(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-17
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する方法
(51)【国際特許分類】
C09B 61/00 20060101AFI20220128BHJP
C09B 67/54 20060101ALI20220128BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20220128BHJP
A23L 5/43 20160101ALN20220128BHJP
【FI】
C09B61/00 A
C09B67/54 Z
C09B61/00 Z
C09B67/20 Z
A23L5/43
(21)【出願番号】P 2020070798
(22)【出願日】2020-04-10
(62)【分割の表示】P 2016556683の分割
【原出願日】2015-10-30
【審査請求日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2014221911
(32)【優先日】2014-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相沢 亮介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 毅
(72)【発明者】
【氏名】大西 浩徳
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-047167(JP,A)
【文献】植松洋子 ほか,クチナシ色素製剤中のゲニポシドの含有量調査 (1988, 1996年),食衛誌,1998年,Vol.39, No.1,p.46-50
【文献】神蔵美枝子 ほか,クチナシ色素中のGeniposideの分離定量及び市販品の実態,食衛誌,1984年,Vol.25, No.6,p.517-524
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B
A23L
A23K 20/179
C01B 32/30
B01D 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲニポシドを含有するクチナシ由来色素を、(a)メチレンブルー吸着性能が
100~320ml/
gであり、且つ(b)よう素吸着性能が
950~1610mg/
gである活性炭により処理することにより製造されたクチナシ由来色素を含有する、色素製剤。
【請求項2】
ゲニポシドを含有するクチナシ由来色素を、(a)メチレンブルー吸着性能が
100~320ml/
gであり、且つ(b)よう素吸着性能が
950~1610mg/
gである活性炭により処理することにより製造されたクチナシ由来色素を含有する、着色組成物。
【請求項3】
クチナシ由来色素が、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、又はクチナシ黄色素である、請求項1に記載の色素製剤。
【請求項4】
クチナシ由来色素が、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、又はクチナシ黄色素である、請求項2に記載の着色組成物。
【請求項5】
色価100換算における、ゲニポシド及びゲニピンの総含量が300ppm以下である、クチナシ青色素。
【請求項6】
色価100換算における、ゲニポシド及びゲニピンの総含量が100ppm以下である、クチナシ青色素。
【請求項7】
色価100換算における、ゲニポシド及びゲニピンの総含量が20ppm以下である、クチナシ青色素。
【請求項8】
色価100換算における、ゲニポシド及びゲニピンの総含量が10ppm以下である、クチナシ青色素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食用色素として、クチナシ由来色素である、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、及びクチナシ黄色素が使用されている。
「クチナシ青色素」は、一般に、アカネ科クチナシ(Gardenia augusta MERRILL var.grandiflora HORT.,Gardenia jasminoides ELLIS)の果実より抽出して得られたイリドイド配糖体(主成分は、ゲニポシド)を、タンパク質分解物等の存在下で、β-グルコシダーゼ処理して得られる。ここで、ゲニポシドはβ-グルコシダーゼ処理によりアグリコンであるゲニピンに変換され、及びゲニピンがタンパク質分解物等と反応してクチナシ青色素の色素成分(色素の本質(coloring principle))が生じる。
従って、「クチナシ青色素」は、通常、単一化合物ではなく、混合物であり、また、通常、原料由来の未反応のゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する。少なくとも出願人の知る限り、従来、クチナシ青色素からゲニポシド、及びゲニピンを高度に除去する方法は確立されておらず、精製されたクチナシ青色素であっても、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する。
【0003】
「クチナシ赤色素」は、一般に、アカネ科クチナシの果実より抽出して得られたイリドイド配糖体(主成分は、ゲニポシド)のエステル加水分解物(主成分は、ゲニポシドの加水分解であるゲニポシド酸)を、タンパク質分解物等の存在下で、β-グルコシダーゼ処理して得られる。
従って、「クチナシ赤色素」も、通常、単一化合物ではなく、混合物であり、また、通常、原料由来の未反応のゲニポシド、当該未反応のゲニポシドから生じるゲニピン、又はこれらの両方を含有する。少なくとも出願人の知る限り、従来、クチナシ赤色素からゲニポシド、及びゲニピンを高度に除去する方法は確立されておらず、精製されたクチナシ赤色素であっても、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する。
【0004】
「クチナシ黄色素」は、一般に、アカネ科クチナシの果実を、水、又は含水エタノールで抽出して得られる。「クチナシ黄色素」の主な色素成分は、クロシン、及びクロセチンである。
従って、「クチナシ黄色素」も、単一化合物ではなく、また、通常、原料由来のゲニポシドを含有する。
【0005】
また、チブサノキ(Genipa americana L.)の果汁(別名:Huito果汁)、又は抽出物は、飲料、及び食品に汎用されており、及び、これらはゲニピンを含有する。
【0006】
これらの例のように、従来から、特段の問題は無く、ゲニポシド、又はゲニピンを含有する食品、及び食品添加物が用いられている。
しかし、ゲニポシドは、ラットに大量に経口投与すると肝毒性を示し、その毒性発現には、ラットの腸内細菌のβ-グルコシダーゼにより生じたゲニピンが関与している可能性が報告されている(非特許文献1)。
【0007】
また、チブサノキ果汁のような、ゲニピンを含有する食品又は飲料を飲食するとゲニピンが口の周りの皮膚のタンパク質と結合して、口の周りの皮膚が青くなってしまうという問題がある。
【0008】
ところで、ゲニポシドの除去に関して、特許文献1には、クチナシ黄色素の色素成分であるクロシンを特定の合成吸着樹脂に選択的に吸着させて、クチナシ黄色素の緑変の原因となるゲニポシドを主成分とするイリドイド配糖体を除去する技術が提案されている。
また、当該特許文献1には、活性炭が、クチナシ黄色素の色素成分と、ゲニポシドとを共に非選択に吸着してしまうので、活性炭処理では、クチナシ黄色素の色素成分と、ゲニポシドとを分離することはできないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Yamano, T. et al., Food Chem Toxicol., 28, p515-519 (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
クチナシ由来色素、並びにチブサノキ果汁及びチブサノキ抽出物は従来使用されているものであり、これらに含有される程度の少量のゲニポシド、又はゲニピンが人体に悪影響を及ぼすことは知られていないが、前述の状況から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する組成物から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する方法が提供されれば、有用であると考えられる。
しかし、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する組成物から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去することに着目した技術の例は少なく、出願人が知る限り、前記特許文献1に記載の技術が唯一の例である。
前記特許文献1に記載の技術は、クチナシ黄色素の色素成分であるクロシンを選択的に吸着させることを原理とするものであり、クチナシ黄色素以外に適用できる技術ではない。
そこで、本発明は、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する組成物から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記目的の解決のため、色素の精製方法として汎用される種々の方法を用いて、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する組成物から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去することを試みたが、当初、有効な方法は見いだせなかった(本明細書中、樹脂処理、酸析、及び塩析の試験結果を参考例1、及び2に示す。)。
しかし、本発明者らは、鋭意検討の結果、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する組成物を、特定の活性炭、具体的には(a)メチレンブルー吸着性能が50ml/g以上であり、且つ(b)よう素吸着性能が750mg/g以上である活性炭により処理することで、クチナシ青色素の色素成分、及びクチナシ黄色素の色素成分のような有用な成分の損失を抑制しながら、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去できることを見出した。前述した通り、活性炭処理では、クチナシ黄色素の色素成分と、ゲニポシドとを分離できないことが知られていた(前記特許文献1)ので、これは、驚くべきことである。
本発明者らは、かかる知見に基づき、更なる研究の結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、次の態様を含む。
【0014】
項1. ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する方法であって、
ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料を、(a)メチレンブルー吸着性能が50ml/g以上であり、且つ(b)よう素吸着性能が750mg/g以上である活性炭により処理して、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する方法。
項2. ゲニポシド、及びゲニピンの総含量が低減された、クチナシ由来色素の製造方法であって、
項1に記載の方法により、前記ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有するクチナシ由来色素から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する工程を含む製造方法。
項3. クチナシ由来色素が、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、又はクチナシ黄色素である項2に記載の製造方法。
項4. 項2又は3に記載のクチナシ由来色素を含有する色素製剤。
項5. 項2又は3に記載のクチナシ由来色素を含有する着色組成物。
項6. ゲニポシド、及びゲニピンの総含量が低減された、チブサノキ果汁又はチブサノキ抽出物の製造方法であって、
項1に記載の方法により、ゲニピンを含有するチブサノキ果汁又はチブサノキ抽出物から、ゲニピンを除去する工程を含む製造方法。
項7. 色価100換算における、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量が300ppm以下である、クチナシ青色素含有組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】活性炭による処理時間に対する、色価100換算におけるゲニポシド含量のグラフである(試験例3、活性炭No.7)。
【
図2】活性炭による処理時間に対する、色価100換算におけるゲニポシド含量のグラフである(試験例3、活性炭No.8)。
【
図3】活性炭による処理時間に対する、色価100換算におけるゲニポシド含量のグラフである(製造試験例1)。
【
図4】活性炭による処理時間に対する、色価100換算におけるゲニポシド含量のグラフである(製造試験例2)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
用語
本明細書中、特に記載の無い限り、「色価」は、「E1cm
10%」である。また、本明細書中、特に記載の無い限り、「色価」は、第8版食品添加物公定書(日本国厚生労働省)に記載の方法に従って決定される。
本明細書中、「色価100換算」とは、測定値等の各種数値を、対象となる材料、色素等の色価100当たりの数値に換算することをいう。例えば、色価200の材料に含まれるゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方の含量が500ppmである場合、色価100換算における、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方の含量は、500ppmに、色価の比率(100/200)を乗じることで、250ppmと算出される。当然のことであるが、例えば、色価100の試料の測定値は、それ自体が「色価100換算」における数値であることができる。
本明細書中、特に記載の無い限り、「室温」及び「常温」は、10~40℃の範囲内の温度を意味する。
本明細書中、「色素成分」とは、色素の本質(coloring principle)を意味する。
本明細書中、「色素」は、色素成分を含有し、又はこれのみからなり;複数種の色素成分(化合物)の混合物であることができ;また、色素成分以外の原料由来の成分、製法に起因する成分、又はその両方を含有してもよい。本明細書中、「色素」は、好ましくは、天然物由来の色素である。また、本明細書中、「色素」は、精製前、又は粗精製の色素(又は色素含有材料)、或いは精製後の色素を意味する場合がある。これは、文脈によって、判断できる。
「クチナシ青色素(Gardenia Blue)」は、第8版食品添加物公定書(日本国厚生労働省)において、以下の通り定義されている。本明細書中、「クチナシ青色素」は、当該定義に準じるものであることができる。定義:「本品は,クチナシ(Gardenia augusta Merrill 又はGardenia jasminoides Ellis)の果実から得られたイリドイド配糖体とタンパク質分解物の混合物にβ-グルコシダーゼを添加して得られたものである。デキストリン又は乳糖を含むことがある。」
「クチナシ赤色素(Gardenia Red)」は、第8版食品添加物公定書(日本国厚生労働省)において、以下の通り定義されている。本明細書中、「クチナシ赤色素」は、当該定義に準じるものであることができる。定義:「本品は,クチナシ(Gardenia augusta Merrill又はGardenia jasminoides Ellis)の果実から得られたイリドイド配糖体のエステル加水分解物とタンパク質分解物の混合物にβ-グルコシダーゼを添加して得られたものである。デキストリン又は乳糖を含むことがある。」
「クチナシ黄色素(Gardenia Yellow)」は、第8版食品添加物公定書(日本国厚生労働省)において、以下の通り定義されている。本明細書中、「クチナシ黄色素」は、当該定義に準じるものであることができる。定義:「本品は,クチナシ(Gardenia augusta Merrill又はGardenia jasminoides Ellis)の果実から得られた,クロシン及びクロセチンを主成分とするものである。デキストリン又は乳糖を含むことがある。」
【0018】
ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する方法
本発明の、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する方法(以下、本発明の除去方法と称する場合がある。)は、
ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料を、(a)メチレンブルー吸着性能が50ml/g以上であり、且つ(b)よう素吸着性能が750mg/g以上である活性炭により処理して、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する方法である。
【0019】
本発明において「除去」とは、完全な除去、及び部分的な除去を包含する。すなわち、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方が完全に除去されていなくても、本発明の実施に該当するが、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方が完全、又は完全に近い程度で除去されることが好ましい。
【0020】
材料
本発明の除去方法を施される「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料」における「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方」の量は、特に限定されず、その除去が望まれる程度の量であればよい。
【0021】
当該量の下限は、例えば、当該材料中の固形分全体に対して、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、0.02w/w%、0.03w/w%、又は0.04w/w%である。
当該量の上限は、例えば、当該材料中の固形分全体に対して、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、2w/w%、1.2w/w%、又は0.6w/w%である。
当該量は、例えば、当該材料中の固形分全体に対して、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、0.02~2w/w%の範囲内、0.03~1.2w/w%の範囲内、又は0.04~0.6w/w%の範囲内である。
【0022】
当該量の下限は、例えば、当該材料が色素である場合、色価100換算における、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、350ppm、500ppm、又は700ppmである。
当該量の上限は、例えば、当該材料が色素である場合、色価100換算における、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、5000ppm、3000ppm、又は2000ppmである。
当該量は、例えば、当該材料が色素である場合、色価100換算における、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、350~5000ppmの範囲内、500~3000ppmの範囲内、又は700~2000ppmの範囲内である。
【0023】
本明細書中、ゲニポシド、及びゲニピンの量は、以下の条件のHPLC分析、又はこれと同等の分析結果が得られる分析方法によって決定される。
[HPLC分析条件]
システム: JASCO HPLC system
カラム: Symmetry C18(4.6 mm i.d x 250 mm, Waters社)
移動相: a)水, b)アセトニトリル(b. 12% in 8 min., 12-15% in 2 min., 15% in 10 min., 15-100% in 5 min. 100% in 10min.)
流速: 1.0 mL/min.
温度: 40℃
検出: UV-Vis detector 238 nm
注入量: 20μL
【0024】
当該分析条件による分析において、ゲニポシドの検出限界は、約1ppmであり、及びゲニピンの検出限界も、約1ppmである。
【0025】
本発明の除去方法に供される「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料」は、「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料」であれば特に限定されないが、好ましくは、その例は、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、及びクチナシ黄色素等のクチナシ由来色素、並びにチブサノキ果汁又はチブサノキ抽出物を包含する。
【0026】
本発明の除去方法に供される「クチナシ青色素」は、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有するクチナシ青色素であれば、特に限定されず、例えば、公知の製造方法によって製造されるクチナシ青色素、又は商業的に入手できるクチナシ青色素であることができる。
【0027】
前述したように、「クチナシ青色素」は、一般に、アカネ科クチナシ(Gardenia augusta Merrill、又はGardenia jasminoides Ellis)(本明細書中、単に「クチナシ」と称する場合がある。)の果実より抽出して得られたイリドイド配糖体(主成分は、ゲニポシド)を、タンパク質分解物等の存在下で、β-グルコシダーゼ処理して得られる。ここで、ゲニポシドはβ-グルコシダーゼ処理によりアグリコンであるゲニピンに変換され、及びゲニピンがタンパク質分解物と反応してクチナシ青色素の色素成分が生じる。
従って、「クチナシ青色素」は、通常、単一化合物ではなく、混合物であり、また、通常、原料由来の未反応のゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する。
【0028】
本発明の除去方法に供される「クチナシ青色素」が含有する、「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方」の量は、特に限定されないが、色価100換算における、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、好ましくは、350~5000ppmの範囲内、より好ましくは、500~3000ppmの範囲内、更に好ましくは、700~2000ppmの範囲内である。クチナシ青色素の色価は、測定溶媒としてクエン酸緩衝液(pH7.0)を、及び測定波長として570~610nmの極大吸収部の波長を採用した色価測定法により決定される。
【0029】
本発明の除去方法に供される「クチナシ赤色素」は、ゲニポシドを含有するクチナシ赤色素であれば、特に限定されず、例えば、公知の製造方法によって製造されるクチナシ赤色素、又は商業的に入手できるクチナシ赤色素であることができる。
【0030】
前述したように、「クチナシ赤色素」は、一般に、アカネ科クチナシの果実より抽出して得られたイリドイド配糖体(主成分は、ゲニポシド)のエステル加水分解物(主成分は、ゲニポシドの加水分解であるゲニポシド酸)を、タンパク質分解物の存在下で、β-グルコシダーゼ処理して得られる。
従って、「クチナシ赤色素」は、通常、単一化合物ではなく、混合物であり、また、通常、原料由来の未反応のゲニポシド、当該未反応のゲニポシドから生じるゲニピン、又はこれらの両方を含有する。
【0031】
本発明の除去方法に供される「クチナシ赤色素」が含有する、「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方」の量は、特に限定されないが、色価100換算における、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、好ましくは、350~5000ppmの範囲内、より好ましくは、500~3000ppmの範囲内、更に好ましくは、700~2000ppmの範囲内である。クチナシ赤色素の色価は、測定溶媒として酢酸緩衝液(pH4.0)を、及び測定波長として波長520~545nmの極大吸収部を採用した色価測定法により決定される。
【0032】
前述したように、クチナシ黄色素は、一般に、アカネ科クチナシの果実を、水、又は含水エタノールで抽出して得られる。
従って、クチナシ黄色素もまた、通常、原料由来のゲニポシドを含有する。
【0033】
本発明の除去方法に供される「クチナシ黄色素」が含有する、「ゲニポシド」の量は、特に限定されないが、色価100換算における、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、好ましくは、350~5000ppmの範囲内、より好ましくは、500~3000ppmの範囲内、更に好ましくは、700~2000ppmの範囲内である。なお、クチナシ黄色素の場合、「ゲニポシド、及びゲニピンの総含量」は、通常、ゲニポシドの含量に等しい。クチナシ黄色素の色価は、次の色価測定方法により決定される。
<クチナシ黄色素の色価測定方法>
色価100に換算して約5gに相当する量の試料を精密に量り、当該試料に0.02mol/L水酸化ナトリウム溶液50mlを加えて50℃の水浴中で20分間加温し、必要があれば振り混ぜながら溶かし、水を加えて正確に100mlとする。その1mlを正確に量りとり、50vol%エタノールを加えて正確に100mlとし、必要があれば遠心分離し、その上澄液を検液とする。50vol%エタノールを対照として、410~425nmの極大吸収部における、液層の長さ1cmでの吸光度Aを測定し、次式により色価を求める。
色価=(A×1000)/ 採取量(g)
【0034】
本発明の除去方法に供されるチブサノキ(Genipa americana L.)の果汁(別名:Huito果汁)、又は抽出物が含有する、「ゲニピン」の量は、特に限定されず、例えば、通常のHuito果汁、又はチブサノキ抽出物が含有する「ゲニピン」の量であることができるが、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、好ましくは、0.02~0.20w/w%の範囲内、より好ましくは、0.03~0.12w/w%の範囲内、更に好ましくは、0.04~0.08w/w%の範囲内である。なお、チブサノキ果汁、又はチブサノキ抽出物の場合、「ゲニポシド、及びゲニピンの総含量」は、通常、ゲニピンの含量に等しい。
【0035】
活性炭による処理
本発明の除去方法で用いられる活性炭は、(a)メチレンブルー吸着性能が50ml/g以上であり、且つ(b)よう素吸着性能が750mg/g以上である活性炭である。
【0036】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「メチレンブルー吸着性能」は、50ml/g以上であり、好ましくは、80ml/g以上であり、より好ましくは、100ml/g以上、更に好ましくは120ml/g以上、より更に好ましくは150ml/g以上である。
【0037】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「メチレンブルー吸着性能」の上限は、特に限定されないが、当該メチレンブルー吸着性能は、通常、例えば、1000ml/g以下、700ml/g以下、又は500ml/g以下である。
【0038】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「よう素吸着性能」は、750mg/g以上であり、好ましくは、850mg/g以上であり、より好ましくは、1000mg/g以上である。
【0039】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「よう素吸着性能」の上限は、特に限定されないが、当該よう素吸着性能は、通常、例えば、4000mg/g以下、3000mg/g以下、又は2500mg/g以下である。
【0040】
メチレンブルー吸着性能及びよう素吸着性能がこのような数値であることにより、「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方」を高度に除去できる。
【0041】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「メチレンブルー吸着性能」は、JIS K 1474:2014の「メチレンブルー吸着性能」の方法に従って決定される。
【0042】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「よう素吸着性能」は、JIS K 1474:2014の「よう素吸着性能」の方法に従って決定される。
【0043】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「細孔容積」の上限は、好ましくは、1.4ml/gであり、より好ましくは、1.3ml/gであり、更に好ましくは、1.2ml/gであり、より更に好ましくは、1.1ml/gであり、特に好ましくは1ml/gである。
細孔容積がこのような数値であることにより、クチナシ青色素の色素成分に代表される有用な成分の損失を抑制して、「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方」を選択的に除去できる。
【0044】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「細孔容積」の下限は、好ましくは、0.25ml/gであり、より好ましくは、0.3ml/gであり、更に好ましくは、0.5ml/gであり、より更に好ましくは、0.6ml/gである。
細孔容積がこのような数値であることにより、「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方」を高度に除去できる。
【0045】
本発明の除去方法で用いられる活性炭は、「細孔容積」が、好ましくは、0.25~1.4ml/gの範囲内、より好ましくは、0.3~1.3ml/gの範囲内、更に好ましくは、0.5~1.2ml/gの範囲内、より更に好ましくは、0.6~1.1ml/gの範囲内、特に好ましくは0.6~1ml/gの範囲内である。
【0046】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「細孔容積」は、次の方法に従って決定される。
<細孔容積の決定方法>
-195.8℃の液体窒素沸点において試料(活性炭)に窒素ガスを吸着させる。
平衡圧P/P0 = 0.931における窒素吸着量を求め、液体窒素体積に換算して細孔容積を求める。
【0047】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「比表面積」の下限は、好ましくは、650m2/g、より好ましくは、700m2/g、更に好ましくは、900m2/g、より更に好ましくは、1000m2/gである。
比表面積がこのような数値であることにより、クチナシ青色素の色素成分に代表される有用な成分の損失を抑制して、「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方」を選択的に除去できる。
【0048】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「比表面積」の上限は、特に限定されないが、通常、2000m2/g程度であり、好ましくは1900m2/gであり、より好ましくは1800m2/gであり、更に好ましくは1700m2/gである。
【0049】
本発明の除去方法で用いられる活性炭は、「比表面積」が、好ましくは、650~2000m2/gの範囲内、より好ましくは、700~1900m2/gの範囲内、更に好ましくは、900~1800m2/gの範囲内、より更に好ましくは、1000~1700m2/gの範囲内である。
【0050】
本発明の除去方法で用いられる活性炭の「比表面積」は、次の方法に従って決定される。
<比表面積容積の決定方法>
-195.8℃の液体窒素沸点において試料(活性炭)に窒素ガスを吸着させる。
相対圧0.1以下の範囲で圧力と吸着量の関係を求め、B.E.T理論に基づき比表面積を求める。
【0051】
このような活性炭は、商業的に入手可能な活性炭として存在しているので、商業的に入手した活性炭を前記で説明した各測定方法により測定して、前記の各パラメータに合致する活性炭を選択することにより、用意できる。
商業的に入手できる活性炭の例としては、クラレケミカル株式会社製のクラレコール(商品名)シリーズ、株式会社ユニオンサービス製のSPシリーズ、日本エンバイロケミカルズ株式会社製の白鷺シリーズ、太平化学産業株式会社製の梅蜂印シリーズ及び株式会社ユー・イー・エス製の活力炭シリーズが挙げられる。
【0052】
活性炭による処理は、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料を活性炭に接触させることによって実施される。これにより、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方が活性炭に吸着する。そして、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方が吸着した活性炭を除去することにより、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方が除去される。
ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料を活性炭に接触させることは、当該材料が固体の場合、例えば、当該材料を水系溶媒に溶解又は懸濁することにより、液体の形態にし、当該液体の状態の材料と活性炭とを混合することにより実施できる。一方、当該材料が液体の場合、例えば、当該材料をそのまま、又は水系溶媒で希釈して、当該液体の状態の材料と活性炭とを混合することにより実施できる。当該混合は、振とう機、又は攪拌機等を用いる慣用の手段で実施すればよい。
前記水系溶媒の例は、水(例、水道水、イオン交換水、蒸留水)、及び含水アルコール(例、含水エタノール)を包含する。クチナシ青色素の色素成分に代表される有用な成分が活性炭に吸着されてしまうことを抑制する観点からは、前記水系溶媒は、アルコール(例、エタノール)の含有量が小さいことが好ましく、好ましくは水(例、水道水、イオン交換水、蒸留水)である。
【0053】
前記「液体の状態の材料」のpHは、特に限定されないが、通常、2.0~7.0の範囲内、好ましくは、4.0~7.0の範囲内である。
前記「液体の状態の材料」のpHを調整する場合、当該調整は、塩酸、又は水酸化ナトリウムを用いる等の慣用の方法により行えばよい。
【0054】
活性炭による処理の温度は、特に限定されないが、通常、室温で実施すればよい。
【0055】
活性炭による処理に用いられる活性炭の好適な量は、「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料」の種類、これが含有する有用成分の種類及びその含有量、並びにこれが含有する「ゲニポシド、及びゲニピン、又はこれらの両方」の量等によって異なるが、例えば、「液体の状態の材料」中の活性炭の量が、0.1~10%の範囲内であり、より好ましくは、1~7%の範囲内である。色価100当たりの「ゲニポシド、及びゲニピン」の総含量が350~5000ppmの範囲内であるクチナシ青色素の場合、「液体の状態の材料」中の活性炭の量が、好ましくは、1~10w/w%の範囲内であり、より好ましくは、2~8w/w%の範囲内であり、更に好ましくは、3~7w/w%の範囲内である。
【0056】
活性炭による処理の時間は、特に限定されないが、通常10分~50時間、好ましくは30分~40時間、より好ましくは1~30時間の範囲内である。この間、好ましくは、前記混合状態が維持される。
当該時間が短すぎると「ゲニポシド、及びゲニピン、又はこれらの両方」の除去が不充分になり、一方、当該時間が長すぎても「ゲニポシド、及びゲニピン、又はこれらの両方」の除去率が向上しなくなるので、作業効率の点で不利になる。
【0057】
膜による処理
本発明の除去方法においては、好ましくは、前記「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料」を、先に膜により処理し、次いで、前記「活性炭による処理」を実施する。
当該膜による処理によって、ある程度、「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方」を除去することができる。これによって、例えば、「活性炭による処理」における活性炭の使用量を低減できる。
当該膜による処理に用いられる膜は、好ましくは、限外濾過膜であり、より好ましくは、分画分子量が2000~5000の範囲内である膜である。このような膜は、商業的に入手可能である。当該限外濾過膜を用いた処理の条件は、好ましくは、例えば、0.3~0.7MPaで、3~24時間である。
当該膜による処理を施した場合、前記「活性炭による処理」を施される「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料」は、当該膜による処理の濃縮液である。当該濃縮液は、必要に応じて、前記「活性炭による処理」の前に、更に、希釈、又は濃縮等の処理を施されていてもよい。
【0058】
本発明の除去方法によれば、材料中のクチナシ青色素等の有用な成分の損失を抑制しながら、材料中のゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方の量を低減することができる。
【0059】
本発明の除去方法においては、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量での残存率(すなわち、本発明の除去方法による処理前の当該総含量に対する処理後の当該総含量の質量比)が、好ましくは65%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは5%以下、より更に好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0%である。
【0060】
前記「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料」がクチナシ由来色素である本発明の好適な一態様では、有用な成分である色素成分の残存率(すなわち、本発明の除去方法による処理前の色素成分の含量に対する処理後の含量の比)が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上であり、より更に好ましくは98%以上であり;且つゲニポシド、及びゲニピンの総含量での残存率が、好ましくは65%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは5%以下、より更に好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0%(本発明の除去方法による処理後のクチナシ由来色素中のゲニポシド、及びゲニピンの含量が、前記の測定方法による検出限界未満であるので、残存率が0%であるとみなせる場合を含む。)である。
当該色素成分の例は、クチナシ青色素成分、クチナシ赤色素成分、及びクチナシ黄色素成分を包含する。
当該色素成分は、本発明の特に好適な一態様では、クチナシ青色素成分である。
【0061】
当該「色素成分」の含量は、色価によって決定される。従って、「色素成分の残存率」は、「色価の残存率」であることができる。
ここで、「色価の残存率」とは、次のように定義される。
色価の残存率(%)=(本発明の除去方法による処理後の色価)/(本発明の除去方法による処理前の色価)×100
【0062】
ゲニポシド、及びゲニピンの総含量が低減された、クチナシ由来色素の製造方法
前記で説明した本発明の除去方法によれば、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有するクチナシ由来色素から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去することによって、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量が低減された、クチナシ由来色素を製造できる。すなわち、本発明の一態様は、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量が低減された、クチナシ由来色素の製造方法である。
当該クチナシ由来色素の例は、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、及びクチナシ黄色素を包含する。
【0063】
ここで、「低減された」とは、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量が材料より減少したことを意味し、ゲニポシド、及びゲニピンを実質的に含有しないこと、及び含有しないことを包含する。
【0064】
本発明の製造方法においては、更に必要に応じて、前記活性炭による処理後の溶液に、更に、慣用の精製処理[例、濾過処理、樹脂処理、又は膜処理等]を施してもよい。
【0065】
クチナシ由来色素、クチナシ由来色素製剤、クチナシ由来色素着色組成物
本発明の製造方法で得られるクチナシ由来色素は、活性炭による処理後の溶液の形態であってもよく、その濃縮物の形態、又は任意の方法で乾燥(例、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥など)して得られる粉末形態を有するものであってよい。
【0066】
本発明の製造方法で得られるクチナシ由来色素が含有する「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方」の量は、色価100換算における、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量として、好ましくは、300ppm以下、より好ましくは200ppm以下、更に好ましくは100ppm以下、より更に好ましくは50ppm以下、特に好ましくは20ppm以下、より特に好ましくは10ppm以下、更に特に好ましくは5ppm以下、より更に特に好ましくは1ppm以下であることができる。
当該量は小さいほど好ましく、前記の測定方法による測定限界未満であることが特に好ましい。従って、当該量の下限は限定されないが、例えば、当該量が1ppm以上、2ppm以上、又は5ppm以上であるクチナシ由来色素は、使用の目的及び形態によって、許容され得る。
【0067】
本発明の一態様は、色価100換算における、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量が300ppm以下(より好ましくは、200ppm、更に好ましくは100ppm以下、より更に好ましくは50ppm以下、特に好ましくは10ppm以下、更に特に好ましくは5ppm以下、より更に特に好ましくは1ppm以下、最も好ましくは0ppm(又は前記の測定方法で検出限界未満))である、クチナシ青色素である。かかるクチナシ青色素は、前記した本発明の製造方法で得ることができる。
【0068】
本発明の製造方法で得られるクチナシ由来色素、及び本発明のクチナシ青色素は、従来のクチナシ由来色素と同様に使用でき、そのままの状態で色素製剤として提供することもできるし、また、これに、他成分として希釈剤、担体またはその他の添加剤を添加して、その状態で色素製剤として提供することもできる。
【0069】
このような希釈剤、担体、及び添加剤としては、本発明の効果を妨げないことを限度として、一般に色素製剤、特に水溶性色素製剤に用いられるものを広く用いることができる。
その例は、シュクロース、乳糖、グルコース、デキストリン、アラビアゴム、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及び水飴等を包含する。
【0070】
色素製剤の形態は、特に制限されず、例えば粉末状、顆粒状、錠剤状、液状、乳液状、又はペースト状等の任意の形態に調製され得る。
【0071】
本発明の色素製剤は、従来のクチナシ由来色素の色素製剤と同様に、食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、飼料等の着色料として広く用いることができる。
本発明は、前記のクチナシ由来色素、又はその色素製剤を用いて着色された食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、飼料等の着色組成物を提供する。
当該食品の例は、冷菓、生菓子、和菓子、及び洋菓子等の菓子類;飲料、及びアルコール飲料等の飲料類;乾燥野菜、及び漬け物等の農産加工品;海産物加工品;並びに畜肉加工品等を包含する。
当該香粧品の例は、化粧料(例、アイシャドー、マスカラ、口紅、リップクリーム、及び化粧水等)、石鹸、シャンプー、リンス、洗剤、歯磨き、及び洗口液等を包含する。
当該医薬品の例は、錠剤(例、糖衣錠)、顆粒剤、液剤、及びカプセル剤等を包含する。
通常、これらの着色組成物におけるクチナシ由来色素の含量は、特に制限されないが、例えば、クチナシ青色素の場合、605nm前後である、その極大吸収波長における着色組成物の吸光度が0.01~1となるような量であることができる。
【0072】
ゲニピンの含量が低減された、チブサノキ果汁又はチブサノキ抽出物の製造方法
前記で説明した本発明の除去方法によって、ゲニピンを含有するチブサノキ果汁又はチブサノキ抽出物(前述の通り、通常、チブサノキ果汁又はチブサノキ抽出物は、ゲニピンを含有する。)から、ゲニピンを除去することによって、ゲニピンの含量が低減されたブサノキ果汁又はチブサノキ抽出物を製造できる。すなわち、本発明の一態様は、ゲニピンの含量が低減された、チブサノキ果汁又はチブサノキ抽出物の製造方法である。
【0073】
ここで、「低減された」とは、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量が材料より減少したことを意味し、ゲニポシド、及びゲニピンを実質的に含有しないこと、及び含有しないことを包含する。
【0074】
前記「ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を含有する材料から、ゲニポシド、ゲニピン、又はこれらの両方を除去する方法」によって得られた「ゲニピンの含量が低減された、チブサノキ果汁又はチブサノキ抽出物」は、そのまま、又は所望により、更に精製、及び加工等を施して、従来のチブサノキ果汁又はチブサノキ抽出物と同様に使用できる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】
記号及び略号の意味を以下に示す。この他にも、本明細書中、本発明が属する技術分野において、通常用いられる記号及び略号が用いられ得る。
CV:色価(Color Value)
【0077】
以下、「ゲニポシド、及びゲニピンの総含量」等において、「ゲニポシド、及びゲニピン」を「Total G」 と表記する場合がある。
例えば、「Total G残存率」は、次のように定義される。
Total G残存率(%)=(処理後ゲニポシド量+処理後ゲニピン量)/(処理前ゲニポシド量+処理前ゲニピン量)×100
【0078】
以下の試験例、及び実施例において、ゲニポシド、及びゲニピンの定量は、以下のHPLC分析条件のHPLC分析によって行った。
当該分析において、分析試料の色価が100以上の場合は、分析試料を超純水で色価100に希釈した。
[HPLC分析条件]
システム: JASCO HPLC system
カラム: Symmetry C18(4.6 mm i.d x 250 mm, Waters社)
移動相: a)水, b)アセトニトリル(b. 12% in 8 min., 12-15% in 2 min., 15% in 10 min., 15-100% in 5 min. 100% in 10min.)
流速: 1.0 mL/min.
温度: 40℃
検出: UV-Vis detector 238 nm
注入量: 20μL
【0079】
当該分析条件の分析において、ゲニポシド、又はゲニピンが非検出の場合(すなわち、検出限界未満の場合)、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量の計算においては、ゲニポシド濃度、又はゲニピン濃度が0ppmであるとみなした。
【0080】
試験例1
種々の活性炭を用いたゲニポシド吸着試験
種々の活性炭(活性炭No.1~16)を用いたゲニポシド吸着試験を行った。使用した活性炭は、いずれも商業的に入手した。このうち、活性炭No.5、及びNo.6は、同じ製品であり、ロット番号のみが異なった。
【0081】
ゲニポシド約500ppm溶液に、1w/w%の量比で各活性炭を添加し、1時間振盪した後、前述のHPLC分析条件にてゲニポシド含量を測定した。
【0082】
結果を表1に示す。表1中、「対照」は、活性炭非処理であり、及び「ND」は、検出限界未満である。
表1からわかるように、活性炭の種類によって、ゲニポシド吸着能が著しく相違した。
【0083】
【0084】
試験例2
クチナシ青色存在下でのゲニポシド吸着試験
試験例1でゲニポシドをよく吸着した活性炭のうちの9種類(活性炭No.4、6、7、9、11、13、14、15及び16)について、実際にクチナシ青色素中からゲニポシド、及びゲニピンを除去できるかの検討を行うため、クチナシ青色素存在下でのゲニポシド、及びゲニピン吸着試験を行った。ここで、用いたクチナシ青色素からは、ゲニピンが検出されなかったので、実際に活性炭への吸着が確認されたのは、ゲニポシドの吸着性である。しかし、ゲニピンは、構造、及び理化学的性質がゲニポシドと類似するので、前記試験例及び実施例において、ゲニポシドと同様の挙動を示すと合理的に推測される。
【0085】
タンパク質加水分解物の存在下でクチナシ果実由来の精製ゲニポシド(ゲニポシド含量91705ppm)にβ-グルコシダーゼを作用させて得られたクチナシ青色素(ゲニポシド含量1372ppm、ゲニピン含量検出限界未満)に、ゲニポシド含量約2000ppmとなるようにクチナシ果実由来の精製ゲニポシド(ゲニポシド含量34.8w/w%、ゲニピン含量検出限界未満)を添加してゲニポシド添加クチナシ青色素を調製した。これに、1w/w%の量比で各活性炭を添加(具体的には、前記ゲニポシド添加クチナシ青色素(当該色素は、水で色価を100に調整した溶液の形態である。)20gに活性炭0.2gを添加した。)後、常温にて振盪し、1時間後の色価、及びゲニポシド含量を測定した。
結果を表2に示す。表2中、「対照」は、活性炭非処理である。
【0086】
表2からわかるように、用いた活性炭の種類によって、ゲニポシド吸着能、及び色価吸着能力が相違し、並びに色価100換算におけるゲニポシド含量(ゲニポシド/CV100)も相違した。しかし、一部の種類の活性炭は、クチナシ青色素に対して選択的にゲニポシドを吸着した。従って、このような活性炭によれば、高い色価残存率とゲニポシドの高度な除去を両立できる可能性が示唆された。
【表2】
【0087】
試験例3
活性炭の量、及び活性炭による処理時間の検討
【0088】
活性炭の量、及び活性炭による処理時間の検討を行った。
【0089】
活性炭としては、試験例2で色価100換算におけるゲニポシド含量(ゲニポシド/CV100)が低かった活性炭No.7、及び試験例1でゲニポシドの残存率が高かった活性炭No.8を用いた。
【0090】
試験例2と同様にして、但し、活性炭No.7、又は活性炭No.8を、1w/w%、3w/w%、又は5w/w%の量比で添加後、常温にてスターラーにて攪拌し、1時間、3時間、及び5.5時間後の色価、及びゲニポシド含量を測定した。これらから、色価100換算におけるゲニポシド含量(ゲニポシド/CV100)を算出した。結果を
図1(活性炭No.7)、及び
図2(活性炭No.8)に示す。
【0091】
また、活性炭No.7について、ゲニポシド吸着量(mg)を測定した。これから、活性炭単位質量当たりのゲニポシド吸着量[ゲニポシド吸着量(g)/活性炭1g]を算出した。結果を表3に示す。
【0092】
【0093】
図1からわかるように、活性炭No.7を用いた場合、1w/w%添加では5.5時間後で約1000ppm/CV100までゲニポシドを除去することができ、5w/w%添加では約30ppm/CV100まで除去できた。
活性炭No.7のゲニポシド吸着量は、最大で0.1g/g程度と推測される。表3の結果から、効率よく除去するには過剰量の活性炭を投入することが好ましいことが明らかになった。処理時間については、色価100換算におけるゲニポシド含量(ゲニポシド/CV100)の低下は、処理時間が1時間を超えると緩やかになる傾向がみられた。
【0094】
一方、
図2からわかるように、活性炭No.8の場合、添加量を増やした場合、及び処理時間を長くした場合のいずれにおいても、色価100換算におけるゲニポシド含量(ゲニポシド/CV100)は低下しなかった。このことから、単に、活性炭の添加量を増やすこと、及び/又は活性炭による処理時間を長くすることだけでは、ゲニポシド吸着量を多くすることはできず、何らかの要素に基づく活性炭の選択が重要であることが確認された。
【0095】
製造試験例1
ゲニポシド低減クチナシ青色素の製造1
(工程1)
水道水中のクチナシ果実由来の精製ゲニポシド(ゲニポシド含量37.5w/w%)に、タンパク質加水分解物の存在下でβ-グルコシダーゼを作用させて、クチナシ青色素(溶液状態、液量2350g、色価113.3、色価100換算におけるゲニポシド含量1372ppm、ゲニピン含量検出限界未満)を調製した。
当該クチナシ色素を次の濾過条件で濾過し、濾液として、クチナシ青色素(溶液状態、液量2606g、色価100.9)を得た。
[濾過条件]
濾紙:ADVANTEC NO.2、φ125mm(ADVANTEC社)
濾過助剤:ケイソウ土
濾過助剤のプリコート量:20g
濾過助剤のボディフィード量:液量の2w/w%
(工程2)
前記濾紙による濾過後のクチナシ青色素を、限外濾過膜で処理(0.5MPa、15時間40分)して、クチナシ青色素(溶液状態、液量2448g、色価102.6、固形分14.6%、色価/固形分704.2、収率95.5%、色価100換算におけるゲニポシド含量432ppm、ゲニピン含量検出限界未満)を得た。
(工程3)
前記限外濾過処理後のクチナシ青色素に、1w/w%、3w/w%、又は5w/w%の量の活性炭No.9を添加後、常温にてスターラーにて攪拌し、1時間、3時間、及び5時間後の色価、及びゲニポシド含量を測定した。これらから算出した色素残存率(5時間後)を表4に示す。また、これらから算出した色価100換算におけるゲニポシド、及びゲニピンの総含量(Total G/CV100)のグラフを表4及び
図3に示す。
【0096】
【0097】
表4及び
図3からわかるように、活性炭の量が多いほど、色価100換算におけるゲニポシド、及びゲニピンの総含量(Total G/CV100)が低下する傾向がみられた。処理時間については、色価100換算におけるゲニポシド、及びゲニピンの総含量(Total G/CV100)の低下は、処理時間が1時間を超えると緩やかになる傾向がみられた。
【0098】
表4からわかるように、活性炭の量が多いほど、色価残存率が低下する傾向があった。
【0099】
製造試験例2
アルコールの有無による吸着効果の違いの検討のため、製造試験例1の前記限外濾過処理後のクチナシ青色素80重量部に、水、又はエタノールをそれぞれ20重量部添加した液を調製し、これに、1w/w%の量比で活性炭No.9を添加後、常温にてスターラーにて攪拌し、5時間後の色価、及びゲニポシド含量を測定した。これから算出した色素残存率を表5に示す。
【0100】
【0101】
また、同じく活性炭添加量1w/w%の、エタノール不添加の試験区、及びエタノール添加の試験区の色価100換算におけるゲニポシド、及びゲニピンの総含量(Total G/CV100)のグラフを
図4に示す。
【0102】
図4からわかるように、エタノールを添加すると色素収率は低くなり、及び色価100換算におけるゲニポシド、及びゲニピンの総含量(Total G/CV100)は高くなる傾向がみられた。
これにより、本発明の目的においては、エタノールを添加しないか、その添加量を小さくすることが望ましいことが明らかになった。
【0103】
試験例4
活性炭の性質と、ゲニポシド残存率、及び色価残存率との関係の分析
【0104】
活性炭の性質と、ゲニポシド残存率、及び色価残存率との関係の分析を行った。
【0105】
試験例1、及び2で使用した活性炭の、形状、由来原料、賦活方法、及び各種物性を調査、又は分析し、これらと、ゲニポシド残存率、及び色価残存率との関係の分析を行った。
これらの調査、及び分析のデータを表6に示す。表6中、「対照」は、活性炭非処理であり、及び「ND」は、検出限界未満である。
【0106】
【0107】
表6からわかるように、メチレンブルー吸着性能、及びよう素吸着性能が高い活性炭は、ゲニポシドを選択的に吸着する傾向がみられた。
また、細孔容積が1.12未満である活性炭は、クチナシ青色素の色素残存率が極めて高い傾向がみられた。
また、比表面積は大きいほうがゲニポシドをより多く吸着する点で好ましい。特に、比表面積が、650m2/g以上の場合に、色価100換算におけるゲニポシド残存率が低い結果が得られた。
【0108】
試験例5
クチナシ黄色素
クロシン(東京化成工業)5%溶液100gに、ゲニポシド含量約2000ppmとなるようにクチナシ果実由来の精製ゲニポシド(ゲニポシド含量34.8w/w%)を0.57g添加した。50mL容スクリュー管3本に、それぞれ20gはかりとり、それぞれを対照(活性炭非処理)、活性炭No.7添加区、及び活性炭No.8添加区に用いた。活性炭の添加量は、5w/w%添加(各1g添加)であった。
常温にてそれぞれ3時間攪拌後、色価、及びゲニポシド含量の測定を行なった。これらから算出した色価残存率、及びゲニポシド残存率を表7に示す。
【0109】
【0110】
表7から分かるように、活性炭No.7を用いた場合、有用な成分がクチナシ黄色素である場合も、クチナシ青色素の場合と同様に、当該有用な成分の損失を抑制して、ゲニポシドを選択的に除去できた。一方、活性炭No.8を用いた場合、これもクチナシ青色素の場合と同様に、色価の残存率は高かったが、ゲニポシドを除去することはできなかった。
【0111】
参考例1
市販のクチナシ青色素の分析
本発明のクチナシ青色素との対比のため、商業的に入手可能な4種のクチナシ青色素の分析を行った。
結果を表8に示す。表8中、「ND」は、検出限界未満である。
【0112】
【表8】
表8から分かるように、通常の市販の「クチナシ青色素」の場合、色価100換算における、ゲニポシド、及びゲニピンの総含量は、最低でも300ppmを超える。
【0113】
参考例2
陰イオン交換樹脂によるクチナシ青色素中のゲニポシド除去の検討
陰イオン交換樹脂によるクチナシ青色素中のゲニポシド除去の可能性を検討した。
バッチ式の予備試験で一定のゲニポシド吸着効果が認められた弱塩基性陽イオン交換樹脂 IRA96SB(商品名、オルガノ社)をカラム式で用いて、ゲニポシド除去試験を実施した。
【0114】
当該試験は、次の手順で実施した。
(樹脂コンディショニング)
IRA96SBをイオン交換水に一晩浸漬して膨潤させ、当該膨潤樹脂20mLをカラムに充填した(3本)。
(吸着試験)
試験液A:ゲニポシド標品の約30ppm溶液、pH6.18
試験液B:クチナシ青色素液(色価82.6)、pH6.04
試験液C:クチナシ青色素液(色価82.6)、pH9.30(48%NaOHにてpH調整した)。
前記試験液A~Cの20.00gを、それぞれ、SV(空間速度)2程度の速度で通液し、イオン交換水を各樹脂の3倍量(60mL)、及びSV4程度の速度で通液することにより水洗した。通液開始時から水洗終了時までの全ての液を回収した(約80g)。
HPLCで各サンプルのゲニポシド含量を測定した。
【0115】
結果を表9に示す。表9中、丸括弧内の数字(%)は回収率である。
【0116】
【0117】
表9からわかるように、ゲニポシド標品(試験液A)、及びクチナシ青色素液(試験液B、及びC)のいずれにおいても、ゲニポシドの除去効果は認められなかった。むしろ、クチナシ青色素液(試験液B、及びC)の試験では、色素回収率が約60%であるのに対し、ゲニポシドの回収率は約80%であり、樹脂処理後に色価100換算におけるゲニポシド濃度が上昇した。
更に、通液時のpHによる吸着の差はあまり見られなかったが、実際の工程を想定した場合に不都合なことに、pHが低い場合は、樹脂中、及び回収液に析出物が発生しやすくなる傾向がみられた。
従って、当該試験からは、弱塩基性陽イオン交換樹脂によるクチナシ青色素からのゲニポシドの除去は困難であると結論された。
【0118】
参考例3
酸析、又は塩析によるクチナシ青色素中のゲニポシド除去の検討
酸析、又は塩析によるクチナシ青色素中のゲニポシド除去の可能性を検討した。
【0119】
当該試験は、次の手順で実施した。
(クチナシ青色素の用意)
タンパク質加水分解物の存在下でクチナシ果実由来の精製ゲニポシド(ゲニポシド含量36.9w/w%)にβ-グルコシダーゼを作用させてクチナシ青色素(溶液状態、色価118.1、ゲニポシド含量2288ppm)を得た。
【0120】
(酸析)
殺菌後のクチナシ青色素50gを97%硫酸にてpH2.5に調整した。スターラーで攪拌後、常温で一晩静置した。上清と沈殿物を遠心管に移し、3000G×20分間遠心処理し、上清を回収した。残った沈殿物を、pH2.5に調整した硫酸水で2回洗浄し、更にイオン交換水で1回洗浄した。当該洗浄後の沈殿物にイオン交換水を適当量添加し、沈殿物の一部を溶解させた。この際、沈殿物を溶解させるため、47%NaOHを適当量加えた。
得られた上清、及び沈殿物中のゲニポシド含量をHPLCにて測定した。
【0121】
(塩析)
殺菌後のクチナシ青色素50gに硫酸アンモニウムを23.6g添加した。スターラーで攪拌後、常温で一晩静置した。上清と沈殿物を遠心管に回収し、3000G×20分間遠心処理し、上清を回収した。一方、残った沈殿物を、70%飽和度の硫酸アンモニウム水で2回洗浄し、更にイオン交換水で1回洗浄した。当該洗浄後の沈殿物にイオン交換水を適当量添加し、沈殿物の一部を溶解させた。
得られた上清、及び沈殿物中のゲニポシド含量をHPLCにて測定した。
【0122】
結果を表10に示す。表10中、丸括弧内の数値は、沈殿物の希釈率が正確でないので、参考値である。
【0123】
【0124】
表10から明らかなように、酸析、及び塩析の、上清、及び沈殿のいずれにおいても、色価100換算におけるゲニポシド含量(ゲニポシド/CV100)の値は大きかった。従って、酸析、又は塩析によって色素成分からゲニポシド、及びゲニピンを除去することは困難である、と結論された。
【0125】
製造試験例3
ゲニポシド低減クチナシ青色素の製造2
(工程1)
水道水中のクチナシ果実由来の精製ゲニポシド(ゲニポシド含量35.7w/w%)に、タンパク質加水分解物の存在下でβ-グルコシダーゼを作用させて、クチナシ青色素(溶液状態、液量1200L、色価105.2、色価100換算におけるゲニポシド含量597.4ppm、ゲニピン含量検出限界未満)を調製した。
当該クチナシ色素を次の濾過条件で濾過し、濾液として、クチナシ青色素(溶液状態、液量1900L、色価65.2)を得た。
[濾過条件]
濾過設備:フィルタープレス
濾過助剤:ケイソウ土
濾過助剤のプリコート量:30kg
濾過助剤のボディフィード量:20kg
(工程2)
前記濾過設備による濾過後のクチナシ青色素を、限外濾過膜(分画分子量3000)で処理(0.5MPa、5時間)して、クチナシ青色素(溶液状態、液量1300L、色価96.0、固形分11.7%、色価/固形分820.5、収率98.9%)を得た。
(工程3)
前記限外濾過処理後のクチナシ青色素に、3w/w%量の活性炭No.9を添加後、15℃に冷却して攪拌機で2時間攪拌し、一晩静置した。
当該クチナシ青色素を次の濾過条件で濾過し、濾液として、クチナシ青色素(溶液状態、液量2800L、色価41.7)を得た。
[濾過条件]
濾過設備:フィルタープレス
濾過助剤:ケイソウ土
濾過助剤のプリコート量:30kg
濾過助剤のボディフィード量:58kg
(工程4)
クチナシ青色素を含有する前記工程3の濾過処理を経た濾液を減圧濃縮し、クチナシ青色素(色価242.9、液量343kg)を得た。
このクチナシ青色素のゲニポシドとゲニピン含量を測定したところ、ゲニポシド含量は1.6ppm(0.7ppm/CV100)であり、及びゲニピンは検出限界以下であった。
すなわち、色価100換算におけるゲニポシド、及びゲニピンの総含量(Total G/CV100)は、0.7ppm/CV100であった。
【0126】
試験例6
クチナシ赤色素
タンパク質加水分解物の存在下で、クチナシ果実由来の精製ゲニポシドのエステル加水分解物にβ-グルコシダーゼを作用させて得られたクチナシ赤色素に、ゲニポシド含量が約2000ppmとなるようにクチナシ果実由来の精製ゲニポシド(ゲニポシド含量36.5w/w%、ゲニピン含量検出限界未満)を添加してゲニポシド添加クチナシ赤色素を調製した。
50mL容スクリュー管3本に、当該ゲニポシド添加クチナシ赤色素(当該色素は、水で色価を100に調整した溶液の形態である。)をそれぞれ20g量りとり、それぞれを対照(活性炭非処理)、活性炭No.7添加区、および活性炭No.8添加区とした。活性炭の添加量は、5w/w%添加(各1g添加)であった。
常温にてそれぞれ3時間攪拌後、0.2μmフィルターでろ過したサンプルを得た。
ろ過したサンプルについて、色価、及びゲニポシド含量の測定を行った。これらから算出した色価残存率、及びゲニポシド残存率を表11に示す。表11中、「ND」は、検出限界未満である。
【表11】
【0127】
表11から分かるように、活性炭No.7を用いた場合、有用な成分がクチナシ赤色素である場合も、クチナシ青色素の場合と同様に、当該有用な成分の損失を抑制して、ゲニポシドを選択的に除去できた。一方、活性炭No.8を用いた場合、これもクチナシ青色素の場合と同様に、色価の残存率は高かったが、ゲニポシドを除去することはできなかった。