IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社栗本鐵工所の特許一覧

<>
  • 特許-繊維強化樹脂複合板 図1
  • 特許-繊維強化樹脂複合板 図2
  • 特許-繊維強化樹脂複合板 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂複合板
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
B32B5/28 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020041548
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021142673
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2020-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】戸賀瀬 竜一
(72)【発明者】
【氏名】硲 昌也
(72)【発明者】
【氏名】竹田 誠
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔太
【審査官】塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-096749(JP,A)
【文献】特開平11-105196(JP,A)
【文献】実開平01-100812(JP,U)
【文献】特開平09-273668(JP,A)
【文献】特開平08-271488(JP,A)
【文献】特開2015-132528(JP,A)
【文献】特開2012-092555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂モルタルで形成された芯材層の厚み方向の少なくとも一側に、強化繊維のクロス材を含む補強用繊維強化樹脂層が設けられており、少なくとも1つの前記補強用繊維強化樹脂層の芯材層に隣接する側と反対の側に難燃性繊維強化樹脂層が設けられている繊維強化樹脂複合板において、前記難燃性繊維強化樹脂層が不燃性を有し、板全体の厚みが9~20mmであり、床材または蓋材として用いられることを特徴とする繊維強化樹脂複合板
【請求項2】
芯材層の厚み方向の一側に難燃性繊維強化樹脂層が設けられ、前記芯材層の厚み方向の他側に耐食性繊維強化樹脂層が設けられている繊維強化樹脂複合板。
【請求項3】
前記芯材層と難燃性繊維強化樹脂層の間と、前記芯材層と耐食性繊維強化樹脂層の間の少なくとも一方に、強化繊維のクロス材を含む補強用繊維強化樹脂層が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の繊維強化樹脂複合板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂層を含む複数の層で形成された繊維強化樹脂複合板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、種々の建材(壁材や床材)や排水溝の蓋材等の素材として、従来の素材に比べて軽量で設置作業がしやすい繊維強化樹脂(FRP)の複合板が使用されるようになってきている。
【0003】
上記のような繊維強化樹脂複合板(以下、「FRP複合板」とも称する。)には、繊維強化樹脂層(FRP層)を含む複数の層で形成され、その厚み方向の少なくとも一側に、使用環境等に応じた特質を付与されたものがある。
【0004】
例えば、住宅に用いられるFRP複合板では、一般に、厚み方向の少なくとも一側の表面層が難燃性を有するものであることが求められる。これに対して、特許文献1では、住宅の内装や家具に用いられる化粧パネルとして、芯材の厚み方向の両側に、ガラスクロス等を含むFRP層と、樹脂含浸ガラス繊維不織布板を熱硬化性樹脂含浸紙で挟んだ表面層とを積層し、その表面層の樹脂含浸ガラス繊維不織布板に水酸化アルミニウム等の吸熱性金属水酸化物を含ませることによって表面層に難燃性を付与したものが提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、住宅用のベランダやバルコニー等を形成する床パネル構造として、板状の芯材の厚み方向の一側に、ガラス繊維等を含むFRP層と、難燃性樹脂からなる表面層とを積層したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/164199号公報
【文献】特開2006-161303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1では、芯材として、発泡樹脂系材料から成形された発泡成形体、中空筒状セルの集合体からなるペーパーコア、そのペーパーコアのような紙材に樹脂を含浸させたもの、金属系材料や合成樹脂系材料から形成されたものがあげられている。一方、上記特許文献2では、芯材の素材は発泡性樹脂であれば適宜採択できるとされている。
【0008】
しかしながら、この特許文献1、2のような構成のFRP複合板は、厚み方向の少なくとも一側が難燃性のものとなっているという特長はあるが、芯材層を金属系材料で形成する場合を除いて、大きな荷重が負荷されることのある床材として用いられるとき等、用途によっては強度や剛性が不足するおそれがある。一方、芯材層を金属系材料で形成すると、強度や剛性が確保されても、軽量化が困難となるうえ、FRP層と芯材層との接合に手間がかかり、大量生産に適さないものとなる。
【0009】
また、厚み方向の一側は難燃性が求められ、厚み方向の他側は難燃性以外の特性が求められる用途には適用できない場合が多い。例えば、鉄道のレール間に設けられる排水溝の溝蓋では、上面側はレールと車輪によって生じる火花に晒されるため難燃性が求められるが、下面側は排水溝を流れる雨水や地下湧水等の飛散に対する耐食性が求められるので、特許文献1、2のようなFRP複合板は適用しにくい。
【0010】
そこで、本発明の第1の課題は、厚み方向の少なくとも一側が難燃性のものとなっており、かつ全体として十分な強度および剛性を有し、大量生産に適したFRP複合板を提供することであり、第2の課題は、厚み方向の一側が難燃性を有し、他側が耐食性を有するFRP複合板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の第1の課題を解決するため、本願の第1発明の繊維強化樹脂複合板(FRP複合板)は、樹脂モルタルで形成された芯材層の厚み方向の少なくとも一側に、強化繊維のクロス材を含む補強用FRP層が設けられており、少なくとも1つの前記補強用FRP層の芯材層に隣接する側と反対の側に難燃性FRP層が設けられている構成とした。
【0012】
この構成によれば、厚み方向の少なくとも一側の表面層が難燃性を有するうえ、芯材層が樹脂モルタルで形成されているため、芯材層を発泡性樹脂等、金属以外の材料で形成したものよりも高い強度や剛性が得られ、芯材層を金属系材料で形成したものに比べると軽量で、製造時に補強用FRP層と芯材層を容易に接合することができ、大量生産に適したものとなる。
【0013】
また、本願の第2の課題を解決するため、第2発明の繊維強化樹脂複合板(FRP複合板)は、芯材層の厚み方向の一側に難燃性FRP層が設けられ、前記芯材層の厚み方向の他側に耐食性FRP層が設けられているものとした。
【0014】
この構成によれば、厚み方向の一側が難燃性を有し、他側が耐食性を有するものとなるので、鉄道のレール間に設けられる排水溝の溝蓋等、厚み方向の一側が発火源に晒され、他側が雨水等の飛散するような環境で使用される用途に適したものとなる。
【0015】
ここで、前記芯材層と難燃性FRP層の間と、前記芯材層と耐食性FRP層の間の少なくとも一方に、強化繊維のクロス材を含む補強用FRP層が設けられている構成とすれば、FRP複合板全体の強度や剛性を高められるので、適用可能な用途を広げることができる。
【0016】
そして、第1発明と第2発明のいずれの場合も、前記難燃性FRP層を、防火性能において「難燃性」よりも高いレベルの「不燃性」を有するものとすれば、より広い用途に適用できるようになる。その場合、板全体の厚みは9~20mmとすることが望ましい。板全体の厚みが20mmよりも厚くなると成形性が悪くなるおそれがあり、9mmよりも薄くなると十分な不燃性を得られなくなるおそれがあるからである。
【発明の効果】
【0017】
上述したように、第1発明のFRP複合板は、厚み方向の少なくとも一側の表面層が難燃性を有するうえ、芯材層が樹脂モルタルで形成されているため、強度や剛性の確保と軽量化をバランスよく実現でき、製造時の補強用FRP層と芯材層の接合も容易で大量生産に適したものとなっている。
【0018】
また、第2発明のFRP複合板は、厚み方向の一側が難燃性を有し、他側が耐食性を有しているので、厚み方向の一側が発火源に晒され、他側が雨水等の飛散するような環境で使用される用途に、効果的に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態のFRP複合板の構成の概略説明図
図2図1のFRP複合板の製造方法の説明図
図3】燃焼試験方法を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。図1に示す第1実施形態のFRP複合板は、樹脂モルタルで形成された芯材層1の厚み方向の両側に補強用FRP層2a、2bが設けられ、各補強用FRP層2a、2bの芯材層1に隣接する側と反対の側(表面側)に難燃性FRP層3a、3bが設けられている。その芯材層1の厚みは6mm、厚み方向の一側の補強用FRP層2aと難燃性FRP層3aを合わせた厚み、および他側の補強用FRP層2bと難燃性FRP層3bを合わせた厚みはそれぞれ4mmに形成されており、板全体の厚みが14mmとなっている。
【0021】
前記厚み方向の一側の補強用FRP層2aは、ガラス繊維のクロス材に樹脂を含浸させた3枚の含浸クロス4と、ガラス繊維の不織布の1種であるチョップドストランドマット5とからなり、その3枚の含浸クロス4が芯材層1に隣接する側に配され、チョップドストランドマット5が難燃性FRP層3aに隣接する側に配されている。チョップドストランドマット5は、板全体の強度等を調整するものであり、用途によっては省略することもできる。一方、前記他側の補強用FRP層2bは、一側の補強用FRP層2aと同じ構成の3枚の含浸クロス4からなり、チョップドストランドマット5は含まれていない。
【0022】
ここで、前記芯材層1および含浸クロス4の樹脂はいずれも不飽和ポリエステル樹脂を用いているが、樹脂の種類はこれに限定されない。
【0023】
前記難燃性FRP層3a、3bは、ガラス繊維を強化繊維とするシートモールディングコンパウンド(以下、「SMC」と称する。)であり、水酸化アルミニウムを樹脂100重量部に対して約200重量部配合することによって難燃性を付与している。
【0024】
このFRP複合板は、上記の構成であり、プレス成形によって製造されている。すなわち、このFRP複合板を製造する際には、図2に示すように、芯材層1の素材である樹脂モルタル1’の上面側に、3枚の含浸クロス4と、チョップドストランドマット5と、難燃性FRP層3aの素材であるSMC3’を下から順に積層し、樹脂モルタル1’の下面側に、上面側と同じ3枚の含浸クロス4とSMC3’を上から順に積層した状態で、プレス装置の上型6と下型7で挟み付けて厚み方向に圧力を加えることによって、芯材層1、各補強用FRP層2a、2bおよび各難燃性FRP層3a、3bを形成する。なお、このプレス成形の際に、上側の含浸クロス4に含まれる樹脂がチョップドストランドマット5に含浸される。
【0025】
そして、このFRP複合板に対して曲げ試験を行った結果、曲げ強さは50.0MPa以上、曲げ弾性係数は6.0GPa以上であることが確認された。
【0026】
次に、このFRP複合板に対して行った燃焼試験ついて説明する。その試験方法および燃焼性判定基準は、(社)日本鉄道車両機械技術協会で規定されているものを参考とした。
【0027】
この燃焼試験の試験方法は、図3に示すように、第1実施形態のFRP複合板から採取したB5判(182mm×257mm)の供試体10を45°傾斜させた状態で保持し、燃料容器11をその底の中心が供試体10の下面中心の垂直下方25.4mmに位置するように、コルクのような熱伝導率の低い材質の容器受台12に載せて、その燃料容器11に純エチルアルコール0.5ccおよびグラスウールを入れて着火し、アルコールが燃え尽きるまで放置した。また、燃焼判定は、表1に示す燃焼性判定基準に基づいて行うために、アルコールの燃焼中と燃焼後とに分け、燃焼中は供試体10への着火、着炎、発煙状態、炎の状態等を観察し、燃焼後は残炎、残じん、炭化、変形状態を目視で観察した。
【0028】
【表1】
【0029】
上記の観察において、この供試体10は、アルコールの燃焼中に着火、着炎がなく、発煙は僅かであり、アルコールの燃焼後は炭化が100mm以下の変色に抑制され、変形が100mm以下の表面的変形にとどまっていたので、燃焼性の区分としては「不燃性」と判定された。
【0030】
そして、この燃焼試験は供試体10の厚み方向の一側面を燃焼面として行ったが、第1実施形態のFRP複合板は、厚み方向の両側に同じ構成の難燃性FRP層3a、3bが設けられているので、厚み方向の両側が「不燃性」を有していると言える。
【0031】
この第1実施形態のFRP複合板は、上述したように、厚み方向の両側が燃焼性判定において「難燃性」よりもレベルの高い「不燃性」を有し、防火性能に優れたものとなっているうえ、芯材層1が樹脂モルタルで形成されているので、芯材層を金属以外の材料で形成したものよりも強度および剛性が高く、芯材層を金属系材料で形成したものに比べると軽量である。また、プレス成形によって容易に芯材層1、補強用FRP層2a、2bおよび難燃性FRP層3a、3bを形成して互いに接合することができるので、効率よく低コストで製造でき、大量生産に適している。
【0032】
なお、この第1実施形態では、芯材層1の厚み方向の両側に補強用FRP層2a、2bおよび難燃性FRP層3a、3bを設けているが、用途によっては、片側のみに補強用FRP層と難燃性FRP層を設け、その反対側には補強用FRP層も難燃性FRP層も設けないか、あるいは補強用FRP層だけを設けるようにしてもよい。
【0033】
次に、第2実施形態のFRP複合板は、図示は省略するが、鉄道のレール間に設けられる排水溝の溝蓋として用いられるもので、第1実施形態の厚み方向の他側の難燃性FRP層3bを耐食性FRP層に置き換えたものとなっている。この構成によれば、厚み方向の一側が不燃性を有し、他側が耐食性を有するものとなるので、レールと鉄道車両の車輪との間で発生する火花に対して燃えず、かつ排水溝を流れる雨水等に対して耐腐食性能を発揮することができる。また、その用途は、鉄道レール間の排水溝の溝蓋に限らず、厚み方向の一側が発火源に晒され、他側が雨水等の飛散するような環境で使用される板材に、効果的に適用することができる。
【0034】
なお、上述した第2実施形態では、第1実施形態と同じく、樹脂モルタルで形成した芯材層1の厚み方向の両側に補強用FRP層2a、2bを設けているが、用途によって強度や剛性に対する要求がそれほど高くない場合は、芯材層の材質を変更したり、少なくとも一方の補強用FRP層を省略したりすることができる。
【0035】
また、各実施形態においてはFRP複合板全体の厚みを14mmとしたが、板全体の厚みは芯材層1の厚みを変えることにより容易に調整することができる。その際、板全体の厚みの範囲を9~20mmとすれば、プレス成形が容易に行え、不燃性も確保できることが実験により確認されている。
【0036】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0037】
例えば、難燃性FRP層および耐食性FRP層は、各実施形態のように成形性の高いSMCで形成することが好ましいが、他の素材を用いて形成してもよい。
【0038】
また、各実施形態ではプレス成形によってFRP複合板の各層の形成・接合を行うようにしたが、各層を別々に形成して接着剤等で接合するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 芯材層
2a、2b 補強用FRP層
3a、3b 難燃性FRP層
4 含浸クロス
5 チョップドストランドマット
図1
図2
図3