(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】制御バルブ
(51)【国際特許分類】
F16K 39/06 20060101AFI20220107BHJP
F16K 5/04 20060101ALI20220107BHJP
F16K 11/076 20060101ALI20220107BHJP
F16K 11/085 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
F16K39/06
F16K5/04 B
F16K5/04 C
F16K11/076 Z
F16K11/085 Z
(21)【出願番号】P 2019506322
(86)(22)【出願日】2018-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2018010615
(87)【国際公開番号】W WO2018169081
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2017053702
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】大関 哲史
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196931(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2213850(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 39/06
F16K 3/00- 5/22
F16K 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
前記ジョイント部材と前記シール筒部材の間には、前記シール筒部材の変位を規制する変位規制スプリングが設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の制御バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用冷却水の流路切換等に用いられる制御バルブに関する。
本願は、2017年3月17日に出願された日本国特願2017-053702号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
冷却水を用いてエンジンを冷却する冷却システムでは、ラジエータとエンジンの間を循環するラジエータ流路とは別に、バイパス流路や暖機流路等が併設されることがある。バイパス流路は、ラジエータをバイパスする流路である。暖機流路は、オイルウォーマを通過する流路である。この種の冷却システムでは、流路の分岐部に制御バルブが介装されている。冷却システムでは、制御バルブによって適宜流路が切り換えられる。制御バルブとしては、バルブハウジング内に円筒壁を有する弁体が回転可能に配置されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の制御バルブは、弁体の回転位置に応じて任意の流路を開閉する。
【0003】
特許文献1に記載の制御バルブにおいて、バルブハウジングには、冷却水等の液体が流入する流入ポートと、バルブハウジング内に流入した液体を外部に吐出するための設定数の吐出ポートと、が設けられている。弁体の円筒壁には、円筒壁の内外を連通する複数の弁孔が各吐出ポートと対応して形成されている。バルブハウジングの各吐出ポートの周縁には、吐出側の配管を接続するためのジョイント部材が接合されている。ジョイント部材のバルブハウジング内側には、シール筒部材の第1側端部が摺動自在に保持されている。各シール筒部材の第2側には、弁摺接面が設けられている。各シール筒部材の弁摺接面は、弁体の対応する弁孔の回転経路と少なくとも一部が重なる位置において円筒壁の外面に摺接する。
【0004】
弁体は、シール筒部材が対応する弁孔と連通する回転位置にあるときには、円筒壁の内側領域から対応する吐出ポートへの液体の流出を許容する。弁体は、シール筒部材が対応する弁孔と連通しない回転位置にあるときには、円筒壁の内側領域から対応する吐出ポートへの液体の流出を遮断する。なお、弁体の回転位置は、アクチュエータ(電動モータ等)によって操作される。
【0005】
特許文献1に記載の制御バルブにおいて、シール筒部材は、付勢スプリングによって弁体に向けて付勢されている。そのため、シール筒部材には、バルブハウジング内の液体の圧力、及びスプリングの付勢力が作用する。
具体的に、シール筒部材は、ジョイント部材の内端に突設された筒部の外周面に摺動自在に装着されている。筒部の外周面とシール筒部材の内周面の間がシールリングによって密閉されている。付勢スプリングは、シール筒部材における弁体から離反する側の端面とジョイント部材との間に介装されている。シール筒部材の弁体から離反する側の領域(スプリング支持領域とシールリングの保持領域)は、バルブハウジング内の液圧がシール筒部材を弁体に押し付ける方向に作用する第1の作用面とされている。シール筒部材の弁摺接面の外周縁部には、バルブハウジング内の液圧がシール筒部材を弁体から離反させる方向に作用する円環状の第2の作用面が設けられている。第1の作用面の面積は第2の作用面の面積よりも大きく設定されている。シール筒部材には、第1の作用面と第2の作用面との面積差と液圧に応じた力が弁体への押し付け力として作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の制御バルブは、スプリングの付勢力に加えて液圧による付勢力がシール筒部材に作用するため、シール筒部材の端部が遮断状態のときに、シール筒部材の端部のシール状態を良好に保つことができる、とされている。
ここで、特許文献1に記載の制御バルブは、シール筒部材の弁摺接面と弁体の円筒壁の間に液体の漏れがないものとして考案されている。しかし、実際には、弁摺接面と円筒壁の外面の間には摺動を許容するために微少な隙間があり、弁摺接面に隣接する第2の作用面に作用する液圧はその隙間からの液漏れによって減少する。このため、シール筒部材の第2の作用面に作用する液圧は、シール筒部材の第1の作用面に作用する液圧よりも小さくなり、バルブハウジング内の液体の圧力(吐出ポートの上流側と下流側の圧力差)が高まったときに、シール筒部材の弁摺接面が弁体に対して過剰な力で押し付けられてしまう。このため、弁体を回転駆動するアクチュエータの大型・高出力化を避けることができないうえ、シール筒部材や弁体の軸受部に摩耗が生じ易くなる。
【0008】
解決しようとする課題は、弁体に対するシール筒部材の過剰な力での押し付けを抑制しつつ、シール筒部材と弁体の間の良好なシール性を確保することができる制御バルブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願の一形態の制御バルブは、外部から液体が流入する流入ポート、及び、内部に流入した液体を外部に吐出する吐出ポートを有するバルブハウジングと、前記吐出ポートの周縁に接合されるジョイント部材と、前記バルブハウジングの内部に回転可能に配置され、内外を連通する弁孔が形成された周壁部を有する弁体と、一端側が、前記吐出ポートに連通した状態で前記ジョイント部材に保持されると共に、他端側に、前記弁体の前記弁孔の回転経路と少なくとも一部がラップする位置で前記周壁部の外面に摺動自在に当接する弁摺接面が設けられたシール筒部材と、を備え、前記弁体が、前記弁孔と前記シール筒部材を連通させる回転位置にあるときに、前記周壁部の内側領域から前記吐出ポートへの液体の流出を許容し、前記弁体が、前記弁孔と前記シール筒部材を連通させない回転位置にあるときに、前記周壁部の内側領域から前記吐出ポートへの液体の流出を制御または遮断する制御バルブにおいて、前記シール筒部材は、前記バルブハウジング内の液体の圧力を受けて前記シール筒部材を前記弁体の側に付勢する付勢用受圧面を有し、前記付勢用受圧面の面積S1と前記シール筒部材の前記弁摺接面の面積S2とは、式(1),(2)を満たすように設定されていることを特徴とする。
S1<S2≦S1/k …(1)
α≦k<1 …(2)
k:弁摺接面と弁体の間の微少隙間を流れる液体の圧力減少定数。
α:液体の物性によって決まる圧力減少定数の下限値。
【0010】
上記の構成により、シール筒部材の付勢用受圧面の面積S1は、シール筒部材の弁摺接面の面積S2に圧力減少定数kを乗じた値以上の面積となる。この結果、バルブハウジング内の液体の圧力が、付勢用受圧面と、弁摺接面の外側の周域部とに作用すると、付勢用受圧面を通してシール筒部材に作用する液圧による弁体方向の押し付け力が、弁摺接面と弁体の間の微少隙間から液体が漏れ出るときにシール筒部材に作用する弁体からの浮き上がり力以上の力となる。このため、シール筒部材の弁摺接面を弁体の外面に当接させた状態に維持することができる。
また、シール筒部材の付勢用受圧面の面積S1が弁摺接面の面積S2よりも小さいため、バルブハウジング内の液体の圧力が大きくなってもシール筒部材が過剰な力で弁体に押し付けられるのを抑制される。
【0011】
また、本出願の他の形態の制御バルブは、外部から液体が流入する流入ポート、及び、内部に流入した液体を外部に吐出する吐出ポートを有するバルブハウジングと、前記流入ポートの周縁に接合されるジョイント部材と、前記バルブハウジングの内部に回転可能に配置され、内外を連通する弁孔が形成された周壁部を有する弁体と、一端側が、前記流入ポートに連通した状態で前記ジョイント部材に保持されると共に、他端側に、前記弁体の前記弁孔の回転経路と少なくとも一部がラップする位置で前記周壁部の外面に摺動自在に当接する弁摺接面が設けられたシール筒部材と、を備え、前記弁体が、前記弁孔と前記シール筒部材を連通させる回転位置にあるときに、前記流入ポートの上流部から前記周壁部の内側領域への液体の流入を許容し、前記弁体が、前記弁孔と前記シール筒部材を連通させない回転位置にあるときに、前記流入ポートの上流部から前記周壁部の内側領域への液体の流入を制御または遮断する制御バルブにおいて、前記シール筒部材は、前記流入ポートの上流部の液体の圧力を受けて前記シール筒部材を前記弁体の側に付勢する付勢用受圧面を有し、前記付勢用受圧面の面積S1と前記シール筒部材の前記弁摺接面の面積S2とは、式(1),(2)を満たすように設定されていることを特徴とする。
S1<S2≦S1/k …(1)
α≦k<1 …(2)
k:弁摺接面と弁体の間の微少隙間を流れる液体の圧力減少定数。
α:液体の物性によって決まる圧力減少定数の下限値。
【0012】
上記の構成により、シール筒部材の付勢用受圧面の面積S1は、シール筒部材の弁摺接面の面積S2に圧力減少定数kを乗じた値以上の面積となる。この結果、流入ポートの上流部からの液体の圧力が、付勢用受圧面と、弁摺接面の内側の周域部とに作用すると、付勢用受圧面を通してシール筒部材に作用する液圧による弁体方向の押し付け力が、弁摺接面と弁体の間の微少隙間から液体が漏れ出るときにシール筒部材に作用する弁体からの浮き上がり力以上の力となる。このため、シール筒部材の弁摺接面を弁体の外面に当接させた状態に維持することができる。
また、シール筒部材の付勢用受圧面の面積S1が弁摺接面の面積S2よりも小さいため、流入ポートの上流部からの液体の圧力が大きくなってもシール筒部材が過剰な力で弁体に押し付けられるのを抑制される。
【0013】
前記シール筒部材の弁摺接面は、前記周壁部の外面の前記シール筒部材との当接領域と同じ曲率半径の円弧面によって構成されることが望ましい。
この場合、弁摺接面の全域が周壁部の外面にほぼ均等に当接するようになるため、弁摺接面の径方向の外側端から内側端に亘ってほぼ均等な圧力減少が生じ易くなる。したがって、シール筒部材の弁摺接面に作用する浮き上がり力が安定し、弁摺接面を弁体の外周面に安定して当接させることが可能になる。
【0014】
前記ジョイント部材と前記シール筒部材の間には、前記シール筒部材の変位を規制する変位規制スプリングが設けられるようにしても良い。
この場合、シール筒部材を弁体から離反させる方向の大きな力がシール筒部材に作用したときであっても、変位規制スプリングによってシール筒部材の離反方向の変位を規制することができる。したがって、シール筒部材のシール性能がより安定する。
【発明の効果】
【0015】
上述した制御バルブによれば、シール筒部材に作用する液体による弁体方向の押し付け力が、シール筒部材に作用する浮き上がり力を下回らない範囲で、弁摺接面の面積が付勢用受圧面の面積よりも大きく設定されているため、弁体に対するシール筒部材の過剰な力での押し付けを抑制しつつ、良好なシール性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施形態に係る冷却システムのブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る制御バルブの斜視図である。
【
図3】第1の実施形態に係る制御バルブの分解斜視図である。
【
図4】第1の実施形態に係る制御バルブの
図2のIV-IV線に沿う断面図である。
【
図5】第1の実施形態に係る制御バルブの
図4のV部の拡大図である。
【
図6】実施形態に係る制御バルブと比較例の制御バルブに対する試験結果を示したグラフである。
【
図7】第2の実施形態に係る制御バルブの
図2のIV-IV線に沿う断面に対応する断面図である。
【
図8】第2の実施形態に係る制御バルブの
図7のVII-VII部の拡大図である。
【
図9】第3の実施形態に係る制御バルブの
図7と同様の断面図である。
【
図10】実施形態に係る制御バルブの第1の変形例の
図7と同様の断面図である。
【
図11】実施形態に係る制御バルブの第2の変形例の
図7と同様の断面図である。
【
図12】実施形態に係る制御バルブの第3の変形例の
図7と同様の断面図である。
【
図13】実施形態に係る制御バルブの第4の変形例の
図7と同様の断面図である。
【
図14】第4の実施形態に係る制御バルブの
図7と同様の断面図である。
【
図15】第4の実施形態に係る制御バルブの
図14のXV部の拡大図である。
【
図16】第4の実施形態に係る制御バルブのジヨイント部材の一部の斜視図である。
【
図17】第5の実施形態に係る制御バルブの断面図である。
【
図18】第5の実施形態に係る制御バルブの
図17のXVII部の拡大図である。
【
図19】第6の実施形態に係る制御バルブの断面図である。
【
図20】第6の実施形態に係る制御バルブの
図19のXX部の拡大図である。
【
図21】第3の実施形態の制御バルブの変形例を示す
図7と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。以下では、冷却水を用いてエンジンを冷却する車両の冷却システムに、本実施形態に係る制御バルブを採用した場合について説明する。
【0018】
図1は、冷却システム1のブロック図である。
図1に示すように、冷却システム1は、車両駆動源に少なくともエンジン2を具備する車両に搭載されている。なお、車両としては、エンジン2のみを有する車両の他に、ハイブリッド車両やプラグインハイブリッド車両等であっても構わない。
【0019】
冷却システム1は、エンジン2(ENG)、ウォータポンプ3(W/P)、ラジエータ4(RAD)、オイルウォーマ5(O/W)、ヒータコア6(HTR)、EGRクーラ7(EGR)及び制御バルブ8(EWV)が各種流路10~15により接続されて構成されている。
ウォータポンプ3の吐出側にはエンジン2内の冷却通路の入口側が接続され、その冷却通路の出口側には制御バルブ8が接続されている。このウォータポンプ3、エンジン2、制御バルブ8を、上流から下流にかけて順に接続する流路は、冷却システム1におけるメイン流路10を構成している。
【0020】
メイン流路10は、制御バルブ8において、ラジエータ流路11、バイパス流路12、暖機流路13、空調流路14及びEGR流路15に分岐している。これらラジエータ流路11、バイパス流路12、暖機流路13、空調流路14及びEGR流路15の各下流部分は、ウォータポンプ3の吸入側に接続されている。
【0021】
ラジエータ流路11には、流路を流れる冷却水と外気との間で熱交換を行うためのラジエータ4が介装されている。ラジエータ4を通過して冷却された冷却水はウォータポンプ3の吸入側に戻される。
【0022】
バイパス流路12は、冷却水の温度が低いとき等にラジエータ4を迂回する流路であり、冷却水がそのままウォータポンプ3の吸入側に戻される。
【0023】
暖機流路13には、オイルウォーマ5(エンジンオイル用の熱交換器)が介装されている。オイルウォーマ5には、エンジン2の内部を循環するエンジンオイルの流れるオイル通路18が接続されている。オイルウォーマ5においては、暖機流路13を流れる冷却水とエンジンオイルとの間で熱交換を行う。なお、本実施形態では、燃費向上や早期暖機の観点で、熱交換器を「オイルウォーマ5」として用いているが、運転条件によっては冷却水の水温よりもエンジンオイルの油温のほうが高くなる場合があるため、その際は熱交換器を「オイルクーラ」として用いることは当然である。
【0024】
空調流路14には、ヒータコア6が介装されている。ヒータコア6は、例えば空調装置のダクト(不図示)内に設けられている。ヒータコア6においては、冷却水とダクト内を流通する空調空気との間で熱交換を行う。
【0025】
EGR流路15には、EGRクーラ7が介装されている。EGRクーラ7では、EGR流路15を流れる冷却水とEGRガスとの間で熱交換が行われる。
【0026】
上述した冷却システム1では、メイン流路10においてエンジン2を通過した冷却水が、制御バルブ8内に流入した後、制御バルブ8の動作によって各種流路11~15に選択的に分配される。これにより、早期昇温や高水温(最適温)制御等を実現でき、車両の燃費向上が図られている。
【0027】
図2は、第1の実施形態に係る制御バルブ8の斜視図である。
図3は、同制御バルブ8の分解斜視図である。
図2、
図3に示すように、制御バルブ8は、流入ポート37と複数の吐出ポート41A,41B,41C,41D,41Eを有するバルブハウジング21と、バルブハウジング21内に回動可能に配置された弁体22と、弁体22を回転駆動する駆動ユニット23と、を備えている。
【0028】
バルブハウジング21は、弁体22が内部に収容される(弁収容部を有する)有底筒状のハウジング本体25と、ハウジング本体25の開口部を閉塞する蓋体26と、を有している。なお、以下の説明では、バルブハウジング21の軸線Oに沿う方向を単に軸方向と言う。バルブハウジング21は、軸方向に長い筒状に形成されている。バルブハウジング21の周壁には、外部(エンジン2)から冷却水(液体)が流入する流入ポート37と、
図1に示すラジエータ流路11、EGR流路15、バイパス流路12、暖機流路13、空調流路14にそれぞれ接続されて、バルブハウジング21内に流入した冷却水(液体)を各流路に吐出する複数の吐出ポート41A,41B,41C,41D,41Eが設けられている。
【0029】
流入ポート37は、バルブハウジング21の軸方向の一端側寄りの外周に設けられ、吐出ポート41A,41B,41C,41D,41Eは、ハウジング本体25の外周の軸方向と周方向に相互に離間した適所に設けられている。各吐出ポート41A,41B,41C,41D,41Eは、
図3に示すように、ハウジング本体25の外周壁に形成されている。各吐出ポート41A,41B,41C,41D,41Eの周縁には、吐出用の配管を接続するためのジョイント部材43が接合されている。
EGR流路15に接続される吐出ポート41Bを除く他の吐出ポート41A,41C,41D,41Eの各内側には、後述するシール筒部材111と、シールリング112と、変位規制スプリング113とを含むシール機構110が設けられている。
【0030】
なお、バルブハウジング21内の流入ポート37に対向する部分には、サーモスタット45により開閉可能に構成されたフェール開口70が形成されている。EGR流路15に接続される吐出ポート41Bは、フェール開口70の開口方向に直交する方向に開口している。この構成により、流入ポート37からバルブハウジング21内に流入した冷却水は、サーモスタット45に当たった後、吐出ポート41BよりEGR流路15に流入する。そのため、バルブハウジング21内におけるサーモスタット45周辺に吐出ポート41Bに向けた流れを作ることができ、サーモスタット45の周辺によどみ点が形成されるのを抑制している。
【0031】
吐出ポート41A,41C,41D,41Eと、これらの各内部に設けられるシール機構110は、サイズや形状は若干異なるものの、いずれも同様の基本構造とされている。このため、以下では、暖機流路13に接続される吐出ポート41Dと、その内部に設けられるシール機構110を代表とし、
図3,
図4を参照して、これらと弁体22とについて詳述する。
図4は、制御バルブ8の
図2のIV-IV線に沿う断面図であり、
図5は、
図4のV部を拡大して示した図である。
【0032】
図3に示すように、弁体22は、バルブハウジング21の内部に回転可能に収容されている。弁体22は、バルブハウジング21の軸線Oと同軸に配置される円筒壁27を備えている。円筒壁27は、請求の範囲に記載の周壁部である。円筒壁27の適所には、円筒壁27の内外を連通する複数の弁孔28A,28C,28D,28Eが形成されている。弁孔28A,28C,28D,28Eは、吐出ポート41A,41C,41D,41Eに対応して設けられている。弁孔28A,28C,28D,28Eは、円筒壁27の軸方向に離間して設けられている。バルブハウジング21の各吐出ポート41A,41C,41D,41Eは、円筒壁27の各弁孔28A,28C,28D,28Eの回転経路と軸線O方向で少なくとも一部がラップする位置に形成されている。
【0033】
シール機構110のシール筒部材111は、
図4,
図5に示すように、全体が略円筒状に形成されている。シール筒部材111は、一端側の内周面が対応する吐出ポート41Dのジョイント部材43に摺動自在に保持されている。シール筒部材111は、この状態において、対応するジョイント部材43の通路孔38に連通している。また、シール筒部材111の他端側の端面には、円弧状の弁摺接面29が設けられている。弁摺接面29は、弁体22の対応する弁孔28Dの回転経路と少なくとも一部がラップする位置で、円筒壁27の外面に摺動自在に当接する。なお、シール筒部材111と弁体22の円筒壁27とはいずれも樹脂材料によって形成されている。
【0034】
弁体22は、弁孔28Dと、その弁孔28Dに対応するシール筒部材111とが相互に連通する回転位置にあるときに、シール筒部材111を介して円筒壁27の内側領域から吐出ポート41Dへの冷却水の流出を許容する。また、弁体22は、弁孔28Dと、その弁孔28Dに対応するシール筒部材111が相互に連通しない回転位置にあるときには、シール筒部材111を介した円筒壁27の内側領域から吐出ポート41Dへの冷却水の流出を遮断する。
【0035】
弁体22は、ハウジング本体25の底壁部に設けられた駆動ユニット23(
図2,
図3参照)によって適宜回転位置を調整される。駆動ユニット23は、ケーシング23a内に図示しないモータや減速機構、制御基盤等が収納されて構成されている。
【0036】
ジョイント部材43は、
図4,
図5に示すように、吐出用の配管が接続されるジョイント本体部43aと、ジョイント本体部43aの基端から径方向外側に張り出す接合フランジ51と、接合フランジ51の内周縁部からハウジング本体25の内部方向に突出する筒部60と、を備えている。接合フランジ51は、ハウジング本体25の吐出ポート41Dを構成する周状壁25aの端面に溶着やねじ止等の適宜手段によって接合されている。筒部60は、ハウジング本体25の吐出ポート41D部分から弁体22方向に向かって突出している。
【0037】
シール筒部材111は、ジョイント部材43の筒部60の外周面に摺動可能に嵌合される円筒状の嵌合壁111aを備えている。嵌合壁111aは、バルブハウジング21の周状壁25aとジョイント部材43とに囲まれた空間部内に配置されている。シール筒部材111の弁体22側の端部は、弁体22の円筒壁27の外周面に摺接する弁摺接面29となっている。シール筒部材111の弁摺接面29と逆側のジョイント側端面66は一定幅の平坦面となっている。
【0038】
シール筒部材111のジョイント側端面66と、ジョイント部材43の接合フランジ51の間には、変位規制スプリング113が介装されている。変位規制スプリング113は、弁体22から離反する方向のシール筒部材111の変位を規制する。本実施形態の場合、変位規制スプリング113は、組付け状態において、シール筒部材111を初期位置(弁摺接面29が弁体22の外周面に接する位置)に維持するように機能する。変位規制スプリング113は、シール筒部材111が初期位置にあるときには、シール筒部材111に付勢力が大きく作用しないように設定されている。
【0039】
バルブハウジング21の周状壁25aとシール筒部材111の外周面の間には、導入通路48が形成されている。導入通路48は、バルブハウジング21内の冷却水の液圧をシール筒部材111のジョイント側端面66に作用させる。ジョイント側端面66は、弁体22方向にバルブハウジング21内の冷却水の液圧を受ける。本実施形態では、ジョイント側端面66が付勢用受圧面を構成している。
【0040】
また、ジョイント部材43の筒部60の外周面には、円環状の溝部61が形成されている。筒部60の溝部61とシール筒部材111の内周面との間には、円環状のシール収容空間62が設けられている。シール収容空間62には、溝部61の底部側の周面61aとシール筒部材111の内周面とに密接するシールリング112が収容されている。
【0041】
シールリング112は、Y字状断面の環状の弾性部材であり、Y字形状の開口側を弁体22と離反する側に向けるようにしてシール収容空間62に収容されている。シールリング112は、Y字形状の二股部の各側端部が溝部61の底部側の周面61aとシール筒部材111の内周面とに密接する。シールリング112と溝部61の弁体22から離反する側の端面との間は、バルブハウジング21内の冷却水の液圧が導入される液圧室47とされている。また、ジョイント部材43の筒部60とシール筒部材111の嵌合壁111aとの間には、導入通路63が確保されている。導入通路63は、バルブハウジング21内の冷却水の液圧を、ジョイント側端面66を経由して液圧室47に導入する。
【0042】
また、シール筒部材111の弁摺接面29は、シール筒部材111の径方向の外側端から内側端に亘る全域が、弁体22の円筒壁27の外面のうちのシール筒部材111との当接領域と同じ曲率半径に形成されている。したがって、弁摺接面29は基本的にシール筒部材111の径方向の外側端から内側端に亘る全域で円筒壁27の外面に当接する。ただし、シール筒部材111の製造誤差や組付け誤差等によって、弁摺接面29の径方向外側領域と円筒壁27との間の隙間が僅かに増大することがある。
【0043】
ここで、シール筒部材111におけるジョイント側端面66(付勢用受圧面)の面積S1と、弁摺接面29の面積S2とは、以下の式(1),(2)を満たすように設定されている。
S1<S2≦S1/k …(1)
α≦k<1 …(2)
k:弁摺接面と弁体の間の微少隙間を流れる液体の圧力減少定数。
α:液体の物性によって決まる圧力減少定数の下限値。
なお、ジョイント側端面66の面積S1と弁摺接面29の面積S2は、シール筒部材111の軸線方向と直交する面に投影したときの面積を意味するものとする。
【0044】
式(2)におけるαは、液体の種類や、使用環境(例えば、温度)等によって決まる圧力減少定数の標準値であり、通常使用条件下での水の場合にα=1/2となる。使用する液体の物性が変化した場合には、α=1/3等に変化する。
また、式(2)における圧力減少定数kは、弁摺接面29が径方向の外側端から内側端にかけて均一に円筒壁27に接しているときには、圧力減少定数の標準値であるα(例えば、1/2)となる。
また、シール筒部材111の製造誤差や組付け誤差、異物等によって、弁摺接面29と円筒壁27の間の当接隙間が弁摺接面29の径方向の外側端から内側端にかけて均一でなくなり、外側端の当接隙間が大きくなることがある。この場合、式(2)における圧力減少定数kは、次第にk=1に近づくことになる。
【0045】
本実施形態の制御バルブ8では、シール筒部材111の弁摺接面29と円筒壁27(弁体22)の間に、両者の間の摺動を許容するために微小な隙間があることを前提とし、ジョイント側端面66と弁摺接面29の各面積S1,S2の関係が式(1),(2)によって決められている。
即ち、シール筒部材111のジョイント側端面66には、バルブハウジング21内の冷却水の圧力がそのまま作用するが、弁摺接面29には、バルブハウジング21内の冷却水の圧力がそのまま作用せず、弁摺接面29と円筒壁27の間の微小な隙間を冷却水が径方向の外側端から内側端に向かって流れるときに圧力減少を伴いつつその圧力が作用する。このとき、微小な隙間を流れるバルブハウジング21内の冷却水の圧力は低圧の吐出ポート41D内に向かって漸減しつつ、シール筒部材111を弁体22から離反する方向に押し上げようとする。
シール筒部材111のジョイント側端面66には、ジョイント側端面66の面積S1にバルブハウジング21内の圧力Pを乗じた力がそのまま作用し、シール筒部材111の弁摺接面29には、弁摺接面29の面積S2にバルブハウジング21内の圧力Pと圧力減少定数kとを乗じた力が作用する。
【0046】
本実施形態の制御バルブ8は、式(1)からも明らかなようにk×S2≦S1が成り立つように面積S1,S2が設定されている。このため、P×k×S2≦P×S1の関係も成り立つ。
したがって、シール筒部材111のジョイント側端面66に作用する押し付け方向の力F1(F1=P×S1)は、シール筒部材111の弁摺接面29に作用する浮き上がり方向の力F2(F2=P×k×S2)以上に大きくなる。よって、本実施形態の制御バルブ8においては、バルブハウジング21内の冷却水の圧力の関係のみによっても、シール筒部材111の端部を弁体22の円筒壁27によって閉じることができる。
【0047】
一方、本実施形態の制御バルブ8は、式(1)に示すように、シール筒部材111のジョイント側端面66の面積S1が弁摺接面29の面積S2よりも小さい。このため、制御バルブ8は、バルブハウジング21内の冷却水の圧力が大きくなっても、シール筒部材111の弁摺接面29が過剰な力で弁体22の円筒壁27に押し付けられるのを抑制することができる。したがって、この制御バルブ8を採用した場合には、弁体22を回転駆動する駆動ユニット23の大型・高出力化を回避することができるうえ、シール筒部材111や弁体22の軸受部71(
図3参照)の早期摩耗を抑制することができる。
【0048】
ここで、冷却水(式(2)におけるkは、k=0.5)を使用し、ジョイント側端面66(付勢用受圧面)の面積S1と弁摺接面29の面積S2が式(1)を満たす実施形態の制御バルブ8と、面積S1,S2が式(1)を満たさない二つの比較例の制御バルブについて、冷却液の漏れ試験と、弁摺接面29の摩耗試験を行った。その結果は、以下の表1と、
図6のグラフに示すようになった。
表1と
図6において、No2は、式(1)を満たす実施形態の制御バルブ8であり、No.1は、面積S1,S2が、S1>S2、かつS2<S1/kの比較例の制御バルブである。また、No.3は、面積S1,S2が、S1<S2、かつS2>S1/kの比較例の制御バルブである。
【0049】
【0050】
冷却液の漏れ試験では、制御バルブ8の弁体22の回転位置を、弁体22の弁孔28Dと、その弁孔28Dに対応するシール筒部材111と、が相互に連通しない位置とした。この状態で流入ポートの圧力を次第に増加させたときの吐出ポートからの冷却液の漏れ量を計測した。また、弁摺接面29の摩耗試験では、流入ポートの圧力を一定にして弁体22の円筒壁27を所定時間回転させたときの、弁摺接面29の摩耗状態を判定した。
表1と
図6から明らかなように、弁摺接面29の面積S2がジョイント側端面(付勢用受圧面)66の面積S1よりも小さい(S1>S2)No.1の比較例では、冷却水の漏れ量は少ない。しかし、No.1の比較例では、弁摺接面29の摩耗はNo.1やNo.3の制御バルブよりも大きくなった。また、弁摺接面29の面積S2がS1/kよりも大きいNo.3の比較例では、弁摺接面29の摩耗は少ない。しかし、No.3の比較例では、冷却水の漏れ量は規定値よりも増大した。
これに対し、面積S1,S2が式(1)を満たすNo.2の実施形態の制御バルブ8は、弁摺接面29の摩耗が少なく、かつ冷却水の漏れはわずかで規定値内であった。
【0051】
本実施形態に係る制御バルブ8を採用した場合には、弁体22の円筒壁27に対するシール筒部材111の過剰な力での押し付けを抑制しつつ、シール筒部材111の端部を弁体22の円筒壁27によって適切に開閉することができる。
【0052】
また、本実施形態の制御バルブ8は、シール筒部材111の弁摺接面29が、弁体22の円筒壁27の外面のシール筒部材111との当接領域と同じ曲率半径の円弧面によって構成されている。このため、弁摺接面29の全域が円筒壁27の外面に均等に当接し易くなり、弁摺接面29の径方向の外側端から内側端に亘ってほぼ均等な圧力減少が生じ易くなる。したがって、本実施形態の制御バルブ8を採用した場合には、シール筒部材111の弁摺接面29に作用する浮き上がり力が安定し、弁体22に対するシール筒部材111のシール性能が安定する。
【0053】
さらに、本実施形態の制御バルブ8は、ジョイント部材43とシール筒部材111の間に、弁体22の円筒壁27の外面から離反する方向のシール筒部材111の変位を規制する変位規制スプリング113が設けられている。このため、何等かの原因によってシール筒部材111に浮き上がり方向の大きな力が作用した場合や、バルブハウジング21内の圧力が低い場合であっても、変位規制スプリング113によってシール筒部材111の過大な変位を規制することができる。したがって、この構成を採用した場合には、シール筒部材111が円筒壁27の外面から浮き上がりにくくなり、シール筒部材111のシール性能が安定する。
【0054】
本実施形態の制御バルブ8は、ジョイント部材43に突設された筒部60の外周面に環状の溝部61が設けられ、筒部60の溝部61とシール筒部材111の内周面との間に円環状のシール収容空間62が設けられている。そして、シール収容空間62には、溝部61の周面とシール筒部材111の内周面とに密接するシールリング112が収容されている。シール収容空間62内の、シールリング112と、溝部61の弁体22と離反する側の面との間が、バルブハウジング21内の液圧が導入される液圧室47とされている。また、シール筒部材111のジョイント側端面66は付勢用受圧面を構成している。
このため、シールリング112に作用するバルブハウジング21内の液圧による押圧力は弁体22方向に向かって作用するが、この押圧力はジョイント部材43の溝部61によって受け止められることになる。したがって、シールリング112を介した液圧による押圧力はシール筒部材111には働かない。よって、本実施形態の制御バルブ8では、シールリング112の受圧面が付勢用受圧面として機能しないことから、シール筒部材111に作用する弁体22方向の押し付け力を常時安定させることができる。つまり、何等かの原因によって、シールリング112の変位が阻害されることがあっても、シール筒部材111に作用する弁体22方向の押圧力を維持することができる。
【0055】
また、本実施形態の制御バルブ8は、シールリング112が液圧室47内の圧力を受けて潰れると、その潰れに伴う微少な引き込み力がシール筒部材111の内周面に作用するが、その引き込み方向は、弁体22方向に作用することになる。したがって、本実施形態の制御バルブ8では、シールリング112の潰れに伴う引き込み力は、シール筒部材111を弁体22から離反させる力として働かず、その分、シール筒部材111の弁摺接面29からの冷却水の漏れを抑制することができる。
【0056】
つづいて、
図7,
図8に示す第2の実施形態について説明する。なお、後述する変形例の説明も含め以下の説明においては、第1の実施形態と共通部分には同一符号を付し、かつ重複する説明を省力する。
【0057】
図7は、第2の実施形態の制御バルブ8Aの第1の実施形態の
図4と同様の断面図である。
図8は、
図7のVIII部を拡大して示した図である。
ジョイント部材43Aは、シール筒部材111Aの弁体22と離反する側の領域の外周面を摺動自在に保持する小径内周面30と、小径内周面30の弁体22に近接する側の端部から段差状に拡径して形成された大径内周面31と、を備えている。小径内周面30と大径内周面31は、これらに対して直交方向に延出する平坦な円環状の第1の段差面32(段差面)によって接続されている。また、ジョイント部材43の小径内周面30の弁体22から離反する側の端部には、縮径方向に段差状に屈曲して、小径内周面30と通路孔38とを接続する平坦な円環状の第2の段差面33が連設されている。
【0058】
また、ジョイント部材43Aの大径内周面31を構成する周壁50の径方向外側には、ハウジング本体25と接合される接合フランジ51が径方向外側に張り出して形成されている。
ジョイント部材43Aの周壁50と接合フランジ51の間には、バリ収容部52が設けられている。バリ収容部52は、接合フランジ51をハウジング本体25に振動溶着等によって接合する際に発生するバリを収容する。バリ収容部52は、接合フランジ51とハウジング本体25の相互に対向する面に形成された凹部によって構成されている。大径内周面31を構成する周壁50は、バリ収容部52からバルブハウジング21内へのバリの流出を規制するバリ規制壁を兼ねている。
【0059】
シール筒部材111Aは、ジョイント部材43Aの小径内周面30の内側に摺動自在に嵌合される小径外周面34と、小径外周面34の弁体22に近接する側の端部から段差状に拡径して形成された大径外周面35と、を備えている。小径外周面34と大径外周面35は、これらに対して直交方向に延出する円環状の接続面36によって接続されている。また、シール筒部材111の小径外周面34の弁体22から離反する側の端部には、縮径方向に略直角に屈曲する平坦な円環状の支持面39が連設されている。
また、シール筒部材111の内周面のうちの弁体22に近接する側の端縁には、段差状に拡径するように円環状の肉抜き部49が設けられている。
【0060】
ジョイント部材43Aの第1の段差面32とシール筒部材111Aの接続面36の間には、大径内周面31と小径外周面34とに囲まれた円環状のシール収容空間46が設けられている。シールリング112は、このシール収容空間46に収容されている。
シールリング112は、Y字状断面の環状の弾性部材であり、Y字形状の開口側を接続面36側に向けるようにしてシール収容空間46に収容されている。シールリング112は、Y字形状の二股部の各側端部が大径内周面31と小径外周面34とに密接する。シールリング112とシール筒部材111Aの接続面36の間は、バルブハウジング21内の冷却水の液圧が導入される液圧室47とされている。また、ジョイント部材43の大径内周面31とシール筒部材111Aの大径外周面35の間には、導入通路48が設けられている。導入通路48は、バルブハウジング21内の冷却水の液圧を液圧室47に導入する。
【0061】
なお、シール筒部材111Aの接続面36とシールリング112の間には隙間が形成されることが好ましい。例えば、異物によってシール筒部材111Aがジョイント部材43の小径内周面30を摺動する際、隙間があることでシール筒部材111Aがシールリング112を押し付けることが抑制され、シールリング112のシール性が保持される。また、シールリング112の二股部の各側端部が大径内周面31と小径外周面34とに密接しているため、支持面39には、バルブハウジング21内の冷却水の液圧が作用しない。
【0062】
シール筒部材111Aの接続面36には、バルブハウジング21内の冷却水の液圧が作用する。接続面36は、シール筒部材111A上で弁摺接面29と相反方向を向き、バルブハウジング21内の冷却水の液圧を受けて弁体22方向に押圧される。本実施形態においては、接続面36がシール筒部材111Aにおける付勢用受圧面を構成している。
【0063】
また、ジョイント部材43Aの第2の段差面33と、シール筒部材111Aの支持面39の間には、弁体22から離反する方向のシール筒部材111Aの変位を規制する変位規制スプリング113が介装されている。本実施形態の場合、変位規制スプリング113は、組付け状態において、シール筒部材111Aを初期位置(弁摺接面29が弁体22の外周面に接する位置)に維持するように機能し、シール筒部材111Aが初期位置にあるときにはシール筒部材111Aの付勢力が大きく作用しないように設定されている。
【0064】
また、シール筒部材111Aの弁摺接面29は、シール筒部材111Aの径方向の外側端から内側端に亘る全域が、弁体22の円筒壁27の外面のうちのシール筒部材111Aとの当接領域と同じ曲率半径に形成されている。したがって、弁摺接面29は基本的にシール筒部材111Aの径方向の外側端から内側端に亘る全域で円筒壁27の外面に当接する。
【0065】
本実施形態では、シール筒部材111Aにおける接続面36(付勢用受圧面)の面積S1と、弁摺接面29の面積S2とは、第1実施形態の中で説明した式(1),(2)を満たすように設定されている。
【0066】
以上のように、本実施形態の制御バルブ8Aは、第1の実施形態と同様に、シール筒部材111Aに作用する液圧による弁体22方向の押し付け力が、シール筒部材111Aに作用する浮き上がり力を下回らない範囲で、弁摺接面29の面積S2が接続面36(付勢用受圧面)の面積S1よりも大きく設定されている。このため、本実施形態の制御バルブ8Aでは、弁体22の円筒壁27に対するシール筒部材111Aの過剰な力での押し付けを抑制しつつ、シール筒部材111Aの端部を弁体22の円筒壁27によって適切に開閉することができる。本実施形態の制御バルブ8Aは、第1の実施形態とほぼ同様の基本的な効果を得ることができる。
【0067】
また、本実施形態の制御バルブ8Aの場合、変位規制スプリング113は、シール筒部材111の弁摺接面29が、常時、シール筒部材111の径方向内方側に偏った位置を付勢する。これにより、経時使用によって弁摺接面29の摩耗が径方向外方側から進行した場合にも、弁摺接面29の径方向内側領域を変位規制スプリング113の押し付け荷重によって円筒壁27の外面に確実に圧接させることができる。よって、本実施形態の制御バルブ8Aを採用した場合には、シール筒部材111Aの弁摺接面29のシール性能を長期に亘って高く維持することができる。
【0068】
図9は、第3の実施形態に係る制御バルブ108の、第2の実施形態の
図7と同様の断面図である。
第3の実施形態の制御バルブ108は、基本的な構成は第2の実施形態の構成とほぼ同様とされている。
制御バルブ108は、ジョイント部材43の第2の段差面33の径方向内側の縁部に、弁体22方向に延出して変位規制スプリング113の径方向内側方への変位を規制する規制筒55が延設されている。その他の構成は第2の実施形態と同様とされている。
【0069】
本実施形態の制御バルブ108は、第2の実施形態と同様の基本的な効果を得ることができる。本実施形態の制御バルブ108は、さらに、ジョイント部材43の第2の段差面33の径方向内側の縁部に規制筒55が延設されているため、規制筒55によって変位規制スプリング113の径方向内側方への変位を規制することができるとともに、シール筒部材111Aの内部から通路孔38に向かう冷却水の流れに乱流が生じるのを規制筒55によって抑制することができる。
なお、本実施形態では、規制筒55がジョイント部材43に設けられているが、
図21に示すように、変位規制スプリング113の内周方向に延びる規制筒155をシール筒部材111の内周縁部に設けるようにしても良い。
【0070】
また、
図10~
図13は、上記の実施形態の変形例を示す
図7と同様の断面図である。
図10に示す変形例は、シール筒部材111Aの内周面に、肉抜き部49から弁体22と離反する側に向かって階段状に緩やか縮径する階段状縮径部56が形成されている。この変形例の場合、シール筒部材111Aの内周面が、肉抜き部49から弁体22から離間する側に向かって階段状に縮径するため、弁体22からシール筒部材111Aの内部に冷却水が流れ込むときに、肉抜き部49部分に乱流が生じるのを抑制することができる。
【0071】
図11に示す変形例は、シール筒部材111Aの内周面に、肉抜き部49から弁体22と離反する側に向かって連続的にテーパー状に縮径するテーパー状縮径部57が形成されている。この変形例の場合、シール筒部材111Aの内周面が、肉抜き部49から弁体22から離間する側に向かって連続的に縮径するため、弁体22からシール筒部材111Aの内部に冷却水が流れ込むときに、肉抜き部49部分に乱流が生じるのをより有効に抑制することができる。
【0072】
図12に示す変形例は、シール筒部材111Aの大径外周面35から段差状に拡径する拡大外周面160が連設され、拡大外周面160の弁体22側の端部が弁摺接面29に連接するように形成されるとともに、大径外周面35と拡大外周面160を接続する段差面が、弁摺接面29と相反する方向を向く補助受圧面58とされている。この変形例の場合、補助受圧面58にバルブハウジング21内の冷却水の液圧が作用する。これにより、例えば、シールリング112のサイズが小さく、接続面36に作用する液圧が小さい場合でも、弁摺接面29を上記の式に則って設定することで、シール筒部材111Aのシール性を高めることができる。
本変形例においては、シール筒部材111Aの接続面36と補助受圧面58が付勢用受圧面を構成している。
【0073】
図13に示す変形例は、シール筒部材111Aの大径外周面35の弁体22に近接する側の端部に、大径外周面35から段差状に縮径する縮小外周面161が連設され、縮小外周面161の弁体22側の端部が弁摺接面29に連接するように形成されるとともに、大径外周面35と縮小外周面161を接続する段差面が、弁摺接面29と同方向を向く補助受圧面59とされている。この変形例の場合、補助受圧面59にバルブハウジング21内の冷却水の液圧が作用するため、弁体22に対するシール筒部材111Aの押し付け力を抑制することができる。これにより、例えば、シールリング112のサイズが大きく、接続面36に作用する液圧が大きい場合でも、弁摺接面29を上記の式に則って設定することでシール筒部材111Aの過剰な押し付けを防止しつつ、シール性を高めることができる。
本変形例においては、シール筒部材111Aの接続面36のうちの補助受圧面59の面積分を引いた部分が付勢用受圧面とされる。
【0074】
次に、
図14~
図16に示す第4の実施形態について説明する。
図14は、第4の実施形態の制御バルブ8Bの
図7と同様の断面図である。
図15は、
図14のXV部の拡大図である。
図16は、ジョイント部材43Bの一部の斜視図である。
図16に示すジョイント部材43Bは、
図15中のジョイント部材43Bを上下逆向きにして斜め上方から見た図である。
本実施形態の制御バルブ8Bは、ジョイント部材43Bと、シール筒部材111Bと、を備えている。ジョイント部材43Bは、通路孔38の内端部(吐出ポート41D)から弁体22方向に向かって突出する円筒状の筒部60Bを備えている。筒部60Bは、シール筒部材111Bの内周面が摺動自在に嵌合される小径外周面60Baと、小径外周面60Baの弁体22から離反する側の端部から段差状に拡径して形成された大径外周面60Bbと、小径外周面60Baと大径外周面60Bbを接続する円環状の段差面60Bcと、を有している。
【0075】
ジョイント部材43Bは、筒部60Bの付根部から径方向外側に延出する接合フランジ51を備えている。接合フランジ51は、バルブハウジング21の周状壁25aの外周縁部に振動溶着やねじ止め等によって接合されている。
【0076】
シール筒部材111Bは、ジョイント部材43の小径外周面60Baに摺動自在に嵌合される小径内周面111Baと、小径内周面111Baの弁体22と離反する側の端部から段差状に拡径して形成された大径内周面111Bbと、小径内周面111Baと大径内周面111Bbを接続する円環状の接続面111Bcと、を有している。
【0077】
ジョイント部材43Bの段差面60Bcとシール筒部材111Bの接続面111Bcの間には、大径内周面111Bbと小径外周面60Baとに囲まれた円環状のシール収容空間62Bが設けられている。シールリング112は、このシール収容空間62Bに収容されている。
【0078】
シールリング112は、Y字状断面の環状の弾性部材であり、Y字形状の開口側を段差面60Bc側に向けるようにしてシール収容空間62Bに収容されている。シールリング112は、Y字形状の二股部の各側端部が大径内周面111Bbと小径外周面60Baとに密接する。シールリング112と筒部60Bの段差面60Bcの間は、バルブハウジング21内の冷却水の液圧が導入される液圧室47とされている。
【0079】
また、シール筒部材111Bは、弁体22側の端部が弁摺接面29となっている。シール筒部材111Bの弁摺接面29と逆側のジョイント側端面66は一定幅の平坦面となっている。シール筒部材111Bのジョイント側端面66と、ジョイント部材43の接合フランジ51の間には、変位規制スプリング113が介装されている。変位規制スプリング113は、弁体22から離反する方向のシール筒部材111の変位を規制する。
【0080】
バルブハウジング21の周状壁25aとシール筒部材111Bの外周面の間には、導入通路48が形成されている。導入通路48は、バルブハウジング21内の冷却水の液圧をシール筒部材111Bのジョイント側端面66に作用させる。ジョイント側端面66は、弁体22方向にバルブハウジング21内の冷却水の液圧を受ける。また、ジョイント部材43Bの筒部60Bとシール筒部材111Bの大径内周面111Bbの間には、導入通路63が確保されている。導入通路63は、バルブハウジング21内の冷却水の液圧を、ジョイント側端面66を経由して液圧室47に導入する。
【0081】
本実施形態では、シール筒部材111Bのジョイント側端面66と、シールリング112の液圧室47内に臨む側の面が付勢用受圧面を構成している。
ジョイント側端面66とシールリング112の液圧室47内に臨む側の面を併せた付勢用受圧面の面積S1と、弁摺接面29の面積S2とは、第1の実施形態で説明した式(1),(2)を満たすように設定されている。
【0082】
図15,
図16に示すように、筒部60Bの段差面60Bcには、径方向の内側領域に環状溝67が形成されている。筒部60Bのうちの、環状溝67に対して隆起する外側領域には、環状溝67の内側部分(液圧室47)と筒部60Bの外側領域(導入通路63,48)とを導通させる密閉防止溝68が形成されている。シールリング112は、筒部60Bの段差面60Bcの外側領域に当接可能とされている。このため、密閉防止溝68が無い場合には、シールリング112が段差面60Bcの外側領域に強く押し付けられたときに、液圧室47内が密着して押圧力が生じない状態となる可能性が考えられる。しかし、本実施形態においては、密閉防止溝68が設けられているため、液圧室47内が密閉状態になるのを未然に防止することができる。
また、本実施形態の制御バルブ8Bでは、シールリング112に作用する液圧による力が、シール筒部材111Bを弁体22方向に押し付ける力として働く。
【0083】
しかし、本実施形態の制御バルブ8Bは、シール筒部材111Bの付勢用受圧面の面積S1と弁摺接面29の面積S2が、式(1),(2)を満たすように設定されているため、弁体22の円筒壁27に対するシール筒部材111Bの過剰な力での押し付けを抑制することができる。
【0084】
また、本実施形態の制御バルブ8Bの場合、シールリング112が液圧室47内の圧力を受けて潰れたときに、その潰れに伴う微少な引き込み力がシール筒部材111の内周面に作用する。しかし、引き込み力の作用する方向は、シール筒部材111Bを弁体22から離反させる方向に働かない。このため、シール筒部材111の弁摺接面29からの冷却水の漏れを抑制することができる。
【0085】
つづいて、
図17,
図18に示す第5の実施形態の制御バルブ208について説明する。
本実施形態の制御バルブ208は、バルブハウジング21に一つの共通の吐出ポートと複数の流入ポート237が設けられている。制御バルブ208は、弁体22の回動位置に応じて、任意の流入ポート237がバルブハウジング21の内部で吐出ポートに連通する。
【0086】
図17は、一つの流入ポート237が現れるように、制御バルブ208をバルブハウジング21の軸方向と直交する方向で断面にした図である。
図18は、
図17のXVIII部を拡大して示した図である。
流入ポート237の周縁部には、流入配管を接続するためのジョイント部材43Aが接合され、ジョイント部材43Aの内端にシール筒部材111Aの一端側が摺動自在に保持されている。バルブハウジング21内には、円筒壁27(周壁部)を有する弁体22が回動可能に配置され、弁体22の円筒壁27には、内外を連通する複数の弁孔(図示せず)が形成されている。円筒壁27の内部の空間はバルブハウジング21の共通の吐出ポートに連通している。シール筒部材111Aの他端側には、弁体22の円筒壁27の外面に摺接する弁摺接面29が形成されている。弁摺接面29は、弁体22の弁孔の回転経路と少なくとも一部がラップする位置で円筒壁27の外面に摺動自在に当接する。
弁摺接面29は、シール筒部材111Aの径方向の内側端から外側端に亘る全域が、弁体22の円筒壁27の外面のうちのシール筒部材111Aとの当接領域と同じ曲率半径に形成されている。
【0087】
弁体22は、弁孔とシール筒部材111Aを連通させる回転位置にあるときに、流入ポート237の上流部から円筒壁27の内側領域への冷却水(液体)の流入を許容する。弁体22は、弁孔とシール筒部材111を連通させない回動位置にあるときに、流入ポート237の上流部から円筒壁27の内側領域への冷却水(液体)の流入を遮断する。ジョイント部材43A、シール筒部材111A、弁体22等は、第2の実施形態とほぼ同様の基本構成とされている。
【0088】
ジョイント部材43Aは、第2の実施形態と同様に、小径内周面30と大径内周面31と第1の段差面32と第2の段差面33を有している。また、シール筒部材111Aも、第2の実施形態と同様に、小径外周面34と大径外周面35と接続面36と支持面39とを有している。シール筒部材111Aは、大径外周面35がジョイント部材43Aの大径内周面31に摺動自在に嵌入されている。また、ジョイント部材43Aの第1の段差面32とシール筒部材111Aの接続面36の間には、大径内周面31と小径外周面34とに囲まれた円環状のシール収容空間46が設けられている。
【0089】
シール収容空間46には、Y字状断面の環状の弾性部材であるシールリング112が収容されている。シールリング112は、Y字形状の開口側を第1の段差面32側に向けるようにしてシール収容空間46に収容されている。シールリング112は、Y字形状の二股部の各側端部が大径内周面31と小径外周面34とに密接している。シールリング112とジョイント部材43Aの第1の段差面32の間は液圧室47とされている。また、ジョイント部材43Aの小径内周面30とシール筒部材111Aの小径外周面34の間には、ジョイント部材43Aの通路孔38内の冷却水の液圧(流入ポート237の上流部の液圧)を液圧室47に導入する導入通路48が設けられている。
【0090】
本実施形態においては、流入ポート237の上流側の高圧の冷却水の液圧が、シール筒部材111Aの支持面39に作用するとともに、シールリング112の上面を介して接続面36に作用する。なお、シール筒部材111Aの弁体22に近接する側の内周面には、円環状の肉抜き部49が形成され、その肉抜き部49を構成する図中下向きの段差面49aにも、流入ポート237の上流側の高圧の冷却水の液圧が作用する。このため、支持面39と接続面36の面積から段差面49aの面積を差し引いた面積S1に、流入ポート237の上流側の高圧の冷却水の液圧が弁体22方向の力として作用する。本実施形態においては、支持面39から段差面49a相当部を差し引いた部分と、接続面36(シールリング112の上面)とがシール筒部材111Aの付勢用受圧面を構成している。
【0091】
また、本実施形態の場合、シール筒部材111Aが弁体22によって閉じられているときに、流入ポート237の上流側の高圧の冷却水の液圧がシール筒部材111Aの弁摺接面29の内周域に作用する。このとき、高圧の冷却水は、弁摺接面29と弁体22の円筒壁27の間の微小隙間を通ってバルブハウジング21内に僅かずつ漏れ出る。
【0092】
本実施形態においては、これらのことを考慮して、付勢用受圧面の面積S1と弁摺接面29の面積S2が、以下の式(1),(2)を満たすように設定されている。
S1<S2≦S1/k …(1)
α≦k<1 …(2)
k:弁摺接面と弁体の間の微少隙間を流れる液体の圧力減少定数。
α:液体の物性によって決まる圧力減少定数の下限値。
【0093】
本実施形態に係る制御バルブ208においては、上記の実施形態の場合と同様の理由により、弁体22の円筒壁27に対するシール筒部材111Aの過剰な力での押し付けを抑制しつつ、シール筒部材111Aの端部を弁体22の円筒壁27によって適切に開閉することができる。
【0094】
次に、
図19,
図20に示す第6の実施形態について説明する。
本実施形態の制御バルブ208Bは、第5の実施形態と同様に、バルブハウジング21に一つの共通の吐出ポートと複数の流入ポート237が設けられている。制御バルブ208Bは、弁体22の回動位置に応じて、任意の流入ポート237がバルブハウジング21の内部で吐出ポートに連通する。
【0095】
図19は、第5の実施形態の
図17と同様の制御バルブ208Bの断面図である。
図20は、
図19のXX部を拡大して示した図である。
本実施形態の制御バルブ208Bは、ジョイント部材43Bと、シール筒部材111Bと、を備えている。ジョイント部材43Bは、通路孔38の内端部から弁体22方向に向かって突出する円筒状の筒部60Bを備えている。筒部60Bは、シール筒部材111Bの内周面が摺動自在に嵌合される大径外周面60Bbと、大径外周面60Bbの弁体22に近接する側の端部から段差状に縮径して形成された小径外周面60Baと、大径外周面60Bbと小径外周面60Baを接続する円環状の段差面60Bcと、を有している。
【0096】
ジョイント部材43Bは、筒部60Bの付根部から径方向外側に延出する接合フランジ51を備えている。接合フランジ51は、バルブハウジング21の周状壁25aの外周縁部に振動溶着やねじ止め等によって接合されている。
【0097】
シール筒部材111Bは、ジョイント部材43Bの大径外周面60Bbに摺動自在に嵌合される大径内周面111Bbと、大径内周面111Bbの弁体22に近接する側の端部から段差状に縮径して形成された小径内周面111Baと、大径内周面111Bbと小径内周面111Baを接続する円環状の接続面111Bcと、を有している。
【0098】
ジョイント部材43Bの段差面60Bcとシール筒部材111Bの接続面111Bcの間には、大径内周面111Bbと小径外周面60Baとに囲まれた円環状のシール収容空間62Bが設けられている。シールリング112は、シール収容空間62Bに収容されている。
【0099】
シールリング112は、Y字状断面の環状の弾性部材である。シールリング112は、Y字形状の開口側をシール筒部材111Bの接続面111Bc側に向けるようにしてシール収容空間62Bに収容されている。シールリング112は、Y字形状の二股部の各側端部が大径内周面111Bbと小径外周面60Baとに密接する。シールリング112とシール筒部材111Bの接続面111Bcの間は、通路孔38内の冷却水(流入ポート237の上流側の冷却水)の液圧が導入される液圧室47とされている。
【0100】
シール筒部材111Bは、弁体22側の端部が弁摺接面29となっている。シール筒部材111Bの弁摺接面29と逆側のジョイント側端面66は一定幅の平坦面となっている。シール筒部材111Bのジョイント側端面66と、ジョイント部材43の接合フランジ51の間には、変位規制スプリング113が介装されている。変位規制スプリング113は、弁体22から離反する方向のシール筒部材111Bの変位を規制する。
【0101】
ジョイント部材43Bの小径外周面60Baと、シール筒部材111Bの小径内周面111Baの間には、導入通路263が確保されている。導入通路263は、ジョイント部材43Bの通路孔38内の冷却水(流入ポート237の上流側の冷却水)の圧力を液圧室47に導入する。
【0102】
また、シール筒部材111Bの小径内周面111Baの弁体側の端部には、縮径方向に屈曲した円環状の受圧面73が形成されている。受圧面73は、弁摺接面29と相反する側を向いて形成されている。通路孔38内の冷却水は、液圧室47に臨むシール筒部材111Bの接続面111Bcと、受圧面73とに作用する。本実施形態では、接続面111Bcと受圧面73が付勢用受圧面を構成している。
【0103】
接続面111Bcと受圧面73を併せた付勢用受圧面の面積S1と、弁摺接面29の面積S2とは、第5の実施形態で説明した式(1),(2)を満たすように設定されている。
このため、本実施形態の制御バルブ208Bの場合も、弁体22の円筒壁27に対するシール筒部材111Bの過剰な力での押し付けを抑制しつつ、シール筒部材111Bの端部を弁体22の円筒壁27によって適切に開閉することができる。
【0104】
また、本実施形態の制御バルブ208Bは、シールリング112とシール筒部材111Bの接続面111Bcの間に液圧室47が形成され、バルブハウジング21内の圧力が液圧室47内に導入される。このとき、液圧室47内に導入された液圧は、シール筒部材111Bの接続面111Bcを弁体22方向に直接押圧する。
また、本実施形態の場合、液圧室47からシールリング112に作用する液圧は、ジョイント部材43Bの段差面60Bcによって受け止められる。このため、シールリング112の状態に影響を受けることなく、シール筒部材111Bに作用する弁体22方向の押し付け力を常時安定させることができる。
【0105】
なお、本明細書における「付勢用受圧面」は、シール筒部材が、相反方向に同圧が作用する同面積部分を含む場合には、弁摺接面と相反する受圧面のうちの前記同面積部分の領域を除いた部分を意味するものとする。
【0106】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。
例えば、上記の実施形態においては、シール筒部材111,111A,111Bが初期位置にあるときに変位規制スプリング113の付勢力がシール筒部材111,111A,111Bにほぼ作用しないように設定されているが、シール筒部材111,111A,111Bが過剰な力で弁体22に押し付けられない範囲であれば、シール筒部材111,111A,111Bが初期位置にあるときにも変位規制スプリング113の付勢力がシール筒部材111,111A,111Bに作用するようにしても良い。
【0107】
上記の実施形態では、弁体22(円筒壁27)及びバルブハウジング21(ハウジング本体25の周壁)をそれぞれ円筒状(軸方向の全体に亘って一様な径)に形成した場合について説明したが、この構成に限られない。即ち、円筒壁27がハウジング本体25の周壁内を回転可能な構成であれば、円筒壁27の外径及びハウジング本体25の周壁の内径を軸方向で変化させてもよい。この場合、円筒壁27及びハウジング本体25の周壁は、例えば球状(軸方向の中央部から両端部に向かうに従い径が縮小する形状)や、鞍型(軸方向の中央部から両端部に向かうに従い径が拡大する形状)や、球状や鞍型が軸方向に複数連なった形状等の三次曲面を有する形状や、テーパー状(軸方向の第1側から第2側にかけて漸次径が変化する形状)や、階段状(軸方向の第1側から第2側にかけて段々と径が変化する形状)等、種々の形状を採用することが可能である。
また、上記の実施形態では、シールリング112が、Y字状断面の環状の弾性部材によって構成される場合について説明したが、この構成に限らない。シールリング112は、O字状断面やX字状断面の環状の弾性部材等、種々の形状を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0108】
8,8A,8B,108,208,208B 制御バルブ
21 バルブハウジング
22 弁体
27 円筒壁(周壁部)
28A,28C,28D,28E 弁孔
36 接続面(付勢用受圧面)
37 流入ポート
41A,41C,41D,41E 吐出ポート
43,43A,43B ジョイント部材
111,111A,111B シール筒部材
113 変位規制スプリング
237 流入ポート