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  • 特許-免疫療法マーカー及びその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】免疫療法マーカー及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20220107BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220107BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/6869 Z
G01N33/50 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019510972
(86)(22)【出願日】2017-08-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 US2017048629
(87)【国際公開番号】W WO2018039567
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】62/379,700
(32)【優先日】2016-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516001591
【氏名又は名称】ナントミクス,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】グェン,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】サンボーン,ジョン ザッカリー
(72)【発明者】
【氏名】ラビザデ,シャルーズ
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】Cancer Treat. Rev.,2016年06月,Vol. 48,p. 61-68
【文献】Sci. Rep.,2016年06月,Vol. 6:27702,p. 1-7
【文献】Carcinogenesis,2013年,Vol. 34,p. 2240-2243
【文献】Leukemia,2014年,Vol. 28,p. 1929-1932
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68 - 1/70
G01N 33/50 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の免疫療法の治療アウトカムを予測することを補助する方法であって、
患者の腫瘍から得られるオミクスデータにおいてAPOBEC変異シグネチャー及びPOLE変異シグネチャーの少なくとも1種を特定する段階であって、前記APOBEC変異シグネチャーが、TpCpS→TpKpS、TpCpN→TpApN及びTpCpW→TpKpWから成る群から選択され、SはC又はGであり、KはG又はTであり、NはC又はG又はA又はTであり、WはA又はTであり、かつ/又は、前記POLE変異シグネチャーが、TpCpT→TpApT及びTpTpT→TpGpTから成る群から選択される段階と、
前記オミクスデータからチェックポイント阻害に関連する複数の遺伝子の発現を定量化する段階であって、前記チェックポイント阻害に関連する複数の遺伝子が、LAG3、PD-L1、PD-L2、CTLA4及びPD1から成る群から選択される段階と、
前記オミクスデータからMSIステータスを確認する段階と、
前記APOBEC変異シグネチャー及び/又は前記POLE変異シグネチャー、確認された複数の遺伝子の発現量、及び前記MSIステータスを用いて、癌の免疫療法の治療アウトカムの予測を示す患者プロファイルを更新又は生成する段階と
を含み、
i)前記APOBEC変異シグネチャー及び/又は前記POLE変異シグネチャーの存在が好ましい治療アウトカムを示し、
ii)陽性MSIが好ましい治療アウトカムを示し、かつ、
iii)前記チェックポイント阻害に関連する複数の遺伝子の過剰発現が好ましい治療アウトカムを示
前記オミクスデータが、同じ患者の健康な組織由来のオミクスデータに対して基準化されている、方法。
【請求項2】
少なくとも1種の追加の変異シグネチャーを特定する段階を更に含み、前記追加の変異シグネチャーが、カタエギスシグネチャー、Ig遺伝子高頻度変異シグネチャー、喫煙変異シグネチャー、加齢性変異シグネチャー、UV光変異シグネチャー、又はDNA MMR関連変異シグネチャーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
i)前記免疫療法が、ワクチン成分、細胞ベースの成分及びチェックポイント阻害成分の内の少なくとも2種を含み、
ii)前記オミクスデータが、全ゲノム配列決定データ、RNA配列決定データ、転写レベルデータ、cfDNA配列データ、cfRNA配列データ、及びプロテオミクスデータの内の少なくとも1種を含み、かつ/または、
iii)前記オミクスデータが、全ゲノム配列決定データ、RNA配列決定データ、転写レベルデータ、cfDNA配列データ、cfRNA配列データ、及びプロテオミクスデータの内の少なくとも2種を含む、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記複数の遺伝子が少なくとも5種の遺伝子であり、かつ/または、前記MSIステータスが、患者のMHC複合体に結合するネオエピトープの量から推測される、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記癌の免疫療法の治療アウトカムの予測が定性的予測である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Th1T細胞活性化、細胞傷害性T細胞活性化、及びナチュラルキラー細胞活性化の経路活性を確認する段階を更に含むか、又は前記免疫療法が、ワクチン成分、細胞ベースの成分及びチェックポイント阻害成分の少なくとも2種を含む、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記オミクスデータが、全ゲノム配列決定データ、RNA配列決定データ、転写レベルデータ、cfDNA配列データ、cfRNA配列データ及びプロテオミクスデータの少なくとも1種を含むか、又は前記オミクスデータが、全ゲノム配列決定データ、RNA配列決定データ、転写レベルデータ、cfDNA配列データ、cfRNA配列データ及びプロテオミクスデータの少なくとも2種を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2016年8月25日出願の同時係属米国特許仮出願第62/379,700号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明の分野は、免疫療法に関して患者の層別化を可能にするためのオミクスデータの計算解析であり、特にこのような療法がワクチン組成物及び/又は細胞ベースの組成物に加えてチェックポイント阻害を使用する場合の計算解析である。
【背景技術】
【0003】
背景の説明には本発明を理解するのに有用となり得る情報が含まれる。本明細書に記載のいかなる情報も本願で特許請求される発明の先行技術であるか若しくはこれに関連するものであることを認めるものではなく、又は具体的若しくは黙示的に参照されるいかなる刊行物も先行技術であると認めるものではない。
【0004】
本明細書における刊行物はいずれも、各々の刊行物又は特許出願が具体的且つ個別的に参照によって組み込まれることが示された場合と同程度に、参照によって組み込まれる。組み込まれる参考文献における用語の定義及び使用法が、本明細書に記載の用語の定義と一致しないか、これに反する場合、本明細書に記載のその用語の定義が適用され、参考文献中でのその用語の定義は適用されない。
【0005】
遺伝子改変ウイルスを使用する免疫療法は、様々な癌の治療に対し概念的に有効で魅力的な経路となっている。しかし、多くの課題が未だ解決されていない。例えば、発現させるべき適切な抗原の選択は重要である(例えば、Nat Biotechnol.2012 Jul 10;30(7):658-70を参照)。また、頻繁に発現するエピトープであっても、全ての患者において強力で腫瘍保護的な免疫反応を保証するものではない。更に、幾つかのネオエピトープが免疫療法組成物として知られ且つ使用されている場合であっても、なお様々な阻害因子が治療上有効な応答を妨げ得る。例えば、Treg(即ち、制御性T細胞)及び/又はMDSC(骨髄系由来サプレッサー細胞)によって十分な免疫応答が鈍らされるか、更には妨げられ得る。また、刺激因子の欠如及び腫瘍に基づく免疫チェックポイントの妨害、特にPD-1及びCTLA-4が免疫療法に対する治療応答を更に妨げ得る。
【0006】
免疫チェックポイントを遮断または沈静化させる様々な治療組成物(例えば、PD-1系の場合はペムブロリズマブ又はニボルマブ、CTLA-4系の場合はイピリムマブ)が当技術分野で既知であるが、投与が持続的且つ治療上有用な応答を促進する上でつねに有効なわけではない。注目すべきことに、このような化合物は単剤及び併用において広範な活性を示し、臨床応答が黒色腫、腎細胞癌、非小細胞肺癌及び様々な他の腫瘍型の一部の症例で見られた。しかし、残念ながら、全ての種類の癌がチェックポイント阻害剤を用いた治療に対して同等に十分に応答するわけではなく、陽性応答の予測性は捉えようのないものであった。
【0007】
ごく最近では、全体的な腫瘍免疫原性と正の相関を示すマーカーとして腫瘍MHC-1発現を使用する予測モデルが提案された(J Immunother 2013,Vol.36,No 9,p477-489を参照)。また、この著者らはそのモデルの一部で、特定の免疫活性化遺伝子が免疫原性が強力である腫瘍において上方制御されるパターンに注目したが、免疫療法応答の予測を助けるためには追加のバイオマーカーを見出すべきであると助言した。他のアプローチ(Cancer Immunol Res;4(5) May 2016,OF1-7)では、指示された腫瘍反応性T細胞受容体の処置後の徹底的な配列及び分布解析が反応性T細胞の腫瘍浸潤の代理的指標として使用された。残念ながら、このような解析では、免疫療法、特にワクチン成分及び/又は細胞ベースの成分を使用する免疫療法で治療の成功の可能性に関して予測的な洞察を得ることができていない。
【0008】
他の例では、US20170032082に記載のように、免疫学的に可視的なネオエピトープの数が予測マーカーとして用いられ、その数が規定の閾値を超えた場合にチェックポイント阻害剤による治療で陽性アウトカムが起こりうることを予測するために使用された。また、このような方法は、少なくとも一部の態様において、マイクロサテライト不安定性の確認を更に含んでいた。このような解析では患者のHLA型を有利に考慮し、更にネオエピトープの可視性を考慮したが、予測される治療アウトカムは一般にチェックポイント阻害剤の使用に限定されていた。
【0009】
したがって、多くの癌に対する免疫療法の様々なシステムと方法が当技術分野で既知であったとしても、その全て又は殆ど全てが幾つかの欠点を抱えている。従って、特にこのような療法でワクチン組成物及び/又は細胞ベースの組成物に加えてチェックポイント阻害を使用する場合、免疫療法で起こり得るアウトカムをより正確に予測するための改良システムと方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0010】
本発明の主題は、免疫療法に対して起こり得る治療の成功を予測するためにオミクスデータを解析する様々なシステムと方法に関する。計算解析は、腫瘍から得られたオミクスデータを用いて、MSI(マイクロサテライト不安定性)ステータス、変異シグネチャー(特にAPOBEC及び/又はPOLEシグネチャー)、及び/又は免疫チェックポイント発現を特定することが好ましい。好都合なことに、このような解析は、個別に考慮した場合にはチェックポイント阻害に加えてワクチン成分及び/又は細胞ベースの成分を使用する免疫療法に関して信頼できるアウトカム予測ができないような様々な特徴を統合する。
【0011】
本発明の主題の一態様では、本発明者らは、癌の免疫療法の治療アウトカムを予測する方法であって、患者の腫瘍からオミクスデータを入手する段階と、オミクスデータにおいてAPOBECシグネチャー及びPOLEシグネチャーの内の少なくとも1種を特定する段階と、オミクスデータからチェックポイント阻害に関連する複数の遺伝子の発現を定量化する段階と、オミクスデータからMSIステータスを確認する段階とを含む方法を企図する。更なる段階では、APOBECシグネチャー及び/又はPOLEシグネチャー、確認された複数の遺伝子の発現量、及びMSIステータスは、癌の免疫療法の治療アウトカムの予測を示す患者プロファイルを更新又は生成するのに用いられる。最も典型的には、免疫療法はチェックポイント阻害成分と、ワクチン成分及び細胞ベースの成分の内の少なくとも1種とを含む。
【0012】
必要に応じて、企図される方法は、少なくとも1種の追加的な変異シグネチャーを特定する段階を更に含む。例えば、適切な追加的シグネチャーとしては、カタエギスシグネチャー、Ig遺伝子高頻度変異シグネチャー、喫煙変異シグネチャー、加齢性変異シグネチャー、UV光変異シグネチャー、及びDNA MMR関連変異シグネチャーが挙げられる。
【0013】
好ましいオミクスデータは、全ゲノム配列決定データ、RNA配列決定データ、転写レベルデータ、cfDNA配列データ、cfRNA配列データ、及びプロテオミクスデータを含み、最も典型的には、同じ患者の健康な組織由来の対応するオミクスデータに対して基準化されていることが好ましいこれらのデータの内の少なくとも2種を含む。APOBECシグネチャーとしては典型的には、TpCpS→TpKpS、TpCpN→TpApN、及びTpCpW→TpKpW(SはC又はGであり、KはG又はTであり、NはC又はG又はA又はTであり、WはA又はTである)の内の1種以上を含み、好ましいPOLEシグネチャーとしては、TpCpT→TpApT及びTpTpT→TpGpTを含む。
【0014】
チェックポイント阻害に関連する遺伝子に関して、このような遺伝子としては、IDO、TDO、TIM3、CD40、LAG3、PD-L1、PD-L2、CTLA4、PD1及びIL2の内の少なくとも1種、又は少なくとも2種、又は少なくとも3種、又は少なくとも4種、又は少なくとも5種を含むことが一般に企図される。本発明の主題を限定するわけではないが、MSIステータスは患者のMHC複合体に結合するネオエピトープの量から推測することが好ましい。
【0015】
更に企図される態様では、癌の免疫療法の治療アウトカムの予測は定性的予測である。例えば、APOBECシグネチャー及び/又はPOLEシグネチャーの存在は好ましい治療アウトカムを示し、陽性MSIは好ましい治療アウトカムを示し、及び/又はチェックポイント阻害に関連する複数の遺伝子の過剰発現は好ましい治療結果を示す。必要に応じて、企図される方法は、Th1T細胞活性化、細胞傷害性T細胞活性化、及び/又はナチュラルキラー細胞活性化の経路活性を確認する段階も含むことができる。
【0016】
以下の好ましい実施形態の詳細な説明から本発明の主題の様々な目的、特徴、態様及び利点がより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の主題に係る患者プロファイルを例示的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、腫瘍組織由来の患者オミクスデータの計算解析によって癌免疫療法で起こり得る治療アウトカムが予測できることを発見したが、この免疫療法は、チェックポイント阻害剤に加えて癌ワクチン及び/又は細胞ベースの療法を投与することを含む。より詳細には、本発明者らは、起こり得る治療アウトカムが腫瘍の全体的な免疫ステータス、特にAPOBEC及び/又はPOLE変異シグネチャー、MSIステータス、及びチェックポイント阻害に関連する遺伝子の免疫発現に関連することを発見した。
【0019】
本発明の主題を限定するわけではないが、本発明者らは、APOBEC及び/又はPOLEシグネチャーの存在が、このようなシグネチャーにおける特定の変異パターンに恐らく起因してネオエピトープの数を明白に増加させることが見出されたことを企図する。また、APOBEC及び/又はPOLE変異はDNA修復に関連する他の遺伝子にも影響を及ぼすため、臨界数のAPOBEC及び/又はPOLE変異が一旦発見されると、変異の頻度が急激に増加することがある。従って、異なる観点から見れば、適応免疫応答ではネオエピトープを標的とするワクチンによって、また、自然免疫応答ではADCCを介してネオエピトープを標的とするNK細胞及びその派生物によってより強い免疫応答を生じさせるネオエピトープの数がSNVの数によって多くなるため、APOBEC及び/又はPOLEシグネチャーは免疫療法の成功の予測因子として特に有用となり得る。容易に理解されるように、このような応答は1種以上のチェックポイント阻害剤によって更に補完又は増強することができる。
【0020】
本発明の主題の例示的な一態様では、癌患者の治療の前に腫瘍生検を患者から入手し、こうして入手した試料に対してオミクス解析を行うことが企図される。更に又は或いは、血液又は他の体液を患者から得ることができ、WO2016/077709に例示されるように、循環セルフリーRNA(cfRNA)及び/又は循環セルフリーDNA(cfDNA)を血液又は他の生体液から単離することができる。
【0021】
従って、一般に、オミクス解析は全ゲノム及び/又はエクソーム配列決定、RNA配列決定及び/又は定量化、cfRNA及び/又はcfDNAの配列決定及び/又は定量化、及び/又はプロテオミクス解析を含むことが企図される。他の選択肢の内、ゲノム解析は様々な解析方法によって実施可能であるが、特に好ましい解析方法としては、典型的には次世代シーケンシングを用いて、腫瘍試料とそれに対応する正常試料の両方のWGS(全ゲノム配列決定)及びエクソーム配列決定を行うことが挙げられる。同様に、体液から単離した後にcfDNAを定量化及び解析することができる。配列データの計算解析を多くの方法で行うことができる。しかし、最も好ましい方法では、BAMファイルとBAMサーバを使用し、例えば、US2012/0059670A1とUS2012/0066001A1に開示されているように、同じ患者由来の腫瘍試料と対応する正常試料の位置誘導型同期アライメントによってコンピュータで解析を行う。当然のことながら、別のファイルフォーマット(例えば、SAM、GAR、FASTA等)も本明細書では明らかに企図される。
【0022】
同様に、RNA配列決定及び/又は定量化は当技術分野で既知の全ての方法で行うことができ、様々な形態のRNAを使用することができる。例えば、好ましい物質としてはmRNA及び一次転写物(hnRNA)が挙げられ、RNA配列情報は逆転写されたpolyA-RNAから入手することができ、このpolyA-RNAは同じ患者の腫瘍試料と対応する正常(健康)試料から得られる。同様に、polyA-RNAはトランスクリプトームを表すものとして典型的には好ましいが、他の形態のRNA(hn-RNA、非ポリアデニル化RNA、siRNA、miRNA等)も本明細書での使用に適していると考えられることに留意すべきである。好ましい方法として、定量的RNA(hnRNA又はmRNA)解析及び/又は定量的プロテオミクス解析を含む。最も典型的には、qPCR及び/又はrtPCRに基づく方法を用いてRNA定量化及び配列決定を行うが、他の方法(例えば、固相ハイブリダイゼーションに基づく方法)も適していると考えられる。別の観点から見ると、トランスクリプトーム解析は(単独で行うにしても、ゲノム解析と併用するにしても)、癌及び患者特異的な変異を有する遺伝子を特定し定量するのに適切となり得る。同様に、体液から単離した後にcfRNAを定量化及び解析することができ、解析には典型的には逆転写の段階を含む。
【0023】
同様に、プロテオミクス解析を多くの方法で行うことができ、プロテオミクス解析の既知の方法は全て本明細書で企図される。しかし、特に好ましいプロテオミクス方法としては、抗体ベースの方法及び質量分析方法(特に選択的反応モニタリング)が挙げられる。更に、プロテオミクス解析によってタンパク質自体に関する定性的又は定量的情報が得られるだけでなく、タンパク質が触媒活性又は他の機能活性を有する場合には、プロテオミクス解析にもタンパク質の活性データが含まれ得ることに留意すべきである。プロテオミクスアッセイを行うための例示的技法としては、米国特許第7473532号と米国特許第9091651号が挙げられる。
【0024】
当然のことながら、オミクスデータは公的に利用可能又は独自のデータベースを含む1種以上の計算資源及び1種以上の配列決定装置からも入手できることも理解されるべきである。このような場合、オミクスデータは、生データ(例えば、FASTA、FASTQ)、処理データ(例えば、BAM、SAM、GAR)又は変化を示す解析フォーマット(例えば、VCF)を含む多数のフォーマットであり得ることが理解されるべきである。同様に、核酸の配列決定を行ってオミクスデータを得る場合、このようなデータは生データフォーマット、処理データフォーマット、及び解析装置からのフォーマットを含む様々なフォーマットとすることもできる。コンピュータに関する言葉はいずれも、サーバ、インターフェース、システム、データベース、エージェント、ピア、エンジン、コントローラ、或いは他の個別に又は共同で作動する種類の計算装置を含む、計算装置の任意の適切な組合せを包含することに留意すべきである。計算装置は、有形の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体(例えば、ハードドライブ、ソリッドステートドライブ、RAM、フラッシュ、ROM等)に格納されているソフトウェア命令を実行するよう設定されたプロセッサを含むことが理解されるべきである。
【0025】
ソフトウェア命令は、後に本開示の装置に関して説明するように、計算装置が役割、責任、又は他の機能を提供するよう設定するのが好ましい。更に、開示された技術は、コンピュータベースのアルゴリズム、プロセス、方法又は他の命令の実行に関連した開示段階をプロセッサに実行させるソフトウェア命令を格納した非一時的なコンピュータ可読媒体を含むコンピュータプログラム製品として具体化することができる。特に好ましい実施形態では、様々なサーバ、システム、データベース又はインターフェースは、HTTP、HTTPS、AES、官民キー交換、ウェブサービスAPI、既知の金融取引プロトコル、又は他の電子情報交換法に基づく可能性のある標準化プロトコル又はアルゴリズムを用いてデータを交換する。装置間でのデータ交換は、パケット交換網、インターネット、LAN、WAN、VPN、又は他のタイプのパケット交換網、回路交換網、セル交換網、又は他の種類のネットワークを通じて実施することができる。
【0026】
多数の適切な変異シグネチャーが存在するが、特に好ましい変異シグネチャーは、ナンセンス変異又はミスセンス変異を高い割合で生じさせるような頻度及び塩基変動パターンを有し、それらはタンパク質機能の欠損及び免疫系に「見える」(即ち、抗原提示細胞上に提示された患者のMHC複合体により結合される)ネオエピトープをより高い割合でもたらすものと理解するべきである。他の変異シグネチャーの内でも、APOBEC及びPOLEシグネチャーが特に好ましい。実際、APOBEC変異は癌で見られることが多い(例えば、Nat Genet 2013 September;45(9):970-976;Genome Res 2016;26:174-182を参照)。例えば、APOBEC3Aと3BはAPOBECファミリーのシチジンデアミナーゼであり、ヒトの癌で変異を引き起こす主な要因の一つである。APOBECシチジンデアミナーゼはシトシンをウラシルに変換し、この結果、通常はC→T変異又はC→G変異が生じるが、C→A変異はそれほど頻繁に生じない。また、APOBEC誘導性変異の断片は、二本鎖切断(DSB)の修復中に産生する一本鎖DNA中のクラスターとして生じ、このようなクラスター(「カタエギス」)は本明細書での使用に適していることが企図される。
【0027】
従って、企図されるように、APOBECシグネチャーはエクソンにおける変異の転写鎖バイアスとC>T及びC>G交換を示し、特に適切なAPOBECシグネチャーは、TpCpS→TpKpS、TpCpN→TpApN及びTpCpW→TpKpW(SはC又はGであり、KはG又はTであり、NはC又はG又はA又はTであり、WはA又はTである)を含む。また、APOBEC変異誘発は広く癌に浸透しており、APOBEC mRNAレベルと相関することに留意されたい。従って、APOBEC変異シグネチャーの検出に加えて、特にAPOBEC遺伝子の発現レベル(特に対応する正常組織に対する過剰発現)も企図される。同様に、PD-1リガンドの高発現はカタエギス変異シグネチャー及びAPOBEC3変動と関連していることが示されている。従って、APOBECシグネチャーが検出される場合、オミクス解析はAPOBEC遺伝子及び/又はチェックポイント阻害に関連する遺伝子の配列及び転写解析を更に含み得ることが特に企図される。
【0028】
実際、以下で更に説明するように、APOBEC依存機序又はAPOBEC様機序は、カタエギスの病因因子であり得て、MSI、並びに/又はチェックポイント阻害が存在しない限り免疫系によって認識及び攻撃され得るネオエピトープの発現及び提示をもたらし得る。異なる観点から見ると、APOBECに基づく変異はMSI及び/又は免疫学的に可視のネオエピトープの数の増加の主要な指標であり得て、これによって、免疫治療剤を用いて治療を行う場合の望ましい治療アウトカムをもたらす可能性を高め得る。
【0029】
同様に、APOBEC変異シグネチャーに加えて、本発明者らはPOLE変異シグネチャーも企図する。このようなシグネチャーは、典型的にはTpCpTコンテクストでのC>A変異及びTpTpTコンテクストでのT>G変異に関する鎖バイアスを示し、非常に変異が多い癌試料の一部に一般的に関連する(この変異シグネチャーを示す試料は超高度変異誘発物質とも称される)。APOBECシグネチャーと同様に、このような変異は、ナンセンス変異又はミスセンス変異を高い割合で生じさせる頻度及び塩基変動パターンを有し、それらはタンパク質機能の欠損及び免疫系に「見える」ネオエピトープをより高い割合でもたらすことが企図される。従って、好ましいPOLEシグネチャーとしては、TpCpT→TpApT及びTpTpT→TpGpTを含む。更に企図される態様では、変異シグネチャーとしては特にPOLDも含まれる(例えば、Nature Genetics 45,136-144(2013);オンライン公開のEpubFeb(10.1038/ng.2503)を参照)。
【0030】
APOBEC及びPOLEシグネチャーの特定に関しては、そのようなシグネチャーを特定する様々な方法が知られていることに留意すべきである(例えば、Nature 2013 August 22;500(7463):415-421;Genome Res.2016.26:174-182;Nat Genet.2013 September;45(9):970-976;US2012/0059670、又はUS2012/0066001を参照)。しかし、位置誘導型同期アライメントを用いて、同じ患者由来の対応する正常対照試料に対して腫瘍変異シグネチャーを特定することが特に好ましい。このようなアライメントによって、(例えば、vcfフォーマットを使用して)出力ファイルと共に型及び位置に関する情報を得ることができ、更には特定の変異シグネチャーへの分類が可能となる。
【0031】
しかし、他の様々な変異シグネチャーも本明細書での使用に適していると考えられることが理解されるべきであり、適切なシグネチャーは、喫煙変異シグネチャー(例えば、C>A変異、CC>AAジヌクレオチド置換に関する転写鎖バイアス)、加齢性変異シグネチャー(例えば、5-メチルシトシンの自発的脱アミノ化)、UV光変異シグネチャー(例えば、ジピリミジンでのCC>TTジヌクレオチド変異)、DNA MMR関連変異シグネチャー(例えば、小さいインデル)、及びIg遺伝子高頻度変異シグネチャーを含む。更なるシグネチャー、その詳細、及び考慮事項は、URL:cancer.sanger.ac.uk/cosmic/signaturesや他の箇所に見出される(例えば、BMC Med Genomics.2014;7:11)。
【0032】
また、企図されるシステムと方法はゲノム(及び/又はエクソーム及び/又はトランスクリプトーム)における変異の全体的な推定又は決定を含むこともでき、規定の閾値を超える場合には変異頻度が、望ましい治療アウトカムの可能性が高まる指標となり得ることが一般に企図される。例えば、コードDNAの変異頻度がMB当たり3を超える(又はMB当たり2を超える、又はMB当たり1を超える、又はMB当たり0.5を超える、又はMB当たり0.1を超える)場合には、望ましい治療アウトカムの可能性が高くなることを示し得る。このような変異頻度が特に関連し得るのは、患者のMHC-I及び/又はMHC-II複合体に対して200nM以下の親和性で結合するネオエピトープを変異がコードする場合である。例えば、ネオエピトープが発現されており、200nM以下の親和性で患者のMHC-I及び/又はMHC-II複合体に結合していることが特定されることに基づき、比較的多い数のネオエピトープ、典型的には少なくとも50、少なくとも80、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも500、更にそれ以上のネオエピトープを有する癌についてMSIを推測することができる。注目すべきことに、推測されたMSIによって癌の種類を特定する場合、本発明者らは、このような癌がチェックポイント阻害剤(例えば、UCEC、READ、BLCA、SKCM、LUSC、及びCOAD)による治療に応答する可能性が有意に高いことを示した。様々な方法を用いた独立した検証により、このような癌がMSIと関連していることが確認された。
【0033】
以下で更により詳細に説明するように、マイクロサテライト不安定性(MSI)解析に関して、本発明者らは、比較的多数の発現ネオエピトープがMSI及び対応する変異シグネチャー(例えば、APOBEC及びシチジンのウラシルへの変換)を介して特定可能な一定の遺伝的欠陥のプロキシ指標として使用できることを企図する。従って、特に解析が同じ患者の対応する正常組織も考慮に入れる場合、エクソーム及び/又はハイスループットゲノム配列決定によって、患者特異的ネオエピトープの迅速且つ特異的な同定が可能になる。例えば、発現ネオエピトープ及びMHC結合ネオエピトープの定量化を用いてMSIを確認する一方法はUS2017/0032082に記載されている。しかし、MSIを検出及び分類する他の適切な方法も当技術分野では既知であり、他の箇所で記載されている(例えば、Nature Communications 2017;DOI:10.1038/ncomms15180)。
【0034】
MSI及び変異パターンの確認によって、腫瘍上の潜在的な標的、特に患者特異的ネオエピトープの有用性に関する貴重な洞察が得られるが、このような有用性は、腫瘍による様々な免疫系回避機序、特に免疫チェックポイント阻害や他の細胞ベースの機序によって低下することがある。このような阻害を説明するため、本発明者らは、免疫チェックポイント発現を腫瘍について定量化して、患者に投与された免疫治療薬の潜在的効果を測定することも企図する。免疫チェックポイント阻害は様々な方法でオミクスデータから確認することができ、全ての既知の方法は本明細書での使用に適していると考えられる。また、チェックポイント阻害に関与する全ての受容体、リガンド及び他のメディエーターが本明細書での使用に適していると考えられ、免疫抑制及び/又は活性化を賦活化又はそれに寄与するものを含むことが理解されるべきである。
【0035】
例えば、特に企図される受容体、リガンド及び他のメディエーターとしては、IDO、TDO、TIM3、CD40、LAG3、PD-L1、PD-L2、CTLA4、PD1及びIL2が挙げられる。また、免疫応答を間接的に活性化又は抑制する分子も本明細書で明確に企図されることが理解されるべきである。例えば、STAT3シグナル伝達は、樹状細胞(DC)の成熟及び機能の抑制、骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)活性の増強、及びT細胞媒介の抗腫瘍活性の抑制等の幾つかの機序によって免疫抑制環境に寄与する可能性があることが知られている。従って、調節成分の測定によってアウトカム予測への洞察が更に得られる可能性がある。
【0036】
免疫チェックポイント成分は様々な方法を用いて定量化することができ、当技術分野で既知の全ての方法が本明細書での使用に適していると思われることが理解されるべきである。例えば、免疫チェックポイント成分は、オミクスデータ、特にトランスクリプトミクスデータを用いて定量化することができる。しかし、本発明の主題の少なくとも一部の態様では、チェックポイント阻害に関連する遺伝子のオミクスデータは、cfRNA及び/又はcfDNAを用いて血液試料から得られる。或いは又は更には、免疫チェックポイント成分の定量化は、SRM質量分析法又は免疫組織化学的方法を用いて、腫瘍から直接行うか、或いは処理された腫瘍組織又は血液から行うことができる。
【0037】
必要に応じて、当技術分野で既知の様々なシステムや方法を用いてオミクスデータを処理し、経路活性及び他の経路関連情報を得ることもできる。しかし、特に好ましいシステム及び方法としては、WO/2011/139345及びWO/2013/062505に記載のような確率的グラフィカルモデルを使用して経路データを処理するものを含み、これは参照により本明細書に組み入れられる。従って、患者の経路分析は単一の患者試料と対応する対照から実施することができ、これによって、外部参照基準と比較する単一オミクス解析に比べて解析データが著しく改良し、改善されることを理解されるべきである。また、同じ解析方法が患者特異的な病歴データ(例えば、以前のオミクスデータ、現在又は過去の薬剤治療等)によって更に改善され得る。
【0038】
本発明の主題の特に好ましい態様では、経路解析の出力における選択的に活性化された経路と経路要素をランク付けし、腫瘍の免疫原性に関連する特徴集合に関して最も重要な部分(例えば、上位500の特徴、上位200の特徴、上位100の特徴)を分析する。例えば、腫瘍浸潤性リンパ球(特に細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー細胞)とTh1型T細胞の存在又は活性及び関連するTh1シグナル伝達に対応する特に企図される特徴集合を用いて高い腫瘍免疫原性との正の相関を評価することができ、Th2型T細胞及び関連するTh2シグナル伝達に対応する別の特徴集合を用いて腫瘍免疫原性との負の相関を評価することができる。また、更なる特徴集合として、炎症、自然免疫等に関連する遺伝子及び活性を含む。
【0039】
起こり得る治療アウトカムの予測は、1種以上の変異シグネチャー(特にAPOBEC及び/又はPOLEシグネチャー)、MSIステータス、及び免疫チェックポイント発現データを考慮に入れる定性的及び/又は定量的複合スコアとなるであろう。本発明の主題の最も典型的な態様では、マイクロサテライト不安定性を示すMSIステータスは正の治療アウトカムに肯定的に働くであろう。同様に、(高頻度のSNP、特に、タンパク質配列を変化させ、比較的高いレベルで発現し、患者のMHCによって提示されるSNPを伴う)1種以上の変異シグネチャーの検出は正の治療アウトカムに肯定的に働くであろう。また、チェックポイント阻害のための1種以上の成分の過剰発現の確認も正の治療アウトカムに肯定的に働くであろうということに留意されたい。図1は、本明細書に記載のような企図されたシステムと方法を反映する例示的な更新患者記録を示す。
【0040】
図1の例では、マイクロサテライトは、100のHLA適合ネオエピトープの閾値を用いたUS2017/0032082に記載の発現MHC結合ネオエピトープの定量化によって不安定であると見做され、マイクロサテライト不安定性については正の治療アウトカム(「免疫療法寛容」:あり)が予測されたが、安定なマイクロサテライトについては負の治療アウトカム(「免疫療法寛容」:なし)が予測された。しかし、マイクロサテライト不安定性は他の既知のプロトコル(例えば、Nature Communications 2017;DOI:10.1038/ncomms15180)を用いて確認できることも理解されるべきである。
【0041】
APOBEC及びPOLE変異シグネチャーは、変異塩基位置に直接隣接する塩基の解析によって特定し、APOBEC及びPOLE変異シグネチャーへの曝露は、腫瘍試料中で特定された変異トリプレットの数に対する非負値行列因子分解(NMF)を用いて計算し、実質的に他の箇所に記載のプロトコルに従った(Nature 2013 August 22;500(7463):415-421)。しかし、APOBEC及び/又はPOLEシグネチャーを特定する様々な代替方法も適切であると考えられ、Genome Res.2016.26:174-182;Nat Genet.2013 September;45(9):970-976;US2012/0059670及びUS2012/0066001に記載のものが含まれることが理解されるべきである。検出手法に関わらず、APOBECシグネチャーが存在する場合には正の治療アウトカムが予測された(「免疫療法寛容」:あり)。同様に、POLEシグネチャーが存在する場合には正の治療アウトカムが予測された(「免疫療法寛容」:あり)。変異シグネチャーが存在しない場合には負の治療アウトカムが予測された(「免疫療法寛容」:なし)。
【0042】
図1の例では、コードDNAの全ゲノム変異率がメガベース当たり1.0を超えた場合には免疫療法寛容であると思われ、コードDNAの全ゲノム変異率がメガベース当たり1.0未満の場合には免疫療法寛容ではないと思われたた。しかし、他のカットオフ値も適切であると思われ、免疫療法治療寛容を非寛容から区別する、特に企図される全ゲノム変異率は0.5、1.5、2.0、3.0、5.0、及び高頻度変異率が5.0を超えることに留意すべきである。
【0043】
チェックポイント阻害機能を有する試験された全遺伝子の少なくとも30%が発現したか又は過剰発現した(例えば、同じ患者由来の対応する正常値に対してTPMによる測定で20%を超えた)場合、免疫チェックポイント発現は免疫療法寛容であると思われた。TIM-3、LAG-3、PD-1、PD-L1、PD-L2、IDO、TDO、CTLA4、IL2及びCD40が特に好ましいが、チェックポイント阻害に関連する他の多数の遺伝子が本明細書での使用に適していることも企図される。同様に、チェックポイント阻害機能を有する試験された全遺伝子の少なくとも40%、50%、60%、70%又は80%が発現又は過剰発現する場合にも、免疫チェックポイント発現は免疫療法に寛容であると見なすことができる。
【0044】
治療アウトカムは典型的には免疫療法に関連し、特にワクチン成分、細胞ベースの成分、及び/又はチェックポイント阻害を妨害する薬物及び/又は免疫刺激薬を含む治療に関連する。例えば、適切な細胞ベースの治療は、組換え又は遺伝子導入NK細胞、樹状細胞、又はネオエピトープ又は1種以上のネオエピトープに結合するキメラ抗原受容体を発現するT細胞による治療を含む。従って、特に企図される細胞ベースの治療としては、NK92細胞及びその派生物(例えば、NantKwest(9920 ジェファーソンBlvd.カリフォルニア州カルバーシティー90232)から市販されているaNK細胞、haNK細胞及びtank細胞)の投与を含む。一方、特に好ましいワクチンベースの治療としては、1種以上の新抗原をコードする核酸を好ましくは免疫刺激分子及び/又はチェックポイント阻害剤と共に含む組換えウイルス、細菌、又は酵母による治療を含む。他の選択肢の中でも、適切な組換えウイルスワクチンとしては、アデノウイルスベースのワクチン(特に、US2017/0165341又はUS2017/0065693に記載の免疫原性が低いAd5ベースのウイルス)を含み、好ましい細菌ワクチンとしては、内毒素が低減された大腸菌で産生されたもの(例えば、Lucigen(2905 パーメンターSt.ウィスコンシン州ミドルトン53562)から市販されている)を含み、好ましい酵母ワクチンはS.cerevisiaeに基づくものである。
【0045】
如何なる特定の理論又は仮説にも束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、MSI及び全変異率等の他の変異パターンに加えてAPOBEC及び/又はPOLEシグネチャーの存在によって、癌患者を免疫療法(典型的にはワクチン成分(例えば、ネオエピトープベースのアデノウイルス、酵母、又は細菌ワクチン)、細胞ベースの成分(例えば、NK細胞、aNK細胞、又はhaNK細胞ベース)、及び/又は1種以上のチェックポイント阻害剤の投与を含む)によって治療した場合の治療アウトカム予測の精度が実質的に高まることを企図する。最も注目すべきことには、APOBEC及び/又はPOLEシグネチャーによってミスセンスのネオエピトープの実質的なシフトアップがもたらされると同時にDNA修復が抑制されることが頻繁に起こり、これによって免疫系に「見える」(即ち、抗原提示細胞上に提示され得る)標的の数が実質的に増加した。このようなシナリオは、複数のチェックポイント阻害関連遺伝子が存在するか又は過剰発現することによって、チェックポイント阻害剤による治療に対して腫瘍がより感受性となる免疫療法にとって特に有益である。異なる観点から見ると、APOBEC及び/又はPOLEシグネチャーを他の変異事象と関連させて考慮することによって、免疫療法による癌の治療結果予測の精度が実質的に高まる。
【0046】
更なる態様、方法及び企図は2012年10月15日出願の同時係属米国仮特許出願第62/240494号に開示されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0047】
既に記載されたもの以外の多くの更なる変更が本明細書中の発明概念から逸脱することなく可能であることは、当業者には明白なはずである。したがって、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の範囲内であることを除いて制限されるべきではない。更に、明細書と特許請求の範囲の両方を解釈する上で、全ての用語は文脈と矛盾せず可能な限り広くなるように解釈されるべきである。特に用語「comprises」と「comprising」は、要素、成分又は段階に対して非排他的に言及していると解釈されるべきであり、このことは、参照された要素、成分又は段階が、明確には参照されていない他の要素、成分又は段階と共に存在しても、利用されても、又は組み合わされてもよいことを示している。本明細書の特許請求の範囲で、A、B、C・・・・及びNから成る群から選択されるものの少なくとも1個に言及される場合、その文章は、Aに加えてN、又はBに加えてN等ではなく、その群から1個の要素のみが必要とされていると解釈されるべきである。
図1