば、配列番号12のタンパク質を産生する二倍体キュウリ植物、またはトマト植物もしくは細胞に関して言えば、配列番号19のタンパク質を産生する二倍体トマト植物、またはトウガラシ植物もしくは細胞に関して言えば、配列番号20のタンパク質を産生する二倍体植物である。
【0036】
本発明と関連して、用語「対応する」は、いくつかの対象の比較において、互いに比較される該当する対象は同条件下保持されていることを意味する。本発明と関連して、野生型植物細胞または野生型植物と共に使用される「対応する」は、互いに比較される植物細胞または植物が、同じ栽培条件で栽培されていること、導入された(遺伝子)組換え(単数または複数)または変異(単数または複数)は別としてこれらの遺伝子情報は、本発明による植物細胞または植物のものに相当することを意味する。RNAおよびDNA分子の核酸配列が互いに比較されるかまたは互いに対応すると言われる場合では、DNA分子のチミン(T)はRNA分子のウリジン(U)と等価であることは当技術分野においてよく理解されている。したがって、このような分子が互いに比較される場合、DNA配列におけるTは、RNA配列におけるUにより置き換えられると理解されるべきであり、逆もまた同じである。
【0037】
好ましくは、本発明に従った実施態様では、野生型植物細胞、植物部分または野生型植物のサイクリンSDS様タンパク質は:
a)配列番号2(スイカサイクリンSDS様タンパク質)または配列番号6(メロンサイクリンSDS様タンパク質)または配列番号12(キュウリサイクリンSDS様タンパク質)または配列番号19(ソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopersicum)サイクリンSDS様タンパク質)または配列番号20(カプシクム・アンヌウム(Capsicum annuum)サイクリンSDS様タンパク質)に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
b)配列番号2または配列番号6または配列番号12または配列番号19または配列番号20に示されるアミノ酸配列と少なくとも58%もしくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%、または特に好ましくは少なくとも95%の同一性をその配列が有するタンパク質をコードする核酸分子;
c)配列番号1または配列番号5または配列番号17により示されるヌクレオチド配列またはその相補配列を含んでなる核酸分子;
d)c)に記載されているヌクレオチド配列と少なくとも58%もしくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%、または特に好ましくは少なくとも95%の同一性を有する核酸分子;
e)ストリンジェントな条件下において、a)、b)、c)、またはd)に記載されている核酸分子の少なくとも一つの鎖とハイブリダイズする核酸分子;
f)遺伝暗号の縮退により、a)、b)、c)、またはd)で同定される核酸分子の配列からそのヌクレオチド配列が逸脱する核酸分子;および
g)a)、b)、c)、またはd)で同定される核酸分子のフラグメント、アレル多様体および/または誘導体である核酸分子
からなる群から選択される核酸分子によりコードされる。
【0038】
配列番号1で示されるゲノムヌクレオチド配列、および配列番号1に示されるようなコード配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するシトルルス・ラナツス(Citrullus lanatus)(スイカ)の野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードする。配列番号5は、配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するキューカミス・メロ(Cucumis melo)(メロン)由来の野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードするコード配列を示す。配列番号12は、キューカミス・サチブス(Cucumis sativus)(キュウリ)由来の野生型サイクリンSDS様タンパク質を示す。配列番号19は、ソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopsersicum)(トマト)の野生型サイクリンSDS様タンパク質を示す。配列番号20は、カプシクム・アンヌウム(Capsicum annuum)(トウガラシ)の野生型サイクリンSDS様タンパク質を示す。
【0039】
本発明による植物細胞、植物部分または植物は、いずれもの種由来の植物細胞またはいずれもの種の植物であり得る。本発明による植物細胞は、単子葉および双子葉植物細胞であり、本発明による植物は、単子葉および双子葉植物であり得る。好ましくは、本発明による植物細胞は野菜の植物細胞(野菜植物細胞)または植物は野菜植物、特にトマト、タマネギ、ニラ、ニンニク、ニンジン、トウガラシ、アスパラガス、アーチチョーク、根用セロリ、キュウリ、メロン、ヒョウタン、カボチャ、レタス、スイカ、ホウレンソウ、キャベツ(ブラシカ・オレラセア(Brassica oleracea))、コーンサラダ、ナスビおよびオクラなどの植物である。より好ましいのは、野菜由来の植物細胞(野菜植物細胞)またはククルビタセアエ(Cucurbitaceae)ファミリーまたはソラナセアエ(Solanaceae)ファミリー由来の野菜植物である。本発明による最も好ましい植物細胞および植物は、カボチャ(ククルビタ・ペポ(Cucurbita pepo)、ククルビタ・マクシマ(Cucurbtita maxima)、ククルビタ・モスカータ(Cucurbita moschata)、ラゲナリア・シセラリア(Lagenaria siceraria))、メロン(キューカミス・メロ(Cucumis melo))、キュウリ(キューカミス・サチブス(Cucumis sativus))、スイカ(シトルルス・ラナツス(Citrullus lanatus))、トマト(ソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopersicum)またはトウガラシ(カプシカム・アンニューム(Capsicum annuum))植物細胞または植物、特に好ましいのはスイカ(シトルルス・ラナツス(Citrullus lanatus))もしくはメロン(キューカミス・メロ(Cucumis melo))由来の植物細胞またはスイカ(シトルルス・ラナツス(Citrullus lanatus))もしくはメロン(キューカミス・メロ(Cucumis melo))植物を含んでなる。1つの実施態様では、植物および植物細胞は、良好な農業特性、特に良好な品質および一様性の市場向き生産物(例えば、果実)を産生する近交系または変種などこれらの種の栽培植物である。
【0040】
本発明の別の実施態様は、本発明による植物細胞を含んでなる植物および植物部分に関する。
【0041】
本発明のさらなる実施態様は、植物細胞または植物が対応する野生型植物細胞または野生型植物と比較してサイクリンSDS様タンパク質の低下した活性を有し、対応する野生型植物細胞または野生型植物のサイクリンSDS様タンパク質が:
a)配列番号2(スイカサイクリンSDS様タンパク質)または配列番号6(メロンサイクリンSDS様タンパク質)または配列番号12(キュウリサイクリンSDS様タンパク質)または配列番号19(ソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopersicum)サイクリンSDS様タンパク質)または配列番号20(カプシクム・アンヌウム(Capsicum annuum)サイクリンSDS様タンパク質)に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
b)配列番号2または配列番号6または配列番号12または配列番号19または配列番号20に示されるアミノ酸配列と少なくとも58%もしくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%、または特に好ましくは少なくとも95%の同一性をその配列が有するタンパク質をコードする核酸分子;
c)配列番号1または配列番号5または配列番号17により示されるヌクレオチド配列またはその相補配列を含んでなる核酸分子;
d)c)に記載されているヌクレオチド配列と少なくとも58%もしくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%、または特に好ましくは少なくとも95%の同一性を有する核酸分子;
e)ストリンジェントな条件下、a)、b)、c)、またはd)に記載されている核酸分子の少なくとも一つの鎖とハイブリダイズする核酸分子;
f)核酸分子のヌクレオチド配列が、遺伝暗号の縮退により、a)、b)、c)、またはd)で同定される核酸分子の配列から逸脱する該核酸分子;および
g)a)、b)、c)、またはd)で同定される核酸分子のフラグメント、アレル多様体および/または誘導体である核酸分子
からなる群から選択される核酸分子によりコードされることを特徴とする植物細胞または植物である。
【0042】
「配列同一性」および「配列類似性」を、グローバルまたはローカルアライメントアルゴリズムを用いて、2つのペプチドまたは2つのヌクレオチド配列のアライメントにより決定さすることができる。それから、配列が、例えば、プログラムGAPまたはBESTFITにより最適にアライメントされるか、またはEmbossプログラム「Needle」(初期設定パラメーターを用いて、下記参照)が配列同一性の少なくとも一定の最小パーセント(さらに下記に定義されるように)を共有する場合、配列は「実質的に同一」または「実質的同一性」と言われ得る。これらのプログラムは、マッチング数を最大化およびギャップ数を最小化しながら、その全長にわたって2つの配列をアライメントするためのニードルマン-ウンシュグローバルアライメントアルゴリズムを使用する。概して、ギャップクリエーションペナルティ=10およびギャップエクステンションペナルティ=0.5(双方共ヌクレオチドおよびタンパク質アライメント用)として初期設定パラメーターを使用する。ヌクレオチドに対して、使用される初期設定スコアリングマトリックスはDNAFULLであり、タンパク質に対して、初期設定スコアリングマトリックスはBlosum62である(Henikoff & Henikoff, 1992, PNAS 89, 10915-10919)。パーセンテージ配列同一性のための配列アライメントおよびスコアを、例えば、ebi.ac.uk/Tools/emboss/のワールドワイドウェブにアクセスできるEMBOSSなどのコンピュータプログラムを用いて決定してもよい。あるいは、配列類似性または同一性を、FASTA、BLAST、その他などの広く知られているアルゴリズムおよび出力フォーマットを用いてデータベース(例えば、EMBL、GenBank)に対して検索することにより決定してもよいが、ヒットを読み出し、ペアワイズアライメントして配列同一性を比較するべきである。2つのタンパク質もしくは2つのタンパク質ドメイン、または2つの核酸配列は、配列同一性パーセンテージが少なくとも58%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%以上である(初期設定パラメーター、すなわち、核酸に対してスコアリングマトリックスDNAFULL、タンパク質に対してBlosum62を使用してギャップクリエーションペナルティ=10、ギャップエクステンションペナルティ=0.5を用いてEmboss「needle」により決定されるとき)場合、「実質的配列同一性」を有する。かかる配列は、本明細書において、「多様体」もしくは「アレル多様体」または「誘導体」とも呼ばれる。本明細書で開示された特定の核酸およびタンパク質配列以外のサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子/アレルのアレル多様体ならびにサイクリンSDS様タンパク質を同定することができる。だから、例えば、配列番号2のタンパク質、または配列番号6のタンパク質、または配列番号12のタンパク質、または配列番号18のタンパク質、または配列番号19のタンパク質と実質的配列同一性を有するサイクリンSDS様タンパク質は、提供されたタンパク質の多様体である。
【0043】
アレル多様体は、他の栽培野菜植物細胞または植物、特に、トマト、タマネギ、ニラ、ニンニク、ニンジン、トウガラシ、アスパラガス、アーチチョーク、ヒョウタン、カボチャ、根用セロリ、キュウリ、メロン、レタス、スイカ、ホウレンソウ、キャベツ(ブラシカ)種、コーンサラダおよびオクラなどの野菜中に存在し得る。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のかかるアレル多様体中の変異は、雄性および雌性稔性ならびに他の野菜植物における種なし果実産生に対して同じ影響を有する。特に、サイクリンSDS様遺伝子のアレル多様体は、メロン(キューカミス・メロ(Cucumis melo))、キュウリ(キューカミス・サチブス(Cucumis sativus))、スイカ(シトルルス・ラナツス(Citrullus lanatus))、カボチャ(ククルビタ・ペポ(Cucurbita pepo)、ククルビタ・マクシマ(Cucurbtita maxima)、ククルビタ・モスカータ(Cucurbita moschata)、ラゲナリア・シセラリア(Lagenaria siceraria))などのククルビタセアエ(Cucurbitaceae)ファミリー由来の植物細胞または植物中に存在し得るが、特に好ましいサイクリンSDS様遺伝子のアレル多様体は、スイカ(シトルルス・ラナツス(Citrullus lanatus))、メロン(キューカミス・メロ(Cucumis melo))もしくはキュウリ(キューカミス・サチブス(Cucumis sativus))の植物細胞またはスイカ(シトルルス・ラナツス(Citrullus lanatus))もしくはメロン(キューカミス・メロ(Cucumis melo))もしくはキュウリ(キューカミス・サチブス(Cucumis sativus))植物中に存在し得る。加えて、サイクリンSDS様遺伝子のアレル多様体は、トマト(ソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopersicum))もしくはトマトの近縁野生種(S.ピムピネリ(S. pimpinelli)、S.ケエスマニアエ.(S. cheesmaniae)、S.ガラパゲンセ(S. galapagense)、S.ピンピネリフォリウム(S. pimpinellifolium)、S.クミエレウスキイ(S. chmielewskii)、S.ハブロカイテス(S. habrochaites)、S.ネオリキイ(S. neorickii)、およびS.ペンネリ(S. pennelli)、S.アルカヌム(S. arcanum)、S.チレンセ(S. chilense)、S.コルネリオムレリ(S. corneliomulleri)、S.フアユラセンセ(S. huaylasense)、およびS.ペルビアナム(S. peruvianum))、トウガラシ(カプシクム・アンヌウム(Capsicum annuum))、ソラヌム・メロンゲナ(Solanum melongena)(ナスビ)、ソラヌム・ツベロスム(Solanum tuberosum)(ジャガイモ)、その他などのソラナセアエ(Solanaceae)ファミリー由来の植物細胞または植物中にも存在する。
【0044】
アレル多様体は、登録作物(例えば、ブラシカ種、トウモロコシ、コメ、ダイズ、コムギ、オオムギ、ワタ、タバコ、コーヒー、その他)または果実類(例えば、ブドウ、リンゴ、セイヨウスモモ、ユズ、イチゴ、その他)などの他の栽培作物植物中にも存在し得る。
【0045】
なお、ククルビタセアエ(Cucurbitaceae)のサイクリンSDS様タンパク質は、互いに高い配列同一性(提供される配列に対して少なくとも70%)であり、ソラナセアエ(Solanaceae)のサイクリンSDS様タンパク質も互いに高い配列同一性を有する。一方、ククルビタセアエ(Cucurbitaceae)およびソラナセアエ(Solanaceae)間の配列同一性は高くない(40%以下)、下表A参照。
【0046】
【0047】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」を使用して所与のヌクレオチド配列と実質的に同一であるヌクレオチド配列を同定することができる。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、異なる環境下では異なるだろう。概して、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度およびpHにおいて特定の配列に対して熱的融点(Tm)より約5℃低くなるように選択される。Tmは、標的配列の50%が完全にマッチングしたプローブとハイブリダイズする温度(規定のイオン強度およびpHにおいて)である。通常、塩濃度がpH7において約0.02モル濃度であり、温度が少なくとも60℃であるストリンジェントな条件が選択されるだろう。塩濃度を低くおよび/または温度を高くするとストリンジェンシーが増大する。RNA-DNAハイブリダイゼーションに対するストリンジェントな条件(例えば、100ntのプローブを用いたノーザンブロット法)は、例えば、63℃、20分間、または平衡状態において、0.2×SSC中で少なくとも1回の洗浄を含むものである。DNA-DNAハイブリダイゼーションに対するストリンジェントな条件(例えば、100ntのプローブを用いたサザンブロット法)は、例えば、少なくとも50℃、通常、約55℃の温度、20分間、または平衡状態において、0.2×SSC中で少なくとも1回の洗浄(通常2回)を含むものである。Sambrook et al. (1989) and Sambrook and Russell (2001)も参照。
【0048】
本発明による植物細胞または植物中のサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を、遺伝子サイレンシング効果により達成することもできる。
【0049】
本発明のさらなる実施態様では、本発明による植物細胞または植物中のサイクリンSDS様タンパク質の活性低下は、遺伝子サイレンシング効果に起因する。
【0050】
サイクリンSDS様タンパク質の活性が低下した本発明による植物細胞および本発明による植物を、当業者に公知の遺伝子サイレンシング効果を引き起こす異なる方法により生産することができる。これらは、例えば、対応するアンチセンスRNAまたは二重鎖RNAコンストラクト(RNAi技術)の発現、同時抑制効果を与える核酸分子またはベクターの提供、サイクリンSDS様タンパク質をコードする特定の特異的転写を分割する相応に構築されたリボザイムの発現を含む。
【0051】
本発明による植物細胞および植物におけるサイクリンSDS様タンパク質活性の低下は、それぞれの植物細胞または植物中のアンチセンス配列の発現によりもたらすことができる。
【0052】
本発明による植物細胞および植物におけるサイクリンSDS様タンパク質活性の低下は、抑制されるべきそれぞれの標的遺伝子のセンスおよびアンチセンスRNA分子(RNAi技術)、好ましくは、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子またはアレルの同時発現によりもたらすことができる。
【0053】
これに加えて、植物内で、プロモーター配列の二重鎖RNA分子の生成は、このプロモーターの相同性複製物のメチル化および転写不活性化をトランスにもたらすことができることが分かっている(Mette et al., EMBO J. 19, (2000), 5194-5201)。本発明による植物細胞および植物におけるサイクリンSDS様タンパク質活性の低下は、抑制されるべきそれぞれの標的遺伝子の転写を開始するプロモーター配列のセンスおよびアンチセンスRNA分子(RNAi技術)、好ましくはサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子またはアレルの同時発現によりもたらすことができる。
【0054】
リボザイムは、標的遺伝子をコードするRNA分子の開裂によりタンパク質の発現を減少させることが、当技術分野において記載されている。
【0055】
当業者に公知のそれぞれの遺伝子サイレンシング技術のさらなる考察を、本明細書中、さらに下記で提供し、したがって、本発明による植物細胞または植物に適用可能である。
【0056】
「遺伝子サイレンシング効果」は、標的遺伝子または遺伝子ファミリーの遺伝子発現の下方制御または完全な阻害を表す。サイレントな植物細胞または植物は、対応する野生型植物細胞または対応する野生型植物と比較して、それぞれの標的遺伝子またはアレルに対する、より少量の翻訳に適した転写産物(mRNAを含む)を産生する。より少量の翻訳に適した転写産物(mRNAを含む)は、それぞれの転写産物の標的化された分解が原因である。
【0057】
「標的遺伝子またはアレル」は、所望の表現型を産生するための生命体(例えば、植物細胞または植物)をもたらすために調節されなければならない遺伝子もしくはアレルまたは遺伝子ファミリー(または遺伝子の1つ以上の特定のアレル)であると理解されるべきである。雄性不稔性種なし果実産生植物に関して、例えば、標的遺伝子(単数または複数)または標的アレル(単数または複数)は、サイクリンSDS系統タンパク質をコードする遺伝子(単数または複数)である。
【0058】
本発明のさらなる実施態様では、本発明による植物細胞または植物中のサイクリンSDS様タンパク質の活性低下は、免疫調節方法に起因する。
【0059】
植物細胞または植物中のタンパク質の酵素活性が低下するさらなる可能性のある方法が、いわゆる免疫調節方法である。植物内で、植物タンパク質を特異的に認識する抗体の発現が、該当するタンパク質の活性低下をもたらすことが知られている。当業者に公知のそれぞれの技術のさらなる考察を、本明細書中、さらに下記に提供する。
【0060】
本発明のさらなる実施態様は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなることを特徴とする植物細胞または植物である。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、ホモ接合状態またはヘテロ接合状態で存在することができる。1つの態様では、変異体アレルは、コードされた変異体タンパク質の機能低下または機能喪失を有するサイクリンSDS様タンパク質をコードする。変異体アレルは、野生型(機能的)タンパク質と比較して、機能低下または機能喪失を有するタンパク質をもたらす置換、挿入または欠失された1つ以上のアミノ酸を含むタンパク質をコードしてもよい。1つの態様では、変異体アレルは、短縮タンパク質が機能低下または機能喪失している産生される短縮サイクリンSDS様タンパク質をもたらす。別の態様では、変異体アレルは、サイクリン_Nドメイン(pfam00134)またはサイクリン_Cドメイン(pfam02984)などのサイクリンSDS様タンパク質の保存ドメイン中で置換、挿入または欠失された1つ以上のアミノ酸を含むタンパク質をコードする。タンパク質のサイクリン_Nドメインおよびサイクリン_Cドメインは、例えば、NCBIのウェブサイト(blast.ncbi.nlm.nih.govのワールドワイドウェブ)上のタンパク質BLASTに対するタンパク質、またはNCBIの保存ドメインデータベース(ncbi.nlm.nih.gov/cddのワールドワイドウェブ)における検索により、当業者によって同定することができる。
【0061】
配列番号2において、サイクリン_Nドメインはアミノ酸388~アミノ酸463の範囲であり、サイクリン_Cドメインはアミノ酸466~531の範囲である。
【0062】
タンパク質BLASTに対するタンパク質は、ドメインを含むクエリー配列のアライメントを含む、使用される検索クエリーのサイクリン_Nドメインおよびサイクリン_Cドメインを提供する。なお、ある数「から」別の数「まで」は端の点を含む、すなわち、最初と最後の指定された数を含む。本明細書に提供されたタンパク質配列の今までのいずれも、または他の多様体配列(例えば、本明細書に提供されたタンパク質配列、例えば、配列番号2、6、12、19または20のいずれかと少なくとも70%、80%、90%、95%以上の配列同一性を含むタンパク質)に関して、サイクリン_Nドメインおよびサイクリン_Cドメインを決定することができる。
【0063】
配列番号6において、サイクリン_Nドメインはアミノ酸351~アミノ酸481の範囲であり、サイクリン_Cドメインはアミノ酸486~アミノ酸577の範囲である。
【0064】
配列番号12において、サイクリン_Nドメインはアミノ酸343~アミノ酸473の範囲であり、サイクリン_Cドメインはアミノ酸478~アミノ酸569の範囲である。
【0065】
配列番号19において、サイクリン_Nドメインはアミノ酸362~アミノ酸494の範囲であり、サイクリン_Cドメインはアミノ酸499~584の範囲である。
【0066】
配列番号20において、サイクリン_Nドメインはアミノ酸332~アミノ酸464の範囲であり、サイクリン_Cドメインはアミノ酸469~554の範囲である。
【0067】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルがヘテロ接合状態で存在する植物は、種子を産生し、雄性稔性である。したがって、これらの植物を使用して、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを他の植物に導入することができ、またはこれらを使用して、さらなる形質を、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルが存在する植物に導入することができる。これらの植物を使用して、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる植物を繁殖することもできる。各場合の自家受粉された子孫の50%は、ヘテロ接合状態でサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを今もなお保有するだろう。したがって、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルが存在する植物が、例えば、育種において有用である。
【0068】
したがって、本発明の1つの実施態様は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してヘテロ接合である本発明による植物細胞または植物に関する。
【0069】
本発明の好ましい実施態様では、本発明による植物細胞もしくは植物のサイクリンSDS様タンパク質の活性低下は、それぞれ、植物細胞もしくは植物中に存在しているサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルによるもので、もしくは起因しているか、または該変異体アレルの影響である。
【0070】
1つの態様では、本発明による植物細胞または植物は、サイクリンSDS様タンパク質の機能低下またはサイクリンSDS様タンパク質の機能喪失をコードするサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である本発明による植物は、自らの花粉または異なる植物から(例えば、野生型植物から)得られた花粉での受粉時に種なし果実を実らせる。
【0071】
したがって、本発明の別の実施態様は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である本発明による植物細胞または植物に関する。
【0072】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、植物が変異体アレルに対してホモ接合である場合に、植物を雄性稔性にするが、種なし果実を実らせる。本発明の実施態様に関して、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレル中の変異は、欠失、短縮化、挿入、点変異、ナンセンス変異、ミスセンスもしくは非同義変異、スプライス部位変異、フレームシフト変異および/または制御配列中の変異を含むいずれもの変異であり得る。好ましくは、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレル中の変異は、点変異および/またはスプライス部位変異である。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のコード配列を含んでなるDNA配列またはサイクリンSDS様タンパク質をコードするRNA配列において変異は起こり得、またはサイクリンSDS様タンパク質のアミノ酸において変異は起こり得る。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列に関して、コード配列(cds、エクソンからなる)において変異は起こり得、またはサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の5’-および3’-非翻訳領域、イントロン、プロモーター、エンハンサー、その他の非コード配列において変異は起こり得る。サイクリンSDS様タンパク質をコードするRNAに関して、プレmRNAまたはmRNAにおいて変異は起こり得る。1つの態様では、変異体アレルは、例えば、保存サイクリン_Nドメインおよび/またはサイクリン_Cドメインにおいて置換、挿入もしくは欠失される1つ以上のアミノ酸をもたらす、置換、挿入および/もしくは欠失される1つ以上のアミノ酸が原因で機能喪失または機能低下を有するタンパク質をもたらす。例えば、サイクリン_Cドメイン、またはその部分およびサイクリン_Nドメインおよびサイクリン_Cドメインまたはサイクリン_Nドメインおよびサイクリン_Cドメインの部分の欠失を引き起こすようなタンパク質の短縮化は、該タンパク質の機能喪失または機能低下をもたらすだろう。
【0073】
したがって、本発明のさらなる実施態様は、変異体アレルが:
a)ゲノム配列における欠失、短縮化、挿入、点変異、ナンセンス変異、ミスセンスまたは非同義変異、スプライス部位変異、フレームシフト変異;
b)1つ以上の制御配列中の変異;
c)コード配列における欠失、短縮化、挿入、点変異、ナンセンス変異、ミスセンスまたは非同義変異、スプライス部位変異、フレームシフト変異;
d)プレmRNAまたはmRNAにおける欠失、短縮化、挿入、点変異、ナンセンス変異、ミスセンスまたは非同義変異、スプライス部位変異、フレームシフト変異;および/または
e)サイクリンSDS様タンパク質における1つ以上のアミノ酸の欠失、短縮化、挿入または置換
からなる群から選択される1つ以上の変異を含んでなるか、または影響することを特徴とするサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる本発明による植物細胞または植物に関する。
【0074】
配列番号1と比較して、1つの実施態様として本明細書で開示されたサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの1つ(EMB1変異体スイカ植物に存在)は、配列番号1のヌクレオチド位置2185において点変異(AによるGの置換)を有する。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の開示された変異体アレルから転写されたmRNAは、配列番号3で示されている。配列番号1で示されているサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の野生型アレルの位置2186~2201における対応するヌクレオチドは、配列番号3で示されているmRNAに存在しない。したがって、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレル中に見られる点変異は、対応する野生型アレルから転写されたmRNAと比較して、変異体アレルから転写されたmRNAの16個のヌクレオチドの欠失を引き起こす。変異体アレルから転写されたmRNAにおける欠失は、それぞれのmRNAの選択的スプライシングをもたらすスプライス部位の変異により説明される。加えて、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の開示された変異体アレルから転写されたmRNA中の16個のヌクレオチドの欠失は、対応する野生型アレルから転写されたmRNAと比較して、変異体アレルから転写されたmRNAのリーディングフレームにおけるフレームシフトの原因となる。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の野生型アレルから翻訳されたタンパク質は配列番号2に示されている。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから翻訳されたタンパク質は配列番号4に示されている。配列番号2におけるアミノ酸358~363(Ile-Leu-Arg-Phe-Glu-Glu)をコードする対応するヌクレオチド配列は配列番号4中に存在せず、リーディングフレームのフレームシフトにより、残りのアミノ酸配列は異なり、配列番号2におけるアミノ酸364~562は配列番号4における8個の異所アミノ酸Asn-Trp-Thr-Met-Lys-Lys-Pro-Ile(すなわち、配列番号4のアミノ酸358~365)により置換される。変異体サイクリンSDS様タンパク質は、562個のアミノ酸である野生型タンパク質と比較してずっと短く、365個のアミノ酸にすぎない。したがって、配列番号4に示される変異体サイクリンSDS様タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2に示された野生型サイクリンSDS様タンパク質と比較してアミノ酸欠失およびアミノ酸置換を含んでなる。さらに、SDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから転写されたmRNAのリーディングフレームにおけるフレームシフトは、中途終止コドン(配列番号3のヌクレオチド1096~1098)を生成するナンセンス変異の原因となり、配列番号2に示された野生型アレルによりコードされた対応するアミノ酸配列と比較した場合、C末端において197個のアミノ酸により短縮化されている変異体アレルによりコードされたアミノ酸配列をもたらす。したがって、野生型タンパク質と比較して、野生型C末端の205個のアミノ酸は、フレームシフトにより、C末端において8個の異なる(異所)アミノ酸により置換され、野生型タンパク質より197アミノ酸短い変異体タンパク質をもたらす。したがって、野生型C末端の205個のアミノ酸が変異体タンパク質において欠損しているので、野生型タンパク質と比較して、変異体タンパク質は短縮化されている。野生型タンパク質のうちエクソン1のアミノ酸のみ(配列番号2のアミノ酸1~357)が変異体タンパク質中になお存在する。これは、保存タンパク質ドメインサイクリン_Nおよびサイクリン_Cは存在しないことも意味し、変異体タンパク質は機能しない(すなわち、変異体アレルは機能アレルの喪失である)かまたは機能低下することを意味する。
【0075】
要約すれば、1つの態様において、対応する野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の核酸配列と比較して、点変異(ヌクレオチド置換)を有するサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの核酸配列を、応用を例証するために具体的に本明細書に開示した。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルにおける点変異は、それぞれのプレmRNAの選択的スプライシングをもたらすスプライス部位変異の原因となる。選択的スプライシングは、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから転写されたmRNAのオープンリーディングフレームにおけるフレームシフトの原因となる。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから転写されたmRNAのオープンリーディングフレームにおけるフレームシフトは、対応する野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子と比較して、ヌクレオチドの欠失、ヌクレオチドの置換(ミスセンスまたは非同義変異)およびサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから転写されたmRNAにおける中途終止コドンを生成するナンセンス変異の生成を引き起こす。変異体サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子から転写されたmRNAから翻訳されたタンパク質のそれぞれのアミノ酸配列は、対応する野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子から転写されたmRNAから翻訳されたアミノ酸配列と比較して、アミノ酸の欠失、アミノ酸の置換およびC末端におけるアミノ酸配列の短縮化を示す。点変異が第一イントロン中にあるので、野生型サイクリンSDS様タンパク質のエクソン2、エクソン3およびエクソン4によりコードされたアミノ酸は変異体において欠損している、すなわち、野生型SDS様タンパク質のエクソン1によりコードされたアミノ酸のみが変異体タンパク質中に存在する。
【0076】
スイカでは、サイクリンSDS様タンパク質のエクソン1は配列番号2のアミノ酸1~357をコードし;メロンでは、サイクリンSDS様タンパク質のエクソン1は配列番号6のアミノ酸1~338をコードし;キュウリでは、サイクリンSDS様タンパク質のエクソン1は配列番号12のアミノ酸1~330をコードし;トマトでは、サイクリンSDS様タンパク質のエクソン1は配列番号19のアミノ酸1~350をコードし;トウガラシでは、サイクリンSDS様タンパク質のエクソン1は配列番号20のアミノ酸1~320をコードする。
【0077】
スイカに加えて、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子中に異なる変異を含んでなる上記本明細書に(および実施例において)記載されているEMB1変異体植物、別のスイカ植物は、変異誘発により生成された。変異体は、配列番号1のヌクレオチド1687におけるC(シトシン)からT(チミン)へのヌクレオチド置換を含んでなり、終止コドンである「タグ」に変化されるコドン「cag」(アミノ酸グルタミンをコードする、野生型タンパク質のアミノ酸224)をもたらす。変異体cDNAは配列番号17で示され、エクソン1によりコードされたアミノ酸の一部のみ(すなわち、アミノ酸1~357に代わってアミノ酸1~223)を含んでなる短縮タンパク質は配列番号18に示されている。EMB1変異体植物と同様に、2つの保存ドメイン、サイクリン_Nドメインおよびサイクリン_Cドメインは、変異体タンパク質において欠損している。この変異体は、サイクリンSDS様タンパク質の機能喪失(または少なくとも機能低下)をもたらす。
【0078】
本発明の1つの態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、野生型と異なるアミノ酸により欠失または置換されているサイクリン_Nドメインおよび/もしくはサイクリン_Cドメインをコードする1つ以上または全てのアミノ酸をもたらす変異を有する。1つの態様では、変異体アレルは、サイクル_Nドメインの全てのもしくは一部および/またはサイクリン_Cドメインの全てのもしくは一部を欠く短縮タンパク質をもたらす。例えば、変異体アレルは、中途終止コドンをもたらす変異を含み、それにより、サイクル_Nドメインの全てのもしくは一部および/またはサイクリン_Cドメインの全てのもしくは一部が得られたタンパク質中にもはや存在しない。
【0079】
ひとつの態様では、変異体アレルは、配列番号1のスイカサイクリンSDS様遺伝子の変異体アレルであり、配列番号4のタンパク質または配列番号18のタンパク質をもたらす。
【0080】
本発明の1つの態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、存在しない野生型タンパク質のアミノ酸をコードするエクソン2、3および/または4をもたらす変異を有する。したがって、1つの態様では、変異体アレルは、短縮サイクリンSDS様タンパク質または野生型タンパク質のエクソン2、3および/もしくは4によりコードされたアミノ酸を欠く欠失を含んでなるタンパク質をコードする、すなわち、配列番号2(エクソン2)のアミノ酸358~413または配列番号6(エクソン2)のアミノ酸339~394、配列番号12(エクソン2)のアミノ酸331~386、配列番号19(エクソン2)のアミノ酸351~407、配列番号20(エクソン2)のアミノ酸321~377、および/または配列番号2(エクソン3)のアミノ酸414~469または配列番号6(エクソン3)のアミノ酸395~493または配列番号12のアミノ酸387~485、配列番号19(エクソン3)のアミノ酸408~506、配列番号20(エクソン3)のアミノ酸378~476、および/または配列番号2(エクソン4)のアミノ酸470~562または配列番号6(エクソン4)のアミノ酸494~577または配列番号12(エクソン4)のアミノ酸486~569、配列番号19(エクソン4)のアミノ酸507~590、配列番号20(エクソン4)のアミノ酸477~560を欠く。必要に応じて、変異体アレルは、短縮サイクリンSDS様タンパク質/またはアミノ酸をコードするエクソン1の全てもしくは一部をさらに欠く、すなわち、配列番号2のアミノ酸1~357または配列番号6のアミノ酸1~338または配列番号12のアミノ酸1~330または配列番号19のアミノ酸1~350、または配列番号20のアミノ酸1~320の欠失を含んでなるタンパク質をコードする。他のサイクリンSDS様タンパク質、例えば、他の種からのオルソログのエクソン1、2、3および4によりコードされた対応するアミノ酸領域を、ゲノムDNAまたはアミノ酸配列のペアワイズアライメントにより同定することができる。なお、配列番号2に関してのみ、エクソンは実際のエクソンであると決定された(ゲノムDNA上でイントロンにより分離)が、他の配列に関しては、アライメントによりエクソンが決定され、実際のエクソンでない場合もあり得るが、むしろ配列番号2のエクソンに対応するアミノ酸であり、したがって、単純にタンパク質のアミノ酸領域と呼ぶこともできる。
【0081】
本発明の好ましい実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、そのコード配列(タンパク質のN末端をコードする)の5’末端における変異を有するか、またはもたらす。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のより好ましい変異体アレルは、そのコード配列の5’末端における点変異および/または短縮化を有するか、またはもたらす。遺伝子の開始コドン(ATG)における変異はそれぞれの遺伝子がそれぞれの全長タンパク質に翻訳されないという影響を及ぼすだろうことは、当技術分野で周知である。翻訳に関して、次の可能性のある開始コドン(ATG)を使用し得るが、これは、次のATGが同じリーディングフレーム中に現れる場合にN末端におけるタンパク質のアミノ酸配列の短縮化または異なるアミノ酸配列を有するタンパク質の産生をもたらすだろう。両方の場合に、5’末端におけるそれぞれの変異は、酵素活性の低下または喪失したタンパク質の産生をもたらすだろう。本発明の好ましい実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、開始コドンにおける変異を有する。開始コドンにおける変異は、該開始コドンのその3つのヌクレオチドのいずれかにおける点変異、または少なくとも第一、少なくとも第一および第二もしくは少なくとも3つ全てのヌクレオチドの欠失/短縮化であり得る。
【0082】
本発明のさらに好ましい実施態様は、そのコード配列(タンパク質のC末端をコードする)の3’末端における欠失をもたらすサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルである。保存サイクリン_Cドメインがタンパク質のC末端に存在するので、存在しないサイクリン_Cドメインの一部(例えば、サイクリン_Cドメインの1、2、3、4、5以上のアミノ酸またはサイクリン_Cドメインの全てでも)をもたらす短縮化は、機能低下した、または機能のないタンパク質をもたらす。C末端におけるより長い短縮化は、欠失されるサイクリン_Nドメインの一部または全てをもたらしさえし、これは機能低下した、または機能のないタンパク質を同様にもたらすだろう。サイクリン_Cおよびサイクリン_Nドメイン間に5個のアミノ酸のみ存在する。C末端の約90個以上のアミノ酸の短縮化は、サイクリン_Cドメインを欠損しているサイクリンSDS様タンパク質の大部分をもたらし、95、100、110個以上のアミノ酸のより長い短縮化は、少なくとも部分的に欠失しているサイクリン_Nドメインをもたらすだろう。前述したように、機能低下した、または機能のないタンパク質をもたらすとき、かかる短縮化は本明細書中に包含される。前述した通り、タンパク質は機能低下しているか機能を有しないかどうか試験するために、変異体アレルに対してホモ接合している変異体植物を、表現型的に試験して期待される表現型が起こる否かを見ることができる。
【0083】
好ましくは、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、タンパク質コード配列の3’末端において、少なくとも10、20、30、40または50個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも100個のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも200個のヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも300個のヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも400個のヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも500個のヌクレオチド、特に好ましくは少なくとも615個のヌクレオチドの短縮化をもたらす。コード配列から591ヌクレオチド短縮化は、それぞれのタンパク質配列に対して197アミノ酸短縮に翻訳する。対応する野生型サイクリンSDS様タンパク質(配列番号2)のアミノ酸配列と比較して、197アミノ酸短縮化を有するサイクリンSDS様タンパク質の好ましい例は、配列番号4に示される。別の例は、対応する野生型SDS様タンパク質(配列番号2)と比較した339個のアミノ酸(すなわち、コード領域の1017個のヌクレオチド)の短縮化であり、配列番号18に示されている。
【0084】
1つの実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、配列番号2のタンパク質をコードする核酸配列(野生型と比較して欠失または短縮化を含んでなるコードされたタンパク質をもたらす)中、または、例えば、配列番号2と71%配列同一性を有する配列番号6など、配列番号2と少なくとも70%、80%、90%、95%以上アミノ酸配列同一性を含んでなるタンパク質をコードするいずれかの核酸配列中の上記変異のいずれかを有する。
【0085】
別の実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、配列番号6のタンパク質をコードする核酸配列(野生型と比較して欠失または短縮化を含んでなるコードされたタンパク質をもたらす)中、または配列番号6と少なくとも70%、80%、90%、95%以上アミノ酸配列同一性を含んでなるタンパク質をコードするいずれかの核酸配列中の上記変異のいずれかを有する。
【0086】
別の実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、配列番号12のタンパク質をコードする核酸配列(野生型と比較して欠失または短縮化を含んでなるコードされたタンパク質をもたらす)中、または配列番号12と少なくとも70%、80%、90%、95%以上アミノ酸配列同一性を含んでなるタンパク質をコードするいずれかの核酸配列中の上記変異のいずれかを有する。
【0087】
別の実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、配列番号19のタンパク質をコードする核酸配列(野生型と比較して欠失または短縮化を含んでなるコードされたタンパク質をもたらす)中、または配列番号19と少なくとも70%、80%、90%、95%以上アミノ酸配列同一性を含んでなるタンパク質をコードするいずれかの核酸配列中の上記変異のいずれかを有する。
【0088】
別の実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、配列番号20のタンパク質をコードする核酸配列(野生型と比較して欠失または短縮化を含んでなるコードされたタンパク質をもたらす)中、または配列番号20と少なくとも70%、80%、90%、95%以上アミノ酸配列同一性を含んでなるタンパク質をコードするいずれかの核酸配列中の上記変異のいずれかを有する。
【0089】
さらに好ましい実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、配列番号1で示される核酸配列中、または配列番号1で示される核酸配列と少なくとも58%もしくは60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%もしくは特に好ましくは少なくとも95%の同一性を有する配列中の上記変異のいずれかを有する。1つの態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、配列番号1で示される核酸配列中、または配列番号1で示される核酸配列と少なくとも58%もしくは60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは80%、なおさらに好ましくは90%もしくは特に好ましくは95%の同一性を有する多様体配列中の変異を含んでなり、配列番号1のヌクレオチド位置番号2185におけるヌクレオチドグアニン(G)はアデニン(A)、シトシン(C)もしくはチミン(T)により置換され、最も好ましくは配列番号1のヌクレオチド位置番号2185におけるヌクレオチドグアニン(G)、もしくは多様体配列中の相当するヌクレオチドはアデニン(A)により置換される。最も好ましくは、配列番号1のヌクレオチド位置番号2185におけるヌクレオチドグアニン(G)がアデニン(A)、シトシン(C)もしくはチミン(T)により置換され、最も特に好ましくは、配列番号1のヌクレオチド位置番号2185におけるヌクレオチドグアニン(G)がアデニン(A)により置換されることは別として、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは配列番号1で示される核酸配列を有する。異なる態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは、配列番号1で示される核酸配列中、または配列番号1で示される核酸配列と少なくとも58%もしくは60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは80%、なおさらに好ましくは90%もしくは特に好ましくは95%の同一性を有する多様体配列中の変異を含んでなり、SDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレル中、ヌクレオチド1687におけるヌクレオチドシトシン(C)、または多様体配列中の相当するヌクレオチドは異なるヌクレオチド、好ましくはチミン(T)により置換される。
【0090】
本発明の異なる実施態様は、サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAを含んでなるまたは合成する植物細胞、植物部分または植物に関し、サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAは:
a)欠失変異;
b)ミスセンスまたは非同義変異;
c)フレームシフト変異;および/または
d)ナンセンス変異
からなる群から選択される1つ以上の変異を有する。
【0091】
本発明の好ましい実施態様では、本発明による植物細胞、植物部分または植物は:
a)欠失変異;
b)ミスセンスまたは非同義変異;
c)フレームシフト変異;および/または
d)ナンセンス変異
からなる群から選択される1つ以上の変異を有するサイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAを含んでなるかまたは合成する。
【0092】
1つ以上のヌクレオチドの欠失および置換に関して、本発明による植物細胞または植物は、好ましくは、サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAを含んでなるかまたは合成し、mRNAは、野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAと比較して、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも13個、少なくとも14個または好ましくは少なくとも16個のヌクレオチドの欠失を含んでなる。1つの態様では、mRNAにおいて欠失されたヌクレオチド(単数または複数)は、サイクリンSDS様タンパク質のエクソン1、エクソン2、エクソン3および/もしくはエクソン4の1つ以上のヌクレオチドであり、ならびに/またはmRNAにおいて欠失されたヌクレオチド(単数または複数)は、サイクリンSDS様タンパク質のサイクリン_Nもしくはサイクリン_Cドメインの1つ以上のヌクレオチドである。1つの態様では、ヌクレオチドは、エクソン2のヌクレオチド、例えば、配列番号1のヌクレオチド2186において開始し、かつ、ヌクレオチド2201において終止する1つ以上もしくは全てのヌクレオチドである。
【0093】
好ましくは、本発明による植物細胞または植物は、mRNAがフレームシフト変異および/またはナンセンス変異を含んでなることを特徴とする、サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAを含んでなるかまたは合成する。ナンセンス変異は、中途終止コドンを生成し、したがって、mRNAコード配列を短縮化する。本発明の好ましい実施態様は、mRNAがコード配列の短縮化を含んでなることを特徴とする、サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAを含んでなる本発明による植物細胞または植物に関する。サイクリンSDS様タンパク質のmRNAコード配列の短縮化は、好ましくは、野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAと比較して、少なくとも100個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも200個のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも300個のヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも400個のヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも500個のヌクレオチド、特に好ましくは少なくとも591個のヌクレオチドの短縮化である。1つの態様では、mRNAコード配列の短縮化は、エクソン2、3および4が存在しない;またはエクソン3および4が存在しない;またはエクソン4が存在しないという結果をもたらす。別の態様では、mRNAコード配列の短縮化は、エクソン1の全てまたは一部、エクソン2の全て、エクソン3の全ておよびエクソン4の全てが存在しないという結果をもたらす。別の態様では、フレームシフト変異は、エクソン2の全てまたは一部が異なるリーディングフレーム中に存在するという結果をもたらす。異なる態様では、フレームシフト変異は、エクソン3および/またはエクソン4の全てまたは一部が異なるリーディングフレーム中に存在するという結果をもたらす。フレームシフトは、1つ以上のヌクレオチドの欠失(1、2、4、5、7、8、10、その他などの3の倍数でないいずれかの数)、それによりリーディングフレームが変化することにより引き起こされ得る。
【0094】
好ましい実施態様では、本発明による植物細胞、植物部分または植物は、サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAがナンセンス変異または中途終止コドンを含んでなることを必要条件として、配列番号1もしくは配列番号5もしくは配列番号17に示された対応するコード配列と、少なくとも58%もしくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%または特に好ましくは少なくとも95%の配列同一性をmRNAが有する、サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAを含んでなるかまたは合成する。1つの実施態様では、終止コドンは、配列番号1のエクソン1中、例えば、1687~1689のヌクレオチドに存在する。さらなる好ましい実施態様では、本発明による植物細胞、植物部分または植物は、配列番号3のヌクレオチド1096~1098が終止コドンであることを必要条件として、配列番号3に示されたコード配列と、少なくとも58%もしくは60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%または特に好ましくは少なくとも95%の配列同一性をmRNAが有する、サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAを含んでなるかまたは合成する。本発明の最も好ましい実施態様では、本発明による植物細胞または植物は、mRNAが配列番号3で示された配列を有する、サイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAを含んでなるかまたは合成する。
【0095】
本発明の別の実施態様では、本発明による植物細胞または植物は、mRNAがサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから転写される、1つ以上の変異を有するサイクリンSDS様タンパク質をコードするmRNAを含んでなるかまたは合成する。mRNAが転写されるサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの対応する(DNA)コード配列と比較して、mRNAが欠失変異および/またはミスセンス変異もしくは非同義変異および/またはフレームシフト変異および/またはナンセンス変異を含んでなることを特徴とする、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから転写されるmRNAを含んでなるかまたは合成する本発明による植物細胞、植物部分または植物は本発明のこれらの実施態様に含まれる。したがって、1つの態様では、プレmRNAスプライシングに影響を及ぼすいずれもの変異が包含される、すなわち、正常なプレmRNAスプライシング過程を修飾し、それにより、異なるmRNA分子をもたらす。
【0096】
欠失変異に関して、1つの態様では、本発明による植物細胞または植物は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから転写されるmRNAを含んでなるかまたは合成し、mRNAは転写されるサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの対応する(DNA)コード配列と比較して、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも13個、少なくとも14個または好ましくは少なくとも16個のヌクレオチドの欠失をmRNAが含んでなる。1つの態様では、mRNA中で欠失されたヌクレオチド(単数または複数)は、サイクリンSDS様タンパク質のエクソン1、エクソン2、エクソン3および/またはエクソン4の1つ以上のヌクレオチドである。1つの態様では、ヌクレオチドは、エクソン2のヌクレオチド、例えば、配列番号1のヌクレオチド2186において開始し、かつ、ヌクレオチド2201において終止する1つ以上もしくは全てのヌクレオチドである。
【0097】
好ましくは、mRNAが転写されるサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの(DNA)コード配列と比較して、mRNAがフレームシフト変異および/またはナンセンス変異を含んでなることを特徴とする、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから転写されるmRNAを本発明による植物細胞または植物は含んでなるかまたは合成する。ナンセンス変異は、mRNAコード配列の3’末端短縮化およびC末端におけるサイクリンSDS様タンパク質の短縮化を引き起こすmRNA中の中途終止コドンを生成する。したがって、本発明の好ましい実施態様は、mRNAが転写されるサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの(DNA)コード配列と比較して、mRNAがコード配列の短縮化を含んでなることを特徴とする、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから転写されるmRNAを含んでなるかまたは合成する本発明による植物細胞または植物に関する。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のmRNAコード配列の短縮化は、好ましくは、mRNAが転写されるサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの(DNA)コード配列と比較して、少なくとも100ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも200ヌクレオチド、なおより好ましくは少なくとも300ヌクレオチド、より好ましくは400ヌクレオチド、より好ましくは500ヌクレオチド、特に好ましくは少なくとも591の短縮化である。1つの態様では、mRNAコード配列の短縮化は、エクソン2、3および4が存在しない;またはエクソン3および4が存在しない;またはエクソン4が存在しないという結果をもたらす。別の態様では、mRNAコード配列の短縮化は、エクソン1の全てまたは一部、エクソン2の全て、エクソン3の全ておよびエクソン4の全てが存在しないという結果をもたらす。別の態様では、フレームシフト変異は、エクソン2の全てまたは一部が異なるリーディングフレーム中に存在するという結果をもたらす。異なる態様では、フレームシフト変異は、エクソン3および/またはエクソン4の全てまたは一部が異なるリーディングフレーム中に存在するという結果をもたらす。フレームシフトは、1つ以上のヌクレオチドの欠失(1、2、4、5、7、8、10、その他などの3の倍数でないいずれかの数)、それによりリーディングフレームが変化することにより引き起こされ得る。
【0098】
さらに好ましい実施態様では、本発明による植物細胞または植物は、配列番号1に示された対応する(DNA)コード配列と比較して、mRNA配列が少なくともナンセンス変異または中途終止コドンを含んでなり、好ましくは、配列番号3のヌクレオチド位置1096~1098においてナンセンス変異が起こることを必要条件として、配列番号1に示された対応する(DNA)コード配列と少なくとも58%もしくは60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%または特に好ましくは少なくとも95%の同一性を有するmRNAを含んでなるかまたは合成する。1つの態様では、中途終止コドンは、配列番号1のヌクレオチド1687~1689に存在する。本発明の特に好ましい実施態様では、本発明による植物細胞または植物は、配列番号3で示されるヌクレオチド配列を有するmRNAを含んでなる。
【0099】
「mRNAコード配列」は、本明細書中、共通の意味を有する。mRNAコード配列は、チミン(T)がウラシル(U)により置換される遺伝子/アレルのそれぞれのDNAコード配列に対応する。
【0100】
上記変異または変異の組合せ(例えば、フレームシフトの結果として生じるヌクレオチドの欠失)のいずれかに関して、これらは、本発明による植物細胞、植物部分または植物中のサイクリンSDS様タンパク質の活性の機能低下または機能喪失を引き起こす結果となることは理解される。
【0101】
本発明の別の実施態様は、対応する野生型サイクリンSDS様タンパク質と比較して、サイクリンSDS様タンパク質のアミノ酸配列が変異を含んでなることを特徴とする、サイクリンSDS様タンパク質を含んでなるかまたは合成する植物細胞、植物部分または植物に関する。サイクリンSDS様タンパク質中の変異は、本発明による植物細胞、植物部分または植物中のサイクリンSDS様タンパク質の活性の機能の低下または喪失を引き起こす。
【0102】
対応する野生型サイクリンSDS様タンパク質と比較して、サイクリンSDS様タンパク質のアミノ酸配列が変異を含んでなることを特徴とする、サイクリンSDS様タンパク質を含んでなるかまたは合成する本発明による植物細胞、植物部分または植物が特に好ましい。
【0103】
サイクリンSDS様タンパク質中の変異は、野生型サイクリンSDS様タンパク質のアミノ酸配列と比較して、アミノ酸置換、挿入、欠失および/または短縮化であり得る。本発明の好ましい実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質のアミノ酸配列は、欠失もしくは短縮化、より好ましくはN末端および/またはC末端における短縮化、さらにより好ましくはC末端における短縮化を含んでなる。対応する野生型サイクリンSDS様タンパク質と比較して、好ましくは、少なくとも10、少なくとも25、好ましくは少なくとも50、60、70、80、90または100、より好ましくは少なくとも150、さらにより好ましくは少なくとも197または少なくとも200、250、300もしくは339個のアミノ酸がアミノ酸配列のN末端またはC末端から欠損している。C末端に関して、サイクリンSDS様タンパク質中の変異は、対応する野生型サイクリンSDS様タンパク質と比較して、少なくとも25、好ましくは少なくとも50、60、70、80、90、好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも150、さらにより好ましくは少なくとも197または少なくとも200、250、300もしくは339アミノ酸の短縮化である。別の態様では、サイクリンSDS様タンパク質中の変異は、存在しないエクソン2、3および4によりコードされるアミノ酸;または存在しないエクソン3および4によりコードされるアミノ酸;または存在しないエクソン4によりコードされるアミノ酸をもたらす。別の態様では、変異は、エクソン1によりコードされるアミノ酸の全てもしくは一部、エクソン2によりコードされる全アミノ酸、エクソン3によりコードされる全アミノ酸および存在しないエクソン4によりコードされる全アミノ酸をもたらす。別の態様では、変異は、異なるアミノ酸により置換される(例えば、リーディングフレームシフトにより)エクソン2によりコードされるアミノ酸の全部または一部をもたらす。異なる態様では、変異は、異なるアミノ酸により置換される(例えば、リーディングフレームシフトにより)エクソン3および/またはエクソン4の全部または一部によりコードされるアミノ酸をもたらす。異なる態様では、変異は、存在しないサイクリン_Cおよび/またはサイクリン_Nドメインの全部または一部をもたらす。さらに、異なる態様では、変異は、置換、挿入または欠失された1つ以上のアミノ酸を含んでなるサイクリン_Cおよび/またはサイクリン_Nドメインをもたらす。
【0104】
配列番号4または配列番号18で示されるアミノ酸配列と少なくとも58%もしくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%または特に好ましくは少なくとも95%の同一性を有するサイクリンSDS様タンパク質を含んでなるかまたは合成する本発明による植物細胞、植物部分または植物をさらに提供する。最も好ましい実施態様では、植物細胞、植物部分または植物において含まれるかまたは合成されるタンパク質は、配列番号4または配列番号18で示されるアミノ酸配列を有する。
【0105】
したがって、本発明のさらなる実施態様は、変異アレルが:
a)ゲノム配列における欠失、短縮化、挿入、点変異、ナンセンス変異、ミスセンスまたは非同義変異、スプライス部位変異、フレームシフト変異;
b)1つ以上の制御配列中の変異;
c)コード配列における欠失、短縮化、挿入、点変異、ナンセンス変異、ミスセンスまたは非同義変異、スプライス部位変異、フレームシフト変異;
d)プレmRNAまたはmRNAにおける欠失、短縮化、挿入、点変異、ナンセンス変異、ミスセンスまたは非同義変異、スプライス部位変異、フレームシフト変異;および/または
e)サイクリンSDS様タンパク質における1つ以上のアミノ酸の欠失、短縮化、挿入または置換
からなる群から選択される1つ以上の変異を含んでなるかまたは影響を及ぼすことを特徴とするサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる種:スイカ、メロン、キュウリ、トマトおよびトウガラシから選択される植物細胞または植物に関する。
【0106】
上記変異体アレルは、野生型サイクリンSDS様タンパク質と比較して、変異体サイクリンSDS様タンパク質の活性低下をもたらす。活性低下は、サイクリンSDS様遺伝子の発現のノックアウト、遺伝子の発現のノックダウン、コードされた変異体サイクリンSDS様タンパク質の機能喪失または変異体サイクリンSDS様タンパク質の機能低下によるものである。
【0107】
1つの態様では、植物細胞または植物がスイカである場合、サイクリンSDS様タンパク質の変異体アレルは、配列番号2のタンパク質または配列番号2と実質的な同一性、機能的SDS様タンパク質の2つの全長配列がペアワイズアライメントする場合に好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%の配列同一性を含んでなるタンパク質をコードするアレルの変異アレルである。
【0108】
別の態様では、植物細胞または植物がメロンである場合、サイクリンSDS様タンパク質の変異体アレルは、配列番号6のタンパク質または配列番号6と実質的な同一性、機能的SDS様タンパク質の2つの全長配列がペアワイズアライメントする場合に好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%の配列同一性を含んでなるタンパク質をコードするアレルの変異アレルである。
【0109】
別の態様では、植物細胞または植物がキュウリである場合、サイクリンSDS様タンパク質の変異体アレルは、配列番号12のタンパク質または配列番号12と実質的な同一性、機能的SDS様タンパク質の2つの全長配列がペアワイズアライメントする場合に好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%の配列同一性を含んでなるタンパク質をコードするアレルの変異アレルである。
【0110】
別の態様では、植物細胞または植物がトマトである場合、サイクリンSDS様タンパク質の変異体アレルは、配列番号19のタンパク質または配列番号19と実質的な同一性、機能的SDS様タンパク質の2つの全長配列がペアワイズアライメントする場合に好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%の配列同一性を含んでなるタンパク質をコードするアレルの変異アレルである。
【0111】
別の態様では、植物細胞または植物がトウガラシである場合、サイクリンSDS様タンパク質の変異体アレルは、配列番号20のタンパク質または配列番号20と実質的な同一性、機能的SDS様タンパク質の2つの全長配列がペアワイズアライメントする場合に好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%の配列同一性を含んでなるタンパク質をコードするアレルの変異アレルである。
【0112】
1つの態様では、スイカ、メロン、キュウリ、トマトまたはトウガラシ植物は、ヘテロ接合体で変異体サイクリンSDS様アレルを含んでなる。別の態様では、スイカ、メロン、キュウリ、トマトまたはトウガラシ植物は、ホモ接合体で変異体サイクリンSDS様アレルを含んでなり、それにより、植物は、自分または他の花粉で受粉して種なし果実を実らせる。好ましい態様では、変異体サイクリンSDS様アレルは、ノックアウト(すなわち、遺伝子は発現しない)またはアレルは機能しないサイクリンSDS様タンパク質をコードする。
【0113】
かかる植物を生育することができる種子、同様に、アレルがホモ接合体である場合に前記植物から実る種なし果実またはアレルがヘテロ接合体である場合に前記植物から実る種なし果実は、本明細書中に包含される。それらのゲノム中に少なくとも1つの変異体サイクリンSDS様アレルを含んでなるさし穂、栄養繁殖、細胞、その他などのいずれかの植物部分も提供される。
【0114】
変異体サイクリンSDS様アレルの少なくとも1つの複製物を含んでなる増殖性細胞および非増殖性細胞も本明細書に提供される。かかる増殖性細胞および非増殖性細胞は、植物器官もしくは全植物の一部であり得、またはこれらを、例えば、細胞もしくは組織培養中に単離することができる。
【0115】
それらのゲノム中に少なくとも1つの変異体サイクリンSDS様アレルを含んでなる本明細書中に提供された種子、植物および植物部分は、好ましくは農学的に有用な植物、例えば、近交系、育種系統、変種もしくは栽培品種またはF1ハイブリッドである。好ましくは、これらは、良好な農学的特性、特に良好な果実品質および果実一様性の市場性のある果実を産生する。
【0116】
本明細書で使用されるとき、用語「変種」または「栽培品種」は、所与の遺伝型または遺伝型の組合せから得られた特性の発現により規定することができる知られる最下位の単一植物分類内の植物群を意味する。
【0117】
「F1ハイブリッド」植物(またはF1ハイブリッド種子)は、2つの親近交系の交雑から得られた世代である。したがって、F1ハイブリッド種子は、F1ハイブリッド植物が生育する種子である。F1ハイブリッドは、雑種強勢によるものでより活発でより高収穫である。近交系は、ゲノム内の大部分の座位において本質的にホモ接合である。
【0118】
「植物系統」または「育種系統」は、植物およびその子孫を表す。本明細書で使用されるとき、用語「近交系」は、繰り返し自殖した植物系統を表し、ほとんどホモ接合である。したがって、「近交系」または「親系統」は、高い一様性を有する植物系統において得られた同系交配のいくつかの世代(例えば、少なくとも5、6、7以上)を経験した植物を表す。
【0119】
スイカサイクリンSDS様アレルは、ゲノムの染色体7(ヌクレオチド7450185と7445051の間)に位置する。染色体位置を、全ゲノムに対して、例えば、icugi.org/pub/genome/watermelon/97103のワールドワイドウェブのBLASTを実行することにより決定することができる。キュウリサイクリンSDS様アレルは、キュウリゲノムの染色体5(ヌクレオチド848447と852718の間)に位置するように思われる(icugi.org/pub/genome/cucumber/Chinese_long/のワールドワイドウェブ)。
【0120】
スイカに関して、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを、NCIMB42532で寄託されているサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してヘテロ接合またはホモ接合であるスイカ種子から得ることができる。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の野生型アレルを、NCIMB42532で寄託されている野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子に対してヘテロ接合またはホモ接合であるスイカ種子から得ることができる。寄託されている種子に関して、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のそれぞれのアレルは、emb1と命名された。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の他の変異体アレルを、例えば、変異誘発または当業者に公知の他の方法により、新たに生成することができる。これは、いずれの植物種にも当てはまる。
【0121】
スイカにおいて、新たに別の変異体SDS様アレルを生成する他の例は、実施例で提供している。ここで、発明者らは、スイカ種子の変異誘発により変異体集団を生成し、次いで、TILLINGを使用して変異体SDS様アレルを含んでなる植物を同定した。同定されたアレルは、配列番号1のヌクレオチド1687において単一のヌクレオチド置換を含んでなり、終止コドンをもたらす。したがって、変異体アレルは、野生型タンパク質のアミノ酸1~223のみを含んでなる短縮サイクリンSDS様タンパク質をコードする(配列番号18参照)。
【0122】
NCIMB42532で寄託されているSDS様タンパク質をコードする遺伝子のアレルに対してヘテロ接合またはホモ接合である種子から得ることができる/得られた植物細胞、植物部分もしくは植物またはその子孫も、本発明の実施態様である。好ましい実施態様では、NCIMB42532で寄託されている種子から得ることができる/得られた植物細胞、植物部分もしくは植物またはその子孫は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である。本発明のさらに含まれる実施態様は、受託番号NCIMB42532で寄託されている種子から得られたスイカ植物を別の植物と交雑後に得られた/得ることができるサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である植物細胞、植物部分または植物に関する。好ましくは、受託番号NCIMB42532で寄託されている種子から得られた植物を別の植物と交雑後に得られた/得ることができる植物細胞または植物をその後に自家受粉し、必要に応じて、さらなるステップにおいて、種なし果実を実らせる植物を選択および/またはサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である植物を選択する。
【0123】
用語「アレル(単数または複数)」は、特定の座位における遺伝子の1つ以上の選代替形態のいずれかであり、このアレルの全ては特定の座位において1つの形質または特性に関係する。器官の二倍体細胞では、所与の遺伝子のアレルは、染色体上の特定の位置、または座位(座位(複数))に位置する。1つのアレルは、相同染色体のついの各染色体上に存在する。二倍体植物種は、特定の座位における多数の異なるアレルを含んでなり得る。これらは、遺伝子の同じアレル(ホモ接合)であってもよく、2つの異なるアレル(ヘテロ接合)であってもよい。
【0124】
「野生型アレル」は、本明細書において、完全に機能するタンパク質(野生型タンパク質)をコードする遺伝子の型を表す。完全に機能するサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の配列は、例えば、配列番号1(栽培されたスイカから)および配列番号5(栽培されたメロンから)で示された野生型サイクリンSDS様タンパク質配列のコード配列である。この野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子によりコードされたアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号2または配列番号6に示されている。他の野生型サイクリンSDS様タンパク質は、配列番号12(キュウリ)、配列番号19(トマト)および配列番号20(トウガラシ)で示されている。完全に機能するサイクリンSDS様タンパク質アレル(すなわち、多様体アレル、またはアレル多様体)をコードする他のサイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸配列は他の植物中に存在し、配列番号1もしくは配列番号5で示される核酸配列の少なくともコード配列、または配列番号2もしくは配列番号6もしくは配列番号12、もしくは配列番号19もしくは配列番号20で示されたアミノ酸配列と実質的配列同一性を含んでなり得る。例えば、配列番号12の栽培されたキュウリサイクリンSDS様タンパク質は、メロン(配列番号6)の野生型サイクリンSDS様タンパク質と86%アミノ酸配列同一性を有し、スイカ(配列番号2)の野生型SDS様タンパク質と70%アミノ酸配列同一性を有する。
【0125】
「変異体アレル」は、本発明との関連で、対応する野生型アレルと比較して変異を有するアレルを意味すると理解されるものとする。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルから転写されたmRNAの例は、配列番号3で示される。配列番号3で示されたmRNAによりコードされた対応するアミノ酸配列は、配列番号4で示される。
【0126】
用語「座位」(座位(複数))は、例えば、遺伝子または遺伝子マーカーが見られる染色体上の特定の場所もしくは場所(複数)または部位を意味する。
【0127】
核酸分子(DNAまたはRNA)中の「変異」は、対応する野生型配列と比較して、例えば、1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失または挿入による1つ以上のヌクレオチドの変化である。かかる変異の例は、点変異、ナンセンス変異、ミスセンス変異、スプライス部位変異、フレームシフト変異または制御配列中の変異である。
【0128】
「核酸分子」は、当技術分野において共通の理解を有する。核酸分子は、糖類デオキシリボース(DNA)またはリボース(RNA)のいずれかを含んでなるヌクレオチドからなる。
【0129】
「点変異」は、単一のヌクレオチドの置換、または単一のヌクレオチドの挿入もしくは欠失である。
【0130】
「ナンセンス変異」は、タンパク質をコードする核酸配列中の(点)変異であり、これにより、核酸分子中のコドンが終止コドンに変化する。これは、mRNA中に存在する中途終止コドンをもたらし、短縮タンパク質の翻訳をもたらす。短縮タンパク質は、機能低下または機能喪失し得る。
【0131】
「ミスセンスまたは非同義変異」は、タンパク質をコードする核酸配列中の(点)変異であり、これにより、コドンは変化して異なるアミノ酸をコードする。得られたタンパク質は、機能低下または機能喪失し得る。
【0132】
「スプライス部位変異」は、タンパク質をコードする核酸配列中の変異であり、これにより、プレmRNAのRNAスプライシングが変化し、野生型と異なるヌクレオチド配列を有するmRNAおよび異なるアミノ酸配列を有するタンパク質をもたらす。得られたタンパク質は、機能低下または機能喪失し得る。
【0133】
「フレームシフト変異」は、タンパク質をコードする核酸配列中の変異であり、これにより、mRNAのリーディングフレームは変化し、異なるアミノ酸配列をもたらす。得られたタンパク質は、機能低下または機能喪失し得る。
【0134】
本発明との関連で、「欠失」は、所与の核酸配列中のどこでも、少なくとも1つのヌクレオチドが対応する野生型配列の核酸配列と比較して欠損しているか、または所与のアミノ酸配列中のどこでも、少なくとも1つのアミノ酸が対応する(野生型)配列のアミノ酸配列と比較して欠損していることを意味する。
【0135】
「短縮化」は、ヌクレオチド配列の3’末端もしくは5’末端のいずれかにおける少なくとも1つのヌクレオチドが、対応する野生型配列の核酸配列と比較して欠損しているか、またはタンパク質のN末端もしくはC末端のいずれかにおいて少なくとも1つのアミノ酸が、対応する野生型タンパク質のアミノ酸配列と比較して欠損しており、これにより、3’末端もしくはC末端短縮化において、それぞれ、少なくとも5’末端の第一ヌクレオチドまたはN末端の第一アミノ酸がまだ存在し、5’末端もしくはN末端短縮化において、それぞれ、少なくとも3’末端の最終ヌクレオチドまたはC末端の最終アミノ酸がまだ存在することを意味すると理解されるべきである。5’末端は、対応する野生型核酸配列の翻訳において開始コドンとして使用されるATGコドンにより決定される。
【0136】
「置換」は、核酸配列中の少なくとも1つのヌクレオチドまたはタンパク質配列中の1つのアミノ酸が、それぞれのタンパク質のコード配列中のヌクレオチドの交換により、それぞれ、対応する野生型核酸配列または対応する野生型アミノ酸配列と比較して異なることを意味する。
【0137】
「挿入」は、タンパク質の核酸配列またはアミノ酸配列が、それぞれ、対応する野生型核酸配列または対応する野生型アミノ酸配列と比較して、少なくとも1つの追加のヌクレオチドまたはアミノ酸を含んでなることを意味する。
【0138】
本発明との関連で、中途終止コドンは、対応する野生型コード配列の終止コドンと比較して、5’末端の開始コドンに近いコード配列(cds)中に終止コドンが存在することを意味する。
【0139】
例えば、遺伝子のプロモーターまたはエンハンサーにおいて、「制御配列中の変異」は、野生型配列と比較して、例えば、作成される遺伝子のmRNA転写産物の減少をもたらすか、またはmRNA転写産物を作成しなくさせる、例えば、1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失もしくは挿入による1つ以上のヌクレオチドの変化である。
【0140】
「ホモ接合」は、本明細書において、細胞または生物内の対応する染色体座位における所与の遺伝子またはアレルの全ての複製物が同じであることを意味するものとする。「変異体アレルに対してホモ接合」は、細胞または生物内の対応する染色体座位におけるそれぞれの変異体アレルの全ての複製物が同じであることを意味する。
【0141】
「ヘテロ接合」は、本明細書において、細胞または生物内の特定の染色体座位における所与の遺伝子またはアレルの少なくとも1つの複製物が、他の染色体中の対応する座位(単数)/座位(複数)における遺伝子(単数または複数)またはアレル(単数または複数)の他の複製物と異なることを意味するものとする。「変異体アレルに対してヘテロ接合」は、細胞または生物内の特定の染色体座位における少なくとも1つのアレルが、他の染色体中の対応する座位(単数)/座位(複数)におけるアレル(単数または複数)と異なる配列を有することを意味する。
【0142】
「タンパク質中の変異」は、野生型配列と比較して、例えば、1つ以上のアミノ酸残基の置換、欠失、短縮化または挿入による1つ以上のアミノ酸残基の変化である。
【0143】
植物細胞または植物の所望の遺伝子/アレルに変異を導入するバイオテクノロジー手法は、当技術分野において公知である。したがって、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを、これらの方法を用いて植物細胞または植物中に生産することができる。かかる技術の例は、特に変異誘発技術または植物のゲノム内の二重鎖DNA切断を誘導する酵素(二重鎖DNA切断誘導酵素(DSBI))である。公知技術および実践技術は、レア切断エンドヌクレアーゼおよび、これに限定されないが、メガヌクレアーゼとも呼ばれるホーミングエンドヌクレアーゼを含むカスタムテーラードレア切断エンドヌクレアーゼ、ヌクレアーゼの酵素ドメインと融合した転写活性化因子様エフェクター(TALEN)およびいわゆるCRISPR/Casシステムである。
【0144】
全てのこれらの技術は、植物細胞または植物中の遺伝子に変異を誘導するのに適している。したがって、レア切断エンドヌクレアーゼまたはカスタムテーラードレア切断エンドヌクレアーゼによる変異体アレルへ変異を誘導した、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを有する本発明による植物細胞および植物も本発明の実施態様である。カスタムテーラードレア切断エンドヌクレアーゼに関して、サイクリンSDS様タンパク質の変異体アレル中の変異は、好ましくは、メガヌクレアーゼ、TALENまたはCRISPR/Casシステムにより誘導された。
【0145】
本明細書で使用されるとき、「二重鎖DNA切断誘導酵素(DSBI)」は、「認識部位」と呼ばれる特定のヌクレオチド配列における二重鎖DNA切断を誘導することができる酵素である。レア切断エンドヌクレアーゼは、約14~70連続ヌクレオチドの認識部位を有するDSBI酵素であり、したがって、大部分の植物ゲノムなどのより大きなゲノム内においてさえ、非常に低頻度の切断を有する。
【0146】
「メガヌクレアーゼとも呼ばれるホーミングエンドヌクレアーゼ」は、かかるレア切断エンドヌクレアーゼのファミリーを構成する。これらは、イントロン、独立した遺伝子または介在配列によりコードされ、これらをより古典的な制限酵素、通常、細菌性制限修飾II型系と区別する著しい構造的および機能的特性を示し得る。これらの認識部位は、大部分の制限酵素の認識部位の特徴的二分子対称性と対照をなす全体的な非対称性を有する。イントロンまたはインテインによりコードされたいくつかのホーミングエンドヌクレアーゼは、アレルのイントロン無し部位またはインテイン無し部位へのこれらのそれぞれの遺伝因子のホーミングを促進することが分かった。イントロン無しまたはインテイン無しアレル中の部位特異的二重鎖切断を行うことにより、これらのヌクレアーゼは組換え誘導末端を生成し、これはコード配列を複製する遺伝子転換過程に携わり、DNAレベルにおいてイントロンまたは介在配列の挿入をもたらす。
【0147】
他のレア切断メガヌクレアーゼおよびこれらのそれぞれの認識部位のリストは、国際公開第03/004659号の表1(17~20頁)(参照により本明細書に組み入れられる)に提供されている。これらとしては、I-Sce I、I-Chu I、I-Dmo I、I-Cre I、I-Csm I、PI-Fli I、Pt-Mtu I、I-Ceu I、I-Sce II、I-Sce III、HO、PI-Civ I、PI-Ctr I、PI-Aae I、PI-BSU I、PI-DhaI、PI-Dra I、PI-Mav I、PI-Mch I、PI-Mfu I、PI-Mfl I、PI-Mga I、PI-Mgo I、PI-Min I、PI-Mka I、PI-Mle I、PI-Mma I、PI-Msh I、PI-Msm I、PI-Mth I、PI-Mtu I、PI-Mxe I、PI-Npu I、PI-Pfu I、PI-Rma I、PI-Spb I、PI-Ssp I、PI-Fac I、PI-Mja I、PI-Pho I、PI-Tag I、PI-Thy I、PI-Tko IまたはPI-Tsp Iが挙げられる。
【0148】
さらに、基本的に選択のいずれもの標的ヌクレオチド配列を認識する「カスタムテーラードレア切断エンドヌクレアーゼ」を設計する方法が利用できる。簡潔に言えば、キメラ制限酵素を、特定のヌクレオチド配列を認識するように設計された亜鉛フィンガードメインおよびFokIなどの天然制限酵素由来の非特異的DNA切断ドメインの間のハイブリッドを用いて生産することができる。かかる方法は、例えば、国際公開第03/080809号、国際公開第94/18313号または国際公開第95/09233号およびIsalan et al., 2001, Nature Biotechnology 19, 656- 660; Liu et al. 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 5525-5530に記載されている。カスタムメイドメガヌクレアーゼを、国際公開第2004/067736号に記載されているように多様体のライブラリーから選択することにより生産することができる。改変された配列特異性およびDNA結合親和性を有するカスタムメイドメガヌクレアーゼを、国際公開第2007/047859号に記載されているように合理的設計により得ることもできる。
【0149】
カスタム設計エンドヌクレアーゼの別の例としては、いわゆる「TALEヌクレアーゼ(TALEN)」が挙げられ、これは、ヌクレアーゼ(例えば、FOKI)の酵素ドメインと融合した細菌属ザントモナス属(Xanthomonas)由来の転写活性化因子様エフェクター(TALE)に基づいている。これらのTALEのDNA結合特異性は、1つのRVDが標的DNAの1つのヌクレオチドを特異的に認識するように、タンデム配列された34/35アミノ酸反復単位の反復可変二残基(RVD)により規定される。反復単位をアセンブルしていずれかの標的配列を基本的に認識し、ヌクレアーゼクリエイト配列特異的エンドヌクレアーゼの酵素ドメインと融合することができる(例えば、Boch et al., 2009, Science 326:p1509-1512; Moscou and Bogdanove, 2009, Science 326:p1501;Christian et al., 2010, Genetics 186:p757-761;および国際公開第10/079430号、国際公開第11/072246号、国際公開第2011/154393号、国際公開第11/146121号、国際公開第2012/001527号、国際公開第2012/093833号、国際公開第2012/104729号、国際公開第2012/138927号、国際公開第2012/138939号参照)。国際公開第2012/138927号は、単量体(コンパクト)TALENおよび様々な酵素ドメインを含むTALENならびにその組合せについてさらに記載している。
【0150】
近年、カスタマイズ可能なエンドヌクレアーゼシステムの新タイプが記載された;いわゆる「CRISPR/Casシステム」、これは関連ヌクレアーゼCas9の切断をガイドする配列特異性を与える特別なRNA分子(crRNA)を使用する(Jinek et al, 2012, Science 337:p816-821)。かかるカスタム設計レア切断エンドヌクレアーゼは、非天然レア切断エンドヌクレアーゼとも呼ばれる。
【0151】
植物細胞または植物の遺伝子/アレルに変異を誘導するための当技術分野で公知のさらなる方法は、いわゆる「インビボ変異誘発」である。それぞれの技術のさらなる考察は本明細書中下記に示す。
【0152】
変異体アレルへの変異がインビボ変異誘発により誘導されたサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを有する本発明による植物細胞または植物も、本発明の実施態様である。
【0153】
当技術分野において広く知られている様々な技術は、植物細胞または植物における挿入変異の生成に適している。
【0154】
本発明のさらなる実施態様は、変異体アレルへの変異が挿入変異誘発により誘導されたサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを有する本発明による植物細胞および植物である。
【0155】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを有する本発明による植物細胞および本発明による植物を、いわゆる挿入変異誘発により生産することができる。詳細には、トランスポゾンおよびトランスファーDNA(T-DNA)配列のサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子/アレルへの挿入は、これらが組み込まれるそれぞれの遺伝子/アレルの発現および/または活性の低下に適している(Thorneycroft et al., 2001, Journal of experimental Botany 52 (361), 1593-1601)。
【0156】
当業者に公知のそれぞれの技術のさらなる考察を、本明細書中、さらに下記に提供する。
【0157】
「挿入変異誘発」は、トランスポゾンまたはいわゆるトランスファーDNA(T-DNA)を、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子に挿入し、これにより、この結果として、該当する細胞のサイクリンSDS様タンパク質の活性を低下または機能しないサイクリンSDS様タンパク質を産生することを特に意味すると理解されるものとする。
【0158】
さらに好ましい実施態様では、本発明による植物は雄性稔性植物である。
【0159】
本発明による植物は雄性稔性であり、変異体サイクリンSDS様アレルがホモ接合体で存在する場合、種なし果実を実らせる。雄性不稔性植物に勝る雄性稔性植物の利点は、生存可能な花粉を産生し、したがって、種なし果実を実らせる雌性植物の果実の着果および発育を誘発するための同じ畑の第二植物、いわゆる花粉媒介植物を植える必要がないことである。したがって、栽培の全面積は、種なし果実を実らせる植物を植えて、栽培面積当たりの種なし果実の収穫量の増大をもたらすことができる。胚珠および花粉は同じ植物により産生するので、雄性および雌性植物部分の開花および受精のタイミングの同調性も得られる。このことは、最大可能な量の果実の産生のために起こる充分な受粉を保証する。
【0160】
本発明との関連で、「雄性稔性植物」は、生存可能な花粉を産生する植物であると理解されるものとする。生存可能または稔性の花粉が産生されることは、例えば、別の異なる植物と他家受粉してこの交雑から生存可能な種子を得るためのそれぞれの植物からの花粉を用いることにより示すことができる。
【0161】
1つの態様において、本発明による植物の種なし果実産生表現型は、二倍体植物だけでなく多倍数性植物においても生じる。1つの態様では、本発明による植物は、異なる倍数性を有する場合でも種なし果実を実らせる。したがって、本発明による植物細胞または植物は、偶数の倍数性(2n、4n、6n、8n、その他)を有する植物および奇数の倍数性(3n、5n、その他)を有する植物を含んでなるいずれの倍数性を有する植物も含んでなる。1つの態様では、変異体サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子は二倍体植物においてホモ接合であるが、別の態様では、変異体SDS様タンパク質は四倍体スイカなどの多倍性植物においてホモ接合である。「多倍性植物においてホモ接合」は、各染色体上の座位が変異体アレルを含んでなり、遺伝子の野生型アレルは含まないことを意味する。
【0162】
多倍数化は植物において広く及んでいる。多倍数化は、遺伝的多様性の増大ならびに頑強さ、サイズ、活力および耐病性の増強を示す種の産生に関与している。多倍体植物の明らかな利点は、雑種強勢および遺伝子重複である。
【0163】
今日の栽培エーカー数およびプランテーション作物は、1つ以上のゲノム重複を経験してきた。例は、ワタ(増倍率×6)、ジャガイモ(×2、×3)、パンコムギ(×3)、油糧種子(×3)、トウモロコシ(×2)、ダイズ(×2)、ヒマワリ(×2)、リンゴ(×2)およびコーヒー(×2)(Renny-Byfield 7 Wendel, 2014, American J. Botany, 101(10), 1711-1725)。
【0164】
詳細には、野菜の育種において、様々な植物の多倍性は、コルヒチン、コルカミン、オリザリン、コルセミド、トリフルラリンまたはアミプロホスメチルを含む化学薬品の使用により誘導された。化学薬品の使用により生産された野菜のゲノム重複の例は、一倍体植物(2×)からの二倍体芽キャベツ、四倍体エンドウマメ(2×)、四倍体スイカ(2×)、四倍体マスクメロン(2×)、四倍体タマネギ(2×)、八倍体ココヤム(4×)、四倍体カラスウリ(2×)、三倍体および四倍体フルーテッドパンプキン(1.5×、2×)、四倍体キュウリ(2×)ならびに四倍体サヤマメ(2×)である(Kazi, 2015, J. Global Biosciences 4(3), 1774-1779)。
【0165】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる植物を、当業者に広く知られている様々な方法により生産することができる。これらの方法は、受託番号NCIMB42532として寄託されている種子の使用を含む。これらの寄託された種子の特定の利点は、変異体アレルを含んでなる種子から生育される植物が雄性稔性であることである。したがって、これらの植物中に存在するサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを、他の植物、特に、他のスイカ植物、特に栽培スイカを受精するために、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる植物の花粉の使用により、他の植物に導入することができる。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルは劣性であるので、種なし果実の産生は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の優性の野生型アレルがそれぞれの植物中に存在しない場合にのみ見られる。したがって、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の野生型アレルが植物内で存在する場合、これらの植物は種あり果実を実らせる。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である二倍体種子由来のサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレル(例えば、受託番号NCIMB42532またはその子孫由来)を、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の劣性変異体アレルを含まない別の植物に移動する場合、F1世代はヘテロ接合であり、種なし果実表現型を示さないだろう。F1は、存在する劣性変異体アレルの2つの複製物(ホモ接合)により、種なし果実表現型を含んでなる植物を得るために先ず自家受粉することが必要である。
【0166】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの2つの複製物を含んでなる二倍体植物を使用して、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの4つの複製物を含んでなる四倍体植物を生産することができる。かかる四倍体植物は、二倍体と同じ表現型を有する、すなわち、種なし果実(四倍体である)および生存可能な花粉を産生するだろう。
【0167】
四倍体植物由来のサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の劣性変異体アレルを含まない別の四倍体植物へ移動する場合、F1世代はヘテロ接合であり、種なし果実表現型を示さない。種なし果実表現型は、自家受粉したF1世代から得られた世代においてのみ見られる。
【0168】
前述のように、種なし果実表現型を含んでなる四倍体植物を、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である二倍体植物の染色体を複製することにより生成することができる(例えば、受託番号NCIMB42532由来のサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である種子から、または受託番号NCIMB42532の種子から得られた植物を別の植物と交雑し、必要に応じて、その後前記交雑から得られた植物を自家受粉した後に得られたサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である植物から)。そのように得られた四倍体植物は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの4つの複製物を含んでなる。
【0169】
植物の有性生殖した細胞(花粉および胚珠)は、前記植物の残りの細胞の組の半分である1組の染色体を含んでなる。植物花粉および胚珠を、植物全体に再生することができる。したがって、偶数の倍数性を有する植物の場合、概して、花粉または胚珠の再生時倍数性が半減することが可能である。偶数の倍数性(2n、4n、6n、8n、その他)を有する本発明による植物から、二分割セットの染色体(例えば、それぞれ、1n、2n、3n、4n、その他)を有する植物を、花粉または胚珠の再生によって生産することができる。
【0170】
本発明による二倍体植物を、例えば、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる花粉または胚珠細胞、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる四倍体植物から得られる花粉または胚珠細胞から再生することができる。好ましくは、二倍体植物から得られる花粉または胚珠細胞は、ホモ接合形態でサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる。それから、誘導された二倍体植物を、さらに育種および種なし果実表現型を有する植物の再生に使用してもよい。
【0171】
三倍体植物を、本発明による二倍体(2n)植物を本発明による四倍体(4n)植物と交雑することにより生産することができる。前記交雑由来のハイブリッド植物種子は三倍体(3n)である。好ましくは、互いに交雑した本発明による二倍体(2n)および四倍体(4n)植物は両方とも、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である。得られた三倍体種子(および種子から生育した三倍体植物)は、変異体アレルの3つの複製物を有する。三倍体ハイブリッドの生産に使用される二倍体植物は、例えば、受託番号NCIMB42532の種子から得られたサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である種子から得られた/得ることができる植物であり得る。
【0172】
このような方法の1つにより得ることができる/得られたサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる植物(例えば、二倍体、三倍体または四倍体、または別の倍数性)および植物部分(果実など)も、本発明の実施態様である。かかる植物が生育することができる種子も本発明の実施態様である。
【0173】
本発明の好ましい実施態様では、本発明による植物細胞または植物は偶数の倍数性を有し、好ましくは、これらは二倍体(2n)または四倍体(4n)である。
【0174】
減数分裂中、染色体は娘細胞に等しく分裂することができないので、奇数の倍数性を有する植物、例えば、三倍体(3n)植物は通常雄性および雌性不稔性である。奇数の倍数性を有する植物、例えば、三倍体(3n)植物に勝る、偶数の倍数性を有する植物、例えば、二倍体(2n)または四倍体(4n)植物の利点は、偶数の倍数性を有する植物が生存可能な花粉および/または生存可能な胚珠を産生することができることである。結果として、偶数の倍数性を有する植物は、奇数の倍数性を有する植物の果実の着果および発育を誘発するために必要な第二の異なる、いわゆる花粉媒介植物を必要としないで生育することができる。花粉媒介植物も、通常種あり(または有核果)になる果実を産生するだろう。これらの種あり果実を、収穫時または収穫後に種なし果実から分離しなければならない。したがって、偶数の倍数性を有する植物は、花粉媒介植物により産生された望ましくない種あり果実を、所望の種なし果実から分離する必要のない奇数の倍数性を有する植物に勝る利点を有する。
【0175】
本発明との関連で「偶数の倍数性」は、細胞または生物中に存在する相同染色体セットの数を2で割った場合に結果が整数であることを意味する。したがって、細胞または生物は、二倍体(2n)、四倍体(4n)、六倍体(6n)、八倍体(8n)、その他である。
【0176】
本発明との関連で「奇数の倍数性」は、細胞または生物中に存在する相同染色体セットの数を2で割った場合に結果が整数でないことを意味する。したがって、細胞または生物は、一倍体(1n)、三倍体(3n)、その他である。
【0177】
本発明との関連で「二倍体植物細胞または植物」は、本明細書中、2nと命名する、対応する染色体の2セットを有する植物、栄養植物部分(単数または複数)、果実もしくは種子または植物細胞を意味する。
【0178】
本発明との関連で「四倍体植物細胞または植物」は、本明細書中、4nと命名する、対応する染色体の4セットを有する植物、栄養植物部分(単数または複数)、果実もしくは種子または植物細胞を意味する。
【0179】
本発明による植物細胞は、植物全体に再生することができる植物細胞または植物全体に再生することができない植物細胞であり得る。したがって、本発明による植物細胞は、植物全体を再生するのに適さない植物細胞である場合がある。
【0180】
好ましい実施態様では、本発明による植物は雄性稔性であり、偶数の倍数性を有する。好ましくは、本発明による植物は雄性稔性であり、二倍体(2n)または四倍体(4n)である。
【0181】
別の好ましい実施態様では、本発明による植物は、偽単為結果植物である。より好ましくは、本発明による植物は、雄性稔性偽単為結果植物である。なおさらに好ましくは、本発明による植物は雄性稔性偽単為結果であり、偶数の倍数性を有する。雄性稔性偽単為結果で二倍体(2n)または四倍体(4)である本発明による植物は特に好ましい。
【0182】
偽単為結果植物は、種なし果実を実らせる。雄性稔性偽単為結果植物は、これらが、同じ面積に生育される異なる花粉媒介植物を必要としないが、それにもかかわらず、種なし果実を実らせるという、公知の偽単為結果植物より勝る利点を有する。花粉媒介植物は望ましくない種あり果実を実らせるが、種なし果実からこれらを分離しなければならない。したがって、偽単為結果雄性稔性植物は、所望の種なし果実を実らせる植物と授粉媒介植物の間のスペースおよび栄養分の競争がないという利点を有し、このことは利用可能な栽培面積当たりの所望の種なし果実の収穫量を増大させる。
【0183】
「偽単為結果」は、概して、当技術分野において理解され、本発明との関連で、果実の着果および発育の誘導が受粉を必要とするが、成熟種子または生存可能な種子を産生する果実がないことを意味すると理解されるものとする。偽単為結果において、抑止された種子発育または胚珠および/もしくは胚芽の退化または胚珠および/もしくは胚芽および/もしくは内乳の発育不全により、成熟に達する前に成熟種子または生存可能な種子は発育しない。
【0184】
偽単為結果と異なることは、単為結果である。「単為結果」は、概して、当技術分野において理解され、本発明との関連で、雌性胚珠の受精がなく、果実が発育することを説明すると理解されるものとする。受粉がない結果として種なしである果実を実らせても、受粉過程は必要ない。
【0185】
本発明のさらに好ましい実施態様では、本発明による植物は種なし果実を実らせる。
【0186】
本発明による植物の開実は、種子のような外観を有する構造物を含んでもよい。種子のような外観を有するこれらの構造物は、暗褐色または黒く、硬い野生型植物の種子と比較して、通常、白く柔らかい。本発明の記載の植物の開実中の種子のような外観を有する構造物は、しいなと表されることもある。しかしながら、これらは生存可能な胚芽を含まないが胚珠の珠皮由来の構造物であるので、これらは真の種子ではない。
【0187】
本発明のより好ましい実施態様では、本発明による植物は種なし果実を実らせ、および/または雄性稔性であり、および/または偶数の倍数性を有し、および/または偽単為結果である。さらにより好ましくは、本発明による植物は種なし果実を実らせ、雄性稔性であり、二倍体(2n)または四倍体(4n)であり、偽単為結果である。
【0188】
その植物に関する意味において用語「果実」は、被子植物の花の子房から発育した種あり構造物であると共通に理解される。
【0189】
当技術分野において、特に、育種において共通に使用されるとき、「果実」の植物に関する意味とどうも矛盾するが、「種なし果実」は、本発明との関連で、成熟または生存可能な種子を有しない果実であると理解されるものとする。成熟または生存可能な種子は、それぞれの植物に適した条件で土壌中で発芽して植物に生育することができる。この試験を使用して、植物が種なし果実を実らせるか否かを決定することができる。種なし果実は、それぞれの植物に適した条件で土壌中で発芽して植物に生育する種子を産生しないだろう。
【0190】
本明細書で開示された種なし果実の産生の原因遺伝子を知ることによって、様々な公知の方法により種なし果実産生植物を産生することが可能となる。これらの方法は、非機能的サイクリンSDS様タンパク質をコードする変異体アレルまたは機能低下もしくは機能喪失したサイクリンSDS様タンパク質をコードする変異体アレルを有する植物を生産して選択することに依存し得るか、または化学薬品などの従来の変異剤、高エネルギー照射(例えば、X線、中性子照射、ガンマ線照射またはUV照射)を用いることによる。遺伝子技術によって、非機能的サイクリンSDS様タンパク質を有するかまたはサイクリンSDS様タンパク質の活性低下した植物を生産することもできる。
【0191】
本発明による植物を、1つ以上の変異を、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のアレルに誘導することにより生産することができる。
したがって、本発明のさらなる実施態様は:
a)変異を植物集団に誘導するステップ
b)種なし果実を産生する雄性稔性植物を選択するステップ
c)b)で選択された植物がサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のアレル中に変異を有するか否かを確認するステップ、必要に応じて、
d)c)で得られた植物を生育/栽培するステップ
を含む植物の生産方法に関する。
【0192】
したがって、1つの態様は:
a)変異を植物集団に誘導するステップ
b)種なし果実を産生する雄性稔性植物を選択するステップ
c)b)で選択された植物がサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子をコードするアレル中に変異を有するかどうかを検証し、このような変異を含んでなる植物を選択するステップ、および必要に応じて、
d)c)で得られた植物を生育/栽培するステップ
を含む植物の生産方法であって、
遺伝子の野生型アレルが、配列番号2または配列番号6または配列番号12または配列番号19または配列番号20の群から選択されるタンパク質のいずれか1つと、少なくとも60%配列同一性を含んでなるサイクリンSDS様タンパク質をコードする、
前記方法である。
【0193】
しかしながら、1つの態様では、ステップの順序は異なっていてもよい。
【0194】
それで、1つの態様では:
a)変異を植物集団に誘導するステップ
b)サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子をコードするアレル中に変異を有する植物を同定するステップ、および必要に応じて、
c)植物が雄性稔性であるかどうか、植物または自家受精により産生された子孫植物が種なし果実を実らせるかどうかを決定するステップ
を含む植物の生産方法。
【0195】
必要に応じて、方法は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの少なくとも1つの複製物を含んでなる植物を選択することを含む。ホモ接合体である場合、変異体アレルは、種なし果実の産生をもたらす。アレルを含んでなる植物は雄性稔性である。
【0196】
1つの態様では、遺伝子の野生型アレルは、配列番号2または配列番号6または配列番号12または配列番号19または配列番号20の群から選択されるタンパク質のいずれか1つと、少なくとも60%配列同一性を含んでなるサイクリンSDS様タンパク質をコードする。
【0197】
これらの方法のステップa)(すなわち、植物集団に変異を誘導すること)を上記方法において省略することもできる。
【0198】
「植物集団」は、本発明との関連で、1つより多い植物全体を意味し、植物部分、果実、種子または植物細胞も含んでなる。いずれの場合にも、植物部分、果実、種子または植物細胞は1つより多い植物に由来し、「植物部分、果実、種子または植物細胞の集団」に関して、植物部分、果実、種子または植物細胞をそれぞれ単一の植物から得ないが、複数の植物から得ることを意味する。
【0199】
化学的に誘導された変異および対応する変異誘発の影響から得られた変異を得るために使用することができる化学物質は、例えば、EhrenbergおよびHusain、1981(Mutation Research 86, 1-113)、Mueller、1972(Biologisches Zentralblatt 91 (1), 31-48)に記載されている。ガンマ線照射、エチルメタンスルホン酸(EMS)、N-メチル-N-ニトロソウレアまたはアジ化ナトリウム(NaN3)を用いたコメ変異体の生産は、例えば、JauharおよびSiddiq(1999, Indian Journal of Genetics, 59 (1), 23-28))、Rao(1977, Cytologica 42, 443-450)、GuptaおよびSharma(1990, Oryza 27, 217-219)ならびにSatohおよびOmura(1981, Japanese Journal of Breeding 31 (3), 316-326)に記載されている。NaN3またはマレイン酸ヒドラジドを用いたコムギ変異体の生産はAroraら(1992, Annals of Biology 8 (1), 65-69)に記載されている。異なる種類のエネルギー豊富な照射および化学物質を用いたコムギ変異体の生産の概要は、Scarascia-Mugnozzaら(1993, Mutation Breeding Review 10, 1-28)に表されている。Svecら(1998, Cereal Research Communications 26 (4), 391-396)は、ライコムギにおいて変異を得るためのN-エチル-N-ニトロソウレアの使用について記載している。アワ変異体の生産のためのMMS(メチルメタンスルホン酸)およびガンマ線照射の使用は、Shashidharaら(1990, Journal of Maharashtra Agricultural Universities 15 (1), 20-23)に記載されている。
【0200】
主に栄養繁殖する植物種における変異体の製造は、例えば、加工デンプンを産生するジャガイモについて(Hovenkamp-Hermelink et al. 1987, Theoretical and Applied Genetics 75, 217-221)、および油収穫量増大または修飾された油品質を有するミントについて(Dwivedi et al., 2000, Journal of Medicinal and Aromatic Plant Sciences 22, 460-463)記載されている。
【0201】
全てのこれらの方法は、基本的に、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子中の変異体アレルを産生するための本発明による植物の生産方法に適している。本発明による植物の生産方法において、好ましくは、変異体集団を、変異を誘導するために、エチルメタンスルホン酸(EMS)を植物または植物の種子に適用することにより生産することができる。
【0202】
種なし果実を実らせる植物の選択を、果実を単純な目視スクリーニング/表現型検査により行うことができる。種なしの表現型はホモ接合状態でのみ見られるので、変異誘発された植物の集団の自家受粉は表現型検査前に好ましい。この稔性花粉は植物により産生され、例えば、別の、異なる、雌性稔性植物の他家受粉のためにそれぞれの植物の花粉を使用することにより示すことができる。この交雑から得た種子が生存可能である場合に、他家受粉で使用される花粉は稔性である。適切なアレル、特に、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のアレルにおける変異を、当業者に公知の方法の助けで見出すことができる。特に、プローブとのハイブリダイゼーションに基づく分析(サザンブロット法)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅、関連ゲノム配列のシークエンシングおよび個別のヌクレオチド交換に関する検索をこの目的のために使用することができる。ハイブリダイゼーションパターンに基づく変異の同定方法は、例えば、制限酵素断片長差の検索(制限酵素断片長多型、RFLP)である(Nam et al., 1989, The Plant Cell 1, 699-705; Leister and Dean, 1993, The Plant Journal 4 (4), 745-750)。PCRに基づく方法は、例えば、増幅断片長差( 増幅断片長多型、AFLP)である(Castiglioni et al., 1998, Genetics 149, 2039-2056; Meksem et al., 2001, Molecular Genetics and Genomics 265, 207-214; Meyer et al., 1998, Molecular and General Genetics 259, 150-160)。制限エンドヌクレアーゼ(切断増幅多型配列、CAPS)で切り取られた増幅フラグメントの使用を、変異の同定のために使用することもできる(Konieczny and Ausubel, 1993, The Plant Journal 4, 403-410; Jarvis et al., 1994, Plant Molecular Biology 24, 685-687; Bachem et al., 1996, The Plant Journal 9 (5), 745-753)。SNPの決定方法は、他の中でもQiら(2001, Nucleic Acids Research 29 (22), e116)、Drenkardら(2000, Plant Physiology 124, 1483-1492)およびChoら(1999, Nature Genetics 23, 203-207)により記載されている。いくつかの植物が短時間で特定の遺伝子中の変異に関して調査することを可能とする方法が特に適している。このような方法、いわゆる、TILLING(Targeting Induced Local Lesions IN Genomes)は、McCallumら(2000, Plant Physiology 123, 439-442)により記載されている。
【0203】
今日、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを有する本発明による植物細胞および本発明による植物の同定に他の方法も有用であることは、当技術分野において周知である。これらの方法は、例えば、いわゆる前進スクリーニングアプローチを含む。前進スクリーニングアプローチでは、変異体集団が生産される。変異体集団の植物、例えば、M2植物を、種なし果実を実らせる植物についてスクリーニングし、それから、これを、マッピング集団を産生するために様々な異なる近交系と交雑する。それから、マッピング集団を当業者に周知の方法により分析して、種なし果実表現型の原因となるアレルを同定する。植物細胞または植物がサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなるか否かを確認する他の方法は、当技術分野において共通の方法および、例えば、Thomson(2014, Plant Breeding and Biotechnology 2,195-212)に考察された方法を用いたそれぞれのアレルおよびSNPマーカーのシークエンシングを含む。
【0204】
これらの方法は、基本的に、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを有する本発明による植物細胞および本発明による植物を同定するのに適している。
【0205】
本発明による植物の生産方法で同定されたサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを有する、雄性稔性であり、種なし果実を実らせる植物の生育を、温室内または畑で従来の方法によって行うことができる。これらの植物の栽培および/または繁殖を、例えば、さし穂、インビトロ組織、細胞、プロトプラスト、胚芽もしくはカルス培養もしくは微細繁殖法により、または異なる台木へのさし穂の接木によるなど当技術分野で共通の方法により行うことができる。
【0206】
本発明の好ましい実施態様では、本発明による植物の生産方法を、本発明による植物の生産のために使用する。したがって、本発明による植物の上記好ましい実施態様は、本発明による植物の生産方法に適用できる。
【0207】
本発明による植物の生産方法により得ることができる/得られた植物も、本発明の実施態様である。
【0208】
遺伝子技術で利用可能な様々な方法は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを有する植物または非機能的サイクリンSDS様タンパク質もしくはサイクリンSDS様タンパク質の活性低下した植物またはサイクリンSDS様タンパク質の発現低下を示す植物を生産するさらなる可能性を提供する。
【0209】
全てのこれらの方法は、外来性またはいくつかの外来性核酸分子の、植物細胞または植物のゲノムへの導入に基づき、したがって、基本的に、本発明による植物細胞および本発明による植物の生産に適している。
【0210】
したがって、本発明のさらなる実施態様は:
a)外来性核酸分子を植物に導入することであって、該外来性核酸分子は:
i)サイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の発現低下に影響を及ぼす少なくとも1つのアンチセンスRNAをコードするDNA分子;
ii)同時抑制効果によって、サイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の発現低下をもたらすDNA分子;
iii)サイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の特異的転写を分割する少なくとも1つのリボザイムをコードするDNA分子;
iv)少なくとも1つのアンチセンスRNAおよび少なくとも1つのセンスRNAを同時にコードするDNA分子であって、前記アンチセンスRNAおよび前記センスRNAが(RNAi技術)を有するサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の発現低下に影響を及ぼす二重鎖RNA分子を形成する、前記DNA分子;
v)サイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子中の変異または異種配列の挿入をもたらすインビボ変異誘発によって誘導された核酸分子であって、該変異または挿入がサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の発現低下に影響を及ぼすかもしくは不活性サイクリンSDS様タンパク質の合成をもたらす、前記核酸分子;
vi)抗体をコードする核酸分子であって、該抗体が内在性サイクリンSDS様タンパク質と結合するために、該抗体がサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の活性低下をもたらす、前記核酸分子;
vii)トランスポゾンを含むDNA分子であって、これらのトランスポゾンの組込みがサイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の発現低下に影響を及ぼすか、もしくは不活性サイクリンSDS様タンパク質の合成をもたらす、サイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子における変異または挿入をもたらす、前記DNA分子;
viii)サイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子における挿入により、サイクリンSDS様タンパク質をコードする内在性遺伝子の発現低下に影響を及ぼすか、もしくは不活性サイクリンSDS様タンパク質の合成をもたらす、T-DNA分子、および/または
ix)レア切断エンドヌクレアーゼもしくはカスタムテーラードレア切断エンドヌクレアーゼ、好ましくはメガヌクレアーゼ、TALENもしくはCRISPR/Casシステムをコードする核酸分子
からなる群から選択される前記導入するステップ;
b)種なし果実を実らせる植物を選択するステップ;必要に応じて、
c)b)で選択された植物が、そのゲノム中に外来性核酸分子が組み込まれない野生型植物と比較して、サイクリンSDS様タンパク質が活性低下するか否かを検証するステップ;および必要に応じて
d)c)で得られた植物を生育/栽培するステップ
を含む植物の生産方法に関する。
【0211】
本発明の好ましい実施態様では、外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法は雄性稔性植物の生産方法に関し、雄性稔性であり、かつ、種なし果実を実らせる植物の選択を行う(ステップbおよび/またはcにおいて)ことを意味する。
【0212】
本発明による植物細胞または植物または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法におけるサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を、アンチセンスまたは同時抑制コンストラクトの発現により引き起こすことができる。
【0213】
アンチセンスまたは同時抑制技術によって遺伝子の発現を阻害するため、例えば、いずれかの現存するフランキング配列を含むサイクリンSDS様タンパク質に関する全コード配列を含むDNA分子、ならびに、これらの部分が細胞内で、それぞれ、アンチセンス効果または同時抑制効果を得るのに充分に長くなければならないコード配列の一部のみを含むDNA分子を使用することができる。概して、20bpもしくは21bp(またはヌクレオチド)の最小長までの配列、好ましくは、少なくとも100bp(またはヌクレオチド)、特に好ましくは少なくとも500bp(またはヌクレオチド)の最小長の配列が適している。例えば、DNA分子は21~100bp(またはヌクレオチド)、好ましくは100~500bp(またはヌクレオチド)、特に好ましくは500bp(またはヌクレオチド)超の長さを有する。
【0214】
植物細胞内で生じる内在性配列と高度の同一性を有し、サイクリンSDS様タンパク質をコードするDNA配列の使用も、アンチセンスまたは同時抑制製剤に適している。最小同一性は、約65%超、好ましくは80%超であるべきである。少なくとも90%、特に95%~100%の同一性を有する配列の使用は好ましい。用語「配列同一性」の意味は本明細書において他のところで定義される。
【0215】
さらに、イントロン、すなわち、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の非コード領域の使用も、アンチセンスまたは同時抑制効果を得るために考えられる。デンプンバイオ合成タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子発現を阻害するためのイントロン配列の使用は、例えば、国際公開第97/04112号、国際公開第97/04113号、国際公開第98/37213号、国際公開第98/37214号に記載されている。
【0216】
当業者は、アンチセンスおよび同時抑制効果を得る方法を知っている。例えば、同時抑制阻害の方法は、Jorgensen(Trends Biotechnol. 8 (1990), 340-344)、Niebelら(Curr. Top. Microbiol. Immunol. 197 (1995), 91-103)、Flavellら(Curr. Top. Microbiol. Immunol. 197 (1995), 43-46)、PalaquiおよびVaucheret(Plant. Mol. Biol. 29 (1995), 149-159)、Vaucheretら(Mol. Gen. Genet. 248 (1995), 311-317)、でBorneら(Mol. Gen. Genet. 243 (1994), 613-621)に記載されている。
【0217】
細胞内で特定の酵素の活性を低下させるリボザイムの発現も当業者に公知であり、例えば、欧州特許第0321201(B1)号に記載されている。植物細胞内でのリボザイムの発現は、例えば、Feyterら(Mol. Gen. Genet. 250, (1996), 329-338)に記載されている。
【0218】
本発明による植物細胞もしくは植物または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法におけるサイクリンSDS様タンパク質の活性低下も、抑制されるそれぞれの標的遺伝子、好ましくはサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のセンスおよびアンチセンスRNA分子の同時発現(RNAi技術)により引き起こすことができる。
【0219】
これは、例えば、それぞれの標的遺伝子または標的遺伝子の一部の「逆方向反復」を含むキメラコンストラクトの使用により行うことができる。この場合、遺伝子コンストラクトは、それぞれの標的遺伝子のセンスおよびアンチセンスRNA分子をコードする。センスおよびアンチセンスRNAは、RNA分子として植物内で同時に合成され、センスおよびアンチセンスRNAはスペーサーにより互いから分離し、二重鎖RNA分子を形成することができる。
【0220】
逆方向反復DNAコンストラクトの植物細胞または植物のゲノム内への導入が逆方向反復DNAコンストラクトに対応する遺伝子の抑制するための非常に効果的方法である(Waterhouse et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, (1998), 13959-13964; Wang and Waterhouse, Plant Mol. Biol. 43, (2000), 67-82; Singh et al., Biochemical Society Transactions Vol. 28 part 6 (2000), 925- 927; Liu et al., Biochemical Society Transactions Vol. 28 part 6 (2000), 927-929); Smith et al., (Nature 407, (2000), 319-320;国際公開第99/53050(A1)号)。標的遺伝子(単数)または標的遺伝子(複数)のセンスおよびアンチセンス配列も、類似したまたは異なるプロモーターによって互いに独立して発現することができる(Nap, J-P et al, 6th International Congress of Plant Molecular Biology, Quebec, 18th-24th June, 2000; Poster S7-27, Presentation Session S7)。したがって、本発明による植物細胞または本発明による植物中のサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を、二重鎖RNA分子を産生することにより達成することもできる。これに関して、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のDNA分子またはcDNAの「逆方向反復」は好ましくは植物のゲノム内に導入され、転写されるDNA分子(サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子もしくはcDNAまたはこれらの遺伝子もしくはcDNAのフラグメント)は前記DNA分子の発現を制御するプロモーターの制御下にある。
【0221】
したがって、サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子のいずれかのフラグメントも本発明の態様である。かかるフラグメントは、例えば、プライマーもしくはプローブとして様々な使用を有し、または形質転換ベクター内に組み込むことができ、種なし果実を実らせる植物を産生するために使用することができる。
【0222】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子のかかるフラグメントは、例えば、少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500ヌクレオチド以上の様々な大きさであってよい。
【0223】
これに加えて、トランスに、植物内でのプロモーターDNA分子から二重鎖RNA分子の形成が標的プロモーターと後に呼ばれるこれらのプロモーターの相同複製物のメチル化および転写不活性化をもたらし得ることが知られている(Mette et al., EMBO J. 19, (2000), 5194-5201)。したがって、天然で、標的プロノーターの不活化によるこの標的プロモーターの制御下にある特定の標的遺伝子(例えば、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子)の遺伝子発現を低下させることができる。この場合、これは、植物内のプロモーターの本来の機能と対照的に、抑制される遺伝子(標的遺伝子)の標的プロモーターを含むDNA分子は遺伝子またはcDNAの発現の調節領域として使用されないが、それ自体、転写可能なDNA分子として使用されることを意味する。
【0224】
RNAヘアピン分子としてそこに発生することができる植物内での二重鎖標的プロモーターRNA分子の製造のため、標的プロモーターDNA分子の「逆方向反復」を含むコンストラクトを好ましく使用し、標的プロモーターDNA分子は前記標的プロモーターDNA分子の遺伝子発現を制御するプロモーターの制御下にある。これらのコンストラクトを、その後、植物のゲノム内に導入する。植物内の前記標的プロモーターDNA分子の「逆方向反復」の発現は、二重鎖標的プロモーターRNA分子の形成をもたらす(Mette et al., EMBO J. 19, (2000), 5194-5201)。標的プロモーターをこの手段で不活化することができる。したがって、本発明による植物細胞および本発明による植物におけるサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター配列の二重鎖RNA分子を植物細胞または植物に導入することによっても達成することができる。これに関して、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のプロモーターDNA分子の「逆方向反復」を、好ましくは、植物のゲノム内に導入し、転写される標的プロモーターDNA分子(サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター)は、前記標的プロモーターDNA分子の発現を制御するプロモーターの制御下にある。
【0225】
センスおよびアンチセンスRNA分子の同時発現(RNAi技術)によって遺伝子の発現を阻害するため、例えば、いずれかの現存するフランキング配列を含むサイクリンSDS様タンパク質に関する全コード配列を含むDNA分子、ならびに、これらの部分が細胞内で、それぞれ、アンチセンス効果または同時抑制効果を得るのに充分に長くなければならないコード配列の一部のみを含むDNA分子を使用することができる。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の一部を、コード配列、非翻訳ダウンストリームもしくはアップストリーム配列、イントロン、プロモーターおよび/またはエンハンサーから選択することができる。概して、20bp(またはヌクレオチド)の最小長までの配列、好ましくは、少なくとも25bp(またはヌクレオチド)、特に好ましくは少なくとも50bp(またはヌクレオチド)の最小長の配列が適している。例えば、DNA分子は20~25bp(またはヌクレオチド)、好ましくは26~50bp(またはヌクレオチド)、特に好ましくは50bp(またはヌクレオチド)超の長さを有する。
【0226】
植物細胞内で生じる内在性配列と高度の同一性を有し、サイクリンSDS様タンパク質をコードするDNA配列の使用も、センスおよびアンチセンスRNA分子の同時発現(RNAi技術)に適している。最小同一性は、約65%超、好ましくは80%超であるべきである。少なくとも90%、特に95%~100%の同一性を有する配列の使用は特に好ましい。配列番号1で示された核酸配列により含まれる核酸配列の連続的ストレッチを含む配列は、RNAi技術によるサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の阻害に特に適している。
【0227】
本発明による植物細胞および本発明による植物または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法におけるサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を、ハイブリッドRNA-DNAオリゴヌクレオチド(「キメラプラスト」)を植物細胞に導入するいわゆる「インビボ変異誘発」により行うことができる(Kipp, P.B. et al., Poster Session at the "5th International Congress of Plant Molecular Biology, 21st-27th September 1997, Singapore; R. A. Dixon and C.J. Arntzen, meeting report on "Metabolic Engineering in Transgenic Plants", Keystone Symposia, Copper Mountain, CO, USA, TIBTECH 15, (1997), 441-447;国際公開第95/15972号;Kren et al., Hepatology 25, (1997), 1462-1468; Cole-Strauss et al., Science 273, (1996), 1386-1389; Beetham et al., 1999, PNAS 96, 8774-8778)。
【0228】
RNA-DNAオリゴヌクレオチドのDNA成分の部分は、内在性サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の核酸配列と相同性であるが、内在性サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の核酸配列との比較において、変異を有するかまたは相同領域により囲まれた相同領域を含む。RNA-DNAオリゴヌクレオチドおよび内在性核酸分子の相同領域の塩基対、次いで相同組換えにより、RNA-DNAオリゴヌクレオチドのDNA成分に含まれる変異または相同領域を、植物細胞のゲノムに移動することができる。これは、1つ以上のサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を引き起こす。
【0229】
本発明による植物細胞および本発明による植物または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法におけるサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を、サイクリンSDS様タンパク質のアンタゴニスト/インヒビターをコードする核酸分子を植物細胞に導入することにより行うことができる。かかるタンパク質の特定のトランスドミナント変異における非機能的誘導体の発現、および/またはかかるタンパク質のアンタゴニスト/インヒビターの発現によりサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を行うことができることを当業者は知っている。かかるタンパク質のアンタゴニスト/インヒビターとしては、例えば、抗体、抗体フラグメントまたは同様な結合特性を有する分子が挙げられる。例えば、細胞質scFv抗体を使用して、遺伝子改変したタバコ植物中のフィトクロムAの活性を調節した(Owen, Bio/Technology 10 (1992), 790-4; Review: Franken, E, Teuschel, U. and Hain, R., Current Opinion in Biotechnology 8, (1997), 411-416; Whitelam, Trends Plant Sci. 1 (1996), 268-272; Conrad and Manteufel, Trends in Plant Science 6, (2001), 399-402; De Jaeger et al., Plant Molecular Biology 43, (2000), 419-428)。特定の抗体の発現によるジャガイモ植物中の分枝酵素の活性低下は、Joblingら(Nature Biotechnology 21, (2003), 77-80)により記載されている。ここで、抗体は、色素体中にあるタンパク質の阻害が保証されるように、色素体標的配列を抗体に付与した。
【0230】
本発明による植物細胞および本発明による植物または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法におけるサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を、トランスポゾン配列を含んでなる核酸分子を植物細胞に導入することにより行うことができる。トランスポゾン配列の内在性サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の配列中への挿入は、内在性サイクリンSDS様タンパク質の発現低下に影響を及ぼすだろう。
【0231】
トランスポゾンは内在性トランスポゾン(植物と相同性)および前記細胞内に天然に生じないもの(植物と非相同性)であり得るが、いずれの場合も、例えば、細胞の形質転換などの遺伝子工学方法によって植物細胞または植物に導入されなければならない。トランスポゾンによって遺伝子の発現が変化することは当業者に知られている。植物バイオ技術のツールとしての内在性および異種トランスポゾンの使用の概要は、RamachandranおよびSundaresan(2001, Plant Physiology and Biochemistry 39, 234-252)に表されている。特定の遺伝子がトランスポゾン挿入変異誘発により不活化される変異を同定する可能性は、Maesら(1999, Trends in Plant Science 4 (3), 90-96)により概要が表されている。内在性トランスポゾンの助けをかりたコメ変異体の生産は、Hirochika(2001, Current Opinion in Plant Biology 4, 118-122)により記載されている。内在性レトロトランスポゾンの助けをかりたトウモロコシ遺伝子の同定は、例えば、Hanleyら(2000, The Plant Journal 22 (4), 557-566)により表されている。レトロトランスポゾンの助けをかりた変異体の製造の可能性および変異体の同定方法は、KumarおよびHirochika(2001, Trends in Plant Science 6 (3), 127-134)により記載されている。異なる種の工業的(人工)トランスポゾンの活性は、双子葉および単子葉植物の両方に関して:例えば、コメに関して(Greco et al., 2001, Plant Physiology 125, 1175-1177; Liu et al., 1999, Molecular and General Genetics 262, 413-420; Hiroyuki et al., 1999, The Plant Journal 19 (5), 605-613; Jeon und Gynheung, 2001, Plant Science 161, 211-219)、オオムギに関して(2000, Koprek et al., The Plant Journal 24 (2), 253-263)、アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)に関して(Aarts et al., 1993, Nature 363, 715-717, Schmidt und Willmitzer, 1989, Molecular and General Genetics 220, 17-24; Altmann et al., 1992, Theoretical and Applied Genetics 84, 371-383; Tissier et al., 1999, The Plant Cell 11, 1841-1852)、トマトに関して(Belzile und Yoder, 1992, The Plant Journal 2 (2), 173-179) and potato (Frey et al., 1989, Molecular and General Genetics 217, 172-177; Knapp et al., 1988, Molecular and General Genetics 213, 285-290)記載されている。
【0232】
基本的に、本発明による植物細胞および本発明による植物を、相同および異種トランスポゾン両方の助けをかりて生産することができる。
【0233】
本発明に関連して、本発明による植物細胞および植物を、いわゆる挿入変異誘発の使用により生産することができる(概説論文:Thorneycroft et al., 2001, Journal of experimental Botany 52 (361), 1593-1601)。本発明による植物細胞および本発明による植物または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法におけるサイクリンSDS様タンパク質の活性低下を、T-DNA配列を含んでなる核酸分子を植物細胞に導入することにより行うことができる。
【0234】
T-DNA挿入変異誘発は、アグロバクテリウム(Agrobacterium)のTiプラスミドの特定のセクション(T-DNA)が植物細胞のゲノム内に組み込むことができるという事実に基づいている。植物染色体中の組込み場所は規定されていないが、いずれのポイントにおいても行うことができる。T-DNAが遺伝子機能を構成する染色体の部分に組み込まれる場合、これは遺伝子発現の変化をもたらし、したがって、該当する遺伝子によりコードされたタンパク質の活性変化をもたらすことができる。特に、T-DNAをタンパク質のコード領域に組み込むことは、該当する細胞により、もはや全く合成することができない、またはもはや活性体で合成されない対応するタンパク質をもたらすことが多い。変異体生産のためのT-DNA挿入の使用は、例えば、アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)に関して(Krysan et al., 1999, The Plant Cell 11, 2283-2290; Atipiroz-Leehan and Feldmann, 1997, Trends in genetics 13 (4), 152-156; Parinov and Sundaresan, 2000, Current Opinion in Biotechnology 11, 157-161)およびコメに関して(Jeon and An, 2001, Plant Science 161, 211-219; Jeon et al., 2000, The Plant Journal 22 (6), 561-570)記載されている。T-DNA挿入変異誘発の助けをかりて生産された変異体の同定方法は、他の中でも、Youngら(2001, Plant Physiology 125, 513-518)、Parinovら(1999, The Plant cell 11, 2263-2270)、Thorneycroftら(2001, Journal of Experimental Botany 52, 1593-1601)、およびMckinneyら(1995, The Plant Journal 8 (4), 613-622)に記載されている。
【0235】
T-DNA挿入変異体は、例えば、アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)に関して多数生産され、異なる微生物株保存機関(「貯蔵センター」、例えば、Salk Institute Genomic Analysis Laboratory、カリフォルニア州ラホーヤ市 10010 N.トーリーパインズロード (92037)、http://signal.salk.edu/)により入手可能となっている。
【0236】
T-DNA変異誘発は、基本的に、本発明による植物細胞および植物の生産に適しており、サイクリンSDS様タンパク質の活性低下を有する。
【0237】
本発明と関連して、用語「外来性核酸分子」は、対応する野生型植物細胞もしくは植物中で天然に発生しないかまたは野生型植物細胞もしくは植物中の実在の空間配置内で天然に発生しないかのいずれか、または天然に発生しない植物細胞もしくは植物のゲノム内の場所に位置するこのような核酸分子を意味すると理解される。好ましくは、外来性核酸分子は、異なる要素からなり、この組合せまたは特定の空間配置が植物細胞もしくは植物中で天然に発生しない組換え分子である。
【0238】
原則的に、外来性核酸分子は、サイクリンSDS様タンパク質の活性低下に影響を及ぼすいずれもの核酸分子であり得る。核酸分子のかかる種類は本明細書中上記に記載されている。
【0239】
本発明と関連して、用語「ゲノム」は、植物細胞中に存在する遺伝子物質の全体を意味すると理解されるものとする。細胞核だけでなく、他のコンパートメント(例えば、色素体、ミトコンドリア)も遺伝子物質を含むことは当業者に公知である。
【0240】
植物宿主細胞へのDNAの導入のために多数の技術を利用可能である。これらの技術としては、形質転換媒体としてアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いたT-DNAを含む植物細胞の形質転換、プロトプラストの融合、核酸の注入、核酸のエレクトロポレーション、遺伝子銃アプローチによる核酸の導入ならびに他の実行可能な方法が挙げられる。
【0241】
植物細胞のアグロバクテリウム媒介形質転換の使用は、鋭意研究され、欧州特許第120516号;Hoekema, IN: The Binary Plant Vector System Offsetdrukkerij Kanters B.V., Alblasserdam (1985), Chapter V; Fraley et al., Crit. Rev. Plant Sci. 4, 1-46 and by An et al. EMBO J. 4, (1985), 277-287に的確に記載されている。ジャガイモの形質転換については、例えば、Rocha-Sosa et al., EMBO J. 8, (1989), 29-33参照。
【0242】
アグロバクテリウム(Agrobacterium)形質転換に基づくベクターによる単子葉植物の形質転換も記載されている(Chan et al., Plant Mol. Biol. 22, (1993), 491-506; Hiei et al., Plant J. 6, (1994) 271-282; Deng et al, Science in China 33, (1990), 28-34; Wilmink et al., Plant Cell Reports 11, (1992), 76-80; May et al., Bio/Technology 13, (1995), 486-492; Conner and Domisse, Int. J. Plant Sci. 153 (1992), 550-555; Ritchie et al, Transgenic Res. 2, (1993), 252-265)。単子葉植物の形質転換に代わるシステムは、遺伝子銃アプローチによる形質転換(Wan and Lemaux, Plant Physiol. 104, (1994), 37-48; Vasil et al., Bio/Technology 11 (1993), 1553-1558; Ritala et al., Plant Mol. Biol. 24, (1994), 317-325; Spencer et al., Theor. Appl. Genet. 79, (1990), 625-631)、プロトプラスト形質転換、部分的に透過性にした細胞のエレクトロポレーションおよびガラス繊維によるDNAの導入である。特に、トウモロコシの形質転換は、何度も文献に記載されてきた(例えば、国際公開第95/06128号、欧州特許第0513849号、欧州特許第0465875号、欧州特許第0292435号;Fromm et al., Biotechnology 8, (1990), 833-844; Gordon-Kamm et al., Plant Cell 2, (1990), 603-618; Koziel et al., Biotechnology 11 (1993), 194-200; Moroc et al., Theor. Appl. Genet. 80, (1990
), 721-726参照)。穀類の他の種類の成功した形質転換は、例えば、オオムギに関して(Wan and Lemaux, see above; Ritala et al., see above; Krens et al., Nature 296, (1982), 72-74)およびコムギに関して(Nehra et al., Plant J. 5, (1994), 285-297; Becker et al., 1994, Plant Journal 5, 299-307)も既に記載されている。上記全ての方法は、本発明の枠組み内に適切である。野菜作物の形質転換も、当技術分野において広く知られている。他のものに加えて、Curtis(2012, Springer Science & Business Media, ISBN: 1402023332, 9781402023330)では、コーヒー、パイナップル、セイヨウナシ、ダイコン、ニンジン、エンドウマメ、キャベツ、カリフラワーおよびスイカが開示されている。バナナ、柑橘類、マンゴ、パパイヤ、スイカ、アボカド、ブドウ、(スイート)メロン、キーウィ、コーヒー、カカオなどの野菜作物の形質転換は、PuaおよびDavey(2007, Springer Science & Business Media, ISBN: 3540491619, 9783540491613)に記載されている。
【0243】
遺伝子サイレンシング効果を付与するものまたは植物細胞もしくは植物のアレルに変異を導入するために使用される核酸分子の発現のため、これらの核酸は、好ましくは、植物細胞における転写を開始するもの(プロモーター)を含む調節DNA配列と結合する。同時に、発現が恒常的に起こるか、または特定の組織において植物発育の特定の段階もしくは外部環境により決められたタイミングで起こるように、プロモーターを選択することができる。プロモーターは、植物および核酸分子の両方に対して相同または異種であり得る。したがって、核酸分子は、植物内で天然で発生しないが組換え核酸分子であり、核酸分子に含まれる異なる遺伝因子(例えば、コード配列、RNAi相補的配列、プロモーター)の組合せはこの組合せの中に本来は存在しない。
【0244】
適切なプロモーターは当技術分野において広く知られており、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35S RNAのプロモーターおよび恒常的発現のためのトウモロコシ由来のユビキチンプロモーター、ジャガイモの塊茎特異的発現のためのパタチンプロモーターB33(Rocha-Sosa et al., EMBO J. 8 (1989), 23-29)または光合成活性な組織の発現を保証するだけのプロモーター、例えば、ST-LS1プロモーター(Stockhaus et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84 (1987), 7943-7947; Stockhaus et al., EMBO J. 8 (1989), 2445-2451)または、コムギ由来のHMGプロモーターの内乳特異的発現に関するUSPプロモーター、ファゼオリンプロモーター、トウモロコシ由来のゼイン遺伝子のプロモーター(Pedersen et al., Cell 29 (1982), 1015-1026; Quatroccio et al., Plant Mol. Biol. 15 (1990), 81-93)、グルテリンプロモーター(Leisy et al., Plant Mol. Biol. 14 (1990), 41-50; Zheng et al., Plant J. 4 (1993), 357-366; Yoshihara et al., FEBS Lett. 383 (1996), 213-218)またはシュランクン-1プロモーター(Werr et al., EMBO J. 4 (1985), 1373-1380)である。しかしながら、外部環境により決められたタイミングでのみ活性化するプロモーターも使用することができる(例えば、国際公開第93/07279号参照)。単純な誘発を可能とする熱ショックタンパク質のプロモーターは、ここで特に興味があり得る。さらに、ビシア・ファバ(Vicia faba)および他の植物における種子特異的発現を保証する、ビシア・ファバ(Vicia faba)由来のUSPプロモーターなどの種子特異的プロモーターを使用することができる(Fiedler et al., Plant Mol. Biol. 22 (1993), 669-679; Baeumlein et al., Mol. Gen. Genet. 225 (1991), 459-467)。
【0245】
組換え核酸分子は、転写産物にポリA鎖を付加するために使用される終止配列(ポリアデニル化シグナル)を含んでもよい。転写産物の安定化機能が、ポリA鎖に付与される。この種の因子は文献(Gielen et al., EMBO J. 8 (1989), 23-29参照)に記載されており、任意に交換することができる。
【0246】
イントロン配列は、例えば、プロモーターとコード領域間にも存在し得る。かかるイントロン配列は発現の安定性および植物中の発現増大をもたらすことができる(Callis et al., 1987, Genes Devel. 1, 1183-1200; Luehrsen, and Walbot, 1991, Mol. Gen. Genet. 225, 81-93; Rethmeier, et al., 1997; Plant Journal. 12(4): 895-899; Rose and Beliakoff, 2000, Plant Physiol. 122 (2), 535-542; Vasil et al., 1989, Plant Physiol. 91, 1575-1579; XU et al., 2003, Science in China Series C Vol.46 No.6, 561-569)。適切なイントロン配列は、例えば、トウモロコシ由来のsh1遺伝子の第一イントロン、トウモロコシ由来のポリユビキチン遺伝子1の第一イントロン、コメ由来のepsps遺伝子の第一イントロン、またはアラビドプシス属(Arabidopsis)由来のPAT1遺伝子の2つの第一イントロンである。
【0247】
植物が、核酸配列中の変異またはサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子もしくはアレルを有するか否かのかの検証に関して、および本発明による植物の生産方法のための該植物の生育/栽培のために本明細書中に記載されていることは、外来性核酸分子を本発明による植物細胞に導入することを含む方法のためにも適用可能である。
【0248】
本発明のさらなる実施態様では、本発明による植物の生産方法および外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法は、本発明による方法の各々において、ステップd)から得られた植物由来のさらなる植物の生産からなるさらなるステップを含む。生産されたさらなる植物は、これらがサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の少なくとも1つの変異体アレルを含んでなること、またはこれらが本明細書中上記の外来性核酸分子の導入によりサイクリンSDS様タンパク質の活性低下することを特徴とする。これらのさらなる植物を、栄養(無配偶子性)または生殖(有性(agamic)、有性(sexual))繁殖によって生産することができる。例えば、さし穂、インビトロ組織、細胞、プロトプラスト、胚芽またはカルス培養、微細繁殖法、根茎もしくは塊茎は、栄養繁殖に適している。他の繁殖器官(propagation material)としては、例えば、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子、その他の変異体アレルに対してヘテロ接合またはホモ接合である果実、種子、実生が挙げられる。
【0249】
植物の微細繁殖法を含む栄養(無配偶子性)繁殖のための技術は当技術分野において周知であり、例えば、バナナ、柑橘類、マンゴ、パパイヤ、アボカド、(スイーツ)メロンに関して記載されており、PuaおよびDavey(2007, Springer Science & Business Media, ISBN: 3540491619, 9783540491613)に記載されている。SultanaおよびRhaman(2012, LAP Lambert Academic Publishing, ISBN-13: 978-3-8484-3937-9)は、例えば、スイカの様々な組織培養および微細繁殖法を開示している。
【0250】
外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法により得ることができる/得られた植物も、本発明の実施態様である。
【0251】
本発明のさらなる実施態様は:
a)本発明による植物が生育する種子を得るステップ、または受託番号NCIMB42532で寄託された種子またはその子孫を得るステップ;
b)ステップa)で得られた種子から植物を生育するステップ;
c)ステップb)で生育した植物から種なし果実を実らせる植物を選択するステップ;
d)
i)ステップc)で選択された植物部分を別の台木に接木すること、
ii)インビトロ組織培養においてステップc)で選択された植物部分を培養し、必要に応じて該組織培養から新しい植物を再生すること、
iii)ステップc)で選択された植物の部分から胚芽またはカルス培養を必要に応じて生産すること、および該組織培養から新しい植物を再生すること、
iv)微細繁殖技術によりさらなる植物を必要に応じて生産すること
からなる群から選択された方法によりステップc)で選択された植物を繁殖するステップ
を含む種なし果実を実らせる植物の繁殖方法に関する。
【0252】
接木による植物部分の繁殖および必要に応じて組織培養法による植物の再生は、当技術分野において周知である。かかる方法は、様々な科学出版物に記載されており、例えば、Smith(2012, Academic Press, ISBN-13: 978-0124159204)、Gayatri & Kavyashree(2015, Alpha Science International Ltd, ISBN-13: 978-1842659618)、その他のような多数の科学書籍に概説、要約されている。スイカに関して、それぞれの方法は、例えば、SultanaおよびRhaman(2012, LAP Lambert Academic Publishing, ISBN-13: 978-3848439379)により記載されている。
【0253】
本発明による種なし果実を実らせる植物の繁殖方法により得ることができる/得られた植物または植物部分も、本発明の実施態様である。
【0254】
本発明のさらなる実施態様では、本発明による植物の全ての生産方法または必要に応じて本明細書で開示された本発明による種なし果実を実らせる植物の繁殖方法を、本発明による植物の生産に使用する。
【0255】
本発明のさらなる実施態様は、本発明による植物の繁殖器官、および/または本発明による植物細胞を含んでなる植物の繁殖器官または植物の生産のための本発明による方法により得ることができる/得られた植物の繁殖器官または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法により得ることができる/得られた植物の繁殖器官または本発明による種なし果実を実らせる植物の繁殖のための方法により必要に応じて得ることができる植物から得ることができる/得られた植物の繁殖器官に関する。本発明の特定の含まれる実施態様は、受託番号NCIMB42532で寄託された種子から得ることができる/得られた植物の繁殖器官、好ましくは、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してヘテロ接合またはホモ接合である受託番号NCIMB42532で寄託された種子から得ることができる/得られた植物の繁殖器官である。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してヘテロ接合またはホモ接合である植物の繁殖器官も本発明に含まれ、該繁殖器官は、受託番号NCIMB42532で寄託された種子から得られた植物を別の植物と交雑することから産生する植物から得られた/得ることができる。
【0256】
ここで、用語「繁殖器官」は、栄養(無配偶子性)または生殖(有性(agamic)、有性(sexual))経路により子孫を産生するのに適している植物の構成成分を含んでなる。例えば、さし穂、インビトロ組織、細胞、プロトプラスト、胚芽またはカルス培養、微細繁殖法、根茎もしくは塊茎は、栄養繁殖に適している。他の繁殖器官としては、例えば、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子、その他の変異体アレルに対してヘテロ接合である果実、種子、実生が挙げられる。1つの態様では、繁殖器官は、例えば、別の台木への接木、またはインビトロ組織培養材料、特に、胚芽培養により、繁殖するさし穂の形態を取る。特に、インビトロ組織培養材料、特に、インビトロ胚芽培養の形態の繁殖器官が好ましい。栄養繁殖により産生された植物は、栄養繁殖した植物とも言う。特に、変異体サイクリンSDS様アレルがホモ接合体で存在する植物を、好ましくは、栄養繁殖する(これらの果実は種なしであるので)。
【0257】
本発明のさらなる実施態様は、本発明による植物の部分、および/または本発明による植物細胞を含んでなる植物の部分または植物の生産のための本発明による方法により得ることができる/得られた植物の部分または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法により得ることができる/得られた植物の部分または本発明による種なし果実を実らせる植物の繁殖のための方法により必要に応じて得ることができる植物から得ることができる/得られた植物の部分に関する。本発明のさらなる含まれる実施態様は、受託番号NCIMB42532で寄託された種子(またはその子孫から)から得ることができる/得られた植物の部分、好ましくは、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してヘテロ接合またはホモ接合である受託番号NCIMB42532で寄託された種子(またはその子孫から)から得ることができる/得られた植物の植物部分に関する。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してヘテロ接合またはホモ接合である植物の植物部分も本発明に含まれ、該植物部分は、受託番号NCIMB42532で寄託された種子から得られた植物を別の植物と交雑することから産生する植物から得られた/得ることができる。
【0258】
本発明のさらなる実施態様は、本発明による植物を生育すること、および/または本発明による植物細胞を含んでなる植物を生育すること、または本発明による植物の生産方法により得ることができる/得られた植物を生育すること、または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法により得ることができる/得られた植物の果実を生育すること、または植物が受粉され、種なし果実を収穫することを可能とする畑もしくは温室(例えば、ガラス製ハウス、トンネルまたはネットハウス)内で本発明による種なし果実を実らせる植物の繁殖方法により必要に応じて得られた/得ることができる植物から得ることができる/得られた植物を生育することを含む種なし果実の生産方法に関する。好ましくは、本発明による種なし果実の生産方法で生育された植物は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である。
【0259】
ホモ接合状態のサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる植物を異なる植物の花粉で受粉させると、該植物が種なし果実を実らせることを驚くべきことに見出した。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である植物の柱頭が、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる花粉またはサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の野生型アレルを含んでなる花粉により受粉される場合に明白でない。いずれの場合も、花粉の遺伝型とは関係なく、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である雌性植物は種なし果実を実らせるだろう。野生型植物からの花粉による他家受粉の場合でさえ、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合である本発明による植物は種なし果実を実らせるだろう。したがって、本発明による植物を栽培する場合、いずれの場合も、種なし果実を得るだろう。
【0260】
「温室」は、本発明と関連して、ガラス、プラスチック、ポリエチレン、ゲイズ(gaze)、網または同様のものからなる透明材の屋根および壁を有する植物の生育用途の建物またはコンパートメントを意味すると理解される。温室は、加熱、冷却、遮光、自動灌水、施肥、二酸化炭素濃度調節、その他のためのさらなる技術装置を有してもよく、有しなくてもよい。いずれものタイプの技術装置を有する温室は、本明細書で使用されるとき、用語「温室」に含まれる。
【0261】
本発明の別の実施態様は、本発明による植物の果実もしくは植物から得ることができる/得られた果実、および/または本発明による植物細胞を含んでなる果実、または植物の生産のための本発明による方法により得ることができる/得られた植物の果実、または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法により得ることができる/得られた植物の果実、または種なし果実を実らせる植物を繁殖させるための本発明による方法により得られた/得ることができる植物から得ることができる/得られた植物の果実、または種なし果実の産生のための本発明による方法により得ることができる/得られた果実に関する。本発明のさらなる含まれる実施態様は、受託番号NCIMB42532で寄託された種子(またはその子孫)から得ることができる/得られた植物の果実、好ましくは、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してヘテロ接合またはホモ接合である受託番号NCIMB42532で寄託された種子(またはその子孫)から得ることができる/得られた植物の果実に関する。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してヘテロ接合またはホモ接合である果実も本発明に含まれ、該果実は、受託番号NCIMB42532で寄託された種子から得られた植物を別の植物と交雑することから産生する植物から得られた/得ることができる。果実は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してヘテロ接合であり、種あり果実を実らせることができるか、またはサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のアレルに対してホモ接合であり、種なし果実を実らせることができる。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のアレルに対してヘテロ接合である果実を、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなる植物を繁殖するために使用することができる。好ましくは、本発明による果実は、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルに対してホモ接合であり、および/または種なし果実を実らせる。論理的推論では、種なし果実は、これらの果実からさらなる植物を生育させるのに適していない。したがって、本発明の1つの実施態様は、繁殖に適していないかまたは繁殖することができないかまたは非繁殖性である種なし果実である本発明による果実に関する。
【0262】
本発明のさらなる実施態様は:
a)配列番号2または配列番号4または配列番号6または配列番号12または配列番号19または配列番号20に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
b)配列番号2または配列番号4または配列番号6または配列番号12または配列番号19または配列番号20に示されるアミノ酸配列と少なくとも58%または少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%、または特に好ましくは少なくとも95%の同一性をその配列が有するタンパク質をコードする核酸分子;
c)配列番号1または配列番号3または配列番号5または配列番号17により示されるヌクレオチド配列またはその相補配列を含んでなる核酸分子;
d)c)に記載されているヌクレオチド配列と少なくとも58%または少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%、または特に好ましくは少なくとも95%の同一性を有する核酸分子;
e)ストリンジェントな条件下、a)、b)、c)、またはd)に記載されている核酸分子の少なくとも一つの鎖とハイブリダイズする核酸分子;
f)遺伝暗号の縮退により、a)またはb)で同定される核酸分子の配列からそのヌクレオチド配列が逸脱する核酸分子;および
g)a)、b)、c)、またはd)で同定される核酸分子のフラグメント、アレル多様体および/または誘導体である核酸分子
からなる群から選択されるサイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子の、種なし果実を実らせる植物の生産のための使用に関する。
【0263】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子の使用の好ましい実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子を、本発明による植物の生産のために使用し、特に好ましい実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子の使用を、本発明による種なし果実を実らせる植物の生産のために使用する。
【0264】
別の好ましい実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子を、本発明による植物部分または本発明による果実の生産のために使用する。
【0265】
さらに好ましい実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子を、本明細書で開示された本発明の方法のいずれかで使用する。サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子を、例えば、植物の生産のための本発明による方法で、または外来性核酸分子を植物細胞に導入することを含む本発明による方法で、または本発明による種なし果実を実らせる植物を繁殖するための本発明による方法で、または種なし果実の生産のための本発明による方法で使用することができる。
【0266】
別の好ましい実施態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子を、植物細胞もしくは植物がサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなるか否か、または植物細胞もしくは植物がサイクリンSDS様タンパク質をコードする変異体mRNAを合成するか否か、または植物細胞もしくは植物がサイクリンSDS様タンパク質の活性を低下しているか否かを同定するために使用する。好ましくは、サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子を、種なし果実を実らせる植物がサイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを含んでなるか否か、または植物がサイクリンSDS様タンパク質をコードする変異体mRNAを合成するか否か、または植物がサイクリンSDS様タンパク質の活性を低下しているか否かを同定するために使用する。かかる植物を如何に同定することができるかを、本明細書中上記に記載しており、したがって、これに適用することができる。
【0267】
サイクリンSDS様タンパク質をコードする核酸分子に関する好ましい実施態様は本明細書中上記に記載しており、したがって、本発明による使用のために適用することができる。
【0268】
1つの態様では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルをこれらのゲノム内に含んでなる種子、植物もしくは植物部分またはかかる種子、植物もしくは植物部分由来のDNAを同定および/または選択するためのスクリーニング方法を提供する。
【0269】
方法は、変異体アレルの存在を検出するために、公知の方法を用いてDNA、RNA(またはcDNA)またはタンパク質レベルにおけるスクリーニングを含む。遺伝子の変異体アレルの存在を検出する多くの方法がある。
【0270】
例えば、野生型と変異体アレルの間の一塩基差(一塩基多型、SNP)がある場合、SNP遺伝型アッセイを使用して、植物もしくは植物部分または細胞がそのゲノム内に野生型ヌクレオチドまたは変異体ヌクレオチドを含んでなるかどうかを検出することができる。例えば、KASPアッセイ(kpbioscience.co.ukのワールドワイドウェブ参照)または他のSNP遺伝型アッセイを用いて、SNPを容易に検出することができる。KASPアッセイを展開するため、例えば、SNPの70塩基対アップストリームおよび70塩基対ダウンストリームを選択することができ、2つのアレル特異的順方向プライマーおよび1つのアレル特異的逆方向プライマーを設計することができる。KASPアッセイ法に関して、例えば、Allen et al. 2011, Plant Biotechnology J. 9, 1086-1099, especially p097-1098参照。
【0271】
同様に、他の遺伝型アッセイを使用することができる。例えば、TaqMan SNP遺伝型アッセイ、高解像度融解(HRM)アッセイ、SNP遺伝型アレイ(例えば、Fluidigm、Illumina、その他)またはDNAシークエンシングを同様に使用してよい。
【0272】
二倍体植物または植物部分(細胞、葉、DNA、その他)の遺伝型解析は、DNP遺伝型を識別することができ、例えば、配列番号1(野生型ヌクレオチドに対してホモ接合)のヌクレオチド1687に対してCCを含んでなる植物または部分を、これらのゲノム内の配列番号1(変異体ヌクレオチドに対してヘテロ接合)のヌクレオチド1687に対してCTを含んでなる植物または部分と識別することができる。四倍体植物または植物部分(細胞、葉、DNA、その他)の遺伝型解析を、例えば、SNP遺伝型を識別するためにKASPアッセイを用いて、二倍体と同様に行うことができ、例えば、配列番号1(野生型ヌクレオチドに対してホモ接合)のヌクレオチド1687に対してCCCCを含んでなる植物または部分を、これらのゲノム内のSNPに対する他の表現型、例えば、CCCA、CCAA、その他を含んでなる植物または部分と識別することができる。これは三倍体にも適用できる。これは他の多倍体にも適用できる。
【0273】
好ましい態様上記方法では、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルの少なくとも1つの複製物を含んでなる植物、植物細胞および植物部分は、スイカ植物、特に栽培されたスイカ、例えば、二倍体、四倍体または三倍体栽培スイカである。
【0274】
スイカ植物は育種系統または変種であってよい。サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルを、いずれもの栽培スイカの中で生成、または栽培スイカに導入(例えば、NCIMB42532で寄託された種子またはその子孫から)して、好ましくはホモ接合体でSDS様タンパク質の変異体アレルを含んでなる系統または変種を生産してもよい。栽培スイカは、多種多様な果実サイズ(例えば、国際公開第2012/069539号に記載されているように非常に小さい、例えば、0.9kg未満または0.65kg以下でさえ;約3~7ポンド、すなわち、約1.4~3.2kgのパーソナルサイズ;約6~12ポンド、すなわち、約2.7~5.5kgのアイスボックスサイズ;および35ポンド以下、すなわち、約15.9kg以下のもっと大きいサイズ)、果実の果肉色、および果実の形状ならびに異なる果皮色を有して産生する。したがって、変異体アレルを、育種によって、いずれもの果実形状(例えば、細長い、楕円形、細長い楕円形、塊状、細長い塊状、球状または丸い)、果実表面(例えば、しわがある、平滑)、果肉色(例えば、赤色、暗赤色、スカーレットレッド、コーラルレッド、橙色、サーモン色または桃色、黄色、鮮黄色または白色)、果皮色(例えば、薄緑色;暗緑色;狭い、中程度もしくは広い縞の緑色縞模様;灰色タイプ;斑点のありなし;明るい黄色;深紅色タイプの果皮、ジュビリータイプの果皮;オールスイートタイプの果皮;黒色/暗緑色)、果皮厚さ、果皮硬さ、果皮パターン(例えば、縞模様、縞模様なし、網状)、果肉構造/果肉硬度、リコピンおよび/またはビタミン含有率、異なる酸に対する糖の比、非常に良好な果実風味、その他を産生する栽培スイカに導入してもよい。果実特性に関する遺伝子を記載しているGuner and Wehner 2004, Hort Science 39(6): 1175-1182、特に頁1180-1181参照。概して、重要な育種目的は、早期成熟、高果実収穫量、高果実内品質(良好な均一な色、高糖度、適切な糖:酸比、良好な風味、高ビタミンおよびリコピン含有率、硬い果肉質、非繊維性果肉質、空洞病、果皮ネクロシス、尻腐れまたはクロスステッチ(cross stitch)などの欠陥がないこと、および良好な果皮特性および亀裂耐性)である。系統または変種に
より産生された果実は、好ましくは市場向きの果実である。1つの態様では、平均ブリックスは、少なくとも6.0、7.0、8.0または少なくとも9.0であり、好ましくは、少なくとも10.0、より好ましくは、少なくとも11.0以上である。
【0275】
果実の色は、赤色、暗赤色、スカーレットレッド、コーラルレッド、橙色、サーモン色、桃色、桃色がかった赤色、黄色、鮮黄色または白色など、いずれの色でもよい。好ましくは、果実の果肉色は均一である。
【0276】
寄託に関する情報
サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の変異体アレルのために分離する植物の二倍体シトラス・ラナタス(Citrullus lanatus)種子は、2016年1月27日にNCIMB Ltd.(スコットランド、アバディーン、バックスバーンAB21 9YA)に受託番号NCIMB42532でブダペスト条約の下にNunhems B.V.により寄託されている。種子の寄託のため、サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のアレルは、emb1と命名された。エキスパートソリューションが適用される。
【0277】
寄託された種子を、emb1変異体アレルに対してホモ接合である植物をemb1野生型アレルに対してホモ接合である植物と自家受粉の戻し交雑から得た。したがって、寄託された種子の25%はemb1変異体アレルに対してホモ接合であり、種なし果実を実らせ、50%は変異体アレルに対してヘテロ接合であり、25%は野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードする野生型アレルに対してホモ接合である。
【0278】
寄託物を利用する方法は、要求に応じて、特許商標庁長官がその者に権利を与えると決められた者が本願の係争中に利用可能である。
【0279】
米国特許法施行規則§1.808(b)の下、1つ以上の寄託物の一般公開に対する寄託者により課される全ての制限は、寄託物を入手する権利を与えることにより特許付与時に撤回不能に取り除かれるだろう。30年、またはつい最近の要求後5年の期間、または特許の強制力のある期間のどれか長い方の期間、寄託物は維持され、この期間中に生育不能になったとしても交換されるだろう。出願人は、本願に対する本特許または植物新種保護法(7 USC 2321 et seq.)の下で与えられたいかなる権利も放棄しない。
【0280】
配列の説明
配列番号1:シトラス・ラナタス(Citrullus lanatus)由来の野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子のゲノム配列。
配列番号2:シトラス・ラナタス(Citrullus lanatus)由来のSDS様タンパク質のアミノ酸配列。アミノ酸配列は、配列番号1のコード配列から誘導できる。
配列番号3:シトラス・ラナタス(Citrullus lanatus)由来のサイクリンSDS様タンパク質の変異体アレルのmRNA配列。
配列番号4:SDS様タンパク質の変異体アレルのアミノ酸配列。アミノ酸配列は、配列番号3から誘導できる。
配列番号5:キューカミス・メロ(Cucumis melo)由来の野生型サイクリンSDS様タンパク質をコードする遺伝子の核酸配列。
配列番号6:キューカミス・メロ(Cucumis melo)由来のSDS様タンパク質のアミノ酸配列。アミノ酸配列は、配列番号5のコード配列から誘導できる。
配列番号7:PCRおよび/またはシークエンシング反応においてプライマー(A4532)として使用された人工配列。
配列番号8:PCRおよび/またはシークエンシング反応においてプライマー(A4533)として使用された人工配列。
配列番号9:PCRおよび/またはシークエンシング反応においてプライマー(A4534)として使用された人工配列。
配列番号10:PCRおよび/またはシークエンシング反応においてプライマー(A4535)として使用された人工配列。
配列番号11:PCRおよび/またはシークエンシング反応においてプライマー(A4538)として使用された人工配列。
配列番号12:キューカミス・サチブス(Cucumis sativus)由来のSDS様タンパク質のアミノ酸配列。
配列番号13:
図2のサンプル114および115の配列。
配列番号14:
図2のサンプル114および115の配列。
配列番号15:
図2のサンプル116および117の配列。
配列番号16:
図2のサンプル116および117の配列。
配列番号17:ヌクレオチド670~671において終止コドンをもたらすヌクレオチド670におけるC~T変異を含んでなるスイカ変異体サイクリンSDS様遺伝子のcDNA配列。
配列番号18:配列番号17のcDNAによりコードされたスイカ変異体サイクリンSDS様タンパク質。
配列番号19:ソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopersicum)由来の野生型SDS様タンパク質のアミノ酸配列。
配列番号20:カプシカム・アンニューム(Capsicum annuum)由来の野生型SDS様タンパク質のアミノ酸配列。
【図面の簡単な説明】
【0281】
【
図1】野生型植物由来スイカ果実(1A)、EMB1変異体植物由来果実と比較した野生型植物(1B)、EMB1変異体植物由来種なし果実のスライス(1C)およびEMB1変異体植物の開いた無胚種子(1D)。
【
図2】サンプル番号114、115、116および117で得られた配列を比較する配列アライメント。右上の数字は、配列番号1で示される対応する配列中のヌクレオチドの位置を示す。サンプル番号116および117は、EMB1変異体植物から得られた。サンプル番号114および115は、野生型植物から得られた。
【
図3】サンプル番号114、115、116および117のcDNAから得られたPCR産物のポリアクリルアミドゲル上における電気泳動法。サンプル番号114および115は、野生型植物から得られた。サンプル番号116および117は、EMB1変異体植物から得られた。
【0282】
一般的方法
1.RNAの単離
若い子房組織を小片に切断し、液体窒素中で凍結させて、さらに使用するまで-80℃で貯蔵した。凍結組織片を液体窒素中ピストンと乳鉢を用いて粉末に粉砕して凍結した粉末を保持した。粉末100mgを使用して、製造者プロトコールに従って植物RNA単離キット(RNeasy Plant Mini Kit、Qiagen社)を用いて全RNAを単離した。
【0283】
2.cDNAの調製
RNAをDNase(TURBODNA-free、Ambion社)で処理し、RNA0.9μgを製造者プロトコール(iScript cDNA Synthesiskit、BioRad社)に従って逆転写のために使用した。
【0284】
3.cDNAに対するPCR
0.2mMのdNTP、0.4μlのPhire Hot Start II DNAポリメラーゼ(Thermo Fisher Scientific)、0.25μMの各プライマーおよび0.4μlのcDNA混合物を含有する20μlの緩衝液(Phire reaction buffer、Thermo Fisher Scientific)の全体積中で、PCRを行った。90℃で30分の初回変性工程後、98℃で10秒、60℃で15秒および72℃で30秒の40サイクルを行い、反応を72℃、3分で終わらせた。
【0285】
4.シークエンシング
PCR産物のサイズを、QIAxcel Advanced System (Qiagen社)を用いて分析し、PCR反応混合物をサービスプロバイダーに送り配列決定した(BaseClear社、オランダ)。
【実施例】
【0286】
実施例1:種なし果実変異体の単離
EMS数時間、その後30分間水道水の流水中で種子を洗浄することにより、近交系(WMZD0048TYY、以後TYYと略す)からの約10,000個のスイカ種子を処理することにより変異体集団を確立した。その後、種子を土壌に蒔くまで湿った状態を保った。M1植物を変異誘発した種子から生育し、自家受粉して、種子(M2世代)を収穫した。3000M2ファミリーのそれぞれから8個の種子を播種し生育して種なし果実を実らせる変異体植物を分離した。これらの変異体植物の1つをEMB1と命名した。EMB1変異体植物の繁殖を、変異誘発していないスイカ植物の台木にEMB1変異体植物のさし穂を接木することにより行った。
【0287】
実施例2:種なし果実表現型の確認
EMB1変異体を、EMB1変異体(BC1世代)からの花粉を用いて、元の変異誘発していないスイカTYY近交系と戻し交雑した。自家受粉BC1世代から生育した植物の25%は種なし果実を実らせた。
【0288】
EMB1変異体からの花粉を、マッピング集団を確立するために、異なるスイカ近交系と交雑するために使用した。マッピング集団の自家受粉植物の25%は種なし果実を実らせた。
【0289】
戻し交雑およびEMB1変異体の花粉を使用して他の近交系を受精させた交雑のそれぞれから得られた結果は、EMB1変異体の花粉が稔性であることを明らかに示している。
【0290】
さらなる交雑では、emb1変異体アレルに対してホモ接合であるEMB1変異体植物を雌性親として使用し、様々な異なる他の系統の花粉と受粉させた。これらの交雑のそれぞれから100%の植物が種なし果実を実らせた。
【0291】
異なる交雑から得られた結果は、emb1変異は単一劣性アレルが起因していることを示している。結果は、種を産生する植物の花粉を使用してEMB1変異体植物を受精させる場合に、種なし果実表現型は維持されることも示している。したがって、種なし果実表現型はEMB1変異体の異常な花粉によるものではなく、胚芽発育の欠陥に割り当てられることができる。
【0292】
実施例3:種なし果実表現型の原因となる遺伝子の同定
異なるスイカ近交系をEMB1変異体植物の花粉とで受粉することにより確立されるマッピング集団を分析し、一塩基多型(SNP)を配列番号1で示されたゲノム配列中に検出した。配列番号1は、野生型アレルの配列を示す。EMB1変異体植物のそれぞれのアレルでは、配列番号1の位置番号2185におけるヌクレオチドグアニン(G)をアデニン(A)により置換する。
【0293】
実施例4:emb1アレルから転写されたmRNAの分析
異なるサイズの花芽を、畑で生育した植物から収穫した。サンプル番号114および115は、変異誘発に使用された、TYYと名付けられた元の系統の植物の花芽である。したがって、TYYは、野生型emb1アレルを含んでなる野生型植物である。サンプル番号115および116は、変異体emb1アレルを含んでなる種なし果実を実らせるEMB1変異体植物の花芽である。収穫され、それぞれのサンプル番号について分析された表現型材料の概要を表1に示す。
【0294】
【0295】
RNAを異なるサンプル番号の花芽から単離した。サンプル番号のそれぞれについて700ngのRNAを、cDNA合成に使用した。プライマーA4532(配列番号7)およびA4533(配列番号8)を用いたPCR反応を、得られたcDNAサンプルのそれぞれに対して行った。プライマーを、配列番号1に示されたコード配列のemb1アレルの一部を増幅するように設計した。PCR産物を、
図3に示されているポリアクリルアミドゲル上で分析した。
図3から、サンプル番号116および117が全ての他のサンプル番号より短いPCRフラグメントをもたらしたことは明白に導き出せる。これは、emb1変異体アレルのmRNAがサンプル番号114および115の対応する野生型アレルと比較してヌクレオチドの欠失を含んでなることを明白に示した。
【0296】
実施例5:emb1アレルのcDNA配列解析
サンプル番号114、115、116および117のcDNAを、配列番号7で示されたプライマーA4532、配列番号11で示されたプライマーA4535、配列番号9で示されたプライマーA4534および配列番号10で示されたプライマーA4535を用いて配列決定した。サンプル番号116および117のそれぞれから得られた配列は、mRNA分子として、配列番号3で示されている。サンプル番号114および115のそれぞれから得られた配列は、配列番号1に示されたコード配列と同じである。サンプル番号114、115、116および117から得られた配列の比較は、サンプル番号116および117のそれぞれの配列がサンプル番号114および115のそれぞれの配列と比較して16連続ヌクレオチドの欠失を有することを示した。加えて、サンプル番号116および117のそれぞれの配列は、サンプル番号114および115のそれぞれの配列と比較してコード配列中の中途終止コドンの原因となるフレームシフトを有する。該当する配列部分のアライメントを
図2に示す。
【0297】
サンプル番号116および117のemb1変異体アレルは、サンプル番号114および115の野生型アレルから転写されたmRNAと比較して、欠失、リーディングフレーム中のフレームシフトおよび中途終止コドンを有するmRNAに転写されると結論される。加えて、サンプル番号116および117のemb1変異体アレルから転写されたmRNAは、サンプル番号114および115の野生型アレルから転写されたmRNAによりコードされたタンパク質と比較して、8アミノ酸が交換されているタンパク質をコードすることを、
図2から分かる。
【0298】
実施例6:別のスイカ変異体植物の産生
サイクリンSDS様遺伝子配列を知ることは、SDS様遺伝子における他の変異体アレルを発生させることを可能とした。EMS変異誘発されたTILLING集団を、EMA変異がアミノ酸コードコドンを終止コドンに転換することができるドメインに対して設計されたプライマーを用いてスクリーニングした。
順方向プライマー:CGAAGAGAAAGGATTAGACGTTG(配列番号21)
逆方向プライマー:TCTGAGCAGTCAGTATCAGACG(配列番号22)
【0299】
変異体サイクリンSDS様アレルを含んでなる植物を同定した。同定されたアレルは、配列番号1のヌクレオチド1687において単一のヌクレオチド置換を含んでなり、終止コドンをもたらす。したがって、変異体アレルは、配列番号2の野生型タンパク質のアミノ酸1~223のみを含んでなる短縮サイクリンSDS様タンパク質をコードする。変異体アレルのcDNAは配列番号17で提供され、変異体アレルによりコードされた短縮タンパク質は配列番号18で提供されている。
【配列表】