(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】建物の健全性評価システム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20220107BHJP
G01H 1/00 20060101ALI20220107BHJP
G01V 1/00 20060101ALI20220107BHJP
G01V 1/30 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H1/00 E
G01V1/00 D
G01V1/30
(21)【出願番号】P 2019038134
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-03-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:一般社団法人日本建築学会、刊行物名:DVD2018年度大会(東北)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集、発行年月日:2018年7月20日。 集会名:2018年度日本建築学会大会(東北)、主催者名:一般社団法人日本建築学会、開催日:2018年9月5日。 発行者名:長島 一郎、刊行物名:大成建設技術センター報2018年第51号、発行年月日:2018年12月1日。 発行者名:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ロボット・AI部、刊行物名:NEDOインフラ維持管理技術シンポジウム2018 講演論文集、発行年月日:2018年10月30日。 集会名:NEDOインフラ維持管理技術シンポジウム2018、主催者名:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、開催日:2018年10月30日。 ウェブサイトの閲覧場所:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、アドレス:https://www.nedo.go.jp/content/100886924.pdf、ウェブサイト掲載日:2018年12月28日。 発行者名:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ロボット・AI部、刊行物名:インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト センサシステム技術・イメージング技術・非破壊検査装置技術 インフラモニタリング技術、発行年月日:2019年2月1日。 ウェブサイトの閲覧場所:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、アドレス:https://www.nedo.go.jp/content/100887966.pdf、ウェブサイト掲載日:2019年2月1日。 発行者名:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ロボット・AI部、刊行物名:インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト センサシステム技術・イメージング技術・非破壊検査装置技術 技術資料集、発行年月日:2019年2月1日。 ウェブサイトの閲覧場所:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、アドレス:https://www.nedo.go.jp/content/100888002.pdf、 ウェブサイト掲載日:2019年2月1日。 集会名:NEDOインフラモニタリング技術シンポジウム、主催者名:国立研究開発法人 新エネル
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト/インフラ状態モニタリング用センサシステム開発/高信頼性センサによるインフラモニタリングシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000214836
【氏名又は名称】長野日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】肥田 剛典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貢一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】東野 靖
(72)【発明者】
【氏名】下坂 哲也
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-254239(JP,A)
【文献】特開2008-249345(JP,A)
【文献】特開2015-201189(JP,A)
【文献】特開2001-338381(JP,A)
【文献】特開2017-167883(JP,A)
【文献】特開2006-170739(JP,A)
【文献】特開2008-090534(JP,A)
【文献】特開2009-258063(JP,A)
【文献】特開平06-194275(JP,A)
【文献】特開2012-233795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G01V 1/00-99/00
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の健全性を診断、評価する健全性評価システムであって、
前記建物の下部に設置されて加速度を検出する建物下部センサ、及び緊急地震速報を受信する緊急地震速報受信部を備えた地震検知部と、
前記建物の複数の位置に設けられて、各位置における地震の前記建物への影響を測定し、無線通信機能により測定結果をクラウドコンピュータに送信する複数のセンサと、
前記クラウドコンピュータに送信された前記測定結果に基づいて、
1次診断として、前記測定結果から、固有振動数と震度を含む、1次診断における建物状態情報を算出し、前記1次診断における建物状態情報が予め定めた閾値を超過するか否かを判定し、前記閾値を超過する場合に、2次診断として、前記測定結果を入力として運動方程式を解き、前記建物の剛性の変化と減衰定数の変化を含む、2次診断における建物状態情報を算出することで、前記建物の損傷個所の推定、及び局所的損傷評価を行い、前記建物の健全性を推定し評価する健全性推定部と、
を備え、
前記複数のセンサは、前記建物の躯体を構成する構造要素ごとに設けられ、
前記建物下部センサにおける初期微動の検知、または前記緊急地震速報受信部における前記緊急地震速報の受信がなされた場合に、前記複数のセンサが起動され、前記複数のセンサは、前記建物に主要動の到達前から到達後までの前記建物への地震の影響を測定することを特徴とする建物の健全性評価システム。
【請求項2】
前記構造要素は、前記建物の躯体を構成する柱、梁、柱梁接合部、壁、及び床スラブであり、
前記複数のセンサは、
加速度センサ、ひずみセンサ、及び傾斜センサを備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の建物の健全性評価システム。
【請求項3】
前記建物の内部、及び遠隔地の少なくとも一方に設けられた表示部を備え、
前記健全性推定部は、前記構造要素ごとに、前記建物の健全性を示す構造性能指標を算出し、
前記表示部は、算出された前記構造性能指標に基づく前記建物の評価情報を表示する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の建物の健全性評価システム。
【請求項4】
前記複数のセンサは、予め設定された時間間隔ごとに起動されて測定を行う
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の建物の健全性評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に設置されたセンサによる測定結果に基づき、建物の健全性を診断、評価する建物の健全性評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震発生後に、建物を直接目視しなくとも、建物の損傷度合い等、建物の健全性を把握することができる建物の健全性モニタリングシステムが、種々提案されている。
例えば特許文献1には、建物の複数の階に設置された複数の加速度センサと、建物内で複数の加速度センサからの検出データに基づいて、各階の震度、及び建物の被災評価を演算して分析し、その分析結果を記録する記録部と、記録部から送信された分析結果を通知する通知手段と、を備える構成が開示されている。
特許文献1に開示されたような構成では、常に複数の加速度センサ、記録部等を作動させておかなければならない。このため、加速度センサや記録部等を作動させるための蓄電池が必要であり、システム構成が大掛かりとなる。
【0003】
また、例えば特許文献2には、構造物の構造フレームを形成する複数の構造部材の接合部に振動センサを設置し、接合部に接合した各構造部材の一端部の反対側の他端部が接合する他の接合部に設置した振動センサの検出情報を入力、接合部の振動センサを出力とした動特性の入出力関係に基づいて、構造部材の損傷の有無及び損傷の程度を検出する構成が開示されている。
特許文献2に開示されたような構成においても、常に複数の振動センサや振動センサの検出情報を記録する記憶装置を作動させるための蓄電池が必要であり、システム構成が大掛かりとなる。
【0004】
また、特許文献3には、建物の観測層に配置され、地震の震度や地震により地盤から建物に印加される振動の加速度を検出するセンサと、センサからの応答情報に基づき、建物の固有周期に対応する必要せん断力係数を求め、建物の健全性の判定を行う健全性判定部と、を備え、その判定結果を示す情報を、ユーザの端末に送信する構成が開示されている。
特許文献3に開示されたような構成においても、常にセンサや、センサからの応答情報を記録する記憶装置等を作動させるための蓄電池が必要であり、システム構成が大掛かりとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-254239号公報
【文献】特開2015-4526号公報
【文献】特開2016-75583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、地震発生時に建物の健全性を診断、評価する方法として、比較的簡単な構成により実現することが可能な、建物の健全性評価システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、地震発生直後に、遠隔地からでも建物の健全性を診断、評価する方法として、建物直下で発生する地震検知用に建物下部に建物下部センサを設置し、かつ遠隔地で発生する地震検知用に緊急地震速報の受信部を設置することで、地震情報が受信された段階でセンサを起動させて、地震情報を取得出来るために、大規模な蓄電池や記録装置を設ける必要はなく、比較的簡単な構成によって建物の健全性評価システムを構築できる点に着眼して、本発明に至った。詳細には、建物の健全性評価システムでは、建物の階層、及び構造要素(柱、梁、壁)ごとにセンサを設置し、建物に地震の主要動の到達前から到達後まで地震情報(加速度、ひずみ量、傾斜量)を取得しながら、その地震情報から建物状態情報(固有振動数、層間変形角、傾斜角)を推定するものである。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明の建物の健全性評価システムは、建物の健全性を診断、評価する健全性評価システムであって、前記建物の下部に設置されて加速度を検出する建物下部センサ、及び緊急地震速報を受信する緊急地震速報受信部を備えた地震検知部と、前記建物の複数の位置に設けられて、各位置における地震の前記建物への影響を測定し、無線通信機能により測定結果をクラウドコンピュータに送信する複数のセンサと、前記クラウドコンピュータに送信された前記測定結果に基づいて、前記建物の健全性を推定し評価する健全性推定部と、を備え、前記建物下部センサにおける初期微動の検知、または前記緊急地震速報受信部における前記緊急地震速報の受信がなされた場合に、前記複数のセンサが起動され、前記複数のセンサは、前記建物に主要動の到達前から到達後までの前記建物への地震の影響を測定することを特徴とする。
このような構成によれば、建物の下部に設置される建物下部センサにおける初期微動の検知、または緊急地震速報の受信により、地震発生を検知したら、複数のセンサを起動させ、主要動、すなわち地震荷重(地盤の揺れ)の建物への到達前(地震発生前)から到達後(地震発生後)までの地震の影響を測定する。測定された地震の影響の測定結果は、クラウドコンピュータに送信されて保管される。健全性推定部は、クラウドコンピュータに送信された測定結果に基づき、建物の構造性能指標を推定する。
このように、地震発生を検知した場合に、複数のセンサを起動させて建物への地震の影響を測定するので、常時、建物内に設置する複数のセンサを作動させておく必要がない。したがって、複数のセンサや記憶装置を作動させるための蓄電池が不要となる。その結果、地震発生時に建物の健全性を評価する建物の健全性評価システムを、比較的簡単な構成により実現することが可能となる。
【0008】
本発明の一態様においては、本発明の建物の健全性評価システムは、前記複数のセンサは、加速度センサ、ひずみセンサ、及び傾斜センサを備えている。
このような構成によれば、建物の複数の位置に、複数のセンサとして、加速度センサ、ひずみセンサ、及び傾斜センサを設けることで、建物内の部位ごとに、各位置における地震の建物への影響を、より高精度に測定することが可能となる。
【0009】
本発明の別の態様においては、本発明の建物の健全性評価システムは、前記建物の内部、及び遠隔地の少なくとも一方に設けられた表示部を備え、前記複数のセンサは、前記建物の階層ごと、または前記建物を構成する構造要素ごとに設けられ、前記健全性推定部は、前記測定結果から変位量及び層間変形角を算出し、算出値と所定の閾値とを比較して、前記建物の階層ごと、及び前記建物の構造要素ごとに、前記建物の健全性を示す構造性能指標を算出し、前記表示部は、算出された前記構造性能指標に基づく前記建物の評価情報を表示する。
このような構成によれば、センサで建物への地震の影響を測定し、その測定結果に基づいて構造性能指標を算出しているため、建物内の部位ごとに、地震発生時に建物健全性に変化が生じたかを、正確に把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地震発生時に建物の健全性を診断、評価する方法として、比較的簡単な構成により実現することが可能な、建物の健全性評価システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る建物の健全性評価システムの機能的な構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る建物の健全性評価システムの健全性評価対象となる建物の一例を示す断面図である。
【
図3】本実施形態に係る建物の健全性評価システムの表示部に表示される、評価情報の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る建物の健全性評価システムにおける建物の健全性評価の流れを示す図である。
【
図5】本実施形態に係る建物の健全性評価システムの健全性推定部で、建物の健全性を評価するために行う処理の流れを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、地震発生直後に、遠隔地からでも建物の健全性を診断、評価する建物の健全性評価システムである。実施形態では、建物直下地震用に建物下部センサを設置し、かつ遠隔地で発生する地震検知用に緊急地震速報の受信部を設置するとともに、強風検知用の風検知部を設置する。そして、地震情報、または強風情報が受信された段階でセンサを起動させて、建物の階層、及び構造要素(柱、梁、壁)ごとに、建物に地震の主要動の到達前から到達後まで地震情報(加速度、ひずみ量、傾斜量)を取得しながら、その地震情報から建物状態情報(固有振動数、層間変形角、傾斜角)を推定し、建物の健全性を診断、評価する。
以下、添付図面を参照して、本発明による建物の健全性評価システムを実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る建物の健全性評価システムの機能的な構成を示すブロック図を
図1に示す。
図2は、本実施形態に係る建物の健全性評価システムの健全性評価対象となる建物の一例を示す断面図である。
図3は、本実施形態に係る建物の健全性評価システムの表示部に表示される、評価情報のリストの一例を示す図である。
図1に示されるように、建物の健全性評価システム10は、地震検知部20と、複数のセンサ30と、風検知部40と、クラウドコンピュータ100と、表示部120と、を備えている。建物の健全性評価システム10は、建物1の健全性を診断、評価する。
図2に示されるように、建物の健全性評価システム10における健全性評価対象となる建物1は、地盤G上に構築され、上下方向に複数の階層2を有している。ここで、建物1は、階層数や、構造(鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造等)について、何ら限定するものではない。
【0013】
図1、
図2に示されるように、建物1には、地震検知部20と、複数のセンサ30と、風検知部40と、センサ起動部50と、が設けられている。
図1に示されるように、地震検知部20は、建物下部センサ21と、緊急地震速報受信部22と、を備えている。
建物下部センサ21は、建物1の下部、例えば建物1の最下階層に設置されている。建物下部センサ21は、地震発生時に地盤Gとともに震動する建物1の下部に生じる加速度を検出する。建物下部センサ21は、地震発生時の初期微動(P波)を検知する。建物下部センサ21は、初期微動を検知した場合、所定の信号をセンサ起動部50に通知する。
緊急地震速報受信部22は、地震発生時に気象庁から発生される緊急地震速報を、電話通信網、インターネット、テレビやラジオによる放送等の外部通信手段を介して受信する。緊急地震速報は、建物1の所在地に限らず、建物1の所在地から遠方の遠隔地で地震が発生した場合にも発せられる。緊急地震速報受信部22は、緊急地震速報を受信した場合、所定の信号をセンサ起動部50に通知する。
風検知部40は、建物上部センサ41を備えている。建物上部センサ41は、建物1の上部、例えば、建物1の屋上や最上階層に設置されている。建物上部センサ41は、強風等により建物1の上部が揺れることで生じる加速度を検知する。また、建物上部センサ41は、風力計であってもよい。建物上部センサ41は、検知した風力(風速)の検出値を、センサ起動部50に通知する。
【0014】
センサ起動部50は、複数のセンサ30を起動させる。センサ起動部50は、建物下部センサ21、または緊急地震速報受信部22から所定の信号の通知を受けた場合、複数のセンサ30を起動させる。つまり、複数のセンサ30は、建物下部センサ21で地震発生時の初期微動(P波)を検知した場合、または緊急地震速報受信部22で緊急地震速報を受信した場合、複数のセンサ30を起動させる。これにより、センサ起動部50は、建物1の所在地に地震の主要動が到達する地震発生前に、複数のセンサ30を起動させる。
また、センサ起動部50は、風検知部40の建物上部センサ41から通知された風力の検出値が、予め定めた基準以上であった場合に、複数のセンサ30を起動させる。
【0015】
複数のセンサ30は、建物1内の複数の位置に設けられている。本実施形態において、複数のセンサ30として、加速度センサ31と、ひずみセンサ32と、傾斜センサ33と、が設けられている。
加速度センサ31は、例えば、建物1の複数の階層2に設けられている。加速度センサ31は、地震の建物1への影響として、各階層2に生じる加速度を検出する。
ひずみセンサ32は、地震の建物1への影響として、建物1の躯体を構成する柱、梁、柱梁接合部、壁、床スラブ等の構造要素に生じるひずみを検出する。
傾斜センサ33は、柱、壁等の構造要素に設けられている。傾斜センサ33は、地震の建物1への影響として、地震による構造要素の傾斜を検出する。
【0016】
本実施形態において、複数のセンサ30を構成する加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33には、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により製造された、シリコン単結晶レゾナントセンサを用いるのが好ましい。シリコン単結晶レゾナントセンサは、通常の電流駆動のシリコン振動式センサとは異なり、電圧駆動によるシリコン振動センサである。シリコン単結晶レゾナントセンサは、動作の長期安定性、省電力性に優れる。
加速度センサ31にシリコン単結晶レゾナントセンサを用いる場合、シリコン単結晶レゾナントセンサを構成するシリコン振動子は、片持ち梁状の鐘の根本部に設けられる。シリコン単結晶レゾナントセンサのシリコン振動子の先端に、地震による加速度が印加されると、シリコン振動子の表面にひずみが発生し、その共振周波数が変化する。シリコン単結晶レゾナントセンサは、地震による加速度によってシリコン単結晶レゾナントセンサを構成するシリコン振動子に生じる印加ひずみ変化を、シリコン振動子の共振周波数変化として検出する。このような加速度センサ31では、例えば、検出感度:1/1000gal(ガル)、測定範囲:±2G、温度範囲:-10~50℃といったセンサ特性を有する。
ひずみセンサ32にシリコン単結晶レゾナントセンサを用いる場合、ひずみが発生すると、その共振周波数が変化する。シリコン単結晶レゾナントセンサは、シリコン振動子の共振周波数変化を検知することで、地震によって構造要素に生じるひずみ(変位)の量を検出する。このようなひずみセンサ32は、例えば,測定感度:±1με、測定範囲:±2000με、温度範囲:-10~50℃といったセンサ特性を有する。
傾斜センサ33にシリコン単結晶レゾナントセンサを用いる場合、シリコン単結晶レゾナントセンサを構成するシリコン振動子は、片持ち梁状の鐘の根本部に設けられる。構造要素の傾斜により、シリコン単結晶レゾナントセンサのシリコン振動子の先端に加速度が印加されると、シリコン振動子の表面にひずみが発生し、その共振周波数が変化する。シリコン単結晶レゾナントセンサは、地震によって構造要素に生じる振動の直流成分変化に基づいて、構造要素の傾斜による変位を検出する。このような傾斜センサ33では、例えば、傾斜分解能:0.01°といったセンサ特性を有する。
このように、加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33に、シリコン単結晶レゾナントセンサを用いることで、センサ検出感度が、市販のセンサに比較して大幅に高感度化され、建物1に生じた僅かな変形や微小な振動等の変化を検出することができる。
【0017】
複数のセンサ30を構成する加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33は、それぞれ、所定時間、例えば3分間にわたる検出値を記憶するメモリ(図示無し)を備えている。このメモリは、不揮発性メモリであり、常に給電を行う必要は無い。複数のセンサ30がセンサ起動部50によって起動された場合、複数のセンサ30のそれぞれは、起動後、所定時間にわたる検出値を、所定の計測時間間隔ごとに、測定結果としてメモリに記憶させる。
これにより、建物下部センサ21における初期微動の検知、または緊急地震速報受信部22における緊急地震速報の受信により、センサ起動部50で複数のセンサ30が起動され、所定時間にわたって、複数のセンサ30(加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33)で検出を行うことで、建物1への主要動の到達前から到達後までの建物1への地震の影響が測定される。
【0018】
複数のセンサ30を構成する加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33は、それぞれ、有線通信モジュールに加え、無線通信モジュール(図示無し)も備えている。この無線通信モジュールは、例えば、920MHz帯の無線通信機能を有し、後述するクラウドコンピュータ100に、無線LAN(ローカルエリアネットワーク)や無線電話通信網等のネットワーク5を介して、加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33のメモリに記憶された測定結果を含む検知信号を送信する。これにより、複数のセンサ30のそれぞれに有線の配線工事を行う手間を抑え、複数のセンサ30を容易に設置することができる。
【0019】
また、加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33は、太陽電池を用いた自律電源モジュール(図示無し)による給電を受けて作動する。加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33は、個々に自立電源モジュールを備えていてもよいし、1つの自立電源モジュールから、複数の加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33に給電を行うようにしてもよい。自立電源モジュールは、複数のセンサ30を起動させた後に地震によりセンサ起動部50が損傷して作動を停止した場合であっても、加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33のそれぞれに給電を継続する。自立電源モジュールは、加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33のそれぞれが、センサ起動部50によって起動された場合、所定時間にわたって検出を継続できるだけの発電能力を有する。
また、自立電源モジュールに代えて、加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33に内蔵蓄電池を備え、無線給電式の給電装置で内蔵蓄電池を充電するようにしてもよい。この場合の内蔵蓄電池は、センサ起動部50によって複数のセンサ30が起動され、測定を行う短時間のみ持てばよいので、システム構成が大掛かりとなるのを抑えることができる。
【0020】
加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33は、それぞれ、各センサにGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を搭載しており、検知信号をクラウドコンピュータ100に送信する際には、検知信号に時刻情報(タイムスタンプ)を付加する。
加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33は、GPSの時刻情報に基づいて、予め設定された所定時間間隔ごとに起動され、短時間(例えば10秒間)の間、加速度、構造要素のひずみ、構造要素の傾斜を測定する。その場合、複数のセンサ30のそれぞれに搭載されたGPSにより、複数のセンサ30の起動時刻を正確に合わせることができる。
また、このように所定時間間隔ごとに、複数のセンサ30を起動させたときには、複数のセンサ30(加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33)の全てが正常に動作しているか否かの確認も行う。
【0021】
クラウドコンピュータ100は、ネットワーク5を介して、建物1の複数のセンサ30からの検知信号を受信可能に設けられたコンピュータ装置である。クラウドコンピュータ100は、記憶部111と、健全性推定部112と、を機能的に備えている。
記憶部111は、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)、メモリ等をはじめとする各種の記憶装置等からなる。記憶部111は、複数のセンサ30を構成する加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33から受信した検知信号に含まれる、加速度、ひずみ、傾斜等の検出値と、各検出値を検出した時間情報と、を関連付けて記憶している。
【0022】
健全性推定部112は、記憶部111に記憶された複数のセンサ30からの測定結果(検出値、及び時間情報)に基づいて、建物1の健全性を推定し、評価する。
複数のセンサ30を構成する加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33が、予め設定された所定時間間隔ごとに起動されて短時間(例えば10秒間)の間の測定を行った場合、健全性推定部112は、加速度センサ31で検出した加速度の検出値から、例えば、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)または部分空間法により、建物1の固有振動数を算出する。健全性推定部112は、長期間にわたる建物1の固有振動数の変化を観測することで、建物1の長期的な経年変化を監視することができる。
【0023】
また、健全性推定部112は、建物下部センサ21における地震発生時の初期微動(P波)の検知、または緊急地震速報受信部22における緊急地震速報の受信をトリガーとして、センサ起動部50により複数のセンサ30が起動された場合、後に詳述するように、建物1の各部(階層2ごと、及び構造要素ごと)の状態を示す建物状態情報を算出する。後に詳述するが、建物状態情報としては、建物1の固有振動数、建物1の層間変形角、構造要素の傾斜角等がある。
さらに、健全性推定部112は、算出された建物1の各部についての建物状態情報に基づき、建物1の各部の健全性を示す構造性能指標を生成する。構造性能指標としては、例えば、「安全」、「要点検」、「危険」といった複数段階の評価を示すものがある。
【0024】
表示部120は、建物1の内部に設けられた建物内表示部121と、建物1から離れた遠隔地に設けられた建物外表示部122と、を備えている。建物内表示部121は、例えば、建物1の管理センター等に設置される。建物外表示部122は、例えば、建物1の管理者が有する、パーソナルコンピュータ、タブレット装置、スマートフォン、携帯電話等の端末に備えられている。建物外表示部122は、クラウドコンピュータ100に備えられていてもよい。建物内表示部121、建物外表示部122は、それぞれ、ネットワーク5を介して、クラウドコンピュータ100と通信可能である。なお、表示部120は、建物内表示部121、及び建物外表示部122の少なくとも一方を備えていればよい。
本実施形態に係る建物の健全性評価システムの表示部に表示される、評価情報の一例を示す図を
図3に示す。
図3に示されるように、表示部120は、建物1の各部の構造性能指標に基づいて生成された評価情報として、リスト123を表示する。このリスト123には、例えば、ユーザが所有又は管理する建物1の各部における地震の記録日時情報123a、健全性推定部112で生成された建物1の各部の構造性能指標123b等が含まれている。
なおここで、
図3に示したリスト123は一例に過ぎず、リスト123に含まれる情報は、適宜変更可能である。
【0025】
次に、上記したような建物の健全性評価システム10における建物1の健全性評価の詳細について説明する。
本実施形態に係る建物の健全性評価システムにおける建物の健全性評価の流れを示す図を
図4に示す。建物の健全性評価システム10では、
図4に示すように、常時観測工程(ステップS1、S2)と、1次診断工程(ステップS3~S6)と、2次診断工程(ステップS7)と、建物の健全性を示す構造性能指標及び評価情報を生成、表示する工程(ステップS8、S9)とで構成される。
具体的には、建物の健全性評価システム10では、地震が発生していないときも、常時観測を行っている(ステップS1)。これには、複数のセンサ30を構成する加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33が、予め設定された所定時間間隔ごとに起動されて短時間(例えば10秒間)の間の測定を行う。加速度センサ31で検出した加速度の検出値から算出される建物1の固有振動数の変化を観測することで、建物1の長期的な経年変化を監視する。
また、所定時間間隔ごとに、複数のセンサ30が起動されたときには、複数のセンサ30(加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33)の全てが正常に動作しているか否かの確認も行う。
【0026】
センサ起動部50は、地震、または予め定めた基準以上の風の検知の有無を、所定微少時間毎に行っている(ステップS2)。地震、または予め定めた基準以上の風の検知が無い場合、ステップS1に戻り、常時観測処理を所定時間間隔毎に繰り返す。
センサ起動部50は、建物下部センサ21から所定の信号の通知を受けた場合、緊急地震速報受信部22から所定の信号の通知を受けた場合、建物上部センサ41から通知された風力の検出値が、予め定めた閾値以上であった場合に、複数のセンサ30を起動させ、各センサ30における計測を行う(ステップS3)。
複数のセンサ30を構成する加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33は、それぞれ、所定時間、例えば3分間にわたる検出を行い、所定の計測時間間隔ごとに、その検出値をメモリ(図示無し)に記憶させる。
加速度センサ31、ひずみセンサ32、傾斜センサ33は、所定時間の検出後、無線通信モジュール(図示無し)により、メモリに記憶された測定結果を含む検知信号を、クラウドコンピュータ100に送信する(ステップS4)。
【0027】
本実施形態に係る建物の健全性評価システムの健全性推定部で、建物の健全性を評価するために行う処理の流れを模式的に示す図を
図5に示す。
クラウドコンピュータ100の健全性推定部112は、複数のセンサ30から送信され、記憶部111に記憶された測定結果(検出値、及び時間情報)に基づいて、1次診断として、建物1の各部の状態を示す建物状態情報を算出する(ステップS5)。
図5に示されるように、1次診断において、健全性推定部112で算出される建物状態情報としては、建物1の固有振動数D1、伝達関数D2、振動中の固有振動数変化D3、建物1の所在地における震度D4、建物1の各階層2における変位量D5、層間変位角D6、建物1の構造要素のひずみ量D7や傾斜角D8等がある。
建物1の固有振動数D1、伝達関数D2は、加速度センサ31で検出された加速度の検出値D0に基づき、FFTにより算出される。さらに、建物1の振動中の固有振動数変化D3は、加速度センサ31のメモリ(図示無し)に記憶された所定時間にわたる加速度の検出値D0の波形データから求められる。
建物1の所在地における震度D4は、加速度センサ31で検出された加速度の検出値に基づき、気象庁が規定した手法に基づいて算出される。
また、建物1の各階層2における変位量D5、層間変位角D6は、既知の演算手法により、加速度センサ31で検出された検出値D0の波形データ(応答加速度波形)を積分し、逆FFT処理することで得られる。
建物1の構造要素のひずみ量D7は、ひずみセンサ32における検出値により得られる。
建物1の構造要素の傾斜角D8は、傾斜センサ33における検出値により得られる。
【0028】
健全性推定部112は、上記のようにして得られた建物状態情報に基づき、加速度センサ31が設けられた建物1の階層2ごと、及び、ひずみセンサ32や傾斜センサ33が設けられた建物1の構造要素(柱、梁、壁等)ごとに、建物状態情報のそれぞれが、予め定めた設計クライテリア(閾値)を超過するか否かを判定する(ステップS6)。このとき、複数のセンサ30で所定時間にわたって測定を行っているので、各部の建物状態情報は、所定時間のうち、建物状態情報が最大(最悪)であるときの検出値を用いる。
階層2ごと、及び建物1の構造要素ごとに算出される建物状態情報の少なくとも一つが、予め定めた設計クライテリア(閾値)を超過する場合、健全性推定部112は、2次診断を行う(ステップS7)。2次診断では、健全性推定部112は、1次診断で算出した建物状態情報に加え、2次診断で用いる建物状態情報として、建物1の剛性の変化D11、減衰定数の変化D12、及び固有周期を算出する。建物1の剛性の変化D11、減衰定数の変化D12は、建物の初期モデル(初期データ)と時系列の地震情報の波形データ(出力データ)との関係において、運動方程式に建物1のパラメータを適用するシステム同定法(例えば、和田清ほか3名:システム同定、コロナ社、2017年3月21日発行)によって、建物の階層ごと、または構造要素ごとに剛性変化点から推定する。さらに、健全性推定部112は、算出された建物1の剛性の変化D11、減衰定数の変化D12に基づき、損傷個所の推定を行い、局所的損傷評価D13を得る。
【0029】
健全性推定部112は、1次診断、2次診断で得られた建物状態情報に基づき、建物1の健全性を示す構造性能指標、及び評価情報を生成する(ステップS8)。
ここで、ステップS6において、算出された各部の建物状態情報の全てが、予め定めた設計クライテリアを超過しなかった場合、健全性推定部112は、1次診断で得られた建物状態情報に基づき、建物1の階層2ごと、及び、ひずみセンサ32や傾斜センサ33が設けられた建物1の構造要素ごとに、「安全」であることを示す構造性能指標を生成する。
また、ステップS6において、算出された各部の建物状態情報の少なくとも1つが、予め定めた設計クライテリアを超過した場合、健全性推定部112は、設計クライテリアを超過した建物状態情報に該当する建物1の部位(特定の階層2や、特定の構造要素)に対し、その超過度合いに応じて、「要点検」または「危険」であることを示す構造性能指標を生成する。健全性推定部112は、設計クライテリアを超過した建物状態情報に該当する建物1の部位以外の階層2や、構造要素に対しては、「安全」であることを示す構造性能指標を生成する。
さらに、健全性推定部112は、建物1の各部に対して生成した構造性能指標から、
図3に示したような評価情報のリスト123のデータを生成する。
健全性推定部112は、生成された評価情報を、表示部120に送信する。
【0030】
表示部120は、クラウドコンピュータ100の健全性推定部112から送信された評価情報のリスト123を表示する(ステップS9)。
ユーザは、
図3に示されるように、表示された評価情報のリスト123に基づいて、建物1から離れた場所にいても、建物1の各部の健全性の評価結果を確認することができる。
【0031】
上述したような建物の健全性評価システム10によれば、建物1の下部に設置されて加速度を検出する建物下部センサ21、及び緊急地震速報を受信する緊急地震速報受信部22を備えた地震検知部20と、建物1の複数の位置に設けられて、各位置における地震の建物1への影響を測定し、無線通信機能により測定結果をクラウドコンピュータ100に送信する複数のセンサ30と、クラウドコンピュータ100に送信された測定結果に基づいて、建物1の健全性を推定し評価する健全性推定部112と、を備え、建物下部センサ21による初期微動の検知、または緊急地震速報受信部22における緊急地震速報の受信が行われた場合に、複数のセンサ30が起動され、複数のセンサ30は、建物1に主要動の到達前から到達後までの建物1への地震の影響を測定する。
このような構成によれば、建物1の下部に設置される建物下部センサ21における初期微動の検知、または緊急地震速報の受信によって地震発生を検知したら、複数のセンサ30を起動させることで、地震の主要動、すなわち地震荷重(地盤の揺れ)の建物1への到達前(地震発生前)から到達後(地震発生後)までの地震の影響を測定することができる。このように、地震発生を検知した場合に、複数のセンサ30を起動させて建物1への地震の影響を測定するので、常時、建物1内に設置する複数のセンサ30を作動させておく必要がない。したがって、複数のセンサ30や、複数のセンサ30で測定した情報を記憶する記憶装置等を常時作動させるための蓄電池が不要となる。その結果、地震発生時に建物1の健全性を評価する建物の健全性評価システム10を、比較的簡単な構成により実現することが可能となる。
【0032】
特に本実施形態においては、地震検知部20は建物下部センサ21と緊急地震速報受信部22を併用して、主要動の到達前に複数のセンサ30を起動するように構成されている。
建物1の近傍に地震が発生した場合には、初期微動から主要動までの間隔が短いため、緊急地震速報の受信を待つと主要動の到達までに複数のセンサ30を起動できない可能性がある。この場合には、建物下部センサ21による初期微動の検知に基づいて、地震検知部20は複数のセンサ30を起動する。
また、建物1の遠方で地震が発生した場合には、初期微動が建物1の近傍に到達した際には微弱となり、建物下部センサ21にシリコン単結晶レゾナントセンサを用いてもこれを有効に検知できない可能性がある。この場合には、緊急地震速報受信部22における緊急地震速報の受信に基づいて、地震検知部20は複数のセンサ30を起動する。地震が遠方で生じた場合には、初期微動から主要動までの間隔が長くなるため、主要動の到達までに複数のセンサ30を起動することができる。
このように、建物下部センサ21と緊急地震速報受信部22を併用することにより、どのような距離で地震が生じても、複数のセンサ30を確実に起動することが可能である。
【0033】
また、複数のセンサ30は、加速度センサ31、ひずみセンサ32、及び傾斜センサ33を備えている。
このような構成によれば、加速度センサ31に加えて、ひずみセンサ32、傾斜センサ33を備えることで、建物1の構造要素の局所的な損傷の発生を、より高精度に測定することができる。したがって、建物1の各位置における地震の建物1への影響を、より高精度に測定することが可能となる。
【0034】
また、建物の健全性評価システム10は、建物1の内部、及び遠隔地の少なくとも一方に設けられた表示部120を備え、複数のセンサ30は、建物1の階層2ごと、または建物1を構成する構造要素ごとに設けられ、健全性推定部112は、測定結果から変位量及び層間変形角を算出し、算出値と所定の閾値とを比較して、建物1の階層2ごと、及び建物1の構造要素ごとに、建物の健全性を示す構造性能指標を算出し、表示部120は、算出された構造性能指標に基づく建物の評価情報のリスト123を表示する。
このような構成によれば、複数のセンサ30で建物1への地震の影響を測定し、その測定結果に基づいて構造性能指標を算出しているため、建物1内の部位ごとに、地震発生時に建物1の健全性に変化が生じたかを、評価情報のリスト123に基づいて正確に把握することが可能となる。
【0035】
また、上記したような地震検知部20、複数のセンサ30、風検知部40、センサ起動部50は、既存の建物1に対し、後付で設置することも可能である。
さらに、複数のセンサ30は、それぞれメモリ(図示無し)を備えているため、クラウドコンピュータ100が故障する等して建物の健全性評価システム10の動作に支障が生じたような場合であっても、センサ30の測定結果を、センサ30から直接取得することもできる。
加えて、建物の健全性評価システム10では、地震が発生していないときも、複数のセンサ30を所定時間間隔ごとに起動させて測定を行っているので、建物1の長期的な経年変化を監視することができ、適切なタイミングで建物1のメンテナンス等を行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
1 建物 31 加速度センサ
2 階層 32 ひずみセンサ
10 健全性評価システム 33 傾斜センサ
20 地震検知部 100 クラウドコンピュータ
21 建物下部センサ 112 健全性推定部
22 緊急地震速報受信部 120 表示部
30 複数のセンサ 123 リスト(評価情報)